説明

光学素子及び光学素子の製造方法

【課題】耐光性を向上させることのできる光学素子及び光学素子の製造方法を提供する。
【解決手段】樹脂材料から成形された成形部50を有する光学素子(対物レンズ37)であって、樹脂材料は、脂環式炭化水素構造を有し、成形部50の表面に反射防止機能を有する無機膜層51a(反射防止膜51)が設けられ、無機膜層51aには、フッ素含有化合物52が分散している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子及び光学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ピックアップ装置において、光ディスクに記録された情報の再生や、光ディスクへの情報の記録のための光源として使用されるレーザ光源の短波長化が進み、例えば、青紫色半導体レーザや、第2高調波発生を利用した赤外半導体レーザの波長変換を行う青紫色SHGレーザなどの波長390〜420nmのレーザ光源が実用化されつつある。
一方、光ピックアップ装置に設置された光学系として、安価に大量生産が可能なプラスチック製の光学素子(例えば、対物レンズ)が使用されている。そのプラスチック材料としては、環状オレフィンとα−オレフィンとの共重合体などが知られている。
また、青色光源を用いて再生や記録を行う高密度記録媒体用の光ピックアップ装置において、プラスチックの光学素子が用いられている場合、短波長の青色光を長時間照射することによる変形や変質などの問題があり、耐光性に優れた樹脂の開発が進められている。
【0003】
そこで、環状オレフィン系重合体を用いた樹脂レンズの耐光性を向上させる方法として、例えば、(i)レンズ樹脂中に酸化防止剤を分散させる方法(例えば特許文献1参照)や、(ii)レンズ樹脂表面に酸化防止剤からなる層を設ける方法(例えば特許文献2参照)、(iii)樹脂レンズ表面に無機物質からなる強固なコーティングを施すという方法(例えば特許文献3参照)、(iv)樹脂レンズの最表面樹脂をフッ素化させる方法(例えば特許文献4参照)、(v)無機反射防止膜を有する樹脂レンズ表面にフッ素系シランカップリング剤を結合させる方法(例えば特許文献5参照)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−161975号公報
【特許文献2】特開2005−259302号公報
【特許文献3】特開2007−213780号公報
【特許文献4】特開2005−274748号公報
【特許文献5】特開平9−258003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の特許文献1〜5に記載の方法により作製される光学レンズの耐光性は十分でなく、以下のような問題がある。
例えば、特許文献1に記載の方法では、求められる耐光性に十分な量の酸化防止剤を添加すると樹脂の物理強度が低下するという問題があった。
特許文献2に記載の方法では、樹脂表面に酸化防止剤からなる層を設けることにより、その上に設ける無機化合物からなる反射防止膜の膜密着性が低下するという問題があった。
特許文献3に記載の方法では、使用環境の湿度が60%未満でない限り、水分子は無機コートを透過し、樹脂のガラス転移点の低下を引き起こしてしまう。その結果、光線照射時のレンズの形状変化が起こり、十分な耐光性を得ることができなかった。
特許文献4に記載の方法では、フッ素ガスによるフッ素化の際に樹脂がダメージを受け、無機コートが無いため傷がつきやすいという問題があった。
特許文献5に記載の方法では、樹脂劣化の原因となる酸素ガスの拡散を十分に抑えることができないという問題があった。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、耐光性を向上させることのできる光学素子及び光学素子の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一の態様によれば、樹脂材料から成形された成形部を有する光学素子であって、
前記樹脂材料は、脂環式炭化水素構造を有し、
前記成形部の表面に反射防止機能を有する無機膜層が設けられ、
前記無機膜層には、フッ素含有化合物が分散していることを特徴とする光学素子が提供される。
【0007】
本発明の他の態様によれば、樹脂材料から成形された成形部を有する光学素子の製造方法であって、
前記樹脂材料が、脂環式炭化水素構造を有し、
前記成形部の表面に反射防止機能を有する無機膜層を設ける無機膜層形成工程を備え、
前記無機膜層形成工程では、フッ素系シランカップリング剤を含浸処理により前記無機膜層中に分散させることを特徴とする光学素子の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、酸化防止剤をレンズ樹脂に高濃度に分散させる方法と異なり、成形時の添加剤ブリードアウト及び膜もろさを抑えることができる。また、フッ素原子含有基の高い撥水性により、レンズ樹脂の給水が抑えられ、樹脂のガラス転移点低下に由来する形状変化を抑えることができる。また、フッ素含有化合物にフッ素系シランカップリング剤を用いた場合には、シランカップリング剤が反射防止用の無機蒸着膜中の空隙を充填し、無機膜強度及び酸素ガスバリア性が向上することとなる。その結果、樹脂の酸化劣化及び表面形状の変化を抑えることができ、耐光性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施形態に係る光ピックアップ装置の概略構成を示す図である。
