説明

光空間通信装置およびその通信方法ならびに光空間通信システム

【課題】 特定の通信相手と同期を取ることなくその通信相手に対し光信号を送信し、かつその送信と同時に不特定多数の通信相手からの光信号を受信することができ、また光信号を受信するに際し、同方向から送信される複数の光信号を判別することが可能で、また通信相手の距離に応じて送信ビームの拡がり角を制御することが可能な光空間通信装置の提供。
【解決手段】 光空間通信装置は、位置が既知である特定の通信相手に光信号を送信する送信モジュール12−1〜12−Mと、不特定多数の通信相手からの光信号を受信する受信モジュール11−1〜11−Nと、送信モジュールおよび受信モジュールを制御する中央通信制御装置13とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光空間通信装置およびその通信方法ならびに光空間通信システムに関し、特に移動体間で光空間通信を行う光空間通信装置およびその通信方法ならびに光空間通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
複数の移動体間、一例として高速で移動する戦闘機等の間で光空間通信を行う場合、移動体間では常に複数の相手と通信を行うことができることが望ましい。また、光空間通信は大容量で、かつ秘匿性があるという特長があり、マイクロ波通信やミリ波通信では実現が困難な通信が可能である。また、移動体間光空間通信では、送信ビームの拡がり角が狭いため、それに対応した送受信ビームの制御が重要である。
【0003】
一方、本願に関連する光空間通信装置の一例が特許文献1に開示されている。これは、通信相手から受信した光ビームの向きに応じて、通信相手に向けて光ビームを送信する空間光通信装置であって、通信相手から送られてくる光ビームを入射して焦点面上に集光するレンズ系と、レンズ系を通過した光ビームを2つの光ビームに分割するビームスプリッタと、ビームスプリッタにより分割された一方の光ビームが集光することになる焦点面上に設けられて、受光素子が2次元的に配置されることで構成されるエリアセンサと、ビームスプリッタにより分割された他方の光ビームが集光することになる焦点面上に設けられて、レーザが2次元的に配置されることで構成されるレーザアレイと、エリアセンサの受光素子のどれが光ビームを受光したのかを検出して、その検出した受光素子の配置座標に対応付けられる配置座標を持つレーザアレイのレーザを、通信相手に向けて光ビームを送信するレーザとして選択する制御機構を備えるというものである。
【0004】
また、本願に関連する光空間通信装置の他の一例が特許文献2に開示されている。これは、光検出装置に光を入射する入射窓と、入射窓に入射する光を偏向する光偏向器と、光偏向器により偏向された光を集光する集光手段と、集光手段により集光された光を検出する受光手段とを備えるというものである。
【0005】
さらに、本願に関連する光空間通信装置の他の一例が特許文献3に開示されている。これは、光通信装置の受信装置に、受光角度が異なる3つのピンフォトダイオードと、それぞれのピンフォトダイオードに対応する3つの増幅回路と、それぞれの増幅回路に対応する3つの検出回路と、3つの増幅回路を切り換える切換スイッチと、3つの検出回路および切換スイッチを制御する制御部とを備え、異なる方角からの光信号を常時受信可能にするというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−177654号公報
【特許文献2】特開2007−109923号公報
【特許文献3】特開平08−213954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、本発明に関連する光空間通信装置では、特定の通信相手と同期を取ることなくその通信相手に対し光信号を送信し、かつその送信と同時に不特定多数の通信相手からの光信号を受信することができないという課題がある。
【0008】
また、光信号を受信するに際し、同方向から送信される複数の光信号を判別することが困難という課題がある。
【0009】
さらに、光信号を送信するに際し、送信ビームの拡がり角が大きいと信号強度が小さくなるため、遠距離の通信相手に信号を到達させるのが困難になり、逆に、送信ビームの拡がり角が小さいと信号強度は大きくなるものの、近距離の通信相手に光ビームの向きを合わせるのが困難になるという課題がある。
