説明

光導波路型測定システム、測定方法及び光導波路型センサチップ

【課題】測定対象物質の検出感度をより高精度に向上させることが可能な光導波路型測定システム、測定方法及び光導波路型センサチップを提供することである。
【解決手段】実施形態に係る光導波路型測定システムは、測定対象物質と特異的に結合する第1物質が固定化されたセンシングエリアを有する光導波路と、測定対象物質と特異的に結合する第2物質が固定化され、磁性を有する磁性微粒子と、磁性微粒子を移動させる磁場を生成する磁場印加部と、光導波路に光を入射させる光源と、光導波路から出射される光を受光する受光素子と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
後述する実施形態は、概ね、光導波路型測定システム、測定方法及び光導波路型センサチップに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、測定対象物質と特異的に結合する抗体を固定化した微粒子と、測定対象物質と特異的に結合する抗体を固定化した光導波路とを用い、抗原抗体反応によって光導波路の表面に測定対象物質を介して微粒子を結合させる光導波路型センサチップが開示されている。抗原抗体反応によって光導波路の表面に結合した微粒子のみに起因する吸光度を光導波路表面近傍のエバネッセント光によって検出するので、余剰の検体や二次抗体を洗浄する手順を含まずに測定対象物質を定量することが可能である。しかしながら、微粒子が抗原抗体反応によらず光導波路の表面に吸着することがあり、これらの抗原抗体反応によらずに吸着した微粒子によっても光が吸収・散乱されるため、高い検出感度を要する測定において測定誤差が生じる場合がある。
【0003】
そこで、より高感度な検出が必要とされる検査項目を想定すると、測定対象物質の検出感度をより高精度に向上させる技術の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−133842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、測定対象物質の検出感度をより高精度に向上させることが可能な光導波路型測定システム、測定方法及び光導波路型センサチップを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態に係る光導波路型測定システムは、測定対象物質と特異的に結合する第1物質が固定化されたセンシングエリアを有する光導波路と、測定対象物質と特異的に結合する第2物質が固定化され、磁性を有する磁性微粒子と、磁性微粒子を移動させる磁場を生成する磁場印加部と、光導波路に光を入射させる光源と、光導波路から出射される光を受光する受光素子と、を備えている。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】第1の実施形態に係る光導波路型測定システムの構成を示す図である。
【図2】磁性微粒子の形態を示す模式図である。
【図3】(a)〜(c)は、検体溶液中の測定対象物質を測定する方法を示す工程図である。
【図4】検出信号強度比の経時変化の例を示す図である。
【図5】測定結果の検量線を示す図である。
【図6】第2の実施形態に係る光導波路型測定システムの構成を示す図である。
【図7】(a)〜(c)は、検体溶液中の測定対象物質を測定する方法を示す工程図である。
【図8】第3の実施形態に係る光導波路型測定システムの構成を示す図である。
【図9】(a)〜(c)は、検体溶液中の測定対象物質を測定する方法を示す工程図である。
【図10】(a)は磁場印加部の構成を例示するための模式図、(b)は(a)におけるA−A矢視図、(c)は模式斜視図である。
【図11】(a)は磁場印加部の構成を例示するための模式図、(b)は(a)におけるB−B矢視図、(c)は模式斜視図である。
【図12】磁場印加部の作用、効果を例示するためのグラフ図である。(a)は、磁場印加部によりノイズとなりうる磁性微粒子を除去する工程を有する場合、(b)は、磁場印加部により磁性微粒子の分散液と検体溶液とを攪拌する工程をさらに有する場合である。
【図13】磁場印加部の作用、効果を例示するためのグラフ図である。(a)は、磁場印加部による上部磁場の印加のみを行う場合、(b)、(c)は、磁場印加部による下部磁場の印加と、磁場印加部による上部磁場の印加とを組み合わせて行う場合である。
【図14】(a)〜(d)は、検体溶液中の測定対象物質を測定する方法を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しつつ、実施の形態について例示をする。なお、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
また、本明細書において、「上部」、「上方」、「上方向」とは重力方向における「上部」、「上方」、「上方向」とし、「下部」、「下方」、「下方向」とは重力方向における「下部」、「下方」、「下方向」としている。
【0009】
[第1の実施形態]
図1は本実施形態に係る光導波路型測定システムの構成を示す図である。本実施形態に係る光導波路型測定システム30は、光導波路型センサチップ100と、光源7と、受光素子8と、磁場印加部10(第1の磁場印加部の一例に相当する)とを備える。
【0010】
また、本実施形態に係る光導波路型センサチップ100は、基板1と、グレーティング2と、測定対象物質14と特異的に反応する第1物質6が表面に固定化された光導波路3と、保護膜4と、枠5と、前記測定対象物質14と特異的に反応する第2物質13が固定化された磁性微粒子9とを備える。
【0011】
光導波路3は、例えば平面光導波路を用いることができる。この光導波路3は、例えばフェノール樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂のような熱硬化性樹脂または光硬化性樹脂、あるいは無アルカリガラスから形成することができる。詳細には、ここで用いる材料とは、所定の光に対する透過性を有する材料であって、例えば、基板1より高い屈折率を有する樹脂等であることが好ましい。検出面であるセンシングエリア101における検体溶液中の測定対象物質14と特異的に反応する第1物質6の固定化は、例えば、光導波路3の表面であるセンシングエリア101との疎水性相互作用や化学結合により行うことができる。
【0012】
第1物質6は、例えば検体溶液中の測定対象物質14が抗原の場合、抗体(一次抗体)を用いることができる。
【0013】
磁性微粒子9は、センシングエリア101上に分散状態で保持されているか、別の空間または容器等(図示せず)に保持されている。ここで「センシングエリア上に磁性微粒子が分散状態で保持される」とは、磁性微粒子9がセンシングエリア101の上方に直接的または間接的に分散状態で保持されることを意味する。「磁性微粒子がセンシングエリア101上方に間接的に分散する」形態は、例えば、磁性微粒子9がセンシングエリア101の表面にブロッキング層を介して分散される形態が挙げられる。ブロッキング層は、例えばポリビニルアルコール、ウシ血清アルブミン(BSA)、ポリエチレングリコール、リン脂質ポリマー、ゼラチン、カゼイン、糖類(例えばスクロース、トレハロース)のような水溶性物質を含む。別の例として、磁性微粒子9がセンシングエリア101の上方に空間を空けて配置される形態が挙げられる。例えば、センシングエリア101に対向する支持板(図示せず)が配置され、その支持板のセンシングエリア101と対向する面に、磁性微粒子9が分散状態で保持されていてもよい。この場合には、磁性微粒子9は乾燥または半乾燥状態で保持されていることが望ましい。なお、検体溶液などの分散媒と接した際に容易に再分散することが望ましいが、乾燥または半乾燥状態で保持されている形態が必ずしも完全な分散状態である必要は無い。別の空間または容器等に保持される場合には、乾燥または半乾燥状態の他に分散液中で分散したの状態、分散媒中で沈降した状態などでも差し支えない。
【0014】
図2は、磁性微粒子9の形態を示す模式図である。
図2(a)は磁性微粒子の外観を例示するための模式図、図2(b)、(c)は微粒子の断面を例示するための模式図である。
図2(a)に示すように、磁性微粒子9は、微粒子12の表面に、第2物質13が固定化されたものである。第2物質13は、例えば検体溶液中の測定対象物質14が抗原の場合、抗体(二次抗体)を用いることができる。
この場合、図2(b)のように、磁性ナノ微粒子12aを高分子材料でくるんだ微粒子12bや、図2(c)のように、コア12cと、コア12cを覆うように設けられたシェルと、を有する微粒子12dとすることができる。
コア12cは、高分子材料から形成されるものとすることができる。シェルは、高分子材料から形成され、磁性ナノ微粒子12aを含むものとすることができる。
あるいは、磁性体からなる微粒子そのものでもよく、この場合には微粒子表面に測定対象認識物質を結合させる官能基を有するものが望ましい。微粒子12に用いられる磁性体材料としては、例えばγ-Fe2O3等の各種フェライト類などが挙げられる。この場合、磁場の印加を停止すると速やかに磁性を失う超常磁性を有する材料を用いることが好ましい。