【図2】本実施形態に係る光学素子の一部拡大図である。
【図3】変形例を示したもので、光学素子の一部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本発明の好ましい実施形態について説明する。
図1に示すように、光ピックアップ装置30は、半導体レーザ発振器32を備えている。半導体レーザ発振器32は光源の1例であり、BD(Blu−ray Disc:登録商標)用として波長350〜450nmの特定波長(例えば405nm)のブルーレーザ光(青紫色レーザ)を出射するようになっている。半導体レーザ発振器32から出射されるブルーレーザ光の光軸上には、半導体レーザ発振器32から離間する方向に向かって、コリメータ33、ビームスプリッタ34、1/4波長板35、絞り36、対物レンズ37が順次配設されている。
【0011】
ビームスプリッタ34と近接した位置であって、上述した青紫色光の光軸と直交する方向には、2組のレンズを含むセンサーレンズ群38、センサー39が順次配設されている。
対物レンズ37は、高密度な光ディスクD(BD用光ディスク)に対向した位置に配置されており、半導体レーザ発振器32から出射されたブルーレーザ光を光ディスクDの一面上に集光するようになっている。対物レンズ37は光学素子の1例であり、像側開口数NAが0.7以上となっている。対物レンズ37の周縁部にはフランジ部が形成されており、当該フランジ部に2次元アクチュエータ40が装着されている。2次元アクチュエータ40の動作により、対物レンズ37は光軸上で移動自在となっている。
【0012】
図2は、対物レンズ37の一部を拡大した図である。
図2に示すように、対物レンズ37は主に成形部50で構成されており、その表面37aと裏面37bとに対しそれぞれ無機化合物からなる反射防止膜51が形成されている。また、無機化合物からなる反射防止膜51中には、フッ素含有化合物52が分散している。図2では表面37aに対してのみ無機化合物からなる反射防止膜51とフッ素含有化合物52とが描写されている。成形部50は、レンズ形状に成形されており、表面37aと裏面37bとが光学面となって集光機能などの本質的な光学機能を発揮するようになっている。
【0013】
〈成形部〉
成形部50は、脂環式炭化水素構造を有する樹脂材料で構成されている。脂環式炭化水素樹脂としては、ノルボルネン系樹脂、単環のシクロ(環状)オレフィン系樹脂、シクロ(環状)共役ジエン系樹脂、ビニル脂環式炭化水素系樹脂、及び、これらの水素化物等を挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン系樹脂は、透明性と成形性が良好なため、好適に用いることができる。
【0014】
ノルボルネン系樹脂としては、例えば、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との開環共重合体又はそれらの水素化物、ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との付加共重合体又はそれらの水素化物等を挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン構造を有する単量体の開環(共)重合体水素化物は、透明性、成形性、耐熱性、低吸湿性、寸法安定性、軽量性などの観点から、特に好適に用いることができる。
【0015】
ノルボルネン構造を有する単量体としては、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、7,8−ベンゾトリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン(慣用名:メタノテトラヒドロフルオレン)、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)、及びこれらの化合物の誘導体(例えば、環に置換基を有するもの)などを挙げることができる。ここで、置換基としては、例えばアルキル基、アルキレン基、極性基などを挙げることができる。また、これらの置換基は、同一又は相異なって複数個が環に結合していてもよい。ノルボルネン構造を有する単量体は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0016】
極性基の種類としては、ヘテロ原子、又はヘテロ原子を有する原子団などが挙げられる。ヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、ハロゲン原子などが挙げられる。極性基の具体例としては、カルボキシル基、カルボニルオキシカルボニル基、エポキシ基、ヒドロキシル基、オキシ基、エステル基、シラノール基、シリル基、アミノ基、ニトリル基、スルホン基などが挙げられる。
【0017】
ノルボルネン構造を有する単量体と開環共重合可能な他の単量体としては、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどのモノシクロ(環状)オレフィン類及びその誘導体、シクロヘキサジエン、シクロヘプタジエンなどのシクロ(環状)共役ジエン及びその誘導体などが挙げられる。
