説明

光学的波長板及び光ピックアップ装置

【課題】光ピックアップ装置において、部品点数を削減することである。
【解決手段】光ピックアップ装置10は、光源12と、偏光素子18,20と、ビームスプリッタ光学素子22,24と、照明用レンズ26と、検出用レンズ32と、検出器34と、反射型波長板40と、対物光学系30とを含んで構成される。反射型波長板40は、反射板42と、1/4波長板44とが一体化された構造を有する。1/4波長板44は、対象となる光の波長の1/2以下の周期を有し、直線偏光と円偏光との間の変換を行う周期格子構造が用いられる。複数の波長の光に対し共用するには、複屈折特性における波長−位相差特性において、一方側の波長における位相差と、他方側の波長における位相差の差が(π/4)の整数倍となるように周期格子構造の寸法、屈折率が設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学的波長板及び光ピックアップ装置に係り、特に、直線偏光と円偏光との間の変換を行う光学的波長板及びこれを用いる光ピックアップ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光ディスクに書き込まれた情報を読み出し、あるいは情報を書き込むには、レーザ光を用いた光ピックアップが用いられる。光ディスクにレーザ光を当て、その反射光を検出器によって検出するときは、同じ光路を入射光と反射光が往復することになる。この入射光と反射光を分離するために、直線偏光と円偏光の間の変換を行う1/4波長板が用いられる。
【0003】
1/4波長板は、水晶、液晶、方解石等の複屈折特性を有する物質を用いて得ることができる。この様な材質複屈折特性を用いるほかに、微細格子構造の回折格子が屈折率異方性を有することを利用する構造複屈折特性を用いることが行われる。
【0004】
例えば、特許文献1には、光ピックアップ装置に用いられる波長板として、対象となる光の波長の1/2以下の微細周期構造で形成されて、光に対してその偏光状態を変化させる構造複屈折を有するものを用いることが述べられている。ここでは、405nmと660nmのように2つの異なる波長の違いを、微細周期構造の材料、形状等を変えることで、位相差が、一方の波長の(2n+1)/4倍であり、他方の波長の(2m+1)/4倍となる波長板を得ることが述べられている。
【0005】
非特許文献1には、構造性複屈折を用いた広帯域1/4波長板の最適設計について、構造複屈折波長板を用いて、405nmと650nmと780nmの3波長について、90度の位相差を±15°の範囲で得るための設計計算結果が述べられている。その結果によれば、構造複屈折波長板の微細周期構造の高さが2000nm以上、アスペクト比が10程度必要である。この寸法の構造を加工するのは、ナノインプリント技術でも難しいとして、ここでは、2枚張り合わせ構成で波長板を製作する方法が述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−207636号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】今榮真紀子他,構造性複屈折を用いた広帯域1/4波長板の最適設計,KONICA MINOLTA TECHNOLOGY REPORT,Vol.3,2006年,p62−67
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
光ピックアップ装置においては、レーザ光源等の光出力部と、光出力部から出力される光を対物光学系に導く照明光学系と、対物光学系から出力される反射光を検出器に導く検出光学系と、光出力部と対物光学系との間に配置される反射板と、透過型1/4波長板
等、多くの光学部品が必要である。
【0009】
1/4波長板については、複屈折特性を有する材料を用いることができる。その他に、特許文献1に述べられているように、構造複屈折特性を利用すると、材質複屈折特性を有しない材料の中で適当な屈折率のものを用い、微細周期構造の寸法等を設計することで、複屈折特性を制御することが可能である。
【0010】
