説明

光触媒半導体素子及びその作製方法、光触媒酸化還元反応装置及び光電気化学反応実行方法

【課題】本発明の課題は、さまざまな基板上に形成できるとともに光照射により生じたキャリアの利用効率を向上させるIII−V族窒化物半導体からなる光触媒半導体素子及びその作製方法を提供することにある。また、本発明の他の課題は、光照射により酸化還元反応を生じさせることができる光触媒酸化還元反応装置及び光電気化学反応実行方法を提供することにある。
【解決手段】導電性の基体とその上にドット状又はロッド状に形成されたIII−V族窒化物半導体とを含む光触媒半導体素子及びその作製方法、光触媒酸化還元反応装置及び光電気化学反応実行方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光を受けて酸化還元反応の触媒作用を発現させるIII−V族窒化物半導体を用いた光触媒半導体素子及びその作製方法、光触媒酸化還元反応装置及び光電気化学反応実行方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光触媒を利用して、例えばエネルギー分野においては光照射によって水を電気分解して水素ガスなどのエネルギーを得たり、また環境分野においては光照射によって有害物質や有機物を分解することが広く行われている。
【0003】
光触媒として、例えば窒化ガリウム(GaN)などのIII−V族窒化物半導体は、熱などに対する耐久性、耐ガス性、耐溶剤性が高いことにより、例えば高温の動作環境の光触媒反応において好適に使用することができる。
そしてAlN、GaN、InNなどのIII−V族窒化物半導体薄膜を光触媒とする提案もなされている(特許文献1)。
【0004】
ところがIII−V族窒化物半導体は、一般的には絶縁性のサファイアや導電性であってもかなり高価なSiCなど、ごく限られた材料の基板上でないと成膜できない欠点があった。また成膜されたIII−V族窒化物半導体薄膜を光触媒とした場合、光照射により生じたキャリアの利用効率も十分なものではなかった。
【特許文献1】特開2007−107043号公報
【特許文献2】国際公開WO2006/082801号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上のような事情を考慮してなされたものであって、本発明の課題は、さまざまな基板上に形成できるとともに光照射により生じたキャリアの利用効率を向上させるIII−V族窒化物半導体からなる光触媒半導体素子及びその作製方法を提供することにある。
また、本発明の他の課題は、光照射により酸化還元反応を生じさせることができる光触媒酸化還元反応装置及び光電気化学反応実行方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
課題を解決するための手段は、次のとおりである。
(1)導電性の基体とその上にドット状又はロッド状に形成されたIII−V族窒化物半導体とを含む光触媒半導体素子。
(2)上記III−V族窒化物半導体のドット状又はロッド状部分は、単結晶性が高いことを特徴とする(1)に記載の光触媒半導体素子。
(3)上記ドット又はロッドの密度が1×10cm−2以上であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の光触媒半導体素子。
(4)上記導電性の基体は、シリコン、酸化物半導体、窒化物半導体、貴金属のうちのいずれかが形成された導電性の基体であることを特徴とする(1)、(2)又は(3)に記載の光触媒半導体素子。
(5)上記導電性の基体は、絶縁基板上にシリコン、酸化物半導体、窒化物半導体、貴金属のうちのいずれかが形成された導電性の基体であることを特徴とする(1)、(2)又は(3)に記載の光触媒半導体素子。
(6)上記導電性の基体が、光により起電力を発生することが可能な構造を持つことを特徴とする(1)、(2)又は(3)に記載の光触媒半導体素子。
(7)導電性の基体を準備する工程、その上にIII−V族窒化物半導体をドット状又はロッド状に蒸着もしくはエピタキシャル成長により形成する工程を含む光触媒半導体素子の作製方法。
