説明

光学補償フィルム

【課題】 本発明は、フマル酸エステル系共重合体樹脂からなり、負の複屈折を有し、位相差特性、位相差の安定性、波長依存性等の光学特性、機械特性に優れた光学補償フィルムを提供する。
【解決手段】 フマル酸エステル系共重合体樹脂からなるフィルムであって、フィルム面内の進相軸方向の屈折率をnx、それと垂直方向の屈折率をny、フィルムの厚み方向の屈折率をnzとした場合に、nx<ny≦nzの関係にあり、450nmの光で測定した位相差と550nmの光で測定した位相差の比(R450/R550)が1.1以下である光学補償フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負の複屈折を有し、位相差特性、位相差の安定性、波長依存性等の光学特性に優れた光学フィルム、特に液晶表示素子用の光学補償フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイは、マルチメディア社会における最も重要な表示デバイスとして、携帯電話からコンピューター用モニター、ノートパソコン、テレビまで幅広く使用されている。液晶ディスプレイには表示特性向上のため多くの光学フィルムが用いられている。特に光学補償フィルムは、正面や斜めから見た場合のコントラスト向上、色調の補償など大きな役割を果たしている。従来の光学補償フィルムとしては、ポリカーボネートや環状ポリオレフィンが用いられているが、これらの高分子はいずれも正の複屈折を有する高分子である。ここで、複屈折の正負は下記に示すように定義される。
【0003】
延伸等で分子配向した高分子フィルムの光学異方性は、図1に示す屈折率楕円体で表すことができる。ここで、フィルムを延伸した場合のフィルム面内の進相軸方向の屈折率をnx、それと垂直方向の屈折率をny、フィルムの厚み方向の屈折率をnzと示す。なお、進相軸とはフィルム面内における屈折率の低い軸方向である。
【0004】
そして、負の複屈折率とは延伸方向が進相軸方向となるものであり、正の複屈折率とは延伸方向と垂直方向が進相軸方向となるものである。
【0005】
つまり、負の複屈折を有する高分子の一軸延伸では延伸軸方向の屈折率が小さく(進相軸:延伸方向)、正の複屈折を有する高分子の一軸延伸では延伸軸方向と直交する軸方向の屈折率が小さい(進相軸:延伸方向と直交方向)。
【0006】
また、面内位相差(Re)は、進相軸方向と直交方向の屈折率(ny)−進相軸方向の屈折率(nx)にフィルムの厚みを掛けた値として表される。
【0007】
多くの高分子は正の複屈折性を有する。負の複屈折を有する高分子としてはアクリル樹脂やポリスチレンがあるが、アクリル樹脂は位相差の発現性が小さく、光学補償フィルムとしての特性は十分でない。ポリスチレンは、室温領域での光弾性係数が大きくわずかな応力で位相差が変化するなど位相差の安定性の課題、位相差の波長依存性が大きいといった光学特性上の課題、更に耐熱性が低いといった実用上の課題があり現状用いられていない。
【0008】
ここで位相差の波長依存性とは、位相差が測定波長に依存して変化することを意味し、波長450nmで測定した位相差(R450)と波長550nmで測定した位相差(R550)の比R450/R550として表すことができる。一般に芳香族構造の高分子ではこのR450/R550が大きくなる傾向が強く、低波長領域でのコントラストや視野角特性が低下する。
【0009】
負の複屈折を示す高分子の延伸フィルムはフィルムの厚み方向の屈折率が高く、従来にない光学補償フィルムとなるため、例えばスーパーツイストネマチック型液晶(STN−LCD)や垂直配向型液晶(VA−LCD)、面内配向型液晶(IPS−LCD)、反射型液晶ディスプレイ、半透過型液晶ディスプレイなどのディスプレイの視角特性の補償用の光学補償フィルムや偏光板の視角を補償するための光学補償フィルムとして有用であり、負の複屈折を有する光学補償フィルムに対して市場の要求が強い。正の複屈折を有する高分子を用いてフィルムの厚み方向の屈折率を高めたフィルムの製造方法が提案されている。ひとつは高分子フィルムの片面または両面に熱収縮性フィルムを接着し、その積層体を加熱延伸処理して、高分子フィルムの厚み方向に収縮力をかける処理方法(例えば特許文献1〜3参照。)である。また、高分子フィルムに電場を印加しながら面内に一軸延伸する方法が提案されている(例えば特許文献4参照。)。また、負の光学異方性を有する微粒子と透明性高分子からなる光学補償フィルムが提案されている(例えば特許文献5参照。)。また、液晶性高分子フィルムを塗布し、ホメオトロピック配向させた光学補償フ
ィルムあるいは光学補償層が提案されている(例えば特許文献6参照。)。さらに、ポリビニルナフタレンやポリビニルビフェニルなどの芳香族ポリマーを塗布した光学補償膜が提案されている(例えば特許文献7、非特許文献1参照。)。さらにポリビニルカルバゾール系高分子を用いた光学フィルムが提案されている(例えば特許文献8参照。)。
【0010】
フマル酸エステル系樹脂からなる位相差フィルムが提案されている。(例えば特許文献9参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許2818983号公報
【特許文献2】特開平05−297223号公報
【特許文献3】特開平05−323120号公報
【特許文献4】特開平06−088909号公報
【特許文献5】特開2005−156862号公報
【特許文献6】特開2002−333524号公報
【特許文献7】特開2006−221116号公報
【特許文献8】特開2001−91746号公報
【特許文献9】特開2008−64817号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】日本レオロジー学会誌Vol22、No.2、129−134(1994)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、特許文献1〜4において提案された方法は、製造工程が非常に複雑になるため生産性に劣るといった課題がある。また位相差の均一性などの制御も従来の延伸による制御に比べると著しく難しくなる。またベースフィルムとしてポリカーボネートを使用した場合には室温での光弾性定数が大きく、わずかな応力により位相差が変化するなど位相差の安定性にも課題がある。更に位相差の波長依存性が大きいなどの課題を抱えている。
【0014】
