説明

光拡散部材および光拡散部材の製造方法

【課題】結晶化ガラスを用い、良好な光拡散性を有する光拡散部材に関し、また、耐熱性に優れており、低膨張特性と高い剛性を有し寸法安定性に優れた光拡散部材、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】質量%で、SiO50〜62%、Al22〜26%、LiO3〜5%、の各成分を含有し、結晶相の平均結晶粒子径が100nm以下であり、平均線膨張係数が0〜50℃の温度範囲で−5×10−7/℃〜+30×10−7/℃の範囲内である結晶化ガラスを用いることを特徴とする光拡散部材。また、ガラス原料を溶融する工程と、溶融したガラスを成形する工程と、成形したガラスを徐冷する工程と、徐冷後650〜750℃で0.1〜200時間第1の熱処理をする工程と、第1の熱処理後750℃〜800℃で0.1〜50時間第2の熱処理をする工程を含むことを特徴とする光拡散部材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は結晶化ガラスを用い、良好な光拡散性を有する光拡散部材に関し、また、耐熱性に優れており、低膨張特性と高い剛性を有し寸法安定性に優れた光拡散部材、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光拡散板として使用されている材料は樹脂やガラスが知られている。これらの材料からなる光拡散板は、例えば材料自体に光拡散性を有する乳白色のポリカーボネート樹脂を用いたり、材料の表面に酸処理や砂ずり等の加工を施して光拡散性を付与したり、材料自体を基板として光拡散性を有するフィルムや乳白色膜をつける等の方法が用いられている。
【0003】
これら従来の光拡散板は膨張係数が高いものが多く、剛性も低いため寸法安定性に問題があった。また耐熱性も低いため高温環境下では軟化してしまうと言う問題があった。樹脂からなる光拡散部材の場合には射出成形の方向によって生じる線膨張係数の異方性も寸法安定性に問題を生じる原因となっている。
【0004】
一方で、近年種々の分野に使用される光拡散部材において、寸法安定性などの諸物性に対しての要求が厳しいものとなっている。
例えば、液晶ディスプレーやプロジェクターテレビなどの表示装置の大型化に伴い、これらに使用される拡散板に高い寸法安定性が求められるようになっている。
また、温度変化を伴う環境下で拡散光を精密に測定する場合において、測定器の光拡散部材が温度変化によって変形し光拡散性が変化することが無いように、光拡散部材が低膨張であることが求められる。また、温度変化が少ない環境であっても被拡散光源がレーザー光など大きなエネルギーを持つ場合には光拡散部材の温度が高温となり変形や破損を生じたり、光拡散性が不安定なものとなってしまう。このような場合においても光拡散部材が低膨張であることが求められる。
【0005】
前述の問題点を解決し、これらの厳しい要求を満足するためには、良好な光拡散性を有しつつも、低膨張特性を有し、耐熱性にすぐれており、高い剛性と寸法安定性を有する必要がある。しかし、このような良好な特性を有する光拡散部材は存在しなかった。
【0006】
特許文献1においては、良好な剛性、寸法安定性を目的として、樹脂組成物からなる光拡散板が提案されているが、Tgが80℃〜250℃と耐熱性が低く、線膨張係数も40℃〜80℃の範囲で54×10−7/℃〜62×10−7/℃と高く、また線膨張係数の異方性が存在し、剛性、寸法安定性とも満足のいくものではない。
【0007】
【特許文献1】特開2004−175963号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は上記のような従来技術における問題点を解決し、良好な光拡散性を有しつつ、膨張特性に異方性がなく、低膨張特性を有し、耐熱性に優れており、高い剛性を有し寸法精度に優れた光拡散部材、およびそれらの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の発明者は上記課題を解決するため鋭意試験研究を行った結果、特定の結晶相を析出させ、その結晶粒径と平均線膨張係数を特定のものとした結晶化ガラスを用いた光拡散部材は、良好な光拡散性を有しつつも、低膨張特性を有し、膨張特性が等方性であり、剛性も高く、寸法安定性も良好であることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明の好適な態様は以下に列挙する構成のいずれかで表わされる。
