説明

光断層画像生成装置及び光断層画像生成方法

【課題】光干渉断層撮像装置において、簡便に画質を向上する。
【解決手段】本発明は、複数のフレームの信号を取得する第一の工程、前記複数のフレームの信号をフーリエ変換し、複素数のデータをそれぞれ得る第二の工程、前記それぞれの複素数のデータを用いて、前記複数のフレームの合成を行う第三の工程、前記合成したデータに基づき、断層画像を生成する第四の工程を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光断層画像生成装置及び光断層画像生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、低コヒーレンス光による干渉を利用した光干渉断層法(OCT: Optical Coherence Tomography)を用いる撮像装置(以下、OCT装置とも呼ぶ。)が実用化されている。これは、数マイクロメートルの深さ分解能で断層画像を取得できるため、被検査物の断層画像を高解像度に撮像することができる。
【0003】
特許文献1には、形成される画像の画質の向上を図る光画像計測装置が開示されている。この装置では、眼底の複数の断層画像を形成し、形成された画像を記憶させる。そして、そのうちの一枚の断層画像とそれに隣接する断層画像を用いて演算することにより、新たな断層画像を形成している。この結果、形成される画像の画質を向上することが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−237238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のように複数の断層画像を形成し、その後それらの断層画像の画素値を使って演算することで最終的な断層画像を形成したとしても、ノイズ成分が効率的に除去されないために、画質の向上が限定的になることがある。
【0006】
本発明は上記課題に対処するためになされたものであり、ノイズ成分を効果的に除去することにより、断層画像の画質のさらなる向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、特許文献1のように複数の断層画像を用いて演算する際、従来は、断層画像の画素値を実数に変換した後に演算しているためにノイズの除去が効率的に行えていなかったことを見出した。そこで、複素数のまま演算し、その後実数に変換することで、より効率的にノイズが除去されることを検証し、もって本発明を完成させた。
【0008】
つまり、本発明の光断層画像生成方法は、被検査物の断層画像を取得して行う光断層画像生成方法であって、被検査物に光を照射することにより得られる複数のフレームの信号を取得する第一の工程、前記複数のフレームの信号をフーリエ変換し、複素数のデータをそれぞれ得る第二の工程、前記それぞれの複素数のデータを用いて、前記複数のフレームの合成を複素数で行う第三の工程、前記合成したデータに基づき、断層画像を生成する第四の工程を含むことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の光断層画像生成装置は、光源からの光を測定光と参照光とに分割し、前記測定光を測定光路を介して被検査物に導くと共に前記参照光を参照光路を介して参照ミラーに導き、前記被検査物によって反射あるいは散乱された前記測定光による戻り光と、前記参照ミラーによって反射された前記参照光とによる合波光を用い、前記被検査物の断層画像を生成する光断層画像生成装置であって、前記合波光を検出する検出手段と、前記検出手段で検出した複数のフレームの信号を記憶する記憶手段、前記複数のフレームの信号をフーリエ変換し、複素数のデータをそれぞれ得る手段、前記それぞれの複素数のデータを用いて、前記複数のフレームの合成を複素数で行う合成手段、前記合成したデータに基づき、断層画像を生成する生成手段、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ノイズ成分を効果的に除去することにより、さらなる画質向上が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例1における信号処理を説明する図。
【図2】本発明の実施例1におけるマイケルソン型のOCT装置を説明する図。
【図3】本発明の実施例1におけるタイムチャートを説明する図。
【図4】本発明の実施例2におけるマッハツェンダ型のOCT装置を説明する図。
