説明

光学活性環状アミノアルコールの製造法

【課題】ハイドロボレーション、続く酸化反応で生じるホウ酸トリアルキルエステルをメタノール処理することで、光学活性環状アミノアルコールを高収率、高光学純度で製造する。
【解決手段】(第1工程)光学活性ジアルキルボランと一般式(1)
【化1】


(式中RおよびRはアリール基を示し、同一であっても異なっていても良い。且つ、式中nは1〜3のいずれかを意味する)で表される含窒素環状オレフィンを反応させる工程
(第2工程)第1工程で得られた反応液を酸化剤と反応させる酸化工程
(第3工程)第2工程で得られた酸化液にアルコールを添加する分解工程
を含むことを特徴とする一般式(2)
【化2】


(式中RおよびRはアリール基を示し、同一であっても異なっていても良い。且つ、式中nは1〜3のいずれかを意味する、また*は不斉炭素))で表される光学活性環状アミノアルコールの製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学活性環状アミノアルコールの製造法に関する。光学活性環状アミノアルコールは医薬中間体、農薬中間体、液晶材料、香料として有用な化合物である。
【背景技術】
【0002】
炭素―炭素二重結合を水酸基に変換することを特徴とする光学活性含窒素環状アルコールの合成方法としてはハイドロボレーション反応を経由する方法が知られている。例えばBH・S(CH等から合成したジイソピノカンフェイルボランを用いた不斉ハイドロボレーション続く酸化による光学活性N−置換−3−ピロリジノールの合成が挙げられる(非特許文献1,2,3参照)。また光学活性N−置換−3−ピロリジノール誘導体合成法についても、これらの有機ホウ素化合物と炭素−炭素二重結合の反応後、酸化工程を経て合成した報告例は見られるが(特許文献1)、酸化反応後にアルコールを加えた例は知られていない。
【特許文献1】特開2005−120067号公報
【非特許文献1】ジャーナル・オブ・オーガニック・ケミストリー.,51,4296,(1986)、
【非特許文献2】ジャーナル・オブ・アメリカンケミカル・ソサイエティ.,108.2049(1986)、
【非特許文献3】ヘテロサイクルズ,28,1,283(1989)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記のいずれの場合も原料の含窒素環状オレフィンを塩基性条件下、過酸化水素で酸化を行い対応する光学活性環状アミノアルコールを得ているが、本発明者等は窒素上にジアリールメチル基の付いた含窒素環状オレフィンの場合、通常の酸化処理では酸化反応後の加水分解が十分進行せず光学活性ピロリジノール等の光学活性環状アミノアルコールが低収率でしか得られない場合があることを見出した。
【0004】
本発明の目的は、光学活性環状アミノアルコールを製造する上で光学純度の高い光学活性環状アミノアルコールを効率良く得ることが出来る工業的製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、含窒素環状オレフィンを原料に用いた光学活性環状アミノアルコールの製造方法について鋭意検討し、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は「次の3工程、
(第1工程)光学活性ジアルキルボランと一般式(1)
【0007】
【化1】

【0008】
(式中RおよびRはアリール基を示し、同一であっても異なっていても良い。且つ、式中nは1〜3の整数のいずれかを意味する)で表される含窒素環状オレフィンを反応させる工程、
(第2工程)前記第1工程で得られた反応液を酸化剤と反応させる酸化工程、
(第3工程)前記第2工程で得られた反応液にアルコールを添加して、ホウ酸トリエステルを分解する分解工程を含むことを特徴とする一般式(2)
【0009】
【化2】

【0010】
(式中RおよびRはアリール基を示し、同一であっても異なっていても良い。且つ、式中nは1〜3の整数のいずれかを意味する、また*は不斉炭素)で表される光学活性環状アミノアルコールの製造法」である。
【発明の効果】
【0011】
通常の酸化処理では低収率でしか得られない光学活性環状アミノアルコールについても高収率、高光学純度で得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明の製造法は上記した3つの工程を含むものである。
