光導波路
【課題】用いる材料の制限を緩和して、導波路における複屈折の制御がより簡便に行えるようにする。
【解決手段】コア102が、低屈折率コア層121および低屈折率コア層123と、低屈折率コア層121および低屈折率コア層123に挟まれて配置され、低屈折率コア層121および低屈折率コア層123より屈折率の高い高屈折率コア層122とから構成されている。コア102は、低屈折率コア層121,高屈折率コア層122,および低屈折率コア層123が、この順に積層されて構成されている。
【解決手段】コア102が、低屈折率コア層121および低屈折率コア層123と、低屈折率コア層121および低屈折率コア層123に挟まれて配置され、低屈折率コア層121および低屈折率コア層123より屈折率の高い高屈折率コア層122とから構成されている。コア102は、低屈折率コア層121,高屈折率コア層122,および低屈折率コア層123が、この順に積層されて構成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実効屈折率の偏波依存性を解消する光導波路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光通信網で用いられる光導波路デバイスには、偏波無依存動作が求められる。偏波無依存を実現するためには、導波路複屈折を制御して複屈折を低減することが重要となる。例えば、光導波路デバイスの光導波路は、図13の断面図に示すように、下部クラッド1301、コア1302、および上部クラッド1303から構成されている。この場合、理想的に下部クラッド1301および上部クラッド1303の屈折率が等しく、さらにコア1302の断面形状が正方形の対称構造の場合、複屈折は0となり、TE偏波とTM偏波の実効屈折率は等しく偏波無依存となる。
【0003】
しかしながら、クラッドやコアの屈折率は、例えば材料の内部応力,原子配列の異方性などによって、容易に異方性を持つ状態になり得る。さらに、コアの断面形状を正方形に設計したとしても、製造工程において完全な正方形ではなくなることは容易に起こり得る。このように、導波路の断面構造が対称でなくなると、TE偏波とTM偏波の実効屈折率に差が生じ、複屈折が生じるようになる。
【0004】
このような複屈折を紫外線照射によって制御する技術がある(特許文献1参照)。この技術では、導波路を、紫外線照射によって変形する材料から構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3883377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら上述した技術では、偏波無依存を実現するための光導波路の複屈折の制御のためには、紫外線照射によって変形可能な特殊な材料を用いることになるため、導波路を構成する材料に制限があり、また、制御が容易に行えないという問題がある。
【0007】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、用いる材料の制限を緩和して、導波路における複屈折の制御がより簡便に行えるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る光導波路は、下部クラッド層と、この下部クラッド層の上に形成されたコアと、このコアの上に形成された上部クラッド層とを備え、コアは、低屈折率コア層およびこの低屈折率コア層より屈折率の高い高屈折率コア層が積層されて構成されている。
【0009】
上記光導波路において、高屈折率コア層は、光導波路の複屈折が設定された値以下となる範囲の層厚とされていればよい。また、高屈折率コア層は、光導波路の複屈折が設定された値以下となる範囲の屈折率とされていればよい。なお、設定された値は、1×10-4である。また、高屈折率コア層は、コアの上部に配置されているとよい。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明によれば、コアを、低屈折率コア層およびこの低屈折率コア層より屈折率の高い高屈折率コア層から構成したので、用いる材料の制限を緩和して、導波路における複屈折の制御がより簡便に行えるようになるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の実施の形態1における光導波路の構成を示す断面図である。
【図2】図2は、高屈折率コア層122に層厚の変化に対する、TE偏波の実効屈折率(白丸)およびTM偏波の実効屈折率(白四角)の変化を示す相関図である。
【図3】図3は、本発明の実施の形態2における光導波路の構成を示す断面図である。
【図4】図4は、高屈折率コア層322に層厚の変化に対する、TE偏波の実効屈折率(白丸)およびTM偏波の実効屈折率(白四角)の変化を示す相関図である。
【図5】図5は、本発明の実施の形態3における他の光導波路の構成を示す断面図である。
【図6】図6は、高屈折率コア層521に層厚の変化に対する、TE偏波の実効屈折率(白丸)およびTM偏波の実効屈折率(白四角)の変化を示す相関図である。
【図7】図7は、本発明の実施の形態4における光導波路の構成を示す断面図である。
【図8】図8は、高屈折率コア層722に屈折率の変化に対する、TE偏波の実効屈折率(白丸)およびTM偏波の実効屈折率(白四角)の変化を示す相関図である。
【図9】図9は、本発明の実施の形態5における他の光導波路の構成を示す断面図である。
【図10】図10は、高屈折率コア層922に屈折率の変化に対する、TE偏波の実効屈折率(白丸)およびTM偏波の実効屈折率(白四角)の変化を示す相関図である。
【図11】図11は、本発明の実施の形態6における光導波路の構成を示す断面図である。
【図12】図12は、高屈折率コア層1121に屈折率の変化に対する、TE偏波の実効屈折率(白丸)およびTM偏波の実効屈折率(白四角)の変化を示す相関図である。
【図13】図13は、光導波路の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【0013】
[実施の形態1]
はじめに、本発明の実施の形態1について説明する。図1は、本発明の実施の形態1における光導波路の構成を示す断面図である。この光導波路は、下部クラッド層101と、下部クラッド層101の上に形成されたコア102と、コア102の上に形成された上部クラッド層103とを備える。上部クラッド層103は、コア102を覆って下部クラッド層101の上に形成されている。
【0014】
また、本実施の形態における光導波路は、コア102が、低屈折率コア層121および低屈折率コア層123と、低屈折率コア層121および低屈折率コア層123に挟まれて配置され、低屈折率コア層121および低屈折率コア層123より屈折率の高い高屈折率コア層122とから構成されている。コア102は、低屈折率コア層121,高屈折率コア層122,および低屈折率コア層123が、この順に積層されて構成されている。言い換えると、高屈折率コア層122を、低屈折率コア層(低屈折率コア層121,高屈折率コア層122)の中に挿入してコア102を構成している。
【0015】
