説明

光束分割素子

【課題】 この発明は、共通光源からのビームを分割する方式において、高効率で良好な温度特性を有する低コストな光束分割素子を提供することを目的とする。
【解決手段】 光学異方性を示す領域と光学等方性を示す領域からなる周期的な構造を有し、透過光または回折光が異なる温度特性を示すホログラム素子を光の入射側に対して、第1ホログラム素子1、第2ホログラム素子2及び第3のホログラム素子3と配列し、第1ホログラム素子1の透過および回折により光が分割され、第1ホログラム素子1の透過光が第3ホログラム素子3に与えられ、第1ホログラム素子1の回折光が第2ホログラム素子2に与えられ、第2ホログラム素子2の透過および回折により分割光の光軸が調整されると共に、第3ホログラム素子3の透過により第1ホログラム素子1からの分割透過光の光強度が調整される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、入射光束の偏光成分によって素子を透過または回折させる機能を有する偏光ホログラム素子に関し、特に、一つの光源からの入射光束を2光束以上に分割する光束分割素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
偏光ホログラム素子に関する従来技術としては、以下のものが提案されている。
【0003】
特許文献1には、等方性基板上に回折格子形状を形成し、この回折格子形状の溝部に光学異方性の材料を充填した光学異方性回折素子が知られている。
【0004】
特許文献2には、光重合性液晶を用い、水平配向させた状態で干渉露光等の方法で露光を行い、露光部の液晶を周期的に重合固化させた後に未露光部に外場を印加させ垂直配向させた状態で反応固化するホログラム素子が開示されている。
【0005】
特許文献3には、液晶と高分子を含む光学媒体を液晶のN−I点に対応した特定の温度範囲に制御して二光束干渉露光を行うことで、液晶が微細な周期構造に対し一様な方向に配向する構造を有するホログラム素子が開示されている。
【0006】
また、光束分割に関する従来技術としては、次の特許文献4に示すものが知られている。
【0007】
この特許文献4のものは、光走査装置及び画像形成装置において、共通の光源からのビームを分割し、異なる段の反射鏡にビームを入射させ、異なる被走査面を走査するというものである。ここでの光分割は、ハーフミラープリズムおよびハーフミラーとミラーの組み合わせなどの手法にて実現している。
【0008】
ところで、近年、半導体レーザのマルチビーム化の技術が進んでおり、例えば、レーザプリンタ、デジタル複写機、普通紙ファックス等で用いられる電子写真画像形成装置等に応用されつつある。この電子写真画像形成装置に関してはカラー化、高速化が進み、感光体を複数(通常は4つ)有するタンデム対応の画像形成装置が普及してきている。しかし、このようなタンデム方式の場合、光源数の増加に伴い、部品点数の増加、複数光源間の波長差に起因する色ずれ、コストアップが生じてしまう。また、書込ユニットの故障の原因として半導体レーザの劣化が挙げられており、光源数が多くなると、故障の確立が増え、リサイクル性が劣化する。
【0009】
そこで、光源数および部品点数を低減し、低コスト化するために、共通光源からのビームを分割する方式が提案されており、上記した特許文献4では、以下の手段で光束を分割している。
(1)ハーフミラープリズムを用いる方式
(2)ハーフミラーとミラーを組み合わせる方式
(3)出射したビームを複数の開口部を設けることで、空間的に分割する方式
【0010】
ここで、上記の(1)及び(2)方式とも分離手段にミラーを用いているため、ミラーの面精度ばらつきの影響、及び配置誤差の影響により、ビームスポット径劣化が発生し易い。また、1)で用いるハーフミラープリズムは非常に高価であり、コストアップとなる。2)で示すハーフミラーとミラーを組み合わせた方式は、レイアウト配置が困難であり、なおかつ、偏向回転面内で、開き角を有するため、ビームスポット径等の光学特性が劣化する。また、複数の開口部で光束を分割する方式は、光源からのビームの周辺部を用いるため、光量不足、及び、ビームスポット径太りを生じるといった不具合がある。
【0011】
そこで、光束分離素子として、ホログラム素子を多段に配列し、前段のホログラム素子の透過および回折により光が分割され、後段のホログラム素子の透過および回折により前記分割光の光軸を調整するものがある。
【0012】
しかしながら、上記したホログラム素子を用いた光学分離素子の場合、ホログラム素子が温度依存性を有するため、温度変化により、光束のパワーに変動が生じるという難点がある。
【0013】
また、特許文献5には、回折効率が極小値をとる素子温度が25℃〜70℃以下の範囲にあり、素子は屈折率異方性および屈折率の温度依存性がそれぞれ異なる領域が交互に配列された構造を有するホログラム素子が開示されている。
【特許文献1】特開平10−92004号公報
【特許文献2】特開平11−271536号公報
【特許文献3】特開2000−221465号公報
【特許文献4】特開2005−92129号公報
【特許文献5】特開2003−270419号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
光束分割素子としてホログラム素子(回折格子含む)を積層した構成は、小型で比較的安価に実現できる。しかし、ホログラム素子の光学特性(回折効率)は温度の影響を受け易く、温度環境により光束の分割効率が変化するといった課題がある。光学特性が変化する原因としては、ホログラム材料の屈折率変化、膨張や収縮によるホログラム構造変化等の影響が考えられる。
【0015】
特許文献5には、材料調整によりホログラム素子の温度依存性を低減するものが開示されているが、材料による調整はホログラム材料としての選択材料を限定し、高効率な特性を実現するのは難しくなる。
【0016】
一般的に光学素子の特性は使用する装置内の温度変化や周囲環境変化によっても安定して高い効率を維持することが重要とされる。上記した電子写真画像形成装置等に用いられる光学系の特性は、装置内の温度変化や周囲環境変化によっても安定して高い効率を維持することが重要とされている。
【0017】
この発明の目的は、ホログラム素子を用いて共通光源からのビームを分割する光束分割方式において、上記不具合を解決した、高効率で良好な温度特性を有する低コストな光束分割素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この発明の光束分割素子は、光学異方性を示す領域と光学等方性を示す領域からなる周期的な構造を有し、透過光または回折光が異なる温度特性を示すホログラム素子を2つ以上組み合わせてなる光束分割素子であって、光の入射側に対して、第1ホログラム素子、第2ホログラム素子及び第3のホログラム素子と配列し、前記第1ホログラム素子の透過および回折により光が分割され、前記第1ホログラム素子の透過光が前記第3ホログラム素子に与えられ、前記第1ホログラム素子の回折光が第2ホログラム素子に与えられ、前記第2ホログラム素子の透過および回折により前記分割光の光軸が調整されると共に、前記第3ホログラム素子の透過により前記第1ホログラム素子からの分割透過光の光強度が調整され、入射光束を二光束以上に分割して出射することを特徴とする。
【0019】
また、この発明における前記ホログラム素子の透過光または回折光の温度特性は、ホログラムの周期構造の膜厚により設定されることを特徴とする。
【0020】
また、この発明における前記ホログラム素子の透過光または回折光の温度特性はホログラムの周期構造にて生成される屈折率変調量振幅により設定されることを特徴とする。
【0021】
更に、この発明は、前記第1ホログラム素子、第2ホログラム素子及び第3ホログラム素子の膜厚をそれぞれT、T、Tとし、+1次光または−1次光が最大回折効率となる前記ホログラム素子の膜厚をTmaxとする場合、TはTより小さく、TはTより大きく、かつTmaxがTとTの間で設定するとよい。
【0022】
また、前記第3ホログラム素子の膜厚T3が前記ホログラム素子の膜厚Tmaxの略2倍でにするとよい。
【0023】
また、この発明は、前記した第1ホログラム素子と第2ホログラム素子の周期構造の膜厚T、Tが、|Tmax−T|≦|Tmax−T|の関係にするとよい。
【0024】
また、この発明は、前記した第1ホログラム素子の周期構造の膜厚Tが、第2ホログラム素子の周期構造の膜厚Tの略半分にするとよい。
