説明

光学部材とそれを備える画像表示装置

【課題】2種の複屈折部材が積層された構成、あるいは特定の光学特性を有する微粒子が添加された構成をとらずとも、例えば単層でありながら、少なくとも可視光領域において波長が短くなるほど複屈折が小さくなる波長分散性(逆波長分散性)を示す、新規な組成を有する光学部材を提供する。
【解決手段】複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位を構成単位として有する(メタ)アクリル系樹脂(C)からなる光学部材とする。このような光学部材の形態の一例として、(メタ)アクリル系樹脂(C)は、固有複屈折が正であり、(メタ)アクリル酸エステル単位を構成単位として有する(メタ)アクリル系重合体(A)と、固有複屈折が負であり、複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位を構成単位として有する重合体(B)とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入射した光に対して複屈折性を示す光学部材に関する。また、本発明は、上記光学部材を備える画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子の配向により生じる複屈折を利用した、複屈折性を有する光学部材が、画像表示分野において幅広く使用されている。例えば、複屈折により生じる位相差を利用した位相差板が、画像表示装置の色調の補償、視野角の補償などに広く用いられている。具体的な例として、反射型の液晶表示装置(LCD)では、複屈折により生じた位相差に基づく光路長差(リターデーション)が波長の1/4である位相差板(λ/4板)が用いられる。また例えば、有機ELディスプレイ(OLED)では、外光の反射防止を目的として、偏光板とλ/4板とを所定の角度で組み合わせた反射防止板が用いられることがある(例えば、特許文献1を参照)。これら複屈折性を有する光学部材(以下、単に「複屈折部材」ともいう)は、今後のさらなる用途拡大が期待される。
【0003】
複屈折部材には、これまで、ポリカーボネート、環状オレフィンが主に用いられてきたが、これら一般的な高分子は、光の波長が短くなるほど複屈折が大きくなる(即ち、位相差が増大する)特性を有する。表示特性に優れる画像表示装置とするためには、これとは逆に、少なくとも可視光の領域において、光の波長が短くなるほど複屈折が小さくなる(即ち、位相差が減少する)波長分散性を有する複屈折部材が望まれる。なお、本明細書では、少なくとも可視光領域において光の波長が短くなるほど複屈折が小さくなる波長分散性を、一般的な高分子(ならびに当該高分子により形成された複屈折部材)が有する波長分散性とは逆であることに基づいて、「逆波長分散性」と呼ぶ。
【0004】
これまで、逆波長分散性を有する複屈折部材を得るために、位相差あるいは波長分散性が異なる2種の複屈折部材を積層したり、特定の光学特性を有する微粒子を部材に添加したりすることがなされている(例えば、微粒子の添加について、特許文献2を参照)。しかし、2種の複屈折部材を積層して逆波長分散性を実現するためには、双方の部材を所定の角度で精密に裁断し、さらに両者を所定の角度で精密に積層することが求められるため、製造工程が複雑となって、複屈折部材のコスト性、生産性に大きな課題が生じる。また、モバイル機器に用いる画像表示装置では、その小型化、軽量化に対する要求が高いが、2種の部材を積層して逆波長分散性を実現する方法では、得られる複屈折部材が厚くなるため、この要求への対応が難しい。一方、微粒子を添加する方法では、製造工程が複雑となり、複屈折部材のコスト性、生産性に大きな課題が残る。
【0005】
これらの技術とは別に、特許文献3には、正の固有複屈折を有するポリマーと、負の固有複屈折を有するポリマーとをブレンドして得た、逆波長分散性を有する位相差板が開示されている。当該文献には、正の固有複屈折を有するポリマーとしてノルボルネン系樹脂が、負の固有複屈折を有するポリマーとしてスチレン系ポリマーが例示されている。
【0006】
また、特許文献4には、正の固有複屈折を有する分子鎖と、負の固有複屈折を有する分子鎖とを有する共重合体を含む組成物を用いて形成された、逆波長分散性を有する位相差板が開示されている。当該文献には、正の固有複屈折を有する分子鎖としてノルボルネン鎖が、負の固有複屈折を有する分子鎖としてスチレン鎖などのスチレン系の分子鎖が例示されている。
【特許文献1】特開2007−273275号公報
【特許文献2】特開2005−156864号公報
【特許文献3】特開2001−337222号公報
【特許文献4】特開2001−235622号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、複屈折性を有する光学部材であって、位相差または波長分散性が異なる2種の複屈折部材が積層された構成、あるいは特定の光学特性を有する微粒子が添加された構成をとらずとも、例えば単層でありながら逆波長分散性を示す、新規な組成を有する光学部材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の光学部材は、複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位を構成単位として有する(メタ)アクリル系樹脂(C)からなり、少なくとも可視光領域において、波長が短くなるほど複屈折が小さくなる波長分散性を示す。
【0009】
本発明の画像表示装置は、上記本発明の光学部材を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明の光学部材は、複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位を構成単位として有する(メタ)アクリル系樹脂(C)からなることにより、位相差または波長分散性が異なる2種の複屈折部材が積層された構成、あるいは特定の光学特性を有する微粒子が添加された構成をとらずとも、例えば単層でありながら、逆波長分散性を示す。
【0011】
このような特徴に基づき、本発明の光学部材を備えるLCD、OLEDなどの画像表示装置、即ち本発明の画像表示装置、は、さらなる小型化、軽量化などの要求に対する対応性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の複屈折性を有する光学部材(複屈折部材)は、複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位(以下、単に「不飽和単量体単位」ともいう)を構成単位として有する(メタ)アクリル系樹脂(C)からなる。
【0013】
(メタ)アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル酸エステル単位を、全構成単位の50モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上、有する重合体((メタ)アクリル系重合体)を含む樹脂である。(メタ)アクリル酸エステル単位の誘導体である環構造をさらに含む重合体の場合は、(メタ)アクリル酸エステル単位および環構造の合計が、全構成単位の50%以上であれば、(メタ)アクリル系重合体とする。また、当該樹脂における全(メタ)アクリル系重合体の含有率の合計は、50重量%以上であることが好ましい。
