説明

光空間通信における捕捉追尾方法、捕捉追尾機構および捕捉追尾システム

【課題】
本発明は、光空間通信において高精度に相手局を初期捕捉して捕捉追尾することが可能な光空間通信における捕捉追尾方法、捕捉追尾機構および捕捉追尾システムを提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明に係る捕捉追尾機構10は、パルス状の初期捕捉光50を送信し、初期捕捉光50が反射された反射初期捕捉光60を受信する光アンテナ部20と、初期捕捉光50を生成して出力すると共に反射初期捕捉光60を検知した時に検知信号を生成して出力する初期捕捉部30と、初期捕捉時に初期捕捉光50を所定の軌道で走査し、初期捕捉部30から検知信号が入力された時に初期捕捉から捕捉追尾に移行する制御部40と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、離れた2局間において空間伝搬光線を用いて通信を行う光空間通信における捕捉追尾方法、捕捉追尾機構および捕捉追尾システムに関し、特に、光空間通信を開始するにあたり初期捕捉を行う捕捉追尾方法、捕捉追尾機構および捕捉追尾システムに関する。
【背景技術】
【0002】
光空間通信では、空間伝搬光線を有効に使うため、空間伝搬光線の光ビーム広がり角を極力小さくすることが望ましい。2局間距離が数10kmに亘る長距離通信の場合、空間伝搬光線の広がり角は数mrad以下(システムによっては数10μrad程度)に設定される。このため、2局間の光リンクを継続するためには互いの局から送信される空間伝搬光線に対する捕捉追尾技術が重要となる。一方の局、あるいは、両方の局が航空機などの移動局の場合、捕捉追尾技術の中でも特に、光空間通信開始時に相手局を捕捉する初期捕捉技術が重要となる。
【0003】
特許文献1には、光空間通信における初期捕捉技術が開示されている。特許文献1の光空間通信装置の構成図を図8に示す。特許文献1の光空間通信装置900において、A局910Aは送信モジュール920Aおよび受信モジュール960Aから構成され、B局910Bは送信モジュール920Bおよび受信モジュール960Bから構成される。A局910A−B局910B間で光空間通信を開始する場合、送信モジュール920A、920Bから、水平駆動機構930A、930Bにより水平方向に低速で駆動しつつ、スキャナ940A、940Bでミラー950A、950Bを上下方向に高速で回動させながら、通信光を出射すると共に、受信モジュール960A、960Bにおいて、相手局の再帰反射体970B、970Aから反射された通信光を監視する。そして、反射光の信号レベルが最大となる走査座標に光軸を調整し(粗調整)、さらに、反射光を用いて2局間の距離を計測して予め保持している距離情報と比較する等によって光軸を再調整し(微調整)、初期捕捉を完了する。
【0004】
一方、特許文献2には、光空間通信とは異なるが、距離測定用パルス光と通信用レーザ光とを混合して対象物へ出射し、対象物の距離および座標を求める螺旋走査および対象物への情報送信を同時に行う自動追尾光通信装置が開示されている。特許文献2の技術は、距離測定用パルス光が戻ってくるまでの時間を計測して対象物までの距離を演算する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−244408号公報
【特許文献2】特開平3−200090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の光空間通信装置900は、初期捕捉用光線として2局間の光空間通信に使用する通信光を利用する。相手局からの通信光が局間距離の2乗に比例して減衰するのに対して、初期捕捉用光線の通信光の反射光は距離の4乗に比例して減衰することから、2局の通信光の出力レベルが同程度の場合、初期捕捉用通信光の反射光は、相手局から直接送られる通信光と比較して桁違いに弱いレベルとなり、相手局から送信された通信光から初期捕捉用通信光の反射光を検出するのは困難である。
【0007】
一方、特許文献2の自動追尾光通信装置は、距離測定用パルス光と通信用レーザ光とを混合光線を用いることから、距離測定用パルス光の反射光を高精度に検出できるものの、該距離測定用パルス光を用いた距離測定の精度には限界があり、広がり角を極力小さくする必要がある光空間通信に特許文献2の技術をそのまま適用することはできない。
