説明

光触媒体担持繊維製品

【課題】高い光触媒活性を示す光触媒体担持繊維製品を提供することである。
【解決手段】本発明の光触媒体担持繊維製品は、光触媒体を繊維生地に担持させたものであって、平均粒子径が0.2〜2.5μmである前記光触媒体を、少なくとも片面に起毛処理を行った目付け250〜500g/m2の前記繊維生地に担持させている。前記光触媒体は、酸化チタンおよび酸化タングステンのうち、少なくとも1つである。本発明の光触媒体担持繊維製品は、前記光触媒体および無機系増粘剤を含む光触媒体分散液から得られたものである。前記無機系増粘剤が、スメクタイト系粘土鉱物である。前記繊維生地としては、織布、編布又は不織布が使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒体を担持させた繊維製品に関し、詳しくは、特定の平均粒子径を有する光触媒体を、少なくとも片面に起毛処理した繊維生地に担持させた繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体にバンドギャップ以上のエネルギーを持つ光を照射すると、価電子帯の電子が伝導体に励起され、価電子帯に正孔が生成する。このようにして生成した正孔は強い酸化力を有し、励起した電子は強い還元力を有することから、半導体に接触した物質に酸化還元作用を及ぼす。この酸化還元作用は光触媒作用と呼ばれており、かかる光触媒作用を示し得る半導体は光触媒体と呼ばれている。このような光触媒体として酸化チタンや酸化タングステンが知られている。
【0003】
光触媒体を繊維生地に担持させた光触媒体担持繊維製品は、消臭作用、抗菌作用などを示すことが知られている。光触媒体は受光によって光触媒作用が活性化するため、繊維の受光表面に担持させることが好ましく、例えば、特許文献1には、繊維を毛羽立たせて光触媒を毛羽先端に塗布することで、光触媒作用を効率よく得る方法が開示されている。しかし、このような起毛処理した繊維生地では、平均粒子径が小さい光触媒体を担持させる場合、光触媒体が起毛処理した繊維生地に埋没したり、毛元側に付着したりするため光が届き難く、そのため受光する光触媒体の割合が低くなり、光触媒活性が低くなるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−321321号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明は、高い光触媒活性を示す光触媒体担持繊維製品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の平均粒子径を有する光触媒体を、少なくとも片面に起毛処理した繊維生地に担持させることにより優れた光触媒活性を示す光触媒体担持繊維製品が得られることを見出し本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の光触媒体担持繊維製品は、光触媒体を繊維生地に担持させた光触媒体担持繊維製品であって、平均粒子径が0.2〜2.5μmである前記光触媒体を、少なくとも片面に起毛処理を行った目付け250〜500g/m2の前記繊維生地に担持させることを特徴とする。
本発明の光触媒体には、酸化チタンおよび酸化タングステンを少なくとも1つを含有するのがよい。
前記光触媒体は、酸化チタンおよび/または酸化タングステン、および無機系増粘剤を含む光触媒体分散液を用いて得られるものがよい。
前記無機系増粘剤としては、スメクタイト系粘土鉱物があげられる。
本発明の繊維生地には、織布、編布又は不織布があげられる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、特定の平均粒子径を有する光触媒体を、少なくとも片面に起毛処理を行った特定目付け量の繊維生地に担持させることにより、光触媒体の繊維生地内への埋没を抑制し、その結果、優れた光触媒作用を示す光触媒体担持繊維製品を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(光触媒体)