実際には、非特許文献1に述べられているように、透過型1/4波長板において、微細周期構造の高さが2000nm以上、アスペクト比が10程度必要な場合がある。このような高アスペクト比の微細周期構造を作るのは、ドライエッチング技術等を要し、容易ではない。非特許文献1では、2枚張り合わせ構成によって、高さを1/2としているが、その場合には、2枚張り合わせの高精度位置決めが必要になる。
【0011】
本発明の目的は、部品点数を削減できる光ピックアップ装置を提供することである。また、他の目的は、複屈折特性を利用しながら、アスペクト比を抑制できる光学的波長板を提供することである。さらに他の目的は、複数の波長の光に対し共用できる光学的波長板を提供することである。別の目的は、その光学的波長板を用いた光ピックアップ装置を提供することである。以下の手段は、これらの目的の少なくとも1つに貢献する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る光学的波長板は、光学的反射板と、光学的反射板の入射面側に一体化して配置され、入射面に対し+45°の入射角を有する入射直線偏光を反射円偏光に変換し、入射面に対し−45°の入射角を有する入射円偏光を反射直線偏光に変換し、入射直線偏光の偏光面と反射直線偏光の偏光面とが互いに90°変化する複屈折特性を有する光学素子と、が一体化して構成されることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る光学的波長板において、複屈折特性を有する光学素子は、対象となる光の波長の1/2以下の周期を有する微細周期構造を有する構造複屈折光学素子であることが好ましい。
【0014】
また、本発明に係る光学的波長板において、波長と位相差の間の関係である波長位相差特性として、互いに異なる波長を有する2つの光について、nとmを0または整数として、一方側波長の{(2n+1)/4}倍の位相差を有し、他方側波長の{(2m+1)/4}倍の位相差を有する波長位相差特性を備えることが好ましい。
【0015】
また、本発明に係る光学的波長板において、構造複屈折光学素子は、微細凹凸周期格子構造を有し、微細凹凸周期格子構造の格子充填率が0.3以上0.8以下であることが好ましい。
【0016】
また、本発明に係る光ピックアップ装置は、互いに異なる波長を有する複数の光源を含み、いずれか1つの波長の光を平行光として選択的に出力する光出力部と、光ディスクに対向し、光ディスクに対し移動可能な対物光学系と、対物光学系から出力される光ディスクからの反射光に含まれる情報信号を検出する検出器と、光出力部と対物光学系との間に配置され、光出力部の光軸に対し+45°の傾斜角度を有し、対物光学系の光軸に対し−45°の傾斜角度を有する光学的波長板と、光出力部から出力される光について、光学的波長板を経て対物光学系に導く照明光学系と、対物光学系から出力される反射光について、光学的波長板を経て検出器に導く検出光学系と、を備え、光学的波長板は、光学的反射板と、光学的反射板の入射面側に一体化して配置され、入射面に対し+45°の入射角を有する入射直線偏光を反射円偏光に変換し、入射面に対し−45°の入射角を有する入射円偏光を反射直線偏光に変換し、入射直線偏光の偏光面と反射直線偏光の偏光面とが互いに90°変化する複屈折特性を有する光学素子と、が一体化されて構成されることを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る光ピックアップ装置において、複屈折特性を有する光学素子は、対象となる光の波長の1/2以下の微細周期構造を有する構造複屈折光学素子であることが好ましい。
【0018】
また、本発明に係る光ピックアップ装置において、波長と位相差の間の関係である波長位相差特性として、互いに異なる波長を有する2つの光について、nとmを整数として、一方側波長の{(2n+1)/4}倍の位相差を有し、他方側波長の{(2m+1)/4}倍の位相差を有する波長位相差特性を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
