説明

光情報記録媒体およびその製造方法

【課題】記録層の膜厚に関して高い精度が要求されず、かつ、良好な再生出力を得ることができる光情報記録媒体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】記録光の照射により屈折率が変化する複数の記録層14と、当該複数の記録層14の間に設けられる中間層15とを備えた光情報記録媒体10である。記録層14と中間層15とは、互いに屈折率が異なり、記録層14と中間層15の界面のうち、記録層14と、当該記録層14に対し記録光が入射される側で隣接する中間層15との界面(前側界面19)は、記録層14と中間層15が混じり合うことで徐々に屈折率が変化している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光情報記録媒体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光情報記録媒体に多層に情報を記録するため、2光子吸収などの多光子吸収反応を用いて光情報記録媒体中の記録材料に光学的変化を起こさせる方法が研究されている(例えば、特許文献1)。多光子吸収反応を用いた光情報記録媒体は、従来から広く用いられている単層の光情報記録媒体と同様に、情報の再生時に記録層の上下の両界面で反射した反射光同士が干渉すること(干渉効果という)を考慮し、記録部分と未記録部分の反射率(記録層の上下の両界面での反射光同士が干渉後、光ピックアップへ戻ってくる光の割合)の差が大きくなるように、記録部分の記録材料の屈折率変化と記録層の厚さが設定されている。特許文献1の情報記録媒体においても、同文献の図2に示すように膜厚と反射率の関係が考慮され、再生光波長をλ、記録層の屈折率をnとして、記録層厚さをλ/4n程度や、より薄い5〜50nm程度にするとよいとされている(段落0062)。
【0003】
また、このように干渉効果を利用しない場合として、特許文献2に開示されたように、記録層の下に蛍光発光層を設け、この蛍光発光層で発した光を、記録層を通して検出することで、情報を読み取る構成とするものも知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4290650号公報
【特許文献2】特開2001−325745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1のように、再生時に記録層の両界面での反射光の干渉効果を利用する場合、記録層が設計値通りの膜厚に製造されないと良好な変調度が得られないので、膜厚の精度が要求され、光情報記録媒体の製造コストが嵩むという問題がある。
【0006】
また、特許文献2のように、蛍光発光をベース光として、このベース光がどれだけ光検出器に戻ってくるかの強弱で変調を得ようとすると、蛍光発光自体が非常に微弱であるため、良好な再生出力が得にくいという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、記録層の膜厚に関して高い精度が要求されず、かつ、良好な再生出力を得ることができる光情報記録媒体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記した課題を解決するため、本発明は、記録光の照射により屈折率が変化する複数の記録層と、当該複数の記録層の間に設けられる中間層とを備えた光情報記録媒体であって、前記記録層と前記中間層とは、互いに屈折率が異なり、前記記録層と前記中間層の界面のうち、記録層と、当該記録層に対し記録光が入射される側で隣接する前記中間層との界面は、前記記録層と前記中間層が混じり合うことで徐々に屈折率が変化していることを特徴とする。
【0009】
このような光情報記録媒体によれば、記録層に光を照射して、後述するように記録層にレンズ効果を持たせるように屈折率を変化させると、再生時において、読出光(再生時に照射する光)の照射側から見て記録層と、その記録層の奥側に隣接する中間層との界面(本明細書において「奥側界面」という。)においては、読出光が反射するが、記録層と、その記録層の手前側に隣接する中間層との界面(本明細書において「前側界面」という。)においては、読出光が反射しない。このため、前側界面における反射が、奥側界面による反射光の検出を阻害しないので、高いS/N比で情報を読み取ることが可能となる。
【0010】
前記した光情報記録媒体において、前記記録層は、色素を含有する樹脂からなり、前記中間層は、前記記録光に対し透明な樹脂からなる構成とすることができる。
【0011】
また、光情報記録媒体は、前記記録層の屈折率をn1、前記中間層の屈折率をn2として、0.001<((n2−n1)/(n2+n1))2<0.04を満たすことが望ましい。
【0012】
