説明

光情報記録媒体およびその製造方法、ならびに情報記録方法

【課題】短波長領域での記録特性に優れ、剥離強度が高い光情報記録媒体を高い生産性をもって提供する。
【解決手段】プリグルーブを表面に有する基板上に、反射層、色素を含有する記録層、バリア層、およびカバー層をこの順に有する光情報記録媒体であって、前記バリア層と前記カバー層との間に、下記一般式(I)で表される化合物を含有する光硬化型組成物により形成された中間層を有することを特徴とする光情報記録媒体。


[一般式(I)中、Rは水素原子またはアルキル基を表し、Zは2つの炭素原子及び硫黄原子と共に環構造を表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、短波長レーザー光を用いて情報の記録および再生が可能な光情報記録媒体およびその製造方法に関するものであり、より詳しくは、Blu−ray方式の光情報記録媒体およびその製造方法に関するものである。更に本発明は、前記光情報記録媒体への情報記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、レーザー光により1回限りの情報記録が可能な光情報記録媒体として、追記型CD(CD−R)および追記型DVD(DVD−R)が知られている。CD−Rへの情報の記録は、近赤外域のレーザー光(通常、波長780nm程度)により行われるのに対し、DVD−Rへの情報の記録は可視レーザー光(約630〜680nm)によって行われる。DVD−Rは、記録用レーザー光としてCD−Rより短波長のレーザー光を使用するため、CD−Rと比べて高密度記録可能であるという利点を有する。そのため、近年、DVD−Rは、大容量の記録媒体としての地位をある程度まで確保している。
【0003】
近年、インターネット等のネットワークやハイビジョンTVが急速に普及している。また、HDTV(High Definition Television)の放映を間近にひかえて、画像情報を安価簡便に記録するための大容量の記録媒体の要求が高まっている。しかし、CD−RおよびDVD−Rは、将来の要求に対応できる程の充分に大きな記録容量を有しているとはいえない。そこで、DVD−Rよりも更に短波長のレーザー光を用いることによって記録密度を向上させるため、短波長レーザー(例えば波長440nm以下)による記録が可能な大容量光ディスクの開発が進められている。そのような光ディスクとして、例えば405nmの青色レーザーを用いたBlu−ray方式と称される光記録ディスク(Blu−ray Disc、以下、「BD」ともいう)が提案されている。
【0004】
前述のブルーレイ・ディスクは、一般に、従来の追記型光ディスクと比べてトラックピッチが狭い。また、基板上に、反射層と記録層をこの順に有し、更に記録層の上に比較的薄い光透過性を有する層(一般に、カバー層と呼ばれる)が貼り合わされているという、従来の追記型光ディスクとは異なる層構成を有する。また記録用レーザー光が短波長化されている。そのため、CD−R、DVD−R等の従来の追記型光情報記録媒体用記録色素として使用されていた色素では、ブルーレイ・ディスクにおいて十分な記録再生特性が得られない点が課題であった。
これに対し、特許文献1には、前記Blu−ray方式の光記録ディスクのように短波長レーザー光を照射することにより情報を記録するための光情報記録媒体に関する記載がある。該光情報記録媒体は、基板上に記録層、バリア層として働く中間層、粘着剤層、及びカバー層をこの順で有し、安定した記録再生特性を得るため、粘着剤層にガラス転移温度Tgが0℃以下のポリマーを含有させることを提案している。また、特許文献2には、青色レーザー対応の光情報記録媒体において、変形促進層としてカバー層の記録層側界面に、ガラス転移温度が0℃以下の粘着層を設けることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−217177号公報
【特許文献2】特開2007−26541号公報
【特許文献3】特許第3299542号明細書
【特許文献4】特許第4153031号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Macromolecules, 1994, 27, 7935.
【非特許文献2】Macromolecules, 1996, 29, 6983.
【非特許文献3】Macromolecules, 2000, 33, 6722.
【非特許文献4】J. Polym. Sci.: Part A Polym. Chem. 2001, 39, 202.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載の光情報記録媒体においては粘着剤貼り合わせ工程を行う必要があるため、生産性が低下する。そのため、特許文献1に記載の技術では、生産性向上が課題であった。
生産性向上のためには、特許文献2の参考例に記載されているように、紫外線硬化型樹脂を用いて中間層を形成することが有効と考えられる。しかし特許文献2には、参考例に使用した低ガラス転移温度のアクリル系紫外線硬化型樹脂の組成等の詳細は何ら記載されていない。
【0008】
紫外線硬化型組成物は、従来、CD−RやDVD−R等の貼り合せ型光ディスクの貼り合せのために広く使用されていた。
また、紫外線硬化物は、従来、アクリロイル基やメタクリロイル基といった汎用的な重合性基を有する化合物が一般的に用いられているが、それらは硬化収縮が大きく、形成されたディスクにそりが生じ、そのため剥離するといった問題もあった。
【0009】
一方、体積収縮が小さいモノマーとして非特許文献1、2、3、4および特許文献3、4に環状アリルスルフィドモノマーが開示されている。
それらには接着用途に使用できるという記載はあるものの、ブルーレイ・ディスクへの中間層といった接着と、十分な熱による変形性を兼ね備えた機能的な材料についての記載は全くない。
【0010】
そこで本発明者らは、低ガラス転移温度の中間層を形成可能な光硬化型組成物について検討を重ねた。しかしその結果、記録性能を良化させるためにガラス転移温度を低下させると、カバー層とバリア層の接着力が低下するというトレードオフの関係にあることが明らかになった。また光硬化型組成物によっては、硬化を促進させるために多量の光を照射すると、短波長レーザー光に対する透過率が低下し記録特性が劣化するという新たな問題が発生することも判明した。
そこで、本発明の目的は、ブルーレイ・ディスク等に好適な層の構成を有する光情報記録媒体であって、短波長レーザー光照射による記録時に良好な記録特性を発揮することができ、かつ高い強度を有し、そりなどの問題が起こらず、剥離強度が高い光情報記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、バリア層とカバー層との間に、一般式(I)で表される環状アリルスルフィド化合物を含有する光硬化型組成物を含む中間層を有することにより高い生産性と良好な記録特性を兼ね備えた光情報記録媒体を得ることができることを見出した。更には上記光硬化型組成物は硬化後にも短波長レーザー光に対し透過率が高いため良好な記録特性を有し、かつ剥離強度が高い光情報記録媒体を形成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、上記目的は、下記手段により達成された。
【0012】
〔1〕
プリグルーブを表面に有する基板上に、反射層、色素を含有する記録層、バリア層、およびカバー層をこの順に有する光情報記録媒体であって、
前記バリア層と前記カバー層との間に、下記一般式(I)で表される化合物を含有する光硬化型組成物により形成された中間層を有することを特徴とする光情報記録媒体。
【0013】
【化1】

【0014】
[一般式(I)中、Rは水素原子またはアルキル基を表し、Zは2つの炭素原子及び硫黄原子と共に環構造を表す。]
〔2〕
一般式(I)で表される化合物が、下記一般式(II)で表される化合物であることを特徴とする〔1〕に記載の光情報記録媒体。
【0015】
【化2】

【0016】
[一般式(II)中、Rは一般式(I)における定義と同義である。R12は水素原子またはアルキル基を表し、R13、R14およびR15はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、、アリールカルボニルオキシ基、アシルアミノ基、スルホニルアミノ基、アミノ基、アシル基またはハロゲン原子を表し、mは0または1を表す。]
〔3〕
前記一般式(II)において、mが1であることを特徴とする〔2〕に記載の光情報記録媒体。
〔4〕
一般式(I)で表される化合物が、下記一般式(III)で表される化合物であることを特徴とする〔1〕に記載の光情報記録媒体。
【0017】
【化3】

【0018】
[一般式(III)中、Rは一般式(I)における定義と同義である。R23、R24およびR25はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アシルアミノ基、スルホニルアミノ基、アミノ基、アシル基またはハロゲン原子を表し、nは0または1を表す。]
〔5〕
前記一般式(III)において、nが0であることを特徴とする〔4〕に記載の光情報記録媒体。
〔6〕
前記光硬化型組成物は、更に単官能または多官能(メタ)アクリレートを含有する〔1〕〜〔5〕のいずれか1項に記載の光情報記録媒体。
〔7〕
中間層のTgが−20℃以下であることを特徴とする〔1〕〜〔6〕のいずれか1項に記載の光情報記録媒体。
〔8〕
前記プリグルーブは、複数のグルーブおよび隣接するグルーブの間に位置するランドからなり、かつトラックピッチは50〜500nmの範囲であり、前記記録層の厚さは、ランド上で1〜100nmの範囲であり、かつグルーブ上で5〜150nmの範囲である〔1〕〜〔7〕のいずれか1項に記載の光情報記録媒体。
〔9〕
前記プリグルーブは、複数のグルーブおよび隣接するグルーブの間に位置するランドからなり、ランド上の記録層の厚さとグルーブ上の記録層との厚さの比{(ランド上の記録層の厚さ)/(グルーブ上の記録層の厚さ)}が0.1〜1の範囲である〔1〕〜〔8〕のいずれか1項に記載の光情報記録媒体。
〔10〕
波長390〜440nmのレーザー光を照射することにより情報を記録するために使用される〔1〕〜〔9〕のいずれか1項に記載の光情報記録媒体。
〔11〕
〔1〕〜〔10〕のいずれか1項に記載の光情報記録媒体へ、波長390〜440nmのレーザー光を照射することにより、光情報記録媒体の記録層へ情報を記録する情報記録方法。
〔12〕
プリグルーブを表面に有する基板上に、反射層、色素含有記録層、バリア層、およびカバー層をこの順に有する光情報記録媒体の製造方法であって、
前記バリア層上に、一般式(I)で表される環状アリルスルフィド化合物を含有する光硬化型組成物を塗布し、該組成物の上に前記カバー層を設けた後、該組成物光を照射することによって前記バリア層と前記カバー層との間に、中間層を形成することを特徴とする光情報記録媒体の製造方法。
【0019】
【化4】

【0020】
[一般式(I)中、Rは水素原子またはアルキル基を表し、Zは2つの炭素原子及び硫黄原子と共に環構造を表す。]
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、短波長領域での記録特性に優れ、剥離強度が高い光情報記録媒体を高い生産性をもって提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の光情報記録媒体の一例を示す概略断面図である。
【図2】熱質量分析での主減量過程における質量減少率の測定方法の説明図である。
【図3】剥離強度測定サンプルの概略図である。
【図4】剥離強度測定装置の概略図である。
【図5】剥離強度測定サンプルの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[光情報記録媒体]
本発明の光情報記録媒体は、プリグルーブを表面に有する基板上に、反射層、色素を含有する記録層、バリア層、およびカバー層をこの順に有する光情報記録媒体であって、前記バリア層と前記カバー層との間に、下記一般式(I)で表される化合物を含有する光硬化型組成物により形成された中間層を有する。
【0024】
【化5】

