説明

光学用途用位相変調装置

フレクソ電気光学効果液晶材料からなる層と、その液晶材料からなる層に電場を印加するための電極とを有する光位相変調装置。このようにして、その液晶層の光軸を偏向させることができる。これにより、その液晶層を通過する光に対する位相シフトを実現できる。その装置の基板は、シリコン上液晶(LCOS)マイクロディスプレイに基づいている。その装置は、例えば、ホログラフィックディスプレイのための多段階の位相シフトを実行できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学用途用位相変調装置に関する。具体的には、限定するものではないが、ホログラフィックプロジェクタ、光相関器で使用する、又は、適応光学用途に用いる位相変調装置に関心がある。
【背景技術】
【0002】
US-A-5,182,665及びUS-A-5,552,916は、強誘電性液晶材料からなる層を通過する非偏光入射光を選択的に変調するための装置を開示している。その強誘電性液晶層は、その強誘電性液晶層に印加された電場により、第1の方向又は第2の方向に向かわせることのできる光軸を有する。
【0003】
WO2005/072396及びWO2007/127758は、ホログラフィックデータ記憶に用いられる位相マスクと一緒に、強誘電性単結晶層を含む空間光変調器の用途を開示している。その強誘電性単結晶層は、シリコン上液晶(liquid crystal on silicon)(LCOS)構造におけるCMOSバックプレーンに設けることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者らは、強誘電性液晶層を用いる公知の位相変調装置の欠点は、そのような装置の応答時間を(1〜10kHz程度に)速くすることができるが、実際には、表面安定化により、2つの安定状態のみが適用されるため、それらの装置は、二相位相変調に限定されるということに気付いた。
【0005】
発明者らの知る限り、速い応答時間で、マルチレベル位相変調を実現するための適当な装置は、現時点で存在しない。本発明は、この問題に対処するために考案されている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
従って、一般的観点において、本発明は、液晶を通過する光の位相を制御するために、フレクソ電気光学効果液晶材料を利用する。
【0007】
第1の好適な観点において、本発明は、フレクソ電気光学効果液晶材料からなる層と、その液晶層の光軸を偏向させて、その液晶層を通過する光に位相シフトを与えるように、その液晶材料からなる層に電場を印加するための手段とを有する光位相変調装置を提供する。
【0008】
第2の好適な観点において、本発明は、液晶材料からなる層を通過する光の位相変調のための方法であって、その液晶材料がフレクソ電気光学効果液晶材料であり、その方法が、その液晶層の光軸を偏向させて、その液晶層を通過する光に位相シフトを与えるように、その液晶材料からなる層に電場を印加することを含む方法を提供する。
【0009】
第3の好適な観点において、本発明は、第1の観点による装置を含むホログラフィックディスプレイ装置(例えば、ホログラフィックディスプレイプロジェクタ)を提供する。
【0010】
第4の好適な観点において、本発明は、第2の観点による方法を実行することを含む、ホログラフィックイメージを表示する方法を提供する。
【0011】
第5の好適な観点において、本発明は、第1の観点による装置を含む光相関装置を提供する。
【0012】
第6の好適な観点において、本発明は、第2の観点による方法を実行することを含む、第1のイメージを第2のイメージ(又はフィルタ)と関連付ける方法を提供する。
【0013】
第7の好適な観点において、本発明は、第1の観点による装置を含む光学装置(例えば、研究及び/又は医療診断のためのイメージング装置)を提供する。
【0014】
第8の好適な観点において、本発明は、第2の観点による方法を実行することを含む(例えば、研究及び/又は医療診断のための)イメージング法を提供する。