上述した本実施の形態によれば、コア102を、低屈折率コア層121および低屈折率コア層123と、高屈折率コア層122とから構成しているので、導波路全体の複屈折が低減できるようになり、光導波路におけるTEモードの実効屈折率とTMモードの実効屈折率との差を低減できるようになる。
【0016】
以下、複屈折の低減について説明する。まず、例えば、下部クラッド層101および上部クラッド層103は、酸化シリコンから構成し、コア102は、酸化シリコンより屈折率を高くした酸化シリコン,酸窒化シリコン,および窒化シリコンから構成することができる。
【0017】
例えば、下部クラッド層101は、よく知られたSOI(Silicon on Insulator)基板の埋め込み酸化層を用いて構成することができる。また、単結晶シリコン基板の表面を熱酸化することで形成した酸化シリコン層を用いて構成することができる。このような酸化シリコンの層は、基板に水平方向の屈折率が1.4456であり、基板に垂直方向の屈折率が1.4467となる。
【0018】
また、上部クラッド層103は、例えば、プラズマCVD法によって堆積した酸化シリコンから構成することができる。このように形成した酸化シリコンの層は、基板に水平方向の屈折率が1.4675であり、基板に垂直方向の屈折率が1.4685となる。
【0019】
また、上述したクラッド層の材料に対して屈折率の高い酸化シリコンや酸窒化シリコンの層は、例えば、プラズマCVD法により堆積することで形成できる。例えば、プラズマCVD法により形成した酸窒化シリコンの層は、基板に水平方向の屈折率は1.5099とし、基板に垂直方向の屈折率は1.5134とすることができる。また、より屈折率の高い窒化シリコンの層は、例えば、プラズマCVD法により堆積することで形成でき、この場合、基板に水平方向の屈折率は2.0080とし、基板に垂直方向の屈折率は1.9998とすることができる。
【0020】
ここで、上述したような下部クラッド層101および上部クラッド層103に対し、コア102を酸窒化シリコンから構成した場合、コア102の断面形状を3×3μm程度とすることで、1.55μm帯におけるシングルモード光導波路が得られる。
【0021】
しかしながら、上述した各層は、例えば製造過程で生じる内部応力や分子構造の異方性など様々な原因により、屈折率異方性を有している。このため、下部クラッド層101と上部クラッド層103とは、屈折率が異なることになり、コア102から見ると、上下方向に屈折率が非対称な状態となる。加えて、各層は複屈折を有している。これらのことにより、上述したようにコア102を単一の材料から構成した光導波路では、光導波路全体として複屈折が生じている状態となり得る。この結果、TEモードの実効屈折率とTMモードの実効屈折率とに差が発生し、偏波依存性が生じる状態となる。上述した場合、TEモードの実効屈折率が、TMモードの実効屈折率に比較して小さくなる。
【0022】
これに対し、本実施の形態では、コア102に、例えば、より屈折率の高い窒化シリコンからなる高屈折率コア層122を挿入することで、光導波路全体の複屈折を制御するようにしたので、2つの偏波における実効屈折率の差を低減して偏波依存性を抑制することができるようになる。光導波路全体の複屈折の制御は、高屈折率コア層122の層厚を可変することによって行える。
【0023】
以下、TEおよびTMの2つの偏波の実効屈折率と、高屈折率コア層122の層厚との関係について説明する。図2は、高屈折率コア層122に層厚の変化に対する、TE偏波の実効屈折率(白丸)およびTM偏波の実効屈折率(白四角)の変化を示す相関図である。ここでは、コア102の基板平面方向の断面寸法(幅)を3μmとし、低屈折率コア層121および低屈折率コア層123の層厚は各々1.5μmとする。図2から明らかなように、高屈折率コア層122の層厚を23.5nm程度とすると、TE偏波の実効屈折率とTM偏波の実効屈折率との差がなくなる。
【0024】
また、本実施の形態における上述した構成の光導波路の応用としてAWG(Arrayed Waveguide Grating)を例にすると、中心波長1.5μm帯における各チャネルの波長ずれを0.1nm以下に抑制するためには、光導波路の複屈折を1×10-4以下にすればよい。ここで、複屈折は、TE偏波の実効屈折率とTM偏波の実効屈折率との差であり、複屈折が1×10-4以下の範囲は、図2において23〜24nmとなる。言い換えると、高屈折率コア層122の層厚を、23〜24nmとすれば、実使用の範囲で偏波無依存の状態が得られることになる。なお、本例では、コア102の層厚が変化することになるが、コアを単一の材料で構成した場合、上述した範囲でコアの層厚を変化させても、2つの偏波の実効屈折率の差がなくなる状態は得られないことが確認されている。
【0025】
ところで、高屈折率コア層122は、窒化シリコンに限らず、屈折率3.5のアモルファスシリコンやポリシリコンから構成してもよい。これらシリコンから構成することで、窒化シリコンに比べて屈折率が高いため、高屈折率コア層をさらに薄くすることが可能になる。また、シリコンは、窒化シリコンのようにN−Hの振動による赤外吸収が無い。このため、高屈折率コア層122をシリコンから構成することで、1.55μm帯の導波路の伝搬損失を低減することができる。
【0026】
なお、言うまでもなく、上述した各層は、シリコン基板の熱酸化,火炎体積法,プラズマや熱を用いた化学気相堆積(CVD)法、スパッタなどの物理気相成長(PVD)法などの様々な成膜法によい形成することが可能である。実際の光導波路の作製においては、用いる材料が同じであっても製造(成膜)方法や製造(成膜)装置により、屈折率は変化し得る。これに対し、上述した本実施の形態によれば、用いる製造装置に依存する各層の屈折率異方性に応じ、高屈折率コア層の層厚を変化させればよく、各層のどのような複屈折が生じた場合でも、導波路全体の複屈折を容易に制御できる。
【0027】
熱酸化,火炎体積法,CVD法、PVD法などの薄膜形成技術は、膜厚制御性に優れており、紫外線照射などの方法に比較して、複屈折の制御性が向上する。特に、高屈折率コア層の作製では、ECRスパッタ法を用いれば、良好な膜厚制御性が得られる。また、材料の組成が一意に定まり屈折率を変化させられない材料でも、膜厚制御によって実効屈折率が制御可能となる。
【0028】
[実施の形態2]
次に、本発明の実施の形態2について説明する。まず、上述した実施の形態1では、下部クラッド層の側から見てコアの上下方向中央部に、高屈折率コア層を配置している。このようにすることで、各偏波の伝搬モードのモードフィールドの中心を、コア断面の高さ方向の中心に位置させることができる。これに対し、本実施の形態2では、以下に説明するように、高屈折率コア層をコアの上側(上部)に配置した。
【0029】
図3は、本発明の実施の形態2における光導波路の構成を示す断面図である。この光導波路は、下部クラッド層301と、下部クラッド層301の上に形成されたコア302と、コア302の上に形成された上部クラッド層303とを備える。上部クラッド層303は、コア302を覆って下部クラッド層301の上に形成されている。
【0030】