上記構成により、光学的波長板は、光学的反射板と、複屈折特性を有する光学素子とが一体化されて構成される反射型波長板である。これにより、例えば、光ピックアップ装置の光学系の部品点数を削減できる。
【0020】
また、反射型波長板である光学的波長板における複屈折特性を有する光学素子は、対象となる光の波長の1/2以下の周期を有する微細周期構造を有する構造複屈折光学素子である。微細周期構造の周期を対象となる光の波長の1/2以下とすることで、微細周期構造が複屈折特性を有する。そして、反射型波長板は、透過型反射板に対し、入射角が45度、反射角度が45度であるので、光路が2×21/2だけ長い。したがって、微細周期構造の高さを透過型に比して、約1/3とすることができる。これにより、微細周期構造のアスペクト比を小さくすることができる。
【0021】
また、光学的波長板において、波長と位相差の間の関係である波長位相差特性として、互いに異なる波長を有する2つの光について、nとmを整数として、一方側波長の{(2n+1)/4}倍の位相差を有し、他方側波長の{(2m+1)/4}倍の位相差を有する波長位相差特性を備える。これによって、1つの反射型波長板において、2つの波長の光に対応することが可能になる。
【0022】
また、光学的波長板において、構造複屈折光学素子は、微細凹凸周期格子構造を有し、微細凹凸周期格子構造の格子充填率が0.3以上0.8以下である。シミュレーションと実験によれば、この範囲の格子充填率とすることで、複屈性特性の屈折率異方性であるΔnを0.1以上とすることができる。Δnは、互いに直交するTE軸方向の屈折率とTM軸方向の屈折率の差である。これによって、十分な構造複屈折特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る実施の形態の光学的ピックアップ装置の構成を説明する図である。
【図2】本発明に係る実施の形態における構造複屈折特性を利用した反射型反射板の様子を示す斜視図である。
【図3】図1において、光ディスクへの入射光について、直線偏光から円偏光へ変換される様子を説明する図である。
【図4】図1において、光ディスクからの反射光について、円偏光から直線偏光へ変換される様子を説明する図である。
【図5】本発明に係る実施の形態の反射型波長板を透過型波長板と比較して説明する図である。
【図6】本発明に係る実施の形態において、構造複屈折特性を利用した反射型反射板の波長と位相差の関係を示す特性図である。
【図7】本発明に係る実施の形態において、構造複屈折特性を利用した反射型反射板の複屈折特性Δnと格子充填率fの関係を示す特性図である。
【図8】本発明に係る実施の形態において、反射型波長板を製作した様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき、詳細に説明する。以下では、光ディスクとして、読み出しのみを行うコンパクトディスクについて説明するが、適当な書き込み回路を設けることで、読み出し・書き込み可能な光ディスクに用いることができる。また、以下では、互いに異なる波長の光源として、405nmと660nmの2種類について説明するが、これは説明の一例であって、他の波長の光であってもよく、また、3種類以上の波長の光であってもよい。
【0025】
以下で説明する形状、寸法、材質は、説明のためのものであるので、光学的波長板の仕様に合わせ、適当に変更が可能である。
【0026】
以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本文中の説明においては、必要に応じそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
【0027】
図1は、光ピックアップ装置10の光学系の構成を説明する図である。この光ピックアップ装置10は、円盤上に光学的に読み取り可能な凹凸情報を刻み込んである光ディスク8の読み取り装置である。ここで、光ディスク8は、CDと呼ばれるコンパクトディスクで、読み取りに用いる光の波長によって記録できる情報量、読み出し速度等が異なる。そのために、様々な波長の光を用いた読み出し装置がある。図1の光ピックアップ装置10は、それらの波長の光の内、405nmと660nmの波長の光を用いることができるものである。
