説明

光学素子の製造方法

【課題】接着剤が形成されない領域に接着剤が食み出すことを防止する。
【解決手段】基板2の表面の複数箇所に、位相差板10を接着するための接着領域1Aと位相差板10が接着されない基板露出領域1Bとが形成され、接着領域1Bに位相差板10が接着された偏光変換素子1を製造するときに、基板露出領域1Bへの接着剤91の食み出しを防止するために、粘着剤92が1面に形成された保護フィルムDFを、粘着面から基板2の表面の基板露出領域1Bに貼付する保護フィルム貼付ステップと、基板2の表面の少なくとも接着領域1Bの全面に接着剤91を塗布する接着剤塗布ステップと、保護フィルムDFをガイドとして、位相差板10に押圧力を作用させることにより、位相差板10を接着領域1Bに接着させる光学部材接着ステップと、保護フィルムDFを剥離する保護フィルム剥離ステップと、を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学的機能を発揮する光学フィルム等の光学部材を所定の位置に接着するための光学素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガラス等の透明部材に所定の光学的機能を発揮する光学部材が形成されて構成された光学素子の一例として、液晶プロジェクタ等の投射型表示装置に用いられる偏光変換素子がある。偏光変換素子は、任意の偏光方向の入射光を、偏光方向が1方向に揃った直線偏光に変換して出射するための素子である。具体的には、P偏光光とS偏光光との混合光が入射したときに、偏光変換素子は、P偏光光又はS偏光光の何れか1方向に揃った偏光光を出射する。偏光変換素子は、平板状のガラス等の透明基板に偏光分離膜(偏光方向によって透過と反射とを分ける膜)と反射膜(光を全反射させる機能を有する膜)とが交互に傾斜方向に形成され、透明基板の出射平面の所定位置に複数の短冊状の位相差板(λ/2波長板)が形成される。
【0003】
そこで、基板にフィルムを素材とする位相差板を貼付する装置及び方法が特許文献1に開示されている。特許文献1では、1軸ステージに基準板により予め位置決めされた基板に、旋回テーブルの所定位置に吸着された位相差板を加圧させた状態で、前記1軸ステージを平行移動させることにより貼付を行っている。
【特許文献1】特開2004−325547号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フィルムを素材とする位相差板を基板に貼付させる方法としては、粘着剤によるものと接着剤によるものとの2つの方法を主に用いることができる。粘着剤及び接着剤は、物体同士を接合させるという点では用途は同一である。つまり、物体同士を接合させるという材料という広義の意味では粘着剤は接着剤に含まれる概念であるが、粘着剤は粘着力により物体同士を接合させ、接着剤(狭義の接着剤)は接着力により物体同士を接合させるため、両者は接合機能が異なることになる。
【0005】
粘着剤は高粘度で低弾性率の半固体の物質であり、物体同士を接合させた後においてもその状態は変化せず、固化の過程を必要としないものである。一方、接着剤は低粘度の液体であり、接合される物体間に対する接触面積を広くし、接合後には、機械的変化、物理的変化や化学的変化等といった過程を経て固化するものである。つまり、粘着剤と接着剤とは接合後における状態変化という点で相違するものである。
【0006】
接着剤と粘着剤とでは、一般に接合強度という点では接着剤の方が高いが、近年では粘着剤も高い粘着強度を持つものが開発されてきているため、両者にそれほどの違いはなくなってきている。しかし、耐候性という観点からは、接着剤は粘着剤よりも優れた効果を発揮する。例えば、長期間にわたって高温多湿の環境下に置かれると、粘着剤は接着剤よりも早急に劣化する。そこで、長期間にわたる安定性という点では、粘着剤よりも耐候性に優れた接着剤を使用することが好ましい。特に、耐用年数が長い機器類に装着される光学素子として使用する場合には、接着剤を用いて接合されるものが多い。また、フィルム等のように可撓性に富む部材を基板に貼り付けるときには粘着剤を使用できるが、剛性の高い部材同士を接合させるためには、粘着剤ではなく接着剤が用いられる。
【0007】
ここで、接着剤を用いた場合において、その接合強度を高めるためには、接着剤層をできるだけ薄く且つ均一な厚みとする必要がある。接着剤を塗布するにあたって、部分的に厚みが変化すると、厚みのある部分に応力が集中して接着力が低下するなどといった問題点がある。従って、均一で高い強度の接着力を発揮させるためには、貼り付けた後に物体同士をしごく等により押圧して、余分な接着剤を押し出して、接着剤層の厚みの均一化を図る必要がある。その結果、接合部の間から接着剤が食み出すことは避けられない。
【0008】
光学素子は、基板上に光学的機能を発揮する光学部材を形成して構成される。例えば前述したような偏光変換素子においては、基板上に位相差板を形成して構成される。位相差板は基板の全面に形成されるのではなく、基板表面の所定領域に複数形成される。従って、基板表面には、位相差板が形成されている領域と形成されていない領域(基板が露出している領域:基板露出領域)とがある。このため、位相差板を基板表面に接着剤により形成したときは、位相差板を押圧して余分な接着剤を押し出して厚みの均一化を図るために、押し出された接着剤が基板露出領域に向かって食み出すことになる。
【0009】
基板露出領域に接着剤が食み出すと、当該基板露出領域を透過する光に対して屈折作用や光量損失等の悪影響を及ぼし、光学素子としての品質が劣化してしまい、食み出した量によっては光学部品として使用することができなくなることもある。食み出した接着剤は、例えば溶剤で拭き取ることも可能ではあるが、この作業は面倒なものであり、しかも光学部材の厚み寸法にもよるため、基板露出領域への境界部に接着剤が食み出したまま残存することがある。基板露出領域に僅かでも接着剤が付着していると、前記のように透過光に対して悪影響を及ぼすことになる。
【0010】
