説明

光学表面膜の除去方法

【課題】 光学面に表面膜が設けられたプラスチック光学素子の表面膜をプラスチック光
学素子の光学面を損なわずに除去できる光学表面膜の除去方法を提供する。
【解決手段】 化学的な薬液浸漬処理と機械的な研磨処理を併用して表面膜を除去する。
薬液浸漬処理によってプラスチック光学素子の光学面が浸食される前に表面膜が残ってい
る状態で浸漬処理を止め、薬液処理により軟化している残存している表面膜は研磨処理で
擦り落として除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックレンズなどのプラスチック光学素子の光学面に設けられている
表面膜の除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックレンズは、ガラスレンズに比べ軽量で、成形性、加工性、染色性が良く、
割れ難く安全性も高いため、眼鏡レンズの分野で広く用いられている。しかし、プラスチ
ックレンズは軟質で非常に傷つきやすいため、プラスチックレンズの表面に硬度の高いハ
ードコート膜を設け、耐擦傷性の向上を図っている。さらには表面反射を防止する目的で
ハードコート膜の表面に無機物質を蒸着した反射防止膜を設けている場合もある。このハ
ードコート膜は、耐擦傷性の付与の他、反射防止膜などの蒸着膜との密着性向上、染色性
の安定化等多くの機能を付与する加工であるため、プラスチックレンズでは極めて有用で
ある。また、ハードコート膜や反射防止膜の表面処理を施したプラスチックレンズは、耐
衝撃性が低下するという欠点があり、耐衝撃性を改善するために、更に、プラスチックレ
ンズ基材とハードコート膜との間にプライマー膜を設けることがある。
【0003】
プラスチックレンズ基材の光学面表面のこれらの表面膜は、プラスチックレンズ基材が
製造された後に設けられる。そのため、これらの表面膜を設ける工程で例えばハードコー
ト膜にポツが発生したり液だれ等の外観不良品が発生すると、プラスチックレンズ基材は
高価であるため、設けた表面膜を除去してプラスチックレンズ基材を再利用することが必
要である。
【0004】
表面膜を除去する方法として、下記の特許文献1に示すように、オルガノポリシロキサ
ン系硬化被膜に対してアルカリ水溶液に浸漬する方法が提案されている。実際に、アルカ
リ水溶液にプラスチックレンズ基材を浸漬処理するだけで表面膜を除去することができる

【特許文献1】特公平2−36309号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、プラスチックレンズ基材の素材の種類によっては、アルカリ水溶液に浸
漬したときに、表面膜のみならずプラスチックレンズ基材が浸食され、光学面が肌荒れの
ような状態になってしまうことが認められる。このような表面状態になると、通常のプラ
スチック製品と異なって光学面としての機能が損なわれ、プラスチックレンズ基材を再利
用することができなくなる。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、光学面に表面膜が設けられたプラスチッ
ク光学素子の表面膜をプラスチック光学素子の光学面を損なわずに除去できる光学表面膜
の除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するため、第1に、光学面を有し、前記光学面上に設けられ
た表面膜を有するプラスチック光学素子の前記表面膜を剥離する薬液中に、前記プラスチ
ック光学素子を浸漬する浸漬工程と、前記薬液中から前記プラスチック光学素子を引き上
げ、透過光又は反射光により前記プラスチック光学素子の表面状態を観察する観察工程と
、前記観察工程において前記表面膜が前記プラスチック光学素子から剥離し前記プラスチ
ック光学素子の光学面の一部が露出した状態が観察されるときに、研磨剤を介して前記プ
ラスチック光学素子の表面を研磨して前記表面膜を除去する研磨処理工程とを有し、前記
浸漬工程及び前記観察工程を、前記観察工程において前記プラスチック光学素子の光学面
