説明

光硬化型インク組成物、インクカートリッジ、インクジェット記録方法及び記録物

【課題】本発明は、低粘度で、安全性に優れ、かつ硬化速度、硬化後の膜品質に優れた光硬化型インク組成物を提供すること。
【解決手段】本発明は、ビニルエーテルと樹枝状ポリマーを含む光硬化型インク組成物を提供する。本発明はまた、前記樹枝状ポリマーが、デンドリマー及び/又はハイパーブランチポリマーである前記光硬化型インク組成物を好ましく提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化型インク組成物に関し、詳しくは、低粘度で、安全性に優れ、かつ硬化速度、硬化後の膜品質に優れた光硬化型インク組成物、並びにこれを用いたインクカートリッジ、インクジェット記録方法及び記録物に関する。
【背景技術】
【0002】
光硬化型インク組成物は、インクジェットプリンタを用いた産業用印刷用のインクとして、カラーフィルターの製造、プリント基板への印刷、プラスチックカード、ビニールシート、プラスチック部品への印刷、大型看板、屋外・屋内広告用の印刷、バーコードや日付の印刷等に使用されるようになってきている。
【0003】
従来から光硬化型インクの成分として優れた特性を有する点から、樹枝状ポリマーとしてデンドリマーやハイパーブランチポリマーを用いた様々な光硬化型インク組成物が開発されている。樹枝状ポリマーは一般的な線形高分子に比べて、官能基が表面に高密度に密集した分子構造を有するので、機能性高分子ナノ材料として期待されている。
【0004】
たとえば、特開2004−99796号公報では、硬化定着させるためのエネルギーが少なく、耐薬品性、機械的強度、密着性に優れる硬化画像を披記録媒体上に形成でき、インクの保存安定性、安全性も良好であるインクジェット用インク組成物の提供を目的として、塩基性原子団を有するデンドリマーを用いた光硬化型インク組成物が提案されている。
【0005】
このようなデンドリマーや、ハイパーブランチポリマーを用いた光硬化型インク組成物は膜品質、膜強度に優れるが、添加による粘度上昇が大きく、特にインクジェットヘッドでの印刷を想定した場合、添加量の削減や、希釈モノマーの使用が前提となる。しかしながら、添加量を削減した場合はそもそもの添加よる特性向上が図れなくなるトレードオフの関係であり、低粘度の重合性化合物を希釈モノマーとして使用する場合においては一般にそのような化合物は分子量が小さく、引火点が低かったり皮膚刺激性が強かったり、安全性の面でインク組成物への使用に弊害がある。
【0006】
このため、優れた硬化性を維持しつつ、低粘度で、低皮膚刺激性等の安全性を備える光硬化型インク組成物が望まれていた。
【特許文献1】特開2004−99796号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、低粘度で、安全性に優れ、かつ硬化速度、硬化後の膜品質に優れた光硬化型インク組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、重合性化合物としてビニルエーテルと樹枝状ポリマーを含む光硬化型インク組成物を提供することにより、前記目的を達成したものである。
【0009】
即ち、本発明は、下記のインク組成物等を提供することにより、前記目的を達成したものである。
【0010】
1.少なくともビニルエーテルと樹枝状ポリマーを含む光硬化型インク組成物。
2.前記樹枝状ポリマーとして、デンドリマーおよびハイパーブランチポリマーから選ばれる少なくとも1種を含む光硬化型インク組成物
【0011】
3.前記ビニルエーテルが、水酸基を含むビニルエーテルである、前記1又は2に記載の光硬化型インク組成物。
【0012】
4.前記水酸基を含むビニルエーテルが、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、トリエチレングリコールモノビニルエーテル、ジプロピレングリコールモノビニルエーテル、及び4−ヒドロキシブチルモノビニルエーテルからなる群より選択される少なくとも一種である、前記3に記載の光硬化型インク組成物。
【0013】
5.更に、光重合開始剤を含む、前記1〜4の何れかに記載の光硬化型インク組成物。
【0014】
6.光重合開始剤としてラジカル重合開始剤を含む、前記5に記載の光硬化型インク組成物。
【0015】
7.光重合開始剤としてα− ヒドロキシケトン、アシルフォスフィンオキサイド系化合物のいずれか又は2種以上を混合して含む、前記5に記載の光硬化型インク組成物。
【0016】
8.更に着色剤を含む、前記1〜7の何れかに記載の光硬化型インク組成物。
【0017】