そこで、本発明は、耐候性に優れた接着剤を使用して光学部材を基板に接着するときに、接着剤が基板露出領域に食み出すことを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の光学素子の製造方法は、基板の表面の複数箇所に、光学的機能を発揮する光学部材を接着するための接着領域と前記光学部材が接着されない基板露出領域とが形成され、前記接着領域に前記光学部材が接着された光学素子を製造する光学素子の製造方法であって、前記基板の表面の前記基板露出領域に保護フィルムを粘着剤により貼付する保護フィルム貼付ステップと、前記基板の表面の少なくとも前記接着領域の全面に接着剤を塗布する接着剤塗布ステップと、前記光学部材を前記接着領域に接着させて前記光学部材に押圧力を作用させる光学部材接着ステップと、前記保護フィルムを剥離する保護フィルム剥離ステップと、を有することを特徴とする。
【0012】
前記の光学素子の製造方法によれば、接着剤により光学部材を基板の表面に接着させたときでも、予め基板露出領域には保護フィルムが形成されているため、光学部材に押圧力を作用させたときでも、接着剤は保護フィルムの上に食み出すため、保護フィルムが基板露出領域を保護する機能を発揮する。保護フィルムは粘着剤により基板の表面に貼付されているため、保護フィルムは容易に剥離できる。粘着剤は剥離時に凝集破壊を起こさず、基板上に粘着剤を残存させない性質を有しているため、保護フィルムを剥離したときには基板露出領域からは粘着剤や接着剤の残存がなく、全てを除去することができる。従って、基板露出領域を光が透過したときに、食み出した接着剤や保護フィルムにより光学素子の光学的機能が損なわれることはない。
【0013】
光学素子が所定の光学的機能を発揮するためには、光学部材は基板の表面に極めて高精度な位置関係で接着されている必要がある。そこで、基板に対して位置決めされているマスク部材を用いることにより、高精度に光学部材を接着させることができる。このとき、マスク部材は基板露出領域に対応する部分が貫通されたマスクパターンを有するものを使用し、当該貫通部を介して保護フィルムを貼付する。そうすると、保護フィルムは高精度に位置決めされるため、保護フィルムをガイドとして基板に接着される光学部材も所定位置に高精度に接着させることができる。
【0014】
マスク部材を基板に対して位置決めする方法としては種々のものが考えられるが、基板を予め決められた位置に固定する固定治具に対してマスク部材を取り付けることにより、マスク部材と基板とを正確に位置決めすることができる。
【0015】
製造される光学素子としては、例えば偏光変換素子がある。偏光変換素子は、基板上に短冊状の位相差板が複数箇所に形成されてなるものであるため、位相差板を所定位置に接着させる必要がある。偏光変換素子においては、短冊状の位相差板の短手方向には極めて高精度な位置に形成されていなくてはならないが、長手方向には多少の誤差が許容される。従って、位相差板の短手方向の動作を規制すべく、基板を固定する固定治具には、位相差板の長手方向と平行な方向の2つの基板の端面のうち1つの端面を固定治具に設けられる固定基準壁に当接させた状態で、反対側の端面を前記固定治具に設けられる可動性の可動基準壁により押圧して固定し、マスク部材は固定基準壁と位置合わせされるようにして、前記固定治具に取り付けられるようにする。固定基準壁と可動基準壁とにより、基板は前記の短手方向の動きが完全に規制されるため、当該方向において高精度に位置合わせすることができる。
【0016】
一方、前記の長手方向において若干の誤差が許容されるとはいえ、大きな誤差が発生してはならない。そこで、前記の長手方向における基板の動作は、固定治具に設けられる第1の規制壁及び第2の規制壁によって動作が規制されるようにする。
【0017】
前記のマスク部材は、固定治具に位置合わせされた状態で取り付けられる保持蓋と、マスク部材のスリットと同一のスリットを有し、保持蓋に着脱可能に取り付けられるマスク板とを有して構成されるものとすることができる。マスク部材を保持蓋とマスク板とに別個独立の部品とすることにより、保持蓋に取り付けるマスク板を複数種類使用することができる。つまり、マスク板を交換することにより、複数種類のマスクパターンに対応することができ、基板上に接着される位相差板も任意のパターンに形成することができる。
【0018】
位相差板としては、剛性の高い水晶板や可撓性を有するフィルム状のものを適用することができる。また、前述してきたものは位相差板が接着された偏光変換素子を前提としているが、基板に光学部材を接着させるものであれば、任意のものを適用することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の光学素子の製造方法は、基板上に光学部材を接着させたときに接着剤が食み出したとしても、予め保護フィルムを貼付することにより基板上に食み出すことを防止することができる。また、保護フィルムを貼付する際に、固定治具及びマスク部材を用いることにより、高精度に光学部材を基板上に接着させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。本発明の製造方法によって製造される光学素子は、基板の上に所定の光学的機能を発揮する光学部材が形成されて構成される。光学素子の一例として、図1に偏光変換素子1を示している。ただし、基板上に光学部材を形成するものであれば、偏光変換素子1以外の任意の光学素子について本発明の製造方法を適用することができる。
【0021】
図1において、偏光変換素子1は、平板状の基板2に前記の光学部材として位相差板(λ/2波長板)10を複数箇所に接着して構成される。位相差板10の位相差機能を発揮するものとしては、可撓性フィルムや水晶板、入射光に対して所定の位相差を与えるような誘電体多層膜が成膜されたガラス部材等がある。従って、位相差板10としては可撓性フィルムのような軟性部材を適用することもでき、水晶板や誘電体多層膜が成膜されたガラス板等のような剛性部材を適用することもできる。接着剤91を使用する理由としては、耐候性の問題が挙げられる。偏光変換素子1は主に液晶プロジェクタ等の光学装置の構成部品となるため、長期渡って高温状況下に曝されることになる。このため、耐候性のある接着剤を使用する必要がある。また、剛性部材同士を接合させるためには接合強度が強力な接着剤を使用する必要があるという点もある。従って、光学部材と基板との接合には接着剤91を用いることが条件となる。
