説明

光干渉発色機能を有する複合繊維

審美性が要求される商品分野への展開を可能とする、細い繊度の光干渉発色機能を有する複合繊維が得られる新規な複合繊維は、高屈折率側ポリマーの溶解度パラメーター値(SP1)と低屈折率側ポリマーの溶解度パラメーター値(SP2)との比率(SP1/SP2)が0.8〜1.1の範囲にある、互いに屈折率の異なるアルカリ難溶性ポリマー層が扁平断面の長軸方向に平行に交互に積層した、厚さが10μm以下の交互積層体部の周りを、厚さが2.0μm以上のアルカリ易溶性ポリマーが被覆した構造を特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、光干渉発色機能を有する複合繊維に関するものである。さらに詳しくは、アルカリ水溶液等で処理することにより、種々の用途分野において優れた光輝剤として使用できる、高品質の光干渉発色機能を有する細繊度の繊維が容易に得られる、新規な光干渉発色機能を有する複合繊維に関するものである。
【背景技術】
屈折率の異なる互いに独立したポリマー層の交互積層体からなる光干渉発色機能を有する複合繊維は、自然光の反射・干渉作用によって可視光線領域の波長を干渉発色する。その発色は金属光沢のような明るさがあり、特性波長の純粋で鮮明な色(単色)を呈し、染料や顔料の光吸収による発色とは全く異なった審美性を発現する。そのような光干渉発色機能を有する複合繊維の典型的な例は、国際公開第98/46815号に開示されている。
しかしながら、該国際公開に開示されている光干渉発色機能を有する複合繊維は、その繊度を小さくしようとすると交互積層体が剥離したり、たとえ剥離が生じなくとも、紡糸時のポリマー劣化による紡糸調子悪化や、延伸時に斑が発生して光干渉効果が低下したりするため、特に微細な繊度が要求される塗装や化粧品、印刷などのカットファイバー用途や一部の長繊維用途などの、さらなる審美性の向上が要求される応用商品への展開には問題がある。
【発明の開示】
本発明の目的は、上記の問題を解決し、後処理により優れた光干渉発色機能を有する細繊度の複合繊維が得られ、さらなる審美性が要求される商品分野への展開を可能とする、新規な複合繊維を提供することにある。
本発明者らの研究によれば、交互積層体部の厚さを薄くしても、その周囲をポリマーで被覆した構造にすれば、交互積層体部の剥離が起こり難くなって延伸時の均一性が向上すること、そして該複合繊維から被覆ポリマーを除去すれば、光干渉発色機能に優れた細繊度の複合繊維が安定して得られることが見出された。
すなわち、前記目的を達成し得る本発明の光干渉発色機能を有する複合繊維は、高屈折率側ポリマーの溶解度パラメーター値(SP1)と低屈折率側ポリマーの溶解度パラメーター値(SP2)の比率(SP比)が0.8≦SP1/SP2≦1.1の範囲にある、互いに屈折率の異なるアルカリ難溶性ポリマー層が扁平断面の長軸方向に平行に交互に積層してなる、厚さが10μm以下の交互積層体部を、厚さが2.0μm以上のアルカリ易溶性ポリマーで被覆していることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
第1図の(1)〜(3)は、それぞれ本発明の複合繊維の横断面形状を示す概略図例である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の光干渉発色機能を有する複合繊維の断面構造について、図面を用いて説明する。第1図の(1)〜(3)はそれぞれ、本発明の複合繊維をその長さ方向に直角に切断した場合の断面形状を模式的に示したものであり、2種のアルカリ難溶性ポリマー層からなる交互積層体部は扁平状断面形状を有しており、2種のポリマー層は、扁平断面の長軸方向(図面では水平方向)と平行に多数交互に積層されている。そして、その外周部をアルカリ易溶性ポリマーからなる被覆層が取り囲んでおり、(2)では、中間に別のアルカリ難溶性保護層を設けた態様、(3)では複数の交互積層体部をアルカリ易溶性ポリマーで同時に被覆した態様を示している。