(8)酸化還元反応用の光触媒酸化還元反応装置であって、一方の電極が(1)ないし(6)のいずれかに記載の光触媒半導体素子よりなり、他方の電極がその基体のIII−V族窒化物半導体が形成されていない部分に形成された電極であり、当該III−V族窒化物半導体が存在する触媒反応表面に光が照射される事により、酸化反応又は還元反応が当該表面において生じ、他方の電極表面でその反対の反応が生じるものであることを特徴とする光触媒酸化還元反応装置。
(9)酸化還元反応用の光触媒酸化還元反応装置であって、電解液に接触した状態とされて互いに電気的に接続された一対の電気分解用電極のうち一方の電極が(1)ないし(6)のいずれかに記載の光触媒半導体素子よりなり、当該窒化物半導体を構成する触媒反応面に光が照射されることにより、酸化反応又は還元反応が当該触媒反応面において生じるものであることを特徴とする光触媒酸化還元反応装置。
(10)(1)ないし(6)のいずれかに記載の光触媒半導体素子の触媒反応面に光が照射されると共に一対の電気分解用電極間に電圧が印加されることにより、酸化反応又は還元反応が当該触媒反応面において生じることを特徴とする光触媒酸化還元反応装置。
(11)(1)ないし(6)のいずれかに記載の光触媒半導体素子を備えた光触媒酸化還元反応装置。
(12)(1)ないし(6)のいずれかに記載の光触媒半導体素子を用い、当該光触媒半導体素子における触媒反応面に励起光を照射し、当該触媒反応面において酸化反応又は還元反応を生じさせることを特徴とする光電気化学反応実行方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の光触媒半導体素子によれば、さまざまな導電性の基体上に光電気化学反応を起こす部分を高密度なドット状もしくはロッド状に形成することを特徴とする。その結果、光照射によってこのドット状もしくはロッド状の部分に生成した電子正孔対の一方が容易に表面での反応に寄与可能な状態となり、他方も容易に基体側へ移動することが可能となる。
また、表面の物質がドット状もしくはロッド状でよいため、作成する際の基体の自由度が増加し、さまざまな基体を用いることが可能となり、光触媒機能を持つ半導体を自由度を持って設計することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について具体的に説明する。
図1は、本発明に係るIII−V族窒化物半導体を有する光触媒半導体素子の構成の一例を、集電用部材が設けられた状態で示す模式的断面図である。
【0009】
<窒化物半導体>
本発明のIII−V族窒化物半導体20は、光触媒酸化還元反応用のものであって、例えば下記一般式(1)で表されるIII−V族窒化物半導体化合物よりなるものである。
一般式(1)AlyGa1-x-yInxN1-m-nPmAsn
〔上記一般式(1)中、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1、0≦m<1、0≦n<1、0≦m+n<1である。〕
ちなみに、上記AlyGa1-x-yInxN1-m-nPmAsnの一般式で表されるIII−V族半導体化合物のうち、m=n = 0のV族として窒素しか含まない場合で、水の酸化還元を行い水素の発生を目指す場合においてはx-y≦0.45、0≦x≦1、0≦y≦1とするのがよい(特許文献2参照)。
【0010】
このようなIII−V族窒化物半導体20は、ドット状もしくはロッド状に形成されたものである。ドットやロッドの形状がたとえば針状に尖っていたり、途中から分岐があったり、球状や半楕円状のものであったりしても問題はない。またこのドット状もしくはロッド状の物の中で組成や特性を変更しても問題ない。また、III−V族窒化物半導体20にはこの下にはさらに複数の領域があっても問題ない。これら領域は、例えば、基体との導電性を向上させるためのコンタクト層とか、さらに光の利用効率を高くするために設ける通常は複数層で構成される太陽電池層などがある。
【0011】
これらドット状もしくはロッド状に形成されたIII−V族窒化物半導体20の密度は1×10cm−2以上、望ましくは5×10cm−2以上、さらに望ましくは1×10cm−2以上である。このドットもしくはロッドの密度はSEMやAFMなどにより観察することができる。
【0012】
III−V族窒化物半導体20のp型・n型特性、キャリア濃度は、微小な領域のため、特に規定されない。導電性という観点からすると1×1015cm−3以上、望ましくは1×1016cm−3以上、さらに望ましくは1×1017cm−3以上である。この部分はドット状もしくはロッド状となっているため、通常用いられるキャリア濃度の測定方法で直接測定することが難しい。そのため、目的とする特性を持つ領域のみを測定可能な形で作製したものを別途用意し、その測定を行うことで類推することが可能である。
