説明

光学薄膜製造方法

【課題】光学膜厚制御の精度を大きく改善することができ、又さらに水晶膜厚計に代わる光学膜厚計を提供することにより、成膜速度の安定化とコストダウンに貢献することができるようにする。
【解決手段】光学膜厚制御装置は、容器内に成膜材料を飛散させ、基板に成膜材料を堆積させて光学薄膜を製造する光学薄膜製造装置の光学膜厚制御装置において、所定の非線形モデル式により推測される透過率と、成膜する膜に照射した測定光に対して受光器が計測した透過光又は反射光の検出光量値とに基づいて、目標光学膜厚情報を推定する目標光学膜厚推定手段と、目標光学膜厚情報までの到達時間を予測し、この到達時間に達したときに成膜終了を指示する予測制御手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学膜厚制御装置、方法及びプログラム、並びに光学薄膜製造装置に関し、例えば、光学フィルターや反射防止膜や光学ミラー等の光学薄膜製造装置に適用し得るものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、光学フィルターや反射防止膜や光学ミラー等の光学多層膜成膜製造方法として多くは真空蒸着法が用いられている。この光学多層膜は、それぞれ異なる屈折率を持つ物質の積層膜により構成される。光学多層膜は、それぞれ堆積する各物質の屈折率nと物理膜厚dの積で表わされる光学膜厚(n×d)のλ/4(λ:任意の光の波長)の整数倍ごとに、光の透過率又は反射率が極値を持つ特性を利用し、これらの極値特性や任意の物理膜厚時の広帯域波長光学特性の組み合わせにより所望の光学特性を得るものである。
【0003】
この堆積物質の光学膜厚の制御方法は、主に比率制御法と極値制御法が実産業上で用いられている。
【0004】
これらの制御方法は、製品とは別に設けたモニタ用基板及び堆積中の光学薄膜に光を照射し、その透過光又は反射光の光量を検知し、この検出光量Iについて以下の制御を行うものである。
【0005】
比率制御法では、極大値Imax及び極小値Iminを取ることがから、この極大値Imax及び極小値Iminと検出光量Iとを用いて、制御比率=(I−Imin)/(Imax−Imin)に達した時点で成膜を終了させている。
【0006】
極値制御法では、成膜速度が一定条件の下で、極値付近の検出光量Iの変化を二次式で近似し、その極値に達した時点で成膜を終了させている。
【0007】
【特許文献1】特開2005−002462号公報
【特許文献2】特開2003−342728号公報
【特許文献3】特開2005−154804号公報
【特許文献4】特開2004−151493号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、比率制御法において、正確に膜厚制御を行うためには、原理的に最大極値及び最小極値を迎えた後でないと判定できないという問題が生じ得る。
【0009】
これら極値は検出波長を短波長側にすれば得ることができる。しかし、極薄膜の場合は、光学薄膜製造装置を構成する機器、特に真空封止のためのウインドウガラスやレンズ等の吸収特性から、光学特性の性能上限界が生じてしまう。また、全ての物質は屈折率分散を持つため、通常所望する光学特性の波長領域にて光量検出を行うことが好ましいが、極値を求めるために検出波長を短波長側にせざるを得ない場合は、所望の光学特性の波長領域での光量検出ができないということも生じてしまう。
【0010】
また、極値制御法の場合、成膜速度が一定条件の下では制御性が良い。しかし、例えばフッ化マグネシウム(MgF)や酸化ケイ素(SiO)等に代表される昇華型蒸発材料の場合のように、成膜速度が安定し難い材料の場合は、極値判定に大きな誤差が生じ得る。また物理膜厚に対する検出光量の変化は、現行行われている二次式近似では誤差が大きく実際の極値からの誤差を生じるという課題もある。
【0011】
比率制御法、極値制御法は共に成膜速度安定化のため、多くの真空蒸着装置では水晶式膜厚計にて膜厚を計測し蒸発源に投入する電力の調整を行っている。この水晶式膜厚計は水晶振動子に堆積する物質の重量増加に伴う共振周波数の減少量から膜厚を逆算するが、ある程度堆積すると、発振不良が生ずるため真空を破って交換しなければならず、製造コストが増加したり、水晶振動子の品質や堆積する膜の応力歪等が原因で時折膜が剥がれたり微小クラック等による周波数ダンピングが生ずるため信頼性に欠ける。
【0012】
