説明

光学顕微鏡システムおよびこれを用いた試料動画像生成方法

【課題】 1段階の操作で、複数の異なる観察視野にある多くの試料を位置決めして撮影できる光学顕微鏡システムを提供すること。
【解決手段】 光学顕微鏡システム100は、試料室10と、二次元移動ステージ12と、顕微鏡装置30とを備えている。試料室10は、試料Sを収容する複数のウエル1aを有するウエルプレート1を保持して二次元移動ステージ12上に載置され、二次元移動ステージ12によってX−Y方向に移動する。ステージ制御部51は、二次元移動ステージ12を制御して複数の観察範囲に及ぶ移動経路に沿って試料Sを所定の撮影位置へ移動させる。この移動経路上の移動には二次元移動ステージ12のX−Y位置データを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学顕微鏡システムおよびこれを用いた試料動画像生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生きた細胞などの生体試料を顕微鏡観察する場合、その細胞の試薬に対する反応または変化を経時的に観察することは有効な方法である。このために、特定の細胞の顕微鏡像を一定の時間間隔で複数枚撮影し、撮影終了後に、これら複数枚の顕微鏡画像を時系列に並べて動画像として観察することが行われている。この方法を発展させ、複数の顕微鏡視野範囲を選択した後に、その顕微鏡視野範囲内で顕微鏡観察をしながら複数の撮影範囲を選択し、複数の撮影範囲を位置決めして順次繰り返し撮影することにより、撮影範囲の数と同数の動画像を得る顕微鏡写真撮影装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2002−277754号公報(第2頁、図3,4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の特許文献1の技術では、顕微鏡視野範囲を選択した後に、同一の顕微鏡視野範囲内で複数の撮影範囲を選択、位置決めするので、撮影までの操作が2段階となり起動性に欠けるという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)上記問題を解決するために、請求項1に係る発明の光学顕微鏡システムは、複数の小室にそれぞれ観察試料が収容された容器を保持する保持手段と、観察試料の顕微鏡像を形成する観察手段と、観察手段により観察試料のそれぞれの顕微鏡像を形成するように、保持手段と観察手段とを相対移動する相対移動手段と、観察手段による顕微鏡像を撮像する撮像手段と、撮像手段で撮像した顕微鏡像の画像データを記憶する記憶手段と、小室の位置情報に基づいて予め定められた順番の撮影位置で観察試料のそれぞれを撮像手段により撮像するように、相対移動手段を駆動制御する制御手段と、記憶手段に記憶された観察試料のそれぞれの画像データを観察試料毎に時系列に並べることにより、観察試料のそれぞれの動画像を生成する動画像生成手段とを備えることを特徴とする。
【0006】
(2)請求項2に係る発明の光学顕微鏡システムは、請求項1の光学顕微鏡システムにおいて、各小室に観察試料が収容された容器周辺を所定の温度、湿度および炭酸ガス濃度に保持する環境制御装置をさらに備えることが好ましい。
請求項3に係る発明の光学顕微鏡システムは、請求項1または2の光学顕微鏡システムにおいて、各小室内への試薬の追加、除去、交換を行う環境変更手段をさらに備えることが好ましい。
(3)請求項4に係る発明の光学顕微鏡システムは、請求項1〜3のいずれかの光学顕微鏡システムにおいて、制御手段は、各小室の底面に形成されたマークまたは各小室の底面に存在する形態的特徴を位置情報として予め入力され、そのマークまたは形態的特徴を位置基準として所定の撮影位置を補正することが好ましい。
請求項5に係る発明の光学顕微鏡システムは、請求項1〜4のいずれかの光学顕微鏡システムにおいて、オートフォーカス機構をさらに備えていてもよい。
【0007】
