説明

光学的増白剤の水溶液

【課題】良好な増白能力と低粘度とを兼ね備えた光学的増白剤/PVOH水溶液を提供する。
【解決手段】本発明は、貯蔵安定性で低粘度の光学的増白剤/PVOH水溶液に関するものであり、この溶液は製紙業者が直接用いることができ、そして製紙業者は塗工組成物中にこの溶液を直接ポンプで計量して投入することができ、また驚くべき高白色度の塗工紙を与える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製紙業者が直接使用することができ、また高度な白色度の塗工紙を与える、ポリビニルアルコールと光学的増白剤との水溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
塗工紙の白色度そしてそれ故の魅力は、塗工組成物への光学的増白剤の添加によって改善することができることは良く知られている。より高度な白色度をもつ塗工紙への要求を満足するために、より効果的な光学的増白剤への要求が存在している。
【0003】
ポリビニルアルコール(PVOH)が、担体として作用することによって、着色された塗工組成物中の光学的増白剤の性能を高めることは知られている(例えば、ブランダー(Brander)著、「製紙用薬剤の表面施用」(Surface Application of Paper Chemicals)、スプリンガー社、1997年、第164ページ、参照)(非特許文献1)が、製紙業者は、前記のアルコールを使用したいと欲した場合には、通常は水溶液の形態で、それを別個に塗工組成物へ添加しなければならず、塗工組成物の高い水分含量を招き、そしてその結果としてより長い乾燥時間を要した。製紙業者に、光学的増白剤の担体としてPVOHを用いる完全に満足のいく方法を与えるという課題が残っている。
【0004】
国際公開第2005/056658号パンフレット(特許文献1)では、以下の順次的な工程を含む光学的増白剤/PVOH水性濃縮液の調製方法を開示することによって解決策を提供しようとしている。(a)水および光学的増白剤活性成分を含む水性増白剤組成物を提供する工程であって、光学的増白剤活性成分は通常は水性増白剤組成物中に約10%〜約25%の量で存在する工程、(b)ポリビニルアルコール樹脂を前記の光学的増白剤組成物と、水性増白剤組成物の0.25〜10湿潤部当たり、乾燥ポリビニルアルコールの約1部の量を混合して初期のポリビニルアルコールと光学的増白剤の水性濃縮液を与える工程、および(c)この水性濃縮液を加熱処理して固体を溶解する工程(すなわち、光学的増白剤および9.1〜80%のポリビニルアルコールを含む水溶液を与える)。この方法は、輝度および色相を損なうことなく、低い水分含量の着色した塗工組成物を調製することを可能にする。
【0005】
しかしながら、国際公開第2005/056658号パンフレット(特許文献1)は、通常は光学的増白剤/PVOH溶液を塗工組成物中へ直接計量して供給したいと望む製紙業者に満足のゆく解決策を与えてはいない。光学的増白剤および9%超のPVOHを含む水溶液は、ポンプで注入するのが、出来たとしても、困難であるほど高粘度である。注入が困難なためばかりでなく、そのような高粘度の液体が塗工組成物に導入された場合には電撃的濃厚化(shock thickening)のために、製紙業者は通常1000mPa・s超の粘度をもつ液体を用いることはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2005/056658号パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】ブランダー(Brander)著、「製紙用薬剤の表面施用」(Surface Application of Paper Chemicals)、スプリンガー社、1997年、第164ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
良好な増白能力と低粘度とを兼ね備えた光学的増白剤/PVOH水溶液を提供するという課題も解決すべき課題として残っている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
ここに、製紙業者によって直接用いることのできる低粘度の光学的増白剤/PVOH溶液を生成することができることが見出され、そして製紙業者は塗工組成物中にこの溶液を直接ポンプで計量して投入することができ、そしてそれによって驚くべき高白色度の塗工紙を提供することができる。
【0010】
すなわち本発明は、光学的増白剤水溶液であって、
(a)10質量%〜50質量%の範囲の、少なくとも1種の以下の式(1)の光学的増白剤、
【0011】
【化1】