また、特許文献5で得られる光学補償フィルムは、負の光学異方性を有する微粒子を添加することにより負の複屈折を有する光学補償フィルムであり、製造方法の簡便化及び経済性の観点から、微粒子を添加する必要のない光学補償フィルムが求められている。特許文献6に記載の方法では液晶性高分子を均一にホメオトロピック配向させることが難しいという課題がある。また、特許文献7、8に記載の方法では、得られる膜が割れやすいことや位相差の波長依存性が大きいといった課題がある。また非特許文献1に記載されているようにガラス域の光弾性係数が高く位相差が安定しないといった課題がある。
【0015】
特許文献9で得られる位相差フィルムは、位相差特性、波長依存性等の光学特性に優れてはいるものの、位相差の安定性に課題があり、位相差の安定性の改善が望まれていた。
【0016】
そこで、本発明は、フマル酸エステル系共重合体樹脂からなり、負の複屈折を有し、位相差特性、位相差の安定性、波長依存性等の光学特性に優れた光学補償フィルムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、特定の樹脂からなるフィルムであって、該フィルムの3次元屈折率が特定の関係を満足する光学補償フィルムが上記課題を満足することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
即ち、本発明はフマル酸エステル系共重合体樹脂からなるフィルムであって、フィルム面内の進相軸方向の屈折率をnx、それと垂直方向の屈折率をny、フィルムの厚み方向の屈折率をnzとした場合に、nx<ny≦nzの関係にあり、450nmの光で測定した位相差と550nmの光で測定した位相差の比(R450/R550)が1.1以下であることを特徴とする光学補償フィルムに関するものである。
【0019】
以下、本発明の光学補償フィルムについて詳細に説明する。
【0020】
本発明で用いるフマル酸エステル系共重合体樹脂としては、フマル酸エステルの共重合体が挙げられ、その中でも位相差の安定性に優れる光学補償フィルムが得られることから立体障害の大きい下記一般式(a)と立体障害の小さい下記一般式(b)により示される共重合体であり、一般式(b)により示されるフマル酸ジエステル残基単位が5〜50モル%からなるフマル酸ジエステル系共重合体樹脂が好ましい。
【0021】
【化1】

(ここで、R、Rはそれぞれ独立して炭素数3〜12で、フマル酸骨格単位に結合する炭素が2級又は3級炭素である分岐状アルキル基又は環状アルキル基を示す。)
【0022】
【化2】

(ここで、R、Rはそれぞれ独立して炭素数2〜12の直鎖状アルキル基又は炭素数4〜12で、フマル酸骨格単位に結合する炭素が1級炭素である分岐状アルキル基を示す。)
ここで、一般式(a)のフマル酸ジエステル残基単位のエステル置換基であるR、Rは、それぞれ独立して、炭素数3〜12で、フマル酸骨格単位に結合する炭素が2級又は3級炭素である分岐状アルキル基又は環状アルキル基であり、フッ素、塩素などのハロゲン基;エーテル基;エステル基若しくはアミノ基で置換されていても良く、例えばイソプロピル基、s−ブチル基、t−ブチル基、s−ペンチル基、t−ペンチル基、s−ヘキシル基、t−ヘキシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられ、特に耐熱性、機械特性に優れた光学補償フィルムとなることからイソプロピル基、s−ブチル基、t−ブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等であることが好ましく、特に耐熱性、機械特性のバランスに優れた光学補償フィルムとなることからイソプロピル基が好ましい。
【0023】
一般式(a)により示されるフマル酸ジエステル残基単位としては、具体的にはフマル酸ジイソプロピル残基、フマル酸ジ−s−ブチル残基、フマル酸ジ−t−ブチル残基、フマル酸ジ−s−ペンチル残基、フマル酸ジ−t−ペンチル残基、フマル酸ジ−s−ヘキシル残基、フマル酸ジ−t−ヘキシル残基、フマル酸ジシクロプロピル残基、フマル酸ジシクロペンチル残基、フマル酸ジシクロヘキシル残基等が挙げられ、その中でもフマル酸ジイソプロピル残基、フマル酸ジ−s−ブチル残基、フマル酸ジ−t−ブチル残基、フマル酸ジシクロペンチル残基、フマル酸ジシクロヘキシル残基等が好ましく、特にフマル酸ジイソプロピル残基が好ましい。
【0024】
また、一般式(b)のフマル酸ジエステル残基単位のエステル置換基であるR、Rは、それぞれ独立して、炭素数2〜12の直鎖状アルキル基又は炭素数4〜12で、フマル酸骨格単位に結合する炭素が1級炭素である分岐状アルキル基であり、フッ素、塩素などのハロゲン基;エーテル基;エステル基若しくはアミノ基で置換されていても良く、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基等が挙げられ、特に機械特性に優れた光学補償フィルムとなることからメチル基、エチル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基等であることが好ましく、特に耐熱性、機械特性のバランスに優れた光学補償フィルムとなることからn−ブチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基が好ましい。
【0025】
一般式(b)により示されるフマル酸ジエステル残基単位としては、具体的にはフマル酸ジメチル残基、フマル酸ジエチル残基、フマル酸ジ−n−プロピル残基、フマル酸ジ−n−ブチル残基、フマル酸ジ−iso−ブチル残基、フマル酸ジ−n−ヘキシル残基、フマル酸ジ−n−ヘプチル残基、フマル酸ジ−n−オクチル残基、フマル酸ビス(2−エチルヘキシル)残基等が挙げられ、その中でもフマル酸ジメチル残基、フマル酸ジエチル残基、フマル酸ジ−n−ブチル残基、フマル酸ジ−iso−ブチル残基、フマル酸ジ−n−オクチル残基、フマル酸ビス(2−エチルヘキシル)残基が好ましく、特にフマル酸ジ−n−ブチル残基、フマル酸ジ−n−オクチル残基、フマル酸ビス(2−エチルヘキシル)残基が好ましい。
【0026】
