光学素子およびその製造方法
【課題】空間と構造部とが可視光の波長以下のピッチで交互に繰り返し配列された構造体において、該空間を含む構造部上に構造体又は薄膜を積層するに当たり、該構造体の形状の乱れを抑制することが可能となる光学素子およびその製造方法を提供する。
【解決手段】基板上に、少なくとも第1の層と、該第1の層上に積層された第2の層とを有する光学素子であって、
前記第1の層は、空間と構造部とが可視光の波長以下のピッチで、交互に繰り返し配列された構造体によって構成され、
前記構造部の上部には、前記第2の層を積層するに当たり、前記構造体の形状の乱れを抑制するための構成として、
前記第2の層の積層面と平行方向に延びる前記構造部の上面に対し、所定のなす角度を有する斜面が形成されている構成とする。
【解決手段】基板上に、少なくとも第1の層と、該第1の層上に積層された第2の層とを有する光学素子であって、
前記第1の層は、空間と構造部とが可視光の波長以下のピッチで、交互に繰り返し配列された構造体によって構成され、
前記構造部の上部には、前記第2の層を積層するに当たり、前記構造体の形状の乱れを抑制するための構成として、
前記第2の層の積層面と平行方向に延びる前記構造部の上面に対し、所定のなす角度を有する斜面が形成されている構成とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子およびその製造方法に関し、例えば、基板上に可視光の波長以下のピッチの凹凸構造体の該凹部空間を含む凸部上に、薄膜を積層して形成される偏光ビームスプリッタなどの光学素子およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来において、ラインアンドスペース等における空間と構造部とが可視光の波長以下のピッチで交互に繰り返し配列された構造体において、
これらの空間を含む構造部上に薄膜を積層して光学素子を製造する方法が知られている(特許文献1参照)。
従来のこのような光学素子の製造方法を、基板上に形成された凹凸構造体の凹部による空間を有したまま、該凸部上に薄膜を積層するようにした光学素子の製造方法を例にとり、以下に説明する。
図12に、上記従来例の凹凸構造による光学素子の製造方法を説明するための図を示す。図12(a)から図12(c)は、上記従来例の凹凸構造体による光学素子の製造方法を説明する工程図である。
【0003】
図12(a)に示すように、ガラス基板(下部クラッド)151上にコア層152を所望の厚みだけ堆積する。
更に、その上に第一上部クラッド層153を堆積した後、最後にマスク層154を堆積する。
マスク層154は、通常の露光・現像工程により、所望の幅にパターニングされる。
マスク層154の厚みは、ドライエッチングに耐えられる程度であれば良い。
次に、図12(b)に示すように、コア層152及び上部クラッド層153をエッチングする。
そして、コア層152から所望の幅の光導波路(コア)155以外の部分を除去し、形成される光導波路155の中間に光導波路155を横断する凹部156を形成する。
この際、凹部156を基板151の内部に所望の深さだけ食い込ませる。光導波路155及び凹部156を形成した後、マスク層154を除去する。
次に、図12(c)に示すように、第一上部クラッド層153の上から、ガラス層157をCVD法等により所望の厚み以上堆積する。
その際、凹部156による空間が残留し、凹部156の底部に山なりにガラス層157が堆積し、さらにその凹部156による空間は上に行くほど細くなる。
【0004】
以上の従来例では、凹部156を基板151内へ食い込ませることで、凹部156の底面にできる山なりのガラス層157を基板151内に追いやっている。さらに、第一上部クラッド層153の光導波路155上への形成により、凹部156による空間の上の位置で細くなる箇所を第一上部クラッド層153の位置に追いやっている。これらのことにより、凹部156による空間の体積を確保している。
【特許文献1】特開2003−075670号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した凹凸構造体の凹部空間を含む凸部構造部上に薄膜を積層するようにした光学素子では、図15(c)から明らかなように、凹凸構造体上に成膜を行うと凹部底面と側面に膜が入り込み、凹凸構造体の形状を乱してしまう場合が生じる。
【0006】
以上のように、空間と構造部とが可視光の波長以下のピッチで交互に繰り返し配列された構造体において、
これら空間を含む構造部上に構造体又は薄膜を積層する場合、上記したような構造体の形状の乱れは、光学特性を劣化させ、またその上に積層された構造体又は薄膜との密着力を低下させてしまうという問題が生じる。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑み、空間と構造部とが可視光の波長以下のピッチで交互に繰り返し配列された構造体において、
該空間を含む構造部上に構造体又は薄膜を積層するに当たり、該構造体の形状の乱れを抑制することが可能となる光学素子およびその製造方法の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、つぎのように構成した光学素子およびその製造方法を提供するものである。
本発明の光学素子は、基板上に、少なくとも第1の層と、該第1の層上に積層された第2の層とを有する光学素子であって、
前記第1の層は、空間と構造部とが可視光の波長以下のピッチで、交互に繰り返し配列された構造体によって構成され、
前記構造部の上部には、前記第2の層を積層するに当たり、前記構造体の形状の乱れを抑制するための構成として、
前記第2の層の積層面と平行方向に延びる前記構造部の上面に対し、所定のなす角度を有する斜面が形成されていることを特徴とする。
また、本発明の光学素子は、前記構造部の上面とのなす角度をθ1とするとき、該角度θ1が100°≦θ1≦170°の角度範囲であり、
且つ、前記構造部の側面とのなす角度をθ2とするとき、該角度θ2が(270−θ1)°≦θ2<180°の角度範囲であることを特徴とする。
また、本発明の光学素子は、前記構造部の上面とのなす角度をθ1とするとき、該角度θ1が105°≦θ1≦165°の角度範囲であり、
且つ、前記構造部の側面とのなす角度をθ2とするとき、該角度θ2が(270−θ1)°≦θ2≦(280−θ1)°の角度範囲であることを特徴とする。また、本発明の光学素子は、前記斜面が、長さLが15nm≦L≦195nmの長さ範囲であることを特徴とする。
また、本発明の光学素子は、前記構造体が、ラインアンドスペース構造を備えていることを特徴とする。
また、本発明の光学素子は、前記構造体が、凹凸構造体からなり、該凹凸構造体の凸部がホールパターン構造を備えていることを特徴とする。
また、本発明の光学素子は、前記構造体が、凹凸構造体からなり、該凹凸構造体の凹部がドットパターン構造を備えていることを特徴とする。
また、本発明の光学素子の製造方法は、
基板上に第1の層を堆積する工程と、
前記第1の層を、空間と構造部とが可視光の波長以下のピッチで、交互に繰り返し配列された構造体に形成する工程と、
前記構造部の上部に斜面を形成する工程と、
