説明

光学用樹脂組成物及びその製造方法、並びに該光学用樹脂組成物から形成された光学部品

【課題】脂環式構造含有重合体を含む光学用樹脂組成物であって、短波長レーザー光の照射と透過に対して優れた耐性を示す上、高い光線透過率を示す光学用樹脂組成物とその製造方法を提供すること。
【解決手段】
脂環式構造含有重合体及び有機添加剤を含有する光学用樹脂組成物であって、相対蛍光強度が2〜250の範囲内である光学用樹脂組成物、及び所定の条件下に加熱処理した有機添加剤を脂環式構造含有重合体と混合する光学用樹脂組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂環式構造含有重合体を含有し、優れた耐レーザー性と高い光線透過率とを有する光学用樹脂組成物に関する。本発明の光学用樹脂組成物は、波長390〜430nmの範囲内の青紫レーザー用光学レンズなどの光学部品の樹脂材料として好適に用いられる。また、本発明は、該光学用樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通信や放送などの異なる複数のサービス形態を用いて、映像、画像、音、文字などの情報を高速で送受信するマルチメディアが発達し、該マルチメディアに対応するパーソナルコンピューター、オーディオ・ビジュアル機器、テレビゲーム機などが急速に普及している。
【0003】
マルチメディア対応機器には、情報を保存及び/または再生するために、CD−ROM、CD−R、MD、DVDなどの光学式記録媒体が備わっている。マルチメディアによる情報量が年々増加しているため、それに対応すべく、光学式記録媒体の記録密度を高くして、記録容量を大きくすることが求められている。光学式情報記録媒体の高記録密度化が進められると、光学式情報記録媒体への情報の書き込み及び/または記録された情報の読み出しに使用するレーザー光を、より短波長とする必要がある。
【0004】
近年、波長390〜430nmの青紫レーザーなど発振波長の短い半導体レーザーの開発が進められおり、従来の赤色半導体レーザーよりも短波長のレーザー発振が可能になった。
【0005】
レーザー光を用いた光学式情報記録方式には、レーザー光の焦点を記録面上に合わせるためのレンズ(「ピックアップレンズ」と呼ばれている)が用いられている。ピックアップレンズとしては、一般に、非球面形状のプラスチックレンズが使用されている。プラスチックレンズは、レーザー光が照射され透過する条件下で用いられるため、耐レーザー性に優れており、レーザー光の照射と透過によって性能が劣化することなく、高度の透明性を安定して保持できる性能を有することが求められている。
【0006】
特許文献1(特開2001−139756号公報)には、脂環式構造含有重合体と酸化防止剤とを含有する光学用樹脂組成物が提案されている。特許文献1には、該光学用樹脂組成物からなる成形体は、透明性に優れる上、長期間にわたる耐熱性と耐熱着色性に優れることが記載されている。
【0007】
特許文献2(特開2003−270401号公報)には、ビニル脂環式炭化水素重合体とリン系酸化防止剤及び/またはヒンダードフェノール基を有するフェノール系酸化防止剤とを含有する光学用成形体が提案されている。特許文献2には、該光学用成形体は、短波長レーザー光線を高強度で透過させて情報記録媒体への情報の書き込みや該媒体からの情報の読み出しを行っても、長期間にわたってエラーレートが増加せず、機械的強度の劣化もないことが記載されている。
【0008】
特許文献3(国際公開第2004/085538号パンフレット)には、脂環式構造含有重合体とヒンダードアミン化合物とを含有する樹脂組成物が提案されている。特許文献3には、該樹脂組成物からなる成形体は、青色レーザーなどの短波長光線の照射に対して、成形体表面にアブレーションが生じることなく、安定した透明性を維持できることが記載されている。
【0009】
このように、脂環式構造含有重合体と各種酸化防止剤とを含有する樹脂組成物は、光学レンズなどの光学部品の用途に適した諸特性を有している。他方、波長390〜430nmの青紫レーザーは、レーザー透過物体を劣化させる傾向が極めて強い。従来の光学用樹脂組成物を成形してなる光学部品は、耐レーザー性が未だ十分ではなく、とりわけ波長390〜430nmの青紫レーザーに対する耐性が不十分である。そのため、従来の脂環式構造含有重合体を含む光学用樹脂組成物から成形された光学部品は、青紫レーザーの照射と透過により機能が次第に劣化し、長期にわたって高い光線透過率を維持することが困難である。
【0010】
【特許文献1】特開2001−139756号公報
【特許文献2】特開2003−270401号公報
【特許文献3】国際公開第2004/085538号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、脂環式構造含有重合体を含む光学用樹脂組成物であって、短波長レーザー光の照射と透過に対して優れた耐性(以下、「耐レーザー性」という)を示す上、高い光線透過率を示す光学用樹脂組成物を提供することにある。
【0012】
特に本発明の課題は、波長390〜430nmの青紫レーザーの照射と透過の条件下でも、劣化や変質が抑制され、長期にわたって安定した透明性を示す光学用樹脂組成物を提供することにある。
【0013】
本発明の他の課題は、該光学用樹脂組成物を成形してなる光学部品を提供することにある。さらに、本発明の他の課題は、脂環式構造含有重合体を含む光学用樹脂組成物であって、高い光線透過率と優れた耐レーザー性とを兼ね備えた光学用樹脂組成物の製造方法を提供することにある。
【0014】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意研究した結果、脂環式構造含有重合体に、特定の条件下に加熱処理を施した有機添加剤を特定割合で含有させることにより、相対蛍光強度が上昇し、高い光線透過率と優れた耐レーザー性とを示す光学用樹脂組成物の得られることを見出した。
【0015】
有機添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、光安定剤、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、及び離型剤が挙げられるが、これらに限定されない。技術的に重要なことは、従来、これらの有機添加剤を脂環式構造含有重合体に添加しても、相対蛍光強度の急激な上昇は観察されなかったが、加熱処理した有機添加剤を使用することにより、脂環式構造含有重合体及び有機添加剤を含有する光学用樹脂組成物であって、相対蛍光強度が適度の範囲内に上昇した光学用樹脂組成物の得られることである。相対蛍光強度が適度の範囲内で高い値を示す光学用樹脂組成物は、光線透過率と耐レーザー性に優れていることが見出された。本発明は、これらの知見に基づいて、完成するに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明によれば、脂環式構造含有重合体及び有機添加剤を含有する光学用樹脂組成物であって、下記式(I)
F=(F/F)×100 …(I)
〔式(I)中、Fは、光学用樹脂組成物の蛍光強度を表わし、かつ、Fは、分光蛍光光度計用ローダミンB標準溶液の蛍光強度を表わす。〕
で表される相対蛍光強度Fが2〜250の範囲内である光学用樹脂組成物が提供される。
【0017】
また、本発明によれば、該光学用樹脂組成物を成形してなる光学部品が提供される。光学部品としては、波長390〜430nmの青紫レーザー用光学部品であることが好ましく、光学レンズであることがより好ましい。
【0018】
さらに、本発明によれば、下記工程1及び2:
(1)有機添加剤を、酸素濃度1000ppm以下の不活性ガス雰囲気中、60℃から該有機添加剤の熱分解温度未満の範囲内の温度で、30分間から72時間の範囲内の時間の条件下に加熱処理する工程1;並びに
(2)該工程1で加熱処理した有機添加剤と脂環式構造含有重合体とを混合する工程2;
を含む、下記式(I)
F=(F/F)×100 …(I)
〔式(I)中、Fは、光学用樹脂組成物の蛍光強度を表わし、かつ、Fは、分光蛍光光度計用ローダミンB標準溶液の蛍光強度を表わす。〕
で表される相対蛍光強度Fが2〜250の範囲内にある光学用樹脂組成物の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、脂環式構造含有重合体と有機添加剤とを含有する光学用樹脂組成物であって、特定の範囲内の高い相対蛍光強度を発現し、それによって、高い光線透過率と優れた耐レーザー性とを示す光学用樹脂組成物が提供される。特に、本発明によれば、波長390〜430nmの青紫レーザーの照射と透過の条件下でも、劣化や変質が抑制され、長期にわたって安定した透明性を示す光学用樹脂組成物が提供される。
【0020】
また、本発明によれば、該光学用樹脂組成物を成形してなり、前記諸特性に優れた光学レンズなどの光学部品が提供される。さらに、本発明によれば、該光学用樹脂組成物の製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