【0013】
III−V族窒化物半導体20のIII族組成は、通常用いられる組成の測定方法で行われるものである。ただし、窒化物半導体20の部分はかなり微細な構造を持っており、構造に工夫が施されているため直接測定することが難しい。そのため、目的とする特性を持つ領域のみを測定可能な形で作製したものを別途用意し、その測定を行うことで類推することも可能である。すなわち、直接、もしくは間接的にX線による格子定数測定、フォトルミネッセンス測定や、オージェ電子分光法や特性X線分光法(EDSやEPMAなど)によって行えばよい。
【0014】
III−V族窒化物半導体20を構成するIII−V族化合物におけるIII 族原子の供給原料としては、気相成長の場合は、塩化ガリウム(GaCl)などのガリウム塩化物、トリメチルガリウム((CH33Ga)(以下、「TMGa」ともいう。)、トリエチルガリウム((C253Ga)などのトリアルキルガリウム類、三塩化アルミニウム(AlCl)などの塩化アルミニウム類、トリメチルアルミニウム((CH33Al)、トリエチルアルミニウム((C23Al)などのトリアルキルアルミニウム類、塩化インジウム(InCl)などの塩化インジウム類、トリメチルインジウム((CH33In)、トリエチルインジウム((C253In)などのトリアルキルインジウム類などが挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、分子線エピタキシーなどの蒸発源を用いる場合は、ガリウム、アルミニウム、インジウムなどの金属単体を用いることができる。
【0015】
III−V族窒化物半導体20のV族原子の供給原料としては、アンモニア、ヒドラジン、メチルヒドラジン、1,1−ジメチルヒドラジン、1,2−ジメチルヒドラジン、t−ブチルアミン、エチレンジアミン、ホスフィン、アルシン、ターシャリーブチルホスフィン、ターシャリーブチルアルシンなどを用いることができる。これらは単独で又は2種以上を混合して用いることができる。これらの供給原料のうち、取り扱いやすさから、アンモニア、ホスフィン、アルシンを用いることが好ましい。また、分子線エピタキシーなどの場合はプラズマ窒素や砒素、燐などの金属単体も用いることが可能である。
【0016】
また、III−V族窒化物半導体20を構成するIII−V族化合物は、必要に応じて例えばIII 族原子より原子価の大きい不純物であるケイ素原子(Si)などの不純物をドープしたものとすることができる。このようにIII 族原子よりも原子価の多い不純物がドープされることにより、III−V族窒化物半導体20がn型のものとなる。このようなケイ素原子(Si)の供給原料としては、シラン(SiH4)、ジシラン(Si26)、モノメチルシラン(Si(CH3)H3)などを用いることができる。分子線エピタキシーの場合はシリコン単体なども用いることが可能である。
【0017】
一方、例えばIII 族原子より原子価の少ない不純物であるマグネシウム(Mg)などをドープしたものとすることによって、p型の窒化物半導体を得ることができる。このようなマグネシウム原子(Mg)の供給原料としてはシクロペンタジエニルマグネシウム((CMg)などを用いることができる。分子線エピタキシーの場合はマグネシウム単体なども用いることが可能である。
【0018】
このようなIII−V族窒化物半導体20を構成するIII−V族化合物は、それぞれのドットもしくはロッドにおいて単結晶性が高いことが好ましい。III−V族化合物が単結晶性の高いものであることにより、窒化物半導体20が結晶欠陥密度の低減されたものとなって光照射により生成されたキャリアの再結合が抑制されるので、高い光変換効率で酸化還元反応を生じさせることができる。
ここに「単結晶性が高い」とは、一の単結晶粒と他の単結晶粒とを隔てる粒界の存在する程度が低いことを示す。
【0019】
以上のIII−V族窒化物半導体20より下部にある部分には、種々の変更を加えることができる。
