光学物品
【課題】プライマー層とハードコート層との間の密着性が良好であり、しかも、干渉縞の発生を抑制できる光学物品を提供する。
【解決手段】光学基材1の上に形成されたプライマー層2と、プライマー層2の上にバインダー層3を挟んで形成されたハードコート層4とを有する光学物品10である。この光学物品10では、プライマー層2の層厚は少なくとも700nmであり、バインダー層3の屈折率はプライマー層2の屈折率およびハードコート層4の屈折率よりも低く、さらに、その層厚は少なくとも35nmである。
【解決手段】光学基材1の上に形成されたプライマー層2と、プライマー層2の上にバインダー層3を挟んで形成されたハードコート層4とを有する光学物品10である。この光学物品10では、プライマー層2の層厚は少なくとも700nmであり、バインダー層3の屈折率はプライマー層2の屈折率およびハードコート層4の屈折率よりも低く、さらに、その層厚は少なくとも35nmである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡レンズなどのレンズ、その他の光学材料あるいは製品などに用いられる光学物品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、高屈折率のプライマー層でありながら、プラスチックレンズ基材とハードコートとの密着性に優れ、レンズの耐衝撃性向上も確実に実現するプライマー層を成膜することができる、プライマー組成物とその調製方法を提供することが記載されている。そのため、特許文献1では、(A)ポリウレタン樹脂粒子、(B)ウレタン形成用モノマーおよび/またはオリゴマー、(C)酸化物微粒子を含有するプライマー形成用組成物を用い、プラスチック基材の少なくとも一方の表面に、プライマー層を形成し、次いでプライマー層の上にハードコート層を形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−67845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
プラスチック基材などの光学基材とプライマー層との間および/またはプライマー層とハードコート層との間の屈折率差が大きくなると、干渉縞が発生しやすい。近年、屈折率が1.7を越える高屈折率プラスチック基材の登場に伴い、干渉縞を抑制するために、プライマー層およびハードコート層の高屈折率化も行われている。
【0005】
プライマー層やハードコート層を高屈折率化させる方法としては、酸化物微粒子の割合を高めることが考えられる。しかしながら、酸化物微粒子の割合を高めると、相対的に樹脂成分が少なくなるため、プライマー層とハードコート層との間の密着性が低下しやすい。このため、特許文献1のようにプライマー層の組成、あるいはプライマー層とハードコート層とを組み合わせた組成が限定されてしまい、レンズの層(膜)設計における選択の範囲が狭まる。したがって、耐衝撃性、密着性、耐久性、製造の容易さなどの多くの条件を良好に満たす組成の発見が難しく、結果として高屈折率レンズを早期に市場に投入することが難しくなっている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、光学基材の上に形成されたプライマー層と、プライマー層の上にバインダー層を挟んで形成されたハードコート層とを有する光学物品である。この光学物品では、プライマー層の層厚は少なくとも700nmであり、バインダー層の屈折率はプライマー層の屈折率およびハードコート層の屈折率よりも低く、バインダー層の層厚は少なくとも35nmである。
【0007】
本願発明者らは、プライマー層とハードコート層との間に、屈折率がプライマー層の屈折率およびハードコート層の屈折率よりも低い層をバインダー層として設け、その厚みが少なくとも35nmであれば、そのバインダー層を介在させることにより、プライマー層とハードコート層との間の密着性を高めることができることを見出した。屈折率の低い層は、相対的に樹脂成分が多くなるため、プライマー層とハードコート層との間の密着性を高めることができ、プライマー層とハードコート層とを成膜するための組成の選択範囲が広がる。
【0008】
一方、プライマー層とハードコート層との間にバインダー層を介在させると、ハードコート層の上に反射防止層を形成した際、反射スペクトルのリップルが大きくなり、干渉縞が多くなることも、本願発明者らは同時に見出した。これに対しては、本願発明者らは、プライマー層の層厚を少なくとも700nmとすることにより、干渉縞の発生を抑制できることを見出した。
【0009】
この光学物品によれば、バインダー層を介在させてプライマー層とハードコート層との間の密着性を高めることができ、さらに、干渉縞の発生も抑制できる。したがって、屈折率が1.7前後あるいはそれ以上の光学基材を備えた光学物品において、プライマー層およびハードコート層を成膜する組成の選択範囲が広がり、高屈折率の光学基材を備えた光学物品であって、様々な用途に適した光学物品を市場に投入することが容易となる。
【0010】
この光学物品において、干渉縞の発生をさらに抑制するには、プライマー層の層厚は、少なくとも800nmであることが好ましく、少なくとも900nmであることがさらに好ましい。また、プライマー層の層厚は、少なくとも1000nmであることがいっそう好ましい。
【0011】
この光学物品において、バインダー層の層厚は、少なくとも50nmであることがさらに好ましい。プライマー層とハードコート層との間の密着性をより高めることができる。
【0012】
この光学物品において、光学基材の屈折率が少なくとも1.7であることが望ましい。このような高屈折率の光学基材であっても、比較的組成を選ばずにプライマー層とハードコート層との間の密着性を向上でき、さらに、干渉縞の発生を抑制することができる。
【0013】
この光学物品は、ハードコート層の上に形成された無機系の多層構造の反射防止層を有することが好ましい。ハードコート層の上に無機系の多層構造の反射防止層を形成しても、干渉縞の発生を抑制することができる。
【0014】
この光学物品の一例は、レンズである。すなわち、光学基材として、レンズ基材を用いることも可能である。この光学物品は、眼鏡レンズをはじめ、カメラレンズ、望遠鏡用レンズ、顕微鏡用レンズ、ステッパー用集光レンズなど各種の薄型光学レンズなどに、幅広く使用することができる。
【0015】
本発明の他の態様は、上記光学物品を適用した眼鏡レンズを含む、眼鏡である。上記光学物品には、高屈折率の光学基材を好適に用いることができる。すなわち、眼鏡レンズとして高屈折率のレンズ基材を用いることができるため、眼鏡のさらなる薄型化を図れる。
【0016】
本発明のさらに他の態様は、光学基材にプライマー層を形成する第1の組成物を塗布および仮焼成し、さらにハードコート層を形成する第2の組成物を塗布および焼成して光学基材の上に積層体を形成することを有する光学物品の製造方法である。積層体を形成することは、仮焼成の温度を制御することにより光学基材上にプライマー層、プライマー層の屈折率よりも低い屈折率のバインダー層、およびハードコート層が積層された積層体を形成することを含む。
【0017】
この製造方法によれば、プライマー層とハードコート層との間にバインダー層を介在させることにより密着性が良好であって、しかも、干渉縞の発生が少ない、光学物品を製造できる。
【0018】
本発明のさらに異なる他の態様は、光学基材の上にプライマー層、プライマー層の屈折率よりも屈折率の低いバインダー層、およびハードコート層が積層されたバインダー層含有タイプの積層体を有する光学物品の設計方法である。この設計方法は以下の工程を含む。
・バインダー層含有タイプの積層体のプライマー層の第2の厚みを、光学基材の上にプライマー層およびハードコート層が積層されたバインダー層非含有タイプの積層体のプライマー層の第1の厚みの少なくとも2倍にすること。
【0019】
この設計方法によれば、プライマー層とハードコート層との間にバインダー層を介在させることにより密着性が良好であって、しかも、干渉縞の発生が少ない、光学物品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1の光学物品の層構造を模式的に示す図。
【図2】第2の光学物品の層構造を模式的に示す図。
【図3】比較例1および2の光学物品が備える反射防止層の層構造を説明するための図。
【図4】(a)は比較例1の光学物品の干渉縞の様子を示す図。(b)は比較例2の光学物品の干渉縞の様子を示す図。
【図5】比較例1および比較例2の光学物品の反射スペクトルのシミュレーション結果を示す図。
【図6】比較例1および比較例2の光学物品におけるプライマー層の層厚と色相角との関係をシミュレーションした結果を示す図。
【図7】仮焼成の温度とバインダー層の層厚との関係、および、密着性・干渉縞の評価結果を纏めて示す図。
【図8】実施例1の光学物品におけるプライマー層の層厚と色相角との関係をシミュレーションした結果を示す図。
【図9】実施例2の光学物品が備える反射防止層の層構造を説明するための図。
【図10】実施例3の光学物品が備える反射防止層の層構造を説明するための図。
【図11】実施例1ないし3の光学物品におけるプライマー層の層厚と色相角との関係をシミュレーションした結果を示す図。
【図12】実施例1ないし3の光学物品におけるバインダー層の層厚とプライマー層の最小厚みとの関係を示す図。
【図13】色相角度の変位が±1.5度、±2.0度、±2.5度の範囲内となるように作成した光学物品のバインダー層の層厚とプライマー層の最小厚みとの関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下では、本発明を適用可能な光学物品の一例である眼鏡用のレンズを例にさらに詳しく説明する。
【0022】
図1に、バインダー層非含有タイプの積層体11を有する眼鏡レンズ10aの層構造を模式的に示している。図2に、バインダー層含有タイプの積層体12を有する眼鏡レンズ10の層構造を模式的に示している。図3は、これらの眼鏡レンズ10aおよび10の反射防止層の層構造を示している。
【0023】
1. 比較例1および2
図1に示すバインダー層非含有タイプの積層体11を有する眼鏡レンズ10aは、レンズ基材(光学基材)1と、レンズ基材1の上に形成されたプライマー層2と、プライマー層2の上に形成されたハードコート層4とを有し、プライマー層2と、その上に直に形成されたハードコート層4とによりバインダー層非含有タイプの積層体11を構成している。この眼鏡レンズ10aは、さらに、ハードコート層4の上に形成された透光性の反射防止層5と、反射防止層5の上に形成された防汚層6とを含んでいる。光学基材1としては、例えば、プラスチック製の基材(例えば、プラスチックレンズ基材)を用いることができる。防汚層6は省略してもよい。
【0024】
図2に示すバインダー層含有タイプの積層体12を有する眼鏡レンズ10は、レンズ基材(光学基材)1と、レンズ基材1の上に形成されたプライマー層2と、プライマー層2の上にバインダー層3を挟んで形成されたハードコート層4とを有し、プライマー層2と、バインダー層3と、バインダー層3を挟んで形成されたハードコート層4とによりバインダー層含有タイプの積層体12を構成している。この眼鏡レンズ10は、さらに、ハードコート層4の上に形成された透光性の反射防止層5と、反射防止層5の上に形成された防汚層6とを含んでいる。上記と同様に、光学基材1としては、例えば、プラスチック製の基材(例えば、プラスチックレンズ基材)を用いることができる。防汚層6は省略してもよい。
【0025】
1a. レンズ基材
レンズ基材1は、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル樹脂をはじめとしてスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アリル樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂(たとえば、PPGインダストリーズオハイオ社のCR−39(登録商標))などのアリルカーボネート樹脂、ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、イソシアネート化合物とジエチレングリコールなどのヒドロキシ化合物との反応で得られたウレタン樹脂、イソシアネート化合物とポリチオール化合物とを反応させたチオウレタン樹脂、分子内に1つ以上のジスルフィド結合を有する(チオ)エポキシ化合物を含有する重合性組成物などを硬化して得られる透明樹脂などを用いることができる。レンズ基材1の屈折率は、例えば、1.60〜1.75程度である。なお、本発明の光学物品においては、光学基材の屈折率は、上記の範囲でも、上記の範囲から上下に離れていても許容される。
【0026】
1b. プライマー層