(4)請求項6に係る発明の試料動画像生成方法は、複数のウエルの位置情報に基づいて予め定められた順番の撮影位置で生体試料の顕微鏡像をそれぞれ撮像し、撮像により得られた顕微鏡像の画像データを複数のウエルの位置情報とともに記憶し、所定時間経過後に、撮像工程と記憶工程とを行い、記憶されたそれぞれの画像データを複数のウエルの位置情報に基づいて生体試料毎に時系列に並べることにより、生体試料のそれぞれの動画像データを生成することを特徴とする。
請求項7に係る発明の試料動画像生成方法は、請求項6の試料動画像生成方法において、
撮像工程と記憶工程の後に、複数のウエルの1以上のウエルに対して試薬の追加或いは除去による環境変化工程をさらに行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、各々の観察視野で顕微鏡観察をしながら複数の撮影範囲を選択するという煩雑な作業をせずに、制御手段による1段階の操作で、複数の異なる観察視野にある多くの撮影対象を位置決めして撮影できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態による光学顕微鏡システムについて、図1〜6を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施の形態による光学顕微鏡システムの構成を模式的に示す全体構成図である。本実施の形態の光学顕微鏡システム100は、試料室10と、二次元移動ステージ12と、密閉容器20と、顕微鏡装置30とを備えている。密閉容器20は、試料室10、二次元移動ステージ12および顕微鏡装置30の一部分を収納する容器である。
【0010】
試料室10は、天井部分が開放面10Aで示されるように開放され、底板11には開口11Aが形成されている。培養容器1は、開口11Aを閉鎖するように底板11上に載置される。培養容器1は、例えば、図示されるようなウエルプレートであり、複数の小室(ウエル)1aを有し、各小室には、生物試料と試薬(培養液、染色液などの水溶液)が収容される。試料室10は、二次元移動ステージ12上に載置され、二次元移動ステージ12によって光軸AXと垂直な方向であるX方向とY方向に移動する。すなわち、培養容器1は、水平面に沿ってX方向とY方向に移動可能である。密閉容器20の上板21には、開口21Aが形成されており、開口21Aを開閉するためのシャッタ機構22が設けられている。
【0011】
顕微鏡装置30は、対物レンズ31、焦点調節機構32、励起光照明装置33、蛍光フィルタ装置34、第二対物レンズ35、ハーフプリズム36、撮像装置37および透過照明装置40を有する。対物レンズ31は、焦点調節機構(垂直移動ステージ)32に保持され、焦点調節機構32によって光軸AXの方向、すなわちZ方向に移動する。透過照明装置40は、密閉容器20の上方に配置され、光源41とコリメータレンズ42を有する。
【0012】
ステージ制御部51は、配線を介して二次元移動ステージ12に電気的に接続されるとともに、パーソナルコンピュータ(PC)53に接続されている。また、ステージ制御部51は、位置補正部51aを有している。オートフォーカス部52は、配線を介して焦点調節機構32に電気的に接続されるとともに、PC53に接続されている。PC53は、二次元移動ステージ12の移動経路、移動距離、移動方向などに関するデータをステージ制御部51へ送出するとともに、二次元移動ステージ12のX−Y位置データをステージ制御部51から入力して記憶する。二次元移動ステージ12の移動範囲は、顕微鏡装置30の観察視野に限らず、複数の観察視野を含む広範囲に及ぶ。また、PC53は、対物レンズ31の焦点位置データをオートフォーカス部52から入力して記憶する。
【0013】
さらに、PC53は、画像データ記憶部54と画像データ編集部55とを有する。画像データ記憶部54は、撮像装置37の撮像素子37aからの顕微鏡像の画像信号を画像データとして記憶する。画像データ編集部55は、画像データ記憶部54から画像データを入力して編集を行い、連続画像(動画像)を生成する。表示部56は、画像データ編集部55により生成された動画を表示する。なお、PC53内部で、X−Y位置データ、焦点位置データと画像データとの対応ができるようになっている。
【0014】
以下、本実施の形態の光学顕微鏡システム100を用いた顕微鏡観察、撮影および動画編集について説明する。