【0008】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、光空間通信において高精度に相手局を初期捕捉して捕捉追尾することが可能な光空間通信における捕捉追尾方法、捕捉追尾機構および捕捉追尾システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明に係る光空間通信における捕捉追尾方法は、初期捕捉時に、パルス状の初期捕捉光を生成して光アンテナ部から所定の軌道で送信し、初期捕捉光の反射光である反射初期捕捉光を検知した時に検知信号を生成して出力し、検知信号が出力された時、初期捕捉から捕捉追尾に移行する。
【0010】
上記目的を達成するために本発明に係る捕捉追尾機構は、パルス状の初期捕捉光を送信し、初期捕捉光が反射された反射初期捕捉光を受信する光アンテナ部と、初期捕捉光を生成して出力すると共に反射初期捕捉光を検知した時に検知信号を生成して出力する初期捕捉部と、初期捕捉時に初期捕捉光を所定の軌道で走査し、初期捕捉部から検知信号が入力された時に初期捕捉から捕捉追尾に移行する制御部と、を備える。
【0011】
上記目的を達成するために本発明に係る捕捉追尾システムは、初期捕捉光を反射初期捕捉光として反射する再帰反射部を備える第1の光空間通信装置と、上述の捕捉追尾機構を備える第2の光空間通信装置と、を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る光空間通信における捕捉追尾方法、捕捉追尾機構および捕捉追尾システムを適用することにより、光空間通信において高精度に相手局を初期捕捉して捕捉追尾することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る捕捉追尾機構10のブロック構成図の一例である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る捕捉追尾システム100のシステム構成図の一例である。
【図3】本発明の第2の実施形態に係るA局200の光アンテナ210および光学部220の構成図の一例である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係る初期捕捉センサ228の構成図の一例である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係るA局200の初期捕捉における走査パターンの一例である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る捕捉追尾システム100の初期捕捉から捕捉追尾にいたるまでのシーケンスの一例である。
【図7】本発明の第3の実施形態に係る捕捉追尾システム100Bのシステム構成図の一例である。
【図8】特許文献1の光空間通信装置900の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1の実施形態)
第1の実施形態に係る捕捉追尾機構について説明する。本実施形態に係る捕捉追尾機構のブロック構成図の一例を図1に示す。図1において、捕捉追尾機構10は、光アンテナ部20、初期捕捉部30および制御部40を備える。
【0015】
光アンテナ部20は、初期捕捉光50を送信すると共に、初期捕捉光50の反射光である反射初期捕捉光60を受信する。
【0016】
初期捕捉部30は、初期捕捉光50を生成して光アンテナ部20へ出力する。本実施形態において、初期捕捉部30は、高繰り返しのパルス光を生成して光アンテナ部20へ出力する。また、初期捕捉部30は、光アンテナ部20から反射初期捕捉光60が受信されたか否かを監視し、反射初期捕捉光60が受信された時、検知信号を生成して制御部40に出力する。本実施形態において、初期捕捉部30は、光アンテナ部20から入射した信号を監視し、所定の閾値より大きいパルス波高値が検出された場合、反射初期捕捉光60が受信されたと判定する。
【0017】
