説明

光検出用回路及び光検出器

【課題】 PMTへの入射光量を広いダイナミックレンジで且つ小さい消費電力で検出できる光検出用回路及び光検出器を提供する。
【解決手段】 光検出用回路2は、PMT3の陽極33に接続される。光検出用回路2は、陽極33からの出力電流Iを電圧信号V1に変換するI/V変換回路20と、電圧信号V1から暗電流(ダークカウント)を除去して電圧信号V2を生成する暗電流除去回路21と、電圧信号V2を成形する一次遅れフィルタ回路22と、一次遅れフィルタ回路22を通過した電圧信号V3をディジタルデータD1に変換するA/D変換回路23cと、ディジタルデータD1を積算することによりPMT3への入射光量に応じた光量データDoutを生成する演算処理装置(CPU)23dとを備える。そして、演算処理装置23dは、ディジタルデータD1の値の減少に伴い積算時間をより長時間に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電子増倍管に接続される光検出用回路及び光検出器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、光電子増倍管(PhotoMultiplier Tube:以下PMTという)を用いて光を検出する際に、より広いダイナミックレンジ(すなわち、検出できる最小光量と最大光量との比)で光量を測定することが求められている。例えば、蛍光物質からの遅延蛍光量の時間経過を測定する際には、測定当初においては比較的強い光を検出することが求められる一方、時間を経るに従って微弱な光を検出することが求められる。
【0003】
従来より、比較的強い光の光量を検出する際には、いわゆるアナログ方式が用いられる。アナログ方式は、PMTからの出力電流を電圧信号に変換し、この電圧信号のレベルを測定することにより光量を検出する方式である。また、微弱光の光量を検出する際には、いわゆるフォトンカウンティング方式が用いられる。フォトンカウンティング方式は、PMTからの出力電流に含まれるパルス(PMTに入射した光子1個に相当)の数をカウントすることにより、光量を検出する方式である。しかし、従来のアナログ方式では、入射光が微弱になると、光子1個に対応するパルスの高さや間隔のばらつきによって検出結果が安定せず、光量値を特定し難い。また、フォトンカウンティング方式では、入射光が比較的強い場合に、PMTからの出力電流に含まれる複数のパルスが互いに結合してしまい、パルス数を正確にカウントすることが困難となる。
【0004】
これらの問題点を解決するために、例えば特許文献1には、アナログ方式及びフォトンカウンティング方式の双方を備える光子計数測光装置が開示されている。この装置では、PMTへの入射光が比較的強い場合にはアナログ方式を用い、PMTへの入射光が微弱になるとフォトンカウンティング方式に切り替えることにより、極微弱光から強い光までの光量を1台の装置で測光可能とすることを目指している。
【0005】
【特許文献1】特公平7−18757
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された装置では、アナログ方式及びフォトンカウンティング方式の双方を備えることにより、回路規模が大きくなってしまう。特に、フォトンカウンティング方式では、PMTへの光子の入射によって発生した幅が狭いパルスを認識できる程度の速さ(クロック周波数)で回路を動作させる必要があり、回路規模が大きくなるとともに消費電力が増大する要因となる。回路の消費電力が増大すると発熱量も増大するが、PMTの光電変換特性は周囲の温度変化に敏感である為、PMTの近傍に配置される回路の消費電力は小さいことが好ましい。
【0007】
本発明は、上記した問題点を鑑みてなされたものであり、PMTへの入射光量を広いダイナミックレンジで且つ小さい消費電力で検出できる光検出用回路及び光検出器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した課題を解決するために、本発明による第1の光検出用回路は、光電陰極への入射光量に応じた出力電流を陽極において提供する光電子増倍管に接続される光検出用回路であって、陽極からの出力電流を電圧信号に変換する電流電圧変換回路と、電圧信号を成形する一次遅れフィルタ回路と、一次遅れフィルタ回路を通過した電圧信号をディジタルデータに変換するA/D変換回路と、ディジタルデータを積算することにより入射光量に応じた光量データを生成する光量データ生成手段とを備え、光量データ生成手段は、ディジタルデータの値の減少に伴い積算時間をより長時間に設定することを特徴とする。
【0009】
上記した第1の光検出用回路では、一次遅れフィルタ回路が電圧信号を成形することにより、入射光が微弱な場合に、光子1個の入射に対応するパルスの幅が拡がり、比較的低速な回路動作でパルスを捉える(すなわちA/D変換する)ことができる。従って、フォトンカウンティング方式のような高速な回路動作を必要としない。更に、入射光が微弱な場合にディジタルデータの積算時間を長くすることにより、個々のパルスの高さや間隔のばらつきを平均化し、光量値を安定して検出できる。なお、入射光が比較的強い場合には、ディジタルデータの積算時間を短くすることにより入射光の強度変化を素早く捉え、正確な光量値を検出できる。
【0010】
また、本発明による第2の光検出用回路は、光電陰極への入射光量に応じた出力電流を陽極において提供する光電子増倍管に接続される光検出用回路であって、陽極からの出力電流を電圧信号に変換する電流電圧変換回路と、電圧信号を成形する複数の一次遅れフィルタ回路と、複数の一次遅れフィルタ回路のそれぞれから出力された電圧信号をディジタルデータに変換するA/D変換回路と、複数の一次遅れフィルタ回路のそれぞれに対応する各ディジタルデータのうちいずれかのディジタルデータを選択して積算することにより入射光量に応じた光量データを生成する光量データ生成手段とを備え、複数の一次遅れフィルタ回路におけるカットオフ周波数が互いに異なっており、光量データ生成手段は、入射光量の減少に伴い、より低いカットオフ周波数の一次遅れフィルタ回路に対応するディジタルデータを選択することを特徴とする。
【0011】
上記した第2の光検出用回路では、第1の光検出用回路と同様に、一次遅れフィルタ回路が電圧信号を成形することにより、入射光が微弱な場合に、光子1個の入射に対応するパルスの幅が拡がり、比較的低速な回路動作でパルスを捉えることができる。従って、フォトンカウンティング方式のような高速な回路動作を必要としない。
【0012】
