光検出装置
【課題】非液浸系で、試料容器の集光レンズに対する位置精度への要求を軽減してNA>1の明るさを得る。
【解決手段】試料容器2の底を曲面形状として、集光点3から放射された蛍光4が容器から射出されるとき平行光束となるようにし、さらにピンホールを蛍光集光レンズ5の焦点に設置する。
【解決手段】試料容器2の底を曲面形状として、集光点3から放射された蛍光4が容器から射出されるとき平行光束となるようにし、さらにピンホールを蛍光集光レンズ5の焦点に設置する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光標識された生体分子を含有する試料溶液に、光を照射し、励起された蛍光を検出することにより生体分子を定量するのに好適な光検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光標識された生体分子の定量においては、試料溶液に、溶液内部の点(以下では集光点と呼ぶ)に光が集束するよう光を照射して蛍光を励起し、溶液中の生体分子から放射され、試料容器を透過してきた蛍光を集光レンズで収集し、集光点の共役点に置かれたピンホール上に結像してピンホール内部を透過する光のみを検出する分析装置が広く用いられている。ピンホールの透過光のみを検出することにより、蛍光を検出する試料中の領域(検出領域)が集光点近傍に限定され、集光点近傍以外の溶液の発光や容器表面での散乱光などの背景光(バックグラウンド、B)が遮断されて、検出領域中にある生体分子からの蛍光(シグナル、S)を良好なシグナル対バックグラウンド比(S/B)で検出することができる。
【0003】
この種の装置の検出系は、一般に図1のような構成を有している。試料容器2中の試料1に励起光が集光され、その集光点3から発せられた蛍光4は、集光レンズ5によって集光点3と共役な位置に設けられたピンホール板6のピンホールに集光され、ピンホールを通過して光検出器7で検出される。実際にはレンズ5は複数のレンズの組レンズであり、レンズ間にフィルタやダイクロイックミラーなどが挿入されるが、図1は原理を示すための模式図であるので、簡略化して描いた。図1のような系ではBが十分小さく押えられるので、蛍光検出のシグナル対ノイズ比(S/N)は√Sに比例する。したがって、S/Nを大きくするには、Sそのものを大きくする必要がある。Sを大きくする方法としては、照射光の強度増大、もしくは、蛍光収集効率増大の二通りがある。照射光が強すぎると生体試料を標識した蛍光体が破壊されてしまうので、前者の方法には限界がある。そこで、検出系の蛍光収集効率をなるべく大きくする、すなわち検出系の開口数(NA)をなるべく大きくしなければならない。1分子からの蛍光をS/N良く検出するには、1より大きいNAが好ましい。しかしながら、一般的な平坦の底を有する試料容器2を用いてNA>1を達成するには、特許文献1に記載されているように、レンズ5を液浸にしなければならない。すなわちレンズ5と試料容器2の間に液体を充填しなければならない。液浸系では、レンズと試料容器の間に液体を充填するステップが発生するので、操作性が乾燥系より低下する。試料容器を動かしながら多数種の試料を分析する場合に、この操作の煩雑性は顕著である。また、充填液中に泡が発生して蛍光の伝播を阻害する危険が高い。特許文献1のように液体の充填や泡抜きを自動化したシステムは有るが、装置のコストアップは避けがたいし、充填液の補充や試料容器交換時の煩雑さが残る。
【0004】
なお、試料中の集光点及びその共役点を焦点と呼んでいる文献もあるが、これは不正確な表現であり、本明細書では「焦点」を「平行光束が試料側からレンズに入射したとき、レンズに関して試料と反対側で集光する点」の意味でのみ用いる。この点を明確化するため、図1において、仮想的な平行光束の蛍光4’と焦点8を記してある。このように従来技術では焦点8がピンホール中に位置していない。
【0005】
特許文献2〜5のように、試料容器の底部に曲面を設けることにより、非液浸系(乾燥系)でもNA>1を実現することができる。特許文献2〜5と図1のようなピンホールを有する検出系を組み合わせると図2に示すような系が考えられる。特許文献2〜5においては容器から出てきた光が発散光であるので、図2の系においてもピンホール板6のピンホールはレンズ5の焦点8に位置しない。この系では乾燥系でNA>1を実現できる。
【0006】
【特許文献1】特開2004−85443号公報
【特許文献2】特開平4−369463号公報
【特許文献3】特開平8−178831号公報
【特許文献4】特開2004−138420号公報
【特許文献5】特開2003−4629号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図2に示した系では、試料容器2から発散する光を検出するため、試料容器2の中心軸と集光レンズ5の光軸が高精度で一致し、かつ試料容器2と集光レンズ5の距離がある所定の値に高精度で一致していない場合、収差が発生し、集光点3のピンホール上の像がぼける。その結果、蛍光の検出効率が低下すると同時にピンホールによるバックグラウンドの除去効率が低下し、S/Nが低下してしまう。図3に、試料容器2の中心軸9と集光レンズ5の光軸10がずれて、集光点3の像がぼけた様子を表す。図では表現しにくいが、試料容器2と集光レンズ5の相対位置が光軸方向にずれても同様の影響がある。したがって図2のような系では、試料容器2と集光レンズ5の相対位置を非常に高い精度で制御する必要がある。これはコストの上昇を招くだけでなく、試料容器2は頻繁に交換する性質の物であるから、その交換のたびに精密な位置調製をするのは実用的でない。
【0008】
このように、従来のピンホールを有する蛍光検出系では、NA>1の明るさを得るには、集光レンズと試料容器の間に液体を充填するか、さもなくば試料容器をレンズに対して極めて高精度に位置決めしなければならない。いずれも多数試料の自動処理には適さない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、底部外表面が曲面になってレンズ作用をする試料容器を用いる。励起光を平行光として試料容器の底部から照射させ、試料溶液中で集光点に集光させる。励起光照射によって発生した蛍光を試料容器の底部から平行光として取り出し、集光レンズによって集光し、光検出器によって検出する。このとき、集光レンズの焦点にピンホールの位置が一致するようにして、試料容器と光検出器の間にピンホール板を設置する。あるいは、ピンホール板を用いず、集光レンズの焦点に光検出器の光電面が一致するようにして光検出器を設置する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、乾燥系でNA>1が実現でき、試料容器を高精度に位置決めすることなく、バックグラウンド除去効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図4は、本発明による光検出装置の検出系部分の構成図である。本発明では、図4に示すように、試料容器2の底を曲面形状として、集光点3から放射された蛍光が試料容器から射出されるとき平行光束となるようにし、さらにピンホールを蛍光集光レンズ5の焦点8に設置する。