9.前記1〜8の何れかに記載の光硬化型インク組成物を用いてなることを特徴とするインクカートリッジ。
【0018】
10.前記1〜8の何れかに記載の光硬化型インク組成物を用いて記録することを特徴とするインクジェット記録方法。
【0019】
11.前記1〜8の何れかに記載の光硬化型インク組成物を用いて記録されたことを特徴とする記録物。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、低粘度で、安全性に優れ、かつ硬化速度、硬化後の膜品質に優れた光硬化型インク組成物を提供することができる。また、本発明によれば、本発明は、低粘度で、安全性に優れ、かつ硬化速度、硬化後の膜品質に優れたインクカートリッジ、インクジェット記録方法及び十分硬化された記録物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に本発明に係る光硬化型インク組成物について、その好ましい実施態様に基づき説明する。
【0022】
本発明の光硬化型インク組成物は、少なくともビニルエーテルと樹枝状ポリマーとして、デンドリマーおよびハイパーブランチポリマーから選ばれる少なくとも1種を含むものである。
本発明は、かかる構成からなることによって、低粘度で、安全性に優れ、かつ硬化速度、硬化後の膜品質に優れた効果を奏する。
【0023】
本発明に用いられる樹枝状ポリマーとしては、以下に示すように大きく6つの構造体に分類できる(「デンドリティック高分子 ―多分岐構造が広げる高機能化の世界―」 青井啓吾/柿本雅明監修、株式会社 エヌ・ティー・エス参照)。
I デンドリマー
II リニア−デンドリティックポリマー
III デンドリグラフトポリマー
IV ハイパーブランチポリマー
V スターハイパーブランチポリマー
VI ハイパーグラフトポリマー
【0024】
この中でもI〜IIIは分岐度(DB:degree of branching)が1であり、欠陥の無い構
造を有しているのに対し、 IV〜VIは欠陥を含んでいても良いランダムな分岐構造を有し
ている。特にデンドリマーは、一般的に用いられている直線状の高分子に比べて、反応性
の官能基をその最外面に高密度かつ集中的に配置する事が可能であり、機能性高分子材料
として期待が高い。また、ハイパーブランチポリマー、デンドリグラフトポリマーおよび
ハイパーグラフトポリマーもデンドリマーほどではないにせよ、その最外面に反応性の官
能基を数多く導入する事が可能であり、硬化性に優れている。
【0025】
これら樹枝状ポリマーは、従来の直線状高分子や分岐型高分子とは異なり、3次元的に
枝分かれ構造を繰り返し、高度に分岐している。その為、同一分子量の直線状高分子と比
較して粘度を低く抑える事が可能である。
【0026】
本発明で使用可能なデンドリマーの合成法には、中心から外に向かって合成するDiv
ergent法と外から中心に向かって行うConvergent法を挙げることが出来
る。
【0027】
本発明において使用可能な、デンドリマー、ハイパーブランチポリマー、デンドリグラ
フトポリマーおよびハイパーグラフトポリマーは、室温で固体であって、数平均分子量が
1000から100000の範囲のものが望ましく、特に2000〜50000の範囲の
ものが好ましく使用される。室温で固体でない場合は、形成される画像の維持性が悪くな
る。また、分子量が上記の範囲より低い場合には定着画像がもろくなり、また、分子量が
上記の範囲より高い場合には、添加量を下げてもインクの粘度が高くなりすぎて飛翔特性
の点で実用的ではなくなる。
【0028】
また、本発明において使用可能なデンドリマー、ハイパーブランチポリマー、デンドリ
グラフトポリマーおよびハイパーグラフトポリマーは、最外面にラジカル重合可能な官能
基を有するデンドリマー、ハイパーブランチポリマー、デンドリグラフトポリマーおよび
ハイパーグラフトポリマーであることが好ましい。最外面にラジカル重合可能な構造とす
ることにより、重合反応が速やかに進行する。
【0029】
デンドリマー構造を有するポリマーの例としては、特開2007−182535の段落0008〜0021、特開2007−182536の段落0011〜0024に記載されている化合物を用いることができる。
【0030】
本発明において、上記のデンドリマー、ハイパーブランチポリマー、デンドリグラフト
ポリマーおよびハイパーグラフトポリマーは1種のみを単独で用いてもよいし、他の種類
のデンドリマー、ハイパーブランチポリマー、デンドリグラフトポリマーおよびハイパー
グラフトポリマーと併用してもよい。
【0031】
