説明

光触媒により害虫の誘引を妨害する方法及びその処理剤

【課題】樹木等の葉及び/又は幹から揮発する揮発性成分の分解方法及びその分解剤を提供する。
【解決手段】光触媒を樹木類を含む植物の葉及び/又は幹の表面に散布することで形成される光触媒により、植物の葉及び/又は幹の表面から揮発する揮発性成分を分解することによりその濃度を低下させることを特徴とする植物揮発性成分の分解方法、及び樹木類を含む植物の葉及び/又は幹の表面に散布して使用して植物揮発性成分を分解するための薬剤であって、光触媒二酸化チタンを水分散して安定化させた光触媒ゾルを有効成分とすることを特徴とする樹木類を含む植物の葉及び/又は幹の表面から揮発する揮発性成分の分解剤。
【効果】害虫を誘引する樹木等から放出される揮発性成分を分解して樹木等の近傍におけるその濃度を低下させることで間接的に樹木等に集まる害虫とその繁殖を顕著に減少させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
光触媒は、一般に、無害無毒な二酸化チタンを原材料としていることから、安全性についての確認がとれている材料で、防汚・抗菌・消臭に有用であることで知られるが、これらの効果効能は、紫外線により励起された二酸化チタンの表面で起こる酸化反応によるものである。本発明は、この光触媒反応を利用して樹木類を含む植物の葉及び/又は幹の表面に不快害虫が誘引されないようにすることにより植物の葉及び/又は幹に不快害虫が繁殖する可能性を減少させることを可能とする植物揮発性成分の分解方法及びその分解剤に関するものである。本発明は、光触媒の酸化反応を利用して、樹木類を含む植物の葉及び/又は幹から放出される揮発性化学成分の誘引作用による、害虫が誘引されて葉を餌とする作用を妨害し、害虫の葉に対する食害を防止するようにするための光触媒による害虫の誘引を妨害する方法及びその処理剤に関する新技術・新製品を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ソメイヨシノ、ツバキ、サザンカなどの代表的な公園植栽は、チャドクガ、アメリカシロヒトリなどの不快害虫が、毛虫を幼虫期として生息する揺籃となり、その結果、チャドクガのように毒性のある毛針による子供たちへの皮膚炎禍などが懸念される。この対策のために散布される農薬は、即効性を主目的として利用されるため、毒劇物であることが多く、この利用が、却って子供たちの呼吸器障害やアトピー禍を助長しているとして、その使用が反対されることも見受けられる。
【0003】
また、国道や市道の街路樹及び緑地(市立公園、市民の森)に植えてある樹木類の管理に、しばしば殺虫剤の散布が行われており、散布されている有機リン系の殺虫剤は、低毒性であるかのように喧伝される場合もあるが、実は動物(昆虫も人間も含まれる)の神経に作用する薬剤であることも知られている。
【0004】
前述の有機リン系の殺虫剤には、昆虫類が吸引するだけでその毒性により死滅するに至る殺虫剤が多く開発されており、その他にも、特定の昆虫ごとに、その嫌いとされる物質を、虫の繁殖する樹木類に散布して塗布する機能を有した害虫忌避農薬が種々開発されている。
【0005】
しかしながら、前記した有機リン系の殺虫剤や害虫忌避農薬では、害虫そのものをその毒性をもって致死させることが可能であっても、同時に、有害性物質を空中に散布していることに変わりがなく、この有毒性は、アトピー症者や幼児には、喘息や、ひいては発ガン性を引き起こす原因になるという問題が生じる可能性を否定できない。また、かろうじて生存し、産卵される害虫には、この農薬への経代耐性の問題もあり、毒性農薬に頼らない害虫駆除を可能とする新しい害虫対策の開発が強く要請されている状況にあった。
【0006】
一方、本発明者は、これまでに、無害無毒な二酸化チタンを原材料とする光触媒ゾルの研究開発を進めると共に、その応用技術を数多く開発して来た。これまで、多くの光触媒ゾルが開発されており、その先行技術として、例えば、チタニア膜形成用液体及びチタニア膜形成方法(特許文献1)、アナターゼ分散液及びアナターゼ分散液の製造方法(特許文献2)、品質が安定したチタン酸化物形成用溶液の製造方法(特許文献3)、密着強度の維持と光触媒機能の長時間の持続を可能とする酸化チタンコート材の製造方法(特許文献4)、等が提案されており、その他にも、アナターゼ型酸化チタン、酸化チタンゾル、アナターゼ型粒子酸化チタン、中性チタニアゾル、光触媒形成用コーティング組成物等及びその製造方法が種々提案されている。
【0007】
【特許文献1】特開平9−71418号公報
【特許文献2】特開平10−67516号公報
【特許文献3】特開平11−50869号公報