制御部40は、初期捕捉時に初期捕捉光50を所定の軌道で走査し、初期捕捉部30から検知信号が入力された時、初期捕捉から捕捉追尾に移行する。本実施形態において、制御部40は初期捕捉時に、光アンテナ部20の指向方向を低速で調整するのと同期させて初期捕捉光50の光軸を高速で調整することによって、初期捕捉光50を所定の軌道で走査する。また、制御部40は捕捉追尾時に、光アンテナ部20の指向方向を位置情報として取得し、取得した位置情報に基づいて光アンテナ部20の指向方向をフィードバック制御する。
【0018】
上述の捕捉追尾機構10において、初期捕捉光50として高繰り返しのパルス光を用いることから、初期捕捉部30は反射初期捕捉光60を簡易にかつ高精度で検出することができる。従って、本実施形態に係る捕捉追尾機構10は、相手局を速やかに初期捕捉することができる。
【0019】
さらに、捕捉追尾機構10は、反射初期捕捉光60が検知された時、直ちに、初期捕捉から捕捉追尾に移行する。反射初期捕捉光60が検出された時の位置情報を用いて捕捉追尾を開始することにより、初期捕捉結果を利用して、より確度が高い捕捉追尾を速やかに開始することができる。
【0020】
以上のように、本実施形態に係る捕捉追尾機構10は、光空間通信において高精度に相手局を初期捕捉して捕捉追尾することができる。
【0021】
(第2の実施形態)
第2の実施形態に係る捕捉追尾システムについて説明する。本実施形態に係る捕捉追尾システムのシステム構成図の一例を図2に示す。また、本実施形態に係るA局の光アンテナおよび光学部の構成図の一例を図3に示す。
【0022】
図2において、本実施形態に係る捕捉追尾システム100は、A局200およびB局300を備える。A局200は、主に、光アンテナ210、光学部220、粗捕捉追尾機構230および図示しない制御部250を備える。B局300は、主に、光アンテナ310、光学部320、粗捕捉追尾機構330、再帰反射体340および図示しない制御部350を備える。なお、光アンテナ210、後述する初期捕捉センサ228および制御部250が、請求項の捕捉追尾機構を構成する。
【0023】
以下、A局200の構造について詳細に説明する。なお、B局300の光アンテナ310、光学部320および粗捕捉追尾機構330はA局200のそれらとほぼ同様に構成されており、詳細な説明は省略する。但し、光アンテナ310は、光学部320から出力されたB局送信光360をA局200へ向けて送信する。また、B局300の光学部320は、後述のスプリッタ227および初期捕捉センサ228は備えない。さらに、再帰反射体340は、A局200から出射された初期捕捉光270を反射初期捕捉光370として反射する。本実施形態では、再帰反射体340として、有効径が25mmの裏面に銀をコーティングしたCCR(コーナキューブリフレクタ:Corner Cube Reflector)を適用した。
【0024】
図2において、A局200の光アンテナ210は、光学部220から出力されたA局送信光260および初期捕捉光270をB局300へ送信し、B局300からB局送信光360および反射初期捕捉光370を受信して光学部220へ出力する。図3に示すように、本実施形態では光アンテナ210として、主反射器211および副反射器212から成るφ100mmのカセグレンアンテナを適用した。
【0025】
光学部220は、A局送信光260および初期捕捉光270を生成して光アンテナ210へ出力すると共に、光アンテナ210を介してB局300から受信したB局送信光360および反射初期捕捉光370を処理する。本実施形態において、A局送信光260は光通信信号が乗った連続レーザ光であり、A局送信光260の出力は連続で0.2W、波長は1540nm、光ビーム広がり角は0.4mradである。一方、初期捕捉光270は高繰り返しのパルスレーザ光であり、初期捕捉光270の出力はパルスでピーク出力10W、波長は780nm、光ビーム広がり角は0.4mradである。A局送信光260と初期捕捉光270とを同軸にすることにより、光アンテナ210を共有する。また、初期捕捉光270の光ビーム広がり角をA局送信光260の光ビーム広がり角と同程度かまたはそれより小さく設定することにより、初期捕捉光270がB局300から反射されるのと同時に、A局送信光260がB局300を照射するようになる。なお、B局300から出力されるB局送信光360は、光通信信号が乗った連続レーザ光であり、B局送信光360の出力は連続で0.2W、波長は1560nm、光ビーム広がり角は0.04mradである。A局送信光260、初期捕捉光270(反射初期捕捉光370)およびB局送信光360の波長を変えることにより、それぞれの光学部220、320が送受信の信号分離を容易に行うことができる。