【0014】
本発明の複屈折部材の具体的な形態は、例えば、以下の(I)、(II)である。
【0015】
(I)(メタ)アクリル系樹脂(C)が、固有複屈折が正であり、かつ(メタ)アクリル酸エステル単位を構成単位として有する(メタ)アクリル系重合体(A)と、固有複屈折が負であり、かつ複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位を構成単位として有する重合体(B)とを含む(第1の複屈折部材)。
【0016】
(II)(メタ)アクリル系樹脂(C)が、(メタ)アクリル酸エステル単位を構成単位として有する(メタ)アクリル系重合体(D)を含む。重合体(D)は、当該重合体に負の固有複屈折を与える作用を有する構成単位として、複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位を有する。また、重合体(D)は、当該重合体に正の固有複屈折を与える作用を有する構成単位として、(メタ)アクリル酸エステル単位および/または(メタ)アクリル酸エステル単位の誘導体である環構造を有する(第2の複屈折部材)。
【0017】
なお、固有複屈折の正負は、重合体の分子鎖が一軸配向した層(例えば、シートあるいはフィルム)において、当該層の主面に垂直に入射した光のうち、当該層における分子鎖が配向する方向(配向軸)に平行な振動成分に対する層の屈折率n1から、配向軸に垂直な振動成分に対する層の屈折率n2を引いた値「n1−n2」に基づいて判断できる。固有複屈折の値は、各々の重合体について、その分子構造に基づく計算により求めることができる。
【0018】
また、重合体に正(あるいは負)の固有複屈折を与える作用を有する構成単位とは、当該単位のホモポリマーを形成したときに、形成したホモポリマーの固有複屈折が正(あるいは負)となる構成単位をいう。重合体自体の固有複屈折の正負は、当該単位に由来して生じる複屈折と、重合体が有するその他の構成単位に由来して生じる複屈折との兼ね合いにより決定される。
【0019】
[第1の複屈折部材]
第1の複屈折部材は、固有複屈折が正の重合体(A)と固有複屈折が負の重合体(B)とを含むが、双方の重合体に対して同一方向に配向が加えられている場合、各々の重合体の遅相軸(あるいは進相軸)が直交するために、互いの複屈折が打ち消しあう。ここで、複屈折が打ち消し合う程度が波長によって異なるために、複屈折、例えば位相差、の逆波長分散性が生じる。
【0020】
重合体(A)、(B)の配向に着目すると、第1の複屈折部材は、重合体(A)および(B)を含む(メタ)アクリル系樹脂(C)に配向を与えて形成した部材である。樹脂(C)に配向を与えるには、所定の形状、例えばシートあるいはフィルム、に成形した樹脂(C)を延伸すればよい。
【0021】
また、第1の複屈折部材では、重合体(B)が不飽和単量体単位を主鎖に有する。このような重合体(B)が示す複屈折の波長分散性は、(メタ)アクリル酸エステル単位を主鎖に有する重合体(A)に比べて、かなり大きい。第1の複屈折部材では、このように、複屈折の波長分散性が大きく異なる重合体(A)および(B)を組み合わせており、逆波長分散性の制御の自由度が向上した複屈折部材とすることができる。
【0022】
[第2の複屈折部材]
第2の複屈折部材は、正の固有複屈折を与える作用を有する構成単位と、負の固有複屈折を与える作用を有する構成単位とを有する重合体(D)を含むが、このような重合体(D)に配向が加えられている場合、各々の構成単位に由来して生じた複屈折が互いに打ち消しあう。ここで、複屈折が打ち消し合う程度が波長によって異なるために、複屈折、例えば位相差、の逆波長分散性が生じる。
【0023】
重合体(D)の配向に着目すると、第2の複屈折部材は、(メタ)アクリル酸エステル単位および不飽和単量体単位を有する重合体(D)を含む(メタ)アクリル系樹脂(C)に配向を与えて形成した部材である。
【0024】
また、不飽和単量体単位に由来して生じる複屈折の波長分散性は、(メタ)アクリル酸エステル単位(あるいはその誘導体である環構造)に由来して生じる複屈折の波長分散性に比べて、かなり大きい。第2の複屈折部材は、このように、生じる複屈折の波長分散性が大きく異なる構成単位を組み合わせた重合体(D)を含んでおり、これにより、逆波長分散性の制御の自由度が向上した複屈折部材とすることができる。
【0025】
[重合体(A)、(D)]
重合体(A)、(D)の種類は、(メタ)アクリル酸エステル単位を構成単位として有し、全構成単位に占める(メタ)アクリル酸エステル単位の割合が50モル%以上である限り、即ち(メタ)アクリル系重合体である限り、特に限定されない。ただし、第1の複屈折部材では、重合体(A)が正の固有複屈折を有する必要がある。また、第2の複屈折部材では、重合体(D)が、当該重合体に負の固有複屈折を与える作用を有する構成単位として不飽和単量体単位を有するとともに、当該重合体に正の固有複屈折を与える作用を有する構成単位として、(メタ)アクリル酸エステル単位および/または当該単位の誘導体である環構造(例えば、後述する環構造)を有する必要がある。
【0026】
重合体(A)、(D)は、主鎖に環構造を有することが好ましい。主鎖に環構造を有する重合体(A)、(D)とすることにより、高い耐熱性を有する複屈折部材とすることができる。当該部材は、例えば画像表示装置において、光源などの発熱部に近接した配置が可能である。
【0027】
重合体(A)、(D)が有していてもよい環構造は、例えば、エステル基、イミド基または酸無水物基を有する環構造である。
【0028】
環構造のより具体的な例は、ラクトン環構造、グルタルイミド構造または無水グルタル酸構造である。これらの環構造を主鎖に有する重合体(A)は、配向によって大きな正の固有複屈折を示すため、重合体(B)との組み合わせにより、逆波長分散性の制御の自由度が向上した複屈折部材となり、例えば、用途に応じた良好な逆波長分散性の実現が可能となる(第1の複屈折部材)。また、これらの環構造を含む構成単位は、当該単位を有する重合体(D)に対して、その配向時に、大きな正の固有複屈折を与える作用を有する。このため、不飽和単量体単位との組み合わせにより、逆波長分散性の制御の自由度が向上した複屈折部材とすることができる(第2の複屈折部材)。
【0029】
環構造は、ラクトン環構造および/またはグルタルイミド構造が好ましく、ラクトン環構造がより好ましい。
【0030】
特に第1の複屈折部材では、重合体(A)が、ラクトン環構造および/またはグルタルイミド構造を主鎖に有することが好ましい。ラクトン環構造またはグルタルイミド構造、特にラクトン環構造、を主鎖に有する重合体(A)は、その波長分散性が非常に小さい。これに対して、不飽和単量体単位を主鎖に有する重合体(B)は、その波長分散性が非常に大きい。このような重合体(A)と(B)とを組み合わせることにより、逆波長分散性の自由度がさらに向上した複屈折部材とすることができる。
【0031】
重合体(A)、(D)が有していてもよい具体的なラクトン環構造は特に限定されないが、例えば、以下の式(1)に示される構造である。
【0032】
【化1】

