説明

光干渉断層像形成装置及びその制御方法

【課題】 光干渉断層診断装置において、光プローブ部内の光学ミラー部の回転速度に関する誤操作を起こりにくくし、且つ、操作性に優れたスキャンを行うことを可能にする。
【解決手段】 光干渉断層診断装置は、ラジアルスキャンを指示するスイッチの操作を検出すると、光プローブの先端の光学ミラー部を1800rpmの速度で回転駆動し、その速度で血管断層像の測定と表示を行う。また、9600rpmでの回転駆動を指示するプルバックスイッチは、そのスイッチ操作が行われる時点で既に1800rpmで光学ミラー部が回転している場合に限って、有効と判断される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光干渉断層像形成装置及びその制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バルーンカテーテル、ステント等の高機能カテーテルによる血管内診療がある。この診療術前の診断、或いは、術後の経過確認のため、光干渉断層画像診断装置(OCT:Optical Coherent Tomography)等の画像診断装置が用いられるのが一般的になってきた。
【0003】
この画像診断装置は、先端に光学レンズを有し、更に、光学ミラーを取り付けた光ファイバを内蔵したカテーテルを有する。そして、そのカテーテルを患者の血管内に挿入し、光学ミラーを回転させながら、光学ミラーを介して血管壁に光を照射し、生体組織からの反射光を再度、その光学ミラーを介して受光することでラジアル走査を行い、得られた反射光を元に血管の断面画像を構築するものである。また、OCTの改良型として、波長掃引を利用した光干渉断層診断装置(OFDI:Optical Frequency Domain Imaging)も開発されている。
【0004】
光干渉断層診断装置の基本原理は、装置内部の光源からの出力される光を測定光と参照光に分割し、測定光を上記光ファイバの光学ミラーを介して出射する。そして、生体組織によって反射された散乱光を同じ光ファイバを介して受光し、既知の距離を経て反射した参照光との干渉光を得、その強度からカテーテル近傍の生体組織(血管)の断層像を得るものである(例えば、特許文献1)。
【0005】
特に、波長掃引を利用した光干渉断層診断装置の場合は、出射する光の波長を予め定めた範囲内で繰り返し掃引することで、参照光の光路長は操作することなく、得られた干渉光の周波数分布から、測定光と参照光が同じ点を基準とした深度方向の反射強度分布を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−267867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、波長掃引を利用した光干渉断層診断装置の場合、その診断画像の解像度を高くするため、カテーテル内のミラーの回転速度をこれまで以上に高速に回転させる。しかし、その一方で、回転速度を高くしたため、今度はその摩擦熱の発生という問題が生ずる。上記のように、カテーテルは血管内に挿入されるものであるから、生体組織に対する摩擦熱の影響は少なければ少ないほど良い。また、高速回転させることで故障のリスクも高まる。従って、ミラーを高速回転させる際、その高速回転を継続する期間に上限が設けられている。また、高速回転させるのは、対象となる血管部位の断層像を得るためのスキャンを行うタイミングに合わせる必要がある。
【0008】
一方、断層像を得るための測定部位にカテーテルが位置したか否かを判断したり、ミラーが正常に回転しているか等の確認作業も必要である。この確認作業では、血管の大まかな断層像が得られれば良く、その像を見てミラーが正常回転しているか否かを確認できれば良いので、その際のミラーの回転速度は摩擦熱の影響が無視できる低速回転で構わない。
【0009】
上記の考察から、本願発明者は、ミラーの回転速度を2段階にすることに着想が至ったが、単純に高速回転と低速回転とをそれぞれを指示する操作スイッチを設けた場合の更なる問題があることに気づいた。それは、誤操作により高速回転を指示してしまった場合の問題である。もし誤操作で高速回転を指示したことに気づかないまま、実際に断層像を得るためのスキャンを指示したタイミングが高速回転の継続限界時間に近い場合、スキャンが完了する前に継続限界時間に到達して測定が無効となってしまう。また、継続限界時間いっぱいまで高速回転させてしまったわけであるから、この時点では、カテーテルが比較的高い温度になっている。従って、再度の高速回転の指示は、十分に温度が下がる期間が経るのを待つことが望まれる。
【0010】