【0015】
第9の好適な観点において、本発明は、第1の観点による装置を含む光通信装置を提供する。
【0016】
第10の好適な観点において、本発明は、第2の観点による方法を実行することを含む光通信方法を提供する。
【0017】
第7の観点から第10の観点のいずれかにおいて、入力信号における波面の歪曲は、その入力信号の位相を空間的に変調することにより、少なくとも部分的に補正することができる。このようにして、本発明は、適応光学の分野に適用することができる。
【0018】
ここで、本発明のさらなる好適な及び/又は任意の特徴を記載しておく。それらは、文脈が他の方法で要求しない限り、単独で、又は、本発明のいずれかの観点との何らかの組合せで適用可能である。
【0019】
好ましくは、位相シフトは、その液晶層に印加された電場と実質的に連続的に変えられる。従って、実際には、液晶に印加されたその電場の強度の各増分に対して、その装置の作動限界内で、典型的には、光に加えられた位相シフトには、対応する変化がある。実際の装置においては、(適切な電場入力信号に相当する)少なくとも5つの位相シフトレベルを適用できるが、好ましくは、かなりより多くの位相シフトレベル、例えば、少なくとも10、少なくとも20、少なくとも30、少なくとも40又は少なくとも50の位相シフトレベルが適用される。
【0020】
好ましくは、位相シフトは、液晶層に印加される電場と一緒に実質的に線形的に変えられる。典型的には、光に与えられる位相シフトは、光軸の偏向の量に伴って、実用限界まで変化する。実用限界は、典型的には、その液晶に印加することができる最大電場によって、又は、しきい値電場以上でのその液晶の挙動に合わせて決まる。
【0021】
好ましくは、(典型的には、10%〜90%の応答時間として定義される)応答時間は、1ms以下である。より好ましくは、その応答時間は、500μs以下、例えば、約100μsよりも速い。
【0022】
好ましくは、その液晶材料は、キラルネマティック(chiral nematic)液晶材料である。典型的には、その液晶材料は、らせん構造を有する。
【0023】
WO2006/003441は、フレクソ電気光学液晶材料に関する詳細な議論を含む。WO2006/003441の内容は、その全体を、特に、そのフレクソ電気光学液晶の適切な特性及び適当な材料に関する開示に関して、参照によって本願明細書に援用する。しかし、WO2006/003441の装置は、そのフレクソ電気光学液晶のらせん軸と平行に伝播する通信信号に輝度変調を与えるために、透過光の偏光状態を制御するのに用いられるように意図されている。
【0024】
好ましくは、本発明に用いられるフレクソ電気光学液晶において、そのらせん軸は、印加された電場の方向と実質的に垂直である。このようにして、電場の印加は、フレクソ電気変形が安定的に起きることを可能にする。
【0025】
そのフレクソ電気光学液晶のらせんピッチは、入射光の波長よりも短くすることができる。そのフレクソ電気光学液晶のらせんピッチは、その入射光の波長よりも実質的に短くすることができる。このようにして、回転分散効果を低減することができる。さらに、短いピッチの利用は、その装置の応答時間を短縮することができる。
【0026】
その装置において、液晶からなる層は、その最小寸法に対応する厚さ方向を有する。典型的には、そのらせん軸は、その厚さ方向と実質的に垂直である。従って、そのらせん軸は、基板(以下で説明する)と平行にすることができる。このようにして、その液晶材料の配向及び形状は、均等に位置するらせん(uniform lying helix)(ULH)配置のものとすることができる。しかし、そのらせん軸は、その基板に対して非平行にすることも可能である。例えば、そのらせん軸は、その基板に対して垂直に、又は実質的に垂直にすることができる。このような構成は、典型的には、起立らせん構成と呼ばれる。
【0027】