【0022】
基板2はガラス等の透明部材をベースとしているものであり、内部には複数の偏光分離膜3と反射膜4とが入射光の進行方向に対して傾斜して交互に形成されている。偏光分離膜3は入射光のうちP偏光光又はS偏光光の何れか一方の偏光光を透過し、他方の偏光光を反射する偏光分離機能を有する誘電体多層膜である。反射膜4は入射光を全反射させる機能を有する膜であり、例えば金属膜等を適用することができる。
【0023】
偏光分離膜3及び反射膜4は、所定角度(主に45°)傾斜して形成され、等間隔に交互に形成されている。従って、偏光変換素子1の入射平面1Sから入射したP偏光光とS偏光光との混合光は、最初に偏光分離膜3の偏光分離機能によりP偏光光又はS偏光光の何れか一方が透過し、他方が反射する(ここでは、P偏光光が透過し、S偏光光が反射するものとして説明するが、逆の場合でもよい)。P偏光光はそのまま偏光変換素子1の出射平面1Rから射出するが、S偏光光は偏光分離膜3で反射して反射膜4に入射する。反射膜4は全反射機能を有するため、S偏光光は反射膜4で反射して出射平面1Rに形成されている位相差板10に入射する。
【0024】
位相差板10は短冊状の細長の形状をしており、入射光に対して所定の位相差(ここでは、λ/2波長板として機能するため、P偏光光とS偏光光との間に180°の位相差)を与える。そうすると、位相差板10への入射光はS偏光光であるため、λ/2の位相差が与えられ、S偏光光はP偏光光に変換される。このため、位相差板10から出射する光はP偏光光となる。図1に示されるように、出射平面1Rのうち位相差板10が形成されていない部分からはP偏光光がそのまま出射し、位相差板10が形成されている部分からはS偏光光からP偏光光に変換されて出射するため、全体として、出射平面1Rから出射する光はP偏光光となり、偏光変換素子1の機能を実現することができる。
【0025】
以上のような偏光変換素子1を製造する方法について説明する。最初に、図2(a)に示されるような偏光分離膜3と反射膜4とが形成された基板2を用意する。図1からも明らかなように、基板2の出射平面1Rに位相差板10が接着される。そこで、出射平面1Rのうち、位相差板10が接着される領域を接着領域1Aとし、位相差板10が接着されない領域を基板露出領域1Bとする。つまり、接着領域1Aと基板露出領域1Bとは交互に形成された態様となる。基板露出領域1Bは、最終的に製造される偏光変換素子1において光が透過するために基板が露出している領域となり、前記した場合では、偏光分離膜3を透過したP偏光光の透過領域となる。
【0026】
次に、同図2(b)に示されるように、基板露出領域1Bに対して保護フィルムDFを貼付する(保護フィルム貼付ステップ)。保護フィルムDFは最終的には偏光変換素子1を構成する部材とはならず、その製造過程においてのみ使用されるものである。このため、保護フィルムDFは光学的機能を有していなくてもよい。保護フィルムDFの材料としては、可撓性を有するフィルムが適用される。また、その厚みは薄いものが使用される。ただし、後に保護フィルムDFは位相差板10を基板2に形成するときのガイド部材としても機能するため、ある程度の厚みを有している。
【0027】
保護フィルムDFと基板2との接合は粘着剤92を用いる。前記したように保護フィルムDFは製造過程において剥離されるものである。このとき、接合面に凝集破壊を起こす接着剤を用いると、後に保護フィルムDFを剥離するときに、接着剤や保護フィルムDFが基板2に残存することになる。保護フィルムDFが形成される領域は基板露出領域1Bであり、当該領域は偏光分離膜3を透過した光(P偏光光)が通過する領域となるため、接着剤や保護フィルムDFが残存していると、透過光に対して光量損失や偏光方向の変化等の影響を及ぼし、偏光変換素子1の機能を発揮することができなくなる。そこで、接合面に凝集破壊を起こす接着剤を用いずに、接合強度が弱く接合面に凝集破壊を起こさない粘着剤92を用いる。
【0028】
基板露出領域1Bに保護フィルムDFを貼付した後に、図3(a)に示されるように、少なくとも接着領域1Aの全面に対して接着剤91を塗布する(接着剤塗布ステップ)。接着剤91が塗布されなくてはならないのは接着領域1Aのみであるが、接着領域1Aのみに接着剤91を形成し、保護フィルムDFに接着剤91が食み出さないように塗布することは実質上不可能である。そこで、接着剤91は接着領域1Aの全面に塗布されていれば、多少保護フィルムDFに対して食み出しがあってもよい。また、作業性の観点からは、接着領域1Aの部位だけではなく、保護フィルムDFと接着領域1Aとを区別することなく、基板2の全面に対して接着剤91を塗布すると、より効率的である。
【0029】
次に、図3(b)に示されるように、接着剤91が形成された接着領域1Aに対して位相差板10を形成する。基板露出領域1Bには保護フィルムDFが形成され、保護フィルムDFは所定厚みを有しているため、保護フィルムDFのエッジ間に位相差板10を配置させることにより、人手作業により簡単に位相差板10を接着領域1Aに勘合させることができる。このとき、保護フィルムDFの側面がガイドとなって位相差板10は接着領域1Aに導かれることになる。
【0030】
接着領域1Aに位相差板10を当接させた後に、位相差板10に対して押圧力を作用させて、光学部材としての位相差板10を基板2に接着させた状態とする(光学部材接着ステップ)。前述したように、接着剤91を塗布して塗り広めただけでは、接着剤91の厚みが不均一となり、部分的に盛り上がる。この場合、厚塗りの部分においては接着強度が劣ることから、当該部分に応力が集中して、応力の度合いによっては接着力が失われるおそれがある。このため、接着剤91の厚みの均一化を図り、位相差板10を確実に基板2に接着させる必要がある。このため、位相差板10が軟性部材であれば、上部からしごくように押圧力を作用させ、剛性部材であれば、上部から強力な加圧力を作用させる。
【0031】