【特許文献4】特開平11−27008号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような状況の中で、本発明者は、上記従来技術に鑑みて、光触媒を樹木類の葉及び幹の表面に良好に密着させることが可能な新しい水分散型光触媒ゾルを開発することを目標として鋭意研究を進める過程で、光触媒の散布により、無害無毒の二酸化チタンにより不快害虫が葉に誘引されることを妨害して、有害な農薬を使用しなくても樹木類の葉及び/又は幹に害虫を付かなくさせることができる、という新規知見を見出し、更に研究を重ねて、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の目的は、樹木類を含む植物の葉及び/又は幹から放出される揮発性成分として広く知られるモノテルペン、セツキテルペン類を主成分とした揮発性有機化合物を、二酸化チタン光触媒の散布により形成された薄膜が塗布された樹木類の葉及び/又は幹の表面上で該光触媒により酸化分解することで、不快害虫を誘引する作用を有する揮発性成分を分解してその濃度を低下させる方法及びその処理薬剤を提供することにある。また、本発明の目的は、光触媒を用いた上記方法及び処理剤を利用して、樹木類を含む植物の葉及び/又は幹の近傍における不快害虫の飛来、繁殖等を妨害することを可能とする樹木等における害虫による食害防止技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)光触媒を樹木類を含む植物の葉及び/又は幹の表面に散布することで形成される光触媒により、該植物の葉及び/又は幹の表面から揮発する揮発性成分を分解することによって植物の葉及び/又は幹の表面近傍における揮発性成分の濃度を低下させることを特徴とする植物揮発性成分の分解方法。
(2)光触媒ゾルを樹木類を含む植物の葉及び/又は幹の表面に散布することで形成される光触媒薄膜により、植物の葉及び/又は幹の表面から揮発するテルペン類を分解する、前記(1)に記載の方法。
(3)光触媒が、二酸化チタン又はその誘導体である、前記(1)又は(2)に記載の方法。
(4)光触媒二酸化チタンを構成する結晶粒子の大きさが径5〜100nmで、該結晶を水分散して、酸性、中性又はアルカリ性で安定している光触媒ゾルを、樹木の葉類及び/又は幹の表面に塗布することで光触媒薄膜を形成する、前記(1)から(3)のいずれかに記載の方法。
(5)pH4〜6の酸性、pH6〜8の中性、pH7〜9の弱アルカリ性又はpH9〜12のアルカリ性で安定している光触媒ゾルを塗布する、前記(4)に記載の方法。
(6)形成される光触媒膜が、透明で、かつ乾燥膜厚0.1〜0.5μm、膜構成比率の90%以上がアナターゼ結晶である、前期(4)に記載の方法。
(7)光触媒ゾルの葉及び/又は幹の表面への塗布により、乾燥した二酸化チタン結晶の光触媒反応を用いて葉及び/又は幹の表面から揮発するテルペン類を分解して、該揮発性成分の濃度を減少せしめる、前期(2)に記載の方法。
(8)光触媒の葉及び/又は幹の表面への塗布により、該光触媒の光触媒反応を用いて葉及び/又は幹の表面に産卵された蛾・蝶類の卵体表面の代謝機能を阻害し、卵の育成を妨げることで、卵から幼虫の孵化を阻害する、前期(1)から(3)のいずれかに記載の方法。
(9)夜間などの紫外光のない環境下で、光触媒を葉と共に摂取した虫が、その成長過程における羽化の段階で、体内に付着した光触媒に紫外光が当たることで、該光触媒の光触媒反応により産卵時の繋代を阻害する、前記(1)から(3)のいずれかに記載の方法。
(10)樹木類を含む植物の葉の表面に散布して使用して植物揮発性成分を分解することによって植物の葉及び/又は幹の表面近傍における揮発性成分の濃度を低下させるための薬剤であって、光触媒二酸化チタンを水分散して安定化させた光触媒ゾルを有効成分とすることを特徴とする樹木類を含む植物の葉及び/又は幹の表面から揮発する揮発性成分の分解剤。
(11)光触媒ゾルが、光触媒二酸化チタンを構成する結晶粒子の大きさが径5〜100nmで、該結晶を水分散して、pH4〜6の酸性、pH6〜8の中性、pH7〜9の弱アルカリ性又はpH9〜12のアルカリ性で安定している光触媒ゾルである、前記(10)に記載の分解剤。
【0011】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、樹木類を含む植物、特に、桜やサザンカ、プラタナスなどの落葉広葉樹木において、蛾、蝶類による葉及び/又は幹に対する食害を、その表面に塗布された二酸化チタン結晶薄膜のもたらす光触媒反応により、葉及び幹の表面から揮発されるモノテルペン、セツキテルペンなどの揮発性有機化合物を、分解して消滅あるいは低濃度化することにより、本来、樹木類の葉及び/又は幹の表面から揮発される揮発性成分に誘引されて、それらの食性を維持してきた蛾、蝶などの害虫に、食性環境の変化を与えることで不快害虫による樹木類の食害を防ぐことを特徴とするものである。本発明では、光触媒を樹木類を含む植物の葉及び/又は幹の表面に散布することで、これらの表面に光触媒層を形成し、それにより、植物の葉及び/又は幹から揮発する揮発性成分を分解し、植物の葉及び/又は幹の近傍における揮発性成分の濃度を低下させることが重要である。
【0012】
本発明は、樹木類を含む植物の葉及び/又は幹から放出される不快害虫誘引作用を有する揮発性成分を分解し、その濃度を著しく低下させる機能を有する光触媒を樹木等に散布することで、上記揮発性成分による不快害虫の誘引作用を減じ、その結果として、樹木等の不快害虫の飛来や繁殖を防ぐ作用効果を発揮することを特徴とするものであり、光触媒は、基本的には害虫自体に直接的に作用するものではない。これらの点で、本発明の光触媒を有効成分とする植物揮発性成分の分解剤は、害虫をその殺菌作用や忌避作用等で直接的に駆除する農薬や忌避剤とは、本質的に別異のものであり、本発明の光触媒剤は、これらの範疇には含まれない全く新しいタイプの製品であると云える。
【0013】