そのため、光学膜厚制御の精度を大きく改善することができ、又さらに水晶膜厚計に代わる光学膜厚計を提供することにより、成膜速度の安定化とコストダウンに貢献することができる光学膜厚制御装置、方法及びプログラム、並びに光学薄膜製造装置が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
かかる課題を解決するために、第1の本発明の光学膜厚制御装置は、容器内に成膜材料を飛散させ、基板に成膜材料を堆積させて光学薄膜を製造する光学薄膜製造装置の光学膜厚制御装置において、(1)所定の非線形モデル式により推測される透過率と、成膜する膜に照射した測定光に対して受光器が計測した透過光又は反射光の検出光量値とに基づいて、目標光学膜厚情報を推定する目標光学膜厚推定手段と、(2)目標光学膜厚情報までの到達時間を予測し、この到達時間に達したときに成膜終了をさせる予測制御手段とを備えることを特徴とする。
【0014】
上記所定の非線形モデル式により推測される透過率は、光学エネルギーを用いたエネルギー透過率、又は堆積物質の吸光度を用いた透過率を適用することができる。
【0015】
第2の本発明の光学膜厚制御方法は、容器内に成膜材料を飛散させ、基板に成膜材料を堆積させて光学薄膜を製造する光学薄膜製造装置の光学膜厚制御方法において、(1)目標光学膜推定手段が、所定の非線形モデル式により推測される透過率と、成膜する膜に照射した測定光に対して受光器が計測した透過光又は反射光の検出光量値とに基づいて、目標光学膜厚情報を推定する目標光学膜厚推定工程と、(2)予測制御手段が、目標光学膜厚情報までの到達時間を予測し、この到達時間に達したときに成膜終了をさせる予測制御工程とを有することを特徴とする。
【0016】
第3の本発明の光学膜厚制御プログラムは、容器内に成膜材料を飛散させ、基板に成膜材料を堆積させて光学薄膜を製造する光学薄膜製造装置の光学膜厚制御プログラムにおいて、コンピューターを、(1)所定の非線形モデル式により推測される透過率と、成膜する膜に照射した測定光に対して受光器が計測した透過光又は反射光の検出光量値とに基づいて、目標光学膜厚情報を推定する目標光学膜厚推定手段、(2)目標光学膜厚情報までの到達時間を予測し、この到達時間に達したときに成膜終了をさせる指示する予測制御手段として機能させることを特徴とする。
【0017】
第4の本発明の光学薄膜製造装置は、容器内に成膜材料を飛散させ、基板に成膜材料を堆積させて光学薄膜を製造する光学薄膜製造装置において、基板の成膜を制御する光学膜厚制御装置が第1の本発明の光学膜厚制御装置であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、光学膜厚制御の精度を大きく改善することができ、又さらに水晶膜厚計に代わる光学膜厚計を提供することにより、成膜速度の安定化とコストダウンに貢献することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(A)第1の実施形態
以下では、本発明の光学膜厚制御装置、方法及びプログラム、並びに光学薄膜製造装置の第1の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0020】
第1の実施形態では、真空蒸着法を採用した光学薄膜製造装置に本発明を適用した実施形態を例示して説明する。
【0021】
(A−1)第1の実施形態の構成
図1は、第1の実施形態の光学薄膜製造装置の構成を示す構成図である。図1において、第1の実施形態の光学薄膜製造装置100は、コンピューター101、投光器(透過測定用)102又は投光器(反射測定用)103、受光器104、水晶膜厚計105、蒸発源用電源106、真空容器107、ウインドウ108及び109、ドーム110、モニターガラス111、蒸発源112、シャッター113を少なくとも有して構成される。
【0022】
なお、図1では投光器102及び投光器103を図示しているが、光学膜厚制御方法の利用形態に応じて、いずれか一方のみを機能させることでよい。つまり、光学膜厚制御方法として透過率を利用する場合には投光器(透過測定用)102を機能させればよく、反射率を利用する場合には投光器(反射測定用)103を機能させればよい。
【0023】
光学薄膜製造装置100は、真空容器107内に、製品基板(図示しない)を保持するドーム110と、モニター基板であるモニターガラス111と、蒸発源112及びシャッター113を備えるものである。
【0024】