【0026】
光学部220の説明に戻る。図3において、光学部220は、1/4波長板221、精捕捉追尾機構222、捕捉センサ223、追尾センサ224、送信光学系225、受信光学系226、スプリッタ227および初期捕捉センサ228を備える。
【0027】
1/4波長板221は、送信光学系225から出射された直線偏光のA局送信光260(1540nm)を円偏光に変換して光アンテナ210へ出力すると共に、光アンテナ210から入力された円偏光のB局送信光360(1560nm)を直線偏光に変換して受信光学系226側へ出力する。なお、1/4波長板221は、初期捕捉光270(780nm)および反射初期捕捉光370(780nm)に対しては1/2波長板として機能するため、初期捕捉光270および反射初期捕捉光370の偏光状態は変化しない。
【0028】
精捕捉追尾機構222は、小型ミラーをX軸、Y軸方向に偏向させることによって、光アンテナ210から送信するA局送信光260および初期捕捉光270を走査する。本実施形態において、精捕捉追尾機構222としてボイスコイル方式の2軸駆動機構を適用し、300Hz以上の高速動作で瞬時受信視野角を±5度以上の角度範囲でA局送信光260を走査する。
【0029】
捕捉センサ223および追尾センサ224は、一般的な位置センサである。捕捉センサ223がB局送信光360を検知することによって粗捕捉が開始される。粗捕捉では、捕捉センサ223の誤差データを元に誤差データが最小となるように精捕捉追尾機構222がフィードバック制御される。粗捕捉が完了すると、引き続いて精追尾が開始される。精追尾では、追尾センサ224の誤差データを元に、誤差データが最小となるように精捕捉追尾機構222がフィードバック制御される。本実施形態では、捕捉センサ223および追尾センサ224として、InGaAs4分割ダイオードの位置センサを適用した。
【0030】
送信光学系225は、直線偏光のA局送信光260を生成して1/4波長板221側に出力する。受信光学系226は、光アンテナ210および1/4波長板221を介して入力した直線偏光のB局送信光360を処理する。
【0031】
スプリッタ227は、初期捕捉センサ228から入射した初期捕捉光270をA局送信光260と同軸になるように光アンテナ210側へ出射すると共に、光アンテナ210から入射した光線から反射初期捕捉光370を分離して初期捕捉センサ228側へ出射する。本実施形態では、スプリッタ227としてダイクロイックミラーを適用した。
【0032】
初期捕捉センサ228は、円偏光の初期捕捉光270を生成してスプリッタ227へ入射する。また、初期捕捉センサ228は、光アンテナ210を介して反射初期捕捉光370が入射したか否かを監視し、反射初期捕捉光370を検出した時、制御部250へ初期捕捉信号を出力する。初期捕捉センサ228の構成図の一例を図4に示す。図4において、初期捕捉センサ228は、レーザ生成部281、ビーム整形部282、偏光ビームスプリッタ283、1/4波長板284、検出部285および初期捕捉制御部286を備える。
【0033】
レーザ生成部281は、パルスレーザダイオードとその駆動回路からなり、初期捕捉光270を生成してビーム整形部282へ出力する。本実施形態において、レーザ生成部281は、波長780nm、パルス幅10nsの初期捕捉光270を、ピーク出力10W、パルス繰り返し10kHzで出力する。ビーム整形部282は、レーザ生成部281から出力された初期捕捉光270の広がり角を調整して偏光ビームスプリッタ283へ出射する。偏光ビームスプリッタ283は、ビーム整形部282から出射された初期捕捉光270を1/4波長板284側へ出射すると共に、1/4波長板284からから出射された反射初期捕捉光370を検出部285側へ出射する。1/4波長板284は、偏光ビームスプリッタ283から入射した初期捕捉光270を円偏光に変換してスプリッタ227へ出射すると共に、スプリッタ227から入射した反射初期捕捉光370を直線偏向に変換して偏光ビームスプリッタ283へ出射する。
