説明

光触媒を用いた光水分解反応用電極

【課題】光照射下における光水分解反応速度を飛躍的に増大させることができる、効率的で工業的に有利な水素製造用の光水分解反応用電極を提供する。
【解決手段】オキシナイトライド、ナイトライド、オキシサルファイド、および、サルファイドからなる群から選ばれる1種以上の光触媒粒子10が支持体20上に堆積されてなる光水分解反応用電極において、光触媒粒子10間ならびに光触媒粒子10および支持体20間に半導体または良導体30を有するものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光を利用した水分解反応を行うことにより水素を製造する装置に適用される、支持体上に光触媒を備えてなる光水分解反応用電極に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽エネルギーなどの再生可能エネルギーを利用した高性能な光エネルギー変換システムを実用化することは、地球温暖化の抑制、および枯渇しつつある化石資源依存からの脱却を目指す観点から、近年になって急激にその重要性が増している。中でも、太陽エネルギーを用いて水を分解し水素を製造する技術は、現行の石油精製、アンモニア、メタノールの原料供給技術としてのみならず、燃料電池をベースとした来たる水素エネルギー社会において、必須とされる技術である。
【0003】
光触媒による水分解反応は、1970年代から広く研究されている(非特許文献1)。光触媒の多くはその大きなバンドギャップのため、紫外光領域でならば水分解が進行するが可視光領域は利用できなかったり、可視光領域を利用することができても水中で不安定であったりするという欠点があった。2000年以降になって可視光領域の光エネルギーで水を分解することができ、かつ水中で安定である光触媒が発表されるようになった(非特許文献2、3、4)。これらは粉体状の光触媒をそのまま使用するか、もしくはキャラクタリゼーションのしやすいNb:SrTiO やF:SnOなどの酸化物導電体上に光触媒を堆積して反応に使用するのが一般的であった。
【0004】
粉体状の光触媒を用いて懸濁液の中で水分解反応を行う場合、よりエネルギー的に有利な逆反応が進行してしまうために光電変換効率が低い上、水分解反応による水素生成サイトと酸素生成サイトは懸濁された光触媒粒子上にあって不可分なため、生成ガスは混合気体として回収せざるを得ないという欠点があった。
【0005】
また、酸化物導電体上に光触媒を堆積し、対極として適当な触媒を使用すれば、水素生成サイトと酸素生成サイトを分離して逆反応を抑制すると共に水素ガスと酸素ガスを分離した状態で回収することができる。しかしながら酸化物導電体はコストが高くなるうえ、酸化物導電体と光触媒のエネルギー準位のマッチングが難しいという問題があった。
【0006】
一方、金属電極(金属支持体)は、酸化物導電体電極に比べ、加工性、形状制御性およびコスト面において優れている。さらに、金属は高い導電性(伝導電子密度)を持つことから光触媒との導通をとりやすく、金属支持体上に堆積した光触媒に適当な電圧をかけることにより、光触媒反応を促進することができる。パンチングメタルや多数の貫通細孔を持つ金属基板に光触媒および白金を堆積し、これらを対にしてプロトン伝導膜を介して水分解を行う方法が提案されている(特許文献1)。
【0007】
金属支持体上への光触媒の堆積方法としては、真空蒸着法やスパッタリング法に代表される物理気相成長(PVD)法や化学気相成長(CVD)法、スピンコーティングやスクリーン印刷に代表される塗布法やゾル−ゲル法、電気泳動法に代表される液相成長法が知られており、中でも電気泳動電着(EPD)によるコーティング法(非特許文献5、特許文献2) は大面積で複雑な形状を持つ電極に対し、安価でコーティング膜厚制御が容易な手法として注目されている。
【0008】
しかしながら、塗布法や電気泳動電着法など、溶液中に懸濁させた光触媒粒子を出発原料として金属支持体に堆積する場合、もともとの光触媒粒子のサイズが大きいため、金属支持体表面に密に堆積するのが難しいという欠点があった。また支持体表面−光触媒粒子間、および光触媒粒子同士の接触面が小さいために抵抗が生じ、光触媒膜内部の電子伝導性、および光触媒−支持体表面間の電子伝導性が著しく低下してしまうという問題があった。
【0009】