また、この光導波路は、コア302が、低屈折率コア層321と、この上に形成された高屈折率コア層322とから構成されている。高屈折率コア層322は、低屈折率コア層321より高屈折率な材料から構成されている。コア302は、低屈折率コア層321および高屈折率コア層322の2層構造となっている。この光導波路では、高屈折率コア層322を、コア302の上端に配置している。このようにすることで、各偏波の伝搬モードのモードフィールドの中心を、コア302の断面においてより高い位置にすることができる。この結果、下部クラッド層302の下側(例えばシリコン基板)への光の漏れ出しを低減することができるようになる。
【0031】
次に、本実施の形態における、TEおよびTMの2つの偏波の実効屈折率と、高屈折率コア層322の層厚との関係について説明する。図4は、高屈折率コア層322に層厚の変化に対する、TE偏波の実効屈折率(白丸)およびTM偏波の実効屈折率(白四角)の変化を示す相関図である。ここでは、コア302の基板平面方向の断面寸法(幅)を3μmとし、低屈折率コア層321の層厚は3μmとする。図4から明らかなように、高屈折率コア層322の層厚を42nm程度とすると、TE偏波の実効屈折率とTM偏波の実効屈折率との差(複屈折)を1×10-4以下に低減できる。
【0032】
ところで、下部クラッド層301の厚さによっては、偏波によって下部クラッド層301の下側の支持基板層(不図示)への光の漏れ出しが異なり、偏波間の伝搬損失に差が生じてしまうことがある。このことが原因で、光導波路デバイスに偏波依存損失(PDL)が生じる。これに対し、上述したように高屈折率コア層322の位置によりモードフィールド高さを制御し、支持基板の側への光の漏れ出しを偏波間で同程度にすることで、PDLを低減することができる。
【0033】
[実施の形態3]
次に、本発明の実施の形態3について説明する。図5は、本発明の実施の形態3における他の光導波路の構成を示す断面図である。この光導波路は、下部クラッド層501と、下部クラッド層501の上に形成されたコア502と、コア502の上に形成された上部クラッド層503とを備える。上部クラッド層503は、コア502を覆って下部クラッド層501の上に形成されている。
【0034】
また、この光導波路は、コア502が、高屈折率コア層521と、この上に形成された低屈折率コア層522とから構成されている。高屈折率コア層521は、低屈折率コア層522より高屈折率な材料から構成されている。コア502は、高屈折率コア層521および低屈折率コア層522の2層構造となっている。この光導波路では、高屈折率コア層521を、コア502の下端に配置している。このようにすることで、各偏波の伝搬モードのモードフィールドの中心を、コア502の断面においてより低い位置にすることができる。
【0035】
次に、本実施の形態における、TEおよびTMの2つの偏波の実効屈折率と、高屈折率コア層521の層厚との関係について説明する。図6は、高屈折率コア層521に層厚の変化に対する、TE偏波の実効屈折率(白丸)およびTM偏波の実効屈折率(白四角)の変化を示す相関図である。ここでは、コア502の基板平面方向の断面寸法(幅)を3μmとし、低屈折率コア層522の層厚は3μmとする。図6から明らかなように、高屈折率コア層521の層厚を52nm程度とすると、TE偏波の実効屈折率とTM偏波の実効屈折率との差(複屈折)を1×10-4以下に低減できる。
【0036】
[実施の形態4]
次に、本発明の実施の形態4について説明する。図7は、本発明の実施の形態4における光導波路の構成を示す断面図である。この光導波路は、下部クラッド層701と、下部クラッド層701の上に形成されたコア702と、コア702の上に形成された上部クラッド層703とを備える。上部クラッド層703は、コア702を覆って下部クラッド層701の上に形成されている。
【0037】
また、本実施の形態における光導波路は、コア702が、低屈折率コア層721および低屈折率コア層723と、低屈折率コア層721および低屈折率コア層723に挟まれて配置され、低屈折率コア層721および低屈折率コア層723より屈折率の高い高屈折率コア層722とから構成されている。コア702は、低屈折率コア層721,高屈折率コア層722,および低屈折率コア層723が、この順に積層されて構成されている。言い換えると、高屈折率コア層722を、低屈折率コア層(低屈折率コア層721,高屈折率コア層722)の中に挿入してコア702を構成している。
【0038】
上述した本実施の形態によれば、コア702を、低屈折率コア層721および低屈折率コア層723と、高屈折率コア層722とから構成しているので、導波路全体の複屈折を小さくすることができ、光導波路におけるTEモードの実効屈折率とTMモードの実効屈折率との差を小さくすることができる。
【0039】
以下、本実施の形態における複屈折の低減について説明する。まず、例えば、下部クラッド層701および上部クラッド層703は、酸化シリコンから構成し、下部クラッド層701は、よく知られたSOI基板の埋め込み酸化層を用いて構成することができる。また、単結晶シリコン基板の表面を熱酸化することで形成した酸化シリコン層を用いて構成することができる。このような酸化シリコンの層は、基板に水平方向の屈折率が1.4456であり、基板に垂直方向の屈折率が1.4467となる。
【0040】
また、上部クラッド層703は、プラズマCVD法によって堆積した酸化シリコンから構成することができる。このように形成した酸化シリコンの層は、基板に水平方向の屈折率が1.4675であり、基板に垂直方向の屈折率が1.4685となる。
【0041】
また、コア702は、酸化シリコンより屈折率を高くした酸化シリコン,酸窒化シリコン,および窒化シリコンから構成することができる。このようなクラッド層の材料に対して屈折率の高い酸化シリコンや酸窒化シリコンの層は、例えば、プラズマCVD法により堆積することで形成でき、この場合、基板に水平方向の屈折率は1.5099とし、基板に垂直方向の屈折率は1.5134とすることができる。また、より屈折率の高い酸化シリコンの層は、例えば、プラズマCVD法により堆積することで形成できる。
【0042】
ここで、上述したような下部クラッド層701および上部クラッド層703に対し、コア702を酸窒化シリコンから構成した場合、コア702の断面形状を3×3μm程度とすることで、1.55μm帯におけるシングルモード光導波路が得られる。
【0043】
しかしながら、上述した各層は、製造過程で生じる内部応力や分子構造の異方性など様々な原因により、屈折率異方性を有している。このため、下部クラッド層701と上部クラッド層703とは、屈折率が異なることになり、コア702から見ると、上下方向に屈折率が非対称な状態となる。また、各層は複屈折を有している。これらのことにより、上述したようにコア702を単一の材料から構成した光導波路では、光導波路全体として複屈折が生じている状態となり得る。この結果、TEモードの実効屈折率とTMモードの実効屈折率とに差が発生し、偏波依存性が生じる状態となる。
【0044】
これに対し、本実施の形態では、コア702の低屈折率コア層721および低屈折率コア層723を酸窒化シリコンから構成し、ここに、より屈折率の高い酸化シリコンからなる高屈折率コア層722を挿入し、高屈折率コア層722の屈折率を制御することで光導波路全体の複屈折を制御するようにしたので、2つの偏波における実効屈折率の差を低減して偏波依存性を抑制することができるようになる。