本発明の光触媒体とは、例えば、紫外線や可視光線の照射により光触媒作用を発現する半導体であり、特定の結晶構造を示す金属元素と酸素、窒素、硫黄、フッ素との化合物等が挙げられる。金属元素としては、例えば、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Tc、Re、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Ga、In、Tl、Ge、Sn、Pb、Bi、La、Ceが挙げられる。その化合物としては、これら金属の1種類または2種類以上の酸化物、窒化物、硫化物、酸窒化物、酸硫化物、窒弗化物、酸弗化物、酸窒弗化物などが挙げられる。なかでも、Ti、W、Nbの酸化物が好ましく、とりわけメタチタン酸、酸化チタン、酸化タングステンなどが好ましい。なお、光触媒体は単独で用いてもよいし2種類以上を併用してもよい。
【0010】
(メタチタン酸)
メタチタン酸(H2TiO3、TiO(OH)2、β−水酸化チタン)は、例えば硫酸チタニルの水溶液を加熱して加水分解することにより得ることが出来る。
前記メタチタン酸のBET比表面積は、特に制限されないが、光触媒作用の観点からは、通常100〜500m2/g、好ましくは300〜400m2/gである。
【0011】
(酸化チタン)
酸化チタン(TiO2)は、例えば、(i)硫酸チタニルまたは塩化チタンの水溶液を加熱することなく、これに塩基を加えることにより沈殿物を得、この沈殿物を焼成する方法、(ii)チタンアルコキシドに水、酸性水溶液、塩基性水溶液等を加えて沈殿物を得、この沈殿物を焼成する方法、(iii)メタチタン酸を焼成する方法などによって得ることができる。これらの方法で得られる酸化チタンは、焼成する際の焼成温度や焼成時間を調整することにより、アナターゼ型、ブルッカイト型、ルチル型など所望の結晶型にすることができる。
また酸化チタンとしては、前記の他にも、特開2001−72419号公報、特開2001−190953号公報、特開2001−316116号公報、特開2001−322816号公報、特開2002−29749号公報、特開2002−97019号公報、WO01/10552パンフレット、特開2001−212457公報、特開2002−239395号公報)、WO03/080244パンフレット、WO02/053501パンフレット、特開2007−69093号公報、Chemistry Letters, Vol.32, NO.2, P.196−197(2003)、Chemistry Letters, Vol.32, NO.4, P.364−365(2003)、Chemistry Letters, Vol.32, NO.8, P.772−773(2003)、Chem. Mater., 17, P.1548−1552(2005)等に記載の酸化チタンを用いてもよい。また、特開2001−278625号公報、特開2001−278626号公報、特開2001−278627号公報、特開2001−302241号公報、特開2001−335321号公報、特開2001−354422号公報、特開2002−29750号公報、特開2002−47012号公報、特開2002−60221号公報、特開2002−193618号公報、特開2002−249319号公報などに記載の方法により得ることもできる。
【0012】
前記酸化チタンのBET比表面積は、特に制限されないが、光触媒作用の観点からは、通常100〜500m2/g、好ましくは300〜400m2/gである。
【0013】
(酸化タングステン)
酸化タングステン(WO3)は、例えば、(i)タングステン酸塩の水溶液に酸を加えることにより、沈殿物としてタングステン酸を得、このタングステン酸を焼成する方法、(ii)メタタングステン酸アンモニウム、パラタングステン酸アンモニウムを加熱することにより熱分解する方法、等によって得ることができる。
【0014】
前記酸化タングステンのBET比表面積は、特に制限されないが、光触媒作用の観点からは、通常5〜100m2/g、好ましくは20〜50m2/gである。
【0015】
本発明の光触媒体の平均粒子径は、平均粒子径が0.2〜2.5μm、好ましくは0.5〜2.0μm、より好ましくは0.5〜1.8μmである。該平均粒子径が0.2μm未満であると、光触媒体が繊維の間に一部埋没するため、受光する光触媒体の量が少なくなり、光触媒活性が低くなる。また、該粒子径が2.5μmより大きい場合、繊維生地の風合いを損ねてしまう。
【0016】
(光触媒体分散媒)
