説明

光定着装置、及びこれを用いた電子機器

【課題】階調の違いに起因する定着状態のばらつきや、定着時における消費電力を低減することが可能な光定着装置、およびこれを用いた電子機器を提供する。
【解決手段】発光部11からの光を照射光学系により記録媒体16上に集光し、前記記録媒体上の未定着トナーに照射して定着を行う光定着装置であって、前記記録媒体上の未定着トナーのトナー濃度に依存せず、一定のエネルギで照射することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光定着装置に係り、特に、記録媒体上に記録された未定着トナー像に光を照射することで定着させる光定着装置、及びこれを搭載した電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複写機あるいはプリンタ等の画像形成装置において、トナー像を記録媒体上に転写する方法として、過熱された定着ローラによりトナーを溶融し、加圧ローラによって加圧し、記録媒体上に定着させる熱加圧方式が一般的に知られている。熱加圧方式の場合、トナーを溶融するのに十分な温度にまで、定着ローラの温度を上昇させるのに時間がかかる。また、装置待機時においても、立ち上がり時間短縮のため、ローラを一定の温度に保持しておく必要があり、待機時における電力消費が大きいという問題がある。
【0003】
このような問題に対し、未定着のトナーに対して光を照射し、トナーが光を吸収して発生する熱を用いて、トナーを溶融して記録媒体上に定着させる光定着方式が提案されている。光定着方式では、熱加圧方式で用いるような定着ローラを用いず、トナーに対する熱エネルギの供給源を瞬時にオン・オフ可能なレーザ等の光源としているため、上記熱加圧方式に比べて、装置の立ち上がりに要する時間を短縮できるとともに、待機時の電力消費を削減することが可能となる。
【0004】
特許文献1には、感光体にレーザ光を照射し潜像を形成する露光用レーザ光と、その潜像に基づいて用紙上に転写された画像にレーザ光を照射して画像の定着を行う定着用レーザ光を一つのポリゴンミラーを用いてスキャン照射し、トナー画像の定着を行う光定着方式が開示されている。
【0005】
また、特許文献2では、感光体上に潜像を形成するためのレーザを複数で構成し、形成された潜像に基づいて記録媒体上に転写されたトナー画像を単一のレーザ光でスキャン照射することでトナー画像の定着を行う光定着方式が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−303298号公報
【特許文献2】特開2000−338798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
潜像に基づいて記録媒体上に形成されたトナー画像は、色の濃淡を階調表現であらわしているため、記録媒体上に存在するトナーの密度が一定ではない。一般に光照射による定着方式では、トナーは光吸収により得たエネルギを熱に変換することで、昇温・溶融し、記録媒体上に定着する。トナーが昇温する際には、トナー間の熱伝達、記録媒体への熱伝達、大気中への熱伝達等、熱エネルギの移動が生じる。記録媒体上のトナー密度が異なる場合、上記のような熱伝達による熱エネルギの移動量も変化するため、単位面積あたりに同等のエネルギを投入した場合、トナー密度によってトナーの伝達温度や溶融時間が異なり、それに伴い、記録媒体に対するトナーの定着状態も変化する。
【0008】
そのため、上記特許文献1及び特許文献2に示された従来の光定着方式のように、一定のレーザパワーでレーザをスキャンし、トナー画像の定着を行うと、階調による定着状態の違いが原因で、供給エネルギ過多によるトナーの焦げやガスの発生、あるいは供給エネルギ不足による未定着等の問題が発生する。ここで、トナーの階調に応じて照射するレーザ出力を変調し、単位面積当たりに投入するエネルギを調整することで、階調に関わらず同様の定着性を得ることが可能となるが、トナー密度に応じてレーザ出力量を調整するための制御系が別途必要となり、また、トナー密度の異なる複数の領域を、光照射範囲が同時にカバーしないよう、範囲を決定しなければならない等の制限が生じる。
【0009】
