説明

光源装置、光源装置の発光制御方法、およびプロジェクタ

【課題】 マイクロ波励起ランプのエネルギー効率を高めことができる、光源装置を提供する。
【解決手段】 先端部分が発光部14に挿入される2つのアンテナ21、22を有するランプ部10において、一方のアンテナ21に対して同軸ケーブル4によりマイクロ波を給電し、他方のアンテナ22に抵抗器Zを接続する。そして、この抵抗器Zの抵抗値を、マイクロ波に対するランプ部10のインピーダンス、およびマイクロ波に対する空気のインピーダンスに比べ十分に大きい値とする。この構成により、同軸ケーブル4から一方のアンテナ21に給電されるマイクロ波を、他方のアンテナ22に接続された抵抗器Zにより高反射率で反射させ、発光部14においてマイクロ波の定在波を立てることができる。すなわち、発光部14の発光領域15においてマイクロ波の電界の振幅が腹になるようにすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波励起ランプを使用した光源装置に関し、特にマイクロ波励起ランプのエネルギー効率を高めることができる、光源装置、光源装置の発光制御方法、およびプロジェクタに関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波励起ランプは従来の白熱灯や高圧水銀ランプに代表される放電灯と異なりランプ内部に放電用の電極を持たないため、フィラメントや電極の消耗や、それに伴うガラスの白濁等のランプ劣化要因を持たないという特徴を持つ。また、内部ガスの選択肢が広がり、必ずしも水銀を使用する必要がないので不必要な紫外線を放出せずに済み、液晶プロジェクタ向けの長寿命光源として有力である。
【0003】
このようなマイクロ波励起の光源装置として、従来技術の無電極放電灯装置がある(特許文献1を参照)。この特許文献1の放電灯においては、放電容器を溶融破壊しないため、電灯内部に、アンテナ部材の一部が突出するように設けられており、当該アンテナからマイクロ波を与えることで、放電容器を溶融破壊することなく、放電容器内のガスを励起させて発光させる技術が示されている。
【特許文献1】特開2007−115534号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のマイクロ波励起の光源装置は、片側のアンテナからマイクロ波を供給する構成であり、反対側のアンテナは空気中に浮いている。従って、マイクロ波に対する空気のインピーダンス(377Ω程度)が後段に接続されているのと等価になり、伝送系のインピーダンスの値が377Ωに近い場合はマイクロ波が放射されてしまう。ここで、マイクロ波の反射率を上げ、発光効率を上げることが望ましい。
【0005】
本発明は、斯かる実情に鑑みなされたものであり、本発明は、マイクロ波励起ランプの発光の際のエネルギー効率を高めることができる、光源装置、光源装置の発光制御方法、およびプロジェクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の光源装置は、マイクロ波を出力するマイクロ波電源と、前記マイクロ波の照射を受けて発光する発光物質が封入された発光容器内に、互いに対向する一端が離間して挿入された一対のアンテナと、前記一対のアンテナのうちいずれか一方のアンテナに、前記マイクロ波電源から出力されるマイクロ波を給電するマイクロ波伝送線路と、前記一対のアンテナのうち他方のアンテナの端部の電位を固定する電位固定部と、を備えることを特徴とする。
【0007】
上記構成からなる本発明の光源装置では、マイクロ波を出力するマイクロ波電源と、マイクロ波の照射を受けて発光する発光物質が封入された発光容器内に、互いに対向する一端が離間して挿入された一対のアンテナとを設け、一対のアンテナのうちいずれか一方のアンテナに、マイクロ波電源から出力されるマイクロ波を給電するマイクロ波伝送線路を接続し、一対のアンテナのうち他方のアンテナの端部の電位を固定する。例えば、直接接地するか、またはインピーダンス素子(例えば、マイクロ波に対するランプ部のインピーダンスおよびマイクロ波に対する空気のインピーダンスに比べ充分大きいインピーダンス)を接続して電位を接地側に固定する。この構成により、マイクロ波伝送線路から一方のアンテナに給電されるマイクロ波を、他方のアンテナに接続されたインピーダンス素子により高反射率で反射させ、発光部においてマイクロ波の定在波を立てることができる。すなわち、発光部の中心部においてマイクロ波の電界の振幅が腹になるようにすることができる。
これにより、マイクロ波励起ランプを使用する光源装置において、発光の際のエネルギー効率を高めることができる。
【0008】