【0018】
ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体及びノルボルネン構造を有する単量体と共重合可能な他の単量体との開環共重合体は、単量体を公知の開環重合触媒の存在下に(共)重合することにより得ることができる。
【0019】
ノルボルネン構造を有する単量体と付加共重合可能な他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテンなどの炭素数2〜20のα−オレフィン及びこれらの誘導体;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセンなどのシクロオレフィン及びこれらの誘導体;1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエンなどの非共役ジエンなどが挙げられる。これらの単量体は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、α−オレフィンが好ましく、エチレンがより好ましい。
【0020】
ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体及びノルボルネン構造を有する単量体と共重合可能な他の単量体との付加共重合体は、単量体を公知の付加重合触媒の存在下に重合することにより得ることができる。
【0021】
ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体の水素添加物、ノルボルネン構造を有する単量体とこれと開環共重合可能なその他の単量体との開環共重合体の水素添加物、ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体の水素添加物、及び、ノルボルネン構造を有する単量体とこれと付加共重合可能なその他の単量体との付加共重合体の水素添加物は、これらの重合体の溶液に、ニッケル、パラジウムなどの遷移金属を含む公知の水素添加触媒を添加し、炭素−炭素不飽和結合を好ましくは90%以上水素添加することによって得ることができる。
【0022】
ノルボルネン系樹脂の中でも、繰り返し単位として、X:ビシクロ[3.3.0]オクタン−2,4−ジイル−エチレン構造と、Y:トリシクロ[4.3.0.12,5]デカン−7,9−ジイル−エチレン構造とを有し、これらの繰り返し単位の含有量が、ノルボルネン系樹脂の繰り返し単位全体に対して90質量%以上であり、かつ、Xの含有割合とYの含有割合との比が、X:Yの質量比で100:0〜40:60であるものが好ましい。
【0023】
この実施形態に用いるシクロ(環状)オレフィン樹脂の分子量は、使用目的に応じて適宜選定される。溶媒としてシクロヘキサン(重合体樹脂が溶解しない場合はトルエン)を用いるゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーで測定したポリイソプレン又はポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)で、通常20,000〜150,000である。好ましくは25,000〜100,000、より好ましくは30,000〜80,000である。重量平均分子量がこのような範囲にあるときに、フィルムの機械的強度及び成型加工性が高度にバランスされ好適である。
【0024】
シクロ(環状)オレフィン樹脂のガラス転移温度は、使用目的に応じて適宜選択されれば良い。好ましくは130〜160℃、より好ましくは135〜150℃の範囲である。
【0025】
この実施形態に用いられる上記シクロオレフィン系樹脂の具体例としては、例えば、JSR株式会社製 商品名:ARTON、日本ゼオン株式会社製 商品名:ゼオネックス、三井化学株式会社製 商品名:アペル、積水化学工業株式会社製 商品名:エスシーナ等を挙げることができる。
【0026】
なお、成形部50に、充填剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、滑剤、帯電防止剤、抗菌剤、顔料等を含ませても良い。例えば、1〜2wt%の酸化防止剤を成形部50に含ませることで、ブリードアウトの発生を抑制しつつ、耐光性を向上させることができる。
【0027】
〈反射防止膜〉
反射防止膜51は単層構造を有していても良いし、複数層構造を有しても良い。図2では、単層構造の場合を示している。反射防止膜51は単層構造であっても反射防止機能を十分に発揮できるが、2層以上の層から構成される複数層構造の方が、反射防止効果を高めることができる。
【0028】
本実施形態では、反射防止膜51のうち少なくとも1層が無機膜層(無機化合物から構成された層)51aであり、その無機膜層51aはSi、Al、Zr、Ti、Ta、Ce、Hf、La、Geのうち少なくとも1つの元素を含有している。
反射防止膜51を単層構造とする場合、その層51aはSiO、Al、ZrOなどで構成することができる。
そして、このような少なくとも1層の無機膜層51a中に、フッ素含有化合物52が分散している。