本発明は、上記の課題を鑑みてなされたものであり、レーザや、レーザアレイ等を光源とする光定着装置において、トナーの階調に関わらず、良好なトナー画像の定着を行うことができる光定着装置、およびこれを用いた電子機器を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る光定着装置は、発光部からの光を照射光学系により記録媒体上に集光し、前記記録媒体上の未定着トナーに照射して定着を行う光定着装置であって、前記記録媒体上の未定着トナーのトナー濃度に依存せず、一定のエネルギで照射することを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る光定着装置は、光パワー密度をI〔W/cm〕、前記照射光学系により照射される時間をt〔s〕とした場合、下記の式(1)を満たすことを特徴とする。
【0012】
0.49≦I×t≦0.63 …(1)
また、本発明に係る光定着装置は、前記照射光学系により照射される時間をt〔s〕が下記の式(2)を満たすことを特徴とする。
【0013】
4×10−5 ≦ t ≦ 8×10−5 …(2)
また、本発明に係る光定着装置は、光パワー密度I〔W/cm〕が下記の式(3)を満たすことを特徴とする。
【0014】
7300 ≦ I ≦ 12500 …(3)
また、本発明に係る光定着装置は、前記発光部は、潜像書き込みデータに基づいて、選択的に光照射を行うことを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る光定着装置は、前記記録媒体を搬送する搬送装置をさらに備え、前記搬送装置によって前記記録媒体が搬送される方向に対して略垂直な方向の照射領域が、前記記録媒体の搬送方向に略垂直な方向における長さよりも長いことを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る電子機器は、上記のいずれかに記載の光定着装置を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、トナーの階調に関わらず、良好なトナー画像の定着を行うことが可能な光定着装置、およびこれを用いた電子機器を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施形態1に係る光定着装置を搭載する、複写機の全体構成図である。
【図2】実施形態1に係る光定着装置の構成図である。
【図3】実施形態1におけるパワー密度と定着効率の関係を示す図である。
【図4】複数の集光光を用いたときの照射範囲を説明する図である。
【図5】実施形態2に係る光定着装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0020】
<実施形態1>
図1は、本発明に係る光定着装置を搭載する、複写機2の全体構成を示すブロック図である。複写機2は、複写機2のスタートや複写枚数、濃度の設定などを入力する操作部20、複写機2全体の動作のコントロールをつかさどる制御部21、原稿や画像を読み取る読み取り部22、読み取った画像を処理する画像処理部23、紙などの記録媒体にトナー像を形成する現像部24、記録媒体上の未定着トナーを記録媒体に定着させる定着部25、記録紙を保持し、給紙を行う給紙部26より構成される。
【0021】
次に、本実施の形態における定着部25を用いた複写機2の動作について説明を行う。操作部20からの入力により、制御部21は読み取り部22に対して原稿読み取りを指示し、読み取り部22は原稿読み取りを開始する。そして、読み取り部22にて読み取った画像データは画像処理部23に送られる。画像処理部23では読み取った画像に補正等の画像処理を行い、画像データを現像部24、定着部25に転送する。給紙部26は記録媒体を保持しており、この記録媒体を現像部24に搬送する。現像部24では画像データに応じて、給紙部26から送られてきた記録媒体にトナー像を形成した後、定着部25に記録媒体を送る。一方、定着部25では、画像処理部23からの画像データを元に、トナーの有無に応じて各レーザアレイのON、OFFをそれぞれ制御し、記録媒体上の未定着のトナーを定着する。
【0022】