具体的な一般式(a)と(b)により示される共重合体としては、例えばフマル酸ジイソプロピル・フマル酸ジメチル共重合体、フマル酸ジイソプロピル・フマル酸ジエチル共重合体、フマル酸ジイソプロピル・フマル酸ジ−n−ブチル共重合体、フマル酸ジイソプロピル・フマル酸ジ−iso−ブチル共重合体、フマル酸ジイソプロピル・フマル酸ジ−n−オクチル共重合体、フマル酸ジイソプロピル・フマル酸ビス(2−エチルヘキシル)共重合体、フマル酸ジ−s−ブチル・フマル酸ジメチル共重合体、フマル酸ジ−s−ブチル・フマル酸ジエチル共重合体、フマル酸ジ−s−ブチル・フマル酸ジ−n−ブチル共重合体、フマル酸ジ−s−ブチル・フマル酸ジ−iso−ブチル共重合体、フマル酸ジ−s−ブチル・フマル酸ジ−n−オクチル共重合体、フマル酸ジ−s−ブチル・フマル酸ビス(2−エチルヘキシル)共重合体、フマル酸ジ−t−ブチル・フマル酸ジメチル共重合体、フマル酸ジ−t−ブチル・フマル酸ジエチル共重合体、フマル酸ジ−t−ブチル・フマル酸ジ−n−ブチル共重合体、フマル酸ジ−t−ブチル・フマル酸ジ−iso−ブチル共重合体、フマル酸ジ−t−ブチル・フマル酸ジ−n−オクチル共重合体、フマル酸ジ−t−ブチル・フマル酸ビス(2−エチルヘキシル)共重合体、フマル酸ジシクロペンチル・フマル酸ジメチル共重合体、フマル酸ジシクロペンチル・フマル酸ジエチル共重合体、フマル酸ジシクロペンチル・フマル酸ジ−n−ブチル共重合体、フマル酸ジシクロペンチル・フマル酸ジ−iso−ブチル共重合体、フマル酸ジシクロペンチル・フマル酸ジ−n−オクチル共重合体、フマル酸ジシクロペンチル・フマル酸ビス(2−エチルヘキシル)共重合体、フマル酸ジシクロヘキシル・フマル酸ジメチル共重合体、フマル酸ジシクロヘキシル・フマル酸ジエチル共重合体、フマル酸ジシクロヘキシル・フマル酸ジ−n−ブチル共重合体、フマル酸ジシクロヘキシル・フマル酸ジ−iso−ブチル共重合体、フマル酸ジシクロヘキシル・フマル酸ジ−n−オクチル共重合体、フマル酸ジシクロヘキシル・フマル酸ビス(2−エチルヘキシル)共重合体等が挙げられ、その中でも特にフマル酸ジイソプロピル・フマル酸ジ−n−ブチル共重合体、フマル酸ジイソプロピル・フマル酸ビス(2−エチルヘキシル)共重合体が好ましい。
【0027】
本発明で用いるフマル酸エステル系共重合体樹脂における一般式(a)により示されるフマル酸ジエステル残基及び一般式(b)により示されるフマル酸ジエステル残基の割合は、得られる光学補償フィルムが耐熱性、機械特性に優れることから、一般式(a)により示されるフマル酸ジエステル残基95〜50モル%及び一般式(b)により示されるフマル酸ジエステル残基5〜50モル%よりなるフマル酸ジエステル系共重合体樹脂であることが好ましく、特に一般式(a)により示されるフマル酸ジエステル残基90〜60モル%及び一般式(b)により示されるフマル酸ジエステル残基10〜40モル%であることが好ましい。
【0028】
また、本発明の光学補償フィルムを構成するフマル酸エステル系共重合体樹脂には、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて、その他の単量体残基を含有していても良く、該その他の単量体残基としては、例えばスチレン残基、α−メチルスチレン残基等のスチレン類残基;アクリル酸残基;アクリル酸メチル残基、アクリル酸エチル残基、アクリル酸ブチル残基、アクリル酸3−エチル−3−オキセタニルメチル残基、アクリル酸テトラヒ残基ドロフルフリル残基等のアクリル酸エステル類残基;メタクリル酸残基;メタクリル酸メチル残基、メタクリル酸エチル残基、メタクリル酸ブチル残基、メタクリル酸3−エチル−3−オキセタニルメチル残基、メタクリル酸テトラヒドロフルフリル残基等のメタクリル酸エステル類残基;酢酸ビニル残基、プロピオン酸ビニル残基等のビニルエステル類残基;アクリロニトリル残基;メタクリロニトリル残基;エチレン残基、プロピレン残基等のオレフィン類残基;等の1種又は2種以上を挙げることができる。
【0029】
本発明で用いるフマル酸エステル系共重合体樹脂は、耐熱性、加工性に優れる光学補償フィルムが得られることからガラス転移温度が100〜250℃あることが好ましく、さらに120〜200℃、特に140〜200℃であることが好ましい。
【0030】
本発明で用いるフマル酸エステル系共重合体樹脂としては、ゲル・パーミエイション・クロマトグラフィー(以下、GPCと記す。)により測定した溶出曲線より得られる標準ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が1×10以上のものであることが好ましく、特に機械特性に優れ、製膜時の成形加工性に優れた光学補償フィルムとなることから2×10以上2×10以下であることが好ましい。
【0031】
本発明の光学補償フィルムを構成するフマル酸エステル系共重合体樹脂の製造方法としては、フマル酸エステル系共重合体樹脂が得られる限り、特に制限はなく、例えば立体障害の大きい下記一般式(c)及び立体障害の小さい下記一般式(d)により示されるフマル酸ジエステル類をラジカル共重合を行うことにより製造することができる。
【0032】
【化3】

(ここで、R、Rはそれぞれ独立して炭素数3〜12で、フマル酸骨格単位に結合する炭素が2級又は3級炭素である分岐状アルキル基又は環状アルキル基を示す。)
【0033】
【化4】

(ここで、R、Rはそれぞれ独立して炭素数2〜12の直鎖状アルキル基又は炭素数4〜12で、フマル酸骨格単位に結合する炭素が1級炭素である分岐状アルキル基を示す。)
ここで、一般式(c)のフマル酸ジエステル類のエステル置換基であるR、Rは、それぞれ独立して、炭素数3〜12で、フマル酸骨格単位に結合する炭素が2級又は3級炭素である分岐状アルキル基又は環状アルキル基であり、フッ素、塩素などのハロゲン基;エーテル基;エステル基若しくはアミノ基で置換されていても良く、例えばイソプロピル基、s−ブチル基、t−ブチル基、s−ペンチル基、t−ペンチル基、s−ヘキシル基、t−ヘキシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられ、特に耐熱性、機械特性に優れた光学補償フィルムとなることからイソプロピル基、s−ブチル基、t−ブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等であることが好ましく、特に耐熱性、機械特性のバランスに優れた光学補償フィルムとなることからイソプロピル基が好ましい。
【0034】
一般式(c)により示されるフマル酸ジエステル類としては、具体的にはフマル酸ジイソプロピル、フマル酸ジ−s−ブチル、フマル酸ジ−t−ブチル、フマル酸ジ−s−ペンチル、フマル酸ジ−t−ペンチル、フマル酸ジ−s−ヘキシル、フマル酸ジ−t−ヘキシル、フマル酸ジシクロプロピル、フマル酸ジシクロペンチル、フマル酸ジシクロヘキシル等が挙げられ、その中でもフマル酸ジイソプロピル、フマル酸ジ−s−ブチル、フマル酸ジ−t−ブチル、フマル酸ジシクロペンチル、フマル酸ジシクロヘキシル等が好ましく、特にフマル酸ジイソプロピルが好ましい。
【0035】