プライマー層2は、高屈折率のレンズ基材の欠点である耐衝撃性を改善するために有効である。プライマー層2を形成するための材料としては、例えば、アクリル系樹脂、メラミン系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、アミノ系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、スチレン系樹脂、シリコン系樹脂およびこれらの混合物もしくは共重合体などが挙げられる。密着性を持たせるためのプライマー層2としては、ウレタン系樹脂およびポリエステル系樹脂が好適である。プライマー層2は、例えば、これらのような樹脂と金属酸化物微粒子とシラン化合物とを含むコーティング組成物を用いて、これを塗布して硬化させることにより形成することができる。
【0027】
プライマー層形成用のコーティング組成物に含まれる金属酸化物微粒子の具体例は、SiO2、Al2O3、SnO2、Sb2O5、Ta2O5、CeO2、La2O3、Fe2O3、ZnO、WO3、ZrO2、In2O3、TiO2などの金属酸化物からなる微粒子、または2種以上の金属の金属酸化物からなる複合微粒子である。これらの微粒子を、分散媒、例えば水、アルコール系もしくはその他の有機溶媒にコロイド状に分散させたものをコーティング組成物に含めることもできる。
【0028】
プライマー層2は、厚くすると耐衝撃性は向上するが密着性が低下する傾向がある。耐衝撃性より、プライマー層2の層厚の下限値は300nmであり、さらに好ましくは400nmである。一方、プライマー層2の層厚の上限値は密着性、成膜性などより2000nm、さらに好ましくは1500nm程度である。
【0029】
1c. ハードコート層
ハードコート層4は、主として耐擦傷性の向上を目的とするものである。ハードコート層4を形成するための材料としては、例えば、アクリル系樹脂、メラミン系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、アミノ系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、スチレン系樹脂、シリコーン系樹脂およびこれらの混合物もしくは共重合体などが挙げられる。ハードコート層4の一例は、シリコーン系樹脂である。ハードコート層4は、例えば、これらのような樹脂と金属酸化物微粒子とシラン化合物とを含むコーティング組成物を用いて、これを塗布して硬化させることにより形成することができる。このコーティング組成物には、コロイダルシリカ、および多官能性エポキシ化合物などの成分を含める(混合する)ことができる。
【0030】
ハードコート層形成用のコーティング組成物に含まれる金属酸化物微粒子の具体例は、SiO2、Al2O3、SnO2、Sb2O5、Ta2O5、CeO2、La2O3、Fe2O3、ZnO、WO3、ZrO2、In2O3、TiO2などの金属酸化物からなる微粒子、または2種以上の金属の金属酸化物からなる複合微粒子である。これらの微粒子を、分散媒、例えば水、アルコール系もしくはその他の有機溶媒にコロイド状に分散させたものをコーティング組成物に含めることもできる。
【0031】
1d. バインダー層
バインダー層3は、プライマー層2とハードコート層4との密着性を高めることができる組成物、例えば、プライマー層2やハードコート層4よりも樹脂成分の比率が高い組成物などをプライマー層2の上に塗布することにより形成してもよく、プライマー層形成用のコーティング組成物を塗布した後の焼成(仮焼成)の際の温度を調整することによっても、プライマー層2の上に形成することができる。
【0032】
バインダー層3は、典型的には、プライマー層形成用コーティング組成物中の樹脂成分を主体とした成分から形成される。したがって、仮焼成の際、プライマー層の表面にプライマー層形成用コーティング組成物の樹脂成分を析出させ、それによりプライマー層2の上に、樹脂濃度が高いバインダー層3を形成することができる。このように形成されたバインダー層3は、樹脂濃度が高い層であるため、プライマー層2およびハードコート層4よりも低屈折率の層となる。バインダー層3は、樹脂濃度が高い層(樹脂成分が相対的に多い層)であるため、プライマー層2とハードコート層4との間の密着性を高めることができる。
【0033】
バインダー層3は、上記仮焼成温度を調整することにより、その有無だけでなく、その層厚も調整することができる。プライマー層形成用コーティング組成物に含まれる樹脂成分などによらず、一般に、仮焼成温度が高いほど、バインダー層3が厚くなる傾向がある。
【0034】
1e. 反射防止層
ハードコート層4の上に形成される反射防止層5の典型的なものは、無機系の反射防止層であり、有機系の反射防止層であってもよい。無機系の反射防止層は、典型的には多層構造を有しており、例えば、屈折率が1.3〜1.6である低屈折率層と、屈折率が1.8〜2.6である高屈折率層とを交互に積層して形成することができる。このような反射防止層の層数は、例えば、5層あるいは7層程度とすることができる。このような反射防止層を構成する各層に使用される無機物の例としては、SiO2、SiO、ZrO2、TiO2、TiO、Ti2O3、Ti2O5、Al2O3、TaO2、Ta2O5、NdO2、NbO、Nb2O3、NbO2、Nb2O5、CeO2、MgO、SnO2、MgF2、WO3、HfO2、Y2O3などが挙げられる。これらの無機物は、単独で用いるか、もしくは2種以上を混合して用いる。反射防止層5を形成する方法としては、乾式法、例えば、真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法などが挙げられる。
【0035】
有機系の反射防止層の製造方法の1つは湿式法である。有機系の反射防止層は、例えば、内部空洞を有するシリカ系微粒子(中空シリカ系微粒子)と、有機ケイ素化合物とを含むコーティング組成物(反射防止層形成用のコーティング組成物)を、プライマー層、ハードコート層と同様の方法で塗布することにより形成(成膜)することができる。反射防止層形成用のコーティング組成物に中空シリカ系微粒子を含ませる理由は、内部空洞内にシリカよりも屈折率が低い気体または溶媒が包含されることによって、空洞のないシリカ系微粒子に比べてより屈折率が低減し、結果的に、優れた反射防止効果を付与できるからである。中空シリカ系微粒子は、特開2001−233611号公報に記載されている方法などで製造することができるが、典型的には、平均粒子径が1〜150nmの範囲にあり、かつ屈折率が1.16〜1.39の範囲にあるものを使用することができる。有機系の反射防止層の層厚は、50〜150nmの範囲が好適である。
【0036】
1f. 防汚層
反射防止層5の上に撥水膜、または親水性の防曇膜(総称して防汚層という)6を形成することが多い。防汚層6の一例は、表面の撥水撥油性能を向上させる目的で反射防止層5の上に形成された、フッ素を含有する有機ケイ素化合物からなる層である。フッ素を含有する有機ケイ素化合物としては、例えば、特開2005−301208号公報や特開2006−126782号公報に記載されている含フッ素シラン化合物を好適に使用することができる。
【0037】
含フッ素シラン化合物は、有機溶剤に溶解し、所定濃度に調整した撥水処理液(防汚層形成用のコーティング組成物)として用いることが好ましい。防汚層6は、例えば、この撥水処理液を反射防止層5の上に塗布することにより形成(成膜)することができる。塗布方法としては、ディッピング法、スピンコート法などを用いることができる。なお、防汚層6は、撥水処理液を金属ペレットに充填した後、真空蒸着法などの乾式法を用いて形成することも可能である。
【0038】
含フッ素シラン化合物を含む防汚層6の層厚は、特に限定されないが、0.001〜0.5μmが好ましい。より好ましくは0.001〜0.03μmである。防汚層6の層厚が薄すぎると撥水撥油効果が乏しくなり、厚すぎると表面がべたつくので好ましくない。また、防汚層6の厚さが0.03μmより厚くなると反射防止効果が低下する可能性がある。
【0039】
1.1 レンズサンプルの製造
まず、比較例1および2として、レンズ基材1の屈折率が1.748のレンズ基材1を用い、屈折率が1.635で層厚(膜厚)が400nmのプライマー層2と、屈折率が1.642で層厚が1513nmのハードコート層4とをそれぞれ含むバインダー層非含有タイプの眼鏡レンズ10a(比較例1)と、バインダー層含有タイプの眼鏡レンズ10(比較例2)とを製造した。バインダー層含有タイプの眼鏡レンズ10(比較例2の眼鏡レンズ)のバインダー層3は、屈折率が1.597で層厚は100nmである。
【0040】
比較例1の眼鏡レンズ10aおよび比較例2の眼鏡レンズ10にはさらに無機系の多層構造の反射防止層5を形成した。具体的には、図3に示すように、反射防止層5は、低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層してなる7層タイプであり、第1層51、第3層53、第5層55、第7層57が、SiO2により形成された低屈折率層(屈折率1.46)であり、第2層52、第4層54、第6層56が、TiO2により形成された高屈折率層(屈折率2.4)である。第1層51の層厚は43.66nm、第2層52の層厚は10nm、第3層53の層厚は57.02nm、第4層54の層厚は36.93nm、第5層55の層厚は24.74nm、第6層56の層厚は36.23nm、第7層57の層厚は104.86nmである。
【0041】
1.1.1 プライマー層を形成する第1の組成物の調製(ポリエステルプライマーの例)
ステンレス製容器内に、メチルアルコール2900質量部、0.1規定水酸化ナトリウム水溶液50質量部を投入し、十分に攪拌した後、酸化チタン、酸化スズ、酸化ケイ素を主体とする複合微粒子ゾル(ルチル型結晶構造、メタノール分散、表面処理剤γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、全固形分濃度20質量%、触媒化成工業(株)製、商品名:オプトレイク)750質量部を加え攪拌混合した。次いで、ポリウレタン樹脂(水分散、全固形分濃度35質量%、第一工業製薬(株)製、商品名:スーパーフレックス210)1000質量部を加えて攪拌混合した。さらに、シリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング(株)製、商品名:L−7604)2質量部を加えて一昼夜攪拌を続けた。その後、2μmのフィルターで濾過を行い、第1の組成物(プライマー層形成用組成物)を得た。
【0042】
1.1.2 ハードコート層を形成する第2の組成物の調製
ステンレス製容器に、プロピレングリコールモノメチルエーテル1000質量部を投入し、γ―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン1200質量部を加えて十分攪拌した後、0.1モル/リットル塩酸水溶液300質量部を添加して一昼夜攪拌を続け、シラン加水分解物を得た。このシラン加水分解物中にシリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング(株)製、商品名:L−7001)30質量部を加えて1時間攪拌した後、酸化チタン、酸化スズ、酸化ケイ素を主体とする複合微粒子ゾル(ルチル型結晶構造、メタノール分散、表面処理剤γ−グリシドキシプロピルトリメトキシラン、触媒化成工業(株)製、商品名:オプトレイク)7300質量部を加えて2時間攪拌混合した。次いで、エポキシ樹脂(ナガセ化成(株)製、商品名:EX−313)250質量部を加えて2時間攪拌した後、鉄(III)アセチルアセトナート20質量部を加えて1時間攪拌した。その後、2μmのフィルターで濾過を行い、第2の組成物(ハードコート層形成用組成物)を得た。
【0043】
1.1.3 バインダー層非含有タイプの積層体11の形成
レンズ基材1として、プラスチックレンズ基材(屈折率n=1.748、セイコーエプソン(株)製、商品名:セイコープレステージ)を用意した。このレンズ基材1をアルカリ処理した。50℃に保たれた2モル/リットルの水酸化カリウム水溶液に5分間浸漬した後、純水で洗浄し、次いで25℃に保たれた1.0モル/リットル硫酸に1分間浸漬して中和処理を行った。その後、このレンズ基材1を、純水洗浄および乾燥し、放冷を行った。
【0044】
次に、上記1.1.1で調製した第1の組成物中にレンズ基材1を浸漬し、規定引き上げ速度でディップコートした後、50℃で20分焼成し、レンズ基材1の表面にプライマー層2を形成した。この際の温度を、以下、仮焼成温度thと称する。
【0045】
さらに、プライマー層2が形成されたレンズ基材を、上記1.1.2で調製した第2の組成物中に浸漬し、規定引き上げ速度でディップコートした後、80℃で30分乾燥・焼成を行い、プライマー層2の上にハードコート層4を形成した。
【0046】