(構成1)質量%で、
SiO50〜62%、
Al22〜26%、
LiO 3〜5%、
の各成分を含有し、結晶相の平均結晶粒子径が100nm以下であり、平均線膨張係数が0〜50℃の温度範囲で−5×10−7/℃〜+30×10−7/℃の範囲内である結晶化ガラスを用いることを特徴とする光拡散部材。
(構成2)該結晶化ガラスが質量%で、P成分を5〜10%含有し、SiO+P=55〜70%であり、P成分とSiO成分の質量比の値P/SiOが0.08〜0.20であることを特徴とする構成1に記載の光拡散部材。
(構成3)該結晶化ガラスが質量%で、
TiO1〜4%、および/または
ZrO1〜4%、
の各成分を含有することを特徴とする構成1また2に記載の光拡散部材。
(構成4)該結晶化ガラスが質量%で、
MgO 0.6〜2%、および/または
ZnO 0.1〜2%、および/または
CaO 0.3〜4%、および/または
BaO 0.5〜4%、
の各成分を含有することを特徴とする構成1から3のいずれかに記載の結晶化ガラスを用いた光拡散部材。
(構成5)該結晶化ガラスが質量%で、As成分を0〜2%含むことを特徴とする構成1から4のいずれかに記載の光拡散部材。
(構成6)該結晶化ガラスが質量%で、
SiO50〜62%、
5〜10%、
Al22〜26%、
LiO 3〜5%、
MgO 0.6〜2%、
ZnO 0.1〜2%、
CaO 0.3〜4%、
BaO 0.5〜4%、
TiO1〜4%、
ZrO1〜4%、
As0〜2%、
ただし、
SiO+P55〜70%、
質量比でP/SiO0.08〜0.20、
の範囲の各成分を含有することを特徴とする構成1から5のいずれかに記載の光拡散部材。
(構成7)モル%で、
SiO55〜70%、
Al10〜25%、
LiO 5〜15%、
の各成分を含有し、結晶相の平均結晶粒子径が100nm以下であり、平均線膨張係数が0〜50℃の温度範囲で−5×10−7/℃〜+30×10−7/℃の範囲内である結晶化ガラスを用いることを特徴とする光拡散部材。
(構成8)該結晶化ガラスがモル%で、P成分を2〜8%含有し、SiO+P=57〜78%であり、P成分とSiO成分の質量比の値P/SiOが0.02〜0.15であることを特徴とする構成7に記載の光拡散部材。
(構成9)該結晶化ガラスがモル%で、
TiO1〜4%、および/または
ZrO1〜3%、
の各成分を含有することを特徴とする構成7または8に記載の光拡散部材。
(構成10)該結晶化ガラスが、モル%で、
MgO 0.5〜5%、および/または
ZnO 0.05〜2%、および/または
CaO 0.3〜7%、および/または
BaO 0.3〜4%、
の各成分を含有することを特徴とする構成7から9のいずれかに記載の光拡散部材。
(構成11)該結晶化ガラスが、モル%で、As成分を0〜1%含むことを特徴とする構成7から10に記載の光拡散部材。
(構成12)該結晶化ガラスが、モル%で、
SiO55〜70%、
2〜8%、
Al10〜25%、
LiO 5〜15%、
MgO 0.5〜5%、
ZnO 0.05〜2%、
CaO 0.3〜7%、
BaO 0.3〜4%、
TiO1〜4%、
ZrO1〜3%、
As0〜1%、
ただし、
SiO+P57〜78%、
質量比でP/SiO0.02〜0.15
の範囲の各成分を含有することを特徴とする構成7から11のいずれかに記載の光拡散部材。
(構成13)該結晶化ガラスに含有されるMgO、ZnO、CaO、BaOの各成分の質量比(MgO+ZnO)/(MgO+ZnO+CaO+BaO)の値が1未満であることを特徴とする構成1から12のいずれかに記載の光拡散部材。
(構成14)該結晶化ガラスが、β−石英および/またはβ−石英固溶体を含有することを特徴とする構成1から13のいずれかに記載の光拡散部材。
(構成15)該結晶化ガラスが、NaO成分およびKO成分を実質的に含有しないことを特徴とする構成1から14のいずれかに記載の光拡散部材。
(構成16)該結晶化ガラスが、F成分を実質的に含有しないことを特徴とする構成1から15のいずれかに記載の光拡散部材。