【0025】
また、この発明は、前記ホログラム素子の周期的な構造は非重合性液晶と、重合性モノマーあるいはプレポリマーと、光重合開始剤とからなる組成物を一対の透明基板間に保持し、前記組成物を二光束以上の多光束干渉露光することにより、主にポリマーから成る層と主に非重合性液晶から成る層との周期的な相分離構造を形成したポリマー分散型液晶ホログラム素子を用いるとよい。
【発明の効果】
【0026】
この発明は、光学異方性を示す領域と光学等方性を示す領域からなる周期的な構造を有し、透過光または回折光が異なる温度特性を示すホログラム素子を2つ以上組み合わせてなる光束分割素子であって、光の入射側に対して、第1ホログラム素子、第2ホログラム素子及び第3のホログラム素子と配列することで、温度上昇による第1ホログラムの回折効率低下と第2ホログラムの回折効率増加をキャンセルすることができ、分割された光束における第2回折偏向光の温度による変動が抑制され光束分割素子として温度特性が改善される。さらに、第3ホログラム3を配列することで、温度上昇により、第1ホログラムからの第1透過直進光の透過率が増加しても、第3ホログラムの透過光効率特性によりキャンセルされて、温度によらず一定の透過率が得られるようになる。
【0027】
また、第1ホログラム素子の膜厚を小さく設定することで、入射角依存性の許容範囲が広い。
【0028】
また、干渉露光により作製する液晶ホログラムは原版複製が可能であるため、低コスト化が実現できる。この液晶ホログラム素子を多段に配列することで、低コストな光束分割素子が提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
この発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付し、説明の重複を避けるためにその説明は繰返さない。
【0030】
まず、この発明の前提となる光束分割素子の概略構成につき図1ないし図3を参照して説明する。図1、図2は、この発明の前提となる光束分割素子の概略構成を示す模式図であり、第1ホログラム素子からの第1透過直進光は第2ホログラム素子を透過していないが、図2のように第2ホログラム素子は透過する配置としている。
【0031】
図1に示す光束分割素子100は、第1ホログラム素子1と第2ホログラム素子2を多段に配列した構成されている。第1ホログラム素子1は、透光性基板11、12間にホログラム層13を設け、第2ホログラム素子2は、透光性基板21、22間にホログラム層23を設けている。
【0032】
この第1ホログラム素子1と第2ホログラム素子2を多段に配列した光束分割素子100の動作原理としては、入射光束10を第1ホログラム素子1にて回折による偏向光10bと透過による直進光10aの二光束に分割し、回折による偏向光10bを第2ホログラム素子2にて再度回折により偏向した偏向光20bとなり、分割した二光束の光軸(進行方向)および光強度を設定することができる。
【0033】
ここで、第1ホログラム素子1で回折した偏向光を第1回折偏向光10b、第2ホログラム素子2で再度回折した偏向光を「2回折偏向光20b、第1ホログラム素子1で透過した直進光を第1透過直進光10a、第2ホログラム素子2で再度透過した直進光を第2透過直進光20aと定義する。
【0034】
図1は、第1ホログラム素子1からの第1透過直進光10aは第2ホログラム素子2を透過していない。これに対して、図2に示す構成は、第1ホログラム素子1からの第1透過直進光10aが第2ホログラム素子2を透過する配置にしている。
【0035】
この図2に示すように、第1透過直進光10aが第2ホログラム素子2を透過する場合は、第2ホログラム素子2へ入射する前に位相差板(図示しない)により、透過率が高くなる偏光方向を設定することが望ましい。
【0036】
図3に示すように、光束分割素子100を構成してもよい。図3に示す構成においては、第1ホログラム素子1の光出射側に用いる基板と第2ホログラム素子2の光入射側に用いる基板を兼用した基板15を用いたものである。この場合、基板15の厚さは、第2透過直進光20aと第2回折偏向光20bの受光位置(分割光束の間隔距離)によって適宜設定される。
【0037】
このように、図1ないし図3に示すように、第1ホログラム素子1と第2ホログラム素子2を多段に配置することにより、1つの光束から分割した二光束の光軸(進行方向)および光強度を設定することができるものである。
【0038】
ここで、体積ホログラム素子のモデルにつき図4に従い説明する。図4は、体積ホログラム素子の断面構造のモデルを示す模式図である。
【0039】
このホログラム素子は、光学異方性領域と光学等方性領域の周期構造からなり、周期構造の屈折率変調量をΔn、周期構造の膜厚をT、周期構造の格子ピッチをp、周期構造の格子傾きをφと定義する。
【0040】
一般的に、ホログラムの回折角θは、θ=sin−1(λ/p)で表せ、入射光束の波長λとホログラムの格子ピッチpで決まる。すなわち、回折角θは、ホログラムの格子ピッチpにより設定可能である。
【0041】
また、回折効率は格子周期構造から生成される屈折率変調量(または屈折率差)Δnと周期構造の膜厚Tに依存し、これらのパラメータを最適化することで、理想的な回折効率が得られる。理論的に得られる最大回折効率はホログラム種類によって異なるが、体積ホログラム(屈折率変調型ホログラム)は、非常に高い回折効率(理論値100%)を得ることができ、ブラッグ回折条件を満たす入射角度θinや格子の傾きφを設定することで、特定次数(特に、+1次または−1次)の回折光の効率が設定可能である。
【0042】
すなわち、上記した図1、図2、図3に示す光束分割素子100において、第1ホログラム1と第2ホログラム2の格子傾きφを同じに設定(ブラッグ回折条件を満足)することで、入射光束10から回折した第1回折偏向光10bを入射光軸10(第1透過直進光10a)と平行となる第2回折偏向光20bに高効率で再回折することができる。
【0043】
次に、上記のような光束分割素子に用いることが可能であるホログラム素子の光学機能の動作原理につき説明する。
【0044】
図5に、ホログラフィック高分子分散液晶(HPDLC:Holographic Polymer Dispersed Liquid Crystal)を用いた偏向ホログラム素子の概略構成を示す。
【0045】
偏光ホログラム素子1(2)は、一対の基板11、12(21、22)間に光学異方性(複屈折性)を示す領域1aと光学等方性を示す領域1bが周期的に構成されている。機能動作としては、例えば、図6(a)のように、素子へ入射する偏光方向がs偏光(ここでは紙面垂直方向である周期配列方向と垂直とする)であり、等方性領域1bの屈折率nと複屈折性領域1aの一方の屈折率noがn=noのとき、光はそのまま透過する。また、図6(b)のように、入射する偏光方向がp偏光(ここでは紙面左右方向である周期配列方向と平行とする)であり、等方性領域1bの屈折率nと複屈折性領域1aのもう一方の屈折率neがn≠neのとき、光は回折する。このように入射光の偏光方向により、透過と回折の選択がなされる機能を有する。尚、図6に示す例では、p偏光が回折し、s偏光が透過しているが、周期構造の屈折率によってはp偏光が透過し、s偏光が回折する場合もある。
【0046】
また、図5では光学異方性領域1aと光学等方性領域1bの周期構造は基板11、12(21、22)に挟まれている構成を示しているが、これに限るものではなく、一枚の基板上に成膜されていてもよく、基板上になくてもよい。
【0047】
ここで、図5、図6に示した偏光ホログラム素子は体積型屈折率変調ホログラムであり、前記したように、回折効率はホログラムの屈折率変調量Δnと厚みTの積Δn・Tに依存し、特定な偏光方向における光学異方性を示す領域と光学等方性を示す領域の屈折率変調量Δnが一定である場合、ホログラム素子の周期構造の厚みT(膜厚またはセルギャップと同じ)を設定することで回折効率を適宜設定することができる。図5に示す格子傾きφは周期構造に垂直なベクトルであり、周期構造配列面を基準(0°)とし、45°<φ<135°の関係にあるものとする。
【0048】