【図5】本発明の実施例2における信号処理を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明にかかる実施形態は、被検査物の断層画像を生成する光断層画像生成方法において、被検査物に光を照射することにより得られる複数のフレームの信号を取得する第一の工程、前記複数のフレームの信号をフーリエ変換し、複素数のデータをそれぞれ得る第二の工程、前記それぞれの複素数のデータを用いて、前記複数のフレームの合成を複素数で行う第三の工程、前記合成したデータに基づき、断層画像を生成する第四の工程を有することを特徴とする。なお、図1及び図5に示すように、第五の工程としてさらに、信号を合成する前にフレームの移動量計算を行い、その情報を基に複数のフレームの合成を行ってもよい。
【実施例】
【0013】
(実施例1)
つぎに、本発明の実施例1について説明する。本実施例においては、マイケルソン干渉計を用いた撮像装置によって断層画像を生成するが、本発明において用いることのできる撮像装置はこれに限定されることはない。また、本実施例の信号処理は、後述する実施例2とは異なり、実数のデータを基にして移動量計算を行うことを特徴とする。
【0014】
(マイケルソン干渉計)
実施例1に係る光干渉断層撮像装置(以下、OCT装置とも言う)について図2を用いて説明する。図2は、本実施例のマイケルソン型の光学系(マイケルソン干渉計)を用いる撮像装置を説明するための模式図である。
【0015】
光源201から出射した光はファイバー202、レンズ203−1を介し、ビームスプリッタ204によって測定光214と参照光213とに分割される。測定光214は、XYスキャナ208、対物レンズ205−1、205−2を介して、被検査物である眼217に入射する。そして、眼に入射した測定光214は、角膜216を通り、さらに網膜218まで到達する。
【0016】
眼217の網膜218によって反射および散乱された戻り光215は、対物レンズ205−2、205−1、XYスキャナ208、ビームスプリッタ204の順で戻る。さらに、レンズ203−2を介して、分光器211に導かれる。分光器211は、レンズ、グレーティング、撮像素子などから構成される。撮像素子としては、CCDやCMOS方式のラインセンサーが用いられる。分光器211のラインセンサーで得られた信号は、コンピュータ212へ送信されてメモリに記憶され、後述の処理が行われる。
【0017】
一方、参照光213は分散補償ガラス207を介し、参照ミラー209によって反射され、再度分散補償ガラス207を通り、ビームスプリッタ204へ戻る。分散補償ガラス207は、眼217および対物レンズ205−1、205−2の分散を補償するためのものである。参照ミラー209はミラー調整機構210によって参照光路の光路長を調整することができる。これら参照光213と戻り光215はビームスプリッタ204により合波される。そして、この合波光が分光器211に導かれ、検出される。なお、測定光路において、参照光路と光路長が一致するところをコヒーレンスゲートと呼ぶ。眼217の網膜218を測定する場合には、このコヒーレンスゲートを網膜218に近くなるように参照ミラー209の位置を調整する。
【0018】
光源201は、代表的な低コヒーレント光源であるSLD(Super Luminescent Diode)が用いられる。その波長は、例えば中心波長840nm、バンド幅50nmである。なお、バンド幅は得られる断層画像の光軸方向の分解能に影響するため重要なパラメーターとなる。また、光源201の種類は、ここではSLDとしたが、低コヒーレント光が出射できればよく、ASE(Amplified Spontaneous Emission)等も用いることができる。当然、被検査物の内容によっては、ハロゲンランプなどの他の光源を利用してもよい。ただし、波長は、得られる断層画像の横方向の分解能に影響するため、横方向の分解能を重視する場合には短波長であることが望ましい。
【0019】
コンピュータ212は、後述の演算処理や制御を行う他、分光器211、XYスキャナ208、ミラー調整機構210、フォーカス調整機構206を制御する。当然、コンピュータ212は、データの入力、画像処理、画像表示、データの保存なども行うことができる。
【0020】
(信号処理工程)
図1を用いて、図2に示したOCT装置で実行される信号処理を説明する。
工程A1で測定を開始する。この状態は、OCT装置が起動されていて、被検眼が配置されている。さらに測定に必要な調整が術者によって行われ、測定が開始された状態である。
【0021】
