説明

光学素子

【課題】屈折率が3以下の材料を使用した場合、曲がり導波路においては光路を曲げることができない、分岐導波路においては分岐することができない、仮に光路を曲げたり分岐したりすることが可能であったとしても、ほとんど実用に耐えないものしか実現できないと言った問題点があった。
【解決手段】曲がり導波路あるいは分岐導波路として作用させるために導波路内の曲がり部分・分岐部分に導波路と異なる屈折率を持つ構造物を設ける事を特徴としている。この構造物により曲がり部分・分岐部分の電磁界分布の乱れを低減することにより、低屈折率材料を用いても曲がり導波路および分岐導波路を実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子に関する。特に光通信、或いは光集積回路・光導波路素子および光ディスク等の様々な光学素子(波長:30μm〜0.19μm)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
誘電体或いは半導体などの材料において、周期構造中では光をはじめとする電磁波は周期的な摂動を受け、周波数の分散関係が結晶中の電子のバンド構造と同様な光のバンド構造を取ることが知られている。このような周期構造はフォトニック結晶と呼ばれている(非特許文献1)。
【0003】
フォトニック結晶中の光の伝搬は、どのような材料にどのようなフォトニック結晶構造を設けたかにより決定されるので、その光学的性質を決定することができる。
【0004】
フォトニック結晶構造を応用した導波路は、光回路素子の小型化を可能にする技術として期待されている。フォトニック結晶構造を利用した導波路では、導波路部分と周期的な構造物部分との屈折率差が重要となってくるためガリウム・ヒ素(屈折率3.6)や珪素(シリコン:屈折率3.4)といった、屈折率が3以上と比較的大きな材料と二酸化珪素(SiO2:屈折率:1.5)あるいは空気(屈折率:1)といった低誘電率の材料との組み合わせで形成した例が多数報告されている(例えば、特許文献1)。
【0005】
例えば、半導体基板に周期的な円柱状の空気穴を設けることによりフォトニックバンドを生じさせ、90°という急激な角度で光路を曲げることができる導波路が発表されている(非特許文献2)。
【0006】
この導波路は、フォトニックバンド中の波長の光がフォトニック結晶構造により反射されることを利用したものである。
【非特許文献1】J.D.Joannopouls他著“Photonic crystals”,Princeton University Press, 1995.
【非特許文献2】A.Chutinan et.al., Physical Review B, vol. 62, No.7, p4488 (2000)
【特許文献1】特開2002-350657号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これまで、フォトニック結晶構造は屈折率が3以上と屈折率の大きな材料で構成されるのが通例であったが、屈折率が3以下の材料においても、材料物性の見地から工業的に重要な特性を持つ材料は多い、例えば、ニオブ酸リチウムあるいはタンタル酸リチウムは電気光学材料として光スイッチあるいは光変調器を形成する材料として一般的である。また、半導体材料においては、窒化ガリウムに代表される窒化物系半導体材料も青色〜紫外線発光素子として注目されている。しかし、フォトニック結晶構造を用いた導波路素子において、これまで開示されているような構造は屈折率が3以上の材料を対象として設計されていることから、屈折率が3以下の材料にそのまま適用した場合、曲がり導波路で光路を曲げることができない、分岐導波路で分岐することができない、仮に光路を曲げたり分岐したりすることが可能であったとしても、光パワーの透過率にして20%以下とほとんど実用に耐えないものしか実現できないと言った問題点があった。本発明では、屈折率が3以下と比較的小さな材料においても機能する、フォトニック結晶構造を有する曲がり導波路、分岐導波路を提供するものである。
【0008】