また、本発明の光源装置は、前記電位固定部により、前記他方のアンテナの端部を接地側の電位に固定することを特徴とする。
【0009】
上記構成からなる本発明の光源装置では、一対のアンテナのうちいずれか一方のアンテナに、マイクロ波電源から出力されるマイクロ波を給電するマイクロ波伝送線路を接続し、一対のアンテナのうち他方のアンテナの端部を直接接地する。この構成により、マイクロ波伝送線路から一方のアンテナに給電されるマイクロ波を、他方のアンテナの接地された端部により逆位相で反射させ、発光部においてマイクロ波の定在波を立てることができる。すなわち、発光部の中心部においてマイクロ波の電界の振幅が腹になるようにすることができる。
これにより、マイクロ波励起ランプを使用する光源装置において、発光の際のエネルギー効率を高めることができる。
【0010】
また、本発明の光源装置は、前記電位固定部はインピーダンス素子であり、該インピーダンス素子により前記他方のアンテナの端部の電位を固定することを特徴とする。
【0011】
上記構成からなる本発明の光源装置では、一対のアンテナのうちいずれか一方のアンテナに、マイクロ波電源から出力されるマイクロ波を給電するマイクロ波伝送線路を接続し、一対のアンテナのうち他方のアンテナにインピーダンス素子(例えば、マイクロ波に対するランプ部のインピーダンスおよびマイクロ波に対する空気のインピーダンスに比べ充分大きいインピーダンス)を接続して電位を接地側に固定する。この構成により、マイクロ波伝送線路から一方のアンテナに給電されるマイクロ波を、他方のアンテナに接続されたインピーダンス素子により高反射率で反射させ、発光部においてマイクロ波の定在波を立てることができる。すなわち、発光部の中心部においてマイクロ波の電界の振幅が腹になるようにすることができる。
これにより、マイクロ波励起ランプを使用する光源装置において、発光の際のエネルギー効率を高めることができる。
【0012】
また、本発明の光源装置は、前記インピーダンス素子は、前記マイクロ波に対する空気のインピーダンスの値よりも大きなインピーダンスの値であることを特徴とする。
【0013】
上記構成からなる本発明の光源装置では、アンテナに接続されるインピーダンス素子のインピーダンスの値を、開放状態よりも反射率を高めるために、マイクロ波に対する空気のインピーダンスよりも大きくする。このように、空気のインピーダンスよりも大きなインピーダンス値を有するインピーダンス素子をアンテナに接続することにより、マイクロ波伝送線路から一方のアンテナに給電されるマイクロ波を、他方のアンテナに接続されたインピーダンス素子によりほぼ全反射で反射させることができる。このため、発光部においてマイクロ波の定在波を立てることができる。すなわち、発光部の中心部においてマイクロ波の電界の振幅が腹になるようにすることができる。
これにより、マイクロ波励起ランプを使用する光源装置において、発光の際のエネルギー効率を高めることができる。
【0014】
また、本発明の光源装置は、前記アンテナと前記マイクロ波伝送線路の接続点と、前記アンテナと前記インピーダンス素子との接続点との間の距離が、前記マイクロ波の波長の略1/2の奇数倍であることを特徴とする。
【0015】
上記構成からなる本発明の光源装置では、2つのアンテナの全長(発光部におけるアンテナの端部間の一定の間隔を含めた長さ)を、マイクロ波の波長の略1/2の奇数倍にする。
これにより、発光部においてマイクロ波の定在波を立て、発光部の中心部においてマイクロ波が強め合う条件とすることができる。この場合、発光物質容器内のマイクロ波の波長は、発光物質容器を形成する材料の誘電率により変化するので、この誘電率を考慮してアンテナの長さを決めるようにする。すなわち、発光部の中心部においてマイクロ波の電界の振幅が腹になるようにすることができる。
【0016】
また、本発明の光源装置において、前記インピーダンス素子は、抵抗器で構成され、該抵抗器の一端が前記他方のアンテナに接続され、他端が接地側に接続されることを特徴とする。
【0017】
上記構成からなる本発明の光源装置では、アンテナに接続されるインピーダンス素子として抵抗器を使用する。この抵抗値はなるべく大きい方がよく、抵抗値が大きい程、マイクロ波伝送線路から一方のアンテナに給電されるマイクロ波を、抵抗器により高反射率で反射させることができる。このため、発光部においてマイクロ波の定在波を立てることができる。すなわち、発光部の中心部においてマイクロ波の電界の振幅が腹になるようにすることができる。
これにより、マイクロ波励起ランプを使用する光源装置において、発光の際のエネルギー効率を高めることができる。
【0018】
