説明

光学活性化合物の製造方法

【課題】 エピ化晶出法の適用範囲を従来より大きく広げることにより、効率的かつ高収率に光学活性アミド化合物または光学活性カルボン酸化合物を得る方法を提供すること。
【解決手段】 カルボン酸エステル化合物を光学活性一級アミンと反応させて得られるアミド化合物のジアステレオマー混合物(I)を塩基の存在下にカルボニル基α位の炭素原子を平衡エピメリ化させながら、同一反応系内で光学活性化合物(Ia)または(Ib)を結晶化させる工程(エピ化晶出工程)を包含することを特徴とする、光学活性化合物(Ia)または(Ib)の製造方法。
【化1】



(式中、RおよびRはそれぞれ有機基を示し、RおよびRはそれぞれカルボニル基α位の炭素原子と炭素−炭素結合でつながれており、かつ塩基の存在下で安定な基等を示す。但し、RとRまたはRとRが同時に同じ基を意味することはない。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学活性アミド化合物または光学活性カルボン酸化合物などの光学活性化合物を効率的に収率よく製造する方法に関する。本発明の目的化合物である光学活性化合物は医薬、農薬などの種々の生物活性化合物として、または生物活性化合物の合成中間体として有用である。
【背景技術】
【0002】
光学活性化合物を実用的に得る方法としては、(1)入手容易な光学活性な原料(例えば、天然物)から誘導していく方法、(2)不斉合成法、(3)光学分割法などが挙げられる。このうち(1)は、入手可能な光学活性化合物が限られるため、目的化合物に導くために複雑な工程を要する場合が多々ある。また、不斉合成法は、工業的に適用可能な反応は未だ限られている。したがって、確実に光学活性化合物が得られる光学分割法が、最も広く利用されているのが現状である。
【0003】
光学分割法としては、ラセミ体を光学活性化合物と処理することによりジアステレオマーの混合物とし、分別再結晶等により所望のジアステレオマーのみを得た後に、分解して所望の光学活性体のみを得る、いわゆるジアステレオマー法が一般的に行われている。この方法では、ラセミ体には所望の光学活性体は半分しか含まれておらず、原料からの収率は最大でも50%までしか得ることができないため、アトムエコノミーが低く、無駄が多くなるという問題がある。したがって、アトムエコノミーを向上させるため、回収される不要の立体異性体を異性化して、再利用することが必要となる。
【0004】
不要の立体異性体を再利用するためには、異性化(ラセミ化、平衡エピメリ化等)と結晶化の工程がさらに必要となり、工業的に実施するには相当の労力と時間を要するものとなり、この際に化合物として化学的に変化させる工程(例えば、加水分解等)を要する場合は、さらに労力は大きいものとなる。さらにこの回収操作を1サイクル行ったとしても、分割収率は理論的に最大150%(ラセミ体からの収率75%)までしか達成できず、さらにアトムエコノミーを向上させるためには回収操作を繰り返さなければならない。
【0005】
このような問題点を解決するために、平衡エピメリ化と結晶化を同一反応系内で組み合わせる方法(本明細書において、「エピ化晶出法」という。)が報告されている(例えば、非特許文献1〜5および特許文献1参照)。この方法は、ジアステレオマー混合物を平衡エピメリ化させながら、所望のジアステレオマーのみを晶出させることにより、理論的にラセミ体から100%の収率で光学活性体を得ようとするものであり、一工程で分割効率100%以上(ラセミ体からの収率50%以上)が達成できるため、非常に実用性が高い方法である。
【0006】
従来のエピ化晶出法は、目的化合物の特異性として、緩やかな条件で平衡エピメリ化が達成できるものを利用した例がほとんどであった。例えば、ジアステレオマー塩混合物で平衡エピメリ化を行うような場合は、塩が解離しない比較的狭いpH領域や緩和な反応条件で平衡エピメリ化を行わなければならないため、適用可能な例は限られたものであった(非特許文献1〜3および特許文献1参照)。
【0007】
一方、カルボン酸化合物と光学活性一級アミンとのアミド化合物のジアステレオマー混合物を利用したエピ化晶出法として、N−(S)−(1−フェニルエチル)−α−クロロ−α−フェニルアセトアミドを有機溶媒中、アンモニア水と室温で処理する方法が報告されており(非特許文献5参照)、カルボニル基α位の炭素原子に電子吸引性のフェニル基とハロゲン原子が結合して、カルボニル基α位の水素原子の酸性が非常に強くなっているため、アンモニア水のような弱塩基でも平衡エピメリ化が進行していると考えられる。
【非特許文献1】「ジャーナルオブザケミカルソサイアティーパーキントランスアクションズ1(Journal of the Chemical Society, Perkin Transactions 1)」,(英国),1976年,p.475
【非特許文献2】「ケミストリーレターズ(Chemistry Letters)」,1983年,p.661
【非特許文献3】「ジャーナルオブオルガニックケミストリー(Journal of OrganicChemistry)」,2002年,第67巻,p.7741−7749
【非特許文献4】「ケミカルソサイアティーレビューズ(Chemical Society Reviews)」,1996年,第25巻,p.447−456
【非特許文献5】「シンレット(Synlett)」,2001年,p.1941−1943
【特許文献1】特開昭58−52254号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
N−(S)−(1−フェニルエチル)−α−クロロ−α−フェニルアセトアミドにおいては、カルボニル基α位に結合するハロゲン原子は非常に反応性が高く、比較的強い塩基の存在下では副反応が起こるため、アンモニア水等の緩和な条件で平衡エピメリ化が可能である態様に限定されると考えられる。
また、アミド化合物のN−Hの酸性度は比較的高く、カルボニル基α位水素原子の酸性度の方が低い場合は、平衡エピメリ化が起こりにくいと考えられるため、N−(S)−(1−フェニルエチル)−α−クロロ−α−フェニルアセトアミドのようにカルボニル基α位の水素原子の酸性が非常に高い態様のみが試みられていたものと想定される。
【0009】
本発明は、アミド化合物全般にエピ化晶出法を適用することを可能とすることにより、エピ化晶出法の適用範囲を従来より大きく広げ、効率的かつ高収率に光学活性アミド化合物またはその光学活性カルボン酸化合物を得る方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らはかかる目的を達成するために、鋭意検討を行ったところ、カルボニル基α位の水素原子の酸性が低いアミド化合物であっても、比較的強い塩基の存在下であれば、一級アミンのアミド化合物のカルボニル基α位水素原子を平衡エピメリ化できること、すなわち、アミド化合物全般にエピ化晶出法を適用できることを見出した。また、当該エピ化晶出法と原料のジアステレオマー混合物を得る工程において、当該エピ化晶出に使用される比較的強い塩基がカルボン酸エステル化合物と光学活性一級アミンとのアミド化反応を促進することを見出して、当該アミド化反応とエピ化晶出を合わせてワンポット反応で行うことができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は以下のとおりである。
(1)一般式(II):
【0011】
【化1】



【0012】
[式中、Rは低級アルキル基を示し、Rはカルボニル基α位の炭素原子と炭素−炭素結合でつながれており、かつ塩基の存在下で安定な基を示し、Rはカルボニル基α位の炭素原子と炭素−炭素結合または炭素−ヘテロ原子結合(但し、炭素−ハロゲン原子結合を除く。)でつながれており、かつ塩基の存在下で安定な基を示し、RおよびRはつながって、結合する炭素原子と一緒に環を形成してもよい(但し、RとRが同時に同じ基を意味することはない。)。]で表される化合物(以下、化合物(II)ともいう。)を塩基の存在下に、一般式(III):
【0013】
【化2】