そこで、本願発明は、光干渉断層診断装置において、上記のようなミラー部の回転速度に関する誤操作を起こりにくくし、且つ、操作性に優れたスキャンを行うことを可能ならしめる技術を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の光干渉断層像形成装置は以下の構成を備える。すなわち、
光源から出力された光を光分割手段で測定光と参照光に分割し、生体管腔内に挿入された光プローブを介して、該光プローブの先端近傍位置に設けた光偏向手段を軸中心に回転させながら、前記測定光を生体組織に出射して得られた反射光と、前記参照光とから得られる干渉光の光強度に基づいて該生体組織内の断面画像を生成する光干渉断層像形成装置であって、
前記光偏向手段の第1の速度での回転を指示するための第1のスイッチと、
前記第1の速度より高速な第2の速度で前記光偏向手段の回転を指示するための第2のスイッチと、
前記第1のスイッチの指示操作を検出した場合には、前記光偏向手段を前記第1の速度で回転駆動し、
前記第2のスイッチの指示操作を検出した場合には、当該第2のスイッチが指示操作されたときに前記光偏向手段が前記第1の速度で回転していることを条件に前記光偏向手段の回転速度を前記第2の速度に変更する駆動制御手段とを有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、光干渉断層診断装置において、プローブ内のミラー部の回転速度に関する誤操作を起こりにくくし、且つ、操作性に優れたスキャンを行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態にかかる画像診断装置の外観構成を示す図である。
【図2】画像診断装置の機能構成を示すブロック図である。
【図3】信号処理部の機能構成を示すブロック図である。
【図4】血管内における光プローブによる回転走査、軸方向移動を、測定光の照射と反射光の取り込みを説明する図である。
【図5】血管内における光プローブの動作を説明するための模式図である。
【図6】スキャナ/プルバック部の操作部を示す図である。
【図7】スキャナ/プルバック部の操作部による操作に対する信号処理部の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面に従って本発明に係る実施形態を詳細に説明する。
【0015】
[装置構成および動作の説明]
先ず、本実施形態における装置全体の構成並びに動作について説明する。
【0016】
図1は本発明の構成を具備する波長掃引型光干渉断層像形成装置(OCT装置)(以下、画像診断装置という)のシステム構成及び外観構成を示す図である。図1に示すように、画像診断装置100は、光プローブ部101と、スキャナ/プルバック部102と、操作制御装置103とを備える。
【0017】
また、後述するフラッシュ液を診断対象の血管部位に流出するため、光プローブ部101を収容するガイディングカテーテル115が用いられる。このガイディングカテーテル115の後端115aには、図1の矢印で示す如く、光プローブ部101を挿入する挿入孔があり、先端115bには光プローブ部101を外部に露出させる口部が設けられている。そして、このガイディングカテーテル115には、後述するフラッシュ液を収容した薬剤導入部118を接続するためのポート116が設けられている。この薬剤導入部118を操作することで、内部に収容されたフラッシュ液が、先端部11bを介して放出されることになる。
【0018】
スキャナ/プルバック部102と操作制御装置103とは、信号線/光ファイバ104により接続されている。光プローブ部101を収容したガイディングカテーテル115は、直接血管等の生体管腔内に挿入され、光プローブ部101の先端に設けられたイメージングコアを用いて生体管腔内部の状態を測定する。この光プローブ部101は、その内部を貫通する光ファイバ236と、その外側を覆うカテーテルシース403で構成され、少なくともその先端部の付近は透明部材で構成されている(詳細後述)。
【0019】
上記のフラッシュ液には、生理食塩水や造影剤(並びにその混合液)が用いられ、それが薬剤導入部118に収納されることになる。薬剤導入部118は、例えばシリンジからなり、フラッシュ液を収容して、その押し子を押し込むことで、フラッシュ液をカテーテル先端から血管内に流出させる。血液が押し流されてフラッシュ液と置換することで血球成分の影響を少なくした状態でスキャンすることが可能になる。かかる操作は、一般にフラッシュ操作と呼ばれるものであるが、ここでの詳述は省略する。
【0020】
