光学多層膜フィルタの製造方法、光学多層膜フィルタおよび固体撮像デバイス
【課題】ヘイズが低く、透明性に優れる光学多層膜フィルタを安定して製造する方法および光学多層膜フィルタ、さらに、そのような光学多層フィルタを備えた固体撮像デバイスを提供すること。
【解決手段】ガラス基板または水晶基板の上に光学薄膜を形成する光学多層膜フィルタの製造方法であって、光学薄膜の形成工程において、Arより大きな原子量を持つ不活性原子と酸素分子とを含んでなる混合ガスを用いてイオンアシスト蒸着を行う。
【解決手段】ガラス基板または水晶基板の上に光学薄膜を形成する光学多層膜フィルタの製造方法であって、光学薄膜の形成工程において、Arより大きな原子量を持つ不活性原子と酸素分子とを含んでなる混合ガスを用いてイオンアシスト蒸着を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学多層膜フィルタの製造方法、光学多層膜フィルタおよび固体撮像デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、UV−IRカットフィルタやIRカットフィルタなど、固体撮像デバイスに多用される光学多層膜フィルタは、基板上に真空蒸着やスパッタリング等によって形成(成膜)された多層の薄膜から構成される。また、基板への密着性がよく、非常に緻密な薄膜を形成できることから、イオンアシストを用いた電子ビーム蒸着が非常に多く利用されている(例えば、特許文献1、2、非特許文献1参照)。特許文献1では、イオンアシストを用いてTiO2を蒸着して多層反射ミラー、多層膜フィルタを製造している。特許文献2では、イオンアシストを用いてTiO2を形成することによって低温で結晶性の高い膜を得ている。また、非特許文献1では、様々な条件でイオンアシスト蒸着を行った場合のTiO2の特性について記載している。
【0003】
一方、このような光学多層膜フィルタの光学品質に対する要求は年々高くなっている。特に透明性への要求が厳しくなっており、具体的には、ヘイズ(HAZE、曇り具合)であれば0.1以下を満足することが求められている。ヘイズを悪化させる原因は様々であるが、例えば、基板上の薄膜が結晶化すると光が散乱するためにヘイズが上昇することは知られている。図11に、基板上にイオンアシスト蒸着により多層の無機薄膜(TiO2層とSiO2層からなる多層膜)を形成した例を示す。この図は、多層膜の断面の電子顕微鏡写真であるが、TiO2層が非晶部と柱状結晶部から構成されているため、非常にヘイズが高く、透明性に劣ったものとなっている。
【0004】
【特許文献1】特開平8−254612号公報
【特許文献2】特開平10−186130号公報
【非特許文献1】生産現場における光学薄膜の設計・作成・評価技術(技術情報協会 2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、2および非特許文献1のいずれにも、無機薄膜のヘイズの制御に関しては何ら知見がなく、透明で、ヘイズの低い光学多層膜フィルタを安定して製造できる技術は開示されていない。
そこで、本発明は、透明性に優れ、ヘイズの低い光学多層膜フィルタを安定して製造する方法および光学多層膜フィルタ、さらに、そのような光学多層フィルタを備えた固体撮像デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の光学多層膜フィルタの製造方法は、基板上にイオンアシスト蒸着により光学薄膜を形成する光学多層膜フィルタの製造方法であって、前記光学薄膜の形成工程において、Arより大きな原子量を持つ不活性原子と酸素分子とを含んでなる混合ガスを用いてイオンアシスト蒸着を行うことを特徴とする。
【0007】
このような本発明によれば、Arより大きな原子量を持つ不活性原子と酸素分子とを含んでなる混合ガスを用いてイオンアシストを行いながら、基板に多層の蒸着膜を形成するので、ヘイズが低く、かつ透明性にも優れた光学薄膜を得ることができる。
本発明において、多層膜のヘイズが低くなる理由は必ずしも明らかではないが、原子サイズの大きな不活性原子が基板上に形成されつつある薄膜に衝突することで、結果的に薄膜の結晶化を妨げているものと推定される。
不活性原子としては、イオンアシスト蒸着において、多少条件が変動しても安定して非晶質なTiO2膜(低ヘイズ)を得ることができる点でKrおよび/またはXeであることが好ましい。
【0008】
本発明では、前記混合ガスにおける下記式(1)で示される流量比が0.375を越え、1.0未満であることが好ましい。
流量比=酸素ガス流量/(酸素ガス流量+不活性ガス流量) (1)
(ここで、酸素ガス流量とは、イオンアシスト蒸着を行う系への酸素分子の導入・排出量を意味し、不活性ガス流量とは、イオンアシスト蒸着を行う系への不活性原子の導入・排出量を意味する。流量の単位はsccmである。)
この発明によれば、イオンアシストに用いる混合ガスの流量比Rが0.375を越え、1.0未満であるので、ヘイズがより低く、透過率も非常に高い光学薄膜を得ることができる。
【0009】
本発明では、前記光学薄膜がTiO2からなる層を含むことが好ましい。
この発明によれば、光学薄膜を形成する各層(高屈折率層と低屈折率層)の中で高屈折率層が非常に屈折率の高いTiO2からなるため、ヘイズが低く、かつフィルタとしての機能にも優れる光学多層膜フィルタを提供できる。
【0010】
本発明では、前記光学薄膜が、UV−IRカット膜またはIRカット膜であることが好ましい。
この発明によれば、基板に形成される光学薄膜がUV−IRカット膜またはIRカット膜であるので、ヘイズが低く透明性に優れたUV−IRカットフィルタ(Ultraviolet-Infrared cut filter)及びIRカットフィルタ(Infrared cut filter)を得ることができる。
【0011】
本発明では、前記基板が、ガラス基板または水晶基板であることが好ましい。