一般に超常磁性は、数10nm以下のナノ微粒子で起こる現象である。一方で、光の散乱が起きるためには微粒子の大きさは数100nm以上である必要がある。そのため、本実施形態における磁性微粒子9としては、図2(b)または図2(c)に示したような、磁性ナノ微粒子12aを高分子材料などでくるんだものが適している。
また、一般的に屈折率は、高分子材料では1.5〜1.6程度のものが多く、フェライト類では3.0程度である。また、磁性微粒子9が光導波路3の表面近くにあるとき、屈折率が高いものほど光を散乱しやすくなる。そのため、エバネッセント光のあたる微粒子12の表面近くに磁性ナノ微粒子12aが分布しているものの方が、より高感度に検出できると考えられる。
ここで、図2(b)のように、単に磁性ナノ微粒子12aを高分子材料でくるんだ微粒子12bは、磁性ナノ微粒子12aが微粒子全体に分布してしまう。そのため、検出感度の観点からは、図2(c)のように、コア−シェル型の微粒子12dとし、シェルに磁性ナノ粒子12aを高密度に含ませた構造が適している。
微粒子12の粒径は、0.05μm以上、200μm以下であることが望ましいが、更に望ましくは0.2μm以上、20μm以下である。この粒径を用いることによって光の散乱効率が高まるので、光を用いて測定対象物質14を検出する光導波路型測定システム30においては検出感度を向上することが可能となる。
【0015】
測定対象物質14および測定対象物質14と特異的に結合する第1物質あるいは第2物質の組み合わせは、抗原と抗体の組み合わせに限るものではない。他には例えば、糖とレクチン、ヌクレオチド鎖とそれに相補的なヌクレオチド鎖、リガンドと受容体等が挙げられる。
【0016】
基板1の主面の両端部には、入射側グレーティング2aおよび出射側グレーティング2bが設けられている。基板1は例えば、無アルカリガラスである。グレーティング2a、2bは、基板よりも高い屈折率を有する材料で形成される。平面を有する光導波路3は、グレーティング2a、2bを含む基板1主面に形成されている。保護膜4は、光導波路3上に被覆されている。保護膜4は、例えば低屈折率を有する樹脂膜である。保護膜4には、グレーティング2a、2b間に位置する光導波路3の表面の一部が露出する開口部が設けられている。開口部は、例えば、矩形状とすることができ、この開口部に露出する光導波路3の表面がセンシングエリア101となる。枠5は、センシングエリア101を囲むように保護膜4上に形成されている。
【0017】
検体溶液中の測定対象物質14と特異的に反応する第1物質6は、センシングエリア101に、例えばシランカップリング剤による疎水化処理により固定化されている。あるいは、センシングエリア101に官能基を形成し、適当なリンカー分子を作用させて化学結合によって固定化してもよい。検体溶液中の測定対象物質14と特異的に反応する第2物質13は、微粒子12の表面に、例えば物理吸着、あるいはカルボキシル基やアミノ基等を介した化学結合により固定化されている。第2物質13が固定化された磁性微粒子9は、前記第1物質6が固定化されたセンシングエリア101に分散、保持されている。この磁性微粒子9の分散、保持は、例えば磁性微粒子9および水溶性物質を含むスラリをセンシングエリア101、または、センシングエリア101に対向する面等(図示せず)に塗布、乾燥することにより形成される。あるいは、磁性微粒子9は液体に分散させて反応空間102とは別の空間あるいは容器等(図示せず)に保持してもよい。
【0018】
光源7は、前述の光導波路型センサチップ100に光を照射する。光源7は、例えば赤色レーザダイオードである。光源7から入射された光は、入射側グレーティング2aにより回折され、光導波路3内を伝播する。その後、出射側グレーティング2bにより回折されて出射される。出射側グレーティング2bから出射された光は、受光素子8により受光され、光強度が測定される。受光素子8は、例えばフォトダイオードである。入射した光と出射された光との強度を比較し、光の吸収率を測定することで、磁性微粒子9の量を測定する。そして、測定された磁性微粒子9の量に基づいて検体溶液中の抗原濃度を求める。なお、測定された磁性微粒子9の量に基づいて検体溶液中の抗原濃度を求めることに関する詳細は後述する。
【0019】
磁場印加部10は、光導波路型センサチップ100に対して磁場を印加する。磁場印加部10は、磁場を生成し、生成した磁場を光導波路型センサチップ100に印加することで、磁場に応じて磁性微粒子9を移動させる。磁場印加部10は、磁性微粒子9から見て光導波路3が存在する方向とは反対の方向に配置される。本実施形態においては、磁場印加部10は、図1における上方向に設置される。磁場印加部10は、例えば、磁石あるいは電磁石である。磁場強度を動的に調整するため、電磁石を用いて電流で調整する方法が望ましいが、フェライト磁石などを用いて、磁石そのものの強さや光導波路型センサチップ100からの距離によって磁場強度を調整してもよい。
例えば、フェライト磁石を光導波路センサチップ100の上方に配置し、磁石と光導波路センサチップ100との間にスペーサを介してその厚さを変えることによって磁場強度を調整することができる。また、リニアモータなどのアクチュエータを用いて、フェライト磁石と光導波路センサチップ100との相対的な位置を変化させて磁場強度を調整することもできる。
電磁石を用いる場合には、コイルを磁性微粒子9から見て沈降方向(光導波路3の方向)とは反対側に配置し、そのコイルに電流を印加すればよく、電流値を変えることによって磁場強度を調整することができる。
【0020】
本実施形態では、磁場印加部10により、磁性微粒子9に対して磁場を印加することで、抗原抗体反応によらずにセンシングエリア101に吸着した磁性微粒子9を、センシングエリア101から引き剥がすことができる。これにより、抗原抗体反応により測定対象物質14を介してセンシングエリア101に結合した磁性微粒子9のみに起因する吸光度を測定することができ、測定誤差を低減することができる。
【0021】
このとき、磁性微粒子9の微粒子12として、磁場の印加を停止すると速やかに磁化を失う超常磁性を有するものを用いることが好ましい。これにより、磁場を印加した際に磁性微粒子9同士が磁化により凝集しても、磁場の印加を停止することで再分散させることができる。例えば、検体溶液中に測定対象物質14が存在しない場合に磁場を印加しても、磁性微粒子9の凝集物が生成されてセンシングエリア101から剥がれにくくなる場合がある。この様な磁性微粒子9の凝集物は、測定誤差の要因となる。この場合、微粒子12が超常磁性を有するようにすれば、磁性微粒子9の凝集を抑制することができるので、測定誤差の発生を抑制することができる。
【0022】
また、磁場の印加を停止した際の再分散性を更に向上させるため、微粒子12の表面に正または負の電荷を持たせてもよい。あるいは、磁性微粒子9の分散媒に界面活性剤などの分散剤を添加してもよい。
【0023】
さらに、本実施形態では、自然沈降した磁性微粒子9を磁場印加部10により上方向に引き戻すことができる。磁性微粒子9の自然沈降と磁場印加部10による上方向への引き戻しを繰り返すことで、検体溶液と磁性微粒子9を攪拌することができる。これにより、検体溶液に含まれる抗原(測定対象物質14)を介した磁性微粒子9とセンシングエリア101との抗原抗体反応による結合が促進され、より短時間で高い検出感度を得ることができる。そのため、測定対象物質14が低濃度である場合に、検出感度を高めることが可能である。
【0024】
微粒子12の表面に正または負の電荷を持たせたり、界面活性剤などの分散剤を添加したりすれば、磁場の印加を停止した際に磁性微粒子9を再分散させ易くし、攪拌を更に促進させることができる。これにより、検出感度を更に向上させることが可能である。
【0025】
図3は、検体溶液中の測定対象物質を測定する方法を示す工程図である。
ここでは、前述した光導波路型測定システム30を用いて測定対象物質14の量を測定する方法を図3の(a)〜(c)を参照して説明する。
なお、反応空間102における状態を説明する。
【0026】
まず、図1に示す光導波路型測定システム30を用意する。次いで、図3(a)に示すように、磁性微粒子9が分散、保持されている光導波路3上に、検体溶液を導入し、磁性微粒子9を再分散させる。磁性微粒子9が光導波路3上以外の空間や別容器等に保持されている場合には、検体溶液と磁性微粒子9との混合分散液を導入する。あるいは、まず磁性微粒子9の分散液を導入した後、検体溶液を導入して混合するといったように、磁性微粒子9の分散液と検体溶液を別々に導入してもよい。
すなわち、測定対象物質14を含む検体溶液と、測定対象物質14と特異的に結合する第2物質13が固定化され磁性を有する磁性微粒子9と、が光導波路型センサチップ30に設けられ測定対象物質14と特異的に結合する第1物質6が固定化されたセンシングエリア101に接するようにすればよい。
導入の方法は、例えば滴下や流入が考えられる。
【0027】
次に、図3(b)に示すように、磁性微粒子9が自重によってセンシングエリア101に向けて沈降していく。この際、センシングエリア101に固定化された第1物質6(例えば、一次抗体)と、微粒子12の表面に固定化された第2物質13(例えば、二次抗体)とが測定対象物質14(例えば、抗原)を介して抗原抗体反応により結合する。これにより、磁性微粒子9がセンシングエリア101に結合される。
【0028】