その後、さらに、125℃に保たれたオーブン内で3時間加熱した。これらの工程により、屈折率1.635のプライマー層2と屈折率1.642のハードコート層4とが積層されたバインダー層非含有タイプの積層体11を含む比較例1のレンズサンプルを得た。
【0047】
1.1.4 バインダー層含有タイプの積層体12の形成
比較例2のバインダー層含有の積層体12を含むレンズサンプルを、上記1.1.3と同じ工程により形成した。ただし、プライマー層を形成する第1の組成物を塗布したのちの仮焼成温度thを100℃とした。これらの工程により、屈折率1.635のプライマー層2と屈折率1.642のハードコート層4との間に、層厚が100nmで屈折率が1.597のバインダー層3を含むバインダー層含有タイプの積層体12を有する比較例2のレンズサンプルを得た。
【0048】
バインダー層3は、例えば、プライマー層2やハードコート層4よりも樹脂成分の比率が高い組成物などをプライマー層2の上に塗布することにより形成することも可能である。また、後述するように仮焼成温度thを変化させることにより、所望の層厚のバインダー層3を形成できる。
【0049】
1.1.5 反射防止層、防汚層の形成
バインダー層非含有タイプの積層体11が形成された比較例1のレンズサンプルおよびバインダー層含有タイプの積層体12が形成された比較例2のレンズサンプルに、反射防止層5を真空蒸着法にて形成した。具体的には、ハードコート層4側から大気側に向かって順に、SiO2層51、TiO2層52、SiO2層53、TiO2層54、SiO2層55、TiO2層56、SiO2層57の7層で構成される多層の反射防止層5を、真空蒸着装置にて形成(成膜)した。
【0050】
反射防止層5を形成した後、続けて防汚層6を形成した。反射防止層5の第7層57の表面に酸素プラズマ処理を施し、分子量の大きなフッ素含有有機ケイ素化合物を含む撥水処理液(信越化学工業(株)製、商品名:KY−130)を含有させたペレット材料を蒸着源として、真空蒸着装置により防汚層6を形成(成膜)した。
【0051】
蒸着終了後、真空蒸着装置から一方の面に反射防止層5および防汚層6が形成されたレンズ基材を取り出し、反転して再び投入し、上記の工程(反射防止層5および防汚層6の形成)を同じ手順で繰り返した。これにより、他方の面にも反射防止層5および防汚層6が形成され、目的の眼鏡レンズが製造された。なお、防汚層6は、撥水処理液を反射防止層5の上に塗布することにより成膜することもできる。塗布方法としては、ディッピング法、スピンコート法などを用いることができる。
【0052】
1.2 干渉縞
図4(a)は、比較例1のレンズサンプルの干渉縞の様子を示している。図4(b)は、比較例2のレンズサンプルの干渉縞の様子を示している。バインダー層非含有タイプの積層体11を有する比較例1のレンズサンプルに対して、バインダー層含有タイプの積層体12を有する比較例2のレンズサンプルでは、多くの干渉縞が発生している。したがって、バインダー層含有タイプの積層体12を有する比較例2のレンズサンプルでは干渉縞の発生を抑制することが要望される。
【0053】
1.3 シミュレーション
図5は、バインダー層非含有タイプの積層体11を有する比較例1のレンズサンプルおよびバインダー層含有タイプの積層体12を有する比較例2のレンズサンプルについて反射スペクトルを求めた結果を示している。光源にはフラットな特性の白色光源を用いた。両サンプルとも可視光領域では反射率が十分に低く良好な透光性を備えている。しかしながら、比較例1のサンプルに対して比較例2のサンプルの反射スペクトルでは可視光領域に存在する反射率の微小なリップルが増加している傾向がみられる。
【0054】
図6は、バインダー層非含有タイプの積層体11を有する比較例1のレンズサンプルおよびバインダー層含有タイプの積層体12を有する比較例2のレンズサンプルについてプライマー層の層厚と色相角との関係をシミュレーションした結果を示している。色相角Hは、CIE(国際照明委員会)において1976年に均等色空間の一つ、L*a*b*表色系(CIE1976、CIELab色空間)のa*値およびb*値により求められる値であり、以下の関係を示す。
tan(H)=b*/a*・・・(1)
【0055】
色相角Hを求めるために(株)ヒューリンクス社製のプログラムTFCalcを用いた。光源は強度分布のないフラットな光源(白色光源)を仮定し、フラットな感覚曲線をもつ検出器を眼として仮定し、さらに入射角度は法線となる角度が0であるとした。シミュレーションに用いた各サンプルの光学定数、膜厚などは上述した通りである。
【0056】
図6に示すように、バインダー層非含有タイプの積層体11を有する比較例1のレンズサンプルのプライマー層の層厚に対する色相角Hの変化に対して、バインダー層含有タイプの積層体12を有する比較例2のレンズサンプルのプライマー層の層厚に対する色相角Hの変化が大きい。この結果より、比較例2のレンズサンプルにおいては、プライマー層の部分的な厚みの公差により色相の変化が激しく、干渉縞が発生しやすい状況になっていることが分かる。たとえば、比較例1の400nm±100nmの色相角Hの変化量(変位)H1は5度程度であるのに対し、比較例2の400nm±100nmの色相角Hの変化量(変位)H2は25度程度と5倍程度になる。したがって、バインダー層含有タイプの積層体12を有する光学物品(眼鏡レンズ)において、バインダー層非含有タイプの積層体11を有する光学物品と同じ程度に干渉縞の発生を抑制するためには、色相角Hの変化量H2をH1と同程度、すなわち、5度(±2.5度)に抑制する必要がある。
【0057】
2. 実施例1
実施例1として、比較例2と同様にバインダー層含有タイプの積層体12を有するレンズサンプルを幾つかの条件で製造した。プライマー層2は、層厚を200nmから1200nmまでの間で、50nmピッチで変化させて、複数の眼鏡レンズサンプルを用意した。また、バインダー層3は、仮焼成温度thを変えて、層厚が0nm、15nm、35nm、50nm、75nm、100nmのサンプルを用意した。その他の条件は比較例2と同じである。
【0058】
2.1 評価
図7は、実施例1において作成した各レンズサンプルの仮焼成の温度、バインダー層3の層厚、密着性および干渉縞の評価結果を纏めて示している。干渉縞の評価はプライマー層2の最小厚み800nmを境にして比較的明確に区別でき、密着性についてはプライマー層2の厚みに殆ど依存しなかった。
【0059】
仮焼成温度thとバインダー層3の層厚との間には関係が認められた。発明者らの実験によると、仮焼成の温度が50℃以下であれば、バインダー層3は形成されず、50℃以上においては、仮焼成温度thが高くなるとバインダー層3は厚くなり、60℃では15nm、70℃では35nm、80℃では50nm、90℃では75nm、100℃では100nmのバインダー層3が形成された。
【0060】
(密着性の評価方法)
密着性の評価は、JIS K 5400 8.5.1〜2基盤目法・基盤目テープ法に準じて、クロスカットテープ試験によって行った。すなわち、カッターナイフを用い、眼鏡レンズ10の表面に1mm間隔に切れ目を入れ、1mm2のマス目を100個形成した。次に、その上にセロファン粘着テープ(ニチバン(株)製、商品名:セロテープ(登録商標))を強く押し付けた後、眼鏡レンズ10の表面からセロファン粘着テープを90°方向に急に引っ張り、これを剥離した。セロファン粘着テープ剥離後の被膜の残存マス目数を以下の通り分類した。
A:被膜剥がれ無し(残存マス数:100)
B:ほとんど剥がれ無し(残存マス数:99〜95)
C:やや剥がれ有り(残存マス数:94〜80)
D:剥がれ有り(残存マス数:79〜30)
E:ほぼ全面剥がれ(残存マス数:29〜0)
【0061】
プライマー層2が比較的薄く、プライマー層2とレンズ基材1との剥がれ生じにくい条件においてもバインダー層3が薄い場合は剥がれが発生している。したがって、図7に示した結果は、プライマー層2とハードコート層4との間の剥がれの有無(密着性)を示していると考えられる。
【0062】
(干渉縞の評価方法)
干渉縞は、暗箱内において眼鏡レンズの干渉縞を観察し、以下の通り分類して評価した。
A:三波長型蛍光灯下で干渉縞の発生が確認されず、優れた外観が得られている
B:三波長型蛍光灯下で干渉縞の発生が確認されるが、非三波長型蛍光灯下では干渉縞の発生が確認されない
C:三波長型蛍光灯および非三波長型蛍光灯の双方の下で干渉縞の発生が確認でき、外観が不良である
【0063】
(密着性・干渉縞の評価結果)
図7に示すように、バインダー層3の層厚が50nm、75nm、100nmのサンプルは、密着性の評価結果がAであった。プライマー層2の層厚が800nm以上であれば、干渉縞の評価結果もAであった。したがって、バインダー層3の層厚が50nm以上であり、プライマー層2の最小厚みが800nm以上であれば、密着性が高く、また、光学特性もよいレンズが得られることが分かる。
【0064】
また、バインダー層3の層厚が35nmのサンプルは、密着性の評価結果がBであり密着性が若干低下するものの眼鏡レンズとしては良好な密着性を備えている。また、バインダー層3の層厚が35nmのサンプルにおいては、プライマー層2の層厚が800nm以下であっても最小厚みが700nm以上程度であれば干渉縞の評価結果はBであり、プライマー層2の層厚が比較的薄いものでも密着性および光学特性のよいレンズが得られることが分かる。
【0065】
したがって、バインダー層含有タイプの積層体12を含む眼鏡レンズなどの光学物品においては、バインダー層3の層厚を少なくとも35nm、好ましくは、50nmとすることが好ましく、プライマー層2の層厚を少なくとも700nmとすることにより、高屈折率のレンズ基材1、プライマー層2、ハードコート層4を有する場合であっても、干渉縞の発生を抑制できることが分かる。
【0066】
図8は、実施例1の眼鏡レンズのサンプルにおいて、バインダー層3の層厚を比較例2のサンプルと同様に100nmにセットしたときのプライマー層2の層厚と色相角Hとの関係を、図6と同様の条件でシミュレーションした結果を示している。このシミュレーション結果によれば、バインダー層含有タイプの積層体12を有するレンズサンプル10においては、プライマー層2の層厚が厚くなるほど、色相角が小さくなる傾向があることがわかる。また、層厚の公差±100nmを見込んだときのプライマー層2の最小厚みが800nmの場合、すなわち、層厚が900nm±100nmにおいて、色相角Hの変位(変化量)H2は±2.5度程度の範囲に入り、バインダー層非含有タイプの積層体11を有するレンズサンプル10a(比較例1)の色相角の変位H1と同じ程度になっている。
【0067】
このシミュレーション結果は、図7に示した実施例1の各サンプルの評価結果とも合致する。比較例1のシミュレーションで色相角の変位H1を評価したプライマー層2の厚みが400nm±100nm、すなわち、最小層厚300nmであることを考慮すると、バインダー層含有タイプの積層体12のプライマー層2の厚みを、バインダー層非含有タイプの積層体11のプライマー層2の厚みの少なくとも2倍、好ましくは2.5倍程度、さらに好ましくは3倍程度あるいはそれ以上にすることが望ましい。
【0068】
実施例1の各サンプルについて同様にシミュレーションを行い、色相角の変位H2が±2.5度を超えるプライマー層2の最小厚みTm(2.5)を求めた。その結果を、以下に説明する実施例2および3の結果とともに図12に示している。
【0069】
3. 実施例2および実施例3
バインダー層含有タイプの積層体12を有するレンズサンプルであって、異なる組成および屈折率の層構造を備えた実施例2および実施例3について、上記と同様にシミュレーションを行った。実施例2のサンプルは屈折率1.676のレンズ基材1を用い、バインダー層含有タイプの積層体12は、屈折率1.597のプライマー層2と、屈折率1.501のバインダー層3と、屈折率1.597のハードコート層4とを含む。反射防止層5の層構造は図9に示す通りである。
【0070】
実施例3のサンプルは屈折率1.786のレンズ基材1を用い、バインダー層含有タイプの積層体12は、屈折率1.7331のプライマー層2と、屈折率1.642のバインダー層3と、屈折率1.741のハードコート層4とを含む。反射防止層5の層構造は図10に示す通りである。
【0071】
3.1 プライマーのいくつかの例
3.1a 屈折率が1.7331のポリウレタンプライマーの例
