説明

光学部材とそれを備える画像表示装置

【課題】複屈折性を示す光学部材であって、少なくとも可視光領域において波長が短くなるほど複屈折が小さくなる波長分散性(逆波長分散性)を示すとともに、光学的な設計の自由度が高い光学部材を提供する。
【解決手段】固有複屈折が正である第1の樹脂層と、複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位(A)を構成単位として有する重合体(B)を含み、固有複屈折が負である第2の樹脂層とを含む積層構造を有し、第2の樹脂層が、重合により重合体(B)の構成単位である前記単位(A)となる単量体(E)と、重合開始剤とを含む重合硬化性組成物(C)の重合硬化体からなる層である光学部材とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入射光に対して複屈折性を示す光学部材と、この光学部材を備える画像表示装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
高分子の配向により生じる複屈折を利用した光学部材が、画像表示分野において幅広く使用されている。このような光学部材の一つに、色調の補償、視野角の補償などを目的として画像表示装置に組み込まれる位相差板がある。例えば、反射型の液晶表示装置(LCD)では、複屈折により生じた位相差に基づく光路長差(リターデーション)が波長の1/4である位相差板(λ/4板)が使用される。有機ELディスプレイ(OLED)では、外光の反射防止を目的として、偏光板とλ/4板とを組み合わせた反射防止板が用いられることがある(特許文献1を参照)。これら複屈折性を示す光学部材は、今後のさらなる用途拡大が期待される。
【0003】
従来、光学部材には、ポリカーボネート、シクロオレフィンが主に用いられてきたが、これら一般的な高分子は、光の波長が短くなるほど複屈折が大きくなる(即ち、位相差が増大する)波長分散性を示す。表示特性に優れる画像表示装置とするためには、これとは逆に、光の波長が短くなるほど複屈折が小さくなる(即ち、位相差が減少する)波長分散性を示す光学部材が望まれる。なお、本明細書では、少なくとも可視光領域において光の波長が短くなるほど複屈折が小さくなる波長分散性を、一般的な高分子ならびに当該高分子により形成された光学部材が示す波長分散性とは逆であることに基づいて、「逆波長分散性」と呼ぶ。
【0004】
これまで、光の波長が短くなるほど複屈折が大きくなる波長分散性を改善するために、位相差が異なる2種の光学部材を積層したり(特許文献2)、λ/4板とλ/2板とを積層したり(特許文献3)することが試みられている。
【0005】
一方、特許文献4に、正の固有複屈折を有する重合体と、負の固有複屈折を有する重合体とを含む樹脂組成物からなる位相差板が開示されている。また、特許文献5に、正の固有複屈折を有する分子鎖と、負の固有複屈折を有する分子鎖とを有する共重合体からなる位相差板が開示されており、これらの位相差板は、単層でありながら逆波長分散性を示す。しかし、特許文献4、5に開示の位相差板では、固有複屈折の符号が互いに異なる重合体(分子鎖)間の相容性、ならびに位相差板としての成形性、耐熱性などの諸特性を考慮しながら樹脂組成物(共重合体)の組成を定める必要があり、事実上、樹脂組成物(共重合体)がとりうる組成範囲が限定される。このため、特許文献4、5に開示の位相差板は、その光学的な設計の自由度が必ずしも十分ではない。なお、特許文献4には、正の固有複屈折を有する重合体としてポリノルボルネンが、負の固有複屈折を有する重合体としてスチレン系重合体が例示されている。特許文献5には、正の固有複屈折を有する分子鎖としてノルボルネン鎖が、負の固有複屈折を有する分子鎖としてスチレン鎖などのスチレン系の分子鎖が例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-273275号公報
【特許文献2】特開平5-27118号公報
【特許文献3】特開平10-68816号公報
【特許文献4】特開2001-337222号公報
【特許文献5】特開2001-235622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、複屈折性を示す光学部材であって、逆波長分散性を示すとともに光学的な設計の自由度が高い光学部材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の光学部材は、固有複屈折が正である第1の樹脂層と、複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位(A)を構成単位として有する重合体(B)を含み、固有複屈折が負である第2の樹脂層と、を含む積層構造を有し、前記第2の樹脂層は、重合により前記重合体(B)の構成単位である前記単位(A)となる単量体(E)と、重合開始剤とを含む重合硬化性組成物(C)の重合硬化体からなる層であり、少なくとも可視光領域において、波長が短くなるほど複屈折が小さくなる波長分散性を示す。
【0009】
樹脂層の固有複屈折の正負は、樹脂層の主面に垂直に入射した光のうち、当該層の配向軸に平行な振動成分に対する樹脂層の屈折率n1から、配向軸に垂直な振動成分に対する樹脂層の屈折率n2を引いた値「n1−n2」に基づいて判断できる。樹脂層の配向軸とは、当該層に含まれる重合体の分子鎖が一軸配向したと仮定したときにおける当該分子鎖の配向方向である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の光学部材は、固有複屈折の符号が互いに異なる2種類の層(第1および第2の樹脂層)が積層された構造を有しているが、このような積層構造では、入射した光に対する両層の複屈折が互いに打ち消し合う現象が生じる。ここで、複屈折の打ち消しあう程度が波長によって異なるために、本発明の光学部材は逆波長分散性を示す。
【0011】
本発明の光学部材では、第1および第2の樹脂層がそれぞれ独立して配置されており、固有複屈折の符号が互いに異なる重合体(分子鎖)間の相溶性を考慮することなく層を形成できるため、各樹脂層がとりうる組成範囲が広い。また、第2の樹脂層は、複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位(A)を構成単位として有する重合体(B)を含むが、このような層が示す複屈折の波長分散性は、一般的な重合体を含む樹脂層(例えば第1の樹脂層)が示す複屈折の波長分散性よりもかなり大きい。
【0012】
本発明の光学部材の第2の樹脂層は、重合により重合体(B)の構成単位である上記単位(A)となる単量体(E)と、重合開始剤とを含む重合硬化性組成物(C)の重合硬化体からなる層である。このような層は、基本的に、組成が層全体にわたって均一であるため、複屈折の発現性に優れるなど、光学特性に優れている。
【0013】
このように本発明の光学部材では、複屈折の波長分散性が大きく異なる2種類の独立した樹脂層を組み合わせるとともに、第2の樹脂層における複屈折の発現性に優れており、これにより、逆波長分散性の制御の自由度をはじめとする光学的な設計の自由度が高い光学部材となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の光学部材の一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書における「樹脂」は「重合体」よりも広い概念である。樹脂は、例えば1種または2種以上の重合体からなってもよいし、必要に応じて、重合体以外の材料、例えば紫外線吸収剤、酸化防止剤、フィラーなどの添加剤を含んでもよい。
【0016】
図1に、本発明の複屈折性を示す光学部材の一例を示す。図1に示す光学部材1は、固有複屈折が正である第1の樹脂層2と、固有複屈折が負である第2の樹脂層3とが積層された構造を有する。第2の樹脂層3は、複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位(A)を構成単位として有する重合体(B)を含む。第2の樹脂層3は、重合により重合体(B)の構成単位である上記単位(A)となる単量体(E)と、重合開始剤とを含む重合硬化性組成物(C)の重合硬化体からなる層である。これ以降、「複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位」を単に「不飽和単量体単位」という。
【0017】
