説明

光磁界プローブ

【課題】広周波数帯域において高感度で高周波磁界の測定が可能であるが、プローブの交換と、交換の際に行う光学系の調整をなくす。
【解決手段】電気光学結晶を用いて高周波磁界強度を計測する測定装置で、高周波磁界を検出する検出コイルと、その出力電圧を印加する電気光学結晶と、印加電圧によって生じる電気光学効果を検出する偏光計測手段と、を備える。特に、検出コイルは、高周波磁界の通過磁束を調整できるコイルとする。高周波磁界の強度を、電気光学効果によって変化した光強度から計測する。検出コイルは、概略四辺形で、いずれかの一辺のほぼ中央が開放されて一対の開放端を形成し、電気光学結晶に電圧を印加する電極と接続する。開放端の対辺が移動可能であって、その他の2辺に通過面積を変えるスライド部を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁界強度測定装置に使用するものであって、特に、磁界センサヘッドに周波数選択特性を持たせることによって、選択的に周波数成分を検出できる高周波磁界測定装置用の光磁界プローブに関している。
【背景技術】
【0002】
微小領域の高周波磁界の検出方法として、例えば次のような方法が知られている。(1)ピックアップコイルを用いて高周波誘導電流を同軸ケーブルで測定器に入力する方法。(2)磁界中の磁気光学結晶による磁気光学効果を光で読みだす方法。(3)高周波磁界に伴う高周波電界で電極やダイポールアンテナに誘起される高周波電圧、あるいは、高周波磁界でコイルやループアンテナに誘起される高周波電圧を電気光学効果を用いて光で読みだす方法。これらの方法において、(1)は、測定領域への影響が比較的大きく、(2)は、外部擾乱による影響を受けやすくノイズに比較的弱い、ことが知られている。本発明は、(3)に属するものであるが、これについては、以下に示すものが知られている。
【0003】
特許文献1(特開2001−289893号公報)には、ループコイル部、導電線路及びパッド部、信号処理部を備えたループコイル型近磁界プローブが開示されている。これは、低周波帯域での感度をも向上させるように、その機構を工夫したものである。つまり、ループコイル部、導電線路及びパッド部、信号処理部を備えたループコイル型近磁界プローブを前提として、上記ループコイル部の一部を磁性金属部材による磁気抵抗効果素子とし、また、上記ループコイル部を介して上記磁気抵抗効果素子に直流電流を与えるようにしたものである。
【0004】
特許文献2(特開2004−69592号公報)には、測定対象となる電磁界を乱すこと無く磁界の測定ができる光導波路型ループアンテナが開示されている。これは、ループアンテナにおいて、光導波路型の変調器の電極がアンテナエレメントを形成する導体の一部として組み合わされたものである。
【0005】
特許文献3(特開平6−118358号公報)には、変調効率を改善した光変調素子及びその駆動方法が開示されている。これは、ニオブ酸リチウムなどの電気光学効果を有する基板の表面に、金属拡散法などによって光導波路を形成し、また、その基板の表面に、薄膜製造手段によって、アルミニウムや金などの金属薄膜からなるマイクロストリップ線路スプリットリング型共振器を形成したものである。その共振器の開放端は、上記光導波路の左右両側で互いに向かい合った状態にして変調用の電極としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−289893号公報
【特許文献2】特開2004−69592号公報
【特許文献3】特開平6−118358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
金属ループと電気光学結晶で構成された光磁界プローブは、磁気光学効果を用いた平板型の光磁界プローブに比べ、高い感度をもっている。しかし、周波数選択性が高いため、特に高感度な周波数帯域が狭く、広帯域での測定は困難である。その高感度な周波数帯域はループアンテナサイズによって決まる為、広帯域での測定は、それぞれ異なるループアンテナサイズのプローブを複数用いることで実現することができる。そのため、広周波数帯域において高感度で測定を行いたい場合には、複数のプローブを用意して、交換を繰り返しつつ測定を行うことになる。この場合、プローブを付け替えるつど、電気光学効果を読みだすための光学系の調整が必要になるという欠点がある。本発明は、このような欠点を解決するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、概略、プローブのループサイズを調整する機構を設けることで、プローブの付け替え作業をなくし、広周波数帯域の高周波磁界測定において測定途中での光学系の調整をなくすものである。また、従来の光磁界プローブでは、固定されたループアンテナを用いるため、高周波磁界検出が固定された周波数に限られていたが、本発明では、ループサイズを可変にしたので、プローブの交換なしに、広い周波数帯域の任意の周波数での測定を可能にするものである。
