説明

光学素子用内面反射防止塗料及び光学素子

【課題】より高い屈折率のレンズにおいても、内面反射を低減させる。
【解決手段】酸化チタン及び酸化ニオブの少なくとも一方のナノ粒子とカーボンブラックを含有する光学素子用内面反射防止塗料4を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子用内面反射防止塗料及びこの塗料が塗布されているレンズ、プリズム等の光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
レンズ、プリズム等の光学素子においては、光学素子に入射する光の一部が光学素子の外周面において内面反射し、これがフレア、ゴースト等を発生する原因となっている。内面反射は、光学素子の屈折率が高くなる程多くなるので、特に高屈折率ガラスで形成された光学素子では、上記フレア、ゴースト等の有害光による障害が問題となっている。
【0003】
この内面反射を防止するにあたっては、光学素子の外周面に内面反射防止塗料を塗布する方法が知られている。この内面反射防止塗料は、カーボンブラックを主顔料にして黒色度をもたらされた塗料が一般的であるが、塗料自体の屈折率は1.5程度と比較的低い。このため、光学素子を構成するガラスの屈折率が上記内面反射防止塗料の屈折率より高い場合は両者の屈折率の差が大きくなり、光学素子と内面反射防止塗料との界面における反射率が高くなる。反射率が高くなることによって内面反射が多くなり、有害光による障害が顕著になる。
【0004】
特許文献1には、高屈折率のガラスを用いたレンズの内面反射を抑制することができる内面反射防止塗料として、屈折率が1.5以上である酸化ジルコニウムナノ粒子、酸化アルミニウムナノ粒子等の非黒色無機ナノ粒子と黒色顔料を含有したものが記載されている。これにより、屈折率が1.76のガラスとの組み合わせにおいても内面反射を低減させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−82510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の技術は、屈折率1.8以上のガラスを用いたレンズにおいては、レンズと内面反射防止塗料の屈折率の差が大きくなってしまい、内部反射の防止効果が低く、フレア、ゴースト等の障害が発生してしまう。
【0007】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、より高い屈折率のレンズにおいても、内面反射防止効果の高い内面反射防止塗料を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、この発明は以下の手段を提供している。
本発明の光学素子用内面反射防止塗料は、酸化チタン及び酸化ニオブの少なくとも一方のナノ粒子とカーボンブラックとを含有することを特徴とする。
【0009】
前記酸化チタン及び酸化ニオブの少なくとも一方のナノ粒子の含有量は、20wt%以上、80wt%以下であってもよい。
【0010】
また、本発明の光学素子用内面反射防止塗料は、チタンブラックを含有しないことが好ましい。
【0011】
また、本発明の光学素子は、本発明の光学素子用内面反射防止塗料が塗布されていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の光学素子は、前記光学素子用内面反射防止塗料が塗布されている面において、100μm角あたりの表面積を面積10000μmで除した値が1.8以下であってもよい。
【0013】
また、前記光学素子用内面反射防止塗料が塗布されている面は、加熱軟化されたガラス素材を成形型でプレス成形することによって形成された面であってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の光学素子用内面反射防止塗料によれば、酸化チタン及び酸化ニオブの少なくとも一方のナノ粒子とカーボンブラックとを含むことで、屈折率1.8以上の高屈折率のガラスによって形成された光学素子においても、反射率を抑えることができ、かつ、長期使用も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態の内面反射防止塗料を塗布した光学素子の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の第一の実施形態の内面反射防止塗料について説明する。