【0028】
光ピックアップ装置10は、光源12と、偏光素子18,20と、ビームスプリッタ光学素子22,24と、照明用レンズ26と、検出用レンズ32と、検出器34と、反射型波長板40と、対物光学系30とを含んで構成される。
【0029】
光源12は、2種類の波長を有するレーザ光の内の1つを選択して、光ディスク8への入射光として出力する光出力部である。ここでは、405nmの波長の光を出力できる第1レーザ素子14と、660nmの波長を出力できる第2レーザ素子16が示されている。第1レーザ素子14と第2レーザ素子16には、放射される光を平行光とするコリメータ光学系を含むものとできる。第1レーザ素子14と第2レーザ素子16の選択は、適当な光学的シャッタを用いてもよく、あるいは、レーザ発振回路の動作制御によるものとしてもよい。以下では、特に断らない限り、第2レーザ素子16が選択されたものとして説明を続ける。
【0030】
偏光素子18,20は、レーザ光を直線偏光に揃える光学素子である。偏光素子18は第1レーザ素子14について設けられ、偏光素子20は第2レーザ素子16について設けられる。
【0031】
ビームスプリッタ光学素子22,24は、偏光面が互いに直交する2つの直線偏光について、一方側の直線偏光を反射し、他方側の直線偏光を透過することができる光学素子である。ビームスプリッタ光学素子22は第1レーザ素子14について設けられ、ビームスプリッタ光学素子24は第2レーザ素子16について設けられる。
【0032】
例えば、第2レーザ素子16から出力する光の偏光面と、光ディスク8から反射してくる光の偏光面が互いに直交するときは、ビームスプリッタ光学素子24は、第2レーザ素子16から出力される光を反射して光ディスク8の方に向け、光ディスク8からの光を透過させて検出器34の方に向けることができる。
【0033】
照明用レンズ26は、ビームスプリッタ光学素子22,24と反射型波長板40との間に配置されるレンズ光学系である。照明用レンズ26は、ビームスプリッタ光学素子22,24からの光を乱れないように反射型波長板40に入射させ、反射型波長板40からの光を平行光としてビームスプリッタ光学素子22,24に向かわせる機能を有する。
【0034】
検出用レンズ32は、ビームスプリッタ光学素子22,24と検出器34の間に配置されるレンズ光学系である。検出用レンズ32は、ビームスプリッタ光学素子22,24からの光を集光して検出器34に照射させる機能を有する。
【0035】
検出器34は、光ディスク8からの光に含まれる情報を検出する光学検出装置である。光ディスク8からの光に含まれる情報としては、反射光の有無、反射光の強度等がある。これらの情報を検出するため、検出器34は、光ダイオード、光トランジスタ、これらのアレイ等で構成することができる。
【0036】
光ディスク8に向かい合って配置される対物光学系30は、対物レンズ28と、対物レンズ28を移動駆動する駆動部を含む装置である。対物レンズ28は、反射型波長板40からの光を集光する機能を有する集光レンズである。駆動部は、対物レンズ28の焦点を光ディスク8の表面に合わせる機能を有する。駆動部は、小型アクチュエータと、合焦制御回路とを含んで構成される。
【0037】
反射型波長板40は、反射板42と、1/4波長板44とが一体化された光学的波長板である。反射板42は、入射面側が光を反射する反射面となっている板状部材の光学的反射板である。反射型波長板40は、ビームスプリッタ光学素子22,24から照明用レンズ26を通ってくる入射光の光軸に対し、反射板42の反射面が45度の角度で傾斜するように配置される。これによって、ビームスプリッタ光学素子22,24から照明用レンズ26を通ってくる入射光は、その光軸を90度曲げられて、光ディスク8に向けられる。
【0038】
1/4波長板44は、入射面に対し+45°の入射角を有する直線偏光入射光を円偏光反射光に変換し、入射面に対し−45°の入射角を有する円偏光入射光を直線偏光反射光に変換し、直線偏光入射光の偏光面と直線偏光反射光の偏光面とが互いに90°変化する複屈折特性を有する光学素子である。なお、1/4波長板とは、直線偏光と円偏光との間の変換を行う光学素子に与えられる一般的な名称であって、実際には、nを0または整数として、対象とする光の{(2n+1)/4}波長の厚さを有する薄板光学素子である。