【0025】
[一般式(I)中、Rは水素原子またはアルキル基を表し、Zは2つの炭素原子及び硫黄原子と共に環構造を表す。]
【0026】
以下に、本発明の光情報記録媒体について、更に詳細に説明する。
【0027】
〔中間層〕
本発明における中間層は、バリア層とカバー層との間に、一般式(I)で表される化合物(以下、「環状アリルスルフィド化合物」ともいう)を含有する光硬化型組成物により形成することができる。
本発明における中間層は、バリア層とカバー層の間に光硬化型組成物に硬化処理を施すことにより形成された中間層(以下、「接着層」ともいう)を有することが好ましい。中間層のTgは、−20℃以下であることが好ましく、より好ましくは−25℃以下である。Tgが−20℃以下であれば、中間層を柔軟な層とすることができ記録特性が向上するためである。
【0028】
記録特性が向上する理由について、本発明者らは以下のように推察している。
色素を含有する記録層へレーザー光を照射すると、色素がレーザー光を吸収して発熱し、その熱により色素骨格またはその置換基が熱分解して気体を発生し、これによりピット内に空隙が形成されると考えられる。一般に、色素を含む記録層において、レーザー光未照射部の屈折率は、1.1〜1.9程度であるのに対し、レーザー光照射により空隙が形成された部分の屈折率は約1.0であり未照射部の屈折率と大きく異なる。これにより、大きな屈折率差を実現することができ、記録特性を高めることができると考えられる。
【0029】
ところが、上記のようにレーザー光照射により記録層内に空隙を形成する場合、通常、空隙の形成は記録層の変形を伴うため、記録層の変形が妨げられると空隙が良好に形成されず、十分な記録特性を得ることが困難となる。例えば、基板上に、光反射層、記録層、バリア層、中間層(バリア層とカバー層との貼り合せのために設けられる層)およびカバー層をこの順に有する光情報記録媒体では、一般に、基板および光反射層は、中間層やバリア層に比べて剛性が高い。よって、空隙が形成されると記録層はバリア層を押し上げ、バリア層とカバー層との間に位置する中間層が適度に柔軟な場合は、該中間層に凹状の変形を生じさせる。このようにバリア層とカバー層の間に位置する中間層が容易に変形する場合は記録層における空隙の形成が妨げられることなく、ピットの形成を良好に行うことができる。したがって、上記中間層のガラス転移温度が−20℃以下であり柔軟であれば、空隙形成に伴い容易に変形可能であるため、空隙形成を良好に行うことができる。
【0030】
前記中間層のガラス転移温度が0℃を超えると、記録層中の空隙形成に伴う中間層の変形が良好に行われず、十分な記録特性を得ることが困難となる。
なお、本発明におけるガラス転移温度(Tg)とは、示差走査熱量分析(DSC)により求められるガラス転移温度である。中間層のガラス転移温度は、中間層形成のために使用する光硬化型組成物の処方、該組成物に含有される光硬化型化合物の種類、硬化条件等により制御することができる。
【0031】
前記中間層を光硬化型組成物から形成することにより、カバー層との貼りあわせにかかる装置が簡便になり、しかも貼り合わせ時間を短縮することができるため、安価製造が可能になる。これにより生産性を向上することができる。そして前記光硬化型化合物として、少なくとも環状アリルスルフィド化合物を含有する光硬化型組成物を使用することにより、接着力を維持したままガラス転移温度が低い中間層を形成することができる。本発明では、上記光硬化型組成物を用いて接着層を形成することにより、低Tgであっても短波長レーザー光に対して十分な透過率を示し、かつバリア層とカバー層を強固に貼り合わせることができる十分な接着力を有する接着層を形成することができる。これにより高い強度を有し、かつ良好な記録特性を示す光情報記録媒体を得ることができる。
【0032】
(一般式(I)で表される化合物)
一般式(I)で表される化合物は環状アリルスルフィドモノマーまたは環状アリルスルフィド化合物と以後称する。環状アリルスルフィドモノマーは重合性成分として機能することができ、好ましくは、加熱により、または光照射により直接もしくはラジカル重合開始剤の作用によってラジカル重合を起こす化合物である。開環重合により二重結合を有するポリマーに変化する。
【0033】
【化6】

【0034】
[一般式(I)中、Rは水素原子またはアルキル基を表し、Zは2つの炭素原子及び硫黄原子と共に環構造を表す。]
【0035】
重合反応は以下の式のように表される。
【0036】
【化7】

【0037】
[上記反応式中、Rは水素原子またはアルキル基を表し、Zは2つの炭素原子及び硫黄原子と共に環構造を表す。ZはZが開環した場合の2つの炭素原子及び硫黄原子以外の原子団により形成された連結基を表す。lは繰り返し単位の数を表す。]
【0038】
このポリマーの重合時の体積収縮が小さいことは、形成された硬化物の変形が小さくすることができ、樹脂内部に応力を低減できるために、非常に寸度安定性が高い樹脂硬化物となるため、硬化後の画像が被記録媒体との高い接着性を得ることができ、非常に有用である。
本発明の環状アリルスルフィドモノマーは成長ラジカルがSラジカルであることと、S原子のα位の水素(隣の炭素の水素)原子を有するため、チオールエン反応に見られるような酸素重合阻害を受けにくいという特徴を有することを、発明者は確認している。そのため、汎用的なラジカル重合性モノマーであるメタクリレートや、アクリレートモノマーよりも酸素存在下、もしくは溶存酸素存在下においても重合反応が進行しやすいという特徴を有する。インク組成物を構成した際にも、汎用モノマーを用いた場合は、溶存酸素によりある程度の重合阻害を受ける。それに対して、環状アリルスルフィドモノマーを用いた際は重合阻害を受けないために少ないラジカル開始剤量で硬化が可能である。
【0039】
また、汎用的なラジカル重合性モノマーであるメタクリレートや、アクリレートモノマーは重合がビニル基への付加を行う反応であるため、側鎖である置換基が炭素原子が2つごとに導入される。これによりTgが上昇し、脆性がうまれ、接着性が損なわれるが、本発明の環状アリルスルフィドモノマーは、例えば8員環の環状アリルスルフィドモノマーを用いる場合は炭素硫黄原子などの8つの連結鎖に一つ置換基が導入される。そのため、Tgの上昇を抑えることができ、柔軟性また密着性を保つことが出来る。また、炭素-硫黄-炭素の結合は結合距離が長く、また結合角が小さいため、そのもの自身に柔軟性があるポリマーが形成できる。
【0040】
一般式(I)中、Rは水素原子またはアルキル基を表し、Zは2つの炭素原子及び硫黄原子と共に環構造を表す。
【0041】
一般式(I)で表される化合物は環状アリルスルフィドモノマーまたは環状アリルスルフィド化合物と以後称する。環状アリルスルフィドモノマーは重合性成分として機能することができ、好ましくは、加熱により、または光照射により直接もしくはラジカル重合開始剤の作用によってラジカル重合を起こす化合物である。開環重合により二重結合を有するポリマーに変化する。
【0042】
一般式(I)中、Zは2つの炭素原子及び硫黄原子と共に環構造を表す。Zにより形成される環構造の構成要素としてはメチレン炭素を挙げることができ、メチレン炭素以外に、カルボニル基、チオカルボニル基、酸素原子や、硫黄原子など二価の有機連結基を挙げることもでき、これらの組み合わせにより上記環構造が構成される。その環員数は6〜9であることが好ましく、6〜8であることがより好ましく、7〜8であることが特に好ましい。また、その環構造のメチレン炭素数は3〜7であることが好ましく、4〜6であることがより好ましく、4〜5であることが特に好ましい。
一般式(I)中、Rは水素原子またはアルキル基を表す。Rで表されるアルキル基としては直鎖であっても分岐を有していてもよく、また、無置換であっても置換基を有していてもよい。その炭素数は1〜20であることが好ましく、1〜10であることがより好ましく、1〜3であることが特に好ましい。なお、本発明において、ある基について「炭素数」とは、置換基を有する基については、該置換基を含まない部分の炭素数をいうものとする。
【0043】
で表されるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、ターシャリーブチル基、ペンチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ターシャリーオクチル基、2−エチルヘキシル基、デシル基、ドデシル基、オクタデシル基、2,3−ジブロモプロピル基、アダマンチル基、ベンジル基、4−ブロモベンジル基などが挙げられる。これらは更に置換基を有していてもよい。
一般式(I)中において、Rで表される基が更に置換基を有する場合、置換基としてはハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アリールオキシ、アルキルチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アミノ基、アシル基、アルキルアミノカルボニル基、アリールアミノカルボニル基、スルホンアミド基、シアノ基、カルボキシ基、水酸基、スルホン酸基などが挙げられる。これらの中でも、ハロゲン原子、アルコキシ基、アルキルチオ基が特に好ましい。また、置換基として一般式(I)の環状アリルスルフィド化合物が置換した場合は、一般式(I)で表される化合物は多官能体を表す。
【0044】
一般式(I)中において、Rが水素原子またはアルキル基を表し、かつZで表される環構造の環員数が6〜9であり、かつZで表される環構造が2つの炭素原子及び硫黄原子以外にメチレン炭素以外に、カルボニル基、酸素原子または硫黄原子のいずれか、もしくはそれらの組み合わせを含むことが好ましく、Rが水素原子またはアルキル基を表し、かつZで表される環構造の環員数が6〜8であり、かつZで表される環構造が2つの炭素原子及び硫黄原子以外にメチレン炭素以外にカルボニル基と酸素原子の組み合わせ、または硫黄原子を含むことがより好ましく、Rが水素原子またはアルキル基を表し、かつZで表される環構造の環員数が7〜8であり、かつZで表される環構造が2つの炭素原子及び硫黄原子以外にメチレン炭素以外に硫黄原子を含むこと特に好ましい。
上記の中でも、Rが水素原子を表すことが更に好ましい。
一般式(I)は下記に示す、一般式(II)、または一般式(III)であることがより好ましい。
以下に、一般式(II)、及び(III)について説明する。
【0045】
【化8】