図1は、本発明の実施形態の内面反射防止塗料を塗布した光学素子の断面図である。
光学素子1は、ガラスからなるレンズであり、光学面2と外周面3とから構成されている。外周面3には、内面反射防止塗料4が塗布されている。光学素子1への入射光5は、内面反射防止塗料4との界面において、反射光6と屈折光(図示せず)となり、屈折光は、内面反射防止塗料4に吸収される
【0017】
内面反射防止塗料4は、非黒色無機ナノ粒子である酸化チタンナノ粒子を含有するトルエン分散液と、黒色顔料であるカーボンブラックと樹脂製分とを含有するシンナー溶液と、黒色顔料であるチタンブラックを含有するトルエン分散液とを混合して、溶媒としてトルエンを加えた液体を原料としている。内面反射防止塗料4は、上記原料を光学素子1の外周面3に塗布した後、加熱硬化されたものである。即ち、内面反射防止塗料4には樹脂中に酸化チタンのナノ粒子が分散され、カーボンブラックとチタンブラックとを含有している。
塗料に使用される樹脂としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂及びその変性物、これらの混合物など、一般的に塗料に用いられる樹脂を用いることが出来る。また、これらの樹脂は、硬化剤を添加及び加熱されて硬化(高分子化)し塗料となる。ここでは、硬化する前の樹脂を樹脂成分としている。
【0018】
酸化チタンは、透明酸化物の中では高屈折率な成分であるため、内面反射防止塗料4に含有されることによって、内面反射防止塗料4を高屈折率化する。高屈折率な透明酸化物の粒子は、酸化チタンのナノ粒子に限らず、例えば酸化ニオブのナノ粒子を採用することができるが、屈折率の高い酸化チタンがより好適である。また、粒子の粒径は50nm以下とすることが好ましく、本実施形態の酸化チタンは15nmの粒径を有している。
【0019】
カーボンブラックは、内面反射防止塗料4に黒色度をもたらすための成分である。
ここで、酸化チタン、酸化ニオブ共に、光触媒活性を有するため、これらのナノ粒子が紫外線を吸収することによって、周辺の塗料剤を劣化させる機能を有している。本実施形態の内面反射防止塗料4においては、カーボンブラックが紫外線を吸収するため、酸化チタンと酸化ニオブの光触媒活性を抑えることができる。
【0020】
酸化チタンの含有量は、20wt%以上80wt%以下が好ましく、30wt%以上50wt%以下がより好ましい。含有量が、例えば20wt%以下のように少ないと、内面反射防止塗料4を高屈折率化することができない。また、含有量が、例えば80wt%以上のように多いと、光触媒活性による塗料の劣化を招き、塗料の耐性が悪くなる。即ち、酸化チタンの含有量を上記範囲とすることによって、内面反射防止塗料4の屈折率を高く保ちながら、長期使用による劣化を防止することができる。
【0021】
また、内面反射防止塗料4は、チタンブラックを含有しない構成とすることが好ましい。これは、チタンブラックはカーボンブラックと比較して紫外線を透過しやすいため、酸化チタン又は酸化ニオブの光触媒活性を充分に抑えられず、内面反射防止塗料4の耐性が不十分となる場合があるためである。即ち、チタンブラックを含有しない構成とすることによって、内面反射防止塗料4の耐性をさらに向上させることができる。
【0022】
光学素子1の外周面3における内面反射防止塗料4が塗布されている面は、100μm角(一辺が100μmの正方形の領域)あたりの表面積を面積10000μmで除した(割った)値(表面積/面積)が、1.8以下とされている。つまり、100μm角あたりの表面積が10000μmであった場合、即ち、表面が完全に平ら(鏡面)であった場合は、上記値は1となる。
この値は、外周面3の凹凸の状態を示すものであり、値が大きいほど凹凸が大きいことを示す。また、外周面3の表面に凹凸が存在することは、外周面3(光学素子1)と内面反射防止塗料4との界面が凹凸形状となっていることを意味する。
【0023】
また、光学素子1は、加熱軟化したガラス素材を成形型でプレス成形することによって形成されている。即ち、内面反射防止塗料4が塗布される外周面3においても、プレス成形によって形成されている。
【0024】
上記のように、界面の凹凸が1.8以下とされている場合(鏡面に近い場合)、入射する光の反射の散乱が少なくなる。即ち、入射する光の強さの変化が少なく、より強い光が反射されることになり、内面反射防止塗料4の効果がより大きくなる。