実施例3の屈折率が1.7331のプライマー層2は次のようにして成膜できる。まず、ステンレス製容器内に、メチルアルコール2900質量部、0.1規定水酸化ナトリウム水溶液50質量部を投入し、十分に攪拌した後、酸化チタン、酸化スズ、酸化ケイ素を主体とする複合微粒子ゾル(ルチル型結晶構造、メタノール分散、表面処理剤γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、全固形分濃度20質量%、触媒化成工業(株)製、商品名:オプトレイク)1500質量部を加え攪拌混合する。次いで、ポリウレタン樹脂(水分散、全固形分濃度35質量%、第一工業製薬(株)製、商品名:スーパーフレックス210)580質量部、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン35質量部を加えて攪拌混合する。その後、さらにシリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング(株)製、商品名:L−7604)2質量部を加えて一昼夜攪拌を続ける。その後、2μmのフィルターで濾過を行う。これにより、プライマー層形成用組成物が得られる。
【0072】
3.1b 屈折率が1.7331のポリエステルプライマーの例
実施例3の屈折率が1.7331のプライマー層2は次のようにして成膜してもよい。ステンレス製容器内において、メチルアルコール210質量部に水100質量部を投入し、十分に攪拌して混合する。攪拌混合後、酸化チタン、酸化スズ、および酸化ケイ素を主体とする複合微粒子ゾル(ルチル型結晶構造、メタノール分散、全固形物濃度20重量%、触媒化成工業(株)製、商品名:オプトレイク1120Z)120質量部を加え、攪拌して混合する。攪拌混合後、水性ポリエステル(伊藤光学(株)製)40質量部を加え、攪拌して混合する。シリコーン系界面活性剤(日本ユニカー(株)製、商品名L−7604)1質量部を添加して、2時間攪拌して混合する。これにより、プライマー層形成用組成物が得られる。
【0073】
3.1c 屈折率が1.7331のポリビニルアルコールプライマーの例
実施例3の屈折率が1.7331のプライマー層2は次のようにして成膜してもよい。ステンレス製容器内において、メタノール70質量部に水600質量部を加える。この溶液に、平均重合度1000の完全ケン化型ポリビニルアルコール(和光純薬(株)製)100質量部を純粋900質量部に混合する。さらに、これに、90℃で3時間保持して完全に溶解させたポリビニルアルコール溶液を100質量部混合して溶解させる。さらに、酸化チタン、酸化スズ、酸化ケイ素を主体とする複合微粒子ゾル(ルチル型結晶構造、メタノール分散、表面処理剤γ−グリシドキシプロピルトリメトキシラン、触媒化成工業(株)製、商品名:オプトレイク、固形分濃度20%)200質量部を加えて攪拌し、さらに尿素2質量部を混合して完全に溶解させる。さらに、0.1N塩酸水溶液を7質量部と、シリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング(株)製、商品名:L−7604)1質量部を添加し、30分攪拌する。これにより、プライマー層形成用組成物が得られる。
【0074】
3.1d 屈折率が1.635のポリエステルプライマーの例
実施例1の屈折率が1.635のプライマー層2は次のようにして成膜してもよい。ステンレス製容器内において、メチルアルコール220質量部に水100質量部を投入し、十分に攪拌して混合する。攪拌混合後、酸化チタン、酸化スズ、および酸化ケイ素を主体とする複合微粒子ゾル(ルチル型結晶構造、メタノール分散、全固形物濃度20重量%、触媒化成工業(株)製、商品名:オプトレイク1120Z)70質量部を加え、攪拌して混合する。攪拌混合後、水性ポリエステル(伊藤光学(株)製)80質量部を加え、攪拌して混合する。シリコーン系界面活性剤(日本ユニカー(株)製、商品名:L−7604)1質量部を添加して、2時間攪拌して混合する。これにより、プライマー層形成用組成物が得られる。
【0075】
3.1e 屈折率が1.635のビニルアルコールプライマーの例
実施例1の屈折率が1.635のプライマー層2は次のようにして成膜してもよい。ステンレス製容器内において、メタノール70質量部に水600質量部を加える。この溶液に、平均重合度1000の完全ケン化型ポリビニルアルコール(和光純薬(株)製)100質量部を純水900質量部に混合する。さらに、これに、90℃で3時間保持して完全に溶解させたポリビニルアルコール溶液を300質量部混合して溶解させる。さらに、酸化チタン、酸化スズ、酸化ケイ素を主体とする複合微粒子ゾル(ルチル型結晶構造、メタノール分散、表面処理剤γ−グリシドキシプロピルトリメトキシラン、触媒化成工業(株)製:商品名オプトレイク)、固形分濃度20%)60質量部を加えて攪拌し、さらに尿素1質量部を混合して完全に溶解させる。さらに、0.1N塩酸水溶液を7質量部と、シリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング(株)製、商品名:L−7604)1質量部を添加し、30分攪拌する。これにより、プライマー層形成用組成物が得られる。
【0076】
プライマー層2を形成する第1の組成物、ハードコート層4を形成する第2の組成物の例はこれらに限定されない。バインダー層含有タイプの積層体12を採用することにより様々な組成(システム)のプライマー層2およびハードコート層4を含む積層体を採用できる。
【0077】
3.2 シミュレーション
図11に、実施例2および3の眼鏡レンズのサンプルにおいて、バインダー層3の層厚を100nmにセットしたときのプライマー層2の層厚と色相角Hとの関係を、図6と同様の条件でシミュレーションした結果を示している。また、実施例1の眼鏡レンズのサンプルのシミュレーションも合わせて示している。プライマー層2の層厚と色相角Hとの関係は、実施例2および実施例3の眼鏡レンズにおいても、実施例1の眼鏡レンズと同様の傾向が見られる。
【0078】
4. プライマー層の層厚とバインダー層の層厚との関係
実施例2および3の各サンプルについて同様にシミュレーションを行い、色相角の変位H2が±2.5度を超えるプライマー層2の最小厚みTm(2.5)を求めた。その結果を実施例1の結果とともに図12にバインダー層3の厚みに対して示している。
【0079】
さらに、実施例1、2および3の各サンプルについて、色相角の変位H2が±2.0度を超えるプライマー層2の最小厚みTm(2.0)と、色相角の変位H2が±1.5度を超えるプライマー層2の最小厚みTm(1.5)とを求め、実施例1〜3の中の最小値を図13にバインダー層3の厚みに対して示している。
【0080】
図7に示したように、バインダー層3の厚みは35nm以上が好ましく、50nm以上がさらに好ましい。また、図7および図12の結果より、バインダー層含有タイプの積層体12を有する光学物品において、プライマー層2の厚みが700nm以上であれば、色相角の変位H2がバインダー層非含有タイプの積層体11を有する光学物品と同程度、すなわち、変位H2が±2.5度程度に収まり、バインダー層非含有タイプの積層体11を有する光学物品と同程度に干渉縞の発生を抑制できる可能性があることが分かる。さらに、プライマー層2の厚みが800nm以上であれば、バインダー層3の厚みが50nm以上であっても変位H2が±2.5度程度に収まり、密着性がさらに良好で、干渉縞の発生の少ない光学物品を提供できる。
【0081】
また、プライマー層2の厚みが1000nm以上であれば、実施例1〜3のすべてのサンプルで、バインダー層3の厚みが50nm以上であっても変位H2が±2.5度程度に収まり、密着性がさらに良好で、干渉縞の発生の少ない光学物品を歩留まり良く提供できる。
【0082】
また、図13の結果より、プライマー層2の厚みが900nm以上であれば、バインダー層3の厚みが50nm以上であっても色相角の変位H2が±2.0度程度以下、さらには、色相角の変位H2が±1.5度程度以下に収まり、密着性がさらに良好で、干渉縞の発生のさらに少ない光学物品を提供できる。なお、上述したように、プライマー層2の層厚は2000nm以下であることが望ましく、1500nmであることがさらに好ましい。
【0083】
5. まとめ
以上の結果より、光学基材1の上に形成されたプライマー層2と、プライマー層2の上にバインダー層3を挟んで形成されたハードコート層4とを有する眼鏡レンズ10などの光学物品においては、屈折率がプライマー層2の屈折率およびハードコート層4の屈折率よりも低いバインダー層3を設け、その層厚を少なくとも35nmにすることによりプライマー層2とハードコート層4との密着性を向上できる。したがって、様々な組成のプライマー層2およびハードコート層4との組み合わせを用いることができ、高屈折率の光学基材1を備えた光学物品を製造しやすくなる。さらに、プライマー層2の層厚を少なくとも700nmとすることにより、干渉縞の発生も抑制できるので、光学的な性能のさらに高い光学物品を提供できる。
【0084】
光学物品は上記の眼鏡レンズ10に限られず、カメラレンズ、望遠鏡用レンズ、顕微鏡用レンズ、ステッパー用集光レンズなど各種の薄型光学レンズ、さらには、プリズム、ガラス、DVDなどの物品を含み、それら光学物品を使用した製品、たとえば眼鏡も本発明の権利範囲に含まれる。
【0085】
さらに、上記のシミュレーションなどでわかったように、バインダー層3の層厚は、少なくとも50nmであることがさらに好ましい。また、プライマー層2の層厚は、少なくとも800nmであることが好ましく、少なくとも900nmであることがさらに好ましく、少なくとも1000nmであることがいっそう好ましい。
【0086】
また、バインダー層3を含む積層体12は、光学基材1にプライマー層2を形成する第1の組成物を塗布および仮焼成し、さらにハードコート層4を形成する第2の組成物を塗布および焼成して光学基材1の上に積層体12を形成することを有する光学物品の製造方法により製造できる。その際、仮焼成の温度thを制御することにより光学基材1の上にプライマー層2、プライマー層2の屈折率よりも低い屈折率のバインダー層3、およびハードコート層4が積層された積層体12を形成できる。したがって、仮焼成の温度thを制御するという簡易な製造方法によりバインダー層含有タイプの積層体12を含む光学物品を製造できる。そして、バインダー層含有タイプの積層体12のプライマー層2の層厚は、一般に、バインダー層を含まないバインダー層非含有タイプの積層体11を含む従来型の光学物品のプライマー層2の設計値の約2倍、好ましくは2.5倍程度あるいはそれ以上に設定することにより、干渉縞の発生が抑制され、光学的な性能の高い光学物品を提供できることが分かった。
【符号の説明】
【0087】
1 光学基材、 2 プライマー層
3 バインダー層、 4 ハードコート層
5 反射防止層、 10 光学物品
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡レンズなどのレンズ、その他の光学材料あるいは製品などに用いられる光学物品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、高屈折率のプライマー層でありながら、プラスチックレンズ基材とハードコートとの密着性に優れ、レンズの耐衝撃性向上も確実に実現するプライマー層を成膜することができる、プライマー組成物とその調製方法を提供することが記載されている。そのため、特許文献1では、(A)ポリウレタン樹脂粒子、(B)ウレタン形成用モノマーおよび/またはオリゴマー、(C)酸化物微粒子を含有するプライマー形成用組成物を用い、プラスチック基材の少なくとも一方の表面に、プライマー層を形成し、次いでプライマー層の上にハードコート層を形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−67845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
プラスチック基材などの光学基材とプライマー層との間および/またはプライマー層とハードコート層との間の屈折率差が大きくなると、干渉縞が発生しやすい。近年、屈折率が1.7を越える高屈折率プラスチック基材の登場に伴い、干渉縞を抑制するために、プライマー層およびハードコート層の高屈折率化も行われている。
【0005】
プライマー層やハードコート層を高屈折率化させる方法としては、酸化物微粒子の割合を高めることが考えられる。しかしながら、酸化物微粒子の割合を高めると、相対的に樹脂成分が少なくなるため、プライマー層とハードコート層との間の密着性が低下しやすい。このため、特許文献1のようにプライマー層の組成、あるいはプライマー層とハードコート層とを組み合わせた組成が限定されてしまい、レンズの層(膜)設計における選択の範囲が狭まる。したがって、耐衝撃性、密着性、耐久性、製造の容易さなどの多くの条件を良好に満たす組成の発見が難しく、結果として高屈折率レンズを早期に市場に投入することが難しくなっている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、光学基材の上に形成されたプライマー層と、プライマー層の上にバインダー層を挟んで形成されたハードコート層とを有する光学物品である。この光学物品では、プライマー層の層厚は少なくとも700nmであり、バインダー層の屈折率はプライマー層の屈折率およびハードコート層の屈折率よりも低く、バインダー層の層厚は少なくとも35nmである。