【0039】
図2は、反射型波長板40の斜視図である。反射型波長板40は、反射板42の上に、対象となる光の波長の1/2以下の周期を有する微細周期構造の1/4波長板44を一体化して配置したものである。1/4波長板44の微細周期構造は、高さがd1、厚さがbの薄い光学的壁をfbの隙間を隔てて、規則正しく配置した微細凹凸の周期格子構造である。幅方向の寸法は任意に設定することができる。fは、光学的壁の厚さbと隙間fbの比で、格子充填率と呼ばれる。したがって、微細凹凸の周期格子構造の周期は、(b+fb)である。対象となる光が660nmの波長を有するときは、その半波長である330nm以下となるように、周期格子構造の周期である(b+fb)が設定される。なお、図2では、反射板42の厚さがd2で示されている。
【0040】
周期格子構造の周期が、対象となる光の半波長以下であるときは、周期格子構造の平行な壁面に対して平行な方向の光についての屈折率と、周期格子構造の平行な壁面に対して直交する方向の光についての屈折率が異なってくる複屈折特性が現れることが知られている。この複屈折特性によって、周期格子構造に直線偏光を入射すると円偏光に変換され、円偏光を入射すると直線偏光に変換される。1/4波長板44は、この周期格子構造の複屈折特性を用いるものであるので、構造複屈折光学素子である。
【0041】
図2では、ビームスプリッタ光学素子22,24側から反射型波長板40に入射する入射直線偏光52と、これによって反射型波長板40によって変換され、反射板42によって光軸が90度変更されて光ディスク8に向かう反射円偏光54が示されている。ここでいう入射、反射とは反射板42に対する入射、反射を意味し、光ディスク8に対する入射、反射ではない。また、図2では、反射円偏光54が光ディスク8によって反射されて戻ってきて反射型波長板40に入射する入射円偏光56と、反射板42によって光軸が再び90度変更されてビームスプリッタ光学素子22,24に向かう反射直線偏光58が示されている。反射円偏光54と入射円偏光56は、円偏光の回転方向が互いに逆向きであるが、光軸は互いに平行で一致する。入射直線偏光52と反射直線偏光58は、偏光面が互いに直交するが、光軸は互いに平行で一致する。
【0042】
図2では、光の進行方向に対し、周期格子構造の平行な壁面に平行な方向をTE、周期格子構造の平行な壁面に平行な方向をTMとして示した。直線偏光は、偏光面がTE−TM座標系に対し傾斜するベクトルを有する光として示され、円偏光は、TE−TM座標系の原点から一定の半径で円周状に回転するベクトルを有する光として示される。ここでTEは、光を電磁波として、電界=0であるTE波の振動方向に対応し、TMは、磁界=0であるTM波の振動方向に対応する。
【0043】
図3、図4は、反射型波長板40を用いたときの光の状態を説明する図である。図3は、光源12の第2レーザ素子16からの光が光ディスク8に入射するときに用いられる光学系である照明光学系における光の状態、図4は、光ディスク8で反射された光が検出器34に向かうときに用いられる光学系である検出光学系における光の状態を示す図である。
【0044】
図3では、第1レーザ素子16から放射された光は、偏光素子20によって、直線偏光50に揃えられる。この直線偏光50の偏光面を第1偏光面と呼ぶことにする。偏光素子20によって第1偏光面に揃った直線偏光50は、ビームスプリッタ光学素子24に入射される。ビームスプリッタ光学素子24として、第1偏光面に揃った光を反射し、第1偏光面に直交する第2偏光面に揃った光を透過させるものを用いると、第1偏光面に揃った光はビームスプリッタ光学素子24によって反射される。実際には、ビームスプリッタ光学素子24に合わせて偏光素子20の偏光方向が調整される。
【0045】