この発明によれば、基板がガラス基板で構成されることにより、例えばCCD(電荷結合素子)などの映像素子の防塵ガラスとして、しかも所望のフィルタ機能を一体的に構成した、例えばUV−IRカットフィルタ及びIRカットフィルタ機能を含む透明性に優れた光学多層膜フィルタを得ることができる。また、基板が水晶基板で構成されることにより、例えば光学ローパスフィルタとして、しかも所望のフィルタ機能を一体的に構成した、例えばUV−IRカットフィルタ及びIRカットフィルタ機能を含む透明性に優れた光学多層膜フィルタを得ることができる。
【0012】
本発明の光学多層膜フィルタは、上述したいずれかの光学多層膜フィルタの製造方法により製造されたことを特徴とする。
このような本発明の光学多層膜フィルタは、上述したいずれかの光学多層膜フィルタの製造方法により製造されているため、ヘイズが低く、透明性に優れたものとなっている。
【0013】
なお、上述した光学多層膜フィルタを組み込んだ固体撮像デバイスは、例えば、デジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラなどの撮像装置や、いわゆるカメラ付携帯電話、いわゆるカメラ付携帯型パソコン(パーソナルコンピュータ)などとして有効に活用できる。
【実施例】
【0014】
以下、本発明の光学多層膜フィルタについて実施例及び図面に基づいて詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの例によって何等限定されるものではない。なお、各実施例とも、同様の構造・機能を有する部材等は同じ符号を付けて説明する。
〔実施例1〕
(光学多層膜フィルタの構成)
図1は、後述する製造方法により製造された光学多層膜フィルタ10の構成を模式的に示す断面図である。光学多層膜フィルタ10は、光を透過させるためのガラス基板1と、多層の光学薄膜(無機薄膜)2とを備えて構成される。
ガラス基板1は、白板ガラス(屈折率、n=1.52)であり、本実施例では、直径30mm、厚さ0.3mmのものを用いた。
無機薄膜2の材料は、高屈折率材料層(H)がTiO2(n=2.40)、低屈折率材料層(L)がSiO2(n=1.46)から構成される。
【0015】
無機薄膜2は、図1に示すように、ガラス基板1側から、高屈折率材料のTiO2膜2H1がまず積層され、積層された高屈折率材料のTiO2膜2H1の上面に、低屈折率材料のSiO2膜2L1が積層され、以下、低屈折率材料のSiO2膜2L1の上面に高屈折率材料のTiO2膜と低屈折率材料のSiO2膜が順次、交互に積層され、無機薄膜2の最上膜層は、低屈折率材料のSiO2膜2L30が積層されて、各々30層、計60層の無機薄膜2を構成している。
【0016】
この無機薄膜2の膜構成の詳細を説明する。
以下に説明する膜厚構成の表記では、光学膜厚nd=1/4λの値を用いる。具体的には、高屈折率材料層(H)の膜厚を1Hとして表記し、低屈折率材料層(L)の膜厚を同様に1Lと表記する。また、(xH、yL)SのSの表記は、スタック数と呼ばれる繰り返しの回数で、括弧内の構成を周期的に繰り返すことを表している。
【0017】
無機薄膜2の膜厚構成は、設計波長λは550nm、第1層の高屈折率材料のTiO2膜3H1が0.60H、第2層の低屈折率材料のSiO2膜3L1が0.20L、以下、順次1.05H、0.37L、(0.68H、0.53L)4、0.69H、0.42L、0.59H、1.92L、(1.38H、1.38L)6、1.48H、1.52L、1.65H、1.71L、1.54H、1.59L、1.42H、1.58L、1.51H、1.72L、1.84H、1.80L、1.67H、1.77L、(1.87H、1.87L)7、1.89H、1.90L、1.90H、最上層の低屈折率材料のSiO2膜3L30が0.96Lの、計60層が形成されている。
【0018】
(光学多層膜フィルタの製造)
ガラス基板1の表面に対して、一般的なイオンアシストを用いた電子ビーム蒸着(いわゆるIAD法)により多層の無機薄膜2を形成して光学多層膜フィルタ10を製造した。
具体的には、ガラス基板1を、図示しない真空蒸着チャンバー内に取り付けた後、真空蒸着チャンバー内の下部に蒸着材料を充填したるつぼを配置し、電子ビームにより蒸発させた。同時にイオン銃によりイオン化したO2および不活性原子(KrまたはXe)を加速照射することにより、ガラス基板1上にTiO2の高屈折率材料層2H1〜2H30とSiO2の低屈折率材料層2L1〜2L30とを、前記した膜厚構成で交互に成膜した。
【0019】
具体的には、図2〜図9に示したように流量比、TiO2成膜速度(以下、単に「成膜速度」ともいう)、加速電圧および加速電流を変えて成膜を行った。ここで、流量比は、以下の式(1)で示されるパラメータである。
流量比=酸素ガス流量/(酸素ガス流量+不活性ガス流量) (1)
式(1)において、酸素ガス流量とは、イオンアシスト蒸着を行う系への酸素分子の導入・排出量を意味し、不活性ガス流量とは、イオンアシスト蒸着を行う系への不活性原子の導入・排出量を意味している。流量の単位はsccmである。成膜温度は150℃に固定した。
ここで、図2、図3において、流量比が0であるのはイオンアシスト用として不活性ガスのみを用いた場合であり、流量比が1であるのは、イオンアシスト用として酸素ガスのみを用いた場合である。
【0020】
低屈折率材料層(SiO2)については、条件を以下のように固定してイオンアシスト蒸着による成膜を行った。
SiO2成膜速度:0.8nm/sec
加速電圧:1000V
加速電流:1200mA
酸素ガス流量:70sccm
成膜温度:150℃
【0021】
比較用として、酸素ガスとArガスからなる混合ガスを用いた場合についても同様の条件でTiO2とSiO2を基板上に交互に成膜した。
なお、詳細な成膜条件については、後述する評価結果において併せて記載する。
【0022】
(透明性の評価)
前記した各条件により製造された光学多層膜フィルタ10について、以下のような方法で透明性を評価した。図2〜図9に各条件下で無機薄膜2を形成した場合のヘイズおよび透過率の結果を示す。
