説明

光導波路回路

【課題】 損失が小さく、かつ、安定した出力特性が得られる光導波路回路を提供することにある。
【解決手段】 2本以上の分岐側光導波路13a,13bと1本の入力側光導波路11とを備えたY分岐型光導波路9と、入力側光導波路11と分岐側光導波路13a,13bの接続端面から入力側光導波路11から離れる方向に向かって一定の間隔Xが介在され、分岐側光導波路13a,13bと交差するように形成された少なくとも1本以上の交差導波路14とから構成され、一方の光導波路から入力された信号光が分岐もしくは結合されてもう一方の光導波路から出力される光導波路回路10である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に光通信分野において、伝搬される信号光を結合・分岐するための光導波路回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光通信システムは、音声、動画、データ信号等の送受信を、局側と加入者側との間で行う重要なシステムである。このような光通信システムでは、局側(局数;M=1、2、・・・M)から送信されたデータ信号が加入者側(加入者数;N=1、2、・・・N)へ送信され、また加入者側から送信されたデータ信号が局側へ送信されるため、一般的に、M×N型の結合・分岐機能を有する光導波路回路を介してデータ信号の送受信が行われている。また、大型の光通信システムでは、このM×N型の結合・分岐機能を有する光導波路回路を多段に配置させ、局側と加入者側との信号の送受信に対応させている。
【0003】
上述した光導波路回路の一例として、特許文献1に示す光デバイスが知られている(特許文献1参照)。
従来の光導波路回路は、1本の入力用光導波路からなる入力光導波路と、入力端から出力端に向って拡幅構造である光スラブ導波路と、N本の出力用光導波路からなる出力光導波路アレイと、出力用光導波路と交差する交差導波路が光スラブ導波路の出力端から直接隣接させて1本以上並列に介設された転換領域とが形成されてなる。なお、転換領域は、光スラブ導波路の出力端側から第1段、第2段、・・・第N段の交差導波路を形成することにより構成され、第1段目から第N段目になるに従って交差導波路の幅が減少するように形成されている。また、第1段目から第N段目の各交差導波路は、出力導波路アレイの各出力用光導波路とそれぞれ垂直に交差するように形成されている。
【0004】
【特許文献1】特許公報第3338356号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来の光導波路回路では、以下に述べるような問題があった。すなわち、上述した転換領域は、光スラブ導波路の出力端に直接隣接させて形成されているため、出力導波路アレイと光スラブ導波路の出力端との結合部分において、互いに導波方向に対して垂直な面内で倒れこむことができない。このため、光スラブ導波路から出力導波路アレイに伝搬されるデータ信号は漏光による損失が増加してしまう。この結果、伝搬されるデータ信号は、入力時に対する出力時の光強度が低下してしまうという問題がある。
【0006】
また、従来の光導波路回路のような構成では、伝搬されるデータ信号にマルチモード成分が発生する。つまり、データ信号は、光導波路内を蛇行して伝搬することになる。このため、出力導波路アレイの各出力用光導波路にデータ信号が入力される際、軸がずれた状態で入力されるため、データ信号の光強度が均等に分配されなくなる。この結果、各出力ポートから出力されるデータ信号の光強度は不均一となる問題がある。
【0007】
しかも、上述したデータ信号の蛇行現象は、伝搬光の波長の違いや、温度、応力等の外部環境に影響され易いので、非常に不安定である。さらに、外部環境が変化することにより、データ信号の蛇行現象は、ますます不安定となるため、安定した出力特性を有する光導波路回路を得ることは困難であった。
【0008】
本発明は、上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、損失が小さく、かつ、安定した出力特性が得られる光導波路回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は次のような構成をもって課題を解決するための手段としている。すなわち、第1の発明は、少なくとも2本以上の分岐側の光導波路と、1本の入力側の光導波路とを備え、一方の光導波路から入力された信号光が分岐もしくは結合されてもう一方の光導波路から出力され、前記入力側の光導波路と前記分岐側の光導波路の接続端面から分岐側の光導波路方向に向かって一定の間隔を設けて、分岐側の光導波路と交差する少なくとも1本以上の交差導波路が設けられた光導波路回路をもって課題を解決する手段としている。