【0010】
一方、特許文献1に記載の発明は、受信光のビーム方向を検出した後に、その方向に相手端末宛の光ビームを送信するものであり、受信光のビーム方向を検出しなければ相手端末宛に光ビームを送信できず、よって特許文献1に記載の発明によって本発明の課題を解決することはできない。
【0011】
また特許文献2に記載の発明もまた、受信光のビーム方向を検出しなければ相手端末宛に光ビームを送信できず、よって特許文献2に記載の発明によって本発明の課題を解決することはできない。
【0012】
さらに、特許文献3に記載の発明は、異なる方角からの光信号を常時受信可能にするという本発明の一部の機能が開示されているだけであり、この発明によって本発明の課題を解決することはできない。
【0013】
そこで、本発明の目的は、特定の通信相手と同期を取ることなくその通信相手に対し光信号を送信し、かつその送信と同時に不特定多数の通信相手からの光信号を受信することができ、また光信号を受信するに際し、同方向から送信される複数の光信号を判別することが可能で、また通信相手の距離に応じて送信ビームの拡がり角を制御することが可能な光空間通信装置およびその通信方法ならびに光空間通信システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決するために、本発明による光空間通信装置は、位置が既知である特定の通信相手に光信号を送信する送信モジュールと、不特定多数の通信相手からの光信号を受信する受信モジュールと、前記送信モジュールおよび受信モジュールを制御する中央通信制御装置とを含むことを特徴とする。
【0015】
また、本発明による通信方法は、光信号を送信する送信モジュールと、光信号を受信する受信モジュールと、前記送信モジュールおよび受信モジュールを制御する中央通信制御装置とを含む光空間通信装置における通信方法であり、前記中央通信制御装置は、前記送信モジュールに位置が既知である特定の通信相手に光信号を送信させ、かつ前記受信モジュールに不特定多数の通信相手からの光信号を受信させることを特徴とする。
【0016】
また、本発明による光空間通信システムは、光空間通信装置が複数個設けられ、相互にメッシュ型ネットワークを構成することを特徴とする。
【0017】
また、本発明によるプログラムは、光信号を送信する送信モジュールと、光信号を受信する受信モジュールと、前記送信モジュールおよび受信モジュールを制御する中央通信制御装置とを含む光空間通信装置における通信方法のプログラムであり、前記中央通信制御装置に、前記送信モジュールに位置が既知である特定の通信相手に光信号を送信させる処理と、前記受信モジュールに不特定多数の通信相手からの光信号を受信させる処理とを実行させるためのものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、特定の通信相手と同期を取ることなくその通信相手に対し光信号を送信し、かつその送信と同時に不特定多数の通信相手からの光信号を受信することができ、また光信号を受信するに際し、同方向から送信される複数の光信号を判別することが可能で、また通信相手の距離に応じて送信ビームの拡がり角を制御することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る光空間通信システムの一例の構成図である。
【図2】移動体1を中心に見た場合の非同期バースト通信の動作の一例を示す模式図である。
【図3】移動体の通信方法の一例を示すフローチャートである。
【図4】本発明に係る光空間通信装置の一例の構成図である。
【図5】移動体の送信および受信モジュールの配置方法の一例を示す模式図である。
【図6】本発明に係る光空間通信装置における通信相手の捕捉追尾方法の一例の動作を示すフローチャートである。
【図7】本発明に係る光空間通信装置の受信モジュールの一例の構成図である。
【図8】読み出し部(ROIC)23の一例の構成図である。
【図9】本発明に係る光空間通信装置の送信モジュールの一例の構成図である。