【0009】
このため本発明の光磁界プローブは、電気光学結晶を用いて高周波磁界強度を計測する測定装置であって、高周波磁界による誘起電圧を出力する検出コイルと、上記コイルの出力電圧を印加する電気光学結晶と、上記電気光学結晶における電気光学効果を、該電気光学結晶に光を照射して得られる複屈折光を含む光を用いて検出する偏光計測手段と、を備える。特に、上記検出コイルは、高周波磁界の磁束が通過する面積を変えて通過磁束を調整することが可能なコイルである。この構成では上記光の強度が偏光計測手段の出力として得られる。結局、上記高周波磁界の強度を、上記電気光学効果により変化した光の強度から換算して計測するものである。
【0010】
また、上記検出コイルは、概略四辺形であって、いずれかの一辺のほぼ中央が開放されて一対の開放端を形成し、上記一対の開放端は、上記電気光学結晶に電圧を印加するそれぞれの電極とそれぞれ接続され、前記開放端の対辺が移動可能であって、上記開放端のある辺とその対辺の他の2辺に上記面積を変えるスライド部を設けたものである。
【0011】
また、上記検出コイルは、上記電気光学結晶に照射する偏光の入射方向と直交する磁束を通過磁束とするものであってもよい。これによって、主に測定対象表面に並行する高周波磁界を検出しようとするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、プローブの付け替え作業なしに、広い周波数帯域の高周波磁界測定が可能であり、また、従来必要であった測定途中での光学系の調整をなくすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の光磁界プローブを用いて高周波磁界計測をおこなうための計測装置例を示す図である。
【図2】本発明の光磁界プローブの正面図を(a)に、断面図を(b)に、X−X’断面を(c)に示す。
【図3】2a、2b、2cからなるループが、左右のスライド部によって、伸縮することができることを示す図である。
【図4】コイル(又はループ)のサイズを変える駆動例を示す図である。
【図5】シミュレーション結果を行うループサイズを示す図である。
【図6】実測とシミュレーション結果とを示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、この発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の説明においては、同じ機能あるいは類似の機能をもった装置に、特別な理由がない場合には、同じ符号を用いるものとする。
【0015】
まず、本発明の光磁界プローブを用いて高周波磁界計測を行うための計測装置で図1に示す例について説明する。図1の構成では、本発明の光磁界プローブ1の電気光学結晶3にレーザ光源8からのレーザ光を照射する。上記電気光学結晶3を透過したレーザ光は、その入射面の対面に設けられた誘電体反射膜で反射され、再び上記電気光学結晶3を透過し、光路を遡る。この際、光磁界プローブ1における作用で電子回路14から発生する高周波磁界の磁束がループコイル2の中を通過し、電気光学結晶に電圧が印加される。そのことにより電気光学効果を受け、入射した光は高周波磁界の強度を含む反射光となる。このように光路を遡った光は、サーキュレータ7で分離され、波長板9と検光子10で上記反射光から高周波磁界成分を一番良く含む状態となるよう調整して、フォトレシーバ11で光電変換し、スペクトルアナライザ12で波長分析を行なう。
【0016】
この例では、サーキュレータ7は、光波の分岐器であればよく、サーキュレータ7の前後の光路で光ファイバを使う場合は、サーキュレータ7にファイバ光カプラを用いることができる。また、サーキュレータ7の前後で空間光伝播を用いる場合は、サーキュレータにハーフミラーを用いることもできる。
【0017】