次いで、図3(c)に示すように、磁性微粒子9から見て沈降方向とは異なる方向(例えば上方向)から磁場を印加することによって、測定対象物質14を介さずにセンシングエリア101に吸着した磁性微粒子9を沈降方向とは異なる方向(例えば上方向)に移動させることで、センシングエリア101から除去する。
【0029】
このとき、磁場強度を適切な値とすることで、抗原抗体反応により測定対象物質14を介してセンシングエリア101に結合された磁性微粒子9は引き剥がさず、測定対象物質14を介さずにセンシングエリア101に吸着した磁性微粒子9のみを除去することができる。
【0030】
本実施形態において、適切な磁場強度を、以下のように求めることが考えられる。エバネッセント光などの近接場光により検出できる磁性微粒子9の状態は、センシングエリア101との相互作用の強さの違いによって次の(状態1)〜(状態3)に分類することができる。相互作用が強い順番に記載すると、(状態1)は抗原抗体結合など、測定対象物質14と、それと特異的に結合する分子との結合によってセンシングエリア101と結合した磁性微粒子9の状態、(状態2)は分子間力や疎水性相互作用などによって、非特異的にセンシングエリア101に吸着した磁性微粒子9の状態、(状態3)はセンシングエリア101近傍で浮遊している磁性微粒子9の状態、である。(状態1)の磁性微粒子9は、測定対象物質14の濃度検出に寄与すべき磁性微粒子9であり、(状態2)または(状態3)の磁性微粒子9は、測定の誤差要因(ノイズ)となりうる磁性微粒子9である。 なお、(状態1)にある磁性微粒子9をセンシングエリア101に結合した磁性微粒子9と適宜称することにする。
また、(状態2)にある磁性微粒子9をセンシングエリア101に吸着した磁性微粒子9と適宜称することにする。
【0031】
ここで、近接場光で検出されうる光導波路3の「表面近傍」とは、例えば全反射で光が伝播する際に伝播体表面に染み出すエバネッセント光の場合、染み出し距離dは下記の式(1)によって求められる。式(1)より染み出し距離dは、概ね測定に用いる光の波長の数分の1程度であることがわかる。
【0032】
d=λ/{2π(n1sin2θ-n22)1/2} ・・・(1)
ここで、dはエバネッセント光の染み出し距離、λは測定に用いる光の波長、n1は光導波路3の屈折率、n2は磁性微粒子9を分散させる分散媒の屈折率、θは全反射角である。
そのため、磁場印加部10は、磁性微粒子9がセンシングエリア101から以下の式(2)を満足する距離Lだけ離れるような磁場強度を有する磁場を印加する。
L>λ/{2π(n1sin2θ-n22)1/2} ・・・(2)
ここで、Lは磁性微粒子9がセンシングエリア101から離れる距離、λは測定に用いる光の波長、n1は光導波路3の屈折率、n2は磁性微粒子9を分散させる分散媒の屈折率、θは全反射角である。
例えば、λ=635nm、n1=1.58、n2=1.33(分散媒が水の場合)、θ=78°とするとL>130nmとなる。従って、磁場を印加して(状態2)や(状態3)の磁性微粒子9を、センシングエリア101から僅かに数100nm程度遠ざけるだけで、測定誤差を充分に低減させることが可能となる。従って、検出感度の誤差とならない距離まで(状態2)や(状態3)の磁性微粒子9をセンシングエリア101から遠ざけるために要する時間はわずかな時間ですむ。また、時間が許容範囲内であれば、多少の時間を要しても、より弱い磁場強度で(状態2)や(状態3)の磁性微粒子9を測定誤差の要因とならない距離にまで移動させることが可能となる。これにより、(状態1)の測定に必要とされる磁性微粒子9が余分に引き剥がされる可能性を低減できる。つまり、測定に寄与すべき(状態1)の磁性微粒子9をセンシングエリア101から引き剥がすことなく、測定のノイズとなりうる(状態2)や(状態3)の磁性微粒子9をセンシングエリア101から測定に影響を与えない距離にまで引き剥がすことができるので、S/N比を改善することが可能である。
【0033】
このように、適切な磁場強度とは、測定に寄与すべき(状態1)の磁性微粒子9をセンシングエリア101から引き剥がすことなく、測定のノイズとなりうる(状態2)や(状態3)の磁性微粒子9をセンシングエリア101から測定に影響を与えない距離にまで引き剥がすのに適切な磁場強度である。前述したように、電磁石を用いて電流で磁場強度を最適に調整する方法が望ましいが、フェライト磁石などを用いて、磁石そのものの強さや、光導波路型センサチップ100と磁石との相対的な位置を変化させて磁場強度を調整してもよい。電磁石を用いる場合には、コイルを磁性微粒子9から見て沈降方向(光導波路3の方向)とは反対側に配置し、そのコイルに電流を印加すればよく、電流値を変えることによって磁場強度を調整することができる。
【0034】
また、磁場強度を最適に調整するために、本実施形態の光導波路型測定システム30は、磁場印加部10にて印加される磁場の磁場強度を制御する制御部20(第2の制御部の一例に相当する)をさらに備えていてもよい。この制御部20により、前述のような制御を行うことで、磁場強度が適切な強度となるように調整することができる。例えば、測定に寄与すべき(状態1)の磁性微粒子9をセンシングエリア101から引き剥がすことなく、測定のノイズとなりうる(状態2)や(状態3)の磁性微粒子9をセンシングエリア101から測定に影響を与えない距離にまで引き剥がすことができる磁場強度となるように調整することができる。
また、磁場強度を随時調整する場合には、制御部20で調整することにより、動的に制御することができる。
例えば、磁場印加部10にて磁場を印加するタイミング及び時間の長さの少なくともいずれかを制御する制御部20(第1の制御部の一例に相当する)とすることもできる。
【0035】
そして、受光素子8における検出信号強度比の差分を計測することで、検体溶液中の測定対象物質14の量(例えば、抗原濃度)を測定できる。具体的には、図1において、光源7からレーザ光を入射側グレーティング2aから光導波路3に入射させ、その光導波路3を伝播させて表面(センシングエリア101での露出表面)付近にエバネッセント光などの近接場光を発生させる。この状態で検体溶液と磁性微粒子9との混合分散液をセンシングエリア101上に導入すると、磁性微粒子9は、その直後(図3(a))から沈降してセンシングエリア101近傍、例えば、エバネッセント光領域に達する(図3(b))。磁性微粒子9がエバネッセント光の吸収や散乱に関与するため、反射光の強度が減衰する。その結果、出射側グレーティング2bから出射されるレーザ光を受光素子8で受光すると、出射されるレーザ光強度は、結合された磁性微粒子9の影響によって時間の経過に伴って低下する。その後、磁場印加部10により上部磁場を印加すると、(状態2)や(状態3)となっている磁性微粒子9がエバネッセント光領域外に移動する(図3(c))ので、受光強度が所定の値まで回復する。この時の受光強度を図3(a)の状態、すなわち混合分散液導入直後における受光強度と比較し、例えば低下率として数値化することができる。 また、検体溶液などを光導波路型センサチップ100に導入した後であって磁場の印加前に、光導波路型センサチップ100から出射される光の光強度(第1の光強度の一例に相当する)を測定する。また、磁場の印加後に、光導波路型センサチップ100から出射される光の光強度(第2の光強度の一例に相当する)を測定する。そして、これらの光強度の差分に基づいて測定対象物質14を定量することができる。
【0036】
受光素子8で受光したレーザ光強度の低下率は、センシングエリア101に対して主に抗原抗体反応等によって結合した磁性微粒子9の量に依存する。つまり、抗原抗体反応に関与する検体溶液中の抗原濃度に比例する。したがって、抗原濃度が既知の検体溶液において時間の経過に伴うレーザ光強度の変動曲線を求め、この変動曲線の上部磁場の印加後の所定の時間でのレーザ光強度の低下率を求め、抗原濃度とレーザ光強度の低下率との関係を示す検量線を予め作成する。次に、抗原濃度が未知の検体溶液において前記方法で測定した時間とレーザ光強度の変動曲線から所定の時間でのレーザ光強度の低下率を求め、このレーザ光強度の低下率を前記検量線と照合させることにより、検体溶液中の抗原濃度を測定できる。
【0037】
次に、実験により本実施形態の測定を実施した例を説明する。以下の具体的数値や材料は一例であり、これらの数値や材料に限定されるものではない。
【0038】
実験においては、ガラス等の透光性を有する基板1に、屈折率が2.2〜2.4である酸化チタン膜をスパッタリング法により50nmの厚さに成膜し、リソグラフィー法とドライエッチング法によりグレーティング2a、2bを形成した。グレーティング2a、2bが形成された基板1に、膜厚約10μmの紫外線硬化性アクリル樹脂膜をスピンコート法と紫外線照射により形成し、光導波路3とした。硬化後の屈折率は1.58である。
【0039】
低屈折率樹脂膜である保護膜4は、光導波路3の表面に、グレーティング2a、2bの上方に相当する領域を含み、センシングエリア101である抗体固定化領域を囲むように、スクリーン印刷法を用いて形成した。保護膜4の乾燥後の屈折率は1.34である。検体溶液等を保持する為の液溜を形成する為、樹脂製の枠5を両面テープで固定化した。グレーティングの間の保護膜を形成しない領域の表面に、測定対象物質14に対する第1物質6を共有結合法によって固定化した。