【0014】
(式中、RおよびRはそれぞれ独立して有機基を示す。但し、RとRが同時に同じ基を意味することはない。)で表される化合物(以下、化合物(III)ともいう。)と反応させて、一般式(I):
【0015】
【化3】

【0016】
(式中、各記号は前記と同義を示す。)で表されるジアステレオマー混合物(以下、ジアステレオマー混合物(I)ともいう。)を得る工程と、該ジアステレオマー混合物(I)を塩基の存在下にカルボニル基α位の炭素原子上の水素原子を平衡エピメリ化させながら、同一反応系内で一般式(Ia):
【0017】
【化4】

【0018】
(式中、各記号は前記と同義を示す。)で表される光学活性化合物(以下、光学活性化合物(Ia)ともいう。)または一般式(Ib):
【0019】
【化5】

【0020】
(式中、各記号は前記と同義を示す。)で表される光学活性化合物(以下、光学活性化合物(Ib)ともいう。)を結晶化させる工程を包含することを特徴とする、光学活性化合物(Ia)または光学活性化合物(Ib)の製造方法あるいはジアステレオマー混合物(I)からの光学活性化合物(Ia)または光学活性化合物(Ib)の分離方法。
(2)ワンポット反応で行うことを特徴とする、上記(1)記載の製造方法または分離方法。
(3)上記(1)または(2)記載の製造方法または分離方法により得られる光学活性化合物(Ia)または光学活性化合物(Ib)を酸性条件下に加水分解することを特徴とする、一般式(IVa):
【0021】
【化6】

【0022】
(式中、各記号は前記と同義を示す。)で表される光学活性化合物(以下、光学活性化合物(IVa)ともいう。)または一般式(IVb):
【0023】
【化7】

【0024】
(式中、各記号は前記と同義を示す。)で表される光学活性化合物(以下、光学活性化合物(IVb)ともいう。)の製造方法。
(4)RおよびRが結合する炭素原子と一緒に、一般式(V):
【0025】
【化8】

【0026】
(式中、Xは水素原子、ハロゲン原子または低級アルキル基を示し、Rは低級アルキル基を示す。)で表される複素環(以下、複素環(V)ともいう。)を形成する、上記(1)または(2)記載の製造方法または分離方法。
(5)RおよびRが、R’(R’は低級アルキル基を示す。)である上記(4)記載の製造方法または分離方法。
(6)一般式(VI):
【0027】
【化9】

【0028】
(式中、Xは前記と同義を示す。)で表される化合物(以下、化合物(VI)ともいう。)を酸の存在下に、一般式(VII):
【0029】
【化10】

【0030】
(式中、Rは水素原子または低級アルキル基を示し、R’は前記と同義を示す。)で表されるオルソエステル(以下、オルソエステル(VII)ともいう。)と反応させて、一般式(II’):
【0031】
【化11】

【0032】
(式中、XおよびR’は前記と同義を示す。)で表される化合物(以下、化合物(II’)ともいう。)を得る工程を包含することを特徴とする、化合物(II’)の製造方法。
(7)上記(6)記載の工程をさらに包含する、上記(5)記載の製造方法または分離方法。
(8)R’がメチル基またはエチル基である、上記(5)〜(7)のいずれかに記載の製造方法または分離方法。
(9)上記(4)、(5)、(7)および(8)のいずれかに記載の製造方法または分離方法によって得られる一般式(Ia’):
【0033】
【化12】

【0034】
(式中、各記号は前記と同義を示す。)で表される光学活性化合物(以下、光学活性化合物(Ia’)ともいう。)または一般式(Ib’):
【0035】
【化13】

【0036】
(式中、各記号は前記と同義を示す。)で表される光学活性化合物(以下、光学活性化合物(Ib’)ともいう。)を、酸性条件下で脱保護および加水分解することを特徴とする、一般式(IVa’):
【0037】
【化14】

【0038】
(式中、Xは前記と同義を示す。)で表される光学活性化合物(以下、光学活性化合物(IVa’)ともいう。)または一般式(IVb’):
【0039】
【化15】

【0040】
(式中、Xは前記と同義を示す。)で表される光学活性化合物(以下、光学活性化合物(IVb’)ともいう。)の製造方法。
(10)Xがフッ素原子であり、Rがフェニル基であり、かつRがメチル基である上記(4)、(5)および(7)〜(9)のいずれかに記載の製造方法。
(11)一般式(II’):
【0041】
【化16】

【0042】
(式中、Xは水素原子、ハロゲン原子または低級アルキル基を示し、R’は低級アルキル基を示す。)で表される化合物。
(12)Xがフッ素原子であり、かつR’がメチル基である上記(11)記載の化合物。
(13)Rが窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選ばれるヘテロ原子を1〜2個含み、置換基を有してもよい5〜8員の飽和複素環基または5〜6員の不飽和複素環基もしくはその縮合環基である、上記(1)もしくは(2)記載の製造方法または分離方法あるいは上記(3)記載の製造方法。
(14)Rが一般式(VIII):
【0043】
【化17】