の一部が露出した状態が観察されるまで繰り返し行うことを特徴とする光学表面膜の除去
方法を提供する。
【0008】
本発明の光学表面膜の除去方法は、化学的な薬液浸漬処理と機械的な研磨処理を併用し
て表面膜を除去するものである。薬液浸漬処理によってプラスチック光学素子の光学面が
浸食される前に表面膜が残っている状態で薬液処理を止め、薬液処理により軟化している
残存している表面膜は研磨処理で容易に擦り落として除去できる。これによって、薬液浸
漬処理だけの場合のプラスチック光学素子の光学面に対する浸食を防止しながら短時間で
表面膜を完全に除去することが可能になった。更に、反射光または透過光によりプラスチ
ック光学素子の表面を観察することにより、プラスチック光学素子の表面状態が、光学面
の一部が露出した状態であるかについて確認することができる。
【0009】
本発明は、第2に、上記第1の光学表面膜の除去方法において、前記表面膜が、オルガ
ノポリシロキサン系硬化被膜を有し、前記薬液が、アルカリ水溶液であることを特徴とす
る光学表面膜の除去方法を提供する。
オルガノポリシロキサン系硬化皮膜を剥離する薬液としてアルカリ水溶液は効果的であ
るが、プラスチック光学素子の表面を浸食するおそれも高く、本発明の併用方法が有効で
ある。
【0010】
本発明は、第3に、上記第1又は2の光学表面膜の除去方法において、前記プラスチッ
ク光学素子が、ウレタン系樹脂で構成されていることを特徴とする光学表面膜の除去方法
を提供する。
ウレタン系樹脂は、アルカリ水溶液で浸食され、光学面が損なわれる可能性が高いため
、本発明の併用方法が有効である。
【0011】
本発明は、第4に、上記第1〜3いずれかの光学表面膜の除去方法において、前記表面
膜が、プライマー膜、ハードコート膜及び反射防止膜のいずれか1つ以上で構成されてい
ることを特徴とする光学表面膜の除去方法を提供する。
本発明の光学表面膜の除去方法は、プラスチック光学素子の光学面に設けられるこれら
の表面膜を除去する方法として有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の光学表面膜の除去方法の実施の形態について説明するが、本発明は以下
の実施の形態に限定されるものではない。
本発明の光学表面膜の除去方法は、プラスチック光学素子の光学面に設けられている表
面膜を除去してプラスチック光学素子を再利用するに際し、表面膜を化学的な薬液浸漬処
理と機械的な研磨処理とを併用して除去するものである。
【0013】
本発明の光学表面膜の除去方法の対象となるプラスチック光学素子としては、光透過性
プラスチック製のレンズ、プリズム、光透過性プラスチック製の各種機器の表示装置の前
面に配置されるカバーなどの光学素子を例示することができる。光透過性プラスチックの
素材としては、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、メタク
リル樹脂、(チオ)ウレタン系樹脂、チオエポキシ樹脂、アリルカーボネート樹脂等、光
学物品に用いられている樹脂を例示することができる。
【0014】
これらの中でも、薬液浸漬処理に汎用されるアルカリ水溶液に浸食され易い(チオ)ウ
レタン系樹脂に対して本発明の光学表面膜の除去方法を適用することが好ましい。チオウ
レタン系樹脂は、m−キシリレンジイソシアナートに例示される2個以上のイソシアナー
ト基を有するポリイソシアナートと2個以上の活性水素を有する化合物とを主成分とする
重合性モノマーを重合させて得られる。重合性モノマーを構成する2個以上の活性水素を
有する化合物としては、例えば2個以上の水酸基を有するポリオール、4−メルカプトメ
チル−3,6−ジチオ−1,8−オクタンジチオールで例示される2個以上のチオール基
を有するポリチオール、または1分子中に水酸基とチオール基を各々1個以上有する化合
物が用いられる。ポリイソシアナート化合物と活性水素の混合割合は、イソシアナート基
(NCO)と活性水素(H)の割合がNCO/H(モル比)=0.5〜3.0、特に0.