工程A2で信号を取得する。ここでは、測定光214を眼底の網膜218に対して照射しつつ、XYスキャナ208により網膜218を2次元に走査し、3次元の画像を取得する場合について説明する。図2における眼の光軸に垂直なX方向をFast Scan,Y方向をSlow Scanとする。図3の(a)にX位置、図3の(b)にY位置、図3の(c)に撮影のタイミングを示したタイミングチャートを示す。Y位置を固定しつつX方向に512回連続的に撮影を行う場合、分光器211内のラインセンサーの画素数が1024なら、1024×512要素の1フレームのデータを得る。なお、1フレームのデータからXZ平面の断層画像を得ることができる。さらにY方向に500ステップ動かしながら、各ステップごとにX方向への連続撮影を繰り返すことで、結果として500フレームのデータを得る。図3においては、そのうちの合成する3つのフレームである、第1のフレーム301、第2のフレーム302、第3のフレーム303を取得する様子を示している。フレームとフレームの間の時間は、次の位置を撮影するためのスキャナのX方向、Y方向への移動、コンピュータ212へのデータの転送に使われている。
【0022】
当然、スキャンパターンは限定されるものではなく、Y位置が同じ複数のフレームを合成するようにして撮像してもよい。また、X方向やY方向などの直線方向の動きだけでなく、サークルスキャンのように回転しながら取得したデータであってもよい。
【0023】
なお、本実施例では、フレーム間でY方向にステップ的に位置が違うデータを取得している。ここで、取得したフレーム間の位置の差が大きいデータを合成すると、信号成分がなまってしまうこと(合成するデータが互いに打ち消しあって、本来の信号成分が失われてしまうこと)がある。そのため位置の差は、OCT装置の横分解能(一般的に、被測定物上での測定光のビーム径により決まる)の数倍以下であることが望ましい。本実施例の場合、被測定物上での測定光のビーム径を5マイクロメートル程度とすると、Y方向に数十マイクロメートル程度の位置の差となる。
【0024】
工程A3で波長波数変換をする。一般的に分光器211からのデータは波長とその波長における強度からなっている。そして、波長に対しては等間隔にサンプリングされている。まず、波長に対する強度のデータの関数を作る。次に、それぞれの波長を波数に変換し、強度のデータの関数を作る。波数は波長の逆数のため、1024の波数が等間隔になるように新たに波数を割り当てる。そして、その波数に対応する強度データを計算する。計算する方法は、例えば補間であり、一般的な直線補間、スプライン補間などでよい。ただし、線形演算であることが望ましい。この結果、フレームごとに、等間隔の波数とその波数に対する強度からなる1024×512要素の2次元配列を得る。当然、分光器211が波数に対して等間隔にサンプリングができる場合、または波長波数変換による誤差が問題にならない場合は工程A3を飛ばすことができる。
【0025】
工程A4でフーリエ変換をする。ここでは、波数に対して等間隔の強度データを、各列に対して離散フーリエ変換する。その結果各フレームで1024×512の複素数の2次元配列を得る。ただし、フーリエ変換の性質により各列のうちm行目と(1024−m)行目は強度が同じになる。したがって、0−511行を抜き出し、512×512の複素数の2次元配列を得て、次の工程にデータを送る。
【0026】
工程A5で、信号を合成するフレーム間の移動量計算をする。ここでは、第1のフレーム301の画像に対して、第2のフレーム302、第3のフレーム303の画像の移動量計算を説明する。まず、各フレームの512×512の複素数データを実数に変換する。ここでは、第1のフレーム301の128列目(65〜448行の384要素)に対して、第2のフレーム302の画像のi列(512要素)を選択し、その中のj行から連続する384要素との差を計算して1次元の配列を得る。その1次元配列の要素を2乗平均する。これを必要なiとjにおいて行い、その中で2乗平均が最小になるiとjを決定する。次に、第1のフレーム301の384列目(65〜448行の384要素)に対して、同様のことを行い、2乗平均が最小となるiとjを決定する。その結果、第1のフレーム301の画像に対して、第2のフレーム302の画像の移動量を得る。移動量がゼロであればそれぞれ、i=128、j=65とi=384、j=65である。さらに、第1のフレーム301の画像に対して、第3のフレーム303の画像の移動量を得る。そして計算した移動量に関する情報を工程Mに送る。
【0027】
なお、この方法を繰り返して移動量に関する情報の精度を高めてもよいし、各列を補間してサブピクセルでの移動量を計算してもよい。当然移動量計算方法としては、その他の方法であってもよい。
【0028】
工程Mで信号の合成をする。工程A4で得た複素数の2次元データに対して、工程A5からの移動量に関する情報を基に加算平均を行う。第1のフレーム301の複素数のデータに対して、平行移動、回転移動した結果の第2のフレーム302の複素数のデータを加算する。当然、配列は離散的なので、第2のフレーム302の画像は必要な補間の処理を適用している。同様に、平行移動、回転移動した結果の第3のフレーム303の複素数データを加算する。そして、合成した複素数データを実数に変換して工程A6に送る。
