説明

光学用フィルムの製造方法

【課題】 ダイライン、ギヤマーク、その他の不規則な縞模様がなく、リターデーションが小さく、そのバラツキも少ない光学むらのない光学用に適したフィルムを溶融押出方法によって製造する方法を提供する。
【解決手段】 熱可塑性樹脂を溶融押出して、金属又はセラミックの冷却ロール2とゴムロール3との間隙に溶融樹脂8を支持体層9とともに挟圧してフィルムを製造するに際し、前記冷却ロール2の周速度と、ゴムロール3を押圧するためのバックアップロール4の周速度との比を±2%内にコントロールすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学用フィルムの製造方法に関し、更に詳しくは、厚みむらが少なく、優れた平滑性を持ち、全面に亘り均一な光学特性を有する光学用フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置には光学用フィルム又はシート(以後、フィルムと総称)が多用されている。液晶表示装置には、偏光を発生させるための偏光膜や表面に透明電極を設けたタッチパネル及び透明電極を設けたガラス基盤に代わるプラスチック基盤及び液晶分子から発生するリターデーション等からの光学位相差を補償するための位相差板等が配備されている。
【0003】
偏光膜にあっては、延伸ポリビニルアルコールヨード吸着膜等の例では、湿気から守るために耐湿性の保護膜が貼合される。このような保護膜として、通常、トリアセチルセルローズのキャストフィルムが使用されている。タッチパネルはフィルム基盤上に透明導電層を設けて使用され、通常、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムが使用されている。
また、位相差板はポリカーボネート、ポリスルホン、ポリアリレート、ポリフェニレンスルフィド等の耐熱性の高分子フィルムを一軸又は二軸に延伸して配向させて用いられる。そして、これらのフィルムには、透明性、防湿性、複屈折性の改善が要望されている。
【0004】
更に、前記液晶表示装置用の各種光学用フィルムの合理化、品質向上が求められている。正確な液晶表示を得るためには、これらの光学用フィルムには、第1に、全面に亘って残留応力が少なく低い位相差でありバラツキも少ないこと、第2に、位相差は厚みにも比例するので厚みむらやダイラインがないこと、及び厚みも所望の厚みに等しくすること、が必要である。第3に、当然、フィルム傷、異物の混入、しわ等は避けなければならない。
近年、環状ポリオレフィンによるフィルムが高い透明性と耐熱性を有し、低い吸湿性であって、その上に分子配向時に複屈折が生じ難いので光学用フィルムとして注目されるようになった。
【0005】
従来、光学用フィルムの製造方法としては、以下のような方法が提案されている。
(1)樹脂を溶剤に溶解させて溶液とし、この溶液を無端の金属ベルトまたはベースフィルムの上に流延した後、溶剤を乾燥除去して樹脂層を形成し、その後、樹脂層を無端の金属ベルトまたはベースフィルムから剥離分離する方法(特許文献1参照)。
(2)樹脂を押出機を用いてダイから膜状に溶融押出し、冷却ロールにて冷却して得る方法(特許文献2参照)。
【0006】
しかしながら、上記(1)の方法では、溶剤を完全に乾燥して除去することは難しく、残留溶剤にむらが出来ると延伸の際に応力むらとなり、均一な位相差を実現出来ない。特に均一な品質を得るためには、比較的低い温度より乾燥を始め、徐々に温度を高めなければならず、加工速度を上げると過大な乾燥設備を要し、大量のエネルギーが必要となり、その結果、製造設備が高くなり、またランニングコストが高くなる。その上に、溶剤により作業環境が悪化する虞れがあり、その保全に費用がかかる。
【0007】
上記(2)の方法は、複数の冷却ロールを用いることが多く、金属ロールとの接着力が弱く、従って、各ロール間で樹脂が約50℃以下に冷却されるとロールとの接着力がなくなり、且つ体積変化により剥離して収縮応力が発生し引張応力が残留してしまう。これを避けるためには、温度及びロールの回転速度とバンク量のコントロールに精密な制御を必要とするが、残留応力を一定とすることは難しい。更に、ダイからのネックインによる製膜両端の残留応力が特に大きく、大巾なトリミングを必要とする。その上に、得られるフィルムには、厚みむら、ダイライン、ギヤマークが発生しやすく、光学用途に供する原反は得られ難い。
【0008】