ホログラム素子の温度依存性に関して、一般的にホログラムの周期構造(異なる屈折率の2つの領域、例えば、複屈折性領域、等方性領域)に存在する物質の屈折率には温度依存性があり、環境温度が変化する場合、常に一定の屈折率を保つことは難しい。この温度による屈折率の変化は、回折効率の変動、偏光選択性の低下に繋がりこの発明の光束分割素子構成において実用上大きな問題となる。ここで、偏光選択性とはs偏光の回折効率とp偏光の回折効率との比と定義する。例えば、この発明のような光束分割素子をプロジェクタ等の投射画像装置に応用した場合、光束分割素子からの分割効率変化は投射像に強度ムラとして反映され、コントラスト低下を招く恐れがある。また、レーザプリンター等の電子写真画像形成装置等に応用した場合、分割効率の変化は印刷像の各ドットに影響し、細線のつぶれや色ムラ等の不具合に繋がる恐れがある。
【0049】
次に、ホログラム素子の温度依存性に関して説明する。図7に、体積型屈折率変調ホログラムの屈折率変調量Δnと回折効率の関係を示す。ここで示している屈折率変調量Δnとは図4、図5に示したホログラム素子内部の屈折率分布の高低差であるが、説明を簡潔にするため、Δnは|no−n|または|ne−n|と等価としている。Δnが大きくなるにつれて回折効率は上昇し、Δnが最大の時Δn_maxは、理論上回折効率100%となり、Δnが最大値を超えると回折効率は減少してゆく。
【0050】
図8は等方性領域1bの屈折率nと複屈折性領域1aの屈折率no、neの一般的な温度依存性を示す特性図である。図8に示すように、温度が上昇すると屈折率n、no、neの絶対値は変化し、相対的に|no−n|および|ne−n|も変化する。
【0051】
このように温度上昇による屈折率の変化に伴い、ホログラム素子の回折効率も温度により大きく変動する。すなわち、最大回折効率を設定した場合、温度上昇によりΔnは小さくなり、回折効率は低下する傾向にある(図7の矢印)。ここで、一般的に高い回折効率を得る為には、Δnがある程度大きくなければならないため、高い回折効率を得る場合はΔnとして|ne−n|を設定することが好ましい。
【0052】
前述したように、ホログラム素子の回折効率は屈折率変調量Δnと厚み(ホログラム層)Tの積Δn・Tに依存する。膜厚Tはスペーサーや硬化材料により保持されているため、温度上昇による変化は小さい。すなわち、温度上昇による回折効率の変動は、屈折率変調量Δnの温度変化による影響が大きいと考えられる。屈折率変調量の大きさは使用するホログラムの材料や作製方法に起因するが、一般的にフォトポリマーを用いたホログラムでは〜約0.04程度であり、高複屈折性を示す液晶材料を用いた液晶ホログラムでは〜約0.15程度である。屈折率変調量は材料によりある程度選択することが可能であり、屈折率変調量が大きい方が高効率を得るためには有利である。
【0053】
光束分割素子の温度特性について説明する。一定の温度環境(例えば、室温)にて屈折率変調量が一定である場合、体積型屈折率変調ホログラム素子の回折効率および透過率と膜厚の関係は図9のようになる。前記したように、体積型屈折率変調ホログラム素子は理論的に最大100%の回折効率であり、回折効率と透過率の関係は全体で100%である。最大100%の回折効率が得られるホログラム層の膜厚(セルギャップ)をT、回折効率が50%(透過率が50%)ホログラム層の膜厚(セルギャップ)をTとする。T=T/2となる。図10に示すように、回折効率と透過率は、サインカーブ、コサインカーブのように膜厚に対応して変化する。
【0054】
ここで、ホログラム層の膜厚(セルギャップ)が同一である偏光ホログラム素子を第1ホログラム1と第2ホログラム2として多段に配列し、入射偏光方向をホログラム周期構造の配列方向と平行にした場合の光束分割素子につき、図10及び図11に従い説明する。
【0055】
図10に示すように、素子のホログラム層13、23の膜厚(セルギャップ)がそれぞれ最大回折効率を得るTにおいては、第1ホログラム素子1にて全ての光が回折され、第2ホログラム素子2にて再回折される。すなわち、第1透過直進光は発生せず、光軸のシフトのみが行われ光束は分割されない。
【0056】
また、図11のように、素子のホログラム層13、23の膜厚(セルギャップ)が最大回折効率の半分を得るTにおいては、第1ホログラム素子1にて、第1透過直進光10aと第1回折偏向光10bに均等に分割されるが、第2ホログラム素子2においても第2回折偏向光が均等に分割されるため、多段に配列された素子1、2から出射される光は三光束となり、強度もばらばらとなる。
【0057】
そこで、ホログラム層の膜厚(セルギャップ)が異なるホログラムを第1ホログラム1と第2ホログラム2として多段に配列した構成につき図12を参照して説明する。
【0058】
この構成において、入射偏光方向はホログラム周期構造の配列方向と平行とし、第1ホログラム素子1と第2ホログラム素子2を図12に示すように、ホログラム層13の膜厚をT(T/2)、ホログラム層23の膜厚をTとする場合、第1ホログラム素子1の回折効率は50%、透過率は50%となり、第2ホログラム素子2の回折効率は100%、透過率は0%となる。すなわち、図13に示すように、第1ホログラム素子1から第1透過直進光10aと第1回折偏向光10bが出力され、第1回折偏向光10bが第2ホログラム素子2で回折され、第2回折偏向光20bとして出力される。この構成の光束分割素子100では、第2回折偏向光20bの効率は50%、第1透過直進光10aの効率は50%の割合で二光束を均等に分割することができる。
【0059】
ここで、前述のような光束分割素子構成における分割効率の温度による変動低減について説明するため、更にホログラム素子の温度特性に関して図13、図14にΔnH・Tと回折効率の関係について示す。ホログラム層13の膜厚がTの第1ホログラム1、ホログラム層23の膜厚がTの第2ホログラム2の温度上昇による回折効率の変化を矢印で示す。屈折率変調量Δnは膜厚Tによらず一定であると仮定している。図13に示すものは、第1ホログラム1の回折効率が50%になるようにホログラム層13の膜厚Tを設定し、第2ホログラム2が回折効率が100%になるホログラム層23の膜厚Tmaxより、少し膜厚を小さくした膜厚Tに設定している。また、図14に示すものは、第1ホログラム1の回折効率が50%になるようにホログラム層13の膜厚Tを設定し、第2ホログラム2の回折効率が100%になるホログラム層23の膜厚Tmaxより、少し膜厚を大きくした膜厚Tに設定している。
【0060】
図13に示すものは、温度上昇により第1ホログラム1、第2ホログラム2ともに回折効率が低下している。これに対し、図14は温度上昇により第1ホログラム1の回折効率は低下しているが、第2ホログラム2の回折効率は一旦増加してから低下している。
【0061】
図13、図14から、ホログラムの膜厚Tは、最大回折効率を得る膜厚Tmaxより小さく設定することで、温度上昇により回折効率は低下し、最大回折効率を得る膜厚Tmaxより大きく設定することで、温度上昇により回折効率が一旦増加し低下することが分かる。
【0062】
このことから、膜厚(セルギャップ)の異なるホログラム層を有する第1ホログラム1と第2ホログラム2を多段に配列した構成において、第1ホログラム1の膜厚Tは最大回折効率を得る膜厚Tmaxより小さく、第2ホログラム2の膜厚Tは最大回折効率を得る膜厚Tmaxより大きく設定する。このように構成することで、温度上昇による第1ホログラム1の回折効率低下と第2ホログラム2の回折効率増加をキャンセルすることができる。従って、分割された光束における第2回折偏向光20bの温度による変動が抑制され光束分割素子として温度特性が改善される。
【0063】
また、図1、図2、図12に示すような構成において、分割光束の効率を高くするためには、まず、第1ホログラム1で光束を略等分割する回折効率が得られ、第2ホログラムで高回折効率を得るように、第1ホログラム1、第2ホログラム2のホログラム層を構成することで実現できる。すなわち、第2ホログラム2の回折効率は第1ホログラム1の回折効率より高い方がよいことを意味しており、膜厚に対しては、最大回折効率が得られるTmaxに近いほど高回折効率となることから、第2ホログラム2のホログラム層23の膜厚と最大回折効率が得られるTmaxとの差|Tmax−T|が第1ホログラム1のホログラム層13の膜厚Tと最大回折効率が得られるTmaxの差|Tmax−T|よりも小さいことで分割光束の効率を高く設定することができる。
【0064】
さらに、図9の回折効率と膜厚の関係から、第1ホログラム素子1のホログラム層12の膜厚Tを第2ホログラム素子2のホログラム層23の膜厚Tの略半分に設定することで、分割した光束のそれぞれの強度を略等しく設定できる。
【0065】