本発明において、樹木類を含む植物としては、特に、公園や街路に植栽される落葉広葉樹木が代表的なものとして例示されるが、これに制限されるものではなく、葉及び/又は幹から揮発性成分を発揮する樹木類を含む植物であれば、その種類に制限されることなく、本発明の対象とされる。また、本発明において、光触媒を植物の葉及び/又は幹の表面に散布することで、これらの表面に光触媒を形成するとは、適宜の光触媒成分を含む処理薬剤を植物の葉及び/又は幹の表面に付着させて光触媒の層を形成することを意味するものであり、処理薬剤の組成・形態、その散布方法及び手段、層の厚さ及び範囲等については特に制限されるものではない。
【0014】
本発明において、上記光触媒としては、好適には、例えば、光触媒ゾルが使用されるが、これに制限されるものではなく、光触媒層を形成できるものであれば適宜の形態の光触媒が用いられる。通常、上記光触媒層は、光触媒薄膜として形成されるが、これに制限されるものではなく、適宜の形態で形成することができる。また、本発明では、光触媒成分として、二酸化チタン光触媒が使用されるが、該二酸化チタンの誘導体、そのチタン及び/又は酸素元素の任意の金属及び/又は窒素元素置換体や、それ以外の成分であっても、光触媒機能を有する成分であれば、その種類に制限されることなく使用することができる。
【0015】
本発明で好適に用いられる光触媒としては、例えば、光触媒二酸化チタンを構成する結晶粒子の大きさが、径5〜100nm、好ましくは径5〜20nmで、該結晶を水分散して作製される、pH4〜6の酸性、pH6〜8の中性、pH7〜9の弱アルカリ性又はpH9〜12のアルカリ性で安定している光触媒ゾルを例示することができる。また、形成される光触媒膜としては、好適には、透明で、かつ乾燥膜厚0.1〜10μm、好ましくは0.1〜0.5μm、膜構成比率の70%以上、好ましくは90%以上がアナターゼ結晶からなる薄膜が例示される。しかし、これらに制限されるものではなく、適宜の組成及び膜厚の光触媒膜を使用することができる。
【0016】
上記光触媒ゾルは、好適には、チタンアルコキシド、例えば、チタンテトライソプロポキシドを出発材料として使用し、これを、過酸化水素により酸化させることによりアモルファス酸化チタンを生成させ、次いで、得られたアモルファス酸化チタンの一部を加熱処理することにより二酸化チタンとして生成させた成分と、上記アモルファス酸化チタン成分とを混合することで、中性の水分散二酸化チタン光触媒ゾルを作製することができる。また、例えば、四塩化チタンを出発材料として使用し、これに塩基性化合物を加えて水酸化チタンを生成させ、次いで、得られた水酸化チタンを水に分散させた水酸化チタン分散液に過酸化水素を加えて酸化させることにより、中性で安定している二酸化チタン分散液を作製することができる。しかし、本発明において、光触媒ゾルの製造方法は、これらに制限されるものではなく、適宜の方法で作製することが可能である。
【0017】
本発明では、光触媒として、公知の任意の光触媒材料を適宜使用することができる。それらの事例として、例えば、酸化チタンの微粒子の分散液、アナターゼ型の酸化チタン分散液、表面を官能基で修飾したアナターゼ微粒子から成る高分散性のアナターゼ分散液、チタニアゾル溶液若しくはチタニアゾル体又はそれらの混合体を加熱・加圧処理して得られる高比表面積のアナターゼ型酸化チタンスラリー、中性酸化チタンゾル、チタンアルコキシドを加水分解して得られるアナターゼ型酸化チタン微粒子の分散液、中性チタニアゾル、水酸化チタンゲルに過酸化水素水を作用させ、過熱処理して得られるアナターゼ型の酸化チタン微粒子の分散液等が例示される。しかし、これらに制限されるものではなく、本発明では、光触媒機能を有する材料であれば任意に使用することができる。また、本発明では、上記光触媒剤の形態を特に制限するものではないが、好適には、中性で安定な光触媒分散液の形態が例示される。
【0018】
本発明では、上記光触媒ゾルを樹木類を含む植物の葉及び/又は幹へ塗布することにより、これを乾燥させて形成される二酸化チタン結晶の光触媒反応を用いて、植物の葉及び/又は幹から揮発する各種のテルペン類を分解して、該揮発性成分の濃度を減少せしめ、それにより、植物の葉及び/又は幹の近傍の揮発性成分を除去して低濃度化することが可能となる。また、本発明では、上記光触媒ゾルを植物の葉及び/又は幹の表面へ塗布することにより、これを乾燥させて形成される二酸化チタン結晶の光触媒反応を用いて、特に、葉の表面に産卵された蛾、蝶類の卵体表面の代謝機能を阻害し、卵の育成を防げることで、卵から幼虫の孵化を阻害することが可能となる。
【0019】
また、本発明では、夜間などの紫外光のない環境下で、光触媒を葉と共に摂取した虫が、その成長過程における羽化の段階で、体内に付着した二酸化チタン結晶に紫外光が当たることで、該光触媒の光触媒反応により産卵時の繋代を阻害することが可能となる。また、本発明では、樹木類を含む植物の葉及び/又は幹の表面に散布して使用して植物揮発性成分を分解するための処理薬剤であって、光触媒二酸化チタンを水分散して安定化させた光触媒ゾルを有効成分とすることを特徴とする樹木類を含む植物の葉及び/又は幹の表面から揮発する揮発性成分の分解剤を提供することが可能となる。上記分解剤としては、好適には、上記光触媒ゾルが、光触媒二酸化チタンを構成する結晶粒子の大きさが径5〜100μm、好ましくは径5〜20nmで、該結晶を水分散して、酸性、中性又はアルカリ性、具体的には、例えば、pH4〜6の酸性、pH6〜8の中性又はpH7〜9の弱アルカリ性又は9〜12のアルカリ性で安定している光触媒ゾルであるものが例示される。