この溶融押出法の欠点を改善するために、押出機のダイから吐出した溶融樹脂を一対のロールによって挟圧する方法が提案されている(特許文献3参照)。しかしながら、この方法では光学的用途に供し得るような、ダイライン、ギヤマーク、厚みむらを解決したフィルムを提供することは困難である。また、一対のロールの挟圧ではロールのクラウン間の制御間隙しかなく、加工速度が速くなると運転条件が制約されて、上記各種のむらの解消には不十分である。この改善のために、無端金属ベルトを上下に設置し、その間に溶融樹脂を挟圧する方法が提案されている(特許文献4参照)。しかし、この方法でも挟圧の個所が金属ベルトを挟圧するロール間の挟圧のみであり、金属ベルトと樹脂との接着性が不足したり、温度勾配が取れなくなり、均一なフィルムが得られ難い。
【0009】
無端金属ベルトによる挟圧を改善するために、多くの提案がなされている。例えば、ポリプロピレンの場合には、1個のキャストロールと1個の無端金属ベルトとを組み合わせ、金属ベルトをキャストロールの円弧に沿わせて挟圧する方法がある(特許文献5参照)。また、この方法での問題点である剥離模様の解消の方法が提案されている(特許文献6参照)。そして、押しつけロールにゴムが使用した例があるがステンレスベルトを介しての挟圧であるため、挟圧の効果は少なく、剥離模様の改善に留まっている。
【0010】
金属ロールをタッチロールで油圧ピストンやスプリングにより溶融樹脂を挟圧して光学用フィルムを得ようとする提案がある(特許文献7参照)。この場合、タッチロールは金属でもゴムでも使用できると記述されている。しかし、支持体は用いられていないので、ゴムを使用した場合には、ロールの表面精度が厳しく写し取られ、フレキシブルスリーブを被らせたりする提案があるが、表面性及び長期間の運転に難がある。
【0011】
最近になって、金属ロールとゴムロールにより溶融樹脂を直接挟圧して光学用フィルムを得た例が報告されている(特許文献8参照)。この場合は、加硫ゴムロール上に同じゴムの溶液又はエマルジョンを塗布して凹凸を調製し、且つ、ゴムロールと金属ロールの間隙の調節によってフィルム表面特性を調節しようとしている。しかし、この方法では、ロングランで製造した時のゴムロールの耐久性と安定したフィルム表面性が得られ難い。
【0012】
一方、基材を用いる例としては、光学用フィルムの製造ではないが、基材の鏡面光沢フィルムを利用し積層転写して、この面を金属蒸着して用いる方法が知られている(特許文献9参照)。しかし、このような方法で得られるフィルムの品質は、光学用フィルムの品質に達するには至っていない。
【0013】
溶融押出法によって光学用フィルムを製造しようとする場合、各種の工夫と改良を重ねても押出ダイより発生するダイラインと溶融押出樹脂の剪断による樹脂の流れ、冷却による樹脂の収縮及び引き取りによるフィルムにかかる応力によって残留位相差が発生する。これを改善するために、通常は金属ロールと金属ロールまたは平滑な金属ベルトとの間に挟圧して平滑面を写し取り、更に押出方向の樹脂の流れとダイラインなどの押出方向の樹脂の厚みむらを、圧力により他の方向への樹脂の流れを生じせしめることにより解消しようと試みられてきた。
【0014】
このような技術として、硬質素材、即ち、金属またはセラミックからなる冷却ロールと、軟質素材からなるロール、即ち、ゴムロールとを用い、しかも熱の不良導体の合成樹脂フィルム等からなる支持体層を介して溶融押出樹脂層を挟圧することにより、金属と金属の挟圧の場合よりも支持体層と押出樹脂との接着性や密着性を強め、ゴムロールによる圧力の分配を起こし、ダイからの溶融樹脂の厚みむらが生じていても他の方向へ樹脂の流れを生じやすくするとともに平坦化して、且つ、写し取りやすいゴムロール表面の精度を支持体層により緩和し、支持体層の表面の平滑性を良く写し取りロングラン性を高め、ダイラインの消滅及びダイ内流動による残留応力が大巾に減少させる方法が提案されている(特許文献10参照)。
【0015】
支持体層と溶融樹脂を積層するラミネーション技術では、金属製の冷却ロールと挟圧するゴムロールとは一方の駆動を自然な連れ回りで伝達運転されるのが普通である。そこでは溶融樹脂を介して駆動力が伝達されるので、2つのロール間の周速度に若干のずれが生じる。
一方、挟圧して光学用フィルムが製造される場合は、前述の特許文献7では金属の冷却ロールとタッチロールの線速比は適宜選択されると記述され、通常0.5〜3倍としている。また、他の例では、無端の金属ベルトを使用した挟圧の場合において、冷却ロール側は独立駆動させず金属ベルトに連れ回りにするのが良いと記述されているが、金属ベルトと冷却ロールとの周速度及びその影響については何ら記載されていない(特許文献11参照)。
【特許文献1】特開平4−301415号公報
【特許文献2】特開平4−118213号公報