[第1の樹脂層]
第1の樹脂層の構成は、固有複屈折が正である限り特に限定されず、例えば、当該層が含む重合体は特に限定されない。
【0018】
第1の樹脂層は、例えば、(メタ)アクリル重合体(D)、シクロオレフィン重合体およびセルロース誘導体から選ばれる少なくとも1種を含む。これらの重合体を含む第1の樹脂層における複屈折の波長分散性は、不飽和単量体単位(A)を構成単位として有する重合体(B)を含む第2の樹脂層における複屈折の波長分散性に比べて非常に小さい。このため、第1の樹脂層が(メタ)アクリル重合体(D)、シクロオレフィン重合体およびセルロース誘導体から選ばれる少なくとも1種の重合体を含む場合、第1および第2の樹脂層間における複屈折の波長分散性の差がより大きくなり、本発明の光学部材における逆波長分散性の制御の自由度がより向上する。
【0019】
(メタ)アクリル重合体(D)は、(メタ)アクリル酸エステル単位を、全構成単位の50モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上有する重合体である。(メタ)アクリル酸エステル単位の誘導体である環構造をさらに含む重合体の場合、(メタ)アクリル酸エステル単位および環構造の合計が全構成単位の50モル%以上であれば、(メタ)アクリル重合体である。
【0020】
シクロオレフィン重合体は、シクロオレフィン単位を、全構成単位の50モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上有する重合体である。
【0021】
セルロース誘導体は、トリアセチルセルロース(TAC)単位、セルロースアセテートプロピオネート単位、セルロースアセテートブチレート単位、セルロースアセテートフタレート単位などの繰り返し単位を、全構成単位の50モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上有する重合体である。
【0022】
第1の樹脂層は、(メタ)アクリル重合体(D)を含むことが好ましい。(メタ)アクリル重合体は、透明度が高く、表面強度などの機械的特性に優れる。このため、第1の樹脂層が(メタ)アクリル重合体を含む場合、本発明の光学部材は、液晶表示装置(LCD)などの画像表示装置への使用に好適である。
【0023】
第1の樹脂層が(メタ)アクリル重合体(D)を含む場合、当該層における重合体(D)の含有率は、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましい。
【0024】
(メタ)アクリル重合体(D)、シクロオレフィン重合体およびセルロース誘導体自身は、必ずしも正の固有複屈折を有さなくてもよいが、第1の樹脂層の固有複屈折が正である必要があることから、正の固有複屈折を有することが好ましい。重合体の固有複屈折の正負は、分子鎖が一軸配向した当該重合体からなる層(例えば、シートあるいはフィルム)において、当該層の主面に垂直に入射した光のうち、当該層における分子鎖が配向する方向(配向軸)に平行な振動成分に対する層の屈折率n3から、配向軸に垂直な振動成分に対する層の屈折率n4を引いた値「n3−n4」に基づいて判断できる。固有複屈折の値は、重合体の分子構造に基づく計算により求めることができる。樹脂層における固有複屈折の正負は、当該層に含まれる各重合体に由来して生じる複屈折の兼ね合いにより決定される。
【0025】
第1の樹脂層では、当該層に含まれる重合体の配向により複屈折が生じる。この観点からは、第1の樹脂層は、当該重合体または当該重合体を含む樹脂(樹脂組成物)に配向を与えて形成した層である。重合体または重合体を含む樹脂に配向を与えるには、所定の形状(例えばシート、フィルム)に成形した重合体または樹脂を延伸すればよい。即ち、第1の樹脂層は延伸樹脂層である。
【0026】
(メタ)アクリル重合体(D)は、主鎖に環構造を有することが好ましい。主鎖に環構造を有する重合体とすることにより、第1の樹脂層の耐熱性が向上し、光学部材の耐熱性が向上する。耐熱性が向上した光学部材は、例えば画像表示装置において、光源などの発熱部に近接した配置が可能となる。また、耐熱性の向上によって、後加工時、例えばコーティングなどの表面処理時、の加工温度を上げられるため、光学部材の生産性が高くなる。
【0027】
(メタ)アクリル重合体(D)が主鎖に有していてもよい環構造(以下、環構造)は特に限定されず、例えば、エステル基、イミド基または酸無水物基を有する環構造である。
【0028】
より具体的には、環構造は、ラクトン環構造、グルタルイミド構造または無水グルタル酸構造である。これらの環構造を主鎖に有する(メタ)アクリル重合体(D)は、配向によって大きな正の固有複屈折を示すため、当該重合体の含有により、第1の樹脂層の固有複屈折は正に大きくなる。第1の樹脂層の固有複屈折が正に大きくなると、本発明の光学部材における逆波長分散性の制御の自由度がより高くなり、例えば、用途に応じた良好な逆波長分散性の実現が可能となる。
【0029】
環構造は、ラクトン環構造および/またはグルタルイミド構造が好ましく、ラクトン環構造がより好ましい。これらの環構造、特にラクトン環構造を主鎖に有する重合体(D)は、配向によって生じる複屈折の波長分散性が特に小さい。このため、当該重合体の含有により、第1の樹脂層が示す複屈折の波長分散性がさらに小さくなる。これに対して、不飽和単量体単位(A)を構成単位として有する重合体(B)を含む第2の樹脂層が示す複屈折の波長分散性は非常に大きい。このような第1および第2の樹脂層を組み合わせることにより、本発明の光学部材における逆波長分散性の制御の自由度はさらに高くなる。
【0030】
重合体(D)が有していてもよいラクトン環構造は特に限定されず、例えば、以下の式(1)に示す構造である。
【0031】
【化1】

【0032】
式(1)のR1、R2およびR3は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の範囲の有機残基である。当該有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。
【0033】
有機残基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基などの炭素数が1〜20の範囲のアルキル基;エテニル基、プロペニル基などの炭素数が1〜20の範囲の不飽和脂肪族炭化水素基;フェニル基、ナフチル基などの炭素数が1〜20の範囲の芳香族炭化水素基;上記アルキル基、上記不飽和脂肪族炭化水素基または上記芳香族炭化水素基における水素原子の1つ以上が、水酸基、カルボキシル基、エーテル基およびエステル基から選ばれる少なくとも1種の基により置換された基;である。
【0034】
式(1)に示すラクトン環構造は、例えば、メタクリル酸メチル(MMA)と2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)とを含む単量体群を共重合した後、得られた共重合体における隣り合ったMMA単位とMHMA単位とを脱アルコール環化縮合させて形成できる。このとき、R1はH、R2はCH3、R3はCH3である。
【0035】
重合体(D)が有していてもよいグルタルイミド構造は、以下の式(2)に示す環構造である。グルタルイミド構造は、例えば、(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体群を重合した後、得られた重合体をメチルアミンなどのイミド化剤によりイミド化して形成できる。
【0036】
【化2】

【0037】
式(2)のR4、R5およびR6は、互いに独立して、水素原子または式(1)における有機残基として例示した基である。
【0038】
重合体(D)が有していてもよい無水グルタル酸構造は、以下の式(3)に示す環構造である。無水グルタル酸構造は、例えば、(メタ)アクリル酸エステルと(メタ)アクリル酸とを含む単量体群を共重合した後、得られた共重合体を分子内で脱アルコール環化縮合させて形成できる。
【0039】
【化3】

【0040】
式(3)のR7およびR8は、互いに独立して、水素原子または式(1)における有機残基として例示した基である。
【0041】
なお、式(1)〜(3)の説明において例示した、環構造を形成する各方法では、環構造の形成に用いる重合体は全て(メタ)アクリル重合体であり、形成される環構造は全て(メタ)アクリル酸エステル単位の誘導体である。
【0042】