図2は、定着部25を構成する光定着装置1の構成図である。本実施形態における光定着装置1は、未定着のトナー16を溶融する光源である発光部11、発光部11から発せられる拡散光を集光し、記録媒体15上の未定着のトナー16に光を照射する照射光学系12、照射光学系12の光を反射させて、記録媒体15上に走査させるポリゴンミラー13、記録媒体15を移動させる搬送装置14より構成されている。記録媒体15上には、本発明に関係する定着工程の前工程で、図1に示す現像部24にて、予め未定着のトナー16により、像が形成されている。前工程では、レーザ光等の潜像書込み用光源より照射された光を、光学系により、感光体ドラム等の感光体上で走査することで、静電潜像が形成され、感光体に形成された潜像は図示されない現像装置により、現像されてトナー像となり、その後、感光体ドラム上のトナー像が記録媒体15上に転写される。
【0023】
発光部11は、例えばLD(Laser Diode)またはLED(Light Emitting Diode)等の光半導体を光源とするものが用いられ、未定着のトナー16を溶融するための光源として使用される。光半導体は、小型で発光効率が高く、長寿命という特長に加えて、ON/OFFや、High/Lowを高速で切り替える高周波駆動が可能であるという特徴を有する。発光部11から発せられる拡散光の波長は、後述する未定着のトナー16によく吸収され、熱エネルギに変換され易い波長が好ましい。また、定着物が印刷物として長期使用される観点から、未定着のトナー16が可視光を吸収するのは、変質等が生じ易くなり、好ましくないため、上記拡散光の波長は800〜1000nmが好ましく、更には850nm前後の近赤外光がより好ましい。中でも850nm前後の近赤外光は、半導体レーザにより効率的な発光が可能で、半導体レーザ自体の価格も安く、性能も安定している。
【0024】
トナー16は、本発明に関係する定着工程の前工程において、発光部11から出射される上記波長帯域の光を吸収する特性を有する材料を用いる必要がある。トナー16の粒子は、例えば数μm〜十数μm程度の微小な粒子であり、記録媒体15上に単層あるいは複数層を成すように堆積されており、トナー16の密度により濃淡を表現する。未定着のトナー16の表層にあるトナー粒子は、発光部11によって照射された光を吸収する。そして、吸収された光は熱エネルギに変換され、トナー粒子の温度が上昇する。さらに、上記未定着のトナー16の内部層、すなわち表層よりも記録媒体15側に存在するトナー粒子は、高温になった表層のトナー粒子からの熱伝達によって温度上昇する。最終的にはトナー粒子全体の温度が融点に達し、溶融状態のトナー16が記録媒体15に浸透することによって記録媒体15上に定着固定される。
【0025】
照射光学系12は、光学レンズ121、反射鏡122などから構成され、上記発光部11より出射された拡散光は、この照射光学系12により、集光光として紙等の記録媒体15上に照射される。光学レンズ121は、記録媒体上15上に常に焦点を結ぶよう、fθレンズを用いることが望ましい。
【0026】
ポリゴンミラー13は、図2に示した記録媒体15が搬送される主走査方向(X方向)と略垂直に交わる方向である副走査方向(Y方向)に、照射光学系12からの集光光を走査することにより、記録媒体15を光照射する。本実施形態ではポリゴンミラー13を用いたが、ガルバノミラー等の空間光変調素子であって、光を空間的に走査することができるものであれば他のものでも構わない。
【0027】
搬送装置14は、送りローラ等で構成され、紙などの記録媒体15を主走査方向(X方向)に搬送することで、記録媒体15を光照射する。搬送装置14による記録媒体15のX方向への送り速度に同期するように、ポリゴンミラー13により照射光学系13による集光光をY方向に走査することにより、記録媒体15の全域を照射し、記録媒体15上の各位置に存在するトナー16を定着固定させる。
【0028】
次に、トナー定着に要するエネルギと階調について、図3に基づいて説明する。図3は、照射光学系12による記録媒体15上の照射領域の光パワー密度I[W/cm]と、トナー定着に要するエネルギ(単位面積当たりに投入したエネルギ)E[J/cm]の関係を測定した結果である。ここでは、記録媒体15上のトナー密度ρが0.41[mg/cm]、0.06[mg/cm]のサンプルに対して光照射を行い、トナー定着に要するエネルギEをそれぞれ測定している。なお、トナー定着に要するエネルギEは、融点、比熱、光吸収率等の物性値によって変化する。
