説明

光学用マットフィルム

【課題】 フィルムの表面硬度、光学歪、耐熱性のいずれの点においても良好な光学用マットフィルムを提供する。
【解決手段】 ポリカーボネート系樹脂を含有するポリカーボネート系熱可塑性樹脂組成物からなる層(A)の少なくとも一方の面に、アクリル系樹脂を含有するアクリル系熱可塑性樹脂組成物からなる層(B)が積層されてなり、少なくとも1つの層(B)の表面がマット面である光学用マットフィルムであって、フィルム全体の厚さが30〜300μm、層(A)の厚さがフィルム全体の厚さに対して30%以上、層(B)の厚さが8μm以上であり、フィルムの波長590nmの入射光のリタデーション値が30nm以下にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学用マットフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
フィルム表面に凹凸形状(マット形状)を有するマットフィルムは、光拡散フィルムや偏光分離シート保護フィルムなどの光学用途に利用されており、このフィルムには、他部材との接触などによる、フィルム表面の傷付きを防ぐために、その表面硬度を高くすることが求められている。
また、例えば、このマットフィルムを液晶表示装置における偏光分離シートを保護するために、偏光分離シートの出射面上に積層して使用する際には、偏光分離シートから出射した偏光の偏光方向を変化させることがないように、その光学歪を小さくすることが求められる。さらに、マットフィルムは、液晶装置内で長期間発熱にさらされることになるため、かかる発熱への耐性が求められている。
【0003】
かかる光学用途に利用されるマットフィルムとしては、ポリカーボネート樹脂からなるフィルムの表面に、エンボスロール転写により所定の凹凸形状が形成されたもの(特許文献1、2)や、ポリカーボネート樹脂からなる層の表面に、球状ビーズが分散したアクリル系熱硬化性樹脂がコーティングされたもの(特許文献3)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−53998号公報
【特許文献2】国際公開第2008/081953号
【特許文献3】特開2001−42108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1〜3に記載のようなマットフィルムでは、フィルムの表面硬度、光学歪、及び耐熱性の点で必ずしも充分満足できるものではなかった。
【0006】
そこで、本発明の課題は、フィルムの表面硬度、光学歪、耐熱性のいずれの点においても良好な光学用マットフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、ポリカーボネート系樹脂を含有するポリカーボネート系熱可塑性樹脂組成物からなる層(A)の少なくとも一方の面に、アクリル系樹脂を含有するアクリル系熱可塑性樹脂組成物からなる層(B)が積層されてなり、少なくとも1つの層(B)表面がマット面であるマットフィルムによって上記課題が解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
(1)ポリカーボネート系樹脂を含有するポリカーボネート系熱可塑性樹脂組成物からなる層(A)の少なくとも一方の面に、アクリル系樹脂を含有するアクリル系熱可塑性樹脂組成物からなる層(B)が積層されてなり、少なくとも1つの層(B)の表面がマット面である光学用マットフィルムであって、フィルム全体の厚さが30〜300μm、層(A)の厚さがフィルム全体の厚さに対して30%以上、層(B)の厚さが8μm以上であり、フィルムの波長590nmの入射光のリタデーション値が30nm以下であることを特徴とする光学用マットフィルム。
(2)前記アクリル系熱可塑性樹脂組成物が、ゴム粒子を含有する前記(1)に記載の光学用マットフィルム。
(3)前記ゴム粒子が、アクリルゴム粒子である前記(2)に記載の光学用マットフィルム。
(4)前記マット面がマットロール転写により形成されたものである前記(1)〜(3)のいずれかに記載の光学用マットフィルム
(5)前記アクリル系熱可塑性樹脂組成物が、マット化剤を含有する前記(1)に記載の光学用マットフィルム
(6)前記マット化剤が、メタクリル酸メチル系重合体粒子、スチレン系重合体粒子、シロキサン系重合体粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種を主体とする透明微粒子である前記(5)に記載の光学用マットフィルム。
(7)前記ポリカーボネート系熱可塑性樹脂組成物及び前記アクリル系熱可塑性樹脂組成物が共押出成形されてなる前記(1)〜(6)のいずれかに記載の光学用マットフィルム。
(8)液晶表示装置に使用される前記(1)〜(7)のいずれかに記載の光学用マットフィルム。
(9)前記液晶表示装置における偏光分離シートの保護に使用される前記(8)に記載の光学用マットフィルム。
【発明の効果】
【0009】
本発明の光学用マットフィルムは、光学歪が小さいために、偏光の偏光方向を変化させることがなく、また、フィルムの表面硬度が高いために、他部材との接触などにより傷が付きにくく、さらには、発熱への耐性が高く、収縮や寸法変化率が少ないので、液晶装置内で使用する際には、長期間使用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の光学用マットフィルムの製造プロセスの一例を示す概略説明図である。
【図2】本発明の光学用マットフィルムを液晶表示装置における偏光分離シート保護フィルムとして使用した一例を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明の光学用マットフィルムは、ポリカーボネート系樹脂を含有するポリカーボネート系熱可塑性樹脂組成物からなる層(A)の少なくとも一方の面に、アクリル系樹脂および必要ならゴム粒子を含有するアクリル系熱可塑性樹脂組成物からなる層(B)が積層されてなり、少なくとも1つの層(B)の表面がマット面となるものである。
【0012】
<ポリカーボネート系熱可塑性樹脂組成物>
層(A)の形成材料である前記ポリカーボネート系熱可塑性樹脂組成物は、樹脂成分としてポリカーボネート系樹脂を含有するものである。
該ポリカーボネート系樹脂としては、例えば、耐熱性、機械的強度、透明性等に優れた芳香族ポリカーボネート樹脂が好適に用いられる。芳香族ポリカーボネート樹脂は、通常、二価フェノールとカーボネート前駆体とを界面重縮合法、溶融エステル交換法で反応させて得られたものの他、カーボネートプレポリマーを固相エステル交換法により重合させたもの、または環状カーボネート化合物の開環重合法により重合させて得られるものである。
【0013】