また、本発明の光源装置は、前記インピーダンス素子は、抵抗RまたはインダクタンスLまたはキャパシタCのいずれかのうちの1つ以上を用いた回路で構成され、前記マイクロ波の周波数において、当該インピーダンス素子のインピーダンスと前記発光容器のインピーダンスとで表される反射率の大きさが空気よりも大きな値であり、かつ位相回転が180度の倍数となり、さらに、当該インピーダンス素子の一端が前記他方のアンテナに接続され、他端が接地側に接続されることを特徴とする。
【0019】
上記構成からなる本発明の光源装置では、インピーダンス素子を、抵抗RまたはインダクタンスLまたはキャパシタCのいずれかのうちの1つ以上を用いた回路で構成する。また、マイクロ波の周波数において、このインピーダンス素子による反射率の大きさが空気よりも大きな値であり、かつ位相回転が180度の倍数となるようにする。この構成により、マイクロ波伝送線路から一方のアンテナに給電されるマイクロ波を、他方のアンテナに接続されたインピーダンス素子により高反射率で反射させ、発光部においてマイクロ波の定在波を立てることができる。すなわち、発光部の中心部においてマイクロ波の電界の振幅が腹になるようにすることができる。
これにより、マイクロ波励起ランプを使用する光源装置において、発光の際のエネルギー効率を高めることができる。
【0020】
また、本発明の光源装置は、前記インピーダンス素子は、可変の抵抗RまたはインダクタンスLまたはキャパシタCのいずれかのうちの1つ以上を用いた回路で構成され、前記マイクロ波の周波数において、当該インピーダンス素子のインピーダンスと前記発光容器のインピーダンスとで表される反射率の大きさが空気よりも大きな値であり、かつ位相回転を制御することができ、さらに、当該インピーダンス素子の一端が前記他方のアンテナに接続され、他端が接地側に接続されることを特徴とする。
【0021】
上記構成からなる本発明の光源装置では、インピーダンス素子を、インピーダンス値が可変の抵抗RまたはインダクタンスLまたはキャパシタCのいずれかのうちの1つ以上を用いた回路で構成する。そして、マイクロ波の周波数において、このインピーダンス素子による反射率の大きさが空気よりも大きな値であり、かつ位相回転を制御できるようにする。この構成により、マイクロ波伝送線路から一方のアンテナに給電されるマイクロ波を、他方のアンテナに接続されたインピーダンス素子により高反射率で反射させ、発光部においてマイクロ波の定在波を立てることができる。すなわち、発光部の中心部においてマイクロ波の電界の振幅が腹になるようにすることができる。
これにより、マイクロ波励起ランプを使用する光源装置において、発光の際のエネルギー効率を高めることができる。
【0022】
また、本発明の光源装置の発光制御方法は、マイクロ波を出力するマイクロ波電源と、マイクロ波の照射を受けて発光する発光物質が封入された発光容器内に、互いに対向する一端が離間して挿入された一対のアンテナと、を備えた光源装置の発光制御方法であって、一対のアンテナのうちいずれか一方のアンテナに接続されるマイクロ波伝送線路を介して、一方のアンテナにマイクロ波電源から出力されるマイクロ波を給電する手順と、一対のアンテナのうち他方のアンテナの端部の電位を固定する電位固定部により、マイクロ波を反射する手順と、を含むことを特徴とする。
【0023】
上記手順を含む本発明の発光制御方法では、対向する端部により発光部にマイクロ波を印加する2つのアンテナを有するマイクロ波励起ランプにおいて、一方のアンテナに対してマイクロ波伝送線路によりマイクロ波を給電し、他方のアンテナに所定の値以上のインピーダンス(例えば、マイクロ波に対するランプ部のインピーダンスおよびマイクロ波に対する空気のインピーダンスに比べ充分大きいインピーダンス)を持つ抵抗等を接続して電位を固定する。この構成により、マイクロ波伝送線路から一方のアンテナに給電されるマイクロ波を、他方のアンテナに接続された電位固定部により高反射率で反射させ、発光部においてマイクロ波の定在波を立てることができる。すなわち、発光部の中心部においてマイクロ波の電界の振幅が腹になるようにすることができる。
これにより、マイクロ波励起ランプを使用する光源装置において、発光の際のエネルギー効率を高めることができる。
【0024】
また、本発明のプロジェクタは、光源装置と、光源装置から射出された光束を、入力される画像情報に応じて変調し光学像を形成する光変調部と、光変調部により形成された光学像を投写する投写部と、を備えるプロジェクタであって、光源装置は、マイクロ波を出力するマイクロ波電源と、マイクロ波の照射を受けて発光する発光物質が封入された発光容器内に、互いに対向する一端が離間して挿入された一対のアンテナと、一対のアンテナのうちいずれか一方のアンテナに、マイクロ波電源から出力されるマイクロ波を給電するマイクロ波伝送線路と、一対のアンテナのうち他方のアンテナの端部の電位を固定する電位固定部と、を備えることを特徴とする