【0012】
図5は、図4に示した検出系において、試料容器と集光レンズの相対位置がベスト位置から光軸に垂直な方向にずれた場合の模式図である。このように試料容器と集光レンズの間を平行光束にした結果、両者に位置ずれが生じても収差が発生せず、蛍光がピンホールを通過する効率が高く維持される。
【0013】
光を透過させる部材の代表的材質は、石英、BK7、アクリル系プラスチックであり、これらの材質の屈折率は約1.5(より詳しくは1.46〜1.54)である。光ディスク用のレンズなども上記の材質で構成されている。一方、本発明における試料容器では、内面が屈折率1.3〜1.4の液体と接するため、屈折率1.5では内面での屈折力が不足することが予想される。そこで、素材の屈折率と達成可能なNAについて光線追跡シミュレーションにもとづいて詳細な解析を行った。以下では容器材質の屈折率をnで表す。
【0014】
よく知られているように、一点からの光を実質無収差で平行にする形状は、外面頂点の曲率半径R1、試料容器を一種のレンズ系とみなしたときの焦点距離f、中心軸上の厚さt1の3つのパラメータのみで一意的に定まる。相似な形状は同一形状とみなせば、試料容器の形状を表す独立なパラメータは規格化された曲率半径(R1/f)と規格化された厚さ(t1/f)だけである。つまり試料容器形状はこれら2つの数値の組合せ(R1/f、t1/f)で表される。また、試料容器外面の接平面と容器中心軸に直交する平面とのなす角度θが、ブリュースター角arctan(n)より大きくなると、容器外面での蛍光の反射率が急激に増大し、実質的には光が通らなくなる。そこでθ<arctan(n)という条件を満たしつつ、NA>1となる容器形状の範囲をシミュレーションにより求めた。その結果を図6に示す。黒く塗りつぶされた範囲がNA>1となる範囲である。このようにn=1.5ではNA>1となる範囲が存在せず、NA>1を得るには少なくともn≧1.55が必要で、より広い範囲でNA>1を得るにはn≧1.6が好ましいことがわかる。したがって、本発明の試料容器の材質の条件として、屈折率1.55以上が必要で、好ましくは屈折率1.6以上、より好ましくは1.7以上であることがわかる。
【0015】
本発明の光検出装置は、低価格で簡便な蛍光相関分光装置、超高感度の蛍光プレートリーダー、フローサイトメーターなどに利用できる。
【0016】
以下、図面に従って本発明の実施の形態を具体的に説明する。
【実施例1】
【0017】
図7は、本発明による光検出装置の第一の実施例の構成図である。光源11は波長532nm、出力1mWのレーザである。光源11から射出した平行な励起ビーム12は、励起フィルタ13を通してスペクトル純度を高めた後にダイクロイックミラー14で反射され、平行光束のまま試料容器2の底部に照射され、試料1中の集光点3に集光される。励起光照射により集光点3に存在する生体分子から放射された蛍光4は、容器界面の屈折によって平行光束として容器2の底部から射出され、ダイクロイックミラー14を透過し、蛍光フィルタ15で、532nm励起ビームの散乱光など蛍光波長以外の波長を持つ成分を遮断した後に、集光レンズ5でピンホール板6に設けられたピンホールに集光される。ピンホールの位置は集光レンズ5の焦点8の位置に設定される。ピンホールによって、試料の集光点以外の部分や試料容器からの発光が遮断され、集光点からの蛍光のみがピンホールを通過後、光検出器7で検出される。本検出系のNAは1.15であり、集光点における励起ビーム直径は1μm、集光レンズ5の結像倍率は10倍、ピンホール直径は10μmとした。試料の溶媒は、屈折率1.351の6倍のSSCバッファーである。試料容器の材質は屈折率1.7の樹脂である。試料容器と集光レンズの間は空気であり、このように集光レンズ底部に曲面を設けたことにより、乾燥系で1より大きいNAを実現できた。
【0018】
試料容器2の外面及び内面はいずれも次式で表される非球面である。
【0019】
【数1】
【0020】
ここで、r=√(x2+y2)、cは頂点の曲率、Kはコーニック定数、A,B,C,D,E,F,G,Hは非球面係数である。本実施例における試料容器2の外面及び内面を表すコーニック定数と非球面係数、及び中心軸での厚さを表1に示す。r及びzの単位はmmである。このように両面を非球面とすることにより、収差を波面収差0.07λrms以下の回折限界の分解能で集光点からの蛍光を平行光に変換することができる。本実施例で得られた検出NAは1.15である。
【0021】
【表1】
【0022】
光源11、光検出器7、及び光を透過又は反射する素子類は筐体20の内部に固定されている。試料容器2とダイクロイックミラー14の間には光が透過するよう筐体20に穴が設けられており、この穴は透明な窓板16でふさがれている。この窓板を設けることにより、試料容器からこぼれた試料や外気からの埃がダイクロイックミラー以下の光学素子に付着するのを防げるという効果がある。
【0023】
試料容器2は、筐体20上に固定された容器台21の上に設置される。試料容器2には位置決め用の穴23−1,23−2が設けられており、これらの位置決め用の穴に、容器台21上に固定された位置決めピン22−1,22−2が納まるように試料容器2を置くことにより、蛍光4及び励起光12の光軸と試料容器2の対称軸との距離が0.1mm以内に収まるように、自動的に試料容器2が位置決めされる。図8は上方から見た、容器台21より上の部分の図である。このように、試料容器2には位置決め用の穴23−1、23−2に、それぞれ位置決めピン22−1と22−2がはまっている。
【0024】