(1)ヘイズ
スガ試験機株式会社製ヘイズコンピュータ HZ−02を用いて、ダブルビームヘイズ法により測定した(JIS−K7361、JIS−K7136準拠)。
【0023】
(2)透過率
層の厚みによっては干渉が発生するため、透過と反射(日立製分光光度計U−3500)のデータから吸収係数αを算出し、算出したαから干渉の影響を取り除いて透過率を算出した(550nmの波長における透過率を測定した。)
【0024】
(評価結果)
以下に流量比、成膜速度、加速電圧および加速電流を変えて製造した光学多層膜フィルタ10の透明性(ヘイズ、透過率)について説明する。
(流量比の影響)
図2、図3は、イオンアシスト蒸着における流量比に対する光学多層膜10のヘイズおよび透過率の変化を示したものである。ここで、流量比以外の製造条件は下記の通りである。
成膜速度:0.3nm/sec
加速電圧:1000V
加速電流:1200mA
混合ガスの総流量:80sccm
【0025】
図2は、流量比に対する光学多層膜フィルタ10のヘイズを示したものである。本願発明の実施であるKr系混合ガスおよびXe系混合ガスを用いた場合は、比較用としてAr系混合ガスを用いた場合に比べてヘイズが低く、特に流量比が0.375〜0.875の広い範囲でヘイズが0.1以下という優れた値を示している。
また図3より、透過率は、流量比0.375を越えるとより高い値を示すことがわかる。
【0026】
(成膜速度の影響)
図4、図5は、成膜速度に対する光学多層膜10のヘイズおよび透過率の値を示したものである。ここで、TiO2の成膜速度以外の成膜条件は下記の通りである。
加速電圧:1000V
加速電流:1200mA
酸素ガス流量:60sccm
不活性ガス(Ar,Kr,Xe)流量:20sccm
【0027】
図4に示すように、本願発明のKr系混合ガスおよびXe系混合ガスを用いた場合、TiO2の成膜速度が0.1〜1.0nm/secの広い範囲にわたってヘイズが0.1以下と優れた値を示している。一方、Ar系混合ガスを用いた場合は、TiO2の成膜速度にかかわらず、ヘイズが高くなっている。
また図5より、透過率は、成膜速度0.1〜1.0nm/secの範囲で高い値を示すが、特に0.8nm/sec以下では、非常に高い値を示している。
【0028】
(加速電圧の影響)
図6、図7は、イオンアシスト蒸着における加速電圧に対する光学多層膜フィルタ10のヘイズおよび透過率の値を示したものである。ここで、加速電圧以外の成膜条件は下記の通りである。
成膜速度:0.3nm/sec
加速電流:1200mA
酸素ガス流量:60sccm
不活性ガス(Ar,Kr,Xe):20sccm
【0029】
図6に示すように、本願発明のKr系混合ガスおよびXe系混合ガスを用いた場合、400V以上のすべての範囲においてヘイズが0.1以下と低い値を示していることがわかる。一方、Ar系混合ガスを用いた場合は、全体にヘイズが高く、加速電圧が700V以上でようやくヘイズが0.1以下になるに過ぎない。
また図7に示す透過率は、加速電圧が400〜1000Vの範囲で高い値を示すが、特に500V以上で、非常に高い値を示している。
【0030】
(加速電流の影響)
図8、図9はイオンアシスト蒸着における加速電流に対する光学多層膜フィルタ10のヘイズおよび透過率の値を示したものである。ここで、加速電流以外の成膜条件は下記の通りである。
成膜速度:0.3nm/sec
加速電圧:1000V
酸素ガス流量:60sccm
不活性ガス(Ar,Kr,Xe)流量:20sccm
【0031】
図8に示すように、本願発明のKr系混合ガスおよびXe系混合ガスを用いた場合、400mA以上のすべての範囲においてヘイズが0.1以下になっていることがわかる。一方Ar系混合ガスを用いた場合は、全体にヘイズが高く、1000mA以上でようやくヘイズが0.1以下となるにすぎない。
また、図9に示す透過率は、加速電流が400〜1200mAの範囲で高い値を示すが、特に500mA以上で、非常に高い値を示している。
【0032】
以上の結果から、本発明の製造方法によれば、製造条件(成膜条件)が変動しても安定して、ヘイズが低く透過率の高い、すなわち透明性に優れた光学多層膜フィルタ10を提供できることがわかる。
ちなみに、本実施例では、光学多層膜フィルタ10の最低値は、ともに0.02であり、この数値は、測定装置の検出下限である。一方、Ar系混合ガスを用いた場合のヘイズは、最低でも0.08に過ぎない。
【0033】
ここで、参考までに、前記した製造方法によりガラス基板1上に成膜(形成)された無機薄膜2、2’の断面の電子顕微鏡写真を示す(図10、図11)。いずれも、無機薄膜2、2’の断面の一部を撮影したものである。
図10に示す無機薄膜2(2H、2L)は、本願発明の実施例であり、成膜条件は以下の通りである。図11に示す無機薄膜2’(2H’、2L’)は、比較例として酸素ガスのみ(流量比:1)を80sccmで流して成膜を行ったものであり、他の成膜条件は同じである。
流量比 :0.75(酸素ガス流量:60sccm、Kr流量:20sccm)
成膜速度:0.3nm/sec
加速電圧:1000V
加速電流:1200mA
【0034】
図10からわかるように、TiO2層(2H)は、全体が非晶質な膜であり、ヘイズは0.02であった、図11に示す無機薄膜2’では、TiO2層(2H’)が膜の途中から柱状結晶になっており、ヘイズは9.10と非常に高かった。
【0035】
また、以上の結果から、光学多層膜フィルタ10の製造条件として好ましい範囲は以下の通りである。
流量比 :0.375以上、1.0未満
成膜速度:0.1〜1.0nm/sec
加速電圧:400Vを越え、1000V以下
加速電流:400mAを越え、1200mA以下
【0036】
さらにまた、光学多層膜フィルタ10のより好ましい製造条件は、下記の通りである。
流量比 :0.5〜0.875
成膜速度:0.2〜0.6nm/sec
加速電圧:600〜1000V
加速電流:600〜1200mA