(構成17)該結晶化ガラスが、ガラス原料を溶融、成形、徐冷後、結晶化処理条件として核形成温度が650〜750℃で0.1〜200時間、結晶化温度が750℃〜800℃で0.1〜50時間熱処理することにより得られることを特徴とする構成1から16のいずれかに記載の光拡散部材。
(構成18)厚さが1.0mmの時のC光に対するヘイズ値が0.1%以上であることを特徴とする構成1から17に記載の光拡散部材。
(構成19)ガラス原料を溶融する工程と、溶融したガラスを成形する工程と、成形したガラスを徐冷する工程と、徐冷後650〜750℃で0.1〜200時間第1の熱処理をする工程と、第1の熱処理後750℃〜800℃で0.1〜50時間第2の熱処理をする工程を含むことを特徴とする光拡散部材の製造方法。
【0011】
本発明の光拡散部材の構成について説明する。
【0012】
本発明の光拡散部材はガラス相中に析出した結晶が主要な光散乱の因子となって光拡散性能を実現している。光散乱の為には結晶がある程度の大きさを持つことが必要であるが、本発明の光拡散部材においては、原ガラスの組成から析出する結晶の粒径をある範囲より大きくしようとすると、相反して光拡散部材の平均線膨張係数が大きくなってしまう傾向がある。従って、光拡散性と低膨張性のバランスを考慮して、ガラス相中に析出した結晶の平均結晶粒子径は100nm以下であることが好ましく、95nm以下であることがより好ましく、90nm以下であることが最も好ましい。また良好な光拡散性を有するためには5nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましく、20以上であることが最も好ましい。
【0013】
本発明の光拡散部材の平均膨張係数は、温度変化に対する寸法安定性のために、また温度変化による光拡散性の変化を少なくするために、0〜50℃の温度範囲で30×10−7/℃以下であることが好ましく、15×10−7/℃未満であることがより好ましく、5×10−7/℃未満であることが最も好ましい。また、同様の理由から平均線膨張係数の下限は0〜50℃の温度範囲で−5×10−7/℃であることが好ましく、−3×10−7/℃であることがより好ましく、−1×10−7/℃であることが最も好ましい。
【0014】
さらに、本発明の光拡散部材はガラス相に結晶を析出させたものであるので、樹脂組成物からなる光拡散部材の様な線膨張係数の異方性は存在しないか、もしくは無視できる程に微小である。
【0015】
本発明の光拡散部材に用いられる結晶化ガラスは、結晶相としてβ−石英(β−SiO)、および/またはβ−石英固溶体(β−SiO固溶体)を含有している。これらの結晶を含有する事により、本発明の結晶化ガラスが所望の光拡散性を実現するための平均結晶粒子径となりやすく、また所望の平均線膨張係数を実現しやすくなる。
本発明においてβ−石英固溶体は、β−ユークリプタイト(β−LiO・Al・2SiO)及び/または、それにMgO、ZnO等が侵入したβ−ユークリプタイト固溶体を含みうる概念である。
【0016】
β−石英および/またはβ−石英固溶体は負の膨張係数を有する結晶であり、これらと他の結晶相、ガラス相によって結晶化ガラス全体として所望の平均膨張係数を実現している。
【0017】
本発明の光拡散部材に用いられる結晶化ガラスの結晶部分にはβ−スポジュウメンおよび/またはβ−スポジュウメン固溶体も含有される場合があるが、全結晶部分におけるβ−スポジュウメンおよび/またはβ−スポジュウメン固溶体の割合は80容積%未満である。β−スポジュウメンおよび/またはβ−スポジュウメン固溶体の割合が多くなると線膨張係数が大きくなるため、全結晶部分におけるβ−スポジュウメンおよび/またはβ−スポジュウメン固溶体の割合はより好ましくは70容積%以下であり、最も好ましくは50容積%以下である。
【0018】
本発明の光拡散部材に用いられる結晶化ガラスが含有する各成分について説明する。以下各成分の含有量については特に断らない限りは質量%で表わしたものである。
【0019】
SiO2成分は、原ガラスの熱処理により、本発明の所望の結晶を析出させる極めて重要な成分であるが、その量が50%未満の場合には得られる結晶が不安定で過度に粗大化した結晶が局所的に表れるなどして光拡散性が悪化するため50%以上が好ましく、51%以上がより好ましく、52%以上が最も好ましい。