真空容器107は、その上方部と下方部のいずれか又は両方に、ウインドウ108、ウインドウ109を有する。このウインドウ108、109は、投光器102又は103から発光されたモニタ光を取り込んだり、モニターガラス111を透過した透過光又は反射した反射光を取り込みかつ真空を封止する窓である。
【0025】
蒸発源112は、蒸発源用電源106から電源供給を受けて、成膜材料を加熱蒸発させるものである。例えば、図示しないボートに成膜材料を入れて、電流を供給することで加熱蒸発させる。これにより、真空容器107内に成膜材料を飛散させ、ドーム110上の製品基板やモニターガラス111に成膜材料を成膜することができる。
【0026】
コンピューター101は、光学薄膜製造装置100の動作処理を司るものであり、例えば、真空容器107内の真空制御、ドーム110の回転制御、蒸発用電源106の電源制御や成膜速度制御、投光器103又は104や受光器104の投光受光制御、光学膜厚制御、水晶膜厚計105の動作制御などを行う。
【0027】
また、コンピューター101は、光学膜厚制御を行う光学膜厚制御装置に対応するものである。ここで、コンピューター101のハードウェア構成は省略するが、例えば、CPUが、ROM等の記憶手段に格納される所定のプログラム(光学膜厚制御プログラム)を実行することで光学膜厚制御処理を実現される。
【0028】
光学膜厚制御装置として機能するコンピューター101は、例えば後述する非線形モデル式により推測される透過率と、成膜する膜に照射した測定光に対して受光器が計測した透過光(又は反射光)の検出光量値とに基づいて、目標光学膜厚情報を推定する目標光学膜厚推定手段と、目標光学膜厚情報までの到達時間を予測し、この到達時間に達したときに成膜終了させる予測制御手段を備える。
【0029】
コンピューター101は、受光器104が受信した光量データを受け取り、この光量データに基づいて非線形最小二乗法を用いて光学膜厚を推定し、透過率又は反射率が極値となる時刻又は目標の光学膜厚となる時刻で成膜を終了し光学膜厚制御を行うものである。
【0030】
この非線形最小二乗法による光学膜厚制御法について説明する。なお、以下の説明では、透過率を用いた場合の光学膜厚制御方法を説明するが、反射率R(=1−透過率T)を用いた場合も以下と同様にすることができる。また、以下の説明では、屈折率を用いて説明するが、吸収率を含んでも同様に適用できる。
【0031】
例えば、屈折率nの媒質中で、屈折率nのモニターガラス111に、屈折率nの物質を厚さhだけ堆積させた場合、波長λの光のモニターガラス111片面のエネルギー透過率Tは、式(1)で表される。
【0032】
なお、図2に示すように、波長λの光の検出光量Iの変化は物理膜厚又は一定成膜速度下では時間に対して周期関数となっており、δはこの波長λの光の位相を示す。
【数1】

【0033】
式(1)において、n、n及びλは、予め分かっているものである。従って、エネルギー透過率Tは、堆積中の物質の屈折率n及び物理膜厚hの関数となる。特に、物質の屈折率nは成膜開始から終了まで変化しないと仮定すると、エネルギー透過率Tは物理膜厚hと屈折率nの関数、すなわちエネルギー透過率T(n,h)で表される。
【0034】
また、受光器104が受光した光量データ(検出光量)Iとエネルギー透過率Tの二乗和をSとし、重みをwとすると式(3)のようになる。
【数2】

【0035】
コンピューター101は、例えば、最急降下法(最大傾斜法)、Newton法、Gauss−Newton法、Marquarrdt法等の方程式解法によって式(3)を解法し、二乗和Sが最小になるように屈折率n及び物理膜厚hを求める。この屈折率nと物理膜厚hの積が、所望光学特性を示す当該物質の目標光学膜厚となる。
【0036】
さらに、コンピューター101は、例えば図9に示すように、式(4)に示す透過率を直接一次微分方程式を解法すれば極値となるhを精度良く求める事ができ、計算時刻の物理膜厚h(又はn)の変化(例えば直近の膜厚変化)及び目標の物理膜厚h(又はn)から極値到達の時間tを算出できる。
【数3】

【0037】
そして、この目標光学膜厚の到達時間に達したとき、コンピューター101は、成膜の終了と判断し、シャッター113を閉じるように制御する。このように、コンピューター101は、式(4)が成立した時点で成膜を終了させることで極値制御を行う。
【0038】
なお、上述した非線形最小二乗法による極値制御方法では、式(1)のモデル式を用いてエネルギー透過率Tを求めているが、他の要因を盛り込んだモデル式を用いてもよい。例えば、モニターガラス111上の膜厚分布による光量低下率αや、成膜中の条件変化によるモニターガラス111の屈折率nの変化などを式(1)に設定し、エネルギー透過率T(α、n、h)等として実質的な制御を行うようにしてもよい。但し、パラメータ数<計測データ数とする制限が必要である。また、堆積物質の吸光度を用いた透過率を適用するようにしてもよい。