なお、このような条件であれば、光学多層膜フィルタ10の応力による基板1の「そり」を戻すための裏面成膜(一般に、SiO2を成膜して「そり」を戻す)によるヘイズの悪化を含めても総ヘイズ0.1以下の光学多層膜フィルタを提供可能である。
【0037】
〔実施例2〕
以下に、実施例1の光学多層膜フィルタ10を含んで構成される固体撮像デバイスについて説明する。本実施例は、固体撮像装置として、例えば、静止画の撮影を行うデジタルスチルカメラの撮像装置に適用した一実施例である。
【0038】
図12に示す固体撮像素子100は、光学多層膜フィルタ10と、光学ローパスフィルタ110と、光学像を電気的に変換する撮像素子のCCD(電荷結合素子)120と、この撮像素子120を駆動する駆動部130を含んで構成されている。
光学多層膜フィルタ10は、本発明の実施例1において説明したように、ガラス基板1と、高屈折率材料層と低屈折率材料層とが交互に積層された無機薄膜2とで構成され、IRカットフィルタ機能を有する。この光学多層膜フィルタ10は、前記したCCD120の前面に、CCD120と貼り合わされて一体的に構成され、CCD120の防塵ガラス機能を併せて有している。
【0039】
この固体撮像デバイス100と、光入射側に配置されるレンズ200と、固体撮像デバイス100から出力される撮像信号の記録・再生等を行う本体部300とを含んで、撮像装置400を構成することができる。なお、図示しないが、本体部300は、撮像信号の補正等を行う信号処理部と、撮像信号を磁気テープ等の記録媒体に記録する記録部と、この撮像信号を再生する再生部と、再生された映像を表示する表示部などの構成要素が含まれる。
【0040】
このように構成されたデジタルスチルカメラは、CCD120と防塵ガラス機能とIRカットフィルタ機能とを一体的に備えた光学多層膜フィルタ10の搭載により、貼り合わせ精度のよい、良好な光学特性のデジタルスチルカメラを提供することができる。
なお、本実施例の固体撮像デバイス100は、レンズ200を分離して配置した構造で説明したが、レンズ200も含めて固体撮像デバイスが構成されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、ヘイズが低く、透明な光学多層膜フィルタ及びそのような光学多層膜フィルタの製造方法であり、固体撮像デバイスを用いる電子機器の分野で好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の光学多層膜フィルタの構成を示す断面図。
【図2】本発明の実施例における流量比とヘイズの関係を示す図。
【図3】本発明の実施例における流量比と透過率の関係を示す図。
【図4】本発明の実施例における成膜速度とヘイズの関係を示す図。
【図5】本発明の実施例における成膜速度と透過率の関係を示す図。
【図6】本発明の実施例における加速電圧とヘイズの関係を示す図。
【図7】本発明の実施例における加速電圧と透過率の関係を示す図。
【図8】本発明の実施例における加速電流とヘイズの関係を示す図。
【図9】本発明の実施例における加速電流と透過率の関係を示す図。
【図10】本発明の実施例における無機薄膜の断面の電子顕微鏡写真。
【図11】本発明の比較例における無機薄膜の断面の電子顕微鏡写真。
【図12】本発明の実施例における固体撮像デバイスの概略を示すブロック図。
【符号の説明】
【0043】
1…基板(ガラス基板)、2…光学薄膜(無機薄膜)、10…光学多層膜フィルタ、100…固体撮像デバイス、110…光学ローパスフィルタ、120…CCD(撮像素子)、130…駆動部、200…レンズ、300…本体部、400…撮像装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学多層膜フィルタの製造方法、光学多層膜フィルタおよび固体撮像デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、UV−IRカットフィルタやIRカットフィルタなど、固体撮像デバイスに多用される光学多層膜フィルタは、基板上に真空蒸着やスパッタリング等によって形成(成膜)された多層の薄膜から構成される。また、基板への密着性がよく、非常に緻密な薄膜を形成できることから、イオンアシストを用いた電子ビーム蒸着が非常に多く利用されている(例えば、特許文献1、2、非特許文献1参照)。特許文献1では、イオンアシストを用いてTiO2を蒸着して多層反射ミラー、多層膜フィルタを製造している。特許文献2では、イオンアシストを用いてTiO2を形成することによって低温で結晶性の高い膜を得ている。また、非特許文献1では、様々な条件でイオンアシスト蒸着を行った場合のTiO2の特性について記載している。
【0003】
一方、このような光学多層膜フィルタの光学品質に対する要求は年々高くなっている。特に透明性への要求が厳しくなっており、具体的には、ヘイズ(HAZE、曇り具合)であれば0.1以下を満足することが求められている。ヘイズを悪化させる原因は様々であるが、例えば、基板上の薄膜が結晶化すると光が散乱するためにヘイズが上昇することは知られている。図11に、基板上にイオンアシスト蒸着により多層の無機薄膜(TiO2層とSiO2層からなる多層膜)を形成した例を示す。この図は、多層膜の断面の電子顕微鏡写真であるが、TiO2層が非晶部と柱状結晶部から構成されているため、非常にヘイズが高く、透明性に劣ったものとなっている。
【0004】
【特許文献1】特開平8−254612号公報
【特許文献2】特開平10−186130号公報
【非特許文献1】生産現場における光学薄膜の設計・作成・評価技術(技術情報協会 2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、2および非特許文献1のいずれにも、無機薄膜のヘイズの制御に関しては何ら知見がなく、透明で、ヘイズの低い光学多層膜フィルタを安定して製造できる技術は開示されていない。