具体的には、光学素子1をプレス成形によって形成した場合、界面の凹凸が小さくなるため、内面反射防止塗料4の効果がより発揮される。さらに、光学素子1を製造するための工数を低減することができる。
【0025】
なお、光学素子1の製造に際しては、光学面2とともに外周面3もプレス成形によって形成したが、これに限ることはなく、従来の芯とり加工を実施して外周面を研磨してもよい。プレス成形によって外周面3を形成した上記実施形態は、光学素子1の製造工数の低減を実現すると共に、外周面3に高屈折率の内面反射防止塗料4を塗布することによって、より低コストで光学素子1を製造することができる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例及び比較例で用いた内面反射防止塗料4の作製方法、ガラス表面評価方法、塗料評価方法は以下の通りである。
【0027】
(塗料の作製方法、塗布方法)
[実施例1〜6、比較例1]
(1)カーボンブラック含有溶液(オリジン電気(株)レンズ用黒B No.3 20wt%シンナー溶液)
(2)酸化チタン(粒子径15nm)含有溶液(CIKナノテック(株)TiO 15wt%トルエン分散液)
(3)チタンブラック含有溶液(三菱マテリアル(株)チタンブラックトルエン分散液)
以上3つの溶液を表1に示した配合比で混合した。
即ち、実施例1〜5においては、(1)カーボンブラック含有溶液と(2)酸化チタン含有溶液を混合した。実施例6は、上記(1)、(2)と(3)チタンブラック含有溶液を混合した。比較例1においては、(1)のみを含有する内面反射防止塗料4とした。
さらに、適宜、溶媒としてトルエンを加えよく攪拌した。酸化チタンの粒子径は15nmである。
【0028】
【表1】

【0029】
内面反射防止塗料4を塗布するガラス平板としては以下の4種類のガラス平板を用いた。
<1>屈折率1.516のガラス平板((株)オハラ L−BSL7)
<2>屈折率1.694のガラス平板((株)オハラ L−LAL13)
<3>屈折率1.806のガラス平板((株)オハラ L−LAH53)
<4>屈折率1.851のガラス平板(光ガラス(株) Q−LASFH18S)
以上の4種類のガラス平板(30mm角、厚み5mm)上に、バーコータを用いて、20μmの厚みとなるように内面反射防止塗料4を塗布し、110℃で1時間、加熱硬化させた。
【0030】
[実施例7、比較例2]
上記(3)屈折率1.806のガラス平板の一方の面を、表面積/面積=2.0となるように研磨加工すると共に、他方の面を鏡面加工した。次いで、研磨加工した面に内面反射防止塗料4を塗布した。内面反射防止塗料4を構成する溶液は表1に示した配合比で混合した。
即ち、実施例7においては、上記(1)、(2)の溶液を混合し、比較例2においては、(1)のみを含有する内面反射防止塗料4とした。これ以外は、実施例2、比較例1と同様とした。
【0031】
[比較例3]
(4)エポキシ樹脂(三菱化学(株)エピコート828)
上記エポキシ樹脂に、上記した(2)酸化チタン含有溶液、及び(3)チタンブラック含有溶液の2つの溶液を表1に示した配合比となるように加えて、よく攪拌した。
【0032】
次いで、エポキシ樹脂と同量の硬化剤((株)ADEKA アデカハードナーEH551CH)を加えてよく攪拌した後、実施例1と同様にガラス平板(30mm角、厚み5mm)上に、バーコータを用いて、20μmの厚みとなるように内面反射防止塗料4を塗布した。
【0033】
(ガラス表面評価方法)
内面反射防止塗料4を塗布しない状態で、レーザー顕微鏡(オリンパス社 LEXT OLS3500)を用いて100μm角あたりの表面積を測定した。測定した表面積を面積10000μmで除した値(表面積/面積)を表2に示した。即ち、実施例1〜6、比較例1,3においては、表面積/面積=1.0のガラス平板を用い、実施例7及び比較例2においては、表面積/面積=2.0の面を有するガラス平板を用いた。
【0034】
【表2】

【0035】
(内面反射防止塗料評価方法)
1.反射率評価
レンズ反射率測定機(オリンパス社 USPM−RU)を用いて、可視光の波長を380〜780nmの範囲で変化させ、ガラス平板/内面反射防止塗料の界面の反射率を測定した。表2には、波長380〜780nmの平均値を示した。
【0036】
2.耐性評価