【0045】
例えば、シラン(SiH4)および酸素(O2)などをソースガスに用いた電子サイクロトロン共鳴(ECR)プラズマCVD法により酸化シリコンを堆積することで、高屈折率コア層722を形成すれば、ソースガスの供給比などの製造条件を制御することで、高屈折率コア層722を所望の屈折率に作製することができる。
【0046】
以下、TEおよびTMの2つの偏波の実効屈折率と、高屈折率コア層722の屈折率との関係について説明する。図8は、高屈折率コア層722に屈折率の変化に対する、TE偏波の実効屈折率(白丸)およびTM偏波の実効屈折率(白四角)の変化を示す相関図である。ここでは、コア702の基板平面方向の断面寸法(幅)を3μmとし、低屈折率コア層721および低屈折率コア層723の層厚は各々1.5μmとする。また、高屈折率コア層722の層厚は0.2μmとする。
【0047】
図8から明らかなように、高屈折率コア層722の屈折率を1.6525程度とすると、TE偏波の実効屈折率とTM偏波の実効屈折率との差がなくなる。また、導波路全体の複屈折を1×10-4以下とするためには、高屈折率コア層722の屈折率を1.651〜1.654の範囲にすればよいことがわかる。言い換えると、高屈折率コア層722の屈折率を1.651〜1.654の範囲とすれば、実使用の範囲で偏波無依存の状態が得られることになる。
【0048】
ところで、コアを形成する各層の材料は所望の屈折率が得られるならば、上述した材料に限らない。また、高屈折率コア層722には、酸窒化シリコンなど、材料の組成比によって容易に屈折率を制御させられる材料を用いることが望ましい。
【0049】
なお、本実施の形態においても、前述した実施の形態1と同様に、下部クラッド層の側から見てコアの上下方向中央部に、高屈折率コア層を配置している。従って、各偏波の伝搬モードのモードフィールドの中心を、コア断面の高さ方向の中心に位置させることができる。
【0050】
[実施の形態5]
次に、本発明の実施の形態5について説明する。図9は、本発明の実施の形態5における他の光導波路の構成を示す断面図である。この光導波路は、下部クラッド層901と、下部クラッド層901の上に形成されたコア902と、コア902の上に形成された上部クラッド層903とを備える。上部クラッド層903は、コア902を覆って下部クラッド層901の上に形成されている。
【0051】
また、この光導波路は、コア902が、低屈折率コア層921と、この上に形成された高屈折率コア層922とから構成されている。高屈折率コア層922は、低屈折率コア層921より高屈折率な材料から構成されている。コア902は、低屈折率コア層921および高屈折率コア層922の2層構造となっている。この光導波路では、高屈折率コア層922を、コア902の上端に配置している。このようにすることで、各偏波の伝搬モードのモードフィールドの中心を、コア902の断面においてより高い位置にすることができる。この結果、下部クラッド層901の下側(例えばシリコン基板)への光の漏れ出しを低減することができるようになる。
【0052】
次に、本実施の形態における、TEおよびTMの2つの偏波の実効屈折率と、高屈折率コア層922の屈折率との関係について説明する。図10は、高屈折率コア層922に屈折率の変化に対する、TE偏波の実効屈折率(白丸)およびTM偏波の実効屈折率(白四角)の変化を示す相関図である。ここでは、コア902の基板平面方向の断面寸法(幅)を3μmとし、低屈折率コア層921の層厚は3μmとする。また、高屈折率コア層922の層厚は、0.1μmとする。
【0053】
図10から明らかなように、高屈折率コア層922の屈折率を1.77〜1775程度とすると、TE偏波の実効屈折率とTM偏波の実効屈折率との差(複屈折)を1×10-4以下に低減できる。
【0054】
また、本実施の形態では、高屈折率コア層922の位置をコア902の上部としたので、モードフィールドの中心位置をより高くすることができ、支持基板の側への光の漏れ出しを偏波間で同程度にすることできるので、PDLを低減することができる。
【0055】
[実施の形態6]
次に、本発明の実施の形態6について説明する。図11は、本発明の実施の形態6における光導波路の構成を示す断面図である。この光導波路は、下部クラッド層1101と、下部クラッド層1101の上に形成されたコア1102と、コア1102の上に形成された上部クラッド層1103とを備える。上部クラッド層1103は、コア1102を覆って下部クラッド層1101の上に形成されている。
【0056】
また、この光導波路は、コア1102が、高屈折率コア層1121と、この上に形成された低屈折率コア層1122とから構成されている。高屈折率コア層1121は、低屈折率コア層1122より高屈折率な材料から構成されている。コア1102は、高屈折率コア層1121および低屈折率コア層1122の2層構造となっている。この光導波路では、高屈折率コア層1121を、コア1102の下端に配置している。このようにすることで、各偏波の伝搬モードのモードフィールドの中心を、コア1102の断面においてより低い位置にすることができる。
【0057】
次に、本実施の形態における、TEおよびTMの2つの偏波の実効屈折率と、高屈折率コア層1121の屈折率との関係について説明する。図12は、高屈折率コア層1121に屈折率の変化に対する、TE偏波の実効屈折率(白丸)およびTM偏波の実効屈折率(白四角)の変化を示す相関図である。ここでは、コア1102の基板平面方向の断面寸法(幅)を3μmとし、低屈折率コア層1122の層厚は3μmとする。また、高屈折率コア層1121の層厚は、0.1μmとする。
【0058】
図12から明らかなように、高屈折率コア層1121の屈折率を1.805〜1.81程度とすると、TE偏波の実効屈折率とTM偏波の実効屈折率との差(複屈折)を1×10-4以下に低減できる。
【0059】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形が実施可能であることは明白である。
【符号の説明】
【0060】
101…下部クラッド層、102…コア、103…上部クラッド層、121,123…低屈折率コア層、122…高屈折率コア層。
【技術分野】
【0001】
本発明は、実効屈折率の偏波依存性を解消する光導波路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光通信網で用いられる光導波路デバイスには、偏波無依存動作が求められる。偏波無依存を実現するためには、導波路複屈折を制御して複屈折を低減することが重要となる。例えば、光導波路デバイスの光導波路は、図13の断面図に示すように、下部クラッド1301、コア1302、および上部クラッド1303から構成されている。この場合、理想的に下部クラッド1301および上部クラッド1303の屈折率が等しく、さらにコア1302の断面形状が正方形の対称構造の場合、複屈折は0となり、TE偏波とTM偏波の実効屈折率は等しく偏波無依存となる。
【0003】