【0044】
(式中、Yはそれぞれ独立して水素原子、水酸基、オキソ、低級アルコキシ基または低級アルキル基を示し、mおよびnはそれぞれ独立して1〜3の整数を示す。)で表される複素環基(以下、複素環基(VIII)ともいう。)である、上記(13)記載の製造方法または分離方法。
(15)Rが置換基を有していてもよい低級アルキル基である、上記(14)記載の製造方法または分離方法。
(16)Yが水素原子であり、Rがエチル基であり、かつmが1である、上記(14)または(15)記載の製造方法または分離方法。
【発明の効果】
【0045】
本発明によれば、従来、平衡エピメリ化が困難であると考えられたカルボニル基α位の水素原子の酸性度が比較的低い一級アミンのジアステレオマーアミド混合物を平衡エピメリ化することができ、すなわち、一級アミンのアミド化合物全般をエピ化晶出法に用いることを可能にした。その結果、エピ化晶出法の応用範囲を従来法では適用困難であると考えられたカルボン酸化合物にまで広げることができるので、実用的なメリットが大きい。
【0046】
さらに本発明の方法は、原料のジアステレオマー混合物を製造する段階からワンポット反応で行い得るので、製造に要する労力(工程数、時間等)、収率およびコストの面において極めて優れた方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
以下、本発明について詳細に説明する。
Xで示される「ハロゲン原子」は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子であり、好ましくはフッ素原子である。
【0048】
X、Y、R、R、R’およびRで示される「低級アルキル基」としては、炭素数1〜4、好ましくは炭素数1〜2の直鎖または分枝のアルキル基、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基等が挙げられ、好ましくはメチル基またはエチル基である。
【0049】
およびRで示される「有機基」としては、例えば置換基を有していてもよい低級アルキル基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいアラルキル基等が挙げられる。但し、RおよびRが結合する炭素原子は不斉炭素である必要があるため、RとRが同時に同じ基を意味することはない。
【0050】
当該「置換基を有してもよい低級アルキル基」の「低級アルキル基」としては、上記で定義された低級アルキル基と同じものが挙げられ、置換基としては、水酸基、オキソ、上記と同じ低級アルキル基を有する低級アルコキシ基等が挙げられる。低級アルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基等が挙げられ、好ましくはメトキシ基またはエトキシ基である。当該置換基の数は特に限定はなく、1〜3個が好ましく、同一または異なっていてもよい。なお、Yで示される「低級アルコキシ基」においても同じものが挙げられる。
【0051】
当該「置換基を有してもよいアリール基」の「アリール基」としては、炭素数6〜10のアリール基、例えばフェニル、1−または2−ナフチル等が挙げられ、置換基としては、ハロゲン原子、上記と同じ低級アルキル基または上記「置換基を有してもよいアルキル基」と同じ置換基等が挙げられる。当該置換基の数は特に限定はなく、1〜3個が好ましく、同一または異なっていてもよい。
【0052】
当該「置換基を有してもよいアラルキル基」の「アラルキル基」としては、上記で定義された「低級アルキル基」の任意の位置に上記で定義された「アリール基」が置換して形成されるアラルキル基、例えばベンジル、1−または2−フェネチル、1−、2−または3−フェニルプロピル、1−または2−ナフチルメチル、ベンゾヒドリル等が挙げられる。置換基としては、アリール部分には、上記「置換基を有してもよいアリール基」と同じ置換基が挙げられ、アルキル部分には、上記「置換基を有してもよいアルキル基」と同じ置換基が挙げられる。当該置換基の数は特に限定はなく、1〜3個が好ましく、同一または異なっていてもよい。
【0053】
およびRで示される「カルボニル基α位の炭素原子と炭素−炭素結合でつながれており、かつ塩基の存在下で安定な基」としては、例えば、上記で定義された「置換基を有してもよい低級アルキル基」、上記で定義された「置換基を有してもよいアリール基」、上記で定義された「置換基を有してもよいアラルキル基」、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有してもよい飽和の複素環基、置換基を有してもよい不飽和の複素環基またはこれら複素環基で置換された上記で定義された低級アルキル基等が挙げられる。
【0054】
当該「置換基を有していてもよいシクロアルキル基」の「シクロアルキル基」としては、炭素数3〜8個のシクロアルキル基、例えばシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基またはシクロオクチル基が挙げられる。置換基としては、上記と同じ低級アルキル基または上記「置換基を有していてもよい低級アルキル基」と同じ置換基が挙げられる。当該置換基の数は特に限定はなく、1〜3個が好ましく、同一または異なっていてもよい。
【0055】
当該「置換基を有してもよい飽和の複素環基」の「飽和の複素環基」としては、例えば、炭素原子以外に酸素原子、硫黄原子及び窒素原子から選ばれるヘテロ原子を1〜2個含む5〜8員の飽和の複素環基であって炭素原子でつながるもの、例えば、2−又は3−テトラヒドロフリル基、2−、3−又は4−テトラヒドロピラニル基、2−又は3−テトラヒドロチエニル基、2−、3−又は4−テトラヒドロチオピラニル基、1,3−ジオキソラン−2又は4−イル基、1,4−ジオキサン−2−イル基、2−又は3−ピロリジニル基、2−、3−又は4−ピペリジニル基、2−ピペラジニル基、2−又は3−モルホリニル基、2−または4−イミダゾリジニル基等が挙げられる。置換基としては、上記「置換基を有していてもよいシクロアルキル基」と同じ置換基が挙げられる。当該置換基の数は特に限定はなく、1〜3個が好ましく、同一または異なっていてもよい。
【0056】
当該「置換基を有してもよい不飽和の複素環基」の「不飽和の複素環基」としては、例えば、炭素原子以外に酸素原子、硫黄原子及び窒素原子から選ばれるヘテロ原子を1〜2個含む5〜6員の不飽和複素環基またはその縮合環基であって炭素原子でつながるもの、例えば、2−又は3−チエニル、1,2−ジヒドロチオフェン−2、3、4又は5−イル、1,4−ジヒドロチオフェン−2又は3−イル、2−又は3−フリル、1,2−ジヒドロフラン−2、3、4又は5−イル、1,4−ジヒドロフラン−2又は3−イル、2−又は3−ピロリル、2−ピロリン−2、3、4又は5−イル、3−ピロリン−2又は3−イル、3,4−ジヒドロ−2H−ピラン−2,3,4,5又は6−イル、3,4−ジヒドロ−2H−チオピラン−2,3,4,5または6−イル、2−又は4−イミダゾリル、2−又は4−イミダゾリニル、2−、4−又は5−オキサゾリル、2−、4−又は5−オキサゾリニル、2−、4−又は5−チアゾリル、2−、4−又は5−チアゾリニル、3−、4−又は5−ピラゾリル、3−、4−又は5−ピラゾリニル、3−、4−又は5−イソオキサゾリル、3−、4−又は5−イソオキサゾリニル、3−、4−又は5−イソチアゾリル、3−、4−又は5−イソチアゾリニル、1,2,4−トリアゾール−3又は5−イル、1,2,3−トリアゾール−4−イル、1H−テトラゾール−1又は5−イル、2H−テトラゾール−2又は5−イル、2−、3−又は4−ピリジル、2−、4−又は5−ピリミジニル、1−、2−、3−、4−、5−、6−又は7−インドリル、2−、3−、4−、5−、6−又は7−ベンゾフリル、2−、3−、4−、5−、6−又は7−ベンゾチエニル、1−、2−、4−、5−、6−又は7−ベンズイミダゾリル、2−、3−、4−、5−、6−、7−又は8−キノリル、1−、3−、4−、5−、6−、7−又は8−イソキノリル等が挙げられる。置換基としては、上記「置換基を有していてもよいアリール基」と同じ置換基が挙げられる。当該置換基の数は特に限定はなく、1〜3個が好ましく、同一または異なっていてもよい。
【0057】
で示される「カルボニル基α位の炭素原子と炭素−ヘテロ原子結合でつながれており、かつ塩基の存在下で安定な基」としては、窒素原子、酸素原子、硫黄原子等のヘテロ原子につながる水素原子の一つが通常用いられる保護基(例えば、tert−ブトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、ベンゾイル基、アルカノイル基(アセチル基、プロピオニル基等)等)で保護されたもの、当該へテロ原子に上記で定義された「カルボニル基α位の炭素原子と炭素−炭素結合でつながれており、かつ塩基の存在下で安定な基」が結合して形成される基、または上記で定義された「置換基を有してもよい飽和複素環基または不飽和複素環基」であってヘテロ原子でつながるもの(例えば、1−ピロリジニル、複素環基(VIII)、1−ピペリジニル、1−ピペラジニル、4−モルホリニル、1−−イミダゾリジニル、4−チオモルホニル)が挙げられ、複素環基(VIII)が好ましい。なお、上記へテロ原子がハロゲン原子の場合は、平衡エピメリ化反応において使用される塩基と反応し、副反応が起こるおそれがあるため、へテロ原子からハロゲン原子は除外される。
【0058】
およびRにおける「塩基の存在下で安定な」とは、ジアステレオマー混合物(I)の平衡エピメリ化に使用される塩基の存在下で安定であるということを意味する。
【0059】
およびRがつながって、結合する炭素原子と一緒に形成してもよい「環」としては、5〜8員の同素環(例えば、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン等)または窒素原子、酸素原子および硫黄原子から選ばれる1〜2個のヘテロ原子を含む5〜8員の非芳香族複素環(例えば、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、テトラヒドロチオピラン、テトラヒドロチオフェン、1,4−ジオキサン、ピペリジン等)あるいはそれらの環とベンゼン環等との縮合環が挙げられる。当該環はさらに置換基を有していてもよく、置換基としては上記「置換基を有してもよい低級アルキル基」と同じ置換基;窒素原子、酸素原子、硫黄原子等のヘテロ原子につながる水素原子の一つが通常用いられる保護基(例えば、tert−ブトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、ベンゾイル基、アルカノイル基(アセチル基、プロピオニル基等)等)で保護されたものまたは当該へテロ原子に上記で定義された「カルボニル基α位の炭素原子と炭素−炭素結合でつながれており、かつ塩基の存在下で安定な基」が結合して形成される基が挙げられる。当該置換基の数は特に限定はなく、1〜3個が好ましく、同一または異なっていてもよい。
【0060】
およびRが結合する炭素原子は不斉炭素である必要があるため、RとRが同時に同じ基を意味することはない。
【0061】
およびRとしては低級アルキル基、置換基を有してもよいアリール基が好ましく、低級アルキル基と置換基を有してもよいアリール基の組み合わせが好ましく、化合物(III)の光学活性アミンとして入手容易であることから、メチル基とフェニル基、メチル基とナフチル基の組み合わせがより好ましい。
【0062】
及びRとしては、結合する炭素原子と一緒に環を形成する態様が好ましく、当該環としては、テトラヒドロピランまたはそのベンゼン環との縮合環、特に複素環(V)が、特開平1−93588号公報記載のアルドースリダクターゼ阻害活性を有する医薬の有用な中間体となるため好ましい。
【0063】
さらに好適な態様として、R及びカルボニル基α位の炭素原子が炭素−ヘテロ原子結合でつながれており、Rが上記で定義された「置換基を有してもよい飽和複素環基または不飽和複素環基であってヘテロ原子でつながるもの」である態様が挙げられ、特に複素環基(VIII)が好ましい。Rが複素環基(VIII)である場合、Rとしては低級アルキル基が好ましく、エチル基がより好ましい。
【0064】
複素環(V)、化合物(Ia’)、(Ib’)、(II’)、(IVa’)、(IVb’)、(VI)のXとしては、ハロゲン原子が好ましく、フッ素原子がより好ましい。
【0065】
およびRとしては低級アルキル基が好ましく、メチル基またはエチル基がより好ましい。
【0066】
複素環基(VIII)のYとしては水素原子が好ましく、mとしては1が好ましい。
【0067】
本発明の方法を、以下の反応スキームに示す。
【0068】
【化18】