5〜1.5の範囲が好ましく用いられる。
【0015】
プラスチック光学素子の光学面に設けられる表面膜としては、プラスチック光学素子の
光学面に耐擦傷性を付与するハードコート膜が挙げられる。また、表面の反射を抑制する
反射防止膜がハードコート膜の上に設けられる場合がある。さらに、脆いプラスチック光
学素子の耐衝撃性を改善するプライマー膜が、プラスチック光学素子とハードコート膜の
間に設けられる場合がある。表面膜の形成の順序は、まずプライマー膜が設けられ、その
上にハードコート膜、更に反射防止膜が設けられる。そのため、除去する表面膜としては
、除去すべき表面膜が発生した製造工程で決定されるが、プライマー膜単独、ハードコー
ト膜単独、プライマー膜とハードコート膜の2層、プライマー膜とハードコート膜と反射
防止膜の3層、ハードコート膜と反射防止膜の2層の場合が挙げられる。
【0016】
ハードコート膜としては、平均粒径1〜100nmの無機酸化物微粒子が配合されたオ
ルガノポリシロキサン系硬化皮膜が一般的である。このオルガノポリシロキサン系硬化被
膜は、次の一般式(1)で表される有機ケイ素化合物を主成分とする硬化性組成物を硬化
させて得られる
SiX4−a―b ・・・(1)
但し、式中、Rは重合可能な反応基を有する有機基、Rは炭素数1〜6の炭化水素
基、Xは加水分解可能な官能基であり、aは0又は1、bは0又は1である。
【0017】
上記一般式(1)中のRの重合可能な反応基を有する有機基としては、例えばビニル
基、アリル基、アクリル基、メタクリル基、エポキシ基、メルカプト基、シアノ基、アミ
ノ基等が挙げられる。Rの炭素数1〜6の炭化水素基の具体例としては、メチル基、エ
チル基、ブチル基、ビニル基、フェニル基等が挙げられる。また、Xの加水分解可能な官
能基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、メトキシエトキシ基等のアルコキシ基
、クロロ基、ブロモ基等のハロゲン基、アシルオキシ基等が挙げられる。
【0018】
一般式(1)で示される有機ケイ素化合物の具体例としては、ビニルトリアルコキシシ
ラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β−メトキシ−エトシキ)シラン、アリル
トリアルコキシシラン、アクリルオキシプロピルトリアルコキシシラン、メタクリルオキ
シプロピルトリアルコキシシラン、メタクリルオキシプロピルジアルコキシメチルシラン
、γ−グリシドオキシプロピルトリアルコキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘ
キシル)−エチルトリアルコキシシラン、メルカプトプロピルトリアルコキシシラン、γ
−アミノプロピルトリアルコキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピル
メチルジアルコキシシラン、テトラアルコキシシラン等が挙げられる。この有機ケイ素化
合物は2種以上混合して用いてもよい。また、この有機ケイ素化合物は、加水分解をおこ
なってから用いた方がより有効である。
【0019】
ハードコート膜を形成する硬化性組成物には、染色性を付与するための多官能性エポキ
シ化合物等の染色成分、硬化触媒などが配合されていても良い。ハードコート膜の膜厚は
、一般に0.05〜30μmの範囲である。ハードコート膜が浸漬法によって塗装される
場合、プラスチック光学素子が複数の光学面を有するときは全ての光学面に同時にハード
コート膜が形成される。
【0020】
反射防止膜としては、無機被膜、有機被膜の単層または多層で構成される。無機被膜と
有機被膜との多層構造もある。無機被膜の材質としては、SiO、SiO、ZrO
TiO、TiO、Ti、Ti、Al、Ta、CeO、Mg
O、Y、SnO、MgF、WO等の無機物が挙げられ、これらを単独でまた
は2種以上を併用して用いられる。これらの中では、低温で真空蒸着が可能なSiO
ZrO、TiO、Taが好ましく用いられる。無機被膜の成膜方法は、例えば
真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、CVD法、飽和溶液中での化
学反応により析出させる方法等である。
【0021】
有機被膜の材質は、例えばFFP(テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレ
ン共重合体)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、ETFE(エチレン−テトラ
フルオロエチレン共重合体)等を挙げることができ、プラスチック光学素子やハードコー
ト膜の屈折率を考慮して選定される。成膜方法は、真空蒸着法の他、スピンコート法、デ
ィップコート法などの量産性に優れた塗装方法で成膜される。蒸着法などの物理的成膜法
では反射防止膜の光学面毎に逐次成膜される場合が多い。
【0022】
また、プライマー膜としては、耐衝撃性の改善が顕著なポリエステル系熱可塑性エラス
トマーを主成分とするものを挙げることができる。ポリエステル系熱可塑性エラストマー
としては、特開2000−144048号に記載されているものを例示することができる
。プライマー膜の膜厚は0.01〜50μmの範囲である。プライマー膜にも、屈折率調
節のために平均粒径1〜100nmの無機酸化物微粒子が配合されている場合がある。プ
ライマー膜も、浸漬法によって塗装される場合は全ての光学面に同時に形成される。
【0023】
このような表面膜を光学面に有するプラスチック光学素子の表面膜をプラスチック光学
素子の光学面になるべく影響を与えないで除去する方法として、本発明では、まず、図1
(a)に示すように、表面膜を剥離する薬液Lにプラスチック光学素子1を浸漬し、表面
膜を薬液で全部除去せずに部分的に除去する程度に留める浸漬工程を行う。
【0024】
表面膜を剥離する薬液としては、ハードコート膜を構成するオルガノポリシロキサン系
硬化皮膜を剥離するアルカリ水溶液を例示することができる。その他にハードコート膜等
の表面膜を剥離できる薬液も勿論使用可能である。アルカリ水溶液はオルガノポリシロキ
サン系硬化皮膜を剥離できるだけでなく、プライマー膜も剥離させることができる。また
、無機蒸着膜で構成される場合の反射防止膜だけを例えば弗酸などを用いて剥離するよう
にしてもよい。しかし、無機蒸着膜は多孔質であり、アルカリ水溶液は多孔質の反射防止
膜を通り抜けてハードコート膜を剥離させることができ、ハードコート膜を剥離させるこ
とにより、反射防止膜を除去できるため、反射防止膜だけを除去する必要はない。
【0025】
アルカリ水溶液としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸
化カルシウム、アンモニアなどを例示することができる。アルカリ水溶液の濃度は2〜4
0重量%、浸漬時間は数分〜数時間、浸漬温度は常温〜90℃の範囲であるが、観察工程
において表面膜の状態を観察しながら決定することが好ましい。アルカリ水溶液には界面
活性剤などの添加剤を含有させることができる。
【0026】
表面膜を薬液で全部除去せずに部分的に除去する程度に留めるため、観察工程が必要と
なる。観察工程では、所定の浸漬時間経過後に薬液中からプラスチック光学素子を引き上
げ、レンズ表面へ光を当て、その反射光を目視により、プラスチック光学素子の表面状態
を確認する。この方法によれば、レンズ表面に表面膜が残存する部分は、反射光により必
ず干渉縞となって現れる。そのため、目視により干渉縞が存在する部分と存在し無い部分
とを容易に識別することが可能である。また、レンズ表面に光を当て、その透過光を目視
で観察することにより、表面膜の残存状態を識別することも可能である。
【0027】
以上により、プラスチック光学素子の表面状態が、表面膜が剥離し、プラスチック基材
の光学面の一部が露出した状態であるかどうか、について確認することが可能である。そ
して、観察工程において、前記表面膜の一部が残存する状態が観察されるまで浸漬工程及
び観察工程を繰り返し行う。
【0028】
浸漬工程を終了する時点は、表面膜の少なくとも一部が残っている状態である。表面膜
を全て薬液で剥離させると、プラスチック光学素子の光学面が薬液で浸食されるおそれが
ある。表面膜の一部が剥離してプラスチック光学素子の光学面のごく一部が露出したとき
又は露出する前にプラスチック光学素子を薬液から引き上げ、プラスチック光学素子の表
面に付着している薬液を洗い流して薬液による剥離を停止させる。
【0029】
浸漬工程後のプラスチック光学素子の光学面に残存している表面膜は、薬液である程度
剥離され硬度が低下しているが、機械的に容易に剥離する状態ではなく、次の研磨処理工
程において研磨剤で擦り落とすことによって除去できる程度の硬度である。浸漬工程を経