重合性基として(メタ)アクリロイル基を有する樹枝状ポリマーとしては、例えば、ビスコート1000(大阪有機化学工業(株)製)が挙げられる。
【0032】
本発明においては、前記樹枝状ポリマーとしては、とりわけ、高い官能基密度を達成できる点、一般的な線形ポリマーと比較し低い粘度を達成できる点、すなわち硬化性と粘度のバランスの優れる点で、デンドリマー及び/又はハイパーブランチポリマーであることが好ましい。
【0033】
本発明に用いられるビニルエーテルは、特に制限されるものではないが、より低照度の光源でも硬化可能なインク組成物とすることができる点で、水酸基を含むビニルエーテルであることが好ましい。
【0034】
水酸基を含むビニルエーテルとしては、例えば、次の式(1)で表される化合物等が挙げられる。
CH2=CH-O-R2-R1 (1)
(R1:水酸基・ビニルエーテル基・水素原子、R2:炭素数2〜20の有機残基を示す。)
【0035】
式(1)において、R2としては、炭素数2〜20の直鎖状、分枝状又は環状(脂環式骨格)のアルキレン基、構造中にエーテル結合により酸素原子を有する炭素数2〜20のアルキレン基、炭素数6〜11の置換されていてもよい芳香族基(ベンゼン・ナフタレン等)が好適である。
これらの中でも炭素数2〜9のアルキレン基、構造中にエーテル結合により酸素原子を有する炭素数2〜12のアルキレン基が好適に用いられる。
【0036】
また、例えば、次の式に当てはまる化合物も好ましい。
CH2=CH-O-(CH2)nOH n=1〜4
CH2=CH-O-(C2H4O)nH n=1〜4
CH2=CH-O-(C3H6O)nH n=1〜4
【0037】
本発明に用いられるビニルエーテルの具体例としては、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、t-ブチルビニルエーテル、2-エチルヘキシルビニルエーテル、n-ノニルビニルエーテル、ラウリルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、シクロヘキシルメチルビニルエーテル、4-メチルシクロヘキシルメチルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテル、ジシクロペンテニルビニルエーテル、2-ジシクロペンテノキシエチルビニルエーテル、メトキシエチルビニルエーテル、エトキシエチルビニルエーテル、ブトキシエチルビニルエーテル、メトキシエトキシエチルビニルエーテル、エトキシエトキシエチルビニルエーテル、メトキシポリエチレングリコールビニルエーテル、テトラヒドロフリフリルビニルエーテル等が挙げられ、
その他、水酸基含有モノビニルエーテルとして、例えば、2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、2-ヒドロキシプロピルビニルエーテル、3-ヒドロキシプロピルビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル、1-メチル-2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、4-ヒドロキシシクロヘキシルビニルエーテル、5-ヒドロキシペンチルビニルエーテル、6-ヒドロキシヘキシルヘキシルビニルエーテル、9-ヒドロキシノニルビニルエーテル、4-ヒドロキシメチルシクロヘキシルメチルビニルエーテル、p-ヒドロキシメチルフェニルメチルビニルエーテル、2-(ヒドロキシエトキシ)エチルビニルエーテル、2-(ヒドロキシエトキシエトキシ)エチルビニルエーテル、2-(ヒドロキシエトキシエトキシエトキシ)エチルビニルエーテル等が挙げられ、
また、アルキレンオキサイド系モノビニルエーテルとして、例えば、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、トリエチレングリコールモノビニルエーテル、テトラエチレングリコールモノビニルエーテル、ポリエチレングリコールモノビニルエーテル、ジプロピレングリコールモノビニルエーテル、トリプロピレングリコールモノビニルエーテル、テトラプロピレングリコールモノビニルエーテル、ポリプロピレングリコールモノビニルエーテル、エチレングリコールプロピレングリコール共重合体モノビニルエーテル、クロルエチルビニルエーテル、クロルブチルビニルエーテル、クロルエトキシエチルビニルエーテル、フェニルエチルビニルエーテル、フェノキシポリエチレングリコールビニルエーテル等が挙げられ、
