説明

光学補償板の検査方法

【課題】例えば、液晶プロジェクタに搭載される光学補償板を簡便な方法で検査する。
【解決手段】○は、位相差が小さい光学補償板を搭載した液晶プロジェクタのコントラストを示しており、●は、位相差が大きい光学補償板を搭載した液晶プロジェクタのコントラストを示している。このような光学補償板の位相差及びコントラストの実測値に基づいて、複数の光学補償板の位相差と、これら光学補償板を搭載した液晶プロジェクタによって投写された画像のコントラストとの相関が取得されている。ここで、光学補償板の位相差が大きい範囲における位相差及びコントラストの相関を示す相関係数(R=0.9043)は、位相差が小さい場合の相関係数(R=0.6421)より大きいことが本願書発明者による実験によって見出されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、液晶プロジェクタ等の投写型表示装置のコントラストを高めるためにライトバルブに用いられる光学補償板を予め検査することが可能な光学補償板の検査方法の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の表示装置では、ライトバルブとして用いられる液晶装置に入射する入射光の利用効率を高めるために、マイクロレンズアレイ或いはマイクロレンズアレイ板を組み合わせて使用することがある。この場合、液晶層に対し垂直に入射された光は、マイクロレンズアレイによる集光のため、角度を変えて斜めに液晶層に入射される。光が液晶層に斜めから入射すると、位相がずれてコントラストの低下、及び視野角の狭小化を招く。こうした背景から、マイクロレンズアレイを備えた液晶装置には、位相にずれを生じた光の位相差を補償することで、コントラストの低下防止と、視野角の拡大とを可能にする光学補償板が用いられる。このような光学補償板が用いられた液晶装置では、液晶装置に光学補償板が配置された状態で、或いは、投写型表示装置の光学系の一部として光学補償板が配置された表示装置によって表示された投写画像のコントラストを評価することによって光学補償板による補償効果を評価していた。尚、非特許文献1は、光学補償板の位相差を測定する位相差測定装置の一例を開示している。
【0003】
【非特許文献1】王子計測機器株式会社製位相差測定装置 http://www.oji-keisoku.co.jp/products/kobra/theory.html
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、光学系に配置される光学補償板の枚数が増えた場合には、複数の光学補償板のうちコントラストの低下の一因となる光学補償板を特定することが困難であり、仮に特定できたとしてもその特定に要する労力及び時間は大きくなり検査に要する負担が大きくなる問題点がある。
【0005】
また、傾斜屈折率楕円体を有する光学補償板の性能は、通常、光学補償板の正面で検出された出射光の位相差(正面位相差)によって判定されるが、投写型表示装置によって表示された画像のコントラスト及び正面位相差間の相関は小さく、正面位相差は光学補償板を評価する際に参照される指標として適しているとは言い難い。加えて、光学補償板の製造段階では、測定された正面位相差のばらつきは小さく、製造された複数の光学補償板の光学特性が相互に均一であると判断されてしまう問題点もある。したがって、投写型表示装置に光学補償板が搭載される前に、光学補償板の光学特性が画像をコントラストに与える影響を評価し、その評価に基づいて光学補償板の良否を判断することが困難であった。
【0006】
よって、本発明は上記問題点等に鑑みてなされたものであり、例えば、液晶プロジェクタ等の投写型表示装置に搭載される前に光学補償板が良品であるか否か、即ち当該光学補償板を備えた投写型表示装置が高いコントラストで画像を表示可能であるか否かを判定できる光学補償板の検査方法を提供することを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る光学補償板の検査方法は上記課題を解決するために、傾斜屈折率楕円体を有し、且つ検査対象となる第1光学補償板の一方の面に検査光を照射する第1ステップと、前記第1光学補償板の他方の面から出射された出射光を検出する検出方向が前記傾斜屈折率楕円体の長軸が延びる方向に沿うように、前記検査光の光路に対して前記第1光学補償板を傾け、且つ前記光路を中心として前記第1光学補償板を回転させる第2ステップと、前記延びる方向における前記第1光学補償板の位相差に基づいて、前記第1光学補償板の良否を判定する第3ステップとを備える。
【0008】