【0029】
ここで、集光光のパワーをP[W]、照射光学系12により形成された記録媒体15上の照射領域の面積をS[cm]とすると、照射領域の光パワー密度Iは、I=P/Sとなる。また、トナーへの光照射時間をt[s]とすると、単位面積当たりのトナー定着に要するエネルギEは、E=I×t[J/cm]となる。
【0030】
図3に示すように、記録媒体15上に形成されたトナー像のトナー密度、すなわち階調が異なるトナー16に光照射を行った場合、トナー定着に要するエネルギは異なる。トナー16が昇温する際には、トナー16の粒子間の熱伝達、記録媒体への熱伝達、大気中への熱伝達等、熱エネルギの移動が生じる。そして、記録媒体15上のトナー像の階調、すなわちトナー密度が異なる場合、上記した熱伝達による熱エネルギの移動量も変化する。それぞれ階調の異なるトナー像に対し、単位面積あたりに同等のエネルギ量の光を照射した場合、トナー密度によってトナー16への到達温度や溶融時間が異なるため、その結果トナー定着に要するエネルギは階調ごとに異なってしまう。
【0031】
表1は、図3でグラフ化した測定データである。
【0032】
【表1】

【0033】
例えば、トナーへの光照射時間をt=2.3×10−4[s]としたとき、トナーを定着させるために必要となる照射領域の光パワー密度Iは、トナー密度ρが0.41[mg/cm]の場合、I=2.6×10[W/cm]、また、トナー密度ρが0.06[mg/cm]の場合、I=3.8×10[W/cm]であった。
【0034】
ここで、光パワー密度I=2.6×10[W/cm]でそれぞれの密度のトナーを照射すると、図3および表1に示すように、トナー密度ρが0.41[mg/cm]のトナーでは、トナー定着に要するエネルギは、表1より0.60[J/cm]であり、図3に示すように、良好な定着状態を得られるが、トナー密度ρが0.06[mg/cm]のトナーに対しては、トナー定着に要するエネルギは、表1より0.85[J/cm]であり、トナーへの光照射時間t=2.3×10−4[s]のときに必要な光パワー密度Iが3.8×10[W/cm]には足りないため、供給エネルギの不足によりトナーが溶融・定着せず、定着不良が生じる。ここで、光照射時間を長くすれば、エネルギ不足は解消できるが、良好な定着状態を得ていた部分は、逆にエネルギ過多になってしまい、焦げやガスの発生等の問題が生じる。
【0035】
一方、光パワー密度I=3.8×10[W/cm]でそれぞれの密度のトナーを照射すると、図3および表1に示すように、トナー密度ρが0.06[mg/cm]のトナーでは、トナー定着に要するエネルギは、表1より0.85[J/cm]であり、図3に示すように、良好な定着状態を得られるが、トナー密度ρが0.41[mg/cm]のトナーに対しては、トナー定着に要するエネルギは、表1より0.60[J/cm]であり、トナーへの光照射時間t=2.3×10−4[s]のときに必要な光パワー密度Iが2.6×10[W/cm]よりも大幅に上回るため、供給エネルギ過多によるトナー表面の焦げやガスの発生などの問題が発生する。ここで、光照射時間を短くすれば、エネルギ過多は解消できるが、良好な定着状態を得ていた部分はエネルギ不足になってしまい、定着不良となる。
【0036】
このように、一定のレーザパワーでレーザをスキャンする光定着方法の場合、上記のパワー密度では、階調ごとに定着状態に差が生じてしまい、階調に関わらず良好な定着状態を得ることができない。
【0037】
図3および表1の測定結果に示すように、トナー密度がいずれの場合でも、光パワー密度Iを増加させると、階調に関わらず、定着に要するエネルギEが減少している。この理由は、光パワー密度を増加することで、トナーを溶融状態とするための昇温時間を短縮することができ、光照射時間も短くできる。その結果、昇温時における記録媒体や大気中への熱拡散等による熱エネルギ損失が低減されているためである。
【0038】
