説明

光学補償フィルムの製造方法および光学補償フィルム

【課題】煩雑な工程を必要とせず、かつ、安価で、使用時に光学装置の厚みが不必要に増すことのない、光の各波長に対する位相差の制御が容易な光学補償フィルムの製造方法および光学補償フィルムを提供する。
【解決手段】フィルム表面に、凹部と凸部とが繰り返される凹凸形状を有しており、フィルム面に平行な方向に沿って複数の単位領域に分割したときに、同一波長の光に対する位相差が隣接する単位領域と10nm以上異なる単位領域が複数存在する光学補償フィルムの製造方法であって、フィルム表面に、凹部と凸部とが繰り返される凹凸形状を形成する工程と、延伸工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置、光ピックアップ等の光学装置に好適に用いることが可能な光学補償フィルムの製造方法および光学補償フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置、光ピックアップ等の各種光学装置には、装置中の他の構成により生じる複屈折を補償するための光学補償フィルムが一般的に用いられている。かかる光学補償フィルムは、例えば、視野角の拡大、黒表示時の色漏れ防止等のために用いられる。
【0003】
ところで、光学補償フィルムを液晶表示装置等の表示時における変色防止に用いるためには光の各波長に対する位相差(位相差の波長分散)が制御されていることが必要である。そのようなものの例としては、光の各波長に対し、位相差がその波長の1/4になるような位相差板等が挙げられる。このように広帯域で必要な位相差に制御されたものとしては、例えば、(波長450nmの光におけるリタデーション)/(波長550nmの光におけるリタデーション)の値及びリタデーションが異なるフィルムをそれらの光軸が交差した状態で積層された位相差板が挙げられる(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、他の例として、正の固有複屈折値を有するポリマーと負の固有複屈折値を有するポリマーの混合物から形成されるフィルムを1軸延伸して作製した1/4波長膜が挙げられる(例えば、特許文献2や非特許文献1参照)。ここで、正の固有複屈折値を有するポリマーとは、ポリマーの主鎖が延びきって理想状態まで配向した時、(ポリマー主鎖の配向方向に平行な方向の偏波成分に関する屈折率)−(ポリマー主鎖の配向方向に垂直な方向の偏波成分に関する屈折率)>0 となるポリマーであり、例えば、ポリ塩化ビニルである。また、負の固有複屈折値を有するポリマーとは、ポリマーの主鎖が延びきって理想状態まで配向した時、(ポリマー主鎖の配向方向に平行な方向の偏波成分に関する屈折率)−(ポリマー主鎖の配向方向に垂直な方向の偏波成分に関する屈折率)<0となるポリマーであり、例えば、ポリメチルメタクリレートである。
【0005】
また、正の屈折率異方性を有する高分子化合物のモノマー単位と負の屈折率異方性を有する高分子化合物のモノマー単位とを含む高分子化合物から構成されるフィルムの例も挙げられる(例えば、特許文献3参照)。また、内部に液晶をほぼ均一に分散させた高分子フィルムを一方向に延伸したフィルムの例も挙げられる(特許文献4参照)。
【0006】
さらに、他の例として、構造複屈折を利用した表面レリーフ型ホログラムが挙げられる(例えば、特許文献5参照)。
【特許文献1】特開平5−27118号公報(1993年2月5日公開)
【特許文献2】特開昭56−125702号公報(1981年10月2日公開)
【特許文献3】国際公開第WO00/26705号パンフレット(2000年5月11日公開)
【特許文献4】特開平5−257013(1993年10月8日公開)
【特許文献5】特開昭62−212940号公報(1987年9月18日公開)
【非特許文献1】井上隆、斉藤拓、「低複屈折性プラスチックの設計」、機能材料、第7巻、第3号、p21−29、1987年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のフィルムでは、複数のフィルムの光軸を合わせる煩雑さがある。
【0008】
また、特許文献2や非特許文献1に記載のフィルムでは、1軸延伸した時、それぞれのポリマー単体の位相差の符号が逆になるため、フィルム全体の位相差は足し合わせの結果小さくなり、必要な位相差を得るためには膜厚を厚くする必要がある。その結果、材料のコスト高や表示装置の厚みが増す等の問題が生じる。
【0009】
さらに、特許文献3に記載のフィルムでも、それぞれのモノマー単位からなる部分の位相差の符号が逆のため、フィルム全体の位相差は足し合わせの結果小さくなり、上記例と同様に必要な位相差を得るためには膜厚を厚くする必要がある。
【0010】
特許文献4に記載の位相差板は、延伸された高分子フィルムの屈折率およびその波長依存性と、その延伸方向に分子が配向した液晶の屈折率およびその波長依存性とを合成した特性になり、必要な波長依存性を得るためには、高分子フィルムと液晶との選択が限られるという問題が生じる。
【0011】
特許文献5に記載の技術の場合、光の波長レベルサイズに微細加工する必要があり、加工による継ぎ目のないロール状のフィルムを作製することは困難である。
【0012】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、光軸を合わせて2枚の位相差フィルムを貼り合わせるような煩雑な工程を必要とせず、かつ、安価で、使用時に光学装置の厚みが不必要に増すことのない、光の各波長に対する位相差の制御が容易な光学補償フィルムの製造方法および光学補償フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明にかかる光学補償フィルムの製造方法には、上記課題を解決するために、以下の発明が含まれる。
【0014】
〔1〕フィルム表面に、凹部と凸部とが繰り返される凹凸形状を有しており、フィルム面に平行な方向に沿って複数の単位領域に分割したときに、同一波長の光に対する位相差が隣接する単位領域と10nm以上異なる単位領域が複数存在する光学補償フィルムの製造方法であって、フィルム表面に、凹部と凸部とが繰り返される凹凸形状を形成する工程と、延伸工程と、を含むことを特徴とする光学補償フィルムの製造方法。
【0015】
〔2〕フィルム内に、フィルムの厚み方向に長さが異なる中空域が、フィルム表面に平行な方向に沿って複数存在しており、フィルム面に平行な方向に沿って複数の単位領域に分割したときに、同一波長の光に対する位相差が隣接する単位領域と10nm以上異なる単位領域が複数存在する光学補償フィルムの製造方法であって、フィルム内に、フィルムの厚み方向に長さが異なる中空域が、フィルム表面に平行な方向に沿って複数存在するフィルムを製造するフィルム製造工程と、延伸工程と、を含むことを特徴とする光学補償フィルムの製造方法。
【0016】
〔3〕配向複屈折値の符号が同一であり、配向複屈折値が異なる複数種類の高分子化合物を含み、フィルム面に平行な方向に沿って複数の単位領域に分割したときに、同一波長の光に対する位相差が隣接する単位領域と10nm以上異なる単位領域が複数存在する光学補償フィルムの製造方法であって、配向複屈折値の符号が同一であり、配向複屈折値が異なる複数種類の高分子化合物を押し出して、フィルムを形成する押出工程と、該押出工程で得られたフィルムを延伸する延伸工程と、を含み、上記押出工程は、配向複屈折値の符号が同一であり、配向複屈折値が異なる複数種類の高分子化合物を、該複数種類の高分子化合物の比率を経時的に変化させながら、押し出すことを特徴とする光学補償フィルムの製造方法。
【0017】
〔4〕配向複屈折値の符号が同一であり、配向複屈折値が異なる複数種類の高分子化合物を含み、フィルム面に平行な方向に沿って複数の単位領域に分割したときに、同一波長の光に対する位相差が隣接する単位領域と10nm以上異なる単位領域が複数存在する光学補償フィルムの製造方法であって、配向複屈折値の符号が同一であり、配向複屈折値が異なる複数種類の高分子化合物を押し出して、フィルムを形成する押出工程と、該押出工程で得られたフィルムを延伸する延伸工程と、を含み、上記押出工程は、多層押出成形により、フィルム断面における隣接する2つの単位領域において、含有される上記複数種類の高分子化合物の厚み方向の比率が異なるように、フィルム内部に配向複屈折値の符号が同一であり、配向複屈折値が異なる領域を押し出すことを特徴とする光学補償フィルムの製造方法。
【0018】
〔5〕〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の製造方法を用いて製造したことを特徴とする光学補償フィルム。
【0019】
〔6〕全体領域における、波長λnmの光に対する合成位相差をR(λ)としたとき、以下の数式(1)
R(548)≦350nm ・・・数式(1)
を満たすことを特徴とする〔5〕に記載の光学補償フィルム。
【0020】
〔7〕フィルム表面に、凹部と凸部とが繰り返される凹凸形状を有している光学補償フィルムまたはフィルム内に、フィルムの厚み方向に長さが異なる中空域が、フィルム表面に平行な方向に沿って複数存在している光学補償フィルムであって、上記凸部または隣接する上記中空域の厚み方向の長さが短い領域における、波長λnmの光に対する位相差をr(λ)とし、上記凹部または隣接する上記中空域の厚み方向の長さが長い領域における、波長λnmの光に対する位相差をr´(λ)とし、全領域における波長λnmの光に対する合成位相差をR(λ)としたとき、以下の数式(2)、(3)および(4)
r(548)<r(447) ・・・数式(2)
r´(548)<r´(447) ・・・数式(3)
R(548)≧R(447) ・・・数式(4)
を満たすことを特徴とする〔5〕または〔6〕に記載の光学補償フィルム。
【0021】
〔8〕配向複屈折値の符号が同一であり、配向複屈折値が異なる複数種類の高分子化合物を含む光学補償フィルムであって、上記複数種類の高分子化合物の各々の単体で形成されたフィルムを1軸延伸した延伸品の、波長λnmの光に対する位相差をR(λ)とし、全領域における波長λnmの光に対する合成位相差をR(λ)としたとき、以下の数式(5)および(6)
(548)<R(447) ・・・数式(5)
R(548)≧R(447) ・・・数式(6)
を満たすことを特徴とする〔5〕または〔6〕に記載の光学補償フィルム。
【0022】
〔9〕全領域における波長λnmの光に対する合成位相差をR(λ)としたとき、以下の数式(7)
R(628)≧R(548)≧R(447)・・・数式(7)
を満たすことを特徴とする〔5〕〜〔8〕のいずれか1項に記載の光学補償フィルム。
【0023】
また、本発明にかかる〔1〕の光学補償フィルムの製造方法は、以下の方法を含みうる。
【0024】