【0039】
投光器(透過測定用)102又は投光器(反射測定用)103は、いずれも真空容器107の外部に配置されており、モニタ光を発するものである。投光器102又は投光器103は、ウインドウ109又は108を介して、ドーム110に保持される製品基板やモニターガラス111にモニタ光を照射する。投光器102又は103の光源としては、例えば、ハロゲンランプ、キセノンランプ、重水素ランプなどを広く適用することができる。
【0040】
受光器104は、モニターガラス111を透過した透過光又は反射した反射光の光量(光強度)を測定するものである。受光器104は、測定した透過光又は反射光の光量データをコンピューター101に与えるものである。受光器104は、第1の実施形態では単一波長(狭帯域)の光の光量を計測する場合を例示し、例えばモノクロメータなどを適用することができる。
【0041】
水晶膜厚計105は、真空容器107に水晶振動子を設け、この水晶振動子に堆積する物質の重量増加に伴う共振周波数の減少量から膜厚を求めるものである。水晶膜厚計105は、検出した膜厚に応じて蒸発源用電源106の成膜速度を制御するようにしてもよい。
【0042】
蒸発源用電源106は、蒸発源112に対して電源電力を供給するものである。蒸発源用電源106は、成膜速度を調整するために、水晶膜厚計105からのフィードバック情報に基づき、蒸発源112に供給する電力値を調整するものである。
【0043】
シャッター113は、コンピューター101の制御を受けて開閉動作を行うものであり、蒸発源112からの成膜材料の飛散を開始したり終了させたりするものである。
【0044】
(A−2)第1の実施形態の動作
以下では、第1の実施形態の光学薄膜製造装置100の光学膜厚制御処理の動作について図面を参照しながら説明する。
【0045】
図3は、第1の実施形態の光学膜厚制御処理の動作を示すフローチャートである。
【0046】
まず、光学膜厚制御を行う際、操作者の手入力又は条件設定PC等から演算条件の入力が行われる(ステップS101)。
【0047】
ここで、入力される演算条件は、例えば、製品基板の屈折率や吸収率、成膜材料の予想屈折率や吸収率、目標光学膜厚(成膜停止条件)、光学膜厚制御に係るモデル式の選択等である。ここでは、式(1)に示すモデル式の選択入力や、媒質中の屈折率n、モニターガラス111の屈折率n、成膜材料の屈折率nなどが入力される。
【0048】
次に、投光器102又は103や受光器104の設定処理が行われ(ステップS102)、成膜材料の蒸発源112へのセットなどの準備が完了すると(ステップS103)、コンピューター101は、シャッター113に対してシャッター開信号を与え(ステップS104)、また受光器104から光量データを受け取る(ステップS105)。
【0049】
コンピューター101は、受光器104から入力された光量データ(検出光量)Iを用いて、非線形最小二乗処理を行い、屈折率及び物理膜厚を算出する(ステップS106)。
【0050】
つまり、モデル式(1)に各パラメータ(n、n、λ)を代入し、成膜材料の物理膜厚hの関数であるエネルギー透過率T(n,h)を算出する。そして、検出光量Iとエネルギー透過率T(n,h)とに基づき、式(3)に基づき二乗和Sが最小となる屈折率n及び膜厚hを求める。
【0051】
ここで、図4は、非線形最小二乗処理を説明するフローチャートである。二乗和Sが最小となる屈折率n及び膜厚hを求める方程式解法は、上述したように、最急降下法(最大傾斜法)、Newton法、Gauss−Newton法、Marquarrdt法などを適用できる。
【0052】
図4のステップS201では、モデル式を定義する。ここでは、y=f(q;x)とする。なお、yは光量、qは屈折率nや物理膜厚hを含む求めるパラメータ系列、xは時系列要素とする。
【0053】
次に、モデル式y=f(q;x)を微分を行い、ヤコビアン行列Aを求め(ステップS202)、修正ベクトルΔxを求める(ステップS203)。
【0054】
ステップS203のΔxの修正反復回数が2回以上でない場合(ステップS204)、縮小因子λの設定を行い(ステップS205)、ステップS202に戻り微分演算とΔxの修正処理を繰り返す。
【0055】