ビームスプリッタ光学素子24によって反射された光は、光軸を90度変更されて、照明用レンズ26を通り、反射型波長板40に入射する。この入射する光が、図2で説明した入射直線偏光52である。入射直線偏光52は、第1偏光面に揃っている偏光であるが、図3では、これを光の進行方向に平行に揃った偏光として、丸印の中に黒丸をつけたマークで示している。
【0046】
入射直線偏光52は、図2で説明したように、反射型波長板40によって反射円偏光54に変換され、光軸を90度変更される。反射円偏光54は、対物光学系30を通って
光ディスク8の表面に合焦されて照射される。反射円偏光54は、光の進行方向に対し、TE−TM平面内で回転するベクトルを有するが、図3では、TE−TM平面内で反時計回りに回転するベクトルを有する光として示されている。
【0047】
図4では、反射型波長板40によって反射された反射円偏光54は光ディスク8に照射される。そして、光ディスク8の表面で反射されて、再び対物光学系30を通って反射型波長板40に戻る。反射型波長板40に戻った光は、図2で説明した入射円偏光56である。入射円偏光56は、光ディスク8の表面における反射によって、反射円偏光54とTE−TM平面内における回転方向が逆方向のベクトルを有する光となって反射型波長板40に戻る。そのことを、図4では、TE−TM平面内で時計回りに回転するベクトルを有する光として示されている。
【0048】
入射円偏光56は、図2で説明したように、反射型波長板40によって反射直線偏光58に変換され、光軸を90度変更される。変更された光軸は、元の入射直線偏光52の光軸と同じとなる。反射直線偏光58は、入射円偏光56が反射円偏光54と比較して、TE−TM平面内における回転方向が逆方向であるので、TE−TM平面内において入射直線偏光52に対し直交する偏光面を有する光となる。図4では、これを光の進行方向に直交する方向に揃った偏光として、両側に矢印を付した線のマークで示している。
【0049】
反射直線偏光58はビームスプリッタ光学素子24に入射する。上記のように、ビームスプリッタ光学素子24は、TE−TM平面内において入射直線偏光52に対し直交する光を透過する。したがって、反射直線偏光58は、ビームスプリッタ光学素子24を透過して、検出用光60となる。検出用光60はビームスプリッタ光学素子22を透過し、検出用レンズ32を通って、検出器34に入射される。検出器34は、入射された検出用光60に含まれる情報を検出し、光ディスク8からの情報信号として出力する。
【0050】
図5は、1/4波長板44を従来から知られている透過型として用いる場合と、図2で説明したように反射板42と一体化して反射型として用いる場合を比較して説明する図である。透過型で用いる場合、入射光は、1/4波長板44の一方側の面に垂直に入射し、他方側の面に抜ける。図5では、その様子を実線で示してある。反射型で用いる場合、入射光は、1/4波長板44の一方側の面に入射角度が+45度で入射し、他方側の面の界面で反射し、一方側の面において反射角度が−45度として抜ける。図5では、その様子を破線で示してある。角度の符号は、図5で示すように、垂直入射に対する方向で定めた。
【0051】
図5において、透過型で用いる場合、1/4波長板44を通る光の光路長は、1/4波長板44の厚さd1である。これに対し、反射型で用いる場合、1/4波長板44を通る光の光路長は、1/4波長板44の厚さd1の2×21/2となる。つまり、反射型として用いることで、透過型に比べ、見かけ上、1/4波長板44の高さが約3倍となる。この効果によって、1/4波長板44の高さd1を、従来技術の透過型光学的波長板の約3/1として、同等の複屈折特性を得ることができる。
【0052】
例えば、特許文献2で述べられているように、3つの異なる波長の光について、位相差を±15°の範囲で得るために必要な条件の高さ寸法を、反射型とすることで、約1/3とできる。
【0053】
図6は、405nmの波長の光と、650nmの波長の光について、共用可能な反射型波長板40の設計例を説明する図である。ここでは、横軸に光の波長をとり、縦軸に反射型波長板40を用いたときのTE波とTM波の間の位相差をとってある。上記のように、TE波は、反射型波長板40の周期格子構造の格子に平行な方向の光で、TM波は、周期格子構造の格子に直交する方向の光である。