そこで、本発明は、透明性に優れ、ヘイズの低い光学多層膜フィルタを安定して製造する方法および光学多層膜フィルタ、さらに、そのような光学多層フィルタを備えた固体撮像デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の光学多層膜フィルタの製造方法は、基板上にイオンアシスト蒸着により光学薄膜を形成する光学多層膜フィルタの製造方法であって、前記光学薄膜の形成工程において、Arより大きな原子量を持つ不活性原子と酸素分子とを含んでなる混合ガスを用いてイオンアシスト蒸着を行うことを特徴とする。
【0007】
このような本発明によれば、Arより大きな原子量を持つ不活性原子と酸素分子とを含んでなる混合ガスを用いてイオンアシストを行いながら、基板に多層の蒸着膜を形成するので、ヘイズが低く、かつ透明性にも優れた光学薄膜を得ることができる。
本発明において、多層膜のヘイズが低くなる理由は必ずしも明らかではないが、原子サイズの大きな不活性原子が基板上に形成されつつある薄膜に衝突することで、結果的に薄膜の結晶化を妨げているものと推定される。
不活性原子としては、イオンアシスト蒸着において、多少条件が変動しても安定して非晶質なTiO2膜(低ヘイズ)を得ることができる点でKrおよび/またはXeであることが好ましい。
【0008】
本発明では、前記混合ガスにおける下記式(1)で示される流量比が0.375を越え、1.0未満であることが好ましい。
流量比=酸素ガス流量/(酸素ガス流量+不活性ガス流量) (1)
(ここで、酸素ガス流量とは、イオンアシスト蒸着を行う系への酸素分子の導入・排出量を意味し、不活性ガス流量とは、イオンアシスト蒸着を行う系への不活性原子の導入・排出量を意味する。流量の単位はsccmである。)
この発明によれば、イオンアシストに用いる混合ガスの流量比Rが0.375を越え、1.0未満であるので、ヘイズがより低く、透過率も非常に高い光学薄膜を得ることができる。
【0009】
本発明では、前記光学薄膜がTiO2からなる層を含むことが好ましい。
この発明によれば、光学薄膜を形成する各層(高屈折率層と低屈折率層)の中で高屈折率層が非常に屈折率の高いTiO2からなるため、ヘイズが低く、かつフィルタとしての機能にも優れる光学多層膜フィルタを提供できる。
【0010】
本発明では、前記光学薄膜が、UV−IRカット膜またはIRカット膜であることが好ましい。
この発明によれば、基板に形成される光学薄膜がUV−IRカット膜またはIRカット膜であるので、ヘイズが低く透明性に優れたUV−IRカットフィルタ(Ultraviolet-Infrared cut filter)及びIRカットフィルタ(Infrared cut filter)を得ることができる。
【0011】
本発明では、前記基板が、ガラス基板または水晶基板であることが好ましい。
この発明によれば、基板がガラス基板で構成されることにより、例えばCCD(電荷結合素子)などの映像素子の防塵ガラスとして、しかも所望のフィルタ機能を一体的に構成した、例えばUV−IRカットフィルタ及びIRカットフィルタ機能を含む透明性に優れた光学多層膜フィルタを得ることができる。また、基板が水晶基板で構成されることにより、例えば光学ローパスフィルタとして、しかも所望のフィルタ機能を一体的に構成した、例えばUV−IRカットフィルタ及びIRカットフィルタ機能を含む透明性に優れた光学多層膜フィルタを得ることができる。
【0012】
本発明の光学多層膜フィルタは、上述したいずれかの光学多層膜フィルタの製造方法により製造されたことを特徴とする。
このような本発明の光学多層膜フィルタは、上述したいずれかの光学多層膜フィルタの製造方法により製造されているため、ヘイズが低く、透明性に優れたものとなっている。
【0013】
なお、上述した光学多層膜フィルタを組み込んだ固体撮像デバイスは、例えば、デジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラなどの撮像装置や、いわゆるカメラ付携帯電話、いわゆるカメラ付携帯型パソコン(パーソナルコンピュータ)などとして有効に活用できる。
【実施例】
【0014】
以下、本発明の光学多層膜フィルタについて実施例及び図面に基づいて詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの例によって何等限定されるものではない。なお、各実施例とも、同様の構造・機能を有する部材等は同じ符号を付けて説明する。
〔実施例1〕
(光学多層膜フィルタの構成)
図1は、後述する製造方法により製造された光学多層膜フィルタ10の構成を模式的に示す断面図である。光学多層膜フィルタ10は、光を透過させるためのガラス基板1と、多層の光学薄膜(無機薄膜)2とを備えて構成される。
ガラス基板1は、白板ガラス(屈折率、n=1.52)であり、本実施例では、直径30mm、厚さ0.3mmのものを用いた。
無機薄膜2の材料は、高屈折率材料層(H)がTiO2(n=2.40)、低屈折率材料層(L)がSiO2(n=1.46)から構成される。
【0015】
無機薄膜2は、図1に示すように、ガラス基板1側から、高屈折率材料のTiO2膜2H1がまず積層され、積層された高屈折率材料のTiO2膜2H1の上面に、低屈折率材料のSiO2膜2L1が積層され、以下、低屈折率材料のSiO2膜2L1の上面に高屈折率材料のTiO2膜と低屈折率材料のSiO2膜が順次、交互に積層され、無機薄膜2の最上膜層は、低屈折率材料のSiO2膜2L30が積層されて、各々30層、計60層の無機薄膜2を構成している。
【0016】
この無機薄膜2の膜構成の詳細を説明する。
以下に説明する膜厚構成の表記では、光学膜厚nd=1/4λの値を用いる。具体的には、高屈折率材料層(H)の膜厚を1Hとして表記し、低屈折率材料層(L)の膜厚を同様に1Lと表記する。また、(xH、yL)SのSの表記は、スタック数と呼ばれる繰り返しの回数で、括弧内の構成を周期的に繰り返すことを表している。
【0017】