【0034】
検出部285は、偏光ビームスプリッタ283から入射した反射初期捕捉光370を所定のタイミングで検出し、検出した反射初期捕捉光370を電気パルスに変換して初期捕捉制御部286へ出力する。初期捕捉制御部286は、基本クロックを発生してレーザ生成部281および検出部285へ出力すると共に、検出部285から入力された電気パルスの波高値を所定の基準値と比較し、反射初期捕捉光370の波高値が基準値を超えた時、初期捕捉信号を生成して制御部250に出力する。
【0035】
本実施形態において、レーザ生成部281は基本クロックに同期してパルスレーザ光の初期捕捉光270を生成して出力し、検出部285は基本クロック同期したタイミングで反射初期捕捉光370を検出する。基本クロックに同期して、初期捕捉光270が出力されてから一定時間の間に戻ってきたパルスレーザ光だけを検知するようにすることにより(すなわち、レンジゲート機能)、反射初期捕捉光370以外の不要なノイズによる誤検知を抑制することができる。
【0036】
図2の説明に戻る。粗捕捉追尾機構230は、光アンテナ210の指向方向を制御する。本実施形態では、粗捕捉追尾機構230を2軸のジンバルに構成した。
【0037】
図示しない制御部250は、初期捕捉サーチにおいて、粗捕捉追尾機構230および精捕捉追尾機構222を制御して初期捕捉光270を所定の軌道で走査する。そして、初期捕捉センサ228から初期捕捉信号が入力された時、初期捕捉サーチを停止してプログラム追尾へ移行する。制御部250は、プログラム追尾において、初期捕捉信号を受信した時の光アンテナ210の指向方向と、自局の位置データと図示しない記憶部に保存されているB局300の位置データとから計算して得た相手局の方向との角度ズレ(以下、バイアス角度と記載する。)を演算し、光アンテナ210が追尾時の2局の位置データから計算したB局200の方向(以下、基準方向と記載する。)に演算したバイアス角度を加算した方向を向くように制御してB局300の追尾を開始する。そして、制御部250は、光空間通信において、光学部220の捕捉センサ223および追尾センサ224が取得した位置情報に基づいて精捕捉追尾機構222の小型ミラーの角度を制御することにより、A局送信光260を走査すると共に受信したB局送信光360を受信光学系226へ導く。
【0038】
ここで、制御部250は、初期捕捉サーチにおいて初期捕捉光270を所定の軌道で走査することにより、予め設定した基準方向を基準とした一定の角度範囲内で初期捕捉サーチを実施する。初期捕捉サーチ時の走査パターンの一例を図5に示す。図5において、制御部250は、B局300が航空機などの移動局の場合を想定して、初期捕捉光270を粗捕捉追尾機構230により水平方向に低速で走査し、それに同期させて精捕捉追尾機構222により垂直方向に高速で走査する。航空機などの移動局は水平方向の移動速度が大きく、バイアス角度も大きくなるため、水平方向の走査範囲を広く取ることが望ましい。本実施形態では、水平方向の走査範囲を約34mrad、垂直方向の走査範囲を約0.4mrad、初期捕捉光270のビーム広がり角を0.4mradとした。なお、初期捕捉光270の軌道は図5に示した走査パターンに限定されず、例えば、粗捕捉追尾機構230のみを制御して初期捕捉光270を走査することもできる。
【0039】
次に、本実施形態に係る捕捉追尾システム100の動作について説明する。初期状態において、A局200の光アンテナ210とB局300の光アンテナ310とは、互いに予め設定された基準方向を指向している。この場合、直ちにA局200およびB局300が互いを照射する状態が実現できると考えられるが、一般的に、各種の角度誤差が発生して基準方向との角度ズレが発生するため、初期捕捉サーチが必要となる。以下、初期捕捉サーチから捕捉追尾にいたるまでの捕捉追尾システム100の動作について図6を用いて説明する。
【0040】