前記二価フェノールとしては、例えば、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス{(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチル)フェニル}メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチル)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモ)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(3−イソプロピル−4−ヒドロキシ)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−フェニル)フェニル}プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチルブタン、2,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−メチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−イソプロピルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}フルオレン、α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−o−ジイソプロピルベンゼン、α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼン、α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−5,7−ジメチルアダマンタン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルケトン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテルおよび4,4’−ジヒドロキシジフェニルエステル等が挙げられ、これらは単独または2種以上を混合して使用することができる。
【0014】
なかでも、ビスフェノールA、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンおよびα,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼンからなる群から選ばれる二価フェノールを単独で又は2種以上用いるのが好ましく、特に、ビスフェノールAの単独使用や、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンと、ビスフェノールA、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}プロパン及びα,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼンからなる群から選ばれる1種以上の二価フェノールとの併用が好ましい。
【0015】
前記カーボネート前駆体としては、例えば、カルボニルハライド、カーボネートエステルまたはハロホルメート等が使用され、具体的にはホスゲン、ジフェニルカーボネートまたは二価フェノールのジハロホルメート等が挙げられる。
【0016】
<アクリル系熱可塑性樹脂組成物>
層(B)の形成材料である前記アクリル系熱可塑性樹脂組成物は、樹脂成分としてアクリル系樹脂を含有するものである。
該アクリル樹脂としては、例えば、メタクリル樹脂が用いられる。メタクリル樹脂は、メタクリル酸エステルを主体とする重合体であり、メタクリル酸エステルの単独重合体であってもよいし、メタクリル酸エステル50重量%以上とこれ以外の単量体50重量%以下との共重合体であってもよい。ここで、メタクリル酸エステルとしては、通常、メタクリル酸のアルキルエステルが用いられる。
【0017】
メタクリル樹脂の好ましい単量体組成は、全単量体を基準として、メタクリル酸アルキルが50〜100重量%、アクリル酸アルキルが0〜50重量%、これら以外の単量体が0〜49重量%であり、より好ましくは、メタクリル酸アルキルが50〜99.9重量%、アクリル酸アルキルが0.1〜50重量%、これら以外の単量体が0〜49重量%である。
【0018】
ここで、メタクリル酸アルキルの例としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシルなどが挙げられ、そのアルキル基の炭素数は通常1〜8、好ましくは1〜4である。中でもメタクリル酸メチルが好ましく用いられる。
【0019】
また、アクリル酸アルキルの例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシルなどが挙げられ、そのアルキル基の炭素数は通常1〜8、好ましくは1〜4である。
【0020】
また、メタクリル酸アルキル及びアクリル酸アルキル以外の単量体の例としては、単官能単量体、すなわち分子内に重合性の炭素−炭素二重結合を1個有する化合物であってもよいし、多官能単量体、すなわち分子内に重合性の炭素−炭素二重結合を少なくとも2個有する化合物であってもよいが、単官能単量体が好ましく用いられる。
この単官能単量体の例としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンなどのスチレン系単量体、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化アルケニル、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、N−置換マレイミドなどが挙げられる。
また、多官能単量体の例としては、エチレングリコールジメタクリレート、ブタンジオールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレートなどの多価アルコールのポリ不飽和カルボン酸エステル、アクリル酸アリル、メタクリル酸アリル、ケイ皮酸アリルなどの不飽和カルボン酸のアルケニルエステル、フタル酸ジアリル、マレイン酸ジアリル、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートなどの多塩基酸のポリアルケニルエステル、ジビニルベンゼンなどの芳香族ポリアルケニル化合物などが挙げられる。
【0021】
なお、上記のメタクリル酸アルキル、アクリル酸アルキル、及びこれら以外の単量体は、それぞれ、必要に応じてそれらの2種以上を用いてもよい。
【0022】
メタクリル樹脂は、耐熱性の観点から、そのガラス転移温度が70℃以上であることが好ましく、80℃以上であるのがより好ましく、更には90℃以上であることが好ましい。このガラス転移温度は、単量体の種類やその割合を調整することにより、適宜設定することができる。
【0023】