〔10〕フィルム表面をサンドブラスト処理することにより、フィルム表面に、凹部と凸部とが繰り返される凹凸形状を形成する表面加工工程と、該表面加工工程後に、凹凸形状が形成されたフィルムを延伸する延伸工程と、を含むことを特徴とする〔1〕に記載の光学補償フィルムの製造方法。
【0025】
〔11〕フィルムを延伸する延伸工程と、該延伸工程後に、フィルム表面をサンドブラスト処理することにより、フィルム表面に、凹部と凸部とが繰り返される凹凸形状を形成する表面加工工程と、を含むことを特徴とする〔1〕に記載の光学補償フィルムの製造方法。
【0026】
〔12〕フィルム表面に溶融樹脂を付着させることにより、フィルム表面に、凹部と凸部とが繰り返される凹凸形状を形成する表面加工工程と、該表面加工工程後に、凹凸形状が形成されたフィルムを延伸する工程と、を含むことを特徴とする〔1〕に記載の光学補償フィルムの製造方法。
【0027】
〔13〕複数種類の高分子化合物を含む混合物、または、複数種類の高分子鎖からなる共重合体をフィルムに形成して、該複数種類の高分子化合物または該複数種類の高分子鎖からなる共重合体が海島構造に相分離しているフィルムを製造するフィルム形成工程と、該フィルムにn種類の高分子化合物が含まれる、または、n種類の高分子鎖からなる共重合体が含まれるとしたときに、該フィルム形成工程で得られたフィルムに含まれる、1種類以上(n−1)種類以下の高分子化合物または高分子鎖を、溶解処理またはドライエッチング処理により除去して島部のみを除去することにより、フィルム表面に、凹部と凸部とが繰り返される凹凸形状を形成する表面加工工程と、該表面加工工程後に、凹凸形状が形成されたフィルムを延伸する延伸工程と、を含むことを特徴とする〔1〕に記載の光学補償フィルムの製造方法。
【0028】
〔14〕複数種類の高分子化合物を含む混合物、または、複数種類の高分子鎖からなる共重合体をフィルムに形成して、該複数種類の高分子化合物または該複数種類の高分子鎖からなる共重合体が海島構造に相分離しているフィルムを製造するフィルム形成工程と、該フィルム形成工程で得られたフィルムを延伸する延伸工程と、該フィルムにn種類の高分子化合物が含まれる、または、n種類の高分子鎖からなる共重合体が含まれるとしたときに、該フィルム形成工程で得られたフィルムに含まれる、1種類以上(n−1)種類以下の高分子化合物または高分子鎖を、溶解処理またはドライエッチング処理により除去して島部のみを除去することにより、フィルム表面に、凹部と凸部とが繰り返される凹凸形状を形成する表面加工工程と、を含むことを特徴とする〔1〕に記載の光学補償フィルムの製造方法。
【0029】
また、本発明にかかる〔2〕の光学補償フィルムの製造方法は、以下の方法を含みうる。
【0030】
〔15〕上記フィルム製造工程は、発泡剤を含む高分子化合物の溶融物を、発泡剤を気化後に押出成形、または、押出成形後に発泡剤を気化させることにより、フィルム内に、フィルムの厚み方向に長さが異なる中空域が、フィルム表面に平行な方向に沿って複数存在するフィルムを製造することを特徴とする〔2〕に記載の光学補償フィルムの製造方法。
【0031】
〔16〕上記フィルム製造工程は、延伸したフィルムを、低温液化ガス中に、伸びを付与した状態で存在させ、その後大気中に暴露して発泡させることにより、フィルム内に、フィルムの厚み方向に長さが異なる中空域が、フィルム表面に平行な方向に沿って複数存在するフィルムを製造することを特徴とする〔2〕に記載の光学補償フィルムの製造方法。
【0032】
〔17〕上記フィルム製造工程は、フィルムを吸湿させ、誘電加熱により水を気化させて発泡させることにより、フィルム内に、フィルムの厚み方向に長さが異なる中空域が、フィルム表面に平行な方向に沿って複数存在するフィルムを製造することを特徴とする〔2〕に記載の光学補償フィルムの製造方法。
【0033】
また、本発明にかかる光学補償フィルムの製造方法は、以下の方法を含みうる。
【0034】
〔18〕配向複屈折値の符号が同一であり、配向複屈折値が異なる複数種類の高分子化合物を含み、フィルム面に平行な方向に沿って複数の単位領域に分割したときに、同一波長の光に対する位相差が隣接する単位領域と10nm以上異なる単位領域が複数存在する光学補償フィルムの製造方法であって、〔13〕、〔14〕、〔2〕、〔15〕〜〔17〕の何れかに記載の方法によって製造されたフィルム、または、〔13〕、〔14〕、〔2〕、〔15〕、〔16〕および〔17〕のいずれかに記載の方法において延伸工程を行う前のフィルムに、該フィルムを構成する材料と配向複屈折値の符号が同一であり、配向複屈折値の異なる材料を含浸させる含浸工程と、該含浸工程で得られたフィルムを延伸する延伸工程を含むことを特徴とする光学補償フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0035】
本発明にかかる光学補償フィルムの製造方法は、以上のように、フィルム表面に、凹部と凸部とが繰り返される凹凸形状を有しており、フィルム面に平行な方向に沿って複数の単位領域に分割したときに、同一波長の光に対する位相差が隣接する単位領域と10nm以上異なる単位領域が複数存在する光学補償フィルムの製造方法であって、フィルム表面に、凹部と凸部とが繰り返される凹凸形状を形成する工程と、延伸工程と、を含む構成を備えているので、光軸を合わせて2枚の位相差フィルムを貼り合わせるような煩雑な工程を必要とせず、かつ、安価で、使用時に光学装置の厚みが不必要に増すことのない、光の各波長に対する位相差の制御が容易な光学補償フィルムの製造方法および光学補償フィルムを提供することができる。
【0036】
本発明にかかる光学補償フィルムの製造方法は、以上のように、フィルム内に、フィルムの厚み方向に長さが異なる中空域が、フィルム表面に平行な方向に沿って複数存在しており、フィルム面に平行な方向に沿って複数の単位領域に分割したときに、同一波長の光に対する位相差が隣接する単位領域と10nm以上異なる単位領域が複数存在する光学補償フィルムの製造方法であって、フィルム内に、フィルムの厚み方向に長さが異なる中空域が、フィルム表面に平行な方向に沿って複数存在するフィルムを製造するフィルム製造工程と、該フィルム製造工程で得られたフィルムを延伸する延伸工程と、を含む構成を備えているので、光軸を合わせて2枚の位相差フィルムを貼り合わせるような煩雑な工程を必要とせず、かつ、安価で、使用時に光学装置の厚みが不必要に増すことのない、光の各波長に対する位相差の制御が容易な光学補償フィルムの製造方法および光学補償フィルムを提供することができる。
【0037】
本発明にかかる光学補償フィルムの製造方法は、以上のように、配向複屈折値の符号が同一であり、配向複屈折値が異なる複数種類の高分子化合物を含み、フィルム面に平行な方向に沿って複数の単位領域に分割したときに、同一波長の光に対する位相差が隣接する単位領域と10nm以上異なる単位領域が複数存在する光学補償フィルムの製造方法であって、配向複屈折値の符号が同一であり、配向複屈折値が異なる複数種類の高分子化合物を押し出して、フィルムを形成する押出工程と、該押出工程で得られたフィルムを延伸する延伸工程と、を含み、上記押出工程は、配向複屈折値の符号が同一であり、配向複屈折値が異なる少なくとも複数種類の高分子化合物を、該複数種類の高分子化合物の比率を経時的に変化させながら、押し出す構成を備えているので、光軸を合わせて2枚の位相差フィルムを貼り合わせるような煩雑な工程を必要とせず、かつ、安価で、使用時に光学装置の厚みが不必要に増すことのない、光の各波長に対する位相差の制御が容易な光学補償フィルムの製造方法および光学補償フィルムを提供することができる。
【0038】
また、本発明にかかる光学補償フィルムの製造方法は、以上のように、配向複屈折値の符号が同一であり、配向複屈折値が異なる複数種類の高分子化合物を含み、フィルム面に平行な方向に沿って複数の単位領域に分割したときに、同一波長の光に対する位相差が隣接する単位領域と10nm以上異なる単位領域が複数存在する光学補償フィルムの製造方法であって、配向複屈折値の符号が同一であり、配向複屈折値が異なる複数種類の高分子化合物を押し出して、フィルムを形成する押出工程と、該押出工程で得られたフィルムを延伸する延伸工程と、を含み、上記押出工程は、多層押出成形により、フィルム断面における隣接する2つの単位領域において、含有される上記複数種類の高分子化合物の厚み方向の比率が異なるように、フィルム内部に配向複屈折値の符号が同一であり、配向複屈折値が異なる領域を押し出す構成を備えているので、光軸を合わせて2枚の位相差フィルムを貼り合わせるような煩雑な工程を必要とせず、かつ、安価で、使用時に光学装置の厚みが不必要に増すことのない、光の各波長に対する位相差の制御が容易な光学補償フィルムの製造方法および光学補償フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
本発明の光学補償フィルムの製造方法および光学補償フィルムの実施の一形態について図1ないし図8に基づいて説明すれば以下のとおりである。
【0040】
(I)本発明で製造される光学補償フィルム
本発明で製造される光学補償フィルムとは、フィルムの一方の面が光入射面として使用されるものであり、当該光入射面であるフィルム面の少なくとも一方向において、位相差が変化するフィルムである。ここで、この位相差の変化量は、単なる製造バラツキの程度を超えるものであればよい。
【0041】
より具体的には、本発明において、光学補償フィルムとは、フィルム面に平行な方向に沿って複数の単位領域に分割したときに、同一波長の光に対する位相差が隣接する単位領域と10nm以上異なる単位領域が複数存在するフィルムである。
【0042】
以下に、本発明の光学補償フィルムを、図1に基づいて説明する。図1は、本発明の光学補償フィルムの一例を示す図である。図1の(a)に示される光学補償フィルム1は、2次元に広がったフィルム状の形状を有し、その一方の表面が光入射面として使用される。図1の(b)は、光学補償フィルム1を光入射面に垂直な方向からみたときの平面図である。また、図1の(c)は、(b)におけるA−A線の矢視断面図である。
【0043】
図1の(b)および(c)に示されるように、光学補償フィルム1は、同一波長λに対する位相差が異なる複数の単位領域2(2−1,2−2,・・・,2−N)が、光入射面に平行な方向に沿って混在している。ここで、各単位領域には、フィルムの一端から他端に向かって順に領域番号n(n=1〜N)を付すものとする。また、図1の(c)に示されるように、領域番号nの単位領域における波長λの光に対する位相差をr(n,λ)とする。
【0044】