光触媒粒子間、および光触媒−支持体間の電子伝導性を向上させるために、使用する光触媒よりも高い伝導性を持つ半導体もしくは良導体で光触媒粒子の周囲を覆う手法が提案されている。例えば、光触媒である酸化鉄もしくは酸化タングステン粒子の周囲をチタン、アルミニウム、アンチモン、スズ、亜鉛、ジルコニウム等の酸化物半導体で覆い、導電性を向上させる方法が提案されている(特許文献3)。
【0010】
しかしながら、光触媒である酸化鉄や酸化タングステンに対し、酸化チタンなどの光触媒と異なる金属種の酸化物を導電体として用いた場合、それぞれのエネルギーレベルが大きく異なるためにレベルのミスマッチが生じ、これが抵抗となって導電性が低下してしまう問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2001−286749号公報
【特許文献2】特開2006−297230号公報
【特許文献3】GB200416616A
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Chem.Soc.Rev.,2009,38,253−278
【非特許文献2】J.Am.Chem.Soc.,2005,127,4150−4151
【非特許文献3】J.Am.Chem.Soc.,2005,127,8286−8287
【非特許文献4】J.Phys.Chem.C 2009,113,6156−6162
【非特許文献5】J.Phys.Chem.B 2001,105,10893−10899
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、光水分解反応用の電極であって、光触媒粒子を支持体上に堆積させ、光触媒粒子間および光触媒−支持体間に、抵抗を減ずるための半導体または良導体を有するものとして、光触媒層の電子伝導性を良好にし、光電変換効率を向上させることにより、光照射下における光水分解反応速度を飛躍的に増大させることができる、効率的で工業的に有利な水素製造用の光水分解反応用電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討し、以下の事項を見出すに至った。
(1)光触媒成分であるオキシナイトライド、ナイトライド、オキシサルファイド、サルファイドを合成し、この粒子を支持体上に堆積した後に、光触媒の粒子間抵抗および光触媒−支持体間の抵抗を低減する処理を実施する。
(2)光触媒の粒子間抵抗および光触媒−支持体間の抵抗を低減する処理として、光触媒粒子の周囲に半導体もしくは良導体を付与する。
(3)該半導体もしくは良導体としては、用いる光触媒とエネルギーレベルが近いか、もしくは金属のように十分な伝導電子密度を持ち、かつ水分解反応の逆反応や、光触媒電極が触媒する水分解反応の対極で進行する反応を触媒しないものとする。また、簡便な操作で光触媒粒子の周囲に付与できるものとする。
【0015】
以上の検討事項を元に、本発明者らは以下の発明を完成させた。なお、本発明の理解を容易にするために添付図面の参照符号を括弧書きにて付記するが、これにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
第1の本発明は、オキシナイトライド、ナイトライド、オキシサルファイド、および、サルファイドからなる群から選ばれる1種以上の光触媒粒子(10)が支持体(20)上に堆積されてなる電極であって、光触媒粒子(10)間ならびに光触媒粒子(10)および支持体(20)間に半導体または良導体(30)を有する、光水分解反応用電極である。
【0016】
第1の本発明において、光触媒粒子(10)は、LaTiON、CaNbON、または、Ga1−xZn1−x(xは、0〜1の数値を表す。)のいずれかの粒子、あるいは、これらの二種以上の混合物であることが好ましい。
【0017】
第1の本発明において、半導体または良導体(30)は、支持体(20)の金属と同一の元素を含むことが好ましい。
【0018】
第1の本発明において、支持体(20)は、チタン、チタン合金、または、チタン若しくはチタン合金を表面にコートした金属のいずれかであることが好ましい。
【0019】
第1の本発明において、半導体または良導体(30)はチタンを含むことが好ましい。また、半導体または良導体(30)はTiNであることが好ましい。
【0020】
第1の本発明において、支持体(20)の形状は、パンチングメタル状、メッシュ状、格子状、または、貫通した細孔を持つ多孔体のいずれかであることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、支持体(20)上に光触媒粒子(10)を堆積した光水分解反応用電極において、光触媒粒子(10)の周囲に半導体または良導体(30)を有するものとすることによって電極の内部抵抗を低下させ、光電変換効率を向上させることができる。