ここで、分散とは、TEMによる蒸着無機層断面の観察を行った際に、100nm四方中にフッ素含有化合物からなるクラスターが3個以上存在する状態をフッ素含有化合物が無機膜層中に分散している状態と定義する。なお、クラスターのサイズは直径2nm以上のものである。
また、図3に示すように、フッ素含有化合物52を含有する無機膜層51aの上に、さらにフッ素含有化合物からなる層53を有していても良い。このようなフッ素含有化合物からなる層53をさらに設けることにより、無機膜層51aの表面に存在する空隙が充填されてガスバリア性がさらに向上する点および、成膜の際に形成された無機膜層51a表面の格子欠陥が終端され、化合物として安定で強固になる点で好ましい。
【0029】
次に、対物レンズ37の製造方法について説明する。
〈成形部の形成〉
まず、上記脂環式炭化水素構造を有する樹脂を一定条件下で金型に対して射出成形し、所定形状を有する成形部50を形成する。また、耐光性を向上させるために、1〜2wt%の酸化防止剤を成形部50に含ませても良い。
【0030】
〈反射防止膜の成膜〉
成形部50の上に反射防止膜51を形成する。この工程は、真空蒸着法等の気相法により行う。蒸着機のチャンバー内に反射防止膜の蒸着源となる無機化合物をセットし、酸化防止膜51上に成膜を行う。このとき、必要に応じてチャンバー内に酸素等のガスを導入する。また、反射防止膜が複数の層から構成される場合、蒸着源の化合物を順次変えて蒸着を行うことで、多層膜を得ることができる。またその厚みは、対象とする光学素子の光学機能と該当する膜の機械的特性に照らして不都合が生じない範囲で、自由に変更することが可能である。また、反射防止膜の成膜は真空蒸着法の他に、スパッタリング法、CVD法、プラズマCVD法等の他の気相法により行うこともできる。
【0031】
〈反射防止膜へのフッ素含有化合物分散〉
反射防止膜51へのフッ素含有化合物分散は、反射防止膜51を積層した成形部50のフッ素含有化合物溶液中での含浸法及び、成形部50への反射防止膜材料とフッ素含有化合物の共蒸着法により行うことができる。
ここで、フッ素含有化合物を分散させるために含浸法を用いているが、含浸法を従来の表面処理と比べると、できあがる膜の深さ方向におけるフッ素含有化合物の存在率が異なる。含浸法と従来の表面処理との違いについて詳細に説明すると、含浸処理によりフッ素含有化合物導入を行った場合、無機膜表面から100nmの深さであっても膜内にフッ素含有化合物を導入することができる。この結果、含浸処理を行った場合、無機蒸着膜層にあった空隙は表面から100nmの深さにわたりほぼフッ素含有化合物で満たされ、ガスバリア性が高い強固な膜となる。一方、表面処理型によりフッ素含有化合物導入を行った場合、無機膜表面から20 nm以上の深さにフッ素含有化合物を導入することができない。このため、表面処理によりフッ素含有化合物導入を行った場合、ガスバリア性が高い強固な膜とならない。
【0032】
また、従来の表面処理に対して、本願のように分散させる方が優れている点は、ガスバ
リア能が高い点である。つまり、表面にフッ素含有化合物を局在化させたコートの酸素ガ
ス及び水蒸気バリア性は十分でなく、樹脂劣化の原因を防ぎきれていなかったが、フッ素
含有化合物を無機化合物中に分散させることで、コートの酸素ガス及び水蒸気バリア性は
飛躍的に向上する。
通常の無機層表面のフッ素化にはフッ素系シランカップリング剤が用いられる。この場合、無機層と結合反応するシランカップリング剤のアルコキシシラン基は親水的であるため、フッ素化が進行して表面が撥水的になると反応性が低下し、密度が低く表面近傍のみのフッ素化膜となる。また、蒸着無機層の空隙は残ったままとなる。ガスの拡散はガス分子の行路長に依存するが、この場合、行路長を十分に稼ぐことができない。このため、ガスバリア性は不十分となる。一方、無機層中にフッ素含有化合物を強制的に分散させた場合、撥水的な水分子の障害は膜全体に広がり、拡散と比例するバリア膜の厚みを稼ぐことができる。また、このとき蒸着無機層の空隙中に強制的にフッ素含有化合物を充填させている。このため、ガス分子の行路長は長くなり、十分なガスバリア性を確保することができるようになる。
【0033】
以下、含浸法及び共蒸着法について説明する。
(1)含浸法
フッ素含有化合物の無機膜層への含浸は、真空高圧含浸装置やオートクレーブ装置などを用いて行うことができるが、0.2 MPa以上加圧可能な系であれば前記装置に限定されるものではない。前記装置内に反射防止膜51を積層した成形部50とフッ素含有化合物溶液を導入し、加圧することにより、フッ素含有化合物の無機膜層への分散を行うことができる。また、加圧時に過熱または冷却処理を行ってもよい。ここで含浸法を用いた場合、フッ素含有化合物を含有する無機膜層の上に、さらにフッ素含有化合物からなる層を有する光学素子ができる。
【0034】
(2)共蒸着法
フッ素含有化合物と無機化合物の共蒸着は、抵抗加熱蒸着及び電子ビーム蒸着を同時に行うことが可能な真空蒸着機を用いて行うことができる。具体的には圧力1.0×10−2Pa下で無機化合物に電子ビーム電流値60mA印加し, フッ素含有化合物を抵抗加熱電流値140A印加することで無機化合物とフッ素含有化合物の共蒸着を行うことができる。なお、成膜レート3〜5Å / secで行うことが好ましい。しかしながら、フッ素含有化合物と無機化合物を同時に蒸着可能な系であれば、前記方法に限定されるものではない。ここで共蒸着法を用いた場合、フッ素含有化合物を含有する無機膜層のみを有する光学素子ができる。