また、サーキュレータ7の前後の光路を空間光伝播とし、偏光ビームスプリッタによるサーキュレータとする場合は、波長板9と検光子10を省くこともできる。
【0018】
ここで、半波長板5は、照射する偏光を電気光学結晶3の向きに合わせて調整するためのものである。
【0019】
また、測定しようとする電子回路基板14上での光磁界プローブ1の位置は、電動式アームを供えた2次元駆動機構13によって、容易に移動することができる。
【実施例1】
【0020】
図2に、本発明の光磁界プローブ1の正面図を図2(a)に、断面図を図2(b)に示す。これは、伸縮可能な1ターンコイルであり2a、2b、2cからなるループ2の両端(2a、2b)で電気光学結晶3を挟んだ構成をもつものである。その向きは、測定しようとする電子回路基板14に対して任意の向きに設定できることが望ましい。この際、2次元駆動機構13に装着し、位置座標と磁界強度分布を関連させて測定を行いたい場合は、ループ部分を電子回路基板14に対して垂直に配置し、水平移動可能な状態にすることが望ましい、ただし、単純な磁界強度検出においては、ループ2を電子回路基板14に対して傾けて配置しても、光磁界プローブ1を傾けて配置してもよい。
【0021】
この電気光学結晶3は、例えばDAST(4-dimethylamino- N- methyl- 4- stilbazolium Tosylate)で、これは、電気光学定数が比較的大きく、比誘電率が比較的小さいことが知られている。この電気光学結晶3を例えば石英ガラス製の基板15で上下からと表裏から挟み込み、左右からは上記ループの開放端で挟みこんだものである。図2(a)のX−X’断面を示す図2(c)に示すように、結晶上部に接着した石英ガラスの上面には、反射防止膜(ARコート)を施し、結晶下部に接着した石英ガラスの下面には、高反射膜(HRコート)を施している。
【0022】
この2a、2b、2cからなるループは、左右のスライド部によって、図3に示す様に、伸縮することができる。このスライド部によって、2a、2b、2c部は、電気的に接触している。この接触のために、必要に応じて金メッキを施してもよい。また、接触部が、水銀を介して接触するようにしてもよい。
【0023】
上記の構成で、石英ガラスを用いる場合は、以下の作成方法で実現することができる。
1:DASTなどの電気光学結晶の両端に導電性ペースト(銀ペースト等)を塗布する。
2:塗布したDASTを石英ガラスの基板にのせる。
3:ループサイズが変形可能なようスライド式のループを銅により構成する。
ここで、銅ループの作成に当たっては、機械加工による形抜きを行なう。また、シリンダ部はループ部と一体化した型抜き加工が困難な場合は別途作成し、ループ部と溶接する。
4:結晶両端に上記銅製のループを取り付ける。
5:DASTおよび導体を同様の基板で挟み込む。
ここでは、プローブ先端は変形が容易になるように基板で挟み込まずにむき出しの状態とする。
【0024】
コイル(又はループ)のサイズを変える駆動に関しては、図4(b)に示すように、シリンダ部分に細い空気チューブとその先に小型ポンプ備えたガス圧制御器を接続して、加圧することで延伸化し、または減圧することで短縮化することで実現できる。
【0025】
また、図4(a)に示すように、電気光学結晶の対辺をテフロン(登録商標)などの低誘電率の棒状体を介して動かす摺動駆動機構によって、上記ループの面積を増減することも可能である。摺動駆動機構としては、超音波リニアモータなどを用いることができる。
【0026】
上記のループの伸縮方向については、縦方向および横方向ともに実現可能である。さらに、電気光学結晶3においてもDAST以外のものとしてLiNbO3などを用いることができる。また、基板15についても石英ガラスのほかに、シクロオレフィンポリマー、およびアクリルなどでもよい場合がある。また、ループを構成する導体についても導電率が充分に高い金属であれば、銅以外の金属で適用可能であることは明らかである。
【0027】
次に、必要な可動範囲を決定するために、公知の電磁界解析シミュレータを用いることができることを示す。まず、図5(a)に示す構成で、銅のループサイズ=0.8mm×0.8mm、ループ太さ=0.15mm、電気光学結晶DASTのサイズ=横0.3mm×縦0.20mm×厚さ0.25mm、の光磁界プローブを0.3mm厚の石英ガラス基板上に作成し、この周波数特性を測定した。この測定結果を図6に点線Aで示す。また、この条件での、電磁界解析シミュレータMAGNA/TDMによる周波数特性も、図6に実線Bで示す。これらの周波数特性の比較から、シミュレーション結果は、実測値とほぼ合致していることが分かる。