また、ジビニルエーテルとして、例えば、エチレングリコールジビニルエーテル、1,3-プロパンジオールジビニルエーテル、プロピレングリコールジビニルエーテル、1,4-ブタンジオールジビニルエーテル、1,3-ブタンジオールジビニルエーテル、1,2-ブタンジオールジビニルエーテル、2,3-ブタンジオールジビニルエーテル、1-メチル-1,3-プロパンジオールジビニルエーテル、2-メチル-1,3-プロパンジオールジビニルエーテル、2-メチル-1,2-プロパンジオールジビニルエーテル、1,5-ペンタンジオールジビニルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサン-1,4-ジオールジビニルエーテル、シクロヘキサン-1,4-ジメタノールジビニルエーテル、p-キシレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、テトラエチレングリコールジビニルエーテル、ポリエチレングリコールジビニルエーテル、ジプロピレングリコールジビニルエーテル、トリプロピレングリコールジビニルエーテル、テトラプロピレングリコールジビニルエーテル、ポリプロピレングリコールジビニルエーテル、エチレングリコールプロピレングリコール共重合体ジビニルエーテル、ビスフェノールAアルキレンオキサイドジビニルエーテル、ビスフェノールFアルキレンオキサイドジビニルエーテル等が挙げられ、
また、多官能ビニルエーテルとして、例えば、トリメチロールエタントリビニルエーテル、トリメチロールプロパントリビニルエーテル、ジトリメチロールプロパンテトラビニルエーテル、グリセリントリビニルエール、ペンタエリスリトールテトラビニルエーテル、ジペンタエリスリトールペンタビニルエーテル、ジペンタエリスリトールヘキサビニルエーテル、エチレンオキサイド付加トリメチロールプロパントリビニルエーテル、プロピレンオキサイド付加トリメチロールプロパントリビニルエーテル、エチレンオキサイド付加ジトリメチロールプロパンテトラビニルエーテル、プロピレンオキサイド付加ジトリメチロールプロパンテトラビニルエーテル、エチレンオキサイド付加ペンタエリスリトールテトラビニルエーテル、プロピレンオキサイド付加ペンタエリスリトールテトラビニルエーテル、エチレンオキサイド付加ジペンタエリスリトールヘキサビニルエーテル、プロピレンオキサイド付加ジペンタエリスリトールヘキサビニルエーテル等が挙げられる。
【0038】
ビニルエーテルの中でも、とりわけ、低粘度・高硬化性といった光硬化型インクジェット用インクとしての特性と高引火点といった安全性面を両立できる点で、水酸基を含むビニルエーテルとして、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、トリエチレングリコールモノビニルエーテル、ジプロピレングリコールモノビニルエーテル、及び4−ヒドロキシブチルモノビニルエーテルからなる群より選択される少なくとも一種であることがより好ましい。
【0039】
本発明のインク組成物には、通常、光重合開始剤が含まれる。
上記光重合開始剤としては、光線の照射により重合開始ラジカルを発生するラジカル重合開始剤と、光線の照射により重合開始カチオンを発生するカチオン重合開始剤が好適である。
【0040】
上記ラジカル重合開始剤としては、下記の化合物が好適である。
ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−2−モルホリノ(4−チオメチルフェニル)プロパン−1−オン、2−ベンジルー2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)ブタノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパノンオリゴマー等のアセトフェノン類;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾイン類;ベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4−フェニルベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4′−メチル−ジフェニルサルファイド、3,3′,4,4′−テトラ(t−ブチルパーオキシルカルボニル)ベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン、4−ベンゾイル−N,N−ジメチル−N−[2−(1−オキソ−2−プロペニルオキシ)エチル]ベンゼンメタナミニウムブロミド、(4−ベンゾイルベンジル)トリメチルアンモニウムクロリド等のベンゾフェノン類;2−イソプロピルチオキサントン、4−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン、1−クロロ−4−プロポキシチオキサントン、2−(3−ジメチルアミノ−2−ヒドロキシ)−3,4−ジメチル−9H−チオキサントン−9−オンメソクロリド等のチオキサントン類、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、2−ヒロドキシ−1−[4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル) −ベンジル]フェニル]−2−メチル-プロパン−1−オン等のα−ヒドロキシケトン類、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド等のアシルフォスフィンオキサイド類。
これらの中でも、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、アシルフォスフィンオキサイド系化合物、とりわけα-ヒドロキシケトン系化合物、アシルフォスフィンオキサイド系化合物が好適である。中でも、 ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、2−ヒロドキシ−1−[4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル) −ベンジル]フェニル]−2−メチル-プロパン−1−オンが好適である。
【0041】
また上記開始剤は、例えばVicure 10、30(Stauffer Chemical社製)、Irgacure 127、184、500、651、2959、907、369、379、754、1700、1800、1850、1870、819、OXE01、Darocur 1173、TPO、ITX(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)、Quantacure CTX(Aceto Chemical社製)、Kayacure DETX−S(日本化薬社製)、ESACURE KIP150(Lamberti社製)の商品名で入手可能である。
【0042】
上記カチオン重合開始剤としては、下記の化合物が好適である。
トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート等のアリールスルフォニウム塩;ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、(トリルクミル)ヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等のアリールヨウドニウム塩;フェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート等のアリールジアゾニウム塩。
これらの中でも、アリールスルフォニウム塩、ジアゾニウム塩が好適である。特に、(トリルクミル)ヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートが好適である。
【0043】
本発明のインク組成物における上記光重合開始剤の使用量としては、インク組成物100質量%に対して、1重量%以上が好ましく、また、20重量%以下が好ましい。より好ましくは、2重量%以上であり、また、10重量%以下である。
【0044】
本発明の組成物には、通常インクに使用することのできる着色剤を特に制限なく用いることができる。着色剤としては、顔料及び染料が挙げられるが、特に光照射時における堅牢性及び硬化後の膜中つまり印刷物の耐光性等の画像堅牢性の点で、顔料の方が有利である。
【0045】
染料としては、直接染料、酸性染料、食用染料、塩基性染料、反応性染料、分散染料、建染染料、可溶性建染染料、反応分散染料、など通常インクジェット記録に使用される各種染料を使用することができる。
【0046】
顔料としては、特別な制限なしに無機顔料、有機顔料を使用することができる。
無機顔料としては、酸化チタンおよび酸化鉄に加え、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法などの公知の方法によって製造されたカーボンブラックを使用することができる。また、有機顔料としては、アゾ顔料(アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料などを含む)、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフラロン顔料など)、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレートなど)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラックなどを使用することができる。