【0046】
一般式(II)中、Rは一般式(I)における定義と同義であり、R12は水素原子またはアルキル基を表し、R13、R14およびR15はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、アリールカルボニルオキシ基、スルホニルアミノ基、アミノ基、アシル基またはハロゲン原子を表し、mは0または1を表す。
【0047】
一般式(II)中、R、R12、R13、R14、R15で表されるアルキル基の詳細は、上述した一般式(I)中のアルキル基の説明と同様である。
【0048】
一般式(II)中、R13、R14、R15で表されるアリール基としては、無置換であっても置換基を有していてもよい。その炭素数は6〜30であることが好ましく、6〜20であることが特に好ましい。アリール基の具体例としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラニル基などが挙げられる。これらは更に置換基を有していてもよい。
一般式(II)中、R13、R14、R15で表されるヘテロ環基は、無置換であっても置換基を有していてもよい。その炭素数4〜14のヘテロ環基であることが好ましく、炭素数4〜10のヘテロ環基であることがより好ましく、炭素数5のヘテロ環基であることが特に好ましい。R13、R14、R15で表されるヘテロ環基の具体例としては、ピリジン環、ピペラジン環、チオフェン環、ピロール環、イミダゾール環、オキサゾール環、チアゾール環が挙げられる。これらは更に置換基を有していてもよい。前記ヘテロ環の中でもピリジン環が特に好ましい。
一般式(II)中、R13、R14、R15で表されるアルコキシ基は、直鎖であっても分岐を有していてもよく、また、無置換であっても置換基を有していてもよい。その炭素数は1〜30であることが好ましく、1〜20であることがより好ましい。このようなアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、ノルマルプロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、ノルマルブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、ターシャリーブチルオキシ基、ペンチルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ターシャリーオクチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、デシルオキシ基、ドデシルオキシ基、オクタデシルオキシ基、2,3−ジブロモプロピルオキシ基、アダマンチルオキシ基、ベンジルオキシ基、4−ブロモベンジルオキシ基などが挙げられる。
一般式(II)中、R13、R14、R15で表されるアリールオキシ基は、無置換であっても置換基を有していてもよい。その炭素数は6〜30であることが好ましく、6〜20であることが特に好ましい。具体例としては、例えば、フェニルオキシ基、ナフチルオキシ基、アントラニルオキシ基などが挙げられる。
一般式(II)中、R13、R14、R15で表されるアルキルチオ基は、直鎖であっても分岐を有していてもよく、また、無置換であっても置換基を有していてもよい。その炭素数は1〜30であることが好ましく、1〜20であることがより好ましい。このようなアルキルチオ基としては、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、ノルマルプロピルチオ基、イソプロピルチオ基、ノルマルブチルチオ基、イソブチルチオ基、ターシャリーブチルチオ基、ペンチルチオ基、シクロペンチルチオ基、ヘキシルチオ基、シクロヘキシルチオ基、ヘプチルチオ基、オクチルチオ基、ターシャリーオクチルチオ基、2−エチルヘキシルチオ基、デシルチオ基、ドデシルチオ基、オクタデシルチオ基、2,3−ジブロモプロピルチオ基、アダマンチルチオ基、ベンジルチオ基、4−ブロモベンジルチオ基などが挙げられる。
【0049】
一般式(II)中、R13、R14、R15で表されるアリールチオ基は、無置換であっても置換基を有していてもよい。その炭素数は6〜30であることが好ましく、6〜20であることが特に好ましい。具体例としては、例えば、フェニルチオ基、ナフチルチオ基、アントラニルチオ基などが挙げられる。
一般式(II)中、R13、R14、R15で表されるアルコキシカルボニル基は、無置換であっても置換基を有していてもよい。その炭素数は2〜30であることが好ましく、2〜20であることがより好ましい。このようなアルコキシカルボニル基としては、メチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基、ノルマルプロピルオキシカルボニル基、イソプロピルオキシカルボニル基、ノルマルブチルオキシカルボニル基、イソブチルオキシカルボニル基、ターシャリーブチルオキシカルボニル基、ペンチルオキシカルボニル基、シクロペンチルオキシカルボニル基、ヘキシルオキシカルボニル基、シクロヘキシルオキシカルボニル基、ヘプチルオキシカルボニル基、オクチルオキシカルボニル基、ターシャリーオクチルオキシカルボニル基、2−エチルヘキシルオキシカルボニル基、デシルオキシカルボニル基、ドデシルオキシカルボニル基などが挙げられる。
一般式(II)中、R13、R14、R15で表されるアリールオキシカルボニル基は、無置換であっても置換基を有していてもよい。その炭素数は7〜30であることが好ましく、7〜20であることが特に好ましい。具体例としては。例えば、フェニルオキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基、アントラニルオキシカルボニル基などが挙げられる。
一般式(II)中、R13、R14、R15で表されるアシルオキシ基は、無置換であっても置換基を有していてもよい。その炭素数は2〜30であることが好ましく、2〜20であることがより好ましい。このようなアシルオキシ基としては、メチルカルボニルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基、ノルマルプロピルカルボニルオキシ基、イソプロピルカルボニルオキシ基、ノルマルブチルカルボニルオキシ基、イソブチルカルボニルオキシ基、ターシャリーブチルカルボニルオキシ基、ペンチルカルボニルオキシ基、シクロペンチルカルボニルオキシ基、ヘキシルカルボニルオキシ基、シクロヘキシルカルボニルオキシ基、ヘプチルカルボニルオキシ基、オクチルカルボニルオキシ基、ターシャリーオクチルカルボニルオキシ基、2−エチルヘキシルカルボニルオキシ基、デシルカルボニルオキシ基、ドデシルカルボニルオキシ基、ベンゾイルオキシ基などが挙げられる。
一般式(II)中、R13、R14、R15で表されるアリールカルボニルオキシ基は、無置換であっても置換基を有していてもよい。その炭素数は7〜30であることが好ましく、7〜20であることが特に好ましい。具体例としては。例えば、フェニルカルボニルオキシ基、ナフチルカルボニルオキシ基、アントラニルカルボニルオキシ基などが挙げられる。
【0050】
一般式(II)中、R13、R14、R15で表されるアシルアミノ基は、無置換であっても置換基を有していてもよい。その炭素数は2〜30であることが好ましく、2〜20であることがより好ましい。このようなアシルアミノ基としては、メチルカルボニルアミノ基、エチルカルボニルアミノ基、フェニルカルボニルアミノ基などが挙げられる。
一般式(II)中、R13、R14、R15で表されるスルホニルアミノ基は、無置換であっても置換基を有していてもよい。その炭素数は1〜30であることが好ましく、1〜20であることがより好ましい。このようなスルホニルアミノ基としては、メチルスルホニルアミノ基、エチルスルホニルアミノ基、フェニルスルホニルアミノ基などが挙げられる。
一般式(II)中、R13、R14、R15で表されるアミノ基は、一置換アミノ基であっても、二置換のアミノ基であってもよく、二置換のアミノ基が好ましい。無置換であっても置換基を有していてもよい。その炭素数は1〜30であることが好ましく、1〜20であることがより好ましい。このようなアミノ基としては、例えば、ジメチルアミノ基、ジフェニルアミノ基などが挙げられる。
一般式(II)中、R13、R14、R15で表されるアシル基は、無置換であっても置換基を有していてもよい。その炭素数は2〜30であることが好ましく、2〜20であることがより好ましい。このようなアシル基としては、アセチル基、ベンゾイル基などが挙げられる。
一般式(II)中、R13、R14、R15で表されるハロゲン原子としては、クロロ基、ブロモ基、ヨード基などが挙げられ、ブロモ基が好ましい。
【0051】
一般式(II)中、R、R12、R13、R14、R15で表される基が更に置換基を有する場合、置換基としては、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アリールオキシ、アルキルチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アミノ基、アシル基、アルキルアミノカルボニル基、アリールアミノカルボニル基、スルホンアミド基、シアノ基、カルボキシ基、水酸基、スルホン酸基などが挙げられる。これらの中でも、ハロゲン原子、アルコキシ基、アルキルチオ基が特に好ましい。また、置換基として一般式(II)で表される環状アリルスルフィド化合物が置換した場合は、一般式(II)で表される化合物は多官能体を表す。
一般式(II)中、mは0または1の整数を表す。mは1であることが好ましい。
【0052】
およびR12は、それぞれ独立に水素原子またはメチル基を表し、水素原子であることが好ましい。
【0053】
一般式(II)で表される化合物の好ましい態様としては、RおよびR12は、それぞれ独立に水素原子またはメチル基を表し、水素原子であることが好ましい。R13、R14およびR15はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アシルアミノ基、アミノ基またはアシル基を表す化合物を挙げることができる。
【0054】
13は水素原子またはアルキル基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
14は複数の場合はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルコキシ基またはアシルオキシ基であることが好ましく、水素原子またはメチル基であることがより好ましく、水素原子であることが更に好ましい。
15は水素原子、アルキル基、アリール基、アシルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、であることが好ましく、アルキル基、又はアシルオキシ基であることがより好ましく、アシルオキシ基であることが更に好ましい。
【0055】
より好ましい態様としては、一般式(II)中、RおよびR12がそれぞれ独立に水素原子またはメチル基であり、R13およびR14がそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、アミノ基、アシル基であり、R15が水素原子、アルキル基、アリール基、アシルオキシ基であり、かつmが0または1である化合物を挙げることができる。更に好ましい態様としては、一般式(II)中、RおよびR12が水素原子またはメチル基であり、R13およびR14がそれぞれ独立に水素原子またはメチル基であり、R15がアルキル基またはアシルオキシ基であり、かつmが0または1である化合物を挙げることができる。より一層好ましい態様としては、一般式(II)中、RおよびR12がいずれも水素原子であり、R13、R14およびR15は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基またはアシルオキシ基であり、mが1である化合物を挙げることができる。最も好ましい態様としては、RおよびR12がいずれも水素原子であり、R13、R14が水素原子であり、R15が水素原子又はアシルオキシ基であり、かつmが1である化合物を挙げることができる。
【0056】
【化9】

【0057】
[一般式(III)中、Rは一般式(I)における定義と同義であり、R23、R24およびR25はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アシルアミノ基、スルホニルアミノ基、アミノ基、アシル基またはハロゲン原子を表し、nは0または1を表す。]
【0058】
一般式(III)中、R、R23、R24、R25で表されるアルキル基の詳細は、上述した一般式(I)中のアルキル基の説明と同様である。
一般式(III)中、R23、R24、R25で表されるアリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アシルアミノ基、スルホニルアミノ基、アミノ基、アシル基またはハロゲン原子の詳細は、上述した一般式(II)中のアリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アシルアミノ基、スルホニルアミノ基、アミノ基、アシル基またはハロゲン原子の説明と同様である。
【0059】
一般式(III)中、R、R23、R24、R25で表される基が更に置換基を有する場合、置換基としては、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アリールオキシ、アルキルチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アミノ基、アシル基、アルキルアミノカルボニル基、アリールアミノカルボニル基、スルホンアミド基、シアノ基、カルボキシ基、水酸基、スルホン酸基などが挙げられる。これらの中でも、ハロゲン原子、アルコキシ基、アルキルチオ基が特に好ましい。また、置換基として一般式(III)で表される環状アリルスルフィド化合物が置換した場合は、一般式(III)で表される化合物は多官能体を表す。
一般式(III)中、nは0または1の整数を表す。nは0であることが好ましい。
【0060】
23は水素原子またはアルキル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。
24は複数の場合はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルコキシ基またはアシルオキシ基であることが好ましく、水素原子またはメチル基であることがより好ましく、水素原子であることが更に好ましい。
25は水素原子、アルキル基、アリール基、アシルオキシ基またはアリールカルボニルオキシ基であることが好ましく、水素原子、アルキル基、アシルオキシ基またはアリールカルボニルオキシ基であることがより好ましく、水素原子であることが更に好ましい。
【0061】
一般式(III)で表される化合物の好ましい態様としては、Rは、水素原子またはメチル基を表し、R23、R24、R25はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、アミノ基またはアシル基を表す化合物を挙げることができる。より好ましい態様としては、一般式(III)中、Rが水素原子またはメチル基であり、R23およびR24がそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、アミノ基、アシル基であり、R25が水素原子、アルキル基、アリール基、アシルオキシ基またはアリールカルボニルオキシ基であり、かつnが0または1である化合物を挙げることができる。更に好ましい態様としては、一般式(III)中、Rが水素原子またはメチル基であり、R23およびR24がそれぞれ独立に水素原子またはメチル基であり、R25が水素原子、アルキル基、アシルオキシ基またはアリールカルボニルオキシ基であり、かつnが0または1である化合物を挙げることができる。よりいっそう好ましい態様としては、一般式(III)中、Rがメチル基であり、R23、R24、R25は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基またはアシルオキシ基、またはアリールカルボニルオキシ基であり、nが0である化合物を挙げることができる。最も好ましい態様としては、Rが水素原子又はメチル基であり、R23、R24が水素原子であり、R25が水素原子であり、かつnが0である化合物を挙げることができる。
【0062】
光硬化型組成物から得られる硬化樹脂は、ある特定の波長に関して屈折率を高くしたいという要求がある用途もある。そのために、一般式(I)、一般式(II)または一般式(III)で表される構造の中に、高い吸収を有する色素構造部位を有してよい。特に、一般式(I)で表される化合物は、200〜1000nmの範囲の吸収スペクトルにおいて、モル吸光係数が5,000mol・l・cm−1以上となる波長λnmを有していてよい。化合物の吸収と屈折率の関係はクラマースクローニッヒの関係に表されるように、波長λnmより長波長の領域に、屈折率が高い領域を有するため、特定の波長のレーザー光が透過するような用途として有用である。
【0063】
前記モル吸光係数は、10,000mol・l・cm−1以上であることが好ましい。その上限は特に限定されるものではないが、例えば200,000mol・l・cm−1程度である。
上記で示したレーザーは波長405nmまたは532nmのレーザー光が特に好ましい。そして、透過率の向上のためには、レーザー波長において本発明の光硬化型組成物が吸収を有さないことが好ましい。ここで、「吸収を有さない」とは、光硬化型組成物のモル吸光係数が100mol・l・cm−1以下であること、好ましくは50mol・l・cm−1以下であること、最も好ましくは0mol・l・cm−1であることをいう。
【0064】
以下に、一般式(I)および(II)、(III)で表される環状アリルスルフィド化合物の具体例を示す。但し、本発明は下記具体例に限定されるものではない。
【0065】
【化10】