メタクリル樹脂は、上記単量体成分を、懸濁重合、乳化重合、塊状重合などの方法により重合させることにより、調製することができる。その際、好適なガラス転移温度を得るため、又は好適な積層フィルムへの成形性を示す溶融粘度を得るためなどに、重合時に適当な連鎖移動剤を使用することが好ましい。連鎖移動剤の添加量は、単量体の種類やその割合などに応じて、適宜決定すればよい。
【0024】
<ゴム粒子>
アクリル系熱可塑性樹脂組成物にはゴム粒子を配合することもできる。ここで、ゴム粒子としては、例えば、アクリル系ゴム粒子、ブタジエン系ゴム粒子、スチレン−ブタジエン系ゴム粒子などのものを用いることができるが、中でも、耐候性、耐久性の点から、アクリルゴム粒子が好ましく用いられる。
【0025】
アクリルゴム粒子は、ゴム成分としてアクリル酸エステルを主体とする弾性重合体を含有する粒子であり、この弾性重合体のみからなる単層構造の粒子であってもよいし、この弾性重合体の層と、例えば、メタクリル酸エステルを主体とする重合体の層とを有する多層構造の粒子であってもよいが、アクリル系熱可塑性樹脂からなる層(B)の表面硬度の点から多層構造の粒子であることが好ましい。
また、この弾性重合体は、アクリル酸エステルの単独重合体であってもよいし、アクリル酸エステル50重量%以上とこれ以外の単量体50重量%以下との共重合体であってもよい。ここで、アクリル酸エステルとしては、通常、アクリル酸のアルキルエステルが用いられる。
【0026】
アクリル酸エステルを主体とする弾性重合体の好ましい単量体組成は、全単量体を基準として、アクリル酸アルキルを50〜99.9重量%、メタクリル酸アルキルを0〜49.9重量%、これら以外の単官能単量体を0〜49.9重量%、及び多官能単量体を0.1〜10重量%である。
【0027】
ここで、上記弾性重合体におけるアクリル酸アルキルの例としては、先にメタクリル樹脂の単量体成分として挙げたアクリル酸アルキルの例と同様であり、そのアルキル基の炭素数は通常1〜8、好ましくは4〜8である。
また、上記弾性重合体におけるメタクリル酸アルキルの例としては、先にメタクリル樹脂の単量体成分として挙げたメタリル酸アルキルの例と同様であり、そのアルキル基の炭素数は通常1〜8、好ましくは1〜4である。
【0028】
上記弾性重合体におけるアクリル酸アルキル及びメタクリル酸アルキル以外の単官能単量体の例としては、先にメタクリル樹脂の単量体成分として挙げたメタクリル酸アルキル及びアクリル酸アルキル以外の単官能単量体の例と同様である。中でもスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンなどのスチレン系単量体が好ましく用いられる。
【0029】
上記弾性重合体における多官能単量体の例としては、先にメタクリル樹脂の単量体成分として挙げた多官能単量体の例と同様であり、中でも、不飽和カルボン酸のアルケニルエステルや、多塩基酸のポリアルケニルエステルが好ましく用いられる。
【0030】
上記の弾性重合体におけるアクリル酸アルキル、メタクリル酸アルキル、これら以外の単官能単量体、及び多官能単量体は、それぞれ、必要に応じてそれらの2種以上を用いてもよい。
【0031】
アクリルゴム粒子として多層構造のものを使用する場合、その好適な例としては、上述したアクリル酸エステルを主体とする弾性重合体の層の外側に、メタクリル酸エステルを主体とする重合体の層を有するもの、すなわち、上述したアクリル酸エステルを主体とする弾性重合体を内層とし、メタクリル酸エステルを主体とする重合体を外層とする、少なくとも2層構造のものを挙げることができる。ここで、外層の重合体の単量体成分であるメタクリル酸エステルとしては、通常、メタクリル酸アルキルが用いられる。
また、外層の重合体は、内層の弾性重合体100重量部に対し、通常10〜400重量部、好ましくは20〜200重量部の割合で形成するのがよい。外層の重合体を、内層の弾性重合体100重量部に対し10重量部以上とすることで、該弾性重合体の凝集が生じ難くなり、アクリル系樹脂層の透明性が良好となる。
【0032】
上記外層の重合体の好ましい単量体組成は、全単量体を基準として、メタクリル酸アルキルを50〜100重量%、アクリル酸アルキルを0〜50重量%、これら以外の単量体を0〜50重量%、及び多官能単量体を0〜10重量%である。
【0033】
上記外層の重合体におけるメタクリル酸アルキルの例としては、先にメタクリル樹脂の単量体成分として挙げたメタクリル酸アルキルの例と同様であり、そのアルキル基の炭素数は通常1〜8、好ましくは1〜4である。中でもメタクリル酸メチルが好ましく用いられる。
【0034】
上記外層の重合体におけるアクリル酸アルキルの例としては、先にメタクリル樹脂の単量体成分として挙げたアクリル酸アルキルの例と同様であり、そのアルキル基の炭素数は通常1〜8、好ましくは1〜4である。
【0035】
上記外層の重合体におけるメタクリル酸アルキル及びアクリル酸アルキル以外の単量体の例としては、先にメタクリル樹脂の単量体成分として挙げたメタクリル酸アルキル及びアクリル酸アルキル以外の単官能単量体の例と同様であり、また、多官能単量体の例としては、先にメタクリル樹脂の単量体成分として挙げた多官能単量体の例と同様である。
【0036】
なお、上記の外層の重合体におけるメタクリル酸アルキル、アクリル酸アルキル、これら以外の単量体、及び多官能単量体は、それぞれ、必要に応じてそれらの2種以上を用いてもよい。
【0037】
また、多層構造のアクリルゴム粒子の好適な例として、上記2層構造の内層である上述したアクリル酸エステルを主体とする弾性重合体の層の内側に、さらにメタクリル酸エステルを主体とする重合体の層を有するもの、すなわち、このメタクリル酸エステルを主体とする重合体を内層とし、上述したアクリル酸エステルを主体とする弾性重合体を中間層とし、先のメタクリル酸エステルを主体とする重合体を外層とする、少なくとも3層構造のものを挙げることもできる。ここで、内層の重合体の単量体成分であるメタクリル酸エステルとしては、通常、メタクリル酸アルキルが用いられる。また、内層の重合体は、中間層の弾性重合体100重量部に対し、通常10〜400重量部、好ましくは20〜200重量部の割合で形成するのがよい。
【0038】
上記内層の重合体の好ましい単量体組成は、全単量体を基準として、メタクリル酸アルキルを70〜100重量%、アクリル酸アルキルを0〜30重量%、これ以外の単量体を0〜30重量%、及び多官能単量体を0〜10重量%である。
【0039】
上記内層の重合体におけるメタクリル酸アルキルの例としては、先にメタクリル樹脂の単量体成分として挙げたメタクリル酸アルキルの例と同様であり、そのアルキル基の炭素数は通常1〜8、好ましくは1〜4である。中でもメタクリル酸メチルが好ましく用いられる。
また、上記内層の重合体におけるアクリル酸アルキルの例としては、先にメタクリル樹脂の単量体成分として挙げたアクリル酸アルキルの例と同様であり、そのアルキル基の炭素数は通常1〜8、好ましくは1〜4である。