【図10】拡がり角制御部44の動作の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照しながら説明する。図1は本発明に係る光空間通信システムの一例の構成図である。同図を参照すると、本発明に係る光空間通信システムの一例は、一例として5個の移動体1〜5を含んで構成される。移動体1〜5は光空間通信装置である。そして、移動体1〜5の各々は相互に通信が可能に構成されており、いわゆるメッシュ型ネットワークを構成している。なお、移動体の個数は5個に限定されるものではなく、2個以上の任意の個数で構成することが可能である。
【0021】
図2は移動体1を中心に見た場合の非同期バースト通信の動作の一例を示す模式図である。なお、同図において図1と同様の構成部分には同一番号を付している。また、図3は移動体の通信方法の一例を示すフローチャートである。
【0022】
以下、図2および図3を参照しながら、移動体の通信方法の一例について説明する。一例として、移動体1から見た通信方法について説明する。光空間通信では1Gbps程度の通信速度は容易に実現できるので、例えば、10msのバースト的な通信時間でも、1MB程度の大容量データを瞬時に送ることが可能である。
【0023】
移動体1は、位置が既知である移動体2に対し光信号を送信する。このとき、移動体1は自装置の位置情報を光信号に含めて送信する。移動体1は移動体2と同期を取らずに自由なタイミングで光信号を送信する。一方、移動体2は、常時任意の方向、一例として360度方向からの光信号を待っている(図3のステップS1)。
【0024】
そして、移動体1からバースト信号が送信された場合、移動体2は受信したバースト信号から移動体1の位置情報を取得する。移動体2はその位置情報から瞬時にそのバースト信号が移動体1から送信されたものであることを検知する。移動体2はこのバースト信号を受信した場合、移動体1に対し受信応答(ACK)を送信する(図3のステップS2)。なお、移動体2はこのバースト信号を受信しても、移動体1に対し受信応答(ACK)を送信しない構成も可能である。
【0025】
移動体1は、移動体2からの応答がない場合、あるいは元々応答しないプロトコルでも、必要に応じて移動体2に対し再送信を行うことが可能である。また、移動体1は移動体2と常時双方向通信を行うことも可能である。また、移動体1は移動体3〜5に対し順次光信号を送信することが可能である。また、移動体1から移動体3〜5に対し擬似的な同報通信を行うことも可能である。さらに、移動体1は移動体2に光信号を送信していると同時に、一例として、移動体4からの信号を受信することも可能である。
【0026】
図4は本発明に係る光空間通信装置の一例の構成図である。同図を参照すると、本発明に係る光空間通信装置の一例は、N(Nは2以上の整数)個の受信モジュール11−1〜11−Nと、M(Mは2以上の整数)個の送信モジュール12−1〜12−Mと、中央通信制御装置13と、プログラム格納部14とを含んで構成される。
【0027】
受信モジュール11−1〜11−Nは光信号を受信する。送信モジュール12−1〜12−Mは光信号を送信する。中央通信制御装置13は受信モジュール11−1〜11−Nおよび送信モジュール12−1〜12−Mを制御する。
【0028】
中央通信制御装置13は受信モジュール11−1〜11−Nと送信モジュール12−1〜12−Mを切り替えて使用する。中央通信制御装置13は通信データを外部から入力し、あるいは外部へ出力する機能を有する。また、中央通信制御装置13は、自装置の位置データ(一例として、GPS(Global Positioning System)等から取得する)および自装置の姿勢データ(自装置の図示しないジャイロ等から取得する)を保持している。なお、中央通信制御装置13に他の光空間通信装置の位置データを保持させることも可能である。
【0029】
図5は移動体の送信および受信モジュールの配置方法の一例を示す模式図である。なお、同図において、図4と同様の構成部分には同一番号を付し、その説明を省略する。また、同図では便宜上、移動体1の構成の一例を示すが、移動体2〜5の構成も移動体1と同様である。
【0030】
同図を参照すると、移動体1は一例として球形に構成されている。しかし、本発明はこの形状に限定されるものではなく、任意の多面体等で構成することも可能である。
【0031】