【0020】
本発明において、上記光触媒の散布方法及び手段は、特に制限されるものではなく、例えば、上記光触媒ゾルを樹木類の葉及び/又は幹の一部又は全部の必要とされる部位に付着させることができるものであれば、その種類に限定されることなく使用することが可能である。この場合、付着させる光触媒の容量については、例えば、葉及び/又は幹の表面に略均一に塗布できる程度の容量の範囲で適宜調整すれば良く、特に制限されるものではない。本発明において、光触媒を散布するとは、光触媒を樹木等の葉及び/又は幹の表面に適宜の方法及び手段で付着させることを意味するものとして定義されるものであり、狭義の散布を意味しない。また、光触媒は、樹木類を含む植物の葉及び/又は幹の一部又は全部の任意の範囲に散布されるものであり、それらの範囲は特に制限されない。
【0021】
本発明では、光触媒を樹木類に散布する時期、回数及び頻度についても、樹木類を含む植物の種類や場所等に応じて任意に設定することができるが、成虫に誘引揮発性成分を発生する葉の存在を見つけさせないようにするために、成虫が樹木類に飛来する前の時期に、また、産卵された卵の育成を阻害するために、産卵の時期に、また、幼虫が葉を食餌の対象としないようにしたり、幼虫に葉と共に光触媒を体内に取り込ませるために、幼虫の時期に、それぞれ時宜を得て光触媒を効率良く散布することが望ましい。本発明では、例えば、成虫は、葉から揮発する揮発性の誘引物質を嗅ぎ分けて、また、葉が反射する光波長を感知して、産卵場所を見つけるという害虫の繁殖サイクルの中で、その適時に処理することが重要である。
【0022】
本発明の方法による樹木類を含む植物の葉の食害耐性のメカニズムは、後記する実施例に示されるように、プラスチックカップにアメリカシロヒトリの幼虫と樹木の葉(光触媒処理した葉と未処理の葉)を入れて、食害耐性試験を行った結果、以下の通りであることが判明した。すなわち、プラスチックカップから這い出した幼虫は葉から湧出する揮発性成分に誘引されて、自分の食餌のある方向に向う。同じソメイヨシノの葉であっても、光触媒ゾルが塗布された葉には見向きもしないで、光触媒が塗布されていない葉に向う。葉そのものに幼虫を載せると、幼虫は、自分が置かれた葉を食害していくが、この試験のように、葉と隔離された位置に置かれた幼虫は、餌である葉のある方向を目指して、一旦、カップから這い出す。このとき、光触媒が誘引因子である葉の揮発性成分を分解してその濃度が低下しているため、餌である認識を幼虫は持てない。したがって、幼虫は、光触媒の塗布のない葉を餌として認識して食害していくことが、この試験から確認できた。更に、蛍光灯を消灯して一定の期間が経過すると、光触媒の塗布の別なく、カップから這い出した幼虫は、何れの葉も同様に食害していくことから、光触媒に光が作用して食害の有無を決定付けていることも確認された。
【0023】
次に、本発明が対象とされる害虫について説明する。以下は、本発明が対象とする不快害虫に含まれるものである。樹木類で繁殖する不快害虫の中で、人体に直接あるいは間接の被害を与えるものとしては、吸血による害を与えるもの、感染症の媒介や伝搬をするもの、刺咬による被害を与えるもの、分泌物などで皮膚炎をおこすもの、身体に直接何らかの害を与える昆虫類でなくても、その存在が人に嫌悪感を与えることによって精神的な害を与えるもの、などが例示される。また、財物に害を与えるものとしては、農業害虫・庭園害虫、食品害虫、家屋害虫、衣料害虫が例示される。本発明では、身体に直接害を与え、財物に害を与えるものが主に対象とされるが、嫌悪感をもって害とされる虫類についても対象とされる。
【0024】
中でも、外敵から身を守るためにいやな臭いを出したり、いやな味のする体液を分泌したりするものや、毒針毛で体をおおっているものがあり、これらに人が触れると、激しい皮膚炎をおこし、ひどい時には水泡を生じ、やけど症状をおこすことがある。例えば、ドクガ類、イラガ類など毒針毛を持っている昆虫、アオバアリガタハネカクシ、ツチハンミョウ類、カミキリモドキ類など分泌物による皮膚炎の原因となる昆虫がこれに当たる。
【0025】
また、本発明では、農業害虫・庭園害虫と考えられる害虫も対象とされるが、これらには、下記のようなものが挙げられる。人類が農耕を行うようになってから、作物を食害する昆虫類から守るために努力を続けてきたが、生産性の高い農業が行われるようになるにしたがって、単一作物の広域栽培が行われるようになると、その畑地の生態系は単純化され、その作物に生活を依存する特定の種類の昆虫が爆発的に増えるようになる。これらの害虫を放置すると、収穫が全くできないようになってしまうこともまれではなく、作物の種類ごとにそれらを加害する昆虫類は数種から数十種にのぼり、全体の農業害虫は膨大な種数にのぼる。これらとして、例えば、ニカメイガ・イネヨトウ・カブラヤガ・ヒロヘリアオイラガ・マツカレハなどのガ類、イネミズゾウムシ・ウリハムシ・マツノマダラカミキリ・クリシギゾウムシなどのコウチュウ類、カイガラムシ類、アブラムシ類、ウンカ・ヨコバイ類などが例示される。
【0026】