図2は、培養容器(ウエルプレート)1の構造を模式的に示す平面図である。ウエルプレート1は、縦8列、横12列の合計96個のウエル1aが形成された透明なプレートである。各々のウエル1aには、生物試料と試薬の少なくともいずれかが異なる観察試料(以下、試料S)が収容され、全部のウエル1aについて所定時間間隔で顕微鏡画像が撮影される。前述した二次元移動ステージ12の移動経路、移動距離、移動方向などの位置情報は、各々のウエル1aの位置に基づいてデータ化されたものである。各ウエル1a中の試料Sの撮影順については、図4で示される動画編集プロセスとの関連で後述する。なお、各々のウエル1aには、撮影位置を微調整するためのマークを予め形成しておいてもよい。
【0015】
先ず、図1を参照して、試料Sの顕微鏡観察および撮影について説明する。最初のウエル1aに収容された試料Sが所望の観察視野に入るように、すなわち所定の撮影位置に来るように、ステージ制御部51からの制御信号によって二次元移動ステージ12に載置されたウェルプレート1を所定の移動距離と移動方向でX−Y面上を移動させる。このX−Y位置データは、例えば特定のウエル1a位置を原点とする二次元座標で表わすことができる。観察視野、すなわちX−Y方向の位置において、オートフォーカス部52により焦点調節機構32を駆動して対物レンズ31をZ方向に移動させ、試料Sの顕微鏡像の焦点位置を定める。この焦点位置データは、例えば特定のウエル1a中の試料Sの位置を原点とする一次元座標で表わすことができる。
【0016】
透過像観察の場合は、透過照明装置40からの照明光は、密閉容器20の上板21の開口21Aを通ってウエル1a中の試料Sを照射する。試料Sを透過した光は、ウエルプレート1の底板を介して対物レンズ31に入射する。対物レンズ31に入射した光は、蛍光フィルタ装置34、第二対物レンズ35を通り、ハーフプリズム36で分岐する。一方の光は、ハーフプリズム36を透過して撮像装置37へ入射し、撮像素子37aの撮像面に結像する。他方の光は、ハーフプリズム36で反射し、不図示の接眼レンズへ導かれる。試料Sの顕微鏡画像データは、撮像素子37aからPC53へ送られ、画像データ記憶部54により記憶される。
【0017】
透過観察の際に、ウエル1aの観察視野内に、ウエル1aの底面に形成されたマークを認識して、このマークの位置を基準として撮影位置を微調整することができる。すなわち、観察視野内でのマークの位置データをPC53に入力しておき、この位置データを位置補正部51aに送ってX−Y位置データを補正する。二次元移動ステージ12の駆動時の機械誤差などのために、ウエル1aを最初にセットした位置と、二次元移動ステージ12を駆動した後にそのウエル1aをリセット(2回目以降のセット)した位置とでは僅かなズレが生じることがある。撮影位置を微調整することにより、所定の撮影位置に正確にウエル1aを移動させることができる。また、マークの代わりに、各ウエル1aの底面に存在するキズや凹みなどの形態的特徴を撮影位置の微調整に利用してもよい。
【0018】
別のウエル1aに収容された試料S´を観察、撮影する場合も同様に、二次元移動ステージ12によるウェルプレート1の移動と焦点調節機構32による対物レンズ31の焦点調節を行い、試料S´のX−Y位置データと焦点位置データは、PC53によって記憶される。試料S´についても焦点調節するのは、ウェルプレート1の移動や各々のウエル1a中の試料Sの状態によって焦点位置がずれることがあるからである。この焦点調節は、各々のウエル1aについて最初に1回だけ行ってもよいし、毎回行ってもよい。
【0019】
試料S´の顕微鏡画像データも、撮像素子37aからPC53へ送られ、画像データ記憶部54により記憶される。このようにして、ウェルプレート1の全部のウエル1a中の試料Sについての画像データが画像データ記憶部54により記憶される。以上の撮影と記録は、試料Sの数だけ行われ、この一連の撮影と記録は、所定の待機時間を置いて繰り返し行われる。すべての撮影と記録を終了すると、すべての顕微鏡画像データは、画像データ編集部55により編集され、動画像が生成される。画像データ編集部55による動画像生成については後に詳述する。