このように、((n2−n1)/(n2+n1))2、つまり、反射率が0.001より大きいことで、奥側界面での反射光強度を確保して、情報の再生を可能にするとともに、反射率が0.04より小さいことで、奥側界面での反射光強度を適度に小さくして、より奥側の記録層に記録光および読出光を到達させることを可能にし、記録層を多数設けて高容量化を図ることができる。
【0013】
また、本発明の光情報記録媒体では、前側界面での反射が実質的に無いことで、前側界面の反射と奥側界面の反射を合わせた反射率を一定とする条件の下では、前側界面での反射が起こる場合に比較して、奥側界面の反射率を大きめに設定することができ、情報の再生時に高いS/N比を確保することができる。
【0014】
前記した各光情報記録媒体の製造方法は、記録層形成面に対し、記録層の材料を塗布する第1工程と、前記記録層の材料を硬化させる前または一部硬化させた後に中間層の材料を塗布する第2工程と、前記記録層の材料および前記中間層の材料を硬化させる第3工程と、を有し、前記第1工程から前記第3工程を繰り返し行うことを特徴とする。
【0015】
このように記録層を硬化させる前または一部硬化させた後に、中間層の材料を塗布することで、記録層の材料と中間層の材料とが、拡散して僅かに混ざり合う。そして、この混じり合った状態で記録層と中間層を同時に硬化させることで、前側界面において記録層と中間層が混じり合った状態の光情報記録媒体を製造することができる。そして、第3工程の終了後、第1工程から第3工程を繰り返し行うので、既に硬化した中間層の上に記録層が塗布され、奥側界面は中間層と記録層が混じり合わず、はっきりとした界面となる。これにより、奥側界面における反射を発生させることができる。
【0016】
前記した製造方法においては、前記記録層の塗布および前記中間層の塗布は、スピンコートにより行うことができる。
【0017】
前記した製造方法においては、前記中間層の材料として光硬化性樹脂を含み、前記第3工程においては、光を照射することで前記中間層の材料を硬化させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、前側界面における反射を実質的に無くして、高いS/N比で情報を再生することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】多層光情報記録媒体の断面図である。
【図2】記録層の厚さと変調度の関係を示すグラフである。
【図3】記録スポットの平面的な図である。
【図4】d/ω0と変調度の関係を示すグラフである。
【図5】記録時の焦点位置と記録スポットの形成を説明する図である。
【図6】再生時の焦点位置と記録スポットにおけるレンズ効果を説明する図である。
【図7】再生時の焦点位置と非記録位置における読出光の反射を説明する図である。
【図8】光情報記録媒体の製造方法を説明する図(a)〜(c)である。
【図9】光情報記録媒体の製造方法を説明する図(a)および(b)である。
【図10】変形例における再生時のレンズ効果を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
本発明の一実施形態に係る光情報記録媒体10は、図1に示すように、基板11と、サーボ信号層12と、複数の記録層14と複数の中間層15と、カバー層16とを備えてなる。
【0021】
基板11は、記録層14などを支持するための支持体であり、一例としてポリカーボネートの円板などからなる。基板11の材質や厚さは特に限定されない。
【0022】
サーボ信号層12は、記録層14および中間層15を基板11に保持させるための粘着性または接着性の樹脂材料からなり、基板11側の面に予め凹凸または屈折率の変化によりサーボ信号が記録された層である。ここでのサーボ信号は、記録時および再生時のフォーカスの基準面であることを記録再生装置が認識できるように予め設定された信号である。所定の記録層14に焦点を合わせる場合には、この基準面からの距離や、界面の数を考慮して焦点を制御する。また、記録時および再生時に円周方向に並んだ記録スポットのトラックに正確にレーザ光を照射できるようにトラッキング用のサーボ信号または溝を設けておくとよい。なお、サーボ信号層12の有無は任意である。
【0023】