これまで開示されているような曲がり導波路構造あるいは光分岐構造において、屈折率3以下の材料を用いた場合、ほとんど実用に耐えないものしか実現できない理由として、大きく分けて二つの理由が考えられる。一つには、導波路部と周期的構造物部とで材料の屈折率差が小さいため電磁波を遮蔽する効果が弱いことが挙げられる。もう一つには、曲がり部分あるいは分岐部分の構造的な欠陥から、遮蔽された電磁波のほとんどがそのまま入射側に反射されてしまうということが挙げられる。以上の二つの理由から、辛うじて微細構造により反射された電磁波のほとんどが入射側に戻ってしまう事で出射側に向かう電磁波のパワーは非常に弱いものとなっている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記従来の課題を解決するために、本発明の光学素子は、
第1の材料からなる基体に、
前記第1の材料より小さな屈折率を持つ第2の材料からなり、周期的な配列の第1の構造物が形成された構造物部と、
前記構造物部の間隙であって、光の入射口と出射口を有し、直線部と屈曲部のある光路となる導波路部を備え、
前記光導波路部の屈曲部に、前記第1の材料より小さな屈折率を持つ第3の材料からなる第2の構造物を有することを特徴とする。
【0010】
すなわち、本発明は、光導波路内の曲がり部分に構造物を設けることを構成上の特徴としている。曲がり部分(あるいは分岐部分)に屈折率の異なる材料からなる構造物を設けることにより、電磁波の遮蔽を強くすると共に、構造物を設ける位置を調節することで入射側への反射を減少し、出射側へ向かう電磁波のパワーを大きくすることができる効果を有している。
【0011】
併せて、この構造により曲がり部(又は分岐部)の電磁界分布の乱れを低減し、屈折率が3以下の材料を用いた場合においても機能する、フォトニック結晶構造を有する曲がり導波路、分岐導波路を得ることをできる。
【発明の効果】
【0012】
これまで、フォトニック結晶構造は屈折率が3以上と屈折率の大きな材料で構成されるのが通例であったが、屈折率が3以下の材料物性の見地から工業的に重要な特性を持つ材料においても、フォトニック結晶構造を利用した曲がり導波路あるいは分岐導波路などを実現することが可能となる。そのため、屈折率が3以下のニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウムなどの誘電体材料、あるいは窒化ガリウム等の窒化物半導体を用いたフォトニック結晶構造を有する光デバイスを実現することが可能となり、フォトニック結晶光デバイスの応用分野を広げることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いながら具体的に説明する。もちろん本発明は、以下の例によって制限されるものではない。また、説明に使用する図面は一部分を誇張して表現した個所が存在するものであり、図面内の寸法、寸法比率および位置関係は必ずしも正しいものではない。
【0014】
(実施の形態1)
(実施形態1の光学素子の構成)
本発明の光学素子の一例として、図1に示す曲がり導波路について説明する。図1は、実施形態1の光学素子の平面図である。図1の曲がり導波路は、60度曲がり導波路である。曲がり角度は、光学素子に要求される特性に応じて適宜に設定される。
【0015】
図1の光学素子は、第1の材料からなる基体101に、2つの構造物部108および、前記構造物部108間に形成された導波路部109からなる。
【0016】
構造物部108は、第1の材料からなる基体101に、第1の材料より小さな屈折率を持つ第2の材料からなる第1の構造物102が周期的に配列した構造を有する。第1の構造物102の望ましい形状は円筒状である。本実施形態では、望ましい構成例として、基体101の第1の材料として窒化ガリウム結晶を、第1の構造物の第2の材料として空気を用いる。この場合、第1の構造物102は、空気穴である。図1の場合は、第1の構造物102が周期的に形成され、三角格子型のフォトニック結晶構造を形成している。
【0017】
本実施形態の導波路部は、光の入射口110と出射口111と、直線部103及び曲がり部104を有している。
【0018】
