説明

光断層画像撮像方法および光断層画像撮像装置

【課題】OCT装置により撮像される断層画像から被検眼の曲率を正確に計測する。
【解決手段】本発明は、測定光を被検眼に照射して得られる戻り光と参照光とを合波して得られる合波光より断層画像を得る画像撮像方法に関し、被検眼と対物レンズとの距離を計測する第1の工程、被検眼の断層画像を取得する第2の工程、断層画像における曲率を計算する領域を設定する第3の工程、及び計測した距離を用いて設定した領域の曲率を計算する第4の工程、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光断層画像撮像方法及び光断層画像撮像装置に関し、特に、眼科診療等に用いられる光断層画像撮像方法及び光断層画像撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、光学機器を用いた眼科用機器として、様々なものが使用されている。例えば、前眼部撮影機、眼底カメラ、共焦点レーザー走査検眼鏡(SLO:Scanning Laser Ophthalmoscope)等である。中でも、低コヒーレンス光を利用した光コヒーレンストモグラフィ(OCT:Optical Coherence Tomography)による光断層画像撮像装置は、被検眼の断層画像を高解像度に得ることができる装置であり、眼科用機器として網膜の専門外来では必要不可欠な装置になりつつある。以下、これをOCT装置と記す。
【0003】
特許文献1の眼底観察装置は、眼底カメラユニット、OCTユニット、演算制御装置を含んで構成されている。眼底カメラユニットは眼底の2次元画像を取得し、OCTユニットは眼底の断層画像を取得する。さらに、眼底の特徴部位を特定し、測定光の照射位置を変更して測定することができる。そして、眼底の断層画像や3次元画像を形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−279031
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これまでOCT装置では断層画像や3次元画像を取得してきた。その中で、網膜の曲率など眼の形状を定量的に計測したいという要望が出ている。しかし、一般的なOCT装置の断層画像は空間的な形状を正しく表示していないため、断層画像から曲率を計測することに適していない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る光断層画像撮像方法は、被検眼と対物レンズとの距離を調整し、測定光を被検眼に照射することで得られる被検眼からの戻り光と参照光との合波光により、被検眼の断層画像を取得する光断層画像撮像方法であって、被検眼と対物レンズとの距離を計測する第1の工程と、被検眼の断層画像を取得する第2の工程と、断層画像における曲率を計算する領域を設定する第3の工程と、計測した距離を用いて、設定した領域の曲率を計算する第4の工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、網膜の曲率など眼の形状を定量的に計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】OCT装置を説明する図
【図2】ワーキングディスタンスと走査半径を説明する図
【図3】ワーキングディスタンスと回転中心−網膜距離の関係を示す図
【図4】ワーキングディスタンスの変化による断層画像と2次元像の変化を示す図
【図5】ワーキングディスタンスの変化による前眼部観察の変化を示す図
【図6】実施例1における信号処理の手順を示す図
【図7】座標変換を説明する図
【図8】実施例2における曲率の計算を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施例について、図面を用いて詳細に説明する。
【0010】
[実施例1]
図1は、実施例1における光断層画像撮像装置の構成を示す図である。
【0011】
(光学系)
光断層画像撮像装置は、マイケルソン干渉系で構成されている。光源101の出射光102はシングルモードファイバ107に導かれて光カプラ108に入射し、光カプラ108にて参照光103と測定光104とに分割される。そして測定光104は、観察対象の網膜125の測定個所によって反射あるいは散乱され、戻り光105となって光カプラ108に戻る。そして光カプラ108によって、参照光路を経由してきた参照光103と合波され合波光106となり、分光器119に到達する。
【0012】
光源101は代表的な低コヒーレント光源であるSLD光源(Super Luminescent Diode)である。波長は眼を測定することを鑑みると、近赤外光が適する。さらに波長は、得られる断層画像の横方向の分解能に影響するため、なるべく短波長であることが望ましく、ここでは中心波長840nm、波長幅50nmとする。当然観察対象の測定部位によっては、他の波長を選んでも良い。なお光源の種類は、ここではSLD光源を選択したが、低コヒーレント光が出射できればよく、ASE光源(Amplified Spontaneous Emission)等も用いることができる。
【0013】
