説明

光学的計測装置

【課題】液体中の粒子に関する情報を感度よく測定する光学的測定装置を提供する。
【解決手段】 光源16と、電源15と、セル10と、セル11内の液体試料と接する位置に形成され、光源16から光が照射されることにより基本回折光パターンを生じる回折格子兼電極11と、回折格子兼電極11に電圧を印加することにより粒子分布を変化させて基本回折光パターンとは異なる角度位置に新たな派生回折光パターンを生じさせる電圧印加部21と、派生回折光パターンに含まれる各次数の派生回折光をそれぞれ個々に検出する光検出器群25と、光検出器群25により同時に検出された各派生回折光信号を収集する派生回折光信号処理部31とを備え、派生回折光信号処理部31は、ほぼ同時に収集した複数の派生回折光信号の和に基づいて粒子に関する情報を計測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体中の粒子に関する情報を、光学的に計測する光学的測定装置に関し、さらに詳細には、粒子の拡散・移動による密度変化から、液体中に含まれる粒子に関する情報を光学的に測定する光学的測定装置に関する。本発明は、例えば粒子の有無の確認、拡散係数、粒子濃度、粒径等の測定に適用することができる。
【背景技術】
【0002】
粒子含有液体と接する位置に電極対を形成し、これに交流電圧を印加して誘電泳動現象を生じさせたり(非電解質液の場合)、直流電圧を印加して電気泳動現象を生じさせたり(電解質液の場合)して、液体中の粒子を移動することにより、粒子密度の濃淡を形成し、屈折率分布を形成することができる。
誘電泳動現象を利用して溶液中の粒子を集中させ、集中させた領域の屈折率の変化を測定することが開示されている(特許文献1参照)。この特許文献によれば、誘電泳動により粒子が集中する領域に、予め表面プラズモン共鳴を起こすための金属電極を形成しておき、金属電極に励起光を照射して表面プラズモン共鳴の測定を行うことで、金属電極表面面近傍の屈折率を測定する。
【特許文献1】特表2003−65947号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述した特許文献1に開示されている表面プラズモン共鳴を用いた屈折率測定方法は、表面プラズモン共鳴が生じる金属表面近傍に検出感度を有するが、検出感度を有する範囲は誘電泳動により粒子を凝集させた領域のうち金属表面近傍のかなり狭い局在領域に限られている。
【0004】
これに対し、出願人は先行特許出願において、回折格子を形成しておき、回折格子に誘電泳動を引き起こすための電極としての機能を兼用させ、この回折格子兼電極に電圧を印加して誘電泳動により粒子移動を引き起こし、粒子移動前後の回折光パターンの変化を、光検出器で検出することを提案している(特願2004−241907号)。これによれば、表面プラズモン共鳴よりも広範囲の領域から平均的な屈折率変化の検出が可能となる。
【0005】
図7は、上記先行特許出願において、出願人が提案している誘電泳動現象および回折現象を利用して粒子移動による屈折率変化を測定する光学的測定の動作原理を説明する図である。
液体試料を保持するセル10の壁面を構成するガラス基板12a上に、2本の平行な直線状電極片13a、13bの対と、同じく2本の平行な直線状電極片14a、14bの対とを交互に配列することにより、回折格子兼電極11が構成される。回折格子兼電極11に交流電源15から交流電圧を印加する。電極13a、13bに対して、電極14a、14bが反対極となるようにして、交流電圧を印加することにより、電気力線が集中する13a−14b間、および14a−13b間に、誘電泳動によって粒子が凝集する。粒子が凝集する領域Pは、回折格子兼電極11の格子間隔(d)に対し、その2倍の周期(2d)で一定間隔ごとに形成される。粒子が凝集する領域Pは、他の領域より粒子密度が高く、屈折率が異なることから、格子間隔2dの回折格子(密度回折格子という)が形成されることになる。
【0006】