移動体1の表面に受信モジュール11−1と送信モジュール12−1とが隣接配置されている。また、移動体1の表面の受信モジュール11−1と送信モジュール12−1とは異なる位置に受信モジュール11−2と送信モジュール12−2とが隣接配置されている。同様に、移動体1の表面のこれらの受信モジュールおよび送信モジュールとは異なる位置に受信モジュール11−3と送信モジュール12−3とが隣接配置されている。さらに、移動体1の表面のこれらの受信モジュールおよび送信モジュールとは異なる位置に受信モジュール11−Nと送信モジュール12−Mとが隣接配置されている。
【0032】
なお、同図では受信モジュール11−1〜11−Nに入力される光信号を実線の矢印で表示し、送信モジュール12−1〜12−Mから出力される光信号を実線および破線の矢印で表示している。すなわち、受信モジュール11−1〜11−Nは常時各方向からの光信号を受信し、送信モジュール12−1〜12−Mは特定の方向(実線の矢印方向)に光信号を送信するが、その送信方向は場合に応じて他の方向(破線の矢印方向)に変更が可能であることを示している。
【0033】
受信モジュール11−1〜11−Nの各々は広角の受信が可能である。そして、複数の受信モジュール11−1〜11−Nで受信視野360度をカバーするよう構成されている。また、受信モジュール11−1〜11−Nは常時他移動体からの光信号を待ち受けている。また、受信モジュール11−1〜11−Nは同時多チャンネル受信も可能に構成されている。
【0034】
送信モジュール12−1〜12−Mの各々は、送信ビーム方向を走査して、通信相手に送信光を「照射」する。そして、複数の送信モジュール12−1〜12−Mで送信方向360度をカバーするよう構成されている。また、送信モジュール12−1〜12−Mは、基本的に1チャンネルで切り替え送信を行う。
【0035】
なお、同図では送信モジュールと受信モジュールとを隣接配置する例を示したが、これに限定されるものではなく、送信モジュールと受信モジュールとを隔離配置してもよい。また、送信モジュールと受信モジュールの個数を必ずしも一致させる必要はない。つまり、任意個数の送信モジュールと、任意個数の受信モジュールとを移動体の表面に独立して配置することが可能である。
【0036】
次に、通信相手の捕捉追尾方法の一例について説明する。図6は本発明に係る光空間通信装置における通信相手の捕捉追尾方法の一例の動作を示すフローチャートである。通信相手の捕捉追尾方法、つまり光空間通信装置における送信光の方向の制御方法として、本発明では基本的にプログラム追尾方法を用いる。
【0037】
すなわち、自装置と通信相手装置の位置情報(GPS等から取得する緯度経度高度情報等)を取得し(図6のステップS11)、通信相手装置の方向を所定の計算によって求め(図6のステップS12)、送信方向をフィードフォワード制御する(図6のステップS13)。
【0038】
これにより、通信相手装置からの光信号がない場合でも通信相手装置を捕捉追尾できるので、通信相手装置の切り替えが容易となる。
【0039】
一方、関連する光空間通信で一般的に取り入れられているように、受信モジュールに方位検知センサを組み込み、通信相手装置からの光信号を元に通信相手装置の方向を検知し、送信方向をフィードバック制御する機能を組み込むことも可能である。
【0040】
次に、受信モジュール11−1〜11−Nの構成の一例について説明する。図7は本発明に係る光空間通信装置の受信モジュールの一例の構成図である。同図を参照すると、受信モジュール11の一例は、集光レンズ21と、PD(Photo Diode )アレイ22と、読み出し部(ROIC:Read Out Integrated Circuit )23と、チャンネル受信部(RX CH)24−1〜24−P(Pは2以上の整数)とを含んで構成される。
【0041】
すなわち、集光レンズ21で集光された光信号はPD(Photo Diode )アレイ22で受光され、読み出し部23でデータが読み出され、チャンネル受信部24−1〜24−Pにて各チャンネルごとに出力される。
【0042】
以下、受信動作の具体例について説明する。光信号を広角の集光レンズ21で受信する。受信モジュール11−1〜11−Nは常時受信待ちとなっている。集光レンズ21の視野角を一例として100度とする。PDアレイ22で複数方向からの光信号を同時に受信する。PDアレイ22は縦および横方向に複数の受光素子を配列したものであり、受光素子の配置位置により、送信光の方向(つまり通信相手の方向)を判別することができる。