スキャナ/プルバック部102は、内蔵モータによる回転動作により光プローブ部101内のイメージングコアのラジアル動作を規定する。また、このスキャナ/プルバック部102は、内蔵のもう1つのモータを駆動することで、光プローブ部101内で回転中の光ファイバ236を、一定速度で引き戻す操作(プルバック処理)も行う。このプルバック処理で、血管の軸に沿った連続した血管断層像を得ることができる。また、このスキャナ/プルバック部102には、光プローブ部101内の光ファイバ236の回転速度の設定、回転の開始/停止、並びにプルバックを指示するための各種指示スイッチを配置した操作部102aが設けられている。
【0021】
操作制御装置103は、生体組織の光干渉断層像形成を行うにあたり、各種設定値を入力するための機能や、測定光を出力する機能や、測定により得られたデータを処理し、断層画像として表示するための機能を備える。操作制御装置103において、111は本体制御部であり、測定により得られたデータを処理したり、処理結果を出力したりする。111−1はプリンタ/DVDレコーダであり、本体制御部111における処理結果を印刷したり、データとして記憶したりする。112は操作パネルであり、ユーザは該操作パネル112を介して、各種設定値及び指示の入力を行う。113は表示装置としてのLCDモニタであり、本体制御部111における処理結果を表示する。
【0022】
図2は、図1に示す画像診断装置100の機能構成図である。図示において、208は波長掃引光源であり、Swept Laserが用いられる。波長掃引光源208は、SOA216(semiconductor optical amplifier)とリング状に結合された光ファイバ217を有する光源部(208a)とポリゴンスキャニングフィルタ(208b)とからなる、Extended-cavity Laserの一種である。SOA216から出力された光が、光ファイバ217を進み、ポリゴンスキャニングフィルタ208bに入り、ここで波長選択された光が、SOA216で増幅され、最終的にカップラ214から出力される。ポリゴンスキャニングフィルタ208bは、光を分光する回折格子212とポリゴンミラー209との組み合わせで波長を選択する。回折格子212により分光された光を2枚のレンズ(210、211)によりポリゴンミラー209の表面に集光させる。これによりポリゴンミラー209と直交する波長の光のみ同一の光路を戻り、ポリゴンスキャニングフィルタ208bから出力されるため、ポリゴンミラー209を回転させることで、波長の時間掃引を行う。ポリゴンミラー209は、例えば、72面体のミラーが使用され、回転数が50000rpm程度である。ポリゴンミラー209と回折格子212とを組み合わせたユニークな波長掃引方式により、高速、高出力の波長掃引が可能である。
【0023】
カップラ214から出力された波長掃引光源208からの光は、第1のシングルモードファイバ230の一端に入射される。第1のシングルモードファイバ230は、第2のシングルモードファイバ231と光学的に結合されている光カップラ226に導かれ、ここで、2つに分岐されて伝送される。
【0024】
第1のシングルモードファイバ230の光カップラ部226より先端側には、スキャナ/プルバック部102が設けられている。スキャナ/プルバック部102内には、非回転部(固定部)と回転部(回転駆動部)との間を結合し、光を伝送する光ロータリジョイント(光カップリング部)203が設けられている。更に、光ロータリジョイント203の先端側に設けられた第4のシングルモードファイバ235は、光プローブ部101の第5のシングルモードファイバ236と、アダプタ202を介して着脱自在に接続されている。これにより光の送受信を繰り返しながら、回転駆動させるイメージングコア201内に波長掃引光源208からの光が伝送される。
【0025】
第5のシングルモードファイバ236に伝送された光は、イメージングコア201の先端側から血管の生体組織に対してラジアル動作しながら照射される。そして、生体組織の表面あるいは内部で散乱した反射光の一部はイメージングコア201により取り込まれ、逆の光路を経て第1のシングルモードファイバ230側に戻り、光分割手段及び光合成手段としての機能を併せ持つ光カップラ部226によりその一部が第2のシングルモードファイバ237側に移る。光カップラ部226において、反射光は後述の参照光と混合され、干渉光として、光検出器(実施形態ではフォトダイオード、以下、PDという)219にて受光される。
【0026】
光ロータリジョイント203の回転部側は回転駆動装置204のラジアル走査モータ205により回転駆動される。また、ラジアル走査モータ205の回転角度は、エンコーダ部206により検出される。更に、スキャナ/プルバック部102は、直線駆動装置207を備え、信号処理部223からの指示に基づいて、カテーテル部101の挿入方向(軸方向)の動作を規定している。軸方向移動は、信号処理部223からの制御信号に基づいて、直線駆動装置207内の直線駆動モータが動作することにより実現される。