次に、樹木類の部位別の不快害虫について説明すると、まず、新葉・新梢・新芽から吸汁する害虫は、アブラムシ・ダニ・スリップス・キジラミ等で、5〜6月の新梢伸長期の被害が大きい。いずれも加害樹種がきわめて多い。また、これらの害虫の発生により、すす病を併発することが多く、例えば、オカボノアカアブラムシ、ムギワラギクオマルアブラムシ等が例示される。また、葉・幹・枝から吸汁する害虫は、カイガラムシ・コナジラミ等で、前者は種類がきわめて多く、庭木類や街路樹の大害虫として知られている。これらの害虫もすす病を併発し、例えば、ウメシロカイガラムシ、サルスベリフクロカイガラムシ、ツツジコナジラミ等が例示される。
【0027】
葉・花・新芽を食う害虫は、いわゆるケムシ・イモムシ類で、これも種類がきわめて多い。また、コガネムシ・ハムシ・オトシブミ等の甲虫類もこれに属し、また、ハバチ類も含まれる。いずれも被害が目立ちやすいが、これらの防除は、比較的容易であり、例えば、マツカレハ、アメリカシロヒトリ、チャドクガ等が例示される。また、葉を巻いて食う害虫は、いわゆるハマキムシで、5〜6月頃、新葉を巻いて食害するものが多い。葉が巻いているので、きわめてよく目立ち、例えば、チャハマキ等が例示される。
【0028】
葉・新芽にコブ(虫えい)をつくる害虫は、アブラムシ・タマバチ・タマバエの類で、イスノキ・ナラ・カシ・クヌギ等に多く見られる。クリに寄生して新芽に虫えいをつくるクリタマバチは、農作物の害虫として有名であり、例えば、ケヤキフシアブラムシ等が例示される。また、葉を黄化させる害虫は、ハダニ類で、はじめ一部分の黄化からはじまり、被害が進むにつれて樹全体の葉が黄化し、例えば、モクセイハダニ等が例示される。本発明は、上述の不快害虫の全てを対象とするものであり、光触媒が有効である限り、不快害虫の種類によって制限されるものではない。
【0029】
次に、本発明で分解対象とされるテルペン類について説明するが、以下に示される植物揮発性成分であって、不快害虫に対して誘引因子として作用するものは、本発明において分解対象とされるものである。イソプレノイドの中で最も分子量の小さいのがモノテルペンであり、ゲラニルピロリン酸(GPP)を前駆体として生合成される。まず、GPPから二重結合がシス体に異性化してネリルピロリン酸(neryl pyrophosphate)となり、二リン酸残基の脱離で生成したカチオンが環化し、各種のモノテルペンが生合成される。これらのカチオンは、多くの場合、非古典的カチオン(nonclassical cation)として挙動し、複雑な骨格を生成する。
【0030】
モノテルペンの多くは、植物の精油(essential oil)成分として存在し、医薬品、香粧品として重要なものも多い。例えば、クスノキから得られる(+)−カンフル(camphor)は、局所刺激作用があるため、神経痛、炎症、打撲などの擦剤として重要である。その他、ハッカ、セイヨウハッカに含まれる(−)−メントール(menthol)は鎮痛、制痔剤とするほか、歯磨剤、清涼剤として大きな用途がある。精油成分は、一般に芳香があるが、柑橘類(ウンシュウミカン、ナツミカン、ダイダイなど)の芳香成分は、(−)−リモネン(limonene)であり、香料として広く利用するほか、炭化水素系油成分なので溶剤として発泡スチロールを溶かすのに用いられている。
【0031】
モノテルペンの多くは、分子内に不斉炭素(キラル炭素)を有し、光学活性物質であるが、タチジャコウソウなどに含まれ消毒薬などに用いられるチモール(thymol)は、環が芳香化して不斉炭素を消失したフェノール成分である。アカマツなどマツ科Pinus属各種が分泌する松脂からは、テレビン油と称する精油が得られるが、α−ピネン(pinene)などピナン系モノテルペンを主成分とする。
【0032】
モノテルペンに糖が結合した配糖体も、少数ながら天然に存在する。生薬シャクヤク(シャクヤクの根)には、ピナン系モノテルペン配糖体ペオニフロリンなる複雑な構造をした成分が含まれ、動物実験で鎮痙、抗炎症作用などが報告され、シャクヤクを配合する数多くの漢方処方の薬効を考える上でも重要な成分である。
【0033】
イリドイドは、GPPを前駆体とする二次代謝物の中で二リン酸残基の脱離で生成するカチオンを経ずに生合成される変形モノテルペンの一種である。中間体は10−ヒドロキシゲラニオールより生成するイリドトリアール(iridotrial)であり、これが閉環してエノール−ヘミアセタールとなったものがイリドイドであり、通例、ヘミアセタールにはオリゴ糖鎖が結合する。ミズキ科サンシュユの果実(生薬サンシュユ)に含まれるロガニン(loganin)は最も広く分布するイリドイドの一つであり、また、これを前駆体として様々なイリドイドが生合成される。生薬成分として重要なものも多く、クチナシの果実を基原とするサンシシの主成分はゲニポシド(geniposide)などのイリドイドであり、胆汁分泌促進作用成分(実際に活性成分として作用するのは加水分解して生成するアグリコンのゲニピン(genipin)である)として重要である。そのほか、キササゲの果実、アカヤジオウの根(生薬ジオウ)も多量のイリドイドが含まれ、その共通成分であるカタルポール(catalpol)には利尿作用が確認されている。
【0034】
五員環部が開裂したものを別にセコイリドイド(secoiridoid)と称し、そのほとんどはセコロガニン(secologanin)から生合成される。リンドウ科植物に含まれる苦味配糖体と称されるもの、例えば、生薬ゲンチアナ、リュウタンに含まれるゲンチオピクロシド(gentiopicroside)、センブリのスウェルチアマリン(swertiamarin)はセコイリドイドであり、その他のリンドウ科植物には同成分あるいは類似の成分が広く分布する。また、植物界に広く分布するセコロガニン(secologanin)は、インドールアルカロイドの生合成前駆体として重要な存在である(→トリプトファン由来のアルカロイド)。