【0014】
上記光学活性ジアルキルボランの一般的な製造は次のように実施する。一例として光学活性α−ピネンを用いた例を挙げる。テトラヒドロフランに光学活性α−ピネンを添加した後、続いて水素化ホウ素ナトリウムを添加し、最後にトリフルオロボランや硫酸を滴下して光学活性ジアルキルボランを調製する。このような合成方法は、光学活性ジアルキルボランの一例として挙げた前記光学活性α−ピネンを用いたジイソピノカンフェイルボランの他、光学活性2−カレン等の光学活性な二環式モノテルペンを用いた光学活性ビス(2−イソカラニル)ボランなどの光学活性ジアルキルボランにも応用することができる。
【0015】
上記光学活性ジアルキルボランの合成法に従って実施すると、モノアルキルボランを経由してジアルキルボランが系中で発生する。この時、モノアルキルボランとジアルキルボランの間には平衡が存在するため反応溶液中はモノアルキルボランとジアルキルボランの混合物となっている。高い立体選択性を示すのはジアルキルボランであり、モノアルキルボランは立体選択性が低い。
【0016】
本発明において光学活性ジアルキルボランとして用いるに際し、上記方法によって調製されたジアルキルボラン、モノアルキルボラン、ボランの混合物は、混合物のままで用いることができる。
【0017】
光学活性ジアルキルボランの製造に用いる溶媒は、具体例として、テトラヒドロフラン、ジグライム、ジメトキシエタン、トリグライム、テトラヒドロピラン等の脂肪族エーテル、アニソール、エトキシベンゼン等の芳香族エーテル、ベンゼン、キシレン等の炭化水素、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素などを挙げることができる。好ましくは脂肪族エーテル、芳香族エーテルであり、さらに好ましくは脂肪族エーテルである。
【0018】
次に本発明の効果が特に顕著である点で好ましく用いられるジイソピノカンフェイルボランの具体的合成法について示す。
【0019】
一般にはα−ピネンと水素化ホウ素ナトリウムを含む混合液に活性化剤を添加する。ここで原料の仕込み順序は限定されるものでは無くα−ピネンを最後に添加しても良いが、好ましくは活性化剤を最後に添加する方法であり、混合液の性状はスラリーであっても良い。活性化剤を添加する際の添加温度は好ましく20℃から−30℃であり、さらに好ましくは−10℃から10℃である。活性化剤を添加してからの撹拌温度は好ましくは0℃から30℃であり、さらに好ましくは5℃から25℃である。撹拌時間は3時間から48時間が好ましく、さらに好ましくは5時間から24時間である。
本発明で用いるα−ピネンの旋光度は(+)および(−)いずれでもよく、またその光学純度は50%ee.以上であればよく、このましくは光学純度70%ee.以上であり、さらに好ましくは80%ee.以上である。またα−ピネンの添加量はピロリン誘導体に対して4モル倍以上が望ましい。
【0020】
本発明で用いる水素化ホウ素ナトリウムの形状は特に制限されるものではなく、微粉末状のものから粒状のものまで各種の粒径のものを用いることができる。水素化ホウ素ナトリウムの添加方法も限定されるものではなく、溶媒で希釈した後添加しても良く、また希釈せずにそのまま添加しても良い。また、水素化ホウ素ナトリウムの添加量はピロリン誘導体に対して1.5モル倍以上が望ましい。
【0021】
本発明で用いる活性化剤とは水素化ホウ素ナトリウムを活性化してジボランを発生させるものであれば様々なものを用いることができるが、ハロゲン化ホウ素、鉱酸、スルホン酸、アルキル酸から選ばれる少なくとも一つを含むことが好ましい。例としてハロゲン化ホウ素や鉱酸やハロゲン化アルミニウムを挙げることができるが、好ましくはハロゲン化ホウ素、鉱酸、ハロゲン化アルミニウムであり、さらに好ましくはハロゲン化ホウ素である。
【0022】
ハロゲン化ホウ素は、三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素、三ヨウ化ホウ素を表すが、三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素などが好ましい。
【0023】