このような交互積層体部におけるそれぞれのポリマー層の厚みは、0.02〜0.5μmの範囲であることが好ましい。厚みが0.02μm未満の場合や0.5μmを超える場合には、期待する光干渉効果を有益な波長領域で得ることが困難となる。さらに厚みは、0.05〜0.15μmの範囲であることが好ましい。また、2種の成分における光学距離、すなわち、層の厚みと屈折率の積が等しいとき、さらに高い光干渉効果を得ることができる。特に、2種の光学的距離の和の2倍が、欲する色の波長と等しいとき、干渉色が最大となるので好ましい。
本発明の複合繊維の繊維軸方向に垂直な交互積層体部断面形状は、第1図に示すように扁平状であり、長軸(図面上は水平方向)および短軸(図面上は垂直方向)を有している。その断面の扁平率(長軸/短軸)が大きいものは、光の干渉に有効な面積を大きくとることができるため好ましい繊維断面形態である。繊維の断面の扁平率は3.5以上、好ましくは4.5以上、特に好ましくは7以上の場合、使用時に各繊維の扁平長軸面が互いに平行方向に配列しやすくなり、光干渉発色機能が向上するので好ましい。しかし、扁平率が大きくなりすぎると、製糸性が大きく低下するので、15以下、特に12以下とするのが好ましい。なお該扁平率は、扁平断面の外周部に後述するアルカリ難溶性ポリマーからなる保護層が被覆されている場合には、該保護層部も含めて算出したものである。
本発明の繊維の断面において、異なるポリマー層の交互積層体部における互いに独立したポリマー層の積層数は、10〜120層であることが好ましい。積層数が10層より少なくなると、光干渉効果が小さくなる。一方、積層数が120層を超えると、得られる光の反射量の増大がもはや期待できないばかりか、口金構造が複雑になって製糸が困難になるとともに、後述する交互積層体部の厚さについての要件を満足させることが困難になり、本発明の目的を達成しがたくなる。
本発明の複合繊維の交互積層体部の断面形状は、上記のとおり、屈折率の異なるポリマー層が多数交互に積層した偏平状の形をしているものであるが、その光干渉発色機能は、交互積層の平行性、すなわち各層の光学的距離が偏平断面の長軸方向にも短軸方向にも均−であることが、反射強度および単色性(鮮明発色)に極めて重要である。かかる界面面積の多い扁平状の積層体構造を形成するには、複雑な口金流路内での積層形成プロセス、吐出後のベーラス、界面張力等を制御して均一な積層厚みを実現することが重要で、そのためには、屈折率の異なるポリマー層間の溶解度パラメーター(SP値)の比を特定することが大切である。すなわち、高屈折率側ポリマーの溶解度パラメーター(SP1)と低屈折率側ポリマーの溶解度パラメーター(SP2)の比率(SP比)を0.8≦SP1/SP2≦1.1の範囲、特に0.85≦SP1/SP2≦1.05の範囲にすることが必要である。このようなポリマーの組合せにすると、2種ポリマーの交互積層流を紡糸口金から吐出したとき、界面に作用する界面張力が小さくなるので均一な交互積層体構造を容易に得ることができる。これに対して、SP比が上記範囲外の場合には、吐出ポリマー流は表面張力で丸くなろうとし、また、両ポリマー積層界面の接触面積を最小にするように収縮力が働き、しかも積層構造体が多層であるのでその収縮力は大きくなるため、積層面が湾曲しながら丸くなって良好な扁平形状が得られなくなる。さらには、ポリマー流は口金出口で解放されると膨らもうとするベイラス効果も大きくなる。