【0029】
ところで、平均は重みつけ平均であっても良いが、重みが異なるとノイズ除去の効果が変わる場合がある。なお、測定のエラーが発生したと判断されるフレームデータであれば間引いてもよい。
【0030】
工程A6で、1つの断層画像として、コンピュータ212の表示画面に表示する。
そして、工程A7で終了をする。
ここでは、OCT装置を用いた測定から画像表示までを説明したが、例えば、ネットワークを介して得た複数フレームのデータに、上記処理を適用することによってノイズを低減した画像を得ることもできる。
【0031】
本実施例では、複数のフレームデータの合成を行う際に、移動量計算を実数データに基づいて行い、合成を複素数データに基づいて行うことで、ノイズの除去を効果的に行え、さらなる画質の向上が期待できる。
【0032】
(原理の説明)
本実施例の工程Mは、実数に変換した後にフレーム間の画像を足して信号の合成をする従来の手法に対し、複素数の状態で足した後に実数に変換することを特徴としている。これらの原理的な違いは、2つの複素数を実数に変換した後に足す場合と、実数に変換する前に足して、その後実数に変換する場合の差に帰着する。
【0033】
ここで、虚数単位iを用いて、複素数の要素1と要素2をそれぞれ数式1−1、数式1−2で表す。
【数1−1】

【数1−2】

【0034】
要素1と要素2を複素数で足した後に実数に変換した結果は数式2で表される。
【数2】

【0035】
要素1と要素2を実数に変換した後に足した結果は数式3で表される。
【数3】

【0036】
数式2と数式3を2乗して共通部分を差し引くと、数式4の関係となる。(更に両辺を2乗すれば容易に証明できる。)
【数4】

【0037】
すなわち、数式2の値は数式3の値以下となる。これは、ノイズの除去方法において重要である。つまり、ランダムノイズである場合、プラスとマイナスがある。複素数の状態で足すと、ノイズのプラスの成分とマイナスの成分が相殺されるため、より効率的に平均化をすることができる。なお、信号処理の各工程に線形変換を用いれば、複素数にする前のデータで重ね合わせても、同じ結果が得られる。
【0038】
表1は信号雑音比(SNR)の比較である。この結果は、後述する実施例2のようにフレーム内のラインを合成しているため、本実施例の工程によって得た結果とは若干異なる。しかし、画素値を実数に変換するタイミングによってSNRを比較するには十分のデータである。撮影対象は正常眼の黄斑を中心に網膜6mm程度の範囲を測定した。ライン数は2048ラインである。この同じ元データを用いてそれぞれ、(1)2048ラインから4ライン毎に抜き出し512ラインにし、1フレームの合成をしない断層画像を生成した場合、(2)2048ラインから2ライン毎に抜き出して1024ラインにし、さらに隣接する2ラインを合成して512ラインの1フレームの断層画像を生成した場合、(3)2048ラインから4ライン毎に合成して512ラインの1フレームの断層画像を生成した場合である。それぞれにおいて合成を複素数から実数への変換前にしたときのSNRと、実数への変換後にしたときのSNRとを比較している。実数に変換する前に合成した場合(本実施例での複素数でのフレーム合成に相当する)は、合成の本数が多くなるほどSNRが向上しているのが分かる。一方、実数に変換した後に合成した場合、SNRは概ね一定であることが分かる。ただし、実数変換をいつするかに関らず、合成処理(平均化)をしない場合と実数後に合成処理をした場合を比べると、合成処理をした方がより滑らかな画像が得られる。なお、ここでのSNRは、各画素のうちの最大の値に対する、各行のノイズのRMS(Root Mean Square)のうち最低の値の比である。
【0039】
【表1】

【0040】
(実施例2)
つぎに、本発明の実施例2について説明する。ここでは、実施例1との差異について特に説明する。本実施例においては、マッハツェンダ干渉計を用いた撮像装置によって断層画像を生成するが、本発明において用いることのできる撮像装置はこれに限定されることはない。また、本実施例の信号処理は、フレームの信号をフレーム内で合成する第六の工程を含むことと、位相成分を含めた移動量計算を行うことを特徴とする。なお、これらの特徴のうち双方ともを含んだ態様を以下に記載するが、本発明は以下の記載に限定されず、いずれか一方の特徴のみを含んだ態様でもよい。
【0041】
(マッハツェンダ干渉計)