【0035】
次に、フッ素含有化合物について説明する。
〈フッ素含有化合物〉
フッ素含有化合物としては、フッ素系シランカップリング剤、フッ素原子含有ポリマー、フッ素原子含有低分子化合物等のフッ素原子を含有している化合物を用いることができるが、上記に限定されるものではない。下記にフッ素含有化合物の一例を示す。
(1)フッ素系シランカップリング剤
フッ素系シランカップリング剤を用いる場合、溶液は原液であっても溶媒で希釈してあってもよい。また、使用するフッ素系シランカップリング剤は、単独または複数併用して用いてもよい。
上記フッ素系シランカップリング剤の具体例としては、例えば、CF3(CF2)7CH2CH2Si(OC3H7)3、CF3(CF2)7CH2CH2Si CH3 (OC3H7)2、CF3(CF2)7CH2CH2Si(OC2H5)3、CF3(CF2)7CH2CH2Si CH3 (OC2H5)2、CF3(CF2)7CH2CH2Si(OCH3)3、CF3(CF2)7CH2CH2SiCH3(OCH3)2、CF3(CF2)6CH2CH2Si(OC3H7)3、CF3(CF2)6CH2CH2SiCH3(OC3H7)2、CF3(CF2)6CH2CH2Si(OC2H5)3、CF3(CF2)6CH2CH2SiCH3(OC2H5)2、CF3(CF2)6CH2CH2Si(OCH3)3、CF3(CF2)6CH2CH2Si CH3 (OCH3)2、CF3(CF2)5CH2CH2Si(OC3H7)3、CF3(CF2)5CH2CH2Si CH3 (OC3H7)2、CF3(CF2)5CH2CH2Si(OC2H5)3、CF3(CF2)5CH2CH2Si CH3 (OC2H5)2、CF3(CF2)5CH2CH2Si(OCH3)3、CF3(CF2)5CH2CH2Si CH3 (OCH3)2、CF3(CF2)4CH2CH2Si(OC3H7)3、CF3(CF2)4CH2CH2SiCH3(OC3H7)2、CF3(CF2)4CH2CH2Si(OC2H5)3、CF3(CF2)4CH2CH2SiCH3(OC2H5)2、CF3(CF2)4CH2CH2Si(OCH3)3、CF3(CF2)4CH2CH2Si CH3 (OCH3)2、CF3(CF2)3CH2CH2Si(OC3H7)3、CF3(CF2)3CH2CH2SiCH3(OC3H7)2、CF3(CF2)3CH2CH2Si(OC2H5)3、CF3(CF2)3CH2CH2SiCH3(OC2H5)2、CF3(CF2)3CH2CH2Si(OCH3)3、CF3(CF2)3CH2CH2SiCH3(OCH3)2、CF3(CF2)2CH2CH2Si(OC3H7)3、CF3(CF2)2CH2CH2Si CH3 (OC3H7)2、CF3(CF2)2CH2CH2Si(OC2H5)3、CF3(CF2)2CH2CH2SiCH3(OC2H5)2、CF3(CF2)2CH2CH2Si(OCH3)3、CF3(CF2)2CH2CH2Si CH3 (OCH3)2、CF3CF2CH2CH2Si(OC3H7)3、CF3CF2CH2CH2Si CH3(OC3H7)2、CF3CF2CH2CH2Si(OC2H5)3、CF3CF2CH2CH2SiCH3(OC2H5)2、CF3CF2CH2CH2Si(OCH3)3、CF3CF2CH2CH2SiCH3(OCH3)2、CF3CH2CH2Si(OC2H5)3、CF3CH2CH2SiCH3(OC2H5)2、CF3CH2CH2Si(OCH3)3、CF3CH2CH2Si CH3 (OCH3)2などの化合物が挙げられる。
【0036】
なお、フッ素系シランカップリング剤溶液の濃度は0.5 mM以上であることが好ましい。また、シランカップリング剤溶液に対して酢酸を1 w%添加することにより、反応速度を促進させることができる。シランカップリング剤溶液の調整に用いることができる溶媒は特に限定されないが、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、などのアルコール類、例えば、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルアルコールエーテル、エチレングリコールモノエチルアルコールエーテル、ジエチレングリコールモノメチルアルコールエーテル、ジエチレングリコールモノエチルアルコールエーテルなどのグリコール類などが挙げられる。これらの溶媒は単独、または複数併用して用いることができ、好ましくはアルコール類が用いられる。
【0037】
(2)フッ素原子含有ポリマー
フッ素原子含有ポリマーを用いる場合、無機反射防止膜中への分散を含浸法により行う場合には溶液として、共蒸着法により行う場合には固体として用いるのが好ましい。また、使用するフッ素原子含有ポリマーは、単独または複数併用して用いてもよい。