前記構造体の空間を含む前記構造部上に、第2の層または構造体を積層する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、空間と構造部とが可視光の波長以下のピッチで交互に繰り返し配列された構造体において、
該空間を含む構造部上に構造体又は薄膜を積層するに当たり、該構造体の形状の乱れを抑制することが可能となる光学素子およびその製造方法が実現できる。これにより、光学特性の劣化や、その上に積層された構造体又は薄膜との密着力の低下を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明を実施するための最良の形態を、つぎの実施例により説明する。
【実施例】
【0011】
以下に、本発明の実施例について説明する。
[実施例1]
実施例1においては、本発明を適用した、基板上に、少なくとも第1の層と、該第1の層上に積層された第2の層とを有する光学素子において、
前記第1の層が、空間と構造部とが可視光の波長以下のピッチで、交互に繰り返し配列された構造体によって構成され、
前記構造部の上部には、前記第2の層を積層するに当たり、前記構造体の形状の乱れを抑制するための構成例として、
前記第2の層の積層面と平行方向に延びる前記構造部の上面に対し、所定のなす角度を有する斜面が形成されている光学素子およびその製造方法について説明する。
図1に、本実施例におけるラインアンドスペースによって構成された構造体による光学素子およびその製造方法について説明する工程図を示す。
図1(a)から図1(d)は、本実施例のラインアンドスペース構造による光学素子の製造方法を説明する工程図である。
図1において、11は透明基板、12はラインアンドスペース構造、13はラインの上部斜面、14はスペース部の空間、15は膜である。
【0012】
本実施例において、まず、基板上に第1の層を堆積し、該第1の層を空間と構造部とが可視光の波長以下のピッチで、交互に繰り返し配列された構造体に形成する工程を、つぎのように実施する。
図1(a)に示されるように、透明基板11上にTiO2からなるラインアンドスペース構造12を設けた基板を準備する。
このTiO2からなるラインアンドスペース構造12は、TiO2膜をスパッタ法で成膜した後、通常の露光・現像工程によりフォトレジスト層をパターニングする。
その後、ドライエッチング法にてTiO2膜のスペース部をエッチングし、残りのレジストを適切な溶剤によって除去することにより形成される。
【0013】
次に、前記構造部の上部に斜面を形成する工程において、図1(b)に示されるように、Arイオンによるスパッタエッチングを行うことにより、TiO2からなるラインアンドスペース構造12のライン上部に斜面13を形成する。
以下、このライン上部に形成された斜面をラインの上部斜面と記す。
この際、ライン上面(構造部の上面)とラインの上部斜面13のなす角θ1が135°、ラインの上部斜面の長さLが30nmになるようにエッチング条件を設定する。
ここで、ライン側面とラインの上部斜面13のなす角度θ2は、本実施例ではラインが基板に対して垂直であるとしているため、θ2=135°である。
次に、図1(c)に示されるように、通常のスパッタ法によりTiO2の成膜をおこなう。
次に、前記構造体の空間を含む前記構造部上に、第2の層または構造体を積層する工程を、つぎのように実施する。
すなわち、図1(d)に示されるように、スペース部の空間14を有したまま、ラインアンドスペース構造上に、TiO2膜15を形成する。
【0014】
さらにTiO2膜15に構造体を形成してもよい。構造体の形成方法は、従来知られている方法を用いることができる。例えば、TiO2膜15上に通常の露光・現像工程により
フォトレジスト層をパターニングした後、ドライエッチング法にてTiO2膜15のスペース部をエッチングし、残りのレジストを適切な溶剤によって除去することにより形成される。
【0015】
つぎに、本実施例におけるラインの上部斜面の具体的構成について説明する。図2に、ラインの上部斜面の具体的構成について説明する図を示す。
図2において、θ1はライン上面(構造部の上面)とライン(構造部)の上部斜面とのなす角度、θ2はライン側面(構造部の側面)とラインの上部斜面とのなす角度、Lは斜面の長さを示している。
また、図3に、種々の検討により得られた、角度θ1とテンティング性の関係を説明する図を示す。
ここで、テンティング性とは凸部上面の法線方向への成膜レートに対する凸部側面の法線方向への成膜レートの比率である。
このテンティング性を、図4を用いて説明すると、テンティング性はd/t×100(%)で表される。
【0016】
図3から明らかなように、スパッタ粒子がラインの上面に対して垂直に入射する通常のスパッタ法では、ラインの上部に斜面を形成することでテンティング性が向上する。
θ1が100°≦θ1≦170°の角度範囲にあるとき60%以上のテンティング性が得られ、105°≦θ1≦165°の角度範囲にあるとき70%以上のテンティング性が得られる。
さらに、θ1=135°の時に最大値を示し、このときテンティング性は約82%で斜面が無い場合に比べおよそ2.2倍向上する。
【0017】
また、本実施例のラインアンドスペース構造において、ラインは基板に対して垂直であることが理想的だが、実際にはラインはあるテーパ角を有する。
そのため、θ2は(270−θ1)°≦θ2<180°の角度範囲にあることになる。
さらに、ライン全体のテーパ角は80°以上90°以下であることが望ましく、このことからθ2は(270−θ1)°≦θ2≦(280−θ1)°の角度範囲にあるほうがより好ましい。
【0018】
つぎに、上記ラインの上部斜面の長さLに関して説明する。
種々の検討により、ラインの上部斜面の長さLが15nmより短い場合、斜面の効果が薄れてしまうことが分かった。
そのため、ラインの上部斜面の長さLは15nm以上である必要がある。
さらに、本実施例のラインアンドスペース構造は、波長以下のピッチの繰り返し構造であるため、構造上195nm以上のラインの上部斜面を形成することができない。
これらのことから、ラインの上部斜面の長さLは15nm≦L≦195nmの範囲にあることになる。
本実施例では、θ1=135°、θ2=135°、L=30nmとした。
【0019】
図11に、従来手法(テンティング性は35%)および本実施例手法(テンティング性は60%)を用いて作成したPBSのs偏光反射率のシミュレーション結果を示す。
図11から分かるように、テンティング性を向上することで、s偏光反射率を低減させることができる。
本実施例によれば、このように、反射漏れ光を低減できるため、高性能なPBSを製造することが可能となる。
【0020】
[実施例2]
実施例2においては、上記実施例1とは異なる形態のラインアンドスペース構造による光学素子およびその製造方法について説明する。
図5に、本実施例における光学素子およびその製造方法について説明する図を示す。図5(a)から図5(d)は、本実施例のラインアンドスペース構造による光学素子の製造方法を説明する工程図である。
図5において、51は透明基板、52はラインアンドスペース構造、53はラインの上部斜面、54はスペース部の空間、55はTiO2膜である。
【0021】