記録層14は、情報が光学的に記録される感光材料からなる層であり、記録光(記録用の照射光)の照射により屈折率が変化するものを用いる。屈折率の変化は、記録光の照射により、屈折率が小さい状態から大きい状態になるのでもよいし、逆に大きい状態から小さい状態になるのでもよい。ここでは、記録層14は、一例として、記録光の照射により屈折率が小さくなる記録材料を用いることとする。記録層14の材料としては、記録層14に適度な厚みを持たせ、また、色素が光を吸収した結果発生した熱により屈折率を変化させるため、例えば、記録光を1光子吸収または多光子吸収する色素を含有する樹脂からなることが望ましい。このような色素を含有する樹脂としては、例えば、色素を高分子バインダーに分散させたものを用いることができる。高分子バインダーとしては、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、ポリビニルアルコール(PVA)などを用いることができる。また、バインダーの一部として、光の照射により硬化する光硬化性樹脂(UV硬化樹脂)を含んでいても構わない。
【0024】
上記記録光を吸収する色素としては、例えば、ヒートモード型記録材料として従来用いられていた色素を用いることができる。例えば、フタロシアニン系化合物、アゾ化合物、アゾ金属錯体化合物、メチン色素(シアニン系化合物、オキソノール系化合物、スチリル色素、メロシアニン色素)を用いることができる。また、多層の記録層を有する記録媒体において記録再生時における隣接記録層への影響を最小限にするためには、前記記録光を吸収する色素として、多光子吸収色素を用いることが望ましく、多光子吸収色素は、例えば、読出光の波長に線形吸収帯を持たない2光子吸収化合物であることが好ましい。
【0025】
2光子吸収化合物としては、読出光の波長に線形吸収帯を持たないものであれば、特に限定されないが、例えば、下記一般式(1)で表される構造を有する化合物が挙げられる。
【化1】

【0026】
(一般式(1)中、XおよびYはハメットのシグマパラ値(σp値)が共にゼロ以上の値を有する置換基を表し、同一でもそれぞれ異なってもよく、nは1〜4の整数を表し、Rは置換基を表し、同一でもそれぞれ異なってもよく、mは0〜4の整数を表す。)
【0027】
一般式(1)中、XおよびYはハメット式におけるσp値が正の値を取るもの、所謂電子吸引性の基を指し、好ましくは例えばトリフルオロメチル基、ヘテロ環基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、スルファモイル基、カルバモイル基、アシル基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、などが挙げられ、より好ましくはトリフルオロメチル基、シアノ基、アシル基、アシルオキシ基、またはアルコキシカルボニル基であり、最も好ましくはシアノ基、ベンゾイル基である。これらの置換基のうち、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、スルファモイル基、カルバモイル基、アシル基、アシルオキシ基、およびアルコキシカルボニル基は、溶媒への溶解性の付与等の他、様々な目的で、更に置換基を有してもよく、置換基としては、好ましくは、アルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、アリールオキシ基、などが挙げられる。
【0028】
nは1以上4以下の整数を表し、より好ましくは2または3であり、最も好ましくは2である。nが5以上になるほど、線形吸収が長波長側に出てくるようになり、700nmよりも短波長の領域の記録光を用いての非共鳴2光子吸収記録ができなくなる。
Rは置換基を表し、置換基としては、特に限定されず、具体的には、アルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、アリールオキシ基、などが挙げられる。mは0以上4以下の整数を表す。
【0029】
一般式(1)で表される構造を有する化合物の具体例としては、特に限定されないが、下記の化学構造式D−1〜D−21の化合物を使用することができる。
【化2】

【0030】
記録層14は、記録後において形成される屈折率分布がレンズ効果を奏するように、十分な厚さを有している。具体的には、記録層14は、記録光の波長をλ、記録層14の屈折率をnとして2λ/n以上の厚さを有している。図2に示すように、nD/λ(Dは記録層の厚さ)と変調度(検出光強度の(最大値−最小値)/最大値 で求まる値)の関係を計算すると、nD/λが2以上で変調度が0.1以上となり、良好な変調度が得られることが分かる。このことから、厚さDは2λ/n以上であるのがよい。
【0031】
一例として、記録光の波長を522nm、記録層14の屈折率を1.40とすれば、記録層14の厚さは745nm以上である。この厚さは、従来の干渉効果を利用した光情報記録媒体に比較して数倍の厚さであり、これにより、記録層14に記録スポットが形成されると、記録スポットにレンズ効果を持たせることができる。
【0032】
記録層14の厚さの上限は特に限定されないが、記録層14の層数をなるべく多くするため、5μm以下であるのが望ましい。一例として、本実施形態では、記録層14の厚さは1μmである。記録層14は、例えば、2〜100層程度設けられる。光情報記録媒体10の記憶容量を大きくするため、記録層14は多い方が望ましく、例えば10層以上であるのが望ましい。