【0007】
本願発明者らは、プライマー層とハードコート層との間に、屈折率がプライマー層の屈折率およびハードコート層の屈折率よりも低い層をバインダー層として設け、その厚みが少なくとも35nmであれば、そのバインダー層を介在させることにより、プライマー層とハードコート層との間の密着性を高めることができることを見出した。屈折率の低い層は、相対的に樹脂成分が多くなるため、プライマー層とハードコート層との間の密着性を高めることができ、プライマー層とハードコート層とを成膜するための組成の選択範囲が広がる。
【0008】
一方、プライマー層とハードコート層との間にバインダー層を介在させると、ハードコート層の上に反射防止層を形成した際、反射スペクトルのリップルが大きくなり、干渉縞が多くなることも、本願発明者らは同時に見出した。これに対しては、本願発明者らは、プライマー層の層厚を少なくとも700nmとすることにより、干渉縞の発生を抑制できることを見出した。
【0009】
この光学物品によれば、バインダー層を介在させてプライマー層とハードコート層との間の密着性を高めることができ、さらに、干渉縞の発生も抑制できる。したがって、屈折率が1.7前後あるいはそれ以上の光学基材を備えた光学物品において、プライマー層およびハードコート層を成膜する組成の選択範囲が広がり、高屈折率の光学基材を備えた光学物品であって、様々な用途に適した光学物品を市場に投入することが容易となる。
【0010】
この光学物品において、干渉縞の発生をさらに抑制するには、プライマー層の層厚は、少なくとも800nmであることが好ましく、少なくとも900nmであることがさらに好ましい。また、プライマー層の層厚は、少なくとも1000nmであることがいっそう好ましい。
【0011】
この光学物品において、バインダー層の層厚は、少なくとも50nmであることがさらに好ましい。プライマー層とハードコート層との間の密着性をより高めることができる。
【0012】
この光学物品において、光学基材の屈折率が少なくとも1.7であることが望ましい。このような高屈折率の光学基材であっても、比較的組成を選ばずにプライマー層とハードコート層との間の密着性を向上でき、さらに、干渉縞の発生を抑制することができる。
【0013】
この光学物品は、ハードコート層の上に形成された無機系の多層構造の反射防止層を有することが好ましい。ハードコート層の上に無機系の多層構造の反射防止層を形成しても、干渉縞の発生を抑制することができる。
【0014】
この光学物品の一例は、レンズである。すなわち、光学基材として、レンズ基材を用いることも可能である。この光学物品は、眼鏡レンズをはじめ、カメラレンズ、望遠鏡用レンズ、顕微鏡用レンズ、ステッパー用集光レンズなど各種の薄型光学レンズなどに、幅広く使用することができる。
【0015】
本発明の他の態様は、上記光学物品を適用した眼鏡レンズを含む、眼鏡である。上記光学物品には、高屈折率の光学基材を好適に用いることができる。すなわち、眼鏡レンズとして高屈折率のレンズ基材を用いることができるため、眼鏡のさらなる薄型化を図れる。
【0016】
本発明のさらに他の態様は、光学基材にプライマー層を形成する第1の組成物を塗布および仮焼成し、さらにハードコート層を形成する第2の組成物を塗布および焼成して光学基材の上に積層体を形成することを有する光学物品の製造方法である。積層体を形成することは、仮焼成の温度を制御することにより光学基材上にプライマー層、プライマー層の屈折率よりも低い屈折率のバインダー層、およびハードコート層が積層された積層体を形成することを含む。
【0017】
この製造方法によれば、プライマー層とハードコート層との間にバインダー層を介在させることにより密着性が良好であって、しかも、干渉縞の発生が少ない、光学物品を製造できる。
【0018】
本発明のさらに異なる他の態様は、光学基材の上にプライマー層、プライマー層の屈折率よりも屈折率の低いバインダー層、およびハードコート層が積層されたバインダー層含有タイプの積層体を有する光学物品の設計方法である。この設計方法は以下の工程を含む。
・バインダー層含有タイプの積層体のプライマー層の第2の厚みを、光学基材の上にプライマー層およびハードコート層が積層されたバインダー層非含有タイプの積層体のプライマー層の第1の厚みの少なくとも2倍にすること。
【0019】
この設計方法によれば、プライマー層とハードコート層との間にバインダー層を介在させることにより密着性が良好であって、しかも、干渉縞の発生が少ない、光学物品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1の光学物品の層構造を模式的に示す図。
【図2】第2の光学物品の層構造を模式的に示す図。
【図3】比較例1および2の光学物品が備える反射防止層の層構造を説明するための図。
【図4】(a)は比較例1の光学物品の干渉縞の様子を示す図。(b)は比較例2の光学物品の干渉縞の様子を示す図。
【図5】比較例1および比較例2の光学物品の反射スペクトルのシミュレーション結果を示す図。
【図6】比較例1および比較例2の光学物品におけるプライマー層の層厚と色相角との関係をシミュレーションした結果を示す図。
【図7】仮焼成の温度とバインダー層の層厚との関係、および、密着性・干渉縞の評価結果を纏めて示す図。
【図8】実施例1の光学物品におけるプライマー層の層厚と色相角との関係をシミュレーションした結果を示す図。
【図9】実施例2の光学物品が備える反射防止層の層構造を説明するための図。
【図10】実施例3の光学物品が備える反射防止層の層構造を説明するための図。
【図11】実施例1ないし3の光学物品におけるプライマー層の層厚と色相角との関係をシミュレーションした結果を示す図。
【図12】実施例1ないし3の光学物品におけるバインダー層の層厚とプライマー層の最小厚みとの関係を示す図。
【図13】色相角度の変位が±1.5度、±2.0度、±2.5度の範囲内となるように作成した光学物品のバインダー層の層厚とプライマー層の最小厚みとの関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下では、本発明を適用可能な光学物品の一例である眼鏡用のレンズを例にさらに詳しく説明する。
【0022】
図1に、バインダー層非含有タイプの積層体11を有する眼鏡レンズ10aの層構造を模式的に示している。図2に、バインダー層含有タイプの積層体12を有する眼鏡レンズ10の層構造を模式的に示している。図3は、これらの眼鏡レンズ10aおよび10の反射防止層の層構造を示している。
【0023】
1. 比較例1および2
図1に示すバインダー層非含有タイプの積層体11を有する眼鏡レンズ10aは、レンズ基材(光学基材)1と、レンズ基材1の上に形成されたプライマー層2と、プライマー層2の上に形成されたハードコート層4とを有し、プライマー層2と、その上に直に形成されたハードコート層4とによりバインダー層非含有タイプの積層体11を構成している。この眼鏡レンズ10aは、さらに、ハードコート層4の上に形成された透光性の反射防止層5と、反射防止層5の上に形成された防汚層6とを含んでいる。光学基材1としては、例えば、プラスチック製の基材(例えば、プラスチックレンズ基材)を用いることができる。防汚層6は省略してもよい。
【0024】
図2に示すバインダー層含有タイプの積層体12を有する眼鏡レンズ10は、レンズ基材(光学基材)1と、レンズ基材1の上に形成されたプライマー層2と、プライマー層2の上にバインダー層3を挟んで形成されたハードコート層4とを有し、プライマー層2と、バインダー層3と、バインダー層3を挟んで形成されたハードコート層4とによりバインダー層含有タイプの積層体12を構成している。この眼鏡レンズ10は、さらに、ハードコート層4の上に形成された透光性の反射防止層5と、反射防止層5の上に形成された防汚層6とを含んでいる。上記と同様に、光学基材1としては、例えば、プラスチック製の基材(例えば、プラスチックレンズ基材)を用いることができる。防汚層6は省略してもよい。
【0025】
1a. レンズ基材
レンズ基材1は、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル樹脂をはじめとしてスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アリル樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂(たとえば、PPGインダストリーズオハイオ社のCR−39(登録商標))などのアリルカーボネート樹脂、ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、イソシアネート化合物とジエチレングリコールなどのヒドロキシ化合物との反応で得られたウレタン樹脂、イソシアネート化合物とポリチオール化合物とを反応させたチオウレタン樹脂、分子内に1つ以上のジスルフィド結合を有する(チオ)エポキシ化合物を含有する重合性組成物などを硬化して得られる透明樹脂などを用いることができる。レンズ基材1の屈折率は、例えば、1.60〜1.75程度である。なお、本発明の光学物品においては、光学基材の屈折率は、上記の範囲でも、上記の範囲から上下に離れていても許容される。
【0026】
1b. プライマー層
プライマー層2は、高屈折率のレンズ基材の欠点である耐衝撃性を改善するために有効である。プライマー層2を形成するための材料としては、例えば、アクリル系樹脂、メラミン系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、アミノ系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、スチレン系樹脂、シリコン系樹脂およびこれらの混合物もしくは共重合体などが挙げられる。密着性を持たせるためのプライマー層2としては、ウレタン系樹脂およびポリエステル系樹脂が好適である。プライマー層2は、例えば、これらのような樹脂と金属酸化物微粒子とシラン化合物とを含むコーティング組成物を用いて、これを塗布して硬化させることにより形成することができる。
【0027】
プライマー層形成用のコーティング組成物に含まれる金属酸化物微粒子の具体例は、SiO2、Al2O3、SnO2、Sb2O5、Ta2O5、CeO2、La2O3、Fe2O3、ZnO、WO3、ZrO2、In2O3、TiO2などの金属酸化物からなる微粒子、または2種以上の金属の金属酸化物からなる複合微粒子である。これらの微粒子を、分散媒、例えば水、アルコール系もしくはその他の有機溶媒にコロイド状に分散させたものをコーティング組成物に含めることもできる。
【0028】
プライマー層2は、厚くすると耐衝撃性は向上するが密着性が低下する傾向がある。耐衝撃性より、プライマー層2の層厚の下限値は300nmであり、さらに好ましくは400nmである。一方、プライマー層2の層厚の上限値は密着性、成膜性などより2000nm、さらに好ましくは1500nm程度である。
【0029】
1c. ハードコート層
ハードコート層4は、主として耐擦傷性の向上を目的とするものである。ハードコート層4を形成するための材料としては、例えば、アクリル系樹脂、メラミン系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、アミノ系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、スチレン系樹脂、シリコーン系樹脂およびこれらの混合物もしくは共重合体などが挙げられる。ハードコート層4の一例は、シリコーン系樹脂である。ハードコート層4は、例えば、これらのような樹脂と金属酸化物微粒子とシラン化合物とを含むコーティング組成物を用いて、これを塗布して硬化させることにより形成することができる。このコーティング組成物には、コロイダルシリカ、および多官能性エポキシ化合物などの成分を含める(混合する)ことができる。
【0030】
ハードコート層形成用のコーティング組成物に含まれる金属酸化物微粒子の具体例は、SiO2、Al2O3、SnO2、Sb2O5、Ta2O5、CeO2、La2O3、Fe2O3、ZnO、WO3、ZrO2、In2O3、TiO2などの金属酸化物からなる微粒子、または2種以上の金属の金属酸化物からなる複合微粒子である。これらの微粒子を、分散媒、例えば水、アルコール系もしくはその他の有機溶媒にコロイド状に分散させたものをコーティング組成物に含めることもできる。
【0031】
1d. バインダー層
バインダー層3は、プライマー層2とハードコート層4との密着性を高めることができる組成物、例えば、プライマー層2やハードコート層4よりも樹脂成分の比率が高い組成物などをプライマー層2の上に塗布することにより形成してもよく、プライマー層形成用のコーティング組成物を塗布した後の焼成(仮焼成)の際の温度を調整することによっても、プライマー層2の上に形成することができる。