上記の要件を満足する好ましい組合せとしては、例えば、スルホン酸金属塩基を有する二塩基酸成分をポリエステルを形成している全二塩基酸成分当たり0.3〜10モル%共重合しているポリエチレンテレフタレートと酸価3以上を有するポリメチルメタクリレートとの組合せ、スルホン酸金属塩基を有する二塩基酸成分をポリエステルを形成している全二塩基酸成分あたり0.3〜5モル%共重合しているポリエチレンナフタレートと脂肪族ポリアミドとの組合せ、側鎖にアルキル基を有する二塩基酸成分またはグリコール成分を全繰り返し単位当たり5〜30モル%共重合している芳香族共重合ポリエステルとポリメチルメタクリレートとの組合せ、9,9−ビス(パラヒドロキシエトキシフェニル)フルオレンを全繰り返し単位当たり20〜80モル%共重合しているポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレンナフタレートとポリメチルメタクリレートとの組合せ、9,9−ビス(パラヒドロキシエトキシフェニル)フルオレンを全繰り返し単位当たり20〜80モル%とスルホン酸金属塩基を有する二塩基酸成分をポリエステルを形成している全二塩基酸成分当たり0.3〜10モル%共重合しているポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレンナフタレートと脂肪族ポリアミドとの組合せ、2,2−ビス(パラヒドロキシフェニル)プロパンを二価フェノール成分とするポリカーボネートとポリメチルメタクリレートとの組合せ、9,9−ビス(パラヒドロキシエトキシフェニル)フルオレンと2,2−ビス(パラヒドロキシフェニル)プロパン(モル比が20/80〜80/20)を二価フェノール成分とするポリカーボネートとポリメチルメタクリレーとの組合せなどを例示することができる。
本発明においては、上記の交互積層体部の厚さは10μm以下、好ましくは2〜7μmであることが大切である。この厚さが10μmを超える場合には、アルカリ処理しても細繊度の光干渉発色機能を有する複合繊維を得ることができず、本発明の目的を達成することができない。
なお、必要に応じて上記交互積層体部に、厚さが0.1〜3μm、好ましくは0.3〜1.0μmのアルカリ難溶性ポリマーからなる保護層を設けてもよい。この厚さが0.1μmより薄い場合には、該保護層を設ける効果が小さくなり、一方、3μmを越える場合には、アルカリ水溶液で処理しても細繊度の光干渉発色機能を有する繊維を得ることが困難になる。
保護層を形成するポリマーは、アルカリ難溶性であれば特に限定されないが、前記交互積層体部の長軸方向の両サイドを構成するポリマー(高屈折率側ポリマーまたは低屈折率側ポリマー)の溶解度パラメーター値と同程度の溶解度パラメーター値(SP3)であることが好ましく、具体的には0.8≦SP1/SP3≦1.2および/または0.8≦SP2/SP3≦1.2であることが好ましい。なかでも、交互積層されたポリマーのうちの高融点側ポリマーと同一にすると、溶融紡糸時に冷却固化速度の速い高融点側ポリマーで保護層部が先ず形成されるので、界面エネルギーやベイラス効果による偏平断面形状の変形を抑えることができ、積層構造の平行性が維持されて審美性が向上する。
次に本発明の光干渉発色機能を有する複合繊維は、上記の横断面形状が扁平状であり、その扁平断面の長軸方向に平行に交互に、屈折率の異なる互いに独立したポリマー層が多数積層されている交互積層体部(必要に応じて保護層を有する)を、厚さが2.0μm以上、好ましくは2.0〜10μm、特に好ましくは3.0〜5.0μmのアルカリ易溶性ポリマーで被覆されている必要がある。このように、交互積層体部の周囲にアルカリ易溶性ポリマーからなる被覆層を設けることにより、溶融紡糸時に最終吐出孔内部で受ける壁面近傍と内部とのポリマー流分布を緩和することができる。その結果、交互積層体部の厚さが10μm以下であっても積層部の受ける剪断応力分布が低減し、内外層に亘る各層の厚みがより均一な交互積層体が得られ、得られた複合繊維をアルカリ処理して該被覆層を除去すれば、優れた光干渉発色機能を有する細繊度の複合繊維が容易に得られる。