【0027】
また、第2のシングルモードファイバ231の光カップラ部226より先端側には、参照光の光路長を微調整する光路長の可変機構225が設けてある。この光路長の可変機構225は光プローブ(イメージングコア)201を交換して使用した場合の個々の光プローブ201の長さのばらつきを吸収できるように、その長さのバラツキに相当する光路長を変化させる光路長調整手段を備えている。第2のシングルモードファイバ231およびコリメートレンズ234は、その光軸方向に矢印233で示すように移動自在な1軸ステージ232上に設けられ、光路長調整手段を形成している。
【0028】
すなわち、1軸ステージ232は光プローブ201を交換した場合に、光プローブの光路長のバラツキを吸収できるだけの光路長の可変範囲を有する光路長調整手段として機能する。さらに、1軸ステージ232はオフセットを調整する調整手段としての機能も備えている。例えば、光プローブ201の先端が生体組織の表面に密着していない場合でも、1軸ステージにより光路長を微小変化させることにより、生体組織の表面位置から干渉する状態に設定することが可能となる。
【0029】
ミラー227,229及びレンズ228を介して、反射された光は参照光として第2のシングルモードファイバ231に入力される。光路長の可変機構225で光路長が微調整された参照光は、第2のシングルモードファイバ231の途中に設けた光カップラ部226で第1のシングルモードファイバ230側からの反射光と混合されて、干渉光となり、PD219にて受光される。PD219にて受光された光は光電変換されて電気信号となり、増幅器220に入力され増幅された後、復調器221に供給される。復調器221では干渉した光の信号部分のみを抽出する復調処理を行い、その出力はA/D変換器222に入力される。
【0030】
A/D変換器222では、干渉光信号を180MHzで2048ポイント分サンプリングして、1ラインのデジタルデータ(干渉光データ)を生成する。なお、サンプリング周波数を180MHzとしたのは、波長掃引の繰り返し周波数を80kHzにした場合に、波長掃引の周期(12.5μsec)の90%程度を2048点のデジタルデータとして抽出することを前提としたものであり、特にこれに限定されるものではない。
【0031】
A/D変換器222にて生成されたライン単位の干渉光データは、信号処理部223に入力される。この信号処理部223では干渉光データをFFT(高速フーリエ変換)により周波数分解して深さ方向のデータを生成し、これを座標変換することにより、血管の各位置での断面画像を形成し、所定のフレームレートでLCDモニタ113に出力する。
【0032】
なお、信号処理部223は光路長調整手段制御部218と接続されている。信号処理部223は光路長調整手段制御部218を介して1軸ステージ232の位置の制御を行う。また、信号処理部223はモータ制御回路224と接続され、断面画像を形成する際のビデオ同期信号に同期して内部のメモリに該断面画像を格納する。また、このモータ制御回路224のビデオ同期信号は、回転駆動装置204にも送られ、回転駆動装置204はビデオ同期信号に同期した駆動信号を出力する。更に、信号処理部223は、上記のPD219およびA/D変換器222による干渉光のサンプリングを実行することになる。
【0033】
図4(a)は光プローブ部101のイメージコア201が生体管腔内(血管内)に挿入され、ラジアル走査が行われる様子を説明する図である。光学ミラー401、光学レンズ402を先端に有する光ファイバ236により構成されるイメージングコア201を内蔵したカテーテルシース403は、例えば血管内腔に挿入される。回転駆動装置204は、カテーテルシース403内でイメージングコア201を矢印405方向に回転させ、直線駆動装置207は矢印406方向に移動させる(プルバック処理)。このとき、図4(b)に示すように、波長掃引光源208からの測定光が光ファイバ236を経て、光学ミラー401により血管壁へ照射される。照射された光の反射光は、光学ミラー401から光ファイバ236を経て装置へ戻される。すなわち、光学ミラー401は光ファイバ236からの光プローブ部101の軸方向の光を、生体管腔壁方向へ偏向させる光偏向手段としての機能を有する。光偏向手段としてはプリズム等も使用できる。
【0034】
図5は血管内断層撮影時の光プローブ部101の動作を説明するための模式図である。図5(a)、(b)はそれぞれ光プローブ部101が挿入された状態の血管の斜視図及び断面図である。図5(a)において、501は光プローブ部101が挿入された血管断面を示している。上述のように、光プローブ部101のイメージングコア201はその先端に光学レンズ402、光学ミラー401が取り付けられており、ラジアル走査モータ205により図5(b)の参照符号405で示される方向に回転する。