本発明の光触媒体を、繊維生地の受光表面へ均一に効率よく担持させるために、光触媒体を分散媒に分散した光触媒体分散液として用いることが好ましく、その分散媒は、前記粒子状の光触媒体が分散できれば特に制限はなく、通常、水を主成分とする水性溶媒が用いられる。具体的には、水単独であってもよいし、水と水溶性有機溶媒との混合溶媒であってもよい。水と水溶性有機溶媒との混合媒体を用いる場合には、水の含有量が50質量%以上であることが好ましい。水溶性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどの水溶性アルコール、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。なお、水溶性有機溶媒は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。前記分散媒は、光触媒体に対して通常、5〜200質量倍、好ましくは10〜100質量倍で含有する。さらに、前記分散媒は、分散液中の光触媒体の分散安定性を向上させる目的で、公知の分散剤を含有してもよい。
【0017】
(電子吸引性物質またはその前駆体)
光触媒体分散液は、光触媒作用を高めるために、電子吸引性物質もしく電子吸引性物質の前駆体を含有することができる。電子吸引性物質とは、光触媒体の表面に担持されて電子吸引性を発揮しうる化合物であり、電子吸引性物質の前駆体とは、光触媒体の表面で電子吸引性物質に遷移しうる化合物(例えば光照射により電子吸引性物質に還元されうる化合物)である。電子吸引性物質が光触媒体の表面に担持されて存在すると光の照射により伝導体に励起された電子と価電子帯に生成した正孔との再結合が抑制され、光触媒作用をより高めることができる。
【0018】
前記電子吸引性物質の前駆体を添加した場合には、添加後、光触媒体分散液に光照射を行うことが好ましい。照射する光としては、光触媒体のバンドギャップ以上のエネルギーを持つ光であれば特に制限はない。光の照射を行うことにより、光励起によって生成した電子によって前駆体が還元されて電子吸引性物質となり光触媒体の表面に担持される。なお光の照射は、光触媒体分散液に対して行ってもよいが、光触媒層の形成後に行ってもよい。より好ましくは複数の光触媒体を混合する場合は、混合前におこなうのがよい。
さらに、より効率的に電子吸引性物質を担持する目的で光の照射前に犠牲剤としてメタノール、エタノール、蓚酸等を加えることもできる。
【0019】
前記電子吸引性物質またはその前駆体は、Cu、Pt、Au、Pd、Ag、Fe、Nb、Ru、Ir、RhおよびCoからなる群より選ばれる1種以上の金属原子を含有してなるものであることが好ましい。より好ましくは、Cu、Pt、AuおよびPdのうちの1種以上の金属原子を含有してなるものである。例えば、前記電子吸引性物質としては、前記金属原子からなる金属、もしくは、これらの金属の酸化物や水酸化物等が挙げられ、電子吸引性物質の前駆体としては、前記金属原子からなる金属の硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物、有機酸塩、炭酸塩、リン酸塩等が挙げられる。
【0020】
電子吸引性物質の好ましい具体例としては、Cu、Pt、Au、Pdの金属が挙げられる。また、電子吸引性物質の前駆体の好ましい具体例としては、Cuを含む前駆体として、硝酸銅〔Cu(NO3)2〕、硫酸銅〔CuSO4〕、塩化銅〔CuCl2、CuCl〕、臭化銅〔CuBr2、CuBr〕、沃化銅〔CuI〕、沃素酸銅〔CuI26〕、塩化アンモニウム銅〔Cu(NH4)2Cl4〕、オキシ塩化銅〔Cu2Cl(OH)3〕、酢酸銅〔CH3COOCu、(CH3COO)2Cu〕、蟻酸銅〔(HCOO)2Cu〕、炭酸銅〔CuCO3〕、蓚酸銅〔CuC24〕、クエン酸銅〔Cu2647〕、リン酸銅〔CuPO4〕が;Ptを含む前駆体として、塩化白金〔PtCl2、PtCl4〕、臭化白金〔PtBr2、PtBr4〕、沃化白金〔PtI2、PtI4〕、塩化白金カリウム〔K2(PtCl4)〕、ヘキサクロロ白金酸〔H2PtCl6〕、亜硫酸白金〔H3Pt(SO3)2OH〕、酸化白金〔PtO2〕、塩化テトラアンミン白金〔Pt(NH3)4Cl2〕、炭酸水素テトラアンミン白金〔C21446Pt〕、テトラアンミン白金リン酸水素〔Pt(NH3)4HPO4〕、水酸化テトラアンミン白金〔Pt(NH3)4(OH)2〕、硝酸テトラアンミン白金〔Pt(NO3)2(NH3)4〕、テトラアンミン白金テトラクロロ白金〔(Pt(NH3)4)(PtCl4)〕、ジニトロジアミン白金〔(Pt(NO2)2(NH3)2)〕が;Auを含む前駆体として、塩化金〔AuCl〕、臭化金〔AuBr〕、沃化金〔AuI〕、水酸化金〔Au(OH)2〕、テトラクロロ金酸〔HAuCl4〕、テトラクロロ金酸カリウム〔KAuCl4〕、テトラブロモ金