また62%を超えると原ガラスの溶融清澄が困難となり、製品の光学的均質性が悪化するため62%以下が好ましく、61%以下がより好ましく、60%以下が最も好ましい。
ここで本明細書でいう光拡散性とはヘイズ値(拡散透過率÷全光線透過率×100)、拡散光の均一性(拡散光にムラが無いか)等、光拡散部材として総合的に評価される特性のことを言う。
【0020】
Al23成分は、原ガラスの熱処理により、本発明の所望の結晶を析出させる極めて重要な成分であるが、その量が22%未満では原ガラスの溶融が困難となるため、22%以上が好ましく、22.5%以上がより好ましく、23%以上が最も好ましい。
また、26%を超えるとやはり原ガラスの溶融性が困難となり、均質な製品を得難くなるため26%以下が好ましく、25.5%以下がより好ましく、25%以下が最も好ましい。
【0021】
Li2O成分は、原ガラスの熱処理により、本発明の所望の結晶を析出させる極めて重要な成分であるが、その量が3%未満の場合には、原ガラスの溶融性の悪化にともない製品の均質性が劣化してしまうため3%以上が好ましく、3.2%以上がより好ましく、3.4%以上が最も好ましい。
また5%を超えると過度に粗大化した結晶が局所的に表れるなどして光拡散性が悪化するため5%以下が好ましく、4.8%以下が好ましく、4.6%以下が最も好ましい。
【0022】
25成分は、SiO2成分と共存させることにより、原ガラスの溶融・清澄性を向上させる効果を有するが、その量が5%未満では上記効果が得られないため、5%以上が好ましく、5.5%以上がより好ましく、6%以上が最も好ましい。
また、10%を超えると、原ガラスの耐失透性が低下し、これが原因となって結晶化後の結晶化ガラスの光拡散性が良好でなくなってしまう為、10%以下が好ましく、9.5%以下がより好ましく、9.0%以上が最も好ましい。
【0023】
更に上記の効果を著しく向上させるには、SiO+P=55〜70%であり、P成分とSiO成分の質量比の値P/SiOが0.08〜0.2であることが好ましく、SiO+P=58〜69%、P/SiOが0.1〜0.18であることがより好ましい。
【0024】
TiO2成分およびZrO2成分は、いずれも核形成剤として含有させることが好ましい。これらの成分の個々の量について、1%以上であると所望の結晶を生成させやすくなり好ましく、1.2%以上であるとより好ましく、1.4%以上であると最も好ましい。またそれぞれ4%以下であると原ガラスの耐失透性が良好となるので好ましく、3.5%以下であるとより好ましく、3%以下であると最も好ましい。
【0025】
MgO成分、ZnO成分は、β−石英固溶体、β−スポジュウメン固溶体の構成要素となることがわかっており、広い温度範囲において相対長さの変化量を小さくできるという低膨張特性を実現できるため、含有させることが好ましい。
MgO成分は0.6%未満の場合には上記効果が得られず、ガラスの溶融性悪化に伴い製品の均質性が劣化するため、0.6%以上が好ましく、0.7%以上であるとより好ましく、0.8%以上であると最も好ましい。また、2%を超えると上記効果が得られず、所望の結晶相が析出し難くなるため、2%以下であることが好ましく、1.4%以下であることがより好ましく、1.3%以下であることが最も好ましい。
ZnO成分は0.1%未満の場合には上記効果が得られず、ガラスの溶融性悪化に伴い製品の均質性が劣化するため、0.1%以上が好ましく、0.2%以上であるとより好ましく、0.5%以上であると最も好ましい。
また、2%を超えると上記効果が得られず、ガラスの耐失透性が悪化し、所望の結晶相が析出し難くなるため、2%以下であることが好ましく、1.5%以下であることがより好ましく、1.2%以下であることが最も好ましい。
【0026】
CaO成分、BaO成分は結晶化ガラス中のガラスマトリックスとして残存する成分であり、結晶相とガラスマトリックス相の割合を微調整する成分として含有させることが好ましい。
CaO成分は0.3未満では上記の調整効果が得られ難いため、0.3%以上であることが好ましく、0.4%以上であるとより好ましく、0.5%以上であると最も好ましい。また4%を超えるとガラスの耐失透性が悪化するため4%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましく、2.5%以下であることが最も好ましい。