【0069】
(式中、各記号および波線は前記と同義を示す。)
すなわち本発明は、光学活性化合物(Ia)と光学活性化合物(Ib)の混合物であるジアステレオマー混合物(I)を塩基の存在下、カルボニル基α位の炭素原子上の水素原子を平衡エピメリ化させながら、同一反応系内で光学活性化合物(Ia)または光学活性化合物(Ib)を結晶化させる工程(以下、エピ化晶出工程ともいう。)を包含する光学活性化合物(Ia)または光学活性化合物(Ib)の製造方法、あるいはジアステレオマー混合物(I)からの光学活性化合物(Ia)または光学活性化合物(Ib)の分離方法である。さらに、得られたそれぞれの化合物は、酸性条件下加水分解する工程(以下、加水分解工程という。)に付することにより、カルボニル基α位の炭素原子のキラリティーを維持したまま、光学活性カルボン酸化合物である光学活性化合物(IVa)または光学活性化合物(IVb)に導くことができる。
【0070】
さらには、当該エピ化晶出工程の原料であるジアステレオマー混合物(I)の製法として、化合物(II)を塩基の存在下に化合物(III)と反応させる工程(以下、アミド化工程という。)を採用することにより、エピ化晶出工程とアミド化工程をワンポット反応で行うことができるので、さらに効率的に行うことができる。
【0071】
本発明のエピ化晶出工程では、光学活性化合物(Ia)または光学活性化合物(Ib)のうち、所望の立体配置のカルボニル基α位炭素原子を有する方のジアステレオマーが結晶化するように設定しておけば、比較的速い平衡エピメリ化により、不要のジアステレオマーが所望のジアステレオマーにエピメリ化する方向(上記スキームにおいて、所望のジアステレオマーが光学活性化合物(Ia)の場合は左側、光学活性化合物(Ib)の場合は右側)にずれるため、結晶化の進行に伴って、理論的には、すべて所望のジアステレオマーのみを結晶として得られ、一工程で100%以上の分割収率を達成することができるという大きな利点がある。ここで分割収率とは、ラセミ体の光学分割において所望の立体異性体をすべて回収した場合を100%として換算した収率を意味し、ラセミ体からの収率を2倍にした数値となる。
【0072】
なお、エピ化晶出工程において、光学活性化合物(Ia)と光学活性化合物(Ib)のどちらが結晶化するかは、反応系におけるそれぞれの化合物の結晶性や溶解度の差によって決定され、すなわち、結晶性が高くまたは溶解度が低い方の化合物が結晶化する。光学活性化合物(Ia)および(Ib)の結晶性や溶解度は、アミド化工程における化合物(II)に対して、化合物(III)のRおよびRの選択によって容易に制御することができるので、所望の立体配置のカルボニル基α位炭素原子を有するジアステレオマーが結晶化するように、適切な化合物(III)を選択すればよい。また、化合物(III)の立体配置を選択することにより、結晶化する化合物を自在に制御することも可能である。
以下、本発明の各工程を説明する。
【0073】
1.エピ化晶出工程
エピ化晶出工程は、例えば溶媒中または無溶媒で、ジアステレオマー混合物(I)を塩基と反応させて、反応系中から光学活性化合物(Ia)または(Ib)を結晶化させることによって行うことができる。この場合、試薬の添加順序は特に限定はなく、ジアステレオマー混合物(I)および塩基を順次または同時に添加すればよい。
このような操作を行うことにより、ジアステレオマー混合物(I)を平衡エピメリ化させながら、同一反応系内で光学活性化合物(Ia)または(Ib)を結晶化させることができる。
【0074】
エピ化晶出工程において結晶化とは、光学活性化合物(Ia)または(Ib)のうちどちらかを多く含む結晶が析出してくることを意味する。晶出してくる結晶のジアステレオ過剰率(d.e.)は特に限定はないが、効率的に光学分割を行うためには、70%d.e.以上が好ましく、90%d.e.以上がより好ましい。
【0075】
平衡エピメリ化とは、下記スキームに示すように、ジアステレオマー混合物(I)のカルボニル基α位の不斉炭素を異性化させて、光学活性化合物(Ia)または(Ib)がお互いに変換して、平衡状態になることを意味する。
【0076】
【化19】