ずに研磨処理工程だけで表面膜を擦り落とそうとすると、膨大な時間が必要になり、現実
的でないと共に、累進屈折面のような複雑な曲面を有する場合には均一な研磨が困難であ
り、プラスチック光学素子の光学面の再生ができなくなるおそれがある。
【0030】
研磨処理工程は、図1(b)及び図1(c)に示す研磨装置を用いて、プラスチック光
学素子の光学面を研磨剤を介して研磨することにより、残存している光学膜を擦り落とし
て除去するものである。図1では、プラスチック光学素子としてメニスカス形状のプラス
チック眼鏡レンズを例にして図示してある。眼鏡レンズには凸面と凹面とがあり、それぞ
れが光学面となっている。図1(b)では、凸面研磨用の研磨装置101で凸面を研磨し
ている状態、図1(c)では、凹面研磨用の研磨装置102で凹面を研磨している状態を
示している。
【0031】
図1(b)及び図1(c)を参照しながら、研磨処理工程で用いる研磨装置101、1
02について説明する。この凸面研磨用の研磨装置101と凹面研磨用の研磨装置102
は、弾性研磨体の形状が異なるだけで基本的な構造は同一である。研磨装置101、10
2はレンズ保持部200と弾性研磨部300とを備える。レンズ保持部200は円筒状の
保持管201の上端に保持管201の中空部と連通している同軸の吸着チャック202を
備えている。吸着チャック202は図示しない真空装置に保持管201を介して連結され
、レンズ1の下面側を吸着保持する。保持管201は上下方向に昇降可能になっている。
【0032】
レンズ1の凸面を研磨する弾性研磨体301は、図1(b)に示すように、ほぼ円柱型
の形状になっており、下面がレンズ1の凸面全体にほぼ密着するように平らかやや窪んで
いる形状となっている。レンズ1の凹面を研磨する弾性研磨体302は、図1(c)に示
すように、円柱型で下面がレンズ1の凹面のほぼ全体に密着するようにドーム状に丸く形
成されている。弾性研磨体301,302の上面はほぼ同じ直径の円盤形の固定板310
に一体に接合され、固定板310の中央には中空の回転軸311が垂直向きに取り付けら
れ、弾性研磨体301,302は回転軸311を中心として回転可能に保持され、図示し
ないモーターで回転駆動されるようになっている。固定板310の中央部には、回転軸3
11の中空と弾性研磨体301,302とを連通させる通水口313が穿設されている。
【0033】
弾性研磨体301,302としては、液体透過性の研磨用スポンジを用いることができ
る。材質としてはPVA、ウレタン、PP等である。また、スポンジを成形する際に研磨
剤が分散されたPVA、ウレタン、PP等のスポンジを用いることができる。
【0034】
中空の回転軸311の中に研磨剤を含有するスラリーL1を供給できる図示しない供給
部が設けられている。弾性研磨体301,302の上端へ回転軸311を介して通水口3
13から供給されたスラリーL1は、弾性研磨体301,302を重力で通過して主にレ
ンズと接する下面から流出し、弾性研磨体301,302とレンズ1との間に供給される

【0035】
このような研磨装置101,102を用いた研磨方法は、プラスチックレンズ1の下面
をレンズ保持部200で吸着保持しながら、研磨剤を含むスラリーを弾性研磨体301,
302とプラスチックレンズ1上面との間に供給しながら、弾性研磨体301,302を
回転させつつ押し当ててプラスチックレンズ1の上面を研磨剤を介して研磨するものであ
る。弾性研磨体301,302がレンズ1への形状追随性が良好であり、しかも接触面積
が大きいため、均一で迅速な研磨が可能である。凸面研磨用の研磨装置101でレンズ1
の凸面の表面膜を除去し、凹面研磨用の研磨装置102で凹面の表面膜を除去する。弾性
研磨体301,302の回転数は30〜500rpmの範囲である。研磨時間は数秒から
数分程度であり、通常は30秒程度である。研磨剤としては、一般に研磨用として市販さ
れているものを使用することができる。例えば、Al、CeO、SiO、Si
O、ZrO、Cr等の金属酸化物、あるいはSiC、C等の炭化物を挙げること
ができる。プラスチックレンズ1に対しては、Al(アルミナ)を好ましく用いる
ことができる。研磨剤の粒径及び形状は、研磨対象であるプラスチック光学素子の材質、
形状及び表面膜の種類によって任意に決定される。研磨剤を水に分散したスラリーとして