次に、参照光103の参照光路について説明する。光カプラ108によって分割された参照光103は、レンズ109−1にて略平行光となって出射される。その後参照光103は分散補償用ガラス110を通過してミラー111にて方向を変える。そして再び光カプラ108を介して分光器119に導かれる。なお、分散補償用ガラス110は、被検眼124および走査光学系を測定光104が往復した時の分散を、参照光103に対して補償するものである。ここでは、その長さは、日本人の平均的な眼球の直径として代表的な値を想定し24mmとする。参照光の光路長は電動ステージ112で矢印の方向に移動することによってコヒーレンスゲートの位置を調整することができる。コヒーレンスゲートとは、測定光の光路上において、参照光の光路の長さと等距離になる位置のことである。電動ステージ112の制御はコンピュータ120によって行われる。
【0014】
次に、測定光104の測定光路について説明する。光カプラ108によって分割された測定光104は、レンズ109−2にて、略平行光となって出射され、走査光学系を構成するXYスキャナ113のミラーに入射される。図1においてXYスキャナ113は一つのミラーとしているが、実際にはXスキャン用ミラーとYスキャン用ミラーとの2枚のミラーが近接して配置されている。測定光はレンズ114、ダイクロイックミラー115、対物レンズ128を介して被検眼124に到達する。
【0015】
ここで、前眼部すなわち角膜122の観察について説明する。前眼部の観察のための証明光は対物レンズの外側のリング状の光源(不図示)が使われる。この照明光が角膜122で反射し、その反射光が対物レンズ128を再度通過し、ダイクロイックミラー115で反射され、スプリットプリズム116、光学系117を介し、観察システム118に到達する。なお、スプリットプリズム116は、角膜122と共役の位置に配置されている。
【0016】
また、対物レンズ128は被検眼124に向かい合って配置され、被検眼124に測定光を導く際にその形状を整形する。
【0017】
(ワーキングディスタンス)
次にワーキングディスタンスについて説明する。ここでは、ワーキングディスタンス126を角膜122表面と対物レンズ128表面との長さとする。この長さは、本発明における被検眼と対物レンズとの距離に対応する。まず、一般的なOCT装置の光学系は、被検眼124の瞳孔129が、測定光104の走査の回転中心となるように設計されている。そのためワーキングディスタンスを設計値になるように、対物レンズ128と被検眼124の距離を調整してOCT測定を行うことが望ましい。ただし、OCT装置は光学系のNAが小さいため焦点深度が深く、その結果、ワーキングディスタンスが設計値からはずれても問題なく撮像できる。なお、設計値から大きくはずれると光彩127によって光がブロックされたり、焦点がぼけたりすることになる。
【0018】
ここで図2の眼の模式図を用いてワーキングディスタンスと測定光の走査の回転中心202およびコヒーレンスゲートの軌跡205の関係について説明する。これらにおいて横軸がファストスキャンのx軸、縦軸が深さ方向のz軸とする。そして回転中心の原点を設計値である瞳孔の位置とする。なおこの図において回転中心202は、網膜201に入射する光線をそのまま延長したものが結んだ点であって、角膜や水晶体123で屈折した光が結ぶ点ではない。
【0019】
測定光の走査の回転中心202はワーキングディスタンス126の変化に伴って移動する。さらに測定光104を走査するときの走査半径204、走査角206もワーキングディスタンス126の変化に伴って変わる。また、xyスキャナ113は2枚のミラーからなることが多い。例えばy軸の回転中心は例えば1mm対物レンズ側にあるとする。このような場合、3D測定によるy軸方向の移動は別途補正をする必要がある。ここではx軸とy軸の回転中心が同じとして話を進める。
【0020】
図2(a)は、ワーキングディスタンス126が設計値より短いため、回転中心202が瞳孔129に対して網膜201の方にある場合である。当然回転中心202と網膜201の距離は設計値より短くなる。なお、OCT測定において、コヒーレンスゲートは網膜201を観察できるように硝子体側に配置する。コヒーレンスゲートの軌跡205の位置はリファレンスミラー111によって変えることができる。図2(b)は、ワーキングディスタンス126が設計値とほぼ一致する時である。回転中心202と網膜201の距離は設計値である。図2(c)は、ワーキングディスタンス126が設計値より長く、回転中心202が瞳孔129に対して対物レンズ128側にある場合である。
【0021】
これら図2(a)〜(c)のように走査半径204が長くなるほどその軌跡は平坦になる。つまりOCT装置では網膜201とコヒーレンスゲートの軌跡205の差が像となって表示される。そのため、走査半径204が長くなるほど見かけ上の湾曲が大きくなる。ただし、ワーキングディスタンス126が変化しても、光軸に対して同じ角度で入射する光同士は眼球の同じところに結像するという特性があるため、走査範囲207は大きく変わらない。
【0022】
ここでさらに、ワーキングディスタンス126の距離変化と回転中心202の位置の関係について説明する。なお、ワーキングディスタンス126の設計値からの差210を空間距離で変数gとして表す。原点を瞳孔129にしているので、変数gの値はz軸の値である。そして回転中心202から網膜201までの空間距離は、変数gを用いてf(g)と表す。またコヒーレンスゲートは標準的な眼の網膜位置を基準とし、具体的には瞳孔から24mmの位置となる。その基準からz軸上の差203を空間距離で変数sとして表す。これらを用いて走査半径204L(g)は数式1のように表わされる。
【数1】