【0033】
上記式(1)において、R1、R2およびR3は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の範囲の有機残基である。当該有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。
【0034】
有機残基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基などの炭素数が1〜20の範囲のアルキル基;エテニル基、プロペニル基などの炭素数が1〜20の範囲の不飽和脂肪族炭化水素基;フェニル基、ナフチル基などの炭素数が1〜20の範囲の芳香族炭化水素基;上記アルキル基、上記不飽和脂肪族炭化水素基および上記芳香族炭化水素基において、水素原子の一つ以上が、水酸基、カルボキシル基、エーテル基およびエステル基から選ばれる少なくとも1種の基により置換された基;である。
【0035】
式(1)に示すラクトン環構造は、例えば、メタクリル酸メチル(MMA)と2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)とを含む単量体群を共重合した後、得られた共重合体における隣り合ったMMA単位とMHMA単位とを脱アルコール環化縮合させて形成できる。このとき、R1はH、R2はCH3、R3はCH3である。
【0036】
重合体(A)、(D)が有していてもよいグルタルイミド構造は、以下の式(2)により示される環構造である。グルタルイミド構造は、例えば、(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体群を重合した後、得られた重合体をメチルアミンなどのイミド化剤によりイミド化して形成できる。
【0037】
【化2】

【0038】
上記式(2)において、R4、R5およびR6は、互いに独立して、水素原子または式(1)における有機残基として例示した基である。
【0039】
重合体(A)、(D)が有していてもよい無水グルタル酸構造は、以下の式(3)により示される環構造である。無水グルタル酸構造は、例えば、(メタ)アクリル酸エステルと(メタ)アクリル酸とを含む単量体群を共重合した後、得られた共重合体を分子内で脱アルコール環化縮合させて形成できる。
【0040】
【化3】

【0041】
上記式(3)において、R7およびR8は、互いに独立して、水素原子または式(1)における有機残基として例示した基である。
【0042】
なお、式(1)〜(3)の説明において例示した、ラクトン環構造、グルタルイミド構造および無水グルタル酸構造を形成する各方法では、各々の環構造の形成に用いる重合体は、全て(メタ)アクリル系重合体である。
【0043】
第2の複屈折部材では、重合体(D)は、複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位を構成単位として有する。上述したように、不飽和単量体単位に由来して生じる複屈折の波長分散性は非常に大きく、重合体(D)における不飽和単量体単位の含有率が小さい場合にも、波長分散性の制御の自由度が向上した複屈折部材とすることができる。
【0044】
また、不飽和単量体単位に由来して生じる複屈折の波長分散性が大きいことにより、第2の複屈折部材の光弾性係数の上昇を抑制できる。これは、以下の理由による。一般に、芳香環は、当該環を含む重合体の光弾性係数を増大させる作用を有する。このため、複屈折部材を構成する重合体における芳香環の含有量を抑えることが望まれる。第2の複屈折部材では、負の固有複屈折を与える作用を有する構成単位として不飽和単量体単位を用いることにより、重合体(D)における不飽和単量体単位の含有量を低減、即ち、複屈折部材を構成する重合体における芳香環の含有量を低減することが可能となり、複屈折部材としての光弾性係数の上昇を抑制できる。
【0045】
複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位の具体的な例は、重合体(B)の説明において後述するが、例えば以下の式(4)により示されるビニルカルバゾール単位である。なお、式(4)に示す環上の水素原子の一部が、式(1)における有機残基として例示した基により置換されていてもよい。
【0046】
【化4】