【0025】
上記構成からなる本発明のプロジェクタでは、本発明による光源装置を備えており、この光源装置では、対向する端部により発光部にマイクロ波を印加する2つのアンテナを有するマイクロ波励起ランプにおいて、一方のアンテナに対してマイクロ波伝送線路によりマイクロ波を給電し、他方のアンテナに所定の値以上のインピーダンス(例えば、マイクロ波に対するランプ部のインピーダンスおよびマイクロ波に対する空気のインピーダンスに比べ充分大きいインピーダンス)を持つ抵抗等を接続して電位を固定する。この構成により、マイクロ波伝送線路から一方のアンテナに給電されるマイクロ波を、他方のアンテナに接続された電位固定部により高反射率で反射させ、発光部においてマイクロ波の定在波を立てることができる。すなわち、発光部の中心部においてマイクロ波の電界の振幅が腹になるようにすることができる。
これにより、光源装置において、発光の際のエネルギー効率を高めることができる。このため、エネルギー効率の高い光源装置を搭載したプロジェクタを提供することができる。したがって、旧来の光源装置を有するプロジェクタに比べ、プロジェクタの消費電力を低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
[第1の実施の形態]
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る光源装置の全体構成を示すブロック図である。図1に示すように、本発明の光源装置は、固体マイクロ波電源1とマイクロ波励起ランプ部10と、マイクロ波励起ランプ部10に接続される抵抗器Zから構成される。なお、一般に、マイクロ波帯としての慣用的周波数は、3GHz〜30GHzをいうが本案件では、UHF帯からSHF帯に相当する300MHz〜30GHz帯と定義する。また、以下の説明では「マイクロ波励起ランプ部」を単に「ランプ部」ともいう。
【0027】
固体マイクロ波電源1は、固体高周波発振器としての弾性表面波(Su r f a c e Ac ou s ti c Wa v e:SAW)発振器であるダイヤモンドSAW発振器2と、増幅器3とを有して構成される。ダイヤモンドSAW発振器2から出力されたマイクロ波の高周波信号は、増幅器3で増幅される。増幅器3で増幅されたマイクロ波は、マイクロ波伝送線路となる同軸ケーブル4によりランプ部10に給電される。なお、固体マイクロ波電源1は、ダイヤモンドSAW発振器に限るものではなく、位相を制御できる個体発信源であれば良い。また、このマイクロ波伝送線路としては同軸ケーブルに限られず、ストリップ線路や、マイクロストリップ線路、導波管などさまざまな伝送線路を用いることができる。
【0028】
ランプ部10は、非導電性材料で形成される略球形状の膨出部13と、この膨出部13から外側に対向するように延出される一対の細管部11、12を有する透明な発光物質容器で構成されている。この発光物質容器は、石英ガラス、サファイアガラス、透明セラミックス等から形成される。また、膨出部13には、マイクロ波により発光する発光物質を充填した発光部14(発光ガスを封入した封入空間)が形成されている。発光部(封入空間)14の内径は例えば、略1mm〜2mm程度である。
【0029】
細管部11、12の内部それぞれには、棒状の内部導電体がアンテナ21、22として封入されている。このアンテナ21に同軸ケーブル4の中心線(中心導体)が接続され、アンテナ22には抵抗器Zが接続される。また、抵抗器Zの他端はGND(接地側)に接続される。この抵抗器Zの抵抗値は、マイクロ波に対するランプ部10のインピーダンスおよびマイクロ波に対する空気のインピーダンスよりも十分に大きな値を持つ抵抗器である。なお、同軸ケーブル4の中心線をアンテナ21に直接接続せずに、例えば、細管部11の長手方向の範囲に巻回されたコイルを通して、マイクロ波をアンテナ21に給電するようにしてもよい。
このように、ランプ部10へのマイクロ波給電を1系統のみとし、給電側のアンテナ21に対向するアンテナ22には大きなインピーダンス値(抵抗値)をもつ抵抗器Zを接続する。
【0030】
上記構成により、同軸ケーブル4から一方のアンテナ21に給電されるマイクロ波を、他方のアンテナ22に接続されたインピーダンス素子(抵抗器Z)により高反射率で反射させることができる。このため、発光部14においてマイクロ波の定在波を立てることができる。すなわち、発光部14内の発光領域15(発光中心部16)においてマイクロ波の電界の振幅が腹になるようにすることができる。