上記フッ素原子含有ポリマーの具体例としては、例えばポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリビニリデンフルオライド、ポリ(パーフルオロ(アルキルビニルエーテル))ポリ(クロロトリフルオロエチレン)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド/テトラフルオロエチレン共重合体、ビニリデンフルオライド/ヘキサフルオロプロピレン/テトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、ビニリデンフルオライド/テトラフルオロエチレン/パーフルオロメチルビニルエーテル共重合体、ビニリデンフルオライド/テトラフルオロエチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体、ビニリデンフルオライド/テトラフルオロエチレン/パーフルオロプロピルビニルエーテル共重合体などが挙げられ、これらの1種または2種以上を使用できる。フッ素系樹脂としては、特にポリフッ化ビニリデンが好ましい。
【0038】
次に、光ピックアップ装置30の動作について図1を参照して説明する。
光ディスクDへの情報の記録動作時や光ディスクDに記録された情報の再生動作時に、半導体レーザ発振器32からブルーレーザ光が出射される。出射されたブルーレーザ光は、コリメータ33を透過して無限平行光にコリメートされた後、ビームスプリッタ34を透過して、1/4波長板35を透過する。さらに、当該ブルーレーザ光は絞り36及び対物レンズ37を透過した後、光ディスクDの保護基板Dを介して情報記録面Dに集光スポットを形成する。
【0039】
集光スポットを形成したブルーレーザ光は、光ディスクDの情報記録面Dで情報ビットによって変調され、情報記録面Dによって反射される。そして、この反射光は、対物レンズ37及び絞り36を順次透過した後、1/4波長板35によって偏光方向が変更され、ビームスプリッタ34で反射する。その後、当該反射光は、センサーレンズ群38を透過して非点収差が与えられ、センサー39で受光されて、最終的には、センサー39によって光電変換されることによって電気的な信号となる。
【0040】
以後、このような動作が繰り返し行われ、光ディスクDに対する情報の記録動作や、光ディスクDに記録された情報の再生動作が完了する。
【0041】
以上のように、脂環式炭化水素構造を有する樹脂製の成形部50の表面に、フッ素含有化合物52が分散した無機反射防止膜51を形成することで、成形部50の表面から進行する樹脂分子鎖の酸化的開裂の進行及び水蒸気吸収による樹脂のガラス転移点低下を抑制することが可能となる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明について実施例及び比較例を用いて具体的に説明する。
(樹脂レンズの作製)
脂環式炭化水素構造を有する樹脂として、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセンとエチレンの共重合体を用い、これにHALSとしてビス−[2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル]セバシエートを2w%添加し使用し、当該樹脂を射出成形して有効径φ3mm、開口数0.85の対物レンズ(成形部50)を作製した。また、成形部50に2wt%の酸化防止剤Irgafos12を含有させた。
【0043】
[実施例1の試料作製]
前記工程により得られた樹脂レンズにSiO2 / ZrO2 / SiO2層を真空蒸着により積層した。本検討では、真空蒸着機ACE1150(シンクロン社製)を用いて蒸着を行った。具体的には圧力1.0×10−3Pa下でSiO2を100nm、酸素ガスを導入しながら圧力1.0×10−2Pa下で/ ZrO2を20nm、圧力1.0×10−3Pa下でSiO2を20nm蒸着し、目的の積層膜を得た。なお、成膜レートはいずれも3Å / secである。続いて、オートクレーブTAF-SR型(耐圧ガラス工業製)にノナフルオロヘキシルトリメトキシシラン10mlが入ったオートクレーブ内に無機膜層を有する樹脂レンズを浸漬し、室温下0.5 MPaで1時間処理することで含浸を行った。最後に、レンズをメタノールで洗浄することにより目的の試料を得た。
【0044】
[実施例2の試料作製]
実施例1でノナフルオロヘキシルトリメトキシシランのかわりにポリフッ化ビニリデンのMEK溶液(10w%)を用いることにより目的の試料を得た。
【0045】
[実施例3の試料作製]
樹脂レンズにSiO / ZrO2 / SiO層を真空蒸着により積層した。検討では、真空蒸着機ACE1150(シンクロン社製)を用いて蒸着を行った。具体的には圧力1.0×10−3Pa下でSiOを100nm、酸素ガスを導入しながら圧力1.0×10−2Pa下で/ ZrO2を20nm、圧力1.0×10−3Pa下でSiOを20nm蒸着し、目的の積層膜を得た。なお、成膜レートはいずれも3Å / secである。続いて、実施例1と同様の処理をすることにより、目的の試料を得た。
【0046】
[実施例4の試料作製]
実施例3で、ノナフルオロヘキシルトリメトキシシランのかわりにポリフッ化ビニリデンのMEK溶液(10w%)を用いることにより目的の試料を得た。
【0047】
[実施例5の試料作製]