また、一般式(d)のフマル酸ジエステル類のエステル置換基であるR、Rは、それぞれ独立して、炭素数2〜12の直鎖状アルキル基又は炭素数4〜12で、フマル酸骨格単位に結合する炭素が1級炭素である分岐状アルキル基であり、フッ素、塩素などのハロゲン基;エーテル基;エステル基若しくはアミノ基で置換されていても良く、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基等が挙げられ、特に機械特性に優れた光学補償フィルムとなることからメチル基、エチル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基等であることが好ましく、特に耐熱性、機械特性のバランスに優れた光学補償フィルムとなることからn−ブチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基が好ましい。
【0036】
一般式(d)により示されるフマル酸ジエステル類としては、具体的にはフマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジ−n−プロピル、フマル酸ジ−n−ブチル、フマル酸ジ−iso−ブチル、フマル酸ジ−n−ヘキシル、フマル酸ジ−n−ヘプチル、フマル酸ジ−n−オクチル、フマル酸ビス(2−エチルヘキシル)等が挙げられ、その中でもフマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジ−n−ブチル、フマル酸ジ−iso−ブチル、フマル酸ジ−n−オクチル、フマル酸ビス(2−エチルヘキシル)が好ましく、さらにフマル酸ジ−n−ブチル、フマル酸ジ−n−オクチル、フマル酸ビス(2−エチルヘキシル)が好ましい。
【0037】
一般式(c)により示されるフマル酸ジエステル及び一般式(d)により示されるフマル酸ジエステル残基の割合は、得られる光学補償フィルムが耐熱性、機械特性に優れることから、一般式(c)により示されるフマル酸ジエステル95〜50モル%及び一般式(d)により示されるフマル酸ジエステル5〜50モル%であることが好ましく、特に、一般式(c)により示されるフマル酸ジエステル90〜60モル%及び一般式(d)により示されるフマル酸ジエステル10〜40モル%であることが好ましい。
【0038】
また、本発明の光学補償フィルムを構成するフマル酸エステル系共重合体樹脂の製造には、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて、フマル酸ジエステル類と共重合可能なその他の単量体を併用することができる。フマル酸ジエステル類と共重合可能な単量体としては、例えばスチレン、α−メチルスチレン等のスチレン類;アクリル酸;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸3−エチル−3−オキセタニルメチル、アクリル酸テトラヒドロフルフリル等のアクリル酸エステル類;メタクリル酸;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸3−エチル−3−オキセタニルメチル、メタクリル酸テトラヒドロフルフリル等のメタクリル酸エステル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;アクリロニトリル;メタクリロニトリル;エチレン、プロピレン等のオレフィン類;等の1種又は2種以上を挙げることができる。
【0039】
また、用いるラジカル重合法としては、公知の重合方法で行うことが可能であり、例えば塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、沈殿重合法、乳化重合法等のいずれもが採用可能である。
【0040】
ラジカル重合法を行う際の重合開始剤としては、例えばベンゾイルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシピバレート等の有機過酸化物;2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−ブチロニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)等のアゾ系開始剤が挙げられる。
【0041】
そして、溶液重合法、懸濁重合法、沈殿重合法、乳化重合法において使用可能な溶媒として特に制限はなく、例えばベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族溶媒;メタノール、エタノール、プロピルアルコール、ブチルアルコール等のアルコール系溶媒;シクロヘキサン;ジオキサン;テトラヒドロフラン(THF);アセトン;メチルエチルケトン;ジメチルホルムアミド;酢酸イソプロピル;水等が挙げられ、これらの混合溶媒も挙げられる。
【0042】
また、ラジカル重合を行う際の重合温度は、重合開始剤の分解温度に応じて適宜設定することができ、一般的には40〜150℃の範囲で行うことが好ましい。
本発明の光学補償フィルムの製造方法としては、特に制限はなく、例えば、溶液キャスト法、溶融キャスト法等の方法によりフィルム化し、該フィルムを一軸又は二軸に延伸することにより製造することができる。
【0043】
溶液キャスト法は、フマル酸エステル系共重合体樹脂を溶媒に溶解した溶液(以下、ドープと称する。)を支持基板上に流延した後、加熱等により溶媒を除去しフィルムを得る方法である。その際ドープを支持基板上に流延する方法としては、例えばTダイ法、ドクターブレード法、バーコーター法、ロールコーター法、リップコーター法等が用いられる。特に、工業的にはダイからドープをベルト状又はドラム状の支持基板に連続的に押し出す方法が最も一般的である。用いられる支持基板としては、例えばガラス基板;ステンレスやフェロタイプ等の金属基板;ポリエチレンテレフタレート(PET)、トリアセチルセルロース(TAC)等のプラスチック基板などが挙げられる。溶液キャスト法において、高い透明性を有し、且つ厚み精度、表面平滑性に優れたフィルムを製膜する際には、ドープの溶液粘度は極めて重要な因子であり、700〜30000cpsが好ましく、特に1000〜10000cpsであることが好ましい。また、溶融キャスト法とは、フマル酸エステル系共重合体樹脂を押出機内で溶融し、Tダイのスリットからフィルム状に押出した後、ロールやエアーなどで冷却しつつ引き取る成形法である。
【0044】
そして、得られたフィルムは、一軸又は二軸に延伸することにより位相差が制御され本発明の光学補償フィルムとすることが可能である。一軸延伸方法としては、例えば自由幅一軸延伸、テンターにより延伸する方法、ロール間で延伸する方法などが挙げられ、ニ軸延伸方法としては、例えばテンターにより延伸する方法、チューブ状に膨らませて延伸する方法などがある。その延伸条件としては、厚みむらが発生し難く、機械的特性、光学的特性に優れる光学補償フィルムとなることから、延伸温度は80〜270℃が好ましく、特に好ましくは120〜220℃であり、延伸倍率は1.01〜5倍が好ましく、特に好ましくは1.01〜2倍である。