また、ステップS203のΔxの修正反復回数が2回以上である場合(ステップS204)、Δxが残差設定値以下であるか判断し(ステップS206)、残差設定値以下であるとき演算結果を出力する(ステップS207)。
【0056】
一方、ステップS206で残差設定値以下でないとき、残差が収束したか否かを判断する(ステップS208)。そして、残差が収束している場合、その演算結果を出力する(ステップS207)。残差が収束していない場合、修正反復回数が設定回数を超えているときには、エラー処理として出力し(ステップS210)、そうでないときには、縮小因子を設定して(ステップS205)、ステップS202に戻り微分演算とΔxの修正処理を繰り返す
このように非線形最小二乗処理を行うことで、検出光量Iとエネルギー透過率T(n,h)との二乗和Sが最小となる屈折率n及び膜厚hを求める。
【0057】
ステップS107において、コンピューター101は、非線形最小二乗処理でエラーが生じたか否かを判断し、エラーが生じた場合には、非線形最小二乗処理の初期値を再設定し(ステップS108)、再度非線形最小二乗処理を行う(ステップS106)。
【0058】
一方、エラーが生じない場合、コンピューター101は、二乗和Sが最小となる屈折率n及び膜厚hを取得する(ステップS109)。この屈折率nと膜厚hの積が目標光学膜厚(目標光学膜厚情報ともいう)である推定する。
【0059】
ここで、コンピューター101は、エネルギー透過率T(n,h)の一次微分方程式を演算して、式(4)が成立する時間を算出し、これをシャッター閉タイマーとしてセットする(ステップS110、S111)。この時間が目標光学膜厚hを成膜するまでに要する時間であるとして、この時間に基づいてコンピュータ101が予測制御を行う。
【0060】
そして、シャッター開信号を出力後、シャッター閉タイマーが読み出され(ステップS112)、現在の時刻がシャッター閉タイマー時刻に達したか否かを判断し(ステップS113)、現在の時刻がシャッター閉タイマー時刻に達した場合、コンピューター101は、シャッター閉信号をシャッター113に出力してシャッターを閉め(ステップS114)、成膜を終了させる(ステップS115)。
【0061】
(A−3)第1の実施形態の効果
以上のように、第1の実施形態によれば、非線形最小二乗法による極値制御により、目標光学膜厚を推定し、この目標光学膜厚に達するまでの時間を予測して成膜処理を行うことができる。
【0062】
その結果、再現性のよい極値制御を行えるので、製品の品質向上に大きく貢献できる。例えば、極値停止精度が製品品質に直接影響する、バンドパスフィルター(BPF)やハイパスフィルター(HPF)やローパスフィルター(LPF)等の品質が向上する。
【0063】
(B)第2の実施形態
次に、本発明の光学膜厚制御装置、方法及びプログラム、並びに光学薄膜製造装置の第2の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0064】
第2の実施形態は、第1の実施形態で求めた膜厚hが一定に増加し、かつ、堆積物質の屈折率nが正確に分かっている場合に、コンピューターが、予測する検出光量変化と実際の計測光量変化との比較結果に基づいて、蒸発源の投入電力をフィードバック制御することを特徴とする。
【0065】
(B−1)第2の実施形態の構成
図5は、第2の実施形態の光学薄膜製造装置の構成を示す構成図である。図5に示す第2の実施形態の光学薄膜製造装置200は、コンピューター201の処理及び蒸発源用電源202の処理、及び、水晶膜厚計を備えない点で第1の実施形態と異なる。
【0066】
そこで、第2の実施形態では、コンピューター201及び蒸発源用電源202を中心に説明し、それ以外の構成要素の説明は割愛する。
【0067】
コンピューター201は、第1の実施形態のコンピューター101と同様に、光学薄膜製造装置201の動作処理を司るものである。
【0068】
また、コンピューター201は、光学膜厚制御装置に対応するものである。コンピューター201は、第1の実施形態で説明した非線形最小二乗法による光学膜厚制御(光学膜厚の予測制御)を行う。
【0069】
さらに、コンピューター201は、予測した検出光量変化と実測の計測光量変化との比較結果に基づいて蒸発源用電源202の投入電力をフィードバック制御するものである。
【0070】
ここで、コンピューター201による蒸発源用電源202のフィードバック制御の方法について説明する。
【0071】
例えば、コンピューター201は、式(1)〜(3)等を用いて物理膜厚hを求めるが、物理膜厚hが一定に増加し、かつ、堆積物質の屈折率nが正確に分かっている場合、式(1)〜(3)等を用いて検出光量変化を逆算し、検出光量変化を予測することができる。
