説明

光硬化性防湿絶縁塗料および電子部品の製造法

【課題】短時間処理が可能で、硬化性、耐湿性及びヒートサイクル性に優れる塗膜を作製する光硬化性防湿絶縁塗料およびこれを使用した電子部品の製造法を提供する。
【解決手段】(A)数平均分子量が900〜10,000であり、末端がアクリロキシ基またはメタクリロキシ基であるポリブタジエン、(B)不飽和二重結合を有する単量体、(C)光重合開始剤を成分として含有してなる光硬化性防湿絶縁塗料であって、(B)成分の含有量が、(A)成分50重量部に対して1〜50重量部であり、(C)成分の含有量が、(A)成分と(B)成分の合計含有量100重量部に対して0.1〜10重量部である、光硬化性防湿絶縁塗料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品の防湿、絶縁等に適した光硬化性防湿絶縁塗料およびこれを用いた電子部品の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、実装回路板およびハイブリッドIC(integrated circuit)等の電子部品には、ガラスエポキシ、紙フェノール、アルミナセラミック等の基板に配線図が印刷されてマイコン、抵抗体、コンデンサなどの各種部品が搭載されており、それらを湿気、ほこりなどから保護する目的で絶縁処理が行われている。この絶縁処理方法には、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂などの塗料による保護コーティング処理が広く採用されている。このような実装回路板およびハイブリッドICは、過酷な環境下、特に高湿度下で使用され、例えば自動車、洗濯機などの機器に搭載されて使用されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平5−25418号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記塗料は加熱硬化性であるため、塗料を完全に硬化させて絶縁効果を得るためには高温度処理、また長時間処理が必要であった。一方、短時間処理、例えば数秒〜数分での硬化が可能な紫外線硬化性樹脂塗料が開発されているが、まだ充分な可とう性および耐湿性を有するものが得られていない。本発明は、このような従来技術の問題点を解決し、短時間処理が可能で、硬化性、耐湿性及びヒートサイクル性に優れる塗膜を作製する光硬化性防湿絶縁塗料およびこれを使用した電子部品の製造法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下に関する。
(1)(A)数平均分子量が900〜10,000であり、末端がアクリロキシ基またはメタクリロキシ基であるポリブタジエン、(B)不飽和二重結合を有する単量体、(C)光重合開始剤を成分として含有してなる光硬化性防湿絶縁塗料であって、(B)成分の含有量が、(A)成分50重量部に対して1〜50重量部であり、(C)成分の含有量が、(A)成分と(B)成分の合計含有量100重量部に対して0.1〜10重量部である、光硬化性防湿絶縁塗料。
(2)(B)成分の不飽和二重結合を有する単量体の官能基が、3官能以下である前記の光硬化性防湿絶縁塗料。
(3)電子部品に、前記の光硬化性防湿絶縁塗料を、塗布し、硬化させ、防湿絶縁する、電子部品の製造法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、硬化性、耐湿性及びヒートサイクル性に優れる塗膜を作製する光硬化性防湿絶縁塗料、この塗料によって信頼性が向上した電子部品の製造法を提供することができる。また(A)成分のポリブタジエンは耐湿性に優れることより、防湿絶縁塗料の構成材料として好適に用いられ、(B)成分および(C)成分を上記配合割合にて組み合わせ、また(B)成分の不飽和二重結合を有する単量体が3官能以下であることにより、硬化性、およびヒートサイクル性に優れる塗膜を作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の光硬化性防湿絶縁塗料は、(A)数平均分子量が900〜10,000であり、末端がアクリロキシ基またはメタクリロキシ基であるポリブタジエン、(B)不飽和二重結合を有する単量体、(C)光重合開始剤を成分として含有している。
以下に本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