しかしながら、クラッドやコアの屈折率は、例えば材料の内部応力,原子配列の異方性などによって、容易に異方性を持つ状態になり得る。さらに、コアの断面形状を正方形に設計したとしても、製造工程において完全な正方形ではなくなることは容易に起こり得る。このように、導波路の断面構造が対称でなくなると、TE偏波とTM偏波の実効屈折率に差が生じ、複屈折が生じるようになる。
【0004】
このような複屈折を紫外線照射によって制御する技術がある(特許文献1参照)。この技術では、導波路を、紫外線照射によって変形する材料から構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3883377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら上述した技術では、偏波無依存を実現するための光導波路の複屈折の制御のためには、紫外線照射によって変形可能な特殊な材料を用いることになるため、導波路を構成する材料に制限があり、また、制御が容易に行えないという問題がある。
【0007】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、用いる材料の制限を緩和して、導波路における複屈折の制御がより簡便に行えるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る光導波路は、下部クラッド層と、この下部クラッド層の上に形成されたコアと、このコアの上に形成された上部クラッド層とを備え、コアは、低屈折率コア層およびこの低屈折率コア層より屈折率の高い高屈折率コア層が積層されて構成されている。
【0009】
上記光導波路において、高屈折率コア層は、光導波路の複屈折が設定された値以下となる範囲の層厚とされていればよい。また、高屈折率コア層は、光導波路の複屈折が設定された値以下となる範囲の屈折率とされていればよい。なお、設定された値は、1×10-4である。また、高屈折率コア層は、コアの上部に配置されているとよい。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明によれば、コアを、低屈折率コア層およびこの低屈折率コア層より屈折率の高い高屈折率コア層から構成したので、用いる材料の制限を緩和して、導波路における複屈折の制御がより簡便に行えるようになるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の実施の形態1における光導波路の構成を示す断面図である。
【図2】図2は、高屈折率コア層122に層厚の変化に対する、TE偏波の実効屈折率(白丸)およびTM偏波の実効屈折率(白四角)の変化を示す相関図である。
【図3】図3は、本発明の実施の形態2における光導波路の構成を示す断面図である。
【図4】図4は、高屈折率コア層322に層厚の変化に対する、TE偏波の実効屈折率(白丸)およびTM偏波の実効屈折率(白四角)の変化を示す相関図である。
【図5】図5は、本発明の実施の形態3における他の光導波路の構成を示す断面図である。
【図6】図6は、高屈折率コア層521に層厚の変化に対する、TE偏波の実効屈折率(白丸)およびTM偏波の実効屈折率(白四角)の変化を示す相関図である。
【図7】図7は、本発明の実施の形態4における光導波路の構成を示す断面図である。
【図8】図8は、高屈折率コア層722に屈折率の変化に対する、TE偏波の実効屈折率(白丸)およびTM偏波の実効屈折率(白四角)の変化を示す相関図である。
【図9】図9は、本発明の実施の形態5における他の光導波路の構成を示す断面図である。
【図10】図10は、高屈折率コア層922に屈折率の変化に対する、TE偏波の実効屈折率(白丸)およびTM偏波の実効屈折率(白四角)の変化を示す相関図である。
【図11】図11は、本発明の実施の形態6における光導波路の構成を示す断面図である。
【図12】図12は、高屈折率コア層1121に屈折率の変化に対する、TE偏波の実効屈折率(白丸)およびTM偏波の実効屈折率(白四角)の変化を示す相関図である。
【図13】図13は、光導波路の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【0013】
[実施の形態1]
はじめに、本発明の実施の形態1について説明する。図1は、本発明の実施の形態1における光導波路の構成を示す断面図である。この光導波路は、下部クラッド層101と、下部クラッド層101の上に形成されたコア102と、コア102の上に形成された上部クラッド層103とを備える。上部クラッド層103は、コア102を覆って下部クラッド層101の上に形成されている。
【0014】
また、本実施の形態における光導波路は、コア102が、低屈折率コア層121および低屈折率コア層123と、低屈折率コア層121および低屈折率コア層123に挟まれて配置され、低屈折率コア層121および低屈折率コア層123より屈折率の高い高屈折率コア層122とから構成されている。コア102は、低屈折率コア層121,高屈折率コア層122,および低屈折率コア層123が、この順に積層されて構成されている。言い換えると、高屈折率コア層122を、低屈折率コア層(低屈折率コア層121,高屈折率コア層122)の中に挿入してコア102を構成している。
【0015】
上述した本実施の形態によれば、コア102を、低屈折率コア層121および低屈折率コア層123と、高屈折率コア層122とから構成しているので、導波路全体の複屈折が低減できるようになり、光導波路におけるTEモードの実効屈折率とTMモードの実効屈折率との差を低減できるようになる。
【0016】
以下、複屈折の低減について説明する。まず、例えば、下部クラッド層101および上部クラッド層103は、酸化シリコンから構成し、コア102は、酸化シリコンより屈折率を高くした酸化シリコン,酸窒化シリコン,および窒化シリコンから構成することができる。
【0017】
例えば、下部クラッド層101は、よく知られたSOI(Silicon on Insulator)基板の埋め込み酸化層を用いて構成することができる。また、単結晶シリコン基板の表面を熱酸化することで形成した酸化シリコン層を用いて構成することができる。このような酸化シリコンの層は、基板に水平方向の屈折率が1.4456であり、基板に垂直方向の屈折率が1.4467となる。
【0018】
また、上部クラッド層103は、例えば、プラズマCVD法によって堆積した酸化シリコンから構成することができる。このように形成した酸化シリコンの層は、基板に水平方向の屈折率が1.4675であり、基板に垂直方向の屈折率が1.4685となる。
【0019】
また、上述したクラッド層の材料に対して屈折率の高い酸化シリコンや酸窒化シリコンの層は、例えば、プラズマCVD法により堆積することで形成できる。例えば、プラズマCVD法により形成した酸窒化シリコンの層は、基板に水平方向の屈折率は1.5099とし、基板に垂直方向の屈折率は1.5134とすることができる。また、より屈折率の高い窒化シリコンの層は、例えば、プラズマCVD法により堆積することで形成でき、この場合、基板に水平方向の屈折率は2.0080とし、基板に垂直方向の屈折率は1.9998とすることができる。
【0020】