【0066】
【化11】

【0067】
【化12】

【0068】
以上説明した一般式(I)〜(III)で表される化合物の合成方法は、例えば、Macromolecules, 1994, 27, 7935. Macromolecules, 1996, 29, 6983.やMacromolecules, 2000, 33, 6722.や J. Polym. Sci.: Part A Polym. Chem. 2001, 39, 202.等に詳細に記載されている。
【0069】
光硬化型組成物は、一般式(I)で表される環状アリルスルフィド化合物を含有する。本発明の環状アリルスルフィド化合物は成長ラジカルがSラジカルであることと、S原子のα位の水素(隣の炭素の水素)原子を有するため、チオールエン反応に見られるような酸素重合阻害を受けないという特徴を有する。そのため、汎用的なラジカル重合性モノマーであるメタクリレートや、アクリレートモノマーよりも酸素存在下、もしくは溶存酸素存在下においても重合反応が進行しやすいという特徴を有する。光硬化型組成物を構成した際にも、汎用モノマーを用いた場合は、溶存酸素によりある程度の重合阻害を受ける。それに対して、環状アリルスルフィドモノマーを用いた際は重合阻害を受けないために少ないラジカル開始剤量で硬化が可能である。
【0070】
環状アリルスルフィド化合物は、一種のみ用いてもよく、二種以上を併用することもできる。光硬化型組成物における環状アリルスルフィド化合物の含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、70〜100質量%が好ましく、80〜99質量%がより好ましく、90〜95質量%が更に好ましい。
【0071】
(添加モノマー)
Tgの調整のため、光硬化型組成物には、単官能または多官能の(メタ)アクリルモノマーを添加することが好ましい。さらに、重合性オリゴマーを添加してもよい。これらの添加により密着性や記録特性の向上を図ることができる。好ましい単官能および多官能の(メタ)アクリルモノマーについては後述する。また、粘度の調整のため、質量平均分子量1万以上のポリマーを用いることができる。少量の添加で所望のTgとするためには、より高分子量のポリマー、例えば質量平均分子量10万以上のポリマーが好ましく、質量平均分子量100万以上のポリマーを用いるとさらに好ましい。
これらは各々、単独または2種以上組み合わせて使用することができる。単官能(メタ)アクリレートとしては、下記一般式(a)で表されるアクリレートおよび下記一般式(b)で表されるメタアクリレートを挙げることができる。
【0072】
【化13】