【0033】
中間層15は、図1に示すように各記録層14の上下に隣接して配置されている。中間層15は、記録時および再生時のレーザ光の照射により変化しない材料が用いられる。また、中間層15は、記録時の記録光の損失を最小限にするため、記録光に対し、透明な樹脂からなることが望ましい。ここでの透明とは、吸収率が1%以下であることをいう。一例として、中間層15としては、光の照射により硬化させることが可能な光硬化性樹脂(UV硬化樹脂)を含むことができる。中間層15は、複数の記録層14の間で層間クロストーク(隣接する記録層14間の信号の混じり合い)が生じないように、記録層14同士の間隔を所定量空けるために設けられている。このため、中間層15の厚さは、3μm以上であり、一例として、本実施形態では10μmである。
【0034】
記録層14との界面のうち、記録光の照射側(図1における上)から見て、記録層14の奥側の中間層15と隣接する奥側界面18で読出光の反射を可能にするため、中間層15は、記録層14と屈折率の差が適度に設けられているのがよい。具体的には、記録層14の屈折率をn1、中間層15の屈折率をn2として、
0.001<((n2−n1)/(n2+n1))2<0.04
を満たすのが望ましい。
【0035】
((n2−n1)/(n2+n1))2が0.001より大きいことで、奥側界面18での反射光量を大きくして、情報の再生時に、S/N比を大きくすることができる。また、((n2−n1)/(n2+n1))2が0.04より小さいことで、奥側界面18での反射光量を適度な大きさに抑えて、記録時および再生時において記録再生光(本明細書において、記録光、読出光および再生光を指す。)が大きな減衰を受けることなく深い記録層14に到達するのを可能にする。
【0036】
中間層15の屈折率n2は、一例としては、1.61である。記録層14の屈折率n1が1.40であるとすると、((n2−n1)/(n2+n1))2は、0.0049であり、前記した不等式を満たす。
【0037】
中間層15と記録層14の界面のうち、記録層14と、当該記録層14に対し記録光が入射される側で隣接する中間層15との界面(前側界面19)は、記録層14と中間層15が混じり合うことで徐々に屈折率が変化している。すなわち、界面が明確には形成されていない。これにより、前側界面19においては、屈折率の急変による反射が起こらず、記録再生光を反射することなく透過させる。なお、図面においては、隣接する層の材料が混じり合っている界面を、便宜的に破線で示す。
【0038】
ここで、前側界面19において記録層14と中間層15が混じり合うことで前側界面19での反射率が、奥側界面18での反射率よりも十分に小さくなることは重要である。仮に、前側界面19からの反射光と奥側界面18からの反射光が干渉すると、記録層14の厚みの変化により再生出力が大きくなったり小さくなったりするが、このような再生出力の変動は、再生光の波長の数分の一以下という非常に小さな記録層14の厚みの誤差をも許容しないことを意味する。そして、実際の媒体においては、例えば、厚さ1μmの記録層14を、上記したような再生出力の変動を生じない精度に均一に製造することは非常に困難である。このような点からも、前側界面19での反射率が奥側界面18での反射率よりも十分に小さくなることで、光情報記録媒体10の製造が容易となり、品質が安定する。
【0039】
カバー層16は、記録層14および中間層15を保護するために設けられる層であり、記録再生光が透過可能な材料からなる。カバー層16は、数十μm〜数mmの適宜な厚さで設けられる。
【0040】
以上のような光情報記録媒体10に、情報を記録・再生する方法について説明する。
所望の記録層14に情報を記録するとき、その記録層14に、記録すべき情報に応じて出力が変調されたレーザ光(記録光RB)を照射する。記録層14が、多光子吸収化合物を主たる記録色素として有する場合、このレーザ光には、ピークパワーを大きくできるパルスレーザ光を用いるとよい。そして、記録光RBの焦点の位置は、図5に示すように、レーザ光の奥側界面18から記録光RBの入射側にω0<d<3ω0を満たすオフセット量dだけずらすのがよい。ここでのω0は、図3に示した記録スポットMの半径である。この半径ω0は、図3の左の記録スポットMのように記録光RBと光情報記録媒体10を相対的に移動させていないときの円形状のスポットの半径であり、図3の中央および右の2つの記録スポットMのように、記録光RBと光情報記録媒体10を互いに相対的に移動させた結果細長い形状となった場合には、記録スポットMの幅の半分として測定することができる。
【0041】