【特許文献3】特開平2−61899号公報
【特許文献4】特開平3−75110号公報
【特許文献5】特開平6−170919号公報
【特許文献6】特開平10−10321号公報
【特許文献7】特開2000−280315号公報
【特許文献8】特開2004−155101号公報
【特許文献9】特開昭59−5056号公報
【特許文献10】特開2004−306549号公報
【特許文献11】特開平10−16034号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は上記従来技術の有する問題点を解消し、液晶表示装置に使用される各種の光学用フィルム、例えば、位相差板用光学フィルム等の原反として有用な、ダイラインやギヤマーク等の厚みむらがなく、均一な厚みの残留位相差のほとんどない光学用フィルムを安価で生産性よく製造することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、かかる実情に鑑み、上記課題を解決するべく鋭意研究の結果、押出ダイよりフィルム状に溶融押出した熱可塑性樹脂を支持体層とともに金属又はセラミックからなる冷却ロールとゴムロールとで挟圧して、目的とする光学用フィルムを製造する場合に、支持体層とともに挟圧される溶融樹脂を介して冷却ロールとゴムロールが駆動されるために、この間で微妙な周速度のずれを起こしやすく、光学用フィルムにとっては、この影響が大きいことを知見し、これを防止する方法を見い出して本発明に至った。
【0018】
即ち、本発明の請求項1は、熱可塑性樹脂を溶融押出して、金属又はセラミックの冷却ロールとゴムロールとの間隙に支持体層とともに挟圧してフィルムを製造するに際し、金属又はセラミックの冷却ロールの周速度とゴムロールを押圧するためのバックアップロールの周速度との比を±2%の範囲内にコントロールすることを特徴とする光学用フィルム製造方法である。
【0019】
本発明の請求項2は、金属又はセラミックからなる冷却ロールの駆動装置とバックアップロールの駆動装置とを独立して設け、個々に調整して運転することを特徴とする請求項1記載の光学用フィルム製造方法である。
【0020】
本発明の請求項3は、支持体層をゴムロール側に配備することを特徴とする請求項1又は2記載の光学用フィルム製造方法である。
【0021】
本発明の請求項4は、支持体層をゴムロール側及び冷却ロール側にともに配備することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学用フィルム製造方法である。
【0022】
本発明の請求項5は、支持体層が2軸延伸したポリエチレンテレフタレートのフィルムであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の光学用フィルム製造方法である。
【0023】
本発明の請求項6は、熱可塑性樹脂が環状ポリオレフィンであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の光学用フィルム製造方法である。
【発明の効果】
【0024】
本発明の製造方法によれば、冷却ロールの周速度とゴムロールを押圧するためのバックアップロールとの周速度との比を特定の範囲内にコントロールすることにより、厚みむらが少なく、優れた平滑性を有し、僅かな光学的オーダーの凹凸もなく、低いリターデーションで全面に亘り均一な光学特性を有する光学用フィルムが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明は、熱可塑性樹脂を溶融押出して、金属又はセラミックの冷却ロールとゴムロールとの間隙に支持体層とともに挟圧してフィルムを製造するに際し、金属又はセラミックの冷却ロールの周速度とゴムロールを押圧するためのバックアップロールの周速度とを±2%の範囲内にコントロールすることを特徴とする。
支持体層を用いて溶融樹脂を金属又はセラミックスの冷却ロールとゴムロールで挟圧する場合、この2つのロールの間の周速度比は得られるフィルムの表面特性に大きな影響がある。これらのロール間の周速度比を調整するために冷却ロール側駆動と独立にゴムロール側駆動を設け個々に調節して運転してみると、2つのロール間の周速度がずれるとフィルム流れ方向に対する横縞やフィルム端部からの斜め方向の縞及び支持体層の僅かな揺動による不規則な縦縞が入りやすく、従って、2つのロール間の周速度は完全に一致した方が得られるフィルムの表面特性が良い。しかし、両ロールの駆動からの周速度を一致させても不規則な波打った各種の縞が入りやすい。これはゴムロールの押圧時にゴムロールが真円から変形するので、ゴムロールの中心芯駆動ではゴムロールの周速度にバラツキが生じて完全な周速度を一致させることができないためである。従って、ゴムロールの回転速度からの周速度ではなく、真の周速度を与える駆動が必要である。