【0073】
[一般式(a)、(b)中、R11は置換基を表す。]
より詳しくは、本発明に使用可能な重合性モノマーとしては例えば以下のものが挙げられる。単官能(メタ)アクリレートとしては例えば、一般式(a)、(b)において置換基R11がメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、sec−ブチル基、ter−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、2−エチルヘキシル基、オクチル基、ノニル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、シクロヘキシル基、ベンジル基、メトキシエチル基、ブトキシエチル基、フェノキシエチル基、ノニルフェノキシエチル基、テトラヒドロフルフリル基、グリシジル基、2−ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシプロピル基、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル基、ジメチルアミノエチル基、ジエチルアミノエチル基、ノニルフェノキシエチルテトラヒドロフルフリル基、カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリル基、イソボルニル基、ジシクロペンタニル基、ジシクロペンテニル基、ジシクロペンテニロキシエチル基等の置換基を有する(メタ)アクリレート等、さらに、(メタ)アクリル酸が挙げられる。
好ましい置換基R11としてはブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、2−エチルヘキシル基、オクチル基、ノニル基、ドデシル基、が挙げられ、さらに好ましいモノマーとしてはブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、ノニルアクリレート、ドデシルメタクリレートが挙げられる。
【0074】
また、多官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、トリシクロデカンジメタノール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等のジアクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートのジ(メタ)アクリレート、 ネオペンチルグリコール1モルに4モル以上のエチレンオキサイド若しくはプロピレンオキサイドを付加して得たジオールのジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA1モルに2モルのエチレンオキサイド若しくはプロピレンオキサイドを付加して得たジオールのジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパン1モルに3モル以上のエチレンオキサイド若しくはプロピレンオキサイドを付加して得たトリオールのジまたはトリ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA1モルに4モル以上のエチレンオキサイド若しくはプロピレンオキサイドを付加して得たジオールのジ(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート1モルに3モル以上のエチレンオキサイド若しくはプロピレンオキサイドを付加して得たトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリまたはテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトール1モルに4モル以上のエチレンオキサイド若しくはプロピレンオキサイドを付加して得たトリまたはテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールのポリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトール1モルに6モル以上のエチレンオキサイド若しくはプロピレンオキサイドを付加して得たポリ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性トリス[(メタ)アクリロキシエチル]イソシアヌレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールのポリ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールのポリ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、カプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、エチレンオキサイド変性リン酸(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性アルキル化リン酸(メタ)アクリレート等が挙げられる。
好ましくはビスフェノールA1モルに4モル以上のエチレンオキサイド若しくはプロピレンオキサイドを付加して得たジオールのジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパン1モルに3モル以上のエチレンオキサイド若しくはプロピレンオキサイドを付加して得たトリオールのジまたはトリ(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート1モルに3モル以上のエチレンオキサイド若しくはプロピレンオキサイドを付加して得たトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトール1モルに4モル以上のエチレンオキサイド若しくはプロピレンオキサイドを付加して得たトリまたはテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトール1モルに6モル以上のエチレンオキサイド若しくはプロピレンオキサイドを付加して得たポリ(メタ)アクリレートであり、より好ましくはビスフェノールA1モルに4モル以上のエチレンオキサイド若しくはプロピレンオキサイドを付加して得たジオールのジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパン1モルに3モル以上のエチレンオキサイド若しくはプロピレンオキサイドを付加して得たトリオールのジまたはトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトール1モルに4モル以上のエチレンオキサイド若しくはプロピレンオキサイドを付加して得たトリまたはテトラ(メタ)アクリレートである。
【0075】
また、N−ビニル−2−ピロリドン、アクリロイルモルホリン、ビニルイミダゾール、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニルホルムアミド、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシメチルアクリルアミドまたはN−ヒドロキシエチルアクリルアミドおよびそれらのアルキルエーテル化合物等も使用できる。
【0076】
更に、光硬化型化合物としては、重合性オリゴマーを併用することもできる。重合性オリゴマーとしては、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0077】
本発明の環状アリルスルフィド化合物と他の添加モノマーとを併用する場合、全光硬化型組成物中の併用する添加モノマー量は50質量%以下であることが好ましい。
【0078】
上記光硬化型組成物から形成される中間層のガラス転移温度は、前述の通り光硬化型組成物の処方、該組成物に含有される光硬化型化合物の種類、硬化条件等により調整することができる。
【0079】
(光重合開始剤)
光硬化型組成物には、一般に光重合開始剤が添加される。光重合開始剤は、用いる重合性モノマーおよび/または重合性オリゴマーに代表される光硬化性化合物が硬化できるものであればよく、特に限定されるものではない。光重合開始剤としては、分子開裂型または水素引き抜き型のものが本発明に好適である。
【0080】
光重合開始剤としては、ベンゾインイソブチルエーテル、2,4−ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、ベンジル、2、2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オン、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキシド等が好適であり、更にこれら以外の分子開裂型のものとして、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾイルエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2,2−ジメトキシー1,2−ジフェニルエタンー1−オンおよび2−メチル−4’−(メチルチオ)−2−モルホリノプロピオフェノン等を併用してもよいし、更に水素引き抜き型光重合開始剤である、ベンゾフェノン、4−フェニルベンゾフェノン、イソフタロフェノン、4−ベンゾイル−4′−メチル−ジフェニルスルフイド等も併用できる。
好ましくは2,4−ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2、2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−4’−(メチルチオ)−2−モルホリノプロピオフェノン、2,2−ジメトキシー1,2−ジフェニルエタンー1−オン、4−フェニルベンゾフェノンであり、より好ましくは2−イソプロピルチオキサントン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−4’−(メチルチオ)−2−モルホリノプロピオフェノン、2,2−ジメトキシー1,2−ジフェニルエタンー1−オン、4−フェニルベンゾフェノンであり、特に好ましくは2−メチル−4’−(メチルチオ)−2−モルホリノプロピオフェノン、2,2−ジメトキシー1,2−ジフェニルエタンー1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイドである。
【0081】
本発明の光硬化型組成物における光重合開始剤の含有量は、光硬化型組成物の全体量に対し0.1〜20質量%が好ましく、1〜10質量%がより好ましい。
光重合開始剤の(a)一般式(I)で表される化合物に対する使用割合は20〜0.01モル等量であることが好ましく、10〜0.1モル等量であることが好ましい。
【0082】
(増感剤)
また上記光重合開始剤に対し、増感剤として、例えば、トリエチルアミン、メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、p−ジエチルアミノアセトフェノン、p−ジメチルアミノアセトフェノン、p−ジメチルアミノ安息香酸エチル、p−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、N,N−ジメチルベンジルアミンおよび4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン等の、前述重合性成分と付加重合反応を起こさないアミン類を併用することもできる。勿論、上記光重合開始剤や増感剤は、硬化型成分への溶解性に優れ、光透過性を阻害しないものを選択して用いることが好ましい。
【0083】
(その他の添加剤)
また、光硬化型組成物には、必要であれば、さらにその他の添加剤として、熱重合禁止剤、ヒンダードフェノール、ヒンダードアミン、ホスファイト等に代表される酸化防止剤、可塑剤およびエポキシシラン、メルカプトシラン、(メタ)アクリルシラン等に代表されるシランカップリング剤等を、各種特性を改良する目的で配合することもできる。これらは、硬化型成分への溶解性に優れたもの、光透過性を阻害しないものを選択して用いることが好ましい。
中間層形成のために使用される光硬化型組成物の詳細は、先に説明した通りである。中間層の形成方法は特に限定されないが、バリア層の表面(被貼り合わせ面)上に、光硬化型組成物を所定量塗布し、その上にカバー層を載置した後、スピンコートにより接着剤を、被貼り合わせ面とカバー層との間に均一になるように広げた後、カバー層側から光を照射して硬化処理を施すことにより中間層を形成することができる。または、バリア層の表面に光硬化型組成物を所定量塗布した後、塗布面に光を照射し硬化処理を施し、次いでその上にカバー層形成のための光硬化型組成物を塗布し光照射し硬化処理を施すことによりカバー層を形成することもできる。光としてはγ線、β線、電子線、紫外線、可視光線、赤外線が例示でき、紫外線であることが好ましい。
上記いずれの方法においても、中間層硬化のために紫外線を用いる場合は、照射される紫外線の照射量は、200mJ/cm超とすることが好ましい。より好ましくは200〜2000mJ/cmの範囲である。硬化に使用するUVランプとしては、例えばメタルハライドランプM02−L31(アイグラフィックス社製、コールドミラー付き、ランプ出力120W/cm)やXenon Corporation社製4.2inch−SPIRAL LAMP等を用いることができる。紫外線照射時のランプ面とサンプル面との間の距離は適宜設定することが好ましい。
【0084】
光硬化型組成物が塗布された媒体をUV照射位置へ移動させる(例えばスピンテーブルからUV照射テーブルへの移動させる)ためには、媒体の外周部分または内周部分で基板を保持して持ち上げて移動させることが望ましい。吸着などの方法で上から媒体を支持して持ち上げると、光硬化型組成物が未硬化であるために媒体が変形したり、中間層に気泡が混入したりして、中間層の膜厚変動や欠陥の原因となる可能性がある。外周部を支持して移動する場合においては、支持部材を定期的に清掃することが好ましい。外周部はスピン時に振切られた未硬化の光硬化型組成物が外周縁部に付着していることがあり、支持部材に付着することがある。繰り返し同じ支持部材で媒体を移動する時に、支持部材から媒体へと付着して欠陥を生じる可能性がある。
【0085】
また、UV照射位置(例えばUV照射テーブル上)では、媒体を支持する部位として、基板(媒体)の内周部、外周部または中周部などの中から一つの部位、或いは複数の部位を支持することができる。プレート状の支持部材で全面を均一に支持してもよい。複数の部位を支持する場合には、各々の部位の支持高さを変更することができる。これは、例えば内周のみを支持した場合に、支持されていない媒体外周部が自重で下に垂れ、その形状で硬化されることで、硬化後の媒体の反りが生じる場合に、外周部も支持して垂れを抑制することで硬化後の反りを抑制するような場合であり、各支持部材の高さを調整して硬化後の媒体形状を調整する効果が期待できる。
中間層の厚さは、良好な記録特性と接着力を両立する観点から、0.1〜100μmの範囲であることが好ましく、より好ましくは0.5〜50μmの範囲、更に好ましくは1〜30μmの範囲である。
【0086】
前記光硬化型組成物は、硬化後にも短波長レーザー光に対し高い透過率を有し得る。BD構成の光情報記録媒体への情報の記録はカバー層側から行われるため、カバー層と記録層との間に位置する中間層が、短波長レーザー光に対して高い透過率を有することは、記録特性向上の観点から好ましい。前記光硬化型組成物によれば、後述する実施例記載の方法で測定される値として、例えば100〜80%の透過率を有する中間層を形成することができる。
本発明の光情報記録媒体の具体例を、図1に示す。図1に示す第1光情報記録媒体10Aは、第1基板12上に、第1光反射層18と、第1追記型記録層14と、バリア層20と、中間層22と、カバー層16とをこの順に有する。以下、本発明の光情報記録媒体に用いられる基板およびその他の層を構成する材料について順次説明する。
【0087】
〔基板〕
本発明に用いられる基板としては、従来の光情報記録媒体の基板材料として用いられている各種の材料を任意に選択して使用することができる。基板としては、透明な円盤状基板を用いることが好ましい。
本発明に用いられる基板については特開2008−300001号公報の段落番号〔0013〕〜〔0021〕の記載を適用することができる。
本発明の基板はプリグルーブを表面に有する。
基板の記録層が形成される表面には、複数のグルーブおよび隣接するグルーブの間に位置するランドからなるプリグルーブ(案内溝)が形成されていることが好ましい。このプリグルーブは、CD−RやDVD−Rに比べてより高い記録密度を達成するために設けられたものであり、例えば、本発明の光情報記録媒体を、青紫色レーザーに対応する媒体として使用する場合に好適である。
プリグルーブのトラックピッチは、好ましくは50〜500nmの範囲である。上限値は420nm以下であることがより好ましく、370nm以下であることが更に好ましく、330nm以下であることがよりいっそう好ましい。また、下限値は、100nm以上であることがより好ましく、200nm以上であることが更に好ましく、260nm以上であることがより一層好ましい。トラックピッチが50nm以上であれば、プリグルーブを正確に形成することができる上に、クロストークの発生を回避することができ、500nm以下であれば、高密度記録を行うことができる。
プリグルーブのトラックピッチは、100nm以上420nm以下であることが好ましく、200nm以上370nm以下であることがより好ましく、260nm以上330nm以下であることが更に好ましい。
プリグルーブの溝幅(半値幅)は、25〜250nmの範囲であることが好ましい。上限値は240nm以下であることが好ましく、230nm以下であることがより好ましく、220nm以下であることが更に好ましい。また、下限値は、50nm以上であることが好ましく、80nm以上であることがより好ましく、100nm以上であることが更に好ましい。プリグルーブの溝幅が25nm以上であれば、成型時に溝を十分に転写することができ、さらに記録時のエラーレート上昇を抑制することができ、250nm以下であれば、同じく成型時に溝を十分に転写することができ、更に記録時に形成されるピットの広がりによりクロストークが発生することを回避することができる。
【0088】
プリグルーブの溝幅(半値幅)は、50nm以上240nm以下であることが好ましく、80nm以上230nm以下であることがより好ましく、100nm以上220nm以下であることが更に好ましい。
プリグルーブの溝深さは、5〜150nmの範囲であることが好ましい。上限値は85nm以下であることが好ましく、80nm以下であることがより好ましく、75nm以下であることが更に好ましい。また、下限値は、10nm以上であることが好ましく、20nm以上であることがより好ましく、28nm以上であることが更に好ましい。プリグルーブの溝深さが5nm以上であれば十分な記録変調度を得ることができ、150nm以下であれば、高い反射率を得ることができる。
プリグルーブの溝深さは、10nm以上85nm以下であることが好ましく、20nm以上80nm以下であることがより好ましく、28nm以上75nm以下であることが更に好ましい。
また、プリグルーブの溝傾斜角度は、上限値が80°以下であることが好ましく、75°以下であることがより好ましく、70°以下であることが更に好ましく、65°以下であることが特に好ましい。また、下限値は、20°以上であることが好ましく、30°以上であることがより好ましく、40°以上であることが更に好ましい。
プリグルーブの溝傾斜角度が20°以上であれば、十分なトラッキングエラー信号振幅を得ることができ、80°以下であれば成型性が良好である。
【0089】
〔反射層〕
反射層は、レーザー光に対する反射率が高い光反射性物質を、例えば、真空蒸着、スパッタリングまたはイオンプレーティングすることにより基板上に形成することができる。
光反射層の層厚は、一般的には10〜300nmの範囲とし、20〜200nmの範囲とすることが好ましい。
なお、前記反射率は、70%以上であることが好ましい。
反射率が高い光反射性物質としては、Mg、Se、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Re、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Ir、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Si、Ge、Te、Pb、Po、Sn、Bi等の金属および半金属またはステンレス鋼を挙げることができる。これらの光反射性物質は単独で用いてもよいし、あるいは二種以上の組合せで、または合金として用いてもよい。これらのうちで好ましいものは、Cr、Ni、Pt、Cu、Ag、Au、Alおよびステンレス鋼である。特に好ましくは、Au、Ag、Alまたはこれらの合金であり、最も好ましくは、Au、Agまたはこれらの合金である。
【0090】
〔記録層〕
本発明の光情報記録媒体に用いる色素化合物としては、フタロシアニン系化合物、アゾ化合物、ならびにアゾ金属錯体化合物、メチン色素(シアニン系化合物、オキソノール系化合物、スチリル色素、メロシアニン色素、)、トリアジン色素、ベンゾトリアゾール色素、ベンゾオキサゾール色素、アミノブタジエン、アゾメチン色素、ピリドポルフィラジン色素、ピラドポルフィラジン色素、ポルフィリン色素、ポルフィラジン色素が挙げられ、好ましくはフタロシアニン系化合物、アゾ化合物、ならびにアゾ金属錯体化合物、メチン色素(シアニン系化合物、オキソノール系化合物、スチリル色素、メロシアニン色素、)、トリアジン色素、ベンゾトリアゾール色素、より好ましくはフタロシアニン系化合物、アゾ化合物、ならびにアゾ金属錯体化合物、メチン色素(シアニン系化合物、オキソノール系化合物、スチリル色素、メロシアニン色素、)が挙げられる。
【0091】
フタロシアニン系化合物については、特開2008−300001号公報の段落番号〔0030〕〜〔0046〕の記載を適用することができる。また、アゾ化合物及びアゾ金属錯体化合物については、特開2009−9684号公報の段落番号〔0039〕〜〔0105〕の記載を適用することができる。そして、オキソノール色素については、特開2008−300006号公報の段落番号〔0032〕〜〔0090〕の記載を適用することができる。
【0092】
本発明では、記録層内での空隙形成を良好に行い記録特性を高めるために、上記で表される色素化合物の中で、熱質量分析での主減量過程における質量減少率が10%以上である熱分解性を有する化合物を使用することが好ましい。ある温度域において化合物を昇温していくと、熱分解による質量減少が生じる。化合物の種類にもよるが、通常、大きな質量減少を示すいくつかの温度域(質量減少過程)が存在することが多い。本発明では、いくつかの質量減少過程(減量過程)のうち、質量減少の度合が最大のものを主減量過程と呼ぶ。質量減少率は、以下の方法によって求めることができる。
【0093】
図2に示すように、質量M0の化合物を窒素雰囲気下で、10℃/分で昇温する。この昇温に従って、質量はほぼ直線a−bに沿って微量ずつ減少し、ある温度に達すると、ほぼ直線c−dに沿った急激な質量減少を起こす。さらに昇温を続けると急激な質量減少が終了し、ほぼ直線e−fに沿った質量減少を起こす。ここで、直線a−bと直線c−dとの交点において、温度をT1(℃)とし、初期質量M0に対する残存質量率をm1(%)とする。また、直線c−dと直線e−fとの交点において、温度をT2(℃)とし、初期質量M0に対する残存質量率をm2(%)とする。すなわち、主減量過程において、減量開始温度はT1、減量終了温度はT2となり、質量減少率は、(m1−m2)(%)で示される。
【0094】
上記の窒素雰囲気下での質量減少は、酸化分解ではなく色素の置換基分解や骨格分解に基づき、ガスが発生しているものと考えられる。よって、質量減少率が高いほど、熱分解による気体発生量が多く、空隙形成に有利であると考えられる。上記色素化合物の中でも、上記質量減少率が10%以上のものを記録層に含むことにより、レーザー光照射による気体発生量が多くピットを良好に形成できると考えられる。上記色素化合物の中でも、150℃〜400℃における熱分解時の質量減少率が20%以上である熱分解性を有するものがより好ましく、200℃〜400℃における熱分解時の質量減少率が25%以上である熱分解性を有するものが更に好ましい。色素の熱分解性は、色素骨格に導入する置換基の種類等によって制御することができる。
【0095】
具体的には、例えばSeiko Instruments Inc.製EXSTAR6000を用い、N気流下(流量200ml/min)、30℃〜550℃の範囲において10℃/分で昇温を行い、質量減少率を求めることができる。
更に、感度向上のためには、前記色素化合物として熱分解性が良好な化合物を使用することが好ましい。熱分解性の指標としては、熱分解温度を用いることができる。本発明では、前記色素化合物として熱分解温度が、例えば150〜400℃、好ましくは200〜400℃、更に好ましくは200〜380℃のものを用いることが好ましい。なお、本発明における熱分解温度は、TG/DTA測定によって求められる値をいうものとする。具体的には、例えばSeiko Instruments Inc.製EXSTAR6000を用い、N気流下(流量200ml/min)、30℃〜550℃の範囲において10℃/分で昇温を行い、質量減少率が10%に達した時点の温度として熱分解温度を求めることができる。
【0096】
本発明の光情報記録媒体へレーザー光を照射すると、記録層のレーザー光が照射された部分が局所的に温度上昇し、その部分で記録用色素が熱分解を起こすと考えられる。一般に有機物は熱分解温度以前に状態変化に伴う吸発熱を示す。熱分解温度以前の発熱量が大きいと、熱分解時に発生するガスに大きなエネルギーが与えられることにより、記録ピット形成時に発生する熱が先行する記録ピットに影響を及ぼしピット形状の変形を起こすおそれがあり、また形成される記録ピットの形状制御が困難となるおそれがある。他方、熱分解以前の発熱量が小さければ熱分解時に発生するガスに与えられるエネルギーが小さくなるため、隣接ピットに対する影響を低減することはできる。ただし上記発熱量が小さすぎるとピット形成が困難となるおそれがある。通常、前述の主減量過程は熱分解温度直前の温度域であるため、ヒートモード記録時の物質変化の指標として、主減量過程における総発熱量、即ち、主減量過程における減少開始温度(図2中のT1)から減量終了温度(図2中のT2)間の温度域(T1〜T2)における総発熱量を用いることができる。記録層中の色素の主減量過程における総発熱量(以下、「総発熱量Q」ともいう)は、−200〜500J/gの範囲であることが好ましい。総発熱量Qが上記範囲内であれば所望形状のピット形成を良好に行うことができ、これにより良好な記録再生特性を得ることができる。Qのより好ましい範囲は−180〜450J/gであり、更に好ましい範囲は−160〜350J/gである。
【0097】
総発熱量Qは、熱質量分析での主減量過程における減少開始温度(図2中のT1)から減量終了温度(図2中のT2)間の温度域における発熱量を、Seiko Instruments Inc.製DSC6200Rを用い、DSC(Differential Scanning Calorimetry)法によって測定することにより求めることができる。一般に有機物質の熱分解時には質量減少に相当する気体が揮散する。この気体に与えられるエネルギーもQに含めるため、DSCの測定は密閉雰囲気中にて行うものとする。具体的にはDSCの測定は、SUS製密閉容器等に試料を封じて行うことができる。
以下に、短波長領域で大きな屈折率差を実現することができ、前述の中間層と組み合わせることにより、特に短波長レーザ光照射により優れた記録特性を発揮し得る色素化合物の具体例を示すが、本発明は下記色素化合物に限定されるものではない。
【0098】
記録層用色素の使用量は、前述のように、記録層の全質量に対して、例えば1〜100質量%の範囲であり、好ましくは50〜100質量%、より好ましくは75〜100質量%の範囲である。記録用色素として、色素化合物を一種使用することもでき、二種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0099】
次に記録層の形成について説明する。
記録層は、色素を、結合剤等と共に、または結合剤を用いないで適当な溶剤に溶解して塗布液を調製し、次いで、この塗布液を、後述する反射層上に塗布して塗膜を形成した後、乾燥することにより形成することができる。ここで、追記型記録層は、単層でも重層でもよい。塗布液を塗布する工程を複数回行うことにより、重層構造の記録層を形成することができる。
塗布液中の色素の濃度は、一般に0.01〜15質量%の範囲であり、好ましくは0.1〜10質量%の範囲、より好ましくは0.5〜5質量%の範囲、最も好ましくは0.5〜3質量%の範囲である。
【0100】
塗布液の調製に用いる溶剤としては、例えば、酢酸ブチル、乳酸エチル、セロソルブアセテート等のエステル;メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン等のケトン;ジクロルメタン、1,2−ジクロルエタン、クロロホルム等の塩素化炭化水素;ジメチルホルムアミド等のアミド;メチルシクロヘキサン等の炭化水素;テトラヒドロフラン、エチルエーテル、ジオキサン等のエーテル;エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノールジアセトンアルコール等のアルコール;2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノール等のフッ素系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類;等を挙げることができる。
溶剤は使用する色素の溶解性を考慮して単独で、あるいは二種以上を組み合わせて使用することができる。塗布液中には、さらに、結合剤、酸化防止剤、UV吸収剤、可塑剤、潤滑剤等各種の添加剤を目的に応じて添加してもよい。
【0101】
塗布方法としては、スプレー法、スピンコート法、ディップ法、ロールコート法、ブレードコート法、ドクターロール法、スクリーン印刷法等を挙げることができる。
塗布の際、塗布液の温度は23〜50℃の範囲であることが好ましく、23〜40℃の範囲であることがより好ましく、中でも、23〜38℃の範囲であることが特に好ましい。
【0102】
追記型記録層の厚さは、ランド上で1〜100nmの範囲であることが好ましく、グルーブ上で5〜150nmの範囲であることが好ましい。ランド(前記基板において凸部)上での厚さは、70nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましく、30nm以下であることが更に好ましい。下限値は、5nm以上であることが好ましく、15nm以上であることがより好ましい。
また、追記型記録層の厚さは、グルーブ上(前記基板において凹部)で、100nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましい。下限値は、10nm以上であることが好ましく、20nm以上であることがより好ましい。
【0103】
更に、ランド上の追記型記録層の厚さとグルーブ上の追記型記録層の厚さの比{(ランド上の記録層の厚さ)/(グルーブ上の記録層の厚さ)}は、0.1以上であることが好ましく、0.13以上であることがより好ましく、0.15以上であることが更に好ましく、0.17以上であることが特に好ましい。上限値としては、1以下であることが好ましく、0.9以下であることがより好ましく、0.85以下であることが更に好ましく、0.8以下であることが特に好ましい。
【0104】
プリグルーブは、複数のグルーブおよび隣接するグルーブの間に位置するランドからなり、かつトラックピッチは50〜500nmの範囲であり、前記記録層の厚さは、ランド上で1〜100nmの範囲であり、かつグルーブ上で5〜150nmの範囲であることが好ましい。
また、プリグルーブは、複数のグルーブおよび隣接するグルーブの間に位置するランドからなり、ランド上の記録層の厚さとグルーブ上の記録層との厚さの比{(ランド上の記録層の厚さ)/(グルーブ上の記録層の厚さ)}が0.1〜1の範囲であることが好ましい。
【0105】
更に、記録層には、記録層の耐光性を向上させるために種々の褪色防止剤を含有させることができる。褪色防止剤としては、有機酸化剤や一重項酸素クエンチャーを挙げることができる。褪色防止剤として用いられる有機酸化剤としては、特開平10−151861号公報に記載されている化合物が好ましい。一重項酸素クエンチャーとしては、既に公知の特許明細書等の刊行物に記載のものを利用することができる。その具体例としては、特開昭58−175693号、同59−81194号、同60−18387号、同60−19586号、同60−19587号、同60−35054号、同60−36190号、同60−36191号、同60−44554号、同60−44555号、同60−44389号、同60−44390号、同60−54892号、同60−47069号、同63−209995号、特開平4−25492号、特公平1−38680号、および同6−26028号等の各公報、ドイツ特許350399号明細書、そして日本化学会誌1992年10月号第1141頁などに記載のものを挙げることができる。好ましい一重項酸素クエンチャーの例としては、下記の一般式(A)で表される化合物を挙げることができる。
【0106】
【化14】