これら活性化剤は、単独で用いても、また混合して用いてもよく、さらに、溶媒中で錯体として使用しても良い。例えば三フッ化ホウ素・ジメチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素テトラヒドロフラン錯体、三フッ化ヨウ素・1,4−ジオキサン錯体等が特に好ましく挙げられる。
【0024】
また活性化剤の添加量はピロリン誘導体に対して2.0モル倍から2.4モル倍が望ましく、なかでも2.0から2.2モル倍が望ましい。上限としては活性化剤が多すぎると反応率が低下する点から2.4モル倍以下が好ましい。
【0025】
次に添加する含窒素環状オレフィンに先ほどの混合液を加えるが、逆に混合液を含窒素環状オレフィン溶液に添加してもよい。
【0026】
また、含窒素環状オレフィンは下記(1)
【0027】
【化3】

【0028】
(式中RおよびRはアリール基を示し、同一であっても異なっていても良い。且つ、式中nは1〜3の整数のいずれかを意味する)で表される含窒素環状オレフィンである。
【0029】
上記一般式(1)におけるR、Rとしては、フェニル基、ナフチル基等の無置換もしくは多置換アリール基もしくはテトラヒドロピリジル基のような複素環が好ましく、特にフェニル基が好ましい。nは、上記のとおり1〜3の整数のいずれかを示すが、2であることが好ましい。
【0030】
含窒素環状オレフィンの具体例として、1−ジフェニルメチル−1,2−ジヒドロアゼ−ト、1−ジトルイルメチル−1,2−ジヒドロアゼ−ト、1−ジキシリルメチル−1,2−ジヒドロアゼ−ト、1−ジナフチルメチル−1,2−ジヒドロアゼ−ト、1−フェニルナフチルメチル−1,2−ジヒドロアゼート、1−ジフェニルメチル−2−ピロリン、1−ジトルイルメチル−2−ピロリン、1−ジキシリルメチル−2−ピロリン、1−ジナフチルメチル−2−ピロリン、1−フェニルナフチルメチル−2−ピロリン、1−ジフェニルメチル−3−ピロリン、1−ジトルイルメチル−3−ピロリン、1−ジキシリルメチル−3−ピロリン、1−ジナフチルメチル−3−ピロリン、1−フェニルナフチルメチル−3−ピロリン、1−ジフェニルメチル−1,2,3,6−テトラヒドロピリジン、1−ジトルイルメチル−1,2,3,6−テトラヒドロピリジン、1−ジキシリルメチル−1,2,3,6−テトラヒドロピリジン、1−ジナフチルメチル−1,2,3,6−テトラヒドロピリジン、1−ジナフチルメチル−1,2,3,6−テトラヒドロピリジン、1−フェニルナフチルメチル−1,2,3,6−テトラヒドロピリジン、1−ジフェニルメチル−1,2,3,4−テトラヒドロピリジン、1−ジトルイルメチル−1,2,3,4−テトラヒドロピリジン、1−ジキシリルメチル−1,2,3,4−テトラヒドロピリジン、1−ジナフチルメチル−1,2,3,4−テトラヒドロピリジン、1−フェニルナフチルメチル−1,2,3,4−テトラヒドロピリジン、等をあげることができ、好ましくは1−ジフェニルメチル−1,2−ジヒドロアゼ−ト、1−ジフェニルメチル−2−ピロリン、1−ジフェニルメチル−3−ピロリン、1−ジフェニルメチル−1,2,3,6−テトラヒドロピリジン、1−ジフェニルメチル−1,2,3,4−テトラヒドロピリジン、1−フェニルナフチルメチル−1,2−ジヒドロアゼ−ト、1−フェニルナフチルメチル−2−ピロリン、1−フェニルナフチルメチル−3−ピロリン、1−フェニルナフチルメチル−1,2,3,6−テトラヒドロピリジン、1−フェニルナフチルメチル−1,2,3,4−テトラヒドロピリジンである。
【0031】
本発明の第1工程では、上記光学活性ジアルキルボランと含窒素環状オレフィンを溶媒中で反応させるが、この第1工程に用いる溶媒は、具体例として、テトラヒドロフラン、ジグライム、ジメトキシエタン、トリグライム、テトラヒドロピラン等の脂肪族エーテル、アニソール、エトキシベンゼン等の芳香族エーテル、ベンゼン、キシレン等の炭化水素、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素などを挙げることができる。好ましくは脂肪族エーテル、芳香族エーテルであり、さらに好ましくは脂肪族エーテルである。
【0032】
なお、光学活性ジアルキルボランの合成に用いた溶媒を含む反応系をそのまま第一工程に使用しても良い。
【0033】
第1工程での含窒素環状オレフィンの添加温度は−10℃から20℃が好ましく、さらに好ましくは−5℃から10℃である。また含窒素環状オレフィンを添加した後の撹拌時間は好ましくは30分から3時間であり、さらに好ましくは1時間から2時間である。