ここで、表1に示すように、トナー16への光照射時間tが、t<2×10−5[s]の場合、定着に要するエネルギEの減少がほぼ見られなくなる。これにより、昇温時における記録媒体15や大気中への熱拡散による熱エネルギ損失が、トナーへの光照射時間tが2×10−5[s]より短くなるとほぼ無視できると考えられる。この場合、定着に要するエネルギEの値は、記録媒体15上に存在するトナー密度ρのみで決定される。
【0039】
トナーへの光照射時間t<2×10−5[s]の場合、トナー密度ρが0.41[mg/cm]の定着に要するエネルギEは約0.46[J/cm]となり、トナー密度ρが0.06[mg/cm]の定着に要するエネルギEは約0.40[J/cm]となる。ここで、トナーへの光照射時間tを2×10−5[s]より短い時間でトナー定着を行う場合、トナー密度ρの異なるトナーに対し、単位面積あたりに同等のエネルギ量の光を照射した場合、どちらかの階調のトナー定着に不良が発生するという問題がある。
【0040】
例えば、トナーへの光照射時間をt=1.5×10−5[s]としたとき、トナーを定着させるために必要となる照射領域の光パワー密度Iは、トナー密度ρが0.41[mg/cm]の場合、I=30.7×10[W/cm]、また、トナー密度ρが0.06[mg/cm]の場合、I=30.3×10[W/cm]であった。例えば、I=30.7×10[W/cm]でそれぞれの密度のトナーを照射すると、ρ=0.41[mg/cm]のトナーでは良好な定着状態を得られるが、ρ=0.06[mg/cm]のトナーに対しては、光パワー密度が高いため、供給エネルギ過多によるトナー表面の焦げやガスの発生などの問題が発生する。
【0041】
一方、I=30.3×10[W/cm]でそれぞれの密度のトナーを照射した場合、ρ=0.06[mg/cm]のトナーでは良好な定着状態を得られるが、ρ=0.41[mg/cm]のトナーに対しては、光パワー密度が低いため、供給エネルギ不足による定着不良が発生する。
【0042】
以上の結果から、トナーへの光照射時間tを2×10−5[s]より短くした場合、トナー定着に要するエネルギEはトナー密度ρのみで決定されてしまい、その結果、一定のパワー密度Iでの光照射により様々な階調のトナー定着に対応することはできない。
【0043】
図3および表1より、定着に要するエネルギE[J/cm]が、0.49≦E≦0.63のとき、トナーの階調ごとの差が小さいため、一定のパワー密度I[W/cm]で光照射することで、さまざまな階調で良好な定着性を得ることができる。また、光パワー密度I[W/cm]が7300 ≦ I ≦ 12500においても、さまざまな階調で良好な定着性を得ることができることがわかる。さらにトナーへの光照射時間tが4×10−5[s]以上(t≧4×10−5[s])の場合、昇温時における記録媒体や大気中への熱拡散等による熱エネルギ損失が発生するため、定着に要するエネルギEは増加していく。そして、熱エネルギ損失の増加量は各階調により異なるため、定着に要するエネルギEの増加量も階調で異なる。熱エネルギ損失がほぼ無視できる場合(t<2×10−5[s]の場合)、記録媒体上のトナー密度ρが小さいほど定着に要するエネルギEも小さいが、光照射時間tを長くした場合における熱エネルギ損失は、記録媒体上のトナー密度ρが小さいほど増加量は大きくなる。よって、t<2×10−5[s]の範囲では、定着に要するエネルギEが階調ごとに差があり、一定のパワー密度Iでの光照射により様々な階調のトナー定着に対応することは困難であるが、t[s]を増加していくと、定着に要するエネルギEの階調ごとの差が小さくなっていき、その結果、一定のパワー密度Iでの光照射により、様々な階調で良好な定着性を得ることができる。
【0044】
更に、4×10−5 ≦ t ≦ 8×10−5の範囲であれば、定着に要するエネルギEは各階調間での差がほぼ無視できるため、結果として各階調間でのトナー定着状態の差が更に低減されるため好ましい。
【0045】