用いるのは、弾性研磨体301,302とプラスチックレンズ1との間の摩擦熱を拡散さ
せるため、及び光学面への形状追随性を上げるためである。
【0036】
上記研磨処理工程では、レンズ1の凸面を先に研磨していたが、レンズ1の凹面を先に
研磨しても良く、また、表面膜が一方の面のみに形成されている場合は一方の面だけを研
磨してもよい。
【0037】
また、上記研磨装置では、レンズ保持部を固定としていたが、レンズ保持部を弾性研磨
体と逆方向に回転させるようにして、レンズと弾性研磨体との相対速度を上げるようにし
てもよい。この場合、レンズの回転中心と弾性研磨体の回転中心とをずらし、研磨残りが
ないようにすることが好ましい。
更に、弾性研磨体の形状は図示のものに限られず、例えば円柱型の弾性研磨体の側面で
研磨するようにしてもよい。
【実施例】
【0038】
<実施例1>
(1)チオウレタン系レンズ基材の作製
プラスチックレンズ原料として、m−キシリレンジイソシアナートを94g、ポリチオ
ールとして4−メルカプトメチル−3,6−ジチオ−1,8−オクタンジチオール87g
を十分に撹拌、混合して均一にした後、内部離型剤としてZelecUN(stepan
社)0.15g、紫外線吸収剤としてViosorb583(共同薬品製)0.09gを
添加して撹拌して、完全に溶解させた。その後、重合触媒としてジブチル錫ジクロライド
0.02gを加えて、常温で良く攪拌して溶解させた後、5mmHgに減圧して攪拌しな
がら30分間脱気を行った。この原料を、テープにて外周部を封止した2枚のレンズ成形
用ガラスモールド中に注入し、25℃から120℃まで20時間かけて昇温させて重合硬
化させた。その後、ガラス型から硬化したプラスチックレンズを離型し、120℃で2時
間加熱してアニール処理を行った。このとき、レンズの度数は、−6Dとなる様なガラス
型を使用した。
(2)ハードコート用組成物の調製および塗布硬化
ブチルセロソルブ100部、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン155部を
混合し十分に撹拌して均一にした。この混合液に0.1N塩酸水溶液43部を撹拌しなが
ら滴下し、さらに室温で4時間撹拌後、冷蔵庫に入れて一昼夜熟成させた。その後、シリ
コーン系界面活性剤「L−7001」(日本ユニカー製)0.3部を添加し、撹拌した後
、メタノール分散二酸化チタン/二酸化ジルコニウム/二酸化ケイ素複合微粒子ゾル(触
媒化成工業製 固形分濃度20重量%)700部を混合して、十分に撹拌した。さらに、
Fe(III)アセチルアセトネート0.7部を添加したあと室温で3時間撹拌し、その
後冷蔵庫で一昼夜熟成させたものをハードコート用組成物として使用した。このハードコ
ート組成物を、上記(1)で得られたプラスチックレンズ上に浸漬法(引き上げ速度18
cm/min)にて塗布し、塗布したレンズを80℃で20分間風乾した後、120℃
で120分間焼成を行い、レンズ生地上に膜厚2.0〜2.2μmのオルガノポリシロキ
サン系ハードコート膜を形成した。
(3)乾式法による反射防止膜の形成
上記(2)で得られたハードコート膜を形成したプラスチックレンズ基材上に以下の手
法によって反射防止膜を設けた。ハードコート膜を形成したプラスチックレンズを真空中
に200Wの出力のアルゴンガスプラズマ中に30秒間暴露させた後、真空蒸着法によっ
てレンズ側からSiO、ZrO、SiO、ZrO、SiO、の5層の薄膜を形
成した。形成された反射防止膜の光学膜厚は、レンズ側から順番に、最初のSiOが約
λ/4、次のZrOとSiOの合計膜厚が約λ/4、次のZrOが約λ/4、最上
層のSiOが約λ/4である。このときの設計波長λは520nmとした。さらに反射
防止膜上に含フッ素シラン化合物からなる撥水膜を真空蒸着法により成膜した。
(4)硬化膜付きレンズの再生
(4−1)アルカリ系薬液への浸漬
水1000gにパクナ100(ユケン工業(株)製、NaOHと界面活性剤で構成)7
0gを溶解させた後、液温を50℃としたアルカリ系薬液に上記(3)で得られたレンズ
を1H浸漬した後、該レンズを水洗いした。薬液浸漬後のレンズには大部分の表面膜が残
存していた。
(4−2)研磨剤による表面研磨
アルミナ系研磨剤WA((株)フジミインコーポレーテッド製)100gを水400g
に撹拌分散させた研磨液をウレタン系スポンジに0.5cc/秒のスピードで滴下しなが