【0043】
一例として、PDアレイ22が256×256個の受光素子で構成される場合を考えると、1受光素子あたりの画角は100(度)/256=約0.4(度)となる。ここに“100”は集光レンズ21の受光角(度)、“256”は受光素子の縦および横方向の個数を示す。つまり、受光角度が約0.4(度)を超える光信号を識別することができる。
【0044】
つまり、受光角度が約0.4(度)を超える光信号は隣接する受光素子あるいはそれ以上離れた受光素子のいずれかで受信できる。したがって、受光角度が約0.4(度)以内の光信号と、受光角度が約0.4(度)を超える光信号とを同時に受信することが可能となる。
【0045】
一方、受信角度が同一の2光信号に対しては、バースト的な通信の場合、送信側が送信時間を調整して、2つの光信号の送信タイミングをずらすことにより、通信相手を判別することが可能となる。
【0046】
なお、本実施例では同時に256×256チャネルを受信することが可能ではあるが、多チャンネル受信が不要の場合は、一例として、同時受信数を8チャンネル等に限定することも可能である。
【0047】
図8は、読み出し部(ROIC)23の一例の構成図である。同図を参照すると、読み出し部(ROIC)23の一例は、TIA(トランスインピーダンスアンプ)31と、LA(リミッティングアンプ)32と、CDR(Check & Data Recovery )33とを含んで構成される。
【0048】
そして、PDアレイ22の1つの受光素子(PD)22aで受光された光信号は、受光素子(PD)22aにて電気信号に変換され、TIA31、LA32およびCDR33を介して出力される。
【0049】
次に、送信モジュール12の構成の一例について説明する。図9は本発明に係る光空間通信装置の送信モジュールの一例の構成図である。同図を参照すると、送信モジュール12の一例は、送信制御部41と、光源(LD)部42と、光ファイバアンプ部43と、拡がり角制御部44と、偏向部45とを含んで構成される。送信モジュール12は高速で変調した光信号を増幅し出力する。
【0050】
送信制御部41は送信データを出力する。光源部42は、一例として、半導体レーザ(LD;Laser Diode )で構成される。光源部42は送信制御部41から入力された送信データを光信号に変換して出力する。なお、半導体レーザ以外のレーザあるいは電気・光変換素子を採用することも可能である。光ファイバアンプ部43は光源部42から入力された光信号を増幅する。
【0051】
拡がり角制御部44は光ファイバアンプ部43から入力された光信号のビームの拡がり角を制御する。拡がり角制御部44は、遠距離の通信相手に対しては拡がり角が狭いビームを送出し、近距離の通信相手に対しては拡がり角が広いビームを送出するよう光信号を制御する。
【0052】
すなわち、遠距離の通信相手に対してはビームの拡がり角を狭くしても、ビームが通信相手に到達する地点ではビームが拡がるため、そのビーム範囲内に通信相手を入れること、すなわち通信相手の方向を定めるのが容易である。また、ビームの拡がり角が狭いため、通信相手に到達する光信号の強度を比較的大きくすることが可能となる。
【0053】
一方、近距離の通信相手に対してはビームの拡がり角が狭いと、ビームの方向が通信相手の方向から外れる確率が高くなるため、ビームの拡がり角を広くする。これにより、通信相手の移動(方向の変化)に対する対応が容易になる。また、ビームの拡がり角を広くすると、通信相手に到達する光信号の強度が比較的小さくなるが、近距離では回線マージンが比較的大きく取れるため回線を成立させることが可能となる。
【0054】
このように、通信相手との距離に応じて送信ビームの拡がり角を変化させることにより、通信相手に対する捕捉追尾の安定性を向上させることが可能となる。
【0055】
偏向部45は拡がり角制御部44から入力された光信号のビーム方向を制御して通信相手に照射する。偏向部45の一例として、機械的なもの(ガルバノミラー等)、あるいは電子的なもの(光偏向結晶等)を採用することが可能である。
【0056】