これにより、マイクロ波励起ランプを使用する光源装置において、発光の際のエネルギー効率を高めることができる。
【0031】
また、図2は、本発明の光源装置におけるランプ部の等価回路を示す図である。
図2に示すように、ランプ部の全体のトータルインピーダンスZは、インダクタンスL1、キャパシタC1、抵抗Rp、キャパシタC2、およびインダクタンスL2の直列回路で表される。
ここで、インダクタンスL1は、棒状の導体であるアンテナ21により生じるインダクタンス成分である。キャパシタC1は、アンテナ21の先端部aと発光領域(プラズマ状態部)15との間のギャップg1により生じるキャパシタンス成分である。抵抗Rpは、発光領域15を抵抗成分で表したものである。
【0032】
また、キャパシタC2は、アンテナ22の先端部bと発光領域15との間のギャップg2により生じるキャパシタンス成分である。インダクタンスL2は、棒状の導体であるアンテナ22により生じるインダクタンス成分である。
そして、インダクタンスL2に抵抗器Zが接続され、抵抗器Zの他端がGND(接地側)に接続される。この抵抗器Zの抵抗値は、マイクロ波に対する空気のインピーダンス(略377Ω程度)よりも十分大きな値に設定される。
図2に示す等価回路において、A点での反射率ρは、
【0033】
ρ=(Z−Z)/(Z+Z
【0034】
となる。Zは、インピーダンス素子(抵抗器Z)のインピーダンス値であり、Zは、ランプ部10のインピーダンス値である(例えば、略50Ω程度)。ここで、Z≫Z、の場合、ρ≒1となり、ほぼ完全に反射する。
【0035】
したがって、ランプ部のインピーダンス(例えば、略50Ω程度)に比べ、十分に大きいインピーダンス成分(例えば、数MΩ)を持つ抵抗器Z(インピーダンス素子)を、ランプ部の後端のインダクタンスL2に接続する。また、空気のインピーダンスは略377Ωと計算されるので、抵抗器Zには、空気のインピーダンスよりも大きなインピーダンス成分を持つインピーダンス素子を接続する。このように、インピーダンス素子が377Ω以下のインピーダンス成分であれば、インピーダンス素子を接続しない場合よりも反射率ρが低くなるため、より効果的に反射させるために、377Ω以上のインピーダンス成分を持つインピーダンス素子を適用する。
【0036】
そして、図3に示すように、マイクロ波の波長をλとした場合に、ランプ部10のアンテナ21、22とギャップ部を含む長さL(L=a+g+a)を「λg/2」とする。この長さの規定により、ギャップ中心部が腹となるような定在波を起こすことができ、発光効率が良くなる。また、Lはマイクロ波の波長λの半分(λg/2)に限られず、その奇数倍(L=n・λg/2、ここでnは奇数)でもよい。
【0037】
なお、上述した例では、インピーダンス素子として抵抗器Zを用いた例について説明したが、このインピーダンス素子を抵抗R、インダクタンスL、キャパシタCのいずれかのうち1つ以上を用いて構成することもできる。
例えば、図8(A)に示すインピーダンス素子Zを、図8(B)に示すLCRの直列回路とすることができる。この場合に、Rの値はマイクロ波に対する空気のインピーダンスよりも大きくすると好適である。
【0038】
そして、使用するマイクロ波の周波数において、反射率ρは、
ρ=(Z−Z)/(Z+Z)=Γejθ、となる。
【0039】
ここで、θは、反射率の位相回転角(単位ラジアン)であり、位相回転角が±180度(±π)の倍数となる場合に進行波と反射波とが定在波を作る。
なお、R、L、Cのいずれかのうち1つ以上の素子について、インピーダンス値を可変にできるように構成してもよい。この場合は、使用するマイクロ波の周波数に合わせて、素子のインピーダンス値を調整することができる。
【0040】
また、図8(C)に示すように、LCの並列回路でもよい。
この場合は、使用するマイクロ波の周波数と、LC並列回路の共振周波数とを一致させて、使用マイクロ波の周波数においてLC並列回路のインピーダンスが最大になるようにする。
すなわち、使用マイクロ波の角周波数をω、または、周波数をfとすると、
【0041】
ω=1/(√LC)、
f=1/(2π√LC)、となるようにする。
【0042】
この場合についても、L、Cのいずれかのうち1つ以上の素子について、インピーダンス値を可変にできるように構成してもよい。この場合は、使用するマイクロ波の周波数に合わせて、素子のインピーダンス値を調整することができる。
【0043】
また、図8(D)に示すように、LC並列回路に抵抗Rを直列に接続した構成とすることもできる。
さらに、所望の場合には、インピーダンス素子を‘Z=0’、すなわち、アンテナ22の一端を直接にGNDに接地することもできる。この場合は、反射率が−1となり、逆位相の反射波が生じるので、進行波と逆位相の反射波とで定在波を作るようにする。