【0020】
蛍光像観察の場合は、励起光照明装置33から射出した照明光は、調光フィルタ33a、蛍光フィルタ装置34を通り、対物レンズ31の下方から入射する。対物レンズ31に入射した光は、ウェルプレート1の底板を透過して試料Sを照射する。この励起光によって試料Sから蛍光が発する。蛍光は、ウェルプレート1、対物レンズ31、蛍光フィルタ装置34、第二対物レンズ35を通り、ハーフプリズム36で分岐する。一方の光は、ハーフプリズム36を透過して撮像装置37へ入射し、撮像素子37aの撮像面に結像する。他方の光は、ハーフプリズム36で反射し、不図示の接眼レンズへ導かれる。試料Sの顕微鏡画像データの送出と記憶、二次元移動ステージ12の移動、焦点調節等に関しては、透過像観察でも蛍光像観察でも同様である。
【0021】
図3は、本実施の形態による光学顕微鏡システムにおける試料Sの撮影から動画編集までの過程を示すフローチャートである。今、ウエル1aの数、すなわち試料Sの数がm個、各々の試料Sについて所定時間間隔で繰り返し行われる撮影回数をn回とする。ステップS1では、最初に撮影する試料Sのウエル1aの位置を定め、ステップS2では、その試料Sを撮影し、ステップS3では、その試料Sの顕微鏡画像を記憶する。ステップS4では、すべての試料Sについて顕微鏡画像を記憶したか否かをチェックする。「否」であれば、ステップS5へ移行し、次の試料Sについて位置設定、撮影(ステップS2)、画像記憶(ステップS3)を行う。
【0022】
ステップS4で、m個の試料Sすべての撮影が終了すると、ステップS6へ移行し、所定の待機時間Tをおく。撮影回数n=2では、撮影回数n=1のときの各々の試料SのX−Y位置データを利用して二次元移動ステージ12を駆動して撮影位置を設定する。撮影回数nを増やしたときも同様である。従って、各々の試料Sは、常に同じ撮影位置で撮影される。なお、撮影の際に毎回焦点調節を行う場合は、m個の試料S各々について撮影回数n=1のときに得られた焦点位置データを利用して撮影回数2回目以降の焦点調節を行うことができる。
【0023】
ステップS7では、各々の試料Sについて予め定めた撮影回数に達したか否かをチェックする。「否」であれば、ステップS8へ移行し、撮影回数nを増やしてステップS1からステップS6を繰り返す。ステップS7で、所定の撮影回数n回に達すると、ステップS9へ移行し、動画編集を行う。ステップS10で、編集された動画像データを記憶すると、一連の作業を終了する。
【0024】
図4は、本実施の形態による光学顕微鏡システムにおける動画編集のプロセスを示す図である。図4(a)は、撮影された顕微鏡画像を撮影順に並べたものであり、図4(b)は、位置(a,3)の試料Sの画像のみを時系列的に並べた動画像である。t11からtnmまでは、各顕微鏡画像を撮影した時刻を表わす。
【0025】
ここで図2を参照して、各々のウエル1a中の試料Sについて、撮影の順番をウエルプレート1の第3列から第7列のウエル1aで説明する。最初の位置(a,3)のウエル1aからスタートし、図中、矢印に従って下方に向かって位置(h,3)のウエル1aまで順次進み、位置(h,4)のウエル1aから上方に向かって位置(a,4)まで順次進み、最終の位置(h,7)のウエル1aに到達すると1回目の撮影が終了する。この一連の撮影は、図4の撮影回数n=1に対応するものであり、m枚の顕微鏡画像を撮影する。
【0026】
図4(a)に示されるように、待機時間Tだけ経過した後に、撮影回数n=2の過程に入る。図2では、最終の位置(h,7)から最初の位置(a,3)へウエルプレート1を移動させる。撮影回数n=2においても、n=1と同様の位置設定と撮影を行い、m枚の顕微鏡画像を撮影する。この一連の操作をn回繰り返す。すなわち、時刻t11からtnmまで、m×n枚の顕微鏡画像を撮影する。
【0027】
図4(b)に示されるように、位置(a,3)の試料Sの画像n枚を時系列的に並べると動画像が得られる。各画像の時間間隔は、m枚の画像を撮影するのに要する時間に、待機時間Tと最終の位置(h,7)から最初の位置(a,3)へウエルプレート1を移動させるためのステージ移動時間とを加えた時間である。このようにして、m個の位置で、すなわちm個の試料Sについてn枚の画像から成る動画像が得られる。
