説明

光学素子、光ヘッドおよび光ディスク記録再生装置

【課題】表面にゴミ等が付着することを防止するともに、表面に付着したゴミ等を分解除去することができる光学素子を提供すること。
【解決手段】本発明にかかる光学素子は、レーザーを用いて光学記録を読み書きする装置の光ヘッドまたは光ヘッド以外のレーザーの光路に備えられた光学素子であって、レーザーが出射または入射する最表面に、酸化チタン(TiO)を含む膜4aおよびこれに隣接した酸化タングステン(WO)を含む膜4bを有するものである。レーザーを照射すると、酸化タングステン(WO)が活性化するにより、最表面に備えられた酸化チタン(TiO)も活性化され、表面に付着したゴミ等を効果的に分解除去することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子、光ヘッドおよび光ディスク記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
CDプレイヤー、DVDプレイヤー等の光ディスク記録再生装置では、使用環境により、空気中のゴミ、カビ等が光ヘッドの光学素子の表面に付着し得る。そのため、半導体レーザーからのレーザーやディスクからの戻り光が遮られ、ディスクへの情報の書き込みおよびディスクからの情報の読み込みに不具合を生じるおそれがある。
【0003】
また、波長405nmの青紫色レーザーを用いた最新の光ディスク記録再生装置では、この短波長のレーザーによりゴミ等が活性化されるため、光密度の高い光学素子の表面にゴミ等が付着しやすく、上記の不具合を生じやすい。
【0004】
対物レンズ表面については、ブラシ等により物理的にこのゴミ等を除去することができるが、レンズに傷を付ける恐れがある。また、それ以外の内蔵されている光学素子については、物理的に除去することはできない。すなわち、非接触の手段によらなければならない。
【0005】
上記不具合を解消するための従来技術として、特許文献1には、光学素子の外表面に光触媒としての酸化チタン(TiO)を備えた光学素子が開示されている。また、特許文献2には、反射防止膜として酸化チタン(TiO)を有するピックアップ用対物レンズが開示されている。
【特許文献1】特開2003−59087号公報
【特許文献2】特開2004−294521号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されている酸化チタン(TiO)では、光触媒作用が弱いため、上記不具合を解消するための十分な効果が得られないという問題点あった。また、特許文献2に記載されている酸化チタン(TiO)では、そのレンズの最表面が酸化シリコン(SiO)であるため、上記不具合を解消するための十分な効果が得られないという問題点があった。
【0007】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであり、表面にゴミ等が付着することを防止するとともに、表面に付着したゴミ等を分解除去することができる光学素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかる光学素子は、レーザーを用いて光学記録を読み書きする装置内のレーザーの光路に備えられた光学素子であって、レーザーが出射または入射する最表面に、酸化チタンを含む膜およびこれに隣接した酸化タングステンを含む膜を有するものである。
【0009】
本発明にかかる他の光学素子は、レーザーを用いて光学記録を読み書きする装置内の光路に備えられた光学素子であって、レーザーが出射または入射する最表面に、酸化チタンと、酸化タングステンとを含む複合膜を有するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、表面にゴミ等が付着することを防止するとともに、表面に付着したゴミ等を分解除去することができる光学素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明の実施の形態について説明する。ただし、本発明が以下の実施の形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載および図面は、適宜、省略および簡略化されている。
【0012】
発明の実施の形態1.
図1を用いて、本発明の実施の形態1に係る光学素子の構成について説明する。図1は実施の形態1に係る光学素子の断面図である。この光学素子は、光ディスク記録再生装置内のレーザーの光路に設置され、例えば、光ヘッド用対物レンズ、コリメータレンズ、波長板等である。この光学素子には、390nm〜420nm、好ましくは400nm〜410nm、さらに好ましくは、405nmの波長を有するレーザーが照射される。実施の形態1にかかる光学素子は、透明体1、中間層2、反射防止膜3、酸化タングステン(WO)膜4a、アナターゼ型を主構造とする酸化チタン(TiO)膜4bを備えている。このような積層構造を光学素子におけるレーザーの入射面、出射面のいずれか一方または両方に備えることができる。
【0013】
透明体1としては、ガラスやプラスチックなどを用いるが、酸化チタン(TiO)層4aを活性化させる方法として高温を必要とする場合は、耐熱温度の高いガラスを用いることもできる。この透明体1が光学素子の本体である。
【0014】