【0077】
(式中、各記号は前記と同義を示す。)
当該平衡エピメリ化によって、通常、光学活性化合物(Ia)と(Ib)のほぼ当量混合物に達するが、例えば光学活性化合物(Ia)が結晶化した場合は、母液中においては光学活性化合物(Ib)が多い状態となり、上記平衡反応が光学活性化合物(Ia)に変換される方向(上記スキームで左側)に傾くため、光学活性化合物(Ia)を高収率で製造することができる。
【0078】
エピ化晶出工程は、円滑に行うために通常は、溶媒中において行われるが、ジアステレオマー混合物(I)の態様によっては、ほとんど無溶媒で行うことも可能である。溶媒中で行う場合使用される溶媒は光学活性化合物(Ia)または(Ib)のうち所望のジアステレオマーを結晶化させ、かつ平衡エピメリ化反応を阻害しないものを適宜選択すればよく、例えば低級アルコール類(例、メタノール、エタノール、n−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール等)、エーテル類(例、エチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、メチルtert−ブチルエーテル等)、炭化水素系溶媒(例、ヘプタン、オクタン、デカン等の脂肪族炭化水素類またはトルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類)等の単独または混合溶媒が挙げられるが、好ましくは低級アルコール類等であり、より好ましくは2−プロパノール等である。なお、用いる溶媒は塩基を分解させないようにするために無水であることが好ましい。
【0079】
当該溶媒の使用量は、使用する溶媒に対する所望のジアステレオマーの溶解度により、高純度かつ高収率で結晶化させ得る範囲の量を適宜決定すればよい。例えば、本発明の好ましい態様であるRとRが複素環(V)を形成するジアステレオマー混合物(I)に2−プロパノールを使用した場合は、ジアステレオマー混合物(I)1重量部に対して、1〜5重量部の範囲が好ましく、2〜4重量部の範囲がより好ましい。2−プロパノールの使用量は、この範囲外でも行うことができるが、この範囲より多いと回収率が低くなる傾向があり、少ないと結晶出後の撹拌が困難になる、または純度が低下する場合がある。
【0080】
エピ化晶出工程において使用される塩基としては、ジアステレオマー混合物(I)の平衡エピメリ化を行い得るような比較的強塩基性のもの、例えば、共役酸のpKaが16〜35の範囲である塩基が好ましい。そのような塩基としては、pKaが当該範囲である化合物のアルカリ金属塩や強塩基性有機アミン、例えば、水素化アルカリ金属類(例、水素化ナトリウム、水素化カリウム等)、アルカリ金属アルコキシド(例、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、ナトリウムプロポキシド、カリウムプロポキシド、ナトリウム2−プロポキシド、カリウム2−プロポキシド等)、強塩基性有機アミン(例、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エン(DBU)、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン(DBN)等)等が挙げられ、水素化ナトリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウム2−プロポキシド等が好ましい。
なお、水素化アルカリ金属類を低級アルコール類溶媒中で使用した場合は、それらが反応して生成するアルカリ金属アルコキシドが塩基として働いていることになる。
また、アルカリ金属アルコキシドを低級アルコール類溶媒中で使用する場合において、使用溶媒と異なるアルコキシ基を有するアルカリ金属アルコキシドを用いる場合、生成する異種アルコールは留去等により除去することも可能である。
【0081】
当該塩基の使用量は、例えば、ジアステレオマー混合物(I)に対して、0.1〜2当量の範囲が好ましく、0.5〜1当量の範囲がより好ましい。塩基の使用量は、この範囲外でも行うことができるが、この範囲より少ないと平衡エピメリ化が遅くなり、エピ化晶出が円滑に行えなくなる傾向があり、多い場合は不必要に試剤が多いことで操作的な不具合が生じるおそれがあり、また経済的に不利となる。
【0082】
エピ化晶出工程の反応温度は、通常は20℃〜150℃であるが、30℃〜80℃が好ましい。反応温度は、この範囲外でも行うことができるが、この範囲より低いと平衡エピメリ化が遅くなる傾向があり、高いと副反応が進行するおそれがある。反応時間は特に限定はないが、光学活性化合物(Ia)または(Ib)の晶出が十分進行するまで行えばよく、通常3時間〜24時間の範囲である。
【0083】
エピ化晶出工程の終了後、反応液を冷水(0℃〜常温)に注ぎ反応を止め、次いで、抽出、洗浄、濃縮した後、濃縮物を結晶化に適当な溶媒から晶出することにより、光学活性化合物(Ia)または(Ib)の結晶を単離することができる。
【0084】
光学活性化合物(Ia)または(Ib)の単離精製の他の態様としては、エピ化晶出反応の終了後、母液中に残存する所望のジアステレオマーを十分に晶出させるために10〜20℃に冷却し、結晶を濾過することができる。この時、光学活性化合物(Ia)または(Ib)を高純度かつ高収率にエピ化晶出させるために、攪拌しながら徐々に冷却し(例えば、2〜15℃/時間の速度で)、さらに25〜40℃で2〜24時間熟成させることが好ましい。十分に晶出した化合物は、濾過後、使用した溶媒(好ましくは冷却したもの)で洗浄することにより、単離することができる。
【0085】
上記の単離精製操作で回収される母液は光学活性化合物(Ia)または(Ib)を含んでおり、必要に応じてエピ化晶出工程の原料であるジアステレオマー混合物(I)として用いることができ、繰り返して結晶を取得することができる。その際、必要により留去による溶媒量の調整や塩基の追加等を行ってもよい。
【0086】
2.アミド化工程(エピ化晶出工程とのワンポット反応)
エピ化晶出工程の原料であるジアステレオマー混合物(I)は、例えば、本発明のアミド化工程、すなわち、化合物(II)を塩基の存在下に、化合物(III)と反応させることによって製造することができる。アミド化工程においてジアステレオマー混合物(I)をジアステレオマー結晶として、一旦単離してエピ化晶出工程に供してもよいが、エピ化晶出工程に用いられる比較的強い塩基はアミド化工程を効率的に促進するため、好ましい態様として、アミド化工程に用いる溶媒および塩基をエピ化晶出工程と同じものを用いることにより、アミド化工程およびエピ化晶出工程をワンポット反応で行うことができる。本明細書においてワンポット反応とは、中間体を単離することなく、連続する2以上の工程を同一の反応容器内で連続的または同時に行う反応を意味する。以下にアミド化工程について説明するが、便宜上、当該ワンポット反応で行う態様について説明する。
なお、平衡エピメリ化にアンモニア水のような弱塩基が用いられる場合には、そのような弱塩基ではアミド化工程をあまり効率的には促進されず、さらには、アンモニア水を用いる従来技術では、原料のエステルがアンモニアと反応してアミドを生成するために、アミド化とエピ化晶出とをワンポット反応で行うことができない。
【0087】
ワンポット反応は、例えば溶媒中において、化合物(II)を塩基の存在下、化合物(III)と反応させて、生成したジアステレオマー混合物(I)を含有する反応混合物から光学活性化合物(Ia)または(Ib)を晶出させることにより行うことができる。この場合、試薬の添加順序は特に限定はなく、化合物(II)、化合物(III)および塩基を順次または同時に添加すればよい。
このような操作を行うことにより、化合物(II)と化合物(III)からジアステレオマー混合物(I)を生成し、そのまま同一反応系においてエピ化晶出工程を行うことができる。
【0088】
使用される化合物(III)は、入手可能な光学活性一級アミンを特に制限なく使用することができ、入手容易で、安価であり、しかもR体もS体も入手できることから、光学活性1−フェニルエチルアミン、光学活性1−(1−ナフチル)エチルアミン、光学活性2−アミノ−1−ブタノール、ノルエフェドリン等が好ましく、光学活性1−フェニルエチルアミン、光学活性1−(1−ナフチル)エチルアミンがより好ましい。
【0089】
ワンポット反応において、化合物(III)の使用量は化合物(II)に対して0.9〜2当量の範囲が好ましく、1〜1.5当量の範囲がより好ましい。化合物(III)の使用量は、この範囲外でも行うことができるが、この範囲より少ないと化合物(II)が十分にジアステレオマー混合物(I)に変換されない場合があり、この範囲より多く使用しても使用量に見合う効果はなく、コスト的に不利になる。
【0090】
ワンポット反応に使用される溶媒および塩基は、上記エピ化晶出工程と同じものを使用すればよい。または、アミド化工程においては、化合物(III)を化合物(II)よりも過剰量使用し、その過剰分の化合物(III)を塩基として作用させてもよい。また、その使用量は、エピ化晶出工程における使用量をアミド化工程により製造されるジアステレオマー混合物(I)の量に換算して使用量とすればよい。具体的には塩基の使用量は化合物(II)に対して0.1〜2当量の範囲が好ましく、0.5〜1当量の範囲がより好ましい。
なお、低級アルコール類を溶媒とする場合に、化合物(II)のアルキルエステルから遊離されるROHで表されるアルコールが使用溶媒と異なる場合、生成する当該アルコールを留去等により除去することができる。
【0091】
ワンポット反応は、エピ化晶出工程と同じ温度で行えばよく、当該温度範囲でアミド化工程も十分に進行する。反応時間はアミド化工程を完結させる必要があるため上記エピ化晶出工程にアミド化工程を含めた場合、見掛上より長く設定する必要があり、そのうちアミド化工程に要する時間は、通常0.5時間〜5時間である。
【0092】
ワンポット反応終了後の処理は、上記エピ化晶出工程と同様である。この場合、回収される母液は上記エピ化晶出工程の原料として再利用することもできるが、当該母液に化合物(II)および化合物(III)を加えて、当該ワンポット反応を繰り返して行ってもよく、その際、必要により留去による溶媒量の調整や塩基の追加等を行ってもよい。
【0093】
アミド化工程(ワンポット反応を含む。)の原料である化合物(II)は、ラセミのカルボン酸エステル化合物を特に制限なく使用することができるが、好ましい態様である化合物(II’)である場合は、下記スキームで示すように、化合物(VI)を酸の存在下に、オルソエステル(VII)と反応させることにより、化合物(II’)を製造することができる。
【0094】
【化20】