【0035】
そのほか、イリドイドから派生すると思われる二次代謝物として、マタタビ科マタタビに含まれるマタタビアルカロイド(Actinidia alkaloid)と総称されるピリジン系アルカロイドの一つアクチニジン(actinidine)がある。標識化合物を用いた生合成実験からアクチニジンはメバロン酸に由来することが明らかにされているが、その経路の詳細は明らかではない。その構造的特徴から、イリドイドの生合成経路からスピンアウトして生成すると推定されている。この推定経路では、窒素原子は空気中の窒素に由来するアンモニアとして導入されるので、アクチニジンはアミノ酸を前駆体としないアルカロイド、すなわちプソイドアルカロイドと考えられている。アクチニジンは、低分子量かつ疎水性であるので揮発性が高く、イエネコなどネコ属の動物がマタタビに誘引されるのもアクチジンを始めとする類縁の揮発性成分の存在による。マタタビのほか、同属種であるサルナシやオミナエシ科カノコソウなどにも含まれる。
【0036】
セスキテルペンは、C15単位のファルネシルピロリン酸(FPP)を生合成前駆体とし、ゲラニルピロリン酸(GPP)よりイソプレン単位が1個多いので、二リン酸残基の脱離で生成するカチオンからの骨格形成の様式はモノテルペンの場合よりはるかに豊かである。トランス、トランス−ファルネシルピロリン酸(t、t−FPP)、及びそれが異性化したシス、トランス−ファルネシルピロリン酸(c、t−FPP)からそれぞれ異なるタイプの環状カチオンが生成する。通例、非古典的カチオン(nonclassical cation)が関与するが、このカチオンに更に分子内の他の二重結合の攻撃を受けて新しい環を形成したり、あるいは水素やアルキル基の転移を伴い、多様な基本骨格が形成される。カチオンは、最終的には脱水素又は水酸基アニオンの攻撃を受けてオレフィンとなるか、アルコールとなる。天然に存在するセスキテルペンは以上のようにして生成した基本骨格が更に二次的な修飾を受けるので、もっとも多種多様な二次代謝物の一つである。
【0037】
セスキテルペンは、モノテルペンより分子量は大きくなるので、精油成分として存在するものは限られる。フトモモ科チョウジの蕾から得られる精油(チョウジ油; clove oil)に含まれるフムレン(humulene)、カリオフィレン(caryophyllene)は親水性官能基を持たない炭化水素成分であり、天然には比較的広く分布する。シナヨモギ(Artemisia cina)やミブヨモギなど同属種の未開花に含まれる駆虫成分サントニン(右構造式;santonin)は、ユーデスマン(eudesman)骨格をもつセスキテルペンである。
【0038】
ワタ(キダチワタなど)の種子(及びそれから得られる綿実油)に含まれるゴシポール(左構造式;gossypol)は、ナフトールの二量体構造をとり完全な芳香族フェノール物質であるが、生合成的にはカディナン(cadinan)系セスキテルペンが芳香化したのち、ラジカル機構による酸化カップリングで二量化したものである。スイレン科コウホネの根茎は、特異なプソイドアルカロイドを含むことが知られている。生合成経路はまだ明らかにされていないが、窒素原子を除いた骨格は直鎖のゲラニオール鎖に近く炭素−炭素の結合で環が形成されていないので、窒素が導入されるのは生合成のかなり初期の段階と思われる。おそらく、GPPから生成した鎖状の中間体にアンモニア性窒素が導入される特殊な経路により生合成されると考えられる。本発明は、上述の植物揮発性成分の全てを対象とするものであり、光触媒が有効である限り、揮発性成分の種類によって制限されるものではない。
【0039】
従来、落葉広葉樹木を中心とした公園の樹木や街路樹等に集まる害虫の対策としては、殺虫剤の散布による駆除が一般的であり、殺虫剤の環境への影響と害虫駆除効果との関係や経費の問題等で、その使用の頻度や時期的制限の問題があり、理想的な害虫対策は難しいのが実情であった。すなわち、樹木類を含む植物に散布される農薬や殺虫剤としては、例えば、フェニトロチオン(MEP)が稲のウンカ、野菜、果実のアブラムシ、桜のアメリカシロヒトリの防除で使用され、イソキサチオンが野菜、果実の害虫防除で使用されていた。また、トリクロルホン(DEP)や、これを分解した、更に毒性の強いジクロルボス(DDVP)が、稲のウンカ、野菜、果実のアブラムシ、樹木の毛虫防除に使用されていた。その他にも、カーバメート系 殺虫剤、有機塩素系、ピレスロイド系、その他、天敵農薬・微生物農薬・昆虫成育制御剤等が残留農薬基準に従って使用されていた。
【0040】
しかし、これらの使用は、環境や健康への配慮から大きく制約を受けることが余儀なくされていた。これに対して、本発明では、毒性がなく、安全性の高い二酸化チタン光触媒を使用することで、上述のような公園の樹木や街路樹等における害虫問題を確実に解決し得ることを実現可能にしたものであり、本発明は、害虫対策として、直接的に害虫を駆除するのではなく、害虫の誘引因子である揮発性成分を分解、除去することで、間接的に樹木等への害虫の飛来や樹木等における害虫の繁殖を防止するための新規揮発性成分の分解方法及びその分解剤を提供することを特徴とするものであり、従来技術からは予期し得ない格別の作用効果と高い技術的意義を有するものである。