【0032】
バインダー層3は、典型的には、プライマー層形成用コーティング組成物中の樹脂成分を主体とした成分から形成される。したがって、仮焼成の際、プライマー層の表面にプライマー層形成用コーティング組成物の樹脂成分を析出させ、それによりプライマー層2の上に、樹脂濃度が高いバインダー層3を形成することができる。このように形成されたバインダー層3は、樹脂濃度が高い層であるため、プライマー層2およびハードコート層4よりも低屈折率の層となる。バインダー層3は、樹脂濃度が高い層(樹脂成分が相対的に多い層)であるため、プライマー層2とハードコート層4との間の密着性を高めることができる。
【0033】
バインダー層3は、上記仮焼成温度を調整することにより、その有無だけでなく、その層厚も調整することができる。プライマー層形成用コーティング組成物に含まれる樹脂成分などによらず、一般に、仮焼成温度が高いほど、バインダー層3が厚くなる傾向がある。
【0034】
1e. 反射防止層
ハードコート層4の上に形成される反射防止層5の典型的なものは、無機系の反射防止層であり、有機系の反射防止層であってもよい。無機系の反射防止層は、典型的には多層構造を有しており、例えば、屈折率が1.3〜1.6である低屈折率層と、屈折率が1.8〜2.6である高屈折率層とを交互に積層して形成することができる。このような反射防止層の層数は、例えば、5層あるいは7層程度とすることができる。このような反射防止層を構成する各層に使用される無機物の例としては、SiO2、SiO、ZrO2、TiO2、TiO、Ti2O3、Ti2O5、Al2O3、TaO2、Ta2O5、NdO2、NbO、Nb2O3、NbO2、Nb2O5、CeO2、MgO、SnO2、MgF2、WO3、HfO2、Y2O3などが挙げられる。これらの無機物は、単独で用いるか、もしくは2種以上を混合して用いる。反射防止層5を形成する方法としては、乾式法、例えば、真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法などが挙げられる。
【0035】
有機系の反射防止層の製造方法の1つは湿式法である。有機系の反射防止層は、例えば、内部空洞を有するシリカ系微粒子(中空シリカ系微粒子)と、有機ケイ素化合物とを含むコーティング組成物(反射防止層形成用のコーティング組成物)を、プライマー層、ハードコート層と同様の方法で塗布することにより形成(成膜)することができる。反射防止層形成用のコーティング組成物に中空シリカ系微粒子を含ませる理由は、内部空洞内にシリカよりも屈折率が低い気体または溶媒が包含されることによって、空洞のないシリカ系微粒子に比べてより屈折率が低減し、結果的に、優れた反射防止効果を付与できるからである。中空シリカ系微粒子は、特開2001−233611号公報に記載されている方法などで製造することができるが、典型的には、平均粒子径が1〜150nmの範囲にあり、かつ屈折率が1.16〜1.39の範囲にあるものを使用することができる。有機系の反射防止層の層厚は、50〜150nmの範囲が好適である。
【0036】
1f. 防汚層
反射防止層5の上に撥水膜、または親水性の防曇膜(総称して防汚層という)6を形成することが多い。防汚層6の一例は、表面の撥水撥油性能を向上させる目的で反射防止層5の上に形成された、フッ素を含有する有機ケイ素化合物からなる層である。フッ素を含有する有機ケイ素化合物としては、例えば、特開2005−301208号公報や特開2006−126782号公報に記載されている含フッ素シラン化合物を好適に使用することができる。
【0037】
含フッ素シラン化合物は、有機溶剤に溶解し、所定濃度に調整した撥水処理液(防汚層形成用のコーティング組成物)として用いることが好ましい。防汚層6は、例えば、この撥水処理液を反射防止層5の上に塗布することにより形成(成膜)することができる。塗布方法としては、ディッピング法、スピンコート法などを用いることができる。なお、防汚層6は、撥水処理液を金属ペレットに充填した後、真空蒸着法などの乾式法を用いて形成することも可能である。
【0038】
含フッ素シラン化合物を含む防汚層6の層厚は、特に限定されないが、0.001〜0.5μmが好ましい。より好ましくは0.001〜0.03μmである。防汚層6の層厚が薄すぎると撥水撥油効果が乏しくなり、厚すぎると表面がべたつくので好ましくない。また、防汚層6の厚さが0.03μmより厚くなると反射防止効果が低下する可能性がある。
【0039】
1.1 レンズサンプルの製造
まず、比較例1および2として、レンズ基材1の屈折率が1.748のレンズ基材1を用い、屈折率が1.635で層厚(膜厚)が400nmのプライマー層2と、屈折率が1.642で層厚が1513nmのハードコート層4とをそれぞれ含むバインダー層非含有タイプの眼鏡レンズ10a(比較例1)と、バインダー層含有タイプの眼鏡レンズ10(比較例2)とを製造した。バインダー層含有タイプの眼鏡レンズ10(比較例2の眼鏡レンズ)のバインダー層3は、屈折率が1.597で層厚は100nmである。
【0040】
比較例1の眼鏡レンズ10aおよび比較例2の眼鏡レンズ10にはさらに無機系の多層構造の反射防止層5を形成した。具体的には、図3に示すように、反射防止層5は、低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層してなる7層タイプであり、第1層51、第3層53、第5層55、第7層57が、SiO2により形成された低屈折率層(屈折率1.46)であり、第2層52、第4層54、第6層56が、TiO2により形成された高屈折率層(屈折率2.4)である。第1層51の層厚は43.66nm、第2層52の層厚は10nm、第3層53の層厚は57.02nm、第4層54の層厚は36.93nm、第5層55の層厚は24.74nm、第6層56の層厚は36.23nm、第7層57の層厚は104.86nmである。
【0041】
1.1.1 プライマー層を形成する第1の組成物の調製(ポリエステルプライマーの例)
ステンレス製容器内に、メチルアルコール2900質量部、0.1規定水酸化ナトリウム水溶液50質量部を投入し、十分に攪拌した後、酸化チタン、酸化スズ、酸化ケイ素を主体とする複合微粒子ゾル(ルチル型結晶構造、メタノール分散、表面処理剤γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、全固形分濃度20質量%、触媒化成工業(株)製、商品名:オプトレイク)750質量部を加え攪拌混合した。次いで、ポリウレタン樹脂(水分散、全固形分濃度35質量%、第一工業製薬(株)製、商品名:スーパーフレックス210)1000質量部を加えて攪拌混合した。さらに、シリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング(株)製、商品名:L−7604)2質量部を加えて一昼夜攪拌を続けた。その後、2μmのフィルターで濾過を行い、第1の組成物(プライマー層形成用組成物)を得た。
【0042】
1.1.2 ハードコート層を形成する第2の組成物の調製
ステンレス製容器に、プロピレングリコールモノメチルエーテル1000質量部を投入し、γ―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン1200質量部を加えて十分攪拌した後、0.1モル/リットル塩酸水溶液300質量部を添加して一昼夜攪拌を続け、シラン加水分解物を得た。このシラン加水分解物中にシリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング(株)製、商品名:L−7001)30質量部を加えて1時間攪拌した後、酸化チタン、酸化スズ、酸化ケイ素を主体とする複合微粒子ゾル(ルチル型結晶構造、メタノール分散、表面処理剤γ−グリシドキシプロピルトリメトキシラン、触媒化成工業(株)製、商品名:オプトレイク)7300質量部を加えて2時間攪拌混合した。次いで、エポキシ樹脂(ナガセ化成(株)製、商品名:EX−313)250質量部を加えて2時間攪拌した後、鉄(III)アセチルアセトナート20質量部を加えて1時間攪拌した。その後、2μmのフィルターで濾過を行い、第2の組成物(ハードコート層形成用組成物)を得た。
【0043】
1.1.3 バインダー層非含有タイプの積層体11の形成
レンズ基材1として、プラスチックレンズ基材(屈折率n=1.748、セイコーエプソン(株)製、商品名:セイコープレステージ)を用意した。このレンズ基材1をアルカリ処理した。50℃に保たれた2モル/リットルの水酸化カリウム水溶液に5分間浸漬した後、純水で洗浄し、次いで25℃に保たれた1.0モル/リットル硫酸に1分間浸漬して中和処理を行った。その後、このレンズ基材1を、純水洗浄および乾燥し、放冷を行った。
【0044】
次に、上記1.1.1で調製した第1の組成物中にレンズ基材1を浸漬し、規定引き上げ速度でディップコートした後、50℃で20分焼成し、レンズ基材1の表面にプライマー層2を形成した。この際の温度を、以下、仮焼成温度thと称する。
【0045】
さらに、プライマー層2が形成されたレンズ基材を、上記1.1.2で調製した第2の組成物中に浸漬し、規定引き上げ速度でディップコートした後、80℃で30分乾燥・焼成を行い、プライマー層2の上にハードコート層4を形成した。
【0046】
その後、さらに、125℃に保たれたオーブン内で3時間加熱した。これらの工程により、屈折率1.635のプライマー層2と屈折率1.642のハードコート層4とが積層されたバインダー層非含有タイプの積層体11を含む比較例1のレンズサンプルを得た。
【0047】
1.1.4 バインダー層含有タイプの積層体12の形成
比較例2のバインダー層含有の積層体12を含むレンズサンプルを、上記1.1.3と同じ工程により形成した。ただし、プライマー層を形成する第1の組成物を塗布したのちの仮焼成温度thを100℃とした。これらの工程により、屈折率1.635のプライマー層2と屈折率1.642のハードコート層4との間に、層厚が100nmで屈折率が1.597のバインダー層3を含むバインダー層含有タイプの積層体12を有する比較例2のレンズサンプルを得た。
【0048】
バインダー層3は、例えば、プライマー層2やハードコート層4よりも樹脂成分の比率が高い組成物などをプライマー層2の上に塗布することにより形成することも可能である。また、後述するように仮焼成温度thを変化させることにより、所望の層厚のバインダー層3を形成できる。
【0049】
1.1.5 反射防止層、防汚層の形成
バインダー層非含有タイプの積層体11が形成された比較例1のレンズサンプルおよびバインダー層含有タイプの積層体12が形成された比較例2のレンズサンプルに、反射防止層5を真空蒸着法にて形成した。具体的には、ハードコート層4側から大気側に向かって順に、SiO2層51、TiO2層52、SiO2層53、TiO2層54、SiO2層55、TiO2層56、SiO2層57の7層で構成される多層の反射防止層5を、真空蒸着装置にて形成(成膜)した。
【0050】
反射防止層5を形成した後、続けて防汚層6を形成した。反射防止層5の第7層57の表面に酸素プラズマ処理を施し、分子量の大きなフッ素含有有機ケイ素化合物を含む撥水処理液(信越化学工業(株)製、商品名:KY−130)を含有させたペレット材料を蒸着源として、真空蒸着装置により防汚層6を形成(成膜)した。
【0051】
蒸着終了後、真空蒸着装置から一方の面に反射防止層5および防汚層6が形成されたレンズ基材を取り出し、反転して再び投入し、上記の工程(反射防止層5および防汚層6の形成)を同じ手順で繰り返した。これにより、他方の面にも反射防止層5および防汚層6が形成され、目的の眼鏡レンズが製造された。なお、防汚層6は、撥水処理液を反射防止層5の上に塗布することにより成膜することもできる。塗布方法としては、ディッピング法、スピンコート法などを用いることができる。
【0052】
1.2 干渉縞
図4(a)は、比較例1のレンズサンプルの干渉縞の様子を示している。図4(b)は、比較例2のレンズサンプルの干渉縞の様子を示している。バインダー層非含有タイプの積層体11を有する比較例1のレンズサンプルに対して、バインダー層含有タイプの積層体12を有する比較例2のレンズサンプルでは、多くの干渉縞が発生している。したがって、バインダー層含有タイプの積層体12を有する比較例2のレンズサンプルでは干渉縞の発生を抑制することが要望される。
【0053】
1.3 シミュレーション
図5は、バインダー層非含有タイプの積層体11を有する比較例1のレンズサンプルおよびバインダー層含有タイプの積層体12を有する比較例2のレンズサンプルについて反射スペクトルを求めた結果を示している。光源にはフラットな特性の白色光源を用いた。両サンプルとも可視光領域では反射率が十分に低く良好な透光性を備えている。しかしながら、比較例1のサンプルに対して比較例2のサンプルの反射スペクトルでは可視光領域に存在する反射率の微小なリップルが増加している傾向がみられる。