【0012】
(ここで、Mは水素、アルカリ金属原子、アンモニウム、またはアミンから誘導されたカチオン、好ましくは水素またはナトリウム、最も好ましくはナトリウムであり、R1は水素、C1〜C4アルキルまたはC2〜C4ヒドロキシアルキル、そしてR2は−CNもしくは−CONH2基で置換されていてもよいC1〜C4アルキルまたはC2〜C4ヒドロキシアルキル、あるいはR1およびR2は窒素原子と共にモルホリノ環を完成させている)、
(b)0.5質量%〜9質量%の範囲の、60%〜85%の加水分解度を有するポリビニルアルコール、および
(c)水、から本質的になる光学的増白剤水溶液である。
【0013】
NR12は好ましくは、N(CH2CH2OH)2、N(CH2CH(CH3)OH)2、N(CH2CH2OH)CH2CH2CONH2、またはN(CH2CH(CH3)OH)CH2CH2CONH2であり、また最も好ましくはN(CH2CH2OH)またはN(CH2CH(CH3)OH)2である。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、良好な増白能力と低粘度とを兼ね備えた光学的増白剤/PVOH水溶液を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の水溶液は10質量%以下の塩、通常は光学的増白剤の生成の副生物として形成される塩化ナトリウム、を含んでいてもよい。
【0016】
本発明の水溶液はまた、1種またはそれ以上の凍結防止剤、殺生物剤、錯化剤または他の添加剤、また光学的増白剤の生成の間に形成される有機物の副生物を含んでいてもよい。この水溶液はまた、他の担体、例えばポリエチレングリコールを含んでいてもよい。
【0017】
ポリビニルアルコールは、好ましくは65%〜80%の加水分解度、および2mPa・s〜40mPa・sのブルックフィールド粘度(20℃で、4%水溶液)を有している。ポリビニルアルコールはより好ましくは、65%〜75%の加水分解度、および2mPa・s〜20mPa・sのブルックフィールド粘度(20℃で、4%水溶液)を有している。
【0018】
本発明の溶液のポリビニルアルコール含量は、好ましくは溶液の1質量%〜5質量%の範囲、より好ましくは1.5質量%〜4質量%の範囲にある。
【0019】
溶液中の光学的増白剤の濃度は、好ましくは溶液の15質量%〜40質量%、より好ましくは18質量%〜35質量%である。
【0020】
光学的増白剤/PVOH溶液は、通常はポリビニルアルコールを固体状で、攪拌されている光学的増白剤の水溶液へ加え、そして透明の溶液が形成されるまで90℃〜95℃に加熱することによって調製される。
【0021】
本発明の水溶液のpHは、好ましくは中性から明らかなアルカリ性、特にpH7〜pH10の範囲である。pHは、必要であれば、Mに対応する塩基、例えばアルカリ金属水酸化物もしくは炭酸塩、アンモニアまたはアミン類の添加によって調整することができる。
【0022】
本発明の光学的増白剤/PVOH溶液は貯蔵安定性があり、また直接用いることができ、例えば、この溶液はポンプで計量して塗工組成物中に直接供給することができる。従って、本発明の更なる目的は、塗工され、また光学的に増白された紙を得るための、増白剤/PVOH溶液の塗工組成物への添加である。
【0023】
また、本発明は少なくとも塗工部において光学的に増白された塗工紙の製造方法を提供するものであり、上記の塗工組成物はシート形成の後に紙上に塗工される。
【0024】
塗工組成物は、本質的に少なくとも1種の結合剤および白色顔料を含む水性組成物であり、白色顔料は特には不透明化白色顔料であり、また更なる添加剤、例えば分散剤、消泡剤および合成増粘剤を更に含んでいてもよい。
【0025】
白色顔料を含まない塗工組成物を作ることも可能ではあるが、印刷用の最もよい白色基材は、10質量%〜70質量%の白色顔料を含む不透明の塗工組成物を用いて作られる。そのような白色顔料は、通常は無機顔料であり、例えばケイ酸アルミニウム(カオリン、別に陶土(china clay)としても知られている)、炭酸カルシウム(白亜)、二酸化チタン、水酸化アルミニウム、炭酸バリウム、硫酸バリウムまたは硫酸カルシウム(石膏)が挙げられる。
【0026】
結合剤は、製紙工業において塗工組成物の製造に通常用いられているいずれのものであってもよく、また単一の結合剤または第一の結合剤および第二の結合剤の混合物からなっていてもよい。単独の結合剤または第一の結合剤は、好ましくは合成ラテックスであり、通常はスチレン−ブタジエン、酢酸ビニル、スチレンアクリル系、ビニルアクリル系またはエチレン酢酸ビニルポリマーである。第二の結合剤としては、例えば、でんぷん、カルボキシメチルセルコール、カゼイン、大豆ポリマー、ポリビニルアルコール、または上記のいずれかの混合物が挙げられる。
【0027】
単独の結合剤または第一の結合剤は、通常は白色顔料の5質量%〜25質量%の範囲の量で用いられる。第二の結合剤は、通常は白色顔料の0.1質量%〜10質量%の範囲の量で用いられる。
【0028】
式(1)の光学的増白剤は、通常は白色顔料の0.01質量%〜1質量%の範囲、好ましくは白色顔料の0.05質量%〜0.5質量%の範囲の量で用いられる。
【実施例】
【0029】
以下の例は本発明を更に詳細に説明するものである。特別に表示していない限り、「%」および「部」は質量基準であり、粘度はブルックフィールド粘度計を用いて測定した。
【0030】
調製例1
式(2)の光学的増白剤25.9部、水72.0部、および71%の加水分解度、そして5.4mPa・sのブルックフィールド粘度(25℃で4%水溶液)を有するポリビニルアルコール2.1部を、室温まで冷却した後も安定である透明溶液を得るまで、90〜95℃に加熱しながら、一緒に攪拌することによって、光学的増白剤溶液1を調製した。この溶液のpHを、水酸化ナトリウムで9.0に調整した。
【0031】
【化2】