本実施例における図5(a)及び図5(b)に示される工程では、実施例1と同様にして、透明基板51上にTiO2からなるラインアンドスペース構造52およびラインの上部斜面53を形成する。
この際、ライン上面とラインの上部斜面53のなす角θ1が105°、ラインの上部斜面の長さLが100nmになるようにエッチング条件を設定する。
ここで、ライン側面とラインの上部斜面53のなす角度θ2は、本実施例ではラインが基板に対して垂直であるとしているため、θ2=165°である。
次に、図5(c)に示されるように、斜入射スパッタ法によりスパッタ粒子の入射方向がラインの上部斜面53に対して垂直になるようにTiO2の成膜を行う。
この際、基板を例えば20rpm程度で回転させることにより、ラインの両側のラインの上部斜面53に対して均一に成膜することができる。
このようにして、図5(d)に示されるように、スペース部の空間54を有したままラインアンドスペース構造上にTiO2膜55を形成することができる。
【0022】
図6に、種々の検討により得られた、ライン上面とラインの上部斜面とのなす角θ1とテンティング性の関係を説明する図を示す。
ここで、スパッタ粒子の入射方向は、ラインの上部斜面に対して垂直である。
図6から明らかなように、スパッタ粒子の入射方向をラインの上部斜面に対して垂直に設定した斜入射スパッタ法では、θ1が小さくなるに伴いテンティング性は向上することが分かる。
【0023】
本実施例によれば、θ1=105°であるため、テンティング性は約265%となり、ラインの上部斜面が無い場合に比べ、およそ7.4倍向上する。
以上の実施例により形成された位相板の特性を評価したところ、透過率の高い特性が得られた。
【0024】
[実施例3]
実施例3においては、上記各実施例とは異なる形態の凹凸構造体による光学素子およびその製造方法について説明する。
図7に、本実施例における光学素子およびその製造方法について説明する図を示す。図7(a)から図7(e)は、本実施例の凹凸構造体による光学素子の製造方法を説明する工程図である。
図7において、71は透明基板、72はホールパターン構造、73はフォトレジスト、74は凸部の上部斜面、75はホール部の空間、76はTiO2膜である。
【0025】
本実施例において、光学素子を製造するに際し、まず、図7(a)に示されるように、透明基板71上にTiO2からなるホールパターン構造72および凸部上面にフォトレジスト73を設けた基板を準備する。
ここで、図7(a)を上から見た様子を図7(a’)に、また斜め上前方より見た様子を図7(a’’)に示す。
図7(a)は図7(a’)のa−a断面図になっている。
このTiO2からなるホールパターン構造72および凸部上面のフォトレジスト73は、TiO2膜をスパッタ法で成膜した後、通常の露光・現像工程によりフォトレジスト層をパターニングする。
その後、ドライエッチング法にてTiO2膜のホール部をエッチングすることにより形成される。
【0026】
次に、図7(b)に示されるように、CDEなどの等方性ドライエッチングを用いてフォトレジスト73の幅を所望の寸法に細らせる。
次に、図7(c)に示すように、フォトレジスト73をマスクとしてドライエッチング法によるテーパエッチングを用いて、凸部の上部斜面74を形成する。この際、凸部上面と凸部の上部斜面74のなす角θ1が165°、凸部の上部斜面の長さLが50nmになるようにエッチング条件を設定する。
ここで、ライン側面と凸部の上部斜面74のなす角度θ2は、本実施例ではラインが基板に対して垂直であるとしているため、θ2=105°である。
次に、図7(d)に示すように、斜入射イオンプレーティング法により成膜粒子の入射方向が斜面74に対して垂直になるようにTiO2の成膜を行う。
この際、基板を例えば20rpm程度で回転させることにより、凸部の上部斜面74に対して均一に成膜することができる。
このようにして、図7(e)に示されるように、ホール部の空間75を有したままホールパターン構造上にTiO2膜76を形成することができる。
以上の実施例により形成された光学素子の特性を評価したところ、高い特性が得られた。
【0027】
[実施例4]
実施例4においては、上記各実施例とは異なる形態の凹凸構造体による光学素子およびその製造方法について説明する。
図8に、本実施例における光学素子およびその製造方法について説明する図を示す。図8(a)から図8(e)は、本実施例の凹凸構造体による光学素子の製造方法を説明する工程図である。
図8において、81は透明基板、82はドットパターン構造、83はフォトレジスト、84は凸部の上部斜面、85は凹部の空間、86はTiO2膜である。
【0028】
本実施例において、光学素子を製造するに際し、まず、図8(a)に示されるように、透明基板81上にTiO2からなるドットパターン構造82を設けた基板を準備する。
ここで、図8(a)を上から見た様子を図8(a’)に、また斜め上前方より見た様子を図8(a’’)に示す。
図8(a)は図8(a’)のa−a断面図になっている。
このTiO2からなるドットパターン構造82は、TiO2膜をスパッタ法で成膜した後、通常の露光・現像工程によりフォトレジスト層をパターニングする。その後、ドライエッチング法にてTiO2膜の凹部をエッチングした後、残りのレジストを適切な溶剤によって除去することにより形成される。
次に、図8(b)に示されるように、ドットパターン構造82のドット上に所望の寸法にパターニングされたフォトレジスト層83を形成する。
次に、図8(c)に示されるように、フォトレジスト層83をマスクとしてドライエッチング法によるテーパエッチングを用いて、上部斜面84を形成する。
この際、ドット上面と上部斜面84のなす角θ1が105°、斜面の長さLが150nmになるようにエッチング条件を設定する。ここで、ライン側面と斜面84のなす角度θ2は、本実施例ではラインが基板に対して垂直であるとしているため、θ2=165°である。
次に、図8(d)に示されるように、斜入射蒸着法により成膜粒子の入射方向が上部斜面84に対して垂直になるようにTiO2の成膜を行う。
この際、基板を例えば20rpm程度で回転させることにより、ドット端部の斜面84に対して均一に成膜することができる。
このようにして、図8(e)に示されるように、凹部の空間85を有したままドットパターン構造上にTiO2膜86を形成することができる。
以上の実施例により形成された光学素子の特性を評価したところ、高い特性が得られた。
【0029】
[実施例5]
実施例5においては、上記実施例1及び実施例2とは異なる形態のラインアンドスペース構造による光学素子およびその製造方法について説明する。
図9に、本実施例における光学素子およびその製造方法について説明する図を示す。図9(a)から図9(d)は、本実施例のラインアンドスペース構造による光学素子の製造方法を説明する工程図である。
図9において、91は透明基板、92はラインアンドスペース構造、93はラインの上部斜面、94はスペース部の空間、95はTiO2膜である。
【0030】
本実施例において、光学素子を製造するに際し、図9(a)に示すように実施例1と同様にして、透明基板91上にTiO2からなるラインアンドスペース構造92を形成する。
この際、ラインは順テーパ形状に形成される。本実施例ではラインは80°のテーパ角を有している。