【0035】
光学レンズ402からは、各回転角度にて測定光の送信/受信が行われる。ライン1、2、…、512は各回転角度における測定光の照射方向を示している。本実施形態では、光学ミラー401及び光学レンズ402を含むイメージングコア201が所定の血管断面501の位置で360度回動する間に、512回の測定光の送信/反射光の受信が断続的に行われる。なお、360度回動する間における測定光の送信/受信回数は特にこれに限られず、任意に設定可能であるものとする。このように、イメージングコア201を回転させながら信号の送信/受信を繰り返すスキャン(走査)を、一般に「ラジアルスキャン(ラジアル走査、回転走査)」という。また、このようなイメージングコア201による測定光の送信/反射光の受信は、イメージングコア201が血管内を矢印406(図4(a)参照)の方向に進みながら行われる。
【0036】
なお、実施形態におけるイメージングコア201の回転速度は、1800rpmと9600rpmの2種類がある。1800rpmは、主にイメージングコア201の先端部が目的とする部位に位置したか否か、並びに、イメージコア201が正しく回転しているか否かを確認するためのものであり、この回転数では図4(a)の矢印406方向にイメージングコアの引き戻し(プルバック)は行なわない。以降、この1800rpmの回転処理をラジアルスキャンモードと呼ぶ。
【0037】
一方、9600rpmは、高精細な血管断層像を得るためのものであり、且つ、血管軸に沿った所定範囲の像を得るモードである。それ故、このモードでは、9600rpmでイメージングコア201を回転させながら、図4(a)の矢印406方向にプルバックする処理が行われる。先に説明したフラッシュ操作(フラッシュ液の注入操作)はこの場合に行われる。以降、このモードをプルバックスキャンモードと呼ぶ。因に、図4(a)の矢印406はイメージングコア201のプルバックする方向であり、血液の流れる方向と逆である。フラッシュ操作を行うと、ガイディングカテーテル115とカテーテルシース403との隙間を通ってガイディングカテーテル115の先端部115bから薬剤が血管内に流出され、その部分で血液が押し流されて薬剤で置換され血球成分の影響がない流れを作り出される。そして、プルバック動作の間、イメージングコア201の先端部は、薬剤で置換された領域を矢印406の方向に移動し、高精度の画像をスキャンすることが可能になる。なお、プルバックの間、ガイディングカテーテル115はイメージングコア201の先端部を覆わない位置に配置されている。
【0038】
図3は実施形態における信号処理部223の構成を示している。この信号処理部223は、操作パネル112や操作部102aによる操作者による指示に従い、上記ラジアルスキャンモード、プルバックスキャンモードにおける干渉光から得られた電気信号(A/D変換器222からの信号)に基づき、断層像の生成処理を行う。この生成処理を次に説明する。
【0039】
信号処理部223は、A/D変換器222からの、波長掃引による1ライン分の干渉光のデータをラインメモリ部301に順次格納する。そして、モータ制御回路224から出力されるモータのエンコーダ信号をもとに、モータ1回転あたりのライン数が512本となるように信号を選択し、グルーピングする。すなわち、1ラインごとの干渉光データが、モータ1回転あたり512個ずつラインデータ生成部302に出力される。
【0040】
ラインデータ生成部302は、FFT(高速フーリエ変換処理)を行うことで、ラインデータを生成するととともに、ライン加算平均処理、フィルター処理、対数変換等を行い、得られたラインデータを後段の後処理部303に出力する。
【0041】
後処理部303では、ラインデータ生成部302より受け取ったラインデータに対してコントラスト調整、輝度調整、ガンマ補正、フレーム相関、シャープネス処理等を施し、処理結果を画像構築部304に出力する。画像構築部304は、極座標のラインデータ列をビデオ信号に変換し、LCDモニタ113に血管断面画像として表示する。なお、ここでは一例として、512ラインから画像を構築する例を示しているが、このライン数に限定されるものではない。制御部305は上述した各部の一連の動作を制御することになるが、血管断層像を得るまでの演算内容、並びに、その表示処理に関する部分は、本願発明には直接には関係しないので、これ以上の説明は省略する。
【0042】
[ユーザインタフェースの説明]
次に、実施形態における操作者に対するユーザインタフェースについて説明する。先ず、ユーザインタフェースの説明に移る前に、その前提部分について説明する。