透明体1上には、中間層2が形成されている。中間層2としては、酸化シリコン(SiO)を用いることができる。透明体1としてナトリウム(Na)を含むガラスを用いた場合、ナトリウム(Na)が酸化チタン(TiO)膜4bまで拡散し、酸化チタン(TiO)の光触媒作用を弱めるおそれがある。しかし、中間層2を備えることにより、ナトリウム(Na)の酸化チタン(TiO)への拡散を防止することができる。また、透明体1としてプラスチックのような有機物を用いた場合、レーザーや紫外線を照射することにより、酸化チタン(TiO)膜4bから発生した活性酸素が有機物からなる透明体1へ拡散し、透明体1を劣化させるおそれがある。しかし、中間層2を備えることにより、活性酸素の有機物からなる透明体1への拡散を防止することができる。なお、中間層2は必須構成要素ではない。
【0015】
中間層2上には、反射防止膜3が形成されている。反射防止膜3としては、高屈折率膜と低屈折率膜を順番に積層した構造のものを用いることができる。高屈折率膜の材料としては、酸化アルミニウム(Al)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化チタン(TiO)、酸化タンタル(Ta)、酸化ニオブ(NbO)、酸化アンチモン(Sb)、酸化セリウム(CeO)、酸化イットリウム(Y)、酸化ハフニウム(HfO)、酸化マグネシウム(MgO)等の酸化物、窒化シリコン(Si)、窒化ゲルマニウム(Ge)等の窒化物、炭化シリコン(SiC)等の炭化物、硫化亜鉛(ZnS)等の硫化物、およびこれらの複合材から選ばれる少なくとも1種が、低屈折率膜の材料としては酸化シリコン(SiO)、およびフッ化マグネシウム(MgF)、フッ化アルミニウム(AlF)、フッ化バリウム(BaF)、フッ化カルシウム(CaF)、フッ化リチウム(LiF)、フッ化ナトリウム(NaF)、フッ化ストロンチウム(SrF)、フッ化イットリウム(YF)、チオライト(NaAl14)、クライオライト(氷晶石:NaAlF)などのフッ化物、およびこれらの複合材から選ばれる少なくとも1種がある。高温高湿環境下での保存特性向上のためには、酸化物、窒化物、炭化物、フッ化物を用いることが好ましい。また少なくとも405nm近傍と655nm近傍と790nm近傍の3波長を使用する場合、高屈折率層の屈折率をn、光学膜厚をn、前記高屈折率層上に形成される低屈折率層の屈折率をn、光学膜厚をnとすると、以下の条件を満たすことが好ましい。
0.9≦n/A≦1.1
0.1≦n−n
225nm≦n≦275nm
100nm≦n≦150nm
ここで、A=(1.21×n+0.84×n×n)/2
さらに、n−n≦0.4及び/又は1.3≦n≦1.55の条件を満たすことが好ましい。反射防止膜3は、光の反射率を低減し、透過率を増加させるための膜である。なお、反射防止膜3は上記高屈折率膜または低屈折率膜いずれか一方の単層膜であってもよい。また、反射防止膜3は必須構成要素ではない。さらに、中間層2と反射防止膜3の位置関係は反対であってもよい。
【0016】
反射防止膜3上には、酸化タングステン(WO)膜4aが形成されている。酸化タングステン(WO)も酸化チタン(TiO)と同様に光触媒作用を有し、波長405nmの青紫色レーザーを照射することにより活性化する。膜の厚さは0.5〜5nmであることが好ましい。0.5nmより薄い場合は、光触媒としての機能が十分に得られない。一方、5nmより厚い場合は、それ以上膜を厚くしても光触媒としての機能はもはや向上しない上、膜が厚くなるほど光透過率も低下するからである。なお、酸化タングステン(WO)膜4aが反射防止膜3の最上部となり、反射防止膜3の一部となる構造であってもよい。
【0017】
酸化タングステン(WO)膜4b上には、アナターゼ型を主構造とする酸化チタン(TiO)膜4bが形成されている。アナターゼ型酸化チタン(TiO)は、非常に強い光触媒作用を有する。このアナターゼ型酸化チタン(TiO)は、388nm以下の波長の光の照射により活性化するため、単独では波長405nmの青紫色レーザーの照射によっては活性化しない。しかし、隣接する酸化タングステン(WO)が活性化することにより、アナターゼ型を主構造とする酸化チタン(TiO)も活性化する。このため、光学素子の表面にゴミ等が付着することを防止することができるとともに、表面に付着したゴミ等を分解除去することができる。アナターゼ型を主構造とする酸化チタン(TiO)膜4bの厚さは0.5〜5nmであることが好ましい。0.5nmより薄い場合は、光触媒としての機能が十分に得られない。一方、5nmより厚い場合は、それ以上膜を厚くしても光触媒としての機能はもはや向上しない上、膜が厚くなるほど光透過率も低下するからである。なお、酸化チタン(TiO)はルチル型またはブルッカイト型であってもよい。
【0018】
次に、図1を用いて、実施の形態1にかかる光学素子の製造方法について説明する。図1に示すように、透明体1上に、真空蒸着法、スパッタ法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法等により酸化シリコン(SiO)の中間層2および金属酸化物等の反射防止膜3を堆積する。その上には、真空蒸着法、スパッタ法、CVD法等により酸化タングステン(WO)膜4aを堆積する。酸化タングステン(WO)膜4a上には、真空蒸着法、スパッタ法、CVD法等により酸化チタン(TiO)膜4bを堆積する。真空蒸着法を用いる場合、膜質を改善するために、蒸気流の一部をイオン化するとともに基板側にバイアスを印加するイオンプレーティング法、クラスタイオンビーム法、別イオン銃を用いて基板にイオンを照射するイオンアシスト蒸着法を用いると有効である。スパッタ法としては、DC反応性スパッタ法、RFスパッタ法、イオンビームスパッタ法などがある。また、CVD法としては、プラズマ重合法、光アシスト気相法、熱分解法、有機金属化学気相法などがある。なお、形成される膜の厚さは蒸着時間等により変えることができる。
【0019】
発明の実施の形態2.