【0040】
上記内層の重合体におけるメタクリル酸アルキル及びアクリル酸アルキル以外の単量体の例としては、先にメタクリル樹脂の単量体成分として挙げたメタクリル酸アルキル及びアクリル酸アルキル以外の単官能単量体の例と同様であり、また、多官能単量体の例としては、先にメタクリル酸樹脂の単量体成分として挙げた多官能単量体の例と同様である。
【0041】
なお、上記の内層の重合体におけるメタクリル酸アルキル、アクリル酸アルキル、これら以外の単量体及び多官能単量体は、それぞれ、必要に応じてそれらの2種以上を用いてもよい。
【0042】
アクリルゴム粒子は、先に述べたアクリル酸エステルを主体とする弾性重合体の単量体成分を、乳化重合法などにより、少なくとも1段の反応で重合させることにより、調製することができる。その際、先に述べた如く、上記弾性重合体の層の外側に、メタクリル酸エステルを主体とする重合体の層を形成する場合は、この外層の重合体の単量体成分を、上記弾性重合体の存在下に、乳化重合法などにより、少なくとも1段の反応で重合させることにより、上記弾性重合体にグラフトさせればよい。
また、先に述べた如く、上記弾性重合体の層の内側に、さらにメタクリル酸エステルを主体とする重合体の層を形成する場合は、まず、この内層の重合体の単量体成分を、乳化重合法などにより、少なくとも1段の反応で重合させ、次いで、得られる重合体の存在下で、上記弾性重合体の単量体成分を、乳化重合法などにより、少なくとも1段の反応で重合させることにより、上記内層の重合体にグラフトさせ、さらに、得られる弾性重合体の存在下で、上記外層の重合体の単量体成分を、乳化重合法などにより、少なくとも1段の反応で重合させることにより、上記弾性重合体にグラフトさせればよい。なお、各層の重合を、それぞれ2段以上で行う場合、いずれも、各段の単量体組成ではなく、全体としての単量体組成が所定の範囲内にあればよい。
【0043】
アクリルゴム粒子の粒径については、該ゴム粒子中のアクリル酸エステルを主体とする弾性重合体の層の平均粒子径が、0.01〜0.4μmであるのが好ましく、より好ましくは0.05〜0.3μm、さらに好ましくは0.07〜0.25μmである。この弾性重合体の層の平均粒子径が0.4μmより大きいと、アクリル系熱可塑性樹脂組成物からなる層(B)の透明性が低下し透過率低下につながるため、好ましくない。また、この弾性重合体の層の平均粒子径が0.01μmより小さいと、層(B)の表面硬度が低下して傷が付き易くなるため好ましくない。
【0044】
なお、上記平均粒子径は、アクリルゴム粒子をメタクリル樹脂と混合してフィルム化し、その断面において酸化ルテニウムによる上記弾性重合体の層の染色を施し、電子顕微鏡で観察して、染色された部分の直径から求めることができる。
すなわち、アクリルゴム粒子をメタクリル樹脂に混合し、その断面を酸化ルテニウムで染色すると、母相のメタクリル樹脂は染色されず、上記弾性重合体の層の外側にメタクリル酸エステルを主体とする重合体の層が存在する場合は、この外層の重合体も染色されず、上記弾性重合体の層のみが染色されるので、こうして染色され、電子顕微鏡でほぼ円形状に観察される部分の直径から、粒子径を求めることができる。上記弾性重合体の層の内側にメタクリル酸エステルを主体とする重合体の層が存在する場合は、この内層の重合体も染色されず、その外側の上記弾性重合体の層が染色された2層構造の状態で観察されることになるが、この場合は、2層構造の外側、すなわち上記弾性重合体の層の外径で考えればよい。
【0045】
アクリル系熱可塑性樹脂組成物全体に対するゴム粒子の含有割合は、アクリル系熱可塑性樹脂組成物全体の40重量%以下であり、好ましくは30重量%以下である。ゴム粒子の含有割合がアクリル系熱可塑性樹脂組成物全体の40重量%より大きいと、層(B)の表面硬度が低下して傷が付き易くなってしまう。
【0046】
なお、ポリカーボネート系熱可塑性樹脂組成物及びアクリル系熱可塑性樹脂組成物には、必要に応じて他の成分、例えば、紫外線吸収剤、有機系染料、無機系染料、顔料、酸化防止剤、帯電防止剤、界面活性剤などを配合してもよい。
【0047】
<光学用マットフィルムの製造工程>
本発明の光学用マットフィルムとしては、上述したポリカーボネート系熱可塑性樹脂組成物からなる層(A)の少なくとも一方の面に、アクリル系熱可塑性樹脂組成物からなる層(B)が積層されてなり、少なくとも1つの層(B)の表面がマット面となるものである。
該マット面の形成方法としては、共押出成形時に外周面に凹凸形状が形成された金属ロールである、いわゆるマットロールを用いた転写による方法や、表層材料としてアクリル系熱可塑性樹脂組成物中にマット化剤となる透明微粒子が含有された組成物を用いて共押出成形において表面に凹凸を形成させる方法などが挙げられる。
【0048】
<ロールを用いたマット面の形成方法>
いわゆるマットロールを用いたマット面の形成方法としては、共押出成形時に外周面に凹凸形状が形成された金属ロールを用いて転写による方法であり、例えば特開2009−196327号公報、特開2009−202382号公報に記載の方法などを挙げることができる。
【0049】
図1は、本発明の光学用マットフィルムの製造プロセス(以下、本発明の製造プロセスという)の一例を示す概略説明図である。
同図に示すように、この製造プロセスは、溶融押出機1、2を2台準備し、それぞれの押出機に投入されたポリカーボネート系熱可塑性樹脂組成物およびアクリル系熱可塑性樹脂組成物は溶融混錬され、それぞれフィードブロック3に供給されて溶融積層一体化された後、シングルマニホールドダイ4(Tダイ)を介して樹脂が広げられ、ダイ先端からフィルム状となって押し出される。
【0050】
本発明の製造プロセスでは、ダイ前積層方式で層(A)に層(B)が積層され、一体化される。具体的には、例えば、2種3層および2種2層分配型であるフィードブロック3に供給されたポリカーボネート系熱可塑性樹脂組成物およびアクリル系熱可塑性樹脂組成物は、フィードブロック3内で層(A)の両面に層(B)が積層された3層構造、または層(A)の一方の面に層(B)が積層された2層構造として一体化される。
上述の製造プロセスでは、フィードブロック3とダイ4を用いた例であるが、これらに代えて、例えば、ダイ内積層方式であるマルチマニホールドダイ、ダイ外積層方式であるデュアルスロットダイ等を用いることができる。
【0051】
次いで、ダイ4から押し出された樹脂は、略水平方向に対向配置された第1冷却ロール5と第2冷却ロール6の間に挟み込まれ、アクリル系熱可塑性樹脂組成物からなる層(B)の少なくとも1つの表面にマット面を形成し、第3冷却ロール7により、緩やかに冷却し、光学用マットフィルム8を得ることができる。
【0052】
第1冷却ロール5は、直径が25〜100cm程度であり、ゴムロールまたは金属弾性ロールからなる。
【0053】