ここで、上述したような下部クラッド層101および上部クラッド層103に対し、コア102を酸窒化シリコンから構成した場合、コア102の断面形状を3×3μm程度とすることで、1.55μm帯におけるシングルモード光導波路が得られる。
【0021】
しかしながら、上述した各層は、例えば製造過程で生じる内部応力や分子構造の異方性など様々な原因により、屈折率異方性を有している。このため、下部クラッド層101と上部クラッド層103とは、屈折率が異なることになり、コア102から見ると、上下方向に屈折率が非対称な状態となる。加えて、各層は複屈折を有している。これらのことにより、上述したようにコア102を単一の材料から構成した光導波路では、光導波路全体として複屈折が生じている状態となり得る。この結果、TEモードの実効屈折率とTMモードの実効屈折率とに差が発生し、偏波依存性が生じる状態となる。上述した場合、TEモードの実効屈折率が、TMモードの実効屈折率に比較して小さくなる。
【0022】
これに対し、本実施の形態では、コア102に、例えば、より屈折率の高い窒化シリコンからなる高屈折率コア層122を挿入することで、光導波路全体の複屈折を制御するようにしたので、2つの偏波における実効屈折率の差を低減して偏波依存性を抑制することができるようになる。光導波路全体の複屈折の制御は、高屈折率コア層122の層厚を可変することによって行える。
【0023】
以下、TEおよびTMの2つの偏波の実効屈折率と、高屈折率コア層122の層厚との関係について説明する。図2は、高屈折率コア層122に層厚の変化に対する、TE偏波の実効屈折率(白丸)およびTM偏波の実効屈折率(白四角)の変化を示す相関図である。ここでは、コア102の基板平面方向の断面寸法(幅)を3μmとし、低屈折率コア層121および低屈折率コア層123の層厚は各々1.5μmとする。図2から明らかなように、高屈折率コア層122の層厚を23.5nm程度とすると、TE偏波の実効屈折率とTM偏波の実効屈折率との差がなくなる。
【0024】
また、本実施の形態における上述した構成の光導波路の応用としてAWG(Arrayed Waveguide Grating)を例にすると、中心波長1.5μm帯における各チャネルの波長ずれを0.1nm以下に抑制するためには、光導波路の複屈折を1×10-4以下にすればよい。ここで、複屈折は、TE偏波の実効屈折率とTM偏波の実効屈折率との差であり、複屈折が1×10-4以下の範囲は、図2において23〜24nmとなる。言い換えると、高屈折率コア層122の層厚を、23〜24nmとすれば、実使用の範囲で偏波無依存の状態が得られることになる。なお、本例では、コア102の層厚が変化することになるが、コアを単一の材料で構成した場合、上述した範囲でコアの層厚を変化させても、2つの偏波の実効屈折率の差がなくなる状態は得られないことが確認されている。
【0025】
ところで、高屈折率コア層122は、窒化シリコンに限らず、屈折率3.5のアモルファスシリコンやポリシリコンから構成してもよい。これらシリコンから構成することで、窒化シリコンに比べて屈折率が高いため、高屈折率コア層をさらに薄くすることが可能になる。また、シリコンは、窒化シリコンのようにN−Hの振動による赤外吸収が無い。このため、高屈折率コア層122をシリコンから構成することで、1.55μm帯の導波路の伝搬損失を低減することができる。
【0026】
なお、言うまでもなく、上述した各層は、シリコン基板の熱酸化,火炎体積法,プラズマや熱を用いた化学気相堆積(CVD)法、スパッタなどの物理気相成長(PVD)法などの様々な成膜法によい形成することが可能である。実際の光導波路の作製においては、用いる材料が同じであっても製造(成膜)方法や製造(成膜)装置により、屈折率は変化し得る。これに対し、上述した本実施の形態によれば、用いる製造装置に依存する各層の屈折率異方性に応じ、高屈折率コア層の層厚を変化させればよく、各層のどのような複屈折が生じた場合でも、導波路全体の複屈折を容易に制御できる。
【0027】
熱酸化,火炎体積法,CVD法、PVD法などの薄膜形成技術は、膜厚制御性に優れており、紫外線照射などの方法に比較して、複屈折の制御性が向上する。特に、高屈折率コア層の作製では、ECRスパッタ法を用いれば、良好な膜厚制御性が得られる。また、材料の組成が一意に定まり屈折率を変化させられない材料でも、膜厚制御によって実効屈折率が制御可能となる。
【0028】
[実施の形態2]
次に、本発明の実施の形態2について説明する。まず、上述した実施の形態1では、下部クラッド層の側から見てコアの上下方向中央部に、高屈折率コア層を配置している。このようにすることで、各偏波の伝搬モードのモードフィールドの中心を、コア断面の高さ方向の中心に位置させることができる。これに対し、本実施の形態2では、以下に説明するように、高屈折率コア層をコアの上側(上部)に配置した。
【0029】
図3は、本発明の実施の形態2における光導波路の構成を示す断面図である。この光導波路は、下部クラッド層301と、下部クラッド層301の上に形成されたコア302と、コア302の上に形成された上部クラッド層303とを備える。上部クラッド層303は、コア302を覆って下部クラッド層301の上に形成されている。
【0030】
また、この光導波路は、コア302が、低屈折率コア層321と、この上に形成された高屈折率コア層322とから構成されている。高屈折率コア層322は、低屈折率コア層321より高屈折率な材料から構成されている。コア302は、低屈折率コア層321および高屈折率コア層322の2層構造となっている。この光導波路では、高屈折率コア層322を、コア302の上端に配置している。このようにすることで、各偏波の伝搬モードのモードフィールドの中心を、コア302の断面においてより高い位置にすることができる。この結果、下部クラッド層302の下側(例えばシリコン基板)への光の漏れ出しを低減することができるようになる。
【0031】
次に、本実施の形態における、TEおよびTMの2つの偏波の実効屈折率と、高屈折率コア層322の層厚との関係について説明する。図4は、高屈折率コア層322に層厚の変化に対する、TE偏波の実効屈折率(白丸)およびTM偏波の実効屈折率(白四角)の変化を示す相関図である。ここでは、コア302の基板平面方向の断面寸法(幅)を3μmとし、低屈折率コア層321の層厚は3μmとする。図4から明らかなように、高屈折率コア層322の層厚を42nm程度とすると、TE偏波の実効屈折率とTM偏波の実効屈折率との差(複屈折)を1×10-4以下に低減できる。
【0032】
ところで、下部クラッド層301の厚さによっては、偏波によって下部クラッド層301の下側の支持基板層(不図示)への光の漏れ出しが異なり、偏波間の伝搬損失に差が生じてしまうことがある。このことが原因で、光導波路デバイスに偏波依存損失(PDL)が生じる。これに対し、上述したように高屈折率コア層322の位置によりモードフィールド高さを制御し、支持基板の側への光の漏れ出しを偏波間で同程度にすることで、PDLを低減することができる。
【0033】
[実施の形態3]
次に、本発明の実施の形態3について説明する。図5は、本発明の実施の形態3における他の光導波路の構成を示す断面図である。この光導波路は、下部クラッド層501と、下部クラッド層501の上に形成されたコア502と、コア502の上に形成された上部クラッド層503とを備える。上部クラッド層503は、コア502を覆って下部クラッド層501の上に形成されている。