重合体(D)が主鎖に環構造を有する場合、重合体(D)における環構造の含有率は特に限定されないが、通常5〜90質量%であり、20〜90質量%が好ましい。当該含有率は、30〜90質量%、35〜90質量%、40〜80質量%および45〜75質量%になるほど、さらに好ましい。環構造の含有率は、特開2001-151814号公報に記載の方法により求めることができる。
【0043】
重合体(D)は、(メタ)アクリル酸エステル単位およびその誘導体である環構造以外の構成単位を含んでいてもよい。
【0044】
重合体(D)は、公知の方法により製造できる。
【0045】
例えば、環構造としてラクトン環構造を有する重合体(D)は、分子鎖内に水酸基とエステル基とを有する重合体(d)を触媒存在下で加熱し、脱アルコールを伴うラクトン環化縮合反応を進行させて得ることができる。
【0046】
重合体(d)は、例えば、以下の式(4)に示す単量体を含む単量体群の重合により形成できる。
【0047】
【化4】

【0048】
式(4)のR9およびR10は、互いに独立して、水素原子または式(1)における有機残基として例示した基である。
【0049】
式(4)に示す単量体は、例えば、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸ノルマルブチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸t−ブチルである。なかでも2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルが好ましく、高い透明性および耐熱性を有する光学部材が得られることから、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)が特に好ましい。なお、ここに例示した(メタ)アクリル酸エステル単量体の重合により形成される構成単位は、環化により、当該単位を有する重合体に対して正の固有複屈折を与える作用を有する。
【0050】
重合体(d)の形成に用いる単量体群は、式(4)に示す単量体を2種以上含んでもよい。
【0051】
重合体(d)の形成に用いる単量体群は、式(4)に示す単量体以外の単量体を含んでもよい。このような単量体は、式(4)に示す単量体と共重合できる単量体である限り特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸ならびに式(4)に示す単量体以外の(メタ)アクリル酸エステルである。
【0052】
このような(メタ)アクリル酸および(メタ)アクリル酸エステルは、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などの(メタ)アクリル酸;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸カルバゾイルエチル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ナフチル、アクリル酸アントラセニル、アクリル酸イソボルニルなどのアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸カルバゾイルエチル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ナフチル、メタクリル酸アントラセニル、メタクリル酸イソボルニルなどのメタクリル酸エステル;である。なかでも、高い透明性および耐熱性を有する光学部材が得られることから、メタクリル酸メチル(MMA)が特に好ましい。
【0053】
重合体(d)の形成に用いる単量体群は、これらの(メタ)アクリル酸および/または(メタ)アクリル酸エステルを2種以上含んでもよい。
【0054】
第1の樹脂層は、必要に応じて、紫外線吸収剤、酸化防止剤、位相差調整剤、フィラーなどの添加剤を含むことができる。
【0055】
[第2の樹脂層]
第2の樹脂層の構成は、(1)不飽和単量体単位(A)を構成単位として有する重合体(B)を含み、(2)当該樹脂層の固有複屈折が負であり、(3)重合により重合体(B)の構成単位である不飽和単量体単位(A)となる単量体(E)と、重合開始剤とを含む重合硬化性組成物(C)の重合硬化体からなる層である限り、特に限定されない。
【0056】
不飽和単量体単位(A)は、当該単位を構成単位として有する重合体(B)の複屈折の波長分散性を大きく増加させる作用を有する。このため、重合体(B)を含む第2の樹脂層が示す複屈折の波長分散性は非常に大きい。このような第2の樹脂層と、第1の樹脂層、特に(メタ)アクリル重合体(D)、シクロオレフィン重合体およびセルロース誘導体から選ばれる少なくとも1種の重合体を含む樹脂層、との積層構造を有することにより、本発明の光学部材では、逆波長分散性の制御の自由度をはじめとする光学的な設計の自由度が高くなる。
【0057】
第2の樹脂層では、当該層に含まれる重合体(B)の配向により複屈折が生じる。この観点からは、第2の樹脂層は、重合硬化性組成物(C)の重合硬化体からなる樹脂層であって重合体(B)を含む樹脂層に配向を与えて形成した層である。換言すれば、第2の樹脂層は、重合硬化性組成物(C)を重合させて得た樹脂層であって重合体(B)を含む樹脂層に配向を与えて形成した層である。当該樹脂層に配向を与えるには、所定の形状(例えば、シート、フィルム)に成形した樹脂層を延伸すればよい。さらに換言すれば、第2の樹脂層は、重合硬化性組成物(C)を重合させた後に延伸して得た、重合体(B)を含む延伸樹脂層である。
【0058】
なお、特許文献4(特開2001-337222号公報)に例示されている重合体の組み合わせに基づいて第1および第2の樹脂層を形成したとしても(第1の樹脂層をポリノルボルネンにより形成し、第2の樹脂層をスチレン系重合体により形成したとしても)、それぞれの層が示す複屈折の波長分散性の差がそれほど大きくないために、本発明のような高い光学的設計の自由度が得られない。
【0059】
ところで、芳香環は、当該環を含む重合体の光弾性係数を増大させる。重合体(B)が有する不飽和単量体単位(A)は複素芳香族基を有するが、当該単位に由来して生じる複屈折の波長分散性が大きいため、本発明の光学部材は、光弾性係数の増大が抑制された光学部材となる。重合体(B)の全構成単位に占める不飽和単量体単位(A)の割合(重合体(B)における不飽和単量体単位(A)の含有率)が低い場合にも、重合体(B)は大きな複屈折の波長分散性を示し、逆波長分散性の制御の自由度をはじめとする光学的な設計の自由度が高い光学部材が得られるからである。光弾性係数の増大が抑制された本発明の光学部材は、画像表示装置への使用に好適である。
【0060】
重合体(B)自身は、必ずしも負の固有複屈折を有さなくてもよいが、第2の樹脂層の固有複屈折が負である必要があることから、負の固有複屈折を有することが好ましい。
【0061】
重合体(B)は、構成単位として不飽和単量体単位(A)のみを含むホモポリマーであってもよい。しかし、不飽和単量体単位(A)の含有率が低い場合においても、重合体(B)における複屈折の波長分散性を大きくできるとともに、その固有複屈折を負にできること、ならびに不飽和単量体単位(A)の含有率が高くなるほど光弾性係数が増大し、また、製造コストも増大することを考慮すると、重合体(B)は、不飽和単量体単位(A)以外の構成単位を含む共重合体であることが好ましい。
【0062】
不飽和単量体単位(A)以外の構成単位は、例えば、(メタ)アクリル酸エステル単位である。この場合、重合体(B)は、重合により不飽和単量体単位(A)となる単量体(E)(典型的には、複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体)と、(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体である。これ以降、「複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体」を単に「不飽和単量体」という。
【0063】
重合体(B)は、(メタ)アクリル酸エステル単位の誘導体である上述した環構造を主鎖に有していてもよく、この場合、第2の樹脂層の耐熱性が向上し、光学部材の耐熱性が向上する。重合体(B)が主鎖に環構造を有するとともに、第1の樹脂層が主鎖に環構造を有する重合体を含む場合、光学部材の耐熱性がさらに向上し、当該部材のガラス転移温度(Tg)は、例えば110℃以上となる。環構造の種類、各重合体における環構造の含有率ならびに各層における環構造の含有率によっては、光学部材のTgを、120℃以上さらには130℃以上とすることが可能である。Tgは、JIS K7121に準拠して求めることができる。