【0043】
先に説明したように、実施形態におけるスキャンモードには、ラジアルスキャンモード(光学ミラー401を1800rpmで回転させる処理)と、プルバックスキャンモード(光学ミラー401を9600rpmで回転させ、光学ミラー401を図4の矢印406方向に一定速度で移動させる光ファイバ236の引き戻し処理)がある。
【0044】
1800rpmでは問題にはならないものの、カテーテルシースの中で光ファイバ236(光学ミラー401)を9600rpmという高い速度で回転させると、そこに摩擦熱が発生し、カテーテルシースの温度が高まってしまう。従って、長時間回転を継続するのは、カテーテルシースの外側の生体組織にとって望ましくない。また、光ファイバ236や光学ミラー401の破損につながる可能性も生ずる。そこで、9600rpmという回転速度の継続時間は最大でも42秒以内にすること、すなわち、プルバックスキャンモードの高速回転の継続時間にリミッタを設けることが必要とされた。
【0045】
しかし、操作者が誤操作により9600rpmの高速回転を指示してしまい、その高速回転が42秒近くまで継続していることに気づかず、プルバックスキャンを指示してしまった場合、スキャンの途中で継続時間が終了し回転が停止してしまうので、完全な測定データが得られない。従って、このような誤操作は可能な限り防止する必要がある。なお、上記最大継続時間の42秒は、一例として示したに過ぎず、適宜変更しうる値である。
【0046】
また、先に説明したように、プルバックスキャンモードは、光ファイバの引き戻しを行いながら、血管の所定距離の断層像をスキャンするモードであるから、スキャンが完了するまで、該所定距離を移動させる時間が必要である。従って、プルバック処理を開始するタイミングは、9600rpmの最大継続時間(42秒)から、そのプルバック処理に必要な時間分だけ差し引いた時間内でなければならない。スキャンする長さにも依存するが、本実施形態では、回転速度が9600rpmになってから30秒以内にプルバック処理の開始指示を行なわなければ、回転を停止するものとしている。
【0047】
上記を踏まえ、スキャナ/プルバック部102における操作部102aの一例を示す図6、並びに、処理手順を示す図7に従い、実施形態におけるユーザインタフェースに係る処理(信号処理部223の処理内容)を説明する。
【0048】
図6に示すように、スキャナ/プルバック部102に設けられた操作部102aには、光ファイバ236の回転を停止するスイッチ(ボタンでも構わない)610、ラジアルスキャンモード(1800rpm)への移行を指示するスイッチ620、プルバックスキャンモードに入りプルバック可能な状態(9600rpm)への移行を指示するスイッチ630、並びに、プルバックの開始指示を行うためのスイッチ640が設けられている。また、これら各スイッチには、スイッチの状態を報知するためのLED611、621、631、641が内蔵されている。LEDの駆動状態とスイッチの機能の状態との関係は次の通りである。
LED消灯:そのスイッチの機能が発現していない状態
LED点灯:そのスイッチの機能が発現している状態
LED点滅:そのスイッチの機能が発現するまでの遷移状態
【0049】
なお、状態が区別出来ればよいので、勿論、上記のLEDの駆動方法は上記以外でも構わない。場合によっては、幾つかの発光色のLEDを用意し、状態に応じて発光色を変更しても構わない。
【0050】
また、操作部102aには、9600rpmになったとき、プルバックスイッチ640が押下できる残りの秒数をカウントダウン表示するための表示部650が設けられている。
【0051】
以下、実施形態における信号処理部223の処理を図7のフローチャートに従って説明する。
【0052】
先ず、信号処理部223は、ステップS1にて、光干渉断層像形成処理に使用する各構成要素の初期処理を行う。この処理の中には、ラジアルスキャンスイッチ620が機能することを報知するためのLED621を点灯処理、他のスイッチが機能しないことを報知するためのLED611、631、641の消灯処理が含まれる。操作者は、この状態で、光プローブ部101を患者の診断部位の血管内に導く作業を行うこととなる。
【0053】
操作者は、光プローブ201の位置の確認、該位置の微調整、並びに、正常に光学ミラー部401が回転するかを確認するため、ラジアルスキャンスイッチ620を押下する。信号処理部223が、このラジアルスキャンスイッチ620の押下を検出すると(ステップS2でYes)、光ファイバ236を1800rpmで回転させるためラジアル走査モータ205の駆動を行う。このとき、ラジアルスイッチ620のLEDを点滅状態にする。なお、図6に示すスイッチ郡のうち、ラジアルスキャンスイッチ620以外のスイッチの押下があったとしても、それは無視する。消灯状態にあるスイッチの押下が無視されるのは、これ以降の説明でも同様である。