【0023】
コヒーレンスゲートの移動は、リファレンスミラー111の移動量ΔMに換算すると被検眼の屈折率nを用いて数式2のように表わされる。
【数2】

【0024】
ところで、回転中心202から網膜201までの空間距離f(g)の変化は、ワーキングディスタンス126の変化に比例していない。その理由は角膜122や水晶体123で屈折するためである。図3に回転中心202から網膜201までの空間距離f(g)のシミュレーション結果を示す。横軸はワーキングディスタンス126の設計値からの変化gである。縦軸は回転中心202から網膜201までの空間距離である。ワーキングディスタンス126がマイナス側の時は、ワーキングディスタンス126の変化量より回転中心の移動が小さいことがわかる。逆にプラス側の時は、ワーキングディスタンス126の変化量より回転中心の移動が大きいことがわかる。このシミュレーションは眼軸長が24mmのモデルを使ったが、眼軸長が変わる場合はf(g)も当然変わる。この場合、それぞれの眼軸長のモデルに対してシミュレーションが必要となる。またx軸とy軸で回転中心が異なる場合はさらにシミュレーションが必要になる。
【0025】
ここで、OCT装置によって模型眼を撮像した例について図4を用いて説明する。この模型眼は、網膜に相当する部分に放射状および円の模様が配置されている。網膜に相当する部分とはガラスの表面である。これらの撮像は、ワーキングディスタンス126を変化させ、断層画像において模型眼の網膜位置の頂点がコヒーレンスゲートから等距離になるように調整して測定した。図4(a)はワーキングディスタンス126が設計値より4mm短い場合の断層画像、図4(b)はその2次元投影像、図4(c)はワーキングディスタンス126が設計値の場合の断層画像、図4(d)はその2次元投影像、図4(e)はワーキングディスタンス126が設計値より4mm長い場合の断層画像、図4(f)はその2次元投影像である。なお、各断層画像には、模型眼の網膜が異なる曲率の円弧として撮像されている。また、投影像の同心円及び放射線は、模型眼の網膜位置に記された同心円及び放射線が撮像されそれが投影されている。円と直線の交点404に着目して、その補助線405を対応する断層画像に引くと図4(a)では補助線の下側、図4(e)では上側に、網膜の像が移動していることがわかる。ただし、図4(b)、(d)、(f)のように測定範囲はほぼ変化がない。
【0026】
次に、ワーキングディスタンスの計測について図5を用いて説明する。図5は前眼部の観察システム118による角膜の像であり、瞳孔501、光彩502が観察されている状況である。瞳孔501の像はビームスプリットプリズムでx軸を境にy方向の正の領域と負の領域がそれぞれ分離されて観察システム118に結像するように設計されている。図5(a)はワーキングディスタンス126が設計値より短い場合、図5(b)はワーキングディスタンス126が設計値とほぼ一致する場合、図5(c)はワーキングディスタンス126が設計値より長い場合である。ワーキングディスタンス126が設計値とほぼ一致する場合には、瞳孔501は分離されていない像となる。一方ワーキングディスタンス126が設計値より短い場合には瞳孔の上の像は右側、長い場合には瞳孔の上の像は左側に移動する。この上下の瞳孔501の像の差503を計測することによってワーキングディスタンス126の長さを知ることができる。
【0027】
ワーキングディスタンス126は上述した本発明における被検眼と対物レンズとの距離に対応し、以上に述べたワーキングディスタンス126の長さを知る構成は、本発明における被検眼と対物レンズとの距離を計測する計測手段に対応する。また、当該構成は、本発明における被検眼と対物レンズとの距離を取得する取得手段にも対応する。
【0028】