1.脂環式構造含有重合体:
本発明で使用する脂環式構造含有重合体は、主鎖及び/または側鎖に脂環式構造を有する重合体であり、機械強度、耐熱性などの観点から、主鎖に脂環式構造を含有する重合体が好ましい。
【0022】
脂環式構造としては、シクロアルカン構造及びシクロアルケン構造が挙げられるが、機械強度、耐熱性、耐光性、耐候性などの観点から、シクロアルカン構造が好ましい。脂環式構造を構成する炭素数は、機械強度、耐熱性、成形加工性などの観点から、通常4〜30個、好ましくは5〜20個、より好ましくは5〜15個の範囲である。脂環式構造を有する繰り返し単位の割合は、通常50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上であり、その上限は、100重量%である。脂環式構造を有する繰り返し単位の割合がこの範囲にあることが、透明性、耐熱性、耐光性などの観点から好ましい。
【0023】
脂環式構造含有重合体としては、例えば、1)ノルボルネン系重合体、2)単環の環状オレフィン系重合体、3)環状共役ジエン系重合体、4)ビニル脂環式炭化水素系重合体、及び5)これらの水素添加物などが挙げられる。これらの中でも、特に優れた耐レーザー性と高い光線透過率が得られることから、ノルボルネン系重合体、ビニル脂環式炭化水素系重合体、及びこれらの水素添加物が好ましく、ビニル脂環式炭化水素系重合体及びその水素添加物がより好ましい。
【0024】
(1)ノルボルネン系重合体:
ノルボルネン系重合体としては、例えば、ノルボルネン系モノマーの開環重合体及びその水素添加物、ノルボルネン系モノマーの付加重合体、ノルボルネン系モノマーとビニル化合物との付加共重合体が挙げられる。
【0025】
ノルボルネン系モノマーの具体例としては、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(慣用名「ノルボルネン」)、5−メチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5,5−ジメチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−エチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ブチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ヘキシル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−オクチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−オクタデシル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−エチリデン−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチリデン−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ビニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−プロペニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メトキシ−カルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−シアノ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチル−5−メトキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メトキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−エトキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−メチル−5−エトキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エニル−2−メチルプロピオネイト、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エニル−2−メチルオクタネイト、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸無水物、5−ヒドロキシメチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5,6−ジ(ヒドロキシメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−ヒドロキシ−i−プロピル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5,6−ジカルボキシ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸イミド、5−シクロペンチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−シクロヘキシル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−シクロヘキセニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、5−フェニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エンなどのノルボルネンとその誘導体;トリシクロ[4.3.12,5.01,6]デカ−3,7−ジエン(慣用名「ジシクロペンタジエン」)、トリシクロ[4.3.12,5.01,6]デカ−3−エン、トリシクロ[4.4.12,5.01,6]ウンデカ−3,7−ジエン、トリシクロ[4.4.12,5.01,6]ウンデカ−3,8−ジエン、トリシクロ[4.4.12,5.01,6]ウンデカ−3−エンなどのジシクロペンタジエンとその誘導体;テトラシクロ[7.4.110,13.01,9.02,7]トリデカ−2,4,6−11−テトラエン(「1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロフルオレン」ともいう)とその誘導体;テトラシクロ[8.4.111,14.01,10.03,8]テトラデカ−3,5,7,12−11−テトラエン(「1,4−メタノ−1,4,4a,5,10,10a−ヘキサヒドロアントラセン」ともいう)とその誘導体;などのノルボルナン環を有しないノルボルネン系モノマーが挙げられる。
【0026】
また、ノルボルネン系モノマーとして、テトラシクロ[4.4.12,5.17,10.0]ドデカ−3−エン(慣用名「テトラシクロドデセン」)、8−メチル−テトラシクロ[4.4.12,5.17,10.0]ドデカ−3−エン、8−エチル−テトラシクロ[4.4.12,5.17,10.0]ドデカ−3−エン、8−メチリデン−テトラシクロ[4.4.12,5.17,10.0]ドデカ−3−エン、8−エチリデン−テトラシクロ[4.4.12,5.17,10.0]ドデカ−3−エン、8−ビニル−テトラシクロ[4.4.12,5.17,10.0]ドデカ−3−エン、8−プロペニル−テトラシクロ[4.4.12,5.17,10.0]ドデカ−3−エン、8−メトキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.12,5.17,10.0]ドデカ−3−エン、8−メチル−8−メトキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.12,5.17,10.0]ドデカ−3−エン、8−ヒドロキシメチル−テトラシクロ[4.4.12,5.17,10.0]ドデカ−3−エン、8−カルボキシ−テトラシクロ[4.4.12,5.17,10.0]ドデカ−3−エン、8−シクロペンチル−テトラシクロ[4.4.12,5.17,10.0]ドデカ−3−エン、8−シクロヘキシル−テトラシクロ[4.4.12,5.17,10.0]ドデカ−3−エン、8−シクロヘキセニル−テトラシクロ[4.4.12,5.17,10.0]ドデカ−3−エン、8−フェニル−テトラシクロ[4.4.12,5.17,10.0]ドデカ−3−エンなどのテトラシクロドデセンとその誘導体;ペンタシクロ[6.5.11,8.13,6.02,7.09,13]ペンタデカ−3,10−ジエンとその誘導体;ペンタシクロ[7.4.13,6.110,13.01,9.02,7]ペンタデカ−4,11−ジエンとその誘導体;などのノルボルナン環を有するノルボルネン系モノマーが挙げられる。
【0027】
これらのノルボルネン系モノマーは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、ノルボルネン系モノマーと、それ以外の共重合可能なモノマーとを使用して共重合体とすることができる。
【0028】