【0026】
挟圧に用いられるゴムロールはフィルム吐出幅全域に亘って均一な押圧を与えるために、ゴムロールととも回りする剛性のある金属ロールを通して押圧するバックアップロールを設けることが好ましい。この場合、金属ロールとゴムロールは固体同志で密接しているので滑りはない。真円のバックアップロールに中心芯駆動を与えればゴムロールに精度の良い周速度を与えることができる。
【0027】
冷却ロールの周速度とバックアップロールから与えられたゴムロールの周速度を変化させて得られるフィルムの表面特性を調べると、この周速度比が±2%の範囲内であれば良好であることがわかった。周速度比が2%を越えてずれるとフィルム幅方向に横縞が僅かに不規則に生じ、更にずれると縦、横ともに不規則な波形が目立ち、更に両端部から中央に向かって斜めしわが混在する。周速度比は好ましくは±1%の範囲内である。
周速度比を上記の値にコントロールする方法としては、冷却ロールの駆動装置とは独立してバックアップロールにも駆動装置を設け、この両駆動装置を個々に調整して運転することが好ましい。更に、両駆動装置を電気的に又は機械的に或る一定の比率の下に連動して運転することもできる。
【0028】
本発明に用いられる熱可塑性樹脂は、光学用フィルムの製造に適した樹脂が選ばれる。このためには、透明な樹脂であること、及び、例えば組み込まれた液晶表示装置の使用時の信頼性を高めるために、耐熱性や耐湿度性を実用的に差支えない程度に備えていることが求められる。このような熱可塑性樹脂としては、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリアリレート、芳香族ポリエステル、環状ポリオレフィン等が好適である。なかでも環状ポリオレフィンは他の熱可塑性樹脂に比較して、低吸湿性で耐熱性が高く、優れた光学特性を有し、特に分子が配向した時に分子の配向による複屈折が生じにくいため、光学用フィルムの原反の製造に適している。
【0029】
環状ポリオレフィンとは、主鎖及び/又は側鎖に脂環式構造を有するものである。脂環式構造としてはシクロアルカン、シクロアルケン構造を挙げ得るが、シクロアルカン構造が光学用としては適している。これらの脂環式構造の単位は5〜15個の炭素原子数が好ましい。そして、これらの脂環式構造を有する単位が50重量%以上含まれる重合体が好ましい。このような重合体としては、ノルボルネン系重合体、単環の環状オレフィン系重合体、環状共役ジエン系重合体、側鎖脂環式構造を有する炭化水素重合体及びこれらの水素添加物などが挙げられる。これらの中でもノルボルネン系重合体及びその水素添加物、環状共役ジエン系重合体及びその水素添加物が好ましい。これらの代表的な樹脂として、アートン(JSR株式会社製商品名)、ゼオネックス(日本ゼオン株式会社製商品名)、ゼオノア(日本ゼオン株式会社製商品名)、アペル(三井化学株式会社製商品名)等を挙げることができる。
【0030】
本発明の溶融押出成形方法を説明するための模式図を図1に示す。同図では、押出ダイ1から押し出されたフィルム状の溶融樹脂8の部分より示す。押出機は単軸、二軸または溶融混練機のいずれでもよい。それぞれのスクリューの形状は適宜選択され、特に限定されない。通常、スクリューの直径は40〜150mm、L/Dはは20〜38、好ましくは25〜34であり、圧縮比は2.5〜4である。
【0031】
樹脂の押出機への投入方法に制約はないが、ホッパー内の樹脂粉の発生が極力少なくなるように乾燥、搬送すること、乾燥温度に近い±2℃の樹脂温度で押出機に投入すること、又はガラス転移温度(Tg)の高い樹脂種ではTgの60%〜80%の温度に加温するとスクリュー内の滞留時間が短くなり良質のフィルムが得られやすい。更に、ホッパー内部とシリンダーの溶融ゾーンを窒素パージして酸素濃度を下げることは好ましい態様である。
【0032】
溶融樹脂は、メッシュまたは多孔質フィルター材を通過して異物を除いた後、ギヤーポンプを通して一定の時間当たりの吐出量を確保するのが好ましい。その後、押出ダイ1からフィルム状の溶融樹脂8として押出される。押出ダイ1はシートやフィルムを成形するために用いられる通常の形状のものでよい。例えば、コートハンガー型、ストレートマニホールド型、フィッシュテール型ダイが使用できる。押出ダイ1の開孔部の間隙は目的とするシートやフィルムの厚みに応じて選定されるが、通常は0.3mm〜3mm程度である。