ここで被覆層の厚さが薄すぎて2.0μm未満の場合には、繊維の単糸繊度が小さくなり、かつ扁平断面であるために、紡糸工程調子の低下や後加工工程での取り扱い性などに問題がある。なお、交互積層体部の周囲に直接アルカリ易溶性ポリマーからなる被覆層を設ける場合にも、上述のアルカリ難溶性ポリマーからなる保護層を形成する場合と同じく、前記交互積層体部の長軸方向の両サイドを構成するポリマー(高屈折率側ポリマーまたは低屈折率側ポリマー)の溶解度パラメーター値と同程度の溶解度パラメーター値(SP4)であることが好ましい。具体的には0.8≦SP1/SP4≦1.2および/または0.8≦SP2/SP4≦1.2であることが好ましい。
なお、本発明でいうアルカリ難溶性、易溶性ポリマーとは、両者のアルカリ減量速度に10倍以上の差があることをいう。具体的には、アルカリ水溶液で処理した際に、被覆層のアルカリ易溶性ポリマーは交互積層体部を構成するアルカリ難溶性ポリマーよりも10倍以上の速さで溶解されることをいう。溶解速度差が10倍未満の場合には、被覆層を除去するためにアルカリ水溶液処理をする際、交互積層体部も浸食作用を受けて積層部の乱れや膨潤などによる積層厚み斑が発生し、光干渉発色機能が低下することとなる。
好ましく用いられるアルカリ易溶性ポリマーとしては、ポリ乳酸、ポリエチレングリコールを共重合したポリエチレンテレフタレートもしくはポリブチレンテレフタレート、または、ポリエチレングリコールおよび/またはアルキルスルホン酸アルカリ金属塩を配合したポリエチレンテレフタレート、または、ポリエチレングリコールおよび/またはスルホン酸金属塩基を有する二塩基酸成分を共重合したポリエチレンテレフタレートもしくはポリブチレンテレフタレートが例示される。
ここでポリ乳酸は、L−乳酸を主たる成分とするものが一般的であるが、40重量%を超えない範囲内でD−乳酸を初めとする他の共重合成分を含有していてもよい。また、ポリエチレングリコールを共重合したポリエチレンテレフタレートまたはポリブチレンテレフタレートは、ポリエチレングリコールの共重合割合が30重量%以上となるようにすることが好ましく、かくすることによりアルカリ溶解速度が著しく向上する。さらに、アルキルスルホン酸アルカリ金属塩および/またはポリエチレングリコールを配合したポリエチレンテレフタレートまたはポリブチレンテレフタレートは、前者は0.5〜3.0重量%の範囲、後者は1.0〜4.0重量%の範囲が好ましく、後者のポリエチレングリコールの平均分子量は600〜4000の範囲が適当である。また、ポリエチレングリコールおよび/またはスルホン酸金属塩基を有する二塩基酸成分を共重合したポリエチレンテレフタレートもしくはポリブチレンテレフタレートは、前者が0.5〜10.0重量%の範囲、後者はポリエステルを形成している全二塩基酸成分当たり1.5〜10モル%の範囲が適当である。
また、本発明の光干渉発色機能を有する複合繊維は、その伸度が10〜60%の範囲、特に20〜40%の範囲にあることが好ましい。この伸度が大きすぎる場合には、織編物やカットファイバーとする工程において、該複合繊維に負荷される張力によって繊維が変形しやすくなるため、工程通過性が低下する傾向にある。一方、伸度が小さすぎる場合には、該複合繊維に負荷される張力を吸収しがたくなるため、毛羽や断糸が増加する傾向にある。また、伸度がこの範囲であっても、用いるポリマーの種類によっては、紡出され一旦冷却固化された複合繊維を延伸することにより複屈折率(△n)がより高められ、2種のポリマー間の屈折率差を「ポリマーの屈折率差プラス繊維の複屈折率差」として、結果的に全体として屈折率差を拡大させるができるので、光干渉発色機能が高められる。