【0045】
本発明の光学補償フィルムは、フマル酸エステル系共重合体樹脂からなるフィルムであって、フィルム面内の進相軸方向の屈折率をnx、それと垂直方向の屈折率をny、フィルムの厚み方向の屈折率をnzとした場合に、nx<ny≦nzの関係にあり、450nmの光で測定した位相差と550nmの光で測定した位相差の比(R450/R550)が1.1以下であることを特徴とする光学補償フィルムであり、フマル酸エステル系共重合体樹脂を用い、前記nx<ny≦nzの関係を満たすことによりSTN−LCD、IPS−LCD、反射型LCDや半透過型LCD等の視野角補償性能の優れた負の複屈折を有し、位相差特性、位相差の安定性、波長依存性等の光学特性を有する光学補償フィルムとなるものである。
【0046】
また、本発明の光学補償フィルムがより光学特性に優れた光学補償フィルムとなることから、下記式(1)により示される波長550nmで測定した面内位相差(Re)が50〜2000nmであることが好ましく、さらに50〜1000nmであることが好ましく、特に100〜500nmであることが好ましい。
Re=(ny−nx)×d (1)
(ここで、dはフィルムの厚みを示す。)
前記式(1)により示される波長550nmで測定した面内位相差(Re)に関してより詳細には、本発明の光学補償フィルムをTNやVA、IPSあるいはOCBモードの液晶ディスプレイの視角補償のための光学補償フィルムとして用いる際には、面内位相差(Re)は50nm以上が好ましく、さらに100nm以上が好ましく、特に135nm以上が好ましい。
【0047】
また、光学補償フィルムと偏光板を積層し一体化されてなる円偏光フィルムとして用いる際の面内位相差(Re)は、100〜200nmが好ましい。円偏光フィルムは、反射型液晶ディスプレイの補償フィルムの他、有機ELディスプレイなどの反射防止フィルム、輝度向上フィルムなどにも有用である。
【0048】
さらに、本発明の光学補償フィルムを1/2波長フィルムとして用いる際の面内位相差(Re)としては、200〜400nmが好ましく、STNモードの液晶ディスプレイ向け、輝度向上フィルムの視角補償向けに用いる際の面内位相差(Re)としては、50〜1000nmが好ましい。
【0049】
また、本発明の光学補償フィルムは、下記式(2)により示される波長550nmで測定した面外位相差(Rth)が−30〜−2000nmであることが好ましく、さらに好ましくは−50〜−1000nmであり、特に好ましくは−100〜−500nmである。
【0050】
Rth=〔(nx+ny)/2−nz〕×d (2)
(ここで、dはフィルムの厚みを示す。)
位相差の波長依存性は、波長450nmで測定した位相差(R450)と波長550nmで測定した位相差(R550)の比R450/R550として表すことができる。本発明の光学補償フィルムでは、該R450/R550は、1.1以下であり、さらに1.08以下が好ましく、特に1.05以下が好ましい。
【0051】
また、光学補償フィルムの厚みは、10〜400μmであることが好ましく、さらに好ましくは20〜150μmであり、特に好ましくは30〜100μmの範囲である。
【0052】
本発明の光学補償フィルムは、フィルム成形時又はフィルム自体の熱安定性を高めるために酸化防止剤が配合されていることが好ましい。該酸化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、その他酸化防止剤が挙げられ、これら酸化防止剤はそれぞれ単独又は併用して用いても良い。そして、相乗的に酸化防止作用が向上することからヒンダードフェノール系酸化防止剤とリン系酸化防止剤を併用して用いることが好ましく、その際には例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤100重量部に対してリン系酸化防止剤を100〜500重量部で混合して使用することが特に好ましい。また、酸化防止剤の添加量としては、本発明の光学補償フィルムを構成するフマル酸エステル系共重合体樹脂100重量部に対して0.01〜10重量部が好ましく、特に0.5〜1重量部が好ましい。
【0053】
さらに、紫外線吸収剤として、例えばベンゾトリアゾール、ベンゾフェノン、トリアジン、ベンゾエートなどの紫外線吸収剤を必要に応じて配合していてもよい。
【0054】
本発明の光学補償フィルムは、発明の主旨を越えない範囲で、その他ポリマー、界面活性剤、高分子電解質、導電性錯体、無機フィラー、顔料、染料、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、滑剤等が配合されたものであってもよい。
【0055】
本発明の光学補償フィルムは、偏光板と積層して円あるいは楕円偏光板として用いることもできるし、さらに、ポリビニルアルコール/沃素等からなる偏光子と積層し偏光板とすることもできる。また、本発明の光学補償フィルム同士又は他の光学補償フィルムと積層することもできる。
【発明の効果】
【0056】
本発明によると、液晶ディスプレイのコントラストや視角特性の補償フィルムや反射防止フィルムとして有用な、フィルムの厚み方向の屈折率が大きく、面内位相差が大きく、波長依存性が小さく、位相差の安定性に優れる等の光学特性に優れた光学補償フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】延伸による屈折率楕円体の変化
【符号の説明】
【0058】
nx;フィルム面内の進相軸方向の屈折率を示す。
ny;nxと垂直方向の屈折率を示す。
nz;フィルムの厚み方向の屈折率を示す。
【実施例】
【0059】
以下に本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれら実施例によりなんら制限されるものではない。なお、断りのない限り用いた試薬は市販品を用いた。
【0060】
〜フマル酸エステル系共重合体樹脂の組成〜
核磁気共鳴測定装置(日本電子製、商品名JNM−GX270)を用い、プロトン核磁気共鳴分光(1H−NMR)スペクトル分析より求めた。
【0061】
〜数平均分子量の測定〜
カラム(東ソー株式会社製、商品名TSK−GEL GMHHR−H)を装着したゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)(東ソー株式会社製、商品名HLC−8020)を用い、カラム温度40℃、流量1.0ml/分の条件下で、THFを溶剤とし標準ポリスチレン換算値として求めた。
【0062】
〜ガラス転移温度(Tg)の測定〜
示差走査型熱量計(セイコー電子工業(株)製、商品名DSC2000)を用い、10℃/min.の昇温速度にて測定した。
