説明

光導波路デバイス及びその製造方法

【課題】
金属装荷型偏光子を構成する金属膜の酸化や製造プロセスの後工程によるエッチングを抑制し、光学特性の優れた光導波路デバイス及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】
電気光学効果を有する基板1と、該基板に形成された光導波路2と、該光導波路の少なくとも一部を覆うように形成された金属装荷型偏光子3とを有する光導波路デバイスにおいて、該金属装荷型偏光子には、金属膜30の露出部分を全て覆うように保護膜33が形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導波路デバイス及びその製造方法に関するものであり、特に、光導波路を形成した基板の一部に金属装荷型偏光子を配置した光導波路デバイス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信分野や光計測分野において、ニオブ酸リチウムなどの電気光学効果を有する基板に光導波路を形成した光導波路デバイスが、光変調器などとして利用されている。電気光学効果を有する結晶基板を利用した光導波路デバイスでは、最も電気光学効果の大きいr33を使用するのが一般的である。
【0003】
例えば、Xカットのニオブ酸リチウムを用いる場合は、r33が結晶の水平方向になるため、電気光学効果を作用させる光は、r33の方向に等しい偏波面であるTM波を選択する。このため、不要となるTE波については、偏光子で除去している。
【0004】
偏光子には、特許文献1のように、ニオブ酸リチウム等のチップへの光の入出射端面に取り付けて、光路上に挿入するラミポールやポーラコアによるものや、特許文献2のように、光学結晶に形成された光導波路上にアルミニウムのような金属膜を装荷させることで、TE波を吸収させる金属装荷型が存在する。特に、後者の偏光子は、ウエハプロセスの一部として実施できるため、コストや作業性の面から好適である。
【0005】
図1に、基板1の表面に配置された金属装荷型偏光子3の例を示す。金属装荷型偏光子3には、金属膜30と、その表面と裏面に、酸素欠損状態の膜体32と31とが配置されている。このような膜体は、金属膜が基板1と接触したり、外気に触れることにより酸化するのを防止する働きを有している。符号2は、基板1に形成された光導波路である。
【0006】
基板1の表面にはSiO膜などのバッファ層が形成されることが多い。このようなバッファ層は、金属装荷型偏光子3の左右に近接して基板1の表面に配置される。バッファ層が金属装荷型偏光子3の近傍に配置される場合には、金属膜30の側面が、図1のように露出することはないが、バッファ層が無かったり、金属装荷型偏光子3と離れて配置されている場合には、金属膜の側面が酸化する原因となる。
【0007】
特に、光導波路デバイスの作成プロセスにおいては、後工程となる、アルカリ性界面活性剤での洗浄工程や、金電極を形成した後の下地金属除去のためのウェットエッチングにより、金属膜までエッチングされ、偏光子機能を充分に確保できないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−3064号公報
【特許文献2】特開平10−68830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、上述したような問題を解決し、金属装荷型偏光子を構成する金属膜の酸化や製造プロセスの後工程によるエッチングを抑制し、光学特性の優れた光導波路デバイス及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、電気光学効果を有する基板と、該基板に形成された光導波路と、該光導波路の少なくとも一部を覆うように形成された金属装荷型偏光子とを有する光導波路デバイスにおいて、該金属装荷型偏光子には、金属膜の露出部分を全て覆うように保護膜が形成されていることを特徴とする。
【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の光導波路デバイスにおいて、該金属装荷型偏光子は、該基板側から低屈折率材料層、金属層、低屈折率材料層の順に積層されていることを特徴とする。
【0012】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載の光導波路デバイスにおいて、該保護膜は、酸素欠損状態の膜体であることを特徴とする。
【0013】