次に、図9(b)に示されるように、実施例1と同様にスパッタエッチングを用いてラインの上部斜面93を形成する。
この際、ライン上面と斜面93のなす角θ1が170°、斜面の長さLが15nmになるようにエッチング条件を設定する。ここでテーパ角が80°で、θ1が170°であるため、θ2は110°となる。
次に、図9(c)に示されるように、斜入射スパッタ法によりスパッタ粒子の入射方向が斜面93に対して垂直になるようにTiO2の成膜を行う。
この際、基板を例えば20rpm程度で回転させることにより、ラインの両側の上部斜面93に対して均一に成膜することができる。
このようにして、図9(d)に示されるように、スペース部の空間94を有したままラインアンドスペース構造上にTiO2膜95を形成することができる。
以上の実施例により形成された光学素子の特性を評価したところ、高い特性が得られた。
【0031】
[実施例6]
実施例6においては、上記実施例3及び実施例4とは異なる形態の凹凸構造体による光学素子およびその製造方法について説明する。
図10に、本実施例における光学素子およびその製造方法について説明する図を示す。図10(a)から図10(d)は、本実施例の凹凸構造体による光学素子の製造方法を説明する工程図である。
図10において、101は透明基板、102はドットパターン構造、103は凸部の上部斜面、104は凹部の空間、105はTiO2膜である。
【0032】
本実施例において、光学素子を製造するに際し、図10(a)に示されるように、実施例4と同様にして、透明基板101上にTiO2からなるドットパターン構造102を形成する。
本実施例でのドットパターン構造102は完全な周期構造ではなく、欠陥を有する。
次に、図10(b)に示されるように、実施例1と同様にスパッタエッチングを用いて凸部の上部斜面103を形成する。
この際、凸部上面と凸部の上部斜面103のなす角θ1が100°、凸部の上部斜面の長さLが195nmになるようにエッチング条件を設定する。
ここで、凸部側面と凸部の上部斜面103のなす角度θ2は、本実施例では凸部が基板に対して垂直であるとしているため、θ2=170°である。
次に、図10(c)に示されるように、斜入射スパッタ法によりスパッタ粒子の入射方向が斜面103に対して垂直になるようにTiO2の成膜を行う。
この際、基板を例えば20rpm程度で回転させることにより、凸部の両側の凸部の上部斜面103に対して均一に成膜することができる。
このようにして、図10(d)に示されるように、凹部の空間104を有したまま凹凸構造体上にTiO2膜105を形成することができる。
以上の実施例により形成された光学素子の特性を評価したところ、高い特性が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施例1におけるラインアンドスペースによって構成された構造体による光学素子およびその製造方法について説明する工程図。
【図2】本発明の実施例1のラインアンドスペース構造におけるラインの上部斜面の具体的構成について説明する図。
【図3】本発明の実施例1におけるライン上面(構造部の上面)とライン(構造部)の上部斜面とのなす角度θ1とテンティング性の関係を説明する図。
【図4】本発明の実施例1におけるテンティング性を説明する図。
【図5】本発明の実施例2におけるラインアンドスペースによって構成された構造体による光学素子およびその製造方法について説明する工程図。
【図6】本発明の実施例2におけるライン上面(構造部の上面)とライン(構造部)の上部斜面とのなす角度θ1とテンティング性の関係を説明する図。
【図7】本発明の実施例3における凹凸構造によって構成された構造体による光学素子およびその製造方法について説明する工程図。
【図8】本発明の実施例4における凹凸構造によって構成された構造体による光学素子およびその製造方法について説明する工程図。
【図9】本発明の実施例5におけるラインアンドスペースによって構成された構造体による光学素子およびその製造方法について説明する工程図。
【図10】本発明の実施例6における凹凸構造によって構成された構造体による光学素子およびその製造方法について説明する工程図。
【図11】PBSのs偏光反射率のシミュレーション結果を示す図。
【図12】従来例における凹凸構造によって構成された構造体による光学素子およびその製造方法について説明する工程図。
【符号の説明】
【0034】
11、51、71、81、91、101:透明基板
12、52、92:ラインアンドスペース構造
13、53、74、84、93、103:ラインあるいは凸部の上部斜面
14、54、94:スペース部の空間
15、55、76、86、95、105:TiO2膜
72:ホールパターン構造
73、83:フォトレジスト
75:ホール部の空間
82、102:ドットパターン構造
85、104:凹部の空間
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子およびその製造方法に関し、例えば、基板上に可視光の波長以下のピッチの凹凸構造体の該凹部空間を含む凸部上に、薄膜を積層して形成される偏光ビームスプリッタなどの光学素子およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来において、ラインアンドスペース等における空間と構造部とが可視光の波長以下のピッチで交互に繰り返し配列された構造体において、
これらの空間を含む構造部上に薄膜を積層して光学素子を製造する方法が知られている(特許文献1参照)。
従来のこのような光学素子の製造方法を、基板上に形成された凹凸構造体の凹部による空間を有したまま、該凸部上に薄膜を積層するようにした光学素子の製造方法を例にとり、以下に説明する。
図12に、上記従来例の凹凸構造による光学素子の製造方法を説明するための図を示す。図12(a)から図12(c)は、上記従来例の凹凸構造体による光学素子の製造方法を説明する工程図である。
【0003】
図12(a)に示すように、ガラス基板(下部クラッド)151上にコア層152を所望の厚みだけ堆積する。
更に、その上に第一上部クラッド層153を堆積した後、最後にマスク層154を堆積する。
マスク層154は、通常の露光・現像工程により、所望の幅にパターニングされる。
マスク層154の厚みは、ドライエッチングに耐えられる程度であれば良い。
次に、図12(b)に示すように、コア層152及び上部クラッド層153をエッチングする。
そして、コア層152から所望の幅の光導波路(コア)155以外の部分を除去し、形成される光導波路155の中間に光導波路155を横断する凹部156を形成する。
この際、凹部156を基板151の内部に所望の深さだけ食い込ませる。光導波路155及び凹部156を形成した後、マスク層154を除去する。
次に、図12(c)に示すように、第一上部クラッド層153の上から、ガラス層157をCVD法等により所望の厚み以上堆積する。
その際、凹部156による空間が残留し、凹部156の底部に山なりにガラス層157が堆積し、さらにその凹部156による空間は上に行くほど細くなる。
【0004】