【0064】
重合体(B)が不飽和単量体単位(A)以外の構成単位を有する共重合体である場合、重合体(B)における不飽和単量体単位(A)の含有率は、例えば、5〜50質量%であり、好ましくは10〜45質量%、さらに好ましくは20〜40質量%である。
【0065】
重合体(B)における不飽和単量体単位(A)の含有率は、公知の手法、例えば1H核磁気共鳴(1H−NMR)あるいは赤外線分光分析(IR)により求めることができる。その他の重合体における構成単位の含有率ならびに各樹脂層における重合体の含有率についても、同じ手法により求めることができる。
【0066】
不飽和単量体単位(A)は限定されない。複素芳香族基におけるヘテロ原子は、例えば、酸素原子、硫黄原子、窒素原子である。なかでも、重合体(B)における複屈折の波長分散性を増大させる作用が強いことから、窒素原子が好ましい。
【0067】
不飽和単量体単位は、例えば、ビニルカルバゾール単位、ビニルピリジン単位、ビニルイミダゾール単位およびビニルチオフェン単位から選ばれる少なくとも1種である。なかでも、重合体(B)における複屈折の波長分散性を増大させる作用が強いことから、ビニルカルバゾール単位およびビニルピリジン単位から選ばれる少なくとも1種が好ましく、ビニルカルバゾール単位がより好ましい。
【0068】
ビニルカルバゾール単位を、以下の式(5)に示す。なお、式(5)に示す環上の水素原子の一部が、式(1)における有機残基として例示した基により置換されていてもよい。
【0069】
【化5】

【0070】
重合体(B)は、重合により不飽和単量体単位(A)となる単量体(E)(典型的には不飽和単量体)と、重合開始剤とを含む重合硬化性組成物(C)の重合により形成される。不飽和単量体は、例えば、ビニルカルバゾール、ビニルピリジン、ビニルイミダゾールおよびビニルチオフェンから選ばれる少なくとも1種であり、ビニルカルバゾールおよびビニルピリジンから選ばれる少なくとも1種が好ましく、ビニルカルバゾールがより好ましい。ビニルカルバゾール単量体を、以下の式(6)に示す。
【0071】
【化6】

【0072】
式(6)に示す環上の水素原子の一部は、式(1)における有機残基として例示した基により置換されていてもよい。
【0073】
不飽和単量体単位(A)以外の構成単位(例えば、(メタ)アクリル酸エステル単位)を有する共重合体である重合体(B)は、重合により当該構成単位となる単量体(例えば、(メタ)アクリル酸エステル)をさらに含む重合硬化性組成物(C)の重合により形成される。また、主鎖に環構造を有する重合体(B)は、例えば、重合後に主鎖となる位置に環構造を有する単量体をさらに含む重合硬化性組成物(C)の重合により、あるいは重合後に環化反応を進行させることにより、主鎖の位置に環構造が形成される単量体をさらに含む重合硬化性組成物(C)の重合により、形成される。
【0074】
重合硬化性組成物(C)は、単量体(E)以外の単量体を含んでいてもよい。当該単量体は、単量体(E)と共重合可能な単量体であることが好ましい。硬化性組成物(C)が単量体(E)と共重合しない単量体を含み、当該単量体の重合により形成された重合体と、不飽和単量体単位(A)を構成単位として有する重合体(B)とが含まれる第2の樹脂層とすることも可能であるが、この場合、双方の重合体間の相溶性が低く、第2の樹脂層の透明性が確保できないことが多い。重合硬化性組成物(C)が単量体(E)以外に単量体を含む場合、当該単量体が単量体(E)と共重合可能であると、第2の樹脂層全体にわたる均一なポリマー組成の実現が可能となり、第2の樹脂層の透明性の確保が容易となる。単量体(E)と共重合可能な単量体は、例えば、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸であり、具体的には上記例示した(メタ)アクリル酸エステル単量体、(メタ)アクリル酸単量体である。単量体(E)と共重合可能な単量体は、芳香族ビニル化合物、ビニルラクタム化合物などであってもよい。重合硬化性組成物(C)が(メタ)アクリル酸エステルをさらに含む場合、当該組成物の重合により形成された第2の樹脂層は、不飽和単量体単位(A)と(メタ)アクリル酸エステル単位とを構成単位として有する重合体(B)を含む。
【0075】
重合硬化性組成物(C)は、当該組成物の重合により形成された第2の樹脂層の固有複屈折が負となる限り、重合体を含んでいてもよい。当該重合体は、例えば、ポリビニルピロリドン、スチレン−アクリロニトリル共重合体である。ただし、この場合、当該重合体と、重合硬化性組成物(C)の重合時に形成される重合体(B)との相溶性が高くなければ第2の樹脂層の透明性が損なわれるため、重合硬化性組成物(C)の組成範囲が限定される。このため、重合硬化性組成物(C)は重合体を含まないことが好ましい。なお、重合硬化性組成物(C)は、不飽和単量体単位(A)を構成単位として有する重合体を含んでいてもよく、この場合、重合硬化性組成物(C)の重合時に形成される重合体(B)との相溶性改善が期待される。しかし、光学部材として十分な透明性を確保できる組成物(C)の組成が依然として限定されることには変わりなく、また、不飽和単量体単位(A)を構成単位として有する重合体を予め重合硬化性組成物(C)に加えるよりも、重合硬化性組成物(C)の組成を調整する方が、幅広い組成範囲において第2の樹脂層の透明性を確保でき、コスト的にも有利であるため、重合硬化性組成物(C)が重合体を含まないことが好ましい。
【0076】
重合硬化性組成物(C)における単量体(E)の含有率は、得たい重合体(B)ならびに得たい第2の樹脂層の組成に応じて調整すればよい。
【0077】
重合硬化性組成物(C)は、無溶剤型の重合硬化性組成物であることが好ましい。この場合、溶剤除去工程が不要となり、第2の樹脂層形成が容易となる。また、残存溶剤による第2の樹脂層の可塑化を防ぐことができ、例えば、延伸後における重合体(B)の配向度をより均一にすることができる。
【0078】
重合開始剤は特に限定されず、例えば、ラジカル重合開始剤、カチオン重合開始剤、光重合開始剤であり、なかでも無溶剤型の重合硬化性組成物(C)とすることができることから光重合開始剤が好ましい。即ち、重合硬化性組成物(C)が、重合開始剤として光重合開始剤を含む、無溶剤型の重合硬化性組成物であることが好ましい。
【0079】
重合硬化性組成物(C)が光重合開始剤を含む場合、当該組成物(C)の重合により形成された第2の樹脂層は、典型的には、重合硬化性組成物(C)を紫外線および/または電子線によって光重合させて得た層である。
【0080】
光重合開始剤は、例えば、ベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、ビス−N,N−ジメチルアミノベンゾフェノン、ビス−N,N−ジエチルアミノベンゾフェノン、4−メトキシ−4′−ジメチルアミノベンゾフェノンなどのベンゾフェノン類およびそれらの塩;チオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、クロロチオキサントン、イソプロポキシクロロチオキサントンなどのチオキサントン類およびそれらの塩;エチルアントラキノン、ベンズアントラキノン、アミノアントラキノン、クロロアントラキノンなどのアントラキノン類;アセトフェノン類;ベンゾインメチルエーテルなどのベンゾインエーテル類;2,4,6−トリハロメチルトリアジン類;1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−(o−クロロフェニル)−4,5−ジフェニルイミダゾール2量体、2−(o−クロロフェニル)−4,5−ジ(m−メトキシフェニル)イミダゾール2量体、2−(o−フルオロフェニル)−4,5−フェニルイミダゾール2量体、2−(o−メトキシフェニル)−4,5−フェニルイミダゾール2量体、2−(p−メトキシフェニル)−4,5−ジフェニルイミダゾール2量体、2−ジ(p−メトキシフェニル)−5−フェニルイミダゾール2量体、2−(2,4−ジメトキシフェニル)−4,5−ジフェニルイミダゾール2量体、2,4,5−トリアリールイミダゾール2量体などのイミダゾール類;ベンジルジメチルケタール、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)ブタン−1−オン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−1−プロパノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、フェナントレンキノン、9,10−フェナンスレンキノン、メチルベンゾイン、エチルベンゾインなどのベンゾイン類;9−フェニルアクリジン、1,7−ビス(9,9′−アクリジニル)ヘプタンなどのアクリジン誘導体;ビスアシルフォスフィンオキサイド、ビスフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトンおよびこれらのエチレンオキシド類;などである。