ステップ1:初期状態において、A局200は「初期捕捉サーチ」を開始する。すなわち、A局200の制御部250は、粗捕捉追尾機構230および精捕捉追尾機構222を制御して初期捕捉光270を所定の軌道で走査する。初期捕捉光270がB局300方向を向いたとき、初期捕捉光270の一部がB局300の再帰反射体340に入射し、反射初期捕捉光370として反射される。再帰反射体340から反射された反射初期捕捉光370の一部はA局200の光アンテナ210で受信され、初期捕捉センサ228によって検知される。初期捕捉センサ228は、反射初期捕捉光370を検知した時、初期捕捉信号を制御部250に出力する。
【0041】
ステップ2:A局200の制御部250は、初期捕捉センサ228から初期捕捉信号が入力された時、「初期捕捉サーチ」を停止して「プログラム追尾」に移行する。
【0042】
ステップ3:A局200の制御部250は、「プログラム追尾」に移行すると、「初期捕捉サーチ」で取得したバイアス角度を用いて2局の位置情報から演算されるB局300の基準方向を補正し、B局300の追尾を開始する。これにより、A局送信光260はB局300を常に照射している状態となる。A局送信光260がB局300を照射するのに伴い、B局300は「サーチ」を開始する。「サーチ」ではB局300の制御部350が、粗捕捉追尾機構330を駆動してB局300の受信視野方向を走査し、A局200の方向をサーチする。B局300の受信視野方向がA局200の方向を向いた時、A局送信光260がB局300の捕捉センサ323により検知される。
【0043】
ステップ4:B局300の捕捉センサ323でA局送信光260が検知されると、B局300の制御部350は、「サーチ」を終了して「粗補足」を開始する。「粗捕捉」では、捕捉センサ323の誤差データを元に、誤差データが最小となるように精捕捉追尾機構322をフィードバック制御してA局200を中心位置に捕捉する。
【0044】
ステップ5:B局300の制御部350が「粗捕捉」を行うのに伴い、A局200でもB局送信光360が捕捉センサ223で検知されるようになり、A局200も「粗補足」を開始する。A局200における「粗捕捉」により、B局300が中心位置に捕捉される。
【0045】
ステップ6:A局200とB局300とは、ほぼ同時に「粗捕捉」を終了して「精追尾」を開始する。「精追尾」では追尾センサ224、324の誤差データを元に、誤差データが最小となるように精捕捉追尾機構222、322をフィードバック制御して相手局をそれぞれ追尾する。これにより2局間の光リンクが確立する。
【0046】
以上のように、本実施形態に係る捕捉追尾システム100は、初期捕捉サーチ用の初期捕捉光270として高繰り返しのパルスレーザ光を用いることにより、初期捕捉センサ228が単純なしきい値検知方法を適用して反射初期捕捉光370を高精度でかつ簡易に検出することができる。なお、初期捕捉光270の光ビーム広がり角を、A局送信光260の光ビーム広がり角とほぼ同じ値かそれより小さい値に設定することにより、初期捕捉光270がB局300を照射した時、A局送信光260がB局300を照射するようになる。
【0047】
ここで、捕捉追尾システム100は、A局200の光学部220の受信光学系226の前段に、初期捕捉光270および反射初期捕捉光370を合分波するスプリッタ227と、初期捕捉光270を出射すると共に反射初期捕捉光370を検知する初期捕捉センサ228とを追加するだけで良く、単純な構成とすることができる。さらに、受信光学系226の前段にスプリッタ227および初期捕捉センサ228を追加する場合、初期捕捉光270の光学系とA局送信光260の光学系とを同軸に形成して光アンテナ210を共有することができ、初期捕捉サーチを効率よく行うことができる。
【0048】
また、初期捕捉サーチにおいて反射初期捕捉光370が検知された後、A局200の制御部250が直ちに、A局送信光260およびB局送信光360を用いた捕捉追尾に移行することにより、より確度が高い捕捉追尾を行って安定的に光リンクを確立することができる。
【0049】
従って、本実施形態に係る捕捉追尾システム100は、光空間通信において高精度に相手局を初期捕捉して捕捉追尾することができる。
【0050】