【0107】
一般式(A)中、R21は置換基を有していてもよいアルキル基を表し、Qはアニオンを表す。
一般式(A)において、R21は置換されていてもよい炭素数1〜8のアルキル基であり、無置換の炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。アルキル基の置換基としては、ハロゲン原子(例、F,Cl)、アルコキシ基(例、メトキシ基、エトキシ基)、アルキルチオ基(例、メチルチオ基、エチルチオ基)、アシル基(例、アセチル基、プロピオニル基)、アシルオキシ基(例、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基)、ヒドロキシ基、アルコキシカルボニル基(例、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基)、アルケニル基(例、ビニル基)、アリール基(例、フェニル基、ナフチル基)を挙げることができる。これらの中で、ハロゲン原子、アルコキシ基、アルキルチオ基、アルコキシカルボニル基が好ましい。Qのアニオンの好ましい例としては、ClO、AsF、BF、およびSbFを挙げることができる。
一般式(A)で表される化合物例(化合物番号AA−1〜AA−8)を下記表1に示す。
【0108】
【表1】

【0109】
前記一重項酸素クエンチャーなどの褪色防止剤の使用量は、色素量に対して、通常0.1〜50質量%の範囲であり、好ましくは、0.5〜45質量%の範囲、更に好ましくは、3〜40質量%の範囲、特に好ましくは5〜25質量%の範囲である。
【0110】
〔バリア層〕
バリア層は、記録層の保存性向上、記録層とカバー層との接着性向上、反射率調整、熱伝導率調整等のために設けることができる。
バリア層に用いられる材料としては、記録および再生に用いられる光を透過する材料であり、上記の機能を発現し得るものであれば、特に制限されるものではないが、例えば、一般的には、ガスや水分の透過性の低い材料、Ag合金などの反射層材料との接触により腐食を生じない材料、湿熱環境での腐食が生じない材料を用いることが好ましく、誘電体であることが更に好ましい。
具体的には、Zn、Si、Ti、Te、Sn、Mo、Ge、Nb、Ta等の窒化物、酸化物、炭化物、硫化物からなる材料が好ましく、MoO、GeO、TeO、SiO、TiO、ZnO、SnO、ZnO−Ga、Nb、Taが好ましく、SnO、ZnO−Ga、SiO、Nb、Taがより好ましい。
また、バリア層は、真空蒸着、DCスパッタリング、RFスパッタリング、イオンプレーティングなどの真空成膜法により形成することができる。中でも、スパッタリングを用いることがより好ましい。
バリア層の厚さは、1〜200nmの範囲が好ましく、2〜100nmの範囲がより好ましく、3〜50nmの範囲が更に好ましい。
【0111】
〔カバー層〕
カバー層は、バリア層上に、前述の中間層を介して貼り合わされる。
カバー層としては、透明な材質のフィルムであれば、特に限定されないが、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂;ポリ塩化ビニル、塩化ビニル共重合体等の塩化ビニル系樹脂;エポキシ樹脂;アモルファスポリオレフィン;ポリエステル;三酢酸セルロース等を使用することが好ましく、中でも、ポリカーボネートまたは三酢酸セルロースを使用することがより好ましい。
なお、「透明」とは、記録および再生に用いられる光に対して、透過率80%以上であることを意味する。また、本発明の光情報記録媒体は、バリア層上に塗布された光硬化型組成物に対し、カバー層を介して光を照射することによって硬化処理を施すことにより形成することができる。よって、カバー層は光透過性を有するものであることが好ましい。具体的には、光硬化型組成物の硬化のために照射される光に対して80%以上の透過率を有することが好ましい。
また、カバー層は、本発明の効果を妨げない範囲において、種々の添加剤が含有されていてもよい。例えば、波長400nm以下の光をカットするためのUV吸収剤および/または500nm以上の光をカットするための色素が含有されていてもよい。
更に、カバー層の表面物性としては、表面粗さが2次元粗さパラメータおよび3次元粗さパラメータのいずれも5nm以下であることが好ましい。
また、記録および再生に用いられる光の集光度の観点から、カバー層の複屈折は10nm以下であることが好ましい。
【0112】
カバー層の厚さは、記録および再生のために照射されるレーザー光の波長やNA、光硬化型組成物の硬化のために照射される光の波長等により、適宜、規定することができるが、本発明においては、0.01〜0.5mmの範囲内であることが好ましく、0.05〜0.12mmの範囲であることがより好ましい。
また、カバー層と接着層を合わせた総厚は、0.09〜0.11mmであることが好ましく、0.095〜0.105mmであることがより好ましい。
なお、カバー層の光入射面には、光情報記録媒体の製造時に、光入射面が傷つくことを防止するための保護層(後述する図1に示す態様ではハードコート層44)が設けられていてもよい。
またカバー層は、UV硬化樹脂を利用してスピンコーティング法により形成してもよい。
【0113】
〔その他の層〕
本発明の光情報記録媒体は、本発明の効果を損なわない範囲においては、上記の必須の層に加え、他の任意の層を有していてもよい。他の任意の層としては、例えば、基板の裏面(追記型記録層が形成された側と逆側の非形成面側)に形成される、所望の画像を有するレーベル層や、反射層と記録層との間に設けられる界面層などが挙げられる。ここで、前記レーベル層は、紫外線硬化樹脂、熱硬化性樹脂、および熱乾燥樹脂などを用いて形成することができる。
なお、上記した必須および任意の層はいずれも、単層でも、多層構造でもよい。
前記好ましい構成の追記型記録層を有する光情報記録媒体は、従来のCD−R、DVD−R等における記録層の形成方法と同様の方法により形成できるため、製造が容易である。本発明によれば、上記構成の光情報記録媒体において、優れた短波長記録特性と機械的強度(カバー層とバリア層の接着力)を得ることができ、更には生産性も両立できる。
【0114】
本発明の光情報記録媒体に対してレーザー光を照射することにより、記録層に情報を記録することができる。光情報記録媒体に対する情報の記録は、記録層のレーザー光を照射された部分がその光学的特性を変えることによって行われる。光学的特性の変化は、記録層のレーザー光が照射された部分がその光を吸収して局所的に温度上昇し、物理的または化学的変化(例えばピットの生成)を生じることによってもたらされると考えられる。記録層に記録された情報の読み取り(再生)は、例えば記録用のレーザー光と同様の波長のレーザー光を照射することにより、記録層の光学的特性が変化した部位(記録部位)と変化しない部位(未記録部位)との反射率等の光学的特性の違いを検出することにより行うことができる。前述のように、本発明では、情報の記録は、好ましくは、レーザー光照射により記録に含まれる色素化合物が熱分解し、それにより発生した気体によりピット内に空隙が形成されることによって行われる。より好ましくは、色素化合物がレーザー光を吸収することによって発熱し、それにより生じた熱によって該色素化合物中の置換基または色素骨格が分解して気体を発生する。これにより記録層中に空隙が形成され、レーザー光照射により空隙が形成された部分とレーザー光未照射部との間に大きな屈折率差を生じさせることができ、記録特性を高めることができると考えられる。前記レーザー光の波長は、390〜440nmであることが好ましい。本発明の光情報記録媒体への情報記録の詳細は後述する。
【0115】
[光情報記録媒体の製造方法]
更に本発明は、基板のプリグルーブを表面上に、反射層、色素含有記録層、バリア層、およびカバー層をこの順に有する光情報記録媒体の製造方法に関する。本発明の光情報記録媒体の製造方法は、一般式(I)で表される環状アリルスルフィド化合物を含有する光硬化型組成物をバリア層上に塗布し、前記バリア層と前記カバー層との間に中間層を形成することを含む。中間層は好ましくは、紫外線を照射することにより形成される。その詳細は、先に説明した通りである。本発明の光情報記録媒体の製造方法により、本発明の光情報記録媒体を得ることができる。
【0116】
[情報記録方法]
更に、本発明は、本発明の光情報記録媒体へ、波長390〜440nmのレーザー光を照射することにより、記録層へ情報を記録する情報記録方法に関する。
記録光は波長390〜440nmのレーザー光であり、440nm以下の範囲の発振波長を有する半導体レーザー光が好適に用いられ、好ましい光源としては390〜440nm(更に好ましくは390〜415nm)の範囲の発振波長を有する青紫色半導体レーザー光、中心発振波長850nmの赤外半導体レーザー光を光導波路素子を使って半分の波長にした中心発振波長425nmの青紫色SHGレーザー光を挙げることができる。特に、記録密度の点で390〜415nmの範囲の発振波長を有する青紫色半導体レーザー光を用いることが好ましい。上記のように記録された情報の再生は、光情報記録媒体を上記と同一の定線速度で回転させながら半導体レーザー光をカバー層側から照射して、その反射光を検出することにより行うことができる。
具体的には、図1に示す光情報記録媒体に対する情報の記録は、例えば次のように行われる。
【0117】
まず、光情報記録媒体を一定の線速度(例えば0.5〜10m/秒)または一定の角速度にて回転させながら、カバー層16側から半導体レーザー光等の記録用のレーザー光46を、第一対物レンズ42(例えば開口数NAが0.85)を介して照射する。このレーザー光46の照射により、追記型記録層14がレーザー光46を吸収して局所的に温度上昇し、物理的または化学的変化(例えばピットの生成)が生じてその光学的特性を変えることにより、情報が記録されると考えられる。
その他の本発明の情報記録方法の詳細は、先に本発明の光情報記録媒体について説明した通りである。
【実施例】
【0118】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。
【0119】
<一般式(I)で表される化合物(モノマー)の合成>
例示化合物M−17、M−18、M−34、M−36、M−44、M−45、及びM−46を、J. Polym. Sci.: Part A Polym. Chem. 2001, 39, 202.に記載の方法に準じ、下記スキーム(Rは、M−17及びM−44合成時はメチル基、M−18合成時はフェニル基、M−34合成時は水素原子、M−45合成時は2-ブロモフェニル、M−46合成時は2,4-ジクロロフェニル)によって合成した。出発原料を変更した以外は同様の方法により、例示化合物を合成した。出発原料の置換基を変更することにより、様々な置換基を有する環状アリルスルフィド化合物を合成することができる。
【0120】
【化15】