前述したように、接着剤91は低粘度の液体材料であるため、接着剤91の厚みの均一化を図るために押圧力を作用させると、位相差板10と基板2との間から接着剤91が押し出されることになる。また、接着強度を高めるために接着剤91の層を薄くする必要がある。そうすると、位相差板10に押圧力を作用させることにより、位相差板10と基板2との間の余分な接着剤91を外部に押し出して、接着剤91の厚みを均一化し、且つ薄くすることができる。このため、外部に押し出された接着剤91は基板露出領域1Bに向かって食み出しを起こす。ここで、基板露出領域1Bには保護フィルムDFが貼付されている。従って、食み出した接着剤91は、保護フィルムDFに向かって押し出されることになる。つまり、保護フィルムDFは基板露出領域1Bを食み出した接着剤91から保護する機能を発揮する。
【0032】
そして、保護フィルムDFを剥離する(保護フィルム剥離ステップ)。保護フィルムDFは粘着剤92により貼付され、しかも粘着強度が弱いため、凝集破壊を起こすことなく簡単に剥離をすることができる。前記の位相差板10を接着するときに食み出した接着剤91も、保護フィルムDFと共に基板2から除去されることになる。これにより、基板露出領域1Bには接着剤91が残存することなく、偏光分離膜3を透過した光に対して影響を及ぼすものを全て除去することができる。
【0033】
以上により図1に示されるような基板2の所定位置に位相差板10が接着された偏光変換素子1を製造することができる。位相差板10の接合に接着剤91を用いることにより、位相差板10に剛性又は軟性の何れの材料を用いても確実に基板2に接着させることができ、接着時に食み出した接着剤91を保護フィルムDFにより保護して除去することができる。これにより、位相差板10が形成されない基板露出領域1Bは純粋に基板表面を露出させることができる。
【0034】
ところで、図1の偏光変換素子1において位相差板10は基板2に極めて高い精度で接着される必要がある。つまり、偏光分離膜3の出射平面1Rに臨んでいる部分(偏光分離膜3と出射平面1Rとが交差する線)と反射膜4の出射平面1Rに臨んでいる部分(反射膜4と出射平面1Rとが交差する線)との間に正確に位相差板10が貼付されていなくてはならない。例えば、位相差板10の接着位置が、図1のXの方向(位相差板10の短手方向:偏光分離膜3又は反射膜4の何れかに寄る方向)にずれを生じている場合、偏光分離膜3を透過してそのまま透過するはずのP偏光光に位相差板10の機能が作用してしまい、P偏光光がS偏光光に変換されて出射してしまう。一方、反射膜4で反射したS偏光光に位相差板10の機能を作用させることができず、S偏光光がそのまま出射してしまう。このため、位相差板10の接着に位置ずれが生じていると、偏光変換素子1としての機能を発揮することができない。
【0035】
そこで、前記してきたように、位相差板10の接着時において基板露出領域1Bに接着剤91が食み出すことを防止しつつ、同時に高精度な位置に位相差板10を接着させて偏光変換素子1を製造する方法について、以下の実施例で説明する。
【実施例1】
【0036】
前記したように、位相差板10の短手方向(図1のX方向)に位置ずれを起こすと偏光変換素子1としての機能を発揮することはできない。従って、当該短手方向においては極めて高精度に位相差板10を接着させる必要がある。しかし、図1のY方向(位相差板10の長手方向:紙面と直交する方向)においては、接着精度に多少の誤差が許容される。つまり、Y方向に位置ずれを起こすと、偏光変換素子1の端部において位相差板10が形成されていない箇所がごく一部生じることになる。このとき、偏光変換素子1に入射する光のスポット径は、入射平面1S及び出射平面1Rの全てに入射するのではなく、中心から一定の範囲内である。そうすると、位相差板10の長手方向に多少の位置ずれを起こして、端部のごく一部に位相差板10が形成されていない領域が生じたとしても、入射光のスポット径の範囲内に設ければ問題はない。ただし、Y方向においての誤差が大きいと、入射光のスポット径に入るため、誤差の範囲も許容誤差範囲内にする必要がある。
【0037】
従って、本実施例では、図1のX方向においては極めて高精度に、Y方向においては多少の許容誤差を持たせて、位相差板10を基板2に接着させる。位相差板10の接着は、基板2を嵌合して固定する固定治具に載置して固定した後に、固定治具に取り付けられるマスク部材を用いて行う。以下、図4のフローチャートに従って具体的に説明する。
【0038】
最初に、図5に示される固定治具21の嵌合部22に基板2を嵌合するように載置する(ステップS1:基板載置ステップ)。固定治具21は、剛性の高い材料、例えばステンレス等の金属等の材料からなり、その中央部に嵌合部22が形成されている。嵌合部22は基板2を嵌合するための場所であり、その形状はほぼ基板2と同一である。ただし、基板2を容易に挿脱可能にするために、嵌合部22の形状は若干基板2よりも大きく形成されている。
【0039】
嵌合部22に基板2を嵌合すると、固定治具21の嵌合部22に臨む3つの面が動作を規制する壁となり、基板2の3方向の動作が規制される。図5において、基板2のY方向(図1のY方向と同じ方向)の動作は規制され、X方向(図1のX方向と同じ方向)のうち1方向の動作は規制される。Y方向の動作を規制する壁を第1の規制壁RW1、第2の規制壁RW2とし、X方向の1方向の動作を規制する壁を固定基準壁FWとする。
【0040】
嵌合部22に基板2を嵌合すると、固定基準壁FW、第1の規制壁RW1及び第2の規制壁RW2により、前記の3方向への動きはある程度規制されるが、残りの1方向(X方向の残りの1方向)の動きは規制されない。そこで、当該方向の動きを規制するために、固定治具21に可動性のスライド部材23を設け、スライド部材23の先端面(固定基準壁FWに対向する面)を前記のX方向の残りの1方向の動きを規制するための可動基準壁MWとする。スライド部材23はX方向に動作をするものであるため、X方向以外の動作を規制するためのガイド部材24が設けられる。ガイド部材24には例えばガイドレールが設けられ、当該ガイドレールに沿ってスライド部材23はX方向にのみ動作する。スライド部材23の動作はねじ材25により行われる。ねじ材25を締め付けることにより、又は緩めることにより、スライド部材23はX方向に動作を行う。勿論、ねじ材以外の動作手段によってスライド部材23を動作させてもよい。