このとき、光学補償フィルム1は、隣接する2つの単位領域、すなわち、領域番号nの領域における位相差とn+1の領域における位相差の差|r(n,λ)−r(n+1,λ)|が10nm以上となるような単位領域2が存在するように設計されている。通常、均一な厚みの光学補償フィルムを製造する際であっても、製造バラツキによって、フィルムの面方向に沿って位相差が僅かながら変化する。ただし、このような製造バラツキによる位相差の変化は、通常10nm未満の範囲である。本発明の光学補償フィルムは、このような製造バラツキによる位相差の変化を利用するものではなく、意図的に隣接する単位領域の位相差を10nm以上異ならせるように設計するものである。なお、隣接する単位領域の位相差は10nm以上異なることが必要であるが、隣接していない2つの単位領域は、位相差が同じであっても構わない。通常は、図2等で示されるように2種類の異なる位相差を有する単位領域を全体に均一に分布させることで光学補償フィルムはその機能を発揮させることができる。しかし、本発明で製造される光学補償フィルムは、もちろん、3種類以上の位相差が異なる単位領域を均一に存在させるものであってもかまわない。
【0045】
ここで述べる位相差とは、光学補償フィルムの面に垂直な方向から見た際の位相差である。本明細書において、特に光入射面に対する角度の言及がない場合、「位相差」は光学補償フィルムの面に垂直な方向から見た際の位相差を意味するものとする。
【0046】
尚、光学補償フィルムの隣接する単位領域、例えば2−1及び2−2の位相差r(λ)nmは、例えば以下のようにして求められる。
【0047】
偏光方向が平行な一対の偏光板の間に位相差ref(nm)の光学補償フィルムを遅相軸が上記偏光板の偏光方向と45°ずれるように配置し、一方の偏光板からの波長λ(nm)の直線偏光が光学補償フィルム及び他方の偏光板を透過するときの透過率I(λ)と、波長λの光に対する位相差refとの関係は、
I(λ)=1/2+1/2・cos(2πref/λ)
で表されることから、高位相差部位と低位相差部位からなる単位領域2−1、2−2が複数存在する本発明の光学補償フィルムの場合、位相差r(λ)に起因する透過率を求め、該透過率を示す位相差を上記関係式に基づいて算出し、その値を位相差r(λ)とすればよい。
【0048】
又は、微小な単位領域の位相差を測定する場合、顕微偏光分光光度計を用いて測定することができる。例えば、(株)オーク製作所の顕微偏光分光光度計を用いた液晶セルギャップ測定装置(TFM−120AFT−PC)を用いることにより、約10μm角までの微小領域の位相差を測定することが可能である。
【0049】
なお、各単位領域の光軸は、一般には、同一方向とすることが好ましい。光軸のバラツキは、±10°以内が好ましく、より好ましくは±5°、さらに好ましくは±1°以内である。また、必要に応じ、互いの光軸を90°と直交させることも可能である。
【0050】
そして、本発明の光学補償フィルムは、各単位領域の位相差と全ての単位領域をまとめた全体領域の面積に対する各単位領域の面積比率とを適宜選択することにより、光学補償フィルム全体としての位相差(後述する合成位相差)の波長分散(波長依存性)を、いずれの単位領域の波長分散とも異なるようにするものである。つまり、各単位領域の位相差r(n,λ)と面積比率とを適宜選択することにより、所望の位相差の波長分散を有する光学補償フィルムを容易に製造することができる。
【0051】
位相差の波長分散については、これまで材料によって決定されていた。しかしながら、上記光学補償フィルムによれば、各単位領域で用いられる材料が有する波長分散とは異なる波長分散を有する光学補償フィルムを製造することができる。つまり、材料が有する波長分散の特性に制限されることなく、光学素子全体の位相差の波長分散を設計することができる。
【0052】
その結果、これまで波長分散を満たすように材料選択を行っていたために、波長分散以外の特性(光弾性係数やガラス転移点)も当該材料によって決められていたところを、波長分散を特に気にせず、それ以外の特性が所望のものを選択することができる。つまり、材料選択の幅が広がる。例えば、光弾性係数が小さい材料や、ガラス転移点(Tg)が130℃以上の材料を用いるとともに、位相差の波長分散を所望のものにすることができる。
【0053】
なお、位相差が異なる単位領域の配列は、特に限定されるものではない。図1の(b)に示すようなストライプ状でもよいし、マトリクス状でもよいし、任意の配列をとることができる。
【0054】
次に、同一波長の光に対する位相差が異なる単位領域を、光入射面であるフィルム面に平行な方向に沿って複数存在させる手法の具体例について説明する。
【0055】
位相差は、フィルムの複屈折と厚みとの積
(位相差)=(複屈折)×(厚み)
で表される。
【0056】
したがって、複屈折または厚みの少なくとも一方を異ならせることにより、位相差が異なる単位領域を混在させることができる。
【0057】
図2は、厚みを異ならせることにより異なる位相差の単位領域を混在させた光学補償フィルムの一例を示す図である。図2において(a)は斜視図、(b)は断面図を示す。図2に示される光学補償フィルム1は、凹部と凸部とが繰り返される凹凸形状を形成することにより、厚みを異ならせて、異なる位相差の単位領域を混在させたものである。図2の例では、厚みが異なる単位領域2(2−1、2−2・・・)が交互にストライプ状に配置され、図2の(b)に示されるように、各単位領域2において厚みが均一である。
【0058】
もちろん、凹部と凸部とが繰り返される凹凸形状を有する光学補償フィルムは、図2に示すストライプ状に配置された構成に限定されるものではなく、凹凸形状を有することによって、フィルム面に平行な方向に沿って位相差が異なる複数の単位領域に分割されていればその構成は特に限定されるものではない。かかる凹凸形状を有する光学補償フィルムは、例えば、平らなフィルムの面上に、断面が三角形の突起部が所定の間隔で形成されている光学補償フィルムであってもよい。この場合、かかる光学補償フィルムは、突起部が形成されていない単位領域と、突起部が形成されている単位領域とに分割される。また、上記凹凸形状を有する光学補償フィルムは、フィルムの一方の面の断面が鋸歯状に形成されている光学補償フィルムであってもよい。かかる光学補償フィルムは、厚みの極大点を中心に含み、鋸歯状の周期の1/2の幅を有する単位領域と、厚みの極小点を中心に含み、鋸歯状の周期の1/2の幅を有する単位領域とに分割される。あるいは上記凹凸形状を有する光学補償フィルムは、平らなフィルムの面上に、砲弾状の突起部が所定の間隔で形成されている光学補償フィルムであってもよい。かかる光学補償フィルムは、突起部が形成されていない単位領域と、突起部が形成されている単位領域とに分割される。
【0059】
また、図3、図7及び図8は、複屈折を領域ごとに異ならせることにより異なる位相差の単位領域を混在させた光学補償フィルムの一例を示す図である。図3に示される光学補償フィルム1は、配向複屈折値が異なる複数種類の高分子化合物を含むものである。なお、後述するように、光学補償フィルム1に含まれる各種の高分子化合物は、配向複屈折値の符号が同一であり、配向複屈折値が異なる。図3に示す光学補償フィルム1では、配合比率が相対的に大きい高分子化合物Aが海部を形成し、配合比率が相対的に小さい高分子化合物Bが島部を形成している。なお、本明細書において、配合比率とは、光学補償フィルムに含まれる上記複数種類の高分子化合物の全重量に対する、各々の高分子化合物の重量の割合をいう。
【0060】
光学補償フィルム1では、配向複屈折値の符号が同一であり、配向複屈折値の異なる高分子化合物AおよびBを存在させることで、フィルム面に平行な方向に沿って、高分子化合物AおよびBの混合比率が変化し位相差が変化する。光学補償フィルム1では、これにより、フィルム面(光入射面)に平行な方向に沿って、同一波長の光に対する位相差の異なる単位領域を複数存在させている。
【0061】
すなわち、図3の光学補償フィルム1のフィルム面の任意の点において、厚み方向に存在する各種の高分子化合物の混合比率は異なっている。例えば、図1の点Xにおける高分子化合物Aの混合比率は1.0であり、点Yにおける高分子化合物Bの混合比率は約0.5である。そこで、対応する配合比率よりも大きい混合比率を有する高分子化合物が同じであり、かつ、フィルム面に沿って連続している領域を一つの単位領域として設定する。図3の場合、例えば、AとBとの配合比率がA:B=0.8:0.2であるとすると、領域aでは、高分子化合物Aの混合比率が対応する配合比率よりも大きい。そのため、領域aを一つの単位領域として設定すればよい。一方、領域bでは、高分子化合物Bの混合比率が対応する配合比率よりも大きい。そのため、領域bを一つの単位領域として設定すればよい。このように単位領域を設定することで、隣接する2つの単位領域は、含有する複数種の高分子化合物の混合比率が異なることとなる。ここで、高分子化合物AとBとは配向複屈折値が異なるため、隣接する2つの単位領域間では位相差が異なる。なお、光学補償フィルム1を構成する高分子化合物の種類が3種以上である場合は、対応する配合比率よりも大きい混合比率であり、当該混合比率と当該配合比率との差が最も大きい高分子化合物が同じであり、かつ、フィルム面に沿って連続している領域を一つの単位領域として設定すればよい。
【0062】
もちろん、複数種類の高分子化合物の分布状態は、これに限定されるものではなく、様々な分布状態が含まれる。例えば、全ての種類の高分子化合物のそれぞれがフィルムの厚み方向に沿ってフィルムの一方の面から他方の面まで連続して存在するように相分離している場合には、各種類の高分子化合物が連続して存在している領域を一つの単位領域とすればよい。
【0063】
複屈折を領域ごとに異ならせるその他の構成は、例えば、位相差が均一な高分子フィルムのうち、フィルム内に、フィルムの厚み方向に長さが異なる中空域が、フィルム表面に平行な方向に沿って複数存在する構成であってもよい。この場合、当該中空域には空気が充填されるため、位相差0nmの領域となる。
【0064】
また、本実施形態にかかる光学補償フィルム1に含まれる高分子化合物の配向複屈折値は、同じ符号である。これにより、合成位相差が小さくなりすぎることがなく、必要な合成位相差を得るために、光学補償フィルムの膜厚を厚くする必要がない。
【0065】
(II)光学補償フィルムの製造方法
(II−1)フィルム表面に凹凸形状を形成する工程を含む方法
本発明にかかる光学補償フィルムの製造方法の一実施形態は、フィルム表面に、凹部と凸部とが繰り返される凹凸形状を有しており、フィルム面に平行な方向に沿って複数の単位領域に分割したときに、同一波長の光に対する位相差が隣接する単位領域と10nm以上異なる単位領域が複数存在する光学補償フィルムの製造方法であって、フィルム表面に、凹部と凸部とが繰り返される凹凸形状を形成する工程と、延伸工程と、を含むものである。
【0066】
フィルム表面に、凹部と凸部とが繰り返される凹凸形状を形成することにより、厚みを異ならせて、異なる位相差の単位領域を混在させた光学補償フィルムを製造することができる。