【0121】
DMAP:4−ジメチルアミノピリジン
WSC:1−エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩
【0122】
以下に得られた物性データを記述する。
M-17;1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ2.00 (s, 3H), 3.05 (m, 4H), 3.21 (s, 4H), 4.95 (m, 1H), 5.20 (s, 2H)
M-18;1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ3.16 (d, 2H), 3.18 (d, 2H), 3.23 (s, 4H), 5.20 (s, 2H), 5.20 (m, 1H), 7.30 (m, 3H), 8.0 (m, 3H)
M-45;1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ3.16 (d, 2H), 3.18 (d, 2H), 3.24 (s, 4H), 5.20 (s, 2H), 5.22 (m, 1H), 7.36 (m, 2H), 7.79 (dd, 1H), 7.80 (dd, 1H)
M-46;1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ3.16 (d, 2H), 3.18 (d, 2H), 3.24 (s, 4H), 5.20 (s, 2H), 5.20 (m, 1H), 7.30 (dd, 1H), 7.48 (d, 1H), 7.79 (d, 1H)
M-44;1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ2.00 (s, 3H), 2.80〜3.80(m, 7H), 4.10〜4.30 (m, 2H), 4.85 (d, 2H)
M-34;1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ2.95 (m, 2H), 2.36 (s, 2H), 4.50 (m, 2H), 5.60 (s, 1H), 5.85 (s, 1H)
M-36;1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ1.54 (d, 3H), 2.92〜3.10 (m, 2H), 3.59(dd, 1H),4.51 (t, 2H), 5.51 (s, 1H), 5.63 (s, 1H)
【0123】
《光硬化型組成物の調製》
中間層の形成に使用する光硬化型組成物は、環状アリルスルフィド化合物に光重合開始剤を添加して暗所で攪拌し均一にすることにより調製した。以下に、光硬化型組成物Aを例にとり調製方法を説明する。光硬化型組成物B〜Iも同様にして調製した。
【0124】
調製例:光硬化型組成物A
環状アリルスルフィド化合物M−17(合成品)を20g秤量し、それに対してさらに、光重合開始剤としてチバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製イルガキュア907(Irgacure907):2−メチル−4’−(メチルチオ)−2−モルホリノプロピオフェノンを1g添加し、暗所で3時間攪拌し一晩放置して光硬化型組成物Aを得た。
【0125】
調製例:光硬化型組成物B〜I
環状アリルスルフィド化合物及び光重合開始剤として表2に示すものをそれぞれ表2に示す量使用した以外は光硬化型組成物Aと同様にして光硬化型組成物B〜Iを調整した。
【0126】
【表2】

【0127】
イルガキュア907:2−メチル−4’−(メチルチオ)−2−モルホリノプロピオフェノン(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)
イルガキュア651:2,2−ジメトキシー1,2−ジフェニルエタンー1−オン(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)
ダロキュアTPO:2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)
EGD:エチレングリコールジアクリレート(アルドリッチ社製)
【0128】
比較調製例:光硬化型組成物J
単官能モノマーとして2−エチルヘキシルアクリレート(8.4g:和光純薬工業株式会社製)に多官能モノマーとして、Ebecryl−81(6.0g、ダイセルサイテック社製、2.5官能アミン変性ポリエーテルアクリレート)、光重合開始剤としてイルガキュア907:2−メチル−4’−(メチルチオ)−2−モルホリノプロピオフェノン(0.6g:チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を暗所で3時間攪拌し一晩放置して光硬化型組成物Jを得た。
【0129】
比較調製例:光硬化型組成物K
イソホロンジイソシアネート2モルジブチルスズラウレートを1滴添加し、70℃で攪拌した後、ポリプロピレングリコール400(質量平均分子量683、数平均分子量567)1モルを添加して3時間攪拌・反応させ、その後に2−ヒドロキシエチルアクリレート2モルを滴下させて3時間攪拌し多官能ウレタンアクリレートNを得た。単官能モノマーとして2−エチルヘキシルアクリレート(8.4g:和光純薬工業株式会社製)に多官能モノマーとして、前記多官能ウレタンアクリレートN6.0g、光重合開始剤としてイルガキュア907:2−メチル−4’−(メチルチオ)−2−モルホリノプロピオフェノン(0.6g:チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を暗所で3時間攪拌し一晩放置して光硬化型組成物Kを得た。
【0130】
比較調製例:光硬化型組成物L
単官能モノマーとして2−エチルヘキシルアクリレート(21g:和光純薬工業株式会社製)に多官能モノマーとして、グリセリン1モルに40モルのエチレンオキサイドを付加した後にアクリル酸クロライドと反応せしめて得られた架橋剤(0.5g、新中村化学工業株式会社製NK ESTHER ASO 40EO)、さらに増粘剤としてポリブチルアクリレート(7g:アルドリッチ社製、Mw=101000、Mn=38000)、光重合開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(0.5g:和光純薬工業株式会社製)を暗所で3時間攪拌し一晩放置して光硬化型組成物Lを得た。上記と同様の方法で粘度を測定したところ、56mPa・sであった。
【0131】
[色素Aの合成]
【0132】
【化16】