【0044】
次に、ランプ部10について、補足して説明する。前述したように、ランプ部10において、膨出部13と細管部11、12とを構成する発光物質容器は、石英ガラスや、サファイアガラスや、パイレックス(登録商標)などの可視光の透過率の高い材料を使って構成する。ランプ部10の細管部11、12にはマイクロ波を集中させるための2本のアンテナ21、22が備えられている。この2本のアンテナ21、22は、発光部14の発光領域15に対して対称に配置されている。
【0045】
アンテナ21、22は発光部14に侵入してもしなくても構わない。アンテナ21、22の材質は導体とし、特に、熱膨張係数が小さく耐熱性が高い材料、具体的にはタングステン合金やステンレス合金、モリブデン等が適している。途中、石英ガラスとの熱膨張差を打ち消すために、一部分が箔になっていても良い。
【0046】
発光部14中のガスは、点灯中の水銀蒸気圧が1〜200気圧程度(超高圧水銀ランプ程度)になるように水銀を封じこめたものか、キセノンガスにヨウ化ナトリウムやヨウ化スカンジウムを用いたものを用いても良い。
なお、アンテナ21、22の先端がガスの発光部14に侵入する場合は内部に充填するガスの種類にもよるが、ガスとの反応によりアンテナ材料の金属が腐食することが考えられるので、その場合は保護膜などを備えることが望ましい。
【0047】
そして、ランプ部10の構造が、アンテナ部分とギャップ部を含む全長を「λ/2」とする場合について考える。ランプ部のアンテナ部分の石英の比誘電率(ε)が4.2であることから、2.45GHzのマイクロ波の石英中のマイクロ波の1/4波長(λg)は、空気中のλ/4波長3.00cmから次式で求める。
【0048】
λg=λ/√ε
【0049】
その結果、石英中のλg/4波長は、1.49cmとなる。ギャップ間を1.0mmとすると、aの部分は、1.44cmとなる。この結果、ギャップ間で電界の強度が大きく振幅し、効率よくプラズマを点灯し維持できる。
【0050】
このように、本発明の光源装置においては、エネルギー効率の高いマイクロ波励起ランプを使用した光源装置を提供することができる。また、ギャップ間での電界の強さと、ランプから発光される輝度とは比例するため、固体マイクロ波電源1から出力されるマイクロ波の強度を調整することにより、ランプ部10の発光輝度を調整することができる。
【0051】
なお、前述のマイクロ波電源は、固体マイクロ波電源1が相当し、前述の発光部は発光部14が相当する。また、前述のマイクロ波伝送線路は同軸ケーブル4が相当する。また、前述の2つのアンテナは、アンテナ21、22が相当し、前述のインピーダンス素子は、抵抗器Zが相当する。
【0052】
[第2の実施の形態]
さらに、光源装置の全体としてのエネルギー効率を上げるために重要なことは、マイクロ波伝送線路の特性インピーダンスとランプ部の入力インピーダンスとを整合させることである。すなわち、ランプ部10からマイクロ波伝送線路への反射波を低減して、反射による伝送損失を低減することである。
【0053】
図4は、本発明の第2の実施の形態に係る光源装置の構成を示すブロック図であり、インピーダンスマッチング回路を備える光源装置の構成例を示している。
図4に示すように、マイクロ波伝送線路である同軸ケーブル4とランプ部10とのインピーダンス整合を取るためのマッチング回路51を備えることができる。
【0054】
マッチング回路51は、図5に示すように、リアクタンス値が可変なリアクタンス素子61、62で構成することができる。このリアクタンス素子61、62の成分は、インダクタンスLまたはキャパシタCのどちらであってもよく、ランプ部10からの反射波の強度に応じてLまたはCを変化させる機構をもつ。
【0055】
反射波モニタ41はサーキュレータ31を介して同軸ケーブル4とマッチング回路51との間に配置される。このサーキュレータ31には、マイクロ波の反射波が固体マイクロ波電源1側へ戻ることを防ぐためのアイソレータとしての機能も付加することができる。
反射波モニタ41では、サーキュレータ31から出力されるマイクロ波の反射波を減衰器42で所定の範囲の電力強度の信号に減衰させ、パワーメータ43に過大な信号が印加され、破壊されるのを防ぐようにしている。
【0056】
このパワーメータ43により反射波の信号強度を測定し、その値が‘0’または‘0’に近い値になるように、マッチング回路51の可変リアクタンス値を、制御回路52を介して制御する。なお、パワーメータ43は、マイクロ波電流を測定する電流計であってもよい。
【0057】