【0040】
本実施形態では測定対象物質14としてラットインスリンを用い、センシングエリア101に固定化する第1物質6として抗ラットインスリン抗体を用いた。また、磁性微粒子9は、シェルに磁性ナノ微粒子12aを高密度に含むコア−シェル型の微粒子12dを有するものとした。微粒子12dの平均粒径は、1.1μmとした。微粒子12dの表面には、第2物質13として抗ラットインスリン抗体を共有結合法で固定化した。そして、この様な磁性微粒子9を含む分散液を別途調製した。
【0041】
次いで、入射側のグレーティング2aから、発光ダイオード7による中心波長635nmの光を入射し、出射側のグレーティング2bから出射された光の光強度をフォトダイオード8で測定しつつ、検体溶液と、磁性微粒子9の分散液とを混合後、センシングエリア101(枠5の内部)に導入した。その後、前述した測定手順に従って測定を実施した。
【0042】
なお、本実施形態では、フェライト磁石を光導波路型センサチップ100の上方に配置し、フェライト磁石と光導波路型センサチップ100との間にスペーサを設け、スペーサの厚みを変えることによって磁場強度を変化させた。
【0043】
図4は、検出信号強度比の経時変化の例を示す図である。
図4は、本実施形態に係る測定方法における検出信号強度比の経時変化の一例を示すものである。
図5は、測定結果の検量線を示す図である。
図4に示すように、まず磁性微粒子9の分散液と検体溶液とを混合しセンシングエリア101に導入すると、磁性微粒子9の沈降によるセンシングエリア101近傍の微粒子密度上昇に応じて検出信号強度比が低下する。その後、磁場印加部10により上部磁場を印加すると、センシングエリア101に吸着したノイズとなりうる磁性微粒子9が除去されるので、再び検出信号強度比が上昇し、初期の検出信号強度比より低い値で飽和する。この段階における検出信号強度比と初期の検出信号強度比との差分を初期の検出信号強度比に対する比率、すなわち信号低下率とする。信号低下率とラットインスリン濃度との関係を表したものが図5に示す検量線となる。
【0044】
図4及び図5より、本実施形態の測定方法を用いると、ノイズとして測定誤差の要因となる非特異吸着による磁性微粒子9を適切な磁場でエバネッセント波領域から除去することによって、極低濃度のラットインスリンを検出できることを確認した。
【0045】
本実施形態によれば、磁性微粒子9に対して沈降方向とは異なる方向において磁場を印加することで、抗原抗体反応などによらずにセンシングエリア101に吸着したノイズとなりうる磁性微粒子9を、センシングエリア101から引き剥がすことができる。これにより、抗原抗体反応などにより測定対象物質14を介してセンシングエリア101に結合した磁性微粒子9に起因する吸光度を測定することができるので、測定誤差を低減することができる。
【0046】
また、磁場印加によりノイズとなりうる磁性微粒子9を除去することが可能なので、このような磁性微粒子9を洗浄により除去する作業が不要となる。
【0047】
本実施形態によれば、光導波路型センサチップ100を用い、エバネッセント光などの近接場光によって測定するので、センシングエリア101から測定に影響を与えない範囲にまで磁性微粒子9を引き剥がす距離が短くてすむ。これにより、上部磁場の印加によりセンシングエリア101から磁性微粒子9を引き剥がすために要する時間が短くてすむ。あるいは、より弱い磁場により、センシングエリア101から測定に影響を与えない範囲にまで磁性微粒子9を引き剥がすことが可能となる。
【0048】
また、本実施形態によれば、磁場強度を制御することが可能なので、測定に寄与すべき磁性微粒子9をセンシングエリア101から引き剥がすことなく、測定のノイズとなりうる磁性微粒子9をセンシングエリア101から測定に影響を与えない距離にまで引き剥がすことができる。これにより、S/N比を改善することが可能となる。
【0049】
また、本実施形態によれば、制御部20により動的に磁場強度を制御することで、測定精度を高く保つことができる。
【0050】
また、磁性微粒子9の微粒子12として、磁場の印加を停止すると速やかに磁化を失う超常磁性を有するものを用いるようにすれば、磁場の印加を停止した際に磁性微粒子9を容易に再分散させることができる。そのため、検体溶液中に測定対象物質14が存在しない場合においても磁性微粒子9の凝集物が生成されることが抑制されるので、測定誤差の発生を抑制することができる。
さらに、磁性微粒子9として、シェルに磁性ナノ微粒子12aを含むコア−シェル型の微粒子12dを有するものを用いることで、エバネッセント光の散乱強度を高くすることができる。その結果、高感度な検出を行うことができる。
【0051】
さらに、磁性微粒子9における微粒子12の表面に正または負の電荷を持たせたり、界面活性剤などの分散剤を添加したりすることにより、磁場の印加を停止した際に磁性微粒子9を再分散させ易くし、測定誤差を低減させることも可能である。
【0052】
また、本実施形態によれば、自然沈降した磁性微粒子9を、沈降方向とは異なる方向において磁場を印加することにより引き戻すことができる。磁性微粒子9の自然沈降と磁場印加部10による上方向への引き戻しを繰り返すことで、検体溶液と磁性微粒子9とが攪拌されるため、検体溶液に含まれる測定対象物質14(例えば、抗原)と磁性微粒子9との抗原抗体反応が促進され、より短時間で高い検出感度を得ることができる。そのため、測定対象物質14が低濃度である場合に、検出感度を高めることが可能である。
【0053】
このときさらに、磁性微粒子9における微粒子12の表面に正または負の電荷を持たせたり、界面活性剤などの分散剤を添加したりすることにより、磁場の印加を停止した際に磁性微粒子9を再分散させ易くし、攪拌を促進し、検出感度を向上させることが可能である。
【0054】
また、本実施形態によれば、光導波路型センサチップ100を用い、エバネッセント光などの近接場光によって測定対象物質14の量や濃度などを測定する。この場合、0.05μm以上、200μm以下、好ましくは0.2μm以上、20μm以下の粒径の磁性微粒子9を用いるようにすれば、光の散乱効率を高めることができるので、測定対象物質14の検出感度を向上させることができる。
【0055】
[第2の実施形態]
第1の実施形態では、磁性微粒子9から見て光導波路3の方向とは反対の方向に磁場を印加する場合を説明したが、第2の実施形態では、磁性微粒子9から見て光導波路3の方向及びその反対の方向の双方に磁場を印加する場合を説明する。
【0056】
図6は第2の実施形態に係る光導波路型測定システムの構成を示す図である。本実施形態に係る光導波路型測定システム30aは、図1に示す第1の実施形態の光導波路型測定システム30に、磁場印加部11(第2の磁場印加部の一例に相当する)を更に加えたものである。それ以外の構成は、第1の実施形態と同様であるので、説明を省略する。
【0057】
磁場印加部11は、光導波路型センサチップ100に対して、磁性微粒子9から見て光導波路3の方向において磁場を印加する。これにより、光導波路3の方向へ磁性微粒子9を移動させることができる。
【0058】
磁場印加部11は、磁性微粒子9から見て光導波路3が存在する方向に設けられる。本実施形態においては、磁場印加部11は、センサチップ100の下方向に設けられる。
【0059】
磁場印加部11は、磁場印加部10と同様に、磁石あるいは電磁石である。磁場強度を動的に調整するため、電磁石を用いて電流で調整する方法が望ましいが、フェライト磁石などを用いて、磁石そのものの強さや光導波路センサチップ100と磁石との相対的な位置を変化させて磁場強度を調整してもよい。例えば、フェライト磁石を光導波路センサチップ100の下方に配置し、磁石と光導波路センサチップ100との間にスペーサを介してその厚さを変えることによって磁場強度を調整することができる。電磁石を用いる場合には、コイルを磁性微粒子から見て光導波路3の方向に配置し、そのコイルに電流を印加すればよく、電流値を変えることによって磁場強度を調整することができる。
【0060】
ここで、本実施形態の光導波路型測定システム30aは、制御部20aをさらに備えていてもよい。制御部20aは、磁場印加部10及び磁場印加部11、あるいはいずれか片方により印加する磁場の強度を制御する。この場合、例えば、図6に示すように、磁場印加部10及び磁場印加部11に対して共通の制御部20aと、切り替えスイッチ20a1とを設けるようにすることができる。また、磁場印加部10及び磁場印加部11に対してそれぞれ独立の制御部を設けるようにすることもできる。また、磁場印加部10及び磁場印加部11に対して同時に磁場強度の制御を行う制御部を設けるようにすることもできる。また、磁場強度を随時制御することで、動的に適切な磁場強度となるように制御する制御部20aとしてもよい。
【0061】
また、制御部20aは、磁場印加部10と磁場印加部11のそれぞれにおいて磁場を印加するタイミングを制御しても良い。これにより、磁場印加部10と磁場印加部11が所定の条件(例えば、所定の時刻あるいは所定の磁場を印加し続ける時間など)に従って、交互に磁場を印加することができる。
【0062】
図7は、検体溶液中の測定対象物質を測定する方法を示す工程図である。