ノルボルネン系モノマーと共重合可能な他のモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、4−エチル−1−ヘキセン、3−エチル−1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセンなどの炭素数2〜20個を有するα−オレフィン;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、3,4−ジメチルシクロペンテン、3−メチルシクロヘキセン、2−(2−メチルブチル)−1−シクロヘキセン、シクロオクテン、3a,5,6,7a−テトラヒドロ−4,7−メタノ−1H−インデンなどのシクロオレフィン;1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、1,7−オクタジエンなどの非共役ジエン;などが挙げられる。これらの共重合可能なモノマーは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0029】
ノルボルネン系モノマーの開環重合体は、開環重合触媒として、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金などの金属のハロゲン化物、硝酸塩またはアセチルアセトン化合物と還元剤とからなる触媒系;あるいはチタン、バナジウム、ジルコニウム、タングステン、モリブデンなどの金属のハロゲン化物またはアセチルアセトン化合物と有機アルミニウム化合物とからなる触媒系;を用いて、溶媒中または無溶媒で、通常、−50℃〜100℃の重合温度、0〜50kg/cmの重合圧力で、ノルボルネン系モノマーを開環重合させることにより得ることができる。2種以上のノルボルネン系モノマーを併用すれば、開環共重合体が得られる。ノルボルネン系モノマーと、ノルボルネン系モノマーと開環共重合可能なその他のモノマーとを併用することによっても、開環共重合体が得られる。水素添加ノルボルネン系重合体は、常法に従って、開環重合体(開環共重合体を含む)を水素添加触媒の存在下に水素により水素添加する方法により得ることができる。
【0030】
ノルボルネン系モノマーと共重合可能なモノマーとの付加共重合体は、これらのモノマー成分を、溶媒中または無溶媒で、チタン、ジルコニウムまたはバナジウム化合物と有機アルミニウム化合物とからなる触媒系の存在下で、通常、−50℃〜100℃の重合温度、1〜50kg/cmの重合圧力で共重合させる方法により得ることができる。
【0031】
(2)単環の環状オレフィン系重合体:
単環の環状オレフィン系重合体としては、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどの単環の環状オレフィン系単量体の付加重合体及びその水素添加物を用いることができる。
【0032】
(3)環状共役ジエン系重合体:
環状共役ジエン系重合体としては、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエンなどの環状共役ジエン系単量体を1,2−または1,4−付加重合した重合体及びその水素添加物を用いることができる。
【0033】
(4)ビニル脂環式炭化水素系重合体:
ビニル脂環式炭化水素系重合体としては、ビニルシクロヘキセン、ビニルシクロヘキサンなどのビニル脂環式炭化水素系単量体の重合体及びその水素添加物;スチレン、α−メチルスチレンなどのビニル芳香族系単量体の重合体及びその水素添加物;などを用いることができる。これらのビニル脂環式炭化水素系重合体の立体配置については、アタクティック、アイソタクティック、シンジオタクティックの何れでもよく、ダイアッド表示によるシンジオタクティシティーが0〜100%の何れのものも用いることができる。
【0034】
脂環式構造含有重合体の分子量は、シクロヘキサン溶液(重合体が溶解しない場合はトルエン溶液)のゲルパーミエーションクロマトグラフ法(GPC)により測定したポリイソプレン(トルエン溶液の場合はポリスチレン)換算の重量平均分子量で、通常5,000〜500,000、好ましくは10,000〜200,000、より好ましくは20,000〜100,000である。脂環式構造含有重合体の重量平均分子量が前記範囲であることが、機械強度と成形加工性とを高度にバランスさせる上で好ましい。GPCにより測定される脂環式構造含有重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、通常5.0以下、好ましくは2.5以下である。
【0035】
脂環式構造含有重合体のガラス転移温度(Tg)は、通常50〜300℃、好ましくは100〜200℃、より好ましくは120〜180℃である。ガラス転移温度は、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定した値である。
【0036】
脂環式構造含有重合体は、不飽和結合を有するものである場合、水素添加して用いることが、耐レーザー性、透明性、耐熱性などの観点から好ましい。脂環式構造含有重合体中の非共役の炭素−炭素二重結合の水素添加率は、通常80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは99%以上である。脂環式構造含有重合体中の共役炭素−炭素二重結合(例えば、芳香環の共役二重結合)については、必ずしも水素添加する必要はないけれども、脂環式構造含有重合体中の共役炭素−炭素二重結合の通常80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは99%以上を水素添加することが、耐レーザー性及び透明性がさらに優れることから好ましい。
【0037】
2.相対蛍光強度などの特性値:
本発明の光学用樹脂組成物は、脂環式構造含有重合体及び有機添加剤を含み、かつ、特定の範囲の高い相対蛍光強度を有している。本発明の光学用樹脂組成物は、特定の範囲の高い相対蛍光強度を有することにより、優れた光線透過率と耐レーザー性が付与されている。特に、本発明の光学用樹脂組成物は、波長390〜430nmの青紫レーザーの照射と透過に対して、優れた耐性を示すものである。
【0038】
本発明において、相対蛍光強度とは、下記式(I)
F=(F/F)×100 …(I)
〔式(I)中、Fは、光学用樹脂組成物の蛍光強度を表わし、かつ、Fは、分光蛍光光度計用ローダミンB標準溶液の蛍光強度を表わす。〕
で表される相対蛍光強度Fを意味する。本発明の光学用樹脂組成物は、相対蛍光強度Fが2〜250の範囲を示すものである。
【0039】
より具体的に、本発明において、光学用樹脂組成物の蛍光強度Fとは、光用樹脂組成物から成形した縦65mm×横65mm×厚み3mmの平板状成形体を、その平板面が入射光に対して45°の角度となるように配置し、次いで、分光蛍光光度計を用いて、励起波長400nmの光をスリット幅5.0nmで該成形体に入射し、その際、検出部のホトマル電圧を700ボルトに設定し、そして、発光領域400〜800nmにわたってスリット幅5.0nmで蛍光ピークの測定を行ったときに、最大蛍光ピーク高さとして検出される蛍光強度を意味する。
【0040】
より具体的に、本発明において、分光蛍光光度計用ローダミンB標準溶液の蛍光強度Fとは、内径の二辺が10mmの直角二等辺三角形を底面とする三角柱セル内に、標準溶液として分光蛍光光度計用ローダミンB溶液を入れ、該三角柱セルにおける直角二等辺三角形の底辺の面が入射光に対し45°の角度となるよう配置し、次いで、分光蛍光光度計を用いて、励起波長400nmの光をスリット幅5.0nmで該三角柱セルに入射し、その際、検出部のホトマル電圧を700ボルトに設定し、そして、発光領域400〜800nmにわたってスリット幅5.0nmで蛍光ピークの測定を行ったときに、最大蛍光ピーク高さとして検出される標準溶液の蛍光強度を意味する。
【0041】
本発明の光学用樹脂組成物の相対蛍光強度Fは、2〜250、好ましくは3〜200、より好ましくは4〜150、さらに好ましくは5〜120の範囲内である。多くの場合、相対蛍光強度Fは、5〜50の範囲内で特に良好な結果を得ることができる。相対蛍光強度Fが高くなりすぎると、光学用樹脂組成物の耐レーザー性が向上するものの、光線透過率が低下する傾向にある。例えば、加熱処理した有機添加剤の含有割合を大きくすると、光学用樹脂組成物の相対蛍光強度Fを高くすることができるが、光線透過率が低下傾向を示す。
【0042】
本発明において、耐レーザー性とは、光学用樹脂組成物から成形した縦65mm×横65mm×厚み3mmの平板状成形体に、60℃の環境下で、波長405±10nm、出力2800mW/cmのレーザーダイオードからのレーザー光を240時間照射した後、分光光度計を用いて成形体の光線透過率Tを測定し、レーザー光照射前の波長405±10nmでの成形体試料の光線透過率Tに対する比率〔T/T〕×100(%)を算出する方法により得られた値を意味する。
【0043】
成形体のレーザー照射前後における波長405±10nm(単に「波長400nm」という)での光線透過率の比率が小さいほど、光学用樹脂組成物の耐レーザー性が優れていることを示す。本発明の光学用樹脂組成物の耐レーザー性は、好ましくは1.0%未満、より好ましくは0.9%以下、さらに好ましくは0.7%以下、特に好ましくは0.5%以下である。耐レーザー性の下限値は、通常0.01%、多くの場合0.05%である。