入射口105より入射された光は、直線部103を直進し、曲がり部104において光路を曲げられ、直線部103を直進し、出射口106より出射される。
【0019】
本実施の形態では、曲がり部104に第2の構造物107を設けることにより曲がり導波路を透過する光パワーを改善することを特徴としている。第2の構造物107の形状は円筒状とするのが望ましい。第2の構造物107は、第1の材料より屈折率の小さな第3の材料からなる。
【0020】
基体101の材料、すなわち第1の材料としては、屈折率が少なくとも1.5以上、望ましくは2以上のものがよい。第2の材料又は第3の材料との屈折率の差をなるべく大きくするためである。また、本発明で基体101として利用したい第1の材料の屈折率は3以下である。
【0021】
第1の材料としては、半導体、誘電体等がある。具体的に第1の材料として望ましい例は、窒化ガリウム(屈折率:2.45)である。その他第1の材料としては、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化アルミニウム等を用いても同様の効果が得られるものである。
【0022】
第1の構造物の材料、すなわち第2の材料としては、屈折率1以上2未満の材料を用いる。具体的には、空気(屈折率:1)を用いるのがもっとも簡便である。その他、第2の材料として用いることが可能なのは、酸化アルミニウム、酸化珪素あるいはこれらの混合物、空気、酸素、窒素、アルゴン、ネオン、あるいはこれらの混合物、PMMA(ポリメチルメタクリレート)あるいはPMMAを母体とする有機高分子材料である。
【0023】
第2の構造物の材料、すなわち第3の材料としては、屈折率1以上2未満の材料を用いる。第3の材料の具体的なものは、第2の材料と同じである。第3の材料と、第2の材料は、同じものを用いても異なるものを用いてもよい。しかし、同じ材料を用いた場合には、製造工程が簡便になるメリットがある。
【0024】
第1の構造物102の半径は、図3を用いて決定することができる。図3は、基体としてガリウムナイトライド(GaN)を用いた場合、(円筒状構造物半径)/(円筒状構造物の配列周期)に対する規格化周波数(ωa/2πc)のグラフである。cは光速を示し、ωは角周波数(ω=2πc/λ)である。このグラフは、基板の屈折率と円筒状構造物半径/周期が与えられた場合、光が伝搬しなくなる周波数領域を円筒状構造物半径/周期を変化させてプロットしたものである。このプロット図は屈折率毎つまり材料毎に与えられるものである。
【0025】
他の基体を用いた場合の例として、光変調器などに最もよく用いられる電気光学結晶であるニオブ酸リチウムを基体に使用した場合における、円筒状構造物半径/周期に対する規格化周波数のグラフを図4に示す。以上のように使用する基体材料の屈折率を当てはめ、図3あるいは図4に示したようなグラフをプロットすることにより、本実施の形態以外の基板においても設計が可能である。
【0026】
本実施の形態の場合、電界ベクトルが基板の面内に存在するモード(TMモード)で設計しており、円筒構造物半径/周期の値を0.4とし、規格化周波数つまり自由空間波長と周期との比を0.4としている。これは、寸法誤差がデバイスの周波数特性に与える影響が最も少ないと考えられるためである。本デバイスで有効な波長は1.5μmとしたため、円筒構造物が配置される周期は300nm、円筒構造物の直径は240nmとした。
【0027】
本実施形態において、基体101として、窒化ガリウム結晶を用いている。良質な窒化ガリウム結晶を得るためには、サファイア基板を用いて窒化ガリウム結晶を形成するのが望ましい。サファイア基板を用いた窒化ガリウム結晶の断面を図3に示す。基板はサファイア基板(C板)201に窒化アルミニウム低温バッファ層202を介して、窒化ガリウム結晶203(1μm)が形成された構造となっている。図3では、窒化ガリウム層の結晶性を向上させるために、窒化アルミニウムバッファ層を用いている。バッファ層として使用する材料としては、低温成長の窒化アルミニウムのほかに、同じく低温成長の窒化インジウム、窒化ガリウム或いはこれらの混晶のいずれを用いた場合も同様の効果が得られる。
【0028】