例えば、n型、p型のものに限定されるものではなく、pn接合型などのものであってもよく、また、キャリア濃度段差を有するような積層構造や、単結晶性の異なる複数の層の積層構造、あるいは組成の異なる複数の層の積層構造などの多層構造のものであってもよい。また、光触媒機能層部分20のみがIII−V族化合物よりなり、それ以外が例えばケイ素(Si)やゲルマニウム(Ge)、他のIII−V族化合物やII−VI族化合物半導体、TiO2などの酸化物との積層構造のものであってもよい。
【0020】
<光触媒半導体素子>
本発明の光触媒半導体素子10は、光触媒酸化還元反応用のものであって、例えばGaN、Si、SiC、LiAlO3、LiGaO3などよりなる導電性を持つ基体25の一面上に上記のIII−V族窒化物半導体20が積層されたものである。この際、基体は光触媒機能を持っている必要はなく、また、この基体内に太陽電池構造など、さらに光触媒酸化還元作用を高める効果が期待できる構造を形成してもよい。
【0021】
このような光触媒半導体素子10におけるIII−V族窒化物半導体20は、例えばハイドライド気相成長法(HVPE法)、有機金属気相成長法(MOVPE法)による常圧結晶成長法や減圧結晶成長法、分子線エピタキシー法(MBE法)などの公知の結晶成長法を用いて得ることができる。
例えば、基体25上にV族原子の供給原料、III族原子の供給原料及び必要に応じてドープすべき不純物の供給原料を加熱下において供給することにより、当該基体25上において熱化学反応が生じてこれらの供給原料が構成元素に分解されると共に構成元素同士が互いに反応して、目的とするIII−V族化合物が基体25上に成長して形成される。
【0022】
以上のドット状もしくはロッド状のIII−V族窒化物半導体20が、光触媒反応を行う表面から見てその直下に導電性のある基体25を持つこととなるので、光照射によって生成されるキャリアが高い効率で触媒反応面における酸化還元反応に寄与することとなり、基体に光電気化学反応活性を持たない場合でも、結局、光照射により高い光変換効率で酸化還元反応を生じさせることができる。
なお導電性のある基体25は、絶縁基板上に導電性の材料を形成して導電性のある基体としたものでもよい。
【0023】
図1において、基体は導電性のものを用いるため、電極は光触媒反応面と反対の面など、光触媒反応面でない面に構成される。27は、光触媒半導体素子10の裏面に構成される集電用部材であり、29は、はんだ28などにより集電用部材に接着された導電ワイヤである。図1では集電用部材を裏面に構成したが、もちろん必要に応じて光触媒反応面に構成しても問題はない。これらの集電用部材27などの材質は目的を達することができれば特に限定されない。
【0024】
また、光触媒作用を起こす一方の電極が光触媒反応面として導電性のある基体上に設けられているため、基体のそのほかの面に他方の電極を取ることも可能である。この場合、この他方の電極は金属でもよいが、光触媒作用を持つ半導体電極と逆の特性を持つもの(例えば、光触媒作用を持つ電極がn型の場合はp型の半導体とするなど)を用いることも可能である。このような構成の場合、光触媒反応面で酸化反応が起きる場合は基体に設けられた他方の電極では還元反応が生じる。もちろん、その反対の場合もある。
【0025】
<光触媒酸化還元反応装置>
図2は、本発明の光触媒酸化還元反応装置の構成の一例を示す模式的断面図である。
この光触媒酸化還元反応装置11は、電解液に接触した状態とされて互に電気的に接続された一対の電気分解用電極のうちの一方の電極が、上述のIII−V族窒化物半導体20を有する光触媒半導体素子10よりなるものである。この光触媒半導体素子10は、III−V族窒化物半導体20の触媒反応面Rのみが電解液に接触されている。
以下においては、このIII−V族窒化物半導体20はn型のものであるとして説明する。
【0026】
この光触媒酸化還元反応装置11においては、光触媒半導体素子10に対応する他方の電極が、例えば白金などの金属よりなる金属電極17によって構成されており、これにより、一方の電極である光触媒半導体素子10が、これを構成するIII−V族窒化物半導体20の触媒反応面Rにおいて酸化反応が行われる陽極とされ、他方の電極である金属電極17が、その表面において一方の電極の触媒反応面Rにおける電気化学反応に対応する反応、すなわち還元反応が行われる陰極とされる。
【0027】
この光触媒酸化還元反応装置11においては、III−V族窒化物半導体20の触媒反応面Rに光が照射されることにより、光触媒半導体素子10において酸化反応が生じると共に、金属電極17において還元反応が生じる。