樹脂レンズにSiO2/ ZrO2 / SiO2とノナフルオロヘキシルトリメトキシシランの共蒸着層を真空蒸着により積層した。真空蒸着機はACE1150(シンクロン社製)を用いて共蒸着を行った。具体的には圧力1.0×10−2Pa下でSiO2に電子ビーム電流値60mA印加し, ノナフルオロヘキシルトリメトキシシランに抵抗加熱電流値140A印加することで共蒸着膜を100nm積層した。続いて、1.0×10−2Pa下で酸素ガスを導入しながらZrO2に電子ビーム電流値60mA印加し, ノナフルオロヘキシルトリメトキシシランに抵抗加熱電流値140A印加することで共蒸着膜を20nm積層した。続いて、1.0×10−2Pa下でSiO2に電子ビーム電流値60mA印加し, ノナフルオロヘキシルトリメトキシシランに抵抗加熱電流値140A印加することで共蒸着膜を20nm積層し、目的の積層膜を得た。なお、成膜レートはいずれも3Å / secである。本方法により、目的の試料を得た。
【0048】
[実施例6の試料作製]
実施例5で、ノナフルオロヘキシルトリメトキシシランの代わりにポリフッ化ビニリデンを用いることにより目的の試料を得た。
【0049】
[比較例1の試料作製]
実施例1で、ノナフルオロヘキシルトリメトキシシランの含浸処理を行わないことにより目的の試料を得た。
【0050】
[比較例2の試料作製]
実施例3で、ノナフルオロヘキシルトリメトキシシランの含浸処理を行わないことにより目的の試料を得た。
【0051】
[比較例3の試料作製]
比較例1で得られる試料をノナフルオロヘキシルトリメトキシシラン中に浸漬し、続いてスピンコーターで3000rpm, 30秒間処理することで余分な液きりを行った。最後に、メタノールで表面を洗浄することにより目的の試料を得た。
【0052】
[比較例4の試料作製]
比較例3で、ノナフルオロヘキシルトリメトキシシランのかわりにポリフッ化ビニリデンのMEK溶液(10w%)を用いることにより目的の試料を得た。
【0053】
[比較例5の試料作製]
比較例2で得られる試料をノナフルオロヘキシルトリメトキシシラン中に浸漬し、続いてスピンコーターで3000rpm, 30秒間処理することで余分な液きりを行った。最後に、メタノールで表面を洗浄することにより目的の試料を得た。
【0054】
[比較例6の試料作製]
比較例5で、ノナフルオロヘキシルトリメトキシシランのかわりにポリフッ化ビニリデンのMEK溶液(10w%)を用いることにより目的の試料を得た。
【0055】
(評価)
続いて、上記各試料の評価法について説明する。
(1)撥水性評価
撥水性は、試料表面の蒸留水に対する接触角により評価することができる。本検討では、3 mm厚の円形平板盤形状をした樹脂成形品にレンズと同じ表面コートを施した試料を用いて評価を行った。接触角は、光学式接触角計(協和界面科学社製、CA-A)を用いて測定した。具体的には、試験試料を上記光学式接触角計の試料台に置き、液滴滴下用シリンジを用いて直径1 mmの液滴を滴下させた際の液滴と試験試料との間の接触角(θ)を測定した。その結果を下記表1に示す。表1中、撥水性評価基準を下記の通りとした。
接触角が140 ℃以上→○
接触角が120 ℃以上140 ℃未満→△
接触角が120 ℃未満→×
【0056】
(2)無機膜層中のフッ素含有化合物分散評価
無機膜層中のフッ素含有化合物に由来するクラスターはTEMにより観察することができる。本検討では、入射・出射軸に平行になるようにレンズの表面コート層をFIB(X Vision2000シリーズFIB-SEMダブルビーム装置, SII社製)により切断し、得られた100nm四方の試料断片を用いて評価した。得られた断片を、TEM(日立透過電子顕微鏡H−9500, 日立ハイテク製)で観察し、フッ素系化合物に由来する直径2nm以上のクラスター数を計測した。その結果を表1に示す。表1中、無機膜層中フッ素含有化合物分散の評価基準を下記の通りとした。
100nm四方の試料断片中、フッ素系化合物由来のクラスターが3個未満→×
100nm四方の試料断片中、フッ素系化合物由来のクラスターが3個以上→○
【0057】
(3)深さ100nmのフッ素含有化合物存在確認
無機膜層の深さ100nmにおけるフッ素含有化合物存在確認は、XPS(AXIS-ULTRA DLD, 島津製作所製)測定により行った。具体的には、作製した試料の無機膜層について深さ方向XPS測定を行い、深さ100nmでフッ素元素由来のピークが検出されるかを評価した。その結果を表1に示す。表1中、深さ100nmのフッ素含有化合物存在の評価基準を下記の通りとした。
無機膜層の深さ100nmにおけるXPS測定で、フッ素元素由来のピークが検出される→○
無機膜層の深さ100nmにおけるXPS測定で、フッ素元素由来のピークが検出されない→×
【0058】
(4)表面形状の評価
表面形状は、各サンプルについて湿度60%, 75 ℃下、35 mW, 405 nmのレーザ光を500時間照射した際のレンズの中心φ1mmのエリアの表面形状変化で評価した。具体的には、3次元光干渉粗さ計(WYKO NT9800, Veeco社製)を用いて表面形状変化を測定した。その測定結果を表1に示す。表1中、表面形状変化の評価基準を下記の通りとした。
《表面形状評価》
湿度60%, 75 ℃下、35 mW, 405 nmのレーザ光を透過させた場合の表面形状測定
レーザ処理前後で0.005μm以下の変化を生じた→◎
レーザ処理前後で0.005μmより大きく0.008μm以下の変化を生じた→○
レーザ処理前後で0.008μmより大きく0.010μm以下の変化を生じた→△
レーザ照射前後で0.010mλより大きい変化を生じた→×
【0059】
(5)収差の評価