実施例2に係る光干渉断層法を用いる撮像装置について図4を用いて説明する。図4は、本実施例のマッハツェンダ型の光学系を用いる撮像装置を説明するための模式図である。なお、図2と同じ構成には同じ番号を付し、その説明を一部省略している。光源201から出射した光はファイバー202、ファイバーカプラ401−1を介し、測定光214と参照光213とに分割される。
【0042】
測定光214は、サーキュレーター402−2のポート1に入り、ポート2から出て、レンズ403−2に到達する。さらに、XYスキャナ208、対物レンズ205−1、205−2、角膜216を介して網膜218に到達する。網膜218で散乱および反射された戻り光215は、対物レンズ205−2、205−1、XYスキャナ208を戻って、サーキュレーター402−2のポート2に入り、ポート3を出て、ファイバーカプラ401−2に到達する。
【0043】
一方、参照光213はサーキュレーター402−1のポート1に入り、ポート2から出て、レンズ403−1、分散補償ガラス207を介し、参照ミラー209によって反射される。反射された参照光213は、分散補償ガラス207を介し、レンズ403−1、サーキュレーター402−1のポート2に戻り、ポート3から出てファイバーカプラ401−2に到達する。参照ミラー209はミラー調整機構210によって光路長を調整することができる。参照光213と戻り光215はファイバーカプラ401−2により合波され、分光器211に導かれて検出され、コンピュータ212に送信される。
【0044】
(信号処理工程)
図5を用いて、図4に示したOCT装置で実行される実施例2における信号処理を説明する。なお、図1と同じ符号は、同様の処理を表す。
工程A1で測定を開始する。
工程A2で信号を取得する。ここでは、1フレームに対して、2048ラインの画像を取得し、それを合計500フレーム取得する。その結果、1フレームあたり1024×2048要素のデータを得る。ここで、本実施例の特徴の一つは、各フレーム内で信号を合成することである。
【0045】
フレーム内で信号を合成する場合とフレーム間で信号を合成する場合、ノイズの除去効果は、被検査物が動かなければ原理的に同じである。しかし、眼のように動く被検査物である場合は単純でない。ラインレートが20kHzであれば、1フレームのデータを取得するのに必要な時間は512ラインでは26msec、2048ラインであれば102msecである。スキャナの戻り時間である4msecを加算すると、フレーム間隔はそれぞれ、30msec、106msec程度である。つまり、フレーム内の隣接するラインを合成する場合は、移動量計算が不要になる。一方、フレームの測定時間が長くなると、フレーム内での歪や眼を閉じることによるデータの抜けが発生する確率が高くなる。また、本実施例においても、実施例1と同様の理由により、取得するラインの位置の差はビーム径の数倍以下であることが望ましい。
【0046】
工程Sでは、フレーム内の隣接するラインを合成する。2048ラインの隣接する4ライン毎に合成し、各フレームで1024×512要素のデータを得る。
工程A3で波長波数変換をする。
工程A4でフーリエ変換をする。そして、必要部分を切り出すことによって各フレームで512×512の複素数の2次元配列データを得て、次の工程にデータを送る。
工程A5−1で移動量計算を行う。ここで、実施例1が実数に変換して移動量計算をしていたのに対して、本実施例では複素数の状態で移動量計算を行う。すなわち、データの差を計算するときは複素数の状態で行い、その結果の2乗平均が、最小になる場合を抽出する。この結果、位相を含めた移動量計算が可能になる。
なお、複素数のデータは、極座標に変換して計算してもよい。
工程Mで、工程A4において得た複素数の2次元配列データに対して、工程A5−1において得た位相を含めた移動に関する情報を基づいて加算平均を行う。そして、その結果を実数に変換して工程A6にデータを送る。
工程A6で、1つの断層画像を得る。
工程A7で終了をする。
本実施例では、位相を含めた移動量計算を行うことができ、さらなる画質の向上が期待できる。
【0047】
(実施例3)
また、本発明は、以下の処理を実行することによっても実現される。即ち、上述した実施形態の機能を実現するソフトウェア(コンピュータプログラム)を、ネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータ(またはCPUやMPU等)がプログラムを読み出して実行する処理である。