ここでは、前述した光導波路型測定システム30aを用いて測定対象物質14の量を測定する方法を図7の(a)〜(c)を参照して説明する。
なお、センシングエリア101における状態を説明する。
また、図7の(a)、(c)は、図3に示す第1の実施形態と同様なので、説明を省略する。
また、受光素子8における検出信号強度比の差分を計測することで、検体溶液中の抗原濃度を測定することも第1の実施形態の場合と同様のため説明を省略する。
【0063】
図7の(b)は図3に示す第1の実施形態と異なるので、以下に説明する。図7の(b)において、磁場印加部11により磁性微粒子9から見て沈降方向(光導波路3の方向、例えば、図6における下方向)において下部磁場印加を行う。これにより、磁性微粒子9がセンシングエリア101に引き寄せられる。この際、センシングエリア101に固定化された第1物質6(例えば、一次抗体)と、磁性微粒子9の微粒子12に固定化された第2物質13(例えば、二次抗体)とが測定対象物質14(例えば、抗原)を介して抗原抗体反応により結合する。これにより、磁性微粒子9がセンシングエリア101に結合される。
【0064】
本実施形態においては、図7(b)に示す下方向への磁場印加と、図7(c)に示す上方向への磁場印加を交互に繰り返しても良い。
【0065】
図7(b)に示す下方向への磁場印加により磁性微粒子9を光導波路3に引き寄せた際には、検体溶液中には測定対象物質14が第1物質6及び第2物質13のいずれとも結合しない状態、あるいは微粒子12の表面に固定化された第2物質13と結合しているがセンシングエリア101に固定化された第1物質6とは結合していない状態で残存している。また、センシングエリア101には非特異的に吸着した磁性微粒子9が存在する。
【0066】
そこで、図7(c)において、抗原抗体反応等によって結合した磁性微粒子9が剥がれない強度の磁場を印加し、抗原抗体反応等によって結合していない磁性微粒子9を光導波路3とは異なる方向に移動させる。
【0067】
その後、再び図7(b)に示すように、光導波路3の方向に磁場を印加して抗原抗体反応等によって結合していない磁性微粒子9を引き寄せる。すると、測定対象物質14や、微粒子12の表面に固定化された第2物質13に結合した測定対象物質14がセンシングエリア101に固定化された第1物質6に新たに結合する。
【0068】
これを繰返すことで、抗原抗体反応などによりセンシングエリア101に結合していない磁性微粒子9の数を減らし、抗原抗体反応などによりセンシングエリア101に結合する磁性微粒子9の数を増大させることができる。その結果、S/N比を向上させることができる。
【0069】
本実施形態によれば、磁場印加部11により、磁性微粒子9に対して磁場を印加することで、磁性微粒子9をセンシングエリア101に引き寄せることができる。これにより、磁性微粒子9をセンシングエリア101に対してより結合させ易くなるので、測定対象物質14の検出感度を向上させることができる。
【0070】
また、磁性微粒子9と検体溶液とを反応空間102に導入後、速やかにセンシングエリア101の方向に磁性微粒子9を引き寄せることによって、磁性微粒子9の自然沈降を待つ時間を短縮することができるので、短時間で測定をすることができる。また、磁性微粒子9同士の反応や凝集が進む前に磁性微粒子9とセンシングエリア101との結合を促進することができる。これにより、磁性微粒子9とセンシングエリア101との結合に対する測定対象物質14の利用率をより高めることができるので、より高い検出感度が得られる。
【0071】
さらに、磁場印加部10及び磁場印加部11の双方、あるいはいずれか片方により磁性微粒子9を移動させることで、検体溶液と磁性微粒子9を攪拌することができる。これにより、検体溶液に含まれる測定対象物質14(例えば、抗原)と磁性微粒子9との抗原抗体反応などが促進され、より短時間で高い検出感度の測定を行うことができる。また、磁場印加部10による上部磁場印加と、磁場印加部11による下部磁場印加を繰り返し磁性微粒子9を往復運動させることで、より攪拌することができる。これによって磁性微粒子9が測定対象物質14を介してセンシングエリア101に結合する機会が増加するので、より短時間で測定対象物質14を検出することができる。また、磁性微粒子9がセンシングエリア101に結合する確率を向上させ、測定対象物質14の検出感度及び測定精度を向上させることが可能となる。例えば、測定対象物質14が低濃度である場合に有効である。
【0072】
本実施形態においては、磁場を用いて磁性微粒子9を攪拌するので、人手による攪拌操作やポンプなどを有する攪拌機構が不要となり、操作が簡便で小型の測定システムを実現することができる。例えば、制御部20aによる磁場印加を自動化すれば、測定者が検体溶液をセンサチップ100に導入するという1操作のみで測定を行うことができる。
【0073】
さらに、磁性微粒子9の微粒子12として、磁場の印加を停止すると速やかに磁化を失う超常磁性を有するものを用いるようにすれば、磁場を印加した際に磁性微粒子9同士が磁化により凝集しても、磁場の印加を停止することで再分散させることができる。仮に磁場の印加時に磁性微粒子9同士が凝集しても、センシングエリア101近傍に磁性微粒子9同士の凝集物が到達する前に磁場の印加を停止することにより、磁性微粒子9同士の凝集物を再分散させることができる。そのため、磁性微粒子9は分散状態でセンシングエリア101に到達することができる。従って、磁性微粒子9同士の凝集による測定ノイズの増大を防ぐことが可能となる。
【0074】
また、磁場の印加を停止した際の再分散性を更に向上させるため、磁性微粒子9における微粒子12の表面に正または負の電荷を持たせてもよい。あるいは、磁性微粒子9における微粒子12の表面に分散媒として界面活性剤などの分散剤を添加してもよい。
【0075】
また、本実施形態によれば、制御部20aにより磁場印加部10と磁場印加部11の磁場強度を適切に制御することで、測定対象物質14の検出感度及び測定精度を向上させることができる。
【0076】
なお、本実施形態においても、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0077】
[第3の実施形態]
第1、2の実施形態では、磁性微粒子から見て自然沈降方向に光導波路が配置された場合を説明したが、第3の実施形態では、磁性微粒子から見て自然沈降方向とは反対方向に光導波路が存在する構成の場合を説明する。
【0078】
図8は第3の施形態に係る光導波路型測定システムの構成を示す図である。本実施形態に係る光導波路型測定システム30bは、図6に示す第2の実施形態の光導波路型測定システム30aにおける枠5に替えて、液体が落下しない囲い状の形状を有するキャップ15を用い、図6に示す第2の実施形態の光導波路型測定システム30aの全体を上下に反転させている。すなわち、本実施形態においては、磁場印加部10が光導波路型センサチップ100の下方、磁場印加部11が光導波路型センサチップ100の上方に配置される。そのため、本実施形態においては、磁場印加部10が下部磁場を印加し、磁場印加部11が上部磁場を印加することになる。
なお、磁場印加部10は必ずしも必要ではない。それ以外の構成は、第2の実施形態と同様であるので、説明を省略する。
【0079】
図8に示す測定システムにおいては、検体溶液と磁性微粒子9との混合分散液を保持するために、枠5の替わりに断面が例えば凹形状であるようなキャップ15を備えている。キャップ15とセンシングエリア101とによって、液導入用の開口部や空気抜き穴(いずれも図示せず)を除いて半閉鎖空間となる反応空間102aを形成している。
【0080】
ここで、本実施形態の光導波路型測定システム30bは、制御部20bをさらに備えていてもよい。制御部20bは、磁場印加部10及び磁場印加部11、あるいはいずれか片方により印加される磁場の強度を制御する。この場合、例えば、図8に示すように、磁場印加部10及び磁場印加部11に対してそれぞれ独立の制御部20b1、20b2を設けるようにすることができる。また、磁場印加部10及び磁場印加部11に対して共通の制御部と、図示しない切り替えスイッチとを設けるようにすることもできる。また、磁場印加部10及び磁場印加部11に対して同時に磁場強度の制御を行う制御部を設けるようにすることもできる。また、磁場強度を随時制御することで、動的に適切な磁場強度となるように制御する制御部20bとしてもよい。
【0081】
また、制御部20bは、磁場印加部10と磁場印加部11のそれぞれにおける磁場を印加するタイミングを制御しても良い。これにより、磁場印加部10と磁場印加部11が所定の条件(例えば、所定の時刻あるいは所定の磁場を印加し続ける時間など)に従って、交互に磁場を印加することができる。
【0082】
図9は、検体溶液中の測定対象物質を測定する方法を示す工程図である。
ここでは、前述した光導波路型測定システム30bを用いて測定対象物質14の量を測定する方法を図9の(a)〜(c)を参照して説明する。
なお、反応空間102aにおける状態を説明する。
また、受光素子8における検出信号強度比の差分を計測することで、検体溶液中の測定対象物質14の量や濃度(例えば、抗原濃度など)を求めることは、第1の実施形態の場合と同様のためその説明は省略する。
【0083】