更に、この第2の光検出用回路では、光量データ生成手段が、光電陰極への入射光量の減少に伴って、より低いカットオフ周波数の一次遅れフィルタ回路に対応するディジタルデータを選択し、積算している。一次遅れフィルタ回路においては、カットオフ周波数が低いほど、この一次遅れフィルタ回路が有する時定数が大きくなるので、この一次遅れフィルタ回路を通過したパルスの波高がより低くなるとともに、該パルスの幅がより拡がることとなる。従って、入射光が微弱な場合、より低いカットオフ周波数を有する一次遅れフィルタ回路を通過した電圧信号に基づくディジタルデータを選択することにより、個々のパルスの高さや間隔のばらつきを平均化し、光量値を安定して検出できる。なお、入射光が比較的強い場合には、比較的高いカットオフ周波数を有する一次遅れフィルタ回路に対応するディジタルデータを選択することにより、入射光の強度変化を素早く捉え、正確な光量値を検出できる。
【0013】
また、本発明による第3の光検出用回路は、光電陰極への入射光量に応じた出力電流を陽極において提供する光電子増倍管に接続される光検出用回路であって、陽極からの出力電流を電圧信号に変換する電流電圧変換回路と、カットオフ周波数が可変であり、電圧信号を成形する一次遅れフィルタ回路と、入射光量の減少に伴い一次遅れフィルタ回路のカットオフ周波数を低下させるカットオフ周波数制御回路と、一次遅れフィルタ回路を通過した電圧信号をディジタルデータに変換するA/D変換回路と、ディジタルデータを積算することにより入射光量に応じた光量データを生成する光量データ生成手段とを備えることを特徴とする。
【0014】
上記した第3の光検出用回路では、第1の光検出用回路と同様に、一次遅れフィルタ回路が電圧信号を成形することにより、入射光が微弱な場合に、光子1個の入射に対応するパルスの幅が拡がり、比較的低速な回路動作でパルスを捉えることができる。従って、フォトンカウンティング方式のような高速な回路動作を必要としない。
【0015】
更に、この第3の光検出用回路は、カットオフ周波数が可変(変更可能)な一次遅れフィルタ回路を備えており、且つ、カットオフ周波数制御回路が、入射光量の減少に伴い一次遅れフィルタ回路のカットオフ周波数を低下させている。既述したように、一次遅れフィルタ回路においては、カットオフ周波数が低いほど、電圧信号に含まれるパルスの波高が低下するとともにパルスの幅が拡大する。従って、入射光が微弱な場合、一次遅れフィルタ回路が有するカットオフ周波数を低下させることにより、個々のパルスの高さや間隔のばらつきを平均化し、光量値を安定して検出できる。なお、入射光が比較的強い場合には、一次遅れフィルタ回路が有するカットオフ周波数を比較的高くすることにより、入射光の強度変化を素早く捉え、正確な光量値を検出できる。
【0016】
以上のように、本発明による第1〜第3の光検出用回路によれば、PMTへの入射光が微弱な場合でもアナログ方式を用いて光量を安定して検出できるので、高速な回路動作を必要とせず、PMTへの入射光量を広いダイナミックレンジで且つ小さい消費電力で検出できる。
【0017】
また、本発明による第4の光検出用回路は、光電陰極への入射光量に応じた出力電流を陽極において提供する光電子増倍管に接続される光検出用回路であって、陽極と電気的に接続された入力端を有する電流電圧変換回路と、電流電圧変換回路の出力端と電気的に接続された入力端を有する一または複数の一次遅れフィルタ回路と、一または複数の一次遅れフィルタ回路それぞれの出力端と電気的に接続された入力端を有するA/D変換回路と、A/D変換回路の出力端と電気的に接続された演算処理装置とを備えることを特徴とする。
【0018】
上記した第4の光検出用回路では、電流電圧変換回路から出力された電圧信号が一次遅れフィルタ回路を通過することにより、入射光が微弱な場合に、光子1個の入射に対応する個々のパルスの幅が拡がり、比較的低速な回路動作でパルスを捉えることができる。従って、フォトンカウンティング方式のような高速な回路動作を必要としないので、アナログ方式を用いて比較的強い入射光から微弱な入射光までを広いダイナミックレンジで且つ小さい消費電力で検出できる。
【0019】
また、上記第1〜4の光検出用回路は、電流電圧変換回路と一次遅れフィルタ回路との間に電気的に接続された暗電流除去回路を更に備えることを特徴としてもよい。これにより、電流電圧変換回路からの電圧信号に含まれる暗電流を除去し、測定精度を高めることができる。
【0020】
また、本発明による光検出器は、入射光量に応じた光電子を放出する光電陰極、光電子を増倍する増倍部、及び増倍部によって増倍された電子を収集して出力電流を提供する陽極を有する光電子増倍管と、上記したいずれかの光検出用回路とを備えることを特徴とする。この光検出器によれば、上記したいずれかの光検出用回路を備えることにより、PMTへの入射光量を広いダイナミックレンジで且つ小さい消費電力で検出できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明による光検出用回路及び光検出器によれば、PMTへの入射光量を広いダイナミックレンジ且つ小さい消費電力で検出できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、添付図面を参照しながら本発明による光検出用回路及び光検出器の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0023】
(第1の実施の形態)
本発明による光検出用回路及び光検出器の第1実施形態について説明する。図1は、本実施形態による光検出器1を用いた光量測定の一例を説明するための図である。図1に示す光量測定では、容器7に収容された試料6に光源8からの励起光L1を照射した後、試料6からの遅延蛍光L2の強さの時間経過をPMT3によって検出する。このPMT3には高圧電源を含む電圧印加手段4が接続されており、PMT3への遅延蛍光L2の入射光量に応じた出力電流Iが光検出用回路2へ提供される。光検出用回路2は、PMT3からの出力電流Iに基づいて光量データDoutを生成し、光量データDoutをモニタ5に表示させる。
【0024】
図2は、本実施形態の光検出用回路2及びPMT3の構成を示すブロック図である。図2を参照すると、PMT3は、被検出光L(例えば図1の遅延蛍光L2)の入射光量に応じた光電子を放出する光電陰極31と、光電子を増倍する増倍部32と、増倍部32によって増倍された電子を収集する陽極33とを真空管34の内部に有する。増倍部32は、複数段に配置されたダイノードを有する。初段のダイノードは光電陰極31からの光電子を受ける位置に配置され、以降のダイノードは前段のダイノードからの二次電子を受ける位置に配置されている。陽極33は、最終段ダイノードからの二次電子を受ける位置に配置されている。