【0034】
次に本発明第2工程について説明する。
【0035】
第2工程では、第1工程で得られた反応液を酸化剤と酸化反応させることにより、ホウ酸トリエステルを生成する(酸化工程)が、この酸化工程で用いる酸化剤の具体例として、過酸化水素、過安息香酸、酸素、オキソン等が挙げられ、好ましくは過酸化水素、過安息香酸、過酢酸であり、さらに好ましくは過酸化水素である。酸化剤を反応させる工程では含窒素環状オレフィンを添加して得られた反応液をアルカリ性にした後、酸化剤を添加するのが好ましく、具体的にはpH値が7より大きく、さらに好ましくは8以上である。用いる酸化剤の量は通常含窒素環状オレフィンに対して6当量以上であることが望ましい。
【0036】
第2工程において酸化反応を行う場合の温度は0℃から30℃が好ましく、さらにこのましくは0℃から20℃である。また酸化剤を添加した後の撹拌時間は0.5時間から3時間が好ましく、より好ましくは、1から2時間である。
【0037】
このように過酸化物を用いたトリアルキルボランの酸化反応によってホウ酸トリアルキルエステルが生じる。一般には系中に存在する水によってホウ酸トリアルキルエステルの加水分解が起こりホウ酸と光学活性環状アミノアルコールを与える。
【0038】
しかし本発明者らは上記(1)式で表される含窒素環状オレフィンの場合、対応する光学活性含窒素環状アミノアルコールが低収率でしか得られないという知見を得た。そのため、本発明においては、第3工程として上記第2工程である酸化反応で得られた反応液(酸化反応液)にアルコールを添加してホウ酸トリエステルを分解する工程を行うものである。これにより、極めて高い収率で光学活性環状アミノアルコールが得られるのである。このように第3工程を行うことにより光学活性環状アミノアルコールの収率が顕著に向上する理由は定かではないが、第3工程を行わないと、該当するホウ酸トリアルキルエステルと水が十分混和しないために2層系となるが、水酸基をもつ有機化合物であるアルコールを用いることにより、このホウ酸トリアルキルエステルと混和しやくなり十分に加溶媒分解が起こると考えた。
【0039】
そこで本発明では、第2工程で酸化処理した液に対してアルコールを加えてホウ酸トリエステルを分解することにより光学活性アミノアルコールの収率を向上させるものである。この加溶媒分解は、加熱条件下で行うといっそう効率良く進行し、収率の向上効果が顕著となる。
【0040】
さらに本処理を行うことで光学純度が向上するという効果も奏する。
具体的には以下のように行なうことができる。すなわち過酸化物を用いて酸化処理して前記第2工程を行った後、さらにこの酸化反応液にアルコールを添加して加熱する。用いるアルコールは脂肪族アルコールであっても、芳香族アルコールであってもよく、その具体例として、メタノール、エタノール、イソプロパノール等の脂肪族アルコール、フェノール、ベンジルアルコール等の芳香族アルコールを挙げることができ、好ましくはメタノール、エタノール、イソプロパノールである。
【0041】
さらに酸化剤を反応させた後に用いるアルコールの使用量は通常含窒素環状オレフィンに対して3モル倍以上が望ましく、さらに4モル倍以上が好ましい。上限としては 生産性の点から5モル倍以下であることが好ましい。
【0042】
またアルコール添加時の温度は特に制限されるものではないが、ホウ酸トリエステルを加水分解するという点で好ましくは20℃以上であり、より好ましくは40℃以上でありさらに好ましくは50℃以上である。上限としてはアルコール添加に伴う反応の急激な昇温を抑制する点から60℃以下であることが望ましい。
【0043】
得られる含窒素光学活性アミノアルコールは一般式(2)
【0044】
【化4】

【0045】
(式中RおよびRはアリール基を示し、同一であっても異なっていても良い。