典型的には、液晶からなるその層は、基板とカバーとの間に保持される。そのカバーは、典型的には、入射光に対して実質的に透明である。電場を印加するための手段は、典型的には、その基板に形成された電極を含む。より好ましくは、電場を印加するためのその手段は、その基板に形成された電極からなるアレイを含む。各々は、選択的にアドレス可能にすることができる。各々は、その装置の個別ピクセル又はサブピクセルに対応させることができる。従って、各ピクセル又はサブピクセルは、そのピクセル又はサブピクセルにおける液晶層を通過する光に位相シフトを与えるように選択的に動作可能にすることができる。
【0028】
電場を印加するためのその手段は、そのカバーに形成された電極(好ましくは、実質的に透明な、例えば、インジウムスズ酸化物(ITO)等)を含むことができる。この電極は、共通電極とすることができる。
【0029】
好ましくは、その装置は、大量のピクセル又はサブピクセルからなるアレイを含む。1次元アレイには、少なくとも100(より好ましくは、少なくとも1000)ピクセル又はサブピクセルがある。2次元アレイには、少なくとも100×100(より好ましくは、少なくとも100×1000又は1000×1000)ピクセル又はサブピクセル、又はそれ以上ある。
【0030】
その装置は、透過モードで作動することができる。この場合、その基板は、好ましくは、入射光に対して実質的に透明である。しかし、その装置は、反射モードで作動することが好適である。入射光は、その基板から反射する可能性がある。好ましくは、入射光は、その基板に形成された電極のうちの少なくとも1つの表面から反射する。反射モードで作動するという利点は、その装置を、その液晶層を通る、すなわち、そのカバーからその基板への、及びその基板からそのカバーへの及びその装置の外部への2方向通過に基づいて、その入射光に適切な位相シフトを加えるように構成できるということである。
【0031】
その装置は、光路内に4分の1波長プレートを含むことができる。このようにして、光に加えられる位相シフトを増加させることができる。そのため、反射モードで作動する場合、4分の1波長プレートの組込みは、その装置の応答を倍にすることができる。
【0032】
好ましくは、その基板は、少なくとも、半導体材料、例えば、シリコンからなる層を含む。最も好ましくは、その基板は、LCOS構造の基板に基づいている。このことは、既知の半導体製造技術を用いて、その基板を製造することができ、また、電極及び他の電気回路コンポーネントを、その基板上又は基板内に形成できるため、有利である。そのようなコンポーネントは、空間的に非常に精密にかつ小寸法で形成することができる。
【0033】
その液晶層の厚さは、20μm以下とすることができる。より好ましくは、その液晶層の厚さは、10μm以下とすることができる。例えば、約5μmの厚さが適当であると考えられる。
【0034】
多くの液晶デバイスは、少なくとも1つの偏光層を含む。そのようなデバイスは、典型的には、そのデバイスを通過する光の強度を変調するように作動する。例えば、液晶ディスプレイは、典型的には、交差する偏光層間に保持された液晶からなる層を通る光の偏光方向を回転させることによって作動する。好ましくは、本発明の観点において、そのデバイスに入る及び/又はそのデバイスから出る光は、偏光層を通過しない。具体的には、本発明は、好ましくは、交差偏光層を利用しない。これは、本発明が、光の位相変調を利用しようとするものであり、また、偏光層の存在は、そのデバイスの全体の強度(及び効率)を低減しようとするものであるためである。
【図面の簡単な説明】
【0035】
本発明の好適な実施形態を、以下に簡単に説明されている添付図面を参照して説明する。
【図1】図1は、上及び横から見た、本発明のLCOSの実施形態の概略図を示す。
【図2】図2は、本発明のLCOSの実施形態の位相シフト及び応答時間を測定するための実験的構成を示す。
【図3】図3は、本発明のLCOSの実施形態におけるキラルネマティック液晶のULHアラインメントを示す光学顕微鏡写真を示す。
【図4】図4は、本発明のLCOSの実施形態におけるキラルネマティック液晶のULHアラインメントを示す光学顕微鏡写真を示す。