図9は、本実施例と、本実施例の検出系を図2に示した従来の検出系におきかえた系における、容器位置の基準位置からのずれと、生体分子からの蛍光検出効率の関係を示す図である。この場合においては、試料容器の内面・外面はともに球面であり、第一の実施例とほぼ同じNA1.14である。Δyは試料容器の理想位置からの検出系の光軸と直交する方向へのずれ、Δzは光軸方向へのずれである。図9に示すように、図2のような系では試料容器位置が10μmずれただけで蛍光検出効率が激減するのに対し、本発明によれば、試料容器位置が0.1mmずれても効率がほとんど変化しない。
【0025】
以上のように、本発明によれば乾燥系によってNA>1を実現でき、しかも試料容器の位置がずれてもほとんど検出効率が低下しない蛍光検出系が実現される。この結果、試料容器を取り替えて多数の試料を分析するような場合、試料容器を設置する位置の調製が不要となり、実用上極めて有利である。また、試料容器の位置決め精度が厳しくないので、多数の試料容器を載せたプレートを自動の並進ステージで駆動して多数試料の連続自動分析を行うことも可能になる。特に、プレートを一定速度で駆動する場合、図2の方式では±0.01μm程度の幅を移動する時間しか1試料の測定に使用できないのに対し、本発明によれば±0.1mm以上の幅を移動する時間を測定に使うことができる。すなわち測定時間を10倍以上とれることになり、√10〜3倍以上のS/N向上が見込まれる。
【実施例2】
【0026】
図10は、本発明の第二の実施例における試料容器の平面図及び断面図である。本実施例では複数の試料1−1〜1−96を入れられるように試料容器2に複数のウェルを設け、各ウェルの底部に曲面を設けて第一の実施例と同様の効果が得られるようにした。本実施例では、市販の試料分注ロボットによる試料移送がしやすいよう、ウェルの配置を、一般的な試料調製プレートと同一の9mmピッチ、8列12行とした。もちろん4.5mmピッチ、16列24行としても良い。第一の実施例と同様、試料容器2には2つの位置決め穴23−1、23−2が設けられている。
【0027】
本実施例における、励起光の照射及び蛍光検出の光学系は基本的に第一の実施例と同一である。図11は、光検出装置に取り付けた試料容器2の周辺の拡大図である。本実施例では試料容器2を置く台21は自動xyステージ30に固定されており、試料容器2がxy方向に移動される。自動xyステージ30の位置決め精度は±0.05μmであり、この精度で各ウェルの中心軸が検出光学系の光軸と一致するように試料容器2は位置決めされて静止し、そのウェルからの蛍光が検出される。コンピュータ制御により、この位置決め・蛍光検出のサイクルが各試料1−1〜1−96に対して自動で行われる。このように本実施例では台21上に試料容器2を1度セットするだけで、96個の試料を自動で分析できるという効果が有る。もちろん、16列24行の試料容器を用いれば384個の試料を自動で分析できる。いうまでもなく、試料の行数、列数は以上に上げた数値に限定されない
【実施例3】
【0028】
本発明の第三の実施例の構成は第二の実施例とほぼ同様であるが、xyステージ30を各ウェルの軸と蛍光検出系光軸と一致するたびに静止させることなく、一つの列にわたってほぼ一定速度で駆動し、ウェルの軸と検出系光軸が±0.1mmの範囲で一致する間に蛍光を検出する。従来の光学系では±0.01mmで一致する間しか効率良く蛍光を検出できなかったが、図9に示すように本発明の光学系によれば±0.1mmで一致する間は効率よく蛍光を検出できる。その結果、従来方式の約10倍の時間、蛍光検出が可能となり、このような連続一定速度駆動でも十分なS/Nで蛍光検出が可能となる。本実施例では、試料容器2を高精度に位置決めする必要がないので、自動xyステージを駆動するモーターとしてステッピングモーターが不要となり、安価なDCモーターで対応可能となり、その結果コスト低減が図れるという効果がある。
【実施例4】
【0029】
図12は、本発明の第四の実施例における試料容器2の断面図である。本実施例における試料容器2の形状は第二の実施例におけるそれとほぼ同一であるが、第二の実施例では試料容器が樹脂の一体成型であったのに対し、本実施例では2つの部材2Aと2Bの貼り合わせで構成されている。図13は本実施例の試料容器2の製造工程を示す図である。円柱状の貫通穴がアレイ状に設けられた部材2Aを、下面に試料容器の底部となるレンズ状の凸部が部材2Aと同様にアレイ状に設けられた部材2Bに位置決めして接着剤によって貼り合わせる。
【0030】
このように2つの部材の貼り合わせによって試料容器を製造した結果、各部材の形状が簡単となって製造コストが大幅低減し、貼り合わせの工程が増えたにもかかわらずトータルでの製造コスト低減効果が得られた。特に部材2Aは、単なる貫通穴付きの平面基板で極めて製造が容易であるばかりか、部材2Bと違って透明である必要性がないので、材料選択の幅が著しく広くなる。部材2Bに不透明な材料を採用することにより、外来光の遮光が容易になる。ここでは複数のウェルを有する試料容器について説明したが、図7に示すような、単一の試料収容部を有する試料容器を、2つの部材の貼り合わせによって製造することもできる。
【実施例5】
【0031】
図14は、本発明の第五の実施例における試料容器2近傍の断面の拡大図である。本実施例では、試料容器2に透明なふた24を付け、ふた24の下面の一部が試料液面に接触するようにした。この結果、励起光が試料/空気界面において散乱することなく試料容器上方に通りぬけ、試料表面での散乱光に起因する背景光の上昇が低減される。ふた24の材質としては、屈折率が試料に近い材質が好適に利用できる。本実施例では試料屈折率が1.36であったので、低屈折率のアクリル系樹脂(屈折率1.42)を使用した。また、ふた24の上面(空気/ふた界面)に反射防止膜を設けることにより、さらなる散乱低減をすることができる。
【実施例6】
【0032】
図15は、本発明の第六の実施例における試料容器2近傍の断面の拡大図である。本実施例では、第5の実施例と同様に試料容器2のふた24を設けるが、その材質を透明な部材でなく、光吸収性の材質とすることで第5の実施例と同様の効果を得た。本実施例ではふた24の材質として黒色のポリカーボネートを使用したが、光を良く吸収する部材なら何でも良い。ふた24の光が照射される部分に円錐状のくぼみ25を設けることにより、光が吸収される効率の向上を図っている。また、ふたの材質そのものは光を吸収しなくても、励起光が照射するエリアに光吸収性のコーティングを施すことにより同様の効果を得ることができる。
【実施例7】
【0033】