【0081】
重合硬化性組成物(C)における重合開始剤の含有率は、0.001〜20質量%が好ましく、0.01〜15質量%がより好ましく、0.1〜10質量%がさらに好ましい。重合硬化性組成物(C)は、これらの重合開始剤を2種以上含んでいてもよい。
【0082】
重合硬化性組成物(C)は、反応性希釈剤を含んでいてもよい。反応性希釈剤は、例えば、N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニル−ε−カプロラクタム、N−ビニル−2−ピペリドン、N−ビニル−4−メチル−2−ピロリドン、N−メチル−5−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−ω−ヘプタラクタムなどのビニルラクタム化合物である。
【0083】
重合硬化性組成物(C)は、多官能モノマーおよび/または多官能オリゴマーをさらに含んでいてもよい。この場合、第2の樹脂層において、重合硬化性組成物(C)の重合時に形成された重合体の鎖同士を多官能モノマーおよび/または多官能オリゴマーが結合することで、当該重合体の配向により発現する第2の樹脂層の波長分散性が強くなる。これにより、逆波長分散性の制御の自由度をはじめとする光学的な設計の自由度がより高い光学部材が得られる。
【0084】
多官能モノマーは、例えば、ジビニルベンゼンなどのスチレン系単量体;フタル酸ジアリル、イソフタル酸ジアリル、シアヌル酸トリアリル、イソシアヌル酸トリアリルなどのアリルエステル系単量体;(メタ)アクリル酸2−ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチルなどの(メタ)アクリレート化合物;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンのエチレンオキシド付加物のトリ(メタ)アクリレート、グリセリンのエチレンオキシド付加物のモノ・ジ・トリ(メタ)アクリレート、(ジ)ペンタエリスリトールのエチレンオキシド付加物の(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物のジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、3−メチル−1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、ジメチロール−トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ペンタシクロペンタデカンジメタノールルジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテルのジ(メタ)アクリル酸付加物、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ノルボルナンジメタノールジ(メタ)アクリレート、p−メンタンー1,8−ジオールジ(メタ)アクリレート、p−メンタン−2,8−ジオールジ(メタ)アクリレート、p−メンタン−3,8−ジオールジ(メタ)アクリレート、ビシクロ[2.2.2]−オクタン−1−メチル−4−イソプロピル−5,6−ジメチロールジ(メタ)アクリレートなどの2官能(メタ)アクリレート化合物;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどの3官能以上の(メタ)アクリレート化合物((メタ)アクリル酸系誘導体);トリエチレングリコールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテルなどのビニルエーテル系単量体;トリメチロールプロパンジアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテルなどのアリルエーテル系単量体である。
【0085】
多官能オリゴマーは、例えば、ポリアルキレングリコールジアクリレート(例えば、日立化成工業社製、ファンクリルFA-P270A)、エステルアクリレート(例えば、ダイセルサイテック社製、EBECRYL884)、エポキシアクリレート(例えば、ダイセルサイテック社製、EBECRYL3700)、ウレタンアクリレート(例えば、ダイセルサイテック社製、EBECRYL230)である。なお、本明細書におけるオリゴマーとは、単量体が二個〜十個程度結合した分子量5000程度以下の物質であって、重合硬化性組成物(C)の重合時に、当該組成物(C)に含まれる単量体とともに重合可能な物質をいう。
【0086】
重合硬化性組成物(C)が多官能モノマーおよび/または多官能オリゴマーを含む場合、重合硬化性組成物(C)における多官能モノマーおよび多官能オリゴマーの含有率の合計は、20質量%以下が好ましく、0.1〜17質量%がより好ましく、0.5〜15質量%がさらに好ましい。当該含有率が過大になると、重合硬化性組成物(C)の重合により形成された重合硬化体層を、当該層に含まれる重合体の配向のために延伸する際に、当該層が破断しやすくなる。多官能モノマーおよび多官能オリゴマーの含有率は、多官能モノマーおよび多官能オリゴマーの官能基当量(官能基1個あたりの分子量)の大小に応じて調整することが好ましい。通常、官能基当量が大きいときには含有率を大きく、官能基当量が小さいときには含有率を小さく調整する。例えば、実施例2〜4で使用したネオペンチルグリコールジアクリレートの場合、重合硬化性組成物(C)における当該物質の含有率は2〜5質量%が好ましく、実施例5で使用したカプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコールジアクリレートの場合3〜10質量%が好ましく、実施例6で使用したエチレンオキサイド変性ビスフェノールAジアクリレートの場合5〜15質量%が好ましい。
【0087】
重合硬化性組成物(C)は、これら多官能モノマーおよび/または多官能オリゴマーを2種類以上含んでもよい。
【0088】
多官能モノマーおよび多官能オリゴマーの官能基数は、2または3が好ましい。官能基数が4以上になると、重合硬化性組成物(C)の重合により形成された重合硬化体層の延伸時に、当該層が破断しやすくなる。
【0089】
多官能モノマーおよび多官能オリゴマーにおける官能基間の距離は大きいことが好ましい。官能基間の距離が小さいと、重合硬化性組成物(C)の重合により形成された重合硬化体層の延伸時に、当該層が破断しやすくなる。同様の理由から、官能基の間に、アルキル鎖あるいはポリエチレンオキサイドのような比較的柔軟な構造を有する多官能モノマーおよび多官能オリゴマーが好ましい。
【0090】
これら好ましい条件を考慮すると、多官能モノマーおよび多官能オリゴマーは、ネオペンチルグリコールジアクリレート、カプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコールジアクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(例えば、サートマー社製、SR238F)、ポリエチレングリコールジアクリレート(例えば、サートマー社製、SR259、SR344、SR610)、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート(例えば、サートマー社製、SR601、SR602、CD9038)、アルコキシ化シクロヘキサンジメタノールジアクリレート(例えば、サートマー社製、CD580、CD581、CD582)、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート(例えば、サートマー社製、SR499、SR502、SR9035)が好ましい。