【0054】
そして、ステップS3にて、1800rpmに到達したと判定すると、その回転での断層像を得るための処理を行い、LCDモニタ113にその像を表示する処理を行う(ステップS4)。この結果、操作者は、光学ミラー部401の位置の確認および微調整、正常に光学ミラー部401が回転するかを確認できる。この状況において、より正確な画像を得るため、操作者は、少量の薬剤のフラッシュ操作(薬剤導入部120の薬剤をガイディングカテーテル115の先端部115bから流出させる操作)を行うこともある。また、このステップS4の処理を行っている最中は、LED611、631を点灯して、ストップスイッチ610、プルバックレディスイッチ630の押下が有効扱いされることを報知し、いずれかのスイッチの押下の検出を待つ(ステップS5、S6)。
【0055】
ここで、ストップスイッチを610の押下を検出すると、信号処理部223はステップS7にて、光ファイバ236の回転を停止し、ステップS1に処理を戻す。
【0056】
一方、プルバックレディスイッチ630の押下を検出すると、信号処理部223は光ファイバ236を9600rpmで回転させるためラジアル走査モータ205の駆動を行うと共に、LED631を点滅させる(ステップS6)。そして、ステップS8にて、9600rpmでの回転にまで到達するまで待つ。
【0057】
9600rpmに達すると、プルバックが可能な状態となり、プルバックが行えなくなるまでの残存時間(実施形態では30秒)のカウントダウンを開始し、その残存時間の表示部650への表示を開始する(ステップS9)。このカウントダウン中、操作者が操作できるのは、ストップスイッチ610、プルバックスイッチ640であるので、それぞれのLED611、641を点灯し、他のスイッチのLED621、631は消灯する。
【0058】
信号処理部223は、ステップS10にて、カウントダウンによる残りの秒数が0秒であるか否か、並びに、ステップS11、S12にて、ストップスイッチ610、プルバックスイッチ640のいずれかの押下があったかを判定し、いずれかが判定されるまで、S10乃至S12にてループする。なお、1800rpmに戻すことを許容するのであれば、このループ中に、LED621を点灯させ、ラジアルスキャンスイッチ620が押下されたか否かを判定する処理を行い、その押下を検出したときにステップS3に戻すようにしてもよい。
【0059】
さて、上記のループにおいて、カウントダウンによる残り秒数が0秒になった、或いは、ストップスイッチ611の押下を検出した場合、処理はステップS7に進み、光ファイバ236の回転を停止させ、ステップS1に戻る。このときLED641は消灯される。
【0060】
一方、プルバックスイッチ640の押下を検出したとき(このとき、操作者は、薬剤導入部118から血管内に薬剤を導入するフラッシュ操作を行っている)、処理はステップS13に進む。ここで信号処理部223は、直線駆動装置207を駆動を開始させ、所定速度で光ファイバ236(9600rpmで回転している)を予め設定した距離だけ引っ張る処理を行う。その間、先に説明したようにA/D変換器222による干渉光の電気信号のサンプリングを行い、血管の3次元の断層像を得るための処理を行う。このプルバック処理中は、プルバックスイッチ640のLED641が点滅していて、他のスイッチのLEDは消灯させる。こうして、必要な距離の光ファイバ236の引き戻しを終えると、処理はステップS14に進み、プルバックの処理を終了し、光ファイバ236の回転を停止させる。このとき、全てのLEDは消灯にする。この後、処理はステップS15に進んで、取得した光干渉データ等の情報を不図示のハードディスク等の記憶手段に保存し、本処理を終える。
【0061】
以上説明したように本実施形態によれば、9600rpmという高速回転へは、確認作業を行うための1800rpmという低速回転を経ないと移行できないので、回転していない状態で仮に誤操作によってプルバックレディスイッチを押下したとしても、その操作は無効扱いとすることができ、安全性、操作性を向上させることが可能になる。また、各スイッチが有効かどうかは、各々のスイッチに設けられたLEDの駆動状態で確認できることとなり、更なる誤操作の防止が可能になる。なお、1800rpmという低速回転の段階を設けることは、高速回転を必要としない各種確認作業を行うのに有用であり、発熱や故障を回避する上で有効となる。
【0062】
なお、実施形態では、スキャナ/プルバック部102に、各スイッチを配置する例を説明した。これに変えて、或いは、これに加えて、同様のスイッチを操作パネル112に設けたり、LCDモニタ113に表示させてもよい。