【0025】
電圧印加手段4は、光電陰極31及び増倍部32の各ダイノードに所定の電位勾配を与えるための手段である。電圧印加手段4は、高圧電源41及び分圧抵抗群42を含んで構成されている。分圧抵抗群42の一端は高圧電源41の負電圧出力端子に接続されており、分圧抵抗群42の他端は最終段ダイノード及び接地電位に電気的に接続されている。そして、分圧抵抗群42に含まれる各分圧抵抗間は、それぞれ増倍部32の各ダイノードに電気的に接続されている。この構成により、光電陰極31には所定の負電位が与えられ、各ダイノードには分圧抵抗群42によって分圧された電位勾配がそれぞれ与えられる。
【0026】
PMT3の光電陰極31に被検出光Lが入射すると、光電陰極31において入射光量に応じた光電子が発生する。光電陰極31及び増倍部32の各ダイノードには電圧印加手段4によって所定の電位勾配が与えられているので、光電陰極31において発生した光電子は増倍部32の各ダイノードへ順に放出されて二次電子増倍される。増倍された二次電子は陽極33に収集され、陽極33から出力されて出力電流Iとなり、光検出用回路2へ提供される。
【0027】
光検出用回路2は、電流電圧変換回路(以下、I/V変換回路)20、暗電流除去回路21、一次遅れフィルタ回路22、及びマイクロプロセッサ23を有する。ここで、図3(a)〜図3(d)は、I/V変換回路20から出力される電圧信号V1、暗電流除去回路21から出力される電圧信号V2、一次遅れフィルタ回路22から出力される電圧信号V3、及びマイクロプロセッサ23内部において生成されるディジタルデータD1の信号波形の一例をそれぞれ示すグラフである。なお、これらのグラフは、いずれもPMT3への入射光量が微弱である場合を示しており、光子1個の入射に対応したパルスPを複数含んでいる。
【0028】
I/V変換回路20は、陽極33からの出力電流Iを電圧信号V1に変換するための回路である。I/V変換回路20は、陽極33に電気的に接続され、出力電流Iを入力する入力端20aと、電圧信号V1を出力するための出力端20bとを有する。I/V変換回路20は、陽極33から受けた出力電流Iの電流値に応じた電圧値を有する電圧信号V1を生成し、電圧信号V1を出力端20bからI/V変換回路20の外部へ出力する。なお、I/V変換回路20としては、例えば10kHz程度の周波数特性を有する回路を構成することが好ましい。また、遅延蛍光L2(図1)の測定において、定格電圧印加時に6桁〜7桁程度の増幅率をPMT3が有する場合、フルスケールで10μA〜1μA程度の出力電流Iを入力できるようにI/V変換回路20の入力範囲を設定するとよい。
【0029】
暗電流除去回路21は、電圧信号V1から暗電流成分(もしくは、入射光とは無関係に発生するパルス状のダークカウント成分)を除去するための回路である。暗電流除去回路21は、I/V変換回路20の出力端20bに電気的に接続され、電圧信号V1を入力する入力端21aと、電圧信号V2を出力するための出力端21bとを有する。本実施形態の暗電流除去回路21は、I/V変換回路20から受けた電圧信号V1を1.1倍〜2倍程度に増幅する増幅回路を含んで構成されている。そして、図3(b)に示すように、暗電流除去回路21に含まれる増幅回路は、増幅後の電圧信号V2に含まれる暗電流成分(ダークカウント成分)の多くが基準電位(図3(b)では0[V])以下となるようにオフセット調整がなされている。
【0030】
電圧信号V2は、一次遅れフィルタ回路22を通過した後にアナログ・ディジタル変換(以下、A/D変換)を施される(後述)。このとき、基準電位以下の信号は変換されないので、基準電位以下の暗電流成分(ダークカウント成分)は除去されることとなる。すなわち、暗電流除去回路21において、暗電流成分(ダークカウント成分)の多くが基準電位以下となるようにオフセット調整がなされることにより、電圧信号V2から暗電流(ダークカウント成分)が実質的に除去される。
【0031】
一次遅れフィルタ回路22は、暗電流除去回路21の出力端21bに電気的に接続され、電圧信号V2を入力する入力端22aと、電圧信号V3を出力するための出力端22bとを有する。一次遅れフィルタ回路22は、暗電流除去回路21から受けた電圧信号V2に含まれるパルスPをなだらかに成形するための回路である。すなわち、一次遅れフィルタ回路22は、いわゆるローパスフィルタの構成を有しており、電圧信号V2に含まれるパルスPのピーク値を低減するとともにパルスPの幅を拡げる作用がある。従って、図3(c)に示すように、一次遅れフィルタ回路22から出力される電圧信号V3に含まれるパルスPは、電圧信号V2(図3(b))に含まれるパルスPよりもピーク電圧値が低く、且つ時間幅が広くなっている。
【0032】
なお、一次遅れフィルタ回路22のカットオフ周波数は、例えば遅延蛍光L2(図1)の測定の場合、1kHz以下に設定されることが好ましい。また、一般的には、一次遅れフィルタ回路はローパスフィルタとして用いられるので、図3(b)に示すような急峻なパルスPが高周波成分として除去される(平坦化される)程度に、カットオフ周波数が設定されることが多い。しかしながら、本実施形態の一次遅れフィルタ回路22では、パルスPを完全には平坦化せず、図3(c)に示すようにパルスPがなだらかに変形する程度(換言すれば、パルスPの存在が認識できる程度)にカットオフ周波数が設定される。
【0033】
マイクロプロセッサ23は、一次遅れフィルタ回路22の出力端22bに電気的に接続され、電圧信号V3を入力する入力端23aと、PMT3への入射光量に応じた光量データDoutを出力するための出力端23bとを有する。本実施形態のマイクロプロセッサ23は、いわゆる1チップマイコンによって実現されており、A/D変換回路23c及び演算処理装置(CPU)23dを内蔵している。A/D変換回路23cは、マイクロプロセッサ23の入力端23aと電気的に接続された入力端を有しており、該入力端に入力された電圧信号V3をディジタルデータD1へ変換する(図3(d))。
【0034】