【0047】
第1の複屈折部材において、固有複屈折が正である限り、重合体(A)が構成単位として不飽和単量体単位を有していてもよい。この場合、重合体(A)と重合体(B)との相容性が向上し、透明性に優れる複屈折部材となる。
【0048】
第1の複屈折部材において重合体(A)は、固有複屈折が正である限り、(メタ)アクリル酸エステル単位以外の構成単位を有していてもよい。
【0049】
第2の複屈折部材において重合体(D)は、本発明の効果が得られる限り、不飽和単量体単位ならびに重合体(D)に正の固有複屈折を与える作用を有する(メタ)アクリル酸エステル単位および当該単位の誘導体である環構造以外の構成単位を有していてもよい。
【0050】
重合体(A)、(D)は公知の方法により製造できる。
【0051】
例えば、環構造としてラクトン環構造を有する重合体(A)、(D)は、分子鎖内に水酸基とエステル基とを有する重合体(a)を任意の触媒存在下で加熱し、脱アルコールを伴うラクトン環化縮合反応を進行させて、得ることができる。
【0052】
重合体(a)は、例えば、以下の式(5)に示される単量体を含む単量体群の重合により形成できる。
【0053】
【化5】

【0054】
上記式(5)において、R9およびR10は、互いに独立して、水素原子または式(1)における有機残基として例示した基である。
【0055】
式(5)により示される単量体の具体的な例は、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸ノルマルブチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸t−ブチルである。なかでも、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルが好ましく、高い透明性および耐熱性を有する複屈折部材が得られることから、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)が特に好ましい。
【0056】
なお、上記例示した(メタ)アクリル酸エステル単量体に由来する構成単位は、環化により、当該単位を有する重合体に対して正の固有複屈折を与える作用を有する。
【0057】
重合体(a)の形成に用いる単量体群は、上記式(5)により示される単量体を2種以上含んでいてもよい。
【0058】
重合体(a)の形成に用いる単量体群は、上記式(5)により示される単量体以外の単量体を含んでいてもよい。このような単量体は、式(5)により示される単量体と共重合できる単量体である限り特に限定されず、例えば、式(5)により示される単量体以外の(メタ)アクリル酸エステルであってもよい。
【0059】
このような(メタ)アクリル酸エステルは、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジルなどのアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジルなどのメタクリル酸エステル;である。なかでも、高い透明性および耐熱性を有する複屈折部材が得られることから、メタクリル酸メチル(MMA)が特に好ましい。
【0060】
重合体(a)の形成に用いる単量体群は、これら(メタ)アクリル酸エステルを2種以上含んでいてもよい。
【0061】
不飽和単量体単位(例えばビニルカルバゾール単位)を構成単位として有する重合体(A)、(D)は、上述した(メタ)アクリル酸エステル単量体と、複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体(例えば以下の式(6)に示されるビニルカルバゾール単量体)とを含む単量体群を重合して形成できる。単量体群が含む(メタ)アクリル酸エステルの種類を選択し、形成した重合体を環化縮合させることによって、不飽和単量体単位を構成単位として有するとともに、主鎖に環構造を有する重合体(A)、(D)としてもよい。
【0062】
【化6】