さらに、本発明の光干渉発色機能を有する複合繊維は、その130〜150℃における熱収縮率が3%以下であることが好ましい。熱収縮率がこの範囲を超える場合には、布帛、刺繍糸、紙・塗料・インク・化粧品用などのカットファイバー等各種製品に加工する時、該製品を使用する時、またはアイロンなどで該製品のメンテナンスする時に、繊維の収縮など変形が起こって光干渉発色機能が低下しやすい。例えば、布帛とした場合には、150℃での収縮率が3%を超えるとアイロンにより繊維が収縮し、フラットな扁平断面の変形が起こり光干渉発色機能が低下しやすい。特に収縮率が極端に高い場合には、例えば製糸工程で全く熱処理による構造固定が行われていない場合には、交互積層体構造の各層の厚みが大きくなり、光干渉発色自身の色相が変化しやすい。また、例えば塗料に利用する場合でも、塗装工程や捺染工程で同様の温度での乾燥・熱固定が施されるため、品質の面から同様の耐熱性を有していることが好ましい。
以上に説明した本発明の光干渉発色機能を有する複合繊維は、例えば以下の方法により製造することができる。すなわち、国際公開98/46815号に記載の方法により、先ず互いに屈折率の異なるアルカリ難溶性ポリマーを、高屈折率側ポリマーの溶解度パラメーター(SP1)と低屈折率側ポリマーの溶解度パラメーター(SP2)の比率(SP比)が0.8≦SP1/SP2≦1.1の範囲となる組合せで交互積層体構造に溶融吐出する際、高屈折率側ポリマーと低屈折率側ポリマーのいずれよりもアルカリ溶解速度が速いアルカリ易溶性ポリマーで該交互積層体構造を被覆するようにして、交互積層体部が被覆層により被覆された構造の未延伸繊維を得る。未延伸繊維の単繊維繊度は、延伸倍率によって異なるが、アルカリ水溶液処理後に得られる光干渉発色機能を有する複合繊維の繊度が4.0dtex以下、好ましくは0.2〜3.0dtexとなる範囲であれば任意である。被覆層の厚さは、延伸後の被覆層厚さが2.0μm以上となる範囲であれば任意である。
必要に応じて延伸してもよいが、その条件は特に限定する必要はなく、従来公知の未延伸繊維の延伸条件を採用すればよい。例えば、最もガラス転移温度が高いポリマーのガラス転移温度近傍(Tg±15℃)の温度で、ポリマー分子鎖の配向が進む温度であれば任意の温度で延伸することができる。なお、ここでいう温度は、熱板や加熱ローラー等の加熱媒体の温度である。延伸倍率は、最終的に得られる延伸繊維にどの程度の強伸度特性や熱収縮特性を付与するかに応じて適宜設定すればよいが、通常最大延伸倍率の0.70〜0.95倍にて延伸すればよい。なお、熱収縮特性等の耐熱性を向上させるため、延伸に引き続いて熱処理を施してもかまわない。
必要に応じて延伸・熱処理が施された本発明の光干渉発色機能を有する複合繊維は、そのまま長繊維として使用しても、いったん切断して短繊維として使用してもかまわない。短繊維とする場合には、その用途に応じた長さに切断すればよいが、紙、塗料、インク、化粧品、コーティング剤の用途分野に用いる場合には、使用時の取扱い性や得られる最終製品の審美性の点から繊維軸方向の繊維長が、アルカリ易溶性ポリマー部を除いた繊維断面の短軸長さより長くなるように切断することが好ましい。長さの上限は通常50mm程度であるが、特に化粧品や塗装等の細かく分散させたい用途の場合には、1mm以下にするのが好ましい。好ましくは、積層部の長軸長さ以上であれば、短い方が好ましく、数十〜数百μm長が好ましい。
本発明の複合繊維をそのまま長繊維として使用する場合には、例えば任意の織編組織に製編織した後、アルカリ水溶液で処理してアルカリ易溶性ポリマーを除去することにより、細繊度の光干渉機能を有する複合繊維からなる織編物が得られる。
一方、短繊維として使用する場合には、例えば使用前にアルカリ水溶液で処理してアルカリ易溶性ポリマーを除去し、細繊度の光干渉機能を有する複合短繊維として種々の用途に利用できる。また、短繊維とする前の段階で、例えば本発明の複合繊維をカセ状態でアルカリ水溶液で処理してアルカリ易溶解性ポリマーを除去した後にカットしてもよい。