ここで、ホログラムの膜厚T(素子セルギャップ)により回折効率の温度特性を設定する前述の説明においては、ホログラムの屈折率変調量ΔnHは一定であると仮定している。実際に、ホログラムに用いる材料と作製条件を固定することで、略一定の屈折率変調量ΔnHを得ることができる。
【0066】
また、図13、図14に示すようにホログラムの回折効率はΔnH・Tと関係があるため、前述の説明において、膜厚Tを一定とし、屈折率変調量ΔnHによりホログラムの回折効率の温度特性を設定することもできる。ホログラムの屈折率変調量ΔnHは材料と作製条件によって、ある程度調整できる。
【0067】
また、膜厚Tと、屈折率変調量ΔnHがそれぞれ異なる第1のホログラム素子と第2のホログラム素子を用いても光束分割素子として温度特性が改善できれば問題ない。
【0068】
次に、この発明の実施形態における光束分割素子の構成概略を図15、図16に示す。この実施形態の構成においては、第1ホログラム素子1と第2ホログラム素子2および第ホログラム素子3が配列されており、第3ホログラム素子3が第1ホログラム1で分割された第1透過直進光10aの強度を調整(温度特性補償)するものである。第1透過直進光10aが第3ホログラム素子3を通過して第3透過直進光30aとして出力される。
【0069】
図15では配列順を入射光側から第1ホログラム1、第2ホログラム2、第3ホログラム3としているが、分割した第1透過直進光10aの光強度が調整可能であれば、第2ホログラム2と第3ホログラム3のどちらを入射側に配列してもよく、これらの配列順はどちらでもよい。また、第2ホログラム2と第3ホログラム3の機能が同じであれば、同じ位置としてもよい。
【0070】
ここで、第1ホログラム1と第2ホログラム2を配列した構成の光束分割素子において、第1ホログラム1から分割した第1回折偏向光10bと第1透過直進光10aのうち、第1回折偏向光10bは前述したように、配列するホログラム素子2の膜厚設定により、回折効率の温度特性がキャンセルされ、第2ホログラム2から出射する第2回折偏向光20bの温度特性は改善されている。しかし、第1透過直進光10aに関して、温度特性は改善されていない。そこで、第1透過直進光10aの光軸に、第3ホログラム素子3を更に配列することで、第1透過直進光10aに対しても温度による効率の変化を改善することができる。
【0071】
配列する第3ホログラムの膜厚T3は、図9のように、初期設定は透過率が略100%または回折効率が略0%であり、温度が上昇するに従って、透過率は低下し、回折効率が増加するような特性を示すことが好ましい。このような特性を有する第3ホログラム3を追加配列することで、温度上昇により、第1ホログラム1からの第1透過直進光10aの透過率が増加しても、第3ホログラム3の透過光効率特性によりキャンセルされて、温度によらず一定の透過率が得られるようになる。
【0072】
次に、この実施形態におけるホログラム素子の分割光束の温度特性として、図17、図18にΔnH・Tと透過率および回折効率の関係を示す。膜厚Tの第1ホログラム1、膜厚Tの第2ホログラム、膜厚T3の第3ホログラムの温度上昇による透過率および回折効率の変化は矢印で示している。ここで、屈折率変調量ΔnHは膜厚Tによらず一定であると仮定している。
【0073】
図17は、温度上昇により、第1ホログラム1の透過率は増加し、第2ホログラム2と第3ホログラム3の透過率は低下している。また、図18は、温度上昇により、第1ホログラム1の回折効率は低下し、第2ホログラム2と第3ホログラム3の回折効率は増加している。
【0074】
前述したように図17、図18からホログラムの膜厚Tは、最大回折効率を得る膜厚Tmaxより小さく設定することで、温度上昇により回折効率は低下し、最大回折効率を得る膜厚Tmaxより大きく設定することで、温度上昇により回折効率が増加することが分かる。更には膜厚2Tmax付近において、回折効率は略0%、透過率は略100%であり、温度上昇により回折効率が増加し、透過率が低下することが分かる。
【0075】
このことから、第1ホログラム1、第2ホログラム2、第3ホログラム3とホログラム素子を多段に配列し、ホログラムの温度特性が異なるように、ホログラムの膜厚をそれぞれ設定する。第1ホログラム1の膜厚T1は最大回折効率を得る膜厚Tmaxより小さく、第2ホログラム2の膜厚T2は最大回折効率を得る膜厚Tmaxより大きく設定し、かつ第3ホログラム3の膜厚T3は第2ホログラム2の膜厚T2より大きく設定する。このように構成することで、温度上昇による第1ホログラム1の回折効率低下と第2ホログラム2の回折効率増加がキャンセルされ、更には、温度上昇による第1ホログラム1の透過率増加と第3ホログラム3の透過率低下がキャンセルされる。従って、分割された二つの光束の温度による変動が抑制され、光束分割素子として温度特性が改善される。
【0076】
ここで、一般的に光学素子は光利用効率が高い方が好ましいため、光束分割素子としても分割効率は高い方が好ましい。そこで、図17、18に示すように、第3ホログラムの膜厚T3を最大回折効率を得る膜厚Tmaxの略2倍とすることで、第3ホログラム3の透過率は最初略100%の非常に高い効率を示し、光束分割素子としても高い光利用効率が得られる
次に、この発明の参考例につき図19を参照して説明する。図19は、この発明の参考例における光束分割素子の概略構成を示す模式図である。この第2の実施形態においては、第1ホログラム素子1と第2ホログラム素子213、23の膜厚(セルギャップ)Tが同一である。そして、入射光のp偏光成分とs偏光成分の強度の割合が略均等になるように入射偏光方向を設定することを特徴としている。このような構成の場合、入射偏光方向の設定調整等が必要となるが、同一の膜厚を有するため、一定条件の生産プロセスによる素子で実現できるため、生産性が向上できる。
【0077】
前記したように、ホログラム層の膜厚(セルギャップ)が同一のホログラム素子を多段配列した構成において、回折効率が最大となるような膜厚(セルギャップ)Tmaxを設定したホログラム素子を用いる場合、入射偏光方向がホログラム素子の周期的な構造に略平行(p偏光)および垂直(s偏光)なときは光束が分割されない。
【0078】
これはホログラム素子への入射偏光成分(p偏光およびs偏光)の光強度に依存し、図20のように周期的構造の配列方向に平行な偏光方向が入射するとき、入射光の強度は、s偏光成分がほとんどなく、ほぼp偏光成分であるため、入射光はs偏光成分に係る透過光はほとんど発生せず、p偏光成分に係る回折光のみが発生する。
【0079】
ここで、図21に示すように、周期的構造の配列方向に平行な方向から偏光方向を少し傾けて入射するとき、入射光の強度はs偏光成分とp偏光成分とに分けられ、強度の割合としてはp偏光成分の方がs偏光成分より大きく、p偏光成分に係る回折光が大きく発生し、s偏光成分に係る透過光も少し発生する。また、図22に示すように、周期的構造の配列方向に平行な方向から偏光方向を45°(135°)傾けて入射するとき、入射光の強度は等しい割合でs偏光成分とp偏光成分とに分けられるため、p偏光成分に係る回折光とs偏光成分に係る透過光は均等になる。このように、第1ホログラム素子1の第1回折偏向光と第1透過直進光の割合は入射光のs偏光成分とp偏光成分の光強度の割合に依存する。また、周期構造の平均的な屈折率も入射偏光方向によって変化し、僅かであるが第1回折偏向光と第1透過直進光の割合に起因する。
【0080】
図21、図22に示すように、周期構造の配列方向とは異なる偏光方向を有する直線偏光を入射し、p偏光成分とs偏光成分の強度を適宜調整することで、第1ホログラム素子1にてp偏光成分は第1回折偏向光10bとなり、s偏向成分は第1透過直進光10aとなる。次に、第2ホログラム素子2にてp偏向成分は第2回折偏向光20bとなり、s偏向成分は第2透過直進光20aとなり、光束が分割される。
【0081】
ここで、入射偏光方向の設定は一般的な位相差板により設定でき、偏光板、グラントムソンプリズム、1/2波長板、などが使用できる。また、光源としてLD等の偏光光を用いる場合は光源を回転させることでも設定できる。
【0082】
前述したようにホログラム素子には温度依存性がある。そこで、ホログラム素子のホログラム層の膜厚を異ならせてホログラム素子のΔn・Tと回折効率の関係を調べた。図23、図24、図25に、ホログラム素子のΔn・Tと回折効率の関係を示す。各ホログラム素子の温度上昇による回折効率の変化を矢印で示す。ただし、屈折率変調量Δnは膜厚Tによらず一定であると仮定している。
【0083】