図16は、本発明の第七の実施例の光学系を示す図である。本実施例の構成は基本的には第一の実施例と共通であるが、光検出器7の光電面26を集光レンズ5の焦点8を内包するように設置することにより、メカニカルなピンホール板6を省略している。この構成では、ピンホール無しで、光電面の有効径と等しい径の穴を有する遮光板を焦点位置に置いた場合と同一のバックグラウンド除去効果が得られる。本構成に固有の効果は機構部品を一点減らせることである。
【0034】
本実施例の光学系を備える光検出装置に対しても、前記実施例1〜6で説明した構成をそれぞれ適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】従来のピンホールを有する蛍光検出系の構成図。
【図2】底面が曲面の試料容器と従来のピンホールを有する蛍光検出系とを組合せた構成図。
【図3】従来の光学系において試料容器と集光レンズの相対位置がずれた場合の様子を示す図。
【図4】本発明による検出光学系の構成図。
【図5】本発明の検出系において試料容器と集光レンズの相対位置がずれた場合の様子を示す図。
【図6】NA>1となる試料容器形状の範囲を示す図。
【図7】本発明の第一の実施例の構成図。
【図8】上方から見た、容器台21より上の部分の拡大図。
【図9】本発明と図2の系において、蛍光検出効率と集光レンズと試料容器との相対位置ずれとの関係を示す図。
【図10】本発明の第二の実施例における容器の正面図及び断面図。
【図11】本発明の第二の実施例における容器周辺の正面図。
【図12】本発明の第四の実施例における容器の断面図。
【図13】本発明の第四の実施例における容器の製造工程図。
【図14】本発明の第五の実施例における容器近傍の断面図。
【図15】本発明の第六の実施例における容器近傍の断面図。
【図16】本発明の第七の実施例の構成図。
【符号の説明】
【0036】
1,1−1〜1−96:試料、2:容器、2A、2B:容器部材、3:集光点、4:蛍光、4’:仮想的な平行化された蛍光、5:集光レンズ、6:ピンホール板、7:光検出器、8:焦点、9:容器中心軸、10:レンズ光軸、11:光源、12:励起ビーム、13:励起フィルタ、14:ダイクロイックミラー、15:蛍光フィルタ、16:窓板、20:筐体、21:台、22−1,22−2:位置決めピン、23−1,23−2:位置決め用穴、24:ふた、25:円錐状のくぼみ、26:光電面,30:xyステージ
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光標識された生体分子を含有する試料溶液に、光を照射し、励起された蛍光を検出することにより生体分子を定量するのに好適な光検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光標識された生体分子の定量においては、試料溶液に、溶液内部の点(以下では集光点と呼ぶ)に光が集束するよう光を照射して蛍光を励起し、溶液中の生体分子から放射され、試料容器を透過してきた蛍光を集光レンズで収集し、集光点の共役点に置かれたピンホール上に結像してピンホール内部を透過する光のみを検出する分析装置が広く用いられている。ピンホールの透過光のみを検出することにより、蛍光を検出する試料中の領域(検出領域)が集光点近傍に限定され、集光点近傍以外の溶液の発光や容器表面での散乱光などの背景光(バックグラウンド、B)が遮断されて、検出領域中にある生体分子からの蛍光(シグナル、S)を良好なシグナル対バックグラウンド比(S/B)で検出することができる。
【0003】
この種の装置の検出系は、一般に図1のような構成を有している。試料容器2中の試料1に励起光が集光され、その集光点3から発せられた蛍光4は、集光レンズ5によって集光点3と共役な位置に設けられたピンホール板6のピンホールに集光され、ピンホールを通過して光検出器7で検出される。実際にはレンズ5は複数のレンズの組レンズであり、レンズ間にフィルタやダイクロイックミラーなどが挿入されるが、図1は原理を示すための模式図であるので、簡略化して描いた。図1のような系ではBが十分小さく押えられるので、蛍光検出のシグナル対ノイズ比(S/N)は√Sに比例する。したがって、S/Nを大きくするには、Sそのものを大きくする必要がある。Sを大きくする方法としては、照射光の強度増大、もしくは、蛍光収集効率増大の二通りがある。照射光が強すぎると生体試料を標識した蛍光体が破壊されてしまうので、前者の方法には限界がある。そこで、検出系の蛍光収集効率をなるべく大きくする、すなわち検出系の開口数(NA)をなるべく大きくしなければならない。1分子からの蛍光をS/N良く検出するには、1より大きいNAが好ましい。しかしながら、一般的な平坦の底を有する試料容器2を用いてNA>1を達成するには、特許文献1に記載されているように、レンズ5を液浸にしなければならない。すなわちレンズ5と試料容器2の間に液体を充填しなければならない。液浸系では、レンズと試料容器の間に液体を充填するステップが発生するので、操作性が乾燥系より低下する。試料容器を動かしながら多数種の試料を分析する場合に、この操作の煩雑性は顕著である。また、充填液中に泡が発生して蛍光の伝播を阻害する危険が高い。特許文献1のように液体の充填や泡抜きを自動化したシステムは有るが、装置のコストアップは避けがたいし、充填液の補充や試料容器交換時の煩雑さが残る。
【0004】
なお、試料中の集光点及びその共役点を焦点と呼んでいる文献もあるが、これは不正確な表現であり、本明細書では「焦点」を「平行光束が試料側からレンズに入射したとき、レンズに関して試料と反対側で集光する点」の意味でのみ用いる。この点を明確化するため、図1において、仮想的な平行光束の蛍光4’と焦点8を記してある。このように従来技術では焦点8がピンホール中に位置していない。
【0005】
特許文献2〜5のように、試料容器の底部に曲面を設けることにより、非液浸系(乾燥系)でもNA>1を実現することができる。特許文献2〜5と図1のようなピンホールを有する検出系を組み合わせると図2に示すような系が考えられる。特許文献2〜5においては容器から出てきた光が発散光であるので、図2の系においてもピンホール板6のピンホールはレンズ5の焦点8に位置しない。この系では乾燥系でNA>1を実現できる。
【0006】
【特許文献1】特開2004−85443号公報
【特許文献2】特開平4−369463号公報
【特許文献3】特開平8−178831号公報
【特許文献4】特開2004−138420号公報