【0067】
上記の構成によれば、凸部および凹部が人間の目で視認できない程度になるように、光学補償フィルムとこれを視る人間との距離を確保した場合に、人間は、凸部および凹部を含む全体領域を巨視的に視ることとなる。
【0068】
このとき、凸部および凹部を含む全体領域の合成位相差Rは、凸部および凹部の位相差による複屈折性の平均の複屈折性に対応する位相差を示す。そのため、凸部および凹部における位相差の波長依存性と、全ての凸部および凹部を含む全体領域における合成位相差Rの波長依存性とが異なることとなる。
【0069】
この合成位相差の波長依存性(波長分散)は、凸部および凹部の位相差の差、および、全体領域に対する凸部および凹部の面積比率によって決定される。そのため、合成位相差の波長分散を、材料の制約を受けることなく、容易に制御することができる。
【0070】
このように、本発明によれば、フィルム表面に、凹部と凸部とが繰り返される凹凸形状を形成する工程と延伸工程とのみを含む簡単な製造方法により、光の各波長に対する位相差の制御が容易な光学補償フィルムを提供することができる。
【0071】
ここで、フィルム表面に、凹部と凸部とが繰り返される凹凸形状を形成する工程は、凹部と凸部とが繰り返される凹凸形状を形成することにより、厚みを異ならせて、異なる位相差の単位領域を混在させることができるものであれば特に限定されるものではない。
【0072】
本発明の各実施形態における延伸工程は、フィルムを構成する高分子の主鎖を配向させ、複屈折性を与えるためのものであり、その方法は、特に限定されるものではなく、1軸延伸であっても、2軸延伸であってもよい。また、その条件も所望の光学補償フィルム、用いるフィルムの素材等により適宜選択すればよい。
【0073】
また、本実施形態で製造された光学補償フィルムは、その表面の凹凸形状を、膜の位相差に対して相対的に低位相差(理想的には0が好ましい)の材料(つまり、光入射面に垂直な方向から見た際に複屈折を示さない材料:例えば、アクリル系樹脂などの紫外線や電子線で硬化可能な樹脂)で埋め、光学補償フィルムの表面を均一化させてもよい。これにより、光の散乱を防止することができる。
【0074】
<サンドブラスト処理による方法>
本実施形態にかかる光学補償フィルムの製造方法において、フィルム表面に、凹部と凸部とが繰り返される凹凸形状を形成する方法の一例は、フィルム表面をサンドブラスト処理する方法である。かかる方法では、延伸工程は、フィルム表面をサンドブラスト処理して凹凸形状を形成した後に行ってよいし、延伸工程後のフィルムのフィルム表面をサンドブラスト処理してもよい。
【0075】
すなわち、本実施形態にかかる光学補償フィルムの製造方法は、フィルム表面をサンドブラスト処理することにより、フィルム表面に、凹部と凸部とが繰り返される凹凸形状を形成する表面加工工程と、該表面加工工程後に、凹凸形状が形成されたフィルムを延伸する延伸工程とを含む方法であってもよいし、フィルムを延伸する延伸工程と、該延伸工程後に、フィルム表面をサンドブラスト処理することにより、フィルム表面に、凹部と凸部とが繰り返される凹凸形状を形成する表面加工工程とを含む方法であってもよい。
【0076】
本実施形態において用いることができる上記フィルムは、例えば、ビスフェノールAと塩化カルボニルとを重縮合して得られるポリカーボネート系重合体;ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル等のポリ(メタ)アクリル酸エステル;アジピン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等の2塩基酸と、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール等のグリコールとの縮合またはラクトン類の開環重合で得られるポリエステル系重合体;ポリスチレン、ポリ(α−メチルスチレン)等のスチレン系重合体;アクリル酸エステルとスチレンとの共重合体;ポリエチレン、ポリプロピレン、ノルボルネン系樹脂、シクロオレフィンポリマー、ポリイソプレンの水素添加物、ポリブタジエンの水素添加物等のポリオレフィン系重合体;トリアセチルセルロース、エチルセルロース等のセルロース系樹脂;ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド;ポリイミド;ポリアミドイミド;ポリビニルアルコール;ポリ塩化ビニル;ポリスルホン;ポリエーテルスルホン;ポリアリレート;エポキシ樹脂;シリコーン樹脂;国際公開第01/37007号公報に記載される化合物等が好ましい。
【0077】
図4は本実施形態で用いるサンドブラスト処理の一例を模式的に示す図である。本実施形態では図4に示すように、凹凸形状を形成させようとするフィルム3を矢印の方向に走行させながら、サンドブラスト処理剤4を、図示しないエゼクターで、空気、水等の流体とともに、走行するフィルム3表面に噴射する。これにより、フィルム3表面のサンドブラスト処理剤が衝突した部分が削られて凹部となり、フィルム3表面に凹凸形状が形成される。フィルム3の走行方向および走行速度、サンドブラスト処理を行うフィルム3表面の位置、用いるサンドブラスト処理剤、流体の量および種類、サンドブラスト処理剤の噴射量および噴射速度等を適宜選択することにより、所望の凹凸形状を形成すればよい。例えば、図2に示されるような光学補償フィルムを製造する場合には、複数のエゼクターを等間隔に配置し、フィルム3を走行させながら、サンドブラスト処理を行えばよい。
【0078】
ここで、上記サンドブラスト処理剤としては、特に限定されるものではなく、従来公知のものを好適に用いることができ、例えば、アランダム(アルミナ)、カーボランダム(炭化ケイ素)、セラミックビーズ、珪砂ガラス、金属等を例示することができる。上記サンドブラスト処理剤は、粒子状であればよく、その平均粒子径は通常1μm〜100μmであればよい。
【0079】
また、サンドブラスト処理を行うときの、フィルムの温度は、フィルムのガラス転移温度Tg以下であることが好ましい。これにより、フィルムの変形が起こらないで所望の凹凸形状を形成することができるため好ましい。
【0080】
また、上記流体は、空気、水に限定されるものではなく、フィルム表面への凹凸形状の形成に悪影響を及ぼすものでなければ如何なる流体であってもよい。
【0081】
また、上記サンドブラスト処理としては、サンドブラスト処理剤を、流体とともにエゼクターで走行するフィルム表面に噴射する代わりに、サンドブラスト処理剤を回転するディスク上にて遠心力を付与して投射する方法を用いてもよい。
【0082】
さらに、特開昭50−15190公報に記載されているように、フィルムのサンドブラスト処理剤の裏面に当て材を接触させる方法も好適に用いることができる。
【0083】
<溶融樹脂の付着による方法>
本実施形態にかかる光学補償フィルムの製造方法において、フィルム表面に、凹部と凸部とが繰り返される凹凸形状を形成する方法の他の一例は、フィルム表面に溶融樹脂を付着させる方法である。
【0084】
すなわち、本実施形態にかかる光学補償フィルムの製造方法は、フィルム表面に溶融樹脂を付着させることにより、フィルム表面に、凹部と凸部とが繰り返される凹凸形状を形成する表面加工工程と、該表面加工工程後に、凹凸形状が形成されたフィルムを延伸する工程と、を含む方法であってもよい。
【0085】
フィルム表面に溶融樹脂を付着させる方法としては、フィルム表面に溶融樹脂を付着させ、溶融樹脂が付着した部分を凸部として、凹凸形状を形成することができる方法であれば特に限定されるものではない。例えば、図5に示すように、走行するフィルム3上に、ダイ5から押し出した複数の糸状の溶融樹脂6を付着させて、凸部を形成することにより、凹部と凸部とが繰り返される凹凸形状を形成する。
【0086】
なお、図5では、フィルム3を走行させダイ5を固定しているが、フィルム3を固定し、ダイ5を走行させてもよい。
【0087】
本実施形態において用いることができるフィルム及び上記溶融樹脂としては、上記サンドブラスト処理を用いる実施形態において説明したフィルムと同様の材料を好適に用いることができる。また、上記溶融樹脂は、これを付着させる上記フィルムと同一の樹脂であってもよいし、異なる樹脂であってもよい。上記溶融樹脂と上記フィルムとが異なる樹脂である場合は、厚みと同時に配向複屈折の異なる素材がフィルム表面に形成されていることになる。
【0088】
もちろん、フィルム表面に溶融樹脂を付着させる方法は、図5に示す方法に限定されるものではなく、例えば、固定したフィルム表面に、溶融樹脂を所定の間隔で砲弾状の突起部となるように複数の口を有するダイから押し出して付着させ、砲弾状の凸部を所定の間隔で形成する方法等も好適に用いることができる。
【0089】
<相分離フィルムの溶解またはドライエッチングによる方法>
本実施形態にかかる光学補償フィルムの製造方法において、フィルム表面に、凹部と凸部とが繰り返される凹凸形状を形成する方法のさらに他の一例は、複数種類の高分子化合物または複数種類の高分子鎖からなる共重合体が海島構造に相分離しているフィルムから、該フィルムにn種類の高分子化合物が含まれる、または、n種類の高分子鎖からなる共重合体が含まれるとしたときに、1種類以上(n−1)種類以下の高分子化合物または高分子鎖を、溶解処理またはドライエッチング処理により除去して島部のみを除去することにより、フィルム表面に、凹部と凸部とが繰り返される凹凸形状を形成する方法である。
【0090】
複数種類の高分子化合物を含む混合物、または、複数種類の高分子鎖からなる例えばブロック共重合体等の共重合体は、製造過程において相分離しやすい。そして相分離した島部を除去することでフィルム表面に容易に凹凸形状を形成することができる。
【0091】
すなわち、本実施形態にかかる光学補償フィルムの製造方法は、複数種類の高分子化合物を含む混合物、または、複数種類の高分子鎖からなる共重合体をフィルムに形成して、該複数種類の高分子化合物または該複数種類の高分子鎖からなる共重合体が海島構造に相分離しているフィルムを製造するフィルム形成工程と、該フィルムにn種類の高分子化合物が含まれる、または、n種類の高分子鎖からなる共重合体が含まれるとしたときに、1種類以上(n−1)種類以下の高分子化合物または高分子鎖を、溶解処理またはドライエッチング処理により除去して島部のみを除去することにより、フィルム表面に、凹部と凸部とが繰り返される凹凸形状を形成する表面加工工程と、該表面加工工程後に凹凸形状が形成されたフィルムを延伸する延伸工程と、を含む方法であってもよい。
【0092】