無機薄膜2の膜厚構成は、設計波長λは550nm、第1層の高屈折率材料のTiO2膜3H1が0.60H、第2層の低屈折率材料のSiO2膜3L1が0.20L、以下、順次1.05H、0.37L、(0.68H、0.53L)4、0.69H、0.42L、0.59H、1.92L、(1.38H、1.38L)6、1.48H、1.52L、1.65H、1.71L、1.54H、1.59L、1.42H、1.58L、1.51H、1.72L、1.84H、1.80L、1.67H、1.77L、(1.87H、1.87L)7、1.89H、1.90L、1.90H、最上層の低屈折率材料のSiO2膜3L30が0.96Lの、計60層が形成されている。
【0018】
(光学多層膜フィルタの製造)
ガラス基板1の表面に対して、一般的なイオンアシストを用いた電子ビーム蒸着(いわゆるIAD法)により多層の無機薄膜2を形成して光学多層膜フィルタ10を製造した。
具体的には、ガラス基板1を、図示しない真空蒸着チャンバー内に取り付けた後、真空蒸着チャンバー内の下部に蒸着材料を充填したるつぼを配置し、電子ビームにより蒸発させた。同時にイオン銃によりイオン化したO2および不活性原子(KrまたはXe)を加速照射することにより、ガラス基板1上にTiO2の高屈折率材料層2H1〜2H30とSiO2の低屈折率材料層2L1〜2L30とを、前記した膜厚構成で交互に成膜した。
【0019】
具体的には、図2〜図9に示したように流量比、TiO2成膜速度(以下、単に「成膜速度」ともいう)、加速電圧および加速電流を変えて成膜を行った。ここで、流量比は、以下の式(1)で示されるパラメータである。
流量比=酸素ガス流量/(酸素ガス流量+不活性ガス流量) (1)
式(1)において、酸素ガス流量とは、イオンアシスト蒸着を行う系への酸素分子の導入・排出量を意味し、不活性ガス流量とは、イオンアシスト蒸着を行う系への不活性原子の導入・排出量を意味している。流量の単位はsccmである。成膜温度は150℃に固定した。
ここで、図2、図3において、流量比が0であるのはイオンアシスト用として不活性ガスのみを用いた場合であり、流量比が1であるのは、イオンアシスト用として酸素ガスのみを用いた場合である。
【0020】
低屈折率材料層(SiO2)については、条件を以下のように固定してイオンアシスト蒸着による成膜を行った。
SiO2成膜速度:0.8nm/sec
加速電圧:1000V
加速電流:1200mA
酸素ガス流量:70sccm
成膜温度:150℃
【0021】
比較用として、酸素ガスとArガスからなる混合ガスを用いた場合についても同様の条件でTiO2とSiO2を基板上に交互に成膜した。
なお、詳細な成膜条件については、後述する評価結果において併せて記載する。
【0022】
(透明性の評価)
前記した各条件により製造された光学多層膜フィルタ10について、以下のような方法で透明性を評価した。図2〜図9に各条件下で無機薄膜2を形成した場合のヘイズおよび透過率の結果を示す。
(1)ヘイズ
スガ試験機株式会社製ヘイズコンピュータ HZ−02を用いて、ダブルビームヘイズ法により測定した(JIS−K7361、JIS−K7136準拠)。
【0023】
(2)透過率
層の厚みによっては干渉が発生するため、透過と反射(日立製分光光度計U−3500)のデータから吸収係数αを算出し、算出したαから干渉の影響を取り除いて透過率を算出した(550nmの波長における透過率を測定した。)
【0024】
(評価結果)
以下に流量比、成膜速度、加速電圧および加速電流を変えて製造した光学多層膜フィルタ10の透明性(ヘイズ、透過率)について説明する。
(流量比の影響)
図2、図3は、イオンアシスト蒸着における流量比に対する光学多層膜10のヘイズおよび透過率の変化を示したものである。ここで、流量比以外の製造条件は下記の通りである。
成膜速度:0.3nm/sec
加速電圧:1000V
加速電流:1200mA
混合ガスの総流量:80sccm
【0025】
図2は、流量比に対する光学多層膜フィルタ10のヘイズを示したものである。本願発明の実施であるKr系混合ガスおよびXe系混合ガスを用いた場合は、比較用としてAr系混合ガスを用いた場合に比べてヘイズが低く、特に流量比が0.375〜0.875の広い範囲でヘイズが0.1以下という優れた値を示している。
また図3より、透過率は、流量比0.375を越えるとより高い値を示すことがわかる。
【0026】
(成膜速度の影響)
図4、図5は、成膜速度に対する光学多層膜10のヘイズおよび透過率の値を示したものである。ここで、TiO2の成膜速度以外の成膜条件は下記の通りである。
加速電圧:1000V
加速電流:1200mA
酸素ガス流量:60sccm
不活性ガス(Ar,Kr,Xe)流量:20sccm
【0027】
図4に示すように、本願発明のKr系混合ガスおよびXe系混合ガスを用いた場合、TiO2の成膜速度が0.1〜1.0nm/secの広い範囲にわたってヘイズが0.1以下と優れた値を示している。一方、Ar系混合ガスを用いた場合は、TiO2の成膜速度にかかわらず、ヘイズが高くなっている。
また図5より、透過率は、成膜速度0.1〜1.0nm/secの範囲で高い値を示すが、特に0.8nm/sec以下では、非常に高い値を示している。
【0028】
(加速電圧の影響)
図6、図7は、イオンアシスト蒸着における加速電圧に対する光学多層膜フィルタ10のヘイズおよび透過率の値を示したものである。ここで、加速電圧以外の成膜条件は下記の通りである。
成膜速度:0.3nm/sec
加速電流:1200mA
酸素ガス流量:60sccm
不活性ガス(Ar,Kr,Xe):20sccm
【0029】
図6に示すように、本願発明のKr系混合ガスおよびXe系混合ガスを用いた場合、400V以上のすべての範囲においてヘイズが0.1以下と低い値を示していることがわかる。一方、Ar系混合ガスを用いた場合は、全体にヘイズが高く、加速電圧が700V以上でようやくヘイズが0.1以下になるに過ぎない。
また図7に示す透過率は、加速電圧が400〜1000Vの範囲で高い値を示すが、特に500V以上で、非常に高い値を示している。