前記ゴムロールとしては、例えば、シリコンゴムロールやフッ素ゴムロール等が挙げられ、離型性を上げるために砂を混ぜたものを採用することもできる。ゴムロールの硬度は、JIS K6253に準拠して測定したA60°〜A90°の範囲内であるのが好ましい。ゴムロールの硬度を前記範囲内にするには、例えばゴムロールを構成するゴムの架橋度や組成を調整することによって任意に行うことができる。
【0054】
前記金属弾性ロールとは、ロールの内部がゴムで構成されているものや、流体を注入しているものであり、その外周部が屈曲性を持った金属製薄膜で構成されているものである。具体的には、ロールの内部がシリコンゴムロールで構成され、厚さ0.2〜1mm程度の円筒形のステンレス鋼製薄膜が該ロールの外周部に被覆されたものや、ロールの内部に水や油等の流体を注入しているものでは、厚さ2〜5mm程度のステンレス鋼製の円筒形薄膜をロール端部で固定し、内部に流体を封入しているものなどが挙げられる。
【0055】
このような第1冷却ロール5としては、金属材料や弾性体で構成されたもので、鍍金等で鏡面状に仕上げされたものを用いる。なお、金属弾性ロールの金属製薄膜やゴムロールの表面は必ずしも平滑である必要はなく、下記で説明する第2冷却ロール6と同様に表面に凹凸形状を設けても何ら問題はない。
【0056】
第2冷却ロール6は、直径が25〜100cm程度であり、外周面に凹凸形状が形成された金属ロールからなる。具体的には、金属塊を削りだしたドリルドロールや、中空構造のスパイラルロール等のロール内部に流体、蒸気等を通してロール表面の温度を制御できる金属ロールなどが挙げられ、これら金属ロールの外周面にサンドブラストや彫刻等によって所望の凹凸形状が形成されたものを用いることができる。
【0057】
第2冷却ロール6の外周面に形成される凹凸形状としては、算術平均粗さ(Ra)で0.1〜10μm程度のマット形状などや、特定のピッチや高さを有する凹凸形状などが挙げられる。前記算術平均粗さ(Ra)は、JIS B0601−2001に準拠して表面粗さ計で測定して得られる値である。
【0058】
ダイ3から押し出された樹脂が、層(A)の両面に、層(B)が積層された積層樹脂であって、該層(B)の一方の表面にマット面を形成させる場合、又は層(A)の一方の面に、層(B)が積層された積層樹脂であって、該層(B)の表面にマット面を形成させる場合は、このような第1冷却ロール5と第2冷却ロール6との間に挟み込むことによって、第2冷却ロール6の前記凹凸形状が転写され、フィルムに成形される。その際、マットフィルムの層(B)側が第2ロール6と接触される側となるように押し出される。
尚、層(A)の両面に、層(B)が積層された積層樹脂であって、層(B)の両方の表面にマット層を形成させる場合は、上記凹凸形状を外周面に形成された冷却ロール同士の間に該積層樹脂を挟み込めばよい。
【0059】
凹凸形状が転写された樹脂フィルムは、第2冷却ロール6に巻き掛けられた後、引取りロールにより引取られて巻き取られる。このとき、第2冷却ロール6以降に第3冷却ロール7を設けてもよい。これにより、樹脂フィルムが緩やかに冷却されるので、樹脂フィルムの光学歪を小さくすることができ、さらに第2冷却ロール6への接触時間も安定して確保できるため、第2冷却ロール6に付与した凹凸形状を安定して転写させることが可能となる。第3冷却ロール7としては、特に限定されるものではなく、従来から押出成形で使用されている通常の金属ロールを採用することができる。具体例としては、ドリルドロールやスパイラルロール等が挙げられる。第3冷却ロール7の表面状態は、鏡面であるのが好ましい。
【0060】
第2冷却ロール6に巻き掛けられた樹脂フィルムを、第2冷却ロール6と第3冷却ロール7との間に通して第3冷却ロール7に巻き掛けるようにする。第2冷却ロール6と第3冷却ロール7との間は、所定の間隙を設けて解放状態としても、両ロールに挟み込んでも構わない。なお、樹脂フィルムをより緩やかに冷却する上で、第3冷却ロール7以降に第4冷却ロール,第5冷却ロール,・・・と複数本の冷却ロールを設け、第3冷却ロール7に巻き掛けたマットフィルムを順次、次の冷却ロールに巻き掛けるようにしてもよい。
【0061】
<マット化剤を用いたマット面の形成方法>
また、マット面の他の形成方法として、表層材料としてマット化剤となる粒子が含有されたアクリル系熱可塑性樹脂組成物を用いて共押出成形において表面に凹凸を形成させる方法が挙げられる。この際の共押出成形方法としては、例えば、前述した特開2009−196327号公報、特開2009−202382号公報に記載の方法を挙げることができ、この場合にはマット化剤の効果により表面凹凸が形成されることから、第2冷却ロール6は通常の表面状態が鏡面の金属ロールを採用することもできる。
【0062】
また、この際に使用するマット化剤は、通常、いわゆる光拡散剤と言われる粒子を用いることが一般的であり、光拡散剤としては、例えば、メタクリル酸メチル系重合体粒子、スチレン系重合体粒子、シロキサン系重合体粒子などの有機系粒子、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、水酸化アルミニウム、シリカ(酸化ケイ素)、無機ガラス、タルク、マイカ、ホワイトカーボン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛などの無機系粒子などが挙げられる。なお、無機系粒子は、熱可塑性樹脂中に均一に分散されるように、脂肪酸などの表面処理剤で表面処理されていてもよい。
【0063】
本発明の光学用マットフィルムは、光学特性として、高い光線透過率が求められることが多いことから、マット化剤としては透明性の良好な粒子が好適に使用できる。また、表面の凹凸感を確保できる程度のマット化剤を添加し、かつ高い光線透過率を保つ観点から基材樹脂であるアクリル系樹脂との屈折率差があまり大きくない粒子が好適であり、通常、屈折率差が0.1程度以内であることが好ましい。以上のような観点から、本発明におけるマット化剤としては、メタクリル酸メチル系重合体粒子、スチレン系重合体粒子、シロキサン系重合体粒子などの有機系粒子が好適に用いられる。これら粒子は、単独で用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0064】
上記マット化剤として用いられるメタクリル酸メチル系重合体粒子は、メタクリル酸メチルを主体とする重合体の粒子であり、この重合体は、メタクリル酸メチルと、これ以外の分子内にラジカル重合可能な二重結合を1個有する単官能単量体と、分子内にラジカル重合可能な二重結合を2個以上有する多官能単量体とを共重合させてなる架橋重合体であるのがよい。
【0065】
上記メタクリル酸メチル系重合体粒子におけるメタクリル酸メチル以外の単官能単量体の例としては、先にメタクリル酸メチル系樹脂の単量体の例として挙げたメタクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸エステル、スチレン系単量体、並びに(メタ)アクリル酸エステル及びスチレン系単量体以外の単量体と同様のものが挙げられ、スチレンが好適に用いられる。