ら、図1に示した凸面研磨用の研磨装置101と凹面研磨用の研磨装置102を使用して
、レンズ凸面、凹面を順に表面研磨した。この時のスポンジ回転数は200rpmであっ
た。また、研磨時間は各面30秒で行った。研磨後、該レンズを水洗いと乾燥し、硬化膜
を除去したレンズを得た。
再生したレンズには、表面膜は残っておらず、光学面には浸食された形跡が認められな
かった。
【0039】
<実施例2>
(1)チオウレタン系レンズ基材の作製
実施例1と同じプラスチックレンズを作製した。
(2)プライマー膜およびハードコート膜の形成
(2−1)プライマー用組成物の調製および塗布硬化
市販のポリエステル樹脂「A−160P」(高松油脂製、水分散エマルション、固形分
濃度25%)100部に酸化チタン系複合微粒子「オプトレイク1130F−2(A−8
)」(触媒化成工業製、Fe/TiO=0.02、SiO2/TiO=0.1
1、粒径 10nm、固形分濃度 30%、分散溶媒 メチルアルコール、表面処理 テ
トラエトキシシラン)84部、希釈溶剤としてメチルアルコール640部、レベリング剤
としてシリコーン系界面活性剤「SILWET L−77」(日本ユニカー製)1部を混
合し、3時間撹拌し、これをプライマー用組成物とした。このプライマー用組成物を、上
記プラスチックレンズに浸漬法(引き上げ速度20cm/min)にて塗布し、塗布した
レンズを100℃で15分間加熱硬化処理してレンズ上に膜厚0.8〜0.9μmのポリ
エステル系プライマー膜を形成させた。
(2−2)ハードコート用組成物の調整および塗布硬化
ブチルセロソルブ144部、メタノール分散二酸化チタン/二酸化ジルコニウム/二酸
化ケイ素複合微粒子ゾル(触媒化成工業製 固形分濃度20重量%)603部を混合した
後、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン170部を混合し、十分に撹拌した。
この混合液に0.05N塩酸水溶液60部を撹拌しながら滴下し、さらに4時間撹拌後、
一昼夜熟成させ、その後Fe(III)アセチルアセトネート0.2部、シリコーン系界
面活性剤「L−7001」(日本ユニカー製)0.3部を添加し、室温で4時間撹拌後、
冷蔵庫内で1昼夜熟成させてハードコート用組成物として使用した。このハードコート組
成物を、(2―1)または(2−2)で得られたプライマー膜を形成したプラスチックレ
ンズ上に浸漬法(引き上げ速度18 cm/min)にて塗布し、塗布したレンズを80
℃で20分間風乾した後、120℃で120分間焼成を行い、プライマー上に膜厚2.0
〜2.2μmのオルガノポリシロキサン系ハードコート膜を形成した。
(3)乾式法による反射防止膜の形成
上記(2)で得られたプライマー膜とハードコート膜を形成したプラスチックレンズ基
材上に反射防止膜を構築した。SiO膜の成膜は、真空蒸着法(真空度2.0×10
Pa)で行った。TiO膜の成膜は、イオンアシスト蒸着法(真空度4.0×10
Pa)で行った。TiO層をイオンアシスト蒸着法で成膜する時のイオンアシスト条
件は、加速電圧520V、加速電流270mA、真空度は酸素を導入して4.0×10
Paで保持する様にした。基材側から数えて、第1層には0.083λの光学膜厚を持
つSiO層(屈折率1.45)、第2層は0.070λの光学膜厚を持つTiO層(
屈折率2.36)、第3層は0.10λの光学膜厚を持つSiO層、第4層は0.18
λの光学膜厚を持つTiO層、第5層は0.065λの光学膜厚を持つSiO層、第
6層は0.14λの光学膜厚を持つTiO層、第7層は0.26λの光学膜厚を持つS
iO層を順次積層してなる反射防止膜を構築した。設計波長λは520nmとした。さ
らに反射防止膜上に含フッ素シラン化合物からなる撥水膜を真空蒸着法により成膜した。
(4)硬化膜付きレンズの再生
(4−1)アルカリ系薬液への浸漬
水1000gにパクナ100(ユケン工業(株)製、NaOHと界面活性剤で構成)7
0gを溶解させた後、液温を50℃としたアルカリ系薬液に上記(3)で得られたレンズ
を2H浸漬した後、該レンズを水洗いした。薬液浸漬後のレンズには大部分の表面膜が残
存していた。
(4−2)研磨剤による表面研磨
アルミナ系研磨剤WA((株)フジミインコーポレーテッド製)100gを水400g
に撹拌分散させた研磨液をウレタン系スポンジに0.5cc/秒のスピードで滴下しなが
ら、図1に示した凸面研磨用の研磨装置101と凹面研磨用の研磨装置102を使用して