ここで、オフセット量dの範囲について説明する。まず、レーザ光で形成しうる微細なスポット径はω0=0.1〜0.3μmの範囲を想定している。記録するスポットの半径ω0は、使用する記録光の波長と対物レンズの開口数NAとで決まる回折限界によって決定される。半径ω0は、記録層14の1層あたりの面記録密度および使用する記録用レーザの波長から、0.1〜0.3μm程度であることが望ましいといえる。ここで、図4に示すように、オフセット量dと半径ω0の比d/ω0と変調度の関係を計算すると、ω0=0.15〜0.3μmの範囲では、d/ω0の値が1〜3の間で変調度が良好となるので、オフセット量dとしては、ω0<d<3ω0の範囲が良好であるといえる。なお、この計算においては、記録層14の厚さは1μmとしている。
【0042】
上記のようにして記録光RBを照射すると、図5に模式的に示したように、光の強度に応じて(2光子吸収反応であれば光の強度の2乗に比例して)、光の強度が高い焦点付近ほど光の吸収反応が多く起こり、この反応に応じて屈折率が小さくなる。このため、1μmの厚みがある記録層14には、屈折率の分布ができる。この屈折率の分布を有する記録スポットMが読出光にとってレンズとして作用する。
【0043】
所望の記録層14から情報を再生するとき、その記録層14にCWレーザ光(読出光OB)を照射する。このとき、図6に示すように、読出光OBは、記録層14と中間層15の奥側界面18を目標にして焦点位置を調整する。すると、読出光OBは、記録スポットMに入った後、記録スポットMのレンズ効果により記録スポットMから逸れるように進行する。このため、記録スポットMの位置においては、奥側界面18で反射する光がほとんど無い。一方、図7に示すように、記録層14における未記録部分、つまり、記録スポットM以外の位置においては、読出光OBは奥側界面18で反射するため、記録部分と未記録部分における反射光の強度の違いが得られることで、情報を再生することができる。
【0044】
以上のように、本実施形態の光情報記録媒体10においては、記録部分と未記録部分の奥側界面18における反射率の違いを利用して、情報の記録・再生が可能となっている。そして、従来の記録方式においては、奥側界面18の反射と前側界面19の反射の干渉効果を用いて情報の再生をしていたので、前側界面19の反射が必須であったが、本実施形態の記録方式においては、前側界面19の反射は必要ではなく、むしろノイズとなる。そこで、本実施形態のように、前側界面19において記録層14と中間層15の屈折率を徐々に変化させることで、前側界面19における記録再生光の反射を無くすことができるので、再生光のS/N比を向上させることが可能となる。
【0045】
また、本実施形態の光情報記録媒体10によれば、干渉効果を用いずに、記録層14に形成された記録スポットMのレンズ効果を利用して、記録部分と未記録部分における再生出力(反射光強度)の変調を得ることができるので、記録層14の膜厚の精度はそれほど高く要求されず、製造コストを抑えることができる。また、再生時には奥側界面18における読出光の反射を利用しているので、蛍光を利用する場合に比較して、高い再生出力を得ることができる。
【0046】
次に、光情報記録媒体10の製造方法について説明する。
図8(a)に示すように、基板11の上にサーボ信号層12を設けたワークに対し、中間層15の材料をスピンコートにより塗布し、紫外線を照射することで、中間層15を硬化させる。これにより、硬化後の中間層15の表面が、後に記録層14が形成される記録層形成面15Aとなる。
【0047】
そして、図8(b)に示すように、この記録層形成面15A上に、スピンコートにより記録層14の材料を塗布する(第1工程)。
【0048】
次に、この記録層14を硬化させる前、または、僅かな紫外線の照射などにより一部硬化させた後に、図8(c)に示すようにスピンコートにより中間層15の材料を塗布する(第2工程)。この第2工程を行うと、完全には硬化していない記録層14に、液状の中間層15の材料が付着するので、両者の間で材料の拡散が僅かに起こり、記録層14と中間層15の材料が混じり合う。
【0049】
そして、紫外線を照射することで、中間層15の材料を硬化させる(第3工程)。中間層15が硬化すると、記録層14と中間層15が適度に混じり合った状態で両者が固定される。すなわち、以後の両者の拡散が起こらなくなる。これにより、記録層14および中間層15の1組の層(複合層)が形成される。
【0050】
そして、上記の第1工程から第2工程を繰り返す。すなわち、図9(a)に示すように、最も上の中間層15(記録層形成面15A)の上に、記録層14を塗布する(第1工程)。このとき、最も上の中間層15は、完全に硬化しているので、記録層14を塗布しても、中間層15とは混じり合わない。
【0051】