【0063】
〜光線透過率の測定〜
JIS K 7361−1(1997年版)に準拠して測定を行った。
【0064】
〜ヘーズの測定〜
JIS K 7136(2000年版)に準拠して測定を行った。
【0065】
〜屈折率の測定〜
JIS K 7142(1981年版)に準拠してアッベ屈折率計(アタゴ製)を用いて測定を行った。
【0066】
〜複屈折性の正負判定〜
高分子素材の偏光顕微鏡入門(粟屋裕著,アグネ技術センター版,第5章,pp78〜82,(2001))に記載の偏光顕微鏡を用いたλ/4板による加色判定法により複屈折性の正負判定を行った。
【0067】
〜3次元屈折率の測定、面外位相差、面内位相差の計算〜
試料傾斜型自動複屈折計(王子計測機器(株)製、商品名KOBRA−WR)を用いて仰角を変えて3次元屈折率を測定した。さらに、3次元屈折率より面外位相差(Rth)、面内位相差(Re)を計算した。
【0068】
〜位相差の安定性の評価〜
90℃で24時間熱処理を実施した後、下記式(3)により示される熱処理前後の面内位相差の比(保持率)により、位相差の安定性を評価した。
保持率=Re2/Re1×100 (3)
(ここで、Re1は熱処理前の面内位相差、Re2は熱処理後の面内位相差を示す。)
合成例1(フマル酸ジイソプロピル・フマル酸ビス(2−エチルヘキシル)共重合体の製造例)
攪拌機、冷却管、窒素導入管、及び温度計を備えた30Lのオートクレーブに、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学製、商品名メトローズ60SH−50)48g、蒸留水15601g、フマル酸ジイソプロピル4859g、フマル酸ビス(2−エチルヘキシル)3542g及び重合開始剤であるt−ブチルパーオキシピバレート45gを入れ、窒素バブリングを1時間行った後、200rpmで攪拌しながら50℃で36時間保持することによりラジカル懸濁重合を行った。室温まで冷却し、生成したポリマー粒子を含む懸濁液を遠心分離した。得られたポリマー粒子を蒸留水で2回およびメタノールで2回洗浄後、80℃で減圧乾燥した(収率:83%)。
【0069】
得られたポリマー粒子の数平均分子量は87,000、ガラス転移温度は161℃であった。1H−NMR測定により、ポリマー粒子はフマル酸ジイソプロピル残基単位/フマル酸ビス(2−エチルヘキシル)残基単位=74.3/25.7(モル%)であるフマル酸ジイソプロピル・フマル酸ビス(2−エチルヘキシル)共重合体(フマル酸エステル系共重合体樹脂)であることを確認した。
【0070】
合成例2(フマル酸ジイソプロピル・フマル酸ジ−n−ブチル共重合体の製造例)
攪拌機、冷却管、窒素導入管、及び温度計を備えた30Lのオートクレーブに、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学製、商品名メトローズ60SH−50)48g、蒸留水15601g、フマル酸ジイソプロピル4774g、フマル酸ジn−ブチル3627g及び重合開始剤であるt−ブチルパーオキシピバレート45gを入れ、窒素バブリングを1時間行った後、200rpmで攪拌しながら50℃で36時間保持することによりラジカル懸濁重合を行った。室温まで冷却し、生成したポリマー粒子を含む懸濁液を遠心分離した。得られたポリマー粒子を蒸留水で2回およびメタノールで2回洗浄後、80℃で減圧乾燥した(収率:79%)。
【0071】
得られたポリマー粒子の数平均分子量は122,000、ガラス転移温度は190℃であった。1H−NMR測定により、ポリマー粒子はフマル酸ジイソプロピル残基単位/フマル酸ジn−ブチル残基単位=69.9/30.1(モル%)であるフマル酸ジイソプロピル・フマル酸ジ−n−ブチル共重合体(フマル酸エステル系共重合体樹脂)であることを確認した。
【0072】
合成例3(フマル酸ジイソプロピル単独重合体の製造例)
30リットルオートクレーブ中に、部分ケン化ポリビニルアルコール0.2重量%を含む蒸留水18kg、フマル酸ジイソプロピル3kg、重合開始剤として、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート7gを仕込み、重合温度50℃、重合時間24時間の条件にてラジカル懸濁重合を行なった。室温まで冷却し、生成したポリマー粒子を含む懸濁液を遠心分離した。得られたポリマー粒子を蒸留水で2回およびメタノールで2回洗浄後、80℃で減圧乾燥した。
【0073】
得られたフマル酸ジイソプロピル単独重合体の数平均分子量は16万であった。
【0074】
フィルム作成例1
合成例1で得られたフマル酸ジイソプロピル・フマル酸ビス(2−エチルヘキシル)共重合体をトルエン・メチルエチルケトン混合溶液(トルエン/メチルエチルケトン=50重量%/50重量%)に溶解して20%溶液とし、さらにフマル酸ジイソプロピル・フマル酸ビス(2−エチルヘキシル)共重合体100重量部に対し、ヒンダードフェノール系酸化防止剤としてトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト0.35重量部およびリン系酸化防止剤としてペンタエリスリトール−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)0.15重量部、紫外線吸収剤として2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−p−クレゾール1重量部を添加した後、Tダイ法により溶液流延装置の支持基板に流延し、80℃および130℃で各々4分乾燥し、その後、120℃で6時間減圧乾燥し、幅250mm、厚み70μmのフィルムを得た。
【0075】
得られたフィルムは、光線透過率93%、ヘーズ0.4%、屈折率1.471であった。
【0076】
フィルム作成例2
合成例2で得られたフマル酸ジイソプロピル・フマル酸ジn−ブチル共重合体をトルエン・メチルエチルケトン混合溶液(トルエン/メチルエチルケトン=50重量%/50重量%)に溶解して20%溶液とし、さらにフマル酸ジイソプロピル・フマル酸ジn−ブチル共重合体100重量部に対し、ヒンダードフェノール系酸化防止剤としてトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト0.35重量部およびリン系酸化防止剤としてペンタエリスリトール−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)0.15重量部、紫外線吸収剤として2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−p−クレゾール1重量部を添加した後、Tダイ法により溶液流延装置の支持基板に流延し、80℃および130℃で各々4分乾燥し、その後、120℃で6時間減圧乾燥し、幅250mm、厚み105μmのフィルムを得た。