且つ、式中nは1〜3のいずれかを意味する、また*は不斉炭素)で表され、具体例として1−ジフェニルメチル−2−アゼチジノール、1−ジトルイルメチル−2−アゼチジノール、1−ジキシリルメチル−2−アゼチジノール、1−ジナフチルメチル−2−アゼチジノール、1−ジフェニルメチル−3−アゼチジノール、1−ジトルイルメチル−3−アゼチジノール、1−ジキシリルメチル−3−アゼチジノール、1−ジナフチルメチル−3−アゼチジノール、1−ジフェニルメチル−2−ピロリジノール、1−ジトルイルメチル−2−ピロリジノール、1−ジキシリルメチル−2−ピロリジノール、1−ジナフチルメチル−2−ピロリジノール、1−ジフェニルメチル−3−ピロリジノール、1−ジトルイルメチル−3−ピロリジノール、1−ジキシリルメチル−3−ピロリジノール、1−ジナフチルメチル−3−ピロリジノール、1−ジフェニルメチル−2−ピペリジノール、1−ジトルイルメチル−2−ピペリジノール、1−ジキシリルメチル−2−ピペリジノール、1−ジナフチルメチル−2−ピペリジノール、1−ジフェニルメチル−3−ピペリジノール、1−ジトルイルメチル−3−ピペリジノール、1−ジキシリルメチル−3−ピペリジノール、1−ジナフチルメチル−3−ピペリジノール、1−ジフェニルメチル−4−ピペリジノール、1−ジトルイルメチル−4−ピペリジノール、1−ジキシリルメチル−4−ピペリジノール、1−ジナフチルメチル−4−ピペリジノール、1−フェニルナフチルメチル−アゼチジノール、1−フェニルナフチルメチル−3−アゼチジノール、1−フェニルナフチルメチル−2−ピロリジノール、1−フェニルナフチルメチル−3−ピロリジノール、1−フェニルナフチルメチル−2−ピペリジノール、1−フェニルナフチルメチル−3−ピペリジノール、1−フェニルナフチルメチル−4−ピペリジノール等を挙げることができ、好ましくは1−ジフェニルメチル−2−アゼチジノール、1−ジフェニルメチル−3−アゼチジノール、1−ジフェニルメチル−2−ピロリジノール、1−ジフェニルメチル−3−ピロリジノール、1−ジフェニルメチル−2−ピペリジノール、1−ジフェニルメチル−3−ピペリジノール、1−ジフェニルメチル−4−ピペリジノールである。
【実施例】
【0046】
以下に、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0047】
ここでは1−ジフェニル−3−メチルピロリンによる光学活性1−ジフェニルメチル−3(S)−ピロリジノールの合成例を示す。
【0048】
なお、生成した1−ジフェニルメチル−3(S)−ピロリジノールの反応収率は、以下に記載した分析条件による高速液体クロマトグラフィーを用いて内標法により算出した。
カラム:CAPCELL PAK C18(SG120) 5μm 150mm*4.6mmφ(資生堂)
移動相:A 5.0mMドデシル硫酸ナトリウム水溶液(pH2.20、リン酸にて調整)/ B :アセトニトリル
組成 :A/B = 65/35(v/v)(20分)
A/B = 65/35(v/v)→ 50/50(v/v) (10分)
A/B = 50/50(v/v) (10分)
A/B = 50/50(v/v)→A/B = 65/35 (v/v) (5分)
A/B = 65/35 (v/v) (10分)
流量 :1.0ml/min
温度 :30℃
検出器:UV(210nm)
保持時間:1−ジフェニルメチル−3−ピロリジノール 22.2分
1−ジフェニルメチル−3−ピロリン 29.0分
【0049】
なお、生成した1−ジフェニルメチル−3(S)−ピロリジノールの光学純度は、以下に記載した分析条件による高速液体クロマトグラフィーを用いてS体とR体の比より算出した。
カラム: CAPCELL PAK C18(SG120) 5μm 250mm*4.6mmφ(資生堂)
移動相: 0.03%アンモニア水(pH4.5;酢酸で調整)/メタノール=41/59(v/v)
流量 :1.0ml/min
温度 :40℃
検出器:UV(234nm)
【0050】
(参考例)
なお本発明で使用した1−ジフェニルメチル−3−ピロリンは合成によって取得しその方法は以下の通りである。
【0051】
cis−1,4−ジクロロブテンの合成
滴下漏斗と温度計のついた10L4口フラスコに、トルエン2670.0gとピリジン320.0g(=4.04モル、0.40モル倍)を仕込んだ。そこに塩化チオニル2526.0g(=21.11モル、2.08モル倍)を系中の温度が5〜12℃となるように添加した。続いてcis−1,4−ブテンジオール(890g、10.11モル)を系中の温度が5〜12℃となるように滴下を行った。滴下終了後5℃で2時間撹拌した後、50℃まで昇温し6時間撹拌した。反応液を濃縮し、得られた液は2層に分液した。この液の上層を分離した。上層のトルエン層にはcis−1,4−ジクロロブテンが1122g含有されていた(収率88.7% 8.97モル)。
【0052】
1−ジフェニルメチル−3−ピロリンの合成