次に発光部11の制御について説明する。未定着トナーの定着時には、集光光は搬送装置14とポリゴンミラー13によって、記録媒体15上の全域を走査する。転写されるトナー像によって、記録媒体15上には未定着トナーが存在する領域と存在しない領域がある。本実施形態に記載の光定着装置1では、集光光を記録媒体15上で走査する際、未定着トナー5が存在する領域を通過する際には発光(ON)し、未定着トナーが存在しない領域を通過する際には発光を停止(OFF)する。上記ON、OFF制御により、不必要な光照射を行わないことで、記録媒体15上の印刷パターンに応じて消費電力を削減することが可能となる。記録媒体15上のトナー16の有無を判別する手段としては、図1に示す現像部24において、感光体に対して静電潜像を書き込むときの書込みデータに基づき、記録媒体15上の未定着トナーの位置に対応して、ON、OFF制御を行う。
【0046】
なお、本実施形態では、発光部11を単一の光源としているが、発光部11の構成はこれに限らず、例えば、複数個の光半導体や、アレイレーザ等の複数の発光点を有する発光手段を用い、照射光学系12により集光することで、照射領域を形成し、記録媒体15上を走査してもよい。このように、複数の発光点からの光をY方向に走査する構成をとることにより、個々の発光点が照射しなければならないエリアが減るため、走査速度を抑えることが出来る。例えば、発光点が1個のときの、照射しなければならない面積をS、操作速度をVとすると、発光点が2個の場合、発光点1個あたりの照射面積Sは、1/2S、照射速度Vは1/2Vとなり、走査速度Vが遅いほうが、ポリゴンミラー13に要求する性能も抑えられる。
【0047】
また、本実施形態では、記録媒体15をX方向に搬送する搬送装置14を送りローラとしているが、記録媒体15を一方向に搬送可能な構成であれば、これに限らない。さらに、本実施形態では、記録媒体15の全域を1つの集光光で走査し、トナー定着を行っているが、発光部11および照射光学系12により複数の集光光を形成し、記録媒体15の全域を走査するような構成であってもよい。図4は、複数の集光光を用いた構成を示した平面図である。図において、集光光の照射スポットZ1は、矢印で示すa1の範囲を走査し、集光光の照射スポットZ2はa2の範囲を走査し、集光光の照射スポットZ3はa3の範囲を走査する。
【0048】
また、ポリゴンミラー13は、集光光の走査用と、潜像書込み用として2つのポリゴンミラーを使用してもよいし、1つのポリゴンミラーを走査用と潜像書き込み用の両方に共通する光路上に設け、走査用と潜像書込み用を共通化するような構成であってもよい。
【0049】
<実施形態2>
本発明の実施形態2に係る定着装置1aについて、図5に基づいて説明する。なお、この実施形態2の定着装置1aでは、実施形態1の定着装置と同一構成部に対しては同一参照番号を付している。本実施形態では、発光部11が、行列状に並べられた複数の光源により構成されており、ポリゴンミラー13を用いない点で、実施形態1とは異なる。
【0050】
図5は、実施形態2に係る定着装置1aの構成図である。図5に示すように発光部11は、複数の発光源1111よりなるアレイパッケージ111が複数配列され、構成されている。発光部11により発せられた拡散光は照射光学系12により集光され、その集光光が記録媒体15上の未定着トナーに照射される。ここで、照射光学系12により形成される集光光のY方向の照射領域は、記録媒体15のY方向の長さよりも長くなるように光学レンズ等を調整して設定され、記録媒体15を搬送装置14によりX方向に搬送することで、記録媒体15の全域が照射可能となっている。
【0051】
また、発光部11は、図5に示すように複数のグループに分けられており、個々のグループにおいて発光のON、OFFが制御可能となっている。搬送装置14により記録媒体15をX方向に走査する際、集光光が未定着トナーの存在する領域を通過する際には発光(ON)し、未定着トナーが存在しない領域を通過する際には発光を停止(OFF)する。以上の制御を発光部11の各グループで行い、不必要な光照射を行わないことで、記録媒体15上の印刷パターンに応じて消費電力を削減することが可能となる。
【0052】
記録媒体15上のトナーの有無を判断する手段としては、本発明の実施形態1に記載した方法と同様に、感光体に対して静電潜像を書き込むときの書込みデータに基づき、記録媒体15上の未定着トナーの位置に対応して、ON、OFF制御を行う。この場合の照射時間のカウントは、実際に発光がONになっている時間を照射時間とする。