次に、拡がり角制御部44の動作の一例について説明する。図10は拡がり角制御部44の動作の一例を示すフローチャートである。同図を参照すると、通信相手が遠距離に存在する場合(ステップS21にて“Y”の場合)、拡がり角制御部44は拡がり角が狭いビームを送出する(ステップS21)。一方、通信相手が近距離に存在する場合(ステップS21にて“N”の場合)、拡がり角制御部44は拡がり角が広いビームを送出する(ステップS23)。
【0057】
以上説明したように、本発明に係る光空間通信装置およびその通信方法ならびに通信システムによれば、特定の通信相手と同期を取ることなくその通信相手に対し光信号を送信し、かつその送信と同時に不特定多数の通信相手からの光信号を受信することができ、また光信号を受信するに際し、同方向から送信される複数の光信号を判別することが可能で、また通信相手の距離に応じて送信ビームの拡がり角を制御することが可能となる。
【0058】
次に、本発明に係る光空間通信装置の通信方法のプログラムについて説明する。前述のとおり、本発明に係る光空間通信装置はプログラム格納部14を備えている(図4参照)。このプログラム格納部14には図3、図6および図10にフローチャートで示す光空間通信装置の通信方法のプログラムが格納されている。
【0059】
図4を参照すると、中央通信制御装置13はプログラム格納部14からその通信方法のプログラムを読み出し、そのプログラムにしたがって受信モジュール11−1〜11−Nおよび送信モジュール12−1〜12−Mを制御する。その制御方法については既に述べたので、ここでの説明は割愛する。
【0060】
以上説明したように、本発明に係る光空間通信装置の通信方法のプログラムによれば、特定の通信相手と同期を取ることなくその通信相手に対し光信号を送信し、かつその送信と同時に不特定多数の通信相手からの光信号を受信することができ、また光信号を受信するに際し、同方向から送信される複数の光信号を判別することが可能で、また通信相手の距離に応じて送信ビームの拡がり角を制御することが可能なプログラムが得られる。
【0061】
上記の実施形態の一部または全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下には限られない。
【0062】
(付記1) 位置が既知である特定の通信相手に光信号を送信する送信モジュールと、不特定多数の通信相手からの光信号を受信する受信モジュールと、前記送信モジュールおよび受信モジュールを制御する中央通信制御装置とを含む光空間通信装置であって、前記送信モジュールは任意の方向へ光信号を送信するために複数個設けられることを特徴とする光空間通信装置。
【0063】
(付記2) 前記受信モジュールは、複数方向からの光信号を同時に集光する集光レンズと、前記集光レンズで集光された光信号を所定の画角で受光する複数の受光素子と、前記複数の受光素子で受光された光信号を分離して出力する読み出し装置とを含むことを特徴とする付記1記載の光空間通信装置。
【0064】
(付記3) 前記送信モジュールは、送信用光信号のビーム方向を制御する偏向部と、前記送信用光信号のビームの拡がり角を制御する拡がり角制御部とを含むことを特徴とする付記1または2記載の光空間通信装置。
【0065】
(付記4) 前記拡がり角制御部は、遠距離の通信相手に対しては拡がり角が狭いビームを送出し、近距離の通信相手に対しては拡がり角が広いビームを送出するよう光信号を制御することを特徴とする付記3記載の光空間通信装置。
【0066】
(付記5) 移動体であることを特徴とする付記1から4のいずれかに記載の光空間通信装置。
【0067】
(付記6) 光信号を送信する送信モジュールと、光信号を受信する受信モジュールと、前記送信モジュールおよび受信モジュールを制御する中央通信制御装置とを含む光空間通信装置における通信方法であり、前記中央通信制御装置は、前記送信モジュールに位置が既知である特定の通信相手に光信号を送信させ、かつ前記受信モジュールに不特定多数の通信相手からの光信号を受信させ、さらに前記送信モジュールは任意の方向へ光信号を送信するために複数個設けられることを特徴とする通信方法。
【0068】
(付記7) 前記受信モジュールは、複数方向からの光信号を同時に集光する集光レンズと、前記集光レンズで集光された光信号を所定の画角で受光する複数の受光素子と、前記複数の受光素子で受光された光信号を分離して出力する読み出し装置とを含むことを特徴とする付記6記載の通信方法。