【0010】
また、第2の発明は、第1の発明に記載の光導波路回路が基板上に多段に設けられた光導波路回路デバイスをもって課題を解決する手段としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、光導波路回路において、前記分岐側光導波路のテーパ状導波路との接続端側に、分岐側光導波路と交差する少なくとも1本以上の交差導波路を並列して介設し、該交差導波路とテーパ状導波路との間に一定の間隔をあけることにより、交差導波路を介設してもテーパ状導波路と結合する部分において分岐光導波路の倒れ込みが起こるので、これによって分岐側光導波路間の間隔を狭め、テーパ状導波路から出射される光を効率よく結合出来るとともに、光の蛇行現象の発生を防ぐことが出来る。これにより損失が小さく、かつポート均一性に優れた光導波路回路を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、本実施形態例の説明では、従来例と同一名称部分には同一符号を付し、その重複説明は省略する。
【0013】
図1(a)は、本発明に係る光導波路回路10の一実施形態例の要部構成図が示されている。同図に示すように、本実施形態例の光導波路回路10は、Y分岐型光導波路9と、交差導波路14とが基板18(図2を参照)上に形成されて構成される。
【0014】
図1(a)に示す光導波路回路10のY分岐型光導波路9や、交差導波路14のような導波路パターン20を形成する場合は、まず、図2(a)に示すように、例えばシリコン、石英等の基板18上にコア層19となるチタンもしくはゲルマニウムを添加した石英ガラスを堆積させ、これを透明ガラス化する。次に、図2(b)に示すように、所定の光導波路パターンが描かれたフォトマスクを用いて反応性イオンエッチングを用いたフォトリソグラフィ、反応性イオンエッチング法にてコア層19に導波路パターン20を転写させる。最後に、図2(c)に示すように、再び、火炎堆積法によりクラッド層10となる石英ガラスを堆積させ、これを透明ガラス化する。図2(a)から図2(c)の工程を経ることにより、図1(a)に示すY分岐型光導波路9や、交差導波路14の導波路パターンが形成された光導波路回路10が形成される。なお、コア層19やクラッド層10の材質および形成方法等は特に限定されるものではなく、例えば有機導波路及びその形成方法等は適宜設定されるものである。
【0015】
上述のように、あらかじめ所定の光導波路パターンが描かれたフォトマスクを作成しておき、基板上に前記フォトマスクを用いてチャンネル導波路を形成させると、多量で、複雑な光導波路回路でも一括で形成することができる。このため、大量生産が可能であり、しかも、再現性が良好で、小型集積化が可能である等の利点を有している。
【0016】
以下、図1(a)を参照して、Y分岐型光導波路9と、交差導波路14の各導波路について説明する。
Y分岐型光導波路9は、入力側光導波路11と、該入力側光導波路11の出力部分に出力側に向かって徐々に幅広となるテーパ状に導波路が形成されたテーパ状導波路12と、該テーパ状導波路12の出力側に形成された2本の分岐側光導波路13a,13bとで構成される。なお、分岐側光導波路13a,13bは、円弧状に形成されているが、これに限定されず直線または適宜設定される他の形状の光導波路で構成されてもよい。
【0017】
入力側光導波路11および分岐側光導波路13a,13bは、膜厚、幅ともに7μmで形成されている。テーパ状導波路12は、膜厚を7μmとし、その幅は、入力側光導波路11との端面においては7μmとし、分岐側光導波路13a,13bの端面においては14μmとして、導波路の幅が入力側光導波路11の端面から分岐側光導波路13a,13bの端面に向って徐々に幅広となるように形成されている。なお、各光導波路11,13a,13bとクラッド層との比屈折率差Δは、0.4%とした。
【0018】
交差導波路14は、分岐側光導波路13a,13bに、該分岐側光導波路13a,13bに垂直に交差する少なくとも1本以上の交差導波路14a,14b,・・・14nが並設されて構成されている。なお、交差導波路14は、複数の交差導波路14a,14b,・・・14nで構成されるが、そのうち入力側光導波路11に最も近い交差導波路14aは、図1(b)に示すように、その後端14a’と、テーパ状導波路12の最も幅の広い先端12’との間に、一定の間隔Xをあけて形成されている。