光源16、光源光を集束または平行化するレンズ光学系17を用いて、回折格子兼電極11に向けて光を照射すると、回折格子兼電極11により生じる本来の基本回折光パターンが発生するとともに、密度回折格子による派生回折光パターンが重畳して発生するので、光検出器18を新しく派生回折光パターンの内、基本回折パターンとは異なる方位に回折される一次光、三次光、・・・の奇数次回折光が検出できる位置に合わせることで、派生回折光強度の変化から屈折率の変化を検出することができる。また、電圧印加後に電圧印加を停止すると、粒子が領域Pから拡散することにより、派生回折光が経時的に消失するので、その変化を測定することにより屈折率変化や濃度変化、さらには濃度変化から拡散方程式に基づいて拡散係数を求めることができる。
【0007】
図8は、図7の動作原理に基づいて屈折率を測定する光学的測定装置の構成を示す概略ブロック図である。光源16とレンズ光学系17は、セル10の回折格子兼電極11に測定光を照射するようにしてある。なお、この図の例では、セル10の回折格子兼電極11に垂直入射させているが、入射角は図7で示したように傾斜させてあってもよい。
回折格子兼電極11を通過した透過回折光は、回折格子兼電極11による複数次数の基本回折光パターンA(図中太線で示す)と、密度回折格子による複数次数の派生回折光B(図中細線で示す)とを発生するが、このうち派生回折光パターンBのいずれかの派生回折光が発生する角度に合わせて、光検出器18の位置が図示しない角度調整機構により調整してある。
【0008】
さらに、上述した光学的測定装置の制御系として、装置全体の制御を行う制御部20および制御20により制御される信号解析部21、電圧印加部22、液輸送・回収部23を備えている。これら制御系はCPU、ROM、RAMからなるコンピュータシステムにより構成される。信号解析部21は、光検出器18で検出した1つの派生回折光の検出信号を取り込んで、屈折率変化量等の演算処理を行う。電力印加部22は、交流電源15からの出力電圧を電極へ印加するときの電圧の周波数、電圧値、オンオフのタイミング等の制御を行う。液輸送・回収部23は、セル10に取り付けられている図示しない液体供給弁、排出弁を制御して試料液体のセル10への注入、排出を行う。
【0009】
この光学的測定装置により、粒子移動に伴う密度回折格子の変化を、派生回折光の変化として検出することができ、派生回折光の変化として検出した密度回折格子の情報から液体中の粒子の有無、屈折率、拡散係数等を測定することができる。
しかしながら、派生回折光信号の強度は弱いため、単一の測定では充分な感度を得ることが困難な場合があり、複数回の測定を平均化する必要があった。
【0010】
そこで、本発明は、誘電泳動等によって液体中の粒子を移動させて屈折率等の粒子に関する情報を測定する際に、表面プラズモン共鳴による測定のように、金属表面近傍の限られた範囲からの検出信号によって粒子に関する情報を取得するのではなく、粒子が凝集した領域の比較的広い領域からの検出信号を用いて、しかも感度よく、粒子に関する情報を得ることができる光学的測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するためになされた本発明の光学的測定装置は、光源と、電源と、粒子を含む液体試料を保持するセルと、セル内の液体試料と接する位置に形成され、光源から光が照射されることにより基本回折光パターンを生じる回折格子と、回折格子の少なくとも一部を構成するとともに電源から電圧が印加される電極と、電極に電圧を印加することにより粒子分布を変化させて基本回折光パターンとは異なる角度位置に新たな派生回折光パターンを生じさせる電圧印加部と、派生回折光パターンに含まれる複数次数の派生回折光をそれぞれ個々に検出する光検出器群と、光検出器群により同時に検出された各派生回折光信号を収集する派生回折光信号解析部とを備え、派生回折光信号解析部は、同時に収集した複数の派生回折光信号の和に基づいて粒子に関する情報を計測するようにしている。
【0012】
この発明によれば、セル内に粒子含有液体試料を入れて保持した状態で、回折格子を構成する電極に向けて、光源から光を照射する。このとき、回折格子によって光が回折され、回折光パターンを生じる。このときの回折光パターンが基本回折光パターンとなる。
続いて、電圧印加部により電源から電極に正負の電圧を印加する。液体試料中の粒子が電圧による影響を受けて粒子移動することにより、液体試料の密度に周期的な濃淡が生じ、回折格子の近傍で周期的に変化する屈折率分布が発生する。液体試料の屈折率分布が周期的に変化すると、基本回折光パターンを生じる回折格子とは異なる派生的な回折格子(密度回折格子という)が、新たに発生する。この密度回折格子によって、新たに派生回折光が発生し、その結果、基本回折光パターンに新たな派生回折光パターンが重畳して発生する。派生回折光は、基本回折光と同様に、複数次数の派生回折光が発生するので、光検出器群は各次数の派生回折光を、個々に検出する。