また、演算処理装置23dは、本実施形態における光量データ生成手段である。すなわち、演算処理装置23dは、A/D変換回路23cの出力端と電気的に接続された入力端を有しており、ディジタルデータD1を積算することによって、PMT3への入射光量に応じた光量データDoutを生成する。また、演算処理装置23dは、ディジタルデータD1の値の減少に伴いディジタルデータD1の積算時間をより長時間に設定する。マイクロプロセッサ23の出力端23bはモニタ5といった表示装置と電気的に接続されており、演算処理装置23dによって生成された光量データDoutがモニタ5へ出力される。モニタ5は、光量データDoutを時系列的にグラフに表示する。
【0035】
ここで、図4は、演算処理装置23dにおける処理の流れを示すフローチャートである。また、図5は、遅延蛍光L2(図1)の光量測定におけるモニタ5の表示(光量データDoutの時間経過)の一例を示すグラフである。演算処理装置23dでは、まず、A/D変換回路23cから順次出力されるディジタルデータD1を積算して単位データDとする(ステップS1)。このとき、演算処理装置23dは、所定の積算時間内に連続するN個(Nは2以上の整数)のディジタルデータD1を積算する。次に、第1の閾値Dth1に対する単位データDの大小を判定し(ステップS2)、単位データDの値が第1の閾値Dth1以上である場合(すなわち、PMT3への入射光量が所定の第1の光量P1以上である場合)には、PMT3への入射光量を示す光量データDoutとして単位データDをモニタ5へ出力し、表示させる(ステップS6、図5のグラフG1)。
【0036】
遅延蛍光L2は、時間経過とともに単調に減少する傾向がある。時間T1後、単位データDの値が第1の閾値Dth1よりも小さくなった場合(すなわち、PMT3への入射光量が所定の第1の光量P1よりも小さくなった場合)には、積算されるディジタルデータD1の数を増やす(すなわち、積算時間を長くする)とともに、積算値のスケールを調整する。具体的には、ステップS1において既に積算したN個のディジタルデータD1の後に続くK×N個のディジタルデータD1を更に積算値に加え、この積算値を(K+1)で除算することによりスケール調整を行い、新たに単位データDとする(ステップS3)。そして、第1の閾値Dth1よりも小さい第2の閾値Dth2に対する単位データDの大小を判定し(ステップS4)、単位データDの値が第2の閾値Dth2以上である場合(すなわち、PMT3への入射光量が所定の第2の光量P2(<P1)以上である場合)には、光量データDoutとして単位データDをモニタ5へ出力し、表示させる(ステップS6、図5のグラフG2)。なお、遅延蛍光L2が単調減少である為、単位データDの値が第1の閾値Dth1より小さくなった後は、ステップS1及びステップS2を省略してもよい。
【0037】
また、時間T2後、単位データDの値が第2の閾値Dth2よりも小さくなった場合(すなわち、PMT3への入射光量が第2の光量P2よりも小さくなった場合)には、積算されるディジタルデータD1の数を更に増やす(すなわち、積算時間を更に長くする)とともに、積算値のスケールを調整する。このとき、積算時間が更に長くなるので、或る積算区間の積算が完了してから次の積算区間を積算すると、単位時間あたりの単位データDの個数が少なくなってしまい、入射光量の素早い変化を見逃すおそれがある。従って、例えば単位データDの移動平均値を求め、この移動平均値を新たに単位データDとするとよい(ステップS5)。
【0038】
具体的には、例えば単位データDが第3の閾値Dth3(<Dth2)以上である場合には、当該積算区間の直前の積算区間における単位データDと当該積算区間における単位データDとの平均値(すなわち、2区間の移動平均値)を求め、この移動平均値を新たに単位データDとする。また、単位データDが第3の閾値Dth3よりも小さく且つ第4の閾値Dth4(<Dth3)以上である場合には、当該積算区間の前後1区間における単位データDと当該積算区間における単位データDとの平均値(すなわち、3区間の移動平均値)を求め、この移動平均値を新たに単位データDとする。このように、単位データDの値が小さくなるほど多くの積算区間の移動平均値を求め、新たな単位データDとする。そして、光量データDoutとしてこの単位データDをモニタ5へ出力し、表示させる(ステップS6、グラフG3)。
【0039】
なお、以上に説明した光検出用回路2における各数値(パラメータ)の一例を以下に示す。以下の数値は、図1に示した遅延蛍光L2の光量測定において好適な数値である。
PMT3の増倍率:7[桁]
I/V変換回路20の入力範囲:5[μA]
I/V変換回路20における出力電流Iの積分時間:100[マイクロ秒]
一次遅れフィルタ回路22のカットオフ周波数:500[Hz]
A/D変換回路23cの変換ビット:10[ビット]
ステップS1での積算個数N:10[個]
ステップS3での倍率K:9[倍]
第1の閾値Dth1:1000
第2の閾値Dth2:100
第3の閾値Dth3:50
第4の閾値Dth4:30
【0040】
本実施形態による光検出器1及び光検出用回路2によって得られる効果について説明する。本実施形態の光検出器1及び光検出用回路2では、一次遅れフィルタ回路22が電圧信号V2をなだらかに成形することにより、PMT3への入射光が微弱な場合に、光子1個の入射に対応するパルスPの幅が拡がり、比較的低速な回路動作でパルスPを捉える(すなわちA/D変換する)ことができる。更に、PMT3への入射光が微弱な場合に、演算処理装置23dにおいてディジタルデータD1の積算時間を長くすることにより、個々のパルスPの高さや間隔のばらつきを平均化し、光量値を安定して検出できる。なお、PMT3への入射光が比較的強い場合には、演算処理装置23dにおいてディジタルデータD1の積算時間を短くすることにより該入射光の強度変化を素早く捉え、正確な光量値を検出できる。従って、本実施形態の光検出器1及び光検出用回路2によれば、フォトンカウンティング方式のような高速な回路動作を必要とせず、PMT3への入射光が微弱な場合でもアナログ方式を用いて光量を安定して検出できるので、比較的強い入射光から微弱な入射光までを広いダイナミックレンジで且つ小さい消費電力で検出できる。
【0041】
また、本実施形態による光検出器1及び光検出用回路2では、一次遅れフィルタ回路22において、パルスPを完全には平坦化せずパルスPがなだらかに変形する程度(図3(c))にカットオフ周波数が設定されている。ここで、従来のローパスフィルタのようにパルスPを完全に平坦化してしまうと、PMT3への入射光により発生したパルスPと暗電流成分(ダークカウント成分)とが合わさってしまい、これらの分離が困難となる。
【0042】