以上の従来例では、凹部156を基板151内へ食い込ませることで、凹部156の底面にできる山なりのガラス層157を基板151内に追いやっている。さらに、第一上部クラッド層153の光導波路155上への形成により、凹部156による空間の上の位置で細くなる箇所を第一上部クラッド層153の位置に追いやっている。これらのことにより、凹部156による空間の体積を確保している。
【特許文献1】特開2003−075670号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した凹凸構造体の凹部空間を含む凸部構造部上に薄膜を積層するようにした光学素子では、図15(c)から明らかなように、凹凸構造体上に成膜を行うと凹部底面と側面に膜が入り込み、凹凸構造体の形状を乱してしまう場合が生じる。
【0006】
以上のように、空間と構造部とが可視光の波長以下のピッチで交互に繰り返し配列された構造体において、
これら空間を含む構造部上に構造体又は薄膜を積層する場合、上記したような構造体の形状の乱れは、光学特性を劣化させ、またその上に積層された構造体又は薄膜との密着力を低下させてしまうという問題が生じる。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑み、空間と構造部とが可視光の波長以下のピッチで交互に繰り返し配列された構造体において、
該空間を含む構造部上に構造体又は薄膜を積層するに当たり、該構造体の形状の乱れを抑制することが可能となる光学素子およびその製造方法の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、つぎのように構成した光学素子およびその製造方法を提供するものである。
本発明の光学素子は、基板上に、少なくとも第1の層と、該第1の層上に積層された第2の層とを有する光学素子であって、
前記第1の層は、空間と構造部とが可視光の波長以下のピッチで、交互に繰り返し配列された構造体によって構成され、
前記構造部の上部には、前記第2の層を積層するに当たり、前記構造体の形状の乱れを抑制するための構成として、
前記第2の層の積層面と平行方向に延びる前記構造部の上面に対し、所定のなす角度を有する斜面が形成されていることを特徴とする。
また、本発明の光学素子は、前記構造部の上面とのなす角度をθ1とするとき、該角度θ1が100°≦θ1≦170°の角度範囲であり、
且つ、前記構造部の側面とのなす角度をθ2とするとき、該角度θ2が(270−θ1)°≦θ2<180°の角度範囲であることを特徴とする。
また、本発明の光学素子は、前記構造部の上面とのなす角度をθ1とするとき、該角度θ1が105°≦θ1≦165°の角度範囲であり、
且つ、前記構造部の側面とのなす角度をθ2とするとき、該角度θ2が(270−θ1)°≦θ2≦(280−θ1)°の角度範囲であることを特徴とする。また、本発明の光学素子は、前記斜面が、長さLが15nm≦L≦195nmの長さ範囲であることを特徴とする。
また、本発明の光学素子は、前記構造体が、ラインアンドスペース構造を備えていることを特徴とする。
また、本発明の光学素子は、前記構造体が、凹凸構造体からなり、該凹凸構造体の凸部がホールパターン構造を備えていることを特徴とする。
また、本発明の光学素子は、前記構造体が、凹凸構造体からなり、該凹凸構造体の凹部がドットパターン構造を備えていることを特徴とする。
また、本発明の光学素子の製造方法は、
基板上に第1の層を堆積する工程と、
前記第1の層を、空間と構造部とが可視光の波長以下のピッチで、交互に繰り返し配列された構造体に形成する工程と、
前記構造部の上部に斜面を形成する工程と、
前記構造体の空間を含む前記構造部上に、第2の層または構造体を積層する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、空間と構造部とが可視光の波長以下のピッチで交互に繰り返し配列された構造体において、
該空間を含む構造部上に構造体又は薄膜を積層するに当たり、該構造体の形状の乱れを抑制することが可能となる光学素子およびその製造方法が実現できる。これにより、光学特性の劣化や、その上に積層された構造体又は薄膜との密着力の低下を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明を実施するための最良の形態を、つぎの実施例により説明する。
【実施例】
【0011】
以下に、本発明の実施例について説明する。
[実施例1]
実施例1においては、本発明を適用した、基板上に、少なくとも第1の層と、該第1の層上に積層された第2の層とを有する光学素子において、
前記第1の層が、空間と構造部とが可視光の波長以下のピッチで、交互に繰り返し配列された構造体によって構成され、
前記構造部の上部には、前記第2の層を積層するに当たり、前記構造体の形状の乱れを抑制するための構成例として、
前記第2の層の積層面と平行方向に延びる前記構造部の上面に対し、所定のなす角度を有する斜面が形成されている光学素子およびその製造方法について説明する。
図1に、本実施例におけるラインアンドスペースによって構成された構造体による光学素子およびその製造方法について説明する工程図を示す。
図1(a)から図1(d)は、本実施例のラインアンドスペース構造による光学素子の製造方法を説明する工程図である。
図1において、11は透明基板、12はラインアンドスペース構造、13はラインの上部斜面、14はスペース部の空間、15は膜である。
【0012】
本実施例において、まず、基板上に第1の層を堆積し、該第1の層を空間と構造部とが可視光の波長以下のピッチで、交互に繰り返し配列された構造体に形成する工程を、つぎのように実施する。
図1(a)に示されるように、透明基板11上にTiO2からなるラインアンドスペース構造12を設けた基板を準備する。
このTiO2からなるラインアンドスペース構造12は、TiO2膜をスパッタ法で成膜した後、通常の露光・現像工程によりフォトレジスト層をパターニングする。
その後、ドライエッチング法にてTiO2膜のスペース部をエッチングし、残りのレジストを適切な溶剤によって除去することにより形成される。
【0013】
次に、前記構造部の上部に斜面を形成する工程において、図1(b)に示されるように、Arイオンによるスパッタエッチングを行うことにより、TiO2からなるラインアンドスペース構造12のライン上部に斜面13を形成する。
以下、このライン上部に形成された斜面をラインの上部斜面と記す。
この際、ライン上面(構造部の上面)とラインの上部斜面13のなす角θ1が135°、ラインの上部斜面の長さLが30nmになるようにエッチング条件を設定する。
ここで、ライン側面とラインの上部斜面13のなす角度θ2は、本実施例ではラインが基板に対して垂直であるとしているため、θ2=135°である。
次に、図1(c)に示されるように、通常のスパッタ法によりTiO2の成膜をおこなう。
次に、前記構造体の空間を含む前記構造部上に、第2の層または構造体を積層する工程を、つぎのように実施する。
すなわち、図1(d)に示されるように、スペース部の空間14を有したまま、ラインアンドスペース構造上に、TiO2膜15を形成する。
【0014】
さらにTiO2膜15に構造体を形成してもよい。構造体の形成方法は、従来知られている方法を用いることができる。例えば、TiO2膜15上に通常の露光・現像工程により