本発明によれば、光照射によって光触媒内部に生じた電子と正孔のうち、電子を半導体または良導体(30)へ誘導することによって再結合を抑制し、光電変換効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の光水分解反応用電極の拡大断面図である。
【図2】実施例1において、光電流密度を観測した光電気化学セルを模式的に示した図である。
【図3】実施例1に示した、LaTiON/TiN/Ti電極の0.6V vs.Ag/AgClにおける光電流密度のTiCl浸漬回数に対する依存性を観測した結果である。
【図4】(a)はLaTiON/Ti電極の走査型電子顕微鏡写真、(b)はTiCl溶液への浸漬(10回)後の走査型電子顕微鏡写真、(c)はTiCl溶液への浸漬(20回)後の走査型電子顕微鏡写真、(d)はTiCl溶液への浸漬(30回)後の走査型電子顕微鏡写真である。それぞれ倍率は、250倍である。
【図5】(a)はLaTiON/Ti電極の走査型電子顕微鏡写真(倍率:3000倍)、(b)はTiCl溶液への浸漬(30回)後の走査型電子顕微鏡写真(倍率:5000倍)である。
【図6】LaTiON/Ti電極(下のグラフ)、および、実施例1のLaTiON/TiN/Ti電極(TiCl処理回数:20回、上のグラフ)の光電流観測結果である。
【図7】実施例1のLaTiON/TiN/Ti電極(TiCl処理回数:20回、下のグラフ)、および、助触媒としてIrOを用いたIrO/LaTiON/TiN/Ti電極(上のグラフ)の光電流観測結果である。
【図8】LaTiONをNb:SrTiO上にスパッタリングによって堆積した光触媒電極の光電流観測結果である(出典:非特許文献4)。上のグラフが助触媒としてIrOを添加した場合、下のグラフがこれを添加しない場合である。
【図9】水分解反応装置(二電極系)の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<水分解反応装置(二電極系)>
図9に、水分解反応装置(二電極系)の概念図を示す。図9においては、光触媒電極61と対極63とが導体64により接続され、それぞれ電解質水溶液65に浸漬されている。光触媒電極61と対極63の電解液は、隔膜またはイオン交換膜62により隔てられている。図9では、アノードとして本発明の光触媒電極61を用い、カソードとして対極63を用いているが、カソードに本発明の光触媒電極を用いてもよいし、また、アノードおよびカソード共に、本発明の光触媒電極を用いてもよい。なお、カソードに本発明の光触媒電極を用いた場合は、太陽光はカソード側から取り入れるようにし、また、アノードおよびカソード共に、本発明の光触媒電極を用いた場合は、太陽光はアノードおよびカソード両方の側から取り入れる。
【0024】
一般的に、水素ガスと酸素ガスを別々に回収する水分解反応装置においては、光触媒電極と対極とで構成される二電極系を使用する。二電極系での水の分解反応において、
酸性溶液中では、各々の電極上で以下の反応が進行している。
(アノード)HO+2h→1/2O+2H
(カソード)2H+2e→H
(h:正孔、e:電子)
【0025】
また、中性溶液中では、各々の電極上で以下の反応が進行している。
(アノード)HO+2h→1/2O+2H
(カソード)2HO+2e→H+2OH
【0026】
また、塩基性溶液中では、各々の電極上で以下の反応が進行している。
(アノード)2OH+2h→1/2O+H
(カソード)2HO+2e→H+2OH
【0027】
このとき、光励起された触媒表面の電子(e)もしくは正孔(h)と反応物質とが、いかに効率よく関与するかということと、電子と正孔との再結合を抑制し、生成した電子をいかに対極側へ効率よく誘導するかということが重要である。特に光触媒粒子間抵抗や光触媒粒子−支持体間の抵抗は電子伝導を阻害するため、これを可能な限り低減する必要がある。以下、光触媒粒子間抵抗や光触媒粒子−支持体間の抵抗を低下させることができ、光電変換効率を向上させることができる、本発明の光水分解反応用電極について説明する。
【0028】
<光水分解反応用電極>
本発明の光水分解反応用電極の構成について説明する。
図1に本発明の光水分解反応用電極の一実施形態の拡大断面図を模式的に示す。本発明の光水分解反応用電極は、光触媒粒子10、支持体20、ならびに、光触媒粒子間および光触媒粒子−支持体間に付与した半導体または良導体30で構成される。