【0034】
また、この光導波路は、コア502が、高屈折率コア層521と、この上に形成された低屈折率コア層522とから構成されている。高屈折率コア層521は、低屈折率コア層522より高屈折率な材料から構成されている。コア502は、高屈折率コア層521および低屈折率コア層522の2層構造となっている。この光導波路では、高屈折率コア層521を、コア502の下端に配置している。このようにすることで、各偏波の伝搬モードのモードフィールドの中心を、コア502の断面においてより低い位置にすることができる。
【0035】
次に、本実施の形態における、TEおよびTMの2つの偏波の実効屈折率と、高屈折率コア層521の層厚との関係について説明する。図6は、高屈折率コア層521に層厚の変化に対する、TE偏波の実効屈折率(白丸)およびTM偏波の実効屈折率(白四角)の変化を示す相関図である。ここでは、コア502の基板平面方向の断面寸法(幅)を3μmとし、低屈折率コア層522の層厚は3μmとする。図6から明らかなように、高屈折率コア層521の層厚を52nm程度とすると、TE偏波の実効屈折率とTM偏波の実効屈折率との差(複屈折)を1×10-4以下に低減できる。
【0036】
[実施の形態4]
次に、本発明の実施の形態4について説明する。図7は、本発明の実施の形態4における光導波路の構成を示す断面図である。この光導波路は、下部クラッド層701と、下部クラッド層701の上に形成されたコア702と、コア702の上に形成された上部クラッド層703とを備える。上部クラッド層703は、コア702を覆って下部クラッド層701の上に形成されている。
【0037】
また、本実施の形態における光導波路は、コア702が、低屈折率コア層721および低屈折率コア層723と、低屈折率コア層721および低屈折率コア層723に挟まれて配置され、低屈折率コア層721および低屈折率コア層723より屈折率の高い高屈折率コア層722とから構成されている。コア702は、低屈折率コア層721,高屈折率コア層722,および低屈折率コア層723が、この順に積層されて構成されている。言い換えると、高屈折率コア層722を、低屈折率コア層(低屈折率コア層721,高屈折率コア層722)の中に挿入してコア702を構成している。
【0038】
上述した本実施の形態によれば、コア702を、低屈折率コア層721および低屈折率コア層723と、高屈折率コア層722とから構成しているので、導波路全体の複屈折を小さくすることができ、光導波路におけるTEモードの実効屈折率とTMモードの実効屈折率との差を小さくすることができる。
【0039】
以下、本実施の形態における複屈折の低減について説明する。まず、例えば、下部クラッド層701および上部クラッド層703は、酸化シリコンから構成し、下部クラッド層701は、よく知られたSOI基板の埋め込み酸化層を用いて構成することができる。また、単結晶シリコン基板の表面を熱酸化することで形成した酸化シリコン層を用いて構成することができる。このような酸化シリコンの層は、基板に水平方向の屈折率が1.4456であり、基板に垂直方向の屈折率が1.4467となる。
【0040】
また、上部クラッド層703は、プラズマCVD法によって堆積した酸化シリコンから構成することができる。このように形成した酸化シリコンの層は、基板に水平方向の屈折率が1.4675であり、基板に垂直方向の屈折率が1.4685となる。
【0041】
また、コア702は、酸化シリコンより屈折率を高くした酸化シリコン,酸窒化シリコン,および窒化シリコンから構成することができる。このようなクラッド層の材料に対して屈折率の高い酸化シリコンや酸窒化シリコンの層は、例えば、プラズマCVD法により堆積することで形成でき、この場合、基板に水平方向の屈折率は1.5099とし、基板に垂直方向の屈折率は1.5134とすることができる。また、より屈折率の高い酸化シリコンの層は、例えば、プラズマCVD法により堆積することで形成できる。
【0042】
ここで、上述したような下部クラッド層701および上部クラッド層703に対し、コア702を酸窒化シリコンから構成した場合、コア702の断面形状を3×3μm程度とすることで、1.55μm帯におけるシングルモード光導波路が得られる。
【0043】
しかしながら、上述した各層は、製造過程で生じる内部応力や分子構造の異方性など様々な原因により、屈折率異方性を有している。このため、下部クラッド層701と上部クラッド層703とは、屈折率が異なることになり、コア702から見ると、上下方向に屈折率が非対称な状態となる。また、各層は複屈折を有している。これらのことにより、上述したようにコア702を単一の材料から構成した光導波路では、光導波路全体として複屈折が生じている状態となり得る。この結果、TEモードの実効屈折率とTMモードの実効屈折率とに差が発生し、偏波依存性が生じる状態となる。
【0044】
これに対し、本実施の形態では、コア702の低屈折率コア層721および低屈折率コア層723を酸窒化シリコンから構成し、ここに、より屈折率の高い酸化シリコンからなる高屈折率コア層722を挿入し、高屈折率コア層722の屈折率を制御することで光導波路全体の複屈折を制御するようにしたので、2つの偏波における実効屈折率の差を低減して偏波依存性を抑制することができるようになる。
【0045】
例えば、シラン(SiH4)および酸素(O2)などをソースガスに用いた電子サイクロトロン共鳴(ECR)プラズマCVD法により酸化シリコンを堆積することで、高屈折率コア層722を形成すれば、ソースガスの供給比などの製造条件を制御することで、高屈折率コア層722を所望の屈折率に作製することができる。
【0046】
以下、TEおよびTMの2つの偏波の実効屈折率と、高屈折率コア層722の屈折率との関係について説明する。図8は、高屈折率コア層722に屈折率の変化に対する、TE偏波の実効屈折率(白丸)およびTM偏波の実効屈折率(白四角)の変化を示す相関図である。ここでは、コア702の基板平面方向の断面寸法(幅)を3μmとし、低屈折率コア層721および低屈折率コア層723の層厚は各々1.5μmとする。また、高屈折率コア層722の層厚は0.2μmとする。
【0047】
図8から明らかなように、高屈折率コア層722の屈折率を1.6525程度とすると、TE偏波の実効屈折率とTM偏波の実効屈折率との差がなくなる。また、導波路全体の複屈折を1×10-4以下とするためには、高屈折率コア層722の屈折率を1.651〜1.654の範囲にすればよいことがわかる。言い換えると、高屈折率コア層722の屈折率を1.651〜1.654の範囲とすれば、実使用の範囲で偏波無依存の状態が得られることになる。
【0048】
ところで、コアを形成する各層の材料は所望の屈折率が得られるならば、上述した材料に限らない。また、高屈折率コア層722には、酸窒化シリコンなど、材料の組成比によって容易に屈折率を制御させられる材料を用いることが望ましい。
【0049】