【0066】
上記メタクリル酸メチル系重合体粒子における多官能単量体の例としては、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、プロピレンエチレングリコールジメタクリレート、テトラプロピレンエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレートなどの多価アルコールのメタクリレート類;1,4−ブタンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、プロピレンエチレングリコールジアクリレート、テトラプロピレンエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレートなどの多価アルコールのメタクリレート類;ジビニルベンゼン、ジアリルフタレートなどの芳香族多官能化合物などが挙げられる。かかる多官能単量体はそれぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0067】
かかるメタクリル酸メチル系重合体粒子の屈折率は、通常1.46〜1.55程度であり、ベンゼン骨格やハロゲン原子の含有量が多いほど大きな屈折率を示す傾向がある。このメタクリル酸メチル系重合体粒子は、例えば、懸濁重合法、ミクロ懸濁重合法、乳化重合法、分散重合法などにより製造することができる。
【0068】
上記マット化剤として用いられるスチレン系重合体粒子は、スチレンを主体とする重合体の粒子であり、この重合体は、スチレンと、これ以外の分子内にラジカル重合可能な二重結合を1個有する単官能単量体と、分子内にラジカル重合可能な二重結合を2個以上有する多官能単量体とを共重合させてなる架橋重合体であるのがよい。
【0069】
上記スチレン系重合体粒子におけるスチレン以外の単官能単量体の例としては、メタクリル酸メチルの他、先にメタクリル酸メチル系樹脂の単量体の例として挙げたメタクリル酸メチル以外の(メタ)アクリル酸エステル、スチレン系単量体、並びに(メタ)アクリル酸エステル及びスチレン系単量体以外の単量体と同様のものが挙げられ、メタクリル酸メチルが好適に用いられる。
【0070】
上記スチレン系重合体粒子における多官能単量体の例としては、先にメタクリル酸メチル系重合体粒子の多官能単量体の例として挙げたものと同様のものが挙げられ、それぞれ単独又は2種以上の組み合わせで用いることができる。
【0071】
かかるスチレン系重合体粒子の屈折率は、通常1.53〜1.61程度であり、ベンゼン骨格やハロゲン原子の含有量が多いほど大きな屈折率を示す傾向がある。このスチレン系重合体粒子は、例えば、懸濁重合法、ミクロ懸濁重合法、乳化重合法、分散重合法などによりで製造することができる。
【0072】
上記マット化剤として用いられるメタクリル酸メチル系重合体粒子及びスチレン系重合体粒子で用いられる多官能単量体の割合は、全単量体を基準として、通常0.05〜15質量%程度であり、好ましくは0.1〜10質量%である。多官能単量体の量があまり少ないと、粒子の架橋程度が十分でなく、押出成形において熱や剪断がかかった場合に粒子が大きく変形し易く、結果として所望の光拡散効果が得られ難くなる。また、多官能性単量体の量があまり多いと、押出成形時に外観不良が発生し易くなる。
【0073】
上記マット化剤として用いられるシロキサン系重合体粒子は、例えば、クロロシラン類を加水分解し、縮合させる方法により製造される重合体の粒子である。
クロロシラン類としては、例えば、ジメチルジクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、フェニルメチルジクロロシラン、メチルトリクロロシラン、フェニルトリクロロシランなどが挙げられる。シロキサン系重合体は架橋されていてもよい。架橋させるには、例えば、シロキサン系重合体に過酸化ベンゾイル、過酸化2,4−ジクロルベンゾイル、過酸化p−クロルベンゾイル、過酸化ジキュミル、過酸化ジ−t−ブチル−2,5−ジメチル−2,5−(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンなどの過酸化物を作用させればよい。また、末端シラノール基を有する場合には、アルコキシシラン類と縮合架橋させてもよい。架橋された重合体は、ケイ素原子1個あたり、有機残基が2〜3個程度結合した構造であることが好ましい。
かかるシロキサン系重合体は、シリコーンゴム、シリコーンレジンとも称される重合体であって、常温では固体のものが好ましく用いられる。シロキサン重合体粒子は、かかるシロキサン重合体を粉砕することで得ることができる。線状オルガノシロキサンブロックを有する硬化性重合体やその組成物を噴霧状態で硬化させることで、粒状粒子としてもよい。また、アルキルトリアルコキシシラン又はその部分加水分解縮合物をアンモニア又はアミン類の水溶液中で加水分解縮合させることで粒状粒子として得てもよい。
かかるシロキサン系重合体粒子の屈折率は通常1.40〜1.47程度である。
【0074】
マット化剤として用いられる粒子の重量平均粒子径は、所望の表面凹凸形状に従い、適宜選定すればよいが、所望の表面凹凸形状を有し、かつ、優れた光学特性を有するためには、0.5〜50μmが好ましく、1〜40μmがより好ましく、2〜30μmが更に好ましい。また、粒子は、球状であることが一般的であるが、矩状、鱗片状、針状、板状などの形状のものも用いることができる。
【0075】
アクリル系熱可塑性樹脂組成物全体に対するマット化剤として用いられる粒子の含有割合は、アクリル系熱可塑性樹脂組成物全体の35重量%以下であり、好ましくは30重量%以下である。マット化剤として用いられる粒子の含有割合がアクリル系熱可塑性樹脂組成物全体の35重量%より大きいと、組成物の溶融押出成形が難しくなり好ましくない。
【0076】
<光学用マットフィルム>
本発明の光学用マットフィルムの厚みは、30〜300μmであり、30〜200μmであることが好ましく、30〜100μmであることがより好ましい。厚みが30μm未満であるとフィルム自体の剛性が低くなってしまうため、フィルムに皺が入りやすくなったり、セッティングした状態で浮きなどが発生しやすくなってしまう。300μmより厚いと、入射光のリタデーション値が高く、好ましくない。
【0077】
本発明の光学用マットフィルムは、フィルムの波長590nmでの入射光のリタデーション値が30nm以下であることが好ましく、更には20nm以下であることが好ましい。光学用マットフィルムとして、例えば、液晶表示装置に用いられるマットフィルムの場合は、液晶表示に利用される光が偏光であることから、マットフィルムとして光学歪の小さいフィルムが要求され、30nm以下のリタデーション値であることが好ましい。液晶表示装置用の中でも偏光分離シート保護に用いられる偏光分離シート保護フィルムについては、下述の理由から、リタデーション値は20nm以下であることがより好ましい。