【0028】
本実施の形態の光学顕微鏡システム100は、ステージ制御部51により、顕微鏡装置30の観察視野に限らず、複数の観察視野を含む広範囲で二次元移動ステージ12を駆動できるので、観察視野毎に撮影範囲を決める必要はなく、1段階の操作で、複数の異なる観察視野にある多くの試料Sを位置決めして撮影できる。この位置決めは、ステージ制御部51により正確に行われるので、ブレの少ない滑らかな動きの動画が得られる。さらに、ステージ制御部51に位置補正部51aを設けることにより、より一層ブレの少ない滑らかな動きの動画が得られる。なお、位置補正部51aを設けず、すべての撮像が終了した後の動画編集段階で、画像データ中のマークやウエル1aのキズなどが各画面上で同じ位置になるように画像をシフトして編集してもよい。
【0029】
本実施の形態では、二次元移動ステージ12を駆動して各々の試料Sをその撮影位置へ移動させたが、ウエルプレート1を載置するステージを固定とし、光学顕微鏡30をX−Y方向に移動させてもよいし、二次元移動ステージ12と光学顕微鏡30の両者をX−Y方向に移動させてもよい。また、観察される試料Sの像は、暗視野像でもよいし、位相差像でもよい。
【0030】
以下、試料室10内の環境調整方法について図5を参照して説明する。
図5は、図1に示した光学顕微鏡システム100に環境制御装置60を付加した場合の全体構成を模式的に示す構成図であり、図1と同じ構成部品には同一符号を付し、説明を省略する。また、ステージ制御部51、オートフォーカス部52、PC53、画像データ記憶部54、画像データ編集部55、表示部56および透過照明装置40は図示を省略する。
【0031】
環境制御装置60は、所望の温度、湿度および組成のガスを生成し、このガスを試料室10内へ循環させる装置である。環境制御装置60は、加湿器61、加熱器62、送風機63、温度/湿度センサー64、CO2ガスセンサー65およびリザーブタンク66を備えている。送風機63は、ガス送出チューブ67によって密閉容器20の上板21に配管接続されている。加湿器61は、ガス吸入チューブ68によって密閉容器20の上板21に配管接続されている。上板21の配管接続箇所は、試料室10へ連通している。また、加湿器61は、リザーブタンク66に配管接続されている。加熱器52と送風機53との間から分岐する経路には電磁弁69が設けられ、CO2ガスボンベからガスを導入できるようになっている。
【0032】
温度/湿度センサー64は、試料室10内の温度と湿度をモニタするために、密閉容器20の上板21の下面に取り付けられている。CO2ガスセンサー65は、試料室10内のCO2ガス濃度をモニタするために、ガス吸入チューブ67の経路の途中に取り付けられている。各チューブには断熱処理が施されている。
【0033】
ガス送出チューブ67によって試料室10へ供給されるガスは、次のようにしてガス組成、湿度および温度が調整される。ガス組成の調整は、CO2ガスセンサー65の測定値をフィードバックして電磁弁69の開放量を増減することにより行われる。湿度の調整は、温度/湿度センサー64の測定値をフィードバックして、加湿器61の超音波霧化素子への駆動電圧を増減することにより行われる。超音波霧化素子は、加湿器61内の水から超音波振動によって水蒸気を発生させる。なお、加湿器61内の水は、リザーブタンク66からの供給によって常に一定量が確保されている。温度の調整は、温度/湿度センサー54の測定値をフィードバックして、加熱器51の電熱ヒーターに流す電流を増減することにより行われる。
【0034】
このようにして調整されたガスは、例えば、37℃−100%RH、5%CO2であり、環境制御装置60からガス送出チューブ67によって試料室10へ供給され、試料室10からガス吸入チューブ68によって環境制御装置60へ戻る。循環経路上の調整ガスは、環境制御装置60によって再び所定の温度、湿度およびガス組成の空気として試料室10内に送り込まれる。試料室10は、密閉容器20に収納されているので、調整ガスが外部に漏れる恐れはない。光学顕微鏡システム100に環境制御装置60を付設することにより、試料室10内は常に所定の環境に維持されるので、試料Sも所定の条件に保つことができる。