収差は、各サンプルについて湿度60%, 75 ℃下、35 mW, 405 nmのレーザ光を500時間照射した際の球面収差の変動(ΔSA)を干渉計にて測定した。その測定結果を表1に示す。表1中、ΔSAの評価基準を下記の通りとした。
《球面収差の変動(ΔSA)》
レーザ照射前後で変化がない→◎
レーザ処理前後で5mλ以下の変化を生じた→○
レーザ処理前後で5mλより大きく、10mλ以下の変化を生じた→△
レーザ照射前後で10mλより大きい変化を生じた→×
【0060】
(6)白濁の評価
白濁は、各サンプルについて湿度60%, 75 ℃下、35 mW, 405 nmのレーザ光を500時間照射した際のレンズの中心φ1mmのエリアの透過率で評価した。具体的には、分光光度計U−4100(日立ハイテク製)でサンプルの405nmにおける透過率を測定することにより評価した。その結果を表1に示す。表1中、白濁の評価基準を下記の通りとした。
《白濁の評価》
湿度60%, 75 ℃下、35 mW, 405 nmのレーザ光を透過させた場合の透過率測定
透過率が98 %以上→◎
透過率が96 %以上98 %未満→○
透過率が94 %以上96 %未満→△
透過率が94 %未満→×
【0061】
【表1】

【0062】
(まとめ)
以上のように、実施例1から実施例6のように、フッ素含有化合物52を分散させた無機反射防止膜51を成形部50の表面に形成することで、高い撥水性が得られ、表面形状変化, 収差変動ΔSA)及び白濁といった耐光性についても良好な結果が得られた。
さらに、無機反射防止膜層51がSiO2/ ZrO2 / SiO2で、フッ素系シランカップリング剤の含浸処理を行うことで作製した場合(実施例1)では、より高い耐光性が見られた。このことより、フッ素含有化合物が無機反射防止膜51中の空隙を充填し、さらに無機反射防止膜51表面にフッ素含有化合物からなる層が形成された場合、膜は強固となり、樹脂への水蒸気や酸素ガスの侵入を抑えることができたため、高い耐光性が実現したと考えることができる。
一方で、フッ素含有化合物の導入を行わなかった比較例1及び比較例2では、膜表面が親水的となり、撥水性を示さなかった。このため、樹脂への水蒸気や酸素ガスの侵入を抑えることができず、耐光性が悪くなるという結果であった。
また、比較例3から比較例6のように、フッ素含有化合物を表面塗布により導入した場合、多少の撥水性向上は確認できたが、フッ素含有化合物の導入は無機膜表面のみにとどまり、樹脂への水蒸気や酸素ガスの侵入を抑えるのに十分なフッ素含有化合物の導入はできていなかった。このため、レーザ照射に耐えうる耐光性の発現には至らなかった。
なお、実施例として挙げていないものであっても、酸化防止剤をバインダーに含ませた酸化防止膜を成形部の表面に形成することで、実施例1から実施例6と同様に良好な結果が得られた。
【符号の説明】
【0063】
30 光ピックアップ装置
32 半導体レーザ発振器
33 コリメータ
34 ビームスプリッタ
35 1/4波長板
36 絞り
37 対物レンズ
37a 表面
37b 裏面
38 センサーレンズ群
39 センサー
40 2次元アクチュエータ
50 成形部
51 反射防止膜
51a 無機膜層
52 フッ素含有化合物
53 フッ素含有化合物からなる層
D 光ディスク
保護基板
情報記録面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂材料から成形された成形部を有する光学素子であって、
前記樹脂材料は、脂環式炭化水素構造を有し、
前記成形部の表面に反射防止機能を有する無機膜層が設けられ、
前記無機膜層には、フッ素含有化合物が分散していることを特徴とする光学素子。
【請求項2】
前記無機膜層は少なくとも1層のSiO層を有することを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
【請求項3】
前記フッ素含有化合物にフッ素系シランカップリング剤を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学素子。
【請求項4】
前記フッ素系シランカップリング剤は含浸処理により前記無機膜層中に分散されていることを特徴とする請求項3に記載の光学素子。
【請求項5】
前記フッ素含有化合物を含有する前記無機膜層上に、さらにフッ素含有化合物からなる層が設けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の光学素子。
【請求項6】
樹脂材料から成形された成形部を有する光学素子の製造方法であって、
前記樹脂材料が、脂環式炭化水素構造を有し、
前記成形部の表面に反射防止機能を有する無機膜層を設ける無機膜層形成工程を備え、
前記無機膜層形成工程では、フッ素系シランカップリング剤を含浸処理により前記無機膜層中に分散させることを特徴とする光学素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−107510(P2011−107510A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−263865(P2009−263865)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】