ちなみに、ワーキングディスタンス126とミラー111の移動量を測定すれば、回転中心から網膜までの距離を知ることができる。すなわち、コヒーレンスゲートを設計値に配置し、網膜と一致すれば設計通り24mmの眼軸長であることがわかる。一致していなければコヒーレンスゲートを移動し、網膜と一致するところを探す。この移動量から真の眼軸長を知ることができる。なお、網膜は厚みがあるが、例えば硝子体と神経線維層の境を設計値と考える。
【0029】
(信号処理)
ここで、OCT測定の信号処理について図6を用いて説明する。
A1工程で、測定を開始する。この状態はOCT装置が起動されていて、被検眼が測定位置に配置されている。
【0030】
本発明の第1の工程に対応するA2工程で、ワーキングディスタンス(WD)126の調整と計測を行う。まずOCT装置と被検眼のアライメントは前眼部観察システム118によって角膜122を観察しながら行う。そしてワーキングディスタンス126は設計値に対して±5mm程度に入ることを目標に調整する。ただし、湾曲が大きい場合には、測定光が光彩でブロックされない範囲でさらに被検眼に近づけてもよい。当然ワーキングディスタンスの調整とともにコヒーレンスゲートおよびフォーカスの位置を調整する。なお、眼軸長は他の装置によって計測することができるが、必要であればこの段階でOCT装置を用いて計測をする。すなわち、ワーキングディスタンス126を測定した状態でコヒーレンスゲートを移動させ、硝子体と神経線維層の境界を探す。そしてその時のコヒーレンスゲートの位置を記憶する。コヒーレンスゲートの位置はエンコーダ(不図示)によって測定すればよい。なお、以上述べたように、OCT装置は、本発明における被検眼の断層画像を取得する画像取得手段に対応する。
【0031】
本発明の第2の工程に対応するA3工程で、OCT測定を行い、被検眼の断層画像を取得する。走査範囲207は例えば黄斑を撮像する6mm、黄斑と乳頭を撮像する10mmなどである。ここでは、6mmの範囲を撮像するものとして、x方向には512ライン、y方向には512ラインのデータを取得する。分光器119からはライン毎に一次元配列のデータ(1024画素)が取得され、コンピュータ120に順次送られる。そしてx方向の連続する512ライン分を、2次元配列のデータを単位として保存する。そのデータサイズは1024×512×12ビットである。これがy方向に512枚できることになる。
【0032】
測定した2次元配列のデータから、固定ノイズの除去、波長波数変換、フーリエ変換などを行って断層画像(B−Scan像)を得ることができる。この断層画像を確認し、所望の測定ができたと判断すれば、被検眼を測定位置から外す。
【0033】
A4工程で、曲率を計算するために断層画像から空間座標への座標変換を行う。その際に、曲率を求めたい領域、或いは部分の設定を予め行う。この設定を行う操作が本発明の第3の工程に対応する。これについて図7を用いて説明する。図7(a)は被検眼の断層画像で、サイズは500(深さ)×512(横)×12ビットであるとする。一般的な断層画像ではコヒーレンスゲート701が一直線になるように表示されている。しかし、コヒーレンスゲートの位置は、図2で示すように扇形の弧である。つまり断層画像を空間座標に変換すれば図7(b)のように扇面702に配置されなければならない。したがって、曲率を計算するにはこの座標変換が必要となる。まず断層画像におけるi行目、j列の点についての座標変換について考える。i,jは0〜511までの整数である。
【0034】
i行目の位置はコヒーレンスゲートから等距離の位置なので、円の公式で表現することができる。そのため曲線はピクセル分解能h、屈折率nを用いて次のように表わされる。なお、0行目704はコヒーレンスゲートの位置である。
【数3】