【実施例】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例中におけるポリマーの溶解度パラメーター値(SP値)、繊維断面内各寸法は下記の方法で測定した。
<SP値およびSP比>
SP値は、凝集エネルギー密度(Ec)の平方根で表される値である。ポリマーのEcは、種々の溶剤に該ポリマーを浸漬させ、膨潤の圧が極大となる溶剤のEcを該ポリマーのEcとすることにより求められる。このようにして求められた各ポリマーのSP値は、「PROPERTIES OF POLYMERS」第3版(ELSEVIER)792頁に記載されている。また、Ecが不明なポリマーの場合には、ポリマーの化学構造から計算できる。すなわち、該ポリマーを構成する置換基それぞれのEcの和として求めることができる。各置換基のEcについては、上述した文献第192頁に記載されている。そして、例えば交互積層体部のSP比は次式から算出する。
SP比=高屈折率ポリマーのSP値(SP1)/低屈折率ポリマーのSP値(SP2)
<繊維断面測定>
平板シリコンプレートとビームカプセルにサンプル繊維を固定し、エポキシ樹脂で包埋する。次いで、ミクロトームULTRACUT−Sを用い、繊維軸に垂直方向に切断し、厚さが50〜100nmの超薄切りサンプルを作成してグリッドに載台する。2%四酸化オスミウムで温度60℃下2時間蒸気処理を施した後、透過型電子顕微鏡LEM−2000を用いて加速電圧100kVで写真撮影(倍率20000倍)する。得られた写真より積層構造体部分の各層の平均厚さおよび被覆層の厚さを測定した。
<光干渉発色波長および強度>
黒色板にサンプル繊維(マルチフィラメントヤーン)を40本/1cmの巻密度で、0.265cN/dtex(0.3g/de)の巻張力で巻きつけ、マクベス社製分光光度計カラーアイ3100(CE−3100)にてD65光源で測色する。測定窓は大窓25mmφ、表面光沢を含む、光源に紫外線を含む条件にて、ピーク波長と反射強度を測定した。反射強度は、ベースラインとピーク波長での反射強度の差を正味の反射強度とした。
[実施例1〜7および比較例1〜2]
第1表に記載の高屈折率ポリマー(ポリマー1)と低屈折率ポリマー(ポリマー2)とを、交互積層体部の層数が21層で周りをアルカリ易溶性ポリマー3が被覆している構造となるように溶融紡糸し、第1表記載の速度で巻き取った。得られた未延伸繊維を、第1表記載の倍率で延伸して第1図の(1)に示されるような断面形状の光干渉発色機能を有する複合繊維を得た。評価結果を第2表に示す。

第1表中、ポリマーの略称は以下のとおりである。
PET:ポリエチレンテレフタレート
共重合PET1:5−ナトリウムスルホイソフタル酸成分0.8モル%共重合ポリエチレンテレフタレート
共重合PET2:9,9−ビス(パラヒドロキシエトキシフェニル)フルオレン(BPEF)70モル%共重合ポリエチレンテレフタレート
共重合PET3:9,9−ビス(パラヒドロキシエトキシフェニル)フルオレン(BPEF)70モル%および5−ナトリウムスルホイソフタル酸成分0.8モル%共重合ポリエチレンテレフタレート
PEN:ポリエチレン−2,6−ナフタレート
共重合PEN1:5−ナトリウムスルホイソフタル酸成分1.5モル%共重合ポリエチレン−2,6−ナフタレート
共重合PEN2:BPEF70モル%共重合ポリエチレン−2,6−ナフタレート
PC:ポリカーボネート
共重合PC:9,9−ビス(4−ヒドロキシエトキシ−3−メチルフェニル)フルオレン(BCF)70モル%共重合ポリカーボネート
PMMA:ポリメチルメタクリレート
PS:ポリスチレン
NY6:ナイロン−6
PEGPBT:平均分子量4000のポリエチレングリコール50重量%(5.2モル%)共重合ポリブチレンテレフタレート