図22は、第1ホログラム素子1と第2ホログラム素子2のホログラム層13,23の膜厚(セルギャップ)T、Tが、最大回折効率を得る膜厚Tmaxと同じである場合を示している。この場合には、温度上昇により、第1ホログラム1、第2ホログラム2、第3ホログラム3ともに回折効率が低下している。
【0084】
これに対し、図23は第1ホログラム素子1と第2ホログラム素子2のホログラム層13、23の膜厚(セルギャップ)T、Tが同じで、かつ最大回折効率を得る膜厚Tmaxよりも大きい関係にある場合を示している。この場合は、温度上昇により第1ホログラム1、第2ホログラム2ともに回折効率が一旦増加してから低下している。このことから、第1ホログラム素子1と第2ホログラム素子2のホログラム層の膜厚(セルギャップ)T、Tが略同じである場合、最大回折効率を得る膜厚Tmax以下であると第1ホログラム1、第2ホログラム2ともに温度上昇により回折効率が低下し、光束分割素子100としては温度特性が顕著に悪くなる。
【0085】
しかし、第1,第2ホログラム素子1,2のホログラム層の膜厚T、Tが略同じである場合においても、図23のように、膜厚T、Tが最大回折効率を得る膜厚Tmaxより大きいことで、第1ホログラム1、第2ホログラム2ともに温度上昇により回折効率が一旦増加してから低下するため、若干の変動はあるが、広い温度範囲にて高回折効率を保つことができ、光束分割素子100としては温度特性が改善される。
【0086】
また、図24は、第1ホログラム素子1と第2ホログラム素子2のホログラム層13,23のそれぞれの膜厚(セルギャップ)T、Tが、Tmaxを境に大小関係にある場合を示している。この場合、温度上昇により第1ホログラム1の回折効率は低下し、第2ホログラム2の回折効率は増加している。すなわち、回折効率が略同じとなるように、ホログラム層の膜厚(セルギャップ)を設定し、入射偏光はp偏光成分とs偏光成分の強度の割合が略均等になるように偏光方向を設定し、第1ホログラム1と第2ホログラム2を多段に配列した構成の光束分割素子においては、次のように膜厚を設定することが好ましい。 第1ホログラム1のホログラム層13の膜厚Tは最大回折効率を得る膜厚Tmaxより小さく、第2ホログラム2のホログラム層23の膜厚Tは最大回折効率を得る膜厚Tmaxより大きく設定することで、温度上昇による第1ホログラム1の回折効率低下と第2ホログラム2の回折効率増加がキャンセルされて分割された光束(第2回折偏向光)の温度な特性が改善される。
【0087】
図19に示すような構成における光束分割素子100の回折効率と入射偏光方向との理想的な関係を図25に示す。図25から入射偏光方向が周期的な構造の配列方向に対して、略45°または略135°(45°+90°)である場合、光束の分割バランスが略50%であり、用途にもよるが一般的な光学素子として問題ない特性が得られる。図25から具体的には、入射偏光方向が周期的な構造の配列方向に対して、43°±3°の範囲で光束のバランスが40%から60%の範囲となり、一般的な光学素子として問題ない特性が得られる。
【0088】
また、入射偏光方向の設定に位相差板として、1/4波長板を使用して円偏光または楕円偏光とする場合、円偏光においては、図27に示すように入射光のp偏光成分とs偏光成分の強度は均等に設定され、入射光を均等に分割することができる。楕円偏光においても方位角を適宜設定することでp偏光成分とs偏光成分の強度の比率が設定できるため、均等な光束分割のバランスをたもつことができる。図27においては、円偏光の回転を左回転としているが、回転方向は左右どちらでもよい。このように円偏光を入射する場合、光源側の偏光方向に対して軸を設定すればよく、偏光ホログラム素子への偏光方向の設定が不要になる。
【0089】
この発明の第2の実施形態における光束分割素子の概略構成を図28、図29に示す。この実施形態は、第1ホログラム2と第3ホログラム3の後段にそれぞれ光量調整手段4を備えている。図28、図29では、模式的にホログラム素子と離して記載しているが、所望の光束が調整可能でかつ他の光束に影響を及ぼさなければホログラム素子と一体となっていてもよい。ここで、光量調整手段4としては一般的なNDフィルター、位相差板などが使用できる。このように光量調整手段4を備える場合、分割した光束の強度をそれぞれ設定できる。すなわち、温度上昇により分割した一方の光束の強度が低下した場合、光量調整手段4によりもう一方の光束の強度を調整し、分割した光束の強度を略同じに保つことができ、温度特性のよい光束分割装置が実現できる。
【0090】
ここで、この発明の構成における光束分割素子100に用いるホログラム素子としては、温度依存性を示し、格子ピッチおよび格子傾きが設定可能であれば、図30(a)、図30(b)に示すように、光学異方性を示す領域と光学等方性を示す領域からなる周期構造を有するものが使用できる。例えば、周期構造は等方性媒体あるいは複屈折媒体に格子溝を形成し、等方性媒体あるいは複屈折媒体を埋めたそれぞれの組み合わせが可能である。
【0091】
周期構造の格子溝はフォトリソグラフィーとエッチングまたは切削加工や成形技術等により形成することができる。また、等方性媒体としては、フォトポリマー等の透明樹脂や石英、BK7等の光学硝材が使用できるが、複屈折性を有さなければこれに限るものではない。複屈折媒体としては、高分子複屈折膜(高分子フィルム)、液晶等が使用できる。
【0092】
また、周期構造の形成方法としては、ホログラム記録材料へのステッパによる一般的なマスク露光法、電子ビームによる直接描画法、レーザビームによる直接描画法、二光束干渉露光法などがある。
【0093】
記録材料としては、下記のような一般的な感光材料が使用できる。例えば、重クロム酸ゼラチン、フォトクロック材料、フォトサーモプラスチック、電気光学結晶(例えば、強誘電性酸化物:LiNbO,BaTiO結晶など)、フォトレジスト、フォトポリマー、高分子液晶および高分子分散液晶などがある。
【0094】
特に、汎用性が高いフォトポリマーは、屈折率変調型のホログラムを記録することができるので、高い回折効率が得られ、粒状性がほとんどないため高解像力で、低ノイズのホログラムが得られる。フォトポリマーは非常に多種・多用の材料により組成されており、光架橋型、光重合型に大別できる。光重合型では現像を要するものと不要なものがある。現像工程が不要な材料では、組成面から(a)ポリマー、モノマー、(b)モノマー、モノマー、(c)不活性成分(低分子)、モノマーに分類できる。(a)および(c)はモノマー重合物質とポリマーあるいは低分子化合物との間で大きな屈折率差が生じるように成分が選ばれる。(b)は屈折率の異なる2種類のモノマーで構成されるが、(1)光重合性の異なるモノマー、(2)光重合性と熱重合性のモノマー、(3)光ラジカル重合性と光カチオン重合性のモノマーなどの組み合わせがある。
【0095】
前記した材料において、フォトポリマーやフォトレジストなどの光重合性を有する高分子感光材料は解像力、露光感度、感光波長帯域を幅広く選択でき、高耐環境性に優れ、膜厚・サイズに自由度がある。また粒状性も低い為、ホログラムの特性として高回折効率、高透明性が得られる。
【0096】
また、高回折効率を有する屈折率変調型ホログラムの場合、記録されたホログラム領域における周期構造の屈折率変調の差は大きい方が、高効率が得られる最適な膜厚は小さくなり、それに伴い波長変動や入射角度に依存する回折効率の変化が小さくできる。即ち、得られる高回折効率特性の波長変動や入射角度に対する許容範囲が広いホログラムが実現できる。周期構造の屈折率変調の差が大きくできる感光材料としは、複屈折性を示す高分子複屈折膜、高分子液晶および高分子分散型液晶などがある。
【0097】
高分子複屈折膜は高分子フィルムを延伸して高分子鎖を配向させることによって複屈折性を有した高分子膜であり、スタンパ等で簡単に大量生産することができ、低コストで偏光分離素子の作製ができるといった利点がある。延伸する高分子フィルムの高分子材料としては、例えば、ポリオレフィン系、ポリアクリルレート、ポリカーボネイト(PC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリスチレン等が使用できるが、これに限るものではない。
【0098】
高分子液晶および高分子分散型液晶は、重合性液晶と、非重合性液晶と、重合性モノマーあるいはプレポリマーと、光重合開始剤の何れか一つまたは複数の混合によりなる組成物である。重合性液晶モノマーとしては、液晶性アクリレートモノマーなどを用いることができ、非重合性液晶としては、屈折率異方性を有する液晶ならば一般的なものを使用できる。その相構成はネマチック、コレステリック、スメクチックのいずれのタイプでも良い。