【0041】
前述したように、嵌合部22は基板2よりも若干大きい形状で形成しているため、第1の規制壁RW1と第2の規制壁RW2との方向においては、確実に固定されているわけではない。しかし、ねじ材25を締め付けてスライド部材23を固定基準壁FWの方向に可動させることにより、基板2は可動基準壁MWと固定基準壁FWとにより押圧力が作用されることから、可動基準壁MWと固定基準壁FWとの方向においては、基板2は確実に固定されることになる(ステップS2:基板固定ステップ)。このとき、固定基準壁FWは基板2の端面(以下、基準端面2Bとする)と隙間なく当接することになるため、両者の相対位置関係は厳格に維持されている。従って、スライド部材23で基板2を押圧することにより、基板2が嵌合部22に固定されるだけではなく、高精度に位置決めされた状態で固定されることになる。
【0042】
図5において、基板2に描かれている破線部分は位相差板10が形成される部分である。前述したように、Y方向においては貼付精度に多少の誤差は許容されるものの、X方向においては極めて高い貼付精度が要求される。嵌合部22に基板2を嵌合させると、X方向においては固定基準壁FWと可動基準壁MWとにより、その動きが完全に規制され、且つ位相差板10のX方向における固定基準壁FWと基板2の基準端面2Bとの相対位置関係は厳格に保持されていることになる。
【0043】
固定治具21の固定基準壁FWと可動基準壁MWとにより高精度に位置決めを行い、完全に固定した状態で、固定治具21にマスク部材を取り付ける(ステップS3:マスク部材取り付けステップ)。ここでは、マスク部材は保持蓋30とマスク板40とから構成されるものとするが、マスク部材はマスク板40単体から構成されるものでもよい。マスク板40が単体の場合については後述する。
【0044】
図6は固定治具21に着脱可能に取り付けられる保持蓋30を、図7は保持蓋30に着脱可能に取り付けられるマスク板40を示している。保持蓋30はマスク板40を固定治具21に装着するために用いられる部材である。保持蓋30は固定治具21よりも若干大きい形状を有する剛性の高い平板状の部材であり、その中央部には開口領域31が形成されている。開口領域31は保持蓋30を貫通された領域であり、その形状は固定治具21の嵌合部22とほぼ同一である。
【0045】
マスク板40は基板2に位相差板10を貼付するために用いられる薄い平板状の部材である。マスク板40は保持蓋30と同一の形状をしており、その中央部には開口領域31と同一の領域にマスク領域41が形成されている。マスク領域41は複数の貫通部42からなるマスクパターンを有して構成される。貫通部42は位相差板10を貼付するための領域であり、貫通部42に位相差板10を挿入して基板2に貼付を行う。
【0046】
マスク領域41のマスクパターンのうち貫通部42以外の部分は貫通されない非貫通部43となる。そして、貫通部42と非貫通部43とによるマスクパターンは、基板2に貼付される保護フィルムDFのパターンに対応するパターンとなるように形成される。つまり、貫通部42は基板露出領域1Bに対応し、非貫通部43は接着領域1Aに対応するようなパターンとなる。換言すれば、非貫通部43の対応部分には位相差板10が接着されることになる。特に、漏れ光を防止するために、貫通部42のX方向においては、マスクパターンと基板2に貼付される保護フィルムDFのパターンとは厳格に一致させておく。一方、Y方向においては多少の誤差が許容される。
【0047】
図4に戻って、保持蓋30には挿嵌部32が形成されている。挿嵌部32は固定治具21に保持蓋30を挿嵌して固定するために突出している当接部である。図8及び図9は固定治具21に基板2を嵌合して固定し、マスク板40が取り付けられた保持蓋30を固定治具21に装着している状態を示しているが(図8は、この状態における図5のA−A断面図、図9はB−B断面図を示している)、図8及び図9に示されるように、挿嵌部32の内周面32Sは固定治具21の外周面21Sに当接されるようにして挿嵌されている。つまり、内周面32Sと外周面21Sとが当接することにより、X方向及びY方向において、保持蓋30は固定治具21に完全に位置合わせされて固定されることになる。一方、X方向とY方向とに直交する方向(固定治具21に保持蓋30を装着する方向、つまり垂直方向)においては、固定治具21に保持蓋30が載置されることにより、当該方向においても固定される。これにより、保持蓋30を固定治具21に取り付けることができる。保持蓋30は、固定治具21に倣うようにして位置合わせされるため、容易に保持蓋30の着脱が可能となる。
【0048】
図6及び図7を参照すると、マスク板40の周縁部及び角隅部には複数のマスク板取付部44が形成され、これに対応した位置の保持蓋30の周縁部及び角隅部にも複数の保持蓋取付部33が形成されている。保持蓋取付部33にマスク板取付部44を着脱可能に取り付けることができる構成にすることにより、マスク板40と保持蓋30との相対位置関係を厳格に維持しつつ、マスク板40を交換可能な構成にする。例えば、保持蓋取付部33をねじ孔とし、マスク板取付部44にねじ孔に対応した貫通孔とし、当該貫通孔を介してねじ35によりねじ孔を締め付けることにより、保持蓋30にマスク板40を着脱可能に取り付けることができる。
【0049】
図8において、基板2のY方向の動作は第1の規制壁RW1及び第2の規制壁RW2により規制される。前述したように、Y方向においては多少の誤差が許容されるため、完全に固定する必要はなく、若干の隙間が生じていてもよい。ただし、Y方向における動作も許容誤差範囲内に収めるために、第1の規制壁RW1と第2の規制壁RW2とが設けられている。また、嵌合部22には段差部22Bが形成され、段差部22Bに基板2を当接させている。
【0050】
段差部22Bを形成している理由は、最終的に製造される偏光変換素子1の有効径内を保護することにある。つまり、基板2の全面を固定治具21に対して接触させると、可動基準壁MWによって押圧されるときや固定治具21に嵌合させるとき等に、基板2の表面は固定治具21により擦れることになる。そうすると、基板2の表面に対して傷等が発生することになる。そこで、位相差板10が貼付されない端部の領域を段差部22Bによって保持させることにより、光学機能を発揮する位相差板10が貼付される領域に対して傷等が発生することを防止している。