【0033】
図1において、押出ダイ1から押し出されたフィルム状の溶融樹脂8は、金属又はセラミックからなる冷却ロール2とゴムロール3の間に挟圧された支持体層9の間に挟み込まれる。冷却ロール2には駆動装置が接続されている。ゴムロール3は、溶融樹脂8の全幅に均一な圧力を与えるために金属のバックアップロール4により冷却ロール2の側へ押さえ付けられる。バックアップロール4には駆動装置が設けられ、ゴムロール3に一定の周速度が伝えられる。またゴムロール3と冷却ロール2との間隙が設定される。
【0034】
冷却ロール2とゴムロール3との間隙の設定は、バックアップロール4を通じて設定された押圧力によって調節される。押圧力は、空気圧を通じてエアーシリンダーによりバックアップロール4に伝えられる。更に、厳密な間隙の設定は、コッターと呼ばれるストッパーを利用して行うと良い。これは1個のストッパーが冷却ロール側かゴムロール側の回転軸に設けられ、他のストッパーはこれに対応した固定したレール上に設けられて相互に傾斜面で受け止め、傾斜面を上下に摺動することにより微調整できるようになっている。このストッパーにより冷却ロール2とゴムロール3との接近の限度が定められ、そしてバックアップロール4よりゴムロール3に押圧力が加えられる。
【0035】
冷却ロール2は精密に温度制御され、通常、溶融樹脂8のガラス転移温度を起点として+30℃から−70℃の範囲が適切である。溶融樹脂8は冷却ロール2と支持体層9に挟まれながら支持体層9と擬似的に接着された状態で第2冷却ロール5に搬送され、一定の張力の下で該冷却ロール5に押し付けられて冷却され、成形フィルム11とされる。
【0036】
成形フィルム11と支持体層9は擬似的な接着状態で第2冷却ロール5から第3冷却ロール6により調節された引き取り力で引き取られ、ここで支持体層9を剥離分離した成形フィルム11はロール7を経てフィルム製品12として巻取りリール(図示せず)に送られ巻き取られる。各ロールは連動して、または独立に駆動力を与えられて、支持体層9と溶融樹脂8もしくは成形フィルム11とがともに搬送されるように運転される。
【0037】
支持体層9は溶融樹脂8の両側から支持することもできる。図2は、ゴムロール3と接する側及び冷却ロール2と接する側の双方に支持体層9及び10を配した場合の模式図である。冷却ロールの温度条件を含めて、図1の片側の支持体層の場合とほぼ同じ要領で運転される。成形フィルム11は、冷却ロール6、ロール7によりそれぞれの支持体層9及び10が剥離分離されてフィルム製品12として巻き取られる。
【0038】
挟圧される支持体層としては、金属に比べて熱の不良導体であることが重要で、合成樹脂のフィルム類が好ましい。支持体層の表面の平滑性が、目的とするフィルム製品の表面に転写されるおそれがあるので、できるだけ平坦な凹凸の少ない表面を有する支持体層が好ましく、JISB0601に定められた中心線平均粗さで0.01μm以下の表面粗さ特性を有する支持体層が好ましい。更に、支持体層としての合成樹脂のフィルム類にあっては、フィルム状に押出された溶融樹脂の温度に耐えるものでなければならない。従って、比較的耐熱性の高い、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルフィド、ポリイミド等のフィルム類、二軸延伸ポリエチレンテレフタレート、二軸延伸ポリエチレンナフタレート等の二軸延伸フィルム、等を挙げることができる。特に、平滑性の良好な点で、溶剤によるキャスティングによって得られる上記樹脂からなるフィルム類やトリアセチルセルロースのキャスティングフィルム及び二軸延伸のポリエステルフィルム類が好ましい。
【0039】
挟圧に用いられるゴムロール3は、金属芯の外周に同心円状に各種のゴム状物質を巻いた構造であり、ゴム状物質の厚さは適宜選ばれるが、通常、5〜15mmが適切である。
【0040】
ゴムロール3は、それを構成するゴム状物質の硬度が挟圧の効果に影響があり、ショアー硬度で60以上なければ効果が少ない。ショアー硬度で60未満であればダイからの溶融樹脂の厚みむらの平坦化効果は少なく残留位相差も大きい。またショアー硬度が100以上のゴムロールの存在は少ない。ゴム状物質は、SBR、NBR、クロロプレン、塩素化ポリエチレン、クロロスルホン化ポリエチレン、ポリエステルエラストマー、ウレタンゴム、シリコンゴム等とこれらの配合物等から選ぶことができるが、運転の使用温度等からNBR又はシリコンゴムが好ましい。
【0041】