照度200mW/cmの紫外光を4時間照射した後、再度反射率を測定した。評価方法は、波長380〜780nmの反射率の平均値が紫外光の照射前と比較して、0.1%を超えて高くなっていた場合「不可」、0.1%以下、0.05%以上の変化となっていた場合「可」、0.05%未満の変化となっていた場合「良」とした。評価結果を表3に示した。
【0037】
【表3】

【0038】
表2から明らかなように、実施例1〜5、即ち、内面反射防止塗料4中に含有される酸化チタンナノ粒子の含有量が、15wt%以上90wt%以下である場合は、圧縮率が高いガラス平板(屈折率1.8以上)を用いた実施例は、酸化チタンナノ粒子が含まれていない比較例1と比較して、反射率が低くなっている。特に、実施例2〜5では、酸化チタンナノ粒子の含有量が20wt%以上であるため、屈折率をより低く抑えることができている。
即ち、高屈折率のガラス平板を用いたレンズにおいても、内面反射を防止することができる。
【0039】
表3から明らかなように、実施例5では、酸化チタンナノ粒子の含有量が80wt%を超えているため、耐性がやや悪くなっている。これは、酸化チタンナノ粒子が有する光触媒活性による塗料の劣化に起因するものと思われる。
実施例6では、内面反射防止塗料4にチタンブラックが含まれているため、耐性がやや悪くなっている。これは、チタンブラックが紫外線を透過させていることにより、酸化チタンの光触媒活性を抑えられていないためであると思われる。
【0040】
また、表2から明らかなように、比較例1では、内面反射防止塗料4中に酸化チタンナノ粒子が含まれていないため、特に、屈折率が1.8以上のガラス平板を用いた場合、反射率が高くなってしまう。
【0041】
また、実施例7及び比較例2は、ガラス平板の一方の面を、表面積/面積=2.0とし、この面に内面反射防止塗料4を塗布したものである。
実施例7と比較例2とを比較すると、実施例7において、内面反射防止塗料4に酸化チタンナノ粒子を含有させ高屈折率化を施したものの、反射率の低下は著しいものではない。即ち、表面積/面積=2.0とした凹凸のある界面に内面反射防止塗料4を適用する場合は、凹凸の少ない場合と比較して内面反射防止塗料4の効果は大きくならない。
【0042】
比較例3では、黒色顔料としてチタンブラックのみを含有し、カーボンブラックを含まない構成としたため、内面反射防止塗料4の耐性が不良となった。即ち、紫外線を4時間照射した後、反射率が0.1%を超えて高くなった。
【符号の説明】
【0043】
1…光学素子、3…外周面(内面反射防止塗料が塗布されている面)、4…内面反射防止塗料。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化チタン及び酸化ニオブの少なくとも一方のナノ粒子とカーボンブラックとを含有することを特徴とする光学素子用内面反射防止塗料。
【請求項2】
請求項1に記載の光学素子用内面反射防止塗料において、前記酸化チタン及び酸化ニオブの少なくとも一方のナノ粒子の含有量が、20wt%以上、80wt%以下であることを特徴とする光学素子用内面反射防止塗料。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の光学素子用内面反射防止塗料において、チタンブラックを含有しないことを特徴とする光学素子用内面反射防止塗料。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の光学素子用内面反射防止塗料が塗布されていることを特徴とする光学素子。
【請求項5】
請求項4に記載の光学素子において、前記光学素子用内面反射防止塗料が塗布されている面において、100μm角あたりの表面積を面積10000μmで除した値が1.8以下であることを特徴とする光学素子。
【請求項6】
請求項5に記載の光学素子において、前記光学素子用内面反射防止塗料が塗布されている面は、加熱軟化されたガラス素材を成形型でプレス成形することによって形成された面であることを特徴とする光学素子。

【図1】
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【公開番号】特開2012−246373(P2012−246373A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118094(P2011−118094)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】