PEGPET:平均分子量4000のポリエチレングリコール10重量%共重合ポリエチレンテレフタレート
共重合PET:平均分子量4000のポリエチレングリコール3重量%および5−ナトリウムスルホイソフタル酸成分6モル%共重合ポリエチレンテレフタレート

実施例1は、5−ナトリウムスルホイソフタル酸成分を1.5モル%共重合したポリエチレン−2,6−ナフタレートとナイロン−6、および平均分子量4000のポリエチレングリコールを2.5モル%共重合したポリブチレンテレフタレートを各々290℃,270℃,230℃にて溶融し、計量後紡糸パック内に導入して1200m/分で紡糸した。得られた未延伸糸を予熱温度60℃にて2倍に延伸し、150℃で熱セットして巻き取った。得られた複合繊維をアルカリ処理しても交互積層体部のダメージはなく、得られた複合繊維の干渉反射光は鮮明な緑色を呈した。実施例2、3は、9,9−ビス(パラヒドロキシエトキシフェニル)フルオレン(BPEF)を70モル%共重合したポリエチレンテレフタレート(PET)または同ポリエチレン−2,6−ナフタレート(PEN)とポリメチルメタクリレート(PMMA)およびポリ乳酸を各々300℃,255℃,230℃にて溶融計量後紡糸パック内に導入し2000m/分で巻き取った。得られた複合繊維はともに、発色性能の優れた細繊度の繊維やカットファイバーとすることができた。実施例4は、9,9−ビス(4−ヒドロキシエトキシ−3−メチルフェニル)フルオレン(BCF)を70モル%共重合したポリカーボネートを用い、その溶融温度を300℃とする以外は実施例2と同様に紡糸した。得られた複合繊維は、鮮明色と強い反射強度を有するものであった。またアルカリ水溶液処理工程における交互積層体部のダメージもなかった。実施例5は、5−ナトリウムスルホイソフタル酸を0.8モル%共重合したPETとナイロン−6、およびアルカリ易溶性を付与するためにPEGおよび5−ナトリウムスルホイソフタル酸成分を共重合したPETを用い、各々290℃,270℃,290℃の溶融温度にて紡糸し、2000m/分の速度で巻き取った。得られた未延伸糸を80℃で予熱し、1.5倍に延伸し、180℃で熱セットした。反射強度は、他の組合せに較べると屈折率差が小さいことに起因して、やや小さいが、耐熱性と強度に優れる複合繊維を得ることができた。実施例6は、9,9−ビス(パラヒドロキシエトキシフェニル)フルオレン(BPEF)を70モル%および5−ナトリウムスルホイソフタル酸成分を0.8モル%共重合したPETとナイロン−6、およびアルカリ易溶性を付与するためにPEGおよび5−ナトリウムスルホイソフタル酸成分を共重合したPETを用い、各々290℃,270℃,290℃の溶融温度にて紡糸し、2000m/分の速度で巻き取った。得られた未延伸糸を80℃で予熱し、2.0倍に延伸し、180℃で熱セットした。反射強度と耐熱性、耐溶剤性に優れる複合繊維を得ることができた。実施例7は、ポリカーボネート(PC)およびPMMAを290℃および255℃、さらにポリ乳酸を230℃で溶融し、計量して紡糸パックに導入し、3000m/分で紡糸した。得られた複合繊維は扁平率が大きく、強い鮮明色を示した。実施例8では、PMMAとPCの積層部の周囲にPCの中間保護層を設けた断面(第1図の(2))を形成した。耐熱性の点で優れた。一方、比較例1では、SP値が近く、均一な積層形成能に優れると予想されるPENとPETに、PEGを10重量%共重合したPETを各々310℃,300℃,290℃にて溶融し、紡糸パックに導入し、1000m/分で巻き取った。その紡出糸を80℃予熱にて3倍延伸し、180℃で熱セットした。被覆層のアルカリ水溶液での溶解速度が交互積層体部を構成するポリマー対比、小さいほうで3倍(10倍以下)であるため、処理後の交互積層体部にアルカリ浸食が観察され、反射強度が著しく低下した。比較例2では、ナイロン−6とポリスチレン、およびポリ乳酸を270℃,270℃,230℃にて溶融し、紡糸パックに導入して2000m/分で巻き取った。交互積層体部のポリマーSP比が本発明の範囲から外れているため、交互積層体部の層厚さが大きくなり、光干渉発色機能が不十分となり、反射強度は小さくて本発明の目的とする鮮明色は得られなかった。