【0044】
本発明において、光学用樹脂組成物の光線透過率とは、前記の平板状成形体について、分光光度計を用いて、波長400nm、光路長3mmで測定した値を意味する。本発明の光学用樹脂組成物の光線透過率は、通常85%以上、好ましくは86%以上、より好ましくは87%以上、さらに好ましくは88%以上、特に好ましくは89%以上である。この光線透過率の上限値は、通常95%、多くの場合94%である。
【0045】
光学用樹脂組成物の光線透過率が上記範囲内であると、該光学用樹脂組成物を発振波長の短い半導体レーザー(波長350〜530nmの青色レーザー、好ましくは波長390〜430nmの青紫レーザー)や短波長光源LED用光学レンズ、回折格子、プリズム等に用いた場合に、光線透過性が高く、光線透過不良に起因するアブレーションによる変色や変形などが起こりにくいので好ましい。
【0046】
したがって、脂環式構造含有重合体に加熱処理した有機添加剤を添加して、相対蛍光強度Fを2〜250の範囲に制御することにより、脂環式構造含有重合体の透明性を高度に保持しつつ、耐レーザー性を顕著に改善することができる。
【0047】
3.有機添加剤:
本発明で使用する有機添加剤は、一般に高分子添加剤として用いられている各種有機添加剤を意味している。耐レーザー性と透明性とを高度にバランスさせる観点から、好ましい有機添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、及び離型剤からなる群より選ばれる少なくとも一種の有機添加剤を挙げることができる。これらの有機添加剤は、液状または固形状であるが、加熱処理が容易で、成形体表面にブリーディングし難く、揮発性が低く、優れた耐レーザー性と透明性とを長期にわたって保持できることから、常温(20±15℃)で粉末、粒状物などの固体であることが好ましい。有機添加剤は、リン、ケイ素などの金属原子が有機基と結合したものであってもよい。
【0048】
紫外線吸収剤としては、サリシレート誘導体、2−ヒドロキシベンゾフェノン誘導体、2−(2′−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール誘導体、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−ヘキシルオキシフェノール、2−[4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]−5−オクチルオキシフェノールなどが好ましい。
【0049】
より具体的に、紫外線吸収剤としては、例えば、フェニルサリシレート、4−t−ブチルフェニルサリシレート、4−t−オクチルフェニルサリシレート、2,4−ジ−t−ブチルフェニル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、n−ヘキサデシル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエートなどのサリシレート誘導体;2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、ビス(5−ベンゾイル−4−ヒドロキシ−2−メトキシフェニル)メタン、2,2′,4,4′−テトラヒドロキシベンゾフェノンなどの2−ヒドロキシベンゾフェノン誘導体;2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3′,5′−ジ−t−ブチル−2’−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(5′−t−ブチル−2′−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−5′−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(3,5−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(3′−s−ブチル−2′−ヒドロキシ−5′−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−4′−オクチルオキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3′,5′−ジ−t−アミル−2′−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2′−ヒドロキシ−3′,5′−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、メチル3−[3−t−ブチル−5−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシフェニル]プロピオネートとポリエチレングリコール(分子量約300)との縮合物などの2−(2′−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール誘導体;2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−ヘキシルオキシフェノール、及び2−[4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]−5−オクチルオキシフェノールが挙げられる。これらの紫外線吸収剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0050】
光安定剤としては、ヒンダードアミン系光安定剤(HALS)が好ましい。ヒンダードアミン系光安定剤は、窒素原子の結合態様に着目して、NH型(H=水素原子)、NMe型(Me=メチル基)、及びNR型(R=メチル基以外の有機基)に分類することができる。本発明では、これらの何れのタイプのものも使用することができる。
【0051】
ヒンダードアミン系光安定剤としては、例えば、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(N−オクトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(N−ベンジルオキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(N−シクロヘキシルオキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−ブチルマロネート、ビス(1−アクロイル−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)2,2−ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−ブチルマロネート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)サクシネート、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルメタクリレート、4−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]−1−[2−(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ)エチル]−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、2−メチル−2−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)アミノ−N−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)プロピオンアミド、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジノールおよび1−トリデカノールとの混合エステル化物、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジノール及び1−トリデカノールとの混合エステル化物、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジノール及び3,9−ビス(2−ヒドロキシ−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5・5]ウンデカンとの混合エステル化物、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジノール及び3,9−ビス(2−ヒドロキシ−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5・5]ウンデカンとの混合エステル化物、ジメチルサクシネートと1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンとの重縮合物、ポリ[(6−モルホリノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル)〔(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ〕ヘキサメチレン〔(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ〕]、ポリ[〔6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル〕〔(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ〕ヘキサメチレン〔(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ〕]、ジブチルアミン・1,3,5−トリアジン・N,N′−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ヘキサメチレンジアミン・N−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミン縮重合物などが挙げられる。