なお、図2において、円柱構造物の深さは窒化ガリウム結晶203の膜厚方向に対して50%以上の深さで設けられていることが望ましく、より望ましくは70%以上であることが望ましい。
【0029】
(実施形態1の光学素子の形成方法とサンプル試作)
以下に本実施の形態にかかる構造を持った60度曲がり導波路の作成方法について説明する。
【0030】
まず、サファイア上に形成された窒化ガリウム基板をバッファード弗酸溶液や硫酸と過酸化水素水の混合液等を用いて洗浄する。周期構造を形成する部分のみ窒化ガリウム結晶をリッジ状に残し、光を入射あるいは出射させるための導波構造を形成する。具体的には基板上にレジストを塗布し、半導体プロセスにおけるリソグラフィー法を用いて、レジストパターンを形成し、ハロゲン系ガスとアルゴンガスとの混合ガスを用いたドライエッチングを行うことで形成する。
【0031】
続いて、リッジ導波路を形成した基板にレジストを再び塗布し、電子ビーム描画装置等を用いて、円柱状構造物である空気穴となる部分のレジストに穿孔した後、再びハロゲン系ガス(BCl)とアルゴンガスとの混合ガスを用いたドライエッチングを行うことにより周期的に円柱状構造物が配列した構造が形成される。
【0032】
以上のような工程で導波路部分に形成された円柱状構造物401の位置を変化させて形成したサンプルを作製した。
【0033】
なお、第2の円柱状構造物401の直径は、入射側への電磁波の反射を抑制し、かつ電磁波の遮蔽を強くするために、他の部分を構成する円柱状構造物の直径の50%〜80%であることが望ましく、本実施の形態では67%の大きさとしている。すなわち、第1の円筒状構造物の直径240nmに対し160nmに設定されている。
【0034】
なお、以上に示した形成方法は一例であり、レジストへの露光方法、あるいは穿孔方法については様々態様が可能である。例えば以下のような方法を用いた場合大気中での高品質な素子加工も可能となる。基板上にPMMA等の樹脂をスピンコート法などで塗布した後、パルス幅が100fs〜800fs程度のレーザを用いて、樹脂部分のみ穴あけ加工する。なお、この時の波長としては、波長260nm以下であることが望ましい。例えば、Nd;YAG、Nd:YLF、Nd:YVO4などのレーザの第4高調波、および第5高調波あるいは、KrFガスあるいはArFガスを用いたエキシマレーザを用いるのが望ましい。なお、波長が260nm以下であれば、Ybドープファイバレーザの8倍高調波(波長193〜195nm)などを用いてもよい。また、480nm〜550nmのレーザ光で励起したTi:Sapphireレーザ(波長780nm)の2倍高調波(390nm)あるいは3倍高調波(260nm)を用いるのがより望ましい。パルス幅が100fs程度のレーザを用いる理由として、パルスの横モードに対するエネルギー尖塔値が高いため、回折限界以下の加工も可能である事が挙げられる。従来のレーザ加工法では材料をレーザで直接加工していたため、加工対象物自体が照射したレーザ自体により物理的に劣化し、破損あるいは屈折率変化を起こす事が知られている。本実施の形態の場合では塗布した樹脂部分のみを加工することで材料そのものの破損や変質を防止することが可能となる。
【0035】
また、本発明の製造方法を使用することにより大気中での加工が可能であることから従来の電子ビーム露光法と比較して簡便であり、なおかつ表面に形成した薄膜をマスクとして使用することから、従来のレーザを用いた直接加工法と比較して破損や劣化の少ない素子を得ることが可能となる。
【0036】
(実施形態1の光学素子における第2の構造物の位置と光透過特性の関係)
これらのサンプルのそれぞれにおいて入射方向から光を入射し、出射光の透過パワーを観測し、円柱状構造物の位置に対する透過パワーの関係を調べた。なお出射光の透過パワーは入射光の透過パワーで規格化した値となっており、入射光のパワーを100としている。
【0037】
導波路内の円柱状構造物について、位置をどのようにシフトしたか図5を用いて説明する。図5で、第1の円柱状構造物401,403の直径は240nmであり、第2の円柱状構造物の直径は160nmである。また、構造物部の第1の円柱状構造物401,403等の配列周期は300nmである。