【0095】
(式中、各記号は前記と同義を示す。)
化合物(II’)は新規化合物であり、アミド化工程およびエピ化晶出工程のワンポット反応の原料に適しており、後述の光学活性化合物(IVa’)に効率的に導くことができるので、特開平1−93588号公報記載のアルドースリダクターゼ阻害活性を有する医薬の中間体として極めて有用である。化合物(II’)においては、Xがフッ素原子であり、かつR’がメチル基である態様が医薬品の合成中間体としてより好ましい。
また、上記化合物(II’)の製造方法は、化合物(VI)のカルボニル基の保護とエステル化を一工程で行うことができるので、化合物(II’)の効率的な製造方法として有用性が高い。
【0096】
なお、化合物(II’)においてカルボニル基を保護しない態様は、塩基の存在下で不安定であり、エピ化晶出工程に供することができないため、カルボニル基の保護は必須である。
以下、化合物(II’)の製造方法について詳細を説明する。
【0097】
2−1.化合物(II’)の製造方法
化合物(II’)は、例えば溶媒中または無溶媒において、化合物(VI)を酸の存在下、オルソエステル(VII)と反応させることによって行うことができる。この場合、試薬の添加順序は特に限定はなく、化合物(VI)、オルソエステル(VII)および酸を順次または同時に添加すればよい。
【0098】
使用される酸としては特に限定はなく、有機スルホン酸(例、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸等)の有機酸または鉱酸(例えば、塩酸、硫酸等)が挙げられ、好ましくはp−トルエンスルホン酸である。当該酸の使用量は化合物(VI)に対して0.01〜0.1当量の範囲が好ましく、0.01〜0.05当量の範囲がより好ましい。
【0099】
オルソエステル(VII)の使用量は化合物(VI)に対して1〜15当量の範囲が好ましく、1.5〜10当量の範囲がより好ましい。オルソエステル(VII)の使用量は、この範囲外でも行うことができるが、この範囲より少ないと収率が低くなる傾向があり、多く使用しても使用量に見合う効果は少なくコスト的に不利になりやすい。
【0100】
化合物(II’)の製造方法は溶媒中で行うこともできるが、オルソエステル(VII)を多く用いた場合は無溶媒で行うこともできる。溶媒を用いる場合、溶媒としては当該反応を阻害しないものであれば特に限定はなく、例えば低級アルコール類(例、メタノール、エタノール、n−プロパノール、2−プロパノール等)、トルエン等の単独または混合溶媒が挙げられるが、R’と同じ残基を有する低級アルコール類を使用するのが好ましい。当該溶媒の使用量は、化合物(VI)1重量部に対して、1〜10重量部の範囲が好ましく、2〜5重量部の範囲がより好ましい。
【0101】
反応温度は、通常、常温〜溶媒の沸点である。反応時間は、通常0.5時間〜10時間である。
【0102】
得られる化合物(II’)は、常法により単離、精製することができる。例えば、反応終了後反応液を冷却し、塩基(例、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等)を添加するか、あるいは当該塩基を含む水溶液中に注ぐことにより、pH7.5〜12の範囲に調整する。その後、必要により濾過して固定分を除き、濾液を濃縮するか、あるいは抽出操作を行い、抽出液を濃縮することにより化合物(II’)を単離することができ、さらに再結晶等に付して精製することができる。
【0103】
3.加水分解工程
上記の方法で製造される光学活性化合物(Ia)または(Ib)を、例えば、溶媒(例、酢酸および水の混合溶媒等)中において、酸(例、塩酸等)と100℃〜還流の温度範囲で5〜20時間加熱)で加水分解し、常法により単離精製することにより、それぞれ立体配置を保持して、光学活性化合物(IVa)または(IVb)に導くことができる。この際、加水分解により副生した化合物(III)を反応混合物から回収することができ、アミド化工程(上記ワンポット反応を含む)の原料として再利用することができる。
好ましい態様である光学活性化合物(Ia’)または(Ib’)を加水分解する場合は、当該酸性条件下で、カルボニルの脱保護も同時に進行して、光学活性化合物(IVa’)または(IVb’)をそれぞれ得ることができる。
【0104】
このようにして得られた光学活性化合物(IVa)、または(IVb)は、医薬、農薬などの種々の生物活性化合物として、または生物活性化合物の合成中間体として有用である。例えば、光学活性化合物(IVa’)は特開平1−93588号公報に記載の方法により、アルドースリダクターゼ阻害活性を有する医薬に導くことができる。また、(2S)−2−(2−オキソピロリジン−1−イル)ブタン酸は、例えば、欧州特許第0165919号明細書または米国特許4943639号明細書に記載の方法により中枢神経作用薬に導くことができる。
【実施例】
【0105】
以下、本発明について、実施例を挙げてさらに具体的に説明する。本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【0106】
実施例1:(RS)−4,4−ジメトキシ−6−フルオロクロマン−2−カルボン酸 メチル
丸底フラスコに粗製の(RS)−6−フルオロ−4−オキソクロマン−2−カルボン酸(50.0g,237.9mmol)、オルトギ酸トリメチル(250ml,約2.28mol)、メタノール(150ml)およびp−トルエンスルホン酸1水和物(1.5g,7.9mmol)を仕込み、窒素気流下60℃にて1時間攪拌反応した。内温を25℃まで冷却した後、炭酸カリウム(1.5g,10mmol)を添加し、室温で15分攪拌した。固形分を濾過後、濾過液を減圧下(40℃)で留去し、濃縮乾固した。濃縮残留物にメタノール(150ml)を加え、10分間加熱還流させ、その後5℃以下まで冷却した。3〜5℃で1時間攪拌後、晶出した結晶を濾過、さらに冷やしたメタノール(50ml)で結晶を洗浄した。減圧下、50℃で結晶を乾燥し、表題化合物(49.3g,182.4mmol)を得た(粗製のカルボン酸が仮に純度100%として収率76.7%)
【0107】
1HNMR(ppm, CDCl3):δ 2.31(dd, 1H, J=9.0Hz, 12.9Hz, C3-H), 2.49(dd, 1H, J=3.9Hz, 13.2Hz, C3-H), 3.25(d, 6H, J=6.8Hz, -OCH3x2), 3.80(s, 3H, -COOCH3), 4.95(dd, 1H,
J=3.9Hz, 9.3Hz, C2-H), 6.91-7.24(m, 3H).
【0108】
実施例2:(2S)−N−[(S)−α−メチル(ベンジル)]−4,4−ジメトキシ−6−フルオロクロマン−2−カルボキサミド