なお、初期捕捉光270のパルス繰り返しを上げることにより、相手局が高速で移動している場合も相手局を速やかに初期捕捉することができる。また、上述の実施形態では、A局200は再帰反射体を、B局300はスプリッタおよび初期捕捉センサを備えない構成としたが、A局200が再帰反射体を備えていてもよいし、B局300がスプリッタおよび初期捕捉センサを備えていてもよい。
【0051】
ここで、本実施形態に係る捕捉追尾システム100は、航空機などの移動局と地上局との2局間の光リンク確立や、移動局と移動局との間、あるいは地上局と地上局との2局間の光リンク確立に適用することができる。
【0052】
(第3の実施形態)
第3の実施形態について説明する。第3の実施形態では、捕捉追尾方法を1対多の光空間通信に適用する。本実施形態に係る捕捉追尾システム100Bのシステム構成図の一例を図7に示す。図7において、捕捉追尾システム100Bは、移動局400、地上局A500、地上局B600および地上局C700を含む。本実施形態では、移動局400として航空機を適用する。なお、移動局400が請求項の第1の光空間通信装置に、地上局A500が請求項の第2の光空間通信装置に、地上局B600が請求項の第3の光空間通信装置に対応する。
【0053】
移動局400は、第2の実施形態で説明した再帰反射体を機体の地上側表面に備え、地上局A500、B600、C700から出力された初期捕捉光570、670、770を該再帰反射体440により反射初期捕捉光470として反射する。
【0054】
地上局A500、B600、C700は、移動局(航空機)400を監視している。本実施形態において、地上局A500、B600、C700は、それぞれ、第2の実施形態で説明した初期捕捉光570、670、770を出力し、反射初期捕捉光470を検出する初期捕捉センサを備える。
【0055】
図7において、地上局A500から送信された初期捕捉光570を移動局400の再帰反射体440が反射し、地上局A500が再帰反射体440からの反射初期捕捉光470を検知することにより、地上局A500が移動局400の位置を捕捉する。そして、地上局A500からの通信信号としての地上局送信光560が移動局400で受信されて捕捉追尾が開始される。さらに、移動局400からの通信信号としての移動局送信光460が地上局A500で受信されて捕捉追尾が開始されることにより、2局間(地上局A500−移動局400間)の光リンクが確立される。
【0056】
一方、移動局400−地上局A500間の光空間通信が行われている間、地上局B600および地上局C700は、それぞれ、初期捕捉光670、770を出力し、再帰反射体440からの反射初期捕捉光470を検知することにより移動局400の初期捕捉サーチを完了する。
【0057】
光空間通信では、雲などの障害物によって通信断が発生する場合がある。移動局400−地上局A500間の光空間通信の接続状態が悪くなった場合、移動局400は地上局A500から別の接続可能な地上局、例えば、地上局B600に光リンクを切り替える。この時、すでに地上局B600では初期捕捉サーチが完了しているため、移動局400は光リンクの切り替えを瞬時に実施することができる。
【0058】
以上のように、本実施形態に係る捕捉追尾システム100Bを移動局400と複数の地上局A500、B600、C700との光リンクの確立に適用することにより、光空間通信中に光空間通信の接続状態が悪くなった場合、移動局400は速やかに他の地上局に光リンクを切り替えることができる。
【0059】
なお、第2の実施形態では、反射初期捕捉光の検知方法としてしきい値検知方法を使用したが、レーザ測距回路などで一般に用いられるその他のパルス検知方法を適用することもできる。本実施形態では、移動局400から反射された反射初期捕捉光470の検知方法として、パルスのピーク位置を検知するCFD(Constant Fraction Discriminator)回路方式を適用した。
【0060】
また、第2の実施形態では、相手局からの送信光を検知するための位置センサ(捕捉センサ223、追尾センサ224)として4分割フォトダイオードを用いたが、本実施形態では位置センサとしてCCDセンサ(Charge Coupled Device Sensor)を適用した。
【符号の説明】
【0061】
10 捕捉追尾機構
20 光アンテナ部
30 初期捕捉部