酸カリウム〔KAuBr4〕、酸化金〔Au23〕が;Pdを含む前駆体として、例えば、酢酸パラジウム〔(CH3COO)2Pd〕、塩化パラジウム〔PdCl2〕、臭化パラジウム〔PdBr2〕、沃化パラジウム〔PdI2〕、水酸化パラジウム〔Pd(OH)2〕、硝酸パラジウム〔Pd(NO3)2〕、酸化パラジウム〔PdO〕、硫酸パラジウム〔PdSO4〕、テトラクロロパラジウム酸カリウム〔K2(PdCl4)〕、テトラブロモパラジウム酸カリウム〔K2(PdBr4)〕、テトラアンミンパラジウム塩化物〔Pd(NH34Cl2〕、テトラアンミンパラジウム臭化物〔Pd(NH34Br2〕、テトラアンミンパラジウム硝酸塩〔Pd(NH34(NO32〕、テトラアンミンパラジウムテトラアンミンパラジウム酸テトラアンミンパラジウム塩化物〔(Pd(NH34)(PdCl4)〕、テトラクロロパラジウム酸アンモニウム〔(NH42PdCl4〕が;それぞれ挙げられる。なお、電子吸引性物質またはその前駆体は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、1種以上の電子吸引性物質と1種以上の前駆体とを併用してもよいことは勿論である。
【0021】
前記電子吸引性物質またはその前駆体をも含有させる場合、その含有量は、金属原子換算で、光触媒体粒子の合計量100質量部に対して、通常0.005〜0.6質量部、好ましくは0.01〜0.4質量部である。電子吸引性物質またはその前駆体が前記合計量100質量部に対して0.005質量部未満であると、電子吸引性物質による光触媒活性の向上効果が充分に得られないおそれがあり、一方、前記合計量100質量部に対して0.6質量部を超えると、却って光触媒作用が低下するおそれがある。
【0022】
(添加剤)
光触媒体分散液は、光触媒作用を向上させる目的で、添加物を含有することができる。添加剤としては、具体的には、非晶質シリカ、シリカゾル、水ガラス、オルガノポリシロキサンなどの珪素化合物;非晶質アルミナ、アルミナゾル、水酸化アルミニウムなどのアルミニウム化合物;ゼオライト;酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムなどのアルカリ土類金属酸化物またはアルカリ度類金属水酸化物;リン酸カルシウム、モレキュラーシーブ、活性炭、有機ポリシロキサン化合物の重縮合物、リン酸塩、フッ素系ポリマー、シリコン系ポリマー、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、アルキド樹脂等が挙げられる。
さらに、前記添加剤としては、光触媒体を繊維表面により強固に保持させるために、バインダー等を用いることもできる(例えば、特開2008−237793号公報、特開2008-80237号公報、特開2008-50707号公報、特開2005-194625号公報、特開2005-97773号公報、特開2008-163480号公報、特開2008-307528号公報、特開2008-223175号公報、特開2006-28688号公報、など参照。)
添加剤はそれぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
また、光触媒体分散液を静置しておくと沈降がみられる場合、増粘剤を加えることで、沈降が抑制され、取り扱い易くなる。増粘剤は特に制限はないが、光触媒活性を阻害しにくいという点で有機系増粘剤よりも無機系増粘剤の方が好ましい。無機系増粘剤としては、例えば、スメクタイト系粘土鉱物(モンモリロナイト、パイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、ペントナイト等)やアルミノ珪酸塩(ゼオライト、モルデナイト等)、合成シリケートなどを挙げることができ、特にスメクタイト系粘土鉱物を用いるのが好ましい。無機系増粘剤は、光触媒体分散液100質量部に対して、0.01〜100質量部、好ましくは、0.1〜10質量部加えるとよい。無機系増粘剤の量が光触媒体分散液100質量部に対して、0.01質量部より少ないと増粘効果は得られず光触媒体は沈降し、また、100質量部より多い場合、無機系増粘剤が光触媒体を覆うため光触媒活性が低下する。
【0024】
(光触媒体分散液の調製)
光触媒体分散液は、前記光触媒体を前記光触媒体分散媒に添加し分散することにより得ることができる。分散処理は、例えば、媒体撹拌式分散機を用いる通常の方法により行うことができる。
【0025】
(光触媒体の塗布および乾燥)