次に、図9(b)に示すように、完全には硬化していない記録層14の上に中間層15の材料を塗布し(第2工程)、紫外線を照射することで中間層15の材料を硬化させる(第3工程)。このようにして、2つ目の複合層が形成される。以後、以上の第1工程から第3工程を複数回繰り返し、最後に中間層15の上にカバー層16を形成することで光情報記録媒体10が製造できる。
【0052】
以上のようにして、本実施形態の光情報記録媒体10の製造方法によれば、スピンコータ上で、塗布と硬化を繰り返すことで光情報記録媒体10を製造することができる。すなわち、従来用いられているスピンコータの設備を利用して、安価に製造が可能である。
【0053】
以上に本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前記した実施形態に限定されることなく適宜変形して実施することが可能である。
例えば、前記実施形態においては、記録層14は、記録光の照射により屈折率が小さくなるものを例示したが、記録光の照射により屈折率が大きくなるような記録材料を用いてもよい。この場合には、図10に示すように、記録スポットMが読出光OBを集めるように作用するので、記録部分において未記録部分よりも高い反射率で読出光OBを反射し、記録部分と未記録部分の反射光強度の変調が発生する。もっとも、変調度を高くして再生出力において高いS/N比を得るためには、記録層14においては、前記した実施形態のように、記録光の照射により屈折率が小さくなる記録材料を用いるのが望ましい。
【0054】
また、前記実施形態においては、記録層14の材料および中間層15の材料は、スピンコートにより塗布したが、所望の厚さで良好な塗膜が得られる限り、塗布方法は、スピンコートに限られない。
【0055】
また、前記実施形態においては、中間層15の材料は、UV硬化樹脂(光硬化性樹脂)を含んでいたが、これに限定されず、光硬化性樹脂を含まないものであってもよい。
【0056】
また、前記実施形態においては、中間層15の上にカバー層16を形成したが、これに限定されず、記録層14の上にカバー層16を形成してもよい。
【符号の説明】
【0057】
10 光情報記録媒体
11 基板
14 記録層
15 中間層
16 カバー層
18 奥側界面
19 前側界面
M 記録スポット
OB 読出光
RB 記録光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録光の照射により屈折率が変化する複数の記録層と、当該複数の記録層の間に設けられる中間層とを備えた光情報記録媒体であって、
前記記録層と前記中間層とは、互いに屈折率が異なり、
前記記録層と前記中間層の界面のうち、記録層と、当該記録層に対し記録光が入射される側で隣接する前記中間層との界面は、前記記録層と前記中間層が混じり合うことで徐々に屈折率が変化していることを特徴とする光情報記録媒体。
【請求項2】
前記記録層は、色素を含有する樹脂からなり、
前記中間層は、前記記録光に対し透明な樹脂からなることを特徴とする請求項1に記載の光情報記録媒体。
【請求項3】
前記記録層の屈折率をn1、前記中間層の屈折率をn2として、
0.001<((n2−n1)/(n2+n1))2<0.04
を満たすことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の光情報記録媒体。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の光情報記録媒体の製造方法であって、
記録層形成面に対し、記録層の材料を塗布する第1工程と、
前記記録層の材料を硬化させる前または一部硬化させた後に中間層の材料を塗布する第2工程と、
前記中間層の材料を硬化させる第3工程と、を有し、
前記第1工程から前記第3工程を繰り返し行うことを特徴とする、光情報記録媒体の製造方法。
【請求項5】
前記記録層の塗布および前記中間層の塗布は、スピンコートにより行うことを特徴とする請求項4に記載の光情報記録媒体の製造方法。
【請求項6】
前記中間層の材料として光硬化性樹脂を含み、前記第3工程においては、光を照射することで前記中間層の材料を硬化させることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の光情報記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−22736(P2012−22736A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−158583(P2010−158583)
【出願日】平成22年7月13日(2010.7.13)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】