産業上の利用の可能性
本発明の光干渉発色機能を有する複合繊維は、製糸時の工程安定性は良好であるので、交互積層構造体部の厚さが小さくても優れた光干渉発色機能を有しており、しかも、そのまま長繊維で、または、一旦短繊維にカットした後に被覆層を除去すれば細繊度の光干渉機能を有するものが容易に得られる。特に長さの短いカットファイバーとすれば、塗料、インク、コーティング剤、化粧品等に利用する場合の分散性が良好となるだけでなく、得られる製品の表面平滑性が向上して光干渉発色機能も良好で審美性も良好なものとなる。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
高屈折率側ポリマーの溶解度パラメーター値(SP1)と低屈折率側ポリマーの溶解度パラメーター値(SP2)との比率(SP比)が0.8≦SP1/SP2≦1.1の範囲にある、互いに屈折率の異なるアルカリ難溶性ポリマー層が扁平断面の長軸方向に平行に交互に積層してなる、厚さが10μm以下の交互積層体部を、厚さが2.0μm以上のアルカリ易溶性ポリマーで被覆してなる光干渉発色機能を有する複合繊維。
【請求項2】
交互積層体部が、厚さ0.1〜3.0μmのアルカリ難溶性ポリマーからなる保護層で被覆されている請求の範囲1項に記載の光干渉発色機能を有する複合繊維。
【請求項3】
交互積層体部の積層数が10以上で、扁平断面の扁平率が3.5以上である請求の範囲1または2記載の光干渉発色機能を有する複合繊維。
【請求項4】
アルカリ易溶性ポリマーが、ポリ乳酸、ポリエチレングリコールを共重合したポリエチレンテレフタレートもしくはポリブチレンテレフタレート、ポリエチレングリコールおよび/またはアルキルスルホン酸アルカリ金属塩を配合したポリエチレンテレフタレート、または、ポリエチレングリコールおよびスルホン酸金属塩基を有する二塩基酸成分を共重合したポリエチレンテレフタレートもしくはポリブチレンテレフタレートである請求の範囲1〜3のいずれかに記載の光干渉発色機能を有する複合繊維。
【請求項5】
請求の範囲1〜4のいずれかに記載の光干渉発色機能を有する複合繊維を製編織し、次いでアルカリ水溶液で処理してなる光干渉発色機能を有する織編物。
【請求項6】
請求の範囲1〜4のいずれかに記載の光干渉発色機能を有する複合繊維を、繊維軸方向の繊維長が、アルカリ易溶性ポリマー部を除いた繊維断面の短軸長さより長くなるように切断してなる光干渉発色機能を有するカットファイバー。
【請求項7】
請求項6記載のカットファイバーを、アルカリ水溶液で処理してなる光干渉発色機能を有するカットファイバー。
【請求項8】
請求の範囲1〜4のいずれかに記載の光干渉発色機能を有する複合繊維を、アルカリ水溶液で処理してアルカリ易溶性ポリマー部を除き、次いで繊維軸方向の繊維長が繊維断面の短軸長さより長くなるように切断してなる光干渉発色機能を有するカットファイバー。

【国際公開番号】WO2005/021849
【国際公開日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【発行日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513509(P2005−513509)
【国際出願番号】PCT/JP2004/012585
【国際出願日】平成16年8月25日(2004.8.25)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】