【0072】
コンピューター201は、この予測した検出光量変化と、実際に計測した計測光量変化とを比較し、その比較結果に応じて成膜速度を調整し、その成膜速度に応じたフィードバック量を求め、蒸発源用電源202に成膜速度フィードバック情報を出力する。
【0073】
このように、コンピューター201は、検出光量変化を予測することができるので、予測する検出光量変化と実際の計測光量変化とを比較して求めた差異から、蒸発源の投入電力をフィードバック制御して、水晶膜厚計なしに精度の高い膜厚を制御することができる。
【0074】
蒸発源用電源202は、コンピューター201からの成膜速度フィードバック情報に基づく電力値を蒸発源112に供給するものである。
【0075】
(B−2)第2の実施形態の動作
次に、第2の実施形態の光学薄膜製造装置200の光学膜厚制御処理の動作について図面を参照しながら説明する。
【0076】
図6は、第2の実施形態の光学膜厚制御処理の動作を示すフローチャートである。また図7は、成膜速度演算処理を説明するフローチャートである。
【0077】
図6において、ステップ101〜ステップ115に示す光学膜厚制御の基本処理は、第1の実施形態と同じ処理である。
【0078】
ステップS111でシャッター閉タイマーをセットすると、コンピューター201は成膜速度演算ルーチンを実行する(ステップS301)。
【0079】
図7において、コンピューター201は、非線形最小二乗処理に得られた時系列データxを逐次記憶する。また、コンピューター201は、非線形最小二乗法により推測されたパラメータを式(5)に代入して算出した成膜速度Rを逐次記憶する(ステップS401)。
【数4】

【0080】
式(5)は、非線形最小二乗法により推測されたパラメータを用いて成膜速度を求める演算式である。Rは成膜速度、xは最新の時系列データ、xi−1は、前回の時系列データ、n(バー)は堆積物質の屈折率の平均値、hは最新の物理膜厚、hi−1は前回の物理膜厚を示す。
【0081】
ここで、物理膜厚の成膜過程が一定に堆積するものであり、かつ、堆積物質の屈折率nが分かっている場合、コンピューター201は、式(1)〜(3)を用いて検出光量変化を逆算して予測することができる。
【0082】
そして、コンピューター201は、受光器104からの光量データに基づく実際の計測光量変化と予測した検出光量変化とを比較し、その光量変化の差分を用いてその時点での膜厚hを求めることができる。コンピューター201は、この膜厚hも逐次記録しておき、式(5)にこれを代入することで成膜速度Rを算出する。
【0083】
次に、コンピューター201は、ステップS401でも求めた成膜速度Rに調整するために、例えば一般的なPID制御式(式(6)参照)を用いて、フィードバック量を演算する(ステップS402)。
【数5】

【0084】
式(6)は、一般的なPID制御式であり、蒸発源用電源202を制御する制御値を求める式である。Vは蒸発源出力制御値、Vは蒸発源出力制御値の初期値、eは目標成膜速度Rからの偏差、Kは比例ゲイン、Tは積分時間、Tは微分時間である。
【0085】
式(6)では、目標とする成膜速度Rからの偏差eを代入することにより、蒸発源出力制御値Vを求めることができる。
【0086】
このようにして、蒸発源用電源202の制御値を算出すると、コンピューター201は、これを成膜速度フィードバック情報として蒸発源用電源202に出力する(ステップS302)。
【0087】
(B−3)第2の実施形態の効果
以上のように、第2の実施形態によれば、第1の実施形態の効果に加えて、蒸発源への投入電力のフィードバック制御ができるので、水晶膜厚計を用意しなくても精度の高い膜厚制御を行うことができる。
【0088】
その結果、成膜速度制御用の高価な水晶膜厚計が必要なくなったり、水晶振動子の供給そのものが必要なくなり、大きなコスト削減が可能になる。また、バッチ式真空蒸着装置はもとよりインライン型真空蒸着装置等の連続多層膜製造装置の稼働時間を延長することが可能になりタットの増加によるコスト削減が可能になる。
【0089】
(C)第3の実施形態
次に、本発明の光学膜厚制御装置、方法及びプログラム、並びに光学薄膜製造装置の第3の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0090】
第1及び第2の実施形態では、受光器が単一波長の光量計測を行う場合の実施形態を例示したが、第3の実施形態では、受光器が複数波長(例えば、300nm〜1100nmの連続波長)の光量計測を行う場合を例示する。
【0091】
(C−1)第3の実施形態の構成及び動作
図8は、第3の実施形態の光学薄膜製造装置の構成を示す構成図である。図8に示す第3の実施形態の光学薄膜製造装置300は、コンピューター301の処理、複数波長の光量計測が可能な受光器302を備える点が、第1及び第2の実施形態と異なる。
【0092】
そこで、第3の実施形態では、コンピューター301及び受光器302を中心に説明し、それ以外の構成要素の説明は割愛する。
【0093】
なお、図8に示す光学薄膜製造装置300は、受光器104も備えており、受光器104又は受光器302のいずれかを切り替えもしくは同時使用可能である。例えば、ミラー等の光路切替素子により、受光器104又は受光器302までの光路を切り替えたりハーフミラー等で同時使用することができる。
【0094】
受光器302は、複数波長(例えば、300nm〜1100nm)の光量を計測可能なものであり、例えば、広帯域分光器を適用することができる。受光器302は、複数波長の光の光量を計測すると、各波長の光量データをコンピューター301に与えるものである。
【0095】
コンピューター301は、受光器302から複数波長の光量データを受け取り、これら各波長の光量データに基づいて各波長の透過率又は反射率を求め、非線形最小二乗法を用いた光学膜厚を推定し、光学膜厚制御を行うものである。
【0096】
また、コンピューター301は、非線形最小二乗法により推定されたパラメータを用いて調整する成膜速度を算出し、その成膜速度に応じたフィードバック量を求め、蒸発源用電源202に成膜速度フィードバック情報を出力するものである。この成膜速度調整方法の基本な方法は、第2の実施形態で説明した方法を適用できる。
【0097】
ここで、複数波長の検出光量データから非線形最小二乗法による光学膜厚制御方法について説明する。
【0098】
コンピューター301は、分光器302から各波長の検出光量データを受け取ると、例えば、セルマイヤーの屈折率分散式(式9)やコーシーの分散式(式10)、また一般的によく使われるこれらの分散近似式(式11)等の分散モデル式によって与えられる屈折率から物理膜厚hを精度よく求めることができる。
【0099】
光量を計測した瞬間の各波長λのエネルギー透過率Tが式(7)で与えられ、媒質中の屈折率n及び基板屈折率nが分かっており、分散モデル式(式11)を適用すると、エネルギー透過率Tは、A、B、λ、hの関数となる。
【数6】

【0100】
そして、コンピューター301は、式(12)に従って、受光器302からの検出光量とエネルギー透過率Tとの二乗和をSを求め、この二乗和Sが最小となるように、A、B、A、B、A、B、hを求める。
【0101】
成膜中においては、h以外のパラメータは殆ど変化しないので、実質hを精度良く求めることができる。
【0102】
また、この算出された膜厚hの単位時間当たりの変化が直接成膜速度になるため、例えばPID制御などで蒸発源112への投入電力を蒸発源用電源202にフィードバック制御や、第1の実施形態の光学膜厚制御に係る式(4)に代入し極値制御を行うことが可能になり、水晶膜厚計なしに精度の高い膜厚制御が可能となる。
【0103】
なお、基本的に堆積物質の屈折率が分からなくても算出することができる。
【0104】
(C−2)第3の実施形態の効果
以上のように、第3の実施形態によれば、第1及び第2の実施形態の効果に加えて、制約条件(例えば、堆積物質の正確な屈折率や成膜速度の一定など)なく、屈折率分散n(λ)及び物理膜厚hを精度良く求めることができる。また屈折率分散は成膜中のコンディションで変化し易いので逆を言えばこの値を管理することで生産安定性におおきく貢献できる
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】第1の実施形態の光学薄膜製造装置の構成を示す構成図である。
【図2】検出光量と時間との関係を示す関係図である。
【図3】第1の実施形態の光学膜厚制御処理の動作を示すフローチャートである。
【図4】第1の実施形態の非線形最小二乗処理の動作を示すフローチャートである。
【図5】第2の実施形態の光学薄膜製造装置の構成を示す構成図である。
【図6】第2の実施形態の光学膜厚制御処理の動作を示すフローチャートである。
【図7】第2の実施形態の成膜速度演算処理の動作を示すフローチャートである。
【図8】第3の実施形態の光学薄膜製造装置の構成を示す構成図である。