【0029】
(光触媒粒子10)
光触媒粒子10を構成する光触媒としては、次の条件を満たしていればいかなる化合物でもよい。(1)光照射によって生成する電子の電位が水素イオンもしくは水分子を水素分子に還元できる電位よりも負であること、もしくは光照射によって生成する正孔の電位が水もしくは水酸化物イオンを酸素分子に酸化できる電位よりも正であること。(2)光触媒が水溶液中で光照射され、水分解反応が進行しても安定であること。光触媒粒子10の粒子径は、その性能を発揮するものであれば特に限定されるものではないが、通常1nm以上であり、好ましくは10nm以上であり、通常100μm以下であり、好ましくは10μm以下である。
【0030】
水素イオンもしくは水を還元する、水素発生側の光触媒としては、具体的には、Cr,Sb,Ta,Rh等をドープしたSrTiO,Cr,Fe等をドープしたLaTi,SnNbなどの酸化物;LaTiON,TaON,Ta,CaTaON,SrTaON,BaTaON,LaTaON,YTa,GaN,MgをドープしたGaN,Ge,Zn1+xGeN,Ga1−xZn1−x(xは、0〜1の数値を表す。)などのオキシナイトライドもしくはナイトライド化合物;や、
ZnS,Cu,Ni,PbをドープしたZnS,AgをドープしたCdS,CdZn1−xS(xは、0〜1の数値を表す。),CuInS,CuIn,CuGa,CuGaS,AgGaS,AgGa0.9In0.1,AgIn,NaInS,AgInZn,CuInGaS,Cu0.09In0.09Zn1.82,Cu0.25Ag0.25In0.5ZnS,CuZnSnSなどのサルファイド化合物;SmTiなどのオキシサルファイド化合物;La,Inを含むオキシサルファイド化合物(Chemistry Letters 2007, 36, 854−855),CuInGaSe,などのセレナイドを挙げることができるが、例示した材料に限定されるものではない。
【0031】
水分子もしくは水酸化物イオンを酸素分子に酸化する、酸素発生側の光触媒としては、具体的にはCr,Ni,Sb,Nb,Th,Sb等をドープしたTiOやWO,BiWO,BiMoO,In(ZnO)3,PbBiNb,BiVO,AgVO,AgLi1/3Ti2/3,AgLi1/3Sn2/3などの酸化物のほか、LaTiON,CaNbON,TaON,Ta,CaTaON,SrTaON,BaTaON,LaTaON,YTa,GaN,MgをドープしたGaN,Ge,Zn1+xGeN,Ga1−xZn1−x(xは、0〜1の数値を表す。)などのオキシナイトライドもしくはナイトライド化合物や、SmTiなどのオキシサルファイド化合物を用いることができるが、例示した材料に限定されるものではない。
【0032】
光触媒としては、オキシナイトライド、ナイトライド、オキシサルファイド、および、サルファイドからなる群から選ばれる1種以上の光触媒、中でも、LaTiON,CaNbON,Ga1−xZn1−x(xは、0〜1の数値を表す。),CuZnSnSを用いることが、光触媒活性が高いこと、地上における存在量が豊富であること、価格が低い点から好ましい。
上記した光触媒は、従来の公知の方法(例えば、J.Phys.Chem.B 2003,107,791−797)により合成することができる。
【0033】
上記光触媒には、必要に応じて助触媒を使用することができる。水素発生側の光触媒の助触媒としては、具体的にはPt,Pd,Rh,Ru,Ni,Au,Fe,NiO,RuO,およびCr‐Rh酸化物等を挙げることができる。酸素発生側の光触媒の助触媒としては、具体的にはIrO,Pt,Co,Fe,C,Ni,Ag,CoO,Co等を挙げることができるが、例示した材料に限定されるものではない。
【0034】
(支持体20)
支持体20としては、金属または非金属の支持体を用いることができる。また、支持体20としては、金属、あるいは、カーボン(グラファイト)または酸化物伝導体等の非金属の導電材料により形成された導電性支持体を用いることが好ましい。中でも、良好な加工性を有することから、金属支持体を用いることが特に好ましい。金属支持体としては、良好な電気伝導性を示す元素の単体、もしくは合金を用いることができる。元素の単体とは、具体的にはAl,Au,Cu,Mo,Ni,Pd,Pt,Ti,Wなどを挙げることができる。一方合金とは、具体的にはステンレス鋼、炭素鋼、チタン合金、アルミニウム合金などを挙げることができるが、例示した材料に限定されるものではない。中でも、電解質溶液中において、広いpH範囲で安定であり、高い電気伝導性を示す点から、金属支持体としては、チタン、チタン合金、または、チタンもしくはチタン合金を表面にコートした金属を用いることが好ましい。