BaO成分は0.5%未満ではやはり上記の調整効果が得られ難いため、0.5%以上であることが好ましく、0.6%以上であるとより好ましく、0.7%以上であると最も好ましい。また4%を超えるとガラスの耐失透性および溶融性が悪化するため4%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましく、2.5%以下であることが最も好ましい。
【0027】
As成分および/またはSb成分は、均質な製品を得るため原ガラス溶融の際の清澄剤として添加し得るが、これらの各成分の合量で、またはどちらか1成分単独で2%以下で充分である。
【0028】
本発明の光拡散部材に用いられる結晶化ガラスが含有する各成分の好ましい範囲についてmol%で表わすと以下の範囲となる。各々の成分範囲の臨界的意義については質量%で表わした上述の説明と同様である。
【0029】
SiO2成分は、55mol%以上が好ましく、56mol%以上がより好ましく、57mol%以上が最も好ましい。
また70mol%以下が好ましく、69mol%以下がより好ましく、68mol%以下が最も好ましい。
【0030】
Al23成分は、10mol%以上が好ましく、11mol%以上がより好ましく、12mol%以上が最も好ましい。
また、25mol%以下が好ましく、24mol%以下がより好ましく、23mol%以下が最も好ましい。
【0031】
Li2O成分は、5mol%以上が好ましく、6mol%以上がより好ましく、7mol%以上が最も好ましい。
また15mol%以下が好ましく、14.5mol%以下が好ましく、14mol%以下が最も好ましい。
【0032】
25成分は、2mol%以上が好ましく、2.1mol%以上がより好ましく、2.2mol%以上が最も好ましい。
また、8mol%以下が好ましく、7mol%以下がより好ましく、6.5mol%以上が最も好ましい。
【0033】
更にSiO+P=57〜78mol%であり、P成分とSiO成分のモル数の比の値P/SiOが0.02〜0.15であることが好ましく、SiO+P=59〜75mol%、P/SiOが0.03〜0.14であることがより好ましい。
【0034】
TiO2成分は、1mol%以上であると好ましく、1.2mol%以上であるとより好ましく、1.4mol%以上であると最も好ましい。
また4mol%以下であると好ましく、3.8mol%以下であるとより好ましく、3.5mol%以下であると最も好ましい。
ZrO2成分は、0.5mol%以上であると好ましく、0.6mol%以上であるとより好ましく、0.7mol%以上であると最も好ましい。
また3mol%以下であると好ましく、2.8mol%以下であるとより好ましく、2.5mol%以下であると最も好ましい。
【0035】
MgO成分は0.5mol%以上が好ましく、0.6mol%以上であるとより好ましく、0.7mol%以上であると最も好ましい。
また、5mol%以下であることが好ましく、4.5mol%以下であることがより好ましく、4mol%以下であることが最も好ましい。
ZnO成分は0.05mol%以上が好ましく、0.2mol%以上であるとより好ましく、0.3mol%以上であると最も好ましい。
また、2mol%以下であることが好ましく、1.8mol%以下であることがより好ましく、1.6mol%以下であることが最も好ましい。
【0036】
CaO成分は0.3mol%以上であることが好ましく、0.4mol%以上であるとより好ましく、0.5mol%以上であると最も好ましい。
また7mol%以下であることが好ましく、3.5mol%以下であることがより好ましく、3.0mol%以下であることが最も好ましい。
BaO成分は0.3mol%以上であることが好ましく、0.35mol%以上であるとより好ましく、0.4mol%以上であると最も好ましい。
また4mol%以下であることが好ましく、3.5mol%以下であることがより好ましく、3mol%以下であることが最も好ましい。
【0037】
As成分および/またはSb成分は、これらの各成分の合量で、またはどちらか1成分単独で1mol%以下で充分である。
【0038】