金属又はセラミックの冷却ロール2とゴムロール3による挟圧の効果は、溶融樹脂8の温度、流動特性に負うところが多い。従って、最適な押出し条件の下に樹脂は押出されるが、ダイより吐出後のエアーギャップ間で冷却され溶融樹脂8の最適状態を保持し難い。これを防ぐために、このエアーギャップ間を保温し又は加熱して溶融樹脂8の冷却を防ぐことが好ましい。
【0042】
光学用フィルムの光学むらには、フィルム製造の運転方向に沿ったダイライン、及び厚薄むら等の縦縞、エアーギャップによる肉厚部からのいろいろな方向の縞、主に斜め方向の縞と運転方向と直交するギヤマークによる横縞と、フィルムの冷却ロールや支持体層との密着不足による密着むら等がある。
【0043】
ゴムロール3又は冷却ロール2の挟圧相手側への押圧力は過大になると縦縞は解消し易いが、横縞や斜め縞が発生し易い。押圧力が過少になると横縞は発生しないが縦縞は解消できず、空気の巻き込みによる密着むらを起こす。
支持体層9、10の膜厚は限定されないが、薄すぎると効果少なく、厚すぎると運転に支障を起こしやすい。従って、通常、50μm〜ら200μmが適している。
支持体層9、10は、溶融樹脂8と挟圧される前に予熱して供給することができる。その温度は運転の冷却温度以上で支持体層9、10が熱収縮を起こさない温度である。
【0044】
支持体層9、10と溶融樹脂層8とは、上記したように、冷却され剥離分離されるまではともに搬送される。両者が異種の場合には接着が不足してともに搬送し難い場合があるが、このような場合には、支持体層側の接着力を増すために溶融樹脂層との積層側の面をコロナ放電処理、オゾン処理、フレーム処理、グロー放電、プラズマ放電処理などの表面処理を行い接着力を高めることが好ましい。成形フィルム11は、支持体層9、10を剥離分離した後、適切な寸法で両端部をトリミングしてフィルム製品12とする。
【0045】
各種の光学用フィルムの原反として用いられる押出フィルムとしては、ダイラインがなく、膜厚の均一なフィルムが要求される。膜厚の最大と最小の差は平均膜厚の5%以下が好ましく、より好ましくは2%以下である。フィルムの表面の粗さは、JISB0601にもとづいた中心線平均粗さRaで0.01μm以下が好ましい。ダイラインの解消は、溶融樹脂を適切なフィルター材を通して異物を減少させること、及び焼け樹脂の発生の少ない押出条件を設定してダイからのダイラインを減少せしめ、フィルム状に押出されるダイの内面平滑性は無論のこと、ダイ間隙の調整を厳密に行い、支持体層と挟圧される運転条件を前述の如く最適化することによって達成される。
各種の光学用フィルムの原反として用いられる押出フィルムとしては、光学むらがないことが重要である。前述の如く光学むらには大別して縦縞、横縞、その他の縞模様と密着むら等が観察される。これらの光学むらは通常の透過光では観察されない場合でも斜めの方向に光を入射させ透過した光を垂直な面に写し出して観察すると極めて良く確認できる。斜めの方向を大きくしてゆくと益々観察しやすいが、通常45度方向入射で視認できなければ実用上差し支えることはない。
【0046】
更に、各種の光学用フィルムの原反として用いられる押出フィルムとしては、ばらつきの殆どない低複屈折フィルムであることが必要である。このばらつきはリターデーションをnmで表示した場合5nm以下が好ましく、これを実現するにはフィルムのリターデーションが小さい方が有利であるので、膜厚100μmでは20nm以下、好ましくは10nm以下とするのが良い。このためには、適切な樹脂を選び、更に適切な支持体層を選び挟圧する条件を調節する。このようなばらつきの小さいフィルムは、分子配向時に複屈折の生じ難い光弾性係数の小さい環状ポリオレフィンを使用して支持体層と挟圧成形することにより十分に達成することができる。
【0047】
上記の如くして得られた光学用フィルムは、ヨード吸着延伸ポリビニルアルコール偏光膜の耐湿保護膜として、各種の粘着剤又は接着剤と貼合して使用することができる。更に、表面に透明導電層を設けたタッチパネルや液晶表示用ガラス基盤代替のプラスチック基盤では、金属酸化物膜、例えばITO(インジウム−酸化スズ)膜やAZO(アルミニウムドープ酸化亜鉛)膜等をスパッタリングや金属蒸着によって形成することができる。
【0048】
更に、位相差板には、上記の光学用フィルムを原反として、予熱された後、一定の温度の下で周速度の異なる2本のロール間でフィルムの巻き方向と同一方に延伸することにより、縦方向延伸の位相差フィルムが得られる。これに対して、光学用フィルム原反をフィルムの両脇をクランプやピンでつかみ、走行しながら走行方向と直交した方向に伸ばすことにより、横方向の位相差フィルムが得られる。同様に、クランプやピンを走行しながら走行方向とこれと直交した方向の両方向に引き伸ばすと同時二軸延伸フィルムとなり、厚み方向の位相差フィルムが得られる。また、縦または横方向に延伸した後、さらにどちらかの方向に2段に延伸することもできる。延伸倍率は通常1.2倍〜3倍である。延伸に代えて、フィルム幅方向に縮まることのないロール間の圧延によっても延伸効果を得ることができる。