【発明の効果】
【0041】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)樹木類を含む植物の葉及び/又は幹の表面に光触媒薄膜を形成することで、該植物の葉及び/又は幹から揮発する揮発性成分を分解し、それらの近傍における揮発性成分の濃度を減少させることができる。
(2)上記揮発性成分の分解作用により、該揮発性成分により誘引される害虫による被害を大幅に低減させることができる。
(3)上記光触媒成分の光触媒反応により、例えば、葉及び/又は幹の表面から揮発するテルペン類を分解し、その濃度を減少させることができる。
(4)光触媒ゾルを有効成分とする上記揮発性成分の分解剤を提供することができる。
(5)上記光触媒の光触媒反応を用いて、葉の表面に産卵された蛾、蝶類の卵の育成を阻害することが可能となる。
(6)上記光触媒の光触媒反応を用いて、光触媒を葉と共に摂取した虫が成長過程における羽化の段階で、体内に付着した二酸化チタン結晶に紫外線が当たることで、該二酸化チタンの光触媒反応により産卵時の繋化を阻害することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
次に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例により何ら制限されるものではない。
【実施例1】
【0043】
(光触媒ゾルの作製)
チタンテトライソプロポキシドを出発材料として使用し、これを、過酸化水素により酸化させることによりアモルファス酸化チタンを生成させ、次いで、得られたアモルファス酸化チタンの一部を加熱処理することにより二酸化チタンとして生成させた成分と、上記アモルファス酸化チタン成分とを混合することで、中性で安定している水分散二酸化チタン光触媒ゾルを得た。
【実施例2】
【0044】
(二酸化チタン分散液の作製)
四塩化チタン水溶液にアンモニア水を添加して沈殿させた水酸化チタンを水に分散させた水酸化チタン分散液に、30重量%過酸化水素水を加えて撹拌した後、これを加熱処理することにより二酸化チタン微粒子を含む中性で安定している二酸化チタン分散液を作製した。
【実施例3】
【0045】
本実施例では、アメリカシロヒトリの幼虫によるソメイヨシノの葉の食害耐性試験を行った。上記実施例1で作製した光触媒ゾルを塗布して2日放置(2日処理)したソメイヨシノの葉と、これと同様に水のみを塗布して放置した葉を容器の中に平行に載置した。双方の葉の中央にプラスチックカップに入れたアメリカシロヒトリの幼虫を9匹載せて可視光紫外線の波長域がでる蛍光灯の下に所定の時間放置した。
【0046】
図1に、2日処理の光触媒処理葉と水処理葉(対照)の外観を示す。これらを、それぞれ幼虫(9匹)に与えて、光照射下で5時間放置した。その結果を図2に示す。また、18時間放置した結果を図3に示す。これらの結果から、光触媒処理葉は、水処理葉と比べて、幼虫に対して高い食害耐性を示すことが分かった。
【0047】
所定の時間経過後の幼虫の挙動と葉の様子を調べた結果、以下のような試験結果が得られた。すなわち、プラスチックカップから這い出した幼虫は、葉から湧出する揮発性成分に誘引されて、自分の食餌のある方向に向った。幼虫は、同じソメイヨシノの葉であっても、光触媒ゾルが塗布された葉には見向きもしないで、光触媒が塗布されていない葉に向うことが分かった。
【0048】
葉そのものに幼虫を載せると、幼虫は、自分が置かれた葉を食害していくが、この試験のように、葉と隔離された位置に置かれた幼虫は、餌である葉のある方向を目指して、一旦、カップから這い出す。しかし、このとき、光触媒が誘引因子である葉の揮発性成分を分解してその濃度が著しく低下しているため、光触媒処理葉が餌である認識を幼虫は持てない。したがって、この場合は、光触媒の塗布のない水処理葉を餌として認識して食害していくことが、この試験から確認できた。更に、蛍光灯を消灯して一定の時間が経過すると、光触媒の塗布の別なく、カップから這い出した幼虫は、何れの葉も同様に食害していくことから、光が作用して光触媒葉の食害の有無を決定付けていることも確認された。
【実施例4】
【0049】
本実施例では、ソメイヨシノの樹木の葉及び幹に光触媒ゾルを散布して1日放置した葉を採取した、1日屋外処理の光触媒処理葉と、これを同様に水のみを塗布して放置した葉を容器の中に平行に載置して、実施例1の方法と同様にして、アメリカシロヒトリの幼虫によるソメイヨシノの葉の食害耐性試験を行った。
【0050】
図4に、1日屋外処理の光触媒処理葉と水処理葉(対照)を、それぞれ幼虫(7匹)に与えて、0時間後、光照射下で5時間後、及び18時間放置後のそれぞれの葉の外観を示す。これらの結果から、光触媒処理葉は、水処理葉と比べて、幼虫に対して高い食害耐性を示すことが分かった。公知の光触媒ゾルを用いて同様の食害耐性試験を行ったところ、ほぼ同様の結果が得られ、幼虫に高い食害耐性を示すことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