【0091】
第2の樹脂層は、必要に応じて、紫外線吸収剤、酸化防止剤、位相差調整剤、フィラーなどの任意の添加剤を含むことができる。
【0092】
[光学部材]
本発明の光学部材は逆波長分散性を示す。即ち、本発明の光学部材は、少なくとも可視光領域において、波長が短くなるほど複屈折(あるいは位相差もしくはリターデーション)が小さくなる光学特性を示す。このような広帯域の光学部材を用いることによって、表示特性に優れる画像表示装置を構築できる。
【0093】
本発明の光学部材が備える第1および第2の樹脂層の層数は特に限定されない。本発明の光学部材は、典型的には図1に示すように、一層の第1の樹脂層と一層の第2の樹脂層とが積層された構造を有するが、光学的な設計事項に合わせて、複数の第1または第2の樹脂層が積層された構造を有していてもよい。また、第1の樹脂層と第2の樹脂層とは必ずしも接していなくてもよく、それぞれの層の間に任意の層が配置されていてもよい。
【0094】
本発明の光学部材における第1および第2の樹脂層の積層状態(例えば、第1および第2の樹脂層の積層パターン、あるいは光学部材の表面に垂直な方向から見た、第1の樹脂層の配向軸と第2の樹脂層の配向軸とがなす角度など)は特に限定されず、光学的な設計事項に合わせて選択、調整できる。なお、第1および第2の樹脂層を、それぞれの延伸方向がほぼ一致するように積層した場合に、光学部材が示す逆波長分散性が最も強くなる。
【0095】
本発明の光学部材の固有複屈折は正であっても負であってもよく、第1および第2の樹脂層の積層状態により、正とすることも負とすることもできる。
【0096】
本発明の光学部材の具体的な形状は特に限定されない。光学部材としての用途に応じて選択すればよく、例えば、フィルムまたはシートである。第2の樹脂層の膜厚は、実用上、1〜50μmが好ましく、2〜30μmがより好ましく、5〜25μmがさらに好ましい。
【0097】
本発明の光学部材は、用途に応じて、他の光学部材と組み合わせて用いてもよい。
【0098】
本発明の光学部材は、例えば、位相差板としてもよいし、得られる位相差に基づくリターデーションを光の波長の1/4とすることで、位相差板の一種であるλ/4板としてもよい。また、本発明の光学部材を、偏光板などの他の光学部材と組み合わせて、反射防止板とすることもできる。
【0099】
本発明の光学部材の用途は特に限定されず、従来の光学部材と同様の用途(例えば、LCD、OLEDなどの画像表示装置)に使用が可能である。
【0100】
[光学部材の製造方法]
本発明の光学部材の製造方法について触れる。
【0101】
例えば、延伸により第1の樹脂層となる第1の前駆体層の表面に重合硬化性組成物(C)を塗布し、当該組成物を重合により硬化させて第2の前駆体層とし、得られた第1および第2の前駆体層の積層体を延伸することで、第1および第2の前駆体層をそれぞれ第1および第2の樹脂層として、第1および第2の樹脂層が積層した構造を有する本発明の光学部材が得られる。
【0102】
また例えば、転写基板の表面に重合硬化性組成物(C)を塗布し、当該組成物を重合により硬化させて第2の前駆体層とし、得られた第2の前駆体層を、延伸により第1の樹脂層となる第1の前駆体層の表面に転写して第1および第2の前駆体層の積層体を得る。次に、得られた積層体を延伸することで、第1および第2の前駆体層をそれぞれ第1および第2の樹脂層として、第1および第2の樹脂層が積層した構造を有する本発明の光学部材が得られる。
【0103】
また例えば、転写基板の表面に重合硬化性組成物(C)を塗布し、当該組成物を重合により硬化させて第2の前駆体層とし、得られた第2の前駆体層を転写基板ごと、あるいは転写基板から剥離した後に延伸することで、第2の前駆体層を第2の樹脂層とする。次に、得られた第2の樹脂層を第1の樹脂層の表面に転写または積層して、第1および第2の樹脂層が積層した構造を有する本発明の光学部材が得られる。得られた第2の樹脂層を、延伸により第1の樹脂層となる第1の前駆体層の表面に転写または積層した後に、全体を延伸してもよい。
【0104】
このように、本発明の光学部材の製造方法は、第1の樹脂層と第2の樹脂層との積層構造が実現されるとともに、重合硬化性組成物(C)を重合して重合硬化体層とし、これを延伸して第2の樹脂層とする方法である限り、特に限定されない。
【0105】
重合硬化性組成物(C)の塗布は、公知の方法に従えばよい。
【0106】
重合硬化性組成物(C)の重合は、当該組成物に含まれる重合開始剤の種類に応じて、当該組成物を適切な環境下におくことにより、進行させることができる。環化反応など、希望する第2の樹脂層を得るために重合反応以外の反応を進行させる必要があるときは、重合硬化性組成物(C)あるいはその重合物を、当該反応が進行する環境下におけばよい。重合開始剤が光重合開始剤である場合、重合硬化性組成物(C)に紫外線および/または電子線を照射すればよい。
【0107】
第1の前駆体層、第2の前駆体層ならびに両前駆体層の積層体の延伸は、公知の方法に従えばよい。延伸は、典型的には、一軸延伸または逐次二軸延伸である。延伸により、各前駆体層に含まれる重合体の分子鎖が配向することで、それぞれ第1および第2の樹脂層となる。
【0108】
第1および第2の前駆体層の積層ならびに第1および第2の樹脂層の積層は、公知の方法に従えばよく、その際、アクリル系の接着剤などにより両層を接着してもよい。
【実施例】
【0109】
以下、実施例により、本発明をより詳細に説明する。本発明は、以下に示す実施例に限定されない。
【0110】
最初に、本実施例において作製した重合体のガラス転移温度(Tg)および重量平均分子量の評価方法を示す。
【0111】
[ガラス転移温度]
重合体のTgは、JIS K7121の規定に準拠して求めた。具体的には、示差走査熱量計(リガク製、DSC-8230)を用い、窒素ガス雰囲気下、約10mgのサンプルを常温から200℃まで昇温(昇温速度20℃/分)して得られたDSC曲線から、始点法により評価した。リファレンスには、α−アルミナを用いた。
【0112】
[重量平均分子量]
重合体の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用い、以下の測定条件に従って求めた
測定システム:東ソー製GPCシステムHLC-8220
展開溶媒:クロロホルム(和光純薬工業製、特級)
溶媒流量:0.6mL/分
標準試料:TSK標準ポリスチレン(東ソー製、PS−オリゴマーキット)
測定側カラム構成:ガードカラム(東ソー製、TSK guardcolumn SuperHZ-L)、分離カラム(東ソー製、TSK Gel Super HZM-M)、2本直列接続
リファレンス側カラム構成:リファレンスカラム(東ソー製、TSK gel SuperH-RC)。
【0113】
(製造例1)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応装置に、15質量部の2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)、26質量部のメタクリル酸メチル(MMA)、9質量部のメタクリル酸ノルマルブチル(BMA)および重合溶媒として50質量部のトルエンを仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤として0.03質量部のt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富社製、商品名:ルペロックス570)を添加するとともに、3.34質量部のトルエンに上記t−アミルパーオキシイソノナノエート0.06質量部を溶解した溶液を2時間かけて滴下しながら、約105〜110℃の還流下で溶液重合を進行させ、さらに4時間の熟成を行った。
【0114】
次に、得られた重合溶液に、環化縮合反応の触媒(環化触媒)として、0.1質量部のリン酸オクチル/ジオクチル混合物を加え、約80〜105℃の還流下において2時間、環化縮合反応を進行させた。
【0115】
次に、このようにして得た重合溶液を、減圧下240℃で1時間乾燥させて、主鎖にラクトン環構造を有する透明な(メタ)アクリル重合体(D−1)を得た。得られた重合体(D−1)の重量平均分子量は14万、Tgは123℃であった。
【0116】
(製造例2)