本発明に用いられるポリブタジエン(A)としては、末端ヒドロキシポリブタジエンを、ポリイソシアネートと反応させ、その後にヒドロキシエチルアクリレートまたはヒドロキシエチルメタクリレートを反応させて得られる数平均分子量が900〜10,000のアクリル変性水素添加ポリブタジエン樹脂などが挙げられる。この樹脂の数平均分子量が900未満では造膜性が悪くなり、10,000を超えると粘度が高く、作業性に劣る。この市販品としては、日本曹達株式会社製の商品名TE−2000、TEA−1000等が挙げられ、これらは単独または2種以上を組み合せて使用できる。
【0008】
本発明に用いられる不飽和二重結合を有する単量体(B)としては、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、p−ターシャリーブチルスチレン、クロルスチレン、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、2−ヒドロオキシエチルメタクリレート、2−ヒドロオキシプロピルメタクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、メタクリル酸とカージュラE−10(シェル化学社製、高級脂肪酸のグリシジルエステルの商品名)の反応物などの1官能性のメタクリル酸エステル、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレートなどの2官能性のメタクリル酸エステル、トリメチロールプロパントリメタクリレートなどの3官能性のメタクリル酸エステル、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ラウリルアクリレート、2−ヒドロオキシエチルアクリレート、2−ヒドロオキシプロピルアクリレート、アクリル酸とカージュラE−10の反応物などの1官能性のアクリル酸エステル、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレートなどの2官能のアクリル酸エステル、トリメチロールプロパントリアクリレートなどの3官能性のアクリル酸エステルなどが用いられ、これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。また、(B)成分として、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートなども挙げられる。これら単量体(B)の配合割合(含有量)は、硬化速度と塗料の粘度、および塗膜の耐湿性と可とう性の点から前記の(A)成分50重量部に対して1〜50重量部の範囲であり、20〜50重量部の範囲が好ましい。この配合割合(含有量)が1重量部未満であると、塗料の粘度が高くなり、塗布しづらいという不具合が生じ、50量部を超えると、得られる硬化物の特性(硬化性、可とう性及び密着性等)が全般的に低下する傾向にある。
【0009】
本発明に用いられる光重合開始剤(C)としては、ベンジルジメチルケタール、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾイン−n−ブチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインフェニルエーテルなどのベンゾインエーテル類、ベンゾインチオエーテル類、ベンゾフェノン、アセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、2,2ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、p−ジメチルアミノアセトフェノン、p−ジメチルアミノプロピオフェノン、2−クロロベンゾフェノン、p,p′−ジクロロベンゾフェノン、p,p′−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、2−エチルアントラキノンフロイン、ベンゾインエーテルミヒラーケトン系、塩化デシルノチオキサントン類などが挙げられ、これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。これら光重合開始剤(C)の配合割合(含有量)は、硬化速度と造膜性、および塗膜の可とう性の点から前記の(A)成分+(B)成分100重量部に対して0.1〜10重量部であり、0.1〜5重量部の範囲が好ましい。この配合割合(含有量)が0.1重量部未満であると、光硬化が不十分となる傾向にあり、10重量部を超えると、得られる硬化物の特性(硬化性、可とう性及び密着性等)が全般的に低下する傾向にある。
【0010】
本発明の光硬化性防湿絶縁塗料は、前記の(A)、(B)および(C)成分を配合し、一般的に、加熱溶解することによって得られる。また、本発明になる光硬化性防湿絶縁塗料には、必要に応じてカップリング剤、重合禁止剤、消泡剤および着色剤などを添加することができる。