図2を用いて、本発明の実施の形態2に係る光学素子の構成について説明する。図2は実施の形態2に係る光学素子の断面図である。この光学素子は、光ディスク記録再生装置の光ヘッドまたは光ヘッド以外のレーザーの光路に備えられるものとして用いられる。図2においては、図1と同一の構成要素には同一の符号を付し、説明を省略する。実施の形態1との相違点は、実施の形態1が、最表面のアナターゼ型を主構造とする酸化チタン(TiO)膜4bとこれに隣接する酸化タングステン(WO)膜4aを備えているのに対し、実施の形態2は、最表面にアナターゼ型を主構造とする酸化チタン(TiO)と酸化タングステン(WO)の複合膜4のみを備えている点である。このような積層構造を光学素子におけるレーザーの入射面、出射面のいずれか一方または両方に備えることができる。
【0020】
反射防止膜3上には、アナターゼ型を主構造とする酸化チタン(TiO)と酸化タングステン(WO)の複合膜4が形成されている。複合膜4中のアナターゼ型酸化チタン(TiO)は、非常に強い光触媒作用を有する。このアナターゼ型酸化チタン(TiO)は、388nm以下の波長の光の照射により活性化するため、単独では波長405nmの青紫色レーザーの照射によっては活性化しない。しかし、複合膜4中の酸化タングステン(WO)が活性化することにより、アナターゼ型酸化チタン(TiO)も活性化する。このため、光学素子の表面にゴミ等が付着することを防止することができるとともに、表面に付着したゴミ等を分解除去することができる。アナターゼ型を主構造とする酸化チタン(TiO)と酸化タングステン(WO)の複合膜4の厚さは0.5〜5nmであることが好ましい。0.5nmより薄い場合は、光触媒としての機能が十分に得られない。一方、5nmより厚い場合は、それ以上膜を厚くしても光触媒としての機能はもはや向上しない上、膜が厚くなるほど光透過率も低下するからである。なお、酸化チタン(TiO)はルチル型またはブルッカイト型であってもよい。
【0021】
次に、図2を用いて、実施の形態2にかかる光学素子の製造方法について説明する。図2に示すように、透明体1上に、真空蒸着法、スパッタ法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法等により酸化シリコン(SiO)の中間層2および金属酸化物等の反射防止膜3を堆積する。その上には、真空蒸着法、スパッタ法、CVD法等により酸化タングステン(WO)と酸化チタン(TiO)の複合膜4を堆積する。真空蒸着法を用いる場合、膜質を改善するために、蒸気流の一部をイオン化するとともに基板側にバイアスを印加するイオンプレーティング法、クラスタイオンビーム法、別イオン銃を用いて基板にイオンを照射するイオンアシスト蒸着法を用いると有効である。スパッタ法としては、DC反応性スパッタ法、RFスパッタ法、イオンビームスパッタ法などがある。また、CVD法としては、プラズマ重合法、光アシスト気相法、熱分解法、有機金属化学気相法などがある。なお、形成される膜の厚さは蒸着時間等により変えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態1に係る光学素子の構成を示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態2に係る光学素子の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0023】
1 透明体
2 中間層
3 反射防止膜
4 アナターゼ型を主構造とする酸化チタン(TiO)と酸化タングステン(WO)の複合膜
4a アナターゼ型を主構造とする酸化チタン(TiO)膜
4b 酸化タングステン(WO)膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザーを用いて光学記録を読み書きする装置内のレーザーの光路に備えられた光学素子であって、
レーザーが出射または入射する最表面に、酸化チタンを含む膜およびこれに隣接した酸化タングステンを含む膜を有する光学素子。
【請求項2】
前記酸化チタンがアナターゼ型を主構造とすることを特徴とする請求項1記載の光学素子。
【請求項3】
前記酸化タングステンを含む膜の厚さが0.5nm〜5nmであることを特徴とする請求項1または2に記載の光学素子。
【請求項4】
前記酸化チタンを含む膜の厚さが0.5nm〜5nmであることを特徴とする請求項1〜3に記載の光学素子。
【請求項5】
レーザーを用いて光学記録を読み書きする装置内のレーザーの光路に備えられた光学素子であって、
レーザーが出射または入射する最表面に、酸化チタンと、酸化タングステンとを含む複合膜を有する光学素子。
【請求項6】
前記酸化チタンがアナターゼ型を主構造とすることを特徴とする請求項5記載の光学素子。
【請求項7】
前記酸化チタンと酸化タングステンとを含む複合膜の厚さが0.5nm〜5nmであることを特徴とする請求項6に記載の光学素子。
【請求項8】
前記レーザーの波長が390nm〜420nmであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の光学素子を備えた光ヘッド。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の光学素子を備えた光ディスク記録再生装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−220235(P2007−220235A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−40985(P2006−40985)
【出願日】平成18年2月17日(2006.2.17)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】