派生回折信号解析部は、光検出器群が同時に検出した複数次数の派生回折光信号を収集し、ほぼ同時に収集した複数の派生回折光信号の和に基づいて粒子に関する情報を計測する。これにより、1つ1つの派生回折光信号は弱くても、複数次数の派生回折光信号の和を求めることにより、信号強度を増倍させ、増倍した信号強度に基づいて、派生回折光強度やその変化から粒子に関する情報を得るようにする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、1つの派生回折光信号は弱くても、複数次数の派生回折光信号の和を求めるようにしたので、派生回折信号の和信号の強度は強くなり、これに基づいて粒子に関する情報を得ることにより、感度よく測定することができる。
【0014】
(その他の課題を解決するための手段及び効果)
上記発明において、派生回折光を検出する光検出器群は、複数の素子群が一次元的または二次元的に並べられたアレイ状光検出器からなり、各次数の派生回折光をアレイ状光検出器のいずれかの素子に導く光学素子をセルと光検出器との間に設けるようにしてもよい。
ここで、光学素子には、派生回折光の進行方向をアレイ状光検出器に向けるレンズを用いるのが好適であるが、レンズに代えて、同様の作用を奏することが可能なミラーを用いてもよい。アレイ状光検出器としては微小な画素が連続的に配列された素子が好ましく、例えば、一次元光検出器であるラインセンサ、二次元光検出器であるCCDが好適である。
【0015】
これによれば、光学素子により各次数の派生回折光を、それぞれアレイ状光検出器上の素子に導く。派生回折光が照射された素子群は、それぞれが派生回折光を独立に検出する。派生回折光信号解析部は、アレイ状検出器を構成する素子のうちで、電圧印加によって密度回折格子が形成されたときに派生回折光を検出している素子群を抽出して、これら素子群の派生回折光信号の和を算出する。
派生回折光を検出している素子群の抽出は、電圧印加後に、一定間隔で信号が増大した素子群のうちで、基本回折光を検出している素子群を除いたものを抽出する。そして、抽出した派生回折光を検出している素子群について、その素子群が電圧印加前に検出していた信号(ダークノイズ成分)を減算する。これにより、新たに生じた派生回折光信号のみの和信号を求めることができる。
【0016】
また、上記発明において、派生回折光を検出する光検出器群は、それぞれが1つの受光部を有する複数の単測定光検出器からなり、各単測定光検出器は、派生回折光を受光できる角度位置に調整する位置調整機構と、派生回折光以外の外来光が受光部に入射しないように遮光するアパーチャとを備えるようにしてもよい。
ここで、単測定光検出器とは、受光素子を1つ有する検出器であり、例えば、光電子増倍管、1つの受光部を有するフォトダイオード等が含まれる。
【0017】
これによれば、各単測定光検出器の受光面の前面に遮光用のアパーチャを備えて、目的とする検出光以外の外来光を除去するようにする。このアパーチャの開口部分を派生回折光の角度位置に向くように調整する。この調整は、予め、電圧印加により予備的に派生回折光を発生させた状態で、位置調整機構により調整する。
そして、電圧印加前と印加後に、各単測定光検出器により複数次数の派生回折光を検出する。派生回折光信号解析部は、電圧印加前と電圧印加後とのそれぞれの派生回折光の和を算出する。電圧印加後の和信号と電圧印加前の和信号(ダークノイズ成分)との差を求めることにより、新たに生じた派生回折信号のみの和を求めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明は、以下に説明するような実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の態様が含まれることはいうまでもない。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態である光学的測定装置の全体構成を示す概略構成図である。