【図5A】図5A及び図5Bは、光度変調に関するLCOS素子のフレクソ電気光学的応答を示す。図5Aは、ガラスセル及びLCOS素子の場合の傾斜角を示している。
【図5B】図5Bは、ガラスセル及びLCOS素子の場合のキラルネマティック液晶混合物の応答時間を示す。
【図6】図6(a)、6(b)及び6(c)は、ネマティックLCOS素子の位相変調を示す。図6(a)は、異なる印加電圧の場合の遠視野干渉のイメージを示す。図6(b)は、位相シフトのプロットを電圧の関数として示す。赤線は、プロットのシグモイドフィットを表す。図6(c)は、位相シフトの応答時間を、異なる周波数に対する電場の関数として示す。
【図7】図7(a)、7(b)及び7(c)は、フレクソ電気光学LCOS素子の位相変調を示す。図7(a)は、異なる印加電圧の場合の遠視野干渉のイメージを示す。図7(b)は、位相シフトのプロットを電圧の関数として示す。赤線は、そのプロットに対する線形フィットを表す。図7(c)は、異なる周波数に対する位相シフトの応答時間を示す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
従来のLCOS素子が知られている。例えば、参考文献1は、平面配向ネマティック液晶(LC)に基づいて多段階の位相変調を行えるが、セル形状及び粘弾性特性により、単に約100Hzのフレームレートを実現可能である高度な回折格子チップ等を開示している。一方、強誘電体LCOS素子は、10kHzを超えるフレームレートを行えるが、表面安定化によって適用される2つの安定状態により、二相位相変調に限定される。その結果として、1kHzを超えるフレームレートを伴う両アナログ位相変調を提供する電気光学効果は、ホログラフィック投影及び適応光学の高度化の中心である(参考文献2〜4)。
【0037】
キラルネマティックLCにおけるフレクソ電気光学効果は、ULH配置においては、速いスイッチングであり、すなわち、外部から印加された電場に対して線形である光軸の面内偏向である(参考文献5、6)。フレクソ電気光学効果は、光軸の傾斜角φ及び応答時間τによって特徴付けられる。これらは、第一次近似としては、巨視的物理特性に関して、次のように表すことができる。
【0038】
【数1】

【0039】
【数2】

【0040】
ここで、pは、らせんのピッチであり、γは、そのらせんの歪みに対する相対有効粘性率であり、eは、平均フレクソ電気係数(e=1/2(e+e))であり、Kは、K=1/2(K11+K33)で定義される、その物質の場合の斜角及び湾曲弾性定数であり、e及びeはそれぞれフレクソ電気係数であり、K11及びK33は、それぞれその物質の斜角及び湾曲変形に対する弾性定数である。
【0041】
これらの式は、その光軸の傾斜角が、印加された電場において線形であり、また、その大きさが、いわゆるフレクソ弾性比に影響されることを示している。しかし、その応答時間は、短いピッチのキラルネマティック液晶を選択することにより、最小化することができる。この研究において、本発明者等は、シリコン素子上でのフレクソ電気光学スイッチングを実証し、また、従来のガラスセル構造に採用されているのと同様のアプローチを用いて、均等に位置するらせん構造を得ることができることを確認している。そのスイッチング特性は、制御ガラスセルの場合に得られる結果と一致することが分かっており、しかも、遠視野での干渉縞からの位相変化を記録することにより、高速で多段階の位相変調が実現される。このようなデバイスは、例えば、次世代のホログラフィック用途にとって重要である。
【0042】