このように、図4に示す構成例では、反射波の強度が常に最小になるように、マッチング回路51の可変リアクタンス(L又はC)を調整するフィードバック制御が行われる。これにより、ランプ部10からの反射波による伝送損失を低減させ、光源装置の全体としてのエネルギー効率を上げることができる。
なお、前述のマッチング回路は、マッチング回路51が相当する。また、前述の反射波モニタは、サーキュレータ31、反射波モニタ41、および制御回路52が相当する。
【0058】
[第3の実施の形態]
続いて、本発明の光源装置を使用したプロジェクタについて図面を参照して説明する。
図6は、本発明の光源装置を備えるプロジェクタの構成を示す図である。図6に示すように、プロジェクタ101は、光学系102と、制御回路103と、電源部104とを備えている。このプロジェクタ101は、外部から入力される画像信号に応じた画像を、光学系102を介してスクリーンSなどに投写するものである。なお、プロジェクタ101では、外部電源105からの交流電力が電源部104によって直流電力に変換され、直流電力が電源部104から光学系102や制御回路103などに供給される。
【0059】
また、図7は、図6に示すプロジェクタの光学系102の構成を示すブロック図である。図7に示すように、光学系102は、前述した本発明の光源装置111と、照明光学系112と、光変調部113と、色合成光学系114と、投写部115とを有して構成されている。また、光源装置111は、前述した本発明の光源装置で構成されるものである。
なお、図7においては、図1に示した本発明の第1の実施の形態に係る光源装置を光源装置として使用した例を示しているが、これに限られず、第2の実施の形態の光源装置であってもよい。
【0060】
次に、図7を参照して、この光学系102の動作について説明する。
光源装置111内の固体マイクロ波電源1では、ダイヤモンドSAW発振器2から出力された高周波信号を、増幅器3で増幅した後に、同軸ケーブル4によりランプ部10に向けて出力する。
【0061】
同軸ケーブル4はランプ部10のアンテナ21に接続されており、アンテナ22には抵抗器Zが接続されている。この構成により、アンテナ21にマイクロ波を給電すると共に、アンテナ22でマイクロ波を高反射率で反射させ、発光部14の発光領域15においてマイクロ波の定在波を立てることができる。これにより、ランプ部10の発光部14から高効率で光束が放射される。
【0062】
照明光学系112は、光源装置111から射出された光束の照度を均一化し、各色光に分離する。光変調部113は、照明光学系112で分離された各色光の光束に対して画像情報に応じて変調して光学像を形成する。色合成光学系114は、照明光学系112で色分離され光変調部113で変調された各色光の光学像を合成し、投写部115にて光学像を投写する。
【0063】
以上説明したように、本発明のプロジェクタにおいては、本発明による光源装置を使用しており、エネルギー効率の高い光源装置を搭載したプロジェクタを提供することができる。したがって、旧来の光源装置を有するプロジェクタに比べ、プロジェクタの消費電力を低減させることができる。
【0064】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明のマイクロ波励起ランプを使用した光源装置、およびプロジェクタは、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る光源装置の構成を示す図。
【図2】本発明の光源装置におけるランプ部の等価回路を示す図。
【図3】ランプ部の構成を説明するための図。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係る光源装置の構成を示す図。
【図5】インピーダンスマッチング回路の例を示す図。
【図6】本発明の第3の実施の形態に係るプロジェクタの構成を示す図。
【図7】プロジェクタの光学系の構成を示す図。
【図8】インピーダンス素子の構成例を示す図。
【符号の説明】
【0066】
1・・・固体マイクロ波電源、2・・・ダイヤモンドSAW発振器、3・・・増幅器、10・・・マイクロ波励起ランプ部、11・・・細管部、13・・・膨出部、14・・・発光部、15・・・発光領域、16・・・発光中心部、21、22・・・アンテナ、4・・・同軸ケーブル、31・・・サーキュレータ、41・・・反射波モニタ、42・・・減衰器、43・・・パワーメータ、51・・・マッチング回路、52・・・制御回路、61、62・・・可変リアクタンス素子、101・・・プロジェクタ、102・・・光学系、103・・・制御回路、104・・・電源部、105・・・外部電源、111・・・光源装置、112・・・照明光学系、113・・・光変調部、114・・・色合成光学系、115・・・投写部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波を出力するマイクロ波電源と、