小型反応容器に、(RS)−4,4−ジメトキシ−6−フルオロクロマン−2−カルボン酸 メチル(2.7g,10.0mmol)、イソプロピルアルコール(10ml)およびS−(−)−フェニルエチルアミン(1.7g,14.0mmol)を仕込み、窒素気流下、注意深く水素化ナトリウム(含量60%,400mg,10.0mmol)を添加した。内温を60℃まで上げ、60〜70℃で3時間攪拌した。3時間後結晶が析出するため、その後、2時間かけて40℃まで冷却し、40℃で3時間保温攪拌した。さらに窒素雰囲気下に35℃で16時間攪拌後、5℃に冷却後濾過した。冷やしたイソプロピルアルコール(2ml)にて洗浄し、表題化合物を2.55g(7.1mmol)得た。収率71.0%(分割収率142%)。HPLCで分析したところ、ジアステレオ過剰率は98.4%d.e.であった。
【0109】
HPLC分析条件:
カラム; Develosil ODS-7 (NOMURA CHEMICAL),
移動相;アセトニトリル:水=50:50,
流速;1.0ml/分,波長;246nm,保持時間;14分付近.
【0110】
1HNMR(ppm, CDCl3): δ1.53(d, 3H, J=6.8Hz, -C-CH3), 2.04(d, 1H, J=11.2Hz, 13.2Hz, C3-H), 2.78(dd, 2H, J=3.4Hz, 13.2Hz, C3-H), 3.17(s, 3H, -OCH3), 3.34(s, 3H, -OCH3), 4.80(dd, 1H, J=3.2Hz, 11.0Hz, C2-H), 5.22(m, 1H, (NH)CH), 6.78-6.84(br, 1H, NH), 6.84-7.00(m, 2H), 7.24-7.42(m, 6H).
【0111】
実施例3:(2S)−N−[(S)−α−メチル(ベンジル)]−4,4−ジメトキシ−6−フルオロクロマン−2−カルボキサミド(スケールアップ)
丸底フラスコに(RS)−4,4−ジメトキシ−6−フルオロクロマン−2−カルボン酸 メチル(20.0g,74.0mmol)、イソプロピルアルコール(74ml)およびS−(−)−フェニルエチルアミン(12.6g,104.0mmol)を仕込み、窒素気流下、注意深く水素化ナトリウム(含量60%,3.0g,75mmol)を添加した。内温を60℃まで上げ、60〜70℃で3時間攪拌した。3時間後結晶が析出するため、その後、2時間かけて40℃まで冷却し、40℃で2時間保温攪拌した。約20℃まで放冷し攪拌後、さらに5℃まで冷却し濾過した。濾過後、冷やしたイソプロピルアルコール(20ml)で結晶を洗浄し、減圧下乾燥することにより、表題化合物を19.1g(53mmol)得た。収率72%(分割収率144%)。上記と同様のHPLC条件で分析したところ、ジアステレオ過剰率は94.4%d.e.であった。このものを水でリパルプ後、濾取し、さらにイソプロピルアルコールによる再結晶に付することにより、回収率90%にて、ジアステレオ過剰率99.8%d.e.の結晶を得た。
【0112】
実施例4:(2S)−N−[(S)−(1−ナフチル)エチル]−2−(2−オキソピロリジン−1−イル)ブタンアミド
窒素雰囲気下、2−(2−オキソピロリジン−1−イル)ブタン酸 メチル(2.05g,11.1mmol)、(S)−1−(1−ナフチル)エチルアミン(2.28g,13.3mmol)を160〜165℃の油浴につけて7時間加熱した。反応混合物を室温に冷却して、一旦トルエン(20ml)を加え、10%塩酸(10ml×2)で洗浄して得た有機層を10%苛性ソーダ水溶液(8ml)、10%食塩水(10ml)、水(10ml)の順に洗浄した。有機層を減圧濃縮すると、固体が析出し始めたので、ジイソプロピルエーテル(30ml)を加えて室温で結晶化を促し、その後濾過して粗結晶1.30g(36.2%,(S−S):(R−S)=89.2:10.8)を得た。このものを一旦メタノール(10ml)に溶かしてから、溶媒を減圧留去し、ジイソプロピルエーテル(20ml)を加えて結晶化させ、次いで濾過して粗結晶1.09g(30.4%,(S−S):(R−S)=99.0:1.0)を得た。
【0113】
上記操作で得た二つの濾液を減圧濃縮し、無水イソプロパノール(3ml)を加えた。(この時の各結晶成分の割合は、(S−S):(R−S)=15.6:84.4であった。)これに窒素雰囲気下、水素化ナトリウム(含量60%、51.6mg,1.29mmol)を添加し、攪拌しながら70℃で1時間加熱後、4時間かけて60℃〜30℃に冷却し、最後に25℃で3時間保持した。反応混合物に10%塩酸(5ml)とジイソプロピルエーテル(20ml)を加えて、析出した結晶を濾過し、粗結晶1.54g(42.9%,(S−S):(R−S)=97.5:2.5)を得た。このものを一旦メタノール(10ml)に溶かしてから、脱色炭(0.5g)を加え濾過した。次いで、溶媒を減圧留去し、ジイソプロピルエーテル(10ml)を加えて結晶化させ、その後濾過して粗結晶1.45g(40.4%,(S−S):(R−S)=99.2:0.8)を得た。
この粗結晶1.45gと、最初の操作で得た粗結晶1.09gとを合わせて、イソプロパノール(10ml)で溶解し、再結晶後濾過した。減圧乾燥後、表題化合物2.19g(収率61.0%,(S−S)のみ)を得た。
【0114】
HPLC分析条件:
カラム;Develosil ODS-7 (4.6mm×30cm、NOMURA CHEMICAL),
移動相; A液10mM KHPO、B液メタノール,
溶出条件;20分までB液60容量%で一定、B液を35分までに90容量%に漸増する。
流速;1.0ml/分,波長;246nm,保持時間:(S−S)体20.5分付近、(R−S)体18.5分付近。
【0115】
表題化合物((S−S)体)の物性データ
m.p. 204-206℃、TLCのRf値=0.15(ヘプタン:酢酸エチル=1:2)。
1H-NMR(ppm, CDCl3):δ 0.83 (t, 3H, J= 7.5Hz, CH3), 1.61 (d, 3H, J=6.8Hz, CH3), 1.60-2.10 (m, 4H, CH2-CH2), 2.30-2.50 (m, 2H, CH2), 3.30-3.65 (m, 2H, CH2-CO), 4.35 (t, 1H, J=7.5Hz, CHCO), 5.87 (q, 1H, J=7.3Hz, CHNaphthyl), 6.59 (brs, 1H, NH), 7.35-8.10 (m, 7H, aromatic protons).
【0116】
(R−S)体の物性データ
m.p. 124-126℃、TLCのRf値=0.23(ヘプタン:酢酸エチル=1:2)。
1H-NMR(ppm, CDCl3): δ 0.90 (t, 3H, J= 7.3Hz, CH3), 1.63 (d, 3H, J=6.8Hz, CH3), 1.60-2.30 (m, 6H, CH2-CH2 and CH2), 3.05-3.40 (m, 2H, CH2-CO), 4.41 (t, 1H, J=7.3Hz, CHCO), 5.87 (q, 1H, J=6.8Hz, CHNaphthyl), 6.57 (brs, 1H, NH), 7.35-8.10 (m, 7H, aromatic protons).