【0030】
(加速電流の影響)
図8、図9はイオンアシスト蒸着における加速電流に対する光学多層膜フィルタ10のヘイズおよび透過率の値を示したものである。ここで、加速電流以外の成膜条件は下記の通りである。
成膜速度:0.3nm/sec
加速電圧:1000V
酸素ガス流量:60sccm
不活性ガス(Ar,Kr,Xe)流量:20sccm
【0031】
図8に示すように、本願発明のKr系混合ガスおよびXe系混合ガスを用いた場合、400mA以上のすべての範囲においてヘイズが0.1以下になっていることがわかる。一方Ar系混合ガスを用いた場合は、全体にヘイズが高く、1000mA以上でようやくヘイズが0.1以下となるにすぎない。
また、図9に示す透過率は、加速電流が400〜1200mAの範囲で高い値を示すが、特に500mA以上で、非常に高い値を示している。
【0032】
以上の結果から、本発明の製造方法によれば、製造条件(成膜条件)が変動しても安定して、ヘイズが低く透過率の高い、すなわち透明性に優れた光学多層膜フィルタ10を提供できることがわかる。
ちなみに、本実施例では、光学多層膜フィルタ10の最低値は、ともに0.02であり、この数値は、測定装置の検出下限である。一方、Ar系混合ガスを用いた場合のヘイズは、最低でも0.08に過ぎない。
【0033】
ここで、参考までに、前記した製造方法によりガラス基板1上に成膜(形成)された無機薄膜2、2’の断面の電子顕微鏡写真を示す(図10、図11)。いずれも、無機薄膜2、2’の断面の一部を撮影したものである。
図10に示す無機薄膜2(2H、2L)は、本願発明の実施例であり、成膜条件は以下の通りである。図11に示す無機薄膜2’(2H’、2L’)は、比較例として酸素ガスのみ(流量比:1)を80sccmで流して成膜を行ったものであり、他の成膜条件は同じである。
流量比 :0.75(酸素ガス流量:60sccm、Kr流量:20sccm)
成膜速度:0.3nm/sec
加速電圧:1000V
加速電流:1200mA
【0034】
図10からわかるように、TiO2層(2H)は、全体が非晶質な膜であり、ヘイズは0.02であった、図11に示す無機薄膜2’では、TiO2層(2H’)が膜の途中から柱状結晶になっており、ヘイズは9.10と非常に高かった。
【0035】
また、以上の結果から、光学多層膜フィルタ10の製造条件として好ましい範囲は以下の通りである。
流量比 :0.375以上、1.0未満
成膜速度:0.1〜1.0nm/sec
加速電圧:400Vを越え、1000V以下
加速電流:400mAを越え、1200mA以下
【0036】
さらにまた、光学多層膜フィルタ10のより好ましい製造条件は、下記の通りである。
流量比 :0.5〜0.875
成膜速度:0.2〜0.6nm/sec
加速電圧:600〜1000V
加速電流:600〜1200mA
なお、このような条件であれば、光学多層膜フィルタ10の応力による基板1の「そり」を戻すための裏面成膜(一般に、SiO2を成膜して「そり」を戻す)によるヘイズの悪化を含めても総ヘイズ0.1以下の光学多層膜フィルタを提供可能である。
【0037】
〔実施例2〕
以下に、実施例1の光学多層膜フィルタ10を含んで構成される固体撮像デバイスについて説明する。本実施例は、固体撮像装置として、例えば、静止画の撮影を行うデジタルスチルカメラの撮像装置に適用した一実施例である。
【0038】
図12に示す固体撮像素子100は、光学多層膜フィルタ10と、光学ローパスフィルタ110と、光学像を電気的に変換する撮像素子のCCD(電荷結合素子)120と、この撮像素子120を駆動する駆動部130を含んで構成されている。
光学多層膜フィルタ10は、本発明の実施例1において説明したように、ガラス基板1と、高屈折率材料層と低屈折率材料層とが交互に積層された無機薄膜2とで構成され、IRカットフィルタ機能を有する。この光学多層膜フィルタ10は、前記したCCD120の前面に、CCD120と貼り合わされて一体的に構成され、CCD120の防塵ガラス機能を併せて有している。
【0039】
この固体撮像デバイス100と、光入射側に配置されるレンズ200と、固体撮像デバイス100から出力される撮像信号の記録・再生等を行う本体部300とを含んで、撮像装置400を構成することができる。なお、図示しないが、本体部300は、撮像信号の補正等を行う信号処理部と、撮像信号を磁気テープ等の記録媒体に記録する記録部と、この撮像信号を再生する再生部と、再生された映像を表示する表示部などの構成要素が含まれる。
【0040】
このように構成されたデジタルスチルカメラは、CCD120と防塵ガラス機能とIRカットフィルタ機能とを一体的に備えた光学多層膜フィルタ10の搭載により、貼り合わせ精度のよい、良好な光学特性のデジタルスチルカメラを提供することができる。
なお、本実施例の固体撮像デバイス100は、レンズ200を分離して配置した構造で説明したが、レンズ200も含めて固体撮像デバイスが構成されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、ヘイズが低く、透明な光学多層膜フィルタ及びそのような光学多層膜フィルタの製造方法であり、固体撮像デバイスを用いる電子機器の分野で好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の光学多層膜フィルタの構成を示す断面図。
【図2】本発明の実施例における流量比とヘイズの関係を示す図。
【図3】本発明の実施例における流量比と透過率の関係を示す図。
【図4】本発明の実施例における成膜速度とヘイズの関係を示す図。
【図5】本発明の実施例における成膜速度と透過率の関係を示す図。
【図6】本発明の実施例における加速電圧とヘイズの関係を示す図。
【図7】本発明の実施例における加速電圧と透過率の関係を示す図。
【図8】本発明の実施例における加速電流とヘイズの関係を示す図。
【図9】本発明の実施例における加速電流と透過率の関係を示す図。