カップリング剤としては、チタネート系カップリング剤およびシラン系カップリング剤があり、チタネート系カップリング剤は、少なくとも炭素数1〜60のアルキレート基を有するチタネート系カップリング剤、アルキルホスファイト基を有するチタネート系カップリング剤、アルキルホスフェート基を有するチタネート系カップリング剤もしくはアルキルパイロホスフェート基を有するチタネート系カップリング剤等が挙げられる。具体的にはイソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2、2−ジアリルオキシメチル−1−ブチル)ビス(ジトリデシル)ホスファイトチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネートなどが挙げられる。またシラン系カップリング剤は、アミノ系シランカップリング剤、ウレイド系シランカップリング剤、ビニル系シランカップリング剤、メタクリル系シランカップリング剤、エポキシ系シランカップリング剤、メルカプト系シランカップリング剤及びイソシアネート系シランカップリング剤等が挙げられる。具体的にはγ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、ウレイドプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、β−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシランなどが挙げられ、これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。好ましい、配合量としては、光硬化性防湿絶縁塗料中、0.01〜5重量%である。
【0011】
重合禁止剤としては、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ベンゾキノン、p−tert−ブチルカテコール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、ピロガロール等のキノン類、その他一般に使用されているものが用いられる。好ましい、重合禁止剤の配合量としては、光硬化性防湿絶縁塗料中、0.01〜5重量%である。消泡剤としては例えば、シリコーン系オイル、フッ素系オイル、ポリカルボン酸系ポリマーなど一般に使用されているものが挙げられる。着色剤としては、公知の無機顔料、有機系顔料、及び有機系染料等が挙げられ、所望する色調に応じてそれぞれを配合する。これらは、2種以上組み合わせて使用しても良い。
【0012】
また、本発明の電子部品の製造法は、電子部品に、前記の光硬化性防湿絶縁塗料を、塗布し、硬化させ、防湿絶縁することを特徴とする。すなわち、本発明の光硬化性防湿絶縁塗料は、例えば、電子部品用ディスプレイパネル用基板等のIC周辺部やパネル貼り合せ部にディスペンサー装置等で塗布され、高圧水銀灯、メタルハライドランプ等を光源としたランプ方式およびLED方式のUV照射装置を用い、必要量の紫外線を照射し硬化させて用いることができる。これにより実装回路板およびハイブリッドIC(integrated circuit)等の電子部品に防湿絶縁処理を施し、湿気、ほこりなどから保護することが可能となる。
【実施例】
【0013】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
(A)成分としてTE−2000(日本曹達株式会社製、アクリル変性ポリブタジエン樹脂、数平均分子量:約1,000)50重量部、(B)成分として2−ヒドロオキシエチルアクリレート30重量部とラウリルアクリレート20重量部、(C)成分としてベンゾフェノン5重量部を、カップリング剤としてγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(日本ユニカー株式会社製、商品名A−187)を1重量部配合し、60℃で加熱攪拌して、光硬化性防湿絶縁塗料を得た。
【0014】
[実施例2]
(B)成分として、実施例1の2−ヒドロオキシエチルアクリレート30重量部、ラウリルアクリレート10重量部を、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート10重量部に変えた以外は実施例1と同様にした。
【0015】
[実施例3]
(B)成分として、実施例1の2−ヒドロオキシエチルアクリレート30重量部、ラウリルアクリレート20重量部を、2−ヒドロオキシエチルアクリレート1重量部に変えた以外は実施例1と同様にした。
【0016】
[実施例4]
(B)成分として、実施例1の2−ヒドロオキシエチルアクリレート30重量部、ラウリルアクリレート20重量部を、2−ヒドロオキシエチルアクリレート25重量部に変えた以外は実施例1と同様にした。