なお、本実施の形態においても、前述した実施の形態1と同様に、下部クラッド層の側から見てコアの上下方向中央部に、高屈折率コア層を配置している。従って、各偏波の伝搬モードのモードフィールドの中心を、コア断面の高さ方向の中心に位置させることができる。
【0050】
[実施の形態5]
次に、本発明の実施の形態5について説明する。図9は、本発明の実施の形態5における他の光導波路の構成を示す断面図である。この光導波路は、下部クラッド層901と、下部クラッド層901の上に形成されたコア902と、コア902の上に形成された上部クラッド層903とを備える。上部クラッド層903は、コア902を覆って下部クラッド層901の上に形成されている。
【0051】
また、この光導波路は、コア902が、低屈折率コア層921と、この上に形成された高屈折率コア層922とから構成されている。高屈折率コア層922は、低屈折率コア層921より高屈折率な材料から構成されている。コア902は、低屈折率コア層921および高屈折率コア層922の2層構造となっている。この光導波路では、高屈折率コア層922を、コア902の上端に配置している。このようにすることで、各偏波の伝搬モードのモードフィールドの中心を、コア902の断面においてより高い位置にすることができる。この結果、下部クラッド層901の下側(例えばシリコン基板)への光の漏れ出しを低減することができるようになる。
【0052】
次に、本実施の形態における、TEおよびTMの2つの偏波の実効屈折率と、高屈折率コア層922の屈折率との関係について説明する。図10は、高屈折率コア層922に屈折率の変化に対する、TE偏波の実効屈折率(白丸)およびTM偏波の実効屈折率(白四角)の変化を示す相関図である。ここでは、コア902の基板平面方向の断面寸法(幅)を3μmとし、低屈折率コア層921の層厚は3μmとする。また、高屈折率コア層922の層厚は、0.1μmとする。
【0053】
図10から明らかなように、高屈折率コア層922の屈折率を1.77〜1775程度とすると、TE偏波の実効屈折率とTM偏波の実効屈折率との差(複屈折)を1×10-4以下に低減できる。
【0054】
また、本実施の形態では、高屈折率コア層922の位置をコア902の上部としたので、モードフィールドの中心位置をより高くすることができ、支持基板の側への光の漏れ出しを偏波間で同程度にすることできるので、PDLを低減することができる。
【0055】
[実施の形態6]
次に、本発明の実施の形態6について説明する。図11は、本発明の実施の形態6における光導波路の構成を示す断面図である。この光導波路は、下部クラッド層1101と、下部クラッド層1101の上に形成されたコア1102と、コア1102の上に形成された上部クラッド層1103とを備える。上部クラッド層1103は、コア1102を覆って下部クラッド層1101の上に形成されている。
【0056】
また、この光導波路は、コア1102が、高屈折率コア層1121と、この上に形成された低屈折率コア層1122とから構成されている。高屈折率コア層1121は、低屈折率コア層1122より高屈折率な材料から構成されている。コア1102は、高屈折率コア層1121および低屈折率コア層1122の2層構造となっている。この光導波路では、高屈折率コア層1121を、コア1102の下端に配置している。このようにすることで、各偏波の伝搬モードのモードフィールドの中心を、コア1102の断面においてより低い位置にすることができる。
【0057】
次に、本実施の形態における、TEおよびTMの2つの偏波の実効屈折率と、高屈折率コア層1121の屈折率との関係について説明する。図12は、高屈折率コア層1121に屈折率の変化に対する、TE偏波の実効屈折率(白丸)およびTM偏波の実効屈折率(白四角)の変化を示す相関図である。ここでは、コア1102の基板平面方向の断面寸法(幅)を3μmとし、低屈折率コア層1122の層厚は3μmとする。また、高屈折率コア層1121の層厚は、0.1μmとする。
【0058】
図12から明らかなように、高屈折率コア層1121の屈折率を1.805〜1.81程度とすると、TE偏波の実効屈折率とTM偏波の実効屈折率との差(複屈折)を1×10-4以下に低減できる。
【0059】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形が実施可能であることは明白である。
【符号の説明】
【0060】
101…下部クラッド層、102…コア、103…上部クラッド層、121,123…低屈折率コア層、122…高屈折率コア層。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部クラッド層と、
この下部クラッド層の上に形成されたコアと、
このコアの上に形成された上部クラッド層と
を備え、
前記コアは、低屈折率コア層およびこの低屈折率コア層より屈折率の高い高屈折率コア層が積層されて構成されていることを特徴とする光導波路。
【請求項2】
請求項1記載の光導波路において、
前記高屈折率コア層は、前記光導波路の複屈折が設定された値以下となる範囲の層厚とされている
ことを特徴とする光導波路。
【請求項3】
請求項1記載の光導波路において、
前記高屈折率コア層は、前記光導波路の複屈折が設定された値以下となる範囲の屈折率とされている
ことを特徴とする光導波路。
【請求項4】
請求項2または3記載の光導波路において、
前記設定された値は、1×10-4であることを特徴とする光導波路。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の光導波路において、
前記高屈折率コア層は、前記コアの上部に配置されていることを特徴とする光導波路。
【請求項1】
下部クラッド層と、
この下部クラッド層の上に形成されたコアと、
このコアの上に形成された上部クラッド層と
を備え、
前記コアは、低屈折率コア層およびこの低屈折率コア層より屈折率の高い高屈折率コア層が積層されて構成されていることを特徴とする光導波路。
【請求項2】
請求項1記載の光導波路において、
前記高屈折率コア層は、前記光導波路の複屈折が設定された値以下となる範囲の層厚とされている
ことを特徴とする光導波路。
【請求項3】
請求項1記載の光導波路において、
前記高屈折率コア層は、前記光導波路の複屈折が設定された値以下となる範囲の屈折率とされている
ことを特徴とする光導波路。
【請求項4】
請求項2または3記載の光導波路において、
前記設定された値は、1×10-4であることを特徴とする光導波路。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の光導波路において、
前記高屈折率コア層は、前記コアの上部に配置されていることを特徴とする光導波路。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−232649(P2011−232649A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−104322(P2010−104322)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
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