40 制御部
50 初期捕捉光
60 反射初期捕捉光
100、100B 捕捉追尾システム
200 A局
210 光アンテナ
220 光学部
221 1/4波長板
222 精捕捉追尾機構
223 捕捉センサ
224 追尾センサ
225 送信光学系
226 受信光学系
227 スプリッタ
228 初期捕捉センサ
230 粗捕捉追尾機構
250 制御部
260 A局送信光
270 初期捕捉光
281 レーザ生成部
282 ビーム整形部
283 偏光ビームスプリッタ
284 1/4波長板
285 検出部
286 初期捕捉制御部
300 B局
400 移動局
500 地上局A
600 地上局B
700 地上局C

【特許請求の範囲】
【請求項1】
初期捕捉時に、パルス状の初期捕捉光を生成して光アンテナ部から所定の軌道で送信し、
前記初期捕捉光の反射光である反射初期捕捉光を検知した時に検知信号を生成して出力し、
前記検知信号が出力された時、初期捕捉から捕捉追尾に移行する、
光空間通信における捕捉追尾方法。
【請求項2】
各種情報を含んだ連続光の送信光を前記初期捕捉光と共に前記光アンテナ部から送信し、
前記送信光と前記初期捕捉光とは所定の光軸を通過すると共に前記初期捕捉光の光ビーム広がり角は、前記送信光の光ビーム広がり角とほぼ同じか、それより小さな値に設定される、
請求項1記載の捕捉追尾方法。
【請求項3】
前記光アンテナ部の指向方向を低速で調整するのと同期させて前記光軸を高速で調整することによって前記初期捕捉光を所定の軌道で送信する、請求項2記載の捕捉追尾方法。
【請求項4】
基本クロックに同期して前記初期捕捉光を生成して送信し、
前記光アンテナ部で受信した前記反射初期捕捉光を前記光軸に導き、
前記基本クロックに同期したタイミングで前記光軸を監視し、
前記光軸から所定の閾値より大きいパルス波高値が検出された場合に前記検知信号を生成する、
請求項2または3記載の捕捉追尾方法。
【請求項5】
各種情報を含んだ連続光の受信光を受信し、
前記送信光と前記受信光と前記初期捕捉光とはそれぞれ異なる波長に設定される、請求項2乃至4のいずれか1項記載の捕捉追尾方法。
【請求項6】
前記受信光を受信している時の前記光アンテナ部の指向方向を位置情報として出力し、
前記捕捉追尾時に、前記出力された位置情報を用いて前記指向方向をフィードバック制御する、
請求項5項記載の捕捉追尾方法。
【請求項7】
パルス状の初期捕捉光を送信し、前記初期捕捉光が反射された反射初期捕捉光を受信する光アンテナ部と、
前記初期捕捉光を生成して出力すると共に前記反射初期捕捉光を検知した時に検知信号を生成して出力する初期捕捉部と、
初期捕捉時に前記初期捕捉光を所定の軌道で走査し、前記初期捕捉部から前記検知信号が入力された時に初期捕捉から捕捉追尾に移行する制御部と、
を備える捕捉追尾機構。
【請求項8】
初期捕捉光を反射初期捕捉光として反射する再帰反射部を備える第1の光空間通信装置と、
請求項7記載の捕捉追尾機構を備える第2の光空間通信装置と、
を備える、捕捉追尾システム。
【請求項9】
請求項7記載の捕捉追尾機構を備える第3の光空間通信装置をさらに備え、
前記第3の光空間通信装置は、前記第1の光空間通信装置と前記第2の光空間通信装置とが光空間通信を行っている間に前記第1の光空間通信装置の初期捕捉を行い、
前記第1の光空間通信装置は、前記第2の光空間通信装置との光空間通信が切断された時、前記第3の光空間通信装置との光空間通信を開始する、
請求項8記載の捕捉追尾システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−156685(P2012−156685A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−12849(P2011−12849)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「平成22年度総務省「光空間通信技術の研究開発」の委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願」
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】