図において、従来例である図8と同じものについては、同符号を付すことにより、説明を一部省略する。
光学的測定装置1は、セル10、回折格子兼電極11、交流電源15、光源16、レンズ光学系17、レンズ24、CCD25(光検出器)、制御部30、電圧印加部22、液輸送・回収部23、派生回折信号解析部31とから構成される。
【0020】
本実施形態では、セル10および回折格子兼電極11は図7に示したものと同じものを用いている。交流電源15は、交流周波数、電圧値が可変であり、電圧印加部22の制御により、所望の交流電圧が印加されるようにしてある。本実施形態では、光検出器にCCD25が用いる。セル10とCCD25との間には、レンズ24が取り付けてあり、セル10を透過した基本回折光(回折格子兼電極11による回折光)および派生回折光(密度回折格子による回折光(図7参照))が、平行光束となってCCD25を構成するいずれかの微小な素子に向かうようにしてある。CCD25は微小な素子が二次元的に配列された検出器であり、CCD25の各素子が光検出器群として機能する。CCD25が検出した基本回折光および派生回折光の検出信号は、派生回折光信号解析部31に送られる。
【0021】
派生回折光信号解析部31は、制御部30による制御の下で、電圧印加前後におけるCCD25の各素子による検出信号を収集する。電圧印加部22は、制御部30による制御の下で、回折格子兼電極11への電圧印加を行う。液輸送・回収部23は、セル10に接続された図示しない弁機構の開閉制御により、液体試料の供給、排出を行う。
制御部30は、電圧印加部22、液輸送・回収部23、派生回折信号解析部31を含む装置全体の制御を行う。
【0022】
次に、光学的測定装置1による測定動作について説明する。
まず、液輸送・回収部23により試料液体をセル10内に注入し、電圧印加部22により電圧印加を行わない状態にして、CCD25により回折光を検出する。このときCCD25により検出される検出信号は、図2(a)に示すように回折格子兼電極11による基本回折光パターンの信号(a1〜a5)のみである。
続いて、電圧印加部22により電圧印加を行い、試料液体中に密度回折格子を発生させた状態でCCD25により回折光を検出する。このときのCCD25により検出される検出信号は、図2(b)に示すように、回折格子電極11による基本回折光パターンの信号(a1〜a5)に密度回折格子による派生回折光パターンの信号(b1〜b4)を重畳した信号である。
【0023】
派生信号解析部31は、CCD25の各素子について電圧印加前後の信号の差を算出する。そして、電圧印加後に信号が増大した素子のうちで、基本回折光パターンの信号(a1〜a5)を除いた派生回折光パターンの信号(b1〜b4)を検出する画素を抽出し、これらの画素の和を算出する。
これにより派生回折光パターンを形成する各次数の派生回折光のみの合計した和信号を算出することができ、感度を高めた信号を得ることができる。
【0024】
上述した実施形態では、光検出器としてCCD25を用いたが、一次元に画素が並んだラインセンサを用いてもよい。図3は、ラインセンサ25Lを用いて電圧印加後に検出される基本回折光パターンと派生回折光パターンとを重畳した信号を示す図である。この場合は、回折光が発生する方向にラインセンサ25Lの軸方向を合わせておけば、CCD25の場合と同様に和信号を算出することができる。
【0025】
図4は、本発明の他の一実施形態である光学的測定装置の全体構成を示す概略構成図である。図1と同じものについては同符号を付すことにより説明を省略する。
本実施形態では、光検出器として単測定光検出器である光電子増倍管26a〜26dを用いる。各光電子増倍管26a〜26dの受光面には、それぞれアパーチャ27a〜27dが取り付けてあり、外来光の侵入を防いでいる。各光電子増倍管26a〜26dには図示しない位置調整機構が設けてあり、回折光の出現位置にアパーチャ27a〜27dの開口を合わせることができるようにしてある。
【0026】
次に、この装置による測定動作について説明する。
まず、電圧印加部22により、電圧を印加して派生回折光パターンを仮発生させる。この状態で位置調整機構により、各光電子増倍管26a〜26dのアパーチャ27a〜27dを派生回折光の位置に合わせておく。
一旦、電圧印加を停止し、粒子が拡散して密度回折格子が完全に消失するまで待つ。