ここで、図6は、PMT3への入射光が微弱な場合における、入射光によるパルスPの波高分布(グラフG4)とダークカウントパルスの波高分布(グラフG5)とを示すグラフである。図6に示すように、入射光によるパルスPの波高の多くは、PMT3の増倍特性によって定まる値Hを中心として分布している。これに対し、ダークカウントパルスの波高の多くは、極めて小さな値に集中している。従って、一次遅れフィルタ回路22においてパルスPを完全には平坦化しない程度にカットオフ周波数が設定されることにより、入射光によるパルスPをその波高によってダークカウントパルスと区別できるので、入射光によるパルスPとダークカウントパルスとを好適に分離できる。
【0043】
パルスPと暗電流成分(ダークカウント)とを分離する方法としては、本実施形態のように、I/V変換回路20と一次遅れフィルタ回路22との間に接続された暗電流除去回路21によって電圧信号V2の基準電位を暗電流成分より高電位へ設定する方法が好ましい。これにより、上述したようにA/D変換回路23cにおいて基準電位以下の暗電流成分が除去され、測定精度を高めることができる。或いは、他の方法として、暗電流成分を含んだまま電圧信号V3をディジタルデータD1へ変換し、演算処理装置23dにおいて基準値以下のデータを切り捨てても良い。これにより、暗電流成分に相当するディジタルデータD1のデータ成分が除去され、測定精度を高めることができる。なお、暗電流除去回路21における電圧信号V2の基準電位、或いは演算処理装置23dにおける基準値は、PMT3へ照射された基準光の光量が光量データDoutに正確に反映されるように調整される。
【0044】
また、PMT3への入射光が微弱である場合、従来のローパスフィルタのようにパルスPを完全に平坦化してしまうと、入射光に応じた電圧信号の電圧値が極めて小さくなってしまう。従って、この電圧値を正確にディジタルデータに変換するために高分解能のA/D変換回路が必要となる。これに対して本実施形態では、一次遅れフィルタ回路22においてパルスPを完全には平坦化しない程度にカットオフ周波数が設定されることにより、A/D変換回路23cの分解能が例えば10ビットといった比較的低い分解能であっても、電圧信号V3に含まれるパルスPを精度良くディジタルデータD1へ変換でき、PMT3への入射光量を精度良く検出できる。なお、本実施形態におけるこの利点は、高分解能のA/D変換回路の適用を妨げるものではない。
【0045】
(第2の実施の形態)
続いて、本発明による光検出用回路及び光検出器の第2実施形態について説明する。図7は、本実施形態の光検出器1aの構成を示すブロック図である。光検出器1aは、光検出用回路2a、PMT3、及び電圧印加手段4を備える。なお、本実施形態に用いられるPMT3及び電圧印加手段4の構成は、上述した第1実施形態のPMT3及び電圧印加手段4の構成と同様なので、詳細な説明を省略する。
【0046】
光検出用回路2aは、I/V変換回路20、暗電流除去回路21、複数の一次遅れフィルタ回路22、24、及び25、並びにマイクロプロセッサ26を有する。なお、これらの構成要素のうち、I/V変換回路20、暗電流除去回路21、及び一次遅れフィルタ回路22の構成及び作用については、第1実施形態におけるこれらの構成及び作用と同様である。
【0047】
一次遅れフィルタ回路24は、入力端24a及び出力端24bを有する。入力端24aは、一次遅れフィルタ回路22の出力端22bに電気的に接続され、電圧信号V3を入力する。また、出力端24bは、マイクロプロセッサ26のA/D入力端子26bに増幅器24cを介して電気的に接続され、電圧信号V4を出力する。一次遅れフィルタ回路24は、一次遅れフィルタ回路22と同様の構成(ローパスフィルタ)を有しており、暗電流除去回路21から受けた電圧信号V2(本実施形態では、一次遅れフィルタ回路22を通過した電圧信号V3)に含まれるパルスP(例えば図3(b)参照)をなだらかに成形する。
【0048】
一次遅れフィルタ回路24のカットオフ周波数は、一次遅れフィルタ回路22のカットオフ周波数よりも小さな周波数に設定される。これにより、一次遅れフィルタ回路24から出力される電圧信号V4においては、パルスPの幅が電圧信号V3から更に拡がる(とともに、パルスPの波高が更に低くなる)こととなる。なお、一次遅れフィルタ回路24においては、一次遅れフィルタ回路22と同様に、パルスPを完全には平坦化せず、パルスPがなだらかに変形する程度にカットオフ周波数が設定される。また、増幅器24cにおける増幅率は、電圧信号V3におけるパルスPの波高に対する、電圧信号V4におけるパルスPの波高の低下分を補う値に設定される。
【0049】
一次遅れフィルタ回路25は、入力端25a及び出力端25bを有する。入力端25aは、一次遅れフィルタ回路22の出力端22bに電気的に接続され、電圧信号V3を入力する。また、出力端25bは、マイクロプロセッサ26のA/D入力端子26cに増幅器25cを介して電気的に接続され、電圧信号V5を出力する。一次遅れフィルタ回路25は、一次遅れフィルタ回路22及び24と同様の構成(ローパスフィルタ)を有しており、暗電流除去回路21から受けた電圧信号V2(本実施形態では、一次遅れフィルタ回路22を通過した電圧信号V3)に含まれるパルスP(例えば図3(b)参照)をなだらかに成形する。
【0050】
一次遅れフィルタ回路25のカットオフ周波数は、一次遅れフィルタ回路24のカットオフ周波数よりも小さな周波数に設定される。これにより、一次遅れフィルタ回路25から出力される電圧信号V5においては、電圧信号V4と比較してパルスPの幅が更に拡がる(とともに、パルスPの波高が更に低くなる)こととなる。なお、一次遅れフィルタ回路25においては、一次遅れフィルタ回路22及び24と同様に、パルスPを完全には平坦化せず、パルスPがなだらかに変形する程度にカットオフ周波数が設定される。また、増幅器25cにおける増幅率は、電圧信号V3におけるパルスPの波高に対する、電圧信号V5におけるパルスPの波高の低下分を補う値に設定される。
【0051】
マイクロプロセッサ26は、3つのA/D入力端子26a〜26cと、PMT3への入射光量に応じた光量データDoutを出力するための出力端26dとを有する。A/D入力端子26aは、一次遅れフィルタ回路22の出力端22bに電気的に接続され、電圧信号V3を入力する。A/D入力端子26bは、一次遅れフィルタ回路24の出力端24bに増幅器24cを介して電気的に接続され、電圧信号V4を入力する。A/D入力端子26cは、一次遅れフィルタ回路25の出力端25bに増幅器25cを介して電気的に接続され、電圧信号V5を入力する。
【0052】