【0063】
また、実施形態では、光ファイバ236の回転速度として、1800rpm、9600rpmの例を説明したが、これらの回転数によって本願発明が限定されるものではない。当然、カウントダウンする時間長も装置構成や設定で変ってくるので、上記実施形態で本発明が限定されるものではない。
【符号の説明】
【0064】
100:画像診断装置、101:光プローブ部、102:スキャナ/プルバック部、102a:操作部、103:操作制御装置、201:イメージングコア、208:光源、219:光検出器、220:増幅器、223:信号処理部、225:光路長の可変機構、226:光カップラ部、305:制御部、610、620、630、640:スイッチ、611、621、631、641:LED、650:表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源から出力された光を光分割手段で測定光と参照光に分割し、生体管腔内に挿入された光プローブを介して、該光プローブの先端近傍位置に設けた光偏向手段を軸中心に回転させながら、前記測定光を生体組織に出射して得られた反射光と、前記参照光とから得られる干渉光の光強度に基づいて該生体組織内の断面画像を生成する光干渉断層像形成装置であって、
前記光偏向手段の第1の速度での回転を指示するための第1のスイッチと、
前記第1の速度より高速な第2の速度で前記光偏向手段の回転を指示するための第2のスイッチと、
前記第1のスイッチの指示操作を検出した場合には、前記光偏向手段を前記第1の速度で回転駆動し、
前記第2のスイッチの指示操作を検出した場合には、当該第2のスイッチが指示操作されたときに前記光偏向手段が前記第1の速度で回転していることを条件に前記光偏向手段の回転速度を前記第2の速度に変更する駆動制御手段と
を有することを特徴とする光干渉断層像形成装置。
【請求項2】
前記光偏向手段の回転速度が前記第2の速度に到達したとき、当該第2の速度が継続する時間の計時を開始する計時手段と、
該計時手段で計時された時間が予め設定された時間に到達したとき、前記光偏向手段の回転を停止する回転停止手段と
を更に有することを特徴とする請求項1に記載の光干渉断層像形成装置。
【請求項3】
前記光偏向手段を前記光プローブの軸方向に沿って所定速度での移動を指示するための第3のスイッチと、
該第3のスイッチの指示操作を検出した場合には、当該第3のスイッチが指示操作されたときに前記光偏向手段が前記第2の速度で回転していることを条件に前記光偏向手段を前記所定速度で移動させる移動制御手段と
を更に有することを特徴とする請求項2に記載の光干渉断層像形成装置。
【請求項4】
前記光偏向手段が前記第2の速度になってから、前記光偏向手段の前記所定速度での移動を完了させるために、前記第3のスイッチを押下しなければならない制限時間までの残存時間を表示するカウントダウン表示手段を更に有することを特徴とする請求項3に記載の光干渉断層像形成装置。
【請求項5】
前記第1のスイッチ、前記第2のスイッチ、および、前記第3のスイッチには、当該スイッチへの操作が有効か否かを報知するための点灯表示手段が設けられていることを特徴とする請求項4に記載の光干渉断層像形成装置。
【請求項6】
光源から出力された光を光分割手段で測定光と参照光に分割し、生体管腔内に挿入された光プローブを介して、該光プローブの先端近傍位置に設けた光偏向手段を軸中心に回転させながら、前記測定光を生体組織に出射して得られた反射光と、前記参照光とから得られる干渉光の光強度に基づいて該生体組織内の断面画像を生成する光干渉断層像形成装置であり、
前記光偏向手段の第1の速度での回転を指示するための第1のスイッチと、前記第1の速度より高速な第2の速度で前記光偏向手段の回転を指示するための第2のスイッチとを含む操作部を有する光干渉断層像形成装置の制御方法であって、
前記第1のスイッチの指示操作を検出した場合には、前記光偏向手段を前記第1の速度で回転駆動する工程と、
前記第2のスイッチの指示操作を検出した場合には、当該第2のスイッチが指示操作されたときに前記光偏向手段が前記第1の速度で回転していることを条件に前記光偏向手段の回転速度を前記第2の速度に変更する工程と
を有することを特徴とする光干渉断層像形成装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−210381(P2012−210381A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78550(P2011−78550)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】