滴下漏斗と温度計のついた10Lフラスコに、トルエン790.6gとベンズヒドリルアミン(2622.0g、14.32モル)と水419.02を混合し、cis−1,4−ジクロロブテン(561.8g、4.49モル)のトルエン溶液(1090.2g)を40℃で1.5hかけて滴下した。続いて48%のNaOH水溶液742g(=8.90モル、1.98モル倍)を添加し60℃で10時間撹拌した。続いてトルエン2558.8g、水1610.7gを混合し、35%塩酸を964.9g仕込んだ。反応液には結晶が析出した。遠心分離によって母液と結晶を分離した。母液のトルエン層と水層のうち水層を分離した。トルエン層を濃縮したところ濃縮液には1−ジフェニルメチル−3−ピロリンが829.3gが含有されていた(収率78.4%、3.52モル)。
【0053】
実施例1
滴下漏斗と温度計の付いた200ml三つ口フラスコに、テトラヒドロフラン76.4gを仕込み、α−ピネン(光学純度 91%ee) 23.0g(=0.17モル、4.01モル倍)続いて水素化ホウ素ナトリウム2.39g(=0.06モル、1.50モル倍)を添加し撹拌した。内温4〜6℃でトリフルオロボラン・ジエチルエーテル錯体12.1g(=0.08モル、2.02モル倍)を20分間かけて滴下し、室温に戻し25℃まで昇温しながら17時間撹拌した。続いて0〜2℃とし1−ジフェニルメチル−3−ピロリン(10.06g、0.04モル)を添加し0〜2℃で1時間撹拌した。反応1時間における1−ジフェニルメチル−3−ピロリンの転化率は99.4%であった。 この反応液に48%水酸化ナトリウム水溶液13.4g(=0.16モル、3.82モル倍)を添加した。続いて30%過酸化水素水31.78g(=0.28モル、6.67モル倍)を反応液に滴下するがこの時系内が15℃以上に昇温しないように1時間かけて滴下した。続けてメタノール4.09g(=0.13モル、3.04モル倍)を加えた後50℃まで昇温し1時間撹拌した。このとき1−ジフェニルメチル−3(S)−ピロリジノールの収率は91.1%(9.69g、0.04モル)光学純度は76.0%eeであった。
【0054】
実施例2
滴下漏斗と温度計の付いた200ml三つ口フラスコに、テトラヒドロフラン75.7gを仕込み、α−ピネン(光学純度91%ee) 27.3g(=0.20モル、4.82モル倍)続いて水素化ホウ素ナトリウム2.39g(=0.06モル、1.50モル倍)を添加し撹拌した。内温4〜6℃でトリフルオロボラン・ジエチルエーテル錯体12.0g(=0.08モル、2.00モル倍)を20分間かけて滴下し、室温に戻し25℃まで昇温しながら17時間撹拌した。続いて0〜2℃とし1−ジフェニルメチル−3−ピロリン(10.02g、0.04モル)を添加し0〜2℃で1時間撹拌した。反応1時間における1−ジフェニルメチル−3−ピロリンの転化率は99.1%であった。 この反応液に48%水酸化ナトリウム水溶液10.85g(=0.13モル、3.10モル倍)を添加した。続いて30%過酸化水素水30.92g(=0.27モル、6.42モル倍)を滴下するが、
この時系内が15℃以上に昇温しないように1時間かけて滴下した。続けてメタノール4.16g(=0.13モル、3.10モル倍)を加えた後50℃まで昇温し1時間撹拌した。このとき1−ジフェニルメチル−3(S)−ピロリジノールの収率は90%以上、光学純度は84.3%eeであった。
【0055】
実施例3
滴下漏斗と温度計の付いた200ml三つ口フラスコに、テトラヒドロフラン52.71gを仕込み、α−ピネン(光学純度 91%ee) 34.67g(=0.25モル、6.06モル倍)続いて水素化ホウ素ナトリウム2.39g(=0.063モル、1.50モル倍)を添加し撹拌した。内温4〜6℃でトリフルオロボラン・ジエチルエーテル錯体12.06g(=0.09モル、2.05モル倍)を20分間かけて滴下し、室温に戻し25℃まで昇温しながら20時間撹拌した。続いて−12℃とし1−ジフェニルメチル−3−ピロリン(10.03g、0.04モル)を5分で添加し−12℃で1時間撹拌し。反応1時間における1−ジフェニルメチル−3−ピロリンの転化率は99.9%であった。 この反応液に48%水酸化ナトリウム水溶液10.68g(=0.13モル、3.10モル倍)を添加した。続いて30%過酸化水素水31.14g(=0.28モル、6.67モル倍)を滴下するが、この時系内が15℃以上に昇温しないように1時間かけて滴下した。続けてメタノール4.61g(=0.14モル、3.33モル倍)を加えた後50℃まで昇温し2.5時間撹拌した。このとき1−ジフェニルメチル−3(S)−ピロリジノールの収率は83.4%(8.88g、0.04モル)光学純度は84.5%eeであった。