【0047】
顔料の具体例としては、カーボンブラックとして、C.I.ピグメントブラック7、三菱化学社製のNo.2300、No.900、MCF88、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、No.2200B等が、コロンビア社製のRaven5750、同5250、同5000、同3500、同1255、同700等が、キャボット社製のRegal 400R、同330R、同660R、Mogul L、同700、Monarch800、同880、同900、同1000、同1100、同1300、同1400等が、デグッサ社製のColor Black FW1、同FW2、同FW2V、同FW18、同FW200、Color Black S150、同S160、同S170、Printex 35、同U、同V、同140U、Special Black 6、同5、同4A、同4等が挙げられる。
【0048】
イエローインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、12、13、14、16、17、73、74、75、83、93、95、97、98、109、110、114、120、128、129、138、150、151、154、155、180、185、213等が挙げられる。
また、マゼンタインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントレッド5、7、12、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、112、122、123、168、184、202、209、C.I.ピグメントヴァイオレット 19等が挙げられる。
【0049】
さらに、シアンインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15:3、15:4、60、16、22が挙げられる。
【0050】
本実施形態の好ましい態様によれば、顔料はその平均粒径が10〜200nmの範囲にあるものが好ましく、より好ましくは50〜150nm程度のものである。インク組成物における色材の添加量は、0.1〜25重量%程度の範囲が好ましく、より好ましくは0.5〜15重量%程度の範囲である。
【0051】
また、インク組成物が色材を含有する場合、その色材を含有するインク組成物は、各色毎の複数有するものであっても良い。例えば、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの基本4色に加えて、それぞれの色毎に同系列の濃色や淡色を加える場合、マゼンタに加えて淡色のライトマゼンタ、濃色のレッド、シアンに加えて淡色のライトシアン、濃色のブルー、ブラックに加えて淡色であるグレイ、ライトブラック、濃色であるマットブラックが挙げられる。
【0052】
色材として顔料を用いる場合には、インク組成物中に分散剤を添加することが好ましい。分散剤としては、例えば、ポリオキシアルキレンポリアルキレンポリアミン(C24N)n−(PO)x−(EO)y−OH(上記式中、n、x及びyは、それぞれ1以上の整数を意味し、POはプロピレンオキサイドを意味し、EOはエチレンオキサイドを意味する。)を使用することができる。ポリオキシアルキレンポリアルキレンポリアミンの具体例としては、例えば、ディスコール(Discole)N−503、N−506、N−509、N−512、N−515、N−518、N−520等を挙げることができる。
【0053】
前記分散剤の添加量は、好ましくは0.1〜20重量%であり、より好ましくは0.5〜10重量%である。
【0054】
本実施形態に係る光硬化型インク組成物には、必要に応じてその他の添加剤を添加してもよい。
添加剤としては、重合促進剤、樹脂エマルジョン、湿潤剤、pH調整剤、界面活性剤、防腐剤、防カビ剤、熱重合禁止剤、水、等から選ばれる材料を所望により添加することができる。これらの成分は、各種別に一種又は二種以上を混合して用いることができる。また、添加する必要がなければ添加しなくてもよい。当業者は本発明の効果を損なわない範囲で、選択された好ましい添加剤を好ましい量で用いることができる
【0055】
本発明のインク組成物に添加するその他の好ましい添加剤について以下に説明する。
本発明のインク組成物には、界面活性剤を含有させることができる。
【0056】