ここで、本発明の光拡散部材に用いられる結晶化ガラスに含有されるMgO、ZnO、CaO、BaOの各成分の質量比(MgO+ZnO)/(MgO+ZnO+CaO+BaO)の値が1未満であると結晶化前の原ガラスのガラス安定性が高くなり、それによる結晶化時の結晶組成バランスが良好となり、低膨張性を実現することができる。またアルカリ金属酸化物を導入せず、上記成分を質量比(MgO+ZnO)/(MgO+ZnO+CaO+BaO)の値が1未満で導入することにより、良好な耐久性、耐候性を実現することができる。
上記効果をより得やすくする為には(MgO+ZnO)/(MgO+ZnO+CaO+BaO)の値は0.9以下がより好ましく、0.8以下が最も好ましい。
【0039】
LiO以外のアルカリ金属酸化物成分、特にNaO成分およびKO成分が結晶化ガラス中に含有されると、これらの成分は結晶を構成せず、ガラスマトリックス中に残存するため移動が容易であり、時間の経過に伴ってこれらのアルカリ成分が拡散、溶出する。これらの溶出したアルカリ成分は例えば結晶化ガラス部材を基板として成膜を施した場合に、膜を汚染する原因となる。
本発明の光拡散部材に用いられる結晶化ガラスはこれら成分を含有しなくとも、安定した組成となっているため、LiO以外のアルカリ金属酸化物を実質的に含有せず、特にNaO成分およびKO成分を実質的に含有しない。
【0040】
また、F成分はガラス溶融時に揮発し大気を汚染する恐れがあり好ましくない為、本発明の光拡散部材に用いられる結晶化ガラスはF成分を実質的に含有しない。
ここで、実質的に含有しないとは、人為的に含有させないことを意味しており、不純物としてごく微量含有される場合も含まれる。
【0041】
本発明の光拡散部材に用いられる結晶化ガラスに、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cuの各成分が含まれると着色してしまう為、着色を避けたい場合はこれらの成分は含まないことが好ましい。
【0042】
次に本発明の光拡散部材に用いられる結晶化ガラスの製造方法について説明する。
まず出発原料として炭酸塩、酸化物などの原料を酸化物基準で上述の組成となるように調合、混合し、白金製の坩堝に投入した後、1300℃〜1700℃の温度で溶融する。次に得られた溶融ガラスを成形し徐冷する。徐冷後核形成のため650〜750℃で0.1〜200時間好ましくは10〜200時間第1の熱処理を行う。第1の熱処理後、核成長のため750℃〜800℃で0.1〜50時間好ましくは10〜50時間第2の熱処理をする。第2の熱処理の温度は750℃〜790℃がより好ましく、750℃〜780℃が最も好ましい。
【0043】
本発明の光拡散部材はガラス相中に含まれる結晶により高い剛性を実現することが可能であり、ヤング率は70GPa〜160GPaの範囲とすることができる。
高い寸法安定性のためには60GPa以上とすることが好ましく、70GPa以上とすることがより好ましく、80GPa以上とすることが最も好ましい。
【0044】
本発明の光拡散部材は、その表面がフレネルレンズ形状やシリンドリカルレンズ形状等の表面形状を有するものであってもよく、またかかる形状を別途他の材料によって積層した積層板とすることも可能である。本発明の光拡散部材は、直接フレネルレンズ形状やシリンドリカルレンズ形状を付与する場合、これらの形状の金型に溶融ガラスをキャストして成型することができる。
【発明の効果】
【0045】
本発明の光拡散部材はガラス相中に均一に分散した結晶によって、拡散光の均一性が高く、すぐれた光拡散性を有する。
また、本発明によって低膨張特性と高い剛性を有し寸法安定性に優れた光拡散部材、およびその製造方法を提供することができる。
さらに、
本発明の光拡散部材は高い耐熱性を有する。本発明の光拡散部材が軟化せず、室温状態とほぼ同等の形状、強度等を保つ温度の上限はおおよそ400℃〜1000℃の間となる。
【0046】
本発明の光拡散部材のヘイズ値は、良好な拡散性を得る為に、厚さが1mmの時のC光に対して、0.1%以上であることが好ましく、1%以上であることがより好ましく、5%以上であることが最も好ましい。
【0047】
ここでヘイズ値とは、上述の通り、拡散透過率÷全光線透過率×100を意味するが、本発明で表されるヘイズ値とは以下の方法により測定されたものを言う。