【0035】
スキャナはz軸に対して対称で、スキャン角を等間隔でz軸を対称にサンプリングするとしてj列目のラインが表わす直線の式はNを用いて数式4で表わされる。ここではNは512である。
【数4】

【0036】
なお、ワーキングディスタンス126の変化によって網膜201から見た走査半径204、走査角206は変化するが、走査範囲207(W)はほぼ変わらないので、網膜201から見た走査角θ(g)は数式5のような関係がある。
【数5】

走査範囲Wは例えば6mmである。f(g)はシミュレーションなどであらかじめ求めておくのでθ(g)を求めることができる。当然、シミュレーションによってθ(g)を求めてもよい。
【0037】
これらを用いて空間座標における位置は数式6,7のよう表わせる。
【数6】

【数7】

【0038】
次に、曲率を計算したい部分或いは領域を抽出し、それぞれを座標変換する。ここでは網膜色素上皮上の3点から曲率半径を求める。それぞれの点をA(x,z),A(x,z),A(x,z)とする。抽出する点は自動的に選択してもよいし、表示された断層画像上で操作者が指定することにより選択してもよい。当然、このような領域は、網膜の内の所定の領域であり、或いは、脈絡膜、網膜色素上皮層(RPE)IS/OS(内節と外節の接合面)、外境界膜(ELM)、外顆粒層(ONL)、外網状層(OPL),内顆粒層(INL)、内網状層(IPL)、神経細胞層(GCL)、神経線維層(NFL)など各層や層の境界であってもよい。この曲率を計算した領域、或いは部分の設定は、本発明の種々の構成を制御するコンピュータ120に対応する、計算する領域を設定する設定手段を介して実行される。
【0039】
A5工程で、曲率を計算する。これは点A、A、Aを通る円の半径を求めることに帰着する。この場合、辺Aと辺Aの垂直2等分線の交点が中心となる。辺Aの垂直2等分線は数式8のように表わされる。
【数8】

【0040】
また辺Aの垂直2等分線は数式9のように表わされる。
【数9】

【0041】
従って、円の中心(x,z)はこれらを解くことによって数式10と数式11で表わされる。
【数10】

【数11】

【0042】
この結果、曲率半径208(r)は点A、A、Aのいずれかと円の中心の距離であるから数式12のように求めることができる。
【数12】

【0043】
以上の数式を用いて計算された曲線は、断層画像に重ねて表示される。又このような曲線の計算を実行する操作は本発明の第4の工程に対応する。また、これら計算を事項するコンピュータ120は、本発明における計測したワーキングディスタンスを用いて設定した領域の曲率を計算する計算手段に対応する。なお、計算された曲率に基づいた曲線の断層画像に重ねた表示はコンピュータ120及び不図示の表示装置によって為され、これら構成は本発明における表示手段に対応する。
【0044】
なお、この式は3点を通る円を示すものであって、断層画像に重ね合わせて表示した場合にRPEとずれることがある。問題がある場合は、範囲を狭めるなどして再度3点を設定し計算をする。
【0045】
当然、いくつかの領域に区切って局所的な曲率を求めてもよい。さらに、3Dの断層画像からそれぞれの領域において曲率を求め2次元のマップにして、これを表示(マップ表示)してもよい。このマップ表示は、コンピュータ120及び不図示の表示装置によって為され、これら構成は本発明における、曲率をマップとして表示するマップ表示手段に対応する。また、求めた曲率と標準的な曲率を比較してもよい。
A6工程で終了する。所望のデータが得られたことを確認して終了する。
【0046】
以上説明のように本実施例によれば、ワーキングディスタンスとリファレンスミラーの移動量を測定することにより、眼の形状、特に網膜の曲率を正確に計測することができる。
【0047】
[実施例2]
以下、本発明の実施例2について、図面を用いて説明する。ここでは簡易的に曲率を求める方法について述べる。
【0048】
図8(a)は被検眼と測定系の空間距離を模式的に示したものである。ここでは曲率半径を計算したい領域は網膜色素上皮802とする。図8(b)はこの配置によって得られる被検眼の断層画像で、神経線維層の表面801と網膜色素上皮802を模式的に表わしたものである。点Aおよび点Bは網膜色素上皮802の深さが同じ点である。点Cは辺ABの垂直2等分線と線ABの交点、点Dは辺AB垂直2等分線と網膜色素上皮802の交点である。点Fはコヒーレンスゲートと辺ABの垂直2等分線の交点、点Gはコヒーレンスゲート上の点Bと回転中心をむすぶ直線の交点である。即ち、曲率の計算は、少なくとも断層画像で深さの同じ2点とその垂直2等分線上の1点で構成される三角形の底辺と高さ、及び参照光の光路長で決まるコヒーレンスゲート位置の情報を用いて行われる。図8(b)上で対応する点がA’のように示されている。ここで、BC=u、CD=v、BE=rとすると、数式13のような関係になる。
【数13】

【0049】
これを曲率半径rについて解くと数式14のようになる。
【数14】

【0050】
曲率半径rを求めるにはuとvを知る必要がある。uは辺B’C’と対応するのでそれを計測すれば良い。あらかじめ模型眼などによって校正しておけばピクセル数を数えれば容易にuを知ることができる。次にvであるが、図7(a)のように断層画像ではコヒーレンスゲートの位置が一直線になるため、z方向に補正が必要である。すなわちGをz軸に投影したときにFとの差が発生する。その補正量をdとすると、辺F’C’を光学距離p、B’がq列目であるとして、数式15の関係になる。
【数15】