これらのヒンダードアミン系光安定剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0052】
本発明で使用する酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤及びリン系酸化防止剤が好ましい。
【0053】
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,4,6−トリ−t−ブチルフェノール、2,4−ジオクチルチオメチル−6−メチルフェノール、2,2′−チオビス(6−t−ブチルフェノール)、4,4′−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2′−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2′−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2′−メチレンビス[4−メチル−6−(α−メチルシクロヘキシル)フェノール)]、2,2′−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)、2,2′−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェノール)、2,2′−エチリデンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4′−メチレンビス(6−t−ブチル−2−メチルフェノール)、4,4′−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4′−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(5−t−ブチル−4−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)ブタン、1,1,3−トリス(5−t−ブチル−4−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)ブタン、エチレングリコールビス[3,3−ビス−3′−t−ブチル−4′−ヒドロキシフェニル)ブチレート]、2−t−ブチル−6−(3′−t−ブチル−5′−メチル−2′−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2,4−ジ−t−ペンチル−6−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ペンチルフェニル)エチル]フェニルアクリレート、2,4−ビス(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−フェノキシ)−1,3,5−トリアジン、1,3,5−トリス(4−t−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌレート、ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、トリス[2−(3′,5′−ジ−t−ブチル−4′−ヒドロキシシンナモイルオキシ)エチル]イソシアヌレート、ジエチル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホネート、ジ−n−オクタデシル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホネート、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸モノエステルのカルシウム塩、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネ−ト、ネオペンタンテトライルテトラキス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシシンナメート)、チオジエチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシシンナメート)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、3,6−ジオキサオクタメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシシンナメート)、ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシシンナメート)、トリエチレングリコールビス(5−t−チル−4−ヒドロキシ−3−メチルシンナメート)、3,9−ビス[2−(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5・5]ウンデカン、N,N′−ビス[3−(3′,5′−ジ−t−ブチル−4′−ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジン、N,N′−ビス[3−(3′,5′−ジ−t−ブチル−4′−ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。これらのフェノール系酸化防止剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0054】
リン系酸化防止剤としては、例えば、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチル−6−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4′−ジフェニレンジホスフォナイト、2,2′−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)2−エチルヘキシルホスファイト、2,2′−エチリデンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フルオロホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチル−6−メチルフェニル)エチルホスファイト、2−(2,4,6−トリ−t−ブチルフェニル)−5−エチル−5−ブチル−1,3,2−オキサホスフォリナン、2,2′,2′′−ニトリロ[トリエチル−トリス(3,3′,5,5′−テトラ−t−ブチル−1,1′−ビフェニル−2,2′−ジイル)ホスファイト、6−〔3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロポキシ〕−2,4,8,10−テトラキス−t−ブチルジベンゾ〔d,f〕〔1.3.2〕ジオキサフォスフェピンなどが挙げられる。これらのリン系酸化防止剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組合せて用いることができる。
【0055】
離型剤としては、例えば、炭化水素系離型剤、脂肪酸系離型剤、アルコール系離型剤、脂肪族エステル系離型剤、脂肪酸アマイド系離型剤、脂肪酸金属石ケン系離型剤、シリコーン系離型剤などが挙げられる。
【0056】