また、本実施形態にかかる光学補償フィルムの製造方法は、上記延伸工程を、上記表面加工工程後に行う代わりに、上記フィルム形成工程後であって上記表面加工工程前に行う方法であってもよい。すなわち、本実施形態にかかる光学補償フィルムの製造方法は、上記フィルム形成工程と、該フィルム形成工程で得られたフィルムを延伸する延伸工程と、該延伸工程後に、上記表面加工工程とを含む方法であってもよい。
【0093】
上記フィルム形成工程では、複数種類の高分子化合物を含む混合物、または、複数種類の高分子鎖からなる共重合体をフィルムに形成して、該複数種類の高分子化合物または該複数種類の高分子鎖からなる共重合体が海島構造に相分離しているフィルムを製造する。ここで、上記混合物、または、例えば、上記ブロック共重合体等の共重合体をフィルムに形成する方法としては、従来公知の方法を好適に用いることができ、例えば、上記混合物、または、上記共重合体の溶液を基板上に塗布し加熱後基板から剥離する方法、溶融キャスト製膜をした後、秩序−無秩序転移温度に加熱後、冷却する方法等を挙げることができる。
【0094】
混合する上記高分子化合物の種類及び割合を適宜選択することにより該複数種類の高分子化合物が海島構造に相分離しているフィルムを製造することができる。かかる高分子化合物の組み合わせとしては、海島構造に相分離するものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー等の組み合わせを挙げることができる。
【0095】
また、ブロック共重合体に含まれる高分子鎖の種類、各高分子鎖の長さ、及び、各高分子鎖の長さの比を適宜選択することにより、ブロック共重合体が自己組織化して、該複数種類の高分子鎖が規則的な海島構造に相分離しているフィルム、すなわち、ミクロ相分離構造を有するフィルムを製造することができる。かかるブロック共重合体としては、ポリスチレンとポリメチルメタクリレートとを少なくとも含むブロック共重合体、ポリスチレンとポリイソプレンとのブロック共重合体等を挙げることができる。図6(a)に、2種類の高分子鎖AおよびBからなるブロック共重合体の自己組織化により形成された、海島構造に相分離しているフィルムの一例を示す。図6の(a)に示すフィルムでは、高分子鎖Aが海部を、高分子鎖Bが島部を形成している。かかるフィルムは、高分子鎖AおよびBからなるブロック共重合体の溶液を、例えば、シリコン等の基板上に塗布し、膜厚が島部を形成するドットの直径と略同じになるように製膜した後、AおよびBのいずれのガラス転移温度よりも高い温度で加熱してミクロ相分離構造を形成後、基板より剥離することにより製造することができる。なお、ミクロ相分離構造が形成された後、フィルムを基板より剥離することなく、溶解処理またはドライエッチング処理を行った後に基板から凹凸形状が形成されたフィルムを剥離してもよい。
【0096】
上記フィルム形成工程で形成された海島構造に相分離しているフィルムは、そのままで、または、延伸後、該フィルムに含まれる高分子化合物または高分子鎖がn種類であるとしたときに、該フィルム形成工程で得られたフィルムに含まれる、1種類以上(n−1)種類以下の高分子化合物または高分子鎖を、溶解処理またはドライエッチング処理により除去して島部のみを除去する。これにより、除去された島部が凹部となり、フィルム表面に、凹部と凸部とが繰り返される凹凸形状を形成することができる。例えば、図6の(b)は、図6の(a)に示されるフィルムにおいて、島部を形成する高分子鎖Bを除去した後のフィルムを示す。
【0097】
(II−2)フィルム内に、フィルムの厚み方向に長さが異なる中空域が複数存在するフィルムを製造する工程を含む方法
本発明にかかる光学補償フィルムの製造方法の第2の実施形態は、フィルム内に、フィルムの厚み方向に長さが異なる中空域が、フィルム表面に平行な方向に沿って複数存在しており、フィルム面に平行な方向に沿って複数の単位領域に分割したときに、同一波長の光に対する位相差が隣接する単位領域と10nm以上異なる単位領域が複数存在する光学補償フィルムの製造方法であって、フィルム内に、フィルムの厚み方向に長さが異なる中空域が、フィルム表面に平行な方向に沿って複数存在するフィルムを製造するフィルム製造工程と延伸工程とを含むものである。ここで、延伸工程は、フィルム製造工程の前、途中、及び後の少なくともいずれかに行えばよい。例えば、上記延伸工程は、上記フィルム製造工程で得られたフィルムを延伸するものであってもよい。
【0098】
フィルム内に、フィルムの厚み方向に長さが異なる中空域が、フィルム表面に平行な方向に沿って複数存在するフィルムとすることにより、複屈折を異ならせて、異なる位相差の単位領域を混在させた光学補償フィルムを製造することができる。
【0099】
ここで、上記フィルム製造工程は、フィルム内に、フィルムの厚み方向に長さが異なる中空域が、フィルム表面に平行な方向に沿って複数存在するフィルムを製造することができるものであれば特に限定されるものではない。フィルム内に、フィルムの厚み方向に長さが異なる中空域が、フィルム表面に平行な方向に沿って複数存在するフィルムの例としては、例えば、図3においてBの部分が中空域となっているようなフィルムを挙げることができる。また、同一波長の光に対する位相差が異なる単位領域に分割する方法についても、上記図3について説明した方法と同様に行えばよい。
【0100】
また、本実施形態において用いることができるフィルムとしては、上記サンドブラスト処理を用いる実施形態において説明したフィルムと同様のフィルムを好適に用いることができる。
【0101】
<発泡剤を気化させることによる方法>
本実施形態にかかる光学補償フィルムの製造方法において、フィルム内に、フィルムの厚み方向に長さが異なる中空域が、フィルム表面に平行な方向に沿って複数存在するフィルムを製造する方法の一例は、発泡剤を含む高分子化合物の溶融物を、発泡剤を気化後に押出成形する方法、または、押出成形後に発泡剤を気化させる方法である。
【0102】
すなわち、本実施形態にかかる光学補償フィルムの製造方法は、発泡剤を含む高分子化合物の溶融物を、発泡剤を気化後に押出成形、または、押出成形後に発泡剤を気化させることにより、フィルム内に、フィルムの厚み方向に長さが異なる中空域が、フィルム表面に平行な方向に沿って複数存在するフィルムを製造し、得られたフィルムを延伸する方法であってもよい。
【0103】
上記発泡剤としては、従来公知の発泡剤を好適に用いることができ、例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム、N,N−ジニトロソペンタメチレンテトラミン、アゾジカルボンアミド等を挙げることができる。
【0104】
また、発泡剤を気化させる方法も特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いればよい。発泡剤を含む高分子化合物の溶融物を、押出成形後に発泡剤を気化させる方法としては、例えば、特開昭48−45561公報に記載の方法も好適に用いることができる。
【0105】
<低温液化ガスを用いて発泡させることによる方法>
本実施形態にかかる光学補償フィルムの製造方法において、フィルム内に、フィルムの厚み方向に長さが異なる中空域が、フィルム表面に平行な方向に沿って複数存在するフィルムを製造する方法の他の一例は、低温液化ガス中に、フィルムに伸びを付与した状態で存在させ、その後大気中に暴露して発泡させる方法である。
【0106】
すなわち、本実施形態にかかる光学補償フィルムの製造方法は、延伸したフィルムを、低温液化ガス中に、伸びを付与した状態で存在させ、その後大気中に暴露して発泡させることにより、フィルム内に、フィルムの厚み方向に長さが異なる中空域が、フィルム表面に平行な方向に沿って複数存在するフィルムを製造し、得られたフィルムを必要に応じ、さらに延伸する方法であってもよい。
【0107】
この方法では、延伸したフィルムを、例えば、液体窒素、液体ヘリウム等の低温液化ガス中に、伸びを付与した状態で存在させ、フィルム中に低温液化ガスを浸透させる。その後、低温液化ガスを浸透させたフィルムを大気中に暴露し、フィルム中に浸透した液化ガスを膨張させて発泡させた後、必要に応じ、さらに延伸すればよい。
【0108】
<吸湿させたフィルムから水を気化させて発泡させることによる方法>
本実施形態にかかる光学補償フィルムの製造方法において、フィルム内に、フィルムの厚み方向に長さが異なる中空域が、フィルム表面に平行な方向に沿って複数存在するフィルムを製造する方法のさらに他の一例は、フィルムを吸湿させ、誘電加熱により水を気化させて発泡させる方法である。
【0109】
すなわち、本実施形態にかかる光学補償フィルムの製造方法は、フィルムを吸湿させ、誘電加熱により水を気化させて発泡させることにより、フィルム内に、フィルムの厚み方向に長さが異なる中空域が、フィルム表面に平行な方向に沿って複数存在するフィルムを製造し、得られたフィルムを延伸する方法であってもよい。
【0110】
この方法では、フィルムを例えば水中に含浸し、フィルムに吸湿させる。その後、吸湿したフィルムに、例えば、マイクロ波を放射し、誘電加熱、すなわち物質自身の分子運動による発熱により水を気化させて発泡させた後、延伸すればよい。
【0111】
(II−3)配向複屈折値が異なる複数種類の高分子化合物を含むフィルムを製造する工程を含む方法
本発明にかかる光学補償フィルムの製造方法の第3の実施形態は、配向複屈折値の符号が同一であり、配向複屈折値が異なる複数種類の高分子化合物を含み、フィルム面に平行な方向に沿って複数の単位領域に分割したときに、同一波長の光に対する位相差が隣接する単位領域と10nm以上異なる単位領域が複数存在する光学補償フィルムの製造方法であって、配向複屈折値の符号が同一であり、配向複屈折値が異なる複数種類の高分子化合物を押し出して、フィルムを形成する押出工程と、該押出工程で得られたフィルムを延伸する延伸工程と、を含み、上記押出工程は、配向複屈折値の符号が同一であり、配向複屈折値が異なる複数種類の高分子化合物を、該複数種類の高分子化合物の比率を経時的に変化させながら、押し出す方法である。
【0112】
また、本発明にかかる光学補償フィルムの製造方法の第3の実施形態は、配向複屈折値の符号が同一であり、配向複屈折値が異なる複数種類の高分子化合物を含み、フィルム面に平行な方向に沿って複数の単位領域に分割したときに、同一波長の光に対する位相差が隣接する単位領域と10nm以上異なる単位領域が複数存在する光学補償フィルムの製造方法であって、配向複屈折値の符号が同一であり、配向複屈折値が異なる複数種類の高分子化合物を押し出して、フィルムを形成する押出工程と、該押出工程で得られたフィルムを延伸する延伸工程と、を含み、上記押出工程は、多層押出成形により、フィルム断面における隣接する2つの単位領域において、含有される上記複数種類の高分子化合物の厚み方向の比率が異なるように、フィルム内部に配向複屈折値の符号が同一であり、配向複屈折値が異なる領域を押し出す方法であってもよい。
【0113】