ここに、上述のようなIII−V族窒化物半導体20の触媒反応面Rに光を照射させることに加えて、光触媒半導体素子10及び金属電極17の間に適宜の大きさの電圧を印加することにより、光触媒半導体素子10における酸化反応及び金属電極17における還元反応が促進される。このとき、印加する電圧は光触媒反応で反応させる酸化還元反応に実質的な必要な電圧以下であることが望ましい。そうでないと、光を用いる意味がないからである。たとえば水の酸化還元反応を行う場合、印加電圧は過電圧分を考えて実質的には2V以下、望ましくは水の分解の電極電位の差である1.23V以下となる。
【0028】
光触媒酸化還元反応装置11は、具体的には、酸化反応側及び還元反応側の各々の上部においてこれらと連通した状態に上方に伸びたガス収集管12B、12Cが設けられ、これにより、電解液によって満たされた電解液槽12が構成されている。
電解液は、例えば水(H2O)、塩酸/硫酸/水酸化ナトリウム/塩化ナトリウム/硫酸ナトリウム水溶液(HCl/HSO/NaOH/NaCl/NaSO)などとすることができる。
【0029】
また、酸化領域においては、光触媒半導体素子10が、周壁に形成された開口15が当該光触媒半導体素子10の触媒反応面Rが電解液に接触するよう水密に塞がれた状態にO−リング16を介して設けられていると共に、還元領域においては、周壁を貫通して伸びる状態に、金属電極17が挿入されており、この光触媒半導体素子10と金属電極17とは、電気的に接続されている。
この酸化領域の周壁における開口15と対向する部分には、光源(図示せず)からの光Lを電解液を介して触媒反応面Rに照射するための光透過用窓12Aが形成されている。
図2において、18は、光触媒半導体素子10と金属電極17との間に電圧を印加する場合に用いる電圧印加用電源である。
【0030】
触媒反応面Rに光Lを照射する光源としては、III−V族窒化物半導体20を構成するIII−V族化合物のバンドギャップより大きいエネルギーを持つ光を放射するものであれば特に限定されず、太陽、水銀ランプ、キセノンランプ、白熱灯、蛍光灯、LED、レーザーなどを用いることができる。
例えば、III−V族窒化物半導体20を構成するIII−V族化合物が窒化ガリウム(GaN)である場合には、バンドギャップが3.4eVであるので、365nm以下の光が照射されればよい。
【0031】
このような光触媒酸化還元反応装置11においては、以下のように光電気化学反応が実行される。すなわち、例えば電解液が水(H2O)である場合には、まず、光源から光Lが光透過用窓12Aを介して光触媒半導体素子10の触媒反応面Rに照射されることによって窒化物半導体20において電子(e-)及び正孔(h+)が生成され、この触媒反応面Rの電解液に接触した領域において正孔(h+)によって電解液中の水酸化物イオン(OH-)又は水(H2O)が酸化される酸化反応が生じると共に、金属電極17の表面における電解液と接触された領域において窒化物半導体20から移動した電子(e-)によって電解液中の水素イオン(H+)又は水(H2O)が還元される還元反応が生じる。
【0032】
その結果、酸化領域の光触媒半導体素子10においては酸素ガスが、還元領域の金属電極17においては水素ガスが生じ、これらの酸素ガス及び水素ガスは、各々ガス収集管12B、12Cに収集される。
水以外の物質の場合も同様に酸化還元反応が生じるが、酸化される物質や還元される物質が異なってくる場合がある。
【0033】
このような光触媒酸化還元反応装置11によれば、光が照射されるべき窒化物半導体20が、ロッド状もしくはドット状の形状を取っているので、触媒反応面Rへの光照射により高い光変換効率で酸化還元反応を生じさせることができる。
【0034】
以上の光触媒酸化還元反応装置11においては、種々の変更を加えることができる。
例えば、一対の電気分解用電極としてn型のIII−V族窒化物半導体20を有する光触媒半導体素子10及び金属電極17を用いることに限定されず、p型のIII−V族窒化物半導体を有する光触媒半導体素子(以下、「p型光触媒半導体素子」という。)及び金属電極を用いることもできる。
【0035】
この場合、p型光触媒半導体素子が陰極として機能すると共に金属電極が陽極として機能することとなる。