また、マイクロプロセッサ26は、いわゆる1チップマイコンによって実現されており、3つのA/D入力端子26a〜26cに対応する3つのA/D変換回路26e〜26gと、演算処理装置(CPU)26hとを内蔵している。A/D変換回路26e〜26gは、A/D入力端子26a〜26cに入力された電圧信号V3〜V5をそれぞれディジタルデータD1〜D3へ変換する。なお、マイクロプロセッサ26は、3つのA/D変換回路26e〜26gに代えて、1つのA/D変換回路と、各A/D入力端子26a〜26cをこのA/D変換回路へ順に接続するマルチプレクサを内蔵してもよい。
【0053】
演算処理装置26hは、本実施形態における光量データ生成手段である。すなわち、演算処理装置26hは、A/D変換回路26e〜26gの出力端と電気的に接続された入力端を有しており、ディジタルデータD1〜D3のうちいずれかのディジタルデータを選択して積算することにより、PMT3への入射光量に応じた光量データDoutを生成する。マイクロプロセッサ26の出力端26dはモニタ5と電気的に接続されており、演算処理装置26hによって生成された光量データDoutがモニタ5へ出力される。モニタ5は、光量データDoutを時系列的にグラフに表示する。
【0054】
演算処理装置26hは、ディジタルデータD1〜D3のうちいずれかのディジタルデータを次の方法により選択する。すなわち、演算処理装置26hは、PMT3への入射光量が比較的大きい場合(例えば図5のグラフG1)には、一次遅れフィルタ回路22のみを通過したディジタルデータD1を選択して積算する。また、時間経過に伴いPMT3への入射光量が或る程度減少した場合(例えば図5のグラフG2)には、一次遅れフィルタ回路24を通過したディジタルデータD2を選択して積算する。また、時間経過に伴いPMT3への入射光が微弱となった場合(例えば図5のグラフG3)には、一次遅れフィルタ回路25を通過したディジタルデータD3を選択して積算する。このように、演算処理装置26hは、PMT3への入射光量の減少に伴い、一次遅れフィルタ回路22、24、及び25のうちより低いカットオフ周波数を有する一次遅れフィルタ回路を通過したディジタルデータを選択する。なお、本実施形態の演算処理装置26hは、ディジタルデータD1〜D3のうちいずれかのディジタルデータの大きさに基づいて、PMT3への入射光量を判断するとよい。
【0055】
本実施形態の光検出器1a及び光検出用回路2aによれば、第1実施形態の光検出器1及び光検出用回路2と同様に、一次遅れフィルタ回路22、24、及び25が電圧信号V3〜V5をなだらかに成形することにより、入射光が微弱な場合に、光子1個の入射に対応するパルスPの幅が拡がり、比較的低速な回路動作でパルスPを捉える(すなわちA/D変換する)ことができる。従って、フォトンカウンティング方式のような高速な回路動作を必要としない。
【0056】
更に、本実施形態の光検出器1a及び光検出用回路2aでは、演算処理装置26hが、PMT3への入射光量の減少に伴って、ディジタルデータD1〜D3のうち、より低いカットオフ周波数の一次遅れフィルタ回路を通過したディジタルデータを選択し、積算している。一次遅れフィルタ回路22、24、及び25においては、カットオフ周波数が低い回路ほど、この回路が有する時定数が大きくなる。従って、一次遅れフィルタ回路22のカットオフ周波数よりも低いカットオフ周波数を有する一次遅れフィルタ回路24を通過した電圧信号V4においては、一次遅れフィルタ回路22を通過した電圧信号V3と比較して、パルスPの波高が低くなるとともにパルスPの幅が拡がる。また、一次遅れフィルタ回路24のカットオフ周波数よりも低いカットオフ周波数を有する一次遅れフィルタ回路25を通過した電圧信号V5においては、一次遅れフィルタ回路24を通過した電圧信号V4と比較して、パルスPの波高が低くなるとともにパルスPの幅が拡がる。
【0057】
従って、入射光が微弱な場合、より低いカットオフ周波数を有する一次遅れフィルタ回路を通過したディジタルデータを演算処理装置26hが選択して積算することにより、個々のパルスPの高さや間隔のばらつきを平均化し、光量値を安定して検出できる。なお、PMT3への入射光が比較的強い場合には、比較的高いカットオフ周波数を有する一次遅れフィルタ回路22を通過した電圧信号V3に基づくディジタルデータD1を選択することにより、PMT3への入射光の強度変化を素早く捉え、正確な光量値を検出できる。
【0058】
このように、本実施形態の光検出器1a及び光検出用回路2aによれば、PMT3への入射光が微弱な場合でもアナログ方式を用いて光量を安定して検出できるので、高速な回路動作を必要とせず、PMT3への入射光量を広いダイナミックレンジで且つ小さい消費電力で検出できる。
【0059】
(第3の実施の形態)
続いて、本発明による光検出用回路及び光検出器の第3実施形態について説明する。図8は、本実施形態の光検出器1bの構成を示すブロック図である。光検出器1bは、光検出用回路2b、PMT3、及び電圧印加手段4を備える。なお、本実施形態に用いられるPMT3及び電圧印加手段4の構成は、上述した第1実施形態のPMT3及び電圧印加手段4の構成と同様である。
【0060】
光検出用回路2bは、I/V変換回路20、暗電流除去回路21、一次遅れフィルタ回路27、カットオフ周波数制御回路28、及びマイクロプロセッサ29を有する。なお、これらの構成要素のうち、I/V変換回路20及び暗電流除去回路21の構成及び作用については、第1実施形態におけるこれらの構成及び作用と同様である。
【0061】
一次遅れフィルタ回路27は、信号入力端27a、制御入力端27b、及び出力端27cを有する。信号入力端27aは、暗電流除去回路21の出力端21bに電気的に接続され、電圧信号V2を入力する。また、出力端27cは、マイクロプロセッサ29の入力端29aに電気的に接続され、電圧信号V6を出力する。一次遅れフィルタ回路27は、いわゆるローパスフィルタの構成を有しており、また、制御入力端27bへ入力される制御信号Scに応じてカットオフ周波数を変更可能に構成されている。なお、制御入力端27bへ入力される制御信号Scとしては、例えば設定されるカットオフ周波数に応じた周波数信号が好ましい。一次遅れフィルタ回路27は、暗電流除去回路21から受けた電圧信号V2に含まれるパルスP(例えば図3(b)参照)を、設定されたカットオフ周波数に応じてなだらかに成形する。
【0062】