得られた延伸光学用フィルムは、各種の光学用フィルムとして有用である。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例を挙げて更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0050】
実施例1
(樹脂溶融押出の方法)
環状ポリオレフィン樹脂(アートンD4531、Tg132℃、JSR株式会社製)を、図1の模式図に示した溶融押出成形方法に従い、内径65mmのL/D32の単軸スクリューにて多孔質のフィルターを通した後、ギアーポンプで一定吐出量で吐出幅770mmの押出ダイ1よりフィルム状に押し出した。押出ダイ1としては、チョークレスのコートハンガーダイを用いた。押出ダイ1よりフィルム厚100μmになるように吐出した。溶融樹脂8の温度は267℃であった。
【0051】
(支持体層及び挟圧の方法)
支持体層9として、膜厚125μmで、JIS B0601に定められた表面粗さ特性が中心線平均粗さで0.005μm、最大粗さで0.07μm、10点平均粗さで0.07μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(O3LF8、帝人デュポンフィルム株式会社製)をゴムロール3側に配備し、直径250mmの金属製の冷却ロール2に駆動装置を設け、直径180mmのゴムロール3とこれに密接する直径180mmの金属製バックアップロール4にも駆動装置を設けた。90℃に保たれた金属製の冷却ロール2と金属芯に肉厚6.5mmで巻かれたNBRからなる850mm長さのゴムロール3との間に挟圧した。冷却ロール2とゴムロール3との間隙が110μmになるようにストッパーの位置を設定した。そして、バックアップロール4を通じてのゴムロール3への押圧力は5kgf/cm2 の空気圧を用いて半径3.15cmのエアーシリンダー2基によりロール両端を冷却ロール2側に押し付けた。押出ダイ1と金属ロール2とゴムロール3の挟圧個所までを保温板(図示せず)によって囲い、必要に応じてヒーターを設け、挟圧に適した温度に保った。運転速度については、冷却ロール2及びバックアップロール4の周速度はともに6.0m/分であった。
【0052】
(冷却巻き取りの方法)
支持体層9と溶融樹脂層8はともに47℃に保たれた第2の冷却ロール5に搬送され、次いで、35℃に保たれた第3の冷却ロール6に搬送され、ここで支持体層9のポリエチレンテレフタレートフィルムを剥離分離して巻き取り、一方、成形フィルム11は次のロール7を経てフィルム製品12として巻き取った。運転ラインの速度は6m/分で運転した。
【0053】
(フィルム特性の観察・測定の方法)
得られた成形フィルムの表面粗さ特性は支持体層のそれにほぼ近い特性を示し、その他の特性は下記の方法によって観察・測定し、その結果を表1に示した。
【0054】
膜厚:
試料フィルム幅方向に20mm間隔で25個所の膜厚を膜厚計により測定して平均値を求めるとともに、最高と最低の公差を求めた。
【0055】
リターデーション:
自動複屈折計 KOBRA−21ADHによりニコル偏光子とニコル検光子をともに平行に置き、試料フィルム(試料寸法35mm×35mm)に単一波長光束を照射して光線軸回りに1回転したときの透過光強度の角度依存性から位相差を算出する(測定波長590nm)。
試料フィルムは幅方向に5個採取し、5個所の平均値と最高と最低の公差を求めた。
【0056】
光学むら:
図3に示す如く、光源13として150Wのキセノンランプの点光源よりの光線に対して、縦縞観察の場合はフィルム製品12の流れ方向を立て製品の45度方向より光を入射し透過光を背後のスクリーン14に写し出して観察する。横縞観察の場合はフィルム製品を横にして観察する。斜め縞は両端に入りやすく、密着むらとともにその双方から観察する。観察結果の評価は次の基準による。結果は表1に示した。
縞模様、むら状態が明らかに存在する 0ポイント
縞模様、むら状態がぼんやり存在する 1ポイント
縞模様、むら状態が僅かに存在する 2ポイント
縞模様、むら状態が確認できない 3ポイント
【0057】
実施例2
金属製冷却ロール2の駆動装置の周速度を6.0m/分に設定し、バックアップロールの周速度を5.9m/分として運転した。巻き取り張力の変動により変動するが、製品の運転速度はほぼ6.0m/分であった。得られたフィルムの特性値を表1に示した。