【0051】
図9を参照すると、基板2のX方向の動作は固定基準壁FWと可動基準壁MWとにより完全に固定されている。保持蓋30は挿嵌部32により固定治具21に位置決めされた状態で挿嵌され、マスク板40は保持蓋30に相対位置関係を厳格に維持しつつ取り付けられている。このため、マスク板40と固定治具21との相対位置関係も厳格なものとなる。従って、固定治具21の固定基準壁FWとマスク板40に形成されているマスク領域41の基準端部(固定基準壁FWに対応する端部)41Bとの相対位置関係も厳格に維持されていることになる。
【0052】
そうすると、固定基準壁FWに当接されている基板2の基準端面2Bとマスク領域41の基準端部41Bとの相対位置関係も保証されることになる。つまり、マスク領域41と基板2とが完全に位置合わせされた状態になる。そこで、マスク領域41の貫通部42から保護フィルムDFを貼付する(ステップS4:保護フィルム貼付ステップ)。貫通部42と基板2の基板露出領域1Bとは、基板2のX方向においては、完全に位置合わせされている。従って、貫通部42から保護フィルムDFを挿入して、基板2に当接させて押圧力を作用させれば、確実に保護フィルムDFを極めて高い精度で基板露出領域1Bに貼付することができる。しかも、保護フィルムDFは粘着剤92により基板露出領域1Bに貼付されるため、粘着剤92の食み出しを起こすことはない。また、マスク板40は薄い平板状の部材であるものの、所定の厚みを有しており、保護フィルムDFも薄いフィルムではあるが所定の厚みを有しているため、保護フィルムDFを貫通部42に挿入することは容易である。
【0053】
このとき、マスク板40は薄い平板状の部材であるため、保護フィルムDFを押圧するときに、マスク板40に撓みが生じるとも考えられるが、マスク板40は剛性の高い保持蓋30に取り付けられているため、撓みが生じることはない。
【0054】
保護フィルムDFが基板2の基板露出領域1Bに貼付された後に、固定治具21から基板2を取り出す。このとき、固定治具21からマスク部材を取り外し、可動基準壁MWの押圧力を開放した後に、固定治具21から基板2を取り出す。そして、図3(a)のように、基板2の接着領域1Aの全面に接着剤91を塗布する(ステップS5:接着剤塗布ステップ)。保護フィルムDFにより基板露出領域1Bは保護されているため、接着剤91は少なくとも接着領域1Aの全面に対して塗布されていれば、接着領域1Aから外れていてもよい。また、作業性の観点からは接着領域1A及び保護フィルムDFを含む全面に対して塗布すると、より効率的である。接着剤91の厚みが薄く、且つ均一になるように塗布する必要がある。このためには、例えばノズルを用いて、接着領域1Aに接着剤91を供給して、接着剤塗布用ブラシ等を用いて、接着剤91を全体に均一に塗り広めるようにする。後に、接着剤91は押圧力が作用させることにより、その厚みが確実に均一化されることになるが、接着剤91の供給時点である程度厚みの均一化を図るために、例えば接着剤91に対する溶剤の混合比を調整して、粘度調整を行うことができる。
【0055】
そして、実施形態で説明したように、光学部材としての位相差板10を接着領域1Aに接着させる(ステップS6:光学部材接着ステップ)。位相差板10の装着作業は機械を用いて自動的に行うこともできるが、人手によって行うこともできる。人手による場合は、何らかのガイドがないと、正確に接着領域1Aに位相差板10を接着させることができない。本発明では、前述したように、ガイドとしても機能する保護フィルムDFが極めて高い精度で基板露出領域1Bに貼付されている。保護フィルムDFは所定厚みを有しているため、相互に隣接する保護フィルムDFの間から位相差板10を嵌合させることができる。このとき、保護フィルムDFの側面がガイド面となることにより、人手によっても極めて高い精度で位相差板10を接着領域1Aに接着させることができる。
【0056】
前述したように予め接着剤91は、厚みが均一化されるように接着領域1Aに塗布されている。しかし、接着剤91の塗布時に完全に厚みを均一化させることは困難であるため、部分的に接着剤91が盛り上がり、当該部分の接着強度が低くなる。そこで、位相差板10を接着領域1Aに当接させた後に、光学部材としての位相差板10を上部から押圧力を作用させることにより、厚みの均一化を図り接着剤91の凝集破壊を起こりにくくし、もって接着強度を高めることは実施形態で説明したとおりである。接着領域1Aと位相差板10との間から押し出された余剰の接着剤91は、基板露出領域1Bではなく、これを保護する保護フィルムDFの上に移行する。従って、基板露出領域1Bには余剰の接着剤91が食み出すことはない。
【0057】
ここで、位相差板10を押圧したときに食み出した接着剤91は、位相差板10の上に乗り上げられないようにしなくてはならない。つまり、位相差板10は所定厚みを有しているが、基本的には薄い部材である。そうすると、位相差板10の厚みが保護フィルムDFの厚みよりも十分厚いものでないと、位相差板10に対して押圧力を作用させたときに、位相差板10に余剰の接着剤91が乗り上げられてしまう。そこで、位相差板10は保護フィルムDFよりも十分に厚みを持たせるようにする。保護フィルムDFと位相差板10との厚みの差が十分な場合には、位相差板10の端部が接着剤の乗り上げを防止する規制壁として機能する。ただし、厚みの差が少ない場合でも、位相差板10に押圧力を作用させたときに食み出す余剰の接着剤91が少量であれば、又はゆっくりと押し出すように操作するようにすれば、位相差板10への乗り上げを防止することができる。
【0058】
次に、保護フィルムDFを剥離する(ステップS7:保護フィルム剥離ステップ)。保護フィルムDFは凝集破壊を起こさない粘着剤92により貼付されているため、容易に剥離することができる。保護フィルムDFを剥離することにより、最終的な製品である図1の偏光変換素子1を製造することができる。保護フィルムDFの剥離を行ったときには、位相差板10を接着したときに食み出した接着剤91は保護フィルムDFと共に除去されるため、基板露出領域1Bを透過する光(P偏光光)に影響が及ぼされることはない。