【0063】
なお、式(6)に示す環上の水素原子の一部が、式(1)における有機残基として例示した基により置換されていてもよい。
【0064】
[重合体(B)]
重合体(B)は、固有複屈折が負であり、かつ複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位を構成単位として有する限り特に限定されない。複素芳香族基を有する上記不飽和単量体単位は、当該単位を主鎖に含む重合体(B)の波長分散性を大きく増加させる作用を有する。このため、重合体(A)、特に環構造としてラクトン環構造またはグルタルイミド構造を有する重合体(A)(上述したように、ラクトン環構造またはグルタルイミド構造を有する重合体(A)、なかでもラクトン環構造を有する重合体(A)、の波長分散性は非常に小さい)、との組み合わせにより、逆波長分散性の制御の自由度をさらに向上させた複屈折部材とすることができる。
【0065】
なお、特許文献3(特開2001−337222号公報)に開示されている樹脂の組み合わせでは、両者の波長分散性の差はそれほど大きくないため、重合体(A)と(B)とを組み合わせたときのような効果を得ることができない。
【0066】
また、上記不飽和単量体単位が重合体(B)の波長分散性を大きく増加させる作用を有することから、重合体(B)の全構成単位に占める上記不飽和単量体単位の割合が低い場合にも、重合体(B)は大きな波長分散性を示す(本願比較例3の結果[表6]を参照)。なお、ポリカーボネート、ポリスチレンなど、従来の光学部材に用いられている樹脂は、ホモポリマーの場合であっても、本願実施例で示す可視光領域内のR/R0値にして、およそ0.95〜1.15程度の範囲に入る波長分散性しか示さない。
【0067】
一方、芳香環は、当該環を含む重合体の光弾性係数を増大させる作用を通常有するため、複屈折部材における芳香環の含有量を抑えることが望まれる。第1の複屈折部材では、上記不飽和単量体単位の割合が低いときにも大きな波長分散性を示す重合体(B)を用いているため、複屈折部材中の芳香環の含有量を低減でき、光弾性係数の上昇を抑制できる。
【0068】
上記不飽和単量体単位の種類は特に限定されない。複素芳香族基におけるヘテロ原子は、例えば、酸素原子、硫黄原子、窒素原子であるが、重合体(B)の波長分散性を増大させる作用に優れることから、窒素原子が好ましい。
【0069】
上記不飽和単量体単位の具体的な種類は、例えば、ビニルカルバゾール単位、ビニルピリジン単位、ビニルイミダゾール単位およびビニルチオフェン単位から選ばれる少なくとも1種である。
【0070】
重合体(B)の波長分散性を増大させる作用に特に優れることから、上記不飽和単量体単位は、ビニルカルバゾール単位およびビニルピリジン単位から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、ビニルカルバゾール単位がより好ましい。
【0071】
重合体(B)の具体的な構成は、固有複屈折が負であるとともに、不飽和単量体単位を有する限り特に限定されず、例えば、不飽和単量体と他のモノマーとの共重合体であってもよい。
【0072】
より具体的には、重合体(B)は、上記不飽和単量体と(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体、即ち、構成単位として(メタ)アクリル酸エステル単位を含む重合体であってもよい。この場合、重合体(A)と重合体(B)との相容性が向上する。このような重合体(B)は、例えば、ビニルカルバゾールと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体である。
【0073】
また例えば、重合体(B)は、重合体(A)が有する環構造と同様の環構造を主鎖に有していてもよい。この場合、より耐熱性に優れる複屈折部材となる。
【0074】
重合体(B)は、公知の方法により製造できる。
【0075】
第1の複屈折部材における重合体(A)と重合体(B)との混合比は、各重合体の固有複屈折の絶対値、あるいは複屈折部材としたときに要求される逆波長分散性の程度などに応じて異なるために、一概に述べることができないが、例えば、(A):(B)=1:99〜99:1の範囲であり、(A):(B)=10:90〜90:10の範囲が好ましく、(A):(B)=20:80〜80:20の範囲がより好ましい。この範囲において、複屈折部材としての逆波長分散性の制御の自由度をより向上でき、用途に応じた良好な逆波長分散性を有する複屈折部材とすることができる。
【0076】
第1の複屈折部材において、重合体(A)がその主鎖に環構造を有する場合、重合体(A)および(B)における、上記環構造の含有率の合計X1(重量%)と、不飽和単量体単位の含有率の合計X2(重量%)との比は、例えば、X1:X2=99.5:0.5〜70:30の範囲であり、X1:X2=95:5〜75:25の範囲が好ましく、X1:X2=95:5〜80:20の範囲がより好ましい。この範囲において、複屈折部材としての逆波長分散性の制御の自由度をより向上でき、用途に応じた良好な逆波長分散性を有する複屈折部材とすることができる。
【0077】
第2の複屈折部材において、重合体(D)がその主鎖に環構造を有する場合、重合体(D)における、上記環構造の含有率X3(重量%)と、不飽和単量体単位の含有率X4(重量%)との比は、例えば、X3:X4=99.5:0.5〜70:30の範囲であり、X3:X4=95:5〜75:25の範囲が好ましく、X3:X4=95:5〜80:20の範囲がより好ましい。この範囲において、複屈折部材としての逆波長分散性の制御の自由度をより向上でき、用途に応じた良好な逆波長分散性を有する複屈折部材とすることができる。
【0078】
環構造の含有率X1、X3は、特開2001−151814号公報に記載の方法により評価できる。ビニルカルバゾール単位をはじめとする上記不飽和単量体単位の含有率X2、X4は、公知の手法、例えば1H核磁気共鳴(1H−NMR)あるいは赤外線分光分析(IR)、により求めることができる。
【0079】
第2の複屈折部材において、重合体(D)における不飽和単量体単位の含有率と、重合体(D)に正の固有複屈折を与える作用を有する構成単位の含有率との比は、重合体(D)の固有複屈折に対して各構成単位が作用する程度、あるいは複屈折部材としたときに要求される波長分散性の程度などに応じて異なるために、一概に述べることができないが、例えば重量比にして、不飽和単量体単位:正の固有複屈折を与える作用を有する構成単位=1:99〜38:62の範囲である。この範囲において、複屈折部材としての逆波長分散性の制御の自由度をより向上でき、用途に応じた良好な逆波長分散性を有する複屈折部材とすることができる。
【0080】
本発明の複屈折部材は、逆波長分散性を有する。即ち、当該複屈折部材は、少なくとも可視光領域において、波長が短くなるほど複屈折(あるいは位相差もしくはリターデーション)が小さくなる複屈折特性を有する。このような複屈折部材は広帯域の複屈折部材であり、例えば、この複屈折部材を用いることにより、表示特性に優れる画像表示装置を構築できる。
【0081】
また、本発明の複屈折部材は、例えば、単層でありながら逆波長分散性を示す。このため当該複屈折部材は、その生産性、コスト性に優れる他、当該複屈折部材が組み込まれた画像表示装置の小型化、軽量化、低コスト化などを図ることができる。
【0082】
本発明の複屈折部材の具体的な形状は特に限定されない。複屈折部材としての用途に応じて適宜選択すればよく、例えば、シートあるいはフィルムとしてもよい。
【0083】
本発明の複屈折部材は、その用途に応じて、他の光学部材(光学部材には複屈折部材が含まれる)と組み合わせて用いてもよい。
【0084】
本発明の複屈折部材の具体的な種類も特に限定されず、例えば、位相差板としてもよいし、得られる位相差に基づくリターデーションを光の波長の1/4として、位相差板の一種であるλ/4板としてもよい。また、偏光板などの他の光学部材と組み合わせて、反射防止板とすることもできる。
【0085】
本発明の複屈折部材は、特にその用途が制限されることなく、従来の複屈折部材と同様の用途(例えば、LCD、OLEDなどの画像表示装置)に使用が可能である。
【0086】
本発明の複屈折部材は、(メタ)アクリル系樹脂(C)からなるため、透明性、機械的強度、成型加工性などの諸特性に優れる。
【0087】
本発明の複屈折部材を形成する方法は特に限定されず、公知の手法に従えばよい。例えば、所定の重合体(A)および(B)を含む(メタ)アクリル系樹脂(C)をシートとし、得られたシートを所定の方向に延伸、典型的には一軸延伸あるいは逐次二軸延伸、し、シートに含まれる双方の重合体の分子鎖を配向させることで、シート状の第1の複屈折部材を形成できる。また例えば、所定の重合体(D)を含む(メタ)アクリル系樹脂(C)をシートとし、得られたシートを所定の方向に延伸、典型的には一軸延伸あるいは逐次二軸延伸、し、シートに含まれる重合体(D)の分子鎖を配向させることで、シート状の第2の複屈折部材を形成できる。