【0054】
反射型波長板40を直線偏光と円偏光との間の変換素子として用いることができるのは、TE波とTM波の間の位相差がπ/4の整数倍となるときである。ここでは、入射角度を45度として、405nmの波長の光に対して位相差が5×(π/4)となり、660nmの波長の光に対して位相差が3×(π/4)となるときの反射型波長板40の条件を求めた。その結果、反射型波長板40の周期格子構造の周期(b+fb)を405nmの1/2以下である200nm、格子充填率fを0.55、格子部分の屈折率を1.6、周期格子構造の高さd1を1200nmとすることがよいことが分かった。なお、反射板52の厚さd1は、特に制約はないが、約5μmまでとすることができる。図6は、その条件の下での波長−位相差特性である。
【0055】
図6の波長−位相差特性は、405nmの波長の光に対して位相差が5×(π/4)となり、660nmの波長の光に対して位相差が3×(π/4)となっている。したがって、この波長−位相差特性を有する反射型波長板40を用いることで、405nmの波長の光と、660nmの波長の光について、複屈折特性を有して、直線偏光と円偏光の間の変換を行うことができる。
【0056】
ここで、周期格子構造の高さd1を1200nmで足りる。この高さd1は、対象とする光の波長の約3倍である。したがって、例えば、格子充填率fを0.5とすれば、アスペクト比は約6で足りる。これを透過型として用いると、周期格子構造の高さがこの約3倍となる。すなわち、約3600nmの高さが必要となり、アスペクト比が約18となる。このように、反射型波長板40とすることで、アスペクト比が小さくできるので、ドライエッチング技術を用いなくても、例えばナノインプリント技術として知られる転写技術によって製作が可能となる。
【0057】
図7は、格子充填率fの設定に用いられる図である。ここでは、横軸に格子充填率fをとり、縦軸に、TE波における屈折率nTEとTM波における屈折率nTMの差Δnをとり、格子充填率fでΔnがどのように変化するかのシミュレーション結果が示されている。シミュレーションは、有効媒質理論として知られる数式を用いて行った。このときの条件は、周期格子構造における格子部分の屈折率が1.6とし、周期格子構造の高さd1は十分に高いものとしてある。
【0058】
図7によれば、Δnは、ある格子充填率fで最大となるピーク特性となる。そこで、製作の余裕度の面からの格子充填率fとして、そのピークを挟む範囲とすることが好ましい。図7では、格子充填率fが0.3から0.8の間であれば、Δn=0.10以上を確保できることが分かる。図6の例は、格子充填率f=0.55であるので、Δn=0.1以上を確保している。
【0059】
図8は、Cr薄膜を成膜した基板を反射板とし、その上に光感応性ポリマーであるフォトレジストを塗布し、予め製作した母型を用いるナノインプリント技術によって、周期格子構造を試作した様子を示す図である。光感応性ポリマーの屈折率は1.6である。図8の試作例は、周期格子構造の周期が300nm、高さd1が300nmである。
【0060】
周期格子構造の格子部分の材料としては、ポリマーの他に、ガラス、Ta23、TiO2、Si、Ge、GaAs等を用いることができる。反射板としては、金属層をコーティングした基板の他に、多層膜反射ミラー等を用いることができる。また、周期格子構造は、反射板の上に直接形成する他に、図7で示されるように、周期格子構造と同じ材料を用いて、溝を形成し、底部に周期格子構造の材料を残す構造であってもよい。その場合に底部の厚さは、5μm以下とすることができる。
【0061】
上記では、2つの異なる波長の光に対応するため、一方側の波長の光に対し、位相差を5×(π/4)とし、他方側の波長の光に対し、位相差を3×(π/4)とするものとした。一般的には、nとmを0または整数として、一方側波長の{(2n+1)/4}倍の位相差を有し、他方側波長の{(2m+1)/4}倍の位相差を有するものとできる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明に係る光学的波長板及び光ピックアップ装置は、光ディスクの読み出し、書き込みに用いることができる。