【0032】
この溶液の粘度は20℃で97mPa・s、そして10℃で211mPa・sであった。
【0033】
調整例2
比較例(ポリビニルアルコールなし)
式(2)の光学的増白剤25.9部、および水74.1部を一緒に攪拌することによって光学的増白剤溶液2を調製した。この溶液のpHを、水酸化ナトリウムで9.0に調整した。
【0034】
施用例
500部の白亜(オムヤ(OMYA)社からハイドロカルボ(Hydrocarb)90の商品名で商業的に入手可能)、500部のクレー(イメリス(IMERYS)社からカオリンSPSの商品名で商業的に入手可能)、470部の水、6部の分散剤(ビーエーエスエフ(BASF)社からポリザルツ(Polysalz)Sの商品名で入手可能なポリアクリル酸のナトリウム塩)、200部の50%ラテックス(ダウ(Dow)社からDL921の商品名で商業的に入手可能なスチレンブタジエン共重合体)、および50部のカルボキシメチルセルロースの10%水溶液(ノビアント(Noviant)社からフィンフィックス(Finnfix)5.0の商品名で商業的に入手可能)、を含む塗工組成物を調製した。水の添加によって固形分含量を60%に調整し、また水酸化ナトリウムでpHを8〜9に調整した。
【0035】
調整例1および2にそれぞれ記載したようにして調製した光学的増白剤溶液1および2を、乾燥固体の濃度として0.4質量%〜1.0質量%の範囲で、攪拌した塗工組成物へ加えた。次いで、増白された塗工組成物を、市販の75gsmの中性でサイズを施した白色紙の下地シートに、自動の巻き線バー型塗布器を用いて、標準速度設定および標準のバー荷重で、塗布した。塗布した紙を次いで、加熱空気流中で5分間乾燥した。乾燥した紙を状態調整し、次いで較正したエルレホ(Elrepho)分光光度計でCIE白色度を測定した。
【0036】
【表1】

【0037】
この結果は、僅か2.1質量%のポリビニルアルコールを含む本発明の溶液を用いて作った塗工紙の白色度の驚くべき優越性を明確に示している。
【0038】
調整例3〜5
式(2)の光学的増白剤12.3部、水(87.7−x)部、および85.2%の加水分解度、そして3.7mPa・sのブルックフィールド粘度(25℃で4%水溶液)を有するポリビニルアルコールx部を、室温まで冷却した後も安定である透明溶液を得るまで、90〜95℃に加熱しながら、一緒に攪拌することによって、活性増白剤12.3%を含む光学的増白剤溶液3〜5を調製した。それぞれの溶液のpHを、水酸化ナトリウムで9.0に調整した。それぞれの溶液の粘度を表2に記録した。
【0039】
【表2】