【0035】
支持体20の形状としては、光触媒粒子10を表面に堆積できる形状であれば特に限定されないが、生成イオンを対極に迅速に輸送する必要がある点から、パンチングメタル状、メッシュ状、格子状、または、貫通した細孔を持つ多孔体のいずれかであることが好ましい。
【0036】
(半導体または良導体30)
半導体または良導体30としては、良好な電気伝導性を示し、かつ水分解反応の逆反応や光触媒の水分解反応の対となる反応を触媒しない材料を使用することができる。具体的には、TiN,TiO,Ta,TaON,ZnO,SnO,ITO,Ag,Au,C,Cu,Cd,Co,Cr,Fe,Ga,Ge,Hg,Ir,In,Mn,Mo,Ni,Nb,Pb,Ru,Re,Rh,Sn,Sb,Ta,Ti,V,W、並びに、これらの合金および混合物が挙げられるが、例示した材料に限定されるものではない。
【0037】
また、伝導帯のエネルギー準位をなるべく近接させて電子移動をスムーズに行わせる点から、半導体または良導体30と支持体20とは、同一の元素を含んでいることが好ましい。また、支持体20としては、チタン、チタン合金、または、チタン若しくはチタン合金を表面にコートした金属のいずれかを用いることが好ましく、半導体または良導体30もチタンを含む材料であることが好ましい。中でも、チタンを含む材料としては、良好な電子伝導性を持つ点からTiNを用いることが好ましい。
【0038】
また、それぞれの光触媒に相性の良い半導体または良導体30があり、例えば、光触媒として、Ti、Nを含むもの(例えば、LaTiON)を用いた場合は、半導体または良導体30としては、TiN,TiO,TiO2−x(xは0〜2の数値を表す。)が好適に用いられる。
【0039】
(光水分解反応用電極の製法)
次に、本発明の光水分解反応用電極の製造方法について説明する。なお、以下に示す製造方法は、あくまで本発明の電極を製造するための方法の一実施形態であって、他の方法を排除する趣旨ではない。
支持体20は、機械的研磨、洗浄の後、光触媒粒子10を堆積する。光触媒粒子10の堆積には、真空蒸着法やスパッタリング法などの気相成長法、ゾルゲル法、塗布法、電気泳動電着法などを使用することができる。ここで、「堆積」とは、実質的に光触媒粒子の平均粒径の大きさ以上の厚みをもって積層することをいう。
【0040】
光触媒粒子を堆積した電極は、空気中、50℃〜500℃程度で数分間乾燥させた後、半導体または良導体30の前躯体溶液に電極全体を数秒間浸漬する。その後、再び電極を空気中で50℃〜500℃程度で数秒間〜数分間乾燥する。この前駆体溶液への浸漬および空気中での乾燥を10回〜数10回繰り返す。このようにして十分な量の半導体または良導体30の前駆体で光触媒粒子および支持体表面をコーティングした後、熱分解処理を行う。このようにして、光触媒粒子間ならびに光触媒粒子−支持体間に、半導体または良導体30を付与する。なお、使用する光触媒粒子10、ならびに、半導体または良導体30に応じて、半導体または良導体の前駆体および熱処理方法は異なる。
【0041】
例えば、光触媒粒子10としてLaTiON粒子を使用し、半導体または良導体30としてTiNを使用する場合、支持体20にLaTiON粒子を堆積させた後、該電極をTiClのメタノール溶液(半導体または良導体の前駆体溶液)に浸漬させ、空気中で乾燥させる。この処理を数回繰り返し、LaTiON/支持体からなる電極上にTiClを吸着させる。その後、この電極を、800℃、NH気流下で窒化処理を行い、TiClをTiNとする。これにより、LaTiON/TiN/支持体からなる本発明の電極が製造される。
【0042】
半導体または良導体30を付与する量は、光触媒粒子10の光触媒作用を阻害せず、それでいて光触媒粒子間および光触媒粒子−支持体間の抵抗を減ずるに十分な最適値とすることが好ましい。具体的には、堆積された光触媒粒子10の量に対し、質量比で1%〜500%、好ましくは2%〜220%である。
【実施例】
【0043】
(実施例1)