、レンズ凸面、凹面を順に表面研磨した。この時のスポンジ回転数は200rpmであっ
た。また、研磨時間は各面30秒で行った。研磨後、該レンズを水洗いと乾燥し、硬化膜
を除去したレンズを得た。
再生したレンズには、表面膜は残っておらず、光学面には浸食された形跡が認められな
かった。
【0040】
<比較例1>
(1)硬化膜付きレンズの作製
実施例2と全く同じようにしてプラスチックレンズを作製し、プライマー膜、ハードコ
ート膜、反射防止膜を形成した。
(2)硬化膜の除去
(2−1)アルカリ系薬液への浸漬
水1000gにパクナ100(ユケン工業(株)製、NaOHと界面活性剤で構成)7
0gを溶解させた後、液温を50℃としたアルカリ系薬液に上記(1)で得られたレンズ
を2H浸漬した後、該レンズを水洗いした。この後水洗いと乾燥を行ったが、硬化被膜が
残っていた。
【0041】
<比較例2>
(1)硬化膜付きレンズの作製
実施例2と全く同じようにしてプラスチックレンズを作製し、プライマー膜、ハードコ
ート膜、反射防止膜を形成した。
(2)硬化膜の除去
(2−1)アルカリ系薬液への浸漬
水1000gにパクナ100(ユケン工業(株)製、NaOHと界面活性剤で構成)7
0gを溶解させた後、液温を50℃としたアルカリ系薬液に上記(1)で得られたレンズ
を5H浸漬した後、該レンズを水洗いした。この後水洗いと乾燥を行ったが、硬化被膜は
除去できたがレンズ基材表面がでこぼことなり再生利用できない状態であった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の光学表面膜の除去方法は、表面膜を形成したプラスチック光学素子の表面膜を
除去してプラスチック光学素子を再生する用途に用いるもので、プラスチックレンズの生
産に利用して歩留まりを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の光学表面膜除去方法の工程を示す工程図である。
【符号の説明】
【0044】
1:プラスチック光学素子(レンズ)、L:薬液、101,102:研磨装置、301
,302:弾性研磨体、200:レンズ保持部、300:弾性研磨部、L1:スラリー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学面を有し、前記光学面上に設けられた表面膜を有するプラスチック光学素子の前記
表面膜を剥離する薬液中に、前記プラスチック光学素子を浸漬する浸漬工程と、
前記薬液中から前記プラスチック光学素子を引き上げ、透過光又は反射光により前記プ
ラスチック光学素子の表面状態を観察する観察工程と、
前記観察工程において前記表面膜が前記プラスチック光学素子から剥離し前記プラスチ
ック光学素子の光学面の一部が露出した状態が観察されるときに、研磨剤を介して前記プ
ラスチック光学素子の表面を研磨して前記表面膜を除去する研磨処理工程とを有し、
前記浸漬工程及び前記観察工程を、前記観察工程において前記プラスチック光学素子の
光学面の一部が露出した状態が観察されるまで繰り返し行うことを特徴とする光学表面膜
の除去方法。
【請求項2】
請求項1記載の光学表面膜の除去方法において、
前記表面膜が、オルガノポリシロキサン系硬化被膜を有し、
前記薬液が、アルカリ水溶液であることを特徴とする光学表面膜の除去方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の光学表面膜の除去方法において、
前記プラスチック光学素子が、ウレタン系樹脂で構成されていることを特徴とする光学
表面膜の除去方法。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかに記載の光学表面膜の除去方法において、
前記表面膜が、プライマー膜、ハードコート膜及び反射防止膜のいずれか1つ以上で構
成されていることを特徴とする光学表面膜の除去方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−243583(P2006−243583A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−62020(P2005−62020)
【出願日】平成17年3月7日(2005.3.7)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】