【図9】第1の実施形態の目標膜厚までの到達時間を算出する処理を説明する説明図である。
【符号の説明】
【0106】
100、200及び300…光学薄膜製造装置、
101、201及び301…コンピューター、
102…投光器(透過測定用)、103…投光器(反射測定用)、
104…受光器(モノクロメータ)、302…受光器(広帯域分光器)、
105…水晶膜厚計、106、202…蒸発源用電源、
107…真空容器、108…ウインドウ、109…ウインドウ、
110…ドーム、111…モニターガラス、112…蒸発源、113…シャッター。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器内に成膜材料を飛散させ、基板に上記成膜材料を堆積させて光学薄膜を製造する光学薄膜製造装置の光学膜厚制御装置において、
所定の非線形モデル式により推測される透過率と、成膜する膜に照射した測定光に対して受光器が計測した透過光又は反射光の検出光量値とに基づいて、目標光学膜厚情報を推定する目標光学膜厚推定手段と、
上記目標光学膜厚情報までの到達時間を予測し、この到達時間に達したときに成膜終了させる予測制御手段と
を備えることを特徴とする光学膜厚制御装置。
【請求項2】
上記目標光学膜厚推定手段は、上記透過率及び上記検出光量値の差の二乗和が最小となるように非線形最小二乗和処理を行い、当該二乗和が最小となる膜厚及び光学パラメータを上記目標光学膜厚情報として推定するものであることを特徴とする請求項1に記載の光学膜厚制御装置。
【請求項3】
上記受光器が単一波長の光量値を計測するものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学膜厚制御装置。
【請求項4】
上記受光器が複数波長の各光量値を計測するものであり、
上記目標光学膜厚推定手段が、所定の非線形モデル式を用いて、屈折率分散により与えられる各波長の屈折率から各波長の透過率を推測し、この各波長の透過率と上記受光器からの各波長の検出光量値とに基づいて、目標光学膜厚情報を推定するものである
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の光学膜厚制御装置。
【請求項5】
上記非線形最小二乗和処理で求められたパラメータを用いて推測される検出光量変化と、上記受光器が計測した実測検出光量変化との比較結果に基づいて成膜速度を調整する成膜速度調整手段を備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の光学膜厚制御装置。
【請求項6】
容器内に成膜材料を飛散させ、基板に上記成膜材料を堆積させて光学薄膜を製造する光学薄膜製造装置の光学膜厚制御方法において、
目標光学膜推定手段が、所定の非線形モデル式により推測される透過率と、成膜する膜に照射した測定光に対して受光器が計測した透過光又は反射光の検出光量値とに基づいて、目標光学膜厚情報を推定する目標光学膜厚推定工程と、
予測制御手段が、上記目標光学膜厚情報までの到達時間を予測し、この到達時間に達したときに成膜終了をさせる予測制御工程と
を有することを特徴とする光学膜厚制御方法。
【請求項7】
容器内に成膜材料を飛散させ、基板に上記成膜材料を堆積させて光学薄膜を製造する光学薄膜製造装置の光学膜厚制御プログラムにおいて、
コンピューターを、
所定の非線形モデル式により推測される透過率と、成膜する膜に照射した測定光に対して受光器が計測した透過光又は反射光の検出光量値とに基づいて、目標光学膜厚情報を推定する目標光学膜厚推定手段、
上記目標光学膜厚情報までの到達時間を予測し、この到達時間に達したときに成膜終了をさせる予測制御手段
として機能させることを特徴とする光学膜厚制御プログラム。
【請求項8】
容器内に成膜材料を飛散させ、基板に上記成膜材料を堆積させて光学薄膜を製造する光学薄膜製造装置において、上記基板の成膜を制御する光学膜厚制御装置が請求項1〜5のいずれかに記載の光学膜厚制御装置であることを特徴とする光学薄膜製造装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2010−138463(P2010−138463A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−317385(P2008−317385)
【出願日】平成20年12月12日(2008.12.12)
【出願人】(508367418)ケイツー・テクノロジー株式会社 (1)
【Fターム(参考)】