前記マイクロ波の照射を受けて発光する発光物質が封入された発光容器内に、互いに対向する一端が離間して挿入された一対のアンテナと、
前記一対のアンテナのうちいずれか一方のアンテナに、前記マイクロ波電源から出力されるマイクロ波を給電するマイクロ波伝送線路と、
前記一対のアンテナのうち他方のアンテナの端部の電位を固定する電位固定部と、
を備えることを特徴とする光源装置。
【請求項2】
前記電位固定部により、前記他方のアンテナの端部を接地側の電位に固定すること
を特徴とする請求項1に記載の光源装置。
【請求項3】
前記電位固定部はインピーダンス素子であり、該インピーダンス素子により前記他方のアンテナの端部の電位を固定すること
を特徴とする請求項1または請求項2のいずれか1項に記載の光源装置。
【請求項4】
前記インピーダンス素子は、前記マイクロ波に対する空気のインピーダンスの値よりも大きなインピーダンスの値であること
を特徴とする請求項3に記載の光源装置。
【請求項5】
前記アンテナと前記マイクロ波伝送線路の接続点と、前記アンテナと前記インピーダンス素子との接続点との間の距離が、前記マイクロ波の波長の略1/2の奇数倍であること
を特徴とする請求項3または請求項4に記載の光源装置。
【請求項6】
前記インピーダンス素子は、抵抗器で構成され、該抵抗器の一端が前記他方のアンテナに接続され、他端が接地側に接続されること
を特徴とする請求項3から請求項5のいずれか1項に記載の光源装置。
【請求項7】
前記インピーダンス素子は、抵抗RまたはインダクタンスLまたはキャパシタCのいずれかのうちの1つ以上を用いた回路で構成され、
前記マイクロ波の周波数において、当該インピーダンス素子のインピーダンスと前記発光容器のインピーダンスとで表される反射率の大きさが空気よりも大きな値であり、
かつ位相回転が180度の倍数となり、
さらに、当該インピーダンス素子の一端が前記他方のアンテナに接続され、他端が接地側に接続されること
を特徴とする請求項3から請求項5までのいずれか1項に記載の光源装置。
【請求項8】
前記インピーダンス素子は、可変の抵抗RまたはインダクタンスLまたはキャパシタCのいずれかのうちの1つ以上を用いた回路で構成され、
前記マイクロ波の周波数において、当該インピーダンス素子のインピーダンスと前記発光容器のインピーダンスとで表される反射率の大きさが空気よりも大きな値であり、
かつ位相回転を制御することができ、
さらに、当該インピーダンス素子の一端が前記他方のアンテナに接続され、他端が接地側に接続されること
を特徴とする請求項3から請求項5までのいずれか1項に記載の光源装置。
【請求項9】
マイクロ波を出力するマイクロ波電源と、前記マイクロ波の照射を受けて発光する発光物質が封入された発光容器内に、互いに対向する一端が離間して挿入された一対のアンテナと、を備えた光源装置の発光制御方法であって、
前記一対のアンテナのうちいずれか一方のアンテナに接続されるマイクロ波伝送線路を介して、当該一方のアンテナに前記マイクロ波電源から出力されるマイクロ波を給電する手順と、
前記一対のアンテナのうち他方のアンテナの端部の電位を固定する電位固定部により、前記マイクロ波を反射する手順と、
を含むことを特徴とする発光制御方法。
【請求項10】
光源装置と、前記光源装置から射出された光束を、入力される画像情報に応じて変調し光学像を形成する光変調部と、前記光変調部により形成された光学像を投写する投写部と、を備えるプロジェクタであって、
前記光源装置は、
マイクロ波を出力するマイクロ波電源と、
前記マイクロ波の照射を受けて発光する発光物質が封入された発光容器内に、互いに対向する一端が離間して挿入された一対のアンテナと、
前記一対のアンテナのうちいずれか一方のアンテナに、前記マイクロ波電源から出力されるマイクロ波を給電するマイクロ波伝送線路と、
前記一対のアンテナのうち他方のアンテナの端部の電位を固定する電位固定部と、
を備えることを特徴とするプロジェクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−187731(P2009−187731A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−24959(P2008−24959)
【出願日】平成20年2月5日(2008.2.5)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】