カットオフ周波数制御回路28は、PMT3への入射光量の減少に伴って一次遅れフィルタ回路27のカットオフ周波数を低下させるための回路である。カットオフ周波数制御回路28は、暗電流除去回路21からの電圧信号V2に基づいて、一次遅れフィルタ回路27のカットオフ周波数を制御するための制御信号Scを生成する。カットオフ周波数制御回路28は、平滑化回路28a及びV/F変換回路28bを含んで構成されている。平滑化回路28aは、暗電流除去回路21の出力端21bに電気的に接続された入力端28cと、V/F変換回路28bの入力端28eに電気的に接続された出力端28dとを有する。平滑化回路28aは、ローパスフィルタの構成を有しており、カットオフ周波数が比較的小さく設定されている。これにより、平滑化回路28aは、電圧信号V2を平滑化(平均化)する。
【0063】
V/F変換回路28bは、電圧信号V2の電圧値を周波数信号(制御信号Sc)へ変換するための回路である。V/F変換回路28bは、入力端28eと、一次遅れフィルタ回路27の制御入力端27bに電気的に接続された出力端28gと、スタートアップ信号Ssをマイクロプロセッサ29から受けるための入力端28fとを有する。V/F変換回路28bは、電圧信号V2の電圧値(すなわちPMT3への入射光量)が小さくなるほど低周波数となる周波数信号を生成し、この周波数信号を制御信号Scとして一次遅れフィルタ回路27へ提供する。従って、一次遅れフィルタ回路27においては、PMT3への入射光量の減少にしたがいカットオフ周波数が小さくなる。なお、V/F変換回路28bに入力されるスタートアップ信号Ssは、測定開始時における電圧信号V2の立ち上がりを制御信号Scに正確に反映するために、測定開始時の入力端28eへの入力電圧を所定の初期値に設定するための信号である。
【0064】
マイクロプロセッサ29は、一次遅れフィルタ回路27から電圧信号V6を受ける入力端29aと、PMT3への入射光量に応じた光量データDoutを出力するための出力端26dとを有する。マイクロプロセッサ26は、いわゆる1チップマイコンによって実現されており、A/D変換回路29d及び演算処理装置(CPU)29eを内蔵している。A/D変換回路29dは、入力端29aに電気的に接続された入力端を有しており、電圧信号V6をディジタルデータD4へ変換する。
【0065】
演算処理装置29eは、本実施形態における光量データ生成手段である。すなわち、演算処理装置29eは、A/D変換回路29dの出力端と電気的に接続された入力端を有しており、ディジタルデータD4を積算することにより、PMT3への入射光量に応じた光量データDoutを生成する。マイクロプロセッサ29の出力端29bはモニタ5と電気的に接続されており、演算処理装置29eによって生成された光量データDoutがモニタ5へ出力される。モニタ5は、光量データDoutを時系列的にグラフに表示する。
【0066】
本実施形態の光検出器1b及び光検出用回路2bによれば、第1実施形態の光検出器1及び光検出用回路2と同様に、一次遅れフィルタ回路27が電圧信号V6をなだらかに成形することにより、入射光が微弱な場合に、光子1個の入射に対応するパルスPの幅が拡がり、比較的低速な回路動作でパルスPを捉える(すなわちA/D変換する)ことができる。従って、フォトンカウンティング方式のような高速な回路動作を必要としない。
【0067】
更に、本実施形態の光検出器1b及び光検出用回路2bでは、一次遅れフィルタ回路27がカットオフ周波数を変更可能に構成されており、且つ、カットオフ周波数制御回路28が、PMT3への入射光量の減少に伴い一次遅れフィルタ回路27のカットオフ周波数を低下させている。上記第2実施形態の説明において述べたように、一次遅れフィルタ回路においては、カットオフ周波数が低いほど、電圧信号に含まれるパルスPの波高が低下するとともにパルスPの幅が拡大する。従って、入射光が微弱な場合、一次遅れフィルタ回路27のカットオフ周波数をカットオフ周波数制御回路28が低下させることにより、個々のパルスPの高さや間隔のばらつきを平均化し、光量値を安定して検出できる。なお、入射光が比較的強い場合には、一次遅れフィルタ回路27のカットオフ周波数をカットオフ周波数制御回路28が比較的高く制御することにより、PMT3への入射光の強度変化を素早く捉え、正確な光量値を検出できる。
【0068】
このように、本実施形態の光検出器1b及び光検出用回路2bによれば、PMT3への入射光が微弱な場合でもアナログ方式を用いて光量を安定して検出できるので、高速な回路動作を必要とせず、PMT3への入射光量を広いダイナミックレンジで且つ小さい消費電力で検出できる。
【0069】
本発明に係る光検出用回路及び光検出器は、上記した各実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上記各実施形態では1チップマイコン型のマイクロプロセッサにA/D変換回路及び演算処理装置が内蔵されている例を示したが、A/D変換回路及び演算処理装置は互いに別のチップに収容されていてもよい。
【0070】
また、上記した各実施形態では暗電流除去回路21が用いられているが、例えば図9に示す光検出器1c及び光検出用回路2cのように、暗電流除去回路を用いる代わりに例えば分解能が10ビットといった比較的低い分解能を有するA/D変換回路23cを用い、電圧信号V3のうちA/D変換回路23cの最小分解能の1/2以下である成分が0に変換されることを利用して暗電流を除去してもよい。
【0071】
すなわち、この暗電流除去方法は、低分解能のA/D変換回路において、その分解能の最小単位の1/2以下の信号成分が除去されることを利用する。このとき、光検出用回路のダイナミックレンジは、A/D変換回路の分解能と光量データ生成手段の積算回数との積に依存する。従って、例えば、10ビット程度の低い分解能を有するA/D変換回路であっても、光量データ生成手段における積算回数を多く(例えば1000回)することにより、光検出用回路のダイナミックレンジを広く(この例では、6桁)できる。
【0072】
10ビットの分解能を有するA/D変換回路では、分解能最小単位の1/2以下、つまりフルスケールの1/2048以下のレベルの信号成分が除去対象となる。そして、低い分解能を有するA/D変換回路を用いることにより、A/D変換回路における処理時間が短くなるので、光量データ生成手段における積算回数を多くできる。これに対し、例えば24ビットや16ビットといった高分解能のA/D変換回路を用いても、光検出用回路の実質的なダイナミックレンジは、I/V変換回路に用いられるオペアンプのオフセットのずれ、或いはPMT出力に含まれるノイズパルスに影響されるので、ダイナミックレンジの拡大につながりにくい。
【0073】