【0017】
[実施例5]
(C)成分として、実施例1のベンゾフェノン5重量部を0.1重量部に変えた以外は実施例1と同様にした。
[実施例6]
(C)成分として、実施例1のベンゾフェノン5重量部を9重量部に変えた以外は実施例1と同様にした。
【0018】
[比較例1]
(B)成分として、実施例1の2−ヒドロオキシエチルアクリレート30重量部、ラウリルアクリレート20重量部を、2−ヒドロオキシエチルアクリレート25重量部、ラウリルアクリレート30重量部に変えた以外は実施例1と同様にした。
【0019】
[比較例2]
(C)成分として、実施例1のベンゾフェノン5重量部を15重量部に変えた以外は実施例1と同様にした。
【0020】
[比較例3]
(B)成分として、実施例1の2−ヒドロオキシエチルアクリレート30重量部、ラウリルアクリレート20重量部を、2−ヒドロオキシエルアクリレート0.25重量部、ラウリルアクリレート0.3重量部に変えた以外は実施例1と同様にした。
【0021】
[比較例4]
(C)成分として、実施例1のベンゾフェノン5重量部を0重量部に変えた以外は実施例1と同様にした。
【0022】
以上で得た光硬化性防湿絶縁塗料について、硬化性、耐湿性およびヒートサイクル性について評価した。結果を表1に示した。
〔硬化性〕
実施例1〜6および比較例1〜4で得られた塗料をガラス板に100μm厚みになるように塗布し、日本電池社製UV照射装置で、照射出力120mW/cmで総照射量が1000mJ/cmになるように照射して試験片を作製し、塗膜表面のタック性について評価した。
【0023】
〔耐湿性〕
耐湿性については耐マイグレーション性を評価した。
実施例1〜6および比較例1〜4で得られた塗料をITO電極基板(L/S=35/15μm)に、100μm厚みになるように塗布し、日本電池社製UV照射装置で、照射出力120mW/cmで総照射量が1000mJ/cmになるように照射して試験片を作製し、60℃/90%RH/DC10V条件にて高温高湿バイアス試験を実施し、耐マイグレーション性(絶縁抵抗変化、腐食性)について評価を実施した。なお耐湿性については、60℃/90%RH/DC10V/500h経過後、評価した。
〔ヒートサイクル性〕
実施例1〜6および比較例1〜4で得られた塗料をガラス板に100μm厚みになるように塗布し、日本電池社製UV照射装置で、照射出力120mW/cmで総照射量が1000mJ/cmになるように照射して試験片を作製し、−30℃/0.5h⇔85℃/0.5hの条件で300サイクル(300時間)行い、塗膜外観(ワレ、基材からのはがれ等)について評価した。
【0024】
【表1】

*1)○:タックなし、△:若干べとつき感あり、×:樹脂が手につく
*2)○:腐食なく良好である、△:点状腐食が発生、×:線上腐食が発生し導通
*3)「抵抗の低下なし」とは、絶縁抵抗が1.0×10オーム以上
*4)「かなり抵抗低下する」とは、絶縁抵抗が1.0×10オーム未満
【0025】
実施例では、べとつきも無くタック性も良好であり、また絶縁抵抗の低下の無いなど耐湿性も良好であった。それに対し、比較例では、べとつきが発生し、また絶縁抵抗が低下するなど耐湿性にも問題があることがわかった。
よって、表1にも示されるように、本発明になる光硬化性防湿絶縁塗料は、硬化性、耐湿性及びヒートサイクル性に優れた塗膜を形成する塗料であり、この塗料によって信頼性の向上された電子部品を製造することができることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)数平均分子量が900〜10,000であり、末端がアクリロキシ基またはメタクリロキシ基であるポリブタジエン、(B)不飽和二重結合を有する単量体、(C)光重合開始剤を成分として含有してなる光硬化性防湿絶縁塗料であって、(B)成分の含有量が、(A)成分50重量部に対して1〜50重量部であり、(C)成分の含有量が、(A)成分と(B)成分の合計含有量100重量部に対して0.1〜10重量部である、光硬化性防湿絶縁塗料。
【請求項2】
(B)成分の不飽和二重結合を有する単量体の官能基が、3官能以下である請求項1記載の光硬化性防湿絶縁塗料。
【請求項3】
電子部品に、請求項1または2記載の光硬化性防湿絶縁塗料を、塗布し、硬化させ、防湿絶縁する、電子部品の製造法。

【公開番号】特開2009−179655(P2009−179655A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−17688(P2008−17688)
【出願日】平成20年1月29日(2008.1.29)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】