【0056】
実施例4
滴下漏斗と温度計の付いた200ml三つ口フラスコに、テトラヒドロフラン49.3gを仕込み、α−ピネン(光学純度 91%ee) 27.5g(=0.20モル、4.82モル倍)続いて水素化ホウ素ナトリウム2.39g(=0.063モル、1.50モル倍)を添加し撹拌した。内温4℃でトリフルオロボラン・ジエチルエーテル錯体11.95g(=0.084モル、2.00モル倍)を20分間かけて滴下し、室温に戻し25℃まで昇温しながら18時間撹拌した。続いて−12〜−10℃とし1−ジフェニルメチル−3−ピロリン(10.02g、0.042モル)を5分で添加し−12℃で1時間撹拌した。反応1時間における1−ジフェニルメチル−3−ピロリンの転化率は99.4%であった。 この反応液に48%水酸化ナトリウム水溶液11.98g(=0.143モル、3.42モル倍)を添加した。続いて30%過酸化水素水30.97g(=0.273モル、6.51モル倍)を反応液に滴下するがこの時系内が15℃以上に昇温しないように1時間かけて滴下した。続けてメタノール4.09g(=0.127モル、3.04モル倍)を加えた後50℃まで昇温し1時間撹拌した。このとき1−ジフェニルメチル−3(S)−ピロリジノールの収率は86.8%(9.24g、0.036モル)光学純度は86.9%eeであった。
【0057】
比較例1
滴下漏斗と温度計の付いた200ml三つ口フラスコに、テトラヒドロフラン76.4gを仕込み、α−ピネン(光学純度 91%ee) 23.0g(=0.17モル、4.01モル倍)続いて水素化ホウ素ナトリウム2.39g(=0.06モル、1.50モル倍)を添加し撹拌した。内温4℃でトリフルオロボラン・ジエチルエーテル錯体12.1g(=0.08モル、2.02モル倍)を20分間かけて滴下し、室温に戻し25℃まで昇温しながら18時間撹拌した。続いて−12〜−10℃とし1−ジフェニルメチル−3−ピロリン(10.06g、0.04モル)を5分で添加し0〜2℃で1時間撹拌した。反応1時間における1−ジフェニルメチル−3−ピロリンの転化率は99.4%であった。 この反応液に48%水酸化ナトリウム水溶液13.4g(=0.16モル、3.82モル倍)を添加した。続いて30%過酸化水素水31.78g(=0.28モル、6.67モル倍)を−12〜−10℃にした反応液に滴下するがこの時系内が15℃以上に昇温しないように1時間かけて滴下した。このとき1−ジフェニルメチル−3(S)−ピロリジノールの収率は60.4%(6.40g、0.03モル)光学純度は70.3%eeであった。
【0058】
比較例2
滴下漏斗と温度計の付いた200ml三つ口フラスコに、テトラヒドロフラン75.7gを仕込み、α−ピネン(光学純度91%ee) 27.3g(=0.20モル、4.82モル倍)続いて水素化ホウ素ナトリウム2.39g(=0.06モル、1.50モル倍)を添加し撹拌した。内温4℃でトリフルオロボラン・ジエチルエーテル錯体12.0g(=0.08モル、2.00モル倍)を20分間かけて滴下し、室温に戻し25℃まで昇温しながら18時間撹拌した。続いて−12℃とし1−ジフェニルメチル−3−ピロリン(10.02g、0.04モル)を5分で添加し−12℃で1時間撹拌した。反応1時間における1−ジフェニルメチル−3−ピロリンの転化率は99.1%であった。 この反応液に48%水酸化ナトリウム水溶液10.85g(=0.13モル、3.10モル倍)を5分間かけて添加するがこの時−8℃まで液温は昇温した。続いて30%過酸化水素水30.92g(=0.27モル、6.42モル倍)を−12℃にした反応液に滴下するがこの時系内が15℃以上に昇温しないように1時間かけて滴下した。このとき1−ジフェニルメチル−3(S)−ピロリジノールの収率は56.0%(5.93g、0.04モル)光学純度は78.9%eeであった。
【0059】
比較例3