【0054】
図6は、バインダー層非含有タイプの積層体11を有する比較例1のレンズサンプルおよびバインダー層含有タイプの積層体12を有する比較例2のレンズサンプルについてプライマー層の層厚と色相角との関係をシミュレーションした結果を示している。色相角Hは、CIE(国際照明委員会)において1976年に均等色空間の一つ、L*a*b*表色系(CIE1976、CIELab色空間)のa*値およびb*値により求められる値であり、以下の関係を示す。
tan(H)=b*/a*・・・(1)
【0055】
色相角Hを求めるために(株)ヒューリンクス社製のプログラムTFCalcを用いた。光源は強度分布のないフラットな光源(白色光源)を仮定し、フラットな感覚曲線をもつ検出器を眼として仮定し、さらに入射角度は法線となる角度が0であるとした。シミュレーションに用いた各サンプルの光学定数、膜厚などは上述した通りである。
【0056】
図6に示すように、バインダー層非含有タイプの積層体11を有する比較例1のレンズサンプルのプライマー層の層厚に対する色相角Hの変化に対して、バインダー層含有タイプの積層体12を有する比較例2のレンズサンプルのプライマー層の層厚に対する色相角Hの変化が大きい。この結果より、比較例2のレンズサンプルにおいては、プライマー層の部分的な厚みの公差により色相の変化が激しく、干渉縞が発生しやすい状況になっていることが分かる。たとえば、比較例1の400nm±100nmの色相角Hの変化量(変位)H1は5度程度であるのに対し、比較例2の400nm±100nmの色相角Hの変化量(変位)H2は25度程度と5倍程度になる。したがって、バインダー層含有タイプの積層体12を有する光学物品(眼鏡レンズ)において、バインダー層非含有タイプの積層体11を有する光学物品と同じ程度に干渉縞の発生を抑制するためには、色相角Hの変化量H2をH1と同程度、すなわち、5度(±2.5度)に抑制する必要がある。
【0057】
2. 実施例1
実施例1として、比較例2と同様にバインダー層含有タイプの積層体12を有するレンズサンプルを幾つかの条件で製造した。プライマー層2は、層厚を200nmから1200nmまでの間で、50nmピッチで変化させて、複数の眼鏡レンズサンプルを用意した。また、バインダー層3は、仮焼成温度thを変えて、層厚が0nm、15nm、35nm、50nm、75nm、100nmのサンプルを用意した。その他の条件は比較例2と同じである。
【0058】
2.1 評価
図7は、実施例1において作成した各レンズサンプルの仮焼成の温度、バインダー層3の層厚、密着性および干渉縞の評価結果を纏めて示している。干渉縞の評価はプライマー層2の最小厚み800nmを境にして比較的明確に区別でき、密着性についてはプライマー層2の厚みに殆ど依存しなかった。
【0059】
仮焼成温度thとバインダー層3の層厚との間には関係が認められた。発明者らの実験によると、仮焼成の温度が50℃以下であれば、バインダー層3は形成されず、50℃以上においては、仮焼成温度thが高くなるとバインダー層3は厚くなり、60℃では15nm、70℃では35nm、80℃では50nm、90℃では75nm、100℃では100nmのバインダー層3が形成された。
【0060】
(密着性の評価方法)
密着性の評価は、JIS K 5400 8.5.1〜2基盤目法・基盤目テープ法に準じて、クロスカットテープ試験によって行った。すなわち、カッターナイフを用い、眼鏡レンズ10の表面に1mm間隔に切れ目を入れ、1mm2のマス目を100個形成した。次に、その上にセロファン粘着テープ(ニチバン(株)製、商品名:セロテープ(登録商標))を強く押し付けた後、眼鏡レンズ10の表面からセロファン粘着テープを90°方向に急に引っ張り、これを剥離した。セロファン粘着テープ剥離後の被膜の残存マス目数を以下の通り分類した。
A:被膜剥がれ無し(残存マス数:100)
B:ほとんど剥がれ無し(残存マス数:99〜95)
C:やや剥がれ有り(残存マス数:94〜80)
D:剥がれ有り(残存マス数:79〜30)
E:ほぼ全面剥がれ(残存マス数:29〜0)
【0061】
プライマー層2が比較的薄く、プライマー層2とレンズ基材1との剥がれ生じにくい条件においてもバインダー層3が薄い場合は剥がれが発生している。したがって、図7に示した結果は、プライマー層2とハードコート層4との間の剥がれの有無(密着性)を示していると考えられる。
【0062】
(干渉縞の評価方法)
干渉縞は、暗箱内において眼鏡レンズの干渉縞を観察し、以下の通り分類して評価した。
A:三波長型蛍光灯下で干渉縞の発生が確認されず、優れた外観が得られている
B:三波長型蛍光灯下で干渉縞の発生が確認されるが、非三波長型蛍光灯下では干渉縞の発生が確認されない
C:三波長型蛍光灯および非三波長型蛍光灯の双方の下で干渉縞の発生が確認でき、外観が不良である
【0063】
(密着性・干渉縞の評価結果)
図7に示すように、バインダー層3の層厚が50nm、75nm、100nmのサンプルは、密着性の評価結果がAであった。プライマー層2の層厚が800nm以上であれば、干渉縞の評価結果もAであった。したがって、バインダー層3の層厚が50nm以上であり、プライマー層2の最小厚みが800nm以上であれば、密着性が高く、また、光学特性もよいレンズが得られることが分かる。
【0064】
また、バインダー層3の層厚が35nmのサンプルは、密着性の評価結果がBであり密着性が若干低下するものの眼鏡レンズとしては良好な密着性を備えている。また、バインダー層3の層厚が35nmのサンプルにおいては、プライマー層2の層厚が800nm以下であっても最小厚みが700nm以上程度であれば干渉縞の評価結果はBであり、プライマー層2の層厚が比較的薄いものでも密着性および光学特性のよいレンズが得られることが分かる。
【0065】
したがって、バインダー層含有タイプの積層体12を含む眼鏡レンズなどの光学物品においては、バインダー層3の層厚を少なくとも35nm、好ましくは、50nmとすることが好ましく、プライマー層2の層厚を少なくとも700nmとすることにより、高屈折率のレンズ基材1、プライマー層2、ハードコート層4を有する場合であっても、干渉縞の発生を抑制できることが分かる。
【0066】
図8は、実施例1の眼鏡レンズのサンプルにおいて、バインダー層3の層厚を比較例2のサンプルと同様に100nmにセットしたときのプライマー層2の層厚と色相角Hとの関係を、図6と同様の条件でシミュレーションした結果を示している。このシミュレーション結果によれば、バインダー層含有タイプの積層体12を有するレンズサンプル10においては、プライマー層2の層厚が厚くなるほど、色相角が小さくなる傾向があることがわかる。また、層厚の公差±100nmを見込んだときのプライマー層2の最小厚みが800nmの場合、すなわち、層厚が900nm±100nmにおいて、色相角Hの変位(変化量)H2は±2.5度程度の範囲に入り、バインダー層非含有タイプの積層体11を有するレンズサンプル10a(比較例1)の色相角の変位H1と同じ程度になっている。
【0067】
このシミュレーション結果は、図7に示した実施例1の各サンプルの評価結果とも合致する。比較例1のシミュレーションで色相角の変位H1を評価したプライマー層2の厚みが400nm±100nm、すなわち、最小層厚300nmであることを考慮すると、バインダー層含有タイプの積層体12のプライマー層2の厚みを、バインダー層非含有タイプの積層体11のプライマー層2の厚みの少なくとも2倍、好ましくは2.5倍程度、さらに好ましくは3倍程度あるいはそれ以上にすることが望ましい。
【0068】
実施例1の各サンプルについて同様にシミュレーションを行い、色相角の変位H2が±2.5度を超えるプライマー層2の最小厚みTm(2.5)を求めた。その結果を、以下に説明する実施例2および3の結果とともに図12に示している。
【0069】
3. 実施例2および実施例3
バインダー層含有タイプの積層体12を有するレンズサンプルであって、異なる組成および屈折率の層構造を備えた実施例2および実施例3について、上記と同様にシミュレーションを行った。実施例2のサンプルは屈折率1.676のレンズ基材1を用い、バインダー層含有タイプの積層体12は、屈折率1.597のプライマー層2と、屈折率1.501のバインダー層3と、屈折率1.597のハードコート層4とを含む。反射防止層5の層構造は図9に示す通りである。
【0070】
実施例3のサンプルは屈折率1.786のレンズ基材1を用い、バインダー層含有タイプの積層体12は、屈折率1.7331のプライマー層2と、屈折率1.642のバインダー層3と、屈折率1.741のハードコート層4とを含む。反射防止層5の層構造は図10に示す通りである。
【0071】
3.1 プライマーのいくつかの例
3.1a 屈折率が1.7331のポリウレタンプライマーの例
実施例3の屈折率が1.7331のプライマー層2は次のようにして成膜できる。まず、ステンレス製容器内に、メチルアルコール2900質量部、0.1規定水酸化ナトリウム水溶液50質量部を投入し、十分に攪拌した後、酸化チタン、酸化スズ、酸化ケイ素を主体とする複合微粒子ゾル(ルチル型結晶構造、メタノール分散、表面処理剤γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、全固形分濃度20質量%、触媒化成工業(株)製、商品名:オプトレイク)1500質量部を加え攪拌混合する。次いで、ポリウレタン樹脂(水分散、全固形分濃度35質量%、第一工業製薬(株)製、商品名:スーパーフレックス210)580質量部、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン35質量部を加えて攪拌混合する。その後、さらにシリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング(株)製、商品名:L−7604)2質量部を加えて一昼夜攪拌を続ける。その後、2μmのフィルターで濾過を行う。これにより、プライマー層形成用組成物が得られる。
【0072】
3.1b 屈折率が1.7331のポリエステルプライマーの例
実施例3の屈折率が1.7331のプライマー層2は次のようにして成膜してもよい。ステンレス製容器内において、メチルアルコール210質量部に水100質量部を投入し、十分に攪拌して混合する。攪拌混合後、酸化チタン、酸化スズ、および酸化ケイ素を主体とする複合微粒子ゾル(ルチル型結晶構造、メタノール分散、全固形物濃度20重量%、触媒化成工業(株)製、商品名:オプトレイク1120Z)120質量部を加え、攪拌して混合する。攪拌混合後、水性ポリエステル(伊藤光学(株)製)40質量部を加え、攪拌して混合する。シリコーン系界面活性剤(日本ユニカー(株)製、商品名L−7604)1質量部を添加して、2時間攪拌して混合する。これにより、プライマー層形成用組成物が得られる。
【0073】
3.1c 屈折率が1.7331のポリビニルアルコールプライマーの例
実施例3の屈折率が1.7331のプライマー層2は次のようにして成膜してもよい。ステンレス製容器内において、メタノール70質量部に水600質量部を加える。この溶液に、平均重合度1000の完全ケン化型ポリビニルアルコール(和光純薬(株)製)100質量部を純粋900質量部に混合する。さらに、これに、90℃で3時間保持して完全に溶解させたポリビニルアルコール溶液を100質量部混合して溶解させる。さらに、酸化チタン、酸化スズ、酸化ケイ素を主体とする複合微粒子ゾル(ルチル型結晶構造、メタノール分散、表面処理剤γ−グリシドキシプロピルトリメトキシラン、触媒化成工業(株)製、商品名:オプトレイク、固形分濃度20%)200質量部を加えて攪拌し、さらに尿素2質量部を混合して完全に溶解させる。さらに、0.1N塩酸水溶液を7質量部と、シリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング(株)製、商品名:L−7604)1質量部を添加し、30分攪拌する。これにより、プライマー層形成用組成物が得られる。
【0074】
3.1d 屈折率が1.635のポリエステルプライマーの例
実施例1の屈折率が1.635のプライマー層2は次のようにして成膜してもよい。ステンレス製容器内において、メチルアルコール220質量部に水100質量部を投入し、十分に攪拌して混合する。攪拌混合後、酸化チタン、酸化スズ、および酸化ケイ素を主体とする複合微粒子ゾル(ルチル型結晶構造、メタノール分散、全固形物濃度20重量%、触媒化成工業(株)製、商品名:オプトレイク1120Z)70質量部を加え、攪拌して混合する。攪拌混合後、水性ポリエステル(伊藤光学(株)製)80質量部を加え、攪拌して混合する。シリコーン系界面活性剤(日本ユニカー(株)製、商品名:L−7604)1質量部を添加して、2時間攪拌して混合する。これにより、プライマー層形成用組成物が得られる。
【0075】