請求項4に係る発明は、請求項3に記載の光導波路デバイスにおいて、該保護膜は、SiOx(ただし、x<2)であり、膜厚が200nm以上であることを特徴とする。
【0014】
請求項5に係る発明は、電気光学効果を有する基板と、該基板に形成された光導波路と、該光導波路の少なくとも一部を覆うように形成された金属装荷型偏光子とを有する光導波路デバイスの製造方法において、該金属装荷型偏光子は、該基板上にマスキング材を配置して形成した後、該マスキング材を該金属装荷型偏光子を形成した位置から0.3〜2mmの範囲で離して、該基板上に再配置し、該金属装荷型偏光子全体を覆う保護膜を形成することを特徴とする。
【0015】
請求項6に係る発明は、請求項5に記載の光導波路デバイスの製造方法において、該金属装荷型偏光子が、金属膜を挟むように配置された酸素欠損状態の膜体を有し、該保護膜には、同じ酸素欠損状態の膜体を使用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る発明により、電気光学効果を有する基板と、該基板に形成された光導波路と、該光導波路の少なくとも一部を覆うように形成された金属装荷型偏光子とを有する光導波路デバイスにおいて、該金属装荷型偏光子には、金属膜の露出部分を全て覆うように保護膜が形成されているため、金属装荷型偏光子を構成する金属膜の酸化や製造プロセスの後工程によるエッチングを抑制でき、光学特性の優れた光導波路デバイスを提供することが可能となる。
【0017】
請求項2に係る発明により、金属装荷型偏光子は、基板側から低屈折率材料層、金属層、低屈折率材料層の順に積層されているため、基板側の低屈折率材料層で、金属層(金属膜)による、光導波路を伝搬する光波のTM波の吸収を抑制し、同光波のTE波を効率良く除去することが可能となる。また、基板と反対側の低屈折率材料層により、金属層の酸化など金属層(金属膜)の劣化を抑制することができる。
【0018】
請求項3に係る発明により、保護膜は、酸素欠損状態の膜体であるため、酸やアルカリに対する耐性があり、金属膜の酸化やエッチングが抑制され、光学特性の劣化も防止できる。
【0019】
請求項4に係る発明により、保護膜は、SiOx(ただし、x<2)であり、膜厚が200nm以上であるため、保護膜が光導波路を伝搬する光波に与える影響も抑制され、金属膜の酸化やエッチングを防止するだけでなく、光学特性の優れた光導波路デバイスを提供することができる。また、金属装荷型偏光子における金属膜を挟む膜体を、同様のSiOxで構成する場合には、当該膜体と保護膜との一体化も図れ、金属膜の表面全体をSiOxで被覆することが可能となる。
【0020】
請求項5に係る発明により、電気光学効果を有する基板と、該基板に形成された光導波路と、該光導波路の少なくとも一部を覆うように形成された金属装荷型偏光子とを有する光導波路デバイスの製造方法において、該金属装荷型偏光子は、該基板上にマスキング材を配置して形成した後、該マスキング材を該金属装荷型偏光子を形成した位置から0.3〜2mmの範囲で離して、該基板上に再配置し、該金属装荷型偏光子全体を覆う保護膜を形成するため、金属膜の酸化や製造プロセスの後工程によるエッチングを抑制でき、光学特性の優れた光導波路デバイスを製造することが可能となる。しかも、保護膜形成のためのマスキング材を別途用意する必要もなく、製造コストの増加も抑制できる。
【0021】
請求項6に係る発明により、金属装荷型偏光子が、金属膜を挟むように配置された酸素欠損状態の膜体を有し、保護膜には、同じ酸素欠損状態の膜体を使用することで、金属装荷型偏光子の製造プロセス、特に金属膜の上面側に酸素欠損状態の膜体を成膜したのに引き続き、成膜材料を変更せず、マスキング材の位置を変更するだけで、保護膜を形成することが可能となる。また、金属膜を挟む膜体と同じ材料で保護膜を形成するため、当該膜体と保護膜との一体化も図ることができ、保護膜が剥がれ易い等の不具合も生じ難い。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】従来の光導波路デバイスを説明する図である。
【図2】本発明の光導波路デバイスを説明する図である。
【図3】本発明の光導波路デバイスの製造方法を説明する図である。
【図4】本発明の光導波路デバイスの製造方法に使用されるマスキング材を説明する図である。
【図5】光導波路デバイスの一部をPLCで構成し、金属装荷型偏光子を用いる例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を、好適例を用いて詳細に説明する。図2は、本発明の光導波路デバイスを示す。