フォトレジスト層をパターニングした後、ドライエッチング法にてTiO2膜15のスペース部をエッチングし、残りのレジストを適切な溶剤によって除去することにより形成される。
【0015】
つぎに、本実施例におけるラインの上部斜面の具体的構成について説明する。図2に、ラインの上部斜面の具体的構成について説明する図を示す。
図2において、θ1はライン上面(構造部の上面)とライン(構造部)の上部斜面とのなす角度、θ2はライン側面(構造部の側面)とラインの上部斜面とのなす角度、Lは斜面の長さを示している。
また、図3に、種々の検討により得られた、角度θ1とテンティング性の関係を説明する図を示す。
ここで、テンティング性とは凸部上面の法線方向への成膜レートに対する凸部側面の法線方向への成膜レートの比率である。
このテンティング性を、図4を用いて説明すると、テンティング性はd/t×100(%)で表される。
【0016】
図3から明らかなように、スパッタ粒子がラインの上面に対して垂直に入射する通常のスパッタ法では、ラインの上部に斜面を形成することでテンティング性が向上する。
θ1が100°≦θ1≦170°の角度範囲にあるとき60%以上のテンティング性が得られ、105°≦θ1≦165°の角度範囲にあるとき70%以上のテンティング性が得られる。
さらに、θ1=135°の時に最大値を示し、このときテンティング性は約82%で斜面が無い場合に比べおよそ2.2倍向上する。
【0017】
また、本実施例のラインアンドスペース構造において、ラインは基板に対して垂直であることが理想的だが、実際にはラインはあるテーパ角を有する。
そのため、θ2は(270−θ1)°≦θ2<180°の角度範囲にあることになる。
さらに、ライン全体のテーパ角は80°以上90°以下であることが望ましく、このことからθ2は(270−θ1)°≦θ2≦(280−θ1)°の角度範囲にあるほうがより好ましい。
【0018】
つぎに、上記ラインの上部斜面の長さLに関して説明する。
種々の検討により、ラインの上部斜面の長さLが15nmより短い場合、斜面の効果が薄れてしまうことが分かった。
そのため、ラインの上部斜面の長さLは15nm以上である必要がある。
さらに、本実施例のラインアンドスペース構造は、波長以下のピッチの繰り返し構造であるため、構造上195nm以上のラインの上部斜面を形成することができない。
これらのことから、ラインの上部斜面の長さLは15nm≦L≦195nmの範囲にあることになる。
本実施例では、θ1=135°、θ2=135°、L=30nmとした。
【0019】
図11に、従来手法(テンティング性は35%)および本実施例手法(テンティング性は60%)を用いて作成したPBSのs偏光反射率のシミュレーション結果を示す。
図11から分かるように、テンティング性を向上することで、s偏光反射率を低減させることができる。
本実施例によれば、このように、反射漏れ光を低減できるため、高性能なPBSを製造することが可能となる。
【0020】
[実施例2]
実施例2においては、上記実施例1とは異なる形態のラインアンドスペース構造による光学素子およびその製造方法について説明する。
図5に、本実施例における光学素子およびその製造方法について説明する図を示す。図5(a)から図5(d)は、本実施例のラインアンドスペース構造による光学素子の製造方法を説明する工程図である。
図5において、51は透明基板、52はラインアンドスペース構造、53はラインの上部斜面、54はスペース部の空間、55はTiO2膜である。
【0021】
本実施例における図5(a)及び図5(b)に示される工程では、実施例1と同様にして、透明基板51上にTiO2からなるラインアンドスペース構造52およびラインの上部斜面53を形成する。
この際、ライン上面とラインの上部斜面53のなす角θ1が105°、ラインの上部斜面の長さLが100nmになるようにエッチング条件を設定する。
ここで、ライン側面とラインの上部斜面53のなす角度θ2は、本実施例ではラインが基板に対して垂直であるとしているため、θ2=165°である。
次に、図5(c)に示されるように、斜入射スパッタ法によりスパッタ粒子の入射方向がラインの上部斜面53に対して垂直になるようにTiO2の成膜を行う。
この際、基板を例えば20rpm程度で回転させることにより、ラインの両側のラインの上部斜面53に対して均一に成膜することができる。
このようにして、図5(d)に示されるように、スペース部の空間54を有したままラインアンドスペース構造上にTiO2膜55を形成することができる。
【0022】
図6に、種々の検討により得られた、ライン上面とラインの上部斜面とのなす角θ1とテンティング性の関係を説明する図を示す。
ここで、スパッタ粒子の入射方向は、ラインの上部斜面に対して垂直である。
図6から明らかなように、スパッタ粒子の入射方向をラインの上部斜面に対して垂直に設定した斜入射スパッタ法では、θ1が小さくなるに伴いテンティング性は向上することが分かる。
【0023】
本実施例によれば、θ1=105°であるため、テンティング性は約265%となり、ラインの上部斜面が無い場合に比べ、およそ7.4倍向上する。
以上の実施例により形成された位相板の特性を評価したところ、透過率の高い特性が得られた。
【0024】
[実施例3]
実施例3においては、上記各実施例とは異なる形態の凹凸構造体による光学素子およびその製造方法について説明する。
図7に、本実施例における光学素子およびその製造方法について説明する図を示す。図7(a)から図7(e)は、本実施例の凹凸構造体による光学素子の製造方法を説明する工程図である。
図7において、71は透明基板、72はホールパターン構造、73はフォトレジスト、74は凸部の上部斜面、75はホール部の空間、76はTiO2膜である。
【0025】
本実施例において、光学素子を製造するに際し、まず、図7(a)に示されるように、透明基板71上にTiO2からなるホールパターン構造72および凸部上面にフォトレジスト73を設けた基板を準備する。
ここで、図7(a)を上から見た様子を図7(a’)に、また斜め上前方より見た様子を図7(a’’)に示す。
図7(a)は図7(a’)のa−a断面図になっている。
このTiO2からなるホールパターン構造72および凸部上面のフォトレジスト73は、TiO2膜をスパッタ法で成膜した後、通常の露光・現像工程によりフォトレジスト層をパターニングする。
その後、ドライエッチング法にてTiO2膜のホール部をエッチングすることにより形成される。
【0026】
次に、図7(b)に示されるように、CDEなどの等方性ドライエッチングを用いてフォトレジスト73の幅を所望の寸法に細らせる。
次に、図7(c)に示すように、フォトレジスト73をマスクとしてドライエッチング法によるテーパエッチングを用いて、凸部の上部斜面74を形成する。この際、凸部上面と凸部の上部斜面74のなす角θ1が165°、凸部の上部斜面の長さLが50nmになるようにエッチング条件を設定する。
ここで、ライン側面と凸部の上部斜面74のなす角度θ2は、本実施例ではラインが基板に対して垂直であるとしているため、θ2=105°である。