【0028】
ここで、さらに図5b.ループ可変型(伸ばした状態)、図5c.ループ可変型(縮めた状態)のモデルについて、上記シミュレータで、高周波磁界源となるマイクロストリップライン上に配置した場合の周波数特性を解析したそれぞれの結果を図6のCとDに示す。表1は、上記の結果からピーク周波数についてまとめたものである。
【0029】
【表1】

【0030】
このように、プローブ先端を変形させ、ループサイズ0.8mm×0.8mmから0.8mm×0.5mmに縮小することで、ピーク周波数を34GHzから42GHzに上昇させることができる。このように、ループコイルの先端に変形機構を加えることで、一本の光磁界プローブのみで周波数帯域を20%程度可変にすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
この発明の主な利用分野に、携帯電話などの電子機器における高周波電磁ノイズ測定用プローブがある。その役割は、電子機器において誤作動の原因となる高周波電磁ノイズの発生源の特定や対策部品の効果の確認が主である。この場合の具体的な使用方法としては、測定しようとする電子回路基板上を本発明の光磁界プローブで走査して磁界分布測定を行うスキャナに装着して使用する。このスキャナは、たとえば上記光磁界プローブの走査を電動式アームによる2次元駆動機構を用いて行なう。スペクトルアナライザの出力と平面の位置座標をコンピュータで処理することにより、電子機器平面の磁界分布のデータを得ることが出来る。
【0032】
また、本発明の光磁界プローブを直接手で持って測定することもできる。ただし、センチ波やミリ波領域で用いる場合は、高周波磁界分布ではなく特定周波数における高周波磁界の強弱を検出する簡易テスターとしての使用が望ましい。
【符号の説明】
【0033】
1 光磁界プローブ
2 ループ
3 電気光学結晶
4 レンズ
5 半波長板
6 レンズ
7 サーキュレータ
8 レーザ光源
9 波長板
10 検光子
11 フォトレシーバ
12 スペクトルアナライザ
13 2次元駆動機構
14 電子回路基板
15 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気光学結晶を用いて高周波磁界強度を計測する測定装置であって、
高周波磁界による誘起電圧を出力する検出コイルと、
上記検出コイルの出力電圧を印加する電気光学結晶と、
上記電気光学結晶における電気光学効果を、該電気光学結晶に光を照射して得られる複屈折を光学的に検出する偏光計測手段と、を備え、
上記検出コイルは、高周波磁界の磁束が通過する面積を変えて通過磁束を調整することが可能なコイルであり、
上記高周波磁界の強度を、上記偏光計測手段の出力の関数として計測することを特徴とする光磁界プローブ。
【請求項2】
上記検出コイルは、概略四辺形であって、
いずれかの一辺のほぼ中央が開放されて一対の開放端を形成し、
上記一対の開放端は、上記電気光学結晶に電圧を印加するそれぞれの電極とそれぞれ接続され、
前記開放端の対辺が移動可能であって、
上記開放端のある辺とその対辺の他の2辺に上記面積を変えるスライド部を設けたことを特徴とする請求項1に記載の光磁界プローブ。
【請求項3】
上記検出コイルを、上記電気光学結晶に照射する偏光の入射方向と並行する磁束を通過磁束とする向きに設けたことを特徴とする請求項1あるいは2のいずれか1つに記載の光磁界プローブ。
【請求項4】
上記検出コイルを、上記電気光学結晶に照射する偏光の入射方向と直交する磁束を通過磁束とする向きに設けたことを特徴とする請求項1あるいは2のいずれか1つに記載の光磁界プローブ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−43471(P2011−43471A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−193289(P2009−193289)
【出願日】平成21年8月24日(2009.8.24)
【出願人】(301022471)独立行政法人情報通信研究機構 (1,071)
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【Fターム(参考)】