本発明は、電気光学効果を有する基板1と、該基板に形成された光導波路2と、該光導波路の少なくとも一部を覆うように形成された金属装荷型偏光子3とを有する光導波路デバイスにおいて、該金属装荷型偏光子には、金属膜30の露出部分を全て覆うように保護膜33が形成されていることを特徴とする。
【0024】
図2において、金属装荷型偏光子は、金属膜30を挟むように酸素欠損状態の膜体31及び32を配置し、金属膜30の酸化等を抑制している。さらに、保護膜33で覆うことにより、金属装荷型偏光子を構成する金属膜の酸化や製造プロセスの後工程によるエッチングを抑制でき、光学特性の優れた光導波路デバイスを提供することが可能となる。矢印Lは、光導波路2を伝搬する光波の伝搬方向を示す。
【0025】
電気光学効果を有する基板1としては、特に、LiNbO,LiTaO又はPLZT(ジルコン酸チタン酸鉛ランタン)のいずれかの単結晶が好適に利用可能である。基板に形成する光導波路2は、例えば、LiNbO基板(LN基板)上にチタン(Ti)などの高屈折率物質を熱拡散することにより形成される。また、光導波路となる部分の両側に溝を形成したリブ型光導波路も利用可能である。
【0026】
光導波路デバイスには、光導波路を伝播する光波を変調するための変調電極を設けることができる。例えば、変調電極として信号電極や接地電極を設け、基板1の表面に、Ti・Auの電極パターンを形成し、金メッキ方法などにより形成することが可能である。さらに、金属装荷型偏光子を形成する場所を除き、必要に応じて光導波路形成後の基板表面に誘電体SiO等のバッファ層を設けることも可能である。
【0027】
本発明の光導波路デバイスは、光導波路を形成した基板上に金属装荷型偏光子を配置している。金属膜30の光導波路に沿った幅(図2の横方向の長さ)は、0.2〜2mm程度である。金属膜としては、アルミニウムが好適に利用可能である。さらに、金属膜30を上下から挟む膜体は、SiOx(x<2)の酸素欠損状態の膜体が利用できる。
【0028】
保護膜33は、膜体(31,32)と同様の材料を使用でき、特に、酸素欠損状態の膜体であるSiOx(ただし、x<2)を使用することが好ましい。この場合は、膜厚が200nm以上であれば、酸やアルカリ等の薬品に対する耐性が働き、金属膜の酸化やエッチングを防止することができる。
【0029】
次に、本発明の光導波路デバイスの製造方法について説明する。
製造工程では、基板1は、ウエハ状態で処理され、光導波路、金属装荷型偏光子等、必要な構成部材の組み込みが完了した後、切断されて個々のチップ状の光導波路デバイスに形成される。
【0030】
まず、図3(1)のように、電気光学効果を有する基板1に、光導波路2をTiの熱拡散方法等で形成する。次に金属装荷型偏光子を形成するためマスキング材(40,41)で基板1(ウエハ基板)の所定位置に配置する。マスキング材(40,41)は、図4に示すように、金属装荷型偏光子を形成する領域4以外の基板表面を覆うよう配置される。
【0031】
図3(2)のように、マスキング材で覆っていない領域に、SiOxなどの酸素欠損状態の膜体31を配置し、次にアルミニウム等の金属膜30、そして再度、酸素欠損状態の膜体32を順次積層して配置する。
【0032】
図3(3)のように、マスキング材(40,41)を金属装荷型偏光子3からずらして再配置する。マスキング材40と41との間隔は、金属装荷型偏光子の金属膜の幅(0.2〜2mm程度)に0.3〜2mmの範囲で任意の値を付加した距離に設定する。付加する距離が0.3mm未満の場合には、マスキング材の厚みの影響で成膜が妨げられ、保護膜の厚みを200nm以上とすることが難しくなる。また、付加する距離を2mmより大きくすると保護膜の面積が大きくなり、保護膜の熱膨張などにより、保護膜が金属装荷型偏光子や基板から剥がれ易くなり、光導波路デバイスの信頼性が低下する。
【0033】
次に、図3(4)のように保護膜33を形成し、金属層30の露出部分を完全に保護膜で覆うように構成する。保護膜は、SiOxで酸やアルカリなどの薬剤に耐性があり、金属層の酸化やエッチングから金属層を効果的に保護する役割を果たす。金属装荷型偏光子を構成する、金属膜を挟むように配置された酸素欠損状態の膜体(31,32)と、保護膜33とを、同じ酸素欠損状態の膜体を使用することで、製造プロセスの複雑化を抑制できる。また、金属膜を挟む膜体と同じ材料で保護膜を形成するため、当該膜体と保護膜との一体化も図ることができ、保護膜が剥がれ易い等の不具合も生じ難い。
【0034】