本発明に係る光学補償板の検査方法によれば、検査対象となる第1光学補償板は、例えば、ライトバルブとしての液晶パネルを備えた投写型表示装置において位相差板として機能し、液晶パネルに入射する光或いは出射される光の位相差を補償する。このような第1光学補償板が有する傾斜屈折率楕円体は、その長軸及び短軸の夫々の屈折率が相互に異なる屈折率異方性を有している。したがって、光学補償板から出射される光の偏光状態は、屈折率楕円体に入射する光の入射角度及び傾斜屈折率楕円体から出射された出射光を検出する検出方向の夫々に応じて相互に異なる。したがって、第1光学補償板の一方の面及び他方の面の夫々の側に偏光子及び検出子の夫々を配置した状態で光の透過率を測定した場合には、上述の入射角度及び検出方向の夫々に応じて光の透過率が相互に異なる。
【0009】
そこで、第2ステップにおいて、第1光学補償板の他方の面から出射された出射光を検出する検出方向が傾斜屈折率楕円体の長軸が延びる方向に沿うように、検査光の光路に対して第1光学補償板を傾け、且つ検査光の光路を中心として第1光学補償板を回転させることによって、屈折率楕円体の長軸が延びる方向に沿った検出方向における第1光学補償板の位相差を特定する。
【0010】
第3ステップでは、傾斜屈折率楕円体の長軸が延びる方向における第1光学補償板の位相差に基づいて、第1光学補償板の良否を判定する。このような位相差は、第1光学補償板を回転させる方向、即ち、屈折率楕円体の長軸が延びる向きを第1光学補償板の一方及び他方の夫々の面内に射影した方位角方向において、検査光の光路に対して屈折率楕円体の長軸が傾いた角度に対応している。本発明では、本願発明者の実験により、屈折率楕円体の特性、即ち屈折率異方性に起因して、正面位相差に基づいて第1光学補償板の良非を判定するより、屈折率楕円体の長軸が延びる方向、即ち検査光の光路に対して第1光学補償板を傾けた状態で特定された位相差に基づいて良非を判定するほうが、より正確に第1光学補償板の良非を判定できることが分かっている。
【0011】
したがって、本発明に係る光学補償板の検査方法によれば、第1光学補償板を液晶プロジェクタ等の投写型表示装置に搭載することなく、第1光学補償板単体で当該第1光学補償板の良非を判定することができ、第1光学補償板の製造工程において、検査対象となる第1光学補償板の選別が可能になる。したがって、投写型表示装置に搭載された状態で検査する場合時に比べて、第1光学補償板の検査に要する負担が低減可能になる。加えて、位相差を測定するだけなので、投写型表示装置が表示する画像のコントラストを評価することなく、簡便、且つ短時間で労力が低減された検査が可能である。
【0012】
また、本発明に係る光学補償板の検査方法によれば、第1光学補償板については、上述の位相差に基づく検査以外に外観検査のみ行えばよいため、光学補償板の製造コストを低減できる。加えて、投写型表示装置に画像を表示させた状態で第1光学補償板を検査した場合には、投写型表示装置の光源が破損する恐れがあるが、本発明に係る光学補償板の検査方法によれば、高出力の光源を使用することなく、検査対象となる第1光学補償板を検査できるため、検査の安全性も確保できる。
【0013】
本発明に係る光学補償板の検査方法の一の態様では、前記第1ステップに先んじて、前記1光学補償板と同種の第2光学補償板を備えた投写型表示装置によって投写された画像のコントラストと、前記第2光学補償板が有する屈折率楕円体の長軸が延びる方向において特定された前記第2光学補償板の位相差との関係を特定したデータを取得する第4ステップとを更に備え、前記第3ステップにおいて、前記データにおける前記第1光学補償板の位相差に対応するコントラストが所定のコントラスト以上であるか否かに基づいて前記良否を判定してもよい。
【0014】
この態様によれば、第1ステップに先んじて、1光学補償板と同種の第2光学補償板を備えた投写型表示装置によって投写された画像のコントラストと、第2光学補償板が有する屈折率楕円体の長軸が延びる方向において特定された第2光学補償板の位相差との関係を特定したデータを取得しておく。ここで、「同種の第2光学補償板」とは、検査対象となる第1光学補償板と同様の設計仕様を有する光学補償板をいう。即ち、第4ステップでは、検査対象となる第1光学補償板の良非を判定するために参照されるデータを、第2光学補償板の光学特性、言い換えれば、位相差及びコントラストについて予め取得しておく。このようなデータは、例えば、第1光学補償板の位相差を特定する手順と同様の手順によって取得された複数の第2光学補償板の位相差と、これら第2光学補償板を搭載した投写型表示装置によって表示された画像をコントラストとの相関を示すものである。