本発明に用いることのできる界面活性剤としては、例えばポリシロキサン系界面活性剤が好ましいが、これに限定されるものではない。このポリシロキサン系界面活性剤としては、例えば、BYK−UV3570(商標)(商品名、ビックケミー製)を例示することができ、これらから選ばれる少なくとも一種を本発明のインク組成物に添加することが好ましい。
【0057】
本発明においては、インク組成物中にポリシロキサン系界面活性剤が、好ましくは0.1〜5重量%、さらに好ましくは0.2〜2重量%含まれるように、インク組成物にノニオン系界面活性剤を添加するのがよい。インク組成物中にポリシロキサン系界面活性剤を0.1重量%以上含有させることによって、記録媒体に対する各インク組成物の濡れ性を高くすることができる。またインク組成物中のノニオン系界面活性剤の含有量を5重量%以下にすることにより、記録媒体上にインク組成物によって形成された画像がにじみにくいという効果が得られる。
【0058】
本発明のインク組成物は、上述した成分から適宜選ばれた成分を含んで調製されるが、得られるインク組成物の粘度が20℃において15mPa・s未満であることが好ましい。さらに、本発明においてはインク組成物の表面張力を20℃において45mN/m以下にすることが好ましく、20〜45mN/mの範囲にすることが特に好ましい。粘度及び表面張力をこのように調整することによって、インクジェット記録方法に用いるために好ましい特性を有するインク組成物を得ることができる。この粘度及び表面張力の調整は、インク組成物に含有させる溶剤及び各種添加剤の添加量、並びにそれらの種類等を適宜調節及び選択することによって行うことができる。
【0059】
本発明におけるインク組成物の調製方法としては、例えば、インク組成物に含有される各種成分を充分に混合してできるだけ均一に溶解した後、孔径10μm のメンブランフィルターで加圧濾過し、さらに得られた溶液を真空ポンプを用いて脱気処理して調製する方法が例示できるが、これに限定されない。
【0060】
次に、上述したインク組成物は、一種又は二種以上のインクセットとして、一体的に若しくは独立に収容したインクカートリッジとして用いることができ、取り扱いが便利である点等からも好ましい。インク組成物を含んで構成されるインクカートリッジは当技術分野において公知であり、公知の方法を適宜用いてインクカートリッジにすることができる。
【0061】
本発明のインク組成物を用いたインクカートリッジは一般の筆記具用、記録計用、ペンプロッター用等に使用することができるが、インクジェット記録方法に用いることが特に好ましい。上記インクカートリッジを用いることができるインクジェット記録方法は、インク組成物を細いノズルから液滴として吐出させ、その液滴を記録媒体に付着させるいかなる記録方法も含む。本発明のインク組成物を用いることができるインクジェット記録方法は、静電吸引方式、圧電素子や水晶振動子などによる圧力変動方式、加熱による圧力発生方式などの公知の方法が挙げられる。
【0062】
〔実施例〕
以下本発明を以下の実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0063】
表1及び表2に示すインク組成物を常法に従い調製した。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
表中、各成分の詳細は、次の通りである。
ハイパーブランチポリマー(ビスコート1000)(大阪有機化学工業製)
:(メタ)アクリロイル基を有する樹枝状ポリマー
Irgacure819、Irgacure1870、Irgacure127
(共にチバ・スペシャリティ・ケミカルズ製) : 光重合開始剤
【0067】
(膜硬化性試験)
評価1
インクジェットプリンタPX−G920(セイコーエプソン株式会社製)を用いて、実施例のインク組成物、及び比較例のインク組成物をREDノズル列に充填した。常温、常圧下、PETフィルム上にREDのベタパターンを印刷した(実際の印字色は、REDノズル列に充填したインク色)。その後、365nm、380nm、395nmの波長にスペクトルを持つ紫外線照射装置から照射強度60mW/cm2の紫外線を照射した。サンプル表面の指感触が消失した時点を硬化と判断した。
【0068】
(評価基準)
AA:5min照射で硬化。
A: 10min照射で硬化。
B: 20min照射で硬化せず。
【0069】
評価2
インクジェットプリンタPX−G920(セイコーエプソン株式会社製)を用いて、実施例のインク組成物、及び比較例のインク組成物をREDノズル列に充填した。常温、常圧下、PETフィルム上でREDのベタパターンを印刷した。その後、365nm、380nm、395nmの波長にスペクトルを持つ紫外線照射装置から照射強度180mW/cm2の紫外線を照射した。サンプル表面の指感触が消失した時点を硬化と判断し、硬化に必要な時間を評価1との比率で求めた。