La(NO・6HO、Ti(O−iPr)、クエン酸、エチレングリコールをメタノール中、モル比1:1:10:30となるように混合し、373Kで重合させた。さらに623Kで熱処理して炭化させた後、空気中923Kで焼成しLaとTiの複合酸化物前駆体を得た。この前駆体を100mL/分のNH気流下で1K/分で1123Kまで昇温したのちこの温度で15時間保ち、その後室温まで冷却してLaTiONを合成した。得られたLaTiON粉末とアセトン、ヨウ素の懸濁液を調製し、これにTiメッシュを浸漬、FTO(フッ素ドープ酸化スズ)を対極として10Vの電圧を1分間付加することにより、LaTiON/Ti電極を調製した。
【0044】
さらにこのLaTiON/Ti電極を20mM TiCl/メタノール溶液に5秒間浸漬、空気中250℃で1分間乾燥させる、浸漬および乾燥処理を数回繰り返し、LaTiON/Ti表面上にTiClを吸着させた。このTiClを吸着させた電極を800℃、100mL/分のNH気流下で1時間窒化処理を行って、LaTiONの光触媒粒子が、Ti支持体上に堆積されてなり、光触媒粒子間ならびに光触媒粒子およびTi支持体間にTiNを有している本発明の電極(LaTiON/TiN/Ti電極)を得た。
【0045】
図2に光電流を測定するための光電気化学セルの模式図を示す。参照電極54としてAg/AgClを使用し、電解質溶液56として0.1M NaSO水溶液(pH=6)を使用した。カットフィルター52を介して光源51から、LaTiON/TiN/Tiメッシュ53に光を当て、発生する光電流を測定した。
【0046】
図3にTiCl溶液への浸漬回数と、生成するLaTiON/TiN/Ti電極の0.6V vs.Ag/AgClにおける光電流密度(図2の装置で測定したもの。)との関係を示す。図3より、TiNの付与によって電極内部抵抗が減少して光電流密度が向上することが示された。浸漬回数0回のものでは、光電流密度は23μA/cmであったが、浸漬回数30回のものでは、光電流密度は75μA/cmと3倍以上も向上した。また、光電流密度は、浸漬回数が少ない場合は、浸漬回数に比例して増加するが、浸漬回数が増えると光電流密度は飽和する傾向がある。よって、光電流密度を向上させるための、最適な浸漬回数は20回〜30回であることが分かった。
【0047】
図4と図5にLaTiON/Ti電極およびLaTiON/TiN/Ti電極表面の走査型電子顕微鏡写真を示す。図4(a)は、TiCl溶液で処理していない電極(LaTiON/Ti電極)である。もとのTiメッシュ電極(触媒堆積前)の線径は100μmであり、図4(a)で観測された線径は約108〜109μm前後であることから、触媒の堆積量は約8〜9μmである。(b)がTiCl溶液への浸漬−乾燥を10回繰り返して1時間窒化処理を行った後の電極で、線径は約114μm、(c)がTiCl溶液への浸漬−乾燥を20回繰り返して1時間窒化処理を行った後の電極で、線径は約111μm、(d)がTiCl溶液への浸漬−乾燥を30回繰り返して1時間窒化処理を行った後の電極で、線径は約120μmである。図4(a)〜(d)は、それぞれ250倍の拡大写真である。数値の前後はあるが、全体の傾向として、浸漬回数が増えるごとに電極網の直径が増大していることが明らかである。
【0048】
図5(a)は、TiCl溶液で処理していない電極(LaTiON/Ti電極)であり、(b)はTiCl溶液への浸漬−乾燥を30回繰り返して1時間窒化処理を行った後の電極である。図5(a)は3000倍の拡大写真であり、(b)は5000倍の拡大写真である。
【0049】
図4、5より、TiCl/NH処理によりLaTiON粒子間がTiNにより補完されていることが見て取れ、これによって電極内部抵抗が低下したと推測される。
【0050】
図6にLaTiON/Ti電極(TiCl浸漬処理なし、NH処理のみ、下のグラフ)およびLaTiON/TiN/Ti電極(TiCl/NH処理あり、TiCl処理回数:20回、上のグラフ)の印加電圧に対する光電流密度依存性を観測した結果を示す。光電流密度はTiCl/NH処理をすると、処理をしない場合に比較して著しく向上した。また、TiCl/NH処理を施したLaTiON/TiN/Ti電極の電流が流れ始める電圧は可逆水素電極(RHE)よりも負側(カソード側)であることから、光触媒であるLaTiONを堆積する電極として金属電極であるTiを選択したことにより、エネルギー準位のミスマッチによる光触媒−電極間の抵抗を低減できることが明らかになった。なおTiCl/NH処理を施さないLaTiON/Tiにおいても電流値は小さいもののRHEよりも負側から電流が流れ始めることから、光触媒−電極間の抵抗を低減するためには、TiCl/NH処理にかかわりなく、LaTiONとマッチングのよい半導体電極、もしくは導電性の高い金属電極を選択すればよいことが分かる。
【0051】