図1は、本発明の実施形態の概略図を示す。LCOS素子10は、標準的なシリコン超大規模集積回路(VLSI)プロセスを用いて、2つの平行なアルミニウムピクセル14と、底部基板のためのアドレッシング回路とを収容できる(アラインメント層も含む)シリコンバックプレーン12を形成するように形成されている。このことは、その素子を反射モードで使用できるようにし、それにより、そのシリコンアドレッシング回路上のそれらのアルミニウムピクセルは、それを用いて液晶層全面に電場を印加する電極として、及びそのLC材料との光学的相互作用を可能にする「ミラー」として機能する。そのLCOS素子の上部には、ガラス基板の内面が、ITO18からなるパターン化された電極層で被覆されているガラス基板16がある。低プレチルトポリイミドアラインメント層(AM4276)20は、両基板上のアルミニウムピクセルの長縁に沿って配向されている。空セルのセルギャップは、紫外線硬化接着シール中にドープされた5μmのスペーサボール22を用いて形成されている。そして、そのセルギャップは、ファブリペロー干渉法を用いて測定される。これらのアルミニウムピクセルのサイズは、2mm×6mmであった。
【0043】
この研究で用いられるネマティックLC混合物は、BL048(Merck)である。この研究で用いられるキラルネマティックLC混合物は、市販のネマティックLC混合物BL006(Merck KGaA)と、低濃度(1wt%)の高ねじれ力・キラルドーパントBDH1305(Merck KGaA)とで構成される。このサンプルのピッチは、600nm以上である。そして、結果として生じる混合物は、真空による毛細管現象によって、空のLCOS素子に充填される。その混合物をそのLCOS素子に充填した後、印加電場がない状態で、グランジャン構造が室温で得られる。周波数100Hzで、バイポーラ方形波(2.5V/μm)の影響下で、その混合物を等方相から室温(27℃)まで冷却することにより、意外にも、そのLCOS素子内に良好なULH構造が得られた。その素子全面にわたる機械的せん断が、アラインメントを改善するのに用いられた。
【0044】
そのLCOS素子にULH構造を予め設けるのに用いられ、及びその実験装置に対して、フレクソ電気光学応答の測定が実行される実験装置は、温度を0.1℃以内の精度で制御できるようにする、OlympusBH-2反射偏光顕微鏡及びLinkamホットステージを含む。そのLCOS素子のフレクソ電気光学応答は、その顕微鏡の光電管内に設けられたフォトダイオード、ディジタルオシロスコープ(HP54501A、Hewlett-Packard)及び社内で作った高電圧増幅器と組合わせた波形ジェネレータ(TGA1230、Thurlby-Thandar)による増幅出力を用いて測定した。
【0045】
位相測定のために行われた実験は、ヤングの二重スリット実験と同様であるが、LCOS素子から反射された光を用いたことが異なっている(図2を参照)。光源30は、回転部に設けられた偏光レーザ源であり、入力レーザ偏光は、LCOS素子32内のキラルネマティック液晶サンプル中のULH構造の光軸と位置合わせされる。そのレーザ光は、視準レンズ36によって視準された後、非偏光ビームスプリッタ38に入る。分割ビームの一部はその後、二重スリットマスク40に到達し、その後さらにLCOS素子32に到達する。LCOS素子32は、信号発生器34によって制御される。二重スリットを通る反射光を集光するのに、開口数0.12の顕微鏡の対物レンズ42(5倍)を使用した。その二重スリットは、LCOS素子のアルミニウムピクセルをカバーしている。NLCサンプルのための二重スリットは、間に0.5mmのギャップを設けて配置し、各スリットは、約0.4mm×0.5mmとした。キラルネマティック液晶サンプルのための二重スリットは、0.5mmのギャップでも分離され、同じ面積を有している。それらのアルミニウムピクセルは、2つのピクセル間の位相差を最大限にするために、「二重スリットマスク」で被覆され、このようなアプローチにおいては、それらのピクセルのうちの一方のみが印加電場によって駆動され、他方のピクセルは、リファレンスとして機能する(すなわち、電場は印加されない)。テストデバイスの遠視野干渉パターンを観察するのには、電荷結合素子(CCD)カメラ44(Logitech、QVGA)を使用した。そして、干渉縞を遠視野で記録し、それにより、2つの最大間のセパレーションは、同相で2πであった。応答時間の測定には、そのCCDカメラを、0.8mmのアクティブ領域を備えた光検出器46(Thorlabs’DET210)と置換え、顕微鏡の対物レンズは、開口数0.65で40倍の顕微鏡対物レンズに変更した。その光検出器は、出力波形と、位相変調の測定応答時間とを同時に表示するディジタルオシロスコープ48(Agilent 54624A)に接続した。