以上詳述したように、本発明は、樹木等を含む植物の葉及び/又は幹が放出する揮発性成分の分解方法及びその分解剤に係るものであり、本発明により、樹木類を含む植物の葉及び/又は幹の表面に光触媒薄膜を形成することで、該植物の葉及び/又は幹から揮発する揮発性成分を分解し、それらの近傍における揮発性成分の濃度を減少させることができる。また、本発明は、光触媒ゾルを有効成分とする樹木等の揮発性成分を分解するための分解剤を提供することができる。樹木類を含む植物の葉及び/又は幹の近傍における上記揮発性成分の濃度の減少による害虫の食性環境の変化を利用することで、該揮発性成分に誘引されて集まる害虫及びその繁殖を大幅に減少させることができる。本発明は、光触媒を利用して、例えば、落葉広葉樹木における害虫対策を、簡便で、安全な手法で、確実に実施することを可能とする害虫による樹木類を含む植物の葉及び/又は幹の食害の防止技術に関する新技術・新製品を提供するものとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】2日処理した光触媒処理葉と水処理葉(対照)の外観を示す。
【図2】2日処理葉を幼虫に与えて、光照射下で5時間放置後の葉の外観を示す。
【図3】2日処理葉を幼虫に与えて、光照射下で18時間放置後の葉の外観を示す。
【図4】1日屋外処理した光触媒処理葉と水処理葉(対照)を幼虫に与えて、光照射下で0時間後の葉の外観を示す。
【図5】1日屋外処理した光触媒処理葉と水処理葉(対照)を幼虫に与えて、光照射下で5時間放置後の葉の外観を示す。
【図6】1日屋外処理した光触媒処理葉と水処理葉(対照)を幼虫に与えて、光照射下で18時間放置後の葉の外観を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒を樹木類を含む植物の葉及び/又は幹の表面に散布することで形成される光触媒により、該植物の葉及び/又は幹の表面から揮発する揮発性成分を分解することによって植物の葉及び/又は幹の表面近傍における揮発性成分の濃度を低下させることを特徴とする植物揮発性成分の分解方法。
【請求項2】
光触媒ゾルを樹木類を含む植物の葉及び/又は幹の表面に散布することで形成される光触媒薄膜により、植物の葉及び/又は幹の表面から揮発するテルペン類を分解する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
光触媒が、二酸化チタン又はその誘導体である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
光触媒二酸化チタンを構成する結晶粒子の大きさが径5〜100nmで、該結晶を水分散して、酸性、中性又はアルカリ性で安定している光触媒ゾルを、樹木類の葉及び/又は幹の表面に塗布することで光触媒薄膜を形成する、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
pH4〜6の酸性、pH6〜8の中性、pH7〜9の弱アルカリ性又はpH9〜12のアルカリ性で安定している光触媒ゾルを塗布する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
形成される光触媒膜が、透明で、かつ乾燥膜厚0.1〜0.5μm、膜構成比率の90%以上がアナターゼ結晶である、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
光触媒ゾルの葉及び/又は幹の表面への塗布により、乾燥した二酸化チタン結晶の光触媒反応を用いて葉及び/又は幹の表面から揮発するテルペン類を分解して、該揮発性成分の濃度を減少せしめる、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
光触媒の葉及び/又は幹の表面への塗布により、該光触媒の光触媒反応を用いて葉及び/又は幹の表面に産卵された蛾・蝶類の卵体表面の代謝機能を阻害し、卵の育成を妨げることで、卵から幼虫の孵化を阻害する、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
夜間などの紫外光のない環境下で、光触媒を葉と共に摂取した虫が、その成長過程における羽化の段階で、体内に付着した光触媒に紫外光が当たることで、該光触媒の光触媒反応により産卵時の繋代を阻害する、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
樹木類を含む植物の葉の表面に散布して使用して植物揮発性成分を分解することによって植物の葉及び/又は幹の表面近傍における揮発性成分の濃度を低下させるための薬剤であって、光触媒二酸化チタンを水分散して安定化させた光触媒ゾルを有効成分とすることを特徴とする樹木類を含む植物の葉及び/又は幹の表面から揮発する揮発性成分の分解剤。
【請求項11】
光触媒ゾルが、光触媒二酸化チタンを構成する結晶粒子の大きさが径5〜100nmで、該結晶を水分散して、pH4〜6の酸性、pH6〜8の中性、pH7〜9の弱アルカリ性又はpH9〜12のアルカリ性で安定している光触媒ゾルである、請求項10に記載の分解剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−136373(P2007−136373A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−335070(P2005−335070)
【出願日】平成17年11月19日(2005.11.19)
【出願人】(598094056)株式会社光触媒研究所 (4)
【Fターム(参考)】