まず、図8に示す測定システムを用意する。次いで、図9(a)に示すように、枠5とセンシングエリア101とで形成された反応空間102a内に、検体溶液と磁性微粒子9との混合分散液を満たした状態を形成する。そのための方法は第1の実施形態で説明した方法と同様である。また、検体溶液などの導入は液導入用の開口部(図示せず)を通じた流入による方法が望ましい。ここで、検体溶液中には、自重で沈降する夾雑物質17が含まれている場合がある。夾雑物質17としては、例えば血液における血球成分などが挙げられる。このような夾雑物質17がセンシングエリア101近傍に存在すると、それ自体が散乱体となって測定ノイズの要因となったり、磁性微粒子9がセンシングエリア101に結合する反応が妨げられたりすることによって、測定精度が低下するおそれがある。
【0084】
次に、図9(b)に示すように、磁場印加部11により磁性微粒子9から見てセンシングエリア101の方向に磁場を印加する。これにより、磁性微粒子9がセンシングエリア101に引き寄せられる。この際、センシングエリア101に固定化された第1物質6(例えば、一次抗体)と、微粒子12の表面に固定化された第2物質13(例えば、二次抗体)とが測定対象物質14(例えば、抗原)を介して抗原抗体反応により結合する。これにより、磁性微粒子9がセンシングエリア101に結合される。これと同時に、沈降性の夾雑物質17は、自重によって図9(b)の下方向(センシングエリア101とは反対方向)に移動する。
【0085】
次いで、図9(c)に示すように、磁場印加部10により図9(c)に示す下方向への磁場を印加する。すると、抗原抗体反応によらず測定対象物質14を介さずにセンシングエリア101に吸着していた磁性微粒子9が沈降方向に移動し、センシングエリア101から除去される。ここで、磁場印加部10を持たない測定システムを用いて、単に図9(b)に示す上方向における磁場の印加を停止するだけでも、抗原抗体反応などによらず測定対象物質14を介さずにセンシングエリア101に吸着した磁性微粒子9を自重によって下方向へ移動させることができる。しかしながら、この方法では、磁性微粒子9のセンシングエリア101への吸着力が自重に相当する下方向への力に勝る場合には、センシングエリア101に吸着している磁性微粒子9を除去することが困難となる。なお、図9(c)に示す工程においても、沈降性の夾雑物質17は、自重によって図9(c)の下方向(光導波路3とは反対方向)に移動を続ける。
【0086】
本実施形態においても、図9(b)に示す上方向における磁場印加と、図9(c)に示す下方向における磁場印加または磁性微粒子9の自重による沈降と、を交互に繰り返しても良い。その効果については第2の実施形態で述べたものと同様であるためその説明は省略する。
【0087】
本実施形態によれば、磁性微粒子9から見て上方にセンシングエリア101が位置し、磁場印加部11により、磁性微粒子9に対して磁場を印加している。そのため、磁性微粒子9をセンシングエリア101に引き寄せると同時に、沈降性の夾雑物質17を下方向へ沈降させることができる。これにより、夾雑物質17をセンシングエリア101近傍のエバネッセント光領域外に自然に移動させることができる。その結果、夾雑物質17を予め濾過等によって除去することなく、測定精度をより高めることができる。
【0088】
なお、本実施形態においても、第1および第2の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0089】
次に、磁場印加部についてさらに例示をする。
図10は、磁場印加部の構成を例示するための模式図である。
図10(a)は磁場印加部の構成を例示するための模式図、図10(b)は図10(a)におけるA−A矢視図、図10(c)は模式斜視図である。
なお、図10に例示をする磁場印加部40は、前述した磁場印加部10および磁場印加部11のいずれにも用いることができる。
図10に示すように、磁場印加部40にはコイル41、コア42が設けられている。
コイル41は、ボビン41aと、絶縁電線41bとを有する。ボビン41aは絶縁電線41bが巻きつけられる筒状部41a1と、筒状部41a1の両端に設けられたフランジ41a2とを有する。
ボビン41aは、単純な筒状となっているので、ボビン41a単体の状態において絶縁電線41bを巻きつける場合、高速の巻きつけを行うことができる。そのため、巻線工程の時間短縮を図ることが可能となる。また、絶縁電線41bが巻きつけられたボビン41aをコア42に挿入するという簡易な組み立てとすることができるので、組み立て工程の時間短縮を図ることが可能となる。
なお、ボビン41aは必ずしも必要ではなく適宜設けるようにすることができる。例えば、コア42に絶縁電線41bを巻きつけることでコイル41を形成することもできる。
【0090】
コア42は、コイル41が設けられる第1のコア部42aと、コイル41の外側に設けられる第2のコア部42bと、第1のコア部42aの一方の端部と第2のコア部42bの一方の端部とを磁気的に接続する接続部42cと、を有する。図10に例示をした磁場印加部40においては、第1のコア部42aを挟んで対称な位置に2つの第2のコア部42bが設けられている。
この場合、第1のコア部42a、第2のコア部42b、接続部42cが分離できるようにすることもできる。
そのようにすれば、コア42にコイル41を組み付ける際の組立性を向上させることができる。
また、図10(b)に示すように、第2のコア部42bのセンシングエリア101側の端面の隙間側(第1のコア部42a側)の辺42b1、または、第1のコア部42aのセンシングエリア101側の端面の隙間側(第2のコア部42b側)の辺42a1は、光導波路3の内部を光が伝播する方向と平行となっている。
そのようにすれば、均一な磁場を印加することができるので、センシングエリア101における磁性微粒子9の分布を均一化することができる。
また、光導波路3の内部を光が伝播する方向において、第1のコア部42a及び第2のコア部42bのセンシングエリア101側の端面の長さは、センシングエリア101の長さ以上となっている。
そのようにすれば、センシングエリア101全体に磁場を印加することができるので、センシングエリア101全体において磁性微粒子9の移動を行うことができる。
【0091】
また、第1のコア部42aのセンシングエリア101側の端面と、第2のコア部42bのセンシングエリア101側の端面と、は平坦面となっている。
センシングエリア101側の端面を平坦面とすれば、第1のコア部42aとセンシングエリア101との間の距離、第2のコア部42bとセンシングエリア101との間の距離を縮めることができる。
また、図示は省略するが、第1のコア部42aと第2のコア部42bは、センシングエリア101に近づくにつれ断面積が小さくなる形態を有したものとすることができる。
すなわち、第1のコア部42aと第2のコア部42bは、先端側が細くなる形態を有したものとすることができる。
そのようにすれば、磁束を集中させることができるので、強い磁界を印加することができる。
また、図示は省略するが、第2のコア部42bは、センシングエリア101側の端部が互いに近接する方向に傾斜した形態を有したものとすることができる。
そのようにすれば、磁場の生成を容易とすることができる。
【0092】
コア42は、炭素鋼よりも残留磁化が小さい材料から形成することができる。
例えば、コア42は、純鉄などから形成することができる。
コア42の材料をこの様にすれば、制御部20などにより磁場の印加を停止した際にコア42の残留磁場が前述した磁性微粒子9の移動に与える影響を抑制することができる。 コア42は、絶縁被覆した厚みが薄く磁性を有する板(例えば、珪素鋼板など)を磁場と平行な方向に積層した構造を有するものとすることができる。
薄板状のコア42は、プレス加工を用いて、容易、かつ高速に加工することができる。さらに、加圧と同時に積層する場合に、コア42の一部を厚み方向に突起させておくことで、積層されたコア42を連結固定することができる。そのため、加工工数の低減を図ることができる。
また、コア42内の磁束は平面方向に流れやすく、厚み方向に流れにくいという磁束の流れ方向に異方性を有している。そのため、積層方向を光導波路3の内部を光が伝播する方向と平行とすれば、センシングエリア外への磁束の漏れが少なくなるので、より少ない電磁力で所望の磁場を発生させることができる。その結果、光導波路型測定システムの効率を向上させることができる。
コア42は、絶縁被覆した磁性を有する粉末(例えば、カーボニル鉄などの強磁性体からなる微細な粉末など)を加圧成型した構造を有するものとすることもできる。
コア42の構造をこれらのようにすれば、渦電流損を低減させることができる。
図10においては、第1のコア部42aにコイル41を設けるようにしたがこれに限定されるわけではない。例えば、第2のコア部42bにコイル41を設けるようにしても良いし、第1のコア部42aと第2のコア部42bとにコイル41を設けるようにしても良い。また、接続部42cにコイル41を設けても良い。
また、図10中の右側の第2のコア部42bと、図10中の左側の第2のコア部42bとに、コイル41を別々に設けても良い。このとき、右側のみのコイルに通電すること、左側のコイルのみに通電すること、さらには左右のコイルに同時に通電すること、のいずれもができるように、通電電流をそれぞれ独立に制御してもよい。そのようにすれば、上下左右方向における磁性微粒子9の移動を制御することができる。そのため、磁性微粒子9と測定対象物質14とを接触させる機会を増やすことができるので、検出精度の向上を図ることができる。