【0133】
(1)化合物(Q−5)の合成
100ml三角フラスコに化合物(1)1gを入れ、酢酸1.3ml、プロピオン酸2mlを注ぎ、氷冷下で塩酸(35〜37%)1.9mlをゆっくり滴下した。氷浴にて0〜5℃に冷却し、そこへNaNO 0.46gを溶解させた水溶液1ml(5℃以下に冷却したもの)をゆっくり滴下した後、0〜5℃にて1時間分間攪拌した。この酸性溶液を、氷冷下で0〜5℃に保った化合物(2)0.94gを含むメタノール溶液20mlに徐々に加え、1時間攪拌した。室温に戻し2時間攪拌した後、沈殿物をろ過し最小量のメタノールで洗浄した。得られた固体を乾燥させ、化合物(Q−5)0.8gを得た。化合物の同定は300MHzH−NMRにより行った。
H−NMR(DMSO−d6)[ppm];13.70(1H,br),13.31(1H,s),3.331(3H,s),1.413(9H,s),1.331(9H,s)
【0134】
(2)色素Aの合成
次に、50mlナスフラスコに、上記(1)で合成した化合物(Q−5)0.7g、メタノール10mlを入れ、攪拌しながらトリエチルアミン1.5mlを滴下した。10分間攪拌し、さらにCu(OAc)・HO 0.43gを加え、1時間加熱還流させた。室温に戻し、沈殿物をろ過し、メタノールにて洗浄し、乾燥を施して化合物色素A0.44gを得た。
[色素I−49の合成]
特開2004―188727号公報に記載の合成例1に従い、例示色素化合物(I−49)を合成した。
【0135】
《色素の物性評価》
<屈折率nおよび消衰係数kの測定解析>
後述する実施例1と同様の色素含有塗布液を調製し、厚さ1.1mmのガラス板上に、調製した色素含有塗布液を、スピンコート法により回転数500〜1000rpmまで変化させながら23℃、50%RHの条件で塗布した。この色素膜について、屈折率nおよび消衰係数kを分光エリプソメトリ装置(J.A.ウーラムジャパン社製、型式 M−2000)を用いて測定解析した。405nmにおける色素Aを用いた色素含有塗布液の屈折率nは1.56、消衰係数kは0.23であった。また同様に色素I−49を用いた色素含有塗布液の屈折率nは1.81、消衰係数kは0.052であった。
【0136】
<熱分解温度の測定>
色素AについてTG/DTA測定を行った。測定はSeiko Instruments Inc.製EXSTAR6000を用い、N気流下(流量200ml/min)、30℃〜550℃の範囲において10℃/minで昇温を行った。質量減少率が10%に達した時点の温度を読み取ったところ321℃であった。また同様に色素I−49の質量減少率が10%に達した時点の温度を読み取ったところ353℃であった。
【0137】
[実施例1]
≪光情報記録媒体の作製≫
(基板の作製)
厚さ1.1mm、外径120mm、内径15mmでスパイラル状のプリグルーブ(トラックピッチ:320nm、溝幅:グルーブ(凹部)幅190nm、溝深さ:47nm、溝傾斜角度:65°、ウォブル振幅:20nm)を有する、ポリカーボネート樹脂からなる射出成形基板を作製した。射出成型時に用いられたスタンパのマスタリングは、レーザーカッティング(351nm)を用いて行なわれた。
【0138】
(光反射層の形成)
基板上に、Unaxis社製Cubeを使用し、Ar雰囲気中で、DCスパッタリングにより、膜厚60nmの真空成膜層としてのANC光反射層(Ag:98.1at%、Nd:0.7at%、Cu:0.9at%)を形成した。光反射層の膜厚の調整は、スパッタ時間により行った。
【0139】
(追記型記録層の形成)
合成した色素A1.2gを、2,2,3,3−テトラフロロプロパノール100ml中に添加して溶解し、色素含有塗布液を調製した。そして、光反射層上に、調製した色素含有塗布液を、スピンコート法により回転数300〜4000rpmまで変化させながら23℃、50%RHの条件で塗布した。その後、23℃、50%RHで1時間保存して追記型記録層を形成した。追記型記録層の厚さはグルーブ上の厚さ40nm、ランド上の厚さ15nmであった。
追記型記録層を形成した後、クリーンオーブンにてアニール処理を施した。アニール処理は、基板を垂直のスタックポールにスペーサーで間をあけながら支持し、80℃で1時間保持して行った。
【0140】
(バリア層、中間層、カバー層の形成)
その後、追記型記録層上に、Unaxis社製Cubeを使用し、Ar雰囲気中で、DCスパッタリングによりNbからなる、厚さ5nmのバリア層を形成した。
バリア層を成膜した媒体をスピン塗布装置上に設置し、内周部30mm付近に光硬化型組成物Aをリング状に塗布した。その上から内径15mm、外径120mmのポリカーボネート製フィルム(帝人ピュアエース、厚さ:90μm)(カバー層)を載せた後に、2000〜8000r.p.m.の回転数で回転させた。これによって遠心力で接着剤が外周部まで延展し、均一な厚みの光硬化型組成物Aの層を得ることができた。このサンプルをUV光照射テーブルに移動し、UV光を照射し、光硬化型組成物Aの層を硬化させた。このとき、硬化に用いたUVランプはXenon Corporation社製4.2inch−SPIRAL LAMPであり、1回あたり0.5秒の照射時間となる閃光を複数回照射して硬化させた。ランプ面〜サンプル面間距離は約35mmであった。光照射量は、2000mJ/cmであった。形成された中間層(接着層)の厚さは10μmであった。
これにより、実施例1の光情報記録媒体が作製された。
【0141】
[実施例2〜9、比較例1〜3]
光硬化型組成物Aの代わりに表3に示す光硬化型組成物を使用し、該組成物の硬化処理のための紫外線照射時間を変更することにより紫外線照射量を変更した以外は、実施例1と同様の方法により光情報記録媒体を作製した(実施例2〜7、比較例1〜3)。また同様に色素I−49を用いた以外は実施例1と同様の方法により光情報記録媒体を作製した(実施例8及び9)。
【0142】
紫外線照射量
接着層の硬化のために照射した紫外線の照射量は以下のように測定した。
照射照度測定機としてウシオ電機株式会社製EC−100FL型を用い、積算光量測定モードで測定した。この測定機の受光部上にポリカーボネート製フィルム(帝人ピュアエース、厚さ:90μm)を載せてUV光照射部にセットし、1回あたり0.5秒の照射時間となる閃光を3、6、10回照射して各回における積算光量を測定した。照射時間と積算光量の関係をプロットしたところ、照射時間と積算光量の関係は良好な直線関係を示した。そこで、原点を通る近似直線の傾きを単位時間当たりの照射量として、単位時間当たりの照射量と照射時間との積を照射量とした。結果を下記表3に示す。測定機の受光部は半径40mmにあることから、表3に示す値は、半径40mmにおける測定結果を代表値として用いたものであり、ランプによっては面内強度にバラツキが生じる可能性もある。
尚、この測定機は、相対的な値を測定するもので単位は無いが、表3では得られた数値にmJ/cmという単位を付けてエネルギーに置き換えて示した。これは、ポリカーボネート製フィルムを置かずに3sec照射した時の積算光量が、メーカーデータ(mJ/cmの単位を持つエネルギーとして計測されている)とほぼ一致しているためである。
【0143】
《接着層のガラス転移温度の測定》
(1)ガラス転移温度用サンプルの調製
各紫外線硬化型組成物を、それぞれガラス基板上に塗布した後、メタルハライドランプM02−L31(アイグラフィックス社製、コールドミラー付き、ランプ出力120W/cm)を用いて窒素雰囲気中で表3に示す照射量で紫外線を照射し硬化させ、測定用サンプルを調製した。
(2)ガラス転移温度(DSC)の測定
得られた硬化塗膜のガラス転移温度を、SC/DSCにより測定した。測定結果を表3に示す。測定方法を以下に説明する。
DSC装置:Seiko Instruments Inc.製DSC6200Rを用いSUS製密閉セルに試料を密閉し、−100℃〜100℃の範囲において10℃/分で昇温して1回目のガラス転移温度を求めた。さらに100℃〜−100℃まで50℃/分で降温した後に−100℃〜100℃の範囲において10℃/分で昇温して2回目のガラス転移温度を求めた。この点をガラス転移温度(DSC)とした。
なお、ガラス転移温度測定のために、測定用サンプル中の硬化塗膜は、実施例および比較例の光情報記録媒体における接着層よりも厚く形成した。ただしガラス転移温度は膜厚の影響を受けないため、下記表3に示す結果は、それぞれ対応する実施例、比較例の評価結果とみなすことができる。
【0144】
《剥離強度の測定》
(1)剥離強度測定サンプルの作成
片面に、光記録媒体の作製に用いたものと同一の基板を、溝が形成された側を上向きにスピン塗布装置上に設置し、内周部30mm付近に光硬化型組成物Aをリング状に塗布した。その上から内径15mm、外径120mmのポリカーボネート製フィルム(帝人ピュアエース、厚さ:90μm)を載せた後に、2000〜8000r.p.m.の回転数で回転させた。これによって遠心力で光硬化型組成物が外周部まで延展し、均一な厚みの接着層を得ることができた。このサンプルをUV光照射テーブルに移動し、UV光を照射、UV接着剤を硬化させた。このとき、硬化に用いたUVランプはアイグラフィックス社製M03−041であり、2.1秒間照射した。紫外線照射量は、1077mJ/cmであった。形成された接着層の厚さは5μmであった。
(2)剥離強度の測定
図3に示すように、サンプルのポリカーボネート製フィルムに、カッターナイフを用いて、内周から外周端まで幅14mmの切れ込みを入れた。切れ込みの深さは100μm以上とし、切れ込みの左右でシートが完全に分離するようにした。切れ込みで挟まれた帯状部分の外周端から10mmのところで略180°折り返した。
図4に測定装置の概略を示す。粘着シートを用いてステージ上にサンプルを、切れ込み及び折り返し部が可動部から遠い側となるように水平に固定した。図5に示すようにシート折り返し部とサンプルの間に、セロハンテープを粘着面を上側に向け挿しこみ折り返し部と十分に密着させた。セロハンテープのもう一方の端部はロードセル(ミネベア株式会社製 UT−1K)に接続したフックに巻きつけた。その状態でモーターを動作させ、ねじ山付き回転軸を回転させることにより、可動部に接している回転軸の端部を矢印方向に移動させ、可動部およびそれに取り付けたロードセルをサンプルと正反対の方向に、14mm/secの速度にて水平に移動させた。移動は切れ込みを入れた幅14mmの帯状の部分が完全にポリカーボネート基板から剥離するまで行い、その間にロードセルによって測定した荷重の最大値をサンプルの剥離強度とした。
【0145】
《透過率の測定》
剥離強度測定サンプルと同一の構成、方法でサンプルを作製し、分光光度計ETA−RT(STEAG ETA−Optik GmbH製)にて半径40mm、入射光波長405nmにて透過率(入射光強度を1とした場合の、透過した光の比強度)を測定した。
【0146】
《記録特性の評価》
作製した光情報記録媒体を、403nmレーザー、NA0.85ピックアップを積んだ記録再生評価機(パルステック社製:DDU1000)を用い、クロック周波数66MHz、線速4.92m/sにて、0.16μmの信号(2T)を記録、再生しスペクトルアナライザー(ローデ&シュウバルツ社製FSP−3型)にて出力を測定した。記録後の16MHz付近に見られるピークの出力をCarrier出力、記録前の同周波数の出力をNoise出力として、記録後の出力−記録前の出力をC/N値とした。記録はグルーブ上に行った。また記録パワーは1〜8mWの範囲で行い、再生パワー0.3mWであった。表4中、記録パワーが6mW時のC/N値が35dBより大きい場合を実用上使用できるレベル「○」とし、35dB未満の場合を「×」とした。
以上の結果を表3および表4に示す。
【0147】
【表3】

【0148】
表3に示すように、実施例1〜9について剥離強度と透過率を測定したところ、いずれも良好であった。これに対し、比較例2および3では、実施例1〜9と比べ剥離強度が低い結果となった。環状アリルスルフィド化合物を含む光硬化型組成物を使用することにより、剥離強度を大きくできたものと考えられる。なお、比較例1については後述する。
【0149】
【表4】

【0150】
【化17】

【0151】
α1/Rα2、Rα3/Rα4、Rα5/Rα6、Rα7/Rα8は−SOを表す(Rα1/Rα2という表記はRα1またはRα2のいずれか一方という意味を表す。)。
【0152】
表4に示すように、実施例1、4、5,7,8,9の光情報記録媒体は、良好な記録特性を示した。
これに対し、比較例1の光情報記録媒体は、表3に示すように剥離強度および透過率は実施例1〜4と同等であったものの、表4に示すように良好な記録特性を得ることはできなかった。環状アリルスルフィド化合物を用いることで、本発明の光情報記録媒体は大きい剥離強度と良好な記録特性を両立できる。
【産業上の利用可能性】
【0153】
本発明の光情報記録媒体は、短波長レーザー光を照射することにより情報を記録するためのブルーレイ方式の光情報記録媒体として好適である。
【符号の説明】
【0154】
10A…第1光情報記録媒体
12…基板
14…記録層
16…カバー層
18…光反射層
20…バリア層
22…中間層
42…第一対物レンズ
44…ハードコート層
46…レーザー光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリグルーブを表面に有する基板上に、反射層、色素を含有する記録層、バリア層、およびカバー層をこの順に有する光情報記録媒体であって、
前記バリア層と前記カバー層との間に、下記一般式(I)で表される化合物を含有する光硬化型組成物により形成された中間層を有することを特徴とする光情報記録媒体。
【化1】

[一般式(I)中、Rは水素原子またはアルキル基を表し、Zは2つの炭素原子及び硫黄原子と共に環構造を表す。]
【請求項2】
一般式(I)で表される化合物が、下記一般式(II)で表される化合物であることを特徴とする請求項1に記載の光情報記録媒体。
【化2】

[一般式(II)中、Rは一般式(I)における定義と同義である。R12は水素原子またはアルキル基を表し、R13、R14およびR15はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、、アリールカルボニルオキシ基、アシルアミノ基、スルホニルアミノ基、アミノ基、アシル基またはハロゲン原子を表し、mは0または1を表す。]
【請求項3】
前記一般式(II)において、mが1であることを特徴とする請求項2に記載の光情報記録媒体。
【請求項4】
一般式(I)で表される化合物が、下記一般式(III)で表される化合物であることを特徴とする請求項1に記載の光情報記録媒体。
【化3】

[一般式(III)中、Rは一般式(I)における定義と同義である。R23、R24およびR25はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アシルアミノ基、スルホニルアミノ基、アミノ基、アシル基またはハロゲン原子を表し、nは0または1を表す。]
【請求項5】
前記一般式(III)において、nが0であることを特徴とする請求項4に記載の光情報記録媒体。
【請求項6】
前記光硬化型組成物は、更に単官能または多官能(メタ)アクリレートを含有する請求項1〜5のいずれか1項に記載の光情報記録媒体。
【請求項7】
中間層のTgが−20℃以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の光情報記録媒体。
【請求項8】
前記プリグルーブは、複数のグルーブおよび隣接するグルーブの間に位置するランドからなり、かつトラックピッチは50〜500nmの範囲であり、前記記録層の厚さは、ランド上で1〜100nmの範囲であり、かつグルーブ上で5〜150nmの範囲である請求項1〜7のいずれか1項に記載の光情報記録媒体。
【請求項9】
前記プリグルーブは、複数のグルーブおよび隣接するグルーブの間に位置するランドからなり、ランド上の記録層の厚さとグルーブ上の記録層との厚さの比{(ランド上の記録層の厚さ)/(グルーブ上の記録層の厚さ)}が0.1〜1の範囲である請求項1〜8のいずれか1項に記載の光情報記録媒体。
【請求項10】
波長390〜440nmのレーザー光を照射することにより情報を記録するために使用される請求項1〜9のいずれか1項に記載の光情報記録媒体。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の光情報記録媒体へ、波長390〜440nmのレーザー光を照射することにより、光情報記録媒体の記録層へ情報を記録する情報記録方法。
【請求項12】
プリグルーブを表面に有する基板上に、反射層、色素含有記録層、バリア層、およびカバー層をこの順に有する光情報記録媒体の製造方法であって、
前記バリア層上に、一般式(I)で表される化合物を含有する光硬化型組成物を塗布し、該組成物の上に前記カバー層を設けた後、該組成物光を照射することによって前記バリア層と前記カバー層との間に、中間層を形成することを特徴とする光情報記録媒体の製造方法。
【化4】

[一般式(I)中、Rは水素原子またはアルキル基を表し、Zは2つの炭素原子及び硫黄原子と共に環構造を表す。]

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−225219(P2010−225219A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−69935(P2009−69935)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】