滴下漏斗と温度計の付いた200ml三つ口フラスコに、テトラヒドロフラン52.71gを仕込み、α−ピネン(光学純度 91%ee) 34.67g(=0.25モル、6.06モル倍)続いて水素化ホウ素ナトリウム2.39g(=0.063モル、1.50モル倍)を添加し撹拌した。内温4℃でトリフルオロボラン・ジエチルエーテル錯体12.06g(=0.09モル、2.05モル倍)を20分間かけて滴下し、室温に戻し25℃まで昇温しながら18時間撹拌した。続いて−12℃とし1−ジフェニルメチル−3−ピロリン(10.03g、0.04モル)を5分で添加し−12℃で1時間撹拌した。反応1時間における1−ジフェニルメチル−3−ピロリンの転化率は99.9%であった。 この反応液に48%水酸化ナトリウム水溶液10.68g(=0.13モル、3.10モル倍)を添加した。続いて30%過酸化水素水31.14g(=0.28モル、6.67モル倍)を反応液に滴下するがこの時系内が15℃以上に昇温しないように1時間かけて滴下した。このとき1−ジフェニルメチル−3(S)−ピロリジノールの収率は51.3%(8.88g、0.04モル)光学純度は82.3%eeであった。
【0060】
比較例4
滴下漏斗と温度計の付いた200ml三つ口フラスコに、テトラヒドロフラン49.3gを仕込み、α−ピネン(光学純度 91%ee) 27.5g(=0.20モル、4.82モル倍)続いて水素化ホウ素ナトリウム2.39g(=0.06モル、1.50モル倍)を添加し撹拌した。内温4℃でトリフルオロボラン・ジエチルエーテル錯体11.95g(=0.08モル、2.00モル倍)を20分間かけて滴下し、室温に戻し25℃まで昇温しながら18時間撹拌した。続いて−12〜−10℃とし1−ジフェニルメチル−3−ピロリン(10.02g、0.04モル)を−12〜−10℃で1時間撹拌した。反応1時間における1−ジフェニルメチル−3−ピロリンの転化率は99.4%であった。
【0061】
この反応液に48%水酸化ナトリウム水溶液11.98g(=0.14モル、3.42モル倍)を添加した。続いて30%過酸化水素水30.97g(=0.273モル、6.51モル倍)を反応液に滴下するがこの時系内が15℃以上に昇温しないように1時間かけて滴下した。このとき1−ジフェニルメチル−3(S)−ピロリジノールの収率は49.2%( 5.21g、0.02モル)光学純度は79.8%eeであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の3工程、
(第1工程)光学活性ジアルキルボランと一般式(1)
【化1】

(式中RおよびRはアリール基を示し、同一であっても異なっていても良い。且つ、式中nは1〜3の整数のいずれかを意味する)で表される含窒素環状オレフィンを溶媒中で反応させる工程、
(第2工程)第1工程で得られた反応液を酸化剤と酸化反応させることにより
ホウ酸トリエステルを生成する酸化工程、
(第3工程)第2工程で得られた酸化反応液にアルコールを添加して、ホウ酸トリエステルを分解する分解工程を含むことを特徴とする一般式(2)
【化2】

(式中RおよびRはアリール基を示し、同一であっても異なっていても良い。且つ、式中nは1〜3の整数のいずれかを意味する、また*は不斉炭素)で表される光学活性環状アミノアルコールの製造法。
【請求項2】
第1工程において用いられる光学活性ジアルキルボランが、ジイソピノカンフェイルボランであることを特徴とする請求項1記載の光学活性環状アミノアルコールの製造法。
【請求項3】
第1工程において用いられる光学活性ジアルキルボランが、α−ピネン、水素化ホウ素ナトリウムおよび活性化剤から調製されることを特徴とする請求項1または2記載の光学活性環状アミノアルコールの製造法。
【請求項4】
第3工程において用いられるアルコールが炭素数1〜4の脂肪族アルコールであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の光学活性環状アミノアルコールの製造法。
【請求項5】
第3工程においてアルコールの使用量が、第1工程で使用した含窒素環状オレフィンに対して3モル倍以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の光学活性環状アミノアルコールの製造法。

【公開番号】特開2008−37810(P2008−37810A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−215182(P2006−215182)
【出願日】平成18年8月8日(2006.8.8)
【出願人】(000187046)東レ・ファインケミカル株式会社 (153)
【Fターム(参考)】