特に、この態様では、本願発明者の実験により、複数の第2光学補償板の正面位相差と、これら第2光学補償板を搭載した投写型表示装置によって表示される画像のコントラストとの相関に比べて、複数の第2光学補償板の夫々について屈折率楕円体の長軸が延びる方向において特定された位相差と、投写型表示装置によって表示された画像のコントラストとの相関が高いことが分かっている。したがって、第3ステップにおいて、予め取得されたデータ中で第1光学補償板の位相差に対応するコントラストが、所定のコントラスト、即ち投写型表示装置に要求される表示性能に基づいて個別具体的に設定されるコントラスト以上である場合に、第2光学補償板が良品であると判定される。
【0015】
したがって、この態様によれば、検査対象となる第1光学補償板の位相差が、予め取得されたデータ中で所定のコントラスト以上のコントラスに対しているか否かを判定するだけで第1光学補償板の良非が判定可能になる。
【0016】
本発明に係る光学補償板の検査方法の他の態様では、前記第1ステップにおいて、前記検査光は、前記一方の面の側に配置された偏光子によって光源光が偏光された光であり、前記第2ステップにおいて、前記出射光は、前記他方の面の側に配置された検光子を介して受光手段に検出されてもよい。
【0017】
この態様によれば、第1ステップにおいて、例えば、一定の波長を有する光源光が偏光子に照射され、偏光子によって偏光された光、即ち偏光が第1光学補償板に検査光として照射される。
【0018】
第2ステップでは、例えば、偏光子及び検光子の夫々の光軸が平行(所謂平行ニコル配置)となるように、或いは直交(所謂クロスニコル配置)するように偏光子及び検光子の夫々を位置決めした状態で検出子を透過した出射光が受光手段に検出されることによって第1光学補償板の位相差が測定される。尚、位相差を特定する際に測定される第1光学補償板の光透過率は、第1光学補償板を傾けたり回転させたりする傾斜角度及び回転角度に依存する。このよう光透過率を測定する測定モード、言い換えれば、光透過率が高くなる角度で位相差を特定するか、或いは光透過率が低くなる角度で位相差を特定するかは、偏光子及び検出子の夫々の光軸の相互関係、即ち平行ニコル配置であるか、クロスニコル配置であるかの違いによって相互に異なる。
【0019】
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら本発明に係る光学補償板の検査方法の実施形態を説明する。
【0021】
<1:投写型表示装置>
先ず、図1を参照しながら、本実施形態に係る光学補償板の検査方法において検査対象となる光学補償板が液晶パネルと共に搭載された投写型表示装置の一例である液晶プロジェクタの構成を説明する。図1は、本実施形態に係る光学補償板の検査方法において検査対象となる光学補償板が搭載された投写型表示装置の一例である液晶プロジェクタの構成を平面図である。
【0022】
図1に示すように、プロジェクタ1100内部には、ハロゲンランプ等の白色光源からなるランプユニット1102が設けられている。このランプユニット1102から射出された投射光は、ライトガイド1104内に配置された4枚のミラー1106および2枚のダイクロイックミラー1108によってRGBの3原色に分離され、各原色に対応するライトバルブとしての液晶パネル1110R、1110Bおよび1110Gに入射される。
【0023】
液晶パネル1110R、1110Bおよび1110Gの構成は、上述した液晶装置と同等であり、画像信号処理回路から供給されるR、G、Bの原色信号でそれぞれ駆動されるものである。そして、これらの液晶パネルに入射する光或いは出射される光は、光学補償されている。液晶パネルを含む光学系から出射された光は、ダイクロイックプリズム1112に3方向から入射される。このダイクロイックプリズム1112においては、RおよびBの光が90度に屈折する一方、Gの光が直進する。したがって、各色の画像が合成される結果、投射レンズ1114を介して、スクリーン等にカラー画像が投写されることとなる。
【0024】
ここで、各液晶パネル1110R、1110Bおよび1110Gによる表示像について着目すると、液晶パネル1110Gによる表示像は、液晶パネル1110R、1110Bによる表示像に対して左右反転することが必要となる。
【0025】
尚、液晶パネル1110R、1110Bおよび1110Gには、ダイクロイックミラー1108によって、R、G、Bの各原色に対応する光が入射するので、カラーフィルタを設ける必要はない。
【0026】