その後、仮発生時に派生回折光が出現した位置で、電圧印加前後の光電子増倍管26a〜26dによる測定を行う。そして、各光電子増倍管26a〜26dによる電圧印加前後の信号の差を算出し、それらの和信号を算出する。これにより、感度を高めた信号を得ることができる。
【0027】
上記実施形態では、回折格子兼電極11は図7に示した形状としたが、これに限られず、要するに粒子移動により形成される密度回折格子が基本回折光パターンと異なる派生回折光パターンを形成できるものであればよい。 例えば、回折格子の一部を浮遊電極として、交流電源に接続される正負一対の電極と浮遊電極とが交互に並ぶものでもよい(特願2004−241907号参照)。
【0028】
上記実施形態では、粒子の移動に静電泳動現象を利用したが、液体が電解質液の場合は、直流電源により直流電圧を印加するようにして、電気泳動現象により、粒子を移動するようにしてもよい。
上記実施形態では、複数の光検出器信号を扱うことになるが、各信号の収集は厳密には同時でなくともかまわず、たとえば派生回折光信号解析部において、単一のA/D変換機とマルチプレクサ回路を用いて順次処理された信号を用いても、拡散に伴う回折光強度の変化に対して十分短い時間差で処理されていれば良い。
【0029】
以下、本発明の第二実施形態について図面を用いて説明する。
図5は、本実施形態である光学的測定装置の全体構成を示す概略構成図である。図において、従来例である図8と同じものについては、同符号を付すことにより、説明を一部省略する。
【0030】
光学的測定装置1はセル10、回折格子兼電極11、交流電源15、光源16、レンズ光学係17、レンズ24、ミラー32a〜、フォトダイオード33(光検出器)、制御部30、電圧印加部22、液輸送・回収部23、派生回折信号解析部31とから構成される。
【0031】
本実施形態では、セル10および回折格子兼電極11は図7に示したものと同じものを用いている。交流電源15は、交流周波数、電圧値が可変であり、電圧印加部22の制御により、所望の交流電圧が印加されるようにしてある。本実施形態では、光検出器にフォトダイオード33が用いる。セル10とフォトダイオード33との間には、ミラー32a〜、レンズ24が取り付けてあり、セル10で形成された密度グレーティングから発生した複数の派生回折光(密度回折格子による回折光(図7参照))が、フォトダイオード33に向かうようにしてある。このとき特に光源として干渉性の高いレーザー光源が使われるような場合には、各派生回折光がフォトダイオードの異なる部位に照射されるよう設置することで、不要な光干渉を防止することが望ましい。フォトダイオード33が検出した複数の派生回折光の和の検出信号は、派生回折光信号解析部31に送られる。
【0032】
派生回折光信号解析部31は制御部30による制御の下で、電圧印加前後におけるフォトダイオード33による検出信号を収集する。電圧印加部22は、制御部30による制御の下で、回折格子兼電極11への電圧印加を行う。液輸送・回収部23は、セル10に接続された図示しない弁機構の開閉制御により、液体試料の供給、排出を行う。
制御部30は、電圧印加部22、液輸送・回収部23、派生回折信号解析部31を含む装置全体の制御を行う。
【0033】
次に光学的測定装置1による測定動作について説明する。
まず、液輸送・回収部23により試料液体をセル10内に注入し、電圧印加部22により電圧印加を行わない状態にして、フォトダイオード33により回折光を検出する。このときフォトダイオード33により検出される検出信号は、背景光等からなるノイズ成分信号である。
続いて、電圧印加部22により電圧印加を行い、試料液体中に密度回折格子を発生させた状態でフォトダイオード33により回折光を検出する。このときのフォトダイオード33により検出される検出信号は、密度回折格子による派生回折光パターンの(b1〜b4)の総和信号である。
【0034】
派生回折信号解析部31では、前記総和信号から前記ノイズ成分信号を差し引くことで、常に派生回折光パターンを形成する各次数の派生回折光のみの合計した和信号を算出する。
上述した実施形態では、光検出器としてフォトダイオード33を用いたが、もちろん光電子増倍管(ホトマル)などの様々な光検出器を用いることができる。
【0035】