配向複屈折値の符号が同一であり、配向複屈折値が異なる複数種類の高分子化合物を含めることにより、複屈折を異ならせて、異なる位相差の単位領域を混在させた光学補償フィルムを製造することができる。
【0114】
以下、配向複屈折値について説明する。一般に、高分子化合物は延伸の際に作用する引張応力、加熱成形後の収縮応力等の応力により、高分子化合物の主鎖が配向し、複屈折を生じる性質がある。これは、前記のような応力を受けた高分子化合物の主鎖の配向方向に平行な方向の偏波成分に関する屈折率と配向方向に垂直な方向の偏波成分に関する屈折率とが異なることによるものである。配向複屈折値とは、配向による複屈折を示すものであり、この2つの屈折率の差で表される。本明細書においては、(高分子化合物の主鎖の配向方向に平行な方向の偏波成分に関する屈折率)−(高分子化合物の主鎖の配向方向に垂直な方向の偏波成分に関する屈折率)>0の関係が得られる時の配向複屈折値を正の値とし、(高分子化合物の主鎖の配向方向に平行な方向の偏波成分に関する屈折率)−(高分子化合物の主鎖の配向方向に垂直な方向の偏波成分に関する屈折率)<0の関係が得られる時の配向複屈折値を負の値とする。
【0115】
例えば、高分子フィルムの1軸延伸品を例に挙げて具体的に説明する。1軸延伸して高分子化合物の主鎖を配向させた高分子フィルムにおいて、延伸方向を0度方向とし、当該延伸方向に対する、フィルム面内で偏波成分に関する屈折率が最大となる方向の角度を「配向複屈折の方位角」と表現する。この場合、フィルム面内で偏波成分に関する屈折率が最大となる方向が高分子化合物の主鎖の配向方向(延伸方向)に平行な方向とほぼ一致する時、上記定義より、配向複屈折値は正の値となる。そして、配向複屈折の方位角はほぼ0度となる。また、フィルム面内で偏波成分に関する屈折率が最大となる方向が高分子主鎖の配向方向(延伸方向)に垂直な方向とほぼ一致する時、上記定義より、配向複屈折値は負の値となる。そして、配向複屈折の方位角は、ほぼ90度又はほぼ−90度となる(延伸方向から左回りの角度を正の値とし、右回りの角度を負の値として表す)。したがって、配向複屈折の方位角を測定することにより、配向複屈折値の符号(正または負)が判断できる。
【0116】
また、(位相差)=(複屈折)×(厚み)の関係より、位相差及び厚みを測定することにより、配向複屈折値の絶対値を求めることができる。本明細書では、波長548nmの光で測定したフィルム面に垂直な方向の位相差(R(548)(nm))をそのフィルムの厚み(d(nm))で割った値を配向複屈折値の絶対値とする。
【0117】
ここで、配向複屈折値の符号が同一であり、配向複屈折値が異なる複数種類の高分子化合物を用いてフィルムを形成する方法としては、配向複屈折値の符号が同一であり、配向複屈折値が異なる複数種類の高分子化合物を押し出す方法、上記(II−1)で得られる、複数種類の高分子化合物または複数種類の高分子鎖からなる共重合体が海島構造に相分離しているフィルムから、高分子化合物または高分子鎖の一部を、溶解処理またはドライエッチング処理により除去して島部のみを除去することにより得られるフィルムに海部と配向複屈折値の符号が同一であり、配向複屈折値の異なる材料を含浸させた後、延伸する方法、または、上記(II−2)で得られる、フィルム内に中空域が複数存在するフィルムに配向複屈折値の符号が同一であり、配向複屈折値の異なる材料を含浸させる方法を用いることができる。
【0118】
また、本実施形態において用いることができる複数の高分子化合物としては、上記サンドブラスト処理を用いる実施形態において説明したフィルムに用いられる高分子化合物から選択される複数種類の高分子化合物を用いればよい。
【0119】
<高分子化合物の比率を経時的に変化させながら、押し出すことによる方法>
本実施形態にかかる光学補償フィルムの製造方法において、配向複屈折値の符号が同一であり、配向複屈折値が異なる複数種類の高分子化合物を押し出してフィルムを形成する方法の一例は、配向複屈折値の符号が同一であり、配向複屈折値が異なる少なくとも2種類の高分子化合物を、該2種類の高分子化合物の比率を経時的に変化させながら押し出す方法である。
【0120】
すなわち、本実施形態にかかる光学補償フィルムの製造方法は、配向複屈折値の符号が同一であり、配向複屈折値が異なる少なくとも2種類の高分子化合物を、該2種類の高分子化合物の比率を経時的に変化させながら、押し出すことにより、フィルム面に平行な方向に沿って複数の単位領域に分割したときに、同一波長の光に対する位相差が隣接する単位領域と10nm以上異なる単位領域が複数存在するフィルムを製造する押出工程と、該押出工程で得られたフィルムを延伸する延伸工程とを含む方法であってもよい。
【0121】
上記押出工程は、押出機で溶融した2種類の高分子化合物を、押出機の出口に備えらえたダイを用いて、フィルム状に押し出すときに、2種類の高分子化合物の比率を経時的に変化させるものであればよい。2種類の高分子化合物の比率を経時的に変化させる方法としては、例えば、押出機に供給する2種類の高分子化合物の比率を経時的に変化させればよい。そのためには、例えば、各高分子化合物を交互に押出機に供給する方法、一方の高分子化合物を連続的に一定量供給すると同時に他方の高分子化合物を断続的に供給する方法等を用いることができる。
【0122】
図7に、配向複屈折値の符号が同一であり、配向複屈折値が異なる2種類の高分子化合物AおよびBを、交互に押出機に供給して溶融し押し出すことにより、複屈折を領域ごとに異ならせたフィルムの一例を示す。図7中、矢印で示される方向がフィルムの押出方向である。
【0123】
押出機に供給されたAはまず単独で押し出されて図7の領域aを形成する。続いて押出機にBが供給されるが、その時点では押出機内にAが残っているため、残っているAがすべて押し出されるまでは、AおよびBとがともに押し出されて図7の領域bを形成する。そして押出機内のAが全て押し出された後はBが単独で押し出されて図7の領域cを形成する。その後、押出機にAを供給すると、同様にしてAおよびBとがともに押し出されて領域dが形成される。このようにして、形成された領域a、b、c、dは、AとBとの混合比率が異なることとなる。ここで、高分子化合物AとBとは配向複屈折値の符号が同一であり、配向複屈折値が異なるため、押出後に延伸処理を行って得られる光学補償フィルムは、隣接する各領域間では複屈折が異なることとなる。そのため、領域a、b、c、d・・・を、それぞれ一つの単位領域として設定すれば、隣接する2つの単位領域間では位相差が異なることとなる。これにより、得られる光学補償フィルムは、フィルム面(光入射面)に平行な方向に沿って、同一波長の光に対する位相差の異なる単位領域が複数存在することとなる。
【0124】
<含有される上記複数種類の高分子化合物の厚み方向の比率が異なるように押し出すことによる方法>
本実施形態にかかる光学補償フィルムの製造方法において、配向複屈折値の符号が同一であり、配向複屈折値が異なる複数種類の高分子化合物を押し出してフィルムを形成する方法の他の一例は、多層押出成形により、フィルム断面における隣接する2つの単位領域において、含有される上記複数種類の高分子化合物の厚み方向の比率が異なるように、フィルム内部に配向複屈折値の符号が同一であり、配向複屈折値が異なる領域を押し出す方法である。
【0125】
すなわち、本実施形態にかかる光学補償フィルムの製造方法は、多層押出成形により、フィルム断面における隣接する2つの単位領域において、含有される上記複数種類の高分子化合物の厚み方向の比率が異なるように、フィルム内部に配向複屈折値の符号が同一であり、配向複屈折値が異なる領域を形成するように押し出す方法を用いて、フィルム面に平行な方向に沿って複数の単位領域に分割したときに、同一波長の光に対する位相差が隣接する単位領域と10nm以上異なる単位領域が複数存在するフィルムを製造する押出工程と、該押出工程で得られたフィルムを延伸する延伸工程とを含む方法であってもよい。
【0126】
上記押出工程は、多層押出成形により、フィルム断面における隣接する2つの単位領域において、含有される上記複数種類の高分子化合物の厚み方向の比率が異なるように、フィルム内部に配向複屈折値の符号が同一であり、配向複屈折値が異なる領域を押し出す方法であれば特に限定されるものではない。
【0127】
図8に、多層押出成形により、フィルム断面における隣接する2つの単位領域a、bにおいて、含有される2種類の高分子化合物AおよびBの厚み方向の比率が異なるように、高分子化合物Aを鞘とするフィルム内部に配向複屈折値の符号が同一であり、配向複屈折値が異なる高分子化合物Bからなる複数の芯が形成されるように、押し出すことにより、複屈折を領域ごとに異ならせたフィルムの一例を示す。図8中、矢印で示される方向がフィルムの押出方向である。したがって、上記フィルム断面とは、例えば、押出方向に対して垂直な断面でありうる。
【0128】
かかるフィルムは、高分子化合物A及びBを、それぞれ別々の押出機で溶融後、高分子化合物Aを鞘とし高分子化合物Bを複数の芯に配置した、AおよびBからなる複合樹脂流にして、例えばT−ダイ等のダイに供給し、押し出すことによって形成することができる。ここで、高分子化合物Aを鞘とし高分子化合物Bを複数の芯に配置した、AおよびBからなる複合樹脂流を形成するためには、各押出機と、ダイとの間に装着するフィードブロックとして、例えば、芯−鞘型複合樹脂流を形成するためのフィードブロックを、複数並べた状態のフィードブロックを好適に用いることができる。かかる芯−鞘型複合樹脂流を形成するためのフィードブロックとしては、例えば、従来公知の断面円形のもの、特開昭59−31157に記載のフィードブロック等を用いることができる。
【0129】
このようにして、形成されたフィルムでは、図8に示すように、領域aと、隣接する領域bとは、高分子化合物AおよびBの厚み方向の比率が異なることとなる。高分子化合物Aと高分子化合物Bとは配向複屈折値の符号が同一であり、配向複屈折値が異なるため、押出後に延伸処理を行って得られる光学補償フィルムは、隣接する各領域間では複屈折が異なることとなる。そのため、領域a、b、・・・を一つの単位領域として設定すれば、隣接する2つの単位領域間では位相差が異なることとなる。これにより、得られる光学補償フィルムは、フィルム面(光入射面)に平行な方向に沿って、同一波長の光に対する位相差の異なる単位領域が複数存在することとなる。
【0130】
<島部のみを除去することにより得られるフィルムを配向複屈折値の異なる材料を含浸させることによる方法>