液晶表示装置は、図2に示すように、バックライトユニット9上に液晶パネル12が設置されており、バックライトユニット9から出射される光が液晶パネル12へ入射するように構成されている。偏光分離シート10は、通常、バックライトユニット9と液晶パネル12との間に配置されるものであり、バックライトユニット9から出射されてくる無偏光光を互いに直交関係にある2つの偏光光に分離し、一方の偏光光のみを選択的に透過して液晶パネル12側に出射し、もう一方の偏光光をバックライトユニット9側に戻して、バックライトユニット内で反射させた後、再度、偏光分離シート10に入射させて再利用することで、光の利用効率を向上させるようにしたものである。したがって、偏光分離シート10保護のため該シート10の両方または一方の面に積層や貼合して用いられる偏光分離シート保護フィルム11としては、該シート10より出射してくる偏光の偏光方向をなるべく乱さないように、リタデーション値が低いことが好ましく、20nm以下のリタデーション値であることがより好ましい。
【0078】
本発明の光学用マットフィルムは、層(B)表面のマット面におけるJIS K5600で測定した表面鉛筆硬度が、B以上であることが好ましい。マット面の表面鉛筆硬度がB未満であると、フィルムの生産中やフィルムのハンドリング中などや他部材と接した際などにフィルム表面に傷が付きやすくなってしまう。また、傷付き防止のために、マット面に保護フィルムを貼合することも可能であるが、保護フィルム貼合工程が必要になり工程上も煩雑となりコスト的にも不利なものになってしまう。
【0079】
本発明の光学用マットフィルムは、JIS K7361−1に準拠して測定される全光線透過率が、90%以上であることが好ましい。該マットフィルムの全光線透過率があまりに低いと、マットフィルムへの入射光量に対して、マットフィルムからの出射光量の割合が減少してしまい、光の利用効率の点から不利なものになってしまう。
【0080】
本発明の光学用マットフィルムは、層(A)の厚さが、フィルム全体の厚さに対して30%以上の厚さであることが好ましく、より好ましくは40%以上の厚さであるのがよい。層(A)の厚さがフィルム全体の厚さに対して30%未満であると、フィルムの耐熱性が低下し、高温保持評価(120℃のオーブン内で30分間保持)において、該フィルムの収縮に伴う寸法変化が大きくなることがある。ASTM D−648に準拠して測定される熱変形温度(Th)は、層(A)の樹脂成分であるポリカーボネート系樹脂では140℃程度であるのに対し、層(B)の樹脂成分であるアクリル系樹脂では100℃程度であることから、耐熱性の観点からは、より高いThを有するポリカーボネート系樹脂を樹脂成分とする層(A)の厚さが9μm以上であることが好ましい。
本発明の光学用マットフィルムを高温保持評価した際の寸法変化率(収縮率)としては、フィルムの押出方向(MD)、幅方向(TD)ともに7.0%以下であることが好ましく、6.0%以下であることがより好ましく、5.0%以下であることがさらに好ましい。寸法変化率が大きい場合には、該フィルムを液晶表示装置内で使用した際に、液晶表示装置内の発熱により、フィルムの寸法変化が生じ、フィルムの浮きやうねりが発生するおそれがある。
また、層(B)の厚みは、8μm以上であることが好ましく、更には10μm以上であることが好ましい。厚みが8μm未満であると、該層(B)の表面硬度が低下してしまうおそれがある。
【0081】
本発明の光学用マットフィルムは、表面に凹凸形状が形成され、光を散乱させる機能が付与されているので、例えば、液晶表示装置において、バックライトユニットに組み込まれる光拡散シート、光拡散フィルム、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、輝度向上フィルム等や、偏光分離シートの保護フィルム等に使用できる。また、光ディスクや自動車内装用フィルム、照明用フィルム、建材用フィルム等にも適用することができ、本発明はこれらの用途に限定されるものではない。
【実施例】
【0082】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、以下の実施例中、含有量ないし使用量を表す部は、特記ないかぎり重量基準である。
【0083】
以下の実施例および比較例で使用した押出装置の構成は、次の通りである。
押出機1:ベント付きスクリュー径115mm一軸押出機(東芝機械(株)製)
押出機2:ベント付きスクリュー径90mm一軸押出機(東芝機械(株)製)
フィードブロック3:2種3層および2種2層分配型フィードブロック(東芝機械(株)製)
ダイ4:Tダイ
【0084】
押出機1および2、フィードブロック3、ダイ4、第1〜第3冷却ロール5〜7を図1に示すように配置し、各冷却ロール5〜7を以下のように構成した。
【0085】
<ロール構成1>
第1冷却ロール5および第2冷却ロール6、第3冷却ロール7を以下のように構成した。
第1冷却ロール5:外径450mmφで硬度A70°のシリコンゴムロール
第2冷却ロール6:外径450mmφでブラスト処理によって算術平均粗さ(Ra)3.5μmの凹凸形状が形成されたステンレス鋼製の金属ロール(ドリルドロール)
第3冷却ロール7:外径450mmφで鏡面仕上げのステンレス鋼製の金属ロール(ドリルドロール)
【0086】
<ロール構成2>
第1冷却ロール5および第2冷却ロール6、第3冷却ロール7を以下のように構成した。
第1冷却ロール5:外径450mmφで硬度A70°のシリコンゴムロール
第2冷却ロール6:外径450mmφで鏡面仕上げのステンレス鋼製の金属ロール(ドリルドロール)
第3冷却ロール7:外径450mmφで鏡面仕上げのステンレス鋼製の金属ロール(ドリルドロール)
【0087】
実施例および比較例においては、メタクリル樹脂、マット化剤(透明微粒子)およびアクリルゴム粒子として、以下のものを使用した。
<メタクリル樹脂>
メタクリル樹脂としては、メタクリル酸メチル97.8重量%とアクリル酸メチル2.2重量%とからなる単量体成分の重合により得られた、熱変形温度(Th)が100℃である熱可塑性重合体のペレットを用いた。
【0088】
<マット化剤(透明微粒子)>
マット化剤(透明微粒子)としては、メタクリル酸メチル95%とジビニルベンゼン5%(質量比)の重合により得られた、屈折率が1.49、重量平均粒子径が5μmであるメタクリル酸メチル系熱可塑性重合体粒子を用いた。
【0089】
<アクリルゴム粒子>
アクリルゴム粒子としては、下記製造方法で得られた3層構造のアクリルゴム粒子を用いた。