【0099】
重合性モノマーまたはそのプレポリマーとしては、光重合、光架橋可能なモノマー、オリゴマー、プレポリマー及びそれらの混合物を用いることができる。また、上記の他に熱重合禁止剤、可塑剤等が添加されても良い。
【0100】
光重合開始剤としては、公知の材料を用いることができ、添加量は照射する光の波長に対する各材料の吸光度によって異なり、複製時の露光条件によって適宜調整される。
【0101】
上記した感光材料からなる組成物は、露光時の条件を適切に設定することで、偏光方向によって屈折率分布が異なる周期構造を形成することができる(偏光方向によって周期構造における屈折率変調量が異なる)。
【0102】
組成物の例としては高分子モノマー中に非重合性液晶と光重合開始剤を分散させたホログラフィック高分子分散液晶(HPDLC: Holographic Polymer Dispersed Liquid Crystal)あるいは重合性液晶と光重合開始剤を混合させた光硬化型液晶(PPLC: Photo−Polymerized Liquid Crystal)などがある。
【0103】
次に、この発明の光束分割素子に用いることができるホログラム素子として、HPDLCを用いたホログラム素子につき説明する。上記した組成物に干渉縞を露光した場合について説明する。HPDLCについて、干渉露光前の断面構成を図33に示す。非重合性液晶分子と重合性モノマーあるいはプレポリマーと図示しない光重合開始剤とを均一に混合した組成物50を二枚の透明基板51、52間に挟んだ構成である。図34は、相分離によるホログラムの形成過程を模式的に示しており、同図(a)は、露光状態を示す断面図、(b)は露光後、相分離をした場合の断面図、(c)は相分離をした場合の上面図である。図34(a)に示すように、非重合性液晶分子と重合性モノマーあるいはプレポリマーと図示しない光重合開始剤とを均一に混合した組成物30に対して、干渉縞の強度分布が図示のような状態で干渉露光を行う。この露光により、図34(b)、(c)に示すように、干渉縞の明部においてモノマーが移動(高分子と液晶の相分離)して硬化し、干渉縞暗部には液晶が残り、明部で硬化したポリマーに引っ張られて液晶が特定の方向に配向する。この配向のために直交する入射偏光に対し、一方は屈折率変化が生じずほとんど透過する。これと直交する偏光方向は液晶が配向して屈折率が大きい方向と一致することにより、周期的屈折率変化を感じて入射光は回折する。以上によりHPDLCは偏光性回折格子として機能する。
【0104】
また、PPLCにおいては透明電極(ITO)と液晶を配向させる配向層をもつ基板間に光重合性の感応基がついた液晶を封入して液晶を水平配向させる。これに干渉縞を露光すると縞の明部では液晶分子が重合して硬化する。一方縞の暗部の液晶分子は硬化しないで残っている。次に液晶層をはさむ透明電極間に電圧をかけながら光を照射する。このとき暗部の液晶は電圧印加により基板に垂直方向に配向して光により硬化する。以上より干渉縞の明、暗に対応して液晶の配向が水平/垂直の周期構造をもつようになる。このようにして記録した回折格子に直交する偏光を入射させると一方の偏光方向(水平配向した液晶分子の短軸方向と一致)では水平/垂直の配向があっても屈折率変化を感じないで入射光はほとんど透過し、これと直交する方向では水平配向した液晶分子の長軸方向と一致して水平/垂直の配向による屈折率変化を感じて入射光はほとんど回折する。
【0105】
以上のように、組成物材料の重合反応に伴った相分離あるいは重合反応と外場による配向変化などによって偏光選択性を有する偏光ホログラムが作製できる。
【0106】
ホログラム記録用感光材料を成膜する方法としては、一般的な溶剤の成膜手法が適応でき、単基板へのスピンコートやディッピング、対基板で構成されているセルへの毛細管現象あるいは真空による注入方法などがある。
【実施例】
【0107】
以下、具体的実施例、参考例、比較例によるこの発明をさらに詳細に説明するが、この発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0108】
(実施例1)
厚み0.7mmのガラス基板の片面に青色光および赤色光に対する反射防止膜を形成し、およそ4μm〜12μm径のビーズスペーサーを用意し、形成するホログラム層に対応するビーズスペーサーを混入したそれぞれの接着剤により、二枚のガラス基板を貼り合わせた。接着剤の塗布は反射防止膜形成面とは反対の面で、基板の縁2箇所に塗布した。
【0109】
次に、以下の(1)〜(5)の材料の混合物からなる組成物をホットプレートで加熱しながら毛管法によりセル中に注入し、厚み約5μm〜20μmのホログラム層となる組成物層を形成した。なお、この組成物は緑色より短波長の光に反応性を示すため赤色光を用いた暗室下で取り扱った。
【0110】
(1)ネマチック液晶(メルク製Δε>0) 25重量部
(2)ウレタンプレポリマー(共栄社化学製) 75重量部
(3)ジアクリレート(共栄社化学製) 10重量部
(4)メタクリレート(共栄社化学製) 5重量部
(5)ビスアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤(チバガイギー製) 1重量部
【0111】
上記組成物をセル中に注入後、その特性を調べると、この組成物は室温下において等方性を示した。
【0112】
次に、波長442nmのHe−Cdレーザによる二光束干渉露光系を作成した。レーザ光を分割、拡大して平行光とし、二光束干渉の干渉縞に対応して約1μm周期の干渉縞が生成される。セル基板を加熱した状態で、約1分間の二光束干渉露光を行い、液晶ホログラム素子を作製した。この時、一方の入射光軸に対して約7度傾けたて二光束が入射するように設定した。
【0113】
液晶ホログラム素子の特性評価としては、作製した素子に波長655nmの直線偏光のレーザ光を照射して、入射光強度に対する0次光と+1次回折光強度を測定した。入射光強度は5mW程度になるように、NDフィルターを用いて調整し、入射光路中に直線偏光板と半波長板を配置し、半波長板の光軸を45度回転させることで、素子に入射する偏光方向(p偏光、s偏光)を切り換え可能な構成とした。このときのp偏光は干渉露光時の干渉縞と直交方向とし、s偏光は干渉縞の方向とした。
【0114】
液晶ホログラム素子の特性評価としては、作製した素子に波長655nmの直線偏光のレーザー光を照射して、入射光強度に対する0次光と+1次回折光強度を測定した。入射光強度は5mW程度になるようにNDフィルターを用いて調整し、入射光路中に直線偏光板と半波長板を配置し、半波長板の光軸を45度回転させることで、素子に入射する偏光方向(p偏光、s偏光)を切り換え可能な構成とした。このときのp偏光は干渉露光時の干渉縞と直交方向とし、s偏光は干渉縞の方向とした。
【0115】
図33に膜厚5μm〜20μmの液晶ホログラム素子のp偏向における回折効率の特性を示す。図33には前述した干渉露光学系で設計した格子構造の理論値(Kogelnikの結合波理論)も重ねて示している。理論値と実測値の比較から設計通りのホログラム構造ができている事が分かる。また膜厚が9μmで略最大回折効率が得られており、図34に示すホログラム素子の回折効率の温度特性から膜厚が最大効率を得る膜厚9μm以下では、温度上昇に伴い回折効率が低下し、膜厚9μm以上では温度上昇に伴い回折効率が増加することがわかる。このように膜厚の設定により回折効率の温度特性が設定可能であることがわかる。
【0116】
(参考例1)
この発明の前提となる光束分割素子の参考例につき説明する。
【0117】
作製した上記液晶ホログラムの2素子を用いて、図1のように、多段配列して光束分割素子を作製した。素子への入射偏光方向はp偏光とし、配列素子間距離は約10mmとした。第1ホログラム素子、第2ホログラム素子の膜厚を適宜設定し、膜厚設定した光束分割素子の第1透過直進光(第1光束)と第2回折偏向光(第2光束)の入射光に対する光利用効率の温度特性を評価した。
【0118】
(参考例1の比較例)