このようなプロジェクタ1100では、液晶パネル1110R、1110G及び1110Bの夫々の光入射側及び光出射側に、後述する検査方法によって検査された光学補償板が位相差板として配置されており、当該光入射側及び光出射側の夫々において光学補償が可能に構成されている。したがって、プロジェクタ1100では、スクリーン等の投写面に投写される投写画像のコントラストが高められており、高品位の画像を表示可能である。
【0027】
尚、後述するコントラストは、プロジェクタ1100等の投写型表示装置によって表示された画像のコントラストを測定することによって特定される。
【0028】
<2:光学補償板の構成>
次に、図2及び図3を参照しながら、本実施形態に係る光学補償板の検査方法において検査対象となる光学補償板の概略構成を説明する。図2は、光学補償板の概略構成を示した斜視図であり、図3は、光学補償板の詳細な構成を図式的に示した図式的構成図である。
【0029】
図2及び図3に示すように、本発明の「第1光学補償板」の一例である光学補償板100は、基板103と、基板103上に存在する傾斜屈折率楕円体102を備えて構成されている。傾斜屈折率楕円体102の長軸を表面101に射影した射影成分と、表面101の中心Cを通る軸線Q2とがなす角度、即ち表面101の面内における屈折率楕円体102の長軸が延びる方向は方位角θで規定されている。傾斜屈折率楕円体102の長軸は、光学補償板100の法線Q1に対して極角φをなして傾いている。したがって、傾斜屈折率楕円体102の長軸が延びる方向は、方位角θ及び極角φで規定されており、光学補償板100に対して検査光を照射する角度、及び、光学補償板100から出射された出射光を検出する検出方向の違いに応じて、当該出射光の位相差が相互に異なり、検光子を介して光検出器に検出された光の透過率が変化する。
【0030】
そこで、後述するように、本実施形態に係る光学補償板の検査方法において、光学補償板100から出射される出射光を屈折率楕円体102の長軸が延びる方向に沿った検出方向において検出することによって光学補償板100の位相差を特定する。
【0031】
尚、図3では、光学補償板100は、基板103及び屈折率楕円体102を含んで構成されているが、基板102も傾斜屈折率楕円体102を含んで構成された平板上の部材であり、説明の便宜上、傾斜屈折率楕円体102の長軸が延びる方向を説明するためにあえて傾斜屈折率楕円体102及び基板103を区別して図示した。
【0032】
<3:光学補償板の検査方法>
次に、図4乃至図7を参照しながら、本実施形態に係る光学補償板の検査方法を説明する。図4は、本実施形態に係る光学補償板の検査方法を実行可能な検査装置の構成を図式的に示した図式的構成図である。図5は、本実施形態に係る光学補償板の検査方法の主要な工程を示したフローチャートである。図6は、本願発明者が行った実験結果を示したグラフである。
【0033】
図5において、検査装置210は、一定の波長の光源光を出射可能な光源201、偏光子202、検光子203、及び、本発明の「受光手段」の一例である光検出器204を備えて構成されている。検査対象である光学補償板100は、その検査時に、偏光子202及び検出子203間に配置される。
【0034】
光学補償板100の検査時において、光源201から出射された光源光P1は、光路R1に沿って偏光子202に入射し、偏光子202によって偏光された検査光P2として光路R1に沿って光学補償板100に照射される。光学補償板100は、屈折率楕円体102の長軸及び短軸の夫々に応じた屈折率異方性によって検査光P2の位相差を補償し、出射光P3として検光子203に向かって出射する。光検出器204は、検光子203によって偏光された出射光P3を検出し、光学補償板100における光の透過率を測定する。
【0035】
後述する本実施形態に係る検査方法では、光学補償板100の検査時において、先ず、図2に示した法線Q1及び光学補償板100の光路R1が一致するように偏光子202及び検光子203間に光学補償板100を配置した後、光路R1を中心として光学補償板100を回転させる。これと平行して、図2で説明した軸線Q2と一致する回転軸R2を中心として光学補償板100を回転させることによって、光路R1に対して光学補償板100を傾斜させながら出射光P3を検出し、光透過率の角度依存性に基づいて光学補償板100の位相差を特定する。
【0036】