すなわち、具体的には、20×20×1.0mmの板状の試料を用意し、その両面を光学研磨する。光学研磨が良好になされているかどうかは、研磨面に砂目が観察されないことにより容易に確認することができる。研磨された試料を洗浄した後、ヘイズメーター(「HGM−2DP」スガ試験機株式会社製)を用いて測定する。
【0048】
なお、C光とは、国際照明委員会(CIE)が規定した標準光Cである。これは色温度が6740°Kであり、一定の規定で点灯したガス入りタングステン電球に規定のフィルターをかけることにより得られる。この光の性質は青空の光を含む昼光に相当する。
【0049】
また、本発明に光拡散部材は、表面に成膜を施したり、他の部材を組み合わせたりすることも可能である。前記成膜は蒸着(物理蒸着、化学蒸着等)、メッキ(電気メッキ、無電解メッキ、溶融メッキ等)、塗装、コーティング、印刷等の手段で表層上に新たな層を形成させることを言う。表面に金属層又は金属酸化物層を積層する方法としては、例えば、物理蒸着法、化学蒸着法、溶射法及びメッキ法が挙げられる。物理蒸着法としては、真空蒸着法、スパッタリング及びイオンプレーティングなどが適用でき、化学蒸着(CVD)法としては、熱CVD法、プラズマCVD法及び光CVD法等が適用できる。また、溶射法としては、大気圧プラズマ溶射法及び減圧プラズマ溶射法等が適用できる。メッキ法としては、無電解メッキ(化学メッキ)法、溶融メッキ及び電気メッキ法等が挙げられ、電気メッキ法においてはレーザーメッキ法を用いることができる。上述の様に本発明の光拡散部材に用いる結晶化ガラスはアルカリ溶出による汚染が皆無または極めて少ないため、このような成膜を施すにあたっても好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
本発明の好適な態様について説明する。なお、本発明はこれらの態様に限定されるものではない。
【実施例】
【0051】
本発明の実施例を表1に表わす。
表1の組成のガラス原料を1300〜1600℃で溶融し、100角の大きさに成形、徐冷した後650〜750℃で10〜200時間核形成、750〜800℃で10〜50時間結晶化した後、研削、研磨して板状体の光拡散部材を得た。個々の実施例の結晶化条件の詳細については表1に示す。
得られた光拡散部材の主結晶相、0℃〜50℃および20℃〜700℃における平均線膨張係数、主結晶相の平均結晶粒子径、厚さが1mmの時のC光に対するヘイズ値をそれぞれ表1に記載した。

















【0052】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の光拡散部材は表示装置の光拡散板、各種測定装置の光拡散板、電灯カバー、メーター、看板、画像読取装置、車輌用屋根材、船舶用屋根材、住宅用屋根材及び太陽電池カバー等に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
SiO50〜62%、
Al22〜26%、
LiO 3〜5%、
の各成分を含有し、結晶相の平均結晶粒子径が100nm以下であり、平均線膨張係数が0〜50℃の温度範囲で−5×10−7/℃〜+30×10−7/℃の範囲内である結晶化ガラスを用いることを特徴とする光拡散部材。
【請求項2】
該結晶化ガラスが質量%で、P成分を5〜10%含有し、SiO+P=55〜70%であり、P成分とSiO成分の質量比の値P/SiOが0.08〜0.20であることを特徴とする請求項1に記載の光拡散部材。
【請求項3】
該結晶化ガラスが質量%で、
TiO1〜4%、および/または
ZrO1〜4%、
の各成分を含有することを特徴とする請求項1また2に記載の光拡散部材。
【請求項4】
該結晶化ガラスが質量%で、
MgO 0.6〜2%、および/または
ZnO 0.1〜2%、および/または
CaO 0.3〜4%、および/または
BaO 0.5〜4%、
の各成分を含有することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の結晶化ガラスを用いた光拡散部材。
【請求項5】
該結晶化ガラスが質量%で、As成分を0〜2%含むことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の光拡散部材。