【0058】
比較例1、2
実施例1の金属製冷却ロール2の周速度を6.0m/分に保ち、バックアップロール4の周速度をそれぞれ5.8m/分と減速(比較例1)又は6.2m/分に増速(比較例2)した他は実施例1と同様にして得られたフィルムの特性を表1に併記した。製品の運転速度は実施例2と同様であった。
【0059】
比較例3
金属製冷却ロール2には駆動装置は設けるが、ゴムロール3及びバックアップロール4には駆動装置は設けず、冷却ロール2の駆動力によってゴムロール3及びバックアップロール4が連れ回る方法とした他は実施例1と同様にしてフィルムを得た。その結果、冷却ロール2の周速度6.0m/分に対してバックアップロール4の周速度は5.7m/分を示し、巻き取り張力の変動により若干変動するが製品速度は5.9m/分を示した。この時得られたフィルムの特性を表1に併記した。
実施例1、2及び比較例1〜3から明かなように、冷却ロール2の周速度とバックアップロール4の周速度が前者の周速度を基準として2%よりも大きく増減すると光学むらを起こし表面特性が悪化することがわかる。
【0060】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0061】
熱可塑性樹脂を溶融押出して金属又はセラミックの冷却ロールとゴムロールとの間隙に支持体層とともに挟圧してフィルムを製造する際に、ゴムロールを押圧するためにバックアップロールを設け、このバックアップロールの周速度と金属又はセラミックの冷却ロールの周速度とを特定の範囲内にコントロールするようにして製造することにより、ダイラインやギヤーマークその他の縞模様なくリターデーションが小さく、そのバラツキも小さい光学むらのないフィルムが得られ、液晶表示装置等に使用される各種の光学用フィルムとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の光学用フィルムを、フィルム片面に支持体層を配備し挟圧して製造する場合の模式図である。
【図2】本発明の光学用フィルムを、フィルム両面に支持体層を配備し挟圧して製造する場合の模式図である。
【図3】光学用フィルムの光学むらを観察するための模式図である。
【符号の説明】
【0063】
1 押出ダイ
2 金属又はセラミックからなる冷却ロール
3 ゴムロール
4 バックアップロール
5 第2冷却ロール
6 第3冷却ロール
7 ロール
8 溶融樹脂(層)
9 ゴムロール側支持体層
10 冷却ロール側支持体層
11 成形フィルム
12 フィルム製品
13 キセノンランプ点火源
14 スクリーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を溶融押出して、金属又はセラミックの冷却ロールとゴムロールとの間隙に支持体層とともに挟圧してフィルムを製造するに際し、金属又はセラミックの冷却ロールの周速度とゴムロールを押圧するためのバックアップロールの周速度との比を±2%の範囲内にコントロールすることを特徴とする光学用フィルム製造方法。
【請求項2】
金属又はセラミックからなる冷却ロールの駆動装置とバックアップロールの駆動装置とを独立して設け、個々に調整して運転することを特徴とする請求項1記載の光学用フィルム製造方法。
【請求項3】
支持体層をゴムロール側に配備することを特徴とする請求項1又は2記載の光学用フィルム製造方法。
【請求項4】
支持体層をゴムロール側及び冷却ロール側にともに配備することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学用フィルム製造方法。
【請求項5】
支持体層が2軸延伸したポリエチレンテレフタレートのフィルムであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の光学用フィルム製造方法。
【請求項6】
熱可塑性樹脂が環状ポリオレフィンであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の光学用フィルム製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−159827(P2006−159827A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−358007(P2004−358007)
【出願日】平成16年12月10日(2004.12.10)
【出願人】(000166649)五洋紙工株式会社 (43)
【Fターム(参考)】