【0059】
ここで、保護フィルムDFは最終的には剥離されるため、容易に剥離可能なように粘着剤92の粘着強度が低いものを用いることが好ましい。ただし、ステップS5の接着剤塗布ステップにおいて、保護フィルムDFにも一部又は全部に接着剤91が塗布されることになるが、塗布時に保護フィルムDFにずれが生じないようにしなくてはならない。特に、塗布用ブラシを用いて接着剤91を塗布する場合には、保護フィルムDFには水平方向(図1のX方向又はY方向)にある程度の応力が作用することになる。そこで、粘着剤92の粘着力は、保護フィルムDFを安定的に粘着させる粘着力を持ち、剥離容易な程度に粘着力を持つものを使用することが好ましい。
【0060】
そして、ステップS7において、保護フィルムDFの剥離は、位相差板10を接着させた後に直ちに剥離するのではなく、ある程度時間を置いてから剥離するようにする。位相差板10を接着させた直後は、接着剤91の粘度は低い状態であるため、この状態で保護フィルムDFの剥離を行うと、接着剤91の切れが悪くなり、糸引きが生じることもある。また、保護フィルムDFを剥離した直後は、位相差板10と接着領域1Aとの間に形成された接着剤91は未だ固化していないため、基板露出領域1Bに接着剤91がにじみでることもある。一方で、位相差板10を接着させて長時間が経過した後に保護フィルムDFを剥離すると、接着剤91は完全に固化するため、保護フィルムDFの上に食み出した接着剤91も固化した状態となる。そうすると、保護フィルムDFを剥離できなくなる。従って、保護フィルムDFの剥離は、位相差板10を接着させた直後ではなく、完全に固化する前であってある程度粘度が高くなったときに行うことが適切である。これにより、保護フィルムDFを剥離したときに、位相差板10の境界部で接着剤91が確実に切れることになり、境界部はシャープなものとすることができる。
【0061】
以上より、保護フィルムDFを予め貼付することにより食み出した接着剤91によって偏光変換素子1に対して悪影響を及ぼすことを防止することができ、保護フィルムDFを基板2に貼付するときに、固定治具21及びマスク板40を用いているため、位相差板10を極めて高精度な位置に接着させることができる。
【0062】
ところで、ステップS4の保護フィルム貼付ステップにおいて、保護フィルムDFは基板2に確実に貼付されている必要がある。つまり、保護フィルムDFの一部に剥離等を生じていると、位相差板10を加圧するときに食み出した接着剤91が剥離部分から基板露出領域1Bに付着するためである。そこで、ステップS4において、保護フィルムDFを基板2に貼付した後には、保護フィルムDFが確実に貼付されているか否かの確認(検査)を行うことが好ましい。
【0063】
保護フィルムDFの貼付は主に人手により行われることを前提としているため、確認作業も人手により行われる。このとき、容易に人手により確認作業を行わせるために、マスク板40を介して保護フィルムDFを貼付したときに、マスク板40と保護フィルムDFとが同一平面となるような厚みをマスク板40に持たせる。図10にはマスク板40から保護フィルムDFを基板2に貼付したときの状態を示しているが、マスク板40と保護フィルムDFとが同一平面となっている。このために、マスク板40の厚みは保護フィルムDFの厚みと等しくする。マスク板40と保護フィルムDFとが同一平面になれば、確認作業を行うときに、確認者は凹凸が生じていないことを確認すれば足りるため、触覚により容易に確認を行うことができる。
【0064】
人手により保護フィルムDFを貼付する場合、保護フィルムDFの中央部分は確実に押圧力を作用させることができるが、端部はマスク板40と接触する部分であるため、押圧力を作用させることが中央部分と比べて難しい。そこで、本発明の貼付装置は、図11に示されるような弾性ローラ50を有している。弾性ローラ50は保護フィルムDFに押圧力を作用させるために用いられるものであり、弾性部51を有して構成される。弾性部51は弾性の回転ローラであり、その幅H1は保護フィルムDFの幅H2よりも短い。弾性ローラ50を用いると、その回転押圧力により、保護フィルムDFの全体に対して満遍なく押圧力を作用させることができる。
【0065】
弾性ローラ50は、また位相差板10に対して押圧力を作用させるときにも使用することができる。接着剤91の厚みを均一化するためには、人手によって直接行う個々ともできるが、弾性ローラ50を用いれば、位相差板10に対して満遍なく押圧力を作用させることができるため、厚みの均一化という点では弾性ローラ50を用いることもできる。
【0066】
また、固定治具21において、嵌合部22と基板2との間にY方向の両端において若干の隙間があると、より確実に位相差板10を貼付することができる。つまり、前記の隙間があると、貫通部42から基板2の角隅部が臨むことになる。そうすると、基板2に貼付される位相差板10の角隅部も貫通部42から臨むことになり、貫通部42から弾性ローラ50により斜め上方から押圧力を作用させることができる。このため、位相差板10の角隅部の貼付精度を高めることができる。そこで、許容誤差範囲内で積極的に前記の隙間を持たせることもできる。
【0067】
また、マスク板40を交換可能な構成にすることにより、多種類の偏光変換素子1を製造することができる。つまり、保持蓋30にマスク板40を着脱可能に取り付けることにより、多種類の位相差板10のパターンを基板2に形成することができる。例えば、図12(a)に示す偏光変換素子1は、図1のように位相差板10が形成されている箇所と形成されていない箇所とが交互となっているものではなく、位相差板10の2枚分が連続して形成されていないパターンを有している。この場合、位相差板10は交互に形成されていないため、2枚分が連続していない領域については、偏光分離膜3と偏光分離膜3とが隣接するように形成し、その中間位置を境界として、偏光分離膜3及び反射膜4の向きを対称となるようにする。これにより、偏光変換素子1としての機能を発揮することができる。
【0068】