【0051】
辺C’D’の光学距離をTとおくと数式16の関係が成り立つ。なお、Tは断層画像のピクセル分解能とピクセル数を掛け算したものである。
【数16】

これらの関係を用いることによって曲率半径rの近似値を求めることができる。
【0052】
なお、前述したように、測定光は異なる回転軸すなわち回転中心をそれぞれ有する2つのxスキャナ及びyスキャナによって網膜上を操作される。従って、これらスキャナの回転中心の位置の相違を考慮して、断層画像の補正を行う必要がある。本発明では、第4の工程において、このような回転中心の違いをワーキングディスタンスに反映させた断層画像を生成することとしても良い。これにより、実際のOCT装置において、より適正な断層画像を得ることが可能となる。
以上説明のように本実施例によれば、被検眼の曲率を簡易的に求めることができる。
【0053】
(その他の実施例)
また、本発明は、以下の処理を実行することによっても実現される。即ち、上述した実施形態の機能を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータ(またはCPUやMPU等)がプログラムを読み出して実行する処理である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検眼と対物レンズとの距離を調整し、測定光を前記被検眼に照射することで得られる前記被検眼からの戻り光と参照光との合波光により、前記被検眼の断層画像を取得する光断層画像撮像方法であって、
前記被検眼と前記対物レンズとの前記距離を計測する第1の工程と、
前記被検眼の断層画像を取得する第2の工程と、
前記断層画像における曲率を計算する領域を設定する第3の工程と、
計測した前記距離を用いて、設定した前記領域の曲率を計算する第4の工程と、
を有することを特徴とする光断層画像撮像方法。
【請求項2】
前記領域が脈絡膜、色素上皮層、内節と外節の接合面、外境界膜、外顆粒層、外網状層、内顆粒層、内網状層、神経細胞層、神経線維層の層、およびそれらの境界であることを特徴とする請求項1記載の光断層画像撮像方法。
【請求項3】
前記曲率を計算が、前記測定光の走査の回転中心から網膜までの距離、走査角、前記参照光の光路長により決まるコヒーレンスゲート位置、前記断層画像上の座標、断層画像の深さ方向のピクセル分解能を用いて行われることを特徴とする請求項1に記載の光断層画像撮像方法。
【請求項4】
前記測定光を走査するための異なる回転中心を各々有する2つのスキャナを更に有し、
前記第4の工程は、前記曲率を計算するときに、各々の前記スキャナの前記回転中心の位置の違いを補正する工程を更に有することを特徴とする請求項3に記載の光断層画像撮像方法
【請求項5】
前記曲率の計算方法が、少なくとも断層画像で深さの同じ2点とその垂直2等分線上の1点で構成される三角形の底辺と高さ、前記参照光の光路長で決まるコヒーレンスゲート位置の情報を用いて行うことを特徴とする請求項1に記載の光断層画像撮像方法。
【請求項6】
前記計算した曲線を断層画像に重ねて表示することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光断層画像撮像方法。
【請求項7】
前記曲率の計算が複数の領域において行われ、その曲率をマップで表示することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光断層画像撮像方法。
【請求項8】
対物レンズを介して測定光を照射した被検眼からの戻り光と、該測定光に対応する参照光とを合波した合波光に基づいて該被検眼の網膜の断層画像を取得する光断層画像撮像装置であって、
前記被検眼と前記対物レンズとの距離を取得する取得手段と、
前記距離に基づいて前記断層画像における網膜の曲率を計算する計算手段と、
を有することを特徴とする光断層画像撮像装置。
【請求項9】
前記断層画像から領域を設定する設定手段を有し、
前記計算手段が、前記距離に基づいて前記領域の曲率を計算することを特徴とする請求項8に記載の光断層画像撮像装置。
【請求項10】
前記領域は、前記網膜の所定の層であり、
前記断層画像から前記所定の層を検出することを特徴とする請求項9に記載の光断層画像撮像装置。
【請求項11】
計算した前記曲率に基づいた曲線を前記断層画像に重ねて表示する表示手段を更に有することを特徴とする請求項8乃至10のいずれか1項に記載の光断層画像撮像装置。
【請求項12】
前記曲率の計算が複数の領域において行われ、前記曲率をマップとして表示するマップ手段を更に有することを特徴とする請求項8乃至11のいずれか1項に記載の光断層画像撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−147977(P2012−147977A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−9347(P2011−9347)
【出願日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】