より具体的には、本実施形態では、偏光子202及び検出子203は、これら偏光板の夫々の光軸が互いに直交するように配置されている。即ち、本実施形態では、偏光子202及び検光子203はクロスニコル配置されている。後述する検査方法において、光学補償板100を回転及び傾斜させることによって、光検出器204によって検出された光の照度が最も高くなる回転角及び角を特定する。このようにして特定された光学補償板100の回転角、及び傾斜角(即ち、光路R1に対する光学補償板100の傾きを示す角度)の夫々によって特定される検出方向は、屈折率楕円体102の長軸が延びる方向と一致する。本実施形態では、このようにして特定された光学補償板100の回転角及び傾斜角、並びにこれら回転角及び傾斜角に応じて測定された光透過率に基づいて光学補償板100の位相差を特定する。
【0037】
尚、偏光子202及び検出子203は、夫々の光軸が互いに平行になるように、即ち平行ニコル配置されていてもよい。この場合、光学補償板100の位相差は、光検出器204によって検出された光の照度が最も低くなる回転角及び傾斜角に応じて測定された光透過率によって特定される。
【0038】
次に、図5及び図6を参照しながら、本実施形態に係る光学補償板の検査方法を説明する。
【0039】
図5に示すように、本発明に係る「第4ステップ」の一例であるステップS10において、光学補償板100と同種の光学補償板、即ち本発明の「第2光学補償板」の一例を備えた液晶プロジェクタ等の投写型表示装置によって投写された画像のコントラストと、上述の同種の光学補償板が有する傾斜屈折率楕円体の長軸が延びる方向において特定された当該光学補償板の位相差との関係を特定したデータを予め取得する。ステップS10において、画像のコントラスト及び位相差が特定される光学補償板は、光学補償板100と同様の傾斜屈折率楕円体102を含んで構成されており、光学補償板100と同様の設計仕様を有する光学補償板である。ステップS10では、このような光学補償板についてステップS11に先んじて、予め光学補償板100を検査する検査方法と同様の検査方法によって位相差が特定される。加えて、液晶プロジェクタにおけるコントラストが測定されていることによって、当該コントラスト及び位相差の相関が特定されている。
【0040】
より具体的には、本願発明者によって、例えば、図6に示すデータが予め取得されている。図6に示すデータは、複数の光学補償板について、検査光を照射して検査した際の光学補償板の位相差と、前記位相差板を搭載した液晶プロジェクタのコントラストとの関係を示している。図6中の○は、検査の際、光学補償板に正面から検査光を照射した場合のデータ、●は、検査の際、光学補償板を検査光の光路に対して傾けた状態で検査した場合のデータである。即ち、検査時に光学補償板が載置されるステージの傾斜角ごとに、位相差と、表示画像のコントラストとの相関が取得されている。ここで、ステージの傾斜角度が大きい場合(図中●)の位相差及びコントラストの相関を示す相関係数(R=0.9043)は、傾斜角度が小さい場合(図中○)、即ち正面位相差が観測される状態におけるステージの位相差及びコントラストの相関係数(R=0.6421)より大きいことが本願発明者による実験によって見出されている。したがって、コントラストとの相関係数が大きい傾斜角度の範囲内で光学補償板100の良非を判定することによって、簡便に光学補償板100の検査が可能である。
【0041】
ここで、図6を参照しながら、光学補償板100の良非の判定手順を詳細に説明する。より具体的には、例えば、図6中でコントラストA0以上のコントラストを発生させる光学補償板100を良品と判定する場合を例に挙げる。図6において、光学補償板100について特定された位相差B1に対応する相関直線L1におけるコントラストA1がコントラストA0以上である場合には、光学補償板100は良品と判定される。したがって、予め図6に示すデータを取得しておくことにより、光学補償板100の良非を正確に判定可能である。即ち、光学補償板100を投写型表示装置に搭載した状態で検査を行うことなく、光学補償板100を検査可能である。
【0042】
次に、本発明の「第1ステップ」の一例であるステップS11において、光学補償板100の一方の面側、即ち偏光子202に面する側から検査光P2を照射する。
【0043】
次に、ステップS11と並行して、本発明の「第2ステップ」の一例であるステップS12において、光学補償板100の光路R1を中心として回転させ、且つ光路R1に対して傾けることによって、光学補償板100の他方の面、即ち、検光子203に面する出射された出射光P3を傾斜屈折率楕円体102の長軸が延びる方向に沿って検出する。このようにして、傾斜屈折率楕円体102の長軸に沿うように光学補償板100を傾斜させた際の位相差を特定する。
【0044】
次に、本発明の「第3ステップ」の一例であるステップS14において、光学補償板100の位相差及び予め取得した図6に示すデータに基づいて、光学補償板100の良非を判定する。光学補償板100の良非を判定する手順については、既に図6で説明した手順による。