【請求項6】
該結晶化ガラスが質量%で、
SiO50〜62%、
5〜10%、
Al22〜26%、
LiO 3〜5%、
MgO 0.6〜2%、
ZnO 0.1〜2%、
CaO 0.3〜4%、
BaO 0.5〜4%、
TiO1〜4%、
ZrO1〜4%、
As0〜2%、
ただし、
SiO+P55〜70%、
質量比でP/SiO0.08〜0.20、
の範囲の各成分を含有することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の光拡散部材。
【請求項7】
モル%で、
SiO55〜70%、
Al10〜25%、
LiO 5〜15%、
の各成分を含有し、結晶相の平均結晶粒子径が100nm以下であり、平均線膨張係数が0〜50℃の温度範囲で−5×10−7/℃〜+30×10−7/℃の範囲内である結晶化ガラスを用いることを特徴とする光拡散部材。
【請求項8】
該結晶化ガラスがモル%で、P成分を2〜8%含有し、SiO+P=57〜78%であり、P成分とSiO成分の質量比の値P/SiOが0.02〜0.15であることを特徴とする請求項7に記載の光拡散部材。
【請求項9】
該結晶化ガラスがモル%で、
TiO1〜4%、および/または
ZrO0.5〜3%、
の各成分を含有することを特徴とする請求項7または8に記載の光拡散部材。
【請求項10】
該結晶化ガラスが、モル%で、
MgO 0.5〜5%、および/または
ZnO 0.05〜2%、および/または
CaO 0.3〜7%、および/または
BaO 0.3〜4%、
の各成分を含有することを特徴とする請求項7から9のいずれかに記載の光拡散部材。
【請求項11】
該結晶化ガラスが、モル%で、As成分を0〜1%含むことを特徴とする請求項7から10に記載の光拡散部材。
【請求項12】
該結晶化ガラスが、モル%で、
SiO55〜70%、
2〜8%、
Al10〜25%、
LiO 5〜15%、
MgO 0.5〜5%、
ZnO 0.05〜2%、
CaO 0.3〜7%、
BaO 0.3〜4%、
TiO1〜4%、
ZrO0.5〜3%、
As0〜1%、
ただし、
SiO+P57〜78%、
質量比でP/SiO0.02〜0.15
の範囲の各成分を含有することを特徴とする請求項7から11のいずれかに記載の光拡散部材。
【請求項13】
該結晶化ガラスに含有されるMgO、ZnO、CaO、BaOの各成分の質量比(MgO+ZnO)/(MgO+ZnO+CaO+BaO)の値が1未満であることを特徴とする請求項1から12のいずれかに記載の光拡散部材。
【請求項14】
該結晶化ガラスが、β−石英および/またはβ−石英固溶体を含有することを特徴とする請求項1から13のいずれかに記載の光拡散部材。
【請求項15】
該結晶化ガラスが、NaO成分およびKO成分を実質的に含有しないことを特徴とする請求項1から14のいずれかに記載の光拡散部材。
【請求項16】
該結晶化ガラスが、F成分を実質的に含有しないことを特徴とする請求項1から15のいずれかに記載の光拡散部材。
【請求項17】
該結晶化ガラスが、ガラス原料を溶融、成形、徐冷後、結晶化処理条件として核形成温度が650〜750℃で0.1〜200時間、結晶化温度が750℃〜800℃で0.1〜50時間熱処理することにより得られることを特徴とする請求項1から16のいずれかに記載の光拡散部材。
【請求項18】
厚さが1.0mmの時のC光に対するヘイズ値が0.1%以上であることを特徴とする請求項1から17に記載の光拡散部材。
【請求項19】
ガラス原料を溶融する工程と、溶融したガラスを成形する工程と、成形したガラスを徐冷する工程と、徐冷後650〜750℃で0.1〜200時間第1の熱処理をする工程と、第1の熱処理後750℃〜800℃で0.1〜50時間第2の熱処理をする工程を含むことを特徴とする光拡散部材の製造方法。

【公開番号】特開2006−206412(P2006−206412A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−23764(P2005−23764)
【出願日】平成17年1月31日(2005.1.31)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】