【0077】
得られたフィルムは、光線透過率93%、ヘーズ0.4%、屈折率1.474であった。
【0078】
フィルム作成例3
ポリカーボネート樹脂(アルドリッチ製)を塩化メチレン溶液に溶解し25%溶液とし、さらにポリカーボネート樹脂100重量部に対し、酸化防止剤としてトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト0.35重量部およびペンタエリスリトール−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)0.15重量部、紫外線吸収剤として2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−p−クレゾール1重量部を添加した後、Tダイ法により溶液流延装置の支持基板に流延し、40℃、80℃および120℃で各々15分乾燥した後、幅250mm、厚み100μmのフィルムを得た。
【0079】
得られたフィルムは、光線透過率91%、ヘーズ0.6%、屈折率1.583であった。
【0080】
フィルム作成例4
環状ポリオレフィン樹脂(エステル基を有するポリノルボルネン、アルドリッチ製)を塩化メチレン溶液に溶解し25%溶液とし、さらに環状ポリオレフィン樹脂100重量部に対し、酸化防止剤としてトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト0.35重量部およびペンタエリスリトール−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)0.15重量部、紫外線吸収剤として2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−p−クレゾール1重量部を添加した後、Tダイ法により溶液流延装置の支持基板に流延し、40℃、80℃および120℃で各々15分乾燥した後、幅250mm、厚み100μmのフィルムを得た。
【0081】
得られたフィルムは、光線透過率92%、ヘーズ0.4%、屈折率1.510であった。
【0082】
フィルム作成例5
合成例3で得られたフマル酸ジイソプロピル単独重合体をトルエン・メチルエチルケトン混合溶液(トルエン/メチルエチルケトン=50重量%/50重量%)に溶解して20%溶液とし、さらにフマル酸ジイソプロピル単独重合体100重量部に対し、ヒンダードフェノール系酸化防止剤としてトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト0.35重量部およびリン系酸化防止剤としてペンタエリスリトール−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)0.15重量部、紫外線吸収剤として2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−p−クレゾール1重量部を添加した後、Tダイ法により溶液流延装置の支持基板に流延し、80℃および130℃で各々4分乾燥し、その後、120℃で6時間減圧乾燥し、幅250mm、厚み120μmのフィルムを得た。
【0083】
得られたフィルムは、光線透過率93%、ヘーズ0.4%、屈折率1.470であった。
【0084】
実施例1
フィルム作成例1で得られたフィルムを一片50mmの正方形に裁断し、二軸延伸装置(井元製作所製)により温度160℃、延伸速度10mm/min.の条件にて自由幅一軸延伸を施し1.25倍延伸した。延伸したフィルムの3次元屈折率を測定した結果、延伸軸方向の屈折率が小さかったことから、得られたフィルムは負の複屈折を有するものであった。
【0085】
3次元屈折率測定の結果(nx=1.4692、ny=1.4715、nz=1.4723)から、得られたフィルムはnx<ny<nzとフィルムの厚み方向の屈折率が大きかった。面内位相差Re=(ny−nx)×dは171nmと大きいものであった。また、面外位相差Rth=〔(nx+ny)/2−nz〕×dは−148nmと負に大きいものであった。さらに、位相差の比(R450/R550)(波長依存性)は1.02と低いものであった。位相差の保持率は95%であり、位相差の安定性に優れるものであった。
【0086】
これらの結果から、得られたフィルムは、負の複屈折を有し、厚み方向の屈折率が大きく、さらに面内位相差が大きく、面外位相差が負に大きく、波長依存性が小さく、位相差の安定性に優れることから光学補償フィルムに適したものであった。
【0087】
実施例2
フィルム作成例1で得られたフィルムを一片50mmの正方形に裁断し、二軸延伸装置(井元製作所製)により温度170℃、延伸速度10mm/min.の条件にて自由幅一軸延伸を施し1.25倍延伸した。延伸したフィルムの3次元屈折率を測定した結果、延伸軸方向の屈折率が小さかったことから、得られたフィルムは負の複屈折を有するものであった。
【0088】
3次元屈折率測定の結果(nx=1.4691、ny=1.4715、nz=1.4724)から、得られたフィルムはnx<ny<nzとフィルムの厚み方向の屈折率が大きかった。面内位相差Re=(ny−nx)×dは150nmと大きいものであった。また、面外位相差Rth=〔(nx+ny)/2−nz〕×dは−136nmと負に大きいものであった。さらに、位相差の比(R450/R550)(波長依存性)は1.02と低いものであった。位相差の保持率は95%であり、位相差の安定性に優れるものであった。
【0089】
これらの結果から、得られたフィルムは、負の複屈折を有し、厚み方向の屈折率が大きく、さらに面内位相差が大きく、面外位相差が負に大きく、波長依存性が小さく、位相差の安定性に優れることから光学補償フィルムに適したものであった。
【0090】
実施例3
フィルム作成例2で得られたフィルムを一片50mmの正方形に裁断し、二軸延伸装置(井元製作所製)により温度190℃、延伸速度10mm/min.の条件にて自由幅一軸延伸を施し1.25倍延伸した。延伸したフィルムの3次元屈折率を測定した結果、延伸軸方向の屈折率が小さかったことから、得られたフィルムは負の複屈折を有するものであった。
【0091】
3次元屈折率測定の結果(nx=1.4710、ny=1.4728、nz=1.4755)から、得られたフィルムはnx<ny<nzとフィルムの厚み方向の屈折率が大きかった。面内位相差Re=(ny−nx)×dは182nmと大きいものであった。また、面外位相差Rth=〔(nx+ny)/2−nz〕×dは−364nmと負に大きいものであった。さらに、位相差の比(R450/R550)(波長依存性)は1.02と低いものであった。位相差の保持率は95%であり、位相差の安定性に優れるものであった。