本実施形態にかかる光学補償フィルムの製造方法は、上記(II−1)で得られる、複数種類の高分子化合物または複数種類の高分子鎖からなる共重合体が海島構造に相分離しているフィルムから、該フィルムに含まれる高分子化合物または高分子鎖がn種類であるとしたときに、該フィルム形成工程で得られたフィルムに含まれる、1種類以上(n−1)種類以下の高分子化合物または高分子鎖を、溶解処理またはドライエッチング処理により除去して島部のみを除去することにより得られるフィルムまたは該フィルムを延伸したフィルムに、該フィルムを構成する材料と配向複屈折値の符号が同一であり、配向複屈折値の異なる材料を含浸させる含浸工程と、該含浸工程で得られたフィルムを延伸する延伸工程を含む方法であってもよい。
【0131】
これにより、上記島部のみを除去して得られた、凹凸形状を有するフィルムの凹部に、該フィルムを構成する材料と配向複屈折値の符号が同一であり、配向複屈折値の異なる材料が充填されることになり、得られる光学補償フィルムの隣接する各領域間では複屈折が異なることとなる。そのため、隣接する2つの単位領域間では位相差が異なることとなり、同一波長の光に対する位相差の異なる単位領域が複数存在する光学補償フィルムを得ることができる。
【0132】
また、かかる方法を用いることにより、フィルムの凹部に、任意の配向複屈折値の符号が同一であり、配向複屈折値の異なる材料を充填することができるため、材料の選択の幅が広がるという効果がある。さらに、海島構造に相分離しているフィルムとして、ブロック共重合体が自己組織化して、規則的な海島構造にミクロ相分離しているフィルムを用いれば、容易に規則性の高い凹凸形状を有するフィルムを得ることができる。さらに、例えばブロック共重合体の作製が容易であるポリスチレン構造を有するブロック共重合体とし、海島構造に相分離したフィルムに加工後、ポリスチレンをドライエッチング処理により除去し、その凹部に所望の材料を充填すれば、所望の特性を有する光学補償フィルムを容易に製造することができる。
【0133】
さらに、本実施形態にかかる方法は、海島構造にミクロ相分離しているフィルムに限らず、垂直(厚み)方向のシリンダ構造または垂直ラメラ構造にミクロ相分離しているフィルムにも適用することができる。例えば基板上に形成された、垂直(厚み)方向のシリンダ構造または垂直ラメラ構造にミクロ相分離しているフィルムから、一方の高分子鎖を、溶解処理またはドライエッチング処理により除去することにより、それぞれ、フィルムの厚み方向に貫通する規則的なミクロホールまたはナノホールを有するフィルム、または、除去されなかった高分子鎖のドメインからなるシリンダが基板上に規則的な凸部を形成しているフィルム、或いは、除去されなかった高分子鎖のドメインが基板上にストライプ状に配置されたフィルムが得られる。これらのフィルムまたは該フィルムを延伸したフィルムに、該フィルムを構成する材料と配向複屈折値の符号が同一であり、配向複屈折値の異なる材料を含浸させることにより、除去されたドメインが当該配向複屈折値の符号が同一であり、配向複屈折値の異なる材料に置き換えられたフィルムを形成することができる。
【0134】
本実施形態にかかる光学補償フィルムの製造方法は、上記(II−2)で得られる、フィルム内に中空域が複数存在するフィルムまたは該フィルムを延伸したフィルムに配向複屈折値の符号が同一であり、配向複屈折値の異なる材料を含浸させる含浸工程と、該含浸工程で得られたフィルムを延伸する延伸工程を含む方法であってもよい。
【0135】
これにより、フィルム内に複数存在する上記中空域に、該フィルムを構成する材料と配向複屈折値の符号が同一であり、配向複屈折値の異なる材料が充填されることになり、得られるフィルムの隣接する各領域間では複屈折が異なることとなる。そのため、隣接する2つの単位領域間では位相差が異なることとなり、同一波長の光に対する位相差の異なる単位領域が複数存在する光学補償フィルムを得ることができる。
【0136】
ここで、上記含浸工程において、配向複屈折値の符号が同一であり、配向複屈折値の異なる材料を含浸させる方法は特に限定されるものではなく、配向複屈折値の符号が同一であり、配向複屈折値の異なる材料を溶融した溶融樹脂にして上記フィルムに含浸させる方法、配向複屈折値の符号が同一であり、配向複屈折値の異なる材料の溶液にして上記フィルムに含浸させる方法等を挙げることができる。また、配向複屈折値の符号が同一であり、配向複屈折値の異なる材料を含浸させたフィルムは、加熱および/または乾燥させたのち、延伸すればよい。
【0137】
(III)光学補償フィルムの位相差の波長分散
上記方法により製造される光学補償フィルムでは、フィルムの複屈折および/または厚みを異ならせて、位相差が異なる単位領域を混在させることにより、容易に光学補償フィルムの全体の位相差の波長分散を制御できる。したがって、かかる光学補償フィルムも本発明に含まれる。以下、本発明の光学補償フィルムにおいて、全体の位相差の波長分散がどのようにして決定されるかについて説明する。なお、この原理の詳細については、本発明者らによる国際出願:PCT/JP2007/073246に記載している通りであるため、ここでは簡略化して説明する。
【0138】
本発明の光学補償フィルムは、フィルム表面に平行な方向に沿って存在する凹部と凸部とが繰り返される凹凸形状、フィルム表面に平行な方向に沿って複数存在するフィルムの厚み方向に長さが異なる中空域、および/または、配向複屈折値の符号が同一であり、配向複屈折値が異なる複数種類の高分子化合物を有することにより、同一波長の光に対する位相差が隣接する単位領域との間で10nm以上異なる。そして、隣接する単位領域における位相差の波長依存性と、全ての単位領域を含む全体領域における合成位相差R(λ)の波長依存性とが異なることを利用するものである。
【0139】
フィルム表面に、凹部と凸部とが繰り返される凹凸形状を有している光学補償フィルムにおいて、r(λ)は、波長λ(nm)の光で測定した凸部の位相差であり、r’(λ)は波長λ(nm)の光で測定した凹部の位相差であり、R(λ)は波長λ(nm)の光で測定した膜面内の合成位相差であるとする。また、フィルム内に、フィルムの厚み方向に長さが異なる中空域が、フィルム表面に平行な方向に沿って複数存在している光学補償フィルムの場合には、r(λ)は、波長λ(nm)の光で測定した上記中空域の厚み方向の長さが短い領域における位相差であり、r’(λ)は波長λ(nm)の光で測定した上記中空域の厚み方向の長さが長い領域における位相差であり、R(λ)は波長λ(nm)の光で測定した膜面内の合成位相差であるとする。
【0140】
ここで述べる位相差とは、光入射面に垂直な方向から見た際の位相差である(本明細書において、特に光入射面に対する角度の言及がない場合、「位相差」は光入射面に垂直な方向から見た際の位相差を意味するものとする。)。合成位相差とは、全体領域を巨視的にみたときの位相差のことである。
【0141】
このとき、合成位相差R(λ)は、各凹部および各凸部の位相差、または、上記中空域の厚み方向の長さが短い領域と長い領域の位相差による複屈折性の平均の複屈折性に対応する位相差を示す。ここで、位相差が同じであってもそこに入射する光の波長が異なれば、異なる複屈折性を示すこととなる。
【0142】
例えば、複屈折性を示す特徴量として、偏光板の偏光軸が互いに平行(平行ニコル状態)にした2枚の偏光板の間に、位相差re(nm)を有するフィルムを、その遅相軸が偏光板の透過軸と角度θ(rad)を成すように置いたときの、波長λ(nm)の透過率I(θ,λ)を考える。このとき、透過率は次式で与えられる。
【0143】
I(θ,λ)=cos4θ+sin4θ+1/2・cos(2πre/λ)・sin2(2θ)
ここで、θをπ/4rad(=45°)とすると、透過率は次式となり、三角関数で示される。
【0144】
I(π/4,λ)=1/2+1/2・cos(2πre/λ)
ただし、その周期は、波長によって異なる。各単位領域において位相差が波長に拘わらず同じ値であったとしても、合成位相差は波長によって変化する。逆に、各単位領域において位相差が正の波長分散を示していたとしても、合成位相差が波長によって変化しない場合もありえる。なお、本明細書では、「正の波長分散」とは波長548nmの光で測定した位相差を1として他の波長の光で測定した位相差をその相対値として表した時、長波長になるにしたがってその相対値が小さくなることを意味する。反対にその相対値が大きくなる場合を「逆の波長分散」と称する。
【0145】
この合成位相差の波長依存性(波長分散)は、各単位領域の位相差の差と全体領域に対する各単位領域の面積比率によって決定される。各単位領域の位相差の差は、その厚さおよび/または複屈折の差に依存する。
【0146】
例えば、表面に矩形の凹凸を有する高分子化合物の膜が同一材料で形成されている場合において、十点平均粗さをRzJIS(μm)、接触式膜厚計等により膜の凸部で測定した平均膜厚をd(μm)とすると、凹部と凸部の複屈折は同等であるので単位領域の位相差の平均的な大きさの比はそれぞれの部位の厚さの比で表される。すなわち、
(d−RzJIS)/d=1−RzJIS/d
となる。したがって、RzJIS/dを制御することにより、凹部および凸部の位相差の比が制御できる。
【0147】
R(548)−R(447)>r(548)−r(447) 数式A
の関係を得る観点から、RzJIS/dは下限0.05が好ましく、下限0.1がより好ましく、下限0.15がさらに好ましい。RzJIS/dが0.05より小さいと隣接する単位領域の位相差の差が十分にとれなくなる場合が生じ、数式Aの関係が得られなくなる傾向がある。尚、上限は1より小さければ特に制約はない。RzJIS/d=1の場合、一つの膜でなくなるため上限は1より小さい値が必要となる。
【0148】
以上のことから、合成位相差の波長分散は材料の制約を受けることなく容易に制御することができる。
【0149】
また、全体領域の合成位相差の波長分散を各単位領域の位相差及び面積比率で制御できるため、材料による制約を受けない。つまり、波長分散以外の特性、例えばガラス転移温度、光弾性係数等の諸物性が目的のものになるように材料を選択できる。
【0150】
また、例えば、複屈折が異なる各単位領域で形成されている光学補償フィルムの場合において、各単位領域の複屈折は、光学補償フィルムを製造する際に用いる高分子の種類に依存する。そのため、使用する高分子を適宜選択することで、各単位領域の複屈折を選択することができる。このとき、合成位相差の波長分散が各単位領域の位相差と面積比率とで決定されるため、使用する高分子単体による複屈折の波長分散についてはそれほど考慮する必要がない。その結果、使用する高分子の選択の幅が広がる。よって、波長分散以外の特性、例えばガラス転移温度、光弾性係数等の諸物性が目的のものになるように高分子を選択できる。
【0151】
このように、本発明は全体領域を1つの素子として、巨視的にみた合成位相差R(λ)の波長依存性を利用するものである。
【0152】