【0035】
続いて、試料室10に配置されたウエルプレート1のウエル1a内の試料Sの変更方法について図6を参照して説明する。試料Sとは、前述したとおり、細胞などの生物試料に培養液などの試薬が添加されたものであり、生物試料と試薬の少なくともいずれかが異なる対象物である。
図6は、図1に示した光学顕微鏡システム100に注入/吸入機構70を付加した場合の全体構成を模式的に示す構成図であり、図1と同じ構成部品には同一符号を付し、説明を省略する。また、ステージ制御部51、オートフォーカス部52、PC53、画像データ記憶部54、画像データ編集部55および表示部56は図示を省略する。
【0036】
注入/吸入機構70は、光学顕微鏡システム100の上方に位置し、不図示の駆動機構によりX,Y,Z方向に移動でき、試薬をピペット71を介してウェルプレート1のウエル1a内に注入したり、ウエル1a内の試薬を吸入できるように構成されている。注入、吸入の際には、図示のように透過照明装置40は光軸AX上から外される。シャッタ機構22により密閉容器20の上板21の開口21Aを開放し、試料室10の内部を外界に対して開放された状態とする。これにより、試薬の注入、吸入を自由に行うことができる。
【0037】
試薬の注入、吸入または交換が終了すると、注入/吸入機構70のピペット71は上方に後退し、シャッタ機構22が作動して、開口21Aを例えば透明基板で閉鎖し、透過像観察の場合は透過照明装置40を光軸AX上へ復帰させる。これにより、試料室10の内部は、外界に対しても密閉された状態になる。光学顕微鏡システム100に注入/吸入機構70を付設することにより、試薬の注入、吸入を自由に行うことができ、試料Sの顕微鏡観察および撮影の前でも最中でもウエル1a内の環境(試料Sの条件)を変えることができるので、多様化するユーザーの要望に迅速に対応することができる。
【0038】
具体例としては、同じ試料Sを入れた各ウエル1aにそれぞれ異なる試薬を注入し、注入後に各ウエル1aの試料Sの撮像を行い、ウエル1a毎に生成された動画を比較することにより、試薬の効果の違いを調べることができる。また、同じ試料Sを入れた各ウエル1aに、撮影順に同一試薬の注入量を段階的に変化させて添加し、各ウエル1aの試料Sの撮像を行い、ウエル1a毎に生成された動画を比較することにより、試薬の添加量による試料の変化の状況や添加から変化が現れるまでの時間を知ることができ、試薬の効果が生じる最適な添加量を見究めることができる。このように、異なる条件の試料毎に経時変化を観察することができる。また、注入/吸入機構70が個々のウエル1aに試薬を添加するタイミングと撮像装置37が試料Sを撮像するタイミングとを連動して制御する構成とすれば、各ウエル1a中の試料Sの経時変化をより正確に比較観察することができる。
【0039】
本発明は、光学顕微鏡システムに、小室の位置情報に基づいて予め定められた順番の撮影位置へ各観察試料を移動させるように、試料保持手段と観察手段とを相対的に移動制御する制御手段を設けることに特徴がある。本発明は、その特徴を損なわない限り、以上説明した実施の形態に何ら限定されない。なお、画像データ編集部55は、動画像生成手段に対応する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施の形態に係る光学顕微鏡システムの構成を模式的に示す全体構成図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る光学顕微鏡システムで用いられる培養容器(ウエルプレート)の構造を模式的に示す平面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る光学顕微鏡システムにおける試料Sの撮影から動画編集までの過程を示すフローチャートである。
【図4】本発明の実施の形態に係る光学顕微鏡システムにおける動画編集のプロセスを示す図である。図4(a)は、撮影された顕微鏡画像を撮影順に並べたものであり、図4(b)は、位置(a,3)の試料Sの画像のみを時系列的に並べた動画像である。