すなわち、前記コンピュータプログラムは、被検査物に光を照射することにより得られる複数のフレームの信号を取得する第一の工程を行う第一の手順と、前記複数のフレームの信号をフーリエ変換し、複素数のデータをそれぞれ得る第二の工程を行う第二の手順と、前記それぞれの複素数のデータを用いて、前記複数のフレームの合成を複素数で行う第三の工程を行う第三の手順と、前記合成したデータに基づき、断層画像を生成する第四の工程を行う第四の手順とを備える。また、前記コンピュータプログラムは、フレームの移動の情報を取得する第五の工程を行う第五の手順と、前記フレームの信号をフレーム内で合成する第六の工程を行う第六の手順とを更に備えてもよい。
【符号の説明】
【0048】
201 光源
202 光ファイバー
203 レンズ
204 ビームスプリッタ
205 対物レンズ
206 フォーカス調整機構
207 分散補償ガラス
208 XYスキャナ
209 参照ミラー
210 ミラー調整機構
211 分光器
212 コンピュータ
213 参照光
214 測定光
215 戻り光
216 角膜
217 眼
218 網膜
301 第1のフレーム
302 第2のフレーム
303 第3のフレーム
401 フォトカプラ
402 サーキュレーター
403 レンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査物の断層画像を生成する光断層画像生成方法であって、
被検査物に光を照射することにより得られる複数のフレームの信号を取得する第一の工程、
前記複数のフレームの信号をフーリエ変換し、複素数のデータをそれぞれ得る第二の工程、
前記それぞれの複素数のデータを用いて、前記複数のフレームの合成を複素数で行う第三の工程、
前記合成したデータに基づき、断層画像を生成する第四の工程
を特徴とする光断層画像生成方法。
【請求項2】
フレームの移動の情報を取得する第五の工程を更に有し、
前記取得した情報に基づいて、前記複数のフレームの合成を行うことを特徴とする請求項1に記載の光断層画像生成方法。
【請求項3】
前記移動の情報が、前記第二の工程で得られた複素数データを実数のデータに変換した結果に基づいて計算されることを特徴とする請求項2に記載の光断層画像生成方法。
【請求項4】
前記移動の情報が、前記第二の工程で得られた前記複素数のデータに基づいて複素数の状態で計算されることを特徴とする請求項2に記載の光断層画像生成方法。
【請求項5】
前記フレームの信号をフレーム内で合成する第六の工程を更に有し、
前記第六の工程は、前記第三の工程の前に行われることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の光断層画像生成方法。
【請求項6】
光源からの光を測定光と参照光とに分割し、前記測定光を測定光路を介して被検査物に導くと共に前記参照光を参照光路を介して参照ミラーに導き、前記被検査物によって反射あるいは散乱された前記測定光による戻り光と、前記参照ミラーによって反射された前記参照光とによる合波光を用い、前記被検査物の断層画像を生成する光断層画像生成装置であって、
前記合波光を検出する検出手段と、
前記検出手段で検出した複数のフレームの信号を記憶する記憶手段、
前記複数のフレームの信号をフーリエ変換し、複素数のデータをそれぞれ得る手段、
前記それぞれの複素数のデータを用いて、前記複数のフレームの合成を複素数で行う合成手段、
前記合成したデータに基づき、断層画像を生成する生成手段、
を有することを特徴とする光断層画像生成装置。
【請求項7】
前記フレームの信号をフレーム内で合成する手段を更に有し、
前記合成手段は、前記フレーム内で合成が行われた複数のフレームの合成を行うことを特徴とする請求項6に記載の光断層画像生成装置。
【請求項8】
前記フレーム間および/またはフレーム内の合成は、位置の差が前記測定光のビーム径の数倍以下の信号の間で行うことを特徴とする請求項6又は7に記載の光断層画像生成装置。
【請求項9】
被検査物に光を照射することにより得られる複数のフレームの信号を取得する第一の手順と、
前記複数のフレームの信号をフーリエ変換し、複素数のデータをそれぞれ得る第二の手順と、
前記それぞれの複素数のデータを用いて、前記複数のフレームの合成を複素数で行う第三の手順と、
前記合成したデータに基づき、断層画像を生成する第四の手順とをコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−61359(P2012−61359A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−288338(P2011−288338)
【出願日】平成23年12月28日(2011.12.28)
【分割の表示】特願2009−244678(P2009−244678)の分割
【原出願日】平成21年10月23日(2009.10.23)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】