【0088】
(メタ)アクリル系樹脂(C)をシートにする方法は特に限定されない。例えば樹脂(C)が溶液状である場合、当該溶液をキャストなどの手法により成形して、シートとすればよい。また例えば、樹脂(C)が固形状である場合、溶融押出やプレス成形などの手法により、当該樹脂をシートとすることができる。
【実施例】
【0089】
以下、実施例により、本発明をより詳細に説明する。本発明は、以下に示す実施例に限定されない。
【0090】
(製造例1)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応装置に、15重量部の2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)、35重量部のメタクリル酸メチル(MMA)および重合溶媒として50重量部のトルエンを仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤として0.03重量部のt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富社製、商品名:ルペロックス570)を添加するとともに、3.34重量部のトルエンに上記t−アミルパーオキシイソノナノエート0.06重量部を溶解した溶液を2時間かけて滴下しながら、約105〜110℃の還流下で溶液重合を進行させ、さらに4時間の熟成を行った。
【0091】
次に、得られた重合溶液に、環化縮合反応の触媒(環化触媒)として、0.1重量部のリン酸オクチル/ジオクチル混合物を加え、約80〜105℃の還流下において2時間、環化縮合反応を進行させた。
【0092】
次に、このようにして得た重合溶液を、減圧下240℃で1時間乾燥させて、主鎖にラクトン環構造を有する透明な重合体(A−1)を形成した。
【0093】
(製造例2)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応装置に、15重量部のMHMA、25重量部のMMA、10重量部のメタクリル酸ベンジルおよび重合溶媒として50重量部のトルエンを仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤として0.03重量部のt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富社製、商品名:ルペロックス570)を添加するとともに、3.34重量部のトルエンに上記t−アミルパーオキシイソノナノエート0.06重量部を溶解した溶液を6時間かけて滴下しながら、約105〜111℃の還流下で溶液重合を進行させ、さらに2時間の熟成を行った。
【0094】
次に、得られた重合溶液に、環化触媒として、0.1重量部のリン酸オクチル/ジオクチル混合物を加え、約80〜105℃の還流下において2時間、環化縮合反応を進行させた。
【0095】
次に、このようにして得た重合溶液を、減圧下240℃で1時間乾燥させて、主鎖にラクトン環構造を有する透明な重合体(A−2)を形成した。
【0096】
形成した重合体(A−2)の固有複屈折の正負を、比較例1と同様に形成した当該重合体からなる延伸フィルムの配向角を求めることで評価したところ、正であった。
【0097】
(製造例3)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応装置に、10重量部のビニルカルバゾール、18重量部のMHMA、72重量部のMMAおよび重合溶媒として80重量部のトルエンを仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤として0.1重量部のt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富社製、商品名:ルペロックス570)を添加するとともに、10重量部のトルエンに上記t−アミルパーオキシイソノナノエート0.2重量部を溶解した溶液を2時間かけて滴下しながら、約105〜110℃の還流下で溶液重合を進行させ、さらに4時間の熟成を行った。
【0098】
次に、得られた重合溶液に10重量部のトルエンに溶解させた0.9重量部のリン酸オクチル/ジオクチル混合物を加え、還流下において2時間、上記重合により形成した重合体中のMHMA単位とMMA単位との間に環化縮合反応を進行させた。
【0099】
次に、このようにして得た重合溶液を、減圧下240℃で1時間乾燥させて、ビニルカルバゾール単位を主鎖に有する透明な重合体(B−1)を形成した。なお、得られた重合体(B−1)は、その主鎖にラクトン環構造を有するが、この環構造は、重合体(B−1)と、重合体(A−1)または(A−2)との相容性を向上させることを目的として形成した。
【0100】
(製造例4)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応装置に、25重量部のMHMA、68重量部のMMA、7重量部のビニルカルバゾールおよび重合溶媒として90重量部のトルエンを仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤として0.04重量部のt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富社製、商品名:ルペロックス570)を添加するとともに、10重量部のトルエンに上記t−アミルパーオキシイソノナノエート0.08重量部を溶解した溶液を3時間かけて滴下しながら、約105〜110℃の還流下で溶液重合を進行させ、さらに4時間の加温、熟成を行った。
【0101】
次に、得られた重合溶液に、環化縮合反応の触媒(環化触媒)として、0.9重量部のリン酸オクチル/ジオクチル混合物を加え、約80〜105℃の還流下において2時間、環化縮合反応を進行させた。
【0102】
次に、オートクレーブにより、240℃で90分間さらに加熱した後、得られた重合溶液を減圧下240℃で1時間乾燥させて、重合体に負の固有複屈折を与える構成単位としてビニルカルバゾール単位を有するとともに、重合体に正の固有複屈折を与える構成単位としてラクトン環構造を有する透明な共重合体(D−1)を得た。
【0103】
(製造例5)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応装置に、25重量部のMHMA、63重量部のMMA、5重量部のメタクリル酸シクロヘキシル(CHMA)、7重量部のビニルカルバゾールおよび重合溶媒として90重量部のトルエンを仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤として0.04重量部のt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富社製、商品名:ルペロックス570)を添加するとともに、10重量部のトルエンに上記t−アミルパーオキシイソノナノエート0.08重量部を溶解した溶液を3時間かけて滴下しながら、約105〜110℃の還流下で溶液重合を進行させ、さらに4時間の加温、熟成を行った。
【0104】
次に、得られた重合溶液に、環化縮合反応の触媒(環化触媒)として、0.9重量部のリン酸オクチル/ジオクチル混合物を加え、約80〜105℃の還流下において2時間、環化縮合反応を進行させた。
【0105】
次に、オートクレーブにより、240℃で90分間さらに加熱した後、得られた重合溶液を減圧下240℃で1時間乾燥させて、重合体に負の固有複屈折を与える構成単位としてビニルカルバゾール単位を有するとともに、重合体に正の固有複屈折を与える構成単位としてラクトン環構造を有する透明な共重合体(D−2)を得た。
【0106】
(実施例1)
重合体(A)として製造例1で作製した重合体(A−1)10重量部と、重合体(B)として製造例3で作製した重合体(B−1)20重量部とを、メチルイソブチルケトンに溶解させ、得られた溶液を攪拌して、重合体(A−1)および(B−1)を均一に混合した。次に、得られた混合溶液を減圧下240℃で1時間乾燥させて、固形の樹脂(C−1)30重量部を得た。
【0107】
次に、得られた樹脂(C−1)をプレス成形機により250℃でプレス成形して、厚さ100μmのフィルムとした。次に、作製したフィルムを、二軸延伸装置(東洋精機製作所社製、TYPE EX4)により、MD方向の延伸倍率が2倍となるように、延伸温度138℃で一軸延伸して、厚さ40μmの延伸フィルムを得た。
【0108】
得られた延伸フィルムの位相差(フィルム面内の位相差)の波長分散性ならびに配向角を、全自動複屈折計(王子計測機器社製、KOBRA−WR)を用いて評価した。波長分散性の評価結果を、以下の表1に示す。なお、表1ならびに以降の実施例・比較例における各表では、測定波長を590nmとしたときの位相差を基準(R0)として、その他の波長における位相差RとR0との比(R/R0)を併せて示す。また、各表に示す面内位相差は、膜厚100μmあたりの値である。
【0109】
【表1】