メタクリル酸メチルを30質量部、メタクリル酸ノルマルブチルを5質量部とした以外は、製造例1と同様にして、主鎖にラクトン環構造を有する透明な(メタ)アクリル重合体(D−2)を得た。得られた重合体(D−2)の重量平均分子量は13万、Tgは129℃であった。
【0117】
(実施例1)
製造例1で作製した重合体(D−1)を、プレス成形機により250℃でプレス成形して厚さ約264μmのフィルムとした(フィルムの厚さは、ミツトヨ社製デジマチックマイクロメーターにより評価した。以降に示すフィルムの厚さについても同様である)。次に、作製したフィルムを、二軸延伸装置(東洋精機製作所社製TYPE EX4、以降の実施例、比較例においても同じ)により、MD(長手)方向の延伸倍率が2.0倍となるように、延伸温度132℃で固定端一軸延伸して、厚さ約130μmの延伸フィルム(F−D1)を得た。
【0118】
これとは別に、N−ビニルカルバゾール35質量部、アクリル酸イソボルニル65質量部、および光重合開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバ・ジャパン社製、イルガキュア184D)3質量部を混合して、無溶剤型の重合硬化性組成物(C−1)を得た。
【0119】
次に、作製した延伸フィルム(F−D1)の表面に、得られた重合硬化性組成物(C−1)を塗布膜厚が26μmとなるようにバーコーターにより塗布した。次に、窒素雰囲気下において組成物(C−1)に紫外線を照射し、組成物(C−1)を光重合させて、延伸フィルム(F−D1)と、重合硬化性組成物(C−1)の重合硬化層とが積層された積層フィルムを得た。紫外線の照射には、ウシオ電機社製紫外線照射装置を用いた。紫外線のう照射方法は、以降の実施例においても同様である。
【0120】
次に、得られた積層フィルムを、二軸延伸装置により、TD(幅手)方向の延伸倍率が2.2倍となるように、延伸温度132℃で固定端一軸延伸して、重合体(D−1)を含む第1の樹脂層と、不飽和単量体単位(A)としてN−ビニルカルバゾール単位を有する重合体を含む第2の樹脂層との積層構造を有する積層フィルム延伸体(厚さ約72μm)を得た。得られた延伸体における第2の樹脂層の厚さをレーザー顕微鏡で測定したところ、約12μmであった。
【0121】
(実施例2)
製造例2で作製した重合体(D−2)を、プレス成形機により250℃でプレス成形して厚さ約199μmのフィルムとした。次に、作製したフィルムを、二軸延伸装置により、MD(長手)方向の延伸倍率が1.4倍となるように、延伸温度132℃で自由端一軸延伸して、厚さ約168μmの延伸フィルム(F−D2)を得た。
【0122】
これとは別に、N−ビニルカルバゾール30質量部、アクリル酸イソボルニル65質量部、多官能単量体としてネオペンチルグリコールジアクリレート(サートマー社製、SR247)5質量部、ならびに光重合開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン6質量部および2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モリフォリノプロパン−1−オン(チバ・ジャパン社製、イルガキュア907)3質量部を混合して、無溶剤型の重合硬化性組成物(C−2)を得た。
【0123】
次に、作製した延伸フィルム(F−D2)の表面に、得られた重合硬化性組成物(C−2)を塗布膜厚が26μmとなるようにバーコーターにより塗布した。次に、窒素雰囲気下において組成物(C−2)に紫外線を照射し、組成物(C−2)を光重合させて、延伸フィルム(F−D2)と、重合硬化性組成物(C−2)の重合硬化層とが積層された積層フィルムを得た。
【0124】
次に、得られた積層フィルムを、二軸延伸装置により、TD(幅手)方向の延伸倍率が2.0倍となるように、延伸温度132℃で固定端一軸延伸して、重合体(D−2)を含む第1の樹脂層と、不飽和単量体(A)としてN−ビニルカルバゾール単位を有する重合体を含む第2の樹脂層との積層構造を有する積層フィルム延伸体(厚さ約93μm)を得た。得られた延伸体における第2の樹脂層の厚さをレーザー顕微鏡で測定したところ、約13μmであった。
【0125】
(実施例3)
製造例2で作製した重合体(D−2)を、プレス成形機により250℃でプレス成形して厚さ約199μmのフィルムとした。次に、作製したフィルムを、二軸延伸装置により、MD(長手)方向の延伸倍率が1.7倍となるように、延伸温度132℃で自由端一軸延伸して、厚さ約152μmの延伸フィルム(F−D3)を得た。
【0126】
これとは別に、N−ビニルカルバゾール20質量部、アクリル酸イソボルニル77質量部、多官能単量体としてネオペンチルグリコールジアクリレート(サートマー社製、SR247)3質量部、ならびに光重合開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン6質量部および2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モリフォリノプロパン−1−オン(チバ・ジャパン社製、イルガキュア907)3質量部を混合して、無溶剤型の硬化性組成物(C−3)を得た。
【0127】
次に、作製した延伸フィルム(F−D3)の表面に、得られた重合硬化性組成物(C−3)を塗布膜厚が51μmとなるようにバーコーターにより塗布した。次に、窒素雰囲気下において組成物(C−3)に紫外線を照射し、組成物(C−3)を光重合させて、延伸フィルム(F−D3)と、重合硬化性組成物(C−3)の重合硬化層とが積層された積層フィルムを得た。
【0128】
次に、得られた積層フィルムを、二軸延伸装置により、TD(幅手)方向の延伸倍率が2.3倍となるように、延伸温度132℃で固定端一軸延伸して、重合体(D−3)を含む第1の樹脂層と、不飽和単量体(A)としてN−ビニルカルバゾール単位を有する重合体を含む第2の樹脂層との積層構造を有する積層フィルム延伸体(厚さ約88μm)を得た。得られた延伸体における第2の樹脂層の厚さをレーザー顕微鏡で測定したところ、約22μmであった。
【0129】
(実施例4)
実施例3で作製した延伸フィルム(F−D3)の表面に、実施例3で作製した重合硬化性組成物(C−3)を塗布膜厚が39μmとなるようにバーコーターにより塗布した。次に、窒素雰囲気下において組成物(C−3)に紫外線を照射し、組成物(C−3)を光重合させて、延伸フィルム(F−D3)と、重合硬化性組成物(C−3)の重合硬化層とが積層された積層フィルムを得た。
【0130】
次に、得られた積層フィルムを、二軸延伸装置により、TD(幅手)方向の延伸倍率が2.3倍となるように、延伸温度137℃で固定端一軸延伸して、重合体(D−3)を含む第1の樹脂層と、不飽和単量体(A)としてN−ビニルカルバゾール単位を有する重合体を含む第2の樹脂層との積層構造を有する積層フィルム延伸体(厚さ約83μm)を得た。得られた延伸体における第2の樹脂層の厚さをレーザー顕微鏡で測定したところ、約17μmであった。
【0131】
実施例1〜4で得られた積層フィルム延伸体における位相差(面内位相差)の波長分散性を、全自動複屈折計(王子計測機器社製、KOBRA−WR)を用いて評価した。評価結果を、以下の表1に示す。なお、表1ならびに以降の実施例、比較例に対応する各表では、測定波長を590nmとしたときの位相差を基準(R0)として、その他の波長における位相差RとR0との比(R/R0)を併せて示す。
【0132】
【表1】

【0133】
表1に示すように、実施例1から4で作製した積層フィルム延伸体は、光の波長が短くなるほど位相差が小さくなる逆波長分散性を示した。
【0134】
(比較例1)
実施例1で作製した延伸フィルム(F−D1)を、TD(幅手)方向の延伸倍率が2.2倍となるように、延伸温度132℃で固定端一軸延伸して、厚さ約60μmの2軸延伸フィルム(F−E1)を得た。
【0135】
(比較例2)
実施例2で作製した延伸フィルム(F−D2)を、TD(幅手)方向の延伸倍率が2.0倍となるように、延伸温度132℃で固定端一軸延伸して、厚さ約80μmの2軸延伸フィルム(F−E2)を得た。
【0136】
(比較例3)
実施例3で作製した延伸フィルム(F−D3)を、TD(幅手)方向の延伸倍率が2.3倍となるように、延伸温度132℃で固定端一軸延伸して、厚さ約66μmの2軸延伸フィルム(F−E3)を得た。
【0137】
(比較例4)
実施例3で作製した延伸フィルム(F−D3)を、TD(幅手)方向の延伸倍率が2.3倍となるように、延伸温度137℃で固定端一軸延伸して、厚さ約66μmの2軸延伸フィルム(F−E4)を得た。