温度上昇に伴い回折効率が低下するようなホログラムの構成として、第1ホログラム1の膜厚を4.5μm、第2ホログラム2の膜厚を9μmとした2つのホログラムを組み合わせて光束分割素子を形成した。この光束分割素子の光利用効率の温度特性を図35に示す。図35に示すように、室温付近において、第一光束と第二光束の効率は略50%で均等に分割されている。しかし、温度上昇に伴い、分割効率は変化しており、50℃付近では第一光束は約60%で第二光束は約40%となっている。温度変化に伴い第一光束、第二光束ともに効率が変化し、各光束の強度差は約20%と非常に大きくなっている。このような特性の場合は第一光束と第二光束の温度特性をそれぞれ補正する必要がある。
【0119】
(参考例1−1)
温度による光量変動の影響を低減するための素子
温度上昇に伴い回折効率が低下および増加するようなホログラムの構成として、第1ホログラム1の膜厚を4.5μm、第2ホログラム2の膜厚を11.5μmとした2つのホログラムを組み合わせた光束分割素子を用意した。この光束分割素子の光利用効率の温度特性を図36に示す。室温付近において、第一光束は約50%、第二光束は約40%で分割されている。温度上昇に伴う分割効率において、50℃付近では第一光束は約60%であるが、第二光束はほとんど変化せず約40%のままである。このように第二光束の温度による変動は低減されている。これは比較例1に比べて、各光束の強度差は同じであるが、第一光束のみ温度特性を補正すればよく補正が容易になる。
【0120】
(参考例1−2)
温度による光量変動の影響および各光束の強度差を低減するための素子
温度上昇に伴い回折効率が低下および増加するようなホログラムの構成として、第1ホログラム1の膜厚を4.9μm、第2ホログラムの膜厚を11μmとした2つのホログラムを組み合わせた光束分割素子を用意した。この光束分割素子の光利用効率の温度特性を図37に示す。室温付近において、第一光束は約45%、第二光束は約48%で略均等に分割されている。ここで温度上昇に伴い分割効率は変化しているが、50℃付近では第一光束は約53%、第二光束は約45%であり、温度による光量変動の影響は低減されている。また、室温〜50℃の温度範囲において、第一光束および第二光束の効率変化は約±5%であり、各光束の強度差は約10%で、比較例1と比較して各光束の強度差も小さくなっている。
【0121】
(実施例)
温度による光量変動の影響および各光束の強度差を低減するための実施例
さらに、作製した上記ホログラムの3素子を用いて、図15のように多段配列して光束分割素子を作製し、前述と同じように、光束分割素子の第3透過直進光(第一光束)と第2回折偏向光(第二光束)の入射光に対する光利用効率の温度特性を評価した。
【0122】
温度上昇に伴い回折効率が低下および増加するようなホログラムの構成として、第1ホログラム1の膜厚を5μm、第2ホログラム2の膜厚を12μm、第3ホログラム3の膜厚を18μm、とした3つのホログラムを組み合わせた光束分割素子を用意した。この光利用効率の温度特性を図38並びに表1に示す。また、第1ホログラム1の膜厚を5μm、第2ホログラム2の膜厚を12μmの2つのホログラム素子で形成した光束分割素子を用意し、光利用効率の温度特性を評価し、その結果を表2に示す。
【0123】
図38及び表1より、この発明の実施例においては、その室温付近において、第一光束は約43%、第二光束は約43%で略均等に分割されている。ここでは温度上昇に伴い分割効率はほとんど変化しておらず、50℃付近で第一光束は約44%であり、第二光束も約44%である。従って、室温〜50℃の温度範囲において、第一光束および第二光束の効率変化は約±1%以内であり、温度特性を補正する必要がない。
【0124】
また、表1と表2の特性を比較すれば、第3ホログラム素子を設けることで、温度特性が更に向上していることが分かる。
【0125】
【表1】

【0126】
【表2】

【0127】
(参考例2)
ここで、作製した上記ホログラムの2素子を用いて、図19のように多段配列して光束分割素子を作製した。素子への入射偏光方向はp偏光から45°回転した偏光方向とし、配列素子間距離は約10mmとした。第1ホログラム素子1、第2ホログラム素子2の膜厚を適宜設定し、膜厚設定した光束分割素子の第1透過直進光(第一光束)と第2回折偏向光(第二光束)の入射光に対する光利用効率の温度特性を評価した。
【0128】
(参考例2−比較例1)
温度上昇に伴い回折効率が低下するようなホログラムの構成として、第1ホログラム1の膜厚を9μm、第2ホログラム2の膜厚を9μmとした2つのホログラムを組み合わせた光束分割素子を用意した。この光束分割素子の光利用効率の温度特性を図39に示す。室温付近において、第一光束と第二光束の効率は略50%で均等に分割されている。しかし、温度上昇に伴い、分割効率は変化しており、50℃付近では第一光束は約52%で第二光束は約45%となっており、各光束の強度差は7%と大きく、温度による特性変動の影響が大きい。
【0129】
(参考例2−1)
温度による光量変動の影響および各光束の強度差を低減するための素子
温度上昇に伴い回折効率が低下および増加するようなホログラムの構成として、第1ホログラム1の膜厚を9μm、第2ホログラムの膜厚を10μmとした2つのホログラムを組み合わせた光束分割素子を用意した。この光束分割素子の光利用効率の温度特性を図40に示す。室温付近において、第一光束と第二光束の効率は略50%で均等に分割されている。しかし、温度上昇に伴い、分割効率は若干変化しており、50℃付近では第一光束は約52%で第二光束は約47%となっており、各光束の強度差は5%で、上記の参考例2−比較例1に比べて温度による特性変動の影響が低減された。
【0130】
(参考例3)
ここで、作製した上記ホログラムの2素子を用いて、図28のように多段配列して光束分割素子を作製した。素子への入射偏光方向はp偏光から45°回転した偏光方向とし、配列素子間距離は約10mmとした。第1ホログラム素子1、第2ホログラム素子2の膜厚を適宜設定し、膜厚設定した光束分割素子の第1透過直進光(第一光束)と第2回折偏向光(第二光束)の入射光に対する光利用効率の温度特性を評価した。光量調整手段4は第1ホログラム素子の後にのみ設置した。
【0131】
(参考例3−比較例1)
温度上昇に伴い回折効率が低下および増加するようなホログラムの構成として、第1ホログラム1の膜厚を8μm、第2ホログラム2の膜厚を10μmとした2つのホログラムを組み合わせた光束分割素子を用意した。この光束分割素子の光利用効率の温度特性を図41に示す。室温付近において、第一光束と第二光束の効率はそれぞれ52%、46%で分割されている。温度上昇に伴い分割効率はほとんど変化しおらず、50℃付近では第一光束は約56%で第二光束は約43%となっている。しかし、室温〜50℃付近において各光束の強度差は6〜13%と大きい。
【0132】
(参考例3)
温度による光量変動の影響および各光束の強度差を低減するための素子
温度上昇に伴い回折効率が低下および増加するようなホログラムの構成として、第1ホログラムの膜厚を8μm、第2ホログラム2の膜厚を10μmとした2つのホログラムを組み合わせ、かつ第1ホログラム素子1の後に光量調整手段4として、透過率85%のNDフィルターを設置した光束分割素子を用意した。この光束分割素子の光利用効率の温度特性を図42に示す。室温付近において、第一光束と第二光束の効率は略45%で均等に分割されている。温度上昇に伴い分割効率はほとんど変化しおらず、50℃付近では第一光束は約47%で第二光束は約43%となっている。室温〜50℃付近において各光束の強度差は±2%と小さく。参考例3−比較例1に比べて各光束の強度差は小さくなった。
【0133】
上述のように、温度特性の異なるホログラムを組み合わせた光束分割素子の構成において、ホログラムの温度特性を膜厚により設定することで、温度変化に伴う分割効率特性の変動が抑制された光束分割素子が実現できていることが確認できた。
【0134】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。この発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0135】
この発明は、レーザプリンタ、デジタル複写機、普通紙ファックス等に用いられる光走査装置及び画像形成装置、投射画像形成装置などに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0136】
【図1】この発明の前提となる光束分割素子の概略構成を示す模式図である。
【図2】この発明の前提となる光束分割素子の概略構成を示す模式図である。
【図3】この発明の前提となる光束分割素子の概略構成を示す模式図である。