具体的に、離型剤としては、例えば、パラフィン類、ナフテン類、芳香族類、低分子ポリエチレンワックス、低分子ポリプロピレンワックス、低分子ポリスチレンワックスまたはそれらの酸化物やカルボン酸、水酸基、エステル基などの変性物などの炭化水素系離型剤;ラウリン酸、ミスチリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、ヒドロキシステアリン酸、エルカ酸、オレイン酸、ヤシ脂肪酸、フタル酸、アジピン酸、トリメリット酸、ヒドロキシヘプタデカン酸、ヒドロキシオクタデカン酸、ヒドロキシエイコサン酸、ヒドロキシドコサン酸、ヒドロキシヘキサコサン酸、ヒドロキシトリアコンタン酸などの脂肪酸系離型剤;グリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジグリセロール、トリグリセロール、ジペンタエリスリトール、エチレングリコール、ステアリルアルコール、1,6,7−トリヒドロキシ−2,2−ジ(ヒドロキシメチル)−4−オキソヘプタン、ソルビタン、ソルビトール、ポリオキシエチレンソルビタン、ポリオキシエチレンソルビトール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、2−メチル−1,6,7−トリヒドロキシ−2−ヒドロキシメチル−4−オキソヘプタン、1,5,6−トリヒドロキシ−3−オキソヘキサン、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、デシルテトラデカノール、ヘキサコサノール、トリアコンタノール、1,2−ヘキサデカンジオール、2,3−ヘプタデカンジオール、1,3−オクタデカンジオール、1,2−デシルテトラデカンジオールなどのアルコール系離型剤;グリセリンステアレート、ブチルステアレート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、12−ヒドロキシステアリン酸トリグリセリド、12−ヒドロキシステアリン酸ステアリルアルコール、ペンタエリスリトール−テトラ−12−ヒドロキシステアレート、エチレングリコール−ジ−12−ヒドロキシステアレート、プロピレングリコール−ジ−12−ヒドロキシステアレート等、前記脂肪酸とアルコール系化合物の縮合体である脂肪族エステル系離型剤;ステアリン酸アマイド、エチレンビスステアリン酸アマイド、エチレンビスオレイン酸アマイド、ヘキサメチレンビスベヘン酸アマイド、N−ステアリルステアリン酸アマイド、N−オレイルステアリン酸アマイド、エチレンビスカプリル酸アマイド、エチレンビスカプリン酸アマイド、エチレンビスラウリン酸アマイド、エチレンビスイソステアリン酸アマイド、m−キシリレンビスステアリン酸アマイド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アマイド、ジオレイルアジピン酸アマイド、ジオレイルセバシン酸アマイド、ステアロイドエチルステアレート〔C1735CONH(CHOCOC1735〕など、前記脂肪酸とアンモニアまたはエチレンジアミンなどとの縮合体である脂肪酸アマイド系離型剤;ステアリン酸カルシウムなど、金属と前記脂肪酸との金属塩である脂肪酸金属石ケン系離型剤;シリコーン系離型剤;などが挙げられる。
【0057】
これらの離型剤の中でも、揮発性が低い点で、パラフィンワックス;ステアリルステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、12−ヒドロキシステアリン酸トリグリセリド、グリセリントリステアレートなどの脂肪酸エステル系離型剤;N−ステアリルステアリン酸アマイド、N−オレイルステアリン酸アマイド、エチレンビスステアリン酸アマイド、ヘキサメチレンビスベヘン酸アマイド、エチレンビスオレイン酸アマイド等の脂肪酸アマイド系離型剤;が好ましい。
【0058】
有機添加剤の分子量は、好ましくは200〜10,000、より好ましくは300〜8,000、さらに好ましくは500〜5,000の範囲内であるが、これらの範囲に限定されない。有機添加剤の分子量が上記範囲内にあると、脂環構造含有重合体との混合が容易であり、光学用樹脂組成物の射出成形時における金型へのガスとしての付着や、成形体表面へのブリードやフラッシュなどによる外観不良が少なくなるので好ましい。
【0059】
有機添加剤が固体であって融点を示すものである場合、その融点は、好ましくは70℃以上、より好ましくは100℃以上である。有機添加剤の融点の上限値は、通常350℃または300℃程度である。有機添加剤の融点は、示差走査熱量計を用いて測定することができる。
【0060】
有機添加剤の5%質量減少温度は、好ましくは200℃以上、より好ましくは250℃以上、さらに好ましくは280℃以上、特に好ましくは300℃以上である。有機添加剤の5%質量減少温度の上限値は、通常450℃または430℃程度である。有機添加剤の5%質量減少温度は、示差熱重量測定装置(セイコー・インスツルメンツ社製、TG/DTA200)を用いて、窒素雰囲気下、10℃/分の昇温条件で測定した値である。有機添加剤の5%質量減少温度が上記範囲にあると、加熱処理が容易であることに加えて、光学用樹脂組成物の射出成形時における金型へのガスとしての付着や、成形体表面へのブリードやフラッシュなどによる外観不良が少なくなるので好ましい。
【0061】
有機添加剤の色調は、脂環式構造含有重合体に含有させたとき、85%以上、好ましくは86%以上、より好ましくは87%以上、さらに好ましくは88%以上、特に好ましくは89%以上の光線透過率を示す光学用樹脂組成物が得られるような色調であることが好ましい。
【0062】
有機添加剤は、脂環式構造含有重合体100質量部に対して、通常0.01〜10質量部、好ましくは0.03〜5質量部、より好ましくは0.05〜2質量部の範囲内で添加する。有機添加剤の割合が過小であると、光学用樹脂組成物の相対蛍光強度を十分に高くすることができず、耐レーザー性と光線透過率とを高水準にすることが困難となる。有機添加剤の割合が過大であると、耐レーザー性が向上するものの、光線透過率が低下傾向を示す。また、有機添加剤の含有割合を大きくしすぎると、金型へのガスとしての付着、ブリードやフラッシュなどによる成形体の外観不良を引き起こしやすくなる。脂環式構造含有重合体に、有機添加剤を前記割合で含有させることにより、相対蛍光強度を所定の範囲内に制御することができる上、紫外線吸収性、耐光安定性、酸化防止性、離型性など各有機添加剤の本来の機能をも発揮させることができる。
【0063】
本発明では、所定の条件下で予め加熱処理した有機添加剤を使用することが好ましい。具体的には、酸素濃度1000ppm以下の不活性ガス雰囲気中、60℃から該有機添加剤の熱分解温度未満の範囲内の温度で、30分間から72時間の範囲内の時間の条件下に加熱処理した有機添加剤を用いる。加熱処理条件については、後に詳述する。
【0064】
加熱処理した有機添加剤を脂環式構造含有重合体中に含有させることにより、a)相対蛍光強度Fが2〜250の範囲内にあり、b)耐レーザー性が0.01%以上1.0%未満の範囲内にあり、かつ、c)光線透過率が85〜95%の範囲内にある光学用樹脂組成物を得ることができる。
【0065】
4.その他の添加剤:
本発明の光学用樹脂組成物には、所期の目的を損なわない範囲内で、充填剤、難燃剤、抗菌剤、木粉、カップリング剤、可塑剤、着色剤、滑剤、シリコーンオイル、発泡剤、界面活性剤、蛍光増白剤などの各種添加剤を配合することができる。その他の添加剤には、加熱処理されていない有機添加剤も含まれる。
【0066】
5.光学用樹脂組成物の製造方法:
本発明の光学用樹脂組成物は、下記工程1及び2:
(1)有機添加剤を、酸素濃度1000ppm以下の不活性ガス雰囲気中、60℃から該有機添加剤の熱分解温度未満の範囲内の温度で、30分間から72時間の範囲内の時間の条件下に加熱処理する工程1;並びに
(2)該工程1で加熱処理した有機添加剤と脂環式構造含有重合体とを混合する工程2;
を含む製造方法によって製造することができる。本発明の製造方法により、前記式(I)で表される相対蛍光強度Fが2〜250の範囲内にある光学用樹脂組成物を製造することができる。
【0067】
有機添加剤の加熱処理は、酸素濃度が1000ppm以下、好ましくは800ppm以下、より好ましくは500ppm以下で行う。加熱処理時の雰囲気中の酸素濃度が高すぎると、有機添加剤の熱分解や劣化が生じやすくなる。酸素濃度の下限値は、通常1ppm、多くの場合5ppm程度である。
【0068】
加熱処理温度の下限値は、60℃であるが、有機添加剤の種類に応じて、加熱処理温度をできるだけ高めることが好ましい。加熱処理温度は、有機添加剤の融点以上の温度であることが、加熱処理時間を短縮し、かつ、加熱処理による相対蛍光強度Fの増大を容易にする上で好ましい。
【0069】
加熱処理温度は、有機添加剤の熱分解温度未満とする。本発明において、有機添加剤の熱分解温度とは、5%質量減少温度を意味する。加熱処理温度が高すぎると、加熱処理時に有機添加剤が熱劣化したり、望ましくない変質を生じたりするおそれがある。加熱処理温度は、通常200〜350℃、多くの場合230〜300℃の範囲内とすることができる。
【0070】
加熱処理時間は、30分間から72時間、好ましくは1〜24時間、より好ましくは1〜10時間、特に好ましくは1〜8時間の範囲内である。加熱処理時間は、有機添加剤の種類や加熱処理温度によって調整することが望ましい。加熱処理温度を高くすると、加熱処理時間を短縮することができる。加熱処理温度を高くすることによって、多くの場合、加熱処理時間を2.5〜5時間の範囲内とすることができる。
【0071】