【図10】本発明の実施例における無機薄膜の断面の電子顕微鏡写真。
【図11】本発明の比較例における無機薄膜の断面の電子顕微鏡写真。
【図12】本発明の実施例における固体撮像デバイスの概略を示すブロック図。
【符号の説明】
【0043】
1…基板(ガラス基板)、2…光学薄膜(無機薄膜)、10…光学多層膜フィルタ、100…固体撮像デバイス、110…光学ローパスフィルタ、120…CCD(撮像素子)、130…駆動部、200…レンズ、300…本体部、400…撮像装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にイオンアシスト蒸着により光学薄膜を形成する光学多層膜フィルタの製造方法であって、
前記光学薄膜の形成工程において、Arより大きな原子量を持つ不活性原子と酸素分子とを含んでなる混合ガスを用いてイオンアシスト蒸着を行うことを特徴とする光学多層膜フィルタの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の光学多層膜フィルタの製造方法において、
前記不活性原子がKrおよび/またはXeであることを特徴とする光学多層膜フィルタの製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の光学多層膜フィルタの製造方法において、
前記混合ガスにおける下記式(1)で示される流量比が0.375を越え、1.0未満であることを特徴とする光学多層膜フィルタの製造方法。
流量比=酸素ガス流量/(酸素ガス流量+不活性ガス流量) (1)
(ここで、酸素ガス流量とは、イオンアシスト蒸着を行う系への酸素分子の導入・排出量を意味し、不活性ガス流量とは、イオンアシスト蒸着を行う系への不活性原子の導入・排出量を意味する。流量の単位はsccmである。)
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の光学多層膜フィルタの製造方法において、
前記光学薄膜がTiO2からなる層を含むことを特徴とする光学多層膜フィルタの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載の光学多層膜フィルタの製造方法において、
前記光学薄膜が、UV−IRカット膜またはIRカット膜であることを特徴とする光学多層膜フィルタの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれかに記載の光学多層膜フィルタの製造方法において、
前記基板が、ガラス基板または水晶基板であることを特徴とする光学多層膜フィルタの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれかに記載の光学多層膜フィルタの製造方法により製造された光学多層膜フィルタ。
【請求項8】
請求項7に記載の光学多層膜フィルタが組み込まれた固体撮像デバイス。
【請求項1】
基板上にイオンアシスト蒸着により光学薄膜を形成する光学多層膜フィルタの製造方法であって、
前記光学薄膜の形成工程において、Arより大きな原子量を持つ不活性原子と酸素分子とを含んでなる混合ガスを用いてイオンアシスト蒸着を行うことを特徴とする光学多層膜フィルタの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の光学多層膜フィルタの製造方法において、
前記不活性原子がKrおよび/またはXeであることを特徴とする光学多層膜フィルタの製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の光学多層膜フィルタの製造方法において、
前記混合ガスにおける下記式(1)で示される流量比が0.375を越え、1.0未満であることを特徴とする光学多層膜フィルタの製造方法。
流量比=酸素ガス流量/(酸素ガス流量+不活性ガス流量) (1)
(ここで、酸素ガス流量とは、イオンアシスト蒸着を行う系への酸素分子の導入・排出量を意味し、不活性ガス流量とは、イオンアシスト蒸着を行う系への不活性原子の導入・排出量を意味する。流量の単位はsccmである。)
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の光学多層膜フィルタの製造方法において、
前記光学薄膜がTiO2からなる層を含むことを特徴とする光学多層膜フィルタの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載の光学多層膜フィルタの製造方法において、
前記光学薄膜が、UV−IRカット膜またはIRカット膜であることを特徴とする光学多層膜フィルタの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれかに記載の光学多層膜フィルタの製造方法において、
前記基板が、ガラス基板または水晶基板であることを特徴とする光学多層膜フィルタの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれかに記載の光学多層膜フィルタの製造方法により製造された光学多層膜フィルタ。
【請求項8】
請求項7に記載の光学多層膜フィルタが組み込まれた固体撮像デバイス。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−248495(P2007−248495A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−67636(P2006−67636)
【出願日】平成18年3月13日(2006.3.13)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月13日(2006.3.13)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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