【符号の説明】
【0063】
8 光ディスク、10 光ピックアップ装置、12 光源、14,16 レーザ素子、18,20 偏光素子、22,24 ビームスプリッタ光学素子、26 照明用レンズ、28 対物レンズ、30 対物光学系、32 検出用レンズ、34 検出器、40 反射型波長板、42 反射板、44 1/4波長板、50 直線偏光、52 入射直線偏光、54 反射円偏光、56 入射円偏光、58 反射直線偏光、60 検出用光。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学的反射板と、
光学的反射板の入射面側に一体化して配置され、入射面に対し+45°の入射角を有する入射直線偏光を反射円偏光に変換し、入射面に対し−45°の入射角を有する入射円偏光を反射直線偏光に変換し、入射直線偏光の偏光面と反射直線偏光の偏光面とが互いに90°変化する複屈折特性を有する光学素子と、
が一体化して構成されることを特徴とする光学的波長板。
【請求項2】
請求項1に記載の光学的波長板において、
複屈折特性を有する光学素子は、
対象となる光の波長の1/2以下の周期を有する微細周期構造を有する構造複屈折光学素子であることを特徴とする光学的波長板。
【請求項3】
請求項2に記載の光学的波長板において、
波長と位相差の間の関係である波長位相差特性として、互いに異なる波長を有する2つの光について、nとmを0または整数として、一方側波長の{(2n+1)/4}倍の位相差を有し、他方側波長の{(2m+1)/4}倍の位相差を有する波長位相差特性を備えることを特徴とする光学的波長板。
【請求項4】
請求項2に記載の光学的波長板において、
構造複屈折光学素子は、微細凹凸周期格子構造を有し、
微細凹凸周期格子構造の格子充填率が0.3以上0.8以下であることを特徴とする光学的波長板。
【請求項5】
互いに異なる波長を有する複数の光源を含み、いずれか1つの波長の光を平行光として選択的に出力する光出力部と、
光ディスクに対向し、光ディスクに対し移動可能な対物光学系と、
対物光学系から出力される光ディスクからの反射光に含まれる情報信号を検出する検出器と、
光出力部と対物光学系との間に配置され、光出力部の光軸に対し+45°の傾斜角度を有し、対物光学系の光軸に対し−45°の傾斜角度を有する光学的波長板と、
光出力部から出力される光について、光学的波長板を経て対物光学系に導く照明光学系と、
対物光学系から出力される反射光について、光学的波長板を経て検出器に導く検出光学系と、
を備え、
光学的波長板は、
光学的反射板と、
光学的反射板の入射面側に一体化して配置され、入射面に対し+45°の入射角を有する入射直線偏光を反射円偏光に変換し、入射面に対し−45°の入射角を有する入射円偏光を反射直線偏光に変換し、入射直線偏光の偏光面と反射直線偏光の偏光面とが互いに90°変化する複屈折特性を有する光学素子と、
が一体化されて構成されることを特徴とする光ピックアップ装置。
【請求項6】
請求項5に記載の光ピックアップ装置において、
複屈折特性を有する光学素子は、
対象となる光の波長の1/2以下の周期を有する微細周期構造を有する構造複屈折光学素子であることを特徴とする光ピックアップ装置。
【請求項7】
請求項6に記載の光ピックアップ装置において、
波長と位相差の間の関係である波長位相差特性として、互いに異なる波長を有する2つの光について、nとmを整数として、一方側波長の{(2n+1)/4}倍の位相差を有し、他方側波長の{(2m+1)/4}倍の位相差を有する波長位相差特性を備えることを特徴とする光ピックアップ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−150858(P2012−150858A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−7424(P2011−7424)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(506158197)公立大学法人 滋賀県立大学 (29)
【Fターム(参考)】