また図6は変形実施例であり、図5で複数用いていたミラーを、凹面鏡34に置き換えることでアライメント調整を更に簡略化したものである。前記凹面鏡は、最も好ましくは楕円面鏡であり、楕円面鏡の2つある焦点位置の内の第一焦点を光源からの光束が密度グレーティングに入射する位置に設定することで、第二の焦点位置に設置した光検出器33に集光させることができる。
【0036】
この時、光源に干渉性の高いレーザー光源などを用いる場合には、光検出器の設置位置を楕円面鏡34の焦点位置とは若干異なる位置に設定することで、光検出面上で各回折光の合成を避けることができ、不要な光干ノイズの影響を十分に低減することができる。
もちろん、前記凹面鏡は単純な球面鏡であっても光検出面上での各回折光ビームパターンがわずかに変形するだけで、本発明の効果には何ら問題は発生しない。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、液体試料中の粒子に関する情報の測定、例えば拡散係数、粒径等を光学的行う光学的測定装置に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一実施形態である光学的測定装置の全体構成を示す概略構成図。
【図2】CCDを検出器とする場合に検出される回折光パターンを説明する図。
【図3】ラインセンサを検出器とする場合に検出される回折光パターンを説明する図。
【図4】本発明の他の一実施形態である光学的測定装置の全体構成を示す概略構成図。
【図5】本発明の他の一実施形態である光学的測定装置の全体構成を示す概略構成図。
【図6】本発明の他の一実施形態である光学的測定装置の全体構成を示す概略構成図。
【図7】回折格子兼電極と密度回折格子との関係の一例を説明する図。
【図8】従来の光学的測定装置の全体構成を示す概略構成図。
【符号の説明】
【0039】
1: 光学的測定装置
10: セル
11: 回折格子兼電極
15: 交流電源
16: 光源
17: レンズ光学系
24: レンズ
25: CCD(アレイ状光検出器)
25b:ラインセンサ(アレイ状光検出器)
26a〜26d: 光電子増倍管(単測定光検出器)
27a〜27d: アパーチャ
30: 制御部
31: 派生回折光信号検出部
32a〜c:ミラー
33:フォトダイオード
34:凹面鏡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、電源と、粒子を含む液体試料を保持するセルと、セル内の液体試料と接する位置に形成され、光源から光が照射されることにより基本回折光パターンを生じる回折格子と、回折格子の少なくとも一部を構成するとともに電源から電圧が印加される電極と、電極に電圧を印加することにより粒子分布を変化させて基本回折光パターンとは異なる角度位置に新たな派生回折光パターンを生じさせる電圧印加部と、派生回折光パターンに含まれる各次数の派生回折光をそれぞれ個々に検出する光検出器群と、光検出器群により同時に検出された各派生回折光信号を収集する派生回折光信号処理部とを備え、
派生回折光信号処理部は、ほぼ同時に収集した複数の派生回折光信号の和に基づいて粒子に関する情報を計測することを特徴とする光学的測定装置。
【請求項2】
派生回折光を検出する光検出器群は、複数の素子群が一次元的または二次元的に並べられたアレイ状光検出器からなり、各次数の派生回折光をアレイ状光検出器のいずれかの素子に導く光学素子をセルと光検出器との間に設けたことを特徴とする請求項1に記載の光学的測定装置。
【請求項3】
派生回折光を検出する光検出器群は、それぞれが1つの受光部を有する複数の単測定光検出器からなり、各単測定光検出器は、派生回折光を受光できる角度位置に調整する位置調整機構と、派生回折光以外の外来光が受光部に入射しないように遮光するアパーチャとを備えたことを特徴とする請求項1に記載の光学的測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2007−57338(P2007−57338A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−241980(P2005−241980)
【出願日】平成17年8月24日(2005.8.24)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】