具体的には、p型光触媒半導体素子における触媒反応面に光が照射されることによって、その光触媒機能層部分において電子(e-)及び正孔(h+)が生成され、触媒反応面において電子(e-)によって電解液中の水素イオン又は水が還元される還元反応が生じると共に、金属電極の表面においては半導体中の正孔(h+)に向かって移動する電子の存在によって電解液中の水酸化物イオン又は水が酸化される酸化反応が生じる。
【0036】
また例えば、一対の電気分解用電極としてn型のIII−V族窒化物半導体を有する光触媒半導体素子(以下、「n型光触媒半導体素子」という。)及びp型光触媒半導体素子を用いることもできる。この場合、n型光触媒半導体素子が陽極として機能して酸化反応が生じると共にp型光触媒半導体素子が陰極として機能して還元反応が生じる。p/n界面がある場合は、表面の光触媒機能を有する層の厚みにより特性が異なるため、その表面で機能する特性によってp型もしくはn型とみなせばよい。この厚みは物質によっても変わるので一概には言えないが、GaNの場合はおおよそ20〜50nm程度である。
【実施例】
【0037】
〔光触媒半導体素子の製造例1〕
図1に従って光触媒半導体素子を作製した。
まず、基体となる高真空中でn型シリコンよりなる基板を850℃で30分間アニールし、その後基板の温度を530℃まで下げ、この基板の(111)面上に、2×10−7Torrのガリウム蒸気を25秒間継続的に供給し、その後350Wの出力でプラズマ化した窒素を3×10−5Torrで1分間供給した。
【0038】
次に、基板の温度を890℃まで上昇させ、2×10−7Torrのガリウム蒸気と350Wの出力でプラズマ化した窒素を3×10−5Torrで継続的に供給し、60分間、窒化物半導体を成長させた。
この光触媒半導体素子〔1〕の表面は曇ったような表面となった。また、SEMで観察した結果、シリコン基板上に薄い膜状成長を伴った約2×10cm−2のGaNドットが形成されていることが分かった。
【0039】
〔光触媒半導体素子の比較例1〕
図1の光触媒半導体素子の作製に用いたn型シリコンよりなる基板の(111)面を比較例として用いた。
この比較用光触媒半導体素子〔a〕の表面は鏡面であった。
【0040】
<実施例1、比較例1>
図2に従って、光触媒酸化還元反応装置を製造した。
具体的には、この光触媒半導体素子〔1〕、比較用光触媒半導体素子〔a〕を陽極として用い、これらの触媒反応面の反対部分に集電用部材を設けて導電ワイヤにより陰極に電気的に接続し、陰極としては白金電極を用い、電解液として1mol/L HClを用い、光触媒酸化還元反応装置を製造した。
触媒反応面を構成する面に500Wのキセノンランプの光源より光が照射される構成とした。
【0041】
[光電気化学反応テスト]
以上の光触媒酸化還元反応装置〔1〕、比較用光触媒酸化還元反応装置〔a〕のそれぞれを用いて、電圧を変化させて電流密度(mA/cm2)を測定した。いずれの場合も光を照射しない場合は光触媒半導体素子側に正の電圧を印加した逆バイアス状態では電流は観測されなかった。光を照射した場合は、この逆バイアス状態で、比較用光触媒半導体素子〔a〕を用いた場合では光誘起電流が観測されなかったが、光触媒半導体素子〔1〕を用いた場合には光誘起電流が観測された。このときの電圧と電流密度の関係を図3に示す。
【0042】
〔光触媒半導体素子の製造例2、3、4〕
図1に従って光触媒半導体素子を作製した。
まず、高真空中でn型シリコンよりなる基板を850℃で10分間アニールし、その後基板の温度を530℃まで下げ、この基板の(111)面上に、0.1、0.5、1.0×10−7Torrのガリウム蒸気を50秒間継続的に供給し、その後350Wの出力でプラズマ化した窒素を1.6×10−5Torrで2分間供給した。(ガリウム蒸気の供給量それぞれに対し、製造例2、3、4とする。)
【0043】
次に、基板の温度を900℃まで上昇させ、10分間、アニールを行った。
この光触媒半導体素子〔2〕、〔3〕、〔4〕をSEMで観察した結果、約7.4×10cm−2、8.0×10cm−2、1.0×1011cm−2のGaNドットが形成されていることが分かった。
図4〜図6に光触媒半導体素子〔2〕、〔3〕、〔4〕の表面のそれぞれのAFM写真を示す。図4〜図6中で、(a)は10μm四方の領域の写真であり、(b)は1μm四方の領域の拡大写真である。
【0044】
〔光触媒半導体素子の製造例5〕