図7にLaTiON/TiN/Ti電極(TiCl処理回数:20回、下側のグラフ)およびIrO/LaTiON/TiN/Ti電極(上側のグラフ)の印加電圧に対する光電流密度依存性を観測した結果を示す。光電流密度は助触媒であるIrOの存在で著しく向上した。なお、酸化イリジウム処理は、LaTiON/TiN/Ti電極(下側のグラフのもの)を、酸化イリジウムコロイド溶液に一回浸漬、乾燥することにより、行った。なお、酸化イリジウムコロイド溶液は、水20ml中にNaIrClを50mg溶かし、NaOHを添加してpH12にしたのち、ウオーターバス中で80℃まで加熱する。溶液の色が茶色から透明に変わり、最後にはダークブルーになったところで加熱をやめ、溶液を放冷することで調製した。
【0052】
図8に参考データとしてLaTiONをNb:SrTiO上にスパッタリングによって堆積した光触媒電極の光電流観測結果を示した(出典:非特許文献4)。上段のグラフが助触媒としてIrOを添加した場合、下段のグラフはこれを添加しない場合である。電極として酸化物半導体を使用しているため、LaTiONとのエネルギー準位にミスマッチが生じ、それが内部抵抗となって光電流の流れ始める電位はRHEよりも正側である。また、図8の電極は、スパッタリングという欠陥の少なく均一で強固な薄膜を形成しうる手法で作製された電極であるが、この電極に比較して、本発明の電極は3倍程度の光電流密度を示した。なお、図6、7での光電流密度の単位は、mA/cmであり、図8での単位はμA/cmである。
【0053】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う光水分解反応用電極もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、支持体上に光触媒を堆積させてなる光触媒電極の作製手法に新たな可能性を提供する。また、本発明の電極を利用して、光触媒に電位を印加することにより効率的に水分解を進行させるシステムを構築できる。本発明によると、光触媒電極を用いた効果的な水分解による水素製造技術が提供できる。
【符号の説明】
【0055】
10 光触媒粒子
20 支持体
30 半導体または良導体
51 光源
52 カットフィルター
53 LaTiON/TiN/Tiメッシュ
54 参照電極
55 白金線
56 0.1M NaSO水溶液(pH=6)
61 光触媒電極
62 隔膜もしくはイオン交換膜
63 対極
64 導体
65 電解質水溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オキシナイトライド、ナイトライド、オキシサルファイド、および、サルファイドからなる群から選ばれる1種以上の光触媒粒子が支持体上に堆積されてなる電極であって、
前記光触媒粒子間ならびに前記光触媒粒子および前記支持体間に半導体または良導体を有する、光水分解反応用電極。
【請求項2】
前記光触媒粒子が、LaTiON、CaNbON、または、Ga1−xZn1−x(xは、0〜1の数値を表す。)のいずれかの粒子、あるいは、これらの二種以上の混合物である、請求項1に記載の電極。
【請求項3】
前記半導体または良導体が、前記支持体と同一の元素を含む、請求項1または2に記載の電極。
【請求項4】
前記支持体が、チタン、チタン合金、または、チタン若しくはチタン合金を表面にコートした金属のいずれかである、請求項1〜3のいずれかに記載の電極。
【請求項5】
前記半導体または良導体がチタンを含む、請求項1〜4のいずれかに記載の電極。
【請求項6】
前記半導体または良導体がTiNである、請求項1〜5のいずれかに記載の電極。
【請求項7】
前記支持体の形状が、パンチングメタル状、メッシュ状、格子状、または、貫通した細孔を持つ多孔体のいずれかである、請求項1〜6のいずれかに記載の電極。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図7】
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【図9】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−131170(P2011−131170A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−293304(P2009−293304)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】