このようにして得られた光触媒体分散液を織布、編布もしくは不織布などの繊維生地に塗布し、該繊維生地を乾燥することにより、光触媒体を該繊維生地の表面に担持する。塗布方法としては、水で希釈した光触媒体分散液を繊維生地に含浸させ、ローラープレスにて該繊維生地の水分を除去した後、乾燥させる方法が一般的であるが、スプレー加工、インクジェットプリント加工、スクリーンプリント加工などでもよい。加工後の乾燥の条件としては、繊維の機能を損なわない範囲で行えばよく、通常、100〜200℃であり、乾燥時間は通常、1〜60分である。
【0026】
本発明で用いる繊維生地の材質としては、例えば、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ナイロン 、セルロース、アセテート、タンパク質系繊維であるプロミックス 、ビニロン、レーヨン、キュプラ、ポリノジック、木綿、麻、絹、羊毛、カシミヤ等があげられる。
【0027】
本発明で用いる繊維生地の目付けは、250g/m2〜500g/m2、好ましくは280g/m2〜400g/m2である。目付けが250g/m2以下の場合、繊維製品としての強度が低下し、破れやすくなる等の不具合が生じる。また、前記繊維生地は、少なくとも片面を起毛処理している必要がある。起毛方法としては,エメリー起毛、針布起毛、アザミ起毛のどれを用いてもよく、市販の起毛機で前記繊維生地を起毛処理することができる。
【0028】
本発明の光触媒体担持繊維製品は、屋外においては勿論のこと、蛍光灯、白熱電球、ハロゲンランプ、ナトリウムランプのような可視光源からの光しか受けない屋内環境においても、光の照射によって高い触媒作用を示す。したがって、本発明の光触媒体分散液を、例えば、カーテン、カーペット、布団カバー、シーツ、衣料、自動車内装材(表面材に繊維製品を用いた自動車用シート、自動車用天井材、自動車用フロアカーペットなど)、マスク、壁材(表面材に繊維製品を用いたものに限る。)、などに塗布して乾燥させると、屋内照明による光の照射によって、気相中に含まれる、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、芳香族化合物などの揮発性有機物、メルカプタン類、アンモニアなどの悪臭物質、窒素酸化物の濃度を低減させ、さらには黄色ブドウ球菌や大腸菌、炭疽菌、結核、コレラ菌、ジフテリア菌、破傷風菌、ペスト菌、赤痢菌、ボツリヌス菌、およびレジオネラ菌等の病原菌等や、インフルエンザウィルスやノロウィルス等のウィルスを死滅、分解、除去することができる。
【0029】
揮発性芳香族化合物としては、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、メチルベンゼン、トリメチルベンゼン、エチルベンゼン、スチレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、クレゾール、アニリンなどが挙げられる。
【0030】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0031】
なお、実施例および比較例における各物性の測定およびその光触媒活性の評価については、以下の方法で行った。
【0032】
<結晶型>
X線回折装置(リガク社製「RINT2000/PC」)を用いてX線回折スペクトルを測定し、そのスペクトルから結晶型を決定した。
【0033】
<BET比表面積>
比表面積測定装置(湯浅アイオニクス社製「モノソーブ」)を用いて窒素吸着法により測定した。
【0034】
<平均分散粒子径>
サブミクロン粒度分布測定装置(コールター社製「N4Plus」)または粒度分布測定装置(日機装製「MICROTRAC HRA model 9320−X100」)を用いて平均粒子径を測定した。前者では試料を水に分散させて測定した後、装置に付属のソフトにより自動的に単分散モード解析して得られた結果を、平均分散粒子径(nm)とした。後者では、試料をヘキサメタリン酸ナトリウム(和光純薬工業製)の0.2質量%水溶液中に分散させて測定した後、50体積%径を測定し、これを平均粒子径とした。
【0035】
<光触媒活性評価>