また、位相差板10のパターンだけではなく、位相差板10の幅(X方向の長さ)についても偏光変換素子1によって変化する。従って、多種類の偏光変換素子1を得るためには、マスク板40を容易に交換可能な構成とする必要がある。本発明では、保持蓋30を固定治具21に着脱可能に挿嵌する構成となし、保持蓋30にマスク板40を容易に交換可能な構成とすることにより、多種類のマスク板40を用いることができる。従って、1台の固定治具21を用いて、多種類の偏光変換素子1を得ることができる。ただし、1種類の偏光変換素子1を得る場合には、保持蓋30は必須構成部品ではない。この場合には、マスク部材は保持蓋30とマスク板40とから構成されるものではなく、マスク板40単体から構成されるものとなる。従って、マスク板40に挿嵌部(保持蓋30の挿嵌部32に対応したもの)を設けることにより、保持蓋30を省略することができる。ただし、マスク板40単体からマスク部材を構成する場合には、マスク板40に撓みを生じさせないために、ある程度の剛性を確保するように構成する。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】偏光変換素子の機能を説明するための説明図である。
【図2】基板に保護フィルムを貼付するときの説明図である。
【図3】保護フィルムが貼付された基板に接着剤を塗布し、光学部材を接着させるときの説明図である。
【図4】実施例の流れを説明するフローチャートである。
【図5】固定治具に基板を嵌合したときの平面図である。
【図6】保持蓋の平面図である。
【図7】マスク板の平面図である。
【図8】固定治具に基板を嵌合し、保持蓋及びマスク板を取り付けたときにおける図5のA−A断面図である。
【図9】固定治具に基板を嵌合し、保持蓋及びマスク板を取り付けたときにおける図5のB−B断面図である。
【図10】保護フィルムとマスク板とが同一平面となっている状態を示す説明図である。
【図11】弾性ローラの説明図である。
【図12】偏光変換素子の他の例及びこれに適用されるマスク板の説明図である。
【符号の説明】
【0070】
1A 接着領域 1B 基板露出領域
1R 出射平面 1S 入射平面
2 基板 2B 基準端面
3 偏光分離膜 4 反射膜
10 位相差板 21 固定治具
22 嵌合部 23 スライド部材
30 保持蓋 40 マスク板
41 マスク領域 42 貫通部
43 非貫通部 50 弾性ローラ
91 接着剤 92 粘着剤
DF 保護フィルム FW 固定基準壁
MW 可動基準壁 RW1 規制壁
RW2 規制壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面の複数箇所に、光学的機能を発揮する光学部材を接着するための接着領域と前記光学部材が接着されない基板露出領域とが形成され、前記接着領域に前記光学部材が接着された光学素子を製造する光学素子の製造方法であって、
前記基板の表面の前記基板露出領域に保護フィルムを粘着剤により貼付する保護フィルム貼付ステップと、
前記基板の表面の少なくとも前記接着領域の全面に接着剤を塗布する接着剤塗布ステップと、
前記光学部材を前記接着領域に接着させて前記光学部材に押圧力を作用させる光学部材接着ステップと、
前記保護フィルムを剥離する保護フィルム剥離ステップと、を有することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の光学素子の製造方法であって、
前記保護フィルム貼付ステップにおいて、前記基板には、この基板と位置合わせされ、前記基板露出部分に対応する部分が貫通されたスリットを有するマスク部材を介して、前記保護フィルムを貼付することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項3】
請求項2記載の光学素子の製造方法であって、
前記基板を固定治具に固定し、前記固定治具の予め決められた位置に前記マスク部材が取り付けられることにより、前記基板と前記マスク部材とが位置合わせされることを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項4】
請求項3記載の光学素子の製造方法であって、
前記光学部材は短冊状の形状からなり、前記短冊状の光学部材の長手方向と平行な方向の2つの前記基板の端面のうち1つの端面を前記固定治具に設けられる固定基準壁に当接させた状態で、反対側の端面を前記固定治具に設けられる可動性の可動基準壁により押圧して固定し、
前記マスク部材は前記固定基準壁と位置合わせされるようにして、前記固定治具に取り付けられることを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項5】
請求項4記載の光学素子の製造方法であって、
前記固定治具に前記基板が固定されたときに、前記光学部材の長手方向における前記基板の動作は、前記固定治具に設けられる第1の規制壁及び第2の規制壁によって動作が規制されることを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項6】
請求項3記載の光学素子の製造方法であって、
前記マスク部材は、前記固定治具に位置合わせされた状態で取り付けられる保持蓋と、前記マスク部材のスリットと同一のスリットを有し、前記保持蓋に着脱可能に取り付けられるマスク板とを有して構成されることを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項7】
請求項1記載の光学素子の製造方法であって、
前記光学部材は、位相差機能を有する剛性の高い水晶板であることを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項8】
請求項1記載の光学素子の製造方法であって、
前記光学部材は、可撓性を有するフィルム状の位相差板であることを特徴とする光学素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−116707(P2008−116707A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−300059(P2006−300059)
【出願日】平成18年11月6日(2006.11.6)
【出願人】(591240353)フジノン佐野株式会社 (52)
【Fターム(参考)】