【0138】
比較例1〜4で得られた2軸延伸フィルムにおける位相差(面内位相差)の波長分散性を、実施例1〜4と同様に評価した。評価結果を、以下の表2に示す。
【0139】
【表2】

【0140】
表2に示すように、比較例1で作製した2軸延伸フィルム(F−E1)は、光の波長が変化しても位相差がほぼ変化しないフラットな波長分散性を示し、比較例2〜4で作製した2軸延伸フィルムは、光の波長が短くなるほど位相差が大きくなる順波長分散性を示した。
【0141】
(実施例5)
製造例1で作製した重合体(D−1)を、プレス成形機により250℃でプレス成形して厚さ約235μmのフィルムとした。次に、作製したフィルムを、二軸延伸装置により、MD(長手)方向の延伸倍率が2.1倍となるように、延伸温度140℃で自由端一軸延伸して、厚さ約112μmの延伸フィルム(F−D4)を得た。
【0142】
これとは別に、N−ビニルカルバゾール30質量部、アクリル酸イソボルニル65質量部、多官能単量体としてカプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコールジアクリレート(日本化薬社製、KAYARAD HX-620)5質量部、ならびに光重合開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン6質量部および2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モリフォリノプロパン−1−オン(チバ・ジャパン社製、イルガキュア907)3質量部を混合して、無溶剤型の硬化性組成物(C−4)を得た。
【0143】
次に、作製した延伸フィルム(F−D4)の表面に、得られた重合硬化性組成物(C−4)を塗布膜厚が43μmとなるようにバーコーターにより塗布した。次に、窒素雰囲気下において組成物(C−4)に紫外線を照射し、組成物(C−4)を光重合させて、延伸フィルム(F−D4)と、重合硬化性組成物(C−4)の重合硬化層とが積層された積層フィルムを得た。
【0144】
次に、得られた積層フィルムを、二軸延伸装置により、TD(幅手)方向の延伸倍率が2.0倍となるように、延伸温度126℃で固定端一軸延伸して、重合体(D−1)を含む第1の樹脂層と、不飽和単量体(A)としてN−ビニルカルバゾール単位を有する重合体を含む第2の樹脂層との積層構造を有する積層フィルム延伸体(厚さ約80μm)を得た。得られた延伸体における第2の樹脂層の厚さをレーザー顕微鏡で測定したところ、約22μmであった。
【0145】
(実施例6)
N−ビニルカルバゾール25質量部、アクリル酸イソボルニル67質量部、多官能単量体としてエチレンオキサイド変性ビスフェノールAジアクリレート(第一工業製薬社製、ニューフロンティアBPE-20)8質量部、ならびに光重合開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン6質量部および2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モリフォリノプロパン−1−オン(チバ・ジャパン社製、イルガキュア907)3質量部を混合して、無溶剤型の硬化性組成物(C−5)を得た。
【0146】
次に、実施例5で作製した延伸フィルム(F−D4)の表面に、得られた重合硬化性組成物(C−5)を塗布膜厚が38μmとなるようにバーコーターにより塗布した。次に、窒素雰囲気下において組成物(C−5)に紫外線を照射し、組成物(C−5)を光重合させて、延伸フィルム(F−D4)と、重合硬化性組成物(C−5)の重合硬化層とが積層された積層フィルムを得た。
【0147】
次に、得られた積層フィルムを、二軸延伸装置により、TD(幅手)方向の延伸倍率が2.0倍となるように、延伸温度126℃で固定端一軸延伸して、重合体(D−1)を含む第1の樹脂層と、不飽和単量体(A)としてN−ビニルカルバゾール単位を有する重合体を含む第2の樹脂層との積層構造を有する積層フィルム延伸体(厚さ約77μm)を得た。得られた延伸体における第2の樹脂層の厚さをレーザー顕微鏡で測定したところ、約19μmであった。
【0148】
(比較例5)
実施例5で作製した延伸フィルム(F−D4)を、TD(幅手)方向の延伸倍率が2.0倍となるように、延伸温度126℃で固定端一軸延伸して、厚さ約58μmの2軸延伸フィルム(F−E5)を得た。
【0149】
実施例5、6で得られた積層フィルム延伸体ならびに比較例5で得られた2軸延伸フィルムにおける位相差(面内位相差)の波長分散性を、実施例1〜4と同様に評価した。評価結果を、以下の表3に示す。
【0150】
【表3】

【0151】
表3に示すように、実施例5、6で作製した積層フィルム延伸体は、光の波長が短くなるほど位相差が小さくなる逆波長分散性を示した。一方、比較例5で作製した2軸延伸フィルムは、光の波長が短くなるほど位相差が大きくなる順波長分散性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0152】
本発明の光学部材は、従来の複屈折性を有する光学部材と同様に、液晶表示装置(LCD)、有機ELディスプレイ(OLED)をはじめとする画像表示装置に広く使用でき、本発明の光学部材の使用により、画像表示装置の表示特性を向上できる。
【符号の説明】
【0153】
1 光学部材
2 第1の樹脂層
3 第2の樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固有複屈折が正である第1の樹脂層と、
複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位(A)を構成単位として有する重合体(B)を含み、固有複屈折が負である第2の樹脂層と、を含む積層構造を有し、
前記第2の樹脂層は、
重合により前記重合体(B)の構成単位である前記単位(A)となる単量体と、重合開始剤と、を含む重合硬化性組成物(C)の重合硬化体からなる層であり、
少なくとも可視光領域において、波長が短くなるほど複屈折が小さくなる波長分散性を示す光学部材。
【請求項2】
前記重合硬化性組成物(C)が、無溶剤型の重合硬化性組成物である請求項1に記載の光学部材。
【請求項3】
前記重合硬化性組成物(C)が、前記重合開始剤として光重合開始剤を含む請求項1に記載の光学部材。
【請求項4】
前記重合硬化性組成物(C)が、多官能モノマーおよび/または多官能オリゴマーをさらに含む請求項1に記載の光学部材。
【請求項5】
前記第1の樹脂層が、(メタ)アクリル重合体(D)、シクロオレフィン重合体およびセルロース誘導体から選ばれる少なくとも1種を含む請求項1に記載の光学部材。
【請求項6】
前記第1の樹脂層が、(メタ)アクリル重合体(D)を含む請求項1に記載の光学部材。
【請求項7】
前記(メタ)アクリル重合体(D)が主鎖に環構造を有する請求項5または6に記載の光学部材。
【請求項8】
前記環構造が、ラクトン環構造、グルタルイミド構造または無水グルタル酸構造である請求項7に記載の光学部材。
【請求項9】
前記環構造が、以下の式(1)に示すラクトン環構造である請求項7に記載の光学部材。
【化7】

前記式(1)のR1、R2およびR3は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の有機残基である。
【請求項10】
前記α,β−不飽和単量体単位(A)が、ビニルカルバゾール単位、ビニルピリジン単位、ビニルイミダゾール単位およびビニルチオフェン単位から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の光学部材。
【請求項11】
前記α,β−不飽和単量体単位(A)が、ビニルカルバゾール単位である請求項1に記載の光学部材。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の光学部材を備える画像表示装置。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−28206(P2011−28206A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−277862(P2009−277862)
【出願日】平成21年12月7日(2009.12.7)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】