次に、図7(d)に示すように、斜入射イオンプレーティング法により成膜粒子の入射方向が斜面74に対して垂直になるようにTiO2の成膜を行う。
この際、基板を例えば20rpm程度で回転させることにより、凸部の上部斜面74に対して均一に成膜することができる。
このようにして、図7(e)に示されるように、ホール部の空間75を有したままホールパターン構造上にTiO2膜76を形成することができる。
以上の実施例により形成された光学素子の特性を評価したところ、高い特性が得られた。
【0027】
[実施例4]
実施例4においては、上記各実施例とは異なる形態の凹凸構造体による光学素子およびその製造方法について説明する。
図8に、本実施例における光学素子およびその製造方法について説明する図を示す。図8(a)から図8(e)は、本実施例の凹凸構造体による光学素子の製造方法を説明する工程図である。
図8において、81は透明基板、82はドットパターン構造、83はフォトレジスト、84は凸部の上部斜面、85は凹部の空間、86はTiO2膜である。
【0028】
本実施例において、光学素子を製造するに際し、まず、図8(a)に示されるように、透明基板81上にTiO2からなるドットパターン構造82を設けた基板を準備する。
ここで、図8(a)を上から見た様子を図8(a’)に、また斜め上前方より見た様子を図8(a’’)に示す。
図8(a)は図8(a’)のa−a断面図になっている。
このTiO2からなるドットパターン構造82は、TiO2膜をスパッタ法で成膜した後、通常の露光・現像工程によりフォトレジスト層をパターニングする。その後、ドライエッチング法にてTiO2膜の凹部をエッチングした後、残りのレジストを適切な溶剤によって除去することにより形成される。
次に、図8(b)に示されるように、ドットパターン構造82のドット上に所望の寸法にパターニングされたフォトレジスト層83を形成する。
次に、図8(c)に示されるように、フォトレジスト層83をマスクとしてドライエッチング法によるテーパエッチングを用いて、上部斜面84を形成する。
この際、ドット上面と上部斜面84のなす角θ1が105°、斜面の長さLが150nmになるようにエッチング条件を設定する。ここで、ライン側面と斜面84のなす角度θ2は、本実施例ではラインが基板に対して垂直であるとしているため、θ2=165°である。
次に、図8(d)に示されるように、斜入射蒸着法により成膜粒子の入射方向が上部斜面84に対して垂直になるようにTiO2の成膜を行う。
この際、基板を例えば20rpm程度で回転させることにより、ドット端部の斜面84に対して均一に成膜することができる。
このようにして、図8(e)に示されるように、凹部の空間85を有したままドットパターン構造上にTiO2膜86を形成することができる。
以上の実施例により形成された光学素子の特性を評価したところ、高い特性が得られた。
【0029】
[実施例5]
実施例5においては、上記実施例1及び実施例2とは異なる形態のラインアンドスペース構造による光学素子およびその製造方法について説明する。
図9に、本実施例における光学素子およびその製造方法について説明する図を示す。図9(a)から図9(d)は、本実施例のラインアンドスペース構造による光学素子の製造方法を説明する工程図である。
図9において、91は透明基板、92はラインアンドスペース構造、93はラインの上部斜面、94はスペース部の空間、95はTiO2膜である。
【0030】
本実施例において、光学素子を製造するに際し、図9(a)に示すように実施例1と同様にして、透明基板91上にTiO2からなるラインアンドスペース構造92を形成する。
この際、ラインは順テーパ形状に形成される。本実施例ではラインは80°のテーパ角を有している。
次に、図9(b)に示されるように、実施例1と同様にスパッタエッチングを用いてラインの上部斜面93を形成する。
この際、ライン上面と斜面93のなす角θ1が170°、斜面の長さLが15nmになるようにエッチング条件を設定する。ここでテーパ角が80°で、θ1が170°であるため、θ2は110°となる。
次に、図9(c)に示されるように、斜入射スパッタ法によりスパッタ粒子の入射方向が斜面93に対して垂直になるようにTiO2の成膜を行う。
この際、基板を例えば20rpm程度で回転させることにより、ラインの両側の上部斜面93に対して均一に成膜することができる。
このようにして、図9(d)に示されるように、スペース部の空間94を有したままラインアンドスペース構造上にTiO2膜95を形成することができる。
以上の実施例により形成された光学素子の特性を評価したところ、高い特性が得られた。
【0031】
[実施例6]
実施例6においては、上記実施例3及び実施例4とは異なる形態の凹凸構造体による光学素子およびその製造方法について説明する。
図10に、本実施例における光学素子およびその製造方法について説明する図を示す。図10(a)から図10(d)は、本実施例の凹凸構造体による光学素子の製造方法を説明する工程図である。
図10において、101は透明基板、102はドットパターン構造、103は凸部の上部斜面、104は凹部の空間、105はTiO2膜である。
【0032】
本実施例において、光学素子を製造するに際し、図10(a)に示されるように、実施例4と同様にして、透明基板101上にTiO2からなるドットパターン構造102を形成する。
本実施例でのドットパターン構造102は完全な周期構造ではなく、欠陥を有する。
次に、図10(b)に示されるように、実施例1と同様にスパッタエッチングを用いて凸部の上部斜面103を形成する。
この際、凸部上面と凸部の上部斜面103のなす角θ1が100°、凸部の上部斜面の長さLが195nmになるようにエッチング条件を設定する。
ここで、凸部側面と凸部の上部斜面103のなす角度θ2は、本実施例では凸部が基板に対して垂直であるとしているため、θ2=170°である。
次に、図10(c)に示されるように、斜入射スパッタ法によりスパッタ粒子の入射方向が斜面103に対して垂直になるようにTiO2の成膜を行う。
この際、基板を例えば20rpm程度で回転させることにより、凸部の両側の凸部の上部斜面103に対して均一に成膜することができる。
このようにして、図10(d)に示されるように、凹部の空間104を有したまま凹凸構造体上にTiO2膜105を形成することができる。
以上の実施例により形成された光学素子の特性を評価したところ、高い特性が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施例1におけるラインアンドスペースによって構成された構造体による光学素子およびその製造方法について説明する工程図。
【図2】本発明の実施例1のラインアンドスペース構造におけるラインの上部斜面の具体的構成について説明する図。
【図3】本発明の実施例1におけるライン上面(構造部の上面)とライン(構造部)の上部斜面とのなす角度θ1とテンティング性の関係を説明する図。
【図4】本発明の実施例1におけるテンティング性を説明する図。
【図5】本発明の実施例2におけるラインアンドスペースによって構成された構造体による光学素子およびその製造方法について説明する工程図。
【図6】本発明の実施例2におけるライン上面(構造部の上面)とライン(構造部)の上部斜面とのなす角度θ1とテンティング性の関係を説明する図。