【0038】
導波路内の円柱状構造物(第1の構造物)401は円柱状構造物(第2の構造物)402と403の中心を結んだ直線上で位置をシフトさせている。プロット内の位置+0.3は円柱状構造物402の中心位置を表し、―0.3は円柱状構造物403の中心位置を表している。
【0039】
従来構造における規格化透過パワーが5程度であるとき、円柱状構造物401の位置を+0.3から徐々に−方向にシフトさせた場合透過パワーが上昇する。円柱状構造物401が導波路の中心(位置0)に近づくにつれ規格化透過パワーは減少し、円柱状構造物403に接近するにつれ、上昇する。−0.26となるところで、再び従来構造となり規格化透過パワーは5となる。図4は以上に説明した円柱状構造物401の位置と規格化透過パワーの関係を示したものである。位置が0.1となるところで規格化透過パワーは80で最大となっており、位置が0.08〜0.235となる部分においても70以上の規格化透過パワーが得られ、本発明の構造を用いることにより透過特性が従来構造の14〜15倍改善された。
【0040】
もちろん、これらの発明は以上の例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることは言うまでもない。
【0041】
(実施の形態2)
本実施形態では、導波路部の、入射口が1つであり、出射口が2つであり、曲がり部で光路が分岐している光学素子、すなわち光分岐導波路について説明する。
【0042】
なお、第2の実施の形態の説明において、構造物部108の構成、第1、第2、第3の材料等、説明を省略している部分は、第1の実施形態と全く同様である。
【0043】
図7は本実施の形態にかかる光学素子の一例を示す平面図である。以下に本実施形態の光学素子の構造を説明する。第1の材料から奈ある基体101に、第2の材料からなる円筒状の第1の構造物として空気穴102を周期的に形成することによりフォトニック結晶構造108を形成されており。その一部分に空気穴を形成しない部分を設けることにより光導波路109が形成されている。本実施の形態では三角格子型フォトニック結晶構造を用いた場合を示しており、光入射口701より入射した光波が直線部103を通り、曲がり部(分岐部)704より光路が二つに分割され、出射口702および703より出射される構造となっている。本実施の形態では、曲がり部704の導波路109内に、第3の材料からなる円筒状の第2の構造物705を設けることにより曲がり導波路を透過する光パワーを改善することを特徴としている。
【0044】
実施形態2においても実施形態1と同様に、サファイア上に形成された、窒化ガリウム結晶(n=2.45)基板を使用している。この断面構造を図2に示す。基板はサファイア基板(C板)201に窒化アルミニウム低温バッファ層202を介して、窒化ガリウム結晶203(1μm)が形成された構造となっている。
【0045】
なお、バッファ層として使用する材料としては、低温成長の窒化アルミニウムのほかに、同じく低温成長の窒化インジウム、窒化ガリウム或いはこれらの混晶のいずれを用いた場合も同様の効果が得られる。
【0046】
なお、円柱構造物の深さは窒化ガリウム結晶203の膜厚方向に対して50%以上の深さで設けられていることが望ましく、より望ましくは70%以上であることが望ましい。
【0047】
寸法に関しては、第1の実施の形態と同じく、図3に示した円筒状構造物半径/周期に対する、規格化周波数のグラフより求めることができる。本実施の形態の場合電界ベクトルが基板の面内に存在するモード(TMモード)で設計しており、円筒構造物半径/周期の値を0.4とし、規格化周波数つまり自由空間波長と周期との比を0.4としている。デバイスで使用する波長を1.5μmとしたため、円筒構造物が配置される周期は300nm、円筒構造物の直径は240nmとした。
【0048】
以下に本実施の形態にかかる構造を持った光波分岐導波路の作成方法について説明する。
【0049】