【0046】
LCOSのテストデバイスにおけるフレクソ電気光学スイッチングを確認するために、傾斜角及び応答時間は、周波数100Hzの電場を用いた光度ベースの変調から決定した。2V/μmの印加電場において、交差した偏光子間で撮ったアルミニウムピクセル上のULH構造の光学顕微鏡写真を、そのデバイスの平面内の光軸の比較的良好なアラインメントを示す図3及び図4に示す。これは、シリコン基板上に横たわっているらせんを得ることができることを実証しているので有望な結果である。45°の光軸を、それらの偏光子の透過軸に位置合わせする(明るい状態)ようにした後、その光軸を、それらの偏光子の一方の透過軸に位置合わせする(暗い状態)ように、交差した偏光子間でそのデバイスを回転させることによって、暗い状態(図3)及び明るい状態(図4)が得られた。
【0047】
図5は、そのLCOS素子上のULH構造におけるキラルネマティックLCの光学応答を実証するものである。印加された電場の関数としての傾斜角及び応答時間は、それぞれ図5A及び図5Bに別々にプロットされている。室温(T=30℃)で、いくつかの異なる周波数での、同じキラルネマティックLC混合物であるが、従来の5μmのガラスセルでの比較のために測定を行った。傾斜角と応答時間の間には、より高い周波数は、その電場の極性が反転されて、より小さな傾斜角が観測される前に、その光軸の不十分なスイッチングを生じるというトレードオフがある。それらの組み合わさった結果は、そのLCOS素子における電気光学応答が、従来のガラスセルの場合に観察されたものと同じであったことを裏付けている。
【0048】
そのLCOSテストデバイスの場合、その傾斜角は、式(1)によって、フレクソ電気光学スイッチングを検証することであるが、印加電場に線形的に比例することが分かっている。印加電場(100Hz)を4V/μmまで増加させると、17°の傾斜角を呈する混合物は、位相測定に対して、2つのスイッチング状態間で、最大の干渉コントラストを示した。また、その応答時間は、異なる周波数に対して同じ温度で測定した。それらの応答時間は、透過光度の全体値の10%〜90%を実現するのに必要なτ10〜90の平均に相当する。印加電場が増加するのにつれて、ガラスセル中の物質の応答時間にわずかな減少が見られ、このことは、典型的には、大きな傾斜角でのフレクソ電気光学スイッチングの場合に観測される(参考文献8、9)。
【0049】
比較のために、まず、ネマティックLCを基にしたLCOS素子を用いて位相測定を行った。図6(a)は、異なる電場の強さにおけるそのLCOS素子からの遠視野干渉パターンのCCDカメラ画像を示す。その画像には、直線が基準として引かれている。電場の強さが増加するのにつれて、2つのピクセル間の位相差は、LC分子の誘電的に駆動された再配向によって変化した。その結果として、この再配向は、図6(a)に見られる干渉縞をそれに従ってシフトさせる。印加電場の関数としての位相シフト角は、図6(b)にプロットされており、それを見ると、位相シフトはπの数桁であったが、応答時間は、ネマティックベースのLCOS素子から予想されるように、印加電場において線形ではなかった。さらに、500Hzで応答するためにそのLCに必要な時間は、40msであった(図6(c)参照)。
【0050】