【0110】
表1に示すように、実施例1で得られた延伸フィルムは、光の波長が短くなるほど位相差が小さくなる逆波長分散性を示した。
【0111】
実施例1で得られた延伸フィルムの配向角(φ)は−0.8°であり、即ち、その固有複屈折は正であった。
【0112】
(実施例2)
重合体(A)として、重合体(A−1)の代わりに、製造例2で作製した重合体(A−2)を用いた以外は実施例1と同様にして延伸フィルムを作製し、作製した延伸フィルムの位相差の波長分散性ならびに配向角を、実施例1と同様に評価した。波長分散性の評価結果を、以下の表2に示す。
【0113】
【表2】

【0114】
表2に示すように、実施例2で得られた延伸フィルムは、光の波長が短くなるほど位相差が小さくなる逆波長分散性を示した。
【0115】
実施例2で得られた延伸フィルムの配向角(φ)は0.6°であり、即ち、その固有複屈折は正であった。
【0116】
(実施例3)
重合体(A)としてアクリルイミド樹脂(ロームアンドハース社製、KAMAX T−240)10重量部と、重合体(B)として製造例3で形成した重合体(B−1)25重量部とを用いた以外は実施例1と同様にして、固形の樹脂(C−3)35重量部を得た。なお、重合体(A)として用いたアクリルイミド樹脂は、以下の式(7)に示すように、その構成単位としてN−メチル−ジメチルグルタルイミド単位およびメチルメタアクリレート単位を有する。
【0117】
【化7】

【0118】
次に、得られた樹脂(C−3)をプレス成形機により250℃でプレス成形して、厚さ100μmのフィルムとした。次に、作製したフィルムを、二軸延伸装置(東洋精機製作所社製、TYPE EX4)により、MD方向の延伸倍率が2倍となるように、延伸温度143℃で一軸延伸して、厚さ50μmの延伸フィルムを得た。
【0119】
次に、得られた延伸フィルムの位相差の波長分散性ならびに配向角を、実施例1と同様に評価した。波長分散性の評価結果を、以下の表3に示す。
【0120】
【表3】

【0121】
表3に示すように、実施例3で得られた延伸フィルムは、光の波長が短くなるほど位相差が小さくなる逆波長分散性を示した。
【0122】
実施例3で得られた延伸フィルムの配向角(φ)は−2.1°であり、即ち、その固有複屈折は正であった。
【0123】
(比較例1)
製造例1で形成した重合体(A−1)のみを用いて、実施例1と同様にプレス成形および一軸延伸を行うことで、重合体(A−1)の延伸フィルム(厚さ40μm)を得た。得られた延伸フィルムの位相差の波長分散性ならびに配向角を、実施例1と同様に評価した。波長分散性の評価結果を、以下の表4に示す。
【0124】
【表4】

【0125】
表4に示すように、比較例1で得られた延伸フィルムは、光の波長が短くなるほど位相差が大きくなる、即ち、ポリカーボネートなどの一般的な高分子を用いた複屈折部材と同様の、波長分散性を示した。
【0126】
比較例1で得られた延伸フィルムの配向角(φ)は−0.7°であり、即ち、その固有複屈折は正であった。
【0127】
(比較例2)
実施例3で用いたアクリルイミド樹脂のみを用いて、実施例1と同様にプレス成形および一軸延伸を行うことで、厚さ50μmの延伸フィルムを得た。得られた延伸フィルムの位相差の波長分散性ならびに配向角を、実施例1と同様に評価した。波長分散性の評価結果を、以下の表5に示す。
【0128】
【表5】