【0040】
この結果は、本発明の溶液の、低粘度である点および従ってポンプ送液可能である点での優位さを明確に示している。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、製紙業者が直接使用することができ、そして高度な白色度の塗工紙を与え、また良好な増白能力と低粘度とを兼ね備えた光学的増白剤/PVOH水溶液を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学的増白剤水溶液であって、
(a)10質量%〜50質量%の範囲の、少なくとも1種の以下の式(1)の光学的増白剤、
【化1】

(ここで、Mは水素、アルカリ金属原子、アンモニウム、またはアミンから誘導されたカチオンであり、R1は水素、C1〜C4アルキルまたはC2〜C4ヒドロキシアルキル、そしてR2は−CNもしくは−CONH2基で置換されていてもよいC1〜C4アルキルまたはC2〜C4ヒドロキシアルキル、あるいはR1およびR2は窒素原子と共にモルホリノ環を完成させている)、
(b)0.5質量%〜9質量%の範囲の、60%〜85%の加水分解度を有するポリビニルアルコール、および
(c)水、から本質的になる光学的増白剤水溶液である。
【請求項2】
Mはナトリウムであり、NR12は、N(CH2CH2OH)2、N(CH2CH(CH3)OH)2、N(CH2CH2OH)CH2CH2CONH2、またはN(CH2CH(CH3)OH)CH2CH2CONH2であり、またポリビニルアルコールが65%〜80%の加水分解度、そして2mPa・s〜40mPa・sのブルックフィールド粘度を有している請求項1記載の溶液。
【請求項3】
Mはナトリウムであり、NR12は、N(CH2CH2OH)2またはN(CH2CH(CH3)OH)2であり、またポリビニルアルコールが65%〜75%の加水分解度、そして2mPa・s〜20mPa・sのブルックフィールド粘度を有している請求項1記載の溶液。
【請求項4】
ポリビニルアルコールの濃度が1質量%〜5質量%であり、また光学的増白剤の濃度が15質量%〜40質量%である請求項1〜3のいずれか1項記載の溶液。
【請求項5】
ポリビニルアルコールの濃度が1.5質量%〜4質量%であり、また光学的増白剤の濃度が18質量%〜35質量%である請求項4記載の溶液。
【請求項6】
紙用塗工組成物への、請求項1〜5のいずれか1項記載の溶液の使用。
【請求項7】
塗工紙の製造方法であって、請求項1〜5のいずれか1項記載の溶液を含む塗工組成物を、シート形成後に紙上へ塗工する方法。
【請求項8】
塗工組成物が、1種またはそれ以上の白色顔料を10質量%〜70質量%含む請求項7記載の方法。
【請求項9】
塗工組成物が、スチレン−ブタジエン、酢酸ビニル、スチレンアクリル系、ビニルアクリル系またはエチレン酢酸ビニルポリマーから選ばれた合成ラテックス系の第一の結合剤を含み、またはでんぷん、カルボキシメチルセルコール、カゼイン、大豆ポリマー、ポリビニルアルコール、または上記のいずれかの混合物から選ばれた第二の結合剤を更に含む、請求項7または8記載の方法。
【請求項10】
第一の結合剤が白色顔料の5質量%〜25質量%の範囲の量で用いられ、第二の結合剤が白色顔料の0.1質量%〜10質量%の範囲の量で用いられ、式(1)の光学的増白剤が白色顔料の0.01質量%〜1質量%の範囲、好ましくは白色顔料の0.05質量%〜0.5質量%の範囲の量で用いられる請求項7〜9のいずれか1項記載の方法。

【公表番号】特表2010−500432(P2010−500432A)
【公表日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−523245(P2009−523245)
【出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【国際出願番号】PCT/EP2007/057909
【国際公開番号】WO2008/017623
【国際公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(397054015)クラリアント ファイナンス (ビーブイアイ) リミティド (9)
【Fターム(参考)】