【0045】
したがって、本実施形態に係る光学補償板の検査方法によれば、検査対象となる光学補償板100の位相差が、予め取得されたデータ中で所定のコントラスト以上、例えばコントラストA0以上のコントラスに対応している否かを判定するだけで光学補償板100の良非が判定可能になる。
【0046】
よって、検査対象である光学補償板100を液晶プロジェクタ等の投写型表示装置に搭載することなく、光学補償板100単体で当該光学補償板100の良非を判定することができ、光学補償板100の製造工程において、光学補償板100の選別が可能になる。よって、投写型表示装置に搭載された状態で検査する場合に比べて、光学補償板100の検査に要する負担が低減可能になる。加えて、検査対象である光学補償板100について位相差を測定するだけなので、投写型表示装置が表示する画像のコントラストを評価することなく、簡便、且つ短時間で労力が低減された検査が可能になる。
【0047】
また、本実施形態に係る光学補償板の検査方法によれば、光学補償板100については、上述の位相差に基づく検査以外に外観検査のみを行えばよいため、光学補償板の製造コストを低減できる。加えて、投写型表示装置に画像を表示させた状態で光学補償板100を検査した場合には、投写型表示装置の光源が破損する恐れがあるが、本実施形態に係る光学補償板の検査方法によれば、高出力の光源を使用することなく、検査対象となる光学補償板100を検査できるため、検査の安全性も確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本実施形態に係る光学補償板の検査方法によって検査された光学補償板が光学系に組み込まれた投写型表示装置の一例の構成を示す平面図である。
【図2】本実施形態に係る光学補償板の検査方法によって検査される光学補償板の概略構成の一例を示した斜視図である。
【図3】本実施形態に係る光学補償板の検査方法によって検査される光学補償板の詳細な構成を図式的に示した図式的構成図である。
【図4】本実施形態に係る光学補償板の検査方法を実行可能な検査装置の構成を図式的に示した図式的構成図である。
【図5】本実施形態に係る光学補償板の検査方法の主要な工程を示したフローチャートである。
【図6】本願発明者が行った実験結果を示したグラフである。
【符号の説明】
【0049】
100・・・光学補償板、102・・・屈折率楕円体、201・・・光源、202・・・偏光子、203・・・検光子、210・・・検査装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
傾斜屈折率楕円体を有し、且つ検査対象となる第1光学補償板の一方の面に検査光を照射する第1ステップと、
前記第1光学補償板の他方の面から出射された出射光を検出する検出方向が前記傾斜屈折率楕円体の長軸が延びる方向に沿うように、前記検査光の光路に対して前記第1光学補償板を傾け、且つ前記光路を中心として前記第1光学補償板を回転させる第2ステップと、
前記延びる方向における前記第1光学補償板の位相差に基づいて、前記第1光学補償板の良否を判定する第3ステップと
を備えたことを特徴とする光学補償板の検査方法。
【請求項2】
前記第1ステップに先んじて、前記1光学補償板と同種の第2光学補償板を備えた投写型表示装置によって投写された画像のコントラストと、前記第2光学補償板が有する傾斜屈折率楕円体の長軸が延びる方向において特定された前記第2光学補償板の位相差との関係を特定したデータを取得する第4ステップとを更に備え、
前記第3ステップにおいて、前記データにおける前記第1光学補償板の位相差に対応するコントラストが所定のコントラスト以上であるか否かに基づいて前記良否を判定すること
を特徴とする請求項1に記載の光学補償板の検査方法。
【請求項3】
前記第1ステップにおいて、前記検査光は、前記一方の面の側に配置された偏光子によって光源光が偏光された光であり、
前記第2ステップにおいて、前記出射光は、前記他方の面の側に配置された検光子を介して受光手段に検出されること
を特徴とする請求項1又は2に記載の光学補償板の検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−25593(P2009−25593A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−189158(P2007−189158)
【出願日】平成19年7月20日(2007.7.20)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】