【0053】
照明装置1aにおいても、本発明の実施形態1に示したように、トナーへの光照射時間tが、20≦t≦80の範囲であれば、一定の光パワー密度でトナーに対し照射を行ったところ、階調に関わらず良好な定着状態が得られた。
【0054】
ここで、発光部11として使用している全ての光源が発光したときにおける集光光のトータルパワーをP[W]、全ての光源が発光したときの記録媒体15上における照射領域(集光光)の面積をS[cm]とすると、光パワー密度Iは、I=P/Sとなる。Iが上記範囲内となるよう、発光部11を構成するアレイパッケージ111及び発光源1111の個数、出力、照射光学系12の構成を決定すればよい。
【0055】
なお、本実施形態では、発光部11をアレイレーザとしているが、発光部11の構成はこれに限らず、例えば、複数個のLDやLED等の光源を用い、照射光学系12により集光することで、記録媒体15のY方向の長さよりも長い照射領域を確保可能な構成であれば、これに限らない。
【0056】
さらに、本実施形態では、記録媒体15をX方向に搬送する搬送装置14を送りローラとしているが、記録媒体15を一方向に搬送可能な構成であれば、これに限らない。
【0057】
上記のような構成により、光定着装置において、階調の違いに起因する定着状態のばらつきや、定着時における消費電力を低減することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の光定着装置は、階調の違いに起因する定着状態のばらつきや、定着時における消費電力の削減に有効であり、複写機、プリンタ、ファクシミリ等の電子機器や、露光装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 光定着装置
2 複写機
11 発光部
12 照射光学系
13 ポリゴンミラー
14 搬送装置
15 記録媒体
16 トナー
20 操作部
21 制御部
22 読み取り部
23 画像処理部
24 現像部
25 定着部
26 給紙部
121 光学レンズ
122 反射鏡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光部からの光を照射光学系により記録媒体上に集光し、前記記録媒体上の未定着トナーに照射して定着を行う光定着装置であって、
前記記録媒体上の未定着トナーのトナー濃度に依存せず、一定のエネルギで照射することを特徴とする光定着装置。
【請求項2】
前記光定着装置は、光パワー密度をI〔W/cm〕、前記照射光学系により照射される時間をt〔s〕とした場合、下記の式(1)を満たすことを特徴とする請求項1記載の光定着装置。
0.49≦I×t≦0.63 …(1)
【請求項3】
前記光定着装置は、前記照射光学系により照射される時間をt〔s〕が下記の式(2)を満たすことを特徴とする請求項1または2記載の光定着装置。
4×10−5 ≦ t ≦ 8×10−5 …(2)
【請求項4】
前記光定着装置は、光パワー密度I〔W/cm〕が下記の式(3)を満たすことを特徴とする請求項1または2記載の光定着装置。
7300 ≦ I ≦ 12500 …(3)
【請求項5】
前記発光部は、潜像書き込みデータに基づいて、選択的に光照射を行うことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の光定着装置。
【請求項6】
前記光定着装置は、前記記録媒体を搬送する搬送装置をさらに備え、
前記搬送装置によって前記記録媒体が搬送される方向に対して略垂直な方向の照射領域が、前記記録媒体の搬送方向に略垂直な方向における長さよりも長いことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の光定着装置。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項に記載の光定着装置を搭載したことを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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