【図7】本発明の実施例3における凹凸構造によって構成された構造体による光学素子およびその製造方法について説明する工程図。
【図8】本発明の実施例4における凹凸構造によって構成された構造体による光学素子およびその製造方法について説明する工程図。
【図9】本発明の実施例5におけるラインアンドスペースによって構成された構造体による光学素子およびその製造方法について説明する工程図。
【図10】本発明の実施例6における凹凸構造によって構成された構造体による光学素子およびその製造方法について説明する工程図。
【図11】PBSのs偏光反射率のシミュレーション結果を示す図。
【図12】従来例における凹凸構造によって構成された構造体による光学素子およびその製造方法について説明する工程図。
【符号の説明】
【0034】
11、51、71、81、91、101:透明基板
12、52、92:ラインアンドスペース構造
13、53、74、84、93、103:ラインあるいは凸部の上部斜面
14、54、94:スペース部の空間
15、55、76、86、95、105:TiO2膜
72:ホールパターン構造
73、83:フォトレジスト
75:ホール部の空間
82、102:ドットパターン構造
85、104:凹部の空間
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、少なくとも第1の層と、該第1の層上に積層された第2の層とを有する光学素子であって、
前記第1の層は、空間と構造部とが可視光の波長以下のピッチで、交互に繰り返し配列された構造体によって構成され、
前記構造部の上部には、前記第2の層を積層するに当たり、前記構造体の形状の乱れを抑制するための構成として、
前記第2の層の積層面と平行方向に延びる前記構造部の上面に対し、所定のなす角度を有する斜面が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
【請求項2】
前記構造部の上面とのなす角度をθ1とするとき、該角度θ1が100°≦θ1≦170°の角度範囲であり、
且つ、前記構造部の側面とのなす角度をθ2とするとき、該角度θ2が(270−θ1)°≦θ2<180°の角度範囲であることを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
【請求項3】
前記構造部の上面とのなす角度をθ1とするとき、該角度θ1が105°≦θ1≦165°の角度範囲であり、
且つ、前記構造部の側面とのなす角度をθ2とするとき、該角度θ2が(270−θ1)°≦θ2≦(280−θ1)°の角度範囲であることを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
【請求項4】
前記斜面は、長さLが15nm≦L≦195nmの長さ範囲であることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の光学素子。
【請求項5】
前記構造体は、ラインアンドスペース構造を備えていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項6】
前記構造体は、凹凸構造体からなり、該凹凸構造体の凸部がホールパターン構造を備えていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項7】
前記構造体は、凹凸構造体からなり、該凹凸構造体の凹部がドットパターン構造を備えていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項8】
基板上に第1の層を堆積する工程と、
前記第1の層を、空間と構造部とが可視光の波長以下のピッチで、交互に繰り返し配列された構造体に形成する工程と、
前記構造部の上部に斜面を形成する工程と、
前記構造体の空間を含む前記構造部上に、第2の層または構造体を積層する工程と、
を有することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項1】
基板上に、少なくとも第1の層と、該第1の層上に積層された第2の層とを有する光学素子であって、
前記第1の層は、空間と構造部とが可視光の波長以下のピッチで、交互に繰り返し配列された構造体によって構成され、
前記構造部の上部には、前記第2の層を積層するに当たり、前記構造体の形状の乱れを抑制するための構成として、
前記第2の層の積層面と平行方向に延びる前記構造部の上面に対し、所定のなす角度を有する斜面が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
【請求項2】
前記構造部の上面とのなす角度をθ1とするとき、該角度θ1が100°≦θ1≦170°の角度範囲であり、
且つ、前記構造部の側面とのなす角度をθ2とするとき、該角度θ2が(270−θ1)°≦θ2<180°の角度範囲であることを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
【請求項3】
前記構造部の上面とのなす角度をθ1とするとき、該角度θ1が105°≦θ1≦165°の角度範囲であり、
且つ、前記構造部の側面とのなす角度をθ2とするとき、該角度θ2が(270−θ1)°≦θ2≦(280−θ1)°の角度範囲であることを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
【請求項4】
前記斜面は、長さLが15nm≦L≦195nmの長さ範囲であることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の光学素子。
【請求項5】
前記構造体は、ラインアンドスペース構造を備えていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項6】
前記構造体は、凹凸構造体からなり、該凹凸構造体の凸部がホールパターン構造を備えていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項7】
前記構造体は、凹凸構造体からなり、該凹凸構造体の凹部がドットパターン構造を備えていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項8】
基板上に第1の層を堆積する工程と、
前記第1の層を、空間と構造部とが可視光の波長以下のピッチで、交互に繰り返し配列された構造体に形成する工程と、
前記構造部の上部に斜面を形成する工程と、
前記構造体の空間を含む前記構造部上に、第2の層または構造体を積層する工程と、
を有することを特徴とする光学素子の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−139793(P2009−139793A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−318050(P2007−318050)
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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