【特許文献5】特開2003−4629号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図2に示した系では、試料容器2から発散する光を検出するため、試料容器2の中心軸と集光レンズ5の光軸が高精度で一致し、かつ試料容器2と集光レンズ5の距離がある所定の値に高精度で一致していない場合、収差が発生し、集光点3のピンホール上の像がぼける。その結果、蛍光の検出効率が低下すると同時にピンホールによるバックグラウンドの除去効率が低下し、S/Nが低下してしまう。図3に、試料容器2の中心軸9と集光レンズ5の光軸10がずれて、集光点3の像がぼけた様子を表す。図では表現しにくいが、試料容器2と集光レンズ5の相対位置が光軸方向にずれても同様の影響がある。したがって図2のような系では、試料容器2と集光レンズ5の相対位置を非常に高い精度で制御する必要がある。これはコストの上昇を招くだけでなく、試料容器2は頻繁に交換する性質の物であるから、その交換のたびに精密な位置調製をするのは実用的でない。
【0008】
このように、従来のピンホールを有する蛍光検出系では、NA>1の明るさを得るには、集光レンズと試料容器の間に液体を充填するか、さもなくば試料容器をレンズに対して極めて高精度に位置決めしなければならない。いずれも多数試料の自動処理には適さない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、底部外表面が曲面になってレンズ作用をする試料容器を用いる。励起光を平行光として試料容器の底部から照射させ、試料溶液中で集光点に集光させる。励起光照射によって発生した蛍光を試料容器の底部から平行光として取り出し、集光レンズによって集光し、光検出器によって検出する。このとき、集光レンズの焦点にピンホールの位置が一致するようにして、試料容器と光検出器の間にピンホール板を設置する。あるいは、ピンホール板を用いず、集光レンズの焦点に光検出器の光電面が一致するようにして光検出器を設置する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、乾燥系でNA>1が実現でき、試料容器を高精度に位置決めすることなく、バックグラウンド除去効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図4は、本発明による光検出装置の検出系部分の構成図である。本発明では、図4に示すように、試料容器2の底を曲面形状として、集光点3から放射された蛍光が試料容器から射出されるとき平行光束となるようにし、さらにピンホールを蛍光集光レンズ5の焦点8に設置する。
【0012】
図5は、図4に示した検出系において、試料容器と集光レンズの相対位置がベスト位置から光軸に垂直な方向にずれた場合の模式図である。このように試料容器と集光レンズの間を平行光束にした結果、両者に位置ずれが生じても収差が発生せず、蛍光がピンホールを通過する効率が高く維持される。
【0013】
光を透過させる部材の代表的材質は、石英、BK7、アクリル系プラスチックであり、これらの材質の屈折率は約1.5(より詳しくは1.46〜1.54)である。光ディスク用のレンズなども上記の材質で構成されている。一方、本発明における試料容器では、内面が屈折率1.3〜1.4の液体と接するため、屈折率1.5では内面での屈折力が不足することが予想される。そこで、素材の屈折率と達成可能なNAについて光線追跡シミュレーションにもとづいて詳細な解析を行った。以下では容器材質の屈折率をnで表す。
【0014】
よく知られているように、一点からの光を実質無収差で平行にする形状は、外面頂点の曲率半径R1、試料容器を一種のレンズ系とみなしたときの焦点距離f、中心軸上の厚さt1の3つのパラメータのみで一意的に定まる。相似な形状は同一形状とみなせば、試料容器の形状を表す独立なパラメータは規格化された曲率半径(R1/f)と規格化された厚さ(t1/f)だけである。つまり試料容器形状はこれら2つの数値の組合せ(R1/f、t1/f)で表される。また、試料容器外面の接平面と容器中心軸に直交する平面とのなす角度θが、ブリュースター角arctan(n)より大きくなると、容器外面での蛍光の反射率が急激に増大し、実質的には光が通らなくなる。そこでθ<arctan(n)という条件を満たしつつ、NA>1となる容器形状の範囲をシミュレーションにより求めた。その結果を図6に示す。黒く塗りつぶされた範囲がNA>1となる範囲である。このようにn=1.5ではNA>1となる範囲が存在せず、NA>1を得るには少なくともn≧1.55が必要で、より広い範囲でNA>1を得るにはn≧1.6が好ましいことがわかる。したがって、本発明の試料容器の材質の条件として、屈折率1.55以上が必要で、好ましくは屈折率1.6以上、より好ましくは1.7以上であることがわかる。
【0015】
本発明の光検出装置は、低価格で簡便な蛍光相関分光装置、超高感度の蛍光プレートリーダー、フローサイトメーターなどに利用できる。
【0016】
以下、図面に従って本発明の実施の形態を具体的に説明する。
【実施例1】
【0017】
図7は、本発明による光検出装置の第一の実施例の構成図である。光源11は波長532nm、出力1mWのレーザである。光源11から射出した平行な励起ビーム12は、励起フィルタ13を通してスペクトル純度を高めた後にダイクロイックミラー14で反射され、平行光束のまま試料容器2の底部に照射され、試料1中の集光点3に集光される。励起光照射により集光点3に存在する生体分子から放射された蛍光4は、容器界面の屈折によって平行光束として容器2の底部から射出され、ダイクロイックミラー14を透過し、蛍光フィルタ15で、532nm励起ビームの散乱光など蛍光波長以外の波長を持つ成分を遮断した後に、集光レンズ5でピンホール板6に設けられたピンホールに集光される。ピンホールの位置は集光レンズ5の焦点8の位置に設定される。ピンホールによって、試料の集光点以外の部分や試料容器からの発光が遮断され、集光点からの蛍光のみがピンホールを通過後、光検出器7で検出される。本検出系のNAは1.15であり、集光点における励起ビーム直径は1μm、集光レンズ5の結像倍率は10倍、ピンホール直径は10μmとした。試料の溶媒は、屈折率1.351の6倍のSSCバッファーである。試料容器の材質は屈折率1.7の樹脂である。試料容器と集光レンズの間は空気であり、このように集光レンズ底部に曲面を設けたことにより、乾燥系で1より大きいNAを実現できた。
【0018】
試料容器2の外面及び内面はいずれも次式で表される非球面である。
【0019】
【数1】
【0020】