【0092】
これらの結果から、得られたフィルムは、負の複屈折を有し、厚み方向の屈折率が大きく、さらに面内位相差が大きく、面外位相差が負に大きく、波長依存性が小さく、位相差の安定性に優れることから光学補償フィルムに適したものであった。
【0093】
比較例1
フィルム作成例3で得られたフィルムを一片50mmの正方形に裁断し、二軸延伸装置(井元製作所製)を用いて、温度170℃、延伸速度10mm/min.の条件にて自由幅一軸延伸を施し1.10倍延伸した。延伸したフィルムの3次元屈折率を測定した結果、延伸軸方向と直交する軸方向の屈折率が小さかったことから、得られたフィルムは正の複屈折を有するものであった。
【0094】
3次元屈折率測定の結果(nx=1.5844、ny=1.5823、nz=1.5823)から、得られたフィルムはnx>ny=nzとフィルムの厚み方向の屈折率が大きくなかった。
【0095】
これらの結果から、フマル酸エステル系共重合体樹脂を用いなかったことから、得られたフィルムはSTN−LCDやIPS−LCDの視野角補償性能の光学補償フィルムに適したものではなかった。
【0096】
比較例2
フィルム作成例4で得られたフィルムを一片50mmの正方形に裁断し、二軸延伸装置(井元製作所製)を用いて、温度180℃、延伸速度15mm/min.の条件にて自由幅一軸延伸を施し2.0倍延伸した。延伸したフィルムの3次元屈折率を測定した結果、延伸軸方向と直交する軸方向の屈折率が小さかったことから、得られたフィルムは正の複屈折を有するものであった。
【0097】
3次元屈折率測定の結果(1.5124、ny=1.5090、nz=1.5090)から、得られたフィルムはnx>ny=nzとフィルムの厚み方向の屈折率が大きくなかった。
【0098】
これらの結果から、フマル酸エステル系共重合体樹脂を用いなかったことから、得られたフィルムはSTN−LCDやIPS−LCDの視野角補償性能の位相差フィルムに適したものではなかった。
【0099】
比較例3
フィルム作成例5で得られたフィルムを一片50mmの正方形に裁断し、二軸延伸装置(井元製作所製)により温度140℃、延伸速度10mm/min.の条件にて自由幅一軸延伸を施し1.25倍延伸した。延伸したフィルムの3次元屈折率を測定した結果、延伸軸方向の屈折率が小さかったことから、得られたフィルムは負の複屈折を有するものであった。
【0100】
3次元屈折率測定の結果(nx=1.4667、ny=1.4705、nz=1.4728)から、得られたフィルムはnx<ny<nzとフィルムの厚み方向の屈折率が大きかった。面内位相差Re=(ny−nx)×dは414nmと大きいものであった。また、面外位相差Rth=〔(nx+ny)/2−nz〕×dは−458nmと負に大きいものであった。位相差の保持率は85%であった。
【0101】
これらの結果から、フマル酸エステル系共重合体樹脂を用いなかったことから、得られたフィルムは位相差の安定性に課題があった。
【0102】
比較例4
フィルム作成例5で得られたフィルムを一片50mmの正方形に裁断し、二軸延伸装置(井元製作所製)により温度100℃、延伸速度10mm/min.の条件にて自由幅一軸延伸を施し1.25倍延伸した。延伸したフィルムの3次元屈折率を測定した結果、延伸軸方向の屈折率が小さかったことから、得られたフィルムは負の複屈折を有するものであった。
【0103】
3次元屈折率測定の結果(nx=1.4666、ny=1.4705、nz=1.4726)から、得られたフィルムはnx<ny<nzとフィルムの厚み方向の屈折率が大きかった。面内位相差Re=(ny−nx)×dは425nmと大きいものであった。また、面外位相差Rth=〔(nx+ny)/2−nz〕×dは−441nmと負に大きいものであった。位相差の保持率は30%であった。
【0104】
これらの結果から、フマル酸エステル系共重合体樹脂を用いなかったことから、得られたフィルムは位相差の安定性に課題があった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フマル酸エステル系共重合体樹脂からなるフィルムであって、フィルム面内の進相軸方向の屈折率をnx、それと垂直方向の屈折率をny、フィルムの厚み方向の屈折率をnzとした場合に、nx<ny≦nzの関係にあり、450nmの光で測定した位相差と550nmの光で測定した位相差の比(R450/R550)が1.1以下であることを特徴とする光学補償フィルム。
【請求項2】
下記式(1)により示される波長550nmで測定した面内位相差(Re)が、50〜2000nmであり、下記式(2)により示される波長550nmで測定した面外位相差(Rth)が、−30〜−2000nmであることを特徴とする請求項1に記載の光学補償フィルム。
Re=(ny−nx)×d (1)
Rth=〔(nx+ny)/2−nz〕×d (2)
(ここで、dはフィルムの厚みを示す)
【請求項3】
フマル酸エステル系共重合体樹脂が、下記式(a)と(b)により示される共重合体であり、下記式(b)により示されるフマル酸ジエステル残基単位が5〜50モル%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学補償フィルム。
【化1】

(ここで、R、Rはそれぞれ独立して炭素数3〜12で、フマル酸骨格単位に結合する炭素が2級又は3級炭素である分岐状アルキル基又は環状アルキル基を示す。)
【化2】

(ここで、R、Rはそれぞれ独立して炭素数2〜12の直鎖状アルキル基又は炭素数4〜12で、フマル酸骨格単位に結合する炭素が1級炭素である分岐状アルキル基を示す。)
【請求項4】
フマル酸エステル系共重合体樹脂のガラス転移温度が100〜250℃であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光学補償フィルム。
【請求項5】
少なくとも一軸に延伸して製造することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の光学補償フィルム。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−107281(P2011−107281A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−260377(P2009−260377)
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】