【0069】
(付記8) 前記送信モジュールは、送信用光信号のビーム方向を制御する偏向部と、前記送信用光信号のビームの拡がり角を制御する拡がり角制御部とを含むことを特徴とする付記6または7記載の通信方法。
【0070】
(付記9) 前記拡がり角制御部は、遠距離の通信相手に対しては拡がり角が狭いビームを送出し、近距離の通信相手に対しては拡がり角が広いビームを送出するよう光信号を制御することを特徴とする付記8記載の通信方法。
【0071】
(付記10) 前記光空間通信装置は移動体であることを特徴とする付記6から9のいずれかに記載の通信方法。
【符号の説明】
【0072】
1〜5 移動体
11 受信モジュール
12 送信モジュール
13 中央通信制御装置
14 プログラム格納部
21 集光レンズ
22 PDアレイ
23 読み出し部(ROIC)
24 チャンネル受信部(RX CH)
31 TIA
32 LA
33 CDR

【特許請求の範囲】
【請求項1】
位置が既知である特定の通信相手に光信号を送信する送信モジュールと、
不特定多数の通信相手からの光信号を受信する受信モジュールと、
前記送信モジュールおよび受信モジュールを制御する中央通信制御装置とを含むことを特徴とする光空間通信装置。
【請求項2】
前記中央通信制御装置は、自装置と通信相手装置の位置情報を元に、前記通信相手装置の方向を計算によって求め、送信方向をフィードフォワード制御することを特徴とする請求項1記載の光空間通信装置。
【請求項3】
前記受信モジュールは任意の方向からの光信号を受信するために複数個設けられることを特徴とする請求項1または2記載の光空間通信装置。
【請求項4】
前記送信モジュールが送信する光信号には自装置の位置情報が含まれ、前記中央通信制御装置は、前記受信モジュールが受信した相手装置の光信号に含まれる位置情報から相手装置の位置を検出することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の光空間通信装置。
【請求項5】
光信号を送信する送信モジュールと、光信号を受信する受信モジュールと、前記送信モジュールおよび受信モジュールを制御する中央通信制御装置とを含む光空間通信装置における通信方法であり、
前記中央通信制御装置は、前記送信モジュールに位置が既知である特定の通信相手に光信号を送信させ、かつ前記受信モジュールに不特定多数の通信相手からの光信号を受信させることを特徴とする通信方法。
【請求項6】
前記中央通信制御装置は、自装置と通信相手装置の位置情報を元に、前記通信相手装置の方向を計算によって求め、送信方向をフィードフォワード制御することを特徴とする請求項5記載の通信方法。
【請求項7】
前記受信モジュールは任意の方向からの光信号を受信するために複数個設けられることを特徴とする請求項5または6記載の通信方法。
【請求項8】
前記送信モジュールが送信する光信号には自装置の位置情報が含まれ、前記中央通信制御装置は、前記受信モジュールが受信した相手装置の光信号に含まれる位置情報から相手装置の位置を検出することを特徴とする請求項5から7のいずれかに記載の通信方法。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれかに記載の光空間通信装置が複数個設けられ、相互にメッシュ型ネットワークを構成することを特徴とする光空間通信システム。
【請求項10】
光信号を送信する送信モジュールと、光信号を受信する受信モジュールと、前記送信モジュールおよび受信モジュールを制御する中央通信制御装置とを含む光空間通信装置における通信方法のプログラムであり、
前記中央通信制御装置に、前記送信モジュールに位置が既知である特定の通信相手に光信号を送信させる処理と、前記受信モジュールに不特定多数の通信相手からの光信号を受信させる処理とを実行させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−186662(P2012−186662A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48441(P2011−48441)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】