図1に従って光触媒半導体素子を作製した。
まず、高真空中でn型シリコンよりなる基板を850℃で10分間アニールし、その後基板の温度を530℃まで下げ、この基板の(111)面上に、1.0×10−7Torrのガリウム蒸気を50秒間継続的に供給し、その後350Wの出力でプラズマ化した窒素を1.6×10−5Torrで2分間供給した。
【0045】
次に、基板の温度を900℃まで上昇させ、10分間、アニールを行ったのち、1.0×10−7Torrのガリウム蒸気と350Wの出力でプラズマ化した窒素を1.6×10−5Torrで継続的に供給し、120分間、窒化物半導体を成長させた。この光触媒半導体素子〔5〕の表面は着色した鏡面のような表面となった。
【0046】
図7に光触媒半導体素子〔5〕の表面のSEM写真を示す。図中(a)、(b)は、SEMにおいてそれぞれ観察した際の写真であり、(b)は、(a)の場合より2倍に拡大したものである。また(c)は、(a)と同じ倍率で撮影した断面写真である。
図7から分かるように、径70〜100nm程度、高さ300〜340nmのロッドが約1.0×1010cm−2の密度で形成されている。
【0047】
<実施例2、3、4、5>
図2に従って、光触媒酸化還元反応装置を製造した。
具体的には、この光触媒半導体素子〔2〕、〔3〕、〔4〕、〔5〕を陽極として用い、これらの触媒反応面の反対部分に集電用部材を設けて導電ワイヤにより陰極に電気的に接続し、陰極としては白金電極を用い、電解液として1mol/L HClを用い、光触媒酸化還元反応装置を製造した。
触媒反応面を構成する面に500Wのキセノンランプの光源より光が照射される構成とした。
【0048】
[光電気化学反応テスト]
以上の光触媒半導体素子〔2〕、〔3〕、〔4〕、〔5〕のそれぞれを用いて、電圧を印加せずに光のオン・オフを5回繰り返し電流密度(mA/cm2)を測定した。いずれの場合も光を照射しない場合は電流はほぼゼロであった。光を照射した場合は、光誘起電流が観測され、その量はドット密度が〔2〕、〔3〕、〔4〕と大きくなるほど大きく、また、ドットよりもロッドを有する光触媒半導体素子〔5〕の方が大きくなった。このときの時間と電流密度の関係をドットの場合を図8に、ロッドの場合を図9に示す。
さらに、光触媒半導体素子〔5〕と同様な工程で、p型シリコン基板を用いたものも使用して確認を行った。その時の電圧印加を行わない場合の光誘起電流密度は、光触媒半導体素子〔5〕の1/3程度ではあるが、光誘起電流が観測された。
【0049】
[光触媒半導体素子〔5〕のGaNのロッドとGaN膜との比較]
Si上にGaNロッドを作成した場合(実施例5)とサファイア基板上(絶縁体)に5×1018cm−3のGaNを3.0mm成長したものを用いた電圧に対する光誘起電流密度の測定結果を図10に示す。
バイアスがゼロ近くではGaNロッドの光誘起電流密度が低いが、1.2Vを超える辺りからGaNロッドの方が光誘起電流密度が高くなっていることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明のIII−V族窒化物半導体を有する光触媒半導体素子の構成の一例を集電用部材が設けられた状態で示す模式的断面図である。
【図2】本発明のIII−V族窒化物半導体を有する光触媒半導体素子を具える光触媒酸化還元反応装置の構成の一例を示す模式的断面図である。
【図3】シリコン上に膜状GaNとGaNのドットの混合を形成した場合とシリコン基板のみを用いた場合の印加電圧と光誘起電流密度の関係を示すグラフである。
【図4】光触媒半導体素子〔2〕のAFM写真を示す。
【図5】光触媒半導体素子〔3〕のAFM写真を示す。
【図6】光触媒半導体素子〔4〕のAFM写真を示す。
【図7】光触媒半導体素子〔5〕のSEM写真を示す。
【図8】シリコン上にGaNのドットを形成した場合の経過時間と光誘起電流密度の関係を示すグラフである。
【図9】シリコン上にGaNのロッドを形成した場合の経過時間と光誘起電流密度の関係を示すグラフである。
【図10】光触媒半導体素子〔5〕のGaNのロッドとGaN膜の電圧に対する光誘起電流密度の測定結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0051】
10 光触媒半導体素子
11 光触媒酸化還元反応装置
12 電解液槽
12A 光透過用窓
12B、12C ガス収集管