【図5】本発明の実施の形態に係る光学顕微鏡システムに環境制御装置を付加した場合の全体構成を模式的に示す構成図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る光学顕微鏡システムに注入/吸入機構を付加した場合の全体構成を模式的に示す構成図である。
【符号の説明】
【0041】
1:培養容器(ウエルプレート)
1a:ウエル
10:試料室
12:二次元移動ステージ
20:密閉容器
22:シャッタ機構
30:顕微鏡装置
31:対物レンズ
32:焦点調節機構
37:撮像装置
40:透過照明装置
51:ステージ制御部
52:オートフォーカス部
53:PC
54:画像データ記憶部
55:画像データ編集部
56:表示部
60:環境制御装置
70:注入/吸入機構
100:光学顕微鏡システム
S:試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の小室にそれぞれ観察試料が収容された容器を保持する保持手段と、
前記観察試料の顕微鏡像を形成する観察手段と、
前記観察手段により前記観察試料のそれぞれの顕微鏡像を形成するように、前記保持手段と前記観察手段とを相対移動する相対移動手段と、
前記観察手段による前記顕微鏡像を撮像する撮像手段と、
前記撮像手段で撮像した前記顕微鏡像の画像データを記憶する記憶手段と、
前記小室の位置情報に基づいて予め定められた順番の撮影位置で前記観察試料のそれぞれを前記撮像手段により撮像するように、前記相対移動手段を駆動制御する制御手段と、
前記記憶手段に記憶された前記観察試料のそれぞれの画像データを前記観察試料毎に時系列に並べることにより、前記観察試料のそれぞれの動画像を生成する動画像生成手段とを備えることを特徴とする光学顕微鏡システム。
【請求項2】
請求項1に記載の光学顕微鏡システムにおいて、
前記各小室に観察試料が収容された容器周辺を所定の温度、湿度および炭酸ガス濃度に保持する環境制御装置をさらに備えることを特徴とする光学顕微鏡システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の光学顕微鏡システムにおいて、
前記各小室内への試薬の追加、除去、交換を行う環境変更手段をさらに備えることを特徴とする光学顕微鏡システム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の光学顕微鏡システムにおいて、
前記制御手段は、前記各小室の底面に形成されたマークまたは前記各小室の底面に存在する形態的特徴を位置情報として予め取得し、そのマークまたは形態的特徴を位置基準として前記所定の撮影位置を補正することを特徴とする光学顕微鏡システム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の光学顕微鏡システムにおいて、
オートフォーカス機構をさらに備えることを特徴とする光学顕微鏡システム。
【請求項6】
ウエルプレートの複数のウエルにそれぞれ収容された生体試料を順番に撮像して各生体試料の動画像を生成する試料動画像生成方法において、
前記複数のウエルの位置情報に基づいて予め定められた順番の撮影位置で前記生体試料の顕微鏡像をそれぞれ撮像し、
前記撮像により得られた前記顕微鏡像の画像データを前記複数のウエルの位置情報とともに記憶し、
所定時間経過後に、前記撮像工程と前記記憶工程とを行い、
前記記憶されたそれぞれの画像データを前記複数のウエルの位置情報に基づいて生体試料毎に時系列に並べることにより、前記生体試料のそれぞれの動画像データを生成することを特徴とする試料動画像生成方法。
【請求項7】
請求項6に記載の試料動画像生成方法において、
前記撮像工程と前記記憶工程の後に、前記複数のウエルの1以上のウエルに対して試薬の追加或いは除去による環境変化工程をさらに行うことを特徴とする試料動画像生成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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