ここで、r=√(x2+y2)、cは頂点の曲率、Kはコーニック定数、A,B,C,D,E,F,G,Hは非球面係数である。本実施例における試料容器2の外面及び内面を表すコーニック定数と非球面係数、及び中心軸での厚さを表1に示す。r及びzの単位はmmである。このように両面を非球面とすることにより、収差を波面収差0.07λrms以下の回折限界の分解能で集光点からの蛍光を平行光に変換することができる。本実施例で得られた検出NAは1.15である。
【0021】
【表1】
【0022】
光源11、光検出器7、及び光を透過又は反射する素子類は筐体20の内部に固定されている。試料容器2とダイクロイックミラー14の間には光が透過するよう筐体20に穴が設けられており、この穴は透明な窓板16でふさがれている。この窓板を設けることにより、試料容器からこぼれた試料や外気からの埃がダイクロイックミラー以下の光学素子に付着するのを防げるという効果がある。
【0023】
試料容器2は、筐体20上に固定された容器台21の上に設置される。試料容器2には位置決め用の穴23−1,23−2が設けられており、これらの位置決め用の穴に、容器台21上に固定された位置決めピン22−1,22−2が納まるように試料容器2を置くことにより、蛍光4及び励起光12の光軸と試料容器2の対称軸との距離が0.1mm以内に収まるように、自動的に試料容器2が位置決めされる。図8は上方から見た、容器台21より上の部分の図である。このように、試料容器2には位置決め用の穴23−1、23−2に、それぞれ位置決めピン22−1と22−2がはまっている。
【0024】
図9は、本実施例と、本実施例の検出系を図2に示した従来の検出系におきかえた系における、容器位置の基準位置からのずれと、生体分子からの蛍光検出効率の関係を示す図である。この場合においては、試料容器の内面・外面はともに球面であり、第一の実施例とほぼ同じNA1.14である。Δyは試料容器の理想位置からの検出系の光軸と直交する方向へのずれ、Δzは光軸方向へのずれである。図9に示すように、図2のような系では試料容器位置が10μmずれただけで蛍光検出効率が激減するのに対し、本発明によれば、試料容器位置が0.1mmずれても効率がほとんど変化しない。
【0025】
以上のように、本発明によれば乾燥系によってNA>1を実現でき、しかも試料容器の位置がずれてもほとんど検出効率が低下しない蛍光検出系が実現される。この結果、試料容器を取り替えて多数の試料を分析するような場合、試料容器を設置する位置の調製が不要となり、実用上極めて有利である。また、試料容器の位置決め精度が厳しくないので、多数の試料容器を載せたプレートを自動の並進ステージで駆動して多数試料の連続自動分析を行うことも可能になる。特に、プレートを一定速度で駆動する場合、図2の方式では±0.01μm程度の幅を移動する時間しか1試料の測定に使用できないのに対し、本発明によれば±0.1mm以上の幅を移動する時間を測定に使うことができる。すなわち測定時間を10倍以上とれることになり、√10〜3倍以上のS/N向上が見込まれる。
【実施例2】
【0026】
図10は、本発明の第二の実施例における試料容器の平面図及び断面図である。本実施例では複数の試料1−1〜1−96を入れられるように試料容器2に複数のウェルを設け、各ウェルの底部に曲面を設けて第一の実施例と同様の効果が得られるようにした。本実施例では、市販の試料分注ロボットによる試料移送がしやすいよう、ウェルの配置を、一般的な試料調製プレートと同一の9mmピッチ、8列12行とした。もちろん4.5mmピッチ、16列24行としても良い。第一の実施例と同様、試料容器2には2つの位置決め穴23−1、23−2が設けられている。
【0027】
本実施例における、励起光の照射及び蛍光検出の光学系は基本的に第一の実施例と同一である。図11は、光検出装置に取り付けた試料容器2の周辺の拡大図である。本実施例では試料容器2を置く台21は自動xyステージ30に固定されており、試料容器2がxy方向に移動される。自動xyステージ30の位置決め精度は±0.05μmであり、この精度で各ウェルの中心軸が検出光学系の光軸と一致するように試料容器2は位置決めされて静止し、そのウェルからの蛍光が検出される。コンピュータ制御により、この位置決め・蛍光検出のサイクルが各試料1−1〜1−96に対して自動で行われる。このように本実施例では台21上に試料容器2を1度セットするだけで、96個の試料を自動で分析できるという効果が有る。もちろん、16列24行の試料容器を用いれば384個の試料を自動で分析できる。いうまでもなく、試料の行数、列数は以上に上げた数値に限定されない
【実施例3】
【0028】
本発明の第三の実施例の構成は第二の実施例とほぼ同様であるが、xyステージ30を各ウェルの軸と蛍光検出系光軸と一致するたびに静止させることなく、一つの列にわたってほぼ一定速度で駆動し、ウェルの軸と検出系光軸が±0.1mmの範囲で一致する間に蛍光を検出する。従来の光学系では±0.01mmで一致する間しか効率良く蛍光を検出できなかったが、図9に示すように本発明の光学系によれば±0.1mmで一致する間は効率よく蛍光を検出できる。その結果、従来方式の約10倍の時間、蛍光検出が可能となり、このような連続一定速度駆動でも十分なS/Nで蛍光検出が可能となる。本実施例では、試料容器2を高精度に位置決めする必要がないので、自動xyステージを駆動するモーターとしてステッピングモーターが不要となり、安価なDCモーターで対応可能となり、その結果コスト低減が図れるという効果がある。
【実施例4】
【0029】
図12は、本発明の第四の実施例における試料容器2の断面図である。本実施例における試料容器2の形状は第二の実施例におけるそれとほぼ同一であるが、第二の実施例では試料容器が樹脂の一体成型であったのに対し、本実施例では2つの部材2Aと2Bの貼り合わせで構成されている。図13は本実施例の試料容器2の製造工程を示す図である。円柱状の貫通穴がアレイ状に設けられた部材2Aを、下面に試料容器の底部となるレンズ状の凸部が部材2Aと同様にアレイ状に設けられた部材2Bに位置決めして接着剤によって貼り合わせる。
【0030】
このように2つの部材の貼り合わせによって試料容器を製造した結果、各部材の形状が簡単となって製造コストが大幅低減し、貼り合わせの工程が増えたにもかかわらずトータルでの製造コスト低減効果が得られた。特に部材2Aは、単なる貫通穴付きの平面基板で極めて製造が容易であるばかりか、部材2Bと違って透明である必要性がないので、材料選択の幅が著しく広くなる。部材2Bに不透明な材料を採用することにより、外来光の遮光が容易になる。ここでは複数のウェルを有する試料容器について説明したが、図7に示すような、単一の試料収容部を有する試料容器を、2つの部材の貼り合わせによって製造することもできる。