特公昭55−27576号の実施例に記載の方法に準拠して、まず、内容積5Lのガラス製反応容器に、イオン交換水1700g、炭酸ナトリウム0.7g、過硫酸ナトリウム0.3gを仕込み、窒素気流下で撹拌後、ペレックスOT−P(花王(株)製)4.46g、イオン交換水150g、メチルメタクリレート150g、アリルメタクリレート0.3gを仕込んだ後、75℃に昇温し150分間撹拌を続けた。
【0090】
続いてブチルアクリレート689g、スチレン162g、アリルメタクリレート17gの混合物と過硫酸ナトリウム0.85g、ペレックスOT−P7.4gとイオン交換水50gの混合物を別の入口から90分間にわたり添加し、さらに90分間重合を続けた。
【0091】
重合を完了後、さらにメチルアクリレート326g、エチルアクリレート14gの混合物と過硫酸ナトリウム0.34gを溶解させたイオン交換水30gを別々の口から30分間にわたって添加した。
【0092】
添加終了後、さらに60分間保持し重合を完了した。得られたラテックスを0.5%塩化アルミニウム水溶液に投入して重合体を凝集させた。これを約50℃の温水にて5回洗浄後、乾燥して3層構造のアクリルゴム粒子を得た。
【0093】
(実施例1、実施例7および比較例1)
層(A)として、ポリカーボネート樹脂(住友ダウ(株)製の「カリバー303−10」、Th140℃)を溶融混練して、押出機1からフィードブロック3に供給し、層(B)として、メタクリル樹脂とマット化剤(透明微粒子)とアクリルゴム粒子を表1に示す割合で含有するアクリル系熱可塑性樹脂組成物を溶融混練し、押出機2からフィードブロック3に供給し、層(B)/層(A)/層(B)の3層構成となるように溶融積層一体化させて、ダイ4から押し出した。なお、比較例1については、フィードブロック3への押出機2からの供給を停止し、層(A)のみを押出成形した。ついで、冷却ロールの構成を前記ロール構成1として、ダイ4から押し出されたフィルム状樹脂を、第1冷却ロール5(設定温度:45℃)と第2冷却ロール6(設定温度:100℃)との間に挟み込み、第3冷却ロール7(設定温度:100℃)に巻き掛けて、一方の面に凹凸形状が転写された光学用マットフィルム8を得た。
【0094】
(実施例2〜6、比較例2および3)
実施例2〜6および比較例3については、冷却ロールの構成を前記ロール構成2とした以外は、実施例1と同様の方法にて光学用マットフィルム8を得た。なお、比較例4については、フィードブロック3への押出機1からの供給を停止し、層(B)のみからなる単層フィルムを成形した。
【0095】
【表1】

【0096】
得られた各光学用マットフィルムについて、以下の評価を行った。結果を表2に示す。
<表面硬度(鉛筆硬度)>
JIS K5600に準拠して、得られたマットフィルムの最外層の凹凸形状面の表面硬度を測定した。
【0097】
<表面光沢度>
JIS Z8741に準拠して、得られたマットフィルムの最外層の凹凸形状面と、その面と反対側の面との60度光沢度を測定した。
【0098】
<表面粗さ>
得られたマットフィルムの最外層の凹凸形状面の算術平均粗さ(Ra)および十点平均粗さ(Rz)を、JIS B0601−1994に準拠して表面粗さ計(ミツトヨ(株)製の「サーフテストSJ−201」)により測定した。
【0099】
<リタデーション値>
得られたマットフィルムから50mm角サイズで試験片を切り出し、微小面積複屈折率計(王子計測機器(株)製の「KOBRA−CCO/X」)により590nmにおけるリタデーション値を測定した。
【0100】
〔全光線透過率(Tt)およびヘイズ(H)〕
JIS K7361−1に準拠して測定した。
【0101】
<収縮率>
まず、得られたマットフィルムから約10cm角サイズで試験片を切り出し、この試験片の押出方向の寸法(MD0)および幅方向の寸法(TD0)をそれぞれ測定した。ついで、金属製のバットにベビーパウダー(和光堂(株)製の「シッカロール・ハイ」)を敷いて、その上に前記試験片を置いて、120℃のオーブンに30分間投入した。
その後、自然冷却した試験片の押出方向の寸法(MD)および幅方向の寸法(TD)をそれぞれ測定し、得られた各寸法を式:収縮率S1={1−(MD/MD0)}×100、式:収縮率S2={1−(TD/TD0)}×100に当てはめて、収縮率S1、S2を算出した。また、算出された収縮率S1、S2から、比(S1/S2)を算出した。
【0102】
【表2】

【符号の説明】
【0103】
1,2 溶融押出機
3 フィードブロック
4 ダイ
5 第1冷却ロール
6 第2冷却ロール
7 第3冷却ロール
8 光学用マットフィルム
9 バックライトユニット
10 偏光分離シート
11 偏光分離シート保護フィルム
12 液晶パネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート系樹脂を含有するポリカーボネート系熱可塑性樹脂組成物からなる層(A)の少なくとも一方の面に、アクリル系樹脂を含有するアクリル系熱可塑性樹脂組成物からなる層(B)が積層されてなり、少なくとも1つの層(B)の表面がマット面である光学用マットフィルムであって、
フィルム全体の厚さが30〜300μm、層(A)の厚さがフィルム全体の厚さに対して30%以上、層(B)の厚さが8μm以上であり、
フィルムの波長590nmの入射光のリタデーション値が30nm以下であることを特徴とする光学用マットフィルム。
【請求項2】
前記アクリル系熱可塑性樹脂組成物が、ゴム粒子を含有する請求項1に記載の光学用マットフィルム。
【請求項3】
前記ゴム粒子が、アクリルゴム粒子である請求項2に記載の光学用マットフィルム。
【請求項4】
前記マット面がマットロール転写により形成されたものである請求項1〜3のいずれかに記載の光学用マットフィルム
【請求項5】
前記アクリル系熱可塑性樹脂組成物が、マット化剤を含有する請求項1に記載の光学用マットフィルム
【請求項6】
前記マット化剤が、メタクリル酸メチル系重合体粒子、スチレン系重合体粒子、シロキサン系重合体粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種を主体とする透明微粒子である請求項5に記載の光学用マットフィルム。
【請求項7】
前記ポリカーボネート系熱可塑性樹脂組成物及び前記アクリル系熱可塑性樹脂組成物が共押出成形されてなる請求項1〜6のいずれかに記載の光学用マットフィルム。
【請求項8】
液晶表示装置に使用される請求項1〜7のいずれかに記載の光学用マットフィルム。
【請求項9】
前記液晶表示装置における偏光分離シートの保護に使用される請求項8に記載の光学用マットフィルム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−150074(P2011−150074A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−10046(P2010−10046)
【出願日】平成22年1月20日(2010.1.20)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】