【0093】
次に、他の実施形態に係る磁場印加部について例示をする。
図11は、磁場印加部の構成を例示するための模式図である。
図11(a)は磁場印加部の構成を例示するための模式図、図11(b)は図11(a)におけるB−B矢視図、図11(c)は模式斜視図である。
なお、図11に例示をする磁場印加部50は、前述した第1の磁場印加部10および磁場印加部11のいずれにも用いることができる。
図11に示すように、磁場印加部50にはコイル41、コア52が設けられている。
コイル41は、前述したものと同様のため説明は省略する。
【0094】
コア52は、コイル41が設けられる2つのコア部52aと、コア部52aの一方の端部同士を磁気的に接続する接続部52cと、を有する。
この場合、コア部52a、接続部52cが分離できるようにすることもできる。
そのようにすれば、コア52にコイル41を組み付ける際の組立性を向上させることができる。
また、図11(b)に示すように、コア部52aのセンシングエリア101側の端面の隙間側の辺52a1は、光導波路3の内部を光が伝播する方向と平行となっている。
そのようにすれば、均一な磁場を印加することができるので、センシングエリア101における磁性微粒子9の分布を均一化することができる。
また、光導波路3の内部を光が伝播する方向において、コア部52aのセンシングエリア101側の端面の長さは、センシングエリア101の長さ以上となっている。
そのようにすれば、センシングエリア101全体に磁場を印加することができるので、センシングエリア101全体において磁性微粒子9の移動を行うことができる。
【0095】
また、コア部52aのセンシングエリア101側の端面は平坦面となっている。
センシングエリア101側の端面を平坦面とすれば、コア部52aとセンシングエリア101との間の距離を縮めることができる。
また、図示は省略するが、コア部52aは、センシングエリア101に近づくにつれ断面積が小さくなる形態を有したものとすることができる。
すなわち、コア部52aは、先端側が細くなる形態を有したものとすることができる。 そのようにすれば、磁束を集中させることができるので、強い磁場を印加することができる。
また、コア部52aは、センシングエリア101側の端部が互いに近接する方向に傾斜した形態を有したものとすることができる。
そのようにすれば、磁場の生成を容易とすることができる。
また、センシングエリア101側の端部同士の間の隙間に、非磁性(例えば、樹脂や銅など)の図示しないスペーサを設けることもできる。そのようにすれば、隙間の寸法管理が容易となる。また、コア52に磁場が印加されたとき、隙間が小さくなる方向に磁気吸引力が働くが、スペーサを設けることで、隙間寸法を維持することができる。そのため、センシングエリア内の磁束分布が変化することを抑制することができる。
【0096】
コア52の材料や構成は、前述したコア42と同様とすることができる。
例えば、コア52は、純鉄などの炭素鋼よりも残留磁化が小さい材料から形成することができる。
コア52の材料をこの様にすれば、制御部20などにより磁場の印加を停止した際にコア52の残留磁場が前述した磁性微粒子9の移動に与える影響を抑制することができる。 図11においては、2つのコア部52aにコイル41を設けるようにしたがこれに限定されるわけではない。例えば、一方のコア部52aにコイル41を設けるようにしても良いし、接続部52cにコイル41を設けるようにしても良い。
この場合、2つのコア部52aにコイル41をそれぞれ設けるようにすれば、磁場印加部50の高さ寸法を低く抑えることができる。また、一方のコア部52cにコイル41を1つ設けるようにすれば、コイル41の数が少なくて済むので、部品点数の削減に加え、巻線工数、組立工数の削減を図ることができる。
【0097】
次に、磁場印加部の作用、効果についてさらに例示をする。
図12は、磁場印加部の作用、効果を例示するためのグラフ図である。
図12は、一例として、図1に示す光導波路型測定システム30における磁場印加部10の作用、効果を例示するためのグラフ図である。
図12(a)は、磁場印加部10によりノイズとなりうる磁性微粒子9を除去する工程を有する場合、図12(b)は、磁場印加部10により磁性微粒子9の分散液と検体溶液とを攪拌する工程をさらに有する場合である。
図12(a)に示すように、磁性微粒子9の分散液と検体溶液とを混合しセンシングエリア101に導入すると、磁性微粒子9の沈降によるセンシングエリア101近傍の微粒子密度上昇に応じて検出信号強度比が低下する。その後、磁場印加部10により上部磁場を印加すると、センシングエリア101に吸着したノイズとなりうる磁性微粒子9が除去されるので、再び検出信号強度比が上昇し、初期の検出信号強度比より低い値で飽和する。
【0098】
これに対して、図12(b)に示すように、磁性微粒子9の分散液と検体溶液とを混合しセンシングエリア101に導入した後に、磁場印加部10により上部磁場をパルス状に印加する。例えば、磁場印加部10により上部磁場を10秒毎に印加する。その後、磁性微粒子9を沈降させるとセンシングエリア101近傍の微粒子密度上昇に応じて検出信号強度比が低下する。次に、磁場印加部10により上部磁場を印加すると、センシングエリア101に吸着したノイズとなりうる磁性微粒子9が除去されるので、再び検出信号強度比が上昇し、初期の検出信号強度比より低い値で飽和する。
ここで、図12(b)に示すものの場合には、ノイズとなりうる磁性微粒子9を除去した後の検出信号強度比が図12(a)の場合と比べて低くなる。すなわち、図12(b)の場合の方が測定対象物質14を介してセンシングエリア101に結合された磁性微粒子9の量が多くなる。
【0099】
磁場印加部10により上部磁場をパルス状に印加すれば、磁性微粒子9と検体溶液とを攪拌することができる。そのため、磁性微粒子9の微粒子12に固定化された第2物質13と測定対象物質14との反応率が高められ、測定対象物質14を介してセンシングエリア101に結合される磁性微粒子9の量が増加したためであると考えられる。
磁性微粒子9の微粒子12に固定化された第2物質13と測定対象物質14との反応率を高めることができれば、測定対象物質14の検出感度をより高精度に向上させることができる。
なお、一例として、上部磁場を印加する場合を例示したがこれに限定されるわけではない。磁性微粒子9をセンシングエリア101から離れる方向に移動させるための磁場印加に適用することができる。例えば、図8に示すものの場合には、下部磁場をパルス状に印加すればよい。
また、印加のタイミングをずらして、上部磁場と下部磁場とをパルス状に印加してもよい。そのようにすれば、磁性微粒子9と検体溶液とをさらによく攪拌することができる。
【0100】
図13は、磁場印加部の作用、効果を例示するためのグラフ図である。
図13は、一例として、図6に示す光導波路型測定システム30aにおける磁場印加部10、11の作用、効果を例示するためのグラフ図である。
図13(a)は、磁場印加部10による上部磁場の印加のみを行う場合、図13(b)、(c)は、磁場印加部11による下部磁場の印加と、磁場印加部10による上部磁場の印加とを組み合わせて行う場合である。
図13(a)に示すものの場合には、磁性微粒子9の分散液と検体溶液とを混合し反応空間102に導入した後、磁性微粒子9を自然沈降させるようにしている。そして、検出信号強度比が所定の値にまで低下した後に上部磁場を印加しセンシングエリア101に吸着したノイズとなりうる磁性微粒子9を除去するようにしている。
【0101】
図13(b)、(c)に示すものの場合には、磁性微粒子9の分散液と検体溶液とを混合し反応空間102に導入した後、下部磁場を印加して磁性微粒子9をセンシングエリア101に近づける方向に移動させる。その後、下部磁場の印加を停止させ磁性微粒子9を自然沈降させるようにしている。そして、検出信号強度比が所定の値にまで低下した後に上部磁場を印加しセンシングエリア101に吸着したノイズとなりうる磁性微粒子9を除去するようにしている。
図13(a)〜(c)から分かるように、下部磁場を印加して磁性微粒子9をセンシングエリア101に近づける方向に移動させるようにすれば、上部磁場を印加することができるようになるまでの時間を短縮することができる。そのため、測定時間の短縮を図ることができる。
図14は、検体溶液中の測定対象物質を測定する方法を示す工程図である。
図14(a)〜(d)は、測定システム30aを用いて測定対象物質14の濃度を測定する方法を例示するものである。
図14(a)〜(d)においては、煩雑となるのを避けるために反応空間102における状態を表すものとする。
また、図14(a)は前述した図7(a)と同様であり、図14(c)は前述した図7(b)と同様であり、図14(d)は前述した図7(c)と同様である。そのため、図14(a)、(c)、(d)に関する説明は省略する。
図14(b−1)は、磁場印加部11による下部磁場印加を行わない場合である。そのため、検体溶液中の磁性微粒子9は重力によってセンシングエリア101に向けて沈降(自然沈降)していく。