【実施例5】
【0031】
図14は、本発明の第五の実施例における試料容器2近傍の断面の拡大図である。本実施例では、試料容器2に透明なふた24を付け、ふた24の下面の一部が試料液面に接触するようにした。この結果、励起光が試料/空気界面において散乱することなく試料容器上方に通りぬけ、試料表面での散乱光に起因する背景光の上昇が低減される。ふた24の材質としては、屈折率が試料に近い材質が好適に利用できる。本実施例では試料屈折率が1.36であったので、低屈折率のアクリル系樹脂(屈折率1.42)を使用した。また、ふた24の上面(空気/ふた界面)に反射防止膜を設けることにより、さらなる散乱低減をすることができる。
【実施例6】
【0032】
図15は、本発明の第六の実施例における試料容器2近傍の断面の拡大図である。本実施例では、第5の実施例と同様に試料容器2のふた24を設けるが、その材質を透明な部材でなく、光吸収性の材質とすることで第5の実施例と同様の効果を得た。本実施例ではふた24の材質として黒色のポリカーボネートを使用したが、光を良く吸収する部材なら何でも良い。ふた24の光が照射される部分に円錐状のくぼみ25を設けることにより、光が吸収される効率の向上を図っている。また、ふたの材質そのものは光を吸収しなくても、励起光が照射するエリアに光吸収性のコーティングを施すことにより同様の効果を得ることができる。
【実施例7】
【0033】
図16は、本発明の第七の実施例の光学系を示す図である。本実施例の構成は基本的には第一の実施例と共通であるが、光検出器7の光電面26を集光レンズ5の焦点8を内包するように設置することにより、メカニカルなピンホール板6を省略している。この構成では、ピンホール無しで、光電面の有効径と等しい径の穴を有する遮光板を焦点位置に置いた場合と同一のバックグラウンド除去効果が得られる。本構成に固有の効果は機構部品を一点減らせることである。
【0034】
本実施例の光学系を備える光検出装置に対しても、前記実施例1〜6で説明した構成をそれぞれ適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】従来のピンホールを有する蛍光検出系の構成図。
【図2】底面が曲面の試料容器と従来のピンホールを有する蛍光検出系とを組合せた構成図。
【図3】従来の光学系において試料容器と集光レンズの相対位置がずれた場合の様子を示す図。
【図4】本発明による検出光学系の構成図。
【図5】本発明の検出系において試料容器と集光レンズの相対位置がずれた場合の様子を示す図。
【図6】NA>1となる試料容器形状の範囲を示す図。
【図7】本発明の第一の実施例の構成図。
【図8】上方から見た、容器台21より上の部分の拡大図。
【図9】本発明と図2の系において、蛍光検出効率と集光レンズと試料容器との相対位置ずれとの関係を示す図。
【図10】本発明の第二の実施例における容器の正面図及び断面図。
【図11】本発明の第二の実施例における容器周辺の正面図。
【図12】本発明の第四の実施例における容器の断面図。
【図13】本発明の第四の実施例における容器の製造工程図。
【図14】本発明の第五の実施例における容器近傍の断面図。
【図15】本発明の第六の実施例における容器近傍の断面図。
【図16】本発明の第七の実施例の構成図。
【符号の説明】
【0036】
1,1−1〜1−96:試料、2:容器、2A、2B:容器部材、3:集光点、4:蛍光、4’:仮想的な平行化された蛍光、5:集光レンズ、6:ピンホール板、7:光検出器、8:焦点、9:容器中心軸、10:レンズ光軸、11:光源、12:励起ビーム、13:励起フィルタ、14:ダイクロイックミラー、15:蛍光フィルタ、16:窓板、20:筐体、21:台、22−1,22−2:位置決めピン、23−1,23−2:位置決め用穴、24:ふた、25:円錐状のくぼみ、26:光電面,30:xyステージ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部外表面が曲面になった試料容器と、
前記試料容器の底部から出射した光を検出するための光検出器と、
前記試料容器と前記光検出器の間に位置するピンホール板と、
前記試料容器と前記ピンホール板の間に位置する集光レンズとを有し、
前記ピンホール板は、前記集光レンズの焦点に当該ピンホール板に設けられたピンホールの位置が一致するように設置されていることを特徴とする光検出装置。
【請求項2】
請求項1記載の光検出装置において、励起光を実質的に平行光として前記試料容器の前記底部へ照射する光照射部を有することを特徴とする光検出装置。
【請求項3】
請求項2記載の光検出装置において、前記励起光は前記試料容器の底部によって前記試料容器に保持される試料溶液中に点状に集光されることを特徴とする光検出装置。
【請求項4】
請求項2記載の光検出装置において、前記試料容器と前記集光レンズの間にダイクロイックミラーが設けられ、前記光照射部は前記ダイクロイックミラーを介して前記試料容器中の試料溶液に励起光を照射することを特徴とする光検出装置。
【請求項5】
請求項1記載の光検出装置において、前記試料容器の底部は屈折率が1.55以上であることを特徴とする光検出装置。
【請求項6】
請求項1記載の光検出装置において、前記試料容器と前記集光レンズの間に透明な仕切り板が設けられていることを特徴とする光検出装置。
【請求項7】
請求項1記載の光検出装置において、前記試料容器の底部外表面が非球面であることを特徴とする光検出装置。
【請求項8】
請求項7記載の光検出装置において、前記試料容器の底部内表面が非球面であることを特徴とする光検出装置。
【請求項9】
請求項1記載の光検出装置において、前記試料容器の上に、透明又は一部が光を吸収する部材のふたを備え、ふたの下面の少なくとも一部が前記試料容器中の試料溶液に接触することを特徴とする光検出装置。
【請求項10】
請求項1記載の光検出装置において、前記試料容器は、それぞれ独立して試料溶液を収容する複数のウェルを備え、前記試料容器を前記光検出器に対して2次元的に駆動する駆動部を有することを特徴とする光検出装置。
【請求項11】
底部外表面が曲面になった試料容器と、
前記試料容器の底部から出射した光を検出するための光検出器と、
前記試料容器と前記光検出器の間に位置する集光レンズとを有し、
前記光検出器は、前記集光レンズの焦点に光電面が一致するように設置されていることを特徴とする光検出装置。
【請求項12】
請求項11記載の光検出装置において、励起光を実質的に平行光として前記試料容器の前記底部へ照射する光照射部を有することを特徴とする光検出装置。