したがって、本発明において、有機添加剤の加熱処理は、酸素濃度1000ppm以下の不活性ガス雰囲気中、有機添加剤の融点以上5%質量減少温度(熱分解温度)未満の温度範囲内で、1〜8時間加熱処理する方法によって行うことが望ましい。有機添加剤の融点が60℃未満であると、光学用樹脂組成物の射出成形時における金型へのガスとしての付着や、成形体表面へのブリードやフラッシュなどによる外観不良が生じやすくなる。
【0072】
有機添加剤をその融点以上の温度で加熱処理すると、加熱処理した有機添加剤を脂環式構造含有重合体に添加して得られる光学用樹脂組成物の色調や透明性を良好に保持した状態で、耐レーザー性を顕著に向上させることができる。
【0073】
本発明の光学用樹脂組成物は、脂環式構造含有重合体と加熱処理した有機添加剤とを混合する方法により製造することができる。融点以上の温度で加熱処理した有機添加剤が部分的または全体的に融着若しくは溶融固化した状態にある場合には、必要に応じて、粉砕してから脂環式構造含有重合体と混合することができる。
【0074】
混合方法としては、特に限定されず、公知の各種混合方法を採用することができる。例えば、脂環式構造含有重合体のペレット、加熱処理した有機添加剤、及び必要に応じてその他の添加剤とを、ヘンシェルミキサー、V−ブレンダー、リボンブレンダー、タンブラーブレンダーなどの混合機を用いて混合し、さらに、一軸押出機、二軸押出機、加圧ニーダー、ロールミル等を用いて溶融混練する方法;脂環式構造含有重合体の樹脂溶液に加熱処理した有機添加剤と必要に応じてその他添加剤を混合した後、溶媒等の揮発成分を除去する方法;などが挙げられる。これらの中でも、溶融混練法による混合方法が好ましい。
【0075】
6.光学部品:
本発明の光学用樹脂組成物を成形して光学部品を製造することができる。本発明の光学部品は、光学用樹脂組成物を加熱溶融成形することにより好適に製造することができる。成形方法としては、例えば、射出成形法、押出成形法、プレス成形法、ブロー成形法、キャスト成形法などの通常の成形方法を用いることができる。光学レンズなどの立体形状の光学部品を製造するには、射出成形法を採用することが好ましい。
【0076】
本発明の光学部品としては、例えば、ピックアップレンズ、ビデオカメラ用レンズ、望遠鏡レンズ、レーザビーム用fθレンズなどのレンズ類;光学式ビデオディスク、オーディオディスク、文書ファイルディスク、メモリディスクなどの光ディスク類;OHPフィルム等の光学フィルムなどの光学材料;フォトインタラプター、フォトカプラー、LEDランプ等の光半導体封止材;液晶表示装置用の位相差板、光拡散板、導光板、偏光板保護膜、集光シートなどの各種光学部材;などが挙げられる。
【0077】
本発明の光学部品は、ピックアップレンズやレーザービーム用fθレンズなどのレンズ類として、波長390〜430nmの青紫レーザーを用いる装置に使用するのに適している。本発明の光学部品の形状は、球状、棒状、板状、ファイバー状、筒状、その他の立体形状など任意である。
【実施例】
【0078】
以下に、製造例、実施例、及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。以下の製造例、実施例及び比較例において、部及び%は、特に断りがない限り、質量基準である。各種物性及び特性の測定法は、次のとおりである。
【0079】
(1)重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)の測定:
重合体の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、シクロヘキサンを溶離液とするゲルパーミエーションクロマトグラフィによる標準ポリイソプレン換算によって求めた。
【0080】
(2)ガラス転移温度:
ガラス転移温度は、示差走査熱量分析計(SIIナノテクノロジー社製「DSC6220」)を用いて、日本工業規格のJIS K 6911に従って測定した。
【0081】
(3)水素添加率:
脂環式構造含有重合体の水素添加率は、H−NMRスペクトルから算出した。
【0082】
(4)蛍光強度:
光学用樹脂組成物の相対蛍光強度Fは、標準溶液(分光蛍光光度計用ローダミンB溶液、和光純薬社製、製品コード「284−52953」)の蛍光強度Fに対する光学用樹脂組成物の蛍光強度Fの割合として評価した。より具体的に、本発明において、相対蛍光強度Fは、下記式(I)により算出される値である。
F=(F/F)×100 …(I)
【0083】
光学用樹脂組成物の蛍光強度Fは、光学用樹脂組成物から成形した縦65mm×横65mm×厚み3mmの平板状成形体を、その平板面が入射光に対して45°の角度となるように配置し、次いで、分光蛍光光度計(日立製作所社製「F−4500」)を用いて、励起波長400nmの光をスリット幅5.0nmで該成形体に入射し、その際、検出部のホトマル電圧を700ボルトに設定し、そして、発光領域400〜800nmにわたってスリット幅5.0nmで蛍光ピークの測定を行い、最大蛍光ピーク高さとして測定した。
【0084】
標準溶液の蛍光強度Fは、内径の二辺が10mmの直角二等辺三角形を底面とする三角柱セル(スタルナ社製「蛍光用三角セルSF3」)内に、標準溶液として分光蛍光光度計用ローダミンB溶液(和光純薬社製、製品コード「284−52953」、販売元:日立製作所社)を入れ、該三角柱セルにおける直角二等辺三角形の底辺の面が入射光に対し45°の角度となるよう配置し、次いで、分光蛍光光度計(日立製作所社製「F−4500」)を用いて、励起波長400nmの光をスリット幅5.0nmで該三角柱セルに入射し、その際、検出部のホトマル電圧を700ボルトに設定し、そして、発光領域400〜800nmにわたってスリット幅5.0nmで蛍光ピークの測定を行ったときに、最大蛍光ピーク高さとして測定した。
【0085】
蛍光光度計のランプとして、キセノンランプ(30KV、150W)を使用した。前記標準溶液の蛍光強度Fは、1674であった。
【0086】
(5)光線透過率:
光線透過率(%)は、前記成形体について、分光光度計(日本分光社製「V−570」)を用いて、波長400nm及び光路長3mmで測定した。
【0087】
(6)耐レーザー性:
耐レーザー性は、前記成形体に、60℃の環境下で、波長405±10nm、出力2800mW/cmのレーザーダイオード(ネオアーク社製「TC35-40200−4.5」)からのレーザー光を240時間照射し、レーザー照射後の成形体の光線透過率を分光光度計(日本分光社製「V−570」)を用いて測定し、照射前後の光線透過率の比率(低下率)(%)で評価した。成形体試料のレーザー照射前後における波長400nmの光線透過率の低下率が小さいほど、耐レーザー性に優れることを示す。
【0088】
[製造例1]
乾燥窒素で置換したステンレス製耐圧容器に、スチレン76質量部及びイソプレン4質量部を密封し、攪拌して、混合モノマーを調製した。次に、乾燥窒素で置換した電磁撹拌装置を備えたステンレス鋼製オートクレーブに、脱水シクロヘキサン320質量部、混合モノマー4質量部、及びジブチルエーテル0.1質量部を仕込み、これらを50℃で撹拌しているところに、n−ブチルリチウムのヘキサン溶液(濃度15%)0.18質量部を添加して重合を開始した。反応開始から0.5時間経過した時点(転化率96%)で、重合反応溶液に混合モノマー76質量部を1時間かけて連続的に添加し、重合反応を継続させた。混合モノマー添加の終了時(転化率95%)からさらに0.5時間経過した時点で、イソプロピルアルコール0.1質量部を添加して重合反応を停止させた。このようにして、重合体(A1)を得た。この重合体(A1)の重量平均分子量(Mw)は、150,000であり、分子量分布(Mw/Mn)は、1.12であった。
【0089】
次いで、該重合体(A1)を含む反応溶液400質量部に、安定化ニッケル水素化触媒E22U(日揮化学工業社製「60%ニッケル担持シリカ−アルミナ担体」)8質量部を添加し、それをステンレス鋼製オートクレーブに仕込んだ。オートクレーブ内部を水素ガスで置換し、オートクレーブ内質量部の圧力を4.5MPaに保つように水素を供給し、160℃で6時間水素添加反応を行った。次いで、ラジオライト#800を濾過床とする加圧濾過器(石川島播磨重工社製「フンダフィルター」)を用いて、圧力0.25MPaで加圧濾過して、触媒を除去した無色透明な溶液を得た。
【0090】
この水素添加反応溶液を、アセトン250質量部とイソプロパノール250質量部との混合溶液中に攪拌しながら注いで、水素添加物を沈澱させ、次いで、濾別して回収した。回収した水素添加物を、さらにアセトン200質量部で洗浄した後、1mmHg以下に減圧した100℃の真空乾燥器で24時間乾燥させ、水素添加物(A2)を得た。水素添加物(A2)の収率は、99%であった。
【0091】
このようにして得られた水素添加物(A2)〔以下、「SI水添物(A2)」と略記することがある〕は、水素添加率が99.8%で、重量平均分子量(Mw)が100,000で、分子量分布(Mw/Mn)が1.28で、ガラス転移温度が125℃であった。
【0092】
[実施例1]
1.樹脂組成物の調製:
リン系酸化防止剤として6−〔3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロポキシ〕−2,4,8,10−テトラキス−t−ブチルジベンゾ〔d、f〕〔1.3.2〕ジオキサフォスフェピンを、酸素濃度450ppmの窒素雰囲気下、270℃の温度で4時間加熱処理した。
【0093】
製造例1で合成したSI水添物(A2)100質量部、加熱処理した6−〔3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロポキシ〕−2,4,8,10−テトラキス−t−ブチルジベンゾ〔d,f〕〔1.3.2〕ジオキサフォスフェピン(5%質量減少温度330℃)0.3質量部、及び光安定剤としてポリ[〔6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル〕〔(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ〕ヘキサメチレン〔(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ〕]0.1質量部を、2軸混練機(東芝機械社製「TEM−35B」、スクリュー径=37mm、L/D=32、スクリュー回転数=250rpm、樹脂温度=230℃、フィードレート=10kg/時間)で混練して、溶融押出し、ペレット化して、樹脂組成物(A2−1)を得た。
【0094】
2.成形体の作製:
樹脂組成物(A2−1)を80℃で4時間加熱し乾燥させ、次いで、射出成形装置(ファナック株式会社製、製品番号「α−100B」)を用いて、樹脂温度250℃、金型温度115℃、射出速度20mm/sec、保圧80MPaにて射出成形を行い、65mm×65mm×3mmの平板状の成形体(a)を得た。得られた成形体(a)の波長400nmにおける蛍光強度F1、相対蛍光強度F、光線透過率、及び耐レーザー性の測定結果を表1に示す。
【0095】
[実施例2]
光安定剤としてジブチルアミン・1,3,5−トリアジン・N,N′−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ヘキサメチレンジアミン・N−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミン縮重合物(5%質量減少温度405℃)を、酸素濃度450ppmの窒素雰囲気下、270℃の温度で4時間加熱処理した。実施例1において、加熱処理したリン系酸化防止剤0.3質量部に代えて、上記の加熱処理したジメチルサクシネートと1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンとの重縮合物0.5質量部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物(A2−2)を調製した。次いで、該樹脂組成物(A2−2)を用いて、実施例1と同様にして成形体(b)を成形した。結果を表1に示す。
【0096】
[実施例3]
離型剤としてペンタエリスリトールトリステアレート(5%質量減少温度348℃)を、酸素濃度450ppmの窒素雰囲気下、270℃の温度で4時間加熱処理した。実施例1において、加熱処理したリン系酸化防止剤0.3質量部に代えて、上記の加熱処理したペンタエリスリトールトリステアレート0.5質量部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物(A2−3)を調製した。次いで、該樹脂組成物(A2−3)を用いて、実施例1と同様にして成形体(c)を成形した。結果を表1に示す。
【0097】
[比較例1]
実施例1において、加熱処理したリン系酸化防止剤を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物(A2−4)及び成形体(d)を得た。結果を表1に示す。
【0098】
[比較例2]
実施例1において、リン系酸化防止剤の加熱処理時間を4時間から2時間に変更し、かつ、加熱処理したリン系酸化防止剤の使用割合を0.3質量部から0.005質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物(A2−5)を調製した。次いで、該樹脂組成物(A2−5)を用いて、実施例1と同様にして成形体(d)を成形した。結果を表1に示す。
【0099】
【表1】

【0100】
(脚注)
(*1)酸化防止剤:リン系酸化防止剤である6−〔3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロポキシ〕−2,4,8,10−テトラキス−t−ブチルジベンゾ〔d,f〕〔1.3.2〕ジオキサフォスフェピン、
(*2)光安定剤:ジブチルアミン・1,3,5−トリアジン・N,N′−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ヘキサメチレンジアミン・N−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミン縮重合物、
(*3)離型剤:ペンタエリスリトールトリステアレート。
【0101】
<考察>
加熱処理した有機添加剤を含有させていない場合は、耐レーザー性が不充分である(比較例1)。加熱処理した有機添加剤(リン系酸化防止剤)の割合が過小であると、相対蛍光強度が低く、耐レーザー性が充分ではない(比較例2)。
【0102】
これに対して、脂環式構造含有重合体に、加熱処理した有機添加剤を適量配合した場合には、所定の範囲内の相対蛍光強度を持ち、光線透過率及び耐レーザー性が高水準でバランスした光学用樹脂組成物(実施例1〜3)を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の光学用樹脂組成物は、高い光線透過率を有すると共に、耐レーザー性に優れており、各種光学物品の樹脂材料として利用することができる。光学物品としては、青紫レーザー用ピックアップレンズなど光学レンズが好ましいものとして挙げられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂環式構造含有重合体及び有機添加剤を含有する光学用樹脂組成物であって、下記式(I)
F=(F/F)×100 …(I)
〔式(I)中、Fは、光学用樹脂組成物の蛍光強度を表わし、かつ、Fは、分光蛍光光度計用ローダミンB標準溶液の蛍光強度を表わす。〕
で表される相対蛍光強度Fが2〜250の範囲内である光学用樹脂組成物。
【請求項2】
耐レーザー性が、0.01%以上1.0%未満の範囲内である請求項1記載の光学用樹脂組成物。
【請求項3】
光線透過率が、85〜95%の範囲内である請求項1または2記載の光学用樹脂組成物。
【請求項4】
該有機添加剤が、酸素濃度1000ppm以下の不活性ガス雰囲気中、60℃から該有機添加剤の熱分解温度未満の範囲内の温度で、30分間から72時間の範囲内の時間の条件下に加熱処理したものである請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光学用樹脂組成物。
【請求項5】
該有機添加剤が、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、及び離型剤からなる群より選ばれる少なくとも一種の有機添加剤である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光学用樹脂組成物。
【請求項6】
該有機添加剤が、該脂環式構造含有重合体100質量部に対して、0.01〜10質量部の範囲内で含まれている請求項1乃至5のいずれか1項に記載の光学用樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の光学用樹脂組成物を成形してなる光学部品。
【請求項8】
波長390〜430nmの青紫レーザー用光学部品である請求項7記載の光学部品。
【請求項9】
光学レンズである請求項7または8記載の光学部品。
【請求項10】
下記工程1及び2:
(1)有機添加剤を、酸素濃度1000ppm以下の不活性ガス雰囲気中、60℃から該有機添加剤の熱分解温度未満の範囲内の温度で、30分間から72時間の範囲内の時間の条件下に加熱処理する工程1;並びに
(2)該工程1で加熱処理した有機添加剤と脂環式構造含有重合体とを混合する工程2;
を含む、下記式(I)
F=(F/F)×100 …(I)
〔式(I)中、Fは、光学用樹脂組成物の蛍光強度を表わし、かつ、Fは、分光蛍光光度計用ローダミンB標準溶液の蛍光強度を表わす。〕
で表される相対蛍光強度Fが2〜250の範囲内にある光学用樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2010−77251(P2010−77251A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−246133(P2008−246133)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】