光触媒体を担持した繊維生地を、ブラックライト(紫外線強度2mW/cm2)を16時間照射した後、内容積1Lのガスバッグに入れ、密閉した後、内部を真空にした。次いで、このガスバッグに酸素および窒素の混合ガスを(体積比1:4)600mLを封入し、トルエン(濃度0.5体積%)を含む窒素ガス0.6mLを封入し、暗所に1時間保持した後、測定サンプル直近の照度が6000ルクスとなるように、白色蛍光灯からの光を照射した。トプコン社製の紫外線強度計〔「UVR−2」〕に同社製の受光部〔「UD−36」〕を装着して、このときの測定サンプル直近における紫外線強度を測定したところ、40μW/cm2であった。光照射22時間後、ガスバッグ内の成分をサンプリングし、ガスクロマトグラフ装置〔島津製作所社製「GC−14A」〕によりトルエンの濃度を測定した。下記の式からトルエンの分解率を算出し、この分解率が大きいほどトルエンの分解能は高い。
トルエンの分解率 = (C0−C22)/C0
(C0:光照射0時間でのトルエン濃度, C22:光照射22時間でのトルエン濃度)
【0036】
(製造例1−白金担持酸化タングステン粒子分散液の調製)
酸化タングステン(WO3、日本無機化学製)を1辺が190mmのアルミナサヤに4146g仕込み、高速昇温電気炉(モトヤマ製)に入れ、700℃で2時間、熱処理を行った。次に、熱処理した酸化タングステンをSTJ-200(セイシン企業製)を用い、ジェットミル粉砕を行った。ジェットミル粉砕時の押し込み圧力および粉砕圧力はともに0.68MPa、原料(三酸化タングステン粉末)の供給速度は3kg/hであった。粉砕後の酸化タングステンの平均粒子径を「MICROTRAC HRA model 9320−X100」により測定したところ、0.45μmであった。
【0037】
得られた酸化タングステン50gを水445gに分散させ、Ptが酸化タングステン粒子100質量部に対して0.12質量部となるようにヘキサクロロ白金酸水溶液(H2PtCl6)を入れて、攪拌しながら高圧水銀灯(100W,USHIO製)を1時間照射した。その後この酸化タングステン粒子分散液にメタノール5gを加えて、引き続き攪拌しながら上記と同様にして高圧水銀灯の照射を2時間行い、白金担持酸化タングステン粒子分散液を得た。
【0038】
(製造例2−酸化チタン粒子分散液の調製)
リン酸二水素アンモニウム(和光特級試薬)20.7gを水5.39kgに溶解させた。このリン酸二水素アンモニウム水溶液に、硫酸チタニルを加熱加水分解させて得られたメタチタン酸の固形物(ケーキ)(TiO2として固形分濃度46.2質量%)1.49kgを混合した。このとき、該水溶液はメタチタン酸1モルに対してリン酸二水素アンモニウム0.02モルで含有する水溶液であった。得られた混合物を、媒体攪拌式分散機(コトブキ技研社製「ウルトラアペックスミル UAM−1」)を用いて下記の条件で分散処理して、酸化チタン粒子分散液を得た。
分散媒体:直径0.05mmのジルコニア製ビーズ1.85kg
攪拌速度:周速8.1m/秒
流量 :0.25L/分
処理時間:約76分
【0039】
得られた酸化チタン粒子分散液中の酸化チタン粒子の平均粒子径を前記した「N4Plus」で測定すると96nmであった。なお、分散処理前の混合物と分散処理後の酸化チタン粒子分散液との一部を真空乾燥して固形分を得、各固形分のX線回折スペクトルをそれぞれ測定して比較したところ、どちらも結晶型はアナターゼ型であり、分散処理による結晶型の変化は見られなかった。
【0040】
(製造例3−白金担持酸化タングステン粒子分散液の調製)
イオン交換水4kgに、粒子状の酸化タングステン粉末(日本無機化学製)1kgを加えて混合して混合物を得た。この混合物を、媒体攪拌式分散機(コトブキ技研社製「ウルトラアペックスミル UAM−1」)を用いて下記の条件で分散処理して、酸化タングステン粒子分散液を得た。
分散媒体:直径0.05mmのジルコニア製ビーズ1.85kg
攪拌速度:周速12.6m/秒
流量 :0.25L/分
処理時間:約50分
【0041】
得られた酸化タングステン粒子分散液における酸化タングステン粒子の平均粒子径を前記した「N4Plus」で測定すると118nmであった。また、この分散液の一部を真空乾燥して固形分を得たところ、得られた固形分のBET比表面積は40m2/gであった。なお、分散処理の前の混合物についても同様に真空乾燥して固形分を得、分散処理前の混合物の固形分と分散処理後の酸化タングステン粒子分散液の固形分について、X線回折スペクトルをそれぞれ測定して比較したところ、どちらも結晶型はWO3であり、分散処理による結晶型の変化は見られなかった。
【0042】