まず、サファイア上に形成された窒化ガリウム基板をバッファード弗酸溶液や硫酸と過酸化水素水の混合液等を用いて洗浄する。周期構造を形成する部分のみ窒化ガリウム結晶をリッジ状に残し、光を入射あるいは出射させるための導波構造を形成する。具体的には基板上にレジストを塗布し、半導体プロセスにおけるリソグラフィー法を用いて、レジストパターンを形成し、ハロゲン系ガスとアルゴンガスとの混合ガスを用いたドライエッチングを行うことで形成する。
【0050】
続いて、リッジ導波路を形成した基板にレジストを再び塗布し、電子ビーム描画装置等を用いて、円柱状構造物である空気穴となる部分のレジストに穿孔した後、再びハロゲン系ガスとアルゴンガスとの混合ガスを用いたドライエッチングを行うことにより周期的に円柱状構造物が配列した構造が形成される。
【0051】
以上のような工程で導波路部分に形成された円柱状構造物の位置を変化させて形成したサンプルを作製した。これらのサンプルのそれぞれにおいて入射口701から光を入射し、出射口702あるいは703より出射した光の透過パワーを観測し、円柱状構造物の位置に対する透過パワーの関係を調べた。なお出射光の透過パワーは入射光の透過パワーで規格化した値となっており、入射光のパワーを100としている。
【0052】
導波路内の円柱状構造物について、位置をどのようにシフトしたか図8の模式図と図9の円柱状構造物705の位置と規格化透過パワーの関係を示したプロット図を用いて説明する。
【0053】
導波路内の円柱状構造物(第2の構造物)705は円柱状構造物(第1の構造物)706と707の中心を結んだ直線上で位置をシフトさせている。プロット内の位置0は円柱状構造物706と708、709の中心を結んだ正三角形の重心位置を表している。
【0054】
なお、円柱状構造物705の直径は、入射側への電磁波の反射を抑制し、かつ電磁波の遮蔽を強くするために、他の部分を構成する円柱状構造物の直径の50%〜80%であることが望ましく、本実施の形態では67%の大きさとしている。
【0055】
従来構造における規格化透過パワーは25程度であるとき、円柱状構造物705の位置を0から徐々に−方向にシフトさせた場合透過パワーが上昇する。円柱状構造物705が位置−0.07に近づくにつれ、上昇する。図9は以上に説明した円柱状構造物705の位置と規格化透過パワーの関係を示したものである。なお、直線901は従来構造の場合を示している。位置が−0.07となるところで出射口702、703それぞれの規格化透過パワーは46で最大となっており、反射も最低となっている。本発明の構造を用いることにより透過特性が従来構造の5割改善され、反射による損失を低減することが可能となった。
【0056】
なお、以上実施の形態では基板にサファイア上に形成された窒化ガリウム(n=2.45)を用いた例を挙げているが、あくまでも屈折率が3以下の材料の一例であり、本発明による、曲がり光導波路および光分岐導波路の構成はニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化アルミニウム等を用いても同様の効果が得られるものであるが、基板材料としては、空気の屈折率との差が大きいことが重要であるため、屈折率が1.5以上のものが望ましく、より望ましくは屈折率が2以上のものが適当である。
【0057】
もちろん、これらの発明は以上の例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の光学素子では、従来利用できなかった屈折率が3以下の材料を用いたフォトニック結晶構造を利用した曲がり導波路あるいは分岐導波路などを実現することが可能となる。そのため、屈折率が3以下のニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウムなどの誘電体材料、あるいは窒化ガリウム等の窒化物半導体を用いたフォトニック結晶構造を有する光デバイスを実現することが可能となり、フォトニック結晶光デバイスの応用分野を広げることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】実施の形態1の60度曲がり導波路の平面図
【図2】サファイア上に形成された窒化ガリウムの断面構造図