【請求項13】
請求項12記載の光検出装置において、前記励起光は前記試料容器の底部によって前記試料容器に保持される試料溶液中に点状に集光されることを特徴とする光検出装置。
【請求項14】
請求項12記載の光検出装置において、前記試料容器と前記集光レンズの間にダイクロイックミラーが設けられ、前記光照射部は前記ダイクロイックミラーを介して前記試料容器中の試料溶液に励起光を照射することを特徴とする光検出装置。
【請求項15】
請求項11記載の光検出装置において、前記試料容器の底部は屈折率が1.55以上であることを特徴とする光検出装置。
【請求項16】
請求項11記載の光検出装置において、前記試料容器と前記集光レンズの間に透明な仕切り板が設けられていることを特徴とする光検出装置。
【請求項17】
請求項11記載の光検出装置において、前記試料容器の底部外表面が非球面であることを特徴とする光検出装置。
【請求項18】
請求項17記載の光検出装置において、前記試料容器の底部内表面が非球面であることを特徴とする光検出装置。
【請求項19】
請求項11記載の光検出装置において、前記試料容器の上に、透明又は一部が光を吸収する部材のふたを備え、ふたの下面の少なくとも一部が前記試料容器中の試料溶液に接触することを特徴とする光検出装置。
【請求項20】
請求項11記載の光検出装置において、前記試料容器は、それぞれ独立して試料溶液を収容する複数のウェルを備え、前記試料容器を前記光検出器に対して2次元的に駆動する駆動部を有することを特徴とする光検出装置。
【請求項1】
底部外表面が曲面になった試料容器と、
前記試料容器の底部から出射した光を検出するための光検出器と、
前記試料容器と前記光検出器の間に位置するピンホール板と、
前記試料容器と前記ピンホール板の間に位置する集光レンズとを有し、
前記ピンホール板は、前記集光レンズの焦点に当該ピンホール板に設けられたピンホールの位置が一致するように設置されていることを特徴とする光検出装置。
【請求項2】
請求項1記載の光検出装置において、励起光を実質的に平行光として前記試料容器の前記底部へ照射する光照射部を有することを特徴とする光検出装置。
【請求項3】
請求項2記載の光検出装置において、前記励起光は前記試料容器の底部によって前記試料容器に保持される試料溶液中に点状に集光されることを特徴とする光検出装置。
【請求項4】
請求項2記載の光検出装置において、前記試料容器と前記集光レンズの間にダイクロイックミラーが設けられ、前記光照射部は前記ダイクロイックミラーを介して前記試料容器中の試料溶液に励起光を照射することを特徴とする光検出装置。
【請求項5】
請求項1記載の光検出装置において、前記試料容器の底部は屈折率が1.55以上であることを特徴とする光検出装置。
【請求項6】
請求項1記載の光検出装置において、前記試料容器と前記集光レンズの間に透明な仕切り板が設けられていることを特徴とする光検出装置。
【請求項7】
請求項1記載の光検出装置において、前記試料容器の底部外表面が非球面であることを特徴とする光検出装置。
【請求項8】
請求項7記載の光検出装置において、前記試料容器の底部内表面が非球面であることを特徴とする光検出装置。
【請求項9】
請求項1記載の光検出装置において、前記試料容器の上に、透明又は一部が光を吸収する部材のふたを備え、ふたの下面の少なくとも一部が前記試料容器中の試料溶液に接触することを特徴とする光検出装置。
【請求項10】
請求項1記載の光検出装置において、前記試料容器は、それぞれ独立して試料溶液を収容する複数のウェルを備え、前記試料容器を前記光検出器に対して2次元的に駆動する駆動部を有することを特徴とする光検出装置。
【請求項11】
底部外表面が曲面になった試料容器と、
前記試料容器の底部から出射した光を検出するための光検出器と、
前記試料容器と前記光検出器の間に位置する集光レンズとを有し、
前記光検出器は、前記集光レンズの焦点に光電面が一致するように設置されていることを特徴とする光検出装置。
【請求項12】
請求項11記載の光検出装置において、励起光を実質的に平行光として前記試料容器の前記底部へ照射する光照射部を有することを特徴とする光検出装置。
【請求項13】
請求項12記載の光検出装置において、前記励起光は前記試料容器の底部によって前記試料容器に保持される試料溶液中に点状に集光されることを特徴とする光検出装置。
【請求項14】
請求項12記載の光検出装置において、前記試料容器と前記集光レンズの間にダイクロイックミラーが設けられ、前記光照射部は前記ダイクロイックミラーを介して前記試料容器中の試料溶液に励起光を照射することを特徴とする光検出装置。
【請求項15】
請求項11記載の光検出装置において、前記試料容器の底部は屈折率が1.55以上であることを特徴とする光検出装置。
【請求項16】
請求項11記載の光検出装置において、前記試料容器と前記集光レンズの間に透明な仕切り板が設けられていることを特徴とする光検出装置。
【請求項17】
請求項11記載の光検出装置において、前記試料容器の底部外表面が非球面であることを特徴とする光検出装置。
【請求項18】
請求項17記載の光検出装置において、前記試料容器の底部内表面が非球面であることを特徴とする光検出装置。
【請求項19】
請求項11記載の光検出装置において、前記試料容器の上に、透明又は一部が光を吸収する部材のふたを備え、ふたの下面の少なくとも一部が前記試料容器中の試料溶液に接触することを特徴とする光検出装置。
【請求項20】
請求項11記載の光検出装置において、前記試料容器は、それぞれ独立して試料溶液を収容する複数のウェルを備え、前記試料容器を前記光検出器に対して2次元的に駆動する駆動部を有することを特徴とする光検出装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2007−248063(P2007−248063A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−67937(P2006−67937)
【出願日】平成18年3月13日(2006.3.13)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月13日(2006.3.13)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
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