15 開口
16 O−リング
17 金属電極
18 電圧印加用電源
L 光
20 ドット状もしくはロッド状に形成されたIII−V族窒化物半導体
25 基体
27 集電用部材
28 はんだ
29 導電ワイヤ
R 触媒反応面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性の基体とその上にドット状又はロッド状に形成されたIII−V族窒化物半導体とを含む光触媒半導体素子。
【請求項2】
上記III−V族窒化物半導体のドット状又はロッド状部分は、単結晶性が高いことを特徴とする請求項1に記載の光触媒半導体素子。
【請求項3】
上記ドット又はロッドの密度が1×10cm−2以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の光触媒半導体素子。
【請求項4】
上記導電性の基体は、シリコン、酸化物半導体、窒化物半導体、貴金属のうちのいずれかが形成された導電性の基体であることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の光触媒半導体素子。
【請求項5】
上記導電性の基体は、絶縁基板上にシリコン、酸化物半導体、窒化物半導体、貴金属のうちのいずれかが形成された導電性の基体であることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の光触媒半導体素子。
【請求項6】
上記導電性の基体が、光により起電力を発生することが可能な構造を持つことを特徴とする請求項1、2又は3に記載の光触媒半導体素子。
【請求項7】
導電性の基体を準備する工程、その上にIII−V族窒化物半導体をドット状又はロッド状に蒸着もしくはエピタキシャル成長により形成する工程を含む光触媒半導体素子の作製方法。
【請求項8】
酸化還元反応用の光触媒酸化還元反応装置であって、
一方の電極が請求項1ないし6のいずれか1項に記載の光触媒半導体素子よりなり、
他方の電極がその基体のIII−V族窒化物半導体が形成されていない部分に形成された電極であり、
当該III−V族窒化物半導体が存在する触媒反応表面に光が照射される事により、酸化反応又は還元反応が当該表面において生じ、他方の電極表面でその反対の反応が生じるものであることを特徴とする光触媒酸化還元反応装置。
【請求項9】
酸化還元反応用の光触媒酸化還元反応装置であって、
電解液に接触した状態とされて互いに電気的に接続された一対の電気分解用電極のうち一方の電極が請求項1ないし6のいずれか1項に記載の光触媒半導体素子よりなり、
当該窒化物半導体を構成する触媒反応面に光が照射されることにより、酸化反応又は還元反応が当該触媒反応面において生じるものであることを特徴とする光触媒酸化還元反応装置。
【請求項10】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の光触媒半導体素子の触媒反応面に光が照射されると共に一対の電気分解用電極間に電圧が印加されることにより、酸化反応又は還元反応が当該触媒反応面において生じることを特徴とする光触媒酸化還元反応装置。
【請求項11】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の光触媒半導体素子を備えた光触媒酸化還元反応装置。
【請求項12】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の光触媒半導体素子を用い、当該光触媒半導体素子における触媒反応面に励起光を照射し、当該触媒反応面において酸化反応又は還元反応を生じさせることを特徴とする光電気化学反応実行方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−264769(P2008−264769A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−58107(P2008−58107)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、独立行政法人科学技術振興機構委託研究「光電気化学反応による有機物分解を用いた水素生成のデバイス反応」の成果に係る特許出願
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】