低分解能のA/D変換回路を用いた暗電流除去方法によれば、このようなノイズの大部分を除去できる。特に、一時遅れフィルタ回路を用いることにより、個々のパルスの高さが低く抑えられ、暗電流のような小さなパルスはA/D変換回路へ達するまでに極めて小さくなる。従って、暗電流がA/D変換回路において0に変換される(すなわち除去される)可能性が高まる。
【0074】
更に、従来のフォトンカウンティング方式においては一つのパルスがその大きさに関係なく1としてカウントされるのに対し、本発明では図6に示したように高いパルス(入射光)と暗電流成分とを出現頻度によって弁別しやすいので、従来のフォトンカウンティング方式と比較してS/N比を高くすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】第1実施形態による光検出器を用いた光量測定の一例を説明するための図である。
【図2】第1実施形態の光検出用回路及びPMTの構成を示すブロック図である。
【図3】(a)I/V変換回路から出力される電圧信号の信号波形の一例を示すグラフである。(b)暗電流除去回路から出力される電圧信号の信号波形の一例を示すグラフである。(c)一次遅れフィルタ回路から出力される電圧信号の信号波形の一例を示すグラフである。(d)マイクロプロセッサ内部において生成されるディジタルデータの信号波形の一例を示すグラフである。
【図4】演算処理装置における処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】遅延蛍光の光量測定におけるモニタの表示(光量データの時間経過)の一例を示すグラフである。
【図6】PMTへの入射光が微弱な場合における、入射光によるパルスの波高分布とダークカウントパルスの波高分布とを示すグラフである。
【図7】第2実施形態の光検出器の構成を示すブロック図である。
【図8】第3実施形態の光検出器の構成を示すブロック図である。
【図9】光検出器の変形例の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0076】
1,1a,1b…光検出器、2,2a,2b…光検出用回路、4…電圧印加手段、5…モニタ、6…試料、7…容器、8…光源、20…I/V変換回路、21…暗電流除去回路、22,24,25,27…一次遅れフィルタ回路、23,26,29…マイクロプロセッサ、23c,26e〜26g,29d…A/D変換回路、23d,26h,29e…演算処理装置、28…カットオフ周波数制御回路、28a…平滑化回路、28b…V/F変換回路、31…光電陰極、32…増倍部、33…陽極、34…真空管、41…高圧電源、42…分圧抵抗群。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光電陰極への入射光量に応じた出力電流を陽極において提供する光電子増倍管に接続される光検出用回路であって、
前記陽極からの前記出力電流を電圧信号に変換する電流電圧変換回路と、
前記電圧信号を成形する一次遅れフィルタ回路と、
前記一次遅れフィルタ回路を通過した前記電圧信号をディジタルデータに変換するA/D変換回路と、
前記ディジタルデータを積算することにより前記入射光量に応じた光量データを生成する光量データ生成手段と
を備え、
前記光量データ生成手段は、前記ディジタルデータの値の減少に伴い積算時間をより長時間に設定することを特徴とする、光検出用回路。
【請求項2】
光電陰極への入射光量に応じた出力電流を陽極において提供する光電子増倍管に接続される光検出用回路であって、
前記陽極からの前記出力電流を電圧信号に変換する電流電圧変換回路と、
前記電圧信号を成形する複数の一次遅れフィルタ回路と、
前記複数の一次遅れフィルタ回路のそれぞれから出力された前記電圧信号をディジタルデータに変換するA/D変換回路と、
前記複数の一次遅れフィルタ回路のそれぞれに対応する各ディジタルデータのうちいずれかの前記ディジタルデータを選択して積算することにより前記入射光量に応じた光量データを生成する光量データ生成手段と
を備え、
前記複数の一次遅れフィルタ回路におけるカットオフ周波数が互いに異なっており、
前記光量データ生成手段は、前記入射光量の減少に伴い、より低いカットオフ周波数の前記一次遅れフィルタ回路に対応する前記ディジタルデータを選択することを特徴とする、光検出用回路。
【請求項3】
光電陰極への入射光量に応じた出力電流を陽極において提供する光電子増倍管に接続される光検出用回路であって、
前記陽極からの前記出力電流を電圧信号に変換する電流電圧変換回路と、
カットオフ周波数が可変であり、前記電圧信号を成形する一次遅れフィルタ回路と、
前記入射光量の減少に伴い前記一次遅れフィルタ回路のカットオフ周波数を低下させるカットオフ周波数制御回路と、
前記一次遅れフィルタ回路を通過した前記電圧信号をディジタルデータに変換するA/D変換回路と、
前記ディジタルデータを積算することにより前記入射光量に応じた光量データを生成する光量データ生成手段と
を備えることを特徴とする、光検出用回路。
【請求項4】
光電陰極への入射光量に応じた出力電流を陽極において提供する光電子増倍管に接続される光検出用回路であって、
前記陽極と電気的に接続された入力端を有する電流電圧変換回路と、
前記電流電圧変換回路の出力端と電気的に接続された入力端を有する一または複数の一次遅れフィルタ回路と、
前記一または複数の一次遅れフィルタ回路それぞれの出力端と電気的に接続された入力端を有するA/D変換回路と、
前記A/D変換回路の出力端と電気的に接続された演算処理装置と
を備えることを特徴とする、光検出用回路。
【請求項5】
前記電流電圧変換回路と前記一次遅れフィルタ回路との間に電気的に接続された暗電流除去回路を更に備えることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の光検出用回路。
【請求項6】
入射光量に応じた光電子を放出する光電陰極、前記光電子を増倍する増倍部、及び前記増倍部によって増倍された電子を収集して出力電流を提供する陽極を有する光電子増倍管と、
請求項1〜5のいずれか一項に記載の光検出用回路と
を備えることを特徴とする、光検出器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−300728(P2006−300728A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−122764(P2005−122764)
【出願日】平成17年4月20日(2005.4.20)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】