一方で、そのキラルネマティックLCOS素子の動作は非常に異なっている(図7参照)。この図は、遠視野干渉パターン、位相シフトの電場依存性及び応答時間を含む。それらの結果は、その素子の多段階位相変調能力を実証している。その位相シフトは、ネマティックLCOS素子とは異なり、フレクソ電気応答から予想されるように、印加電場において線形であった。電場の強さ4V/μm−1では、127°の位相シフト(〜2π/3)が観察された。15°の傾斜角は、2π/3の位相シフトをもたらすため、2πの位相シフトの場合、45°の角度が必要であることに気付くのは容易であり、このことは、バイメソゲン(bimesogenic)混合物を用いて容易に実現可能である。印加電場の関数としての位相変調の応答時間は、図7(c)にプロットされている。そのLCOS素子における位相変調の速度もまた、より高周波での傾斜角の低減に従って周波数依存性である。1.8V/μmの印加方形波及びそのLCOS素子に印加された5kHzの周波数を用いて、位相変調の応答時間を30μsで測定した。この高速応答は、kHzフレームレートで作動するLCOS素子における線形多段階位相変調の能力を示している。
【0051】
多段階位相変調は、近年開発されてきているバイメソゲン混合物を用いて実現することができる。良好で均一なアラインメントは、それらの化合物を用いて実現することができる。そのバイメソゲン混合物は、低誘電異方性と、そのLCの印加電場への強いフレクソ電気結合を確実にすると一緒に、誘電結合を最小限にする大きなフレクソ弾性比との組合せによる応答性の向上を可能にする。加えて、本発明は、速度、位相変調、及びさらに高速のフレームレートにつながる他の光学効果をさらに改善するために、青相(参考文献10)、キラルドープドシステム(参考文献11)及び多色スイッチング材料(参考文献12)等の最新の液晶材料を利用することができる。
【0052】
近年のディスプレイ市場において発展する鍵となるテクノロジーの1つは、LCOSマイクロディスプレイである。従来のLCOS素子及びリアプロジェクションテレビ等の用途は、輝度変調電気光学効果に基づいているが、最近の動向は、それらのデバイスによる多段階位相変調が、ホログラフィックプロジェクタ、光相関器及び適応光学系等の用途に求められていることを示している。ここでは、本発明者等は、キラルネマティック液晶におけるフレクソ電気光学効果に基づく代替的なデバイス配置を提案する。このデバイスは、100マイクロ秒を超える速度で多段階位相シフトを実現させることが可能であり、このことは、LCOSテストデバイスを用いた位相シフト干渉法によって検証されている。その優れた特性によるシリコン素子上でのフレクソ電気が、次世代のホログラフィック装置を実現可能にする。
【0053】
従って、本発明者等は、数kHzを超えるフレームレートが可能なLCOS素子におけるフレクソ電気光学効果を利用した電場誘導性の多段階位相変調を初めて実証した。このような電気光学効果は、LCOS素子の実施において革新的であり、ホログラフィック投影及び適応光学等の新たな用途がこのフレームレートを活用することを初めて可能にする。これまでの位相変調電気光学効果の限定されたフレームレートは、LCOS位相変調器の使用における大きな制約となっている。現時点で、フレクソ電気光学ベースのLCOS素子を利用することにより、眼の応答時間を十分に超えるフレームレートで光の位相を変調することができ、ホログラフィックプロジェクタの画像品質の向上、及び網膜疾患の高分解能診断のためのリアルタイム適応光学眼科用イメージングの実現を可能にする。
【0054】
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11.J.Thisayukta, H.Niwano, H.Takezoe and J.Watanabe, "Effect of chiral dopant on a helical Sm1 phase of banana-shaped N-n-O-PIMB molecules," J.Mater.Chem., 11,2717-2721(2001).
12.J.Chen, S.M.Morris, T.D.Wilkinson, and H.J.Coles, "Reversible color switching from blue to red in a polymer stabilized chiral nematic liquid crystals," Appl.Phys.Lett.91,121118(2007).