フィルム表面に、凹部と凸部とが繰り返される凹凸形状を有している光学補償フィルムまたはフィルム内に、フィルムの厚み方向に長さが異なる中空域が、フィルム表面に平行な方向に沿って複数存在している光学補償フィルムでは、上記凸部または隣接する上記中空域の厚み方向の長さが短い領域における、波長λnmの光に対する位相差をr(λ)とし、上記凹部または隣接する上記中空域の厚み方向の長さが長い領域における、波長λnmの光に対する位相差をr´(λ)とし、全領域における波長λnmの光に対する合成位相差をR(λ)としたときに、本発明の光学補償フィルムは以下の数式(2)、(3)および(4)
r(548)<r(447) ・・・数式(2)
r´(548)<r´(447) ・・・数式(3)
R(548)≧R(447) ・・・数式(4)
を満たすものである。
【0153】
多くの高分子化合物を配向させたときの位相差は、正の波長分散を示す。そのため、数式(2)、(3)を満たすことから、多くの高分子化合物を使用することができ、材料の選択の幅が広がることとなる。
【0154】
一方、上述したように、合成位相差Rの波長依存性(波長分散)は、各単位領域の位相差の差、および、全体領域に対する各単位領域の面積比率によって決定されるものであり、これらを適宜選択することで、容易に制御される。そして、数式(4)を満たすとき、合成位相差は逆の波長分散を示すこととなる。すなわち、光学補償フィルムを逆の波長分散を示す位相差膜として使用することができる。
【0155】
また、配向複屈折値の符号が同一であり、配向複屈折値が異なる複数種類の高分子化合物を含む光学補償フィルムでは、上記複数種類の高分子化合物の各々の単体で形成されたフィルムを1軸延伸した延伸品の、波長λnmの光に対する位相差をR(λ)とし、全領域における波長λnmの光に対する合成位相差をR(λ)としたとき、本発明の光学補償フィルムは以下の数式(5)および(6)
(548)<R(447) ・・・数式(5)
R(548)≧R(447) ・・・数式(6)
を満たすものである。
【0156】
多くの高分子化合物を1軸延伸させたときの位相差は、正の波長分散を示す。そのため、数式(5)を満たすことから、多くの高分子化合物を使用することができ、材料の選択の幅が広がることとなる。
【0157】
一方、合成位相差の波長分散は、上記単位領域間の位相差の差、および、全体領域に対する各種の単位領域の面積比率によって決定されるものであり、これらを適宜選択することで、容易に制御される。そして、数式(6)を満たすとき、合成位相差は逆の波長分散を示すこととなる。すなわち、光学補償フィルムを逆の波長分散を示す位相差膜として使用することができる。
【0158】
また、本発明の光学補償フィルムは、上記合成位相差R(λ)の波長依存性が、
R(447)≦R(548)≦R(628)
を満たすものであってもよい。
【0159】
これにより、逆の波長分散を示す光学補償フィルムを容易に実現することができるとともに、波長分散の度合いも制御できる。また、従来材料により波長分散を制御していた場合に比べて、より大きな逆の波長分散を容易に実現することができる。
【0160】
また、TN(Twisted Nematic)方式、VA(Vertical Alignment)方式、IPS(In−Plane Switching)方式、OCB(Optically Compensated Birefringence)方式等の高画質を有する液晶表示装置の光学補償として本発明の光学補償フィルムを用いる場合、位相差としては一般に350nm以下が必要される。そのため、合成位相差R(548)は350nm以下であることが好ましい。
【0161】
これにより、逆の波長分散を示す光学補償フィルムを容易に実現することができるとともに、波長分散の度合いも制御できる。また、位相差を縦軸、波長を横軸にとったときのグラフにおいて、傾きが大きな波長分散を示す光学補償フィルムを容易に実現することができる。
【0162】
なお、R(548)−R(447)>r(548)−r(447)
の関係を得る観点から、隣接する各単位領域の位相差の差は、下限10nmが好ましく、下限50nmがより好ましく、下限100nmがさらに好ましい。
【0163】
更に、各単位領域の光軸は同一方向とすることが好ましいことから、光軸のバラツキは、±5度以内が好ましく、±3度以内がより好ましく、±1度以内がさらに好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0164】
本発明は、液晶表示装置等の各種光学装置中の他の構成により生じる複屈折を補償するためのフィルムに適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0165】
【図1】本発明の一実施形態にかかる光学補償フィルムを示すものであり、(a)は斜視図、(b)は平面図、(c)は断面図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかる光学補償フィルムを示すものであり、(a)が斜視図、(b)は断面図である。
【図3】本発明の一実施形態にかかる光学補償フィルムの断面図である。
【図4】本発明の一実施形態にかかる光学補償フィルムの製造方法の一例を模式的に示す図である。
【図5】本発明の一実施形態にかかる光学補償フィルムの製造方法の一例を模式的に示す図である。
【図6】本発明の一実施形態にかかる光学補償フィルムの断面図である。
【図7】本発明の一実施形態にかかる光学補償フィルムの断面図である。
【図8】本発明の一実施形態にかかる光学補償フィルムの断面図である。
【符号の説明】
【0166】
1 光学補償フィルム
2 単位領域
3 フィルム
4 サンドブラスト処理剤
5 ダイ
6 溶融樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム表面に、凹部と凸部とが繰り返される凹凸形状を有しており、フィルム面に平行な方向に沿って複数の単位領域に分割したときに、同一波長の光に対する位相差が隣接する単位領域と10nm以上異なる単位領域が複数存在する光学補償フィルムの製造方法であって、
フィルム表面に、凹部と凸部とが繰り返される凹凸形状を形成する工程と、
延伸工程と、を含むことを特徴とする光学補償フィルムの製造方法。
【請求項2】
フィルム内に、フィルムの厚み方向に長さが異なる中空域が、フィルム表面に平行な方向に沿って複数存在しており、フィルム面に平行な方向に沿って複数の単位領域に分割したときに、同一波長の光に対する位相差が隣接する単位領域と10nm以上異なる単位領域が複数存在する光学補償フィルムの製造方法であって、
フィルム内に、フィルムの厚み方向に長さが異なる中空域が、フィルム表面に平行な方向に沿って複数存在するフィルムを製造するフィルム製造工程と、
延伸工程と、を含むことを特徴とする光学補償フィルムの製造方法。
【請求項3】
配向複屈折値の符号が同一であり、配向複屈折値が異なる複数種類の高分子化合物を含み、フィルム面に平行な方向に沿って複数の単位領域に分割したときに、同一波長の光に対する位相差が隣接する単位領域と10nm以上異なる単位領域が複数存在する光学補償フィルムの製造方法であって、
配向複屈折値の符号が同一であり、配向複屈折値が異なる複数種類の高分子化合物を押し出して、フィルムを形成する押出工程と、
該押出工程で得られたフィルムを延伸する延伸工程と、を含み、
上記押出工程は、配向複屈折値の符号が同一であり、配向複屈折値が異なる複数種類の高分子化合物を、該複数種類の高分子化合物の比率を経時的に変化させながら、押し出すことを特徴とする光学補償フィルムの製造方法。
【請求項4】
配向複屈折値の符号が同一であり、配向複屈折値が異なる複数種類の高分子化合物を含み、フィルム面に平行な方向に沿って複数の単位領域に分割したときに、同一波長の光に対する位相差が隣接する単位領域と10nm以上異なる単位領域が複数存在する光学補償フィルムの製造方法であって、
配向複屈折値の符号が同一であり、配向複屈折値が異なる複数種類の高分子化合物を押し出して、フィルムを形成する押出工程と、
該押出工程で得られたフィルムを延伸する延伸工程と、を含み、
上記押出工程は、多層押出成形により、フィルム断面における隣接する2つの単位領域において、含有される上記複数種類の高分子化合物の厚み方向の比率が異なるように、フィルム内部に配向複屈折値の符号が同一であり、配向複屈折値が異なる領域を押し出すことを特徴とする光学補償フィルムの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法を用いて製造したことを特徴とする光学補償フィルム。
【請求項6】
全体領域における、波長λnmの光に対する合成位相差をR(λ)としたとき、以下の数式(1)
R(548)≦350nm ・・・数式(1)
を満たすことを特徴とする請求項5に記載の光学補償フィルム。
【請求項7】
フィルム表面に、凹部と凸部とが繰り返される凹凸形状を有している光学補償フィルムまたはフィルム内に、フィルムの厚み方向に長さが異なる中空域が、フィルム表面に平行な方向に沿って複数存在している光学補償フィルムであって、
上記凸部または隣接する上記中空域の厚み方向の長さが短い領域における、波長λnmの光に対する位相差をr(λ)とし、上記凹部または隣接する上記中空域の厚み方向の長さが長い領域における、波長λnmの光に対する位相差をr´(λ)とし、全領域における波長λnmの光に対する合成位相差をR(λ)としたとき、以下の数式(2)、(3)および(4)
r(548)<r(447) ・・・数式(2)
r´(548)<r´(447) ・・・数式(3)
R(548)≧R(447) ・・・数式(4)
を満たすことを特徴とする請求項5または6に記載の光学補償フィルム。
【請求項8】
配向複屈折値の符号が同一であり、配向複屈折値が異なる複数種類の高分子化合物を含む光学補償フィルムであって、
上記複数種類の高分子化合物の各々の単体で形成されたフィルムを1軸延伸した延伸品の、波長λnmの光に対する位相差をR(λ)とし、全領域における波長λnmの光に対する合成位相差をR(λ)としたとき、以下の数式(5)および(6)
(548)<R(447) ・・・数式(5)
R(548)≧R(447) ・・・数式(6)
を満たすことを特徴とする請求項5または6に記載の光学補償フィルム。
【請求項9】
全領域における波長λnmの光に対する合成位相差をR(λ)としたとき、以下の数式(7)
R(628)≧R(548)≧R(447)・・・数式(7)
を満たすことを特徴とする請求項5〜8のいずれか1項に記載の光学補償フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−107556(P2010−107556A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−276603(P2008−276603)
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】