最後に、マスキング材(40,41)を除去すれば、光導波路デバイスへの保護層を有する金属装荷型偏光子の組み込みが完了する。
【0035】
光導波路デバイスとして、Xカットのニオブ酸リチウム基板上に光導波路を形成し、偏光子を必要とする部分以外をマスキングし、スパッタ法で、SiOx(x<2)の膜体31を10nmの厚みで形成し、順次、スパッタ法により、アルミニウムの金属膜を100nmの厚みで、SiOx(x<2)の膜体32を厚さ100nmの厚みで形成し、偏光子を構成した。
【0036】
その後、マスキング材を0.5mmだけ余分に広げて配置し、スパッタ法により、SiOx(x<2)を200nm以上の厚みで形成した。このようにして得られた光導波路デバイスは、後工程による各種薬剤処理を経ても、金属膜の酸化やエッチングが観測されず、ウエハプロセスでの歩留りも向上した。個々のチップ化した光導波路デバイスの光学特性を評価したところ、デバイス間のバラツキが少なく、偏光子の機能も安定した特性を示していた。
【0037】
本発明の光導波路デバイスは、図5に示すように,DP−QPSKのような複雑な導波路構造を持つ光導波路デバイスについても好適に適用することが可能である。例えば、入出射の分岐部分に、PLC(プレーナ光波回路)10を利用し、光変調部には、ニオブ酸リチウム等の電気光学効果を有する基板11を用いる。両者は接合部12で接合されている。接合に際しては、各基板に形成された光導波路(20,21)が結合部での光結合損失を低減するように接合されている。基板11の表面には金属装荷型偏光子3が配置されている。個々の光導波路の入射端面に偏光子を配置する場合と比較し、製造プロセスを簡略化することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
以上のように、本発明によれば、金属装荷型偏光子を構成する金属膜の酸化や製造プロセスの後工程によるエッチングを抑制し、光学特性の優れた光導波路デバイス及びその製造方法を提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0039】
1 基板
2 光導波路
3 金属装荷型偏光子
30 金属膜
33 保護膜
40,41 マスキング材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気光学効果を有する基板と、該基板に形成された光導波路と、該光導波路の少なくとも一部を覆うように形成された金属装荷型偏光子とを有する光導波路デバイスにおいて、
該金属装荷型偏光子には、金属膜の露出部分を全て覆うように保護膜が形成されていることを特徴とする光導波路デバイス。
【請求項2】
請求項1に記載の光導波路デバイスにおいて、該金属装荷型偏光子は、該基板側から低屈折率材料層、金属層、低屈折率材料層の順に積層されていることを特徴とする光導波路デバイス。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光導波路デバイスにおいて、該保護膜は、酸素欠損状態の膜体であることを特徴とする光導波路デバイス。
【請求項4】
請求項3に記載の光導波路デバイスにおいて、該保護膜は、SiOx(ただし、x<2)であり、膜厚が200nm以上であることを特徴とする光導波路デバイス。
【請求項5】
電気光学効果を有する基板と、該基板に形成された光導波路と、該光導波路の少なくとも一部を覆うように形成された金属装荷型偏光子とを有する光導波路デバイスの製造方法において、
該金属装荷型偏光子は、該基板上にマスキング材を配置して形成した後、
該マスキング材を該金属装荷型偏光子を形成した位置から0.3〜2mmの範囲で離して、該基板上に再配置し、該金属装荷型偏光子全体を覆う保護膜を形成することを特徴とする光導波路デバイスの製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の光導波路デバイスの製造方法において、該金属装荷型偏光子が、金属膜を挟むように配置された酸素欠損状態の膜体を有し、該保護膜には、同じ酸素欠損状態の膜体を使用することを特徴とする光導波路デバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−79988(P2013−79988A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218403(P2011−218403)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】