【図3】窒化ガリウムにおける、円筒状構造物半径/周期に対する、規格化周波数のプロット図
【図4】ニオブ酸リチウムにおける、円筒状構造物半径/周期に対する、規格化周波数のプロット図
【図5】実施の形態1の60度曲がり導波路と曲がり部の拡大図
【図6】実施の形態1の第2の構造物の位置とパワー透過率との関係を示したプロット図
【図7】実施の形態2の光分岐導波路の平面図
【図8】実施の形態2のY分岐導波路と曲がり部(分岐部)の拡大図
【図9】実施の形態2の第2の構造物の位置と出射方向1における透過パワーとの関係を示したプロット図
【図10】従来構造の60度曲がり導波路の図
【符号の説明】
【0060】
101 基体
102 第1の構造物(空気穴)
103 直線部
104 曲がり部
105 入射口
106 出射口
107 第2の構造物(空気穴)
108 構造物部
109 導波路部
201 サファイア基板(C面)
202 低温バッファ層
203 窒化ガリウム結晶
401 第2の構造物
402 円筒状構造物(第1の構造物)
403 円筒状構造物(第1の構造物)
404 +方向
405 −方向
601 従来構造を示すバー
602 従来構造を示すバー
701 入射口
702 出射口1
703 出射口2
704 分岐部
705 導波路内円筒状構造物(第2の構造物)
706 円筒状構造物(第1の構造物)
707 円筒状構造物(第1の構造物)
708 円筒状構造物(第1の構造物)
709 円筒状構造物(第1の構造物)
801 +シフト方向
901 従来構造を示すバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の材料からなる基体に、
前記第1の材料より小さな屈折率を持つ第2の材料からなり、周期的な配列の第1の構造物が形成された2以上の構造物部と、
前記構造物部の間であって、光の入射口と出射口と、直線部と曲がり部を有する導波路部を備え、
前記曲がり部に、前記第1の材料より小さな屈折率を持つ第3の材料からなる第2の構造物を有することを特徴とする光学素子。
【請求項2】
前記入射口が1つであり、前記出射口が1つである請求項1に記載の光学素子。
【請求項3】
前記入射口が1つであり、前記出射口が2つであり、前記曲がり部で光路が分岐していることを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
【請求項4】
前記第1の材料の屈折率が2以上3以下であり、
前記第2の材料の屈折率が1以上2未満であり、
前記第3の材料の屈折率が1以上2未満であることを特徴とする請求項1〜3に記載の光学素子。
【請求項5】
前記第1の材料が、
ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、酸化ニオブ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、窒化ガリウム、窒化アルミニウム、窒化インジウム、あるいはこれらの混晶・固溶体、混合物のいずれかである請求項1〜4に記載の光学素子。
【請求項6】
前記第2の材料が、
酸化アルミニウム、酸化珪素あるいはこれらの混合物、空気、酸素、窒素、アルゴン、ネオン、あるいはこれらの混合物、PMMA(ポリメチルメタクリレート)あるいはPMMAを母体とする有機高分子材料である請求項1〜5に記載の光学素子。
【請求項7】
前記第3の材料が、
酸化アルミニウム、酸化珪素あるいはこれらの混合物、空気、酸素、窒素、アルゴン、ネオン、あるいはこれらの混合物、PMMA(ポリメチルメタクリレート)あるいはPMMAを母体とする有機高分子材料である請求項1〜6に記載の光学素子。
【請求項8】
前記基体は基板上に形成された膜であり、
前記光学素子は、更に前記基板を有することを特徴とする請求項1〜7に記載の光学素子。
【請求項9】
前記基体と前記基板の間にさらにバッファ層を有することを特徴とする請求項1〜8に記載の光学素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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