【0019】
また、交差導波路14の形状は、分岐側光導波路13a,13bと交差する部分でのクロストークによる損失を考慮し、分岐側光導波路13a,13bと垂直に交差させる形状が望ましい。さらに、テーパ状導波路12と分岐側光導波路13a,13bの接続部で生じる放射モード光が再結合する効果を大きくするためには、交差導波路14の本数は、より多く形成することが望ましい。具体的には、交差導波路14の本数を20〜40本に設定するとよい。さらに、交差導波路14のピッチは10〜30μm、幅は4〜25μmとするのが望ましい。
【0020】
図1に示す実施形態では、分岐側光導波路13a,13bが円弧状であるため、交差導波路14も円弧状に形成され、両者が垂直に交差するような構成とした。また交差導波路14の本数は30本とし、その幅は8μmから出力側に向かって線形的に減少するものとした。
【0021】
上述したように、本実施形態例では、交差導波路14とテーパ状導波路12との間に一定の間隔Xをあけて形成されているので、交差導波路14を介設しても分岐側光導波路13aおよび13bは、テーパ状導波路12の分岐側端と結合する部分で、互いに導波方向に対して垂直な面内で倒れ込む事が出来る。
【0022】
(実施例1)
以下に図面を参照して実施例の説明をする。
光ファイバを用いた光通信システムの一例として、電話通信があり、電話局と複数の加入者間を1×N分岐および2×N分岐の機能を有する光分岐結合回路を介して光ファイバ線路で結ぶ、PDS(Passive Double Star )と呼ばれるネットワークトポロジーが検討されている。
【0023】
このPDSに用いられる光分岐結合回路は、その形態によりファイバ型回路と光導波路型回路とに大別することができるが、ファイバ型回路は回路の構成部品を個別に形成するために、生産性が悪いだけでなく、分岐数の増加に伴い回路が大型化してしまうという問題があり、最近では、光導波路型の光分岐結合回路を用いることが有望視されている。
【0024】
図3は、上述したPDS等に用いられる光分岐結合回路の一実施例であり、5段構成のY分岐光導波路回路32からなる1×32のスプリッタ30の概略構成図である。なお、図3では図示を省略しているが、各段のY分岐光導波路回路32は、図1(a)に示された光導波路回路10のパターンで形成されたものである。この光導波路回路10に形成される交差導波路14とテーパ状導波路12との間隔Xは20μmとした。
【0025】
このスプリッタ30の1段目のY分岐光導波路回路32の入力側光導波路から、1.26μm〜1.58μmの波長を有する信号光を入力させ、1〜32番目の各出力ポートでの出力光強度を測定し、各ポートでの挿入損失の評価を行った。図4は、その評価結果である。出力ポートが32箇所存在するため、32本の折れ線により挿入損失の特性が示されている。なお、図5は、各段のY分岐光導波路回路が、一定間隔Xを介在させない図6に示す光導波路回路40のパターンで形成された1×32のスプリッタの各出力ポートの挿入損失を評価した結果である。
【0026】
図5から明らかなように、図1に示す光導波路回路10を各段のY分岐光導波路回路32に形成させた1×32のスプリッタ30では、各出力ポート1〜32間における挿入損失の波長依存性が低いことがわかる。具体的には、1.26μm〜1.58μmの測定波長範囲では挿入損失の値がほぼ同値となり、32箇所の出力ポート間の均一性は0.68dBであった。これに対し、図5では、1.26μm〜1.58μmの測定波長範囲において挿入損失の値に幅があり、出力ポート間の均一性は1.3dBであった。図4の結果の方が、図5の結果に比べ、非常に均一性がよいことが分かる。
【0027】
また、図4からわかるように、1〜32番目の各出力ポートの挿入損失値は、1.26μm〜1.58μmの測定波長範囲において、最大の挿入損失値は16.5dBである。これに対し、図5では、最大の挿入損失値が17.2dBである。両者を比較すると、図4に示す挿入損失値の方が小さいことは明らかである。
【0028】