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレクソ電気光学効果液晶材料からなる層と、
前記液晶層の光軸を偏向させるように、前記液晶材料からなる層に電場を印加するための手段と、を備えており、
それによって、前記液晶層を通過する光に位相シフトを与える、光位相変調装置。
【請求項2】
前記位相シフトは、前記液晶層に印加される電場と一緒に実質的に連続的に変えられる、請求項1に記載の光位相変調装置。
【請求項3】
前記装置は、前記液晶に印加される電場の強さに基づいて、少なくとも5つの異なる位相シフトレベルを生成する、請求項1又は請求項2に記載の光位相変調装置。
【請求項4】
前記位相シフトは、前記液晶層に印加される電場と一緒に実質的に線形的に変えられる、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の光位相変調装置。
【請求項5】
前記装置の応答時間は、10%〜90%の応答時間として定義されており、1ms以下である、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の光位相変調装置。
【請求項6】
前記液晶材料は、らせん構造を有するキラルネマティック液晶物質である、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の光位相変調装置。
【請求項7】
前記キラルネマティック液晶らせん構造の主軸は、電場が適用される方向に対して実質的に直角に位置合わせされる、請求項6に記載の光位相変調装置。
【請求項8】
前記らせん構造のらせんピッチは、前記液晶層を通過する光の波長よりも短い、請求項6又は請求項7に記載の光位相変調装置。
【請求項9】
前記液晶からなる層は、その最小寸法に対応する厚さ方向を有し、及び前記キラルネマティック液晶らせん構造の前記主軸は、前記厚さ方向に対して実質的に垂直である、請求項6から請求項8のいずれか一項に記載の光位相変調装置。
【請求項10】
前記液晶材料の配向及び配置は、均等に位置するらせん配置である、請求項6から請求項9のいずれか一項に記載の光位相変調装置。
【請求項11】
前記液晶からなる層は、基板とカバーとの間に保持されており、前記カバーは、前記入射光に対して実質的に透明である、請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の光位相変調装置。
【請求項12】
前記基板は、半導体材料からなる層を少なくとも含む、請求項11に記載の光位相変調装置。
【請求項13】
前記基板は、シリコン上液晶(LCOS)構造基板に基づいている、請求項11又は請求項12に記載の光位相変調装置。
【請求項14】
前記電場を印加するための手段は、前記基板に形成された電極からなるアレイを備えており、電極からなるアレイは、前記装置の個別ピクセル又はサブピクセルに対応しており、各ピクセル又はサブピクセルは、前記ピクセル又はサブピクセルで前記液晶層を通過する光に位相シフトを与えるように選択的に作動する、請求項11から請求項13のいずれか一項に記載の光位相変調装置光位相変調装置。
【請求項15】
前記装置が偏光層を備えていない、請求項1から請求項14のいずれか一項に記載の光位相変調装置。
【請求項16】
請求項1から請求項15のいずれか一項に記載の光位相変調装置を備えている、ホログラフィックディスプレイ装置。
【請求項17】
請求項1から請求項15のいずれか一項に記載の光位相変調装置を備えている、光相関装置。
【請求項18】
液晶材料からなる層を通過する光の位相変調のための方法であって、前記液晶材料がフレクソ電気光学効果液晶材料であり、
前記方法は、前記液晶層の光軸を偏向させるように、前記液晶材料からなる層に電場を印加するステップを備えており、
それによって、前記液晶層を通過する光に位相シフトを与える、方法。
【請求項19】
前記位相シフトは、前記液晶層に印加される電場と一緒に実質的に連続的に変化される請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記位相シフトは、前記液晶層に印加される電場と一緒に実質的に線形的に変えられる請求項18又は請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記装置に入る及び/又は前記装置から出てくる光は偏光層を通らない、請求項18から請求項20のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−523591(P2012−523591A)
【公表日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−505221(P2012−505221)
【出願日】平成22年4月14日(2010.4.14)
【国際出願番号】PCT/GB2010/000753
【国際公開番号】WO2010/119252
【国際公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(501484851)ケンブリッジ・エンタープライズ・リミテッド (40)
【氏名又は名称原語表記】CAMBRIDGE ENTERPRISE LIMITED
【Fターム(参考)】