3.1e 屈折率が1.635のビニルアルコールプライマーの例
実施例1の屈折率が1.635のプライマー層2は次のようにして成膜してもよい。ステンレス製容器内において、メタノール70質量部に水600質量部を加える。この溶液に、平均重合度1000の完全ケン化型ポリビニルアルコール(和光純薬(株)製)100質量部を純水900質量部に混合する。さらに、これに、90℃で3時間保持して完全に溶解させたポリビニルアルコール溶液を300質量部混合して溶解させる。さらに、酸化チタン、酸化スズ、酸化ケイ素を主体とする複合微粒子ゾル(ルチル型結晶構造、メタノール分散、表面処理剤γ−グリシドキシプロピルトリメトキシラン、触媒化成工業(株)製:商品名オプトレイク)、固形分濃度20%)60質量部を加えて攪拌し、さらに尿素1質量部を混合して完全に溶解させる。さらに、0.1N塩酸水溶液を7質量部と、シリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング(株)製、商品名:L−7604)1質量部を添加し、30分攪拌する。これにより、プライマー層形成用組成物が得られる。
【0076】
プライマー層2を形成する第1の組成物、ハードコート層4を形成する第2の組成物の例はこれらに限定されない。バインダー層含有タイプの積層体12を採用することにより様々な組成(システム)のプライマー層2およびハードコート層4を含む積層体を採用できる。
【0077】
3.2 シミュレーション
図11に、実施例2および3の眼鏡レンズのサンプルにおいて、バインダー層3の層厚を100nmにセットしたときのプライマー層2の層厚と色相角Hとの関係を、図6と同様の条件でシミュレーションした結果を示している。また、実施例1の眼鏡レンズのサンプルのシミュレーションも合わせて示している。プライマー層2の層厚と色相角Hとの関係は、実施例2および実施例3の眼鏡レンズにおいても、実施例1の眼鏡レンズと同様の傾向が見られる。
【0078】
4. プライマー層の層厚とバインダー層の層厚との関係
実施例2および3の各サンプルについて同様にシミュレーションを行い、色相角の変位H2が±2.5度を超えるプライマー層2の最小厚みTm(2.5)を求めた。その結果を実施例1の結果とともに図12にバインダー層3の厚みに対して示している。
【0079】
さらに、実施例1、2および3の各サンプルについて、色相角の変位H2が±2.0度を超えるプライマー層2の最小厚みTm(2.0)と、色相角の変位H2が±1.5度を超えるプライマー層2の最小厚みTm(1.5)とを求め、実施例1〜3の中の最小値を図13にバインダー層3の厚みに対して示している。
【0080】
図7に示したように、バインダー層3の厚みは35nm以上が好ましく、50nm以上がさらに好ましい。また、図7および図12の結果より、バインダー層含有タイプの積層体12を有する光学物品において、プライマー層2の厚みが700nm以上であれば、色相角の変位H2がバインダー層非含有タイプの積層体11を有する光学物品と同程度、すなわち、変位H2が±2.5度程度に収まり、バインダー層非含有タイプの積層体11を有する光学物品と同程度に干渉縞の発生を抑制できる可能性があることが分かる。さらに、プライマー層2の厚みが800nm以上であれば、バインダー層3の厚みが50nm以上であっても変位H2が±2.5度程度に収まり、密着性がさらに良好で、干渉縞の発生の少ない光学物品を提供できる。
【0081】
また、プライマー層2の厚みが1000nm以上であれば、実施例1〜3のすべてのサンプルで、バインダー層3の厚みが50nm以上であっても変位H2が±2.5度程度に収まり、密着性がさらに良好で、干渉縞の発生の少ない光学物品を歩留まり良く提供できる。
【0082】
また、図13の結果より、プライマー層2の厚みが900nm以上であれば、バインダー層3の厚みが50nm以上であっても色相角の変位H2が±2.0度程度以下、さらには、色相角の変位H2が±1.5度程度以下に収まり、密着性がさらに良好で、干渉縞の発生のさらに少ない光学物品を提供できる。なお、上述したように、プライマー層2の層厚は2000nm以下であることが望ましく、1500nmであることがさらに好ましい。
【0083】
5. まとめ
以上の結果より、光学基材1の上に形成されたプライマー層2と、プライマー層2の上にバインダー層3を挟んで形成されたハードコート層4とを有する眼鏡レンズ10などの光学物品においては、屈折率がプライマー層2の屈折率およびハードコート層4の屈折率よりも低いバインダー層3を設け、その層厚を少なくとも35nmにすることによりプライマー層2とハードコート層4との密着性を向上できる。したがって、様々な組成のプライマー層2およびハードコート層4との組み合わせを用いることができ、高屈折率の光学基材1を備えた光学物品を製造しやすくなる。さらに、プライマー層2の層厚を少なくとも700nmとすることにより、干渉縞の発生も抑制できるので、光学的な性能のさらに高い光学物品を提供できる。
【0084】
光学物品は上記の眼鏡レンズ10に限られず、カメラレンズ、望遠鏡用レンズ、顕微鏡用レンズ、ステッパー用集光レンズなど各種の薄型光学レンズ、さらには、プリズム、ガラス、DVDなどの物品を含み、それら光学物品を使用した製品、たとえば眼鏡も本発明の権利範囲に含まれる。
【0085】
さらに、上記のシミュレーションなどでわかったように、バインダー層3の層厚は、少なくとも50nmであることがさらに好ましい。また、プライマー層2の層厚は、少なくとも800nmであることが好ましく、少なくとも900nmであることがさらに好ましく、少なくとも1000nmであることがいっそう好ましい。
【0086】
また、バインダー層3を含む積層体12は、光学基材1にプライマー層2を形成する第1の組成物を塗布および仮焼成し、さらにハードコート層4を形成する第2の組成物を塗布および焼成して光学基材1の上に積層体12を形成することを有する光学物品の製造方法により製造できる。その際、仮焼成の温度thを制御することにより光学基材1の上にプライマー層2、プライマー層2の屈折率よりも低い屈折率のバインダー層3、およびハードコート層4が積層された積層体12を形成できる。したがって、仮焼成の温度thを制御するという簡易な製造方法によりバインダー層含有タイプの積層体12を含む光学物品を製造できる。そして、バインダー層含有タイプの積層体12のプライマー層2の層厚は、一般に、バインダー層を含まないバインダー層非含有タイプの積層体11を含む従来型の光学物品のプライマー層2の設計値の約2倍、好ましくは2.5倍程度あるいはそれ以上に設定することにより、干渉縞の発生が抑制され、光学的な性能の高い光学物品を提供できることが分かった。
【符号の説明】
【0087】
1 光学基材、 2 プライマー層
3 バインダー層、 4 ハードコート層
5 反射防止層、 10 光学物品
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学基材の上に形成されたプライマー層と、前記プライマー層の上にバインダー層を挟んで形成されたハードコート層とを有し、
前記プライマー層の層厚は少なくとも700nmであり、前記バインダー層の屈折率は前記プライマー層の屈折率および前記ハードコート層の屈折率よりも低く、前記バインダー層の層厚は少なくとも35nmである、光学物品。
【請求項2】
請求項1において、前記プライマー層の層厚は少なくとも800nmである、光学物品。
【請求項3】
請求項1または2において、前記プライマー層の層厚は少なくとも900nmである、光学物品。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかにおいて、前記プライマー層の層厚は少なくとも1000nmである、光学物品。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかにおいて、前記バインダー層の層厚は少なくとも50nmである、光学物品。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかにおいて、前記光学基材の屈折率が少なくとも1.7である、光学物品。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかにおいて、前記ハードコート層の上に形成された無機系の多層構造の反射防止層をさらに有する、光学物品。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかにおいて、前記光学基材はレンズ基材である、光学物品。
【請求項9】
請求項8に記載の光学物品を含む、眼鏡。
【請求項10】
光学基材にプライマー層を形成する第1の組成物を塗布および仮焼成し、さらにハードコート層を形成する第2の組成物を塗布および焼成して前記光学基材の上に積層体を形成することを有する光学物品の製造方法であって、
前記積層体を形成することは、前記仮焼成の温度を制御することにより前記光学基材上にプライマー層、前記プライマー層の屈折率よりも低い屈折率のバインダー層、およびハードコート層が積層された積層体を形成することを含む、光学物品の製造方法。
【請求項11】
前記光学基材の上にプライマー層、前記プライマー層の屈折率よりも低い屈折率のバインダー層、およびハードコート層が積層されたバインダー層含有タイプの積層体を有する光学物品の設計方法であって、
前記バインダー層含有タイプの積層体の前記プライマー層の第2の厚みを、前記光学基材の上に前記プライマー層および前記ハードコート層が積層されたバインダー層非含有タイプの積層体の前記プライマー層の第1の厚みの少なくとも2倍にすることを含む、設計方法。
【請求項1】
光学基材の上に形成されたプライマー層と、前記プライマー層の上にバインダー層を挟んで形成されたハードコート層とを有し、
前記プライマー層の層厚は少なくとも700nmであり、前記バインダー層の屈折率は前記プライマー層の屈折率および前記ハードコート層の屈折率よりも低く、前記バインダー層の層厚は少なくとも35nmである、光学物品。
【請求項2】
請求項1において、前記プライマー層の層厚は少なくとも800nmである、光学物品。
【請求項3】
請求項1または2において、前記プライマー層の層厚は少なくとも900nmである、光学物品。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかにおいて、前記プライマー層の層厚は少なくとも1000nmである、光学物品。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかにおいて、前記バインダー層の層厚は少なくとも50nmである、光学物品。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかにおいて、前記光学基材の屈折率が少なくとも1.7である、光学物品。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかにおいて、前記ハードコート層の上に形成された無機系の多層構造の反射防止層をさらに有する、光学物品。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかにおいて、前記光学基材はレンズ基材である、光学物品。
【請求項9】
請求項8に記載の光学物品を含む、眼鏡。
【請求項10】
光学基材にプライマー層を形成する第1の組成物を塗布および仮焼成し、さらにハードコート層を形成する第2の組成物を塗布および焼成して前記光学基材の上に積層体を形成することを有する光学物品の製造方法であって、
前記積層体を形成することは、前記仮焼成の温度を制御することにより前記光学基材上にプライマー層、前記プライマー層の屈折率よりも低い屈折率のバインダー層、およびハードコート層が積層された積層体を形成することを含む、光学物品の製造方法。
【請求項11】
前記光学基材の上にプライマー層、前記プライマー層の屈折率よりも低い屈折率のバインダー層、およびハードコート層が積層されたバインダー層含有タイプの積層体を有する光学物品の設計方法であって、
前記バインダー層含有タイプの積層体の前記プライマー層の第2の厚みを、前記光学基材の上に前記プライマー層および前記ハードコート層が積層されたバインダー層非含有タイプの積層体の前記プライマー層の第1の厚みの少なくとも2倍にすることを含む、設計方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−107359(P2011−107359A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−261585(P2009−261585)
【出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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