次いで、得られた酸化タングステン粒子分散液(酸化タングステン50g相当分)に水を添加し、全量495gにした。そこへ、Ptが酸化タングステン粒子100質量部に対して0.12質量部となるようにヘキサクロロ白金酸水溶液(H2PtCl6)を加えて、ヘキサクロロ白金酸含有酸化タングステン粒子分散液を得た。この分散液100質量部中に含まれる固形分(酸化タングステン粒子の量)は、10質量部(固形分濃度10質量%)であった。次いで、このヘキサクロロ白金酸含有酸化タングステン粒子分散液を攪拌しながら高圧水銀灯(100W,USHIO製)を1時間照射した。その後上の酸化タングステン混合液にメタノール5gを加えて、引き続き攪拌しながら上記と同様にして高圧水銀灯の照射を2時間行って、白金担持酸化タングステン分散液を得た。
【0043】
(実施例)
製造例1で得た白金担持酸化タングステン粒子分散液と、硫酸チタニルの水溶液を加水分解し、濾取して得られたメタチタン酸ケーク〔TiO2換算でチタン成分を45質量%含む〕の比率が1:1(質量比)となるように混合したところ、分散液中の白金の含有量は、白金原子換算で、酸化チタン粒子と酸化タングステン粒子との合計使用量100質量部に対して0.06質量部であった。この分散液を更に水で希釈して光触媒体粒子分散液を得た。この光触媒体粒子分散液100質量部中に含まれる固形分(酸化チタン粒子と酸化タングステン粒子との合計量)は11質量部(固形分濃度11質量%)であった。この光触媒体分散液中の光触媒体の平均粒子径を「MICROTRAC HRA model 9320−X100」により測定したところ、1.3μmであった。
【0044】
上記で得られた光触媒体粒子分散液を水で、2.67質量%となるように希釈し、これを起毛処理した目付け322g/m2の織布(ポリエステル製)に含浸した後、ローラープレスにて該織布の水分を取り除き、120℃にて2分間、続いて180℃にて1分間加熱処理した。最終的に、光触媒体の担持量は繊維生地に対して1g/m2であった。また、この繊維生地の光触媒活性を測定したところ、トルエン分解率は58%であった。
【0045】
(比較例)
製造例2で得た酸化チタン粒子分散液と、製造例3で得た白金担持酸化タングステン粒子分散液を、酸化チタン粒子と酸化タングステン粒子との比率が1:1(質量比)となるように混合して、光触媒体粒子分散液を得た。また、この光触媒体粒子分散液100質量部中に含まれる固形分(酸化チタンと酸化タングステンとの合計量)は5質量部(固形分濃度5質量%)であった。前記した「N4Plus」により、この光触媒体粒子分散液中の光触媒体の平均粒子径を測定したところ、147nmであった。
【0046】
上記で得た光触媒体粒子分散液を、起毛処理した目付け322g/m2の織布(ポリエステル製)に含浸させた後、ローラープレスにて該織布の水分を取り除き、120℃にて2分間、続いて180℃にて1分間加熱処理した。最終的に、光触媒体粒子の担持量は該織布に対して1g/m2であった。また、この光触媒体粒子担持織布の光触媒活性を測定したところ、トルエン分解率は23%であった。
【0047】
(参考例)
実施例で得られた光触媒体分散液にスメクトンSA(サポナイト:クニミネ工業製)を光触媒体分散液100質量部に対して、2.8質量部加えることにより、光触媒体の沈降を抑制することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒体を繊維生地に担持させた光触媒体担持繊維製品であって、平均粒子径が0.2〜2.5μmである前記光触媒体を、少なくとも片面に起毛処理を行った目付け250〜500g/m2の前記繊維生地に担持させることを特徴とする光触媒体担持繊維製品。
【請求項2】
前記光触媒体が、酸化チタンおよび/または酸化タングステンである請求項1に記載の光触媒体担持繊維製品
【請求項3】
前記光触媒体が、酸化チタンおよび/または酸化タングステン、および無機系増粘剤を含む光触媒体分散液から得られたものである請求項1に記載の光触媒体担持繊維製品。
【請求項4】
前記無機系増粘剤が、スメクタイト系粘土鉱物である請求項1又は3に記載の光触媒体担持繊維製品。
【請求項5】
前記繊維生地が、織布、編布又は不織布である請求項1〜4のいずれかに記載の光触媒体担持繊維製品。

【公開番号】特開2011−132626(P2011−132626A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−291804(P2009−291804)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】