上述した図4と図5の比較結果からわかるように、各段に用いられているY分岐光導波路回路として光導波路回路10を形成させることにより、テーパ状導波路12と分岐側光導波路13a,13b間で光が結合できずに放射モード光として漏れることを抑制することができ、かつ、テーパ状導波路12と分岐側光導波路13a,13b間で蛇行現象の発生を抑制することができる。この結果、出力ポートから出力される信号光の挿入損失値を小さくすることが出来るとともに、挿入損失の波長依存性も抑えることが出来る。
【0029】
なお、本実施例では、交差導波路14aとテーパ状導波路12との間隔Xを20μmに設定したが、この間隔Xはこれに限定されるものではなく適宜設定されるものである。この間隔Xは、分岐側光導波路13aおよび13bを倒れ込ませるためには、より大きくとる事が望ましい。しかしながら、間隔Xが開き過ぎると交差導波路14による放射モード光を再結合する効果が低減してしまう。このため、図4とほぼ同様の結果を得るためには、間隔Xを5〜40μm、好ましくは20〜30μmとするのが望ましい。
【0030】
さらに、上記実施例では、図1に示す光導波路回路10を、図3に示す5段構成のY分岐光導波路回路32からなる1×32のスプリッタ30への適用例ついて説明したが、これに限定されるものではない。Y分岐光導波路回路を用いる製品であれば光導波路回路10の適用は可能で、例えば、1×N結合・分岐回路、2×N結合・分岐回路、M×N結合・分岐回路等の様々な光導波路回路デバイスに適用することができる。
【0031】
さらに、本実施例では、スプリッタ30について説明し、入力された信号光が分岐される場合のみについて説明したが、入力された信号光が結合される場合についても適用可能である。図3を参照して具体的に説明すると、上述した32箇所の出力ポートから信号光を入力させ、1箇所の入力ポートから信号光を出力させるような信号光を結合させるような場合でも、本実施例は適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】(a)は本発明の光導波路回路の一実施例を示す概略構成図、(b)は(a)の主要部拡大図である。
【図2】(a)から(c)は本発明の光導波路回路の製造工程を示す断面図である。
【図3】本発明の光導波路回路を用いた光分岐結合器の一実施例を示す概略構成図である。
【図4】本発明の光導波路回路を用いた光分岐結合器の測定結果を示すグラフである。
【図5】従来の光導波路回路を用いた光分岐結合器の測定結果を示すグラフである。
【図6】本発明の比較例の光導波路回路を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0033】
9 Y分岐型光導波路
10 光導波路回路
11 入力側光導波路
12 テーパ状導波路
13a,13b 分岐側光導波路
14,14a,14b,14n 交差導波路
18 基板
19 コア層
20 導波路パターン
30 スプリッタ
32 Y分岐光導波路回路


















【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2本以上の分岐側の光導波路と、1本の入力側の光導波路とを備え、一方の光導波路から入力された信号光が分岐もしくは結合されてもう一方の光導波路から出力される光導波路回路において、前記入力側の光導波路と前記分岐側の光導波路の接続端面から分岐側の光導波路方向に向かって一定の間隔を設けて、分岐側の光導波路と交差する少なくとも1本以上の交差導波路が設けられたことを特徴とする光導波路回路。
【請求項2】
前記入力側の光導波路は、分岐側光導波路との接続端面部分が、分岐側光導波路に向かって拡幅のテーパ状となっているテーパ状導波路が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の光導波路回路。
【請求項3】
前記交差導波路は複数本設けられ、該交差導波路の幅は入力側の光導波路から離れるほど狭くなることを特徴とする請求項1および2記載の光導波路回路。
【請求項4】
前記交差導波路は複数本設けられ、隣接する交差導波路同士の間隔は入力側の光導波路から離れるほど広くなることを特徴とする請求項1乃至請求項3記載の光導波路回路。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4に記載の光導波路回路が基板上に多段に設けられたことを特徴とする光導波路回路デバイス。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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