【図4】体積ホログラム素子の断面構造のモデルを示す模式図である。ホログラム素子の断面構造のモデルを示す模式図である。
【図5】ホログラム素子の構成を示す模式的断面図である。
【図6】ホログラム素子の機能動作を示す模式図である。
【図7】体積型屈折率変調ホログラムの屈折率変調量Δnと回折効率の関係を示す図である。
【図8】等方性領域の屈折率nと複屈折性領域の屈折率no、neの一般的な温度依存性を示す特性図である。
【図9】体積型屈折率変調ホログラム素子の回折効率および透過率と膜厚の関係を示す図である。
【図10】ホログラム層の膜厚が同一である偏光ホログラム素子を第1ホログラムと第2ホログラム2として多段に配列した光束分割素子を示す模式図である。
【図11】ホログラム層の膜厚が同一である偏光ホログラム素子を第1ホログラムと第2ホログラム2として多段に配列した光束分割素子を示す模式図である。
【図12】この発明の実施形態における光束分割素子の概略構成を示す模式図である。
【図13】Δn・Tと回折効率の関係を示す特性図である。
【図14】Δn・Tと回折効率の関係を示す特性図である。
【図15】この発明の実施形態における光束分割素子の概略構成を示す模式図である。
【図16】この発明の実施形態における光束分割素子の概略構成を示す模式図である。
【図17】この発明の実施形態におけるΔn・Tと回折効率の関係を示す特性図である。
【図18】この発明の実施形態におけるΔn・Tと回折効率の関係を示す特性図である。
【図19】この発明の前提となる光束分割素子の概略構成を示す模式図である。
【図20】この発明の実施形態にかかる光束分割素子のホログラム素子に周期的構造の配列方向に平行な偏光方向の光が入射する様子を示す模式図である。
【図21】この発明の実施形態にかかる光束分割素子のホログラム素子に周期的構造の配列方向に平行な方向から偏光方向を少し傾けて入射する様子を示す模式図である。
【図22】この発明の実施形態にかかる光束分割素子のホログラム素子に周期的構造の配列方向に平行な方向から偏光方向を45°傾けて入射する様子を示す模式図である。
【図23】ホログラム素子のΔn・Tと回折効率の関係を示す特性図である。
【図24】ホログラム素子のΔn・Tと回折効率の関係を示す特性図である。
【図25】ホログラム素子のΔn・Tと回折効率の関係を示す特性図である。
【図26】光束分割素子の光利用効率と入射偏向方向との理想的な関係を示す図である。
【図27】この発明の実施形態にかかる光束分割素子に位相基板として1/4波長版を使用して円偏向又は楕円偏向により偏向した光束を入射した様子を示す図である。
【図28】この発明の第2の実施形態における光束分割素子の概略構成を示す模式図である。
【図29】この発明の第2の実施形態における光束分割素子の概略構成を示す模式図である。
【図30】この発明に用いられるホログラム素子の一例を示す模式図である。
【図31】この発明に用いられる液晶ホログラム素子の干渉露光前の断面構成を示す模式図である。
【図32】相分離によるホログラム形成過程を示し、(a)は露光中の模式的断面図、(b)は相分離した状態の模式的断面図、(c)は、相分離した状態の模式的上面図である。
【図33】膜厚5μm〜20μmの液晶ホログラム素子のp偏向における回折効率の特性を示す特性図ある。
【図34】膜厚5μm〜18μmの液晶ホログラム素子の回折効率の温度特性を示す特性図である。
【図35】第1ホログラムの膜厚を4.5μm、第2ホログラムの膜厚を9μmとした2つのホログラムを組み合わせた光束分割素子の光利用効率の温度特性を示す図である。
【図36】第1ホログラムの膜厚を4.5μm、第2ホログラムの膜厚を11.5μmとした2つのホログラムを組み合わせた光束分割素子の光利用効率の温度特性を示す図である。
【図37】第1ホログラムの膜厚を4.9μm、第2ホログラムの膜厚を11μmとした2つのホログラムを組み合わせた光束分割素子の光利用効率の温度特性を示す図である。
【図38】この発明の実施例に係る光利用効率の温度特性を示す図であり、第1ホログラムの膜厚を5μm、第2ホログラムの膜厚を12μm、第3ホログラムの膜厚を18μmとしたものである。
【図39】第1ホログラムの膜厚を9μm、第2ホログラムの膜厚を9μmとした2つのホログラムを組み合わせた光束分割素子の光利用効率の温度特性を示す図である。
【図40】第1ホログラムの膜厚を9μm、第2ホログラムの膜厚を10μmとした2つのホログラムを組み合わせた光束分割素子の光利用効率の温度特性を示す図である。
【図41】第1ホログラムの膜厚を8μm、第2ホログラムの膜厚を10μmとした2つのホログラムを組み合わせた光束分割素子の光利用効率の温度特性を示す図である。
【図42】第1ホログラムの膜厚を8μm、第2ホログラム2の膜厚を10μmとした2つのホログラムを組み合わせ、かつ第1ホログラム素子1の後に光量調整手段を設けた光束分割素子の光利用効率の温度特性を示す図である。
【符号の説明】
【0137】
1 第1ホログラム素子、2 第2ホログラム素子、3 第3ホログラム素子、4 光量調整手段、11、12、21、22、31、32 基板、13、23、33 ホログラム層、100 光束分割素子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学異方性を示す領域と光学等方性を示す領域からなる周期的な構造を有し、透過光または回折光が異なる温度特性を示すホログラム素子を2つ以上組み合わせてなる光束分割素子であって、光の入射側に対して、第1ホログラム素子、第2ホログラム素子及び第3のホログラム素子と配列し、前記第1ホログラム素子の透過および回折により光が分割され、前記第1ホログラム素子の透過光が前記第3ホログラム素子に与えられ、前記第1ホログラム素子の回折光が第2ホログラム素子に与えられ、前記第2ホログラム素子の透過および回折により前記分割光の光軸が調整されると共に、前記第3ホログラム素子の透過により前記第1ホログラム素子からの分割透過光の光強度が調整され、入射光束を二光束以上に分割して出射することを特徴とする光束分割素子。
【請求項2】
前記ホログラム素子の透過光または回折光の温度特性はホログラムの周期構造の膜厚により設定されることを特徴とする請求項1に記載の光束分割素子。
【請求項3】
前記ホログラム素子の透過光または回折光の温度特性はホログラムの周期構造にて生成される屈折率変調量振幅により設定されることを特徴とする請求項1に記載の光束分割素子。
【請求項4】
前記第1ホログラム素子、第2ホログラム素子及び第3ホログラム素子の膜厚をそれぞれT、T、Tとし、+1次光または−1次光が最大回折効率となる前記ホログラム素子の膜厚をTmaxとする場合、TはTより小さく、TはTより大きく、かつTmaxがTとTの間であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の光束分割素子。
【請求項5】
前記第3ホログラム素子の膜厚T3が前記ホログラム素子の膜厚Tmaxの略2倍であることを特徴とする請求項4に記載の光束分割素子。
【請求項6】
前記第1ホログラム素子と第2ホログラム素子の周期構造の膜厚T、Tが、|Tmax−T|≦|Tmax−T|の関係にあることを特徴とする請求項4に記載の光束分割素子。
【請求項7】
前記第1ホログラム素子の周期構造の膜厚Tが、第2ホログラム素子の周期構造の膜厚Tの略半分であることを特徴とする請求項4または6に記載の光束分割素子。
【請求項8】
前記ホログラム素子の周期的な構造は非重合性液晶と、重合性モノマーあるいはプレポリマーと、光重合開始剤とからなる組成物を一対の透明基板間に保持し、前記組成物を二光束以上の多光束干渉露光することにより、主にポリマーから成る層と主に非重合性液晶から成る層との周期的な相分離構造を形成したポリマー分散型液晶ホログラム素子であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の光束分割素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【公開番号】特開2008−233216(P2008−233216A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−68975(P2007−68975)
【出願日】平成19年3月16日(2007.3.16)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】