【0070】
必要時間比率=〔評価1で硬化に必要な時間〕/〔評価2で硬化に必要な時間〕
照射強度比は3の為、3以上の比率になっているのは酸素阻害の為であり、値が大きいほど酸素阻害の影響を受けている。
(評価基準)
AA:必要時間比率が5未満。
A: 必要時間比率が5以上10未満。
B: 必要時間比率が10以上。
【0071】
(膜強度)
上記硬化性評価1と同様に印刷したサンプルを、同様の照射装置を用い、20min照射し、硬化させた。硬化直後、下記の指標で、表面状態の目視評価を行った。
A:表面の爪擦りで傷がつかない。
B:表面の爪擦りで傷がつく。
【0072】
(膜品質)
上記硬化性評価1と同様に印刷したサンプルを、同様の照射装置を用い、20min照射し、硬化させた。硬化後、3日常温・常圧下に静置し、静置後の膜品質を下記の指標で観察した。
AA:膜硬化収縮によるフィルムの反りは観測されず。
A: 膜硬化収縮によるフィルムの反りは3cm未満。
B: 膜硬化収縮によるフィルムの反りは3cm以上。
【0073】
(インクの粘度)
作成したインクの粘度をレオメーター(Physica社製、MCR−300)にて測定した。
AA:25mPa・s未満。
A: 25mPa・s以上、40mPa・s未満。
B: 40mPa・s以上。
【0074】
(引火点測定)
作成したインクの引火点をセタ密閉型引火点測定器(Model.13740−2、田中化学機器製作(株)製)を用い、測定した。
AA:70℃以上。
A: 60℃以上、70℃未満。
B: 60℃未満。
【0075】
以上の評価結果を表3及び表4に示す。
【0076】
【表3】

【0077】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、低粘度で、安全性に優れ、かつ硬化速度、硬化後の膜品質に優れた光硬化型インク組成物、これを用いたインクカートリッジ、インクジェット記録方法及び記録物として、産業上の利用可能性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニルエーテルと樹枝状ポリマーを含む光硬化型インク組成物。
【請求項2】
前記樹枝状ポリマーが、デンドリマー及び/又はハイパーブランチポリマーである、請求項1記載の光硬化型インク組成物。
【請求項3】
前記ビニルエーテルが、水酸基を含むビニルエーテルである、請求項1又は2に記載の光硬化型インク組成物。
【請求項4】
前記水酸基を含むビニルエーテルが、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、トリエチレングリコールモノビニルエーテル、ジプロピレングリコールモノビニルエーテル、及び4−ヒドロキシブチルモノビニルエーテルからなる群より選択される少なくとも一種である、請求項3記載の光硬化型インク組成物。
【請求項5】
更に、光重合開始剤を含んでなることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の光硬化型インク組成物。
【請求項6】
前記光重合開始剤としてラジカル重合開始剤を含む、請求項5に記載の光硬化型インク組成物。
【請求項7】
前記光重合開始剤がα− ヒドロキシケトン、アシルフォスフィンオキサイドのいずれか又は2種以上を混合してなることを特徴とする請求項5に記載の光硬化型インク組成物。
【請求項8】
更に、着色剤を含んでなることを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載の光硬化型インク組成物。
【請求項9】
請求項1〜8の何れかに記載の光硬化型インク組成物を用いてなることを特徴とするインクカートリッジ。
【請求項10】
請求項1〜8の何れかに記載の光硬化型インク組成物を用いて記録することを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項11】
請求項1〜8の何れかに記載の光硬化型インク組成物を用いて記録されたことを特徴とする記録物。

【公開番号】特開2009−108172(P2009−108172A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−280882(P2007−280882)
【出願日】平成19年10月29日(2007.10.29)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】