図14(b−2)は、磁場印加部11により磁性微粒子9から見て沈降方向(光導波路3の方向、例えば、図14における下方向)において下部磁場印加を行う。これにより、磁性微粒子9は、重力による自然沈降と、下部磁場印加による吸引とによりセンシングエリア101に引き寄せられる。しかし、図14(b−2)に示すように、この状態では磁性微粒子9の多くは磁力線に沿って引き止められるため、第1物質6との結合反応が進行しない。そこで、図14(c)に示すように、外部磁場を一旦ゼロにして自然拡散によって反応を進行させる必要がある。
図14(b−1)、(b−2)においてセンシングエリア101に向けて沈降した磁性微粒子9の一部は、センシングエリア101に結合される。
【0102】
なお、一例として、図6に示す光導波路型測定システム30aにおける場合を例示したがこれに限定されるわけではない。例えば、図8に示す光導波路型測定システム30bの場合には、磁場印加部10により下部磁場を印加することで、自然沈降させる場合と比べて、センシングエリア101に吸着したノイズとなりうる磁性微粒子9を短時間で除去することができる。そのため、測定時間の短縮を図ることができるようになる。
図12、図13に例示をした磁場の印加の制御は、前述した制御部20、20a、20bにより行うようにすることができる。
【0103】
以上、本発明のいくつかの実施形態を例示したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更などを行うことができる。これら実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0104】
1:基板、2a:グレーティング、2b:グレーティング、3:光導波路、4:保護膜、5:枠、6:第1物質、7:光源、8:受光素子、9:磁性微粒子、10:磁場印加部、11:磁場印加部、12:微粒子、13:第2物質、14:測定対象物質、15:キャップ、17:夾雑物質、20:制御部、20a:制御部、20b:制御部、20b1:制御部、20b2:制御部、30:光導波路型測定システム、30a:光導波路型測定システム、30b:光導波路型測定システム、40:磁化印加部、41:コイル、42:コア、42a:第1のコア部、42b:第2のコア部、42c:接続部、50:磁化印加部、52:コア、52a:コア部、52c:接続部、100:光導波路型センサチップ、101:センシングエリア、102:反応空間、102a:反応空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物質と特異的に結合する第1物質が固定化されたセンシングエリアを有する光導波路と、
前記測定対象物質と特異的に結合する第2物質が固定化され、磁性を有する磁性微粒子と、
前記磁性微粒子を移動させる磁場を生成する磁場印加部と、
前記光導波路に光を入射させる光源と、
前記光導波路から出射される光を受光する受光素子と、
を備える光導波路型測定システム。
【請求項2】
前記磁場印加部は第1の磁場印加部を有し、
前記第1の磁磁場印加部は、前記磁性微粒子を前記光導波路から離れる方向に移動させる磁場を印加する請求項1に記載の光導波路型測定システム。
【請求項3】
前記第1の磁場印加部は、前記磁性微粒子が前記センシングエリアから以下の式を満足する距離だけ離れるような磁場強度を有する磁場を印加する請求項2に記載の光導波路型測定システム。
L>λ/{2π(n1sin2θ-n22)1/2}
ここで、Lは前記磁性微粒子が前記センシングエリアから離れる距離、λは測定に用いる光の波長、n1は前記光導波路の屈折率、n2は前記磁性微粒子を分散させる分散媒の屈折率、θは全反射角である。
【請求項4】
前記磁場印加部は第2の磁場印加部を有し、
前記第2の磁場印加部は、前記磁性微粒子を前記光導波路に近づける方向に移動させる磁場を印加する請求項1乃至請求項3のいずれか1つに記載の光導波路型測定システム。
【請求項5】
前記第1の磁場印加部と前記第2の磁場印加部は、交互に磁場を印加する請求項4に記載の光導波路型測定システム。
【請求項6】
前記磁場印加部は電磁石を有する請求項1乃至請求項5のいずれか1つに記載の光導波路型測定システム。
【請求項7】
前記磁場印加部にて磁場を印加するタイミング及び時間の長さの少なくともいずれかを制御する第1の制御部をさらに備える請求項1乃至請求項6のいずれか1つに記載の光導波路型測定システム。
【請求項8】
前記磁場印加部にて印加する磁場の磁場強度を制御する第2の制御部をさらに備える請求項1乃至請求項7のいずれか1つに記載の光導波路型測定システム。
【請求項9】
前記磁性微粒子は、超常磁性を有する材料を含む請求項1乃至請求項8のいずれか1つに記載の光導波路型測定システム。
【請求項10】
前記磁性微粒子の粒径は、0.2μm以上、20μm以下である請求項1乃至請求項9のいずれか1つに記載の光導波路型測定システム。
【請求項11】
前記磁性微粒子は、コアと、前記コアを覆うように設けられるシェルと、を有し、前記シェルは、磁性ナノ微粒子を含む請求項1乃至請求項10のいずれか1つに記載の光導波路型測定システム。
【請求項12】
前記磁性微粒子は、正又は負の電荷を有する請求項1乃至請求項11のいずれか1つに記載の光導波路型測定システム。
【請求項13】
前記磁性微粒子は、界面活性剤が添加されている請求項1乃至請求項12のいずれか1つに記載の光導波路型測定システム。
【請求項14】
前記磁場印加部は、コアと、前記コアに設けられるコイルと、を備える請求項1乃至請求項5のいずれか1つに記載の光導波路型測定システム。
【請求項15】
前記コアは、複数のコア部と、前記複数のコア部の前記センシングエリア側の端部とは反対側の端部同士を磁気的に接続する接続部と、を有し、
前記複数のコア部の前記センシングエリア側の端面同士の間には隙間が設けられている請求項14記載の光導波路型測定システム。
【請求項16】
前記センシングエリア側の端面の前記隙間側の辺は、前記光導波路の内部を光が伝播する方向と平行となっている請求項15記載の光導波路型測定システム。
【請求項17】
前記光導波路の内部を光が伝播する方向において、前記複数のコア部の前記センシングエリア側の端面の長さは、前記センシングエリアの長さ以上である請求項15または16に記載の光導波路型測定システム。
【請求項18】
前記複数のコア部の前記センシングエリア側の端部は、互いに近接する方向に傾斜している請求項15乃至請求項17のいずれか1つに記載の光導波路型測定システム。
【請求項19】
前記複数のコア部は、前記センシングエリアに近づくにつれ断面積が小さくなる形態を有する請求項15乃至請求項18のいずれか1つに記載の光導波路型測定システム。
【請求項20】
前記複数のコア部の前記センシングエリア側の端面は平坦面である請求項15乃至請求項19のいずれか1つに記載の光導波路型測定システム。
【請求項21】
前記コアは、絶縁被覆をした磁性を有する板を磁場と平行な方向に積層した構造、または、絶縁被覆した磁性を有する粉末を加圧成型した構造を有する請求項14乃至請求項20のいずれか1つに記載の光導波路型測定システム。
【請求項22】
前記複数のコア部と、前記接続部と、は分離可能である請求項15乃至請求項21のいずれか1つに記載の光導波路型測定システム。
【請求項23】
前記コアは、炭素鋼よりも残留磁化が小さい材料を含む請求項14乃至請求項22のいずれか1つに記載の光導波路型測定システム。
【請求項24】
前記第1の制御部は、前記磁場印加部を制御して、パルス状に磁場を印加する請求項7乃至請求項23のいずれか1つに記載の光導波路型測定システム。
【請求項25】
前記第1の制御部は、前記磁性微粒子と検体溶液とを前記センシングエリアに導入した後、前記磁場印加部を制御して、前記磁性微粒子を前記光導波路に近づける方向に移動させる磁場を印加する請求項7乃至請求項24のいずれか1つに記載の光導波路型測定システム。
【請求項26】
測定対象物質と特異的に結合する第1物質が固定化されたセンシングエリアを有する光導波路と、
前記測定対象物質と特異的に結合する第2物質が固定化され、磁性を有する磁性微粒子と、を備える光導波路型センサチップ。
【請求項27】
測定対象物質を含む検体溶液と、前記測定対象物質と特異的に結合する第2物質が固定化され、磁性を有する磁性微粒子と、を光導波路型センサチップに設けられ、前記測定対象物質と特異的に結合する第1物質が固定化されたセンシングエリアに接しさせる工程と、
前記光導波路型センサチップに磁場を印加する工程と、
前記磁場の印加前に、前記光導波路型センサチップから出射される光の光強度を第1の光強度として測定する工程と、
前記磁場の印加後に、前記光導波路型センサチップから出射される光の光強度を第2の光強度として測定する工程と、
前記第1の光強度と前記第2の光強度との差分に基づいて測定対象物質を定量する工程と、を備える測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−215553(P2012−215553A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−11456(P2012−11456)
【出願日】平成24年1月23日(2012.1.23)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】