【0129】
表5に示すように、比較例2で得られた延伸フィルムは、光の波長が短くなるほど位相差が大きくなる、即ち、ポリカーボネートなどの一般的な高分子を用いた複屈折部材と同様の、波長分散性を示した。
【0130】
比較例2で得られた延伸フィルムの配向角(φ)は−0.8°であり、即ち、その固有複屈折は正であった。
【0131】
(比較例3)
製造例3で形成した重合体(B−1)のみを用いて、実施例1と同様にプレス成形および一軸延伸を行うことで、重合体(B−1)の延伸フィルムを得た。得られた延伸フィルムの位相差の波長分散性ならびに配向角を、実施例1と同様に評価した。波長分散性の評価結果を、以下の表6に示す。
【0132】
【表6】

【0133】
表6に示すように、比較例3で得られた延伸フィルムは、光の波長が短くなるほど位相差が大きくなる、即ち、ポリカーボネートなどの一般的な高分子を用いた複屈折部材と同様の、波長分散性を示した。
【0134】
比較例3で得られた延伸フィルムの配向角(φ)は89.4°であり、即ち、その固有複屈折は負であった。
【0135】
(実施例4)
製造例4で作製した共重合体(D−1)を、プレス成形機により250℃でプレス成形して、厚さ約190μmのフィルムとした。次に、作製したフィルムを、オートグラフ(島津製作所社製)により、延伸倍率が2倍となるように、延伸温度148℃で自由端一軸延伸して、厚さ130μmの延伸フィルムを得た。
【0136】
得られた延伸フィルムの位相差の波長分散性を、実施例1と同様に評価した。評価結果を、以下の表7に示す。
【0137】
【表7】

【0138】
表7に示すように、実施例4で得られた延伸フィルムは、光の波長が短くなるほど位相差が小さくなる逆波長分散性を示した。
【0139】
(実施例5)
製造例5で作製した共重合体(D−2)を、プレス成形機により250℃でプレス成形して、厚さ約190μmのフィルムとした。次に、作製したフィルムを、上記オートグラフにより、延伸倍率が2倍となるように、延伸温度147℃で自由端一軸延伸して、厚さ130μmの延伸フィルムを得た。
【0140】
得られた延伸フィルムの位相差の波長分散性を、実施例1と同様に評価した。評価結果を、以下の表8に示す。
【0141】
【表8】

【0142】
表8に示すように、実施例5で得られた延伸フィルムは、光の波長が短くなるほど位相差が小さくなる逆波長分散性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0143】
本発明の光学部材は、位相差または波長分散性が異なる2種の複屈折部材が積層された構成、あるいは特定の光学特性を有する微粒子が添加された構成をとらずとも、例えば単層でありながら、逆波長分散性を示す。また、本発明の光学部材は、逆波長分散性の制御の自由度が高い。
【0144】
本発明の光学部材は、従来の複屈折性を有する光学部材と同様に、液晶表示装置(LCD)、有機ELディスプレイ(OLED)をはじめとする画像表示装置に広く使用でき、この複屈折部材の使用により、画像表示装置の小型化、軽量化が可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位を構成単位として有する(メタ)アクリル系樹脂(C)からなり、
少なくとも可視光領域において、波長が短くなるほど複屈折が小さくなる波長分散性を示す光学部材。
【請求項2】
前記(メタ)アクリル系樹脂(C)が、
固有複屈折が正であり、(メタ)アクリル酸エステル単位を構成単位として有する(メタ)アクリル系重合体(A)と、
固有複屈折が負であり、複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位を構成単位として有する重合体(B)と、を含む請求項1に記載の光学部材。
【請求項3】
前記(メタ)アクリル系樹脂(C)が、(メタ)アクリル酸エステル単位を構成単位として有する(メタ)アクリル系重合体(D)を含み、
前記重合体(D)は、当該重合体に負の固有複屈折を与える作用を有する構成単位として、複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位を有し、当該重合体に正の固有複屈折を与える作用を有する構成単位として、(メタ)アクリル酸エステル単位および/または(メタ)アクリル酸エステル単位の誘導体である環構造を有する請求項1に記載の光学部材。
【請求項4】
前記α,β−不飽和単量体単位が、ビニルカルバゾール単位、ビニルピリジン単位、ビニルイミダゾール単位およびビニルチオフェン単位から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の光学部材。
【請求項5】
前記α,β−不飽和単量体単位が、ビニルカルバゾール単位である請求項1に記載の光学部材。
【請求項6】
前記重合体(A)が、主鎖に環構造を有する請求項2に記載の光学部材。
【請求項7】
前記重合体(D)が、主鎖に環構造を有する請求項3に記載の光学部材。
【請求項8】
前記環構造が、エステル基、イミド基または酸無水物基を有する請求項6または7に記載の光学部材。
【請求項9】
前記環構造が、ラクトン環構造、グルタルイミド構造または無水グルタル酸構造である請求項6または7に記載の光学部材。
【請求項10】
前記環構造が、以下の式(1)により示されるラクトン環構造である、請求項6または7に記載の光学部材。
【化1】

上記式(1)において、R1、R2およびR3は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の範囲の有機残基であり、当該有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。
【請求項11】
シートまたはフィルムである請求項1〜10のいずれかに記載の光学部材。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の光学部材を備える画像表示装置。

【公開番号】特開2009−175727(P2009−175727A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−332490(P2008−332490)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】