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(II):
【化1】



[式中、Rは低級アルキル基を示し、Rはカルボニル基α位の炭素原子と炭素−炭素結合でつながれており、かつ塩基の存在下で安定な基を示し、Rはカルボニル基α位の炭素原子と炭素−炭素結合または炭素−ヘテロ原子結合(但し、炭素−ハロゲン原子結合を除く。)でつながれており、かつ塩基の存在下で安定な基を示し、RおよびRはつながって、結合する炭素原子と一緒に環を形成してもよい(但し、RとRが同時に同じ基を意味することはない。)。]で表される化合物を塩基の存在下に、一般式(III):
【化2】



(式中、RおよびRはそれぞれ独立して有機基を示す。但し、RとRが同時に同じ基を意味することはない。)で表される化合物と反応させて、一般式(I):
【化3】



(式中、各記号は前記と同義を示す。)で表されるジアステレオマー混合物を得る工程と、
該ジアステレオマー混合物を塩基の存在下にカルボニル基α位の炭素原子上の水素原子を平衡エピメリ化させながら、同一反応系内で一般式(Ia):
【化4】



(式中、各記号は前記と同義を示す。)で表される光学活性化合物または一般式(Ib):
【化5】



(式中、各記号は前記と同義を示す。)で表される光学活性化合物を結晶化させる工程と
を包含することを特徴とする、前記一般式(Ia)で表される光学活性化合物または前記一般式(Ib)で表される光学活性化合物の製造方法。
【請求項2】
ワンポット反応で行うことを特徴とする、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の製造方法により得られる一般式(Ia):
【化6】



[式中、RおよびRはそれぞれ独立して有機基を示し(但し、RとRが同時に同じ基を意味することはない。)、Rはカルボニル基α位の炭素原子と炭素−炭素結合でつながれており、かつ塩基の存在下で安定な基を示し、Rはカルボニル基α位の炭素原子と炭素−炭素結合または炭素−ヘテロ原子結合(但し、炭素−ハロゲン原子結合を除く。)でつながれており、かつ塩基の存在下で安定な基を示し、RおよびRは結合する炭素原子と一緒になって環を形成してもよい(但し、RとRが同時に同じ基を意味することはない。)。]で表される光学活性化合物または一般式(Ib):
【化7】



(式中、各記号は前記と同義を示す。)で表される光学活性化合物を酸性条件下に加水分解することを特徴とする、一般式(IVa):
【化8】



(式中、各記号は前記と同義を示す。)で表される光学活性化合物または一般式(IVb):
【化9】



(式中、各記号は前記と同義を示す。)で表される光学活性化合物の製造方法。
【請求項4】
およびRが結合する炭素原子と一緒に、一般式(V):
【化10】



(式中、Xは水素原子、ハロゲン原子または低級アルキル基を示し、Rは低級アルキル基を示す。)で表される複素環を形成する、請求項1または2記載の製造方法。
【請求項5】
およびRがR’(R’は低級アルキル基を示す。)である、請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
一般式(VI):
【化11】



(式中、Xは水素原子、ハロゲン原子または低級アルキル基を示す。)で表される化合物を酸の存在下に、一般式(VII):
【化12】


(式中、Rは水素原子または低級アルキル基を示し、R’は低級アルキル基を示す。)で表されるオルソエステルと反応させて、一般式(II’):
【化13】



(式中、XおよびR’は前記と同義を示す。)で表される化合物を得る工程を包含することを特徴とする、前記一般式(II’)で表される化合物の製造方法。
【請求項7】
請求項6記載の工程をさらに包含する、請求項5記載の製造方法。
【請求項8】
’がメチル基またはエチル基である、請求項5〜7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
請求項4、5、7および8のいずれか一項に記載の製造方法によって得られる一般式(Ia’):
【化14】



[式中、Xは水素原子、ハロゲン原子または低級アルキル基を示し、RおよびRはそれぞれ独立して有機基を示し(但し、RとRが同時に同じ基を意味することはない。)、Rは低級アルキル基を示す。]で表される光学活性化合物または一般式(Ib’):
【化15】



(式中、各記号は前記と同義を示す。)で表される光学活性化合物を、酸性条件下で脱保護および加水分解することを特徴とする、一般式(IVa’):
【化16】



(式中、Xは前記と同義を示す。)で表される光学活性化合物または一般式(IVb’):
【化17】



(式中、Xは前記と同義を示す。)で表される光学活性化合物の製造方法。
【請求項10】
Xがフッ素原子であり、Rがフェニル基であり、かつRがメチル基である請求項4、5および7〜9のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項11】
一般式(II’):
【化18】



(式中、Xは水素原子、ハロゲン原子または低級アルキル基を示し、R’は低級アルキル基を示す。)で表される化合物。
【請求項12】
Xがフッ素原子であり、かつR’がメチル基である請求項11記載の化合物。
【請求項13】
が窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選ばれるヘテロ原子を1〜2個含み、置換基を有してもよい5〜8員の飽和複素環基または5〜6員の不飽和複素環基もしくはその縮合環基である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項14】
が一般式(VIII):
【化19】



(式中、Yはそれぞれ独立して水素原子、水酸基、オキソ、低級アルコキシ基または低級アルキル基を示し、mおよびnはそれぞれ独立して1〜3の整数を示す。)で表される複素環基である、請求項13記載の製造方法
【請求項15】
が置換基を有していてもよい低級アルキル基である、請求項14記載の製造方法。
【請求項16】
Yが水素原子であり、Rがエチル基であり、かつmが1である、請求項14または15記載の製造方法。

【公開番